説明

芳香族液晶ポリエステル液状組成物

【課題】
溶液粘度が低く流延性が高い芳香族液晶ポリエステル液状組成物及び当該組成物を用いた厚さがより均一なフィルムの提供。
【解決手段】
芳香族液晶ポリエステル及びハロゲン置換フェノール化合物を30重量%以上含有する溶媒を含有する芳香族液晶ポリエステル液状組成物であって、該芳香族液晶ポリエステルが、下記成分(A)からなるか又は下記成分(A)と成分(A)に対し4重量倍以下の下記成分(B)とからなることを特徴とする芳香族液晶ポリエステル液状組成物及び当該組成物を用いたフィルムの製造方法等の提供。
成分(A):流動開始温度が150℃以上290℃以下の芳香族液晶ポリエステル。
成分(B):流動開始温度が290℃を超える芳香族液晶ポリエステル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板などの電子部品用フィルムの調整に用いられる芳香族液晶ポリエステル液状組成物、当該液状組成物を用いた芳香族液晶ポリエステルフィルム、当該液状組成物から得られる芳香族液晶ポリエステルフィルムの製造方法並びに金属箔付芳香族液晶ポリエステルフィルム及び多層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族液晶ポリエステルは、優れた低吸湿性、耐熱性、機械的強度を示すことから、射出成形により得られるコネクターなどの精密電子部品を中心に広く用いられている。近年、芳香族液晶ポリエステルをTダイ成形やインフレーション成形等の押出成形などによりフィルム化し、多層プリント基板やフレキシブルプリント基板用の絶縁膜へ応用することが注目されている。
しかしながら、押出成形により得られる従前の芳香族液晶ポリエステルフィルムは異方性が大きく、成形時の流動方向に垂直な方向の引裂強度が弱いという問題があった。
かかる問題を解決するものとして本発明者らは、塩素置換フェノール化合物を含有する溶媒と、芳香族液晶ポリエステルとを含有する芳香族液晶ポリエステル液状組成物及び当該芳香族液晶ポリエステル液状組成物をフィルム状に流延し、溶媒を除去して得られる芳香族液晶ポリエステルフィルムを既に我々は提案している(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−114894号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、液状組成物の流延性が必ずしも十分満足し得るものではなく、この点の改善が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、芳香族液晶ポリエステル液状組成物について更に検討を重ねた結果、液晶ポリエステルに流動開始温度が150℃以上290℃以下の芳香族液晶ポリエステルを用いることにより、芳香族液晶ポリエステル液状組成物の溶液粘度が低くなり流延性が向上し、厚さがより均一なフィルムを製造し得ることを見出した。また、流動開始温度が150℃以上290℃以下の芳香族液晶ポリエステルを用いた場合には、当該芳香族液晶ポリエステルに対し、4重量倍以下であれば流動開始温度が290℃を超える芳香族液晶ポリエステルを併用しても良好な流延性が得られることを見出した。
【0006】
即ち、本発明は、
[1]芳香族液晶ポリエステル及び下記溶媒を含有する芳香族液晶ポリエステル液状組成物であって、該芳香族液晶ポリエステルが、下記成分(A)からなるか又は下記成分(A)と成分(A)に対し4重量倍以下の下記成分(B)とからなることを特徴とする芳香族液晶ポリエステル液状組成物、
成分(A):流動開始温度が150℃以上290℃以下の芳香族液晶ポリエステル。
成分(B):流動開始温度が290℃を超える芳香族液晶ポリエステル。
溶媒:下記一般式(I)で示されるハロゲン置換フェノール化合物を30重量%以上含有する溶媒。


(式中、Aはハロゲン原子またはトリハロゲン化メチル基を表わし、iはAの個数であって1〜5の整数を表わし、iが2以上の場合に複数あるAは互いに同一でも異なっていてもよい。)
[2]上記1項に記載される芳香族液晶ポリエステル液状組成物をフィルム状に流延し、その後、溶媒を除去することによって得られる芳香族液晶ポリエステルフィルム、
[3]上記1項に記載される芳香族液晶ポリエステル液状組成物をフィルム状に流延し、その後、溶媒を除去することを特徴とする芳香族液晶ポリエステルフィルムの製造方法、
[4]上記2項に記載される芳香族液晶ポリエステルフィルムに金属箔が積層されてなる金属箔付芳香族液晶ポリエステルフィルム及び
[5]上記3項に記載される金属箔付芳香族液晶ポリエステルフィルムからなる層を有する多層基板
