説明

船舶推進機

【課題】正転仕様および逆転仕様のいずれの仕様でも用いることができ、ギヤの変位を抑えることができる船舶推進機を提供すること。
【解決手段】船舶推進機3は、ドライブシャフト14と、ピニオン23と、第1および第2ギヤ24、25と、ドッグクラッチ26と、プロペラシャフト15と、第1および第2テーパベアリング32、35と、ロワーケース19と、調整部材58とを含む。プロペラシャフト15は、第1および第2ギヤ24、25内に挿入されている。第1テーパベアリング32は、第1ギヤ24とプロペラシャフト15との間に設けられており、第2テーパベアリング35は、第2ギヤ25とプロペラシャフト15との間に設けられている。調整部材58は、第2ギヤ25とプロペラシャフト15との間に設けられており、調整部材58によって、第1テーパベアリング32および第2テーパベアリング35に予圧が加えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船舶を推進させる船舶推進機に関する。
【背景技術】
【0002】
正転仕様の船舶推進機と、逆転仕様の船舶推進機とが知られている。正転仕様の船舶推進機には、正転方向に回転することにより、前進方向の推力を発生する正転仕様のプロペラが取り付けられる。一方、逆転仕様の船舶推進機には、正転方向とは反対の逆転方向に回転することにより、前進方向の推力を発生する逆転仕様のプロペラが取り付けられる。特許文献1記載の従来の船舶推進機は、正転仕様の船舶推進機であり、特許文献2記載の従来の船舶推進機は、逆転仕様の船舶推進機である。また、特許文献3記載の従来の船舶推進機は、正転仕様および逆転仕様のいずれの仕様でも用いることができる正転・逆転共用仕様の船舶推進機である。
【0003】
特許文献1記載の正転仕様の船舶推進機は、ドライブシャフトと共に回転するピニオン(ドライブギヤ)と、ピニオンに噛み合う第1ギヤおよび第2ギヤと、第1ギヤおよび第2ギヤの一方に選択的に結合されるドッグクラッチと、ドッグクラッチと共に回転するプロペラシャフトとを含む。正転仕様のプロペラは、プロペラシャフトに取り付けられている。ドッグクラッチが前進ギヤとしての第1ギヤに結合されると、プロペラシャフトおよびプロペラは、正転方向に回転する。一方、ドッグクラッチが後進ギヤとしての第2ギヤに結合されると、プロペラシャフトおよびプロペラは、逆転方向に回転する。したがって、プロペラの回転方向は、ドッグクラッチによって切り替えられる。第1ギヤは、第1ギヤとプロペラシャフトとの間に配置されたテーパベアリングを介してプロペラシャフトを保持しており、第2ギヤは、ボールベアリングを介してハウジングに保持されている(たとえば、図12参照)。
【0004】
特許文献2記載の逆転仕様の船舶推進機は、ドライブシャフトと共に回転するピニオンと、ピニオンに噛み合う第1ギヤ(後進用歯車)および第2ギヤ(前進用歯車)と、第1ギヤおよび第2ギヤの一方に選択的に結合されるドッグクラッチと、ドッグクラッチと共に回転するプロペラシャフトとを含む。逆転仕様のプロペラは、プロペラシャフトに取り付けられている。ドッグクラッチが前進ギヤとしての第2ギヤに結合されると、プロペラシャフトおよびプロペラは、逆転方向に回転する。一方、ドッグクラッチが後進ギヤとしての第1ギヤに結合されると、プロペラシャフトおよびプロペラは、正転方向に回転する。したがって、プロペラの回転方向は、ドッグクラッチによって切り替えられる。第1ギヤは、ローラベアリングを介してロワーケースに支持されており、第2ギヤは、テーパベアリングを介してハウジングに支持されている(たとえば、図16参照)。
【0005】
特許文献3記載の正転・逆転共用仕様の船舶推進機は、ドライブシャフトと共に回転するピニオン(ギヤ)と、ピニオンに噛み合う第1ギヤ(リバースギヤ)および第2ギヤ(フォーワードギヤ)と、第1ギヤおよび第2ギヤの一方に選択的に結合されるドッグクラッチと、ドッグクラッチと共に回転するプロペラシャフトとを含む。プロペラシャフトには、正転仕様および逆転仕様のいずれかの仕様のプロペラが取り付けられる。ドッグクラッチが第1ギヤに結合されると、プロペラシャフトおよびプロペラは、正転方向に回転する。一方、ドッグクラッチが第2ギヤに結合されると、プロペラシャフトおよびプロペラは、逆転方向に回転する。したがって、プロペラの回転方向は、ドッグクラッチによって切り替えられる。第1ギヤおよび第2ギヤのそれぞれは、プロペラシャフトを取り囲んでおり、プロペラシャフトに対して非接触である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7297036号
【特許文献2】特開平11−263294号公報
【特許文献3】特開昭63−258295号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
正転仕様の船舶推進機と逆転仕様の船舶推進機は、互いに異なる構造のロワー部(ロワーユニット)を備えている。したがって、正転仕様のロワー部に用いられる部品と、逆転仕様のロワー部に用いられる部品とが異なっており、部品の共通化によりコストダウンを図ることができない。さらに、船舶推進機の販売店は、正転仕様のロワー部に用いられる部品と、逆転仕様のロワー部に用いられる部品とを補修用の予備部品としてストックしておく必要があり、在庫が増加してしまう。
【0008】
前述のように、正転仕様および逆転仕様のいずれの仕様の船舶推進機も、ドッグクラッチの切替によって、正転方向および逆転方向にプロペラを回転させることができる。したがって、逆転仕様のプロペラを正転仕様の船舶推進機に取り付けることにより、原理的には、正転仕様の船舶推進機を逆転仕様で用いることができる。同様に、正転仕様のプロペラを逆転仕様の船舶推進機に取り付けることにより、原理的には、逆転仕様の船舶推進機を正転仕様で用いることができる。しかしながら、以下の[ギヤの耐久性について]で説明するように、一方の仕様の船舶推進機を他方の仕様で用いると、ギヤ(ピニオン、第1ギヤ、および第2ギヤ)の耐久性が低下してしまう場合がある。
【0009】
[ギヤの耐久性について]
正転仕様および逆転仕様のいずれの仕様の船舶推進機においても、第1ギヤおよび第2ギヤがピニオンを挟むように前後に配置されている。ピニオンは第1ギヤと第2ギヤに常に噛合っており、ピニオンの回転が第1ギヤおよび第2ギヤに伝達されると、第1ギヤおよび第2ギヤは、互いに反対の方向に回転する。プロペラを回転させるときには、ドッグクラッチは、第1ギヤおよび第2ギヤのいずれか一方に結合される。したがって、いずれの仕様の船舶推進機においても、第1ギヤおよび第2ギヤは、ロワーケースおよびプロペラシャフトの両方に対して相対的に回転できる必要がある。そのため、第1ギヤおよび第2ギヤの位置を固定することが困難である。つまり、回転以外の動作を行わないように第1ギヤおよび第2ギヤを保持することが困難である。したがって、以下に説明するように、船舶推進機の使用方法によっては、第1ギヤおよび第2ギヤが傾いたり、第1ギヤおよび第2ギヤがプロペラシャフトの軸方向に移動したりする場合がある。
【0010】
[1.正転仕様の船舶推進機について]
[1−1.通常使用(正転仕様での使用)について]
[1−1−1.前進時について]
図12は正転仕様の船舶推進機における前進時のロワー部の状態を示す。図12に示すように、正転仕様の船舶推進機が前進方向の推力を発生するときには、ドッグクラッチが、前進ギヤとしての第1ギヤに噛み合わされる(黒色の矢印参照)。これにより、ドライブシャフトの回転が、ピニオンおよび第1ギヤを介してドッグクラッチに伝達され、正転仕様のプロペラが、ドッグクラッチおよびプロペラシャフトと共に正転方向に回転する。正転方向へのプロペラの回転により生み出された前進方向の推力は、プロペラシャフト、テーパベアリング、サークリップ、第1ギヤ、外側のテーパベアリング、ロワーケースの順番で伝達される(白色の矢印参照)。その一方で、ピニオンと第1ギヤとの噛み合い位置において、ピニオンから第1ギヤへの動力の伝達に伴う反力が、第1ギヤに加わる(クロスハッチングされた矢印参照)。これにより、第1ギヤを傾けようとする力が第1ギヤに加わる。しかし、第1ギヤの位置は、前進方向の推力がテーパベアリングを介して第1ギヤに伝達されることにより固定されているので、反力が第1ギヤに加わっても、第1ギヤは傾きにくい。これにより、ピニオンと第1ギヤとの噛み合いが安定し、設計想定値以上の大きな力が第1ギヤに加わることが防止される。
【0011】
[1−1−2.後進時について]
図13は正転仕様の船舶推進機における後進時のロワー部の状態を示す。図13に示すように、正転仕様の船舶推進機が後進方向の推力を発生するときには、ドッグクラッチが、後進ギヤとしての第2ギヤに噛み合わされる(黒色の矢印参照)。これにより、ドライブシャフトの回転が、ピニオンおよび第2ギヤを介してドッグクラッチに伝達され、正転仕様のプロペラが、ドッグクラッチおよびプロペラシャフトと共に逆転方向に回転する。逆転方向へのプロペラの回転により生み出された後進方向の推力は、プロペラシャフト、ハウジングの順番で伝達される(白色の矢印参照)。その一方で、ピニオンと第2ギヤとの噛み合い位置において、ピニオンから第2ギヤへの動力の伝達に伴う反力が、第2ギヤに加わる(クロスハッチングされた矢印参照)。しかし、後進時は、ピニオンから第2ギヤに伝達されるトルクが、前進時よりも小さいので、第2ギヤに加わる反力も小さい。そのため、前進時と比較して第2ギヤの傾き量は少ない。
