自動車の前部車体構造
【課題】この発明は、インストルメントパネルの支持剛性を確保しつつも、障害物衝突時の衝撃吸収を高次元で実現でき、かつ車室空間におけるスペース効率の向上を図ることを可能にする自動車の前部車体構造を提供することを目的とする。
【解決手段】カウルボックス部7は、ダッシュアッパパネル71bに接合されて前方に延設される第1カウルパネル72aと、該第1カウルパネル72a前部に前端部が接合され上方に延設される第2カウルパネル72bとを含み、第1カウルパネル72aは、ダッシュアッパパネル71bよりも高剛性であり、第1カウルパネル72aの後端部にインストルメントパネル8が支持されるとともに、第2カウルパネル72bの後端部が第1カウルパネル72aから離間して後方に延設され、第2カウルパネル72bの後端部にフロントウインドガラス6が支持される。
【解決手段】カウルボックス部7は、ダッシュアッパパネル71bに接合されて前方に延設される第1カウルパネル72aと、該第1カウルパネル72a前部に前端部が接合され上方に延設される第2カウルパネル72bとを含み、第1カウルパネル72aは、ダッシュアッパパネル71bよりも高剛性であり、第1カウルパネル72aの後端部にインストルメントパネル8が支持されるとともに、第2カウルパネル72bの後端部が第1カウルパネル72aから離間して後方に延設され、第2カウルパネル72bの後端部にフロントウインドガラス6が支持される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車室前方に車幅方向に延びるカウルボックス部が設けられた自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の前部に障害物が衝突した時に、この障害物に及ぼす衝撃をいかにして吸収するかが課題となっており、このような課題を解決すべく様々な構造が提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、車室前部に配設されるインストルメントパネル(ダッシュボード)から前方に略水平に延びる第1サポートと、この第1サポートの先端からフロントウインドガラス(ウインドシールド)の下縁に向かって延びる第2サポートとを設け、これら2つのサポート部材の変形により、障害物に及ぼす衝撃を吸収するようにしたものが開示されている。
【0004】
また、下記特許文献2では、前部車体構造を構成するカウルパネルの後側フランジ部にインストルメントパネルの前部を嵌着支持させるようにしたものが開示されており、障害物の衝突時、インストルメントパネルの支持状態を解除してこれを大きく変形させることにより、障害物に及ぼす衝撃を吸収するようにしている。
【特許文献1】特開2000−38160号公報
【特許文献2】特開2006−82643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記特許文献1に開示された従来構造では、第1サポートの後下方に閉断面構造のボックス部が配設されており、このボックス部によって第1サポートを支持している。従って、第1、第2のサポート部材により、衝撃吸収を実現可能とする一方で、車体前方のカウル部における剛性を前記ボックス部によりある程度確保することが可能になる。しかしながら、この場合、インストルメントパネルの設置スペースがボックス部によって制限されてしまうことになり、車室空間のスペース効率が低下するという問題がある。
【0006】
また、前記特許文献2に開示された従来構造では、カウルパネルにインストルメントパネルを支持させるように構成しているが、カウルパネルは、一般的に、フロントウインドガラスの下方に位置してこれを支持するものであり、障害物に及ぼす衝撃を吸収する際のことを考慮すると、カウルパネルを高剛性とするのは好ましくない。従って、前記従来構造では、インストルメントパネルの支持剛性を十分に確保できないという問題がある。
【0007】
そこで、近年では、インストルメントパネルの重量化に対応すべく、図6、図7に示すように、インストルメントパネル108を、比較的高剛性とされる取付けブラケット111や支持アーム112等を介してカウルパネル172に支持させる構造が提案されている。ここで、図6は、従来の自動車の前部車体構造を示す側断面図、図7は、図6のカウルパネル及び取付けブラケットを示す斜視図であり、図中においてカウルパネル172の後端部と接合された部材171は、エンジンルームEと車室Rとを仕切るダッシュアッパパネルであり、部材106は、フロントウインドガラス、103は、ボンネットを示している。
【0008】
ここで、図示のようにカウルパネル172に取付けブラケット111等を取付けた場合には、障害物Iが車両前部に衝突した時、カウルパネル172が変形することになるが、この場合、カウルパネル172の支点は、該カウルパネル172とダッシュアッパパネル171との接合部よりも荷重の作用点Pに接近することになってしまい、取付けブラケット111はほとんど下方に移動できない。
【0009】
従って、図6、図7に示す従来構造では、衝撃吸収のためにカウルパネル172が変形可能とされる幅L2、即ち衝撃吸収ストロークが必然的に短くなり、十分な衝撃吸収作用が得られなくなってしまう。
【0010】
この発明は、インストルメントパネルの支持剛性を確保しつつも、障害物衝突時の衝撃吸収を高次元で実現でき、かつ車室空間におけるスペース効率の向上を図ることを可能にする自動車の前部車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の自動車の前部車体構造は、車室前方に車幅方向に延びるカウルボックス部が設けられた自動車の前部車体構造であって、前記カウルボックス部は、車室前壁を形成するダッシュパネルと、該ダッシュパネル上部に接合されて前方に延設される第1カウルパネルと、該第1カウルパネル前部に前端部が接合され上方に延設される第2カウルパネルとを含み、前記第1カウルパネルは、前記ダッシュパネル上部よりも高剛性であり、前記第1カウルパネルの後端部にインストルメントパネルが支持されるとともに、前記第2カウルパネルは、その後端部が前記第1カウルパネルから離間して後方に延設され、前記第2カウルパネルの後端部にフロントウインドガラスが支持されるものである。
【0012】
