説明

蒸着方法および蒸着装置

【課題】連続的に生産しても蒸着ずれが小さく、画素内の膜厚分布が良好かつ材料の無駄の少ない真空蒸着方法及び蒸着装置を提供する。
【解決手段】真空チャンバ1内に蒸着源ユニット100を固定し、蒸着源の蒸気3を横切るように基板4を移動させる間に、該基板4の所定個所に蒸着源の蒸気3を蒸着する。基板4の蒸着源ユニット100側に蒸着マスク5を設置し、真空チャンバ1内には複数のローラ13によるマスクフレーム7の移動手段を有し、マスクフレーム7の蒸着源ユニット100側の面に対して非接触かつ近接して設けた冷却手段を持つ冷却板11を該マスクフレーム7が移動する軌道上に設ける。冷却板11には蒸着源ユニット100の近傍に部分的に開口部60を設け、蒸着源ユニット100の冷却プレート14の開口部70を通して蒸着源2で発生した蒸気3を蒸着マスク5及び基板4に吹き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着方法および蒸着装置にかかり、特に有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する有機材料層の形成に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機EL)表示素子は、電流駆動される有機EL素子を2次元に配置して画像を表示するものである。有機EL素子は、通常、ガラス等の絶縁性の基板(画素駆動用の薄膜トランジスタなどが形成されるアクティブ基板)に形成した一対の電極の一方の電極上に正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の有機材料薄膜(有機膜)を順次成膜し、この積層膜の積層構造の最上層に一対の電極の他方の電極膜を形成したものである。他方の電極膜の上方には、有機EL素子を外部雰囲気から遮断して湿気等の侵入を抑制する封止缶とも呼ばれる封止基板が設置される。
【0003】
この積層構造を挟持して形成される前記一対の電極により当該積層構造の積層方向に電流を流す。当該一対の電極の少なくとも一方は、アクティブ基板側に表示光を出射する、所謂ボトムエミッション型では透明な(可視光を通し易い)電極で構成される。封止基板もまた透明基板であることは言うまでもない。
【0004】
より具体的には、ガラスやプラスチックスからなる透明基板上に画素毎に形成された一方の電極である第1電極(通常は陽極)の上に正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層を積層して発光層を構成する。そして、電子注入層(上記積層構造の最上層)の上を他方の電極である第2電極(通常は陰極)で覆って、当該第1電極と第2電極の間に電流を流す。これにより、当該積層構造(発光層)に注入されたキャリア(電子と正孔)が再結合し、光が発せられる。表示光を封止基板と反対側に出射する、所謂トップエミッション型の場合は第1では金属膜からなる反射性電極であり、アクティブ基板もまた透明でなくてもよい。なお、以下では、特に必要な場合を除いてアクティブ基板を単に基板と称する。
【0005】
有機膜は、一般的に真空蒸着法により形成される。基板上に形成される上記積層構造をなす有機材料層の各々は、真空雰囲気を保持した容器である真空チャンバ内に設置された蒸着源ユニットの蒸着坩堝内の有機材料を材料の蒸発温度付近まで加熱して蒸発させ、これを当該真空チャンバ内に導入された基板の主面上に蒸着させて、形成される。詳細には、真空チャンバ内に導入された基板の主面上に、当該主面における画素配置に対応したパターンで開口された所謂メタルマスクと呼ばれる金属材料で構成したマスクが配置される。
【0006】
前記蒸発した有機材料は、このマスクの開口を通して、当該基板の主面における指定された領域(例えば、個々の画素に対応する部分)に当該有機材料の薄膜として蒸着される。なお、前記した発光層を蒸着する場合には、主材料となる有機材料と添加材料(例えば、他の有機材料)とを、基板主面の前記指定された領域に同時に蒸着することもある。
【0007】
メタルマスクは、その平面の平坦性を維持するために、金属製の枠であるマスクフレームにテンションをかけた状態で接着または溶接される。以下、メタルマスクとマスクフレームの複合体を蒸着マスクと記述する。
【0008】
