説明

自動車の走行装置のための調整方法、自動車のための調整システムおよび自動車

【課題】アンチロックシステムの機能性を改善し、特殊な走行状況での走行安全性を向上する。
【解決手段】自動車の上部構造の緩衝性および減衰性を調整するために、自動車の緩衝状態に関するセンサデータ11が求められ、かつアンチロックシステムが、自動車のホイールのスリップに基づいて自動車のブレーキシステム2内の圧力を調整するための制御信号13を提供する、自動車の走行装置のための調整方法に関するものであり、サスペンションシステム1において、減衰器8を調整するためのモジュール6が設けられており、ブレーキシステム2において、アンチロックシステムが設けられており、該アンチロックシステムが調整モジュール7を備え、該調整モジュール7は、ブレーキ圧を調整するために、センサデータ11および/または該センサデータ11から求められる信号12を供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の走行装置のための調整方法であって、自動車の上部構造の緩衝性(Federung)および減衰性(Daempfung)を調整するために、自動車の緩衝状態に関するセンサデータが求められ、かつアンチロックシステムが、自動車のホイールのスリップに基づいて自動車のブレーキシステム内の圧力を調整するための制御信号を提供する、自動車の走行装置のための調整方法に関する。
【0002】
さらに本発明は、自動車のための調整システム、特に自動車の走行装置のための調整システムであって、車両上部構造の緩衝および減衰のためのサスペンションシステム(Federungssystem)と、ブレーキシステムとが設けられており、サスペンションシステムにおいて、少なくとも1つの、減衰器を調整するためのモジュールが設けられており、ブレーキシステムにおいて、アンチロックシステムが設けられており、該アンチロックシステムが調整モジュールを備え、該調整モジュールは、ブレーキ圧を調整するために信号を求めるように形成されている形式のものに関する。
【0003】
さらに本発明は、上部構造および走行装置を備える自動車であって、前記走行装置が、前記上部構造の緩衝および減衰のためのサスペンションシステムと、当該自動車のホイールのためのブレーキシステムとを備える形式のものに関する。
【背景技術】
【0004】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第4303160号明細書から、自動車の走行装置を閉ループ制御および/または開ループ制御するためのシステムが公知である。この公知のシステムでは、車両上部構造と少なくとも1つのホイールとの間に、少なくとも1つのアクチュエータが懸架システムとして取り付けられ、かつ閉ループ制御および/または開ループ制御手段が設けられており、該手段により、アクチュエータが、車両の走行状態を表す量に基づいて、車両上部構造とホイールとの間で力を加えるために駆動される。その際、車両の走行状態を表す量は、センサ手段により検出される。この公知のシステムでは、例えば車両上部構造とホイールとの間の相対運動および/または車両上部構造の鉛直加速度を検出することが提案されている。
【0005】
自動車技術でのアンチロックシステムの使用は広く普及している。自動車のブレーキシステム内のブレーキ圧力を調整するためのアンチロックシステムの基本的な調整回路は、例えば『Fachkunde Kraftfahrzeugtechnik(第28版、2004年、Europa−Lehrmittel出版、Haan−Gruiten)』の第467頁以下に記載されている。
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許出願公開第4303160号明細書
【非特許文献1】『Fachkunde Kraftfahrzeugtechnik(第28版、2004年、Europa−Lehrmittel出版、Haan−Gruiten)』
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、アンチロックシステムの機能性を改善し、特殊な走行状況での走行安全性を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る自動車の走行装置のための調整方法では、自動車の緩衝状態に関するセンサデータおよび/または該センサデータから求められる信号をアンチロックシステムに供給するようにした。
【0008】
上記本発明の有利な形態は、従属請求項2から7に係る発明である。
【0009】