この構成によれば、荷重の作用点近くに高剛性の取付けブラケットを設けなくても、第1カウルパネルによりインストルメントパネルの支持剛性を向上させることができる。従って、衝撃吸収ストロークを大きく確保して、障害物衝突時の衝撃吸収を高次元で実現させることを可能にしつつも、カウルパネルの剛性を向上させるためのボックス部を不要にすることができ、その結果車室空間のスペース効率向上を図ることができる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、前記第1カウルパネルが、左右のヒンジピラー間に架設されるものである。
【0014】
この構成によれば、カウルボックス部における前後方向の剛性をより向上させることができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、前記第1カウルパネルが、略平板状であり、前記ダッシュパネル上部に前記第1カウルパネルの後端部と接合されるフランジが後方に延設され、該フランジによって前記インストルメントパネルを支持するものである。
【0016】
この構成によれば、インストルメントパネルの取付けが容易になるとともに、第1カウルパネル自身の成形を容易にすることができる。このため、プレス加工時において変形しにくい高張力鋼板を使用することが可能になり、インストルメントパネルの支持剛性をさらに向上させることができる。
また、第2カウルパネルが衝撃を吸収しきれなかったとしても、障害物と第1カウルパネルとが面衝突して、衝撃をダッシュパネルに分散させ、吸収できる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、前記第2カウルパネルが、前記前端部から前記フロントウインドガラスまで略鉛直に延びる縦壁部を備えるものである。
【0018】
この構成によれば、フロントウインドガラスの支持剛性を上下方向において向上させることができ、かつ障害物が衝突した時には、後下方に向かって作用する荷重を縦壁部にて斜めに受け止めることができるため、縦壁部が荷重の方向と平行に延設される場合に比べて障害物に与える衝撃を緩和することができ、衝撃吸収性能を向上させることができる。
【0019】
この発明の一実施態様においては、前記インストルメントパネルが、その前端部よりも後方の部位において下方に延びる縦壁を有する下部と、該下部を上方から覆う上部とが一体的に形成されるとともに、前記縦壁近傍には、該縦壁の面方向に沿って下方に延び、前記第1カウルパネル後端に支持される支持部材が設けられており、前記ダッシュパネル上部は、側面視において前記支持部材と略滑らかなラインで連なるように形成され、前記支持部材に荷重が作用した際、前記ダッシュパネルに沿って伝達される荷重成分が、前記支持部材と前記ダッシュパネルとの間を折曲させる荷重成分よりも大きくなるように構成されるものである。
【0020】
この構成によれば、支持部材からの荷重をダッシュパネル上部を通じて下方に効率よく伝達、分散させることが可能になり、インストルメントパネルの上下方向の支持剛性を向上させることができる。
【0021】
この発明の一実施態様においては、前記インストルメントパネルの縦壁及び前記支持部材が、前下方に延び、前記ダッシュパネルは、その上部が前下方に傾斜され、更に下向きとなるように延設されるものである。
【0022】
この構成によれば、衝撃吸収ストロークを大きく確保しつつも、インストルメントパネルの前後方向の支持剛性向上を図ることができる。
【0023】
この発明の一実施態様においては、前記縦壁をダクト部材としたものである。
【0024】
この構成によれば、インストルメントパネルを高強度にすることができ、かつ支持部材のための縦壁を別途設ける必要がなくなることによって、インストルメントパネルのコンパクト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、荷重の作用点近くに高剛性の取付けブラケットを設けなくても、第1カウルパネルによりインストルメントパネルの支持剛性を向上させることができる。従って、衝撃吸収ストロークを大きく確保して、障害物衝突時の衝撃吸収を高次元で実現させることを可能にしつつも、カウルパネルの剛性を向上させるためのボックス部を不要にすることができ、その結果車室空間のスペース効率向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
図1は、この発明の実施形態に係る自動車の前部車体構造を備えた車両を示す斜視図であり、図2は、図1のA−A線矢視断面図である。車両1の前部は、図1に示すように、主に左右のフロントフェンダ2(図1では片側のみを示す)と、左右のフロントフェンダ2の間に配置したボンネット3と、ボンネット3の後部両端から斜め上方に延びるヒンジピラー4、5と、ボンネット3の後方に位置し、両ヒンジピラー4、5間に配設されたフロントウインドガラス6(但し、透明な強化プラスチック製のものも含む)と、該フロントウインドガラス6の下方に位置するカウルボックス部7(図2参照)と、インストルメントパネル8とからなる。なお、図中に示す部材9は、前輪である。
【0027】
図2において、エンジンルームEと車室Rとを前後に仕切り、車室前壁を形成するダッシュパネル71を設け、このダッシュパネル71を構成するダッシュロアパネル71aの上端から前方および後上方に向って延びるダッシュアッパパネル71bを設けている。
【0028】
上述のダッシュアッパパネル71bの後端からフロントウインドガラス6の傾斜下端つまり車両前後方向の前端に向かって延びて該フロントウインドガラス6の前端を支持するカウルパネル部72を設けている。
【0029】
このカウルパネル部72は、ダッシュアッパパネル71bの上端に接合されて前方に延設される略平板状の第1カウルパネル72aと、該第1カウルパネル72aに前端部が接合されて上方に延設される第2カウルパネル72bとにより構成されたものである。第2カウルパネル72bは、第1カウルパネル72aの前端部から略鉛直に延びる縦壁部72cを備えるとともに、後端部が第1カウルパネル72aから離間して後方に延設されており、フロントウインドガラス6の下端近傍を支持している。
【0030】
また、上述のダッシュアッパパネル71bの前端から前上方に向って延びて、ボンネット3の後端を支持するカウルフロントクロスメンバ73(詳しくはカウルフロントパネル)を設けている。ここで、上述のボンネット3はエンジンルームEの上方を開閉可能に覆う部材である。
