説明

自動車の間隔制御システム

目標対象(18)および自己の車両(10)に関するデータを検出するためのセンサシステム(12)と,車両(10)の縦運動を制御するためのアクターシステム(16)と,目標対象(18)との間隔に関して定められた制御目標を維持するために,所定の介入限界(Lim1,Lim2)内においてアクターシステム(16)へ介入する制御器(14)と,制御目標が維持されない場合に,運転者に引受け要請を出力するための出力装置(20)とを有する,自動車のための間隔制御システムは,制御目標が維持されない対立状況を予測し,対立状況が発生する前に引受け要請(FUA)を作動させるための予測システム(22)を備えることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,目標対象および自己の車両に関するデータを検出するためのセンサシステム,車両の縦運動を制御するためのアクターシステム,目標対象に対する間隔に関して定められた制御目標を維持するために,所定の介入限界内でアクターシステムへ介入する制御器および制御目標が維持されない場合に,運転者に引受け要請を出力するための出力装置を有する,自動車の間隔制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車において,ACCシステム(Adaptive Cruise Control)とも称される間隔制御システムが,ますます多く使用されるようになっており,この間隔制御システムは,前を走行する車両に対する自己の車両との間隔を自動的に制御するために用いられる。センサシステムは,例えばレーダーセンサを有しており,このレーダーセンサによって前を走行する車両との間隔および相対速度,そして方向角度を測定することができる。測定された方向角度を用いて,位置測定された車両のうちどの車両が自己の走行車線上にいるか,すなわち間隔制御のための重要な目標対象となるかが決定される。
【0003】
制御目標は,典型的に,この目標対象に対する所定の目標間隔を維持し,あるいは少なくともこの目標間隔を明らかに下回ることを回避するためにある。目標間隔は,好ましくは速度に依存し,大抵は,走行路上で2つの車両が同一の点を通過する時間的な間隔を表す,目標タイムギャップに基づいて定められる。制御器は,レーダーセンサによって測定されたデータを用いて,例えば,目標対象を維持するために必要な,正または負の目標加速度を計算し,この目標加速度に応じて,アクターシステムを介してドライブトレイン,そして必要な場合には車両のブレーキシステムへも介入する。
【0004】
快適なシステム行動を達成し,かつアクターシステムの物理的条件と安全技術的な利益を考慮するために,最終的にアクターシステムへ出力される目標加速度は,上方および/または下方の介入限界によって制限されている。しかし,この制限は,結果として,難しい交通状況において自己の車両の自動的な縦速度制御,あるいは縦加速度制御によって前の車両への追突を阻止できないことをもたらす可能性がある。したがって,既知のACCシステムの重要な構成部分は出力装置であって,このような場合に出力装置を介して運転者に引受け要請を出力することができる。
【0005】
このように,運転者は,自分で車両のコントロールを引き受けて,危機的な状況をコントロールすることを要請される。この場合に,運転者は,制御システムの介入限界に結びつけられていない。例えば,このような引受け要請は,既知のシステムにおいては,制御器が目標間隔を維持するために必要な目標加速度を計算し,この目標加速度はシステムの介入限界の外部にある場合に出力される。このとき,危機的な状況をコントロールするためには,大抵は,運転者が十分迅速および/または十分エネルギッシュに事象に対してアクティブに介入することが必要である。
【発明の開示】
【発明の利点】
【0006】
請求項1に記載された特徴を有する発明によれば,先を見越して引受け要請を作動させることが可能になるので,運転者が適切に反応するためのより多くの時間を有することができる。このようにして,交通安全性が向上し,走行快適性が改良される。というのは,運転者により行わせるべき加速度変化を余り激しくする必要がないからである。同時に,運転者の負担を軽減し,ストレス状況の発生の頻度を減少させることができる。
【0007】
本発明によれば,上記作用は予測システムによって達成され,予測システムは,交通状況の未来の展開,特に自己の車両と目標対象の動的行動を推定する。これにより,まだ実際には生じていない時点ですでに,運転者の介入を必要とする対立状況を見極めることができ,引受け要請を出力することができる。
【0008】
例として,例えば,自己の車両が,自己の車両より低速で前を走行する車両に接近し,前を走行する車両の運転者が,実際の車両間隔がまだ目標間隔よりも大きい時点でフルブレーキを導入する状況が考えられる。ACCシステムの制御器は,前を走行する車両の速度変化を確認し,場合によっては適度な速度適応を行う。この場合におけるノーマルな制御行動は,実際の時点において存在する間隔および速度データのみによって定められる。
【0009】
