説明

蓄電デバイスおよびその製造方法

【課題】蓄電デバイスの安全性を向上させるとともに品質を向上させる。
【解決手段】袋状のセパレータ18に収容される負極複合材26は、負極集電体23の一方面に負極合材層24を備えた負極15と、この負極15に貼り付けられた金属リチウム箔16とを備えている。これにより、負極15の負極集電体23上から金属リチウムが脱落した場合であっても、金属リチウムの蓄電デバイス10内への拡散を防止することが可能となる。したがって、遊離する金属リチウムが原因となる蓄電デバイス10内の短絡や外装材11の腐食を防止することができ、蓄電デバイス10の安全性を向上させることが可能となる。また、負極15の負極集電体23上から金属リチウムが脱落した場合であっても、負極15の近傍に金属リチウムを保持することができ、リチウムイオンが設計通りにドーピングされる。これにより、蓄電デバイス10の品質を向上させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン供給源を備える負極複合材が組み込まれる蓄電デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車等に搭載される蓄電デバイスとして、リチウムイオンキャパシタやリチウムイオン二次電池等がある。これら蓄電デバイスのエネルギー密度を向上させるため、蓄電デバイス内にイオン供給源としての金属リチウムを組み込むようにした蓄電デバイスが提案されている。この蓄電デバイスにおいては、金属リチウムが負極に対して電気化学的に接続され、金属リチウムから負極にリチウムイオンがドーピングされる。この後に正負極間で充放電を実施することにより、不可逆容量を多く有する負極活物質を負極に用いた場合における蓄電デバイスの容量ロスの低減が可能となる。また、負極へのリチウムイオンのドーピングにより、蓄電デバイスの充電状態や放電状態における負極電位を低下させることが可能となる。すなわち、負極の平均電位の低下によって蓄電デバイスの平均電圧を高めることが可能となる結果、蓄電デバイスのエネルギー密度を向上させることが可能となる。また、蓄電デバイス内に金属リチウムを組み込む方法としては、負極集電体に対して金属リチウム箔を貼り付ける方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。さらに、金属リチウム箔を直接負極合材上に貼り付ける方法(例えば、特許文献2参照)や、蒸着によって金属リチウム層を形成し、この金属リチウム層を負極合材層上に転写する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−123826号公報
【特許文献2】特開平11−283676号公報
【特許文献3】特開2008−21901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、単に蓄電デバイス内に金属リチウムを組み込むことは、金属リチウムの一部が金属リチウム箔や金属リチウム層から脱落した場合に、蓄電デバイス内に金属リチウム片や金属リチウム微粒子を遊離させてしまうおそれがある。このように、蓄電デバイス内において金属リチウム片や金属リチウム微粒子が元来の配置場所から遊離することは、蓄電デバイスの内部短絡や外装材の腐食を招いて蓄電デバイスの安全性を低下させる要因となっていた。また、内部短絡や過充電等によって蓄電デバイスが開口するような異常事態が生じた場合には、前記脱落した金属リチウム片や金属リチウム微粒子が大気中に飛散してしまう。さらに、金属リチウムの一部が脱落して負極から遊離することは、リチウムイオンのドーピング量を低下させて蓄電デバイスの品質を低下させる要因となっていた。
【0005】
本発明の目的は、蓄電デバイスの安全性を向上させるとともに品質を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の蓄電デバイスは、正極集電体および正極合材層を備える正極と負極集電体および負極合材層を備える負極とを有する蓄電デバイスであって、前記負極の少なくとも1つは、前記負極集電体および前記負極合材層に加えてイオン供給源を備える負極複合材として構成され、前記負極複合材は袋状のセパレータに収容されることを特徴とする。
【0007】
本発明の蓄電デバイスは、前記セパレータの縁部は全周に渡って閉じられることを特徴とする。
【0008】
本発明の蓄電デバイスは、前記正極集電体および前記負極集電体には複数の貫通孔が形成されることを特徴とする。