【0031】
また、後端がカウルパネル部72に支持され前端がカウルフロントクロスメンバ73の上端に支持されて上述のボンネット3後端のシール部10が当接されるカウルグリル74を設けている。なお、図示の便宜上、このカウルグリル74に形成される外気導入用のスリット状の開口部は図示省略している。
【0032】
本実施形態では、上述したダッシュパネル71、カウルパネル部72、カウルフロントクロスメンバ73、及びカウルグリル74により、車室Rの前方にて車幅方向に延びるカウルボックス部7を構成している。
【0033】
なお、図2において、カウルグリル74の下方に位置し、断面略U状をなす部材75は、カウルセンタートレイであり、カウルグリル74等から侵入した雨水を車外に案内し、排出するための流路を構成している。
【0034】
また、カウルボックス部7のうち、ダッシュパネル71のダッシュロアパネル71a、ダッシュアッパパネル71b、及びカウルパネル部72の第1、第2カウルパネル72a、72bは鋼板製とされ、特に、第1カウルパネル72aは、ダッシュアッパパネル71bや第2カウルパネル72bよりも高剛性とされている。その一方、カウルフロントクロスメンバ73、カウルグリル74、及びカウルセンタートレイ75は、衝撃吸収に適した強度の合成樹脂製とされている。
【0035】
図3は、図2の要部拡大図である。カウルパネル部72を構成する第1カウルパネル72aは、その後端部が、ダッシュアッパパネル71b上端部にて後方に延設されたフランジ部71cに接合されている。また、このフランジ部71cと第1カウルパネル72a後端部との接合部には、クリップ11が取付けられており、後述する支持アーム12の下端部がクリップ11によって所定位置に固定されている。
【0036】
支持アーム12は、その下端部がクリップ11を介して第1カウルパネル72aの後端部に支持される一方、上端部がインストルメントパネル8の下部を構成するロアパネル81近傍まで延びており、インストルメントパネル8は、この支持アーム12を介して第1カウルパネル72aの後端部に支持されている。
【0037】
ここで、インストルメントパネル8は、ロアパネル81及びこれを上方から覆うアッパパネル82とにより一体的に形成されており、ロアパネル81には、その前端部よりも後方の部位にて前下方に延びる縦壁部81bを有するダクト部81aが複数形成されている。このダクト部81aにより、不図示の空調装置によって生成された空調エアを案内するエア流路が形成されており、アッパパネル82には、前記空調エアをフロントウインドガラス6に吹き出すためのデフロスタ82aが形成されている。
【0038】
上述した支持アーム12は、その上端部が、ダクト部81aの縦壁部81b近傍に位置し、そこから縦壁部81bの面方向に沿うように前下方に延びている。そして、ダッシュアッパパネル71bは、その上部が支持アーム12近傍から前方かつ下方に傾斜し、さらにダッシュロアパネル71aに向かって下方を向くように延設されている。
【0039】
図4は、障害物の衝突時においてパネル部材が変形した状態を示す断面図である。本実施形態では、車両1の前部衝突時において、障害物Iが図2に示すようにフロントウインドガラス6の前面と接触し、障害物Iの荷重がカウルボックス部7に作用した時、図4に示すようにカウルパネル部72の第2パネル部72b及びインストルメントパネル8の前端部を変形させることによって、障害物Iに及ぶ衝撃を吸収するようになっている。
【0040】
ここでは、障害物Iの荷重が作用する作用点P(図2参照)と、第1カウルパネル72aがダッシュアッパパネル71bに支持される支点との距離L1が衝撃吸収ストロークとなり、前記作用点Pが距離L1だけ移動する間に前記衝撃が吸収される。
【0041】
そして、第2カウルパネル部72b及びインストルメントパネル8の変形によっても衝撃が吸収しきれなかった時には、障害物Iと第1カウルパネル72aとが面衝突することにより、荷重を第1カウルパネル72aにて平面的かつ障害物Iの後側下方への移動方向に対して斜めに受け止めつつ、図4中二点鎖線で示すように、ダッシュアッパパネル71bの上端部を変形させ、ダッシュパネル71に衝撃を分散させることで、さらなる衝撃吸収を可能にしている。
【0042】
本実施形態では、ダッシュアッパパネル71bよりも高剛性の第1カウルパネル72aと、フロントウインドガラス6を支持する第2カウルパネル72bとによりカウルパネル部72を構成することで、前記作用点Pの近くに高剛性の取付けブラケットを設けなくても、高剛性の第1カウルパネル72aによりインストルメントパネル8の支持剛性を向上させることができる。
【0043】
従って、衝撃吸収ストロークを大きく確保して、障害物衝突時の衝撃吸収を高次元で実現させることを可能にしつつも、カウルパネル部72の剛性を向上させるためのボックス部を不要にすることができ、その結果車室空間のスペース効率向上を図ることができる。
【0044】
また、カウルボックス部7において3つのパネル部材(第1、第2カウルパネル72a、72b、ダッシュアッパパネル71b)が、いずれも前後の延び方向成分を有し、かつ側面視で略ジグザグ状をなすように配設されている。この場合、車体前部における前後方向の剛性を向上させることができ、例えば、車両1の前突時において、エンジンルームE内のエンジン(不図示)等が後退したとしても、これの車室R内への侵入を前記3つのパネル部材72a、72b、71bの協働によって確実に抑制することができる。
【0045】
また、本実施形態において、第1カウルパネル72aは、図1に示すように、車両1の左右のヒンジピラー4、5間に架設されている。これにより、カウルボックス部7における前後方向の剛性をより向上させることができる。
【0046】
また、第1カウルパネル72aを略平板状に形成することで、インストルメントパネル8の取付けが容易になるとともに、第1カウルパネル72a自身の成形を容易にすることができる。
【0047】
ところで、近年では、例えば500MPa以上の高い引っ張り強度を有する高張力鋼板が様々な分野で利用されている。しかしながら、この高張力鋼板は、プレス加工時において変形しにくく、加工性が悪いという点が問題となっている。本実施形態では、第1カウルパネル72aを略平板状にすることで、複雑なプレス加工が不要となり、上述した高張力鋼板を使用することが可能になる。その結果、第1カウルパネル72aにおける軽量化を実現しつつも、インストルメントパネル8の支持剛性をさらに向上させることができる。