【0012】
[1−2.非通常使用(逆転仕様での使用)について]
[1−2−1.前進時について]
図14は正転仕様の船舶推進機を非通常使用状態である逆転仕様の船舶推進機として使用した場合の前進時のロワー部の状態を示す。図14に示すように、逆転仕様で用いられている正転仕様の船舶推進機が前進方向の推力を発生するときには、ドッグクラッチが、前進ギヤとしての第2ギヤに噛み合わされる(黒色の矢印参照)。これにより、ドライブシャフトの回転が、ピニオンおよび第2ギヤを介してドッグクラッチに伝達され、逆転仕様のプロペラが、ドッグクラッチおよびプロペラシャフトと共に逆転方向に回転する。逆転方向へのプロペラの回転により生み出された前進方向の推力は、プロペラシャフト、テーパベアリング、サークリップ、第1ギヤ、外側のテーパベアリング、ロワーケースの順番で伝達される(白色の矢印参照)。その一方で、ピニオンから第2ギヤへの動力の伝達に伴う反力が、第2ギヤに加わる(クロスハッチングされた矢印参照)。この反力が、ボールベアリングに加わり、ボールベアリングが傾くことで第2ギヤが大きく傾く(ハッチングされた矢印参照)。そのため、ピニオンと第2ギヤとの噛み合いが不安定になり、ピニオンと第2ギヤとの噛み合い位置に設計想定値以上の大きな力が加わる場合がある。
【0013】
[1−2−2.後進時について]
図15は正転仕様の船舶推進機を非通常使用状態である逆転仕様の船舶推進機として使用した場合の後進時のロワー部の状態を示す。図15に示すように、逆転仕様で用いられている正転仕様の船舶推進機が後進方向の推力を発生するときには、ドッグクラッチが、後進ギヤとしての第1ギヤに噛み合わされる(黒色の矢印参照)。これにより、ドライブシャフトの回転が、ピニオンおよび第1ギヤを介してドッグクラッチに伝達され、逆転仕様のプロペラが、ドッグクラッチおよびプロペラシャフトと共に正転方向に回転する。正転方向へのプロペラの回転により生み出された後進方向の推力は、プロペラシャフト、テーパベアリング、ハウジングの順番で伝達される(白色の矢印参照)。その一方で、ピニオンと第1ギヤとの噛み合い位置において、ピニオンから第1ギヤの回転の伝達に伴う反力が、第1ギヤに加わる(クロスハッチングされた矢印参照)。しかし、後進時は、第1ギヤに加わる反力が小さいので、第1ギヤの傾き量は少ない。
【0014】
[2.逆転仕様の船舶推進機について]
[2−1.通常使用(逆転仕様での使用)について]
[2−1−1.前進時について]
図16は逆転仕様の船舶推進機における前進時のロワー部の状態を示す。図16に示すように、逆転仕様の船舶推進機が前進方向の推力を発生するときには、ドッグクラッチが、前進ギヤとしての第2ギヤに噛み合わされる(黒色の矢印参照)。これにより、ドライブシャフトの回転が、ピニオンおよび第2ギヤを介してドッグクラッチに伝達され、逆転仕様のプロペラが、ドッグクラッチおよびプロペラシャフトと共に逆転方向に回転する。逆転仕様の船舶推進機では、プロペラの回転により生み出された推力がプロペラシャフトに一体又は別体で取り付けられたフランジを介して伝達される。逆転方向へのプロペラの回転により生み出された前進方向の推力は、プロペラシャフト、テーパベアリング、ハウジングの順番で伝達される(白色の矢印参照)。その一方で、ピニオンと第2ギヤとの噛み合い位置において、ピニオンから第2ギヤへの動力の伝達に伴う反力が、第2ギヤに加わる(クロスハッチングされた矢印参照)。プロペラシャフトを介してテーパベアリングに加わる推力の方向と、第2ギヤを介してテーパベアリングに加わる反力の方向とが逆である。しかし、第2ギヤに加わる反力は、前進方向に加わる推力の大きさと比較して十分に小さいためテーパベアリングの軸心が安定し、第2ギヤの位置が固定される。これにより、第2ギヤの傾きや軸方向への移動が抑制される。
【0015】
[2−1−2.後進時について]
図17は逆転仕様の船舶推進機における後進時のロワー部の状態を示す。図17に示すように、逆転仕様の船舶推進機が後進方向の推力を発生するときには、ドッグクラッチが、後進ギヤとしての第1ギヤに噛み合わされる(黒色の矢印参照)。これにより、ドライブシャフトの回転が、ピニオンおよび第1ギヤを介してドッグクラッチに伝達され、逆転仕様のプロペラが、ドッグクラッチおよびプロペラシャフトと共に正転方向に回転する。正転方向へのプロペラの回転により生み出された後進方向の推力は、プロペラシャフト、スラストベアリング、ハウジングの順番で伝達される(白色の矢印参照)。その一方で、ピニオンと第1ギヤとの噛み合い位置において、ピニオンから第1ギヤへの動力の伝達に伴う反力が、第1ギヤに加わる(クロスハッチングされた矢印参照)。しかし、後進時は、第1ギヤに加わる反力が小さいので、第1ギヤの傾き量は少ない。
【0016】
[2−2.非通常使用(正転仕様での使用)について]
[2−2−1.前進時について]
図18は逆転仕様の船舶推進機を非通常使用状態である正転仕様の船舶推進機として使用した場合の前進時のロワー部の状態を示す。図18に示すように、正転仕様で用いられている逆転仕様の船舶推進機が前進方向の推力を発生するときには、ドッグクラッチが、前進ギヤとしての第1ギヤに噛み合わされる(黒色の矢印参照)。これにより、ドライブシャフトの回転が、ピニオンおよび第1ギヤを介してドッグクラッチに伝達され、正転仕様のプロペラが、ドッグクラッチおよびプロペラシャフトと共に正転方向に回転する。正転方向へのプロペラの回転により生み出された前進方向の推力は、プロペラシャフト、テーパベアリング、ハウジングの順番で伝達される(白色の矢印参照)。その際に、プロペラシャフトの回転方向と第2ギヤを支持しているテーパベアリングの回転方向が逆になるので、プロペラシャフトのフランジとテーパベアリングの間で焼き付きが発生する。
【0017】
[2−2−2.後進時について]
図19は逆転仕様の船舶推進機を非通常使用状態である正転仕様の船舶推進機として使用した場合の後進時のロワー部の状態を示す。図19に示すように、正転仕様で用いられている逆転仕様の船舶推進機が後進方向の推力を発生するときには、ドッグクラッチが、後進ギヤとしての第2ギヤに噛み合わされる(黒色の矢印参照)。これにより、ドライブシャフトの回転が、ピニオンおよび第2ギヤを介してドッグクラッチに伝達され、正転仕様のプロペラが、ドッグクラッチおよびプロペラシャフトと共に逆転方向に回転する。逆転方向へのプロペラの回転により生み出された後進方向の推力は、プロペラシャフト、スラストベアリング、ハウジングの順番で伝達される(白色の矢印参照)。このとき、通常使用の前進時とは異なり、ピニオンから第2ギヤへの回転の伝達に伴う反力だけが第2ギヤに加わるので(クロスハッチングされた矢印参照)、テーパベアリングの軸心が安定せず、第2ギヤが不安定になり傾き量が増加する(ハッチングされた矢印参照)。
【0018】
[考察]
このように、一方の仕様の船舶推進機を他方の仕様で用いると、ギヤの変位、つまり、ギヤの傾きや軸方向への移動が発生し、ギヤの耐久性が低下してしまう場合がある。たとえばギヤを大型化すれば、ギヤの耐久性の低下を防止できると考えられる。しかしながら、ギヤを大型化すると、船舶推進機のロワー部が大型化してしまい、水の抵抗が増加してしまう。したがって、船舶推進機のロワー部を大型化させずに、ギヤの変位量をできるだけ減少することが好ましい。
【0019】
ギヤの変位は、極めて単純に捉えると、第1ギヤおよび第2ギヤの位置を固定することにより防止されると考えられる。すなわち、第1ギヤおよび第2ギヤの位置を固定すれば、言い換えると、回転以外の動作を行わないように第1ギヤおよび第2ギヤを保持すれば、第1ギヤおよび第2ギヤの傾き等は発生しない。しかし、前述のように、第1ギヤおよび第2ギヤは、プロペラシャフトおよびロワーケースに対して相対的に回転できる必要がある。そのため、従来の船舶推進機では、第1ギヤおよび第2ギヤの位置が固定されていない。
【0020】
たとえば、特許文献1記載の正転仕様の船舶推進機では、通常使用の前進時には、前進方向の推力が、プロペラシャフト、テーパベアリング、第1ギヤの順番で伝達されるため、前進時には第1ギヤの位置が固定される。しかし、この正転仕様の船舶推進機を逆転仕様で用いて前進方向の推力を発生させるときには、第1ギヤの位置が固定されない。つまり、船舶推進機には、第1ギヤおよび第2ギヤをプロペラシャフト等に対して相対的に回転させる本来的な機能と、この本来的な機能に相反する機能、すなわち、第1ギヤおよび第2ギヤの位置を固定する機能とが必要とされる。従来では、この2つの機能を実現するために、正転仕様の船舶推進機と逆転仕様の船舶推進機とが設けられ、この2つの仕様の船舶推進機が使い分けられていた。
【0021】
このように、一方の仕様の船舶推進機を他方の仕様で用いることは、原理的には可能であるが、実際上は困難である。特許文献3には、正転・逆転共用仕様の船舶推進機が記載されているものの、前述の説明と同様に、第1ギヤおよび第2ギヤが傾いたり、軸方向に移動したりする場合がある。したがって、ギヤの耐久性が低下してしまう場合がある。