【0009】
本発明の蓄電デバイスの製造方法は、正極集電体および正極合材層を備える正極と負極集電体および負極合材層を備える負極とを有する蓄電デバイスの製造方法であって、前記負極の少なくとも1つを、前記負極集電体および前記負極合材層に加えてイオン供給源を備える負極複合材とする工程と、前記負極複合材を袋状のセパレータに収容する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、袋状のセパレータに負極複合材を収容している。このため、負極複合材からイオン供給源が脱落した場合であっても、蓄電デバイス内における袋状のセパレータに収容された負極(負極複合材)近傍からのイオン供給源の遊離を防止することが可能となる。これにより、イオン供給源の蓄電デバイス内への拡散が原因となる蓄電デバイスの短絡や外装材の腐食を防止することができ、蓄電デバイスの安全性を向上させることが可能となる。また、袋状のセパレータ内に金属リチウムを留めておくことが可能であるため、蓄電デバイスが開口する事態が生じた際における大気中へのイオン供給源の飛散を防止し、異常時における蓄電デバイスの安全性を高めることが可能となる。さらには、袋状のセパレータに負極(負極複合材)を収容することにより、負極(負極複合材)からイオン供給源が脱落した場合であっても、負極(負極複合材)の近傍にイオン供給源を保持することが可能となる。これにより、イオンのドーピング量を設計通りに確保することができ、蓄電デバイスの性能低下を防止することが可能となる。しかも、負極上にイオン供給源を設けるようにしたので、イオン供給源用の集電体を削減することが可能となる。これにより、蓄電デバイスのエネルギー密度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態である蓄電デバイスを示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線に沿って蓄電デバイスの内部構造を概略的に示す断面図である。
【図3】蓄電デバイスの内部構造を部分的に拡大して示す断面図である。
【図4】(A)は負極の内部構造を示す分解斜視図である。(B)は負極を示す斜視図である。
【図5】本発明の他の実施の形態である蓄電デバイスの内部構造を部分的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明の一実施の形態である蓄電デバイス10を示す斜視図である。図2は図1のA−A線に沿って蓄電デバイス10の内部構造を概略的に示す断面図である。図1および図2に示すように、ラミネートフィルムを用いて構成される外装材11内には電極積層ユニット12が収容されている。この電極積層ユニット12は、交互に積層される正極13および負極14,15によって構成されている。電極積層ユニット12の最外部に配置される負極15は、イオン供給源としての金属リチウム箔16を一体に備えた負極複合材26として構成されている。また、正極13と負極14との間にはセパレータ17が挟み込まれている。一方、負極15は袋状のセパレータ18に収容されている。なお、外装材11内には電解液が注入されている。この電解液はリチウム塩を含む非プロトン性極性溶媒によって構成されている。
【0013】
図3は蓄電デバイス10の内部構造を部分的に拡大して示す断面図である。図3に示すように、正極13は多数の貫通孔20aを備えた正極集電体20を有している。この正極集電体20には正極合材層21が設けられている。また、正極集電体20には凸状に伸びる端子接合部20bが設けられている。これら複数枚の端子接合部20bは重ねた状態で互いに接合されている。さらに、端子接合部20bには正極端子22が接合されている。
【0014】
同様に、負極14,15は、多数の貫通孔23aを備えた負極集電体23を有している。負極14を構成する負極集電体23の両面には、負極合材層24が設けられている。また、負極15を構成する負極集電体23の一方面には負極合材層24が設けられている。さらに、負極15を構成する負極集電体23の負極合材層24が設けられていない面には金属リチウム箔16が貼り付けられており、負極15と金属リチウム箔16とによって負極複合材26が構成されている。また、負極集電体23には凸状に伸びる端子接合部23bが設けられている。これら複数枚の端子接合部23bは重ねた状態で互いに接合されている。さらに、端子接合部23bには負極端子25が接合されている。
【0015】
