説明

蒸着用マスク

【課題】 従来の蒸着用マスクに比較して蒸着パターンの精細化をより推進することができる蒸着用マスクを提供すること。
【解決手段】 本発明の蒸着用マスクは、金属箔からなる第1の層と、この金属箔とエッチング特性が異なる成分の金属箔からなる膜厚0.01μm〜1μmの第2の層との積層構造を有し、第2の層に蒸着用のマスクパターンとなる所定寸法の開口部が形成され、第2の層に形成された開口部に対応する第1の層の部分が、第2の層に形成された開口部よりも表面に向かって幅広に穿孔されて貫通孔が設けられている、第1の層の表面が蒸着源に面するようにして用いる、蒸着材料を所定のパターンで被蒸着基板の表面に蒸着させるための蒸着用マスクである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着やスパッタリングなどによる成膜時に用いられるマスク(以下、「蒸着用マスク」という)に関し、特に有機EL(Electro Luminescence)素子を製造する際に用いられる蒸着用マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の蒸着用マスクとしては、金属製のマスク基板にフォトリソ工程にて所定寸法のマスクパターンを形成したものがある。このようにして製造された蒸着用マスクは、被蒸着基板の蒸着側表面から所定の間隔を隔てた位置にセットされ、当該マスクを介して蒸着源から飛散させた蒸着材料を被蒸着基板に到達させることで、蒸着材料を所定のパターンで被蒸着基板の表面に蒸着させるために用いられる。
ところで、蒸着用マスクの厚みは、本来、蒸着パターンの精細化のためには薄ければ薄いほど望ましい。なぜなら、図3に示したように、蒸着用マスク11の厚みが厚ければ厚いほど、蒸着源側の開口部の端部15は、蒸着源3との位置関係において、被蒸着基板2の表面への蒸着源3から飛散させた蒸着材料4の到達の支障となり、被蒸着基板2の表面に生じる影Xが大きくなるので、被蒸着基板2の表面に形成される蒸着被膜の膜厚の不均一性が顕著になり、蒸着パターンの精細度に悪影響を及ぼすからである。
しかし、蒸着用マスクの厚みを薄くすれば、その機械的強度が低下することで撓みの問題が発生し、今度はこれに起因して被蒸着基板の表面に形成される蒸着被膜の膜厚が不均一となる。
従って、蒸着用マスクの厚みを薄くすることには限度があり、一般に、蒸着用マスクの厚みは少なくとも50μm程度は必要とされている。
【0003】
以上のような問題を解決する方法として、例えば、下記の特許文献1において、単一のシリコン薄膜からなるマスク層と、そのマスク層に形成され、蒸着源側に向かって開口幅が広がる形状のマスク開口部を有するマスクパターンとを備えた蒸着用マスクが提案されている。この蒸着用マスクによれば、マスク開口部を蒸着源側に向かって開口幅が広がる形状としていることから被蒸着基板の表面に生じる影Xを小さくすることができる点において優れている。しかし、蒸着用マスクとしての機械的強度を確保するためにはその厚みは少なくとも10μmは必要とされているので、やはり厚みを薄くすることには限度があり、この蒸着用マスクをもってしても上記の問題が解決されたとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−220656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、従来の蒸着用マスクに比較して蒸着パターンの精細化をより推進することができる蒸着用マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以上の背景に基づいてなされたものであり、本発明の蒸着用マスクは、請求項1記載の通り、Fe−Ni系やFe−Ni−Co系の低熱膨張率の合金箔からなる第1の層と、この合金箔とエッチング特性が異なる成分の金属箔からなる膜厚0.01μm〜1μmの第2の層との積層構造を有し、第1の層の内部に第2の層を構成する金属成分の熱拡散傾斜組成領域を備え、第2の層に蒸着用のマスクパターンとなる所定寸法の開口部が形成され、第2の層に形成された開口部に対応する第1の層の部分が、第2の層に形成された開口部よりも表面に向かって幅広に穿孔されて貫通孔が設けられている、第1の層の表面が蒸着源に面するようにして用いる、蒸着材料を所定のパターンで被蒸着基板の表面に蒸着させるための蒸着用マスクである。
また、請求項2記載の蒸着用マスクは、請求項1記載の蒸着用マスクにおいて、第2の層がTi,Ni,Si,Al,Cr,Ta,Co,Pd,Au,Ag,Mo,W,Nbから選ばれる少なくとも1種を含有する金属被膜である。