前記蒸着坩堝は、有機材料を収容する蒸発用容器を備え、その蒸発用容器に収容された有機材料を蒸発させて、真空チャンバ内に置かれた基板上に有機化合物の蒸着膜を形成する。この蒸発用容器には、その内部で蒸発された有機材料が真空チャンバ内へ蒸散する方向性と量を規制する噴出口(ノズル部)が設けられる。
【0009】
一般的に、真空蒸着法には、クラスタ方式とインライン方式の2つに大別できる。特許文献1に記載されたクラスタ方式では、中央に搬送用の真空チャンバ(搬送室)を有し、それを中心に成膜用の真空チャンバ(成膜室)が配置される。中央搬送室にはロボットが設けられ、基板のみを枚葉搬送する。基板を最初に加熱室で加熱し、次に酸素プラズマ処理室に搬送して表面のコンディショニングを行い、その後、冷却室で基板を冷却した後に別のクラスタ装置に搬送して成膜処理を行う。
【0010】
成膜する時には、各成膜室内では、まず成膜室毎に用意した蒸着マスクと基板とをアライメントし、重ね合わせてから成膜する。特許文献1では成膜前に基板を事前に冷却することにより、基板の熱膨張によるずれを防止していた。成膜については、基板側を固定して蒸着源をスキャンして成膜する方法と基板側を固定させて蒸着源を固定する方法が実用化されている。
【0011】
特許文献2に記載されたインライン方式では、成膜処理する順番に成膜室を配置し、蒸着マスクと基板を重ね合わせた複合体をキャリアに固定し、各成膜室に設置した搬送ローラによってキャリアを搬送する。各成膜室には固定した蒸着源を有し、キャリアが蒸着源の前を通過することにより成膜が行われる。
【0012】
クラスタ方式では、搬送室と成膜室との間で基板の受渡しがあり、その後各成膜室で蒸着マスクとのアライメントする動作必要があり、連続的に基板を処理する場合、インライン方式の方がスループットおよび材料の利用面で効率がよい。
【0013】
一方、真空蒸着では、画素毎に成膜する膜を変更する場合、基板と蒸着マスクの双方が温度上昇し、熱膨張によりずれが生じることが問題となる。特許文献3では、基板と対向する坩堝に基板方向に向けた突出部を設け、突出部に蒸気を放出する穴を設け、突出部の周囲に放射熱を阻止する構造物を設け、基板や蒸着マスクへの温度上昇を低減する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2006−260939号公報
【特許文献2】特開2002−348659号公報
【特許文献3】特開2004−214185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
図8は、インライン方式の従来の蒸着装置を説明する基板進行方向の模式断面図である。図9は、蒸着マスクに起因するシャドー効果による画素周辺部の膜厚減少を説明する図である。なお、図9の(a)は図8の一つのキャリアユニット200部分を、図9の(b)は図9の(a)の丸で囲んだ1画素部分の拡大図である。図8において、真空チャンバー1の内部に蒸着源ユニット100が設置されている。蒸着源ユニット100は、蒸着源2と冷却板14およびリフレクタ15で構成される。冷却板14の上方を搬送される基板4側には上記噴出口が形成され、この噴出口から蒸気3が噴出す。基板4の蒸着源ユニット100側に近接して蒸着マスク5が配置される。蒸着マスク5は、メタルマスク6とこのメタルマスク6を架張保持するマスクフレーム7で構成される。
【0015】
蒸着マスク5はプレート9と磁石10でメタルマスク6に密着される。この蒸着マスク5は搬送ローラ13上を矢印A方向に移動するキャリア8に載置されてら噴出する蒸気3の上を搬送される。基板4を載せたキャリア8をキャリアユニット200と称する。図8に示すように、成膜処理を重ねて行く過程でキャリア8に搭載された蒸着マスク5と基板4は、250℃から400℃に加熱した蒸着源2からの放射熱によって温度が上昇する。
【0016】
一般的に、ガラスを好適とする基板4と金属である蒸着マスク5とは熱膨張率が異なる。そのため、双方の温度上昇により目標とする画素に対する蒸着ずれが生じる。また、成膜は真空で行われ、キャリア8、蒸着マスク5、基板4は温度上昇して行く。さらに、キャリア8と蒸着マスク5は真空雰囲気下で保管しておいて、繰り返し使用するため、キャリア8と蒸着マスク5の放熱は困難であり、長期間の連続運転で、成膜開始時と終了時で画素に対する成膜位置のずれが生じてしまう。
【0017】