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、溶液粘度が低く流延性が高い芳香族液晶ポリエステル液状組成物を提供し得、異方性が抑制されるのみならず厚さがより均一なフィルムを提供し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で使用される芳香族液晶ポリエステルは、サーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれるポリエステルであり、450℃以下の温度で光学的に異方性を示す溶融体を形成するものである。
【0009】
芳香族液晶ポリエステルとしては、例えば、
(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジオールの組み合わせを重合して得られるもの、
(2)同種又は異種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合して得られるもの、
(3)芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの組み合わせを重合して得られるもの、
(4)ポリエチレンテレフタレートなどの結晶性ポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させたもの
などが挙げられる。
ここで芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジオールは、エステル形成性を阻害しない程度であれば、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基などで置換されていてもよい。
ここでアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が挙げられ、メチル基、エチル基またはブチル基がより好ましい。アリール基としては、炭素数6〜20のアリール基が挙げられ、フェニル基がより好ましい。
ハロゲン原子としては塩素原子、フッ素原子等が挙げられる。
なお、これらの芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸または芳香族ジオールの代わりに、それらのエステル形成性誘導体を使用してもよい。
【0010】
カルボン酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、カルボキシル基が、ポリエステル生成反応を促進するような、酸塩化物、酸無水物などの反応性が高い誘導体となっているもの、カルボキシル基が、エステル交換反応によりポリエステルを生成するようなアルコール類やエチレングリコールなどとエステルを形成しているものなどが挙げられる。
また、フェノール性水酸基のエステル形成性誘導体としては、例えば、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、フェノール性水酸基がカルボン酸類とエステルを形成しているものなどが挙げられる。
【0011】
本発明における芳香族液晶ポリエステルの繰り返し構造単位としては、下記のものを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し構造単位:

上記の繰り返し構造単位は、前記のようなハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【0013】
芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し構造単位:

上記の繰り返し構造単位は、前記のようなハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【0014】
芳香族ジオールに由来する繰り返し構造単位:

上記の繰り返し構造単位は、前記のようなハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【0015】
芳香族液晶ポリエステルの繰り返し構造単位の好ましい組み合わせとしては、例えば、下記(a)〜(f)が挙げられる。
(a):
前記繰り返し構造単位(A1)、(B2)および(C3)の組み合わせ、
前記繰り返し構造単位(A2)、(B2)および(C3)の組み合わせ、
前記繰り返し構造単位(A1)、(B1)、(B2)および(C3)の組み合わせ、または、
前記繰り返し構造単位(A2)、(B1)、(B2)および(C3)の組み合わせ。