緩衝状態に関するセンサデータとして、単数または複数の以下のデータ、すなわち、自動車の単数または複数のホイールの高さ位置および/または少なくとも1つの上部構造加速度を使用すると有利である。
【0010】
また、上部構造加速度として、車体前部の上部構造加速度を使用すると有利である。
【0011】
また、緩衝状態に関するセンサデータから、頂状況を表す信号を求め、アンチロックシステムに供給すると有利である。
【0012】
また、頂状況の少なくとも以下の状態、すなわち「頂の疑い」、「頂確認」および「頂の終わり」を区別すると有利である。
【0013】
また、状態「頂の終わり」が提示されると、ブレーキシステム内で、アクスル毎にパラメータ化可能な規定の動作点までの増圧を行うと有利である。
【0014】
また、状態「頂の終わり」が提示されると、パラメータ化された動作点の調節後、動作点の迅速な適応を行うと有利である。
【0015】
さらに上記課題を解決するために、本発明に係る自動車のための調整システムでは、アンチロックシステムの調整モジュールが、前記調整方法を実施するために形成されており、かつサスペンションシステムの状態を、ブレーキ圧を調整するための信号を求める際に考慮するように、減衰器を調整するためのモジュールに連結されているようにした。
【0016】
さらに上記課題を解決するために、本発明に係る自動車では、当該自動車が、前記調整システムを備えるようにした。
【発明の効果】
【0017】
冒頭で述べた調整方法において、本発明では、自動車の緩衝状態に関するセンサデータおよび/または該センサデータから求められる信号をアンチロックシステムに供給する。こうして、従来から減衰器の調整のために使用されている情報もしくは懸架システムのアクチュエータの制御のために使用されている情報が、アンチロックシステムの機能性の改善およびその効果の向上のためにも使用され得る。
【0018】
有利には、緩衝状態に関するセンサデータとして、単数または複数の以下のデータ、すなわち、自動車の単数または複数のホイールの高さ位置および/または自動車の少なくとも1つの上部構造加速度を使用することができる。このことは、アンチロックシステムの機能性の改善、および特に自動車が頂を越える際もしくは頂を越えた直後の、自動車のより良好な制動特性を可能にする。
【0019】
本発明による調整システムでは、自動車のサスペンションシステムにおいて、少なくとも1つの、減衰器を調整するためのモジュールが設けられ、自動車のブレーキシステムにおいて、アンチロックシステムが設けられている。アンチロックシステムは調整モジュールを備える。調整モジュールは、サスペンションシステムの状態をブレーキ圧の調整時に考慮するように、減衰器を調整するためのモジュールに連結されている。こうして、特に効果的な調整システムが提供される。
【0020】
本発明の詳細とその他の利点については、以下に図面を参照しながら説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は、自動車のサスペンションシステム1の一部およびブレーキシステム2の一部を単純化し、著しく概略的に示したものである。
【0022】
ブレーキシステム2はアンチロックシステムを有する。アンチロックシステムの一部は調整モジュール7である。調整モジュール7を除き、アンチロックシステムは詳細には図示されていない。この調整モジュール7は、ブレーキシステム2内の圧力を調整するための制御信号13を提供する。ブレーキ圧を調整するための制御信号13は、有利には自動車のホイール3のスリップに基づいて求められる。このために、有利にはホイール3の領域に、それぞれ単数または複数のセンサ10が設けられている。センサ10は信号14をアンチロックシステムの調整モジュール7に供給する。ブレーキシステム2内の圧力を調整するための制御信号13は、調整モジュール7により、例えば詳説しない電磁弁の利用下で単数または複数のブレーキシリンダ9に供給され得る。自動車のホイール3には、例えばそれぞれ1つのブレーキシリンダ9を配設することができる。有利には、ホイール3毎に少なくとも1つのブレーキシリンダ9が設けられている。
【0023】