また、蒸着源から発生する蒸気の指向性が小さく、幅広い範囲に蒸気が到達する場合、図9の(b)に示すように、基板4が蒸着源2から遠い時点から蒸着が始まると、メタルマスクの影32が生じ、蒸着膜30については画素内の周辺部の膜厚が薄くなる現象(シャドー効果)が生じる。膜厚に分布が生じると、一対の電極間に電流を流した時に、膜内で電流密度に分布が生じ、膜の薄い部分の発光量が大きく、部分的に劣化が促進される。
【0018】
シャドー効果を防ぐためには、メタルマスク6の蒸着源側の孔の開口部を拡大させてテーパ角31を持たせ、メタルマスク6の影が生じないようにするか、蒸着源2の蒸気3の指向性を高くして蒸着できる範囲を狭める方法が挙げられる。しかし、有機ELパネルの高精細化に伴いメタルマスク6の孔ピッチは狭まるが、メタルマスク6の板厚は強度の問題があるため、薄くすることが困難であり、対応に限界がある。蒸気3の指向性を高くするためには、蒸着源2における坩堝の噴出口(ノズル)の深さを大きくとり、ノズルの径(または幅)を小さくすることで対応するが、ノズル内面の微小な凹凸により所望よりも広い範囲に蒸気が拡散する。
【0019】
本発明の目的は、基板、蒸着マスク、キャリアの温度上昇を低減し、基板への蒸着位置のずれが押さえて製品品質を安定化した有機EL表示装置の製造に好適な蒸着方法および蒸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成するための本発明の代表的な蒸着方法および蒸着装置は以下の通りである。本発明は有機EL素子の発光層を構成する有機材料の積層構造の形成に好適なものである。すなわち、
方法1:真空雰囲気を保持した容器内に設置した蒸着源ユニット内に蒸着源となる材料を固定し、該蒸着源ユニットの蒸気噴出口から噴出する蒸気を横切って蒸着対象の基板を移動させている間に該基板の所定個所に前記材料を蒸着する。この際、前記基板に対して、前記材料を蒸着する個所に対応した孔が開いたシートと該シートを平面に保持するマスクフレームを備えた蒸着マスクを密着させて設置し、
前記真空雰囲気を保持する容器に設けた複数のローラを有する移動手段で前記マスクフレームを移動し、
前記マスクフレームが移動する軌道上で、前記マスクフレームの前記蒸着源側の面に対して非接触かつ近接して設けた冷却手段を持ち、前記蒸着源の近傍に部分的に開口部を有する冷却プレートの該開口部を通じて前記蒸着源ユニットの上記蒸気噴出口から噴出した前記材料の蒸気を前記蒸着マスク及び前記基板に吹き付けることを特徴とする。
【0021】
方法2:真空雰囲気を保持した容器内に設置した蒸着源ユニット内に蒸着源となる材料を固定し、該蒸着源ユニットの蒸気噴出口から噴出する蒸気を横切って蒸着対象の基板の移動させることにより、該基板の所定個所に前記材料を蒸着する。この際、前記基板に対して、前記材料を蒸着する個所に対応した孔が開いたシートと該シートを平面に保持するマスクフレームを備えた蒸着マスクを密着させて設置し、
前記真空雰囲気を保持する容器に設けた複数のローラと開口部を有して前記蒸着マスクを密着させて搬送するキャリアで前記マスクフレームを移動し、
前記マスクフレームが移動する軌道上で、前記マスクフレームの前記蒸着源側の面に対して非接触かつ近接して設けた冷却手段を持ち、前記蒸着源の近傍に部分的に開口部を有する冷却プレートの該開口部を通じて前記蒸着源ユニットの上記蒸気噴出口から噴出した前記材料の蒸気を前記蒸着マスク及び前記基板に吹き付けることを特徴とする。
【0022】
本発明の蒸着方法では、上記方法1又は2において、前記蒸着源の近傍に設ける前記冷却プレートの開口部の前記基板の進行方向の幅が、前記蒸着源のユニットの前記蒸気噴出口の前記基板の進行方向の幅より大きく、前記基板の進行方向の長さよりも小さいことを特徴とする。前記真空雰囲気を形成する容器の外側から前記搬送用のローラ内部に冷却液を循環させて冷却することを特徴とする。
【0023】
蒸着装置1:真空雰囲気を保持した容器内に設置した蒸着源ユニット内に蒸着源となる材料を固定し、該蒸着源ユニットの蒸気噴出口から噴出する前記材料の蒸気を横切って蒸着対象の基板を移動させている間に該基板の所定個所に前記材料を蒸着する装置である。そして、前記基板へ前記材料を蒸着する個所に対応した孔が開いたシートと該シートを平面に保持するマスクフレームを備えた蒸着マスクと、
前記基板の前記蒸着源側に設置して該基板と該蒸着マスクを密着させる蒸着マスク密着手段と、