そこで、この発明の目的は、正転仕様および逆転仕様のいずれの仕様でも用いることができ、ギヤの変位を抑えることができる船舶推進機を提供することである。
【0022】
前記目的を達成するための本発明の一実施形態は、回転駆動される第1シャフトと、前記第1シャフトに連結されたドライブギヤと、前記ドライブギヤに噛み合う筒状の第1ドリブンギヤと、前記ドライブギヤに噛み合う筒状の第2ドリブンギヤと、シフト操作によって、前記第1ドリブンギヤおよび第2ドリブンギヤの一方に結合されている結合状態と、前記第1ドライブギヤおよび第2ドライブギヤのいずれにも結合されていない非結合状態との間で切り替えられるドッグクラッチと、前記第1ドリブンギヤ内および前記第2ドリブンギヤ内に挿入されていると共に、前記ドッグクラッチに連結されており、推力が加わるように構成された第2シャフトと、前記第1ドリブンギヤと前記第2シャフトとの間に設けられた第1ベアリングと、前記第2ドリブンギヤと前記第2シャフトとの間に設けられた第2ベアリングと、前記ドライブギヤ、第1ドリブンギヤ、第2ドリブンギヤ、ドッグクラッチ、第1ベアリング、および第2ベアリングを収容しており、前記第2シャフトに加わる推力が前記第1ベアリングと前記第1ドリブンギヤ、または前記第2ベアリングと前記第2ドリブンギヤとを介して伝達されるケースと、前記第1ドリブンギヤおよび第2ドリブンギヤの少なくとも一方と前記第2シャフトとの間に設けられており、前記第1ベアリングおよび第2ベアリングに予圧を加えるように構成された調整部材と、を含む、船舶推進機である。
【0023】
この構成によれば、第1シャフトが回転駆動されることにより、第1ドリブンギヤおよび第2ドリブンギヤが、ドライブギヤによって回転駆動される。また、ドッグクラッチが、第1ドリブンギヤおよび第2ドリブンギヤの一方に結合されることにより、一方のドリブンギヤの回転が、ドッグクラッチを介して第2シャフトに伝達される。したがって、第1シャフトの回転は、ドライブギヤ等を介して第2シャフトに伝達される。第2シャフトは、第1ドリブンギヤ内および第2ドリブンギヤ内に挿入されている。第1ドリブンギヤと第2シャフトとの間には、第1ベアリングが設けられており、第2ドリブンギヤと第2シャフトとの間には、第2ベアリングが設けられている。第1ベアリングおよび第2ベアリングには、第1ドリブンギヤおよび第2ドリブンギヤの少なくとも一方と第2シャフトとの間に設けられた調整部材によって予圧が加えられている。
【0024】
このように、第1ドリブンギヤを回転可能に支持する第1ベアリングと、第2ドリブンギヤを回転可能に支持する第2ベアリングに予圧が加えられているので、第1ベアリングおよび第2ベアリングの内部隙間を除去して、第1ドリブンギヤおよび第2ドリブンギヤの位置を固定することができる。すなわち、回転以外の動作を行わないように第1ドリブンギヤおよび第2ドリブンギヤを保持することができる。したがって、船舶推進機が正転仕様および逆転仕様のいずれの仕様で用いられる場合でも、ドライブギヤと各ギヤ(第1ドリブンギヤおよび第2ドリブンギヤのそれぞれ)との噛み合いが不安定になることを防止できる。これにより、ギヤの耐久性の低下を防止できる。したがって、船舶推進機を正転仕様および逆転仕様のいずれの仕様でも用いることができる。
【0025】
上記の通り、第1ドリブンギヤおよび第2ドリブンギヤの位置を固定することができると共に、船舶推進機を正転仕様および逆転仕様のいずれの仕様でも用いることができるので、仕様毎に専用の部品を設けなくてもよい。したがって、船舶推進機の製造コストや開発工数を低減できる。さらに、船舶推進機の販売店は、仕様毎に専用の部品を補修用の予備部品としてストックしなくてもいい。しかも、第1ベアリングおよび第2ベアリングに予圧を加えることにより、第1ベアリングおよび第2ベアリングや、第1ドリブンギヤおよび第2ドリブンギヤのがたつきを低減できるので、これらのがたつきに起因する異音の発生を防止できる。
【0026】
前記第1ベアリングは、前記第2シャフトに連結された第1インナーレースと、前記第1ドリブンギヤに連結された第1アウターレースと、を含んでいてもよい。前記第2ベアリングは、前記第2シャフトに連結された第2インナーレースと、前記第2ドリブンギヤに連結された第2アウターレースと、を含んでいてもよい。
また、前記調整部材は、前記第1ベアリングと前記第2ベアリングとの間に配置されていてもよい。
【0027】
また、前記第2シャフトは、前記第1ベアリングと前記第2ベアリングとの間に形成されたフランジを含み、前記調整部材は、前記第1ベアリングおよび第2ベアリングの一方と前記フランジとの間に配置されていてもよい。
また、前記ケースは、前記第1ドリブンギヤおよび第2ドリブンギヤが収容された内部空間と、前記内部空間に接続された開口とを形成しており、前記第2ドリブンギヤは、前記開口と前記第1ドリブンギヤとの間に配置されていてもよい。この場合、前記調整部材は、前記第2ドリブンギヤと前記第2シャフトとの間に設けられていてもよい。
【0028】
また、前記第1ドリブンギヤおよび第2ドリブンギヤは、共通の形状を有していてもよい。
また、前記ドライブギヤ、第1ドリブンギヤ、および第2ドリブンギヤのそれぞれは、ベベルギヤを含んでいてもよい。
また、前記第1ベアリングおよび第2ベアリングのぞれぞれは、テーパベアリング(円錐ころ軸受:tapered roller bearing)を含んでいてもよい。
【0029】
また、前記第1シャフトは、鉛直方向に延びるドライブシャフトを含み、前記第2シャフトは、水平方向に延びるプロペラシャフトを含んでいてもよい。
また、前記船舶推進機は、前記第1ドリブンギヤと前記ケースとの間に配置された第3ベアリングと、記第2ドリブンギヤと前記ケースとの間に配置された第4ベアリングと、をさらに含んでいてもよい。
【0030】
また、前記目的を達成するための本発明の他の実施形態は、回転駆動される第1シャフトと、前記第1シャフトに連結されたドライブギヤと、前記ドライブギヤに噛み合い、前方に向けて押し付けられた筒状の第1ドリブンギヤと、前記ドライブギヤに噛み合い、後方に向けて押し付けられた筒状の第2ドリブンギヤと、シフト操作によって、前記第1ドリブンギヤおよび第2ドリブンギヤの一方に結合されている結合状態と、前記第1ドライブギヤおよび第2ドライブギヤのいずれにも結合されていない非結合状態との間で切り替えられるドッグクラッチと、前記第1ドリブンギヤ内および前記第2ドリブンギヤ内に挿入されていると共に、前記ドッグクラッチに連結されており、推力が加わるように構成された第2シャフトと、前記第1ドリブンギヤと前記第2シャフトとの間に設けられた第1ベアリングと、前記第2ドリブンギヤと前記第2シャフトとの間に設けられた第2ベアリングと、前記ドライブギヤ、第1ドリブンギヤ、第2ドリブンギヤ、ドッグクラッチ、第1ベアリング、および第2ベアリングを収容しており、前記第2シャフトに加わる推力が前記第1ベアリングと前記第1ドリブンギヤ、または前記第2ベアリングと前記第2ドリブンギヤとを介して伝達されるケースと、前記第1ドリブンギヤおよび第2ドリブンギヤの一方と前記第2シャフトとの間に設けられており、前記第1ドリブンギヤを前方に向けて押し付け、前記第2ドリブンギヤを後方に向けて押し付けるように構成された調整部材と、を含む、船舶推進機である。前記第2ドリブンギヤは、前記第1ドリブンギヤの後方に配置されており、前記調整部材は、前記第1ドリブンギヤを前方に向けて押し付け、前記第2ドリブンギヤを後方に向けて押し付けるように構成されていてもよい。
【0031】
また、前記目的を達成するための本発明のさらに他の実施形態は、回転駆動される第1シャフトと、前記第1シャフトに連結されたドライブギヤと、前記ドライブギヤに噛み合う筒状の第1ドリブンギヤと、前記ドライブギヤに噛み合う筒状の第2ドリブンギヤと、シフト操作によって、前記第1ドリブンギヤおよび第2ドリブンギヤの一方に結合されている結合状態と、前記第1ドライブギヤおよび第2ドライブギヤのいずれにも結合されていない非結合状態との間で切り替えられるドッグクラッチと、前記第1ドリブンギヤ内および前記第2ドリブンギヤ内に挿入されていると共に、前記ドッグクラッチに連結されており、推力が加わるように構成された第2シャフトと、前記第1ドリブンギヤと前記第2シャフトとの間に設けられた第1ベアリングと、前記第2ドリブンギヤと前記第2シャフトとの間に設けられた第2ベアリングと、前記ドライブギヤ、第1ドリブンギヤ、第2ドリブンギヤ、ドッグクラッチ、第1ベアリング、および第2ベアリングを収容しており、前記第2シャフトに加わる推力が前記第1ベアリングと前記第1ドリブンギヤ、または前記第2ベアリングと前記第2ドリブンギヤとを介して伝達されるケースと、前記第2ドリブンギヤと前記第2シャフトとの間に設けられており、前記第1ベアリングおよび第2ベアリングに予圧を加えるように構成された調整部材と、を含み、前記第2シャフトは、前記ドッグクラッチと前記第2ベアリングとの間に形成されたフランジを含み、前記調整部材は、前記フランジと前記第2ベアリングとの間に設けられている、船舶推進機である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施形態に係る船舶の平面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る船舶推進機の側面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る船外機のロワー部の断面図である。