【0048】
また、第2カウルパネル72bが略鉛直に延びる縦壁部72cを有することにより、フロントウインドガラス6の支持剛性を上下方向において向上させることができる。このため、例えばフロントウインドガラス6が走行風を受けて上下に振動し、第2カウルパネル72bへ大きな荷重が作用したとしてもその支持状態を安定的に保持することができる。
【0049】
そして、障害物Iが衝突した時には、図2に示す矢印αのように後下方に向かって作用する荷重を縦壁部72cにて斜めに受け止めることができるため、縦壁部72cが矢印αと平行に延設される場合に比べて障害物Iに与える衝撃を緩和することができ、衝撃吸収性能を向上させることができる。
【0050】
また、ダッシュアッパパネル71bにおいては、これが側面視において支持アーム12の延び方向に沿って延設され、両者が略滑らかなラインで連なるように形成されている。
【0051】
具体的には、支持アーム12に対して荷重F(図5参照)が作用した際、その荷重Fのうち、ダッシュアッパパネル71bに沿って伝達される荷重成分Faが、支持アーム12とダッシュアッパパネル71bとの間を折曲させる荷重成分Fbよりも大きくなるように、支持アーム12に対するダッシュアッパパネル71bの角度θが設定されている。
【0052】
即ち、この角度θは、図5(b)、(c)で示すダッシュアッパパネル71b′、71b″のように、θ=135°、225°とした場合に前記荷重成分Fa、Fbが同じになることを考慮して、135°<θ<225°の範囲内になるように設定される。
【0053】
これにより、支持アーム12からの荷重Fをダッシュアッパパネル71bを通じて下方に効率よく伝達、分散させることが可能になり、インストルメントパネル8の上下方向の支持剛性を向上させることができる。
【0054】
また、インストルメントパネル8の縦壁部81b及び支持アーム12が前下方に延びるとともに、ダッシュアッパパネル71bでは、その上部が前下方に傾斜してさらに下方を向くように延設されているため、衝撃吸収ストローク(距離L1)を大きく確保しつつも、インストルメントパネル8の前後方向の支持剛性向上を図ることができる。
【0055】
また、ダクト部81aの前壁部によって縦壁部71bを形成することにより、インストルメントパネル8を高強度にすることができ、かつ支持アーム12のための縦壁を別途設ける必要がなくなることによって、インストルメントパネル8のコンパクト化を図ることができる。
【0056】
また、インストルメントパネル8では、ダクト部81aが一体形成されることにより結果的に重量化を招いてしまうことになるが、本実施形態では、高剛性の第1カウルパネル72aによりインストルメントパネル8を安定的に支持することができる。
【0057】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明のダッシュパネル上部は、ダッシュアッパパネル71bに対応し、
インストルメントパネルの下部は、ロアパネル81に対応し、
以下同様に、
インストルメントパネルの上部は、アッパパネル82に対応し、
支持部材は、支持アーム12に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】この発明の実施形態に係る自動車の前部車体構造を備えた車両を示す斜視図。
【図2】図1のA−A線矢視断面図。
【図3】図2の要部拡大図。
【図4】障害物の衝突時においてパネル部材が変形した状態を示す断面図。
【図5】支持アームに荷重が作用した際の荷重の配分を説明するための図であり、(a)本実施形態の場合を示す図、(b)支持アームとダッシュアッパパネルとのなす角度θを135°に設定した場合を示す図、(c)支持アームとダッシュアッパパネルとのなす角度θを225°に設定した場合を示す図。
【図6】従来の自動車の前部車体構造を示す側断面図。
【図7】図6のカウルパネル及び支持ブラケットを示す斜視図。
【符号の説明】
【0059】
4、5…ヒンジピラー
6…フロントウインドガラス
7…カウルボックス部
8…インストルメントパネル
12…支持アーム
71…ダッシュパネル
71c…フランジ部
72a…第1カウルパネル部
72b…第2カウルパネル部
72c…縦壁部
81…ロアパネル
81a…ダクト部
81b…縦壁部
82…アッパパネル
【技術分野】
【0001】
この発明は、車室前方に車幅方向に延びるカウルボックス部が設けられた自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の前部に障害物が衝突した時に、この障害物に及ぼす衝撃をいかにして吸収するかが課題となっており、このような課題を解決すべく様々な構造が提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、車室前部に配設されるインストルメントパネル(ダッシュボード)から前方に略水平に延びる第1サポートと、この第1サポートの先端からフロントウインドガラス(ウインドシールド)の下縁に向かって延びる第2サポートとを設け、これら2つのサポート部材の変形により、障害物に及ぼす衝撃を吸収するようにしたものが開示されている。
【0004】
また、下記特許文献2では、前部車体構造を構成するカウルパネルの後側フランジ部にインストルメントパネルの前部を嵌着支持させるようにしたものが開示されており、障害物の衝突時、インストルメントパネルの支持状態を解除してこれを大きく変形させることにより、障害物に及ぼす衝撃を吸収するようにしている。
【特許文献1】特開2000−38160号公報
【特許文献2】特開2006−82643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記特許文献1に開示された従来構造では、第1サポートの後下方に閉断面構造のボックス部が配設されており、このボックス部によって第1サポートを支持している。従って、第1、第2のサポート部材により、衝撃吸収を実現可能とする一方で、車体前方のカウル部における剛性を前記ボックス部によりある程度確保することが可能になる。しかしながら、この場合、インストルメントパネルの設置スペースがボックス部によって制限されてしまうことになり、車室空間のスペース効率が低下するという問題がある。