(b):前記(a)の組み合わせのそれぞれにおいて、(C3)の一部または全部を(C1)に置換した組み合わせ。
(c):前記(a)の組み合わせのそれぞれにおいて、(C3)の一部または全部を(C2)に置換した組み合わせ。
(d):前記(a)の組み合わせのそれぞれにおいて、(C3)の一部または全部を(C4)に置換した組み合わせ。
(e):前記(a)の組み合わせのそれぞれにおいて、(C3)の一部または全部を(C4)と(C5)の混合物に置換した組み合わせ。
(f):前記(a)の組み合わせのそれぞれにおいて、(A1)の一部を(A2)に置換した組み合わせ。
【0016】
耐熱性の観点から該芳香族液晶ポリエステルは、p−ヒドロキシ安息香酸および2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸類からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し構造単位、即ち(A1)および(A2)からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し構造単位を30〜80mol%、ヒドロキノンおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニル類からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し構造単位、即ち(C1)および(C3)からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し構造単位を10〜35mol%、テレフタル酸およびイソフタル酸類からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し構造単位、即ち(B1)および(B2)からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し構造単位を10〜35mol%からなることが好ましい
また、耐熱性、機械物性のバランスの観点から芳香族液晶ポリエステルは、前記(A1)式で表される繰り返し単位を少なくとも30モル%含むことが好ましい。
【0017】
本発明に用いられる芳香族液晶ポリエステルの製造方法は、特に限定されないが、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種を過剰量の脂肪酸無水物によりアシル化してアシル化物を得、得られたアシル化物と、芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種とをエステル交換(重縮合)することにより溶融重合する方法が挙げられる。
【0018】
アシル化反応においては、脂肪酸無水物の添加量がフェノール性水酸基の1.0〜1.2倍当量であることが好ましく、より好ましくは1.05〜1.1倍当量である。脂肪酸無水物の添加量が少ないと、エステル交換(重縮合)時にアシル化物や芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸などが昇華し、反応系が閉塞し易い傾向があり、また、多すぎると得られる芳香族液晶ポリエステルの着色が著しくなる傾向がある。
【0019】
アシル化反応は、130℃〜180℃で5分間〜10時間反応させることが好ましく、140℃〜160℃で10分間〜3時間反応させることがより好ましい。
【0020】
アシル化反応に使用される脂肪酸無水物は,特に限定されないが、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β−ブロモプロピオン酸などが挙げられ、これらは2種類以上を混合して用いてもよい。価格と取り扱い性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、または無水イソ酪酸が好ましく用いられ、より好ましくは、無水酢酸が用いられる。
【0021】
エステル交換においては、アシル化物のアシル基がカルボキシル基の0.8〜1.2倍当量であることが好ましい。
【0022】
エステル交換は、400℃まで0.1〜50℃/分の割合で昇温しながら行うことが好ましく、350℃まで0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら行うことがより好ましい。
【0023】
アシル化して得た脂肪酸エステルとカルボン酸とをエステル交換させる際、平衡を移動させるため、副生する脂肪酸と未反応の脂肪酸無水物は、蒸発させるなどして系外へ留去することが好ましい。
【0024】