【図4】図3の一部を拡大した図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係るスライダーおよびカムを図3に示す矢印Vの方向から見た図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係るスライダーおよびカムを図5に示す矢印VIの方向から見た図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係る第1テーパベアリングおよび第2テーパベアリングベアリングに加わる予圧について説明するための図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係る船外機のロワー部の断面図である。
【図9】本発明の第1実施形態に係る船外機のロワー部の断面図である。
【図10】本発明の第1実施形態に係る船外機のロワー部の断面図である。
【図11】本発明の第1実施形態に係る船外機のロワー部の断面図である。
【図12】従来の正転仕様の船舶推進機が前進方向の推力を発生しているときの力の伝達経路について説明するための断面図である。
【図13】従来の正転仕様の船舶推進機が後進方向の推力を発生しているときの力の伝達経路について説明するための断面図である。
【図14】従来の正転仕様の船舶推進機が逆転仕様で用いられており、前進方向の推力を発生しているときの力の伝達経路について説明するための断面図である。
【図15】従来の正転仕様の船舶推進機が逆転仕様で用いられており、後進方向の推力を発生しているときの力の伝達経路について説明するための断面図である。
【図16】従来の逆転仕様の船舶推進機が前進方向の推力を発生しているときの力の伝達経路について説明するための断面図である。
【図17】従来の逆転仕様の船舶推進機が後進方向の推力を発生しているときの力の伝達経路について説明するための断面図である。
【図18】従来の逆転仕様の船舶推進機が正転仕様で用いられており、前進方向の推力を発生しているときの力の伝達経路について説明するための断面図である。
【図19】従来の逆転仕様の船舶推進機が逆転仕様で用いられており、後進方向の推力を発生しているときの力の伝達経路について説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る船舶1の平面図である。
船舶1は、船体2と、推力を発生する2機の船舶推進機3と、船舶1を操舵するために操船者によって操作されるハンドル4と、船舶1の前進および後進の切替や速度の調整を行うために操船者によって操作されるリモコン5とを含む。ハンドル4およびリモコン5は、船体2に設けられた操船部6に配置されている。2機の船舶推進機3は、船体2の後部に取り付けられている。各船舶推進機3は、正転・逆転共用仕様の船舶推進機である。一方の船舶推進機3は、正転仕様で用いられており、正転方向(たとえば、後方から見て時計回り)に回転することにより前進方向の推力を発生する正転仕様のプロペラ7aが、この船舶推進機3に取り付けられている。また、他方の船舶推進機3は、逆転仕様で用いられており、正転方向とは反対の逆転方向に回転することにより前進方向の推力を発生する逆転仕様のプロペラ7bが取り付けられている。各プロペラ7の回転方向や回転速度は、操船者によるリモコン5の操作によって変更される。
【0034】
図2は、本発明の第1実施形態に係る船舶推進機3の側面図である。
船舶推進機3は、推力を発生する船外機8を含む。さらに、船舶推進機3は、クランプブラケット9と、スイベルブラケット10と、ステアリングシャフト11とを含む。スイベルブラケット10は、クランプブラケット9に連結されている。ステアリングシャフト11は、中心軸線まわりに回転可能にスイベルブラケット10に保持されている。船外機8は、ステアリングシャフト11に連結されている。クランプブラケット9は、船体2の後部に設けられたトランサム12に取り付けられている。したがって、船外機8は、クランプブラケット9、スイベルブラケット10、およびステアリングシャフト11を介してトランサム12に取り付けられている。船外機8は、クランプブラケット9およびスイベルブラケット10に対してステアリングシャフト11まわりに回動可能に構成されている。船外機8は、操船者によるハンドル4の操作に伴ってステアリングシャフト11まわりに左右に回動する。これにより、船舶1が操舵される。
【0035】
また、船外機8は、動力を発生するエンジン13と、エンジン13によって一定の方向に回転駆動されるドライブシャフト14と、ドライブシャフト14の回転が伝達されるプロペラシャフト15とを含む。さらに、船外機8は、エンジン13を収容するエンジンカバー16と、エンジンカバー16の下方に配置されたケーシング17とを含む。ケーシング17は、アッパーケース18と、アッパーケース18の下方に配置されたロワーケース19とを含む。ドライブシャフト14は、アッパーケース18およびロワーケース19内で鉛直方向に延びている。ドライブシャフト14の上端部は、エンジン13に連結されており、ドライブシャフト14の下端部は、後述する歯車機構20を介してプロペラシャフト15に連結されている。プロペラシャフト15は、ロワーケース19内で水平方向に延びている。プロペラシャフト15の後端部は、ロワーケース19から後方に突出している。プロペラ7は、プロペラシャフト15の後端部に連結されている。プロペラ7は、エンジン13によって回転駆動される。プロペラ7は、プロペラシャフト15と共に正転方向および逆転方向に回転する。
【0036】
図3は、本発明の第1実施形態に係る船外機8のロワー部の断面図であり、図4は、図3の一部を拡大した図である。図5は、本発明の第1実施形態に係るスライダー49およびカム51を図3に示す矢印Vの方向から見た図である。図6は、本発明の第1実施形態に係るスライダー49およびカム51を図5に示す矢印VIの方向から見た図である。以下では、図3および図4を参照する。図5および図6については適宜参照する。
【0037】
船外機8は、ドライブシャフト14の回転をプロペラシャフト15に伝達する歯車機構20を含む。歯車機構20は、ロワーケース19の内部に形成された内部空間21に収容されている。歯車機構20や後述するハウジング37等は、ロワーケース19の後面で開口する開口22から内部空間21に組み込まれている。歯車機構20は、ドライブシャフト14の下端部に連結されたピニオン23と、ピニオン23に噛み合う第1ギヤ24および第2ギヤ25と、第1ギヤ24および第2ギヤ25の一方に選択的に結合されるドッグクラッチ26とを含む。ピニオン23、第1ギヤ24、および第2ギヤ25のそれぞれは、たとえば、ベベルギヤである。第1ギヤ24および第2ギヤ25は、前後方向に対向している。ドッグクラッチ26は、第1ギヤ24および第2ギヤ25の間に配置されている。第1ギヤ24、第2ギヤ25、およびドッグクラッチ26のそれぞれは、筒状であり、プロペラシャフト15は、第1ギヤ24、第2ギヤ25、およびドッグクラッチ26内に挿入されている。第1ギヤ24および第2ギヤ25がピニオン23に噛み合っているので、ピニオン23が回転すると、第1ギヤ24および第2ギヤ25は、互いに反対方向に回転する。
【0038】
第1ギヤ24および第2ギヤ25は、たとえば、共通のギヤである。したがって、第1ギヤ24および第2ギヤ25は、共通の形状を有しており、共通の材料で形成されている。第1ギヤ24および第2ギヤ25のそれぞれは、筒状部27と、筒状部27よりも大きい外径を有する筒状の歯部28と、歯部28の内方に配置された筒状の噛み合い部29とを含む。対応する筒状部27、歯部28、および噛み合い部29は、同軸である。プロペラシャフト15は、第1ギヤ24および第2ギヤ25の筒状部27、歯部28、噛み合い部29内に挿入されている。第1ギヤ24および第2ギヤ25は、船外機8に備えられた複数のベアリング30〜35によって、プロペラシャフト15およびロワーケース19に対して相対的に回転できるように構成されている。
【0039】
具体的には、船外機8は、ロワーケース19に保持された筒状のアダプター36を含む。第1ギヤ24の筒状部27は、第1ギヤ24の歯部28がアダプター36の後方(図3および図4では右側)に位置するようにアダプター36内に挿入されている。第1ローラベアリング30は、アダプター36と第1ギヤ24の筒状部27との間に配置されており、第1スラストベアリング31は、アダプター36と第1ギヤ24の歯部28との間に配置されている。第1ギヤ24は、第1ローラベアリング30および第1スラストベアリング31を介して、アダプター36に回転可能に保持されている。したがって、第1ギヤ24は、ロワーケース19に対して相対的に回転可能である。また、第1テーパベアリング32は、第1ギヤ24の筒状部27とプロペラシャフト15との間に配置されている。プロペラシャフト15は、第1テーパベアリング32を介して第1ギヤ24に保持されている。したがって、第1ギヤ24は、プロペラシャフト15に対して相対的に回転可能である。
