説明

荷重検知機能を備えた積層ゴム、その製造方法及びゴム支承

【課題】測定精度に優れた荷重検知機能を備えた積層ゴム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】厚肉の上下部鋼板13,14及び薄肉の複数の中間部鋼板15からなる鋼板とゴム層16とを交互に積層してなる積層ゴム6であって、上下部鋼板13,14のいずれか一方にその厚み方向に貫通して、隣接するゴム層16内部に達する複数の測定孔21を互いに間隔を置いて設け、各測定孔21に粘性流体を充填するとともに、各測定孔21の鋼板側部分に圧力センサー24を取り付けて該測定孔21を閉鎖したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、荷重検知機能を備えた積層ゴム、その製造方法及びゴム支承に関し、より詳細には橋梁や建築物などの構造物の支承として適用される積層ゴムの構造及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁において上部構造(橋桁)と下部構造(橋脚、橋台)との間に設置される支承として、ゴム支承が知られている。このゴム支承は上部構造に固定される上沓、下部構造に固定される下沓及びこれら上下沓間に配置されるゴム沓で構成されている。ゴム沓は鋼板とゴム層とを交互に積層してなる積層ゴムからなり、上下部構造の水平力を伝達するためにせん断キーが設けられている。
【0003】
このようなゴム支承は、複数箇所の上下部構造間に、また各上下部構造間に複数個設置されるが、各々の支承に実際に加わっている鉛直荷重を計測し、設計荷重と照合することは施工上またその後の維持管理上、極めて重要である。
【0004】
非特許文献1には、ゴム支承の回転特性を知るために圧縮応力分布を測定する技術が開示されている。この技術は積層ゴムの下部鋼板に多数の測定孔を設け、オイルを媒体として圧力センサーで圧縮応力を測定するものである。そして、その測定原理は、積層ゴムに鉛直荷重が加わった際、下部鋼板に隣接するゴム層の一部が変形して測定孔に入り込みオイルを加圧するので、その圧力を測定しようとするものである。しかしなながら、この測定方法は、測定孔の径を大きくしないと孔のまわりの鋼板の影響でゴムの内部圧がオイルに伝わりにくく、測定精度が良くないという問題がある。また、測定孔の長さを鋼板の厚みのみで確保しているので、これに測定用のセンサーの取付け長さを加えると鋼板が厚くならざるをえず、コスト的にも高くなる。
【非特許文献1】「道路橋支承便覧」、平成16年4月、社団法人 日本道路協会、p.392−401
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、測定精度に優れた荷重検知機能を備えた積層ゴム、その製造方法及びゴム支承を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は上記課題を達成するために、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、厚肉の上下部鋼板及び薄肉の複数の中間部鋼板からなる鋼板とゴム層とを交互に積層してなる積層ゴムであって、
前記上下部鋼板のいずれか一方からその厚み方向に貫通して、隣接するゴム層内部に達する複数の測定孔を互いに間隔を置いて設け、各測定孔に粘性流体を充填するとともに、各測定孔の鋼板側部分に圧力センサーを取り付けて該測定孔を閉鎖したことを特徴とする荷重検知機能を備えた積層ゴムにある。
【0007】
より具体的には、前記各測定孔の鋼板側部分はねじ孔であり、このねじ孔に前記圧力センサーとしてボルト型圧力計を取り付けたことを特徴とする。また、前記各測定孔のゴム層側部分は内周がシ前記粘性流体との接触によって性状変化を受けにくいゴム材料でライニングされている。
【0008】
また、この発明は、厚肉の上下部鋼板及び薄肉の複数の中間部鋼板からなる鋼板とゴム層とを交互に積層し、加硫接着によって成型する積層ゴムの製造方法であって、
前記上下部鋼板のいずれか一方にその厚み方向に貫通する複数のねじ孔を互いに間隔を置いて設け、加硫接着時に各ねじ孔に先端部が隣接する前記ゴム層に貫入する差し込みボルトを取付けておき、
成型後、前記差し込みボルトを抜き取ることにより前記ゴム層に形成される孔及び該孔と連通する前記ねじ孔によって複数の測定孔を形成し、