なお、アシル化反応、エステル交換は、触媒の存在下に行なってもよい。該触媒としては、従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができ、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属塩触媒、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾールなどの有機化合物触媒などを挙げることができる。該触媒は、通常、モノマー類の投入時に投入され、アシル化後も除去することは必ずしも必要ではなく、該触媒を除去しない場合にはそのままエステル交換を行うことができる。
【0025】
エステル交換による重縮合は、通常、溶融重合により行なわれるが、溶融重合と固相重合とを併用してもよい。固相重合は、溶融重合工程からポリマーを抜き出し、その後、粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にした後、公知の固相重合方法により行うことが好ましい。具体的には、例えば、窒素などの不活性雰囲気下、250℃〜350℃で、1〜30時間、固相状態で熱処理する方法などが挙げられる。固相重合は、攪拌しながらでも、攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。なお適当な攪拌機構を備えることにより溶融重合槽と固相重合槽とを同一の反応槽とすることもできる。固相重合後、得られた芳香族液晶ポリエステルは、公知の方法によりペレット化し、成形してもよい。
芳香族液晶ポリエステルの製造は、例えば、回分装置、連続装置等を用いて行うことができる。
【0026】
本発明で用いられる芳香族液晶ポリエステルは、下記成分(A)からなるか又は下記成分(A)と、成分(A)に対し4重量倍以下の下記成分(B)とからなる。
成分(A):流動開始温度が150℃以上290℃以下の芳香族液晶ポリエステル(以下、低FT−LCPと記す場合がある。)。
成分(B):流動開始温度が290℃を超える芳香族液晶ポリエステル(以下、高FT−LCPと記す場合がある。)。
【0027】
ここでの流動開始温度とは、フローテスターによる溶融粘度の評価において、かかる芳香族ポリエステルの溶融粘度が100KG重の圧力下で4800Pa・s以下になる温度をいう。
【0028】
ここで、低FT−LCPとしては、流動開始温度が通常150℃以上290℃以下、好ましくは200℃〜280℃である芳香族液晶ポリエステルが挙げられる。
該低FT−LCPは、流動開始温度が低すぎると芳香族液晶ポリエステル液状組成物から得られるフィルムが脆くなりやすい傾向があり、逆に、高すぎると低粘度化の効果が得られにくい傾向がある。
【0029】
ここで、高FT-LCPとしては、流動開始温度が通常290℃を超える芳香族液晶ポリエステルが挙げられ、具体的には流動開始温度が290℃より高い温度で400℃までの温度範囲であるものが好ましく、300℃〜350℃であるものがより好ましい。
【0030】
本発明で用いられる芳香族液晶ポリエステルが低FT−LCPと高FT−LCPとを含有する組成物である場合は、かかる低FT−LCPが芳香族液晶ポリエステルの総量のうち20重量%〜80重量%であることが好ましく、40重量%〜80重量%であることがより好ましい。
また、芳香族液晶ポリエステルが実質的に低FT−LCPである場合が特に好ましい。
【0031】
本発明で用いられる芳香族液晶ポリエステルとしては、具体的には、例えば、流動開始温度が280℃の低FT−LCPを40重量%、流動開始温度が300℃の高FT−LCPを60重量%含有する芳香族液晶ポリエステルが挙げられる。
【0032】
低FT−LCP及び高FT−LCPを得る方法としては、例えば、溶融重合工程からポリマーを抜き出し、その後粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にした後、公知の固相重合方法により流動開始温度を調整する方法が挙げられる。
【0033】
より具体的には、低FT−LCPは、例えば、溶融重合工程の後、窒素などの不活性雰囲気下、200〜255℃で、1〜10時間固相状態で熱処理する方法によって得られる。また、固相状態で熱処理する工程を省略してもよく、溶融重合工程から抜き出したポリマーをそのまま本発明に用いても良い。生産性の観点から、本発明には溶融重合工程から抜き出したポリマーをそのまま用いるのが好ましい。
高FT−LCPは、例えば、溶融重合工程の後、窒素などの不活性雰囲気下、255℃を越える温度で、より好ましくは255℃〜350℃の温度で、1〜10時間固相状態で熱処理する方法によって得られる。