前記真空雰囲気を保持する容器に設けた複数のローラによるマスクフレームの移動手段と、
前記マスクフレームの前記蒸着源側の面に対して非接触かつ近接するように設けた冷却手段を持つと共に該蒸着源の近傍に部分的な開口部を有して前記マスクフレームが移動する軌道上に設けた冷却プレートとを有し、
前記冷却プレートの前記開口部を通じて前記蒸着源で発生した前記材料の蒸気を前記蒸着マスク及び前記基板に吹き付けることを特徴とする。
【0024】
蒸着装置2:真空雰囲気を保持した容器内に設置した蒸着源ユニット内に蒸着源となる材料を固定し、該蒸着源の蒸気を横切るように蒸着対象の基板の移動させることにより、該基板の所定個所に前記材料を蒸着する装置である。そして、この蒸着装置は、前記基板へ前記材料を蒸着する個所に対応した孔が開いたシートと該シートを平面に保持するマスクフレームを備えた蒸着マスクと、
前記基板の前記蒸着源側に設置して該基板と該蒸着マスクを密着させる蒸着マスク密着手段と、
前記基板の前記蒸着源側に前記蒸着マスクを密着し、開口部を有して搬送するキャリアと、
前記真空雰囲気を保持する容器には複数のローラによる前記キャリアの移動手段と、
前記マスクフレームが移動する軌道上に設けて前記キャリアの前記蒸着源側の面に対して非接触かつ近接して設けた冷却手段を持つと共にがい蒸着源の近傍に部分的に開口部を有する冷却プレートとを有し、
前記冷却プレートの前記開口部を通じて蒸着源ユニットの前記噴出口から噴出した前記材料の蒸気を前記蒸着マスク及び前記基板に吹き付けることを特徴とする。
【0025】
本発明の蒸着装置では、上記装置1又は2において、前記蒸着源の近傍に設ける前記冷却プレートの前記開口部の前記基板の進行方向の幅が、前記蒸着源ユニットの前記噴出口の幅より大きく、前記基板の進行方向の長さよりも小さいことを特徴とする。また、前記真空雰囲気を形成する容器の外側から搬送用のローラ内部に冷却液を循環させて冷却する機能を持つことを特徴とする。
【0026】
なお、本発明の蒸着装置では、前記マスクフレームと前記冷却プレートの該マスクフレーム側、および/または、前記マスクフレームと前記キャリアの該マスクフレームに対向する面および前記冷却プレートの前記キャリア側に黒色の皮膜を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、いわゆるインライン式の真空蒸着において、真空チャンバに設置した冷却板をキャリア又は蒸着マスクのフレームに対して、その搬送と成膜中には近接させた状態となる。このため、従来に比べて高温の蒸着源からの放射熱が基板、蒸着マスク、キャリアへ伝達するのを抑制でき、同時に蒸着マスク又はキャリアについては、冷却板への放射による冷却が期待できる。また、搬送用のローラ自体に冷却機能を持たせれば、更に冷却効果が高くなる。
【0028】
これらにより、基板、蒸着マスク、キャリアへのプロセス中での温度上昇が低減されるため、蒸着位置のずれが抑制される。さらに、蒸着マスクとキャリアを繰り返し使用した場合の温度変化も低減できるため、成膜開始時と終了時で蒸着ずれの変化も低減でき、製品品質が安定化する。
【0029】
蒸着源上方の蒸着したい領域に冷却板の開口部を設けることにより、蒸発源のノズルで制御しきれずに幅広く拡散してしまう蒸気をカットし、必要な範囲だけに蒸着できるようになる。これにより、基板の進行方向におけるシャドー効果が低減できるため、画素内の蒸着膜厚の分布が低減し、素子特性が安定化し、超寿命な素子を製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明にかかる蒸着方法と蒸着装置の最良の実施形態について、蒸着装置の実施例の図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0031】
図1は、本発明にかかる蒸着装置の実施例1を説明する断面図である。また、図2は、図1を上側からみた平面図である。真空雰囲気を保持する容器である真空チャンバ1の内部には蒸着源ユニット100が設置される。蒸着源ユニット100の内部には蒸着源となる材料が固定され、蒸着源ユニット100には蒸気の噴出ノズルである蒸気噴出口70を有する。真空チャンバ1の内部で蒸着源ユニット100の上方には搬送ローラ13で矢印Aで示した移動方向に搬送されるキャリアセット200が配置される。
【0032】