【0006】
また、前記特許文献2に開示された従来構造では、カウルパネルにインストルメントパネルを支持させるように構成しているが、カウルパネルは、一般的に、フロントウインドガラスの下方に位置してこれを支持するものであり、障害物に及ぼす衝撃を吸収する際のことを考慮すると、カウルパネルを高剛性とするのは好ましくない。従って、前記従来構造では、インストルメントパネルの支持剛性を十分に確保できないという問題がある。
【0007】
そこで、近年では、インストルメントパネルの重量化に対応すべく、図6、図7に示すように、インストルメントパネル108を、比較的高剛性とされる取付けブラケット111や支持アーム112等を介してカウルパネル172に支持させる構造が提案されている。ここで、図6は、従来の自動車の前部車体構造を示す側断面図、図7は、図6のカウルパネル及び取付けブラケットを示す斜視図であり、図中においてカウルパネル172の後端部と接合された部材171は、エンジンルームEと車室Rとを仕切るダッシュアッパパネルであり、部材106は、フロントウインドガラス、103は、ボンネットを示している。
【0008】
ここで、図示のようにカウルパネル172に取付けブラケット111等を取付けた場合には、障害物Iが車両前部に衝突した時、カウルパネル172が変形することになるが、この場合、カウルパネル172の支点は、該カウルパネル172とダッシュアッパパネル171との接合部よりも荷重の作用点Pに接近することになってしまい、取付けブラケット111はほとんど下方に移動できない。
【0009】
従って、図6、図7に示す従来構造では、衝撃吸収のためにカウルパネル172が変形可能とされる幅L2、即ち衝撃吸収ストロークが必然的に短くなり、十分な衝撃吸収作用が得られなくなってしまう。
【0010】
この発明は、インストルメントパネルの支持剛性を確保しつつも、障害物衝突時の衝撃吸収を高次元で実現でき、かつ車室空間におけるスペース効率の向上を図ることを可能にする自動車の前部車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の自動車の前部車体構造は、車室前方に車幅方向に延びるカウルボックス部が設けられた自動車の前部車体構造であって、前記カウルボックス部は、車室前壁を形成するダッシュパネルと、該ダッシュパネル上部に接合されて前方に延設される第1カウルパネルと、該第1カウルパネル前部に前端部が接合され上方に延設される第2カウルパネルとを含み、前記第1カウルパネルは、前記ダッシュパネル上部よりも高剛性であり、前記第1カウルパネルの後端部にインストルメントパネルが支持されるとともに、前記第2カウルパネルは、その後端部が前記第1カウルパネルから離間して後方に延設され、前記第2カウルパネルの後端部にフロントウインドガラスが支持されるものである。
【0012】
この構成によれば、荷重の作用点近くに高剛性の取付けブラケットを設けなくても、第1カウルパネルによりインストルメントパネルの支持剛性を向上させることができる。従って、衝撃吸収ストロークを大きく確保して、障害物衝突時の衝撃吸収を高次元で実現させることを可能にしつつも、カウルパネルの剛性を向上させるためのボックス部を不要にすることができ、その結果車室空間のスペース効率向上を図ることができる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、前記第1カウルパネルが、左右のヒンジピラー間に架設されるものである。
【0014】
この構成によれば、カウルボックス部における前後方向の剛性をより向上させることができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、前記第1カウルパネルが、略平板状であり、前記ダッシュパネル上部に前記第1カウルパネルの後端部と接合されるフランジが後方に延設され、該フランジによって前記インストルメントパネルを支持するものである。
【0016】
この構成によれば、インストルメントパネルの取付けが容易になるとともに、第1カウルパネル自身の成形を容易にすることができる。このため、プレス加工時において変形しにくい高張力鋼板を使用することが可能になり、インストルメントパネルの支持剛性をさらに向上させることができる。
また、第2カウルパネルが衝撃を吸収しきれなかったとしても、障害物と第1カウルパネルとが面衝突して、衝撃をダッシュパネルに分散させ、吸収できる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、前記第2カウルパネルが、前記前端部から前記フロントウインドガラスまで略鉛直に延びる縦壁部を備えるものである。
【0018】
この構成によれば、フロントウインドガラスの支持剛性を上下方向において向上させることができ、かつ障害物が衝突した時には、後下方に向かって作用する荷重を縦壁部にて斜めに受け止めることができるため、縦壁部が荷重の方向と平行に延設される場合に比べて障害物に与える衝撃を緩和することができ、衝撃吸収性能を向上させることができる。
【0019】
この発明の一実施態様においては、前記インストルメントパネルが、その前端部よりも後方の部位において下方に延びる縦壁を有する下部と、該下部を上方から覆う上部とが一体的に形成されるとともに、前記縦壁近傍には、該縦壁の面方向に沿って下方に延び、前記第1カウルパネル後端に支持される支持部材が設けられており、前記ダッシュパネル上部は、側面視において前記支持部材と略滑らかなラインで連なるように形成され、前記支持部材に荷重が作用した際、前記ダッシュパネルに沿って伝達される荷重成分が、前記支持部材と前記ダッシュパネルとの間を折曲させる荷重成分よりも大きくなるように構成されるものである。
【0020】
この構成によれば、支持部材からの荷重をダッシュパネル上部を通じて下方に効率よく伝達、分散させることが可能になり、インストルメントパネルの上下方向の支持剛性を向上させることができる。
【0021】
この発明の一実施態様においては、前記インストルメントパネルの縦壁及び前記支持部材が、前下方に延び、前記ダッシュパネルは、その上部が前下方に傾斜され、更に下向きとなるように延設されるものである。
【0022】
この構成によれば、衝撃吸収ストロークを大きく確保しつつも、インストルメントパネルの前後方向の支持剛性向上を図ることができる。
【0023】