固相重合は、攪拌しながらでも、攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。
【0034】
本発明において芳香族液晶ポリエステル液状組成物の調整に用いられる溶媒は、下記一般式(I)で示されるハロゲン置換フェノール化合物を30重量%以上含有する溶媒である。該溶媒としては、該フェノール化合物を60重量%以上含有する溶媒であることが好ましく、実質的に100重量%の該フェノール化合物を溶媒として用いることが、他成分と混合する必要がないためより好ましい。
一般式(I)

(式中、Aはハロゲン原子またはトリハロゲン化メチル基を表わし、iはAの個数であって1〜5の整数を表わす。iが2以上の場合、複数あるAは互いに同一でも異なっていてもよい)
【0035】
一般式(I)において、iは好ましくは1〜3であり、より好ましくは1または2である。iが1のときAの置換位置は4位であることが好ましく、iが2以上のとき少なくとも一つのAの置換位置は4位であることが好ましい(水酸基の置換位置を1位とする)。
また、Aが複数存在する場合には、Aは互いに同一でも異なっていてもよく、同一であることが好ましい。
【0036】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子または塩素原子が好ましく、塩素原子が特に好ましい。
ハロゲン原子がフッ素原子である一般式(I)で示されるハロゲン置換フェノール化合物の例としては、ペンタフルオロフェノール、テトラフルオロフェノール等が挙げられる。
ハロゲン原子が塩素原子である一般式(I)で示されるハロゲン置換フェノール化合物の例としてはp−クロロフェノール等が挙げられる。
【0037】
トリハロゲン化メチル基のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
トリハロゲン化メチル基のハロゲン原子がフッ素原子である一般式(I)で示されるハロゲン置換フェノール化合物の例としては、3,5−ビストリフルオロメチルフェノールが挙げられる。
【0038】
一般式(I)で示されるハロゲン置換フェノール化合物としては、価格と入手性の観点から、p−クロロフェノール等の塩素置換フェノール化合物が好ましい。
【0039】
該溶媒中には、芳香族液晶ポリエステル液状組成物の保存時または後述の流延時に芳香族液晶ポリエステルを析出させるものでなければ、該ハロゲン置換フェノール化合物以外に他の成分を含有していてもよい。
含有していてもよい他の成分は、特に限定されるものではないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、テトラクロロエタン等の塩素系化合物などが挙げられる。
【0040】
本発明の芳香族液晶ポリエステル液状組成物は、芳香族液晶ポリエステルを前記溶媒に溶解させることにより得られる。
【0041】
本発明の芳香族液晶ポリエステル液状組成物には、前記溶媒100重量部に対して、芳香族液晶ポリエステルを通常0.5〜100重量部、好ましくは1〜50重量部、更に好ましくは3〜20重量部含有される。
芳香族液晶ポリエステルの総量が少ないと、芳香族液晶ポリエステルフィルムの生産効率が低下する傾向があり、多いと溶媒に対する溶解性が悪くなる傾向がある。
該液状組成物は、その後、必要に応じて、更にフィルターなどによってろ過して該液状組成物中に含まれる微細な異物を除去してもよい。
【0042】
本発明の芳香族液晶ポリエステル液状組成物には高誘電率の無機フィラーが含有されていてもよい。該無機フィラーとしては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどのチタン酸塩、チタン酸バリウムのチタンあるいはバリウムの一部を他の金属に置き換えたもの等から選ばれる少なくとも一種、BaO、Bi23、La23、Nd23、Sm23、Al23及びTiO2からなる群から選ばれる少なくとも3種類を組み合わせてなるもの等が利用できる。
【0043】
本発明の芳香族液晶ポリエステル液状組成物における高誘電率の無機フィラ−の含有量は、芳香族液晶ポリエステル100重量部に対して50〜700重量部の割合であることが好ましく、200〜500重量部の割合であることがより好ましい。
該高誘電率の無機フィラ−の含有量が少ないと、本発明の芳香族液晶ポリエステル液状組成物から得られるフィルムの誘電率を十分高くすることができない傾向があり、該含有量が多すぎると、樹脂のバインダとしての効果が少なくなり、得られるフィルムが脆くなる傾向がある。
【0044】