搬送されるキャリアセット200の上記蒸着源ユニット100側に近接して冷却板11が一体に設置される。冷却板11の蒸着源ユニット100側には、冷却板11への蒸気の付着を防止する防着板12が設けてある。蒸気噴出口70から噴出する蒸気3を横切って蒸着対象の基板4を矢印A方向に移動させている間に、冷却版11の開口部60を通して、かつ蒸着マスク5を通して該基板4の所定個所に前記材料を蒸着する。蒸着源2を固定し、該蒸着源2の真空チャンバ1への取り付け面に対して、蒸着源2は垂直方向に蒸気3を供給する。
【0033】
上記したように、中央部に開口部を持つキャリア8の上に蒸着マスク5と成膜される基板4が固定される。キャリアセット200は、キャリア8、メタルマスクとフレーム7からなる蒸着マスク5、プレート9、磁石10で構成される。蒸着マスク5は基板4の所定の画素又は領域に成膜できるように孔加工が施されているメタルマスク6とメタルマスク6に弛みが生じないようにテンションをかけるための枠であるマスクフレーム7を接着あるいは溶接して構成される。メタルマスク6やマスクフレーム7などは、処理中に温度変化するので、精度を補償するために、インバー材などの低膨張率金属材料を用いるのが好ましい。また、メタルマスクに関しては磁石で吸着できる材質が好ましい。
【0034】
基板4は蒸着マスク5に対して位置決めし、基板4を撓ませないようにするプレート9をあてがいながら、更にプレート9に磁石10を接近させてそれぞれを固定する。磁石10は基板4とメタルマスク6とを密着させるために用いる。
【0035】
キャリア8は蒸着源2から放出する蒸気2を横切るように搬送することで、蒸着マスク5を介して基板4に成膜して行く。キャリア8の搬送を行うためには複数個の搬送ローラ13を真空チャンバ1に設置する。搬送ローラ13は外部からの動力により、所定の速度で同期させながら回転させて搬送ローラ13上のキャリア8を矢印A方向に移動させる。搬送ローラ13同士の同期を取るための機構としては、歯車やタイミングベルトを用いるのが一般的であるが、それぞれのローラ毎にモータを用意し、電気的に同期をとる機構を採用してもよい。しかし、真空チャンバ1内部での真空度の確保、汚染の防止の観点から、この同期を取るための機構やモータなどの駆動系は真空チャンバ1外部に設けるのが好ましい。
【0036】
従来から、一般的に蒸着源2の熱をキャリア8、蒸着マスク5、基板4への放射熱として伝播させないように蒸着源2の周辺をリフレクタ15や冷却板14で覆う。蒸着源ユニット100は、蒸着源2とリフレクタ15と冷却板14のセットである。本発明者の検討によれば、このような蒸着源ユニット100を採用しても、3〜4段階の蒸着を行うと5〜30℃程度温度上昇が起こる。このため、次のような手段を採用した。
【0037】
キャリア8の蒸着源2側の面の近傍に冷却手段を講じた冷却板11を近接して設置する。冷却板11には真空チャンバ1外部から冷却液を導入し、その内部を循環させる。冷却液は水でも良いが、より大きな効果を得るには、真空チャンバ1外部に冷却水の冷却手段を設け、プロセス開始時と終了時の蒸着マスク5の温度変化が無いように冷却水温度を調整することが望ましい。冷却板11には蒸着源ユニット100と対峙する部分に開口部60を設け、蒸着処理中に必要以上にキャリア8、蒸着マスク5、基板4への放射熱の伝播を防ぐことができた。また、キャリア8と冷却板11を現実的な構造上の設置限界である0.5から3mmの範囲で近接させ、キャリア8の軌道と平行させて設置することにより、キャリアセット200が移動中に放射による放熱も図ることができる。
【0038】
図2に示したように、蒸着源2の近傍に設ける冷却プレート14の開口部60の基板4の進行方向Aの方向の幅W1は、蒸着源ユニット100の蒸気噴出口70の基板4の進行方向の幅W2より大きく、基板4の上記進行方向の長さW3よりも小さい。
【0039】
また、キャリア8の放熱の効率を高めるために、キャリア8と冷却板11と対向する面に黒色の皮膜を形成することが望ましい。黒色の皮膜としては、黒色クロムめっき、黒色アルマイト、アルミナ‐チタニア溶射が有効であるが、真空中でガス放出が少なく、有機物の汚染が発生しないものであれば使用可能である。同様に、蒸着マスク5とキャリア8の対向面についても黒色の表面処理を施すのが好ましい。
【0040】
冷却板11を設けて、図1に示すように基板の進行方向に関して蒸気3の指向性を狭めることにより、進行方向の画素内の膜厚分布変動を引き起こすシャドー効果を抑制できる。