制御器は,一般に,前を走行するフルブレーキを導入した車両の運転者が,ブレーキプロセスを続行し,場合によっては車両が停止状態まで制動されることが見込まれることを「予測する」ようにはプログラミングされていない。したがって,これに応じた自己の車両の大幅な減速が必要となる。これに対して,本発明に基づく予測システムによれば,前を走行する車両の予測される動的行動を少なくとも近似的に予測して,この予測の結果を用いて,場合によっては早い時期にすでに引受け要請を出力することが可能である。したがって,運転者に対してより多い反応時間を提供することが可能となる。
【0010】
本発明の好ましい形態が,従属請求項から明らかにされる。
【0011】
好ましくは,予測システムによって,車両の動的なデータをどの程度未来へ反映すべきかを表す,固定または可変の予測時間が定められる。この場合,目標対象の走行ダイナミックモデルを用いて,実際の動的データおよび場合によっては他の情報を基礎にして,予測時点における目標対象の動的なデータの評価値または予測値が計算される。この動的なデータは,加速度,速度および目標対象の場所とすることができる。同様に,自己の車両の走行ダイナミックモデルにおいて,予測時点における自己の車両の動的なデータが予測される。自己の車両の予測される速度と,少なくとも所定の限界内で運転者によって調節可能な目標タイムギャップとから,予測時点における目標間隔が計算される。この予測された目標間隔は,その後目標対象の動的なデータに基づいて算出された,予測時点における実際間隔と比較される。この間隔が運転者引受け要請(FUA)のための所定の判断基準(FUA判断基準)を満たす場合に,引受け要請が即座に,あるいは適切な時間的遅延をもって出力される。
【0012】
FUA判断基準は,一般に,制御器によって計算された目標加速度が介入限界を上回る前に,引受け要請が行われるというものである。交通状況が,予測システムによって予測された状況と異なる展開となった場合には,状況を制御器のノーマルな制御行動によってコントロールさせることができ,運転者は介入しなくともよい。この場合の引受け要請は,危機的な状況において安全のために運転者の注意を高める予防的手段である。
【0013】
好ましくは適応モジュールが設けられており,その適応モジュールによって予測時間は,重要なデータ,例えば交通密度,自己の車両の速度などを用いて動的に変化される。同様にして,FUA判断基準も動的に修正することができる。
【0014】
本発明の実施例を図面に示し,以下で詳細に説明する。
【実施例の説明】
【0015】
以下において「自己の車両」と称する自動車10の制御システムは,センサシステム12,例えば1または複数のマイクロプロセッサによって形成される制御器14およびアクターシステム16を有しており,アクターシステムを介して車両10の正または負の加速度が調節される。それ自体知られているように,センサ12は,例えばレーダーセンサを有しており,そのレーダーセンサによって目標対象18,一般的には直前を走行する車両との間隔および相対速度が測定される。さらに,レーダーセンサは,大体において隣接車線上の車両と自己の走行車線上でずっと前を走行している車両を検出することができる。センサシステム12には,さらに既知の幾つかのセンサを備えており,これらは自己の車両10の状態に関して,特にその速度,実際に選択されているギア段などに関して情報を与える。さらに,例えば目標対象18を追従すべき目標タイムギャップについて運転者が選択した調節位置,および場合によっては車両の積載,ブレーキ状態,走行路のグリップなど,車両の他のデータを検出することができる。同様に,センサシステム12によって,例えば天候条件のような環境データも検出することができる。
【0016】
ノーマルなACC制御の枠内において,センサシステム12は制御器14に,少なくとも目標対象18の間隔と相対速度,および自己の車両10の絶対速度と調節された目標タイムギャップを伝達する。これらのデータを用いて,制御器14は,まず暫定的な目標加速度を計算する。この目標加速度が,上方の加速度限界の下,かつ下方の(負の)加速度限界の上にある場合には,車両の速度を適応させるために,目標加速度が直接アクターシステム16へ出力される。上方および下方の加速度限界は,快適性および安全を考慮して定められており,場合によっては,運転者それぞれその個別の快適性要請に応じて修正することができる。しかし,一般に,以下において「ソフトな介入限界」と称するこれらの限界は,アクターシステム16,車両10のドライブトレインおよびブレーキシステムによって実際に実現される加速度のための限界よりも狭い。車両の積載状態,走行路状態などに依存することのできる,実際の物理的な限界は,以下において「ハードな介入限界」と称する。
【0017】
制御器によって計算される目標加速度が,ハードまたはソフトな介入限界の外部にある場合,特に計算されたブレーキ減速が絶対値において,許容される,あるいは達成可能なブレーキ減速よりも大きい場合に,制御器14は出力装置20,例えばラウドスピーカーを介して,運転者へ引受け要請FUAを出力する。この場合,アクターシステム16には,指令信号として該当する限界加速度のみが伝達される。