【0040】
また、船外機8は、ロワーケース19に保持された筒状のハウジング37を含む。第2ギヤ25の筒状部27は、第2ギヤ25の歯部28がハウジング37の前方(図3および図4では左側)に位置するようにハウジング37内に挿入されている。第2ローラベアリング33は、ハウジング37と第2ギヤ25の筒状部27との間に配置されており、第2スラストベアリング34は、ハウジング37と第2ギヤ25の歯部28との間に配置されている。第1ローラベアリング30および第2ローラベアリング33は、たとえば、共通のベアリングであり、第1スラストベアリング31および第2スラストベアリング34は、たとえば、共通のベアリング(ローラベアリング)である。第2ギヤ25は、第2ローラベアリング33および第2スラストベアリング34を介してハウジング37に回転可能に保持されている。したがって、第2ギヤ25は、ロワーケース19に対して相対的に回転可能である。また、第2テーパベアリング35は、第2ギヤ25の筒状部27とプロペラシャフト15との間に配置されている。プロペラシャフト15は、第2テーパベアリング35を介して第2ギヤ25に保持されている。したがって、第2ギヤ25は、プロペラシャフト15に対して相対的に回転可能である。
【0041】
第1テーパベアリング32は、プロペラシャフト15を取り囲む筒状の第1インナーレース38と、第1インナーレース38を取り囲む筒状の第1アウターレース39と、第1インナーレース38と第1アウターレース39との間に配置された複数の第1ローラ40とを含む。第1インナーレース38は、プロペラシャフト15に連結されており、第1アウターレース39は、第1ギヤ24に連結されている。複数の第1ローラ40は、前方に向かって細くなっている円錐面に沿って配置されている。第1テーパベアリング32は、第1ギヤ24の内部(筒状部27内)に配置されている。第1テーパベアリング32は、第1ギヤ24の内部に配置された第1サークリップ41(circlip)およびワッシャー60によって第1ギヤ24の内部からの移動が防止されている。
【0042】
一方、第2テーパベアリング35は、プロペラシャフト15を取り囲む筒状の第2インナーレース42と、第2インナーレース42を取り囲む筒状の第2アウターレース43と、第2インナーレース42と第2アウターレース43との間に配置された複数の第2ローラ44とを含む。第2インナーレース42は、プロペラシャフト15に連結されており、第2アウターレース43は、第2ギヤ25に連結されている。複数の第2ローラ44は、後方に向かって細くなっている円錐面に沿って配置されている。第2テーパベアリング35は、第2ギヤ25の内部(筒状部27内)に配置されている。第2テーパベアリング35は、第2ギヤ25の内部に配置された第2サークリップ45およびワッシャー61によって第2ギヤ25の内部からの移動が防止されている。
【0043】
ドッグクラッチ26は、第1ギヤ24の噛み合い部29と第2ギヤ25の噛み合い部29との間に配置されている。ドッグクラッチ26は、第1ギヤ24の噛み合い部29に対向する第1噛み合い部46と、第2ギヤ25の噛み合い部29に対向する第2噛み合い部47とを含む。ドッグクラッチ26は、たとえばスプラインによって、プロペラシャフト15に連結されている。したがって、ドッグクラッチ26は、プロペラシャフト15と共に回転する。さらに、ドッグクラッチ26は、プロペラシャフト15に沿ってプロペラシャフト15の軸方向(前後方向)に移動可能である。ドッグクラッチ26は、第1噛み合い部46が第1ギヤ24の噛み合い部29に噛み合う正転位置、第2噛み合い部47が第2ギヤ25の噛み合い部29に噛み合う逆転位置、およびドッグクラッチ26が第1ギヤ24と第2ギヤ25とから離れている中立位置のいずれかのシフト位置に配置される。
【0044】
具体的には、船外機8は、ドッグクラッチ26のシフト位置を切り替えるシフト機構48を含む。シフト機構48は、プロペラシャフト15の前端部内に挿入されたスライダー49と、スライダー49とドッグクラッチ26を連結する連結ピン50と、スライダー49を前後方向に移動させるカム51と、カム51を回動させるシフトアクチュエータ52とを含む。スライダー49は、プロペラシャフト15に形成された挿入孔53に挿入されている。挿入孔53は、プロペラシャフト15の前端からプロペラシャフト15の中心軸線に沿って後方に延びている。スライダー49は、挿入孔53に沿って前後方向に移動可能である。スライダー49の前端部は、プロペラシャフト15の前端から前方に突出しており、スライダー49の後端部は、プロペラシャフト15に形成された貫通孔54内に配置されている。貫通孔54は、挿入孔53に直交しており、プロペラシャフト15を貫通している。
【0045】
連結ピン50は、プロペラシャフト15の内部、すなわち、挿入孔53と貫通孔54の交差位置でスライダー49に連結されている。連結ピン50は、プロペラシャフト15に直交しており、連結ピン50の両端部は、プロペラシャフト15から突出している。連結ピン50の両端部は、第1噛み合い部46と第2噛み合い部47との間においてドッグクラッチ26に連結されている。ドッグクラッチ26およびスライダー49は、連結ピン50によって、プロペラシャフト15の軸方向に一体的に移動するように連結されている。貫通孔54は、プロペラシャフト15の軸方向に長い長孔である。ドッグクラッチ26、スライダー49、および連結ピン50は、貫通孔54の長さの範囲内で前後方向に移動可能である。
【0046】
カム51は、鉛直方向に延びるロッド部55およびピン部56を含む。ピン部56は、ロッド部55から下方に突出している。図5に示すように、ピン部56は、ロッド部55に対して偏心している。図5および図6に示すように、ピン部56は、スライダー49の前端部に形成された環状溝57に挿入されている。環状溝57は、スライダー49の前端部を取り囲んでいる。ピン部56は、スライダー49の右側または左側で環状溝57に挿入されている。船舶1の進行方向を切り替えるシフト操作が操船者によって行われると、シフトアクチュエータ52は、ロッド部55の中心軸線L1まわりにカム51を回動させる。ピン部56がロッド部55に対して偏心しているから、図6に示すように、ピン部56は、カム51の回動に伴ってロッド部55の中心軸線L1まわりに回動しながら前後方向(図6では左右方向)に移動する。したがって、スライダー49は、カム51の回動に伴って、連結ピン50およびドッグクラッチ26と共に前後方向に移動する。すなわち、ドッグクラッチ26は、カム51の回動によって、正転位置、逆転位置、中立位置のいずれかのシフト位置に配置される。
【0047】
ドッグクラッチ26が正転位置に配置されている状態では、ピニオン23を介して第1ギヤ24に伝達されたドライブシャフト14の回転が、第1ギヤ24の噛み合い部29とドッグクラッチ26の第1噛み合い部46とによってドッグクラッチ26に伝達される。これにより、プロペラシャフト15およびプロペラ7が、正転方向に回転する。一方、ドッグクラッチ26が逆転位置に配置されている状態では、ピニオン23を介して第2ギヤ25に伝達されたドライブシャフト14の回転が、第2ギヤ25の噛み合い部29とドッグクラッチ26の第2噛み合い部47とによってドッグクラッチ26に伝達される。これにより、プロペラシャフト15およびプロペラ7が、逆転方向に回転する。また、ドッグクラッチ26が中立位置(図3および図4に示す位置)に配置されている状態では、ドッグクラッチ26が、第1ギヤ24および第2ギヤ25のいずれにも結合されていないので、ドライブシャフト14の回転がプロペラシャフト15およびプロペラ7に伝達されず、第1ギヤ24および第2ギヤ25が空転する。
【0048】
船舶推進機3がいずれの仕様で用いられる場合でも、操船者がリモコン5を操作することにより、船舶1の進行方向を前進に切り替える前進シフト操作が行われると、カム51は、ロッド部55の中心軸線L1まわりに一方の回転方向に駆動される。同様に、船舶推進機3がいずれの仕様で用いられる場合でも、操船者がリモコン5を操作することにより、船舶1の進行方向を後進に切り替える後進シフト操作が行われると、カム51は、ロッド部55の中心軸線L1まわりに他方の回転方向(一方の回転方向とは反対の方向)に駆動される。すなわち、カム51の回転方向は、船舶推進機3がいずれの仕様で用いられかに拘わらず、シフト操作ごとに定められている。カム51の回転方向が一定であれば、ピン部56がスライダー49の右側で環状溝57に挿入されている場合と、ピン部56がスライダー49の左側で環状溝57に挿入されている場合とで、スライダー49の移動方向が逆になる。したがって、あるシフト操作が行われた時にスライダー49が移動する方向は、環状溝57に対するピン部56の挿入位置によって設定される。
【0049】