【0041】
実施例1に示したキャリアセット200を1台用いて単独で蒸着処理したのでは製造効率が悪い。しかし、キャリアセット200を複数台用意し、間隔を狭めた状態で走行させて蒸着処理させることにより、スループットを向上することができると共に、蒸着材料が基板4へ付着する効率も向上し、基板あたりに必要な材料コストを低減させることができる。
【0042】
また、冷却板11を設けたことにより基板への蒸着に用いられない材料の蒸気は冷却板11にトラップされる。このため、真空チャンバ1、キャリア8や搬送ローラ13などの部材に蒸着源2の蒸気3が付着するのを低減でき、真空チャンバ1内部への有機物汚染が小さくなる。その結果、基板に成膜した膜の純度が向上し、表示素子の特性や寿命も向上する。一方、蒸気の進行を制限しているため、冷却板11の側に材料が集中して堆積してゆく。そこで、防着板12を冷却板11の蒸着源ユニット100に対向する面に装着することにより、高価な蒸着源材料の回収を図ることができる。
【実施例2】
【0043】
図3は、本発明にかかる蒸着装置の実施例2を説明する搬送ローラの冷却構造の断面図である。図3において、搬送ローラ13とキャリア8の基本的な構成、および蒸着源ユニット100やキャリアセット200の構造は実施例1と同様である。図1に示した実施例1の冷却構造は、キャリア8、蒸着マスク5、基板4の熱を放射することで冷却する構造としてある。一般的に、接触による熱伝導での冷却の方が放射による冷却よりも効率が良いので、実施例2では搬送ローラ13自体に冷却機能を持たせるようにした。
【0044】
図3において、真空チャンバ1と搬送ローラ13の真空シールは、搬送ローラ13の軸部外側に磁性流体真空シール23及び搬送ローラ13の回転を可能とする軸受28を組合せてケース27に収容した磁性流体シールユニット16により実現する。ケース27と真空チャンバ1はOリング26で気密に封止される。
【0045】
搬送ローラ13のキャリア8に接触する円筒部と軸部は金属材料で一体形成したものとする。金属材料以外でも、十分に強度が保て、かつ熱伝導率が比較的良好なもの、更に比熱が小さいものであればなお良い。ここでは、SUS303を用いた。搬送ローラ13は搬送ローラ駆動機構17で駆動される。
【0046】
搬送ローラ13の軸の内部には、大気雰囲気の側から見て筒状の穴があり、その内側に回転しない固定軸20を設ける。固定軸20に対して搬送ローラ13は、その軸内部に設けた軸受25によって自由に回転する。固定軸20には2個の孔があけてあり、搬送ローラ13の円筒部内に冷却液22を送り込める構造となっている。冷却液22が固定軸20と搬送ローラ13の間の隙間から漏れないようにメカニカルシール24を施す。冷却液22が搬送ローラ13内部をうまく循環できるように、固定軸20の搬送ローラ13側の端部において、冷却液循環用の2つの孔の間に邪魔板21を設置することで、冷却液22は効率よく搬送ローラ13を冷却することができる。
【実施例3】
【0047】
図4は、本発明にかかる蒸着装置の実施例3を説明する断面図である。キャリアセット200は、図4の紙面から手前に搬送される。また、図5は、図4を基板側からみた側面図である。なお、実施例3ではマスクフレーム7にキャリア8の機能を持たせてキャリア8を省略することも可能である。実施例1では、キャリア8、蒸着マスク5、基板4を有するキャリアセット200を水平に搬送していたが、実施例3では、キャリアセット200を上下に立てて搬送しながら成膜する構成としたものである。そして、蒸着源ユニット100を真空チャンバ1の側壁面に取り付け、基板4全体に蒸気3が到達するようにする。
【0048】
キャリアセット200を立てて搬送するのに伴い、搬送ローラ13はキャリアセット200の上下に設ける。なお、キャリアセット200が走行中に脱落しないように、適宜のガイドを設けるとよい。キャリアセット200は必ずしも垂直に立てる必要はなく、ある程度は斜めに立てて移動させる厚生とすることもできる。また、キャリアセット200に対して蒸着源ユニット100を下に設置し、斜めに搬送しても効果は同様である。実施例3のローラ13の部分に図3に示した冷却構造を採用することもできる。
【0049】