前記各測定孔に粘性流体を充填するとともに、前記ねじ孔にボルト型圧力センサーを取り付けて該測定孔を閉鎖することを特徴とする荷重検知機能を備えた積層ゴムの製造方法にある。
【0009】
さらに、この発明は、上部構造と下部構造との間に設置され、前記上部構造に固定される上沓と、前記下部構造に固定される下沓と、前記上沓と下沓との間に配置されるゴム沓とを備えたゴム支承であって、
前記ゴム沓は前記荷重検知機能を備えた積層ゴムからなり、
前記下沓には前記各測定孔に開口する穴と、各穴と連通して下沓の側面に開口する溝とが設けられ、
前記圧力センサーの入出力ケーブルは前記穴及び溝を通して外部に引き出されていることを特徴とするゴム支承にある。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、上下部鋼板のいずれか一方からその厚み方向に貫通して隣接するゴム層の内部に達する孔を設けてこれを測定孔としたので、積層ゴムに鉛直荷重が加わってゴム層が膨出しようとすると、その膨出しようとする力は測定孔のゴム層側部分の内面全体に作用することから、高感度で感知される。したがって測定孔内部に発生する圧力を粘性流体によりセンサーに確実に伝達することができ、測定精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1は、この発明の実施形態を示す鉛直方向断面図、図2は図1の線Aによる矢視断面図である。橋桁である上部構造2と橋脚や橋台である下部構造3との間に設置されるゴム支承1は、上沓4、下沓5及びこれらの上下沓4,5間に配置されるゴム沓6を備えている。これら上沓4、下沓5及びゴム沓6はいずれも平面形状が矩形形状又は円形形状(建築用の場合)のものである。上沓4は複数のセットボルト7(鋼桁の場合)により上部構造2に固定される。この上沓4には上面中央に上部構造2との間で水平力を伝達するためのせん断キー8が設けられている。
【0012】
下沓5は複数のボルト9によりベースプレート10に固定されている。ベースプレート10は、複数のアンカーボルト11により下部構造3に固定され、このアンカーボルト11は、上端部の雄ねじ12がベースプレート10にねじ込まれる形式のもので、上端部はベースプレート10の上面から突出しない。
【0013】
ゴム沓6は積層ゴムからなり(以下、積層ゴムとも称する)、鋼板13,14,15とゴム層16を交互に積層して形成される。鋼板13,14,15のうち、鋼板13,14はゴム沓6のそれぞれ上下部に配置される厚肉の上下部鋼板であり、鋼板15は中間部に複数配置される薄肉の中間部鋼板である。上部鋼板13は複数のボルト17により上沓4に固定されている。また、上部鋼板13には上面中央に上沓4との間で水平力を伝達するためのせん断キー18が設けられている。下部鋼板14は複数のボルト19により下沓5に固定されている。また、下部鋼板14には下面中央に下沓5との間で水平力を伝達するためのせん断キー20が設けられている。
【0014】
この発明によれば、下部鋼板14からその厚み方向に貫通して隣接するゴム層16の内部に達する測定孔21が設けられている。この測定孔21は、図2に示すように、せん断キー20のまわりに等間隔を置いて複数(この実施形態では4)設けられている。図3に拡大して示すように、下部鋼板14の下面には座繰り穴22が設けられ、測定孔21はこの座繰り穴22の底部から、下部鋼板14に隣接するゴム層16の内部に亘って設けられている。測定孔21の鋼板側部分21aは雌ねじが形成されたねじ孔であり、ゴム層側部分21bは鋼板側部分21aよりも径が幾分か小さな空洞である。測定孔21は、5〜10mmの小径のものであり、ゴム支承の性能に影響を与えることはない。
【0015】
測定孔21には粘性流体23、例えばシリコーンオイルあるいはフッ素オイルが充填され、測定孔21は鋼板側部分21aに圧力センサー24を取り付けることにより閉鎖されている。なお、粘性流体23は、積層ゴム6を上下逆にし、すなわち下部鋼板14を上側にした状態で測定孔21に充填され、充填後エア抜きをしたうえで圧力センサー24が取り付けられる。
【0016】
この実施形態で用いられる圧力センサー24はボルト型圧力計であり、ねじ部25の先端に受圧部26をもち、後端にフランジ付きの六角頭部27をもつセンサーである。この圧力センサー24は、ねじ部25を測定孔21の鋼板側部分21aに螺着することによって測定孔21に取り付けられる。この圧力センサー24の取付けによって測定孔21が閉鎖され、センサーの取付け状態で六角頭部27は座繰り穴22に収容される。下沓5には各座繰り穴22に開口する穴28と、各穴28と連通して下沓5の側面に開口するU字形の溝29が設けられている。圧力センサー24に通電するための入出力ケーブル30は、これら穴28及び溝29を通して外部に引き出されている。