更に該芳香族液晶ポリエステル液状組成物には、シリカ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムなどの無機フィラー、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルエーテルおよびその変性物、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂、シランカップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの各種添加剤が一種または二種以上含有されていてもよい。
【0045】
本発明の芳香族液晶ポリエステル液状組成物は、従来の芳香族液晶ポリエステル液状組成物と比較して同じ樹脂濃度でもより溶液粘度が低く流延性が高いため、フィルムの生産性はそのままに、厚さがより均一なフィルムを生産しうる。
【0046】
本発明の芳香族液晶ポリエステルフィルムは、例えば、前記芳香族液晶ポリエステル液状組成物をフィルム状に流延し、その後、溶媒を除去する方法により得られる。
【0047】
前記液状組成物をフィルム状に流延する方法としては、支持体上にローラーコート法、ディップコート法、スプレイコート法、スピナーコート法、カーテンコート法、スロットコート法、スクリーン印刷法、ダイコーティング法、ナイフコーティング法等の各種手段が挙げられる。
また、溶媒を除去する方法は特に限定されないが、溶媒の蒸発により行うことが好ましい。溶媒を蒸発させる方法としては、加熱、減圧、通風などの方法が挙げられるが、中でも生産効率、取り扱い性の点から加熱することが好ましく、通風しつつ加熱することがより好ましい。この時の加熱条件としては、60〜200℃で10分ないし2時間予備乾燥を行う工程と、200〜400℃で30分ないし5時間熱処理を行う工程とを含むことが好ましい。
【0048】
本発明の金属箔付芳香族液晶ポリエステルフィルムは、例えば、支持体として金属箔を用い、該金属箔の上に本発明の芳香族液晶ポリエステル液状組成物をフィルム状に流延し、その後溶媒を除去することにより得られる。
【0049】
このようにして得られる本発明の芳香族液晶ポリエステル液状組成物は低粘度で流延性に優れることから製膜性に優れ、本発明の芳香族液晶ポリエステル液状組成物から溶媒を除去して得られるフィルムは、多層リジットプリント基板、多層フレキシブルプリント基板、エンベデット基板などの多層基板の用途に好適に用いられる。
かかる多層基板を得る方法としては、例えば、本発明の芳香族液晶ポリエステルフィルムと金属箔を複数層重ねてプレス成形などにより加熱圧着させて積層させる方法、本発明の金属箔付芳香族液晶ポリエステルフィルムを複数層重ねてプレス成形などにより加熱圧着させて積層させる方法などが挙げられる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明について実施例を用いて説明するが、本発明が実施例により限定されるものでないことは言うまでもない。なお、各実施例における溶融粘度はTV-20型粘度計(トキメック製)を用いて測定した。
【0051】
実施例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2‐ヒドロキシ−6−ナフトエ酸 128g(0.68モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル 63.3g(0.34モル)、イソフタル酸 56.5g(0.34モル)および無水酢酸 152.7g(1.50モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。
その後、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら300℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた固形分は室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕した(ここで得られた粉末を、芳香族液晶ポリエステル粉末Aとする。)。
【0052】
芳香族液晶ポリエステル粉末Aを島津製フローテスターにより、圧力100KG重の条件下において流動開始温度を評価したところ、流動開始温度は225℃であった。更に芳香族液晶ポリエステル粉末Aを窒素雰囲気下264℃で3時間保持し、固相で重合反応を進め、芳香族液晶ポリエステル粉末を得た(ここで得られた粉末を、芳香族液晶ポリエステル粉末Bとする)。得られた芳香族液晶ポリエステル粉末Bの流動開始温度は300℃であった。
【0053】