正極合材層21には正極活物質として活性炭が含まれている。この活性炭にはリチウムイオンやアニオンを可逆的にドーピング・脱ドーピングさせることが可能である。また、負極合材層24には負極活物質としてポリアセン系有機半導体(PAS)が含まれている。このPASにはリチウムイオンを可逆的にドーピング・脱ドーピングさせることが可能である。このように、正極活物質として活性炭を採用し、負極活物質としてPASを採用することにより、図示する蓄電デバイス10はリチウムイオンキャパシタとして機能することになる。
【0016】
なお、本発明が適用される蓄電デバイス10としては、リチウムイオンキャパシタに限られることはなく、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタであっても良く、例えばマグネシウムイオン二次電池等の他の形式の電池やこれらとのハイブリッドキャパシタであっても良い。また、本明細書において、ドーピング(ドープ)とは、吸蔵、担持、吸着、挿入等を意味している。すなわち、ドープとは、正極活物質や負極活物質に対してアニオンやリチウムイオン等が入る状態を意味している。また、脱ドーピング(脱ドープ)とは、放出、脱離等を意味している。すなわち、脱ドープとは、正極活物質や負極活物質からアニオンやリチウムイオン等が出る状態を意味している。
【0017】
前述したように、負極15の負極集電体23には金属リチウム箔16が貼り付けられている。また、負極14,15の負極集電体23は互いに接合されている。すなわち、金属リチウム箔16と全ての負極合材層24とは電気的に接続されている。したがって、外装材11内に電解液を注入することにより、金属リチウム箔16から負極14,15に対してリチウムイオンがドープ(以下、プレドープという)されることになる。また、正極集電体20や負極集電体23には貫通孔20a,23aが形成されている。このため、金属リチウム箔16から放出されるリチウムイオンは、集電体20,23の貫通孔20a,23aを通過して積層方向に移動するようになっている。これにより、積層される全ての負極14,15に対してスムーズにリチウムイオンをプレドープすることが可能となる。
【0018】
このように、負極14,15にリチウムイオンをプレドープすることにより、負極電位を低下させることが可能となる。これにより、蓄電デバイス10のセル電圧を高めることが可能となる。また、負極14,15にリチウムイオンをプレドープすることにより、負極14,15の静電容量を高めることが可能となる。これにより、蓄電デバイス10の静電容量を高めることが可能となる。さらに、負極14,15の静電容量を高めることにより、正極13が作動する電位範囲(電位差)を拡大することができ、蓄電デバイス10のセル容量(放電容量)を高めることが可能となる。このように、蓄電デバイス10のセル電圧、セル容量、静電容量を高めることができるため、蓄電デバイス10のエネルギー密度を向上させることが可能となる。また、蓄電デバイス10の高容量化を図る観点から、正極13と負極14,15とを短絡させた後の正極電位が2.0V(vs.Li/Li)以下となるように、金属リチウム箔16の量を設定することが好ましい。
【0019】
図2および図3に示すように、負極複合材26を電極積層ユニット12の最外部に配置した構成について説明したが、負極複合材を電極積層ユニット12の内層に位置する正極13間に挟み込むように配置しても良い。また、電極積層ユニット12の最外部に負極複合材26を配置するとともに、電極積層ユニット12の内層に位置する正極13間に負極複合材を配置しても良い。このように、電極積層ユニット12(蓄電デバイス10)内に、負極複合材を細かく分散配置させることにより、リチウムイオンのドーピング速度を速めることが可能となる。また、電極積層ユニット12の内層に配置するための負極複合材については、負極合材層24を両面に備えた負極14に金属リチウム箔16を貼り付けて構成することが、生産性の観点から好ましい。しかしながら、負極複合材を電極積層ユニット12の内層に配置することは、そもそも作業効率的に不利であることから、作業効率を考えた場合には、電極積層ユニット12の最外部に負極複合材を配置させることの方が好ましい。したがって、作業効率を向上させるとともにリチウムイオンのドーピング速度を速めたい場合には、最外部に負極複合材を配置した電極積層ユニットを複数作製した上で、これら複数の電極積層ユニットを積層して蓄電デバイスを構成することが望ましい。
【0020】