船舶推進機3が正転仕様で用いられる場合には、前進シフト操作が行われたときにスライダー49が前方に移動する位置でピン部56が環状溝57に挿入される。一方、船舶推進機3が逆転仕様で用いられる場合には、前進シフト操作が行われたときにスライダー49が後方に移動する位置でピン部56が環状溝57に挿入される。すなわち、船舶推進機3が逆転仕様で用いられる場合には、正転仕様で用いる場合とは反対の位置でピン部56が環状溝57に挿入される。このように、船舶推進機3の組立方法(カム51を組み付ける向き)によって船舶推進機3の仕様が設定されるので、操船者は、船舶推進機3をいずれの仕様で用いる場合であっても、同じ操作で船舶1の進行方向を前方に切り替えることができ、同じ操作で船舶1の進行方向を後進に切り替えることができる。
【0050】
図7は、本発明の第1実施形態に係る第1テーパベアリング32および第2テーパベアリング35に加わる予圧について説明するための図である。
船外機8は、第1テーパベアリング32および第2テーパベアリング35に予圧を加えるように構成された調整部材58を含む。調整部材58は、第2ギヤ25とプロペラシャフト15との間に配置されている。調整部材58は、たとえば、環状である。調整部材58は、たとえば、ワッシャーで構成される。調整部材58は、複数の部材(たとえば、シムおよびワッシャー)を含んでいてもよい。調整部材58は、たとえば、成形によりプロペラシャフトやテーパベアリングと一体的に設けても良い。調整部材58は、プロペラシャフト15を取り囲んでいる。プロペラシャフト15は、第1テーパベアリング32と第2テーパベアリング35との間に形成された環状のフランジ59を含む。フランジ59は、プロペラシャフト15から外方に突出しており、全周に亘ってプロペラシャフト15の周方向に延びている。フランジ59は、ドッグクラッチ26と第2テーパベアリング35との間に配置されている。調整部材58は、フランジ59と第2テーパベアリング35との間に配置されている。調整部材58は、フランジ59と第2テーパベアリング35に接触している。調整部材58およびフランジ59は、第2ギヤ25の内部に配置されている。調整部材58は、予圧を加えるために、フランジ59と第2テーパベアリング35との間の隙間より若干大きい厚さの部材が用いられる。調整部材58は、たとえば、炭素工具鋼などにより形成される。
【0051】
第2インナーレース42とフランジ59との間に調整部材58が配置されているので、調整部材58が配置されていない場合よりも、プロペラシャフト15は第2テーパベアリング35に対して前方に配置されている。そのため、第1インナーレース38が、プロペラシャフト15によって前方に押され、第1テーパベアリング32に予圧が加わる(白色の矢印参照)。さらに、第1インナーレース38が前方に押されることにより、第1テーパベアリング32を保持している第1ギヤ24が、前方に押され、第1ギヤ24の歯部28が第1スラストベアリング31に押し付けられる。第1テーパベアリング32に対する予圧により、第1テーパベアリング32の内部隙間が除去され、第1テーパベアリング32の傾きおよび軸方向への移動が抑制される。すなわち、第1テーパベアリング32に対する予圧により、第1テーパベアリング32および第1ギヤ24の変位が抑制される。
【0052】
一方、プロペラシャフト15が第1テーパベアリング32を前方に押すことにより、後向きの反力がプロペラシャフト15に加わり、この反力が、フランジ59および調整部材58を介して第2インナーレース42に伝達される。これにより、第2インナーレース42が後方に押され、第2テーパベアリング35に予圧が加わる(白色の矢印参照)。さらに、第2インナーレース42が後方に押されることにより、第2テーパベアリング35を保持している第2ギヤ25が、後方に押され、第2ギヤ25の歯部28が第2スラストベアリング34に押し付けられる。第2テーパベアリング35に対する予圧により、第2テーパベアリング35の内部隙間が除去され、第2テーパベアリング35の傾きおよび軸方向への移動が抑制される。すなわち、第2テーパベアリング35に対する予圧により、第2テーパベアリング35および第2ギヤ25の変位が抑制される。
【0053】
次に、船舶推進機3を正転仕様で用いた場合と、船舶推進機3を逆転仕様で用いた場合とについて説明する。
図8〜図11は、本発明の第1実施形態に係る船外機8のロワー部の断面図である。図8および図9に示す船舶推進機3は、正転仕様に設定されており、図10および図11に示す船舶推進機3は、逆転仕様に設定されている。具体的には、図8および図9では、ピン部56がスライダー49の右側(紙面の奥側)で環状溝57に挿入されており、図10および図11では、ピン部56がスライダー49の左側(紙面の手前側)で環状溝57に挿入されている。
【0054】
[正転仕様での前進時について]
図8に示すように、正転仕様に設定されている船舶推進機3が前進方向の推力を発生するときには、ドッグクラッチ26が、前進ギヤとしての第1ギヤ24に噛み合わされる(黒色の矢印参照)。これにより、ドライブシャフト14の回転が、ピニオン23および第1ギヤ24を介してドッグクラッチ26に伝達され、正転仕様のプロペラ7a(図1参照)が、ドッグクラッチ26およびプロペラシャフト15と共に正転方向に回転する。正転方向へのプロペラ7の回転により生み出された前進方向の推力は、プロペラシャフト15、第1テーパベアリング32、ワッシャー60、サークリップ41、第1ギヤ24、第1スラストベアリング31、アダプター36、ロワーケース19の順番で伝達される(白色の矢印参照)。その一方で、ピニオン23と第1ギヤ24との噛み合い位置において、ピニオン23から第1ギヤ24への動力の伝達に伴う反力が、第1ギヤ24に加わる(クロスハッチングされた矢印参照)。すなわち、第1ギヤ24を傾けようとする力が第1ギヤ24に加わる。しかし、前進方向の推力が第1テーパベアリング32に加わっていると共に、予圧が第1テーパベアリング32および第1ギヤに加わっているので、第1ギヤ24の位置が固定されている。したがって、第1ギヤ24は傾き量が抑制される。これにより、ピニオン23と第1ギヤ24との噛み合いが安定し、設計想定値以上の大きな力が第1ギヤ24に加わることが防止される。
【0055】
[正転仕様での後進時について]
図9に示すように、正転仕様に設定されている船舶推進機3が後進方向の推力を発生するときには、ドッグクラッチ26が、後進ギヤとしての第2ギヤ25に噛み合わされる(黒色の矢印参照)。これにより、ドライブシャフト14の回転が、ピニオン23および第2ギヤ25を介してドッグクラッチ26に伝達され、正転仕様のプロペラ7a(図1参照)が、ドッグクラッチ26およびプロペラシャフト15と共に逆転方向に回転する。逆転方向へのプロペラ7の回転により生み出された後進方向の推力は、プロペラシャフト15、調整部材58、第2テーパベアリング35、ワッシャー61、サークリップ45、第2ギヤ25、第2スラストベアリング34、ハウジング37、ロワーケース19の順番で伝達される(白色の矢印参照)。その一方で、ピニオン23と第2ギヤ25との噛み合い位置において、ピニオン23から第2ギヤ25への回転の伝達に伴う反力が、第2ギヤ25に加わる(クロスハッチングされた矢印参照)。しかし、後進時は、ピニオン23から第2ギヤ25に伝達されるトルクが、前進時よりも小さいので、ピニオン23から第2ギヤ25への動力の伝達に伴って第2ギヤ25に加わる反力も小さい。さらに、予圧が第2テーパベアリング35および第2ギヤ25に加わっている。そのため、第2ギヤ25傾き量は前進時と比較して少ない。
【0056】
[逆転仕様での前進時について]
図10に示すように、逆転仕様に設定されている船舶推進機3が前進方向の推力を発生するときには、ドッグクラッチ26が、前進ギヤとしての第2ギヤ25に噛み合わされる(黒色の矢印参照)。これにより、ドライブシャフト14の回転が、ピニオン23および第2ギヤ25を介してドッグクラッチ26に伝達され、逆転仕様のプロペラ7b(図1参照)が、ドッグクラッチ26およびプロペラシャフト15と共に逆転方向に回転する。逆転方向へのプロペラ7の回転により生み出された前進方向の推力は、プロペラシャフト15、第1テーパベアリング32、ワッシャー60、サークリップ41、第1ギヤ24、第1スラストベアリング31、アダプター36、ロワーケース19の順番で伝達される(白色の矢印参照)。その一方で、ピニオン23から第2ギヤ25への動力の伝達に伴う反力が、第2ギヤ25に加わる(クロスハッチングされた矢印参照)。これにより、第2ギヤ25を傾けようとする力が第2ギヤ25に加わる。しかし、予圧が第2テーパベアリング35および第2ギヤ25に加わっているので、第2ギヤ25に反力が加わっても、第2ギヤ25の傾き量は抑制される。これにより、ピニオン23と第2ギヤ25との噛み合いが安定し、設計想定値以上の大きな力が第2ギヤ25に加わることが防止される。
【0057】
[逆転仕様での後進時について]