【0017】
積層ゴム6は、上下部鋼板13,14、中間部鋼板15及びゴム層16を成形型内で積層し、加硫接着して成型される。測定孔21のゴム層側部分21aは、積層ゴム6の成型後に、錐により孔明け加工して形成することも可能であるが、この場合、バリ等が生じやすい。このような不具合は、成型と同時に測定孔21を形成することにより解消される。
【0018】
すなわち、図4に示すように、成型時において、下部鋼板14に形成したねじ孔21a(測定孔21の鋼板側部分)に差し込みボルト31を取り付けておく。差し込みボルト31は、ねじ部32の先端にねじ孔21aから突出してゴム層16に貫入する突出部33をもち、この突出部33には周面にねじが形成されていない。また、この突出部33には剥離剤を塗布しておく。そして、型内で積層ゴム6を加硫成型した後、差し込みボルト31を抜き取る。これによって、ねじ孔21aと、これと連通するゴム層16側の孔21bとからなる測定孔21が形成される。測定孔21の形成後は、上記したように粘性流体23を測定孔21に充填し、圧力センサー24をねじ孔21aに取り付けて測定孔21を閉鎖する。
【0019】
粘性流体23として用いられるシリコーンオイルは、ゴム層16を構成するゴム材料によってはシリコーンオイルが接触することによりその性状を変化させてしまうことがある。例えば、ゴム層16の材料としてブチルゴムを使用すると、ゴムの重量や体積が変化することが知られている。図5は、このようなゴム性状の変化を避けるための実施形態である。すなわち、測定孔21のゴム層側部分21bは内面がライニングされている。ライニング35は、シリコーンオイルとの接触によって性状変化を受けにくいゴム材料からなり、例えばフッ素ゴムが使用される。このライニング35を施すには、図4を参照して説明したように、積層ゴムの加硫成型時に、差し込みボルト31の突出部33にライニング35をキャップ状に被せておき、成型後差し込みボルト31を抜き取ればよい。
【0020】
次に、鉛直荷重の測定方法について説明する。工場で製作された積層ゴム6は、図示しない圧縮試験機にかけられる。また、圧力センサー24は入出力ケーブル30を介して図示しないコンピュータに接続される。試験中、荷重は徐々に載荷され、この載荷によってゴム層16が圧縮される。この結果、ゴム層16には膨出しようとする力が働き、これによって測定孔21内部の粘性流体23が加圧される。この粘性流体23の圧力は、圧力センサー24によって測定される。その際、ゴムの膨出しようとする力は測定孔21のゴム層側部分21bの内面全体に作用することから、高感度で感知される。したがって測定孔21内部に発生する圧力を粘性流体23により圧力センサー24に確実に伝達することができ、測定精度を向上させることができる。圧力センサー24の測定値はコンピュータに入力され、コンピュータにより圧力の平均値(センサー4個の測定値の平均値)と載荷した荷重との関係が演算処理される。図6は、このようにして得られた荷重−圧力の関係を示している。
【0021】
一方、支承の設置現場においては積層ゴム6に上部構造2の鉛直荷重が載荷され、その鉛直荷重に基づいて粘性流体に発生する圧力が、圧力センサー24によって測定される。圧力センサー24の測定値は、圧縮試験の場合と同様にコンピュータに入力され、コンピュータは予め圧縮試験によって得られた荷重−圧力特性データからその圧力に対応する荷重を演算し表示する。このようにして得られた荷重値と、設計荷重値とを照合することにより、その後の維持管理を適切なものとすることができる。なお、支承の設置現場においては圧力センサー24の測定値を無線送信機に入力して送信し、そのデータを現場事務所等の無線受信機で受信し、コンピュータに入力するようにしてもよい。この場合、後述するように測定孔及びセンサーを上部鋼板13側に設置するとともに、無線送信機を桁に固定すれば、入出力ケーブルや無線送信機が支承のメンテナンスをする際の障害にならない。
【0022】