【0018】
ここで説明する間隔制御システムは,さらに予測システム22を有しており,その予測システムによって,所定の条件下では運転者引受け要請をずっと早い時点ですでに出力することが可能である。予測システムは,適応モジュール24,目標対象18の走行ダイナミックモデル26,自己の車両10の走行ダイナミックモデル28,予測モジュール30および引受け要請を出力するための決定モジュール32を有している。
【0019】
適応モジュール24は,「フレームデータ」と称され,システムの実際の駆動条件を特徴づける所定の情報を,センサシステム12から受け取り,そして制御器14およびアクターシステム16からは,ソフトな介入限界とハードな介入限界とを表す信号Lim1,Lim2を受け取る。これらのデータを用いて,適応モジュール24は,予測時点tPrad,すなわち交通状況の展開が予測される未来の時点を定める。さらに,適応モジュール24は,提供されるデータを用いて,引受け要請の出力に関して,決定モジュール32内で行う決定に適した判断基準を定める。
【0020】
目標対象のためのモデル26は,センサシステム12,特にレーダーセンサから,目標対象の動的なデータ,すなわちその間隔と相対速度を得る。これに基づいて,場合によっては適当なモデル仮定を用いてより高次の時間的微分および積分を計算して,予測時点tPradにおける目標対象18の予測される動的なデータ(加速度,速度および間隔)を算出する。
【0021】
同様に,自己の車両のためのモデル28は,自己の車両の動的なデータを用い,かつ制御器14の既知の制御行動と特に介入限界Lim1,Lim2とを用いて,予測時点tPradにおける自己の車両10の動的なデータ(例えば加速度,速度および場所)を予測する。
【0022】
これらの動的なデータから,特に時点tPradで予測される自己速度vEGO,およびセンサシステム12によって準備される他のデータ,特に目標タイムギャップから,予測モジュール30は,時間tPradにおいて予測される目標間隔dSOLLを計算する。この目標間隔と自己の車両10の予測される場所xEGO,およびモデル26によって予測された目標対象18の場所xZOは,決定モジュール32内において,目標対象18の予測される実際間隔を計算し,予測される目標間隔dSOLLと比較するために利用される。これにより,適応モジュール24により定められた決定判断基準に基づいて,引受け要請FUAを出力すべきか否かが決定される。
【0023】
予測時点tPradは,適応モジュール24により状況に応じて変更される。この場合,センサシステム12から報告されたフレームデータおよび介入限界は,以下で例を用いて説明するように,多様な方法によって考慮することができる。重要なパラメータとして,車両10の実際の固有速度がある。例えばアウトバーン上を高速で走行する場合に,大抵は大きい安全な車間距離が維持されるので,短い予測時間も許容できるが,中〜低速である場合には,より長い予測時間を選択することが効果的である。というのは,早期の引受け要請と,それに応じた運転者の早期の反応が極めて重要だからである。
【0024】
例えば,頻繁な,あるいは激しい速度変化によって特徴づけられる,交通状況の高い動特性に対しても,長い予測時間と,レーダーセンサのデータに基づいて見積もられた交通密度とによって有利に作用される。運転者により選択される目標タイムギャップは,目標タイムギャップが短い場合に,より早期の引受け要請が行われるように予測時間へ取り込まれる。長い予測時間が有利に作用し,適当なセンサによって検出することの可能な他の判断基準として,例えば運転者の注意および運転者の負担がある。例えば,疲労センサが知られており,その疲労センサは,運転者における疲労の徴候を認識することができるので,疲労センサが疲労の徴候を認識した場合には,予測時間を延長することができる。
【0025】
運転者負担は,例えば,運転者が他の課題,例えばハンズフリー装置を介して電話で話し続けたり,あるいはナビゲーションシステムの動きによって気を逸らされている状態により,増大する徴候がある。同様に,予測時間は,ソフトな介入限界またはハードな介入限界によっても調節することができる。例えば,大抵の場合,ブレーキシステム内に設けられたスリップセンサによって凍結した走行路が認識された場合,あるいは一般に凍結点を下回った場合には,場合によっては,延長されるブレーキ距離を考慮するために,より長い予測時間が選択される。
【0026】
目標対象18のモデル26は,例えば,加速が一定であると仮定して目標対象の移動変数を積分することにより,形成することができる。また,加速度の変化率が一定であると仮定すること,あるいは,一般的な,実際の時間的な微分に基づく移動変数のn次のテイラー展開も考えられる。しかしまた,交通事象の詳細な検証を考慮して調整することも考えられる。例えば,ここでは,レーダーシステムから報告された,次の次の車両またはさらに前を走行する車両の移動状態の変化,あるいは,変化のはじめの方において認識可能な,隣接車線から自己の車線への低速の車両の割込みも考慮することができる。