また、請求項3記載の蒸着用マスクは、請求項1または2記載の蒸着用マスクにおいて、第2の層が第1の層の表面に気相めっき法または湿式めっき法で形成されたものである。
また、請求項4記載の蒸着用マスクは、請求項1乃至3のいずれかに記載の蒸着用マスクにおいて、第2の層が第1の層の表面に積層形成された後または第2の層の第1の層の表面への積層形成中に熱処理が施されることにより、第1の層の内部に第2の層を構成する金属成分の熱拡散傾斜組成領域を形成したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来の蒸着用マスクに比較して蒸着パターンの精細化をより推進することができる蒸着用マスクが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の蒸着用マスクを用いた蒸着処理のモデル図である。
【図2】同蒸着用マスクの製造方法の一例の概略図である。
【図3】従来の蒸着用マスクを用いた蒸着処理のモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の蒸着用マスクは、Fe−Ni系やFe−Ni−Co系の低熱膨張率の合金箔からなる第1の層と、この金属箔とエッチング特性が異なる成分からなる第2の層との積層構造を有し、第2の層に所定寸法のマスクパターンが形成され、第2の層に形成された個々の開口部に対応する第1の層の部分が、第2の層に形成された開口部よりも表面に向かって幅広に穿孔されて貫通孔が設けられている、第1の層の表面が蒸着源に面するようにして用いる、蒸着材料を所定のパターンで被蒸着基板の表面に蒸着させるための蒸着用マスクである。
本発明の蒸着用マスクにおいて、マスク本来の機能を担っているのは第2の層であり、第1の層は、第2の層が担っているマスク本来の機能を損なわしめることなく蒸着用マスクの機械的強度を確保するための機能を担っている。図1に示したように、本発明の蒸着用マスク1においては、第2の層1bに形成された所定寸法のマスクパターンにおける開口部に対応する第1の層1aの部分が、第2の層1bに形成された開口部よりも表面に向かって幅広に穿孔されて貫通孔が設けられているので、その端部が、蒸着源3との位置関係において、被蒸着基板2の表面への蒸着源3から飛散させた蒸着材料4の到達の支障となることがない。従って、被蒸着基板2の表面に生じる影Xの大きさは、第2の層1bの膜厚にのみ影響を受けるところ、蒸着用マスク1の機械的強度は第1の層1aにより確保されているので、第2の層1bの膜厚をその機械的強度を考慮することなく薄くすることができることから、従来の蒸着用マスクを用いた場合に比較して被蒸着基板2の表面に生じる影Xの大きさを小さくすることができる。従って、被蒸着基板2の表面に形成される蒸着被膜の膜厚の均一性を向上することが可能となり、蒸着パターンの精細化をより推進することができる。
【0010】
第1の層を構成する低熱膨張率の金属箔としては、例えば、Fe−Ni系やFe−Ni−Co系のインバー合金箔などが好適に用いられる。第1層の厚さは特に限定されるものではないが、厚くしすぎた場合には、第2の層に形成された開口部に対応する部分を第2の層に形成された開口部よりも表面に向かって幅広に穿孔して貫通孔を設けても、その端部が、蒸着源との位置関係において、被蒸着基板の表面への蒸着源から飛散させた蒸着材料の到達の支障となるおそれが生じる反面、薄くしすぎた場合には、蒸着用マスクの機械的強度を確保することができなくなるおそれがあることから、20μm〜100μmとすることが望ましい。
【0011】
第1の層を構成するFe−Ni系やFe−Ni−Co系の低熱膨張率の合金箔とエッチング特性が異なる成分からなる第2の層としては、例えば、Ti,Ni,Si,Al,Cr,Ta,Co,Pd,Au,Ag,Mo,W,Nbから選ばれる少なくとも1種を含有する金属被膜が挙がられる。このような金属被膜は、自体公知のスパッタリングや蒸着やイオンプレーティングなどの気相めっき法や、湿式めっき法により第1の層の表面に積層形成することができる。第1の層の表面に第2の層を積層形成するに際しては、まず、スパッタエッチングやイオンガン洗浄などの物理的洗浄方法、反応性イオンエッチングやプラズマ洗浄やラジカル還元洗浄などの化学的洗浄方法、これらの組合せによる洗浄方法などにより第1の層の表面洗浄を行った後、直ちに真空中でその表面に第2の層を積層形成することが、第1の層と第2の層の密着性を高めるためや第1の層の表面酸化を防止するためなどから望ましい。中でも、物理的洗浄方法により第1の層の表面洗浄を行った後、これを大気中に晒すことなく直ちに気相めっき法によりその表面に第2の層を積層形成する方法が好適である。