車両上部構造の緩衝および減衰のためのサスペンションシステム1は、有利にはホイール3毎に少なくとも1つの緩衝および減衰のための装置8を備える。この種の緩衝および減衰のための装置8は、例えば図1に示すように、単数または複数のコイルばねおよび/または単数または複数の空気ばねと、単数または複数の調節可能な振動減衰器、すなわちダンパとを備えることができる。車両上部構造の緩衝および減衰のための装置8は、減衰器を調整するためのモジュール6によって制御信号15に応じて制御される。モジュール6には、自動車の緩衝状態もしくは自動車のサスペンションシステム1の状態に関するセンサデータ11が供給される。センサデータ11は、詳説しないセンサにより検出され、減衰器を調整するためのモジュール6に供給される。この種のセンサデータ11は、例えばホイール3の高さ位置、すなわちバウンドについてのデータに該当し得る。択一的にまたは付加的に、この種のセンサデータ11は、上部構造の加速度、例えば車体前部の上部構造の加速度に該当し得る。
【0024】
サスペンションシステム1から、緩衝状態に関する情報が、信号12の形でブレーキシステム2に提供される。その際、既にサスペンションシステム1内にあるセンサデータ11、および/またはサスペンションシステム1内でセンサデータ11を用いて求められたもしくは処理されたデータが、信号12としてアンチロックシステムの調整モジュール7に供給され得る。
【0025】
図2a〜図2cは、進行方向xで頂5を越える自動車4を示す。以下、高さ方向yでの鉛直加速度を正と規定する。バウンド時のばねストロークをやはり正と規定する。
【0026】
図2aに示した状況では、自動車4の上部構造の鉛直加速度は、負であり、所定の第1の閾値の下にある。これに対応するセンサデータ11に基づいて、現在の頂状況を説明するために、状態「頂の疑い」が設定され得る。
【0027】
リヤアクスルが、図2aでフロントアクスルが存在していた場所を越えるやいなや、すなわち、車両が、図2bに示す位置に到達するやいなや、フロントアクスルについて、所定の第2の閾値の下にある負のバウンドが提示される。同時に、リヤアクスルはリバウンドする。すなわち、リヤアクスルのバウンドは、所定の第3の閾値の下にある。図2bに応じた現在の頂状況を説明するために、状態「頂確認」が設定される。状態を求めるために、センサデータ11が使用される。
【0028】
上部構造加速度が所定の第4の閾値を上回り、かつバウンドが前側で所定の第5の閾値を上回るやいなや、図2cに応じた現在の頂状況を説明するために、状態「頂の終わり」が設定され得る。図2cで、自動車4は再び着地している。
【0029】
サスペンションシステム1がブレーキシステム2に供給する信号12は、状態「頂の疑い」、「頂確認」および「頂の終わり」に対応する値を取ることができる。択一的な態様では、信号12が直接センサデータ11に対応してもよい。択一的には、信号12が、センサデータ11の使用下で求められる別の値を取ってもよい。
【0030】
減衰器を調整する際に提供される信号12の使用下で、アンチロックシステムの調整の機能性が改善され得る。加えて、背景技術から公知のアンチロックシステムの調整は、有利には以下のように変更され得る。
【0031】
状態「頂の終わり」で、自動車4のアクスル毎にパラメータ化可能な規定の動作点までの、ブレーキシステム内の可及的に迅速な増圧が行われる。引き続いて、調整器ダイナミクスは、迅速な適応を可能にするために、所定の、有利にはパラメータ化可能な時間の間、高めることができる。
【0032】
本発明にとって重要な思想の1つは、以下のように総括される。本発明は、自動車4の走行装置のための調整システムおよび調整方法に関する。自動車4の上部構造の緩衝性および減衰性を調整するために存在する、自動車4の緩衝状態を表すセンサデータ11は、自動車4のアンチロックシステムの調整モジュール7に供給され得る。センサデータ11から、頂状況に関する自動車の状態が検出できる。センサデータ11もしくは頂状況に関する状態は、アンチロックシステムの調整モジュール7内で、ホイール3に配設されたブレーキ装置、特にブレーキシリンダ9内のブレーキ圧を調整するための制御信号13を求める際に考慮される。本発明により、緩衝状態に関する情報は、背景技術から公知であるように自動車の上部構造の緩衝性および減衰性の調整の範囲内で使用されるだけでなく、ブレーキシステム2を調整するためにも使用される。このために、サスペンションシステム1内にあるセンサデータ11、および/またはサスペンションシステム1内でセンサデータ11を用いて求められた信号12が、アンチロックシステムの調整モジュール7に供給される。本発明により、頂を越える際および頂を越えた直後の走行安全性が大幅に向上され、相応の走行状況でのアンチロックシステムの効果および信頼性が大幅に向上される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】自動車のサスペンションシステムの一部およびブレーキシステムの一部を示す図である。