図11に示すように、逆転仕様に設定されている船舶推進機3が後進方向の推力を発生するときには、ドッグクラッチ26が、後進ギヤとしての第1ギヤ24に噛み合わされる(黒色の矢印参照)。これにより、ドライブシャフト14の回転が、ピニオン23および第1ギヤ24を介してドッグクラッチ26に伝達され、逆転仕様のプロペラ7b(図1参照)が、ドッグクラッチ26およびプロペラシャフト15と共に正転方向に回転する。正転方向へのプロペラ7の回転により生み出された後進方向の推力は、プロペラシャフト15、調整部材58、第2テーパベアリング35、ワッシャー61、サークリップ45、第2ギヤ25、第2スラストベアリング34、ハウジング37、ロワーケース19の順番で伝達される(白色の矢印参照)。その一方で、ピニオン23と第1ギヤ24との噛み合い位置において、ピニオン23から第1ギヤ24への動力の伝達に伴う反力が、第1ギヤ24に加わる(クロスハッチングされた矢印参照)。しかし、予圧が第1テーパベアリング32および第1ギヤ24に加わっており、後進時に第1ギヤ24に加わる反力が小さいので、第1ギヤ24の傾き量は前進時と比較して少ない。
【0058】
以上のように第1実施形態では、調整部材58が、第1テーパベアリング32および第2テーパベアリング35に予圧を加えると共に、第1ギヤ24を前方に向けて押し付け、第2ギヤ25を後方に向けて押し付けるように構成されている。これにより、第1テーパベアリング32および第2テーパベアリング35の内部隙間が除去されており、第1ギヤ24および第2ギヤ25の位置が固定されている。すなわち、回転以外の動作を行わないように第1ギヤ24および第2ギヤ25が保持されている。したがって、船舶推進機3が正転仕様および逆転仕様のいずれの仕様で用いられる場合でも、ピニオン23と各ギヤ(第1ギヤ24および第2ギヤ25のそれぞれ)との噛み合いが不安定になることを防止することができる。これにより、ギヤ(ピニオン23、第1ギヤ24、および第2ギヤ25のそれぞれ)の耐久性の低下を防止できる。したがって、船舶推進機3を正転仕様および逆転仕様のいずれの仕様でも用いることができる。
【0059】
このように、第1ギヤ24および第2ギヤ25の位置を固定することができると共に、船舶推進機3を正転仕様および逆転仕様のいずれの仕様でも用いることができるので、仕様毎に専用の部品を設けなくてもよい。したがって、船舶推進機3の製造コストや開発工数を低減できる。さらに、船舶推進機3の販売店は、仕様毎に専用の部品を補修用の予備部品としてストックしなくてもよい。しかも、第1テーパベアリング32および第2テーパベアリング35に予圧を加えることにより、第1テーパベアリング32および第2テーパベアリング35や、第1ギヤ24および第2ギヤ25のがたつきが無くなるので、これらのがたつきに起因する異音の発生を防止できる。
【0060】
また、船舶1は、通常、後進するより前進する場合の方が多い。したがって、正転仕様で用いられている船舶推進機3では、前進ギヤとしての第1ギヤ24の使用回数(たとえば、ドッグクラッチ26に結合される回数)の方が、後進ギヤとしての第2ギヤ25の使用回数よりも多い。その一方で、逆転仕様で用いられている船舶推進機3では、前進ギヤとしての第2ギヤ25の使用回数の方が、後進ギヤとしての第1ギヤ24の使用回数よりも多い。そのため、正転仕様で用いられている船舶推進機3では、第1ギヤ24の方が第2ギヤ25よりも摩耗し易く、逆転仕様で用いられている船舶推進機3では、第2ギヤ25の方が第1ギヤ24よりも摩耗し易い。
【0061】
このように、船舶推進機3では、前進ギヤとして用いられるギヤ(第1ギヤ24および第2ギヤ25の一方)が摩耗し易い。したがって、互いに異なる仕様で用いられている2機の船舶推進機3の間で、第1ギヤ24同士および第2ギヤ25同士を入れ替えれば、前進ギヤとして用いられていたギヤが、後進ギヤとして用いられ、後進ギヤとして用いられていたギヤが、前進ギヤとして用いられる。これにより、第1ギヤ24および第2ギヤ25を平均的に使用することができるので、船舶推進機3の製品寿命を延ばすことができる。また、同じ船舶推進機3であっても、一方の仕様で用いた後に他方の仕様で用いれば、第1ギヤ24および第2ギヤ25を平均的に使用することができる。これにより、船舶推進機3の製品寿命を延ばすことができる。
【0062】
また第1実施形態では、ロワーケース19が、歯車機構20が収容された内部空間21と、内部空間21に接続された開口22とを形成している。歯車機構20やハウジング37は、開口22から内部空間21に組み込まれている。第2ギヤ25は、開口22と第1ギヤ24との間に配置されている。すなわち、第2ギヤ25は、第1ギヤ24よりも開口22の近くに配置されている。船舶推進機3の製造工程では、たとえば船舶推進機3が所定の性能を満たしていない場合に、ロワーケース19内に既に組み込まれている調整部材58を取り外して、厚みの異なる調整部材58に変更する場合がある。たとえば、調整部材58が第1ギヤ24とプロペラシャフト15との間に配置されている場合には、調整部材58を変更するために、ハウジング37、第2ギヤ25、およびピニオン23含む複数の部品を開口22を通じてロワーケース19から取り外す必要がある。一方、第2ギヤ25が第1ギヤ24よりも開口22の近くに配置されているので、調整部材58が第2ギヤ25とプロペラシャフト15との間に配置されている場合には、調整部材58を変更するためにロワーケース19から取り外す部品の数が少ない。したがって、調整部材58を第2ギヤ25とプロペラシャフト15との間に配置することにより、調整部材58の変更に伴う作業工数を減少させることができる。
【0063】
また第1実施形態では、第1ギヤ24および第2ギヤ25が、共通のギヤであり、共通の形状を有している。したがって、船舶推進機3に用いられる部品の種類を減少させることができる。これにより、船舶推進機3の製造コストや開発工数を低減できる。さらに、第1ギヤ24および第2ギヤ25が、共通の形状を有しているので、船舶推進機3が一定期間使用された後に第1ギヤ24と第2ギヤ25とを同じ船舶推進機3で入れ替えることにより、第1ギヤ24および第2ギヤ25を平均的に使用することができる。これにより、船舶推進機3の製品寿命を延ばすことができる。
【0064】
この発明の実施の形態の説明は以上であるが、この発明は、前述の第1実施形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
たとえば、前述の第1実施形態では、船舶1が、2機の船舶推進機3を備えている場合について説明した。しかし、船舶1に備えられる船舶推進機3の数は、2機に限らず、1機であってもよいし、3機以上であってもよい。
【0065】
また、前述の第1実施形態では、調整部材58が、第2ギヤ25とプロペラシャフト15との間に配置されている場合について説明した。しかし、調整部材58は、第1ギヤ24とプロペラシャフト15との間に配置されていてもよい。
また、前述の第1実施形態では、第1ギヤ24および第2ギヤ25が、共通の形状を有している場合について説明した。しかし、第1ギヤ24および第2ギヤ25は、互いに異なる形状を有していてもよい。
【0066】
また、前述の第1実施形態では、ピニオン23、第1ギヤ24、および第2ギヤ25のそれぞれが、ベベルギヤである場合について説明した。しかし、ピニオン23は、ベベルギヤ以外のギヤであってもよい。第1ギヤ24および第2ギヤ25についても同様である。
また、前述の第1実施形態では、第1ローラベアリング30および第2ローラベアリング33が共通のベアリングであり、第1スラストベアリング31および第2スラストベアリング34が共通のベアリングである場合について説明した。しかし、第1ローラベアリング30および第2ローラベアリング33は、互いに異なる形状のベアリングであってもよい。第1スラストベアリング31および第2スラストベアリング34についても同様である。
【0067】
また、前述の第1実施形態では、第1ギヤ24を支持する第1ベアリング(第1テーパベアリング32)と、第2ギヤ25を支持する第2ベアリング(第2テーパベアリング35)とが、テーパベアリングである場合について説明した。しかし、ベアリング32、35は、テーパベアリングに限らず、ボールベアリングなどのその他の形式のベアリングであってもよい。ベアリング32、35以外のベアリング30、31、33、34についても同様である。
【0068】
また、前述の第1実施形態では、船舶推進機3が、船外機8を含む場合について説明した。しかし、船舶推進機3は、船内外機であってもよい。すなわち、船舶推進機3は、船内に配置されたエンジンと、船外に配置された推進ユニットとを含み、エンジンによって推進ユニットを駆動することにより推力を発生するように構成されていてもよい。この場合、第1ギヤ24および第2ギヤ25は、推進ユニット内に配置されており、調整部材58は、第1ギヤ24を支持する第1ベアリングと、第2ギヤ25を支持する第2ベアリングとに予圧を加えるように構成されていてもよい。
【0069】
また、前述の第1実施形態では、船舶推進機3が正転仕様で用いられるときと、逆転仕様で用いられるときとで、環状溝57に対するピン部56の挿入位置が変更される場合について説明した。しかし、環状溝57に対するピン部56の挿入位置が一定であり、船舶推進機3がいずれの仕様で用いられるかによって、シフトアクチュエータ52によるカム51の回転方向が変更されてもよい。
【0070】