このような方法を採用すれば、後述するような、本発明の蒸着用マスクを製造するための第1の層と第2の層からなる構造体に熱処理を行うことによる、第1の層の内部への第2の層を構成する金属成分の熱拡散傾斜組成領域の形成が容易になる。第2の層の膜厚は、0.01μm〜1μmである。蒸着パターンの精細度を高めるためには第2の層の膜厚は薄ければ薄いほど望ましいが、下限値を0.01μmと規定するのは、この膜厚を下回ると所定寸法のマスクパターンを形成することが困難になるからばかりでなく、後述するような、第1の層の穿孔を行う際のオーバーエッチングに対するエッチング防止膜としての機能を十分に達成できなくなるおそれがあるからである。
【0012】
蒸着用マスクの製造方法(貫通孔の形成方法)の一例の概略を図2に示す。
まず、Fe−Ni系やFe−Ni−Co系の低熱膨張率の合金箔からなる第1の層1aと、この合金箔とエッチング特性が異なる成分からなる第2の層1bからなる構造体の、第1の層1aの表面に、レジスト膜r1を形成し、後の工程において第2の層1bに形成する所定寸法のマスクパターンと同じマスクパターンを第1の層1aに形成することができるパターニングをレジスト膜r1に行う(図2A)。
次に、第2の層1bの表面にレジスト膜r2を形成してその表面を保護した後、第1の層1aに応じたエッチャントを用いてオーバーエッチングを行い、第1の層1aの穿孔を行う(図2B)。第1の層1aの穿孔を精度よく行うとともに、形成された穿孔部の底部の大きさが、後の工程において第2の層1bに形成する所定寸法のマスクパターンにおける開口部の大きさよりも同じかそれ以上に大きいものにするためには、オーバーエッチングは20%〜80%行うことが望ましい。第1の層1aと第2の層1bからなる構造体に熱処理を行い、第1の層1aの内部に第2の層1bを構成する金属成分の熱拡散傾斜組成領域を形成しておけば、第1の層1aの穿孔を行う際、第1の層1aの内部に形成された熱拡散傾斜組成領域は、第2の層1bに面している側から表面に向かって傾斜組成を持つので、第1の層1aのエッチング特性が、第2の層1bに向かって徐々にエッチャントに対する耐性を持つように変化する。従って、第1の層1aの内部への第2の層1bを構成する金属成分の熱拡散を進行させることで、第2の層1bの膜厚を薄くすることが可能になる。第1の層1aの内部に第2の層1bを構成する金属成分の熱拡散傾斜組成領域を形成するための第1の層1aと第2の層1bからなる構造体の熱処理は、例えば、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスの雰囲気中や真空中で行えばよい。また、このような熱処理は、第2の層1bの第1の層1aの表面への積層形成中に同時に行ってもよい。
次に、第1の層1aの表面に形成したレジスト膜r1と、第2の層1bの表面に形成したレジスト膜r2を除去した後、第2の層1bの表面にレジスト膜r3を形成し、第1の層1aに形成された個々の穿孔部と第2の層1bに形成される開口部が一致する位置関係となるように所定寸法のマスクパターンを第2の層1bに形成するためのパターニングをレジスト膜r3に行う(図2C)。
最後に、第1の層1aの表面にレジスト膜を形成してその表面を保護してから、第2の層1bに応じたエッチャントを用いてエッチングを行った後、第1の層1aの表面に形成したレジスト膜と、第2の層1bの表面に形成したレジスト膜r3を除去すれば、第2の層1bに所定寸法のマスクパターンが形成され、第2の層1bに形成された個々の開口部に対応する第1の層1aの部分が、第2の層1bに形成された開口部よりも表面に向かって幅広に穿孔されて貫通孔が設けられた本発明の蒸着用マスク1が得られる(図2D)。
なお、上記の本発明の蒸着用マスクの製造方法における個々の工程については、自体公知のフォトリソ工程によって行うことができる。
【0013】
なお、上記の製造方法は、第1の層の穿孔を先に行ってから第2の層に所定寸法のマスクパターンを形成するものであるが、先に第2の層に所定寸法のマスクパターンを形成してから第1の層の穿孔を行うようにしてもよい。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の蒸着用マスクを実施例に基づいて説明するが、本発明は以下の記載に何ら限定して解釈されるものではない。
【0015】
第1の層としての41〜43%のNi,Coを含むFe系合金からなる市販の42インバー合金箔(縦50mm×横50mm×厚さ0.05mm)の表面をスパッタエッチングにより洗浄した後、これを大気中に晒すことなく直ちにスパッタリングによりその表面に第2の層としての膜厚が200nmのチタン被膜を積層形成した。そして、この積層構造体を窒素ガス雰囲気中で300℃×1時間熱処理して、第1の層の内部にチタンの熱拡散傾斜組成領域を形成した。