【図2】頂を通走(a〜b)する自動車を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 サスペンションシステム
2 ブレーキシステム
3 ホイール
4 自動車
5 頂
6 減衰器を調整するためのモジュール
7 調整モジュール
8 緩衝および減衰のための装置
9 ブレーキシリンダ
10 センサ
11 センサデータ
12 信号
13 制御信号
14 信号
15 制御信号
x 進行方向
y 高さ方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車(4)の走行装置のための調整方法であって、自動車(4)の上部構造の緩衝性および減衰性を調整するために、自動車(4)の緩衝状態に関するセンサデータ(11)が求められ、かつアンチロックシステムが、自動車(4)のホイールのスリップに基づいて自動車(4)のブレーキシステム(2)内の圧力を調整するための制御信号(13)を提供する、自動車(4)の走行装置のための調整方法において、自動車(4)の緩衝状態に関するセンサデータ(11)および/または該センサデータ(11)から求められる信号(12)をアンチロックシステムに供給することを特徴とする、自動車の走行装置のための調整方法。
【請求項2】
緩衝状態に関するセンサデータ(11)として、単数または複数の以下のデータ、すなわち、自動車(4)の単数または複数のホイール(3)の高さ位置および/または少なくとも1つの上部構造加速度を使用する、請求項1記載の調整方法。
【請求項3】
上部構造加速度として、車体前部の上部構造加速度を使用する、請求項2記載の調整方法。
【請求項4】
緩衝状態に関するセンサデータ(11)から、頂状況を表す信号(12)を求め、アンチロックシステムに供給する、請求項1から3までのいずれか1項記載の調整方法。
【請求項5】
頂状況の少なくとも以下の状態、すなわち「頂の疑い」、「頂確認」および「頂の終わり」を区別する、請求項4記載の調整方法。
【請求項6】
状態「頂の終わり」が提示されると、ブレーキシステム(2)内で、アクスル毎にパラメータ化可能な規定の動作点までの増圧を行う、請求項5記載の調整方法。
【請求項7】
状態「頂の終わり」が提示されると、パラメータ化された動作点の調節後、動作点の迅速な適応を行う、請求項5または6記載の調整方法。
【請求項8】
自動車(4)のための調整システム、特に自動車(4)の走行装置のための調整システムであって、車両上部構造の緩衝および減衰のためのサスペンションシステム(1)と、ブレーキシステム(2)とが設けられており、サスペンションシステム(1)において、少なくとも1つの、減衰器を調整するためのモジュール(6)が設けられており、ブレーキシステム(2)において、アンチロックシステムが設けられており、該アンチロックシステムが調整モジュール(7)を備え、該調整モジュール(7)は、ブレーキ圧を調整するために信号(13)を求めるように形成されている形式のものにおいて、アンチロックシステムの調整モジュール(7)が、請求項1から7までのいずれか1項記載の調整方法を実施するために形成されており、かつサスペンションシステム(1)の状態を、ブレーキ圧を調整するための信号(13)を求める際に考慮するように、減衰器を調整するためのモジュール(6)に連結されていることを特徴とする、自動車のための調整システム。
【請求項9】
上部構造および走行装置を備える自動車(4)であって、前記走行装置が、前記上部構造の緩衝および減衰のためのサスペンションシステム(1)と、当該自動車(4)のホイール(3)のためのブレーキシステム(2)とを備える形式のものにおいて、当該自動車(4)が、請求項8記載の調整システムを備えることを特徴とする、自動車。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−132382(P2009−132382A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303571(P2008−303571)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(508174975)ドクトル イング ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト (134)
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D−70435 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】