上記工程により得られた芳香族液晶ポリエステル粉末A(流動開始温度225℃)3.2gと芳香族液晶ポリエステル粉末B(流動開始温度300℃)4.8gをp―クロロフェノール92gに加え、その後、120℃に加熱した結果、本発明の芳香族液晶ポリエステル液状組成物(樹脂濃度8%)が得られた。得られた当該液状組成物の溶液粘度は2100cPであった(温度25℃)。
得られた本発明の芳香族液晶ポリエステル液状組成物を銅箔(古河電工製電解銅箔F2WS(厚み:18μm))上に流延し、ホットプレートにより設定温度100℃で60分間溶媒を蒸発させた後、熱風式乾燥機により設定温度280℃で60分間窒素雰囲気の条件で熱処理を行い、本発明の芳香族液晶ポリエステルフィルムを得た。
【0054】
実施例2
上記工程により得られた芳香族液晶ポリエステル粉末A(流動開始温度225℃)3.2gと芳香族液晶ポリエステル粉末B(流動開始温度300℃)4.8gをp―クロロフェノール92gに加え、その後、120℃に加熱した結果、芳香族液晶ポリエステル液状組成物(樹脂濃度8%)が得られた。得られた当該液状組成物の溶液粘度は700cP(温度50℃)であった。
得られた芳香族液晶ポリエステル液状組成物を銅箔(古河電工製電解銅箔F2WS(厚み:18μm))上に流延し、ホットプレートにより設定温度100℃で60分間溶媒を蒸発させた後、熱風式乾燥機により設定温度280℃で60分間窒素雰囲気の条件で熱処理を行い、芳香族液晶ポリエステルフィルムを得た。
【0055】
実施例3
実施例1と同様にして得られた粉末Aを窒素雰囲気下251℃で3時間保持し、固相で重合反応を進め、芳香族液晶ポリエステル粉末を得た(ここで得られた粉末を、芳香族液晶ポリエステル粉末Cとする)。
得られた芳香族液晶ポリエステル粉末C(流動開始温度280℃)12gをp―クロロフェノール88gに加え、その後、120℃に加熱し、芳香族液晶ポリエステル液状組成物(樹脂濃度12%)が得られた。得られた当該液状組成物の溶液粘度は6600cP(温度50℃)であった。
得られた芳香族液晶ポリエステル液状組成物を銅箔(古河電工製電解銅箔F2WS(厚み:18μm))上に流延し、ホットプレートにより設定温度100℃で60分間溶媒を蒸発させた後、熱風式乾燥機により設定温度280℃で60分間窒素雰囲気の条件で熱処理を行い、芳香族液晶ポリエステルフィルムを得た。
【0056】
実施例4
実施例1と同様の方法にて、芳香族液晶ポリエステル粉末Aを得た。
芳香族液晶ポリエステル粉末A(流動開始温度225℃)15gをp―クロロフェノール85gに加え、その後、120℃に加熱し、本発明の芳香族液晶ポリエステル液状組成物(樹脂濃度15%)が得られた。得られた当該液状組成物の粘度は5300cPであった(温度25℃)。
得られた芳香族液晶ポリエステル液状組成物を銅箔(古河電工製電解銅箔F2WS(厚み:18μm))上に流延し、ホットプレートにより設定温度100℃で60分間溶媒を蒸発させた後、熱風式乾燥機により設定温度280℃で60分間窒素雰囲気の条件で熱処理を行い、芳香族液晶ポリエステルフィルムを得た。
【0057】
実施例5
実施例1と同様にして得られた粉末Aを窒素雰囲気下255℃で3時間保持し、固相で重合反応を進め、芳香族液晶ポリエステル粉末を得た(ここで得られた粉末を、芳香族液晶ポリエステル粉末Dとする)。
得られた芳香族液晶ポリエステル粉末D(流動開始温度290℃)12gをp―クロロフェノール88gに加え、その後、120℃に加熱し、芳香族液晶ポリエステル液状組成物(樹脂濃度12%)が得られた。得られた当該液状組成物の溶液粘度は11000cP(温度50℃)であった。
得られた芳香族液晶ポリエステル液状組成物を銅箔(古河電工製電解銅箔F2WS(厚み:18μm))上に流延し、ホットプレートにより設定温度100℃で60分間溶媒を蒸発させた後、熱風式乾燥機により設定温度280℃で60分間窒素雰囲気の条件で熱処理を行い、芳香族液晶ポリエステルフィルムを得た。
【0058】
比較例1
実施例1の方法にて芳香族液晶ポリエステル粉末Bを得た。芳香族液晶ポリエステル粉末B(流動開始温度300℃)8.0gをp―クロロフェノール92gに加えて実施例1及び2と同じ樹脂濃度にし、その後、120℃に加熱した結果、比較芳香族液晶ポリエステル溶液(以下、比較溶液1とする。)が得られた。得られた比較溶液1の溶液粘度は11000cPであった(温度25℃)。
本比較溶液1は、同じ樹脂濃度の本発明芳香族液晶ポリエステル液状組成物と比較して、流延性が劣っていた。
得られた比較溶液1を銅箔(古河電工製電解銅箔F2WS(厚み:18μm))上に流延し、ホットプレートにより設定温度100℃で60分間溶媒を蒸発させた後、熱風式乾燥機により設定温度280℃で60分間窒素雰囲気の条件で熱処理を行い、比較芳香族液晶ポリエステルフィルムを得た。