さらに、図3に示すように、電極積層ユニット12の最外部に配置される負極複合材26は、負極集電体23の未塗工面に金属リチウム箔16を貼り付けることで構成されている。しかしながら、電極積層ユニット12の最外部に配置するための負極複合材を、負極合材層24を両面に備えた負極14に金属リチウム箔16を貼り付けて構成しても良い。このように、負極14および金属リチウム箔16からなる負極複合材を電極積層ユニット12の最外部に配置する際には、金属リチウム箔16が設けられた面を外側に向けて配置することが好ましい。金属リチウム箔16を外側に向けて配置することにより、金属リチウム箔16を電解液に接触させ易くイオン化を図り易いからである。
【0021】
しかしながら、2つの負極合材層24が設けられる負極複合材を、電極積層ユニット12の最外部に配置することは、正極合材層21に対向しない負極合材層24、すなわち充放電に寄与し難い負極合材層24を蓄電デバイス10に組み込むことになる。このことは、電解液量およびセル重量の増加や、蓄電デバイスの体積増加に伴うエネルギー密度の低下を招くだけでなく、蓄電デバイス10における正負極間の充放電バランスを崩す可能性があり、サイクル特性等に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0022】
一方、図3に示すように、片面に負極合材層24を有する負極15を備えた負極複合材26を電極積層ユニット12の最外部に配置させるためには、両面に負極合材層24を備えた負極14を製造するだけでなく、片面に負極合材層24を備えた負極15を製造する必要がある。すなわち、2種類の負極14,15を製造する必要があるため、生産性を考えると好ましいことではない。また、電極積層ユニット12の積層過程においても、2種類の負極14,15を用いることから積層作業が複雑となり、生産性を考えると好ましいことではない。以上のことから、電極積層ユニット12の最外部に、片面に負極合材層24を有する負極15を備えた負極複合材26を配置するか、あるいは両面に負極合材層24を有する負極14を備えた負極複合材を配置するかについては、蓄電デバイス10の性能と生産性を考慮して適宜選択することが好ましい。
【0023】
なお、両面に負極合材層24を備えた負極14を電極積層ユニット12の最外部に配置する構成例について述べたが、これに限られることはなく、両面に正極合材層21を備えた正極13を電極積層ユニット12の最外部に配置しても良い。このように、両面に電極合材層(正極合材層または負極合材層)を備える電極(正極または負極)を、電極積層ユニット12の最外部に配置する場合には、正極または負極のうち容量の大きな電極を最外部に配置することが好ましい。すなわち、蓄電デバイス10の容量は、正極または負極のうち容量の小さな電極によって支配されることになるが、この電極を電極積層ユニット12の内層に配置することにより、電極が有する小さな容量を余すことなく利用することができ、蓄電デバイス10のエネルギー密度を向上させることが可能となる。
【0024】
続いて、本発明の蓄電デバイス10が備える負極15について説明する。図4(A)は袋状のセパレータ18に収容された負極複合材26の内部構造を示す分解斜視図である。また、図4(B)は袋状のセパレータ18に収容された負極複合材26を示す斜視図である。なお、図3に示すように、負極集電体23には多数の貫通孔23aが形成されているが、図4(A)には貫通孔23aを省略した負極集電体23が示されている。図4(A)に示すように、負極複合材26を構成する負極15の負極集電体23の一方面には金属リチウム箔16が貼り付けられる。そして、金属リチウム箔16が貼り付けられた負極15、すなわち負極複合材26は一対のセパレータ18によって挟み込まれる。さらに、図4(B)に一点鎖線で示すように、セパレータ18の縁部18aは全周に渡って閉じられる。なお、前述の説明では、負極複合材26を一対のセパレータ18によって挟み込んだ後に、セパレータ18の縁部18aを全周に渡って閉じるとしたが、これに限られることはない。例えば、一対のセパレータ18の縁部18aの三方を閉じてセパレータ18を袋状に形成し、この袋状のセパレータ18に負極複合材26を挿入した後に、開いている残りの縁部18aを閉じることでセパレータ18の縁部18aを全周に渡って閉じても良い。負極複合材26を袋状のセパレータ18に収容するまでの手順は適宜決めて良い。
【0025】