具体的には、カム51の回転方向が一定であれば、ドッグクラッチ26の移動方向は、環状溝57に対するピン部56の挿入位置によって変更される。一方、環状溝57に対するピン部56の挿入位置が一定であっても、カム51の回転方向が逆になれば、ドッグクラッチ26の移動方向が逆になる。したがって、船舶推進機3の仕様は、シフトアクチュエータ52によるカム51の回転方向によって設定されてもよい。つまり、船舶推進機3が逆転仕様で用いられる場合には、正転仕様で用いられる場合とは反対の方向にカム51が回転駆動されてもよい。この場合、仕様ごとに船舶推進機3の組立方法(カム51を組み付ける向き)を変更しなくてもよい。
【0071】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
以下に、特許請求の範囲に記載された構成要素と前述の実施形態における構成要素との対応関係を示す。
第1シャフト:ドライブシャフト14
ドライブギヤ:ピニオン23
第1ドリブンギヤ:第1ギヤ24
第2ドリブンギヤ:第2ギヤ25
ドッグクラッチ:ドッグクラッチ26
第2シャフト:プロペラシャフト15
第1ベアリング:第1テーパベアリング32
第2ベアリング:第2テーパベアリング35
ケース:ロワーケース19
調整部材:調整部材58、ワッシャー60、61
船舶推進機:船舶推進機1
第1インナーレース:第1インナーレース38
第1アウターレース:第1アウターレース39
第2インナーレース:第2インナーレース42
第2アウターレース:第2アウターレース43
フランジ:フランジ59
内部空間:内部空間21
開口:開口22
ドライブシャフト:ドライブシャフト14
プロペラシャフト:プロペラシャフト15
第3ベアリング:第1ローラベアリング30
第4ベアリング:第2ローラベアリング33
【符号の説明】
【0072】
1 船舶推進機
14 ドライブシャフト
15 プロペラシャフト
19 ロワーケース
21 内部空間
22 開口
23 ピニオン
24 第1ギヤ
25 第2ギヤ
26 ドッグクラッチ
30 第1ローラベアリング
32 第1テーパベアリング
33 第2ローラベアリング
35 第2テーパベアリング
38 第1インナーレース
39 第1アウターレース
42 第2インナーレース
43 第2アウターレース
58 調整部材
59 フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動される第1シャフトと、
前記第1シャフトに連結されたドライブギヤと、
前記ドライブギヤに噛み合う筒状の第1ドリブンギヤと、
前記ドライブギヤに噛み合う筒状の第2ドリブンギヤと、
シフト操作によって、前記第1ドリブンギヤおよび第2ドリブンギヤの一方に結合されている結合状態と、前記第1ドライブギヤおよび第2ドライブギヤのいずれにも結合されていない非結合状態との間で切り替えられるドッグクラッチと、
前記第1ドリブンギヤ内および前記第2ドリブンギヤ内に挿入されていると共に、前記ドッグクラッチに連結されており、推力が加わるように構成された第2シャフトと、
前記第1ドリブンギヤと前記第2シャフトとの間に設けられた第1ベアリングと、
前記第2ドリブンギヤと前記第2シャフトとの間に設けられた第2ベアリングと、
前記ドライブギヤ、第1ドリブンギヤ、第2ドリブンギヤ、ドッグクラッチ、第1ベアリング、および第2ベアリングを収容しており、前記第2シャフトに加わる推力が前記第1ベアリングと前記第1ドリブンギヤ、または前記第2ベアリングと前記第2ドリブンギヤとを介して伝達されるケースと、
前記第1ドリブンギヤおよび第2ドリブンギヤの少なくとも一方と前記第2シャフトとの間に設けられており、前記第1ベアリングおよび第2ベアリングに予圧を加えるように構成された調整部材と、を含む、船舶推進機。
【請求項2】
前記第1ベアリングは、前記第2シャフトに連結された第1インナーレースと、前記第1ドリブンギヤに連結された第1アウターレースと、を含み、
前記第2ベアリングは、前記第2シャフトに連結された第2インナーレースと、前記第2ドリブンギヤに連結された第2アウターレースと、を含む、請求項1記載の船舶推進機。
【請求項3】
前記調整部材は、前記第1ベアリングと前記第2ベアリングとの間に配置されている、請求項1または2記載の船舶推進機。
【請求項4】
前記第2シャフトは、前記第1ベアリングと前記第2ベアリングとの間に形成されたフランジを含み
前記調整部材は、前記第1ベアリングおよび第2ベアリングの一方と前記フランジとの間に配置されている、請求項3記載の船舶推進機。
【請求項5】
前記ケースは、前記第1ドリブンギヤおよび第2ドリブンギヤが収容された内部空間と、前記内部空間に接続された開口とを形成しており、
前記第2ドリブンギヤは、前記開口と前記第1ドリブンギヤとの間に配置されており、
前記調整部材は、前記第2ドリブンギヤと前記第2シャフトとの間に設けられている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の船舶推進機。
【請求項6】
前記第1ドリブンギヤおよび第2ドリブンギヤは、共通の形状を有している、請求項1〜5のいずれか一項に記載の船舶推進機。
【請求項7】
前記ドライブギヤ、第1ドリブンギヤ、および第2ドリブンギヤのそれぞれは、ベベルギヤを含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の船舶推進機。
【請求項8】
前記第1ベアリングおよび第2ベアリングのぞれぞれは、テーパベアリングを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の船舶推進機。
【請求項9】
前記第1シャフトは、鉛直方向に延びるドライブシャフトを含み、
前記第2シャフトは、水平方向に延びるプロペラシャフトを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の船舶推進機。
【請求項10】
前記船舶推進機は、前記第1ドリブンギヤと前記ケースとの間に配置された第3ベアリングと、記第2ドリブンギヤと前記ケースとの間に配置された第4ベアリングと、をさらに含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の船舶推進機。
【請求項11】
回転駆動される第1シャフトと、
前記第1シャフトに連結されたドライブギヤと、
前記ドライブギヤに噛み合い、前方に向けて押し付けられた筒状の第1ドリブンギヤと、
前記ドライブギヤに噛み合い、後方に向けて押し付けられた筒状の第2ドリブンギヤと、
シフト操作によって、前記第1ドリブンギヤおよび第2ドリブンギヤの一方に結合されている結合状態と、前記第1ドライブギヤおよび第2ドライブギヤのいずれにも結合されていない非結合状態との間で切り替えられるドッグクラッチと、
前記第1ドリブンギヤ内および前記第2ドリブンギヤ内に挿入されていると共に、前記ドッグクラッチに連結されており、推力が加わるように構成された第2シャフトと、
前記第1ドリブンギヤと前記第2シャフトとの間に設けられた第1ベアリングと、
前記第2ドリブンギヤと前記第2シャフトとの間に設けられた第2ベアリングと、
前記ドライブギヤ、第1ドリブンギヤ、第2ドリブンギヤ、ドッグクラッチ、第1ベアリング、および第2ベアリングを収容しており、前記第2シャフトに加わる推力が前記第1ベアリングと前記第1ドリブンギヤ、または前記第2ベアリングと前記第2ドリブンギヤとを介して伝達されるケースと、を含む、船舶推進機。
【請求項12】
回転駆動される第1シャフトと、
前記第1シャフトに連結されたドライブギヤと、
前記ドライブギヤに噛み合う筒状の第1ドリブンギヤと、
前記ドライブギヤに噛み合う筒状の第2ドリブンギヤと、
シフト操作によって、前記第1ドリブンギヤおよび第2ドリブンギヤの一方に結合されている結合状態と、前記第1ドライブギヤおよび第2ドライブギヤのいずれにも結合されていない非結合状態との間で切り替えられるドッグクラッチと、
前記第1ドリブンギヤ内および前記第2ドリブンギヤ内に挿入されていると共に、前記ドッグクラッチに連結されており、推力が加わるように構成された第2シャフトと、
前記第1ドリブンギヤと前記第2シャフトとの間に設けられた第1ベアリングと、
前記第2ドリブンギヤと前記第2シャフトとの間に設けられた第2ベアリングと、
前記ドライブギヤ、第1ドリブンギヤ、第2ドリブンギヤ、ドッグクラッチ、第1ベアリング、および第2ベアリングを収容しており、前記第2シャフトに加わる推力が前記第1ベアリングと前記第1ドリブンギヤ、または前記第2ベアリングと前記第2ドリブンギヤとを介して伝達されるケースと、
前記第2ドリブンギヤと前記第2シャフトとの間に設けられており、前記第1ベアリングおよび第2ベアリングに予圧を加えるように構成された調整部材と、を含み、
前記第2シャフトは、前記ドッグクラッチと前記第2ベアリングとの間に形成されたフランジを含み、
前記調整部材は、前記フランジと前記第2ベアリングとの間に設けられている、船舶推進機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−187967(P2012−187967A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51668(P2011−51668)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】