【0059】
比較例2
実施例1の方法にて芳香族液晶ポリエステル粉末Bを得た。芳香族液晶ポリエステル粉末B(流動開始温度300℃)12gをp―クロロフェノール88gに加えて実施例3と同じ樹脂濃度にし、その後、120℃に加熱した結果、比較芳香族液晶ポリエステル溶液が得られた(以下、比較溶液2とする。)。得られた当該液状組成物の溶液粘度は41000cP(温度50℃)であった。
本比較溶液2は、同じ樹脂濃度の本発明芳香族液晶ポリエステル液状組成物と比較して、流延性が劣っていた。
得られた比較溶液2を銅箔(古河電工製電解銅箔F2WS(厚み:18μm))上に流延し、ホットプレートにより設定温度100℃で60分間溶媒を蒸発させた後、熱風式乾燥機により設定温度280℃で60分間窒素雰囲気の条件で熱処理を行い、比較芳香族液晶ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムには、比較溶液2が均一に流延しなかったために厚みムラが生じていた。
【0060】
比較例3
実施例1と同様の方法により、芳香族液晶ポリエステル粉末Bを得た。
上記工程により得られた芳香族液晶ポリエステル粉末B(流動開始温度300℃)15gをp―クロロフェノール85gに加えて実施例4と同じ樹脂濃度にし、その後、120℃に加熱したが、芳香族液晶ポリエステル粉末の不溶解分がかなり見られ、得られた溶液はゲル化してしまったため、均一厚みのフィルムは得られなかった。
【0061】
比較例4
実施例1と同様にして得られた粉末Aを窒素雰囲気下276℃で3時間保持し、固相で重合反応を進め、芳香族液晶ポリエステル粉末を得た(ここで得られた粉末を、芳香族液晶ポリエステル粉末Eとする)。
得られた芳香族液晶ポリエステル粉末E(流動開始温度320℃)8gをp―クロロフェノール92gに加えて実施例1及び2と同じ樹脂濃度にし、その後、120℃に加熱した結果、比較芳香族液晶ポリエステル溶液が得られた(以下、比較溶液4とする。)。得られた当該液状組成物の溶液粘度は12900cP(温度50℃)であった。本比較溶液4は、同じ樹脂濃度の本発明芳香族液晶ポリエステル液状組成物と比較して、流延性が劣っていた。
得られた比較溶液1を銅箔(古河電工製電解銅箔F2WS(厚み:18μm))上に流延し、ホットプレートにより設定温度100℃で60分間溶媒を蒸発させた後、熱風式乾燥機により設定温度280℃で60分間窒素雰囲気の条件で熱処理を行い、比較芳香族液晶ポリエステルフィルムを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族液晶ポリエステル及び下記溶媒を含有する芳香族液晶ポリエステル液状組成物であって、該芳香族液晶ポリエステルが、下記成分(A)からなるか又は下記成分(A)と成分(A)に対し4重量倍以下の下記成分(B)とからなることを特徴とする芳香族液晶ポリエステル液状組成物。
成分(A):流動開始温度が150℃以上290℃以下の芳香族液晶ポリエステル。
成分(B):流動開始温度が290℃を超える芳香族液晶ポリエステル。
溶媒:下記一般式(I)で示されるハロゲン置換フェノール化合物を30重量%以上含有する溶媒。


(式中、Aはハロゲン原子またはトリハロゲン化メチル基を表わし、iはAの個数であって1〜5の整数を表わし、iが2以上の場合に複数あるAは互いに同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
請求項1に記載される芳香族液晶ポリエステル液状組成物をフィルム状に流延し、その後、溶媒を除去することによって得られる芳香族液晶ポリエステルフィルム。
【請求項3】
請求項1に記載される芳香族液晶ポリエステル液状組成物をフィルム状に流延し、その後、溶媒を除去することを特徴とする芳香族液晶ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載される芳香族液晶ポリエステルフィルムに金属箔が積層されてなる金属箔付芳香族液晶ポリエステルフィルム。
【請求項5】
請求項3に記載される金属箔付芳香族液晶ポリエステルフィルムからなる層を有する多層基板。

【公開番号】特開2006−176564(P2006−176564A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−368951(P2004−368951)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】