【0027】
自己の車両のモデル28は,核心において移動変数の積分に基づいているが,ここでは制御器14の既知の制御行動と,特に既知の介入限界Lim1,Lim2とを考慮している。
【0028】
予測モジュール30では,原理において,予め調節された目標タイムギャップを,モジュール28によって予測された固有速度vEGOで乗算するだけでよい。場合によっては,付加的な安全車間距離を加算することができ,安全車間距離は固定的に定められたり,提供可能なフレームデータに依存させることができる。
【0029】
モデル26,28内では,車両10および目標対象18の絶対的な加速度が積分されるので,まず,自己の車両の場所xEGOおよび目標対象の場所xZOを絶対的な座標内で計算し,その後,場所座標の差を時点tPradにおいて予測される実際間隔として用いると効果的である。決定モジュール32における目標間隔と実際間隔との間の比較は,例えば,実際間隔および目標間隔から商を計算することによって行うことができる。この場合,引受け要請の決定判断基準は,最も簡単な場合においては,適応モジュール24によって定められたしきい値(<1)とのしきい値比較である。しかしまた,複雑な判断基準も考えられ,その判断基準においては,モデル26と28によって準備される,自己の車両と目標対象の付加的な動的変数も考慮することができる。同様に,ある場合には,予測の信頼性を評価して潜在的危険と比較する,FUA判断基準のためのアルゴリズムも考えられる。状況の潜在的危険が小さく,かつ予測の信頼性が低い場合には,引受け要請の出力は短い遅延時間の後に初めて行うことができ,あるいは,状況がおのずから安全化した場合には,全く行われないこともある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に基づく間隔制御システムのブロック図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標対象(18)および自己の車両(10)に関するデータを検出するためのセンサシステム(12)と,
前記車両(10)の縦運動を制御するためのアクターシステム(16)と,
前記目標対象(18)との間隔に関して定められた制御目標を維持するために,所定の介入限界(Lim1,Lim2)内において前記アクターシステム(16)へ介入する制御器(14)と,
前記制御目標が維持されない場合に,運転者に引受け要請(FUA)を出力するための出力装置(20)と,
を備え,
前記制御目標が維持されない対立状況を予測して,前記対立状況が発生する前に前記引受け要請(FUA)を作動させるための予測システム(22)を備えることを特徴とする,自動車の間隔制御システム。
【請求項2】
前記予測システム(22)は,所定の予測時点(tPrad)における前記自己の車両および前記目標対象の走行ダイナミック変数のための予測値(vEGO,xZO)を計算するために,前記目標対象(18)および前記自己の車両(10)の走行ダイナミックモデル(26,28)を有していることを特徴とする,請求項1に記載の間隔制御システム。
【請求項3】
予測システム(22)は,前記予測値から予測時点(tPrad)における前記目標対象(18)と前記自己の車両(10)との間の予測される目標間隔および予測される実際間隔を計算し,
前記目標間隔と前記実際間隔との関係が所定の作動判断基準を満たした場合,前記引受け要請(FUA)を作動させるように形成されることを特徴とする,請求項2に記載の間隔制御システム。
【請求項4】
作動判断基準は,実際間隔と目標間隔の商に関するしきい値であることを特徴とする,請求項3に記載の間隔制御システム。
【請求項5】
センサシステム(12)によって準備されるデータにしたがって,予測時点(tPrad)を動的に変化させる適応モジュール(24)を備えることを特徴とする,請求項2〜4のいずれかに記載の間隔制御システム。
【請求項6】
センサシステム(12)によって準備されるデータにしたがって,引受け要請のための作動判断基準を動的に変化させる適応モジュール(24)を備えることを特徴とする,請求項2〜5のいずれかに記載の間隔制御システム。

【図1】
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【公表番号】特表2007−523787(P2007−523787A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551739(P2006−551739)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【国際出願番号】PCT/EP2004/053366
【国際公開番号】WO2005/075238
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(501125231)ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (329)
【Fターム(参考)】