この発明の一実施態様においては、前記縦壁をダクト部材としたものである。
【0024】
この構成によれば、インストルメントパネルを高強度にすることができ、かつ支持部材のための縦壁を別途設ける必要がなくなることによって、インストルメントパネルのコンパクト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、荷重の作用点近くに高剛性の取付けブラケットを設けなくても、第1カウルパネルによりインストルメントパネルの支持剛性を向上させることができる。従って、衝撃吸収ストロークを大きく確保して、障害物衝突時の衝撃吸収を高次元で実現させることを可能にしつつも、カウルパネルの剛性を向上させるためのボックス部を不要にすることができ、その結果車室空間のスペース効率向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
図1は、この発明の実施形態に係る自動車の前部車体構造を備えた車両を示す斜視図であり、図2は、図1のA−A線矢視断面図である。車両1の前部は、図1に示すように、主に左右のフロントフェンダ2(図1では片側のみを示す)と、左右のフロントフェンダ2の間に配置したボンネット3と、ボンネット3の後部両端から斜め上方に延びるヒンジピラー4、5と、ボンネット3の後方に位置し、両ヒンジピラー4、5間に配設されたフロントウインドガラス6(但し、透明な強化プラスチック製のものも含む)と、該フロントウインドガラス6の下方に位置するカウルボックス部7(図2参照)と、インストルメントパネル8とからなる。なお、図中に示す部材9は、前輪である。
【0027】
図2において、エンジンルームEと車室Rとを前後に仕切り、車室前壁を形成するダッシュパネル71を設け、このダッシュパネル71を構成するダッシュロアパネル71aの上端から前方および後上方に向って延びるダッシュアッパパネル71bを設けている。
【0028】
上述のダッシュアッパパネル71bの後端からフロントウインドガラス6の傾斜下端つまり車両前後方向の前端に向かって延びて該フロントウインドガラス6の前端を支持するカウルパネル部72を設けている。
【0029】
このカウルパネル部72は、ダッシュアッパパネル71bの上端に接合されて前方に延設される略平板状の第1カウルパネル72aと、該第1カウルパネル72aに前端部が接合されて上方に延設される第2カウルパネル72bとにより構成されたものである。第2カウルパネル72bは、第1カウルパネル72aの前端部から略鉛直に延びる縦壁部72cを備えるとともに、後端部が第1カウルパネル72aから離間して後方に延設されており、フロントウインドガラス6の下端近傍を支持している。
【0030】
また、上述のダッシュアッパパネル71bの前端から前上方に向って延びて、ボンネット3の後端を支持するカウルフロントクロスメンバ73(詳しくはカウルフロントパネル)を設けている。ここで、上述のボンネット3はエンジンルームEの上方を開閉可能に覆う部材である。
【0031】
また、後端がカウルパネル部72に支持され前端がカウルフロントクロスメンバ73の上端に支持されて上述のボンネット3後端のシール部10が当接されるカウルグリル74を設けている。なお、図示の便宜上、このカウルグリル74に形成される外気導入用のスリット状の開口部は図示省略している。
【0032】
本実施形態では、上述したダッシュパネル71、カウルパネル部72、カウルフロントクロスメンバ73、及びカウルグリル74により、車室Rの前方にて車幅方向に延びるカウルボックス部7を構成している。
【0033】
なお、図2において、カウルグリル74の下方に位置し、断面略U状をなす部材75は、カウルセンタートレイであり、カウルグリル74等から侵入した雨水を車外に案内し、排出するための流路を構成している。
【0034】
また、カウルボックス部7のうち、ダッシュパネル71のダッシュロアパネル71a、ダッシュアッパパネル71b、及びカウルパネル部72の第1、第2カウルパネル72a、72bは鋼板製とされ、特に、第1カウルパネル72aは、ダッシュアッパパネル71bや第2カウルパネル72bよりも高剛性とされている。その一方、カウルフロントクロスメンバ73、カウルグリル74、及びカウルセンタートレイ75は、衝撃吸収に適した強度の合成樹脂製とされている。
【0035】
図3は、図2の要部拡大図である。カウルパネル部72を構成する第1カウルパネル72aは、その後端部が、ダッシュアッパパネル71b上端部にて後方に延設されたフランジ部71cに接合されている。また、このフランジ部71cと第1カウルパネル72a後端部との接合部には、クリップ11が取付けられており、後述する支持アーム12の下端部がクリップ11によって所定位置に固定されている。
【0036】
支持アーム12は、その下端部がクリップ11を介して第1カウルパネル72aの後端部に支持される一方、上端部がインストルメントパネル8の下部を構成するロアパネル81近傍まで延びており、インストルメントパネル8は、この支持アーム12を介して第1カウルパネル72aの後端部に支持されている。
【0037】
ここで、インストルメントパネル8は、ロアパネル81及びこれを上方から覆うアッパパネル82とにより一体的に形成されており、ロアパネル81には、その前端部よりも後方の部位にて前下方に延びる縦壁部81bを有するダクト部81aが複数形成されている。このダクト部81aにより、不図示の空調装置によって生成された空調エアを案内するエア流路が形成されており、アッパパネル82には、前記空調エアをフロントウインドガラス6に吹き出すためのデフロスタ82aが形成されている。
【0038】
上述した支持アーム12は、その上端部が、ダクト部81aの縦壁部81b近傍に位置し、そこから縦壁部81bの面方向に沿うように前下方に延びている。そして、ダッシュアッパパネル71bは、その上部が支持アーム12近傍から前方かつ下方に傾斜し、さらにダッシュロアパネル71aに向かって下方を向くように延設されている。
【0039】
図4は、障害物の衝突時においてパネル部材が変形した状態を示す断面図である。本実施形態では、車両1の前部衝突時において、障害物Iが図2に示すようにフロントウインドガラス6の前面と接触し、障害物Iの荷重がカウルボックス部7に作用した時、図4に示すようにカウルパネル部72の第2パネル部72b及びインストルメントパネル8の前端部を変形させることによって、障害物Iに及ぶ衝撃を吸収するようになっている。