セパレータ18の縁部18aを閉じる手段としては、例えば粘着テープによるテープ止め、高分子接着剤による接着等が挙げられる。これらの手段を用いることにより、セパレータ18の縁部18aを閉じることが可能である。なお、セパレータ18の材料にポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性樹脂を含む場合には、上記手段に加えて熱融着処理によってセパレータ18の縁部18aを閉じることが可能である。さらに、粘着テープによるテープ止め、高分子接着剤による接着、熱融着処理を組み合わせてセパレータ18の縁部18aを閉じても良い。なお、負極集電体23には凸状に伸びる端子接合部23bが設けられている。この端子接合部23bに重なるセパレータ18の縁部18aを閉じる手段としては、熱融着処理もしくは高分子接着剤による接着を用いることが好ましい。当該縁部18aに熱融着処理もしくは高分子接着剤による接着処理を施すことにより、負極合材層24に近い端子接合部23bの表面に絶縁処理を施すことが可能となる。これにより、充放電サイクルに伴う端子接合部23bへの金属リチウムの析出を抑制できる。
【0026】
このように、金属リチウム箔16と負極15とを一体に形成した負極複合材26を設け、この負極複合材26を袋状のセパレータ18によって覆うようにしている。これにより、負極15の負極集電体23上から金属リチウムが脱落した場合であっても、全周に渡って閉じられた袋状のセパレータ18から金属リチウムが抜けることはなく、蓄電デバイス10内における金属リチウムの拡散を防止することが可能となる。その結果、遊離する金属リチウムが原因となる蓄電デバイス10内の短絡や外装材11の腐食を防止することができ、蓄電デバイス10の安全性を向上させることが可能となる。また、袋状のセパレータ18内に金属リチウムを留めておくことが可能であるため、蓄電デバイス10が開口する事態が生じた際における大気中への金属リチウムの飛散を防止し、異常時における蓄電デバイス10の安全性を高めることが可能となる。さらには、負極15の負極集電体23上から金属リチウムが脱落した場合であっても、負極15の近傍に金属リチウムを保持することができるため、リチウムイオンのドーピング量を設計通りに確保することが可能となる。これにより、蓄電デバイス10の容量低下や出力低下を防止することが可能となる。さらに、負極集電体23によって金属リチウム箔16を支持するようにしたので、金属リチウム箔16を保持するためのリチウム極集電体を削減することが可能となる。これにより、蓄電デバイス10の重量および体積を削減することができるため、蓄電デバイス10のエネルギー密度を向上させることが可能となる。
【0027】
また、前述の説明では正極集電体20や負極集電体23に対して複数の貫通孔20a,23aを形成しているが、貫通孔20a,23aを持たない負極集電体や正極集電体を用いるようにしても良い。ここで、図5は本発明の他の実施の形態である蓄電デバイス30の内部構造を部分的に示す断面図である。なお、図3に示す部材と同一の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0028】
図5に示すように、蓄電デバイス30は、交互に積層される正極31と負極(負極複合材)32とによって構成されている。正極31は平板状の正極集電体33を有している。この正極集電体33には正極合材層21が設けられている。また、負極32は平板状の負極集電体34を有している。この負極集電体34には負極合材層24が設けられている。さらに、負極32の負極合材層24上にはイオン供給源としての金属リチウム箔35が貼り付けられている。そして、金属リチウム箔35を備えた負極32は、袋状のセパレータ18によって覆われている。なお、最外部の負極32においては、負極合材層24と金属リチウム箔35が負極集電体34の一方側(内側)にのみ設けられている。
【0029】
このように、全ての負極合材層24に金属リチウム箔35を貼り付けた場合には、全ての負極合材層24にリチウムイオンをドーピングする際に、正極集電体33や負極集電体34を越えてリチウムイオンを積層方向に移動させる必要がない。これにより、正極集電体33や負極集電体34から貫通孔を削減することができ、正極集電体33および負極集電体34の製造コストや、正極合材層21および負極合材層24の塗工コストを引き下げることが可能となる。このような負極32であっても、負極32を袋状のセパレータ18によって覆うことにより、前述した蓄電デバイス10と同様に、金属リチウムの遊離を防