図6は、本発明の蒸着方法および蒸着装置で製造される有機EL表示素子を説明する要部断面図である。また、図7は、図6におけるアクティブ基板の斜視図である。有機EL表示素子は、アクティブ基板40と封止基板50をシール材52で気密封止されている。アクティブ基板40の主面には薄膜トランジスタ41が形成されており、絶縁膜42、平坦化膜43の部分で発光駆動回路48を構成する。平坦化膜43の上に第1電極44が形成され、この第1電極44の上に前記で説明した実施例の何れかによる有機発光膜45が蒸着されている。この有機発光膜45を覆って第2電極47が成膜されている。
【0050】
有機発光膜45は、隣接する画素49との間に絶縁材料で形成されたバンク46の間に形成される。なお、封止基板50の内側には、気密容器内の湿気を吸着する乾燥剤51が封入される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、有機EL表示装置の有機発光層の形成に好適であるが、有機材料を蒸着する種々の装置の製造における蒸着装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明にかかる蒸着装置の実施例1を説明する断面図である。
【図2】図1を上側からみた平面図である。
【図3】本発明にかかる蒸着装置の実施例2を説明する搬送ローラの冷却構造の断面図である。
【図4】本発明にかかる蒸着装置の実施例3を説明する断面図である。キャリアセット200は、図4の紙面から手前に搬送される。
【図5】図4を基板側からみた側面図である。
【図6】本発明の蒸着方法および蒸着装置で製造される有機EL表示素子を説明する要部断面図である。
【図7】図6におけるアクティブ基板の斜視図である。
【図8】インライン方式の従来の蒸着装置を説明する基板進行方向の模式断面図である。
【図9】蒸着マスクに起因するシャドー効果による画素周辺部の膜厚減少を説明する図である。
【符号の説明】
【0053】
1・・・真空チャンバ、2・・・蒸着源、3・・・蒸気、4・・・基板、5・・・蒸着マスク、6・・・メタルマスク、7・・・マスクフレーム、8・・・キャリア、9・・・プレート、10・・・磁石、11・・・冷却板、12・・・防着板、13・・・搬送ローラ、14・・・冷却板、15・・・リフレクタ、16・・・磁性流体シールユニット、17・・・搬送ローラ駆動機構、20・・・固定軸、21・・・邪魔板、23・・・冷却液、24・・・メカニカルシール、25・・・軸受、26・・・Oリング、27・・・ケース、28・・・軸受、30・・・蒸着膜、31・・・テーパ角、32・・・マスクの影、60・・・冷却板開口部、70・・・噴出口、1000・・・蒸着源ユニット、200・・・キャリアセット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空雰囲気を保持した容器内に設置した蒸着源ユニット内に蒸着源となる材料を固定し、該蒸着源ユニットの蒸気噴出口から噴出する蒸気を横切って蒸着対象の基板を移動させている間に該基板の所定個所に前記材料を蒸着する方法であって、
前記基板に対して、前記材料を蒸着する個所に対応した孔が開いたシートと該シートを平面に保持するマスクフレームを備えた蒸着マスクを密着させて設置し、
前記真空雰囲気を保持する容器に設けた複数のローラを有する移動手段で前記マスクフレームを移動し、
前記マスクフレームが移動する軌道上で、前記マスクフレームの前記蒸着源側の面に対して非接触かつ近接して設けた冷却手段を持ち、前記蒸着源の近傍に部分的に開口部を有する冷却プレートの該開口部を通じて前記蒸着源ユニットの上記蒸気噴出口から噴出した前記材料の蒸気を前記蒸着マスク及び前記基板に吹き付けることを特徴とする蒸着方法。
【請求項2】
真空雰囲気を保持した容器内に設置した蒸着源ユニット内に蒸着源となる材料を固定し、該蒸着源ユニットの蒸気噴出口から噴出する蒸気を横切って蒸着対象の基板の移動させることにより、該基板の所定個所に前記材料を蒸着する方法であって、
前記基板に対して、前記材料を蒸着する個所に対応した孔が開いたシートと該シートを平面に保持するマスクフレームを備えた蒸着マスクを密着させて設置し、
前記真空雰囲気を保持する容器に設けた複数のローラと開口部を有して前記蒸着マスクを密着させて搬送するキャリアで前記マスクフレームを移動し、