【0040】
ここでは、障害物Iの荷重が作用する作用点P(図2参照)と、第1カウルパネル72aがダッシュアッパパネル71bに支持される支点との距離L1が衝撃吸収ストロークとなり、前記作用点Pが距離L1だけ移動する間に前記衝撃が吸収される。
【0041】
そして、第2カウルパネル部72b及びインストルメントパネル8の変形によっても衝撃が吸収しきれなかった時には、障害物Iと第1カウルパネル72aとが面衝突することにより、荷重を第1カウルパネル72aにて平面的かつ障害物Iの後側下方への移動方向に対して斜めに受け止めつつ、図4中二点鎖線で示すように、ダッシュアッパパネル71bの上端部を変形させ、ダッシュパネル71に衝撃を分散させることで、さらなる衝撃吸収を可能にしている。
【0042】
本実施形態では、ダッシュアッパパネル71bよりも高剛性の第1カウルパネル72aと、フロントウインドガラス6を支持する第2カウルパネル72bとによりカウルパネル部72を構成することで、前記作用点Pの近くに高剛性の取付けブラケットを設けなくても、高剛性の第1カウルパネル72aによりインストルメントパネル8の支持剛性を向上させることができる。
【0043】
従って、衝撃吸収ストロークを大きく確保して、障害物衝突時の衝撃吸収を高次元で実現させることを可能にしつつも、カウルパネル部72の剛性を向上させるためのボックス部を不要にすることができ、その結果車室空間のスペース効率向上を図ることができる。
【0044】
また、カウルボックス部7において3つのパネル部材(第1、第2カウルパネル72a、72b、ダッシュアッパパネル71b)が、いずれも前後の延び方向成分を有し、かつ側面視で略ジグザグ状をなすように配設されている。この場合、車体前部における前後方向の剛性を向上させることができ、例えば、車両1の前突時において、エンジンルームE内のエンジン(不図示)等が後退したとしても、これの車室R内への侵入を前記3つのパネル部材72a、72b、71bの協働によって確実に抑制することができる。
【0045】
また、本実施形態において、第1カウルパネル72aは、図1に示すように、車両1の左右のヒンジピラー4、5間に架設されている。これにより、カウルボックス部7における前後方向の剛性をより向上させることができる。
【0046】
また、第1カウルパネル72aを略平板状に形成することで、インストルメントパネル8の取付けが容易になるとともに、第1カウルパネル72a自身の成形を容易にすることができる。
【0047】
ところで、近年では、例えば500MPa以上の高い引っ張り強度を有する高張力鋼板が様々な分野で利用されている。しかしながら、この高張力鋼板は、プレス加工時において変形しにくく、加工性が悪いという点が問題となっている。本実施形態では、第1カウルパネル72aを略平板状にすることで、複雑なプレス加工が不要となり、上述した高張力鋼板を使用することが可能になる。その結果、第1カウルパネル72aにおける軽量化を実現しつつも、インストルメントパネル8の支持剛性をさらに向上させることができる。
【0048】
また、第2カウルパネル72bが略鉛直に延びる縦壁部72cを有することにより、フロントウインドガラス6の支持剛性を上下方向において向上させることができる。このため、例えばフロントウインドガラス6が走行風を受けて上下に振動し、第2カウルパネル72bへ大きな荷重が作用したとしてもその支持状態を安定的に保持することができる。
【0049】
そして、障害物Iが衝突した時には、図2に示す矢印αのように後下方に向かって作用する荷重を縦壁部72cにて斜めに受け止めることができるため、縦壁部72cが矢印αと平行に延設される場合に比べて障害物Iに与える衝撃を緩和することができ、衝撃吸収性能を向上させることができる。
【0050】
また、ダッシュアッパパネル71bにおいては、これが側面視において支持アーム12の延び方向に沿って延設され、両者が略滑らかなラインで連なるように形成されている。
【0051】
具体的には、支持アーム12に対して荷重F(図5参照)が作用した際、その荷重Fのうち、ダッシュアッパパネル71bに沿って伝達される荷重成分Faが、支持アーム12とダッシュアッパパネル71bとの間を折曲させる荷重成分Fbよりも大きくなるように、支持アーム12に対するダッシュアッパパネル71bの角度θが設定されている。
【0052】
即ち、この角度θは、図5(b)、(c)で示すダッシュアッパパネル71b′、71b″のように、θ=135°、225°とした場合に前記荷重成分Fa、Fbが同じになることを考慮して、135°<θ<225°の範囲内になるように設定される。
【0053】
これにより、支持アーム12からの荷重Fをダッシュアッパパネル71bを通じて下方に効率よく伝達、分散させることが可能になり、インストルメントパネル8の上下方向の支持剛性を向上させることができる。
【0054】
また、インストルメントパネル8の縦壁部81b及び支持アーム12が前下方に延びるとともに、ダッシュアッパパネル71bでは、その上部が前下方に傾斜してさらに下方を向くように延設されているため、衝撃吸収ストローク(距離L1)を大きく確保しつつも、インストルメントパネル8の前後方向の支持剛性向上を図ることができる。
【0055】
また、ダクト部81aの前壁部によって縦壁部71bを形成することにより、インストルメントパネル8を高強度にすることができ、かつ支持アーム12のための縦壁を別途設ける必要がなくなることによって、インストルメントパネル8のコンパクト化を図ることができる。
【0056】
また、インストルメントパネル8では、ダクト部81aが一体形成されることにより結果的に重量化を招いてしまうことになるが、本実施形態では、高剛性の第1カウルパネル72aによりインストルメントパネル8を安定的に支持することができる。
【0057】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明のダッシュパネル上部は、ダッシュアッパパネル71bに対応し、
インストルメントパネルの下部は、ロアパネル81に対応し、
以下同様に、
インストルメントパネルの上部は、アッパパネル82に対応し、
支持部材は、支持アーム12に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】この発明の実施形態に係る自動車の前部車体構造を備えた車両を示す斜視図。