上下部構造2,3間に設置されたゴム支承1において、温度変化等により上部構造2が伸縮するとそれに伴い積層ゴム6がせん断変形する。このせん断変形により測定孔21のゴム層側部分21bも形状変化するが、ゴム支承1は体積変化がないためせん断変形しても高さが変わらないので、この孔の体積=底面積×高さは一定している。なお、ゴム支承の形状が小さい場合、鉛直荷重の応力分布が変わるため、せん断方向に配置した2個のセンサーの圧力に差が生じるが、これを平均するとせん断変形しないときの2個の平均値と一致する。これは実験的にも確認されている。
【0023】
上記実施形態では、測定孔を下部鋼板及びそれに隣接するゴム層に設けて、圧力センサーを取り付けたが、これに限るものではなく、測定孔を上部鋼板及びそれに隣接するゴム層に設けて、圧力センサーを取り付けるようにしてもよい。また、圧力センサーは、積層ゴムに偏荷重が加わる場合を考慮し、上記実施形態で示した取付け位置に加えて、さらに中央に取り付けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施形態を示す鉛直方向断面図である。
【図2】図1の線A−Aによる矢視断面図である。
【図3】圧力センサーの取付け部を拡大して示す鉛直方向断面図である。
【図4】測定孔のゴム層側部分を形成する方法を説明するための鉛直方向断面図である。
【図5】別の実施形態を示す図3と同様の図面である。
【図6】圧力センサーによって測定される圧力と荷重との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1 ゴム支承
2 上部構造
3 下部構造
4 上沓
5 下沓
6 ゴム沓(積層ゴム)
13 上部鋼板
14 下部鋼板
15 中間鋼板
16 ゴム層
21 測定孔
21a 測定孔の鋼板側部分
21b 測定孔のゴム層側部分
23 粘性流体
24 圧力センサー
26 受圧部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚肉の上下部鋼板及び薄肉の複数の中間部鋼板からなる鋼板とゴム層とを交互に積層してなる積層ゴムであって、
前記上下部鋼板のいずれか一方からその厚み方向に貫通して、隣接するゴム層内部に達する複数の測定孔を互いに間隔を置いて設け、各測定孔に粘性流体を充填するとともに、各測定孔の鋼板側部分に圧力センサーを取り付けて該測定孔を閉鎖したことを特徴とする荷重検知機能を備えた積層ゴム。
【請求項2】
前記各測定孔の鋼板側部分はねじ孔であり、このねじ孔に前記圧力センサーとしてボルト型圧力計を取り付けたことを特徴とする請求項1記載の荷重検知機能を備えた積層ゴム。
【請求項3】
前記各測定孔のゴム層側部分は内周が前記粘性流体との接触によって性状変化を受けにくいゴム材料でライニングされていることを特徴とする請求項1又は2記載の荷重検知機能を備えた積層ゴム。
【請求項4】
厚肉の上下部鋼板及び薄肉の複数の中間部鋼板からなる鋼板とゴム層とを交互に積層し、加硫接着によって成型する積層ゴムの製造方法であって、
前記上下部鋼板のいずれか一方にその厚み方向に貫通する複数のねじ孔を互いに間隔を置いて設け、加硫接着時に各ねじ孔に先端部が隣接する前記ゴム層に貫入する差し込みボルトを取付けておき、
成型後、前記差し込みボルトを抜き取ることにより前記ゴム層に形成される孔及び該孔と連通する前記ねじ孔によって複数の測定孔を形成し、
前記各測定孔に粘性流体を充填するとともに、前記ねじ孔にボルト型圧力センサーを取り付けて該測定孔を閉鎖することを特徴とする荷重検知機能を備えた積層ゴムの製造方法。
【請求項5】
上部構造と下部構造との間に設置され、前記上部構造に固定される上沓と、前記下部構造に固定される下沓と、前記上沓と下沓との間に配置されるゴム沓とを備えたゴム支承であって、
前記ゴム沓は請求項1〜3のいずれか1に記載の積層ゴムからなり、
前記下沓には前記各測定孔に開口する穴と、各穴と連通して前記下沓の側面に開口するする溝とが設けられ、
前記圧力センサーの入出力ケーブルは前記穴及び溝を通して外部に引き出されていることを特徴とするゴム支承。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−156284(P2009−156284A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331817(P2007−331817)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(591037694)川口金属工業株式会社 (36)
【出願人】(507420857)株式会社ネクスコ東日本エンジニアリング (1)
【Fターム(参考)】