前記マスクフレームが移動する軌道上で、前記マスクフレームの前記蒸着源側の面に対して非接触かつ近接して設けた冷却手段を持ち、前記蒸着源の近傍に部分的に開口部を有する冷却プレートの該開口部を通じて前記蒸着源ユニットの上記蒸気噴出口から噴出した前記材料の蒸気を前記蒸着マスク及び前記基板に吹き付けることを特徴とする蒸着方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記蒸着源の近傍に設ける前記冷却プレートの開口部の前記基板の進行方向の幅が、前記蒸着源のユニットの前記蒸気噴出口の前記基板の進行方向の幅より大きく、前記基板の進行方向の長さよりも小さいことを特徴とする蒸着方法。
【請求項4】
請求項1又は2において、
前記真空雰囲気を形成する容器の外側から前記搬送用のローラ内部に冷却液を循環させて冷却することを特徴とする蒸着方法。
【請求項5】
請求項1又は2において、
前記蒸着源となる材料が有機エレクトロルミネッセンス表示素子の発光層を構成する有機材料であることを特徴とする蒸着方法。
【請求項6】
真空雰囲気を保持した容器内に設置した蒸着源ユニット内に蒸着源となる材料を固定し、該蒸着源ユニットの蒸気噴出口から噴出する前記材料の蒸気を横切って蒸着対象の基板を移動させている間に該基板の所定個所に前記材料を蒸着する装置であって、
前記基板へ前記材料を蒸着する個所に対応した孔が開いたシートと該シートを平面に保持するマスクフレームを備えた蒸着マスクと、
前記基板の前記蒸着源側に設置して該基板と該蒸着マスクを密着させる蒸着マスク密着手段と、
前記真空雰囲気を保持する容器に設けた複数のローラによるマスクフレームの移動手段と、
前記マスクフレームの前記蒸着源側の面に対して非接触かつ近接するように設けた冷却手段を持つと共に該蒸着源の近傍に部分的な開口部を有して前記マスクフレームが移動する軌道上に設けた冷却プレートとを有し、
前記冷却プレートの前記開口部を通じて前記蒸着源で発生した前記材料の蒸気を前記蒸着マスク及び前記基板に吹き付けることを特徴とする蒸着装置。
【請求項7】
真空雰囲気を保持した容器内に設置した蒸着源ユニット内に蒸着源となる材料を固定し、該蒸着源の蒸気を横切るように蒸着対象の基板の移動させることにより、該基板の所定個所に前記材料を蒸着する装置であって、
前記基板へ前記材料を蒸着する個所に対応した孔が開いたシートと該シートを平面に保持するマスクフレームを備えた蒸着マスクと、
前記基板の前記蒸着源側に設置して該基板と該蒸着マスクを密着させる蒸着マスク密着手段と、
前記基板の前記蒸着源側に前記蒸着マスクを密着し、開口部を有して搬送するキャリアと、
前記真空雰囲気を保持する容器には複数のローラによる前記キャリアの移動手段と、
前記マスクフレームが移動する軌道上に設けて前記キャリアの前記蒸着源側の面に対して非接触かつ近接して設けた冷却手段を持つと共にがい蒸着源の近傍に部分的に開口部を有する冷却プレートとを有し、
前記冷却プレートの前記開口部を通じて蒸着源ユニットの前記噴出口から噴出した前記材料の蒸気を前記蒸着マスク及び前記基板に吹き付けることを特徴とする蒸着装置。
【請求項8】
請求項6又は7において、
前記蒸着源の近傍に設ける前記冷却プレートの前記開口部の前記基板の進行方向の幅が、前記蒸着源ユニットの前記噴出口の幅より大きく、前記基板の進行方向の長さよりも小さいことを特徴とする蒸着装置。
【請求項9】
請求項6又は7において、
前記真空雰囲気を形成する容器の外側から搬送用のローラ内部に冷却液を循環させて冷却する機能を持つことを特徴とする蒸着装置。
【請求項10】
請求項6において、
前記マスクフレームと前記冷却プレートの該マスクフレーム側に黒色の皮膜を有することを特徴とする蒸着装置。
【請求項11】
請求項7において、
前記マスクフレームと前記キャリアの該マスクフレームに対向する面および前記冷却プレートの前記キャリア側に黒色の皮膜を有することを特徴とした蒸着装置。
【請求項12】
請求項6又は7において、
前記蒸着源となる材料が有機エレクトロルミネッセンス表示素子の発光層を構成する有機材料であることを特徴とする蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−19243(P2009−19243A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−183242(P2007−183242)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【Fターム(参考)】