【図2】図1のA−A線矢視断面図。
【図3】図2の要部拡大図。
【図4】障害物の衝突時においてパネル部材が変形した状態を示す断面図。
【図5】支持アームに荷重が作用した際の荷重の配分を説明するための図であり、(a)本実施形態の場合を示す図、(b)支持アームとダッシュアッパパネルとのなす角度θを135°に設定した場合を示す図、(c)支持アームとダッシュアッパパネルとのなす角度θを225°に設定した場合を示す図。
【図6】従来の自動車の前部車体構造を示す側断面図。
【図7】図6のカウルパネル及び支持ブラケットを示す斜視図。
【符号の説明】
【0059】
4、5…ヒンジピラー
6…フロントウインドガラス
7…カウルボックス部
8…インストルメントパネル
12…支持アーム
71…ダッシュパネル
71c…フランジ部
72a…第1カウルパネル部
72b…第2カウルパネル部
72c…縦壁部
81…ロアパネル
81a…ダクト部
81b…縦壁部
82…アッパパネル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室前方に車幅方向に延びるカウルボックス部が設けられた自動車の前部車体構造であって、
前記カウルボックス部は、車室前壁を形成するダッシュパネルと、
該ダッシュパネル上部に接合されて前方に延設される第1カウルパネルと、
該第1カウルパネル前部に前端部が接合され上方に延設される第2カウルパネルとを含み、
前記第1カウルパネルは、前記ダッシュパネル上部よりも高剛性であり、
前記第1カウルパネルの後端部にインストルメントパネルが支持されるとともに、
前記第2カウルパネルは、その後端部が前記第1カウルパネルから離間して後方に延設され、
前記第2カウルパネルの後端部にフロントウインドガラスが支持される
自動車の前部車体構造。
【請求項2】
前記第1カウルパネルは、左右のヒンジピラー間に架設される
請求項1記載の自動車の前部車体構造。
【請求項3】
前記第1カウルパネルは、略平板状であり、前記ダッシュパネル上部に前記第1カウルパネルの後端部と接合されるフランジが後方に延設され、該フランジによって前記インストルメントパネルを支持する
請求項1または2記載の自動車の前部車体構造。
【請求項4】
前記第2カウルパネルは、前記前端部から前記フロントウインドガラスまで略鉛直に延びる縦壁部を備える
請求項1〜3のいずれか一項に記載の自動車の前部車体構造。
【請求項5】
前記インストルメントパネルは、その前端部よりも後方の部位において下方に延びる縦壁を有する下部と、該下部を上方から覆う上部とが一体的に形成されるとともに、
前記縦壁近傍には、該縦壁の面方向に沿って下方に延び、前記第1カウルパネル後端に支持される支持部材が設けられており、
前記ダッシュパネル上部は、側面視において前記支持部材と略滑らかなラインで連なるように形成され、
前記支持部材に荷重が作用した際、前記ダッシュパネルに沿って伝達される荷重成分が、前記支持部材と前記ダッシュパネルとの間を折曲させる荷重成分よりも大きくなるように構成される
請求項1〜4のいずれか一項に記載の自動車の前部車体構造。
【請求項6】
前記インストルメントパネルの縦壁及び前記支持部材は、前下方に延び、
前記ダッシュパネルは、その上部が前下方に傾斜され、更に下向きとなるように延設される
請求項5記載の自動車の前部車体構造。
【請求項7】
前記縦壁は、ダクト部材である
請求項5または6記載の自動車の前部車体構造。
【請求項1】
車室前方に車幅方向に延びるカウルボックス部が設けられた自動車の前部車体構造であって、
前記カウルボックス部は、車室前壁を形成するダッシュパネルと、
該ダッシュパネル上部に接合されて前方に延設される第1カウルパネルと、
該第1カウルパネル前部に前端部が接合され上方に延設される第2カウルパネルとを含み、
前記第1カウルパネルは、前記ダッシュパネル上部よりも高剛性であり、
前記第1カウルパネルの後端部にインストルメントパネルが支持されるとともに、
前記第2カウルパネルは、その後端部が前記第1カウルパネルから離間して後方に延設され、
前記第2カウルパネルの後端部にフロントウインドガラスが支持される
自動車の前部車体構造。
【請求項2】
前記第1カウルパネルは、左右のヒンジピラー間に架設される
請求項1記載の自動車の前部車体構造。
【請求項3】
前記第1カウルパネルは、略平板状であり、前記ダッシュパネル上部に前記第1カウルパネルの後端部と接合されるフランジが後方に延設され、該フランジによって前記インストルメントパネルを支持する
請求項1または2記載の自動車の前部車体構造。
【請求項4】
前記第2カウルパネルは、前記前端部から前記フロントウインドガラスまで略鉛直に延びる縦壁部を備える
請求項1〜3のいずれか一項に記載の自動車の前部車体構造。
【請求項5】
前記インストルメントパネルは、その前端部よりも後方の部位において下方に延びる縦壁を有する下部と、該下部を上方から覆う上部とが一体的に形成されるとともに、
前記縦壁近傍には、該縦壁の面方向に沿って下方に延び、前記第1カウルパネル後端に支持される支持部材が設けられており、
前記ダッシュパネル上部は、側面視において前記支持部材と略滑らかなラインで連なるように形成され、
前記支持部材に荷重が作用した際、前記ダッシュパネルに沿って伝達される荷重成分が、前記支持部材と前記ダッシュパネルとの間を折曲させる荷重成分よりも大きくなるように構成される
請求項1〜4のいずれか一項に記載の自動車の前部車体構造。
【請求項6】
前記インストルメントパネルの縦壁及び前記支持部材は、前下方に延び、
前記ダッシュパネルは、その上部が前下方に傾斜され、更に下向きとなるように延設される
請求項5記載の自動車の前部車体構造。
【請求項7】
前記縦壁は、ダクト部材である
請求項5または6記載の自動車の前部車体構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2010−47076(P2010−47076A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211593(P2008−211593)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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