以上のようにして得られた、第1の層の内部にチタンの熱拡散傾斜組成領域を形成した積層構造体の、第1の層の表面に、ノボラック樹脂を主成分とするレジスト膜をスピナーを用いて塗布してからベイキングして形成し、所定のフォトマスクを用いて露光してから(波長:g線436nm)、アルカリ溶液に浸漬してレジストエッチングを行い、純水で洗浄した後、ベイキングすることで、後の工程において第2の層に形成する所定寸法のマスクパターンと同じマスクパターンを第1の層に形成することができるパターニングをレジスト膜に行った。
次に、第2の層の表面にノボラック樹脂を主成分とするレジスト膜を上記と同様にして形成してその表面を保護した後、塩化第二鉄を含む希塩酸溶液をエッチャントとして用いて第1の層に対して約20%オーバーエッチングを行い、穿孔を行った。
次に、第1の層の表面に形成したレジスト膜と第2の層の表面に形成したレジスト膜を除去した後、第2の層の表面にノボラック樹脂を主成分とするレジスト膜を上記と同様にして形成し、所定のフォトマスクを用いて露光してから(波長:g線436nm)アルカリ溶液に浸漬してレジストエッチングを行い、純水で洗浄した後、ベイキングすることで、第1の層に形成された個々の穿孔部と第2の層に形成される開口部が一致する位置関係となるように所定寸法のマスクパターンを第2の層に形成するためのパターニングをレジスト膜に行った。
最後に、第1の層の表面にノボラック樹脂を主成分とするレジスト膜を上記と同様にして形成してその表面を保護してから、緩衝フッ酸(BHF)をエッチャントとして用いて第2の層に対してエッチングを行った後、第1の層の表面に形成したレジスト膜と、第2の層の表面に形成したレジスト膜を除去することで、第2の層に所定寸法のマスクパターンが形成され、第2の層に形成された個々の開口部に対応する第1の層の部分が、第2の層に形成された開口部よりも表面に向かって幅広に穿孔されて貫通孔が設けられた本発明の蒸着用マスクを得た。
このようにして製造された本発明の蒸着用マスクは、従来の蒸着用マスクに比較して蒸着パターンの精細化をより推進することができるものである。
【符号の説明】
【0016】
1 蒸着用マスク
1a 第1の層
1b 第2の層
2 被蒸着基板
3 蒸着源
4 蒸着材料
r1,r2,r3 レジスト膜
11 従来の蒸着用マスク
15 蒸着源側の開口部の端部
X 影

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe−Ni系やFe−Ni−Co系の低熱膨張率の合金箔からなる第1の層と、この合金箔とエッチング特性が異なる成分の金属箔からなる膜厚0.01μm〜1μmの第2の層との積層構造を有し、第1の層の内部に第2の層を構成する金属成分の熱拡散傾斜組成領域を備え、第2の層に蒸着用のマスクパターンとなる所定寸法の開口部が形成され、第2の層に形成された開口部に対応する第1の層の部分が、第2の層に形成された開口部よりも表面に向かって幅広に穿孔されて貫通孔が設けられている、第1の層の表面が蒸着源に面するようにして用いる、蒸着材料を所定のパターンで被蒸着基板の表面に蒸着させるための蒸着用マスク。
【請求項2】
第2の層がTi,Ni,Si,Al,Cr,Ta,Co,Pd,Au,Ag,Mo,W,Nbから選ばれる少なくとも1種を含有する金属被膜である請求項1記載の蒸着用マスク。
【請求項3】
第2の層が第1の層の表面に気相めっき法または湿式めっき法で形成されたものである請求項1または2記載の蒸着用マスク。
【請求項4】
第2の層が第1の層の表面に積層形成された後または第2の層の第1の層の表面への積層形成中に熱処理が施されることにより、第1の層の内部に第2の層を構成する金属成分の熱拡散傾斜組成領域を形成したものである請求項1乃至3のいずれかに記載の蒸着用マスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−216012(P2010−216012A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38219(P2010−38219)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【分割の表示】特願2003−22211(P2003−22211)の分割
【原出願日】平成15年1月30日(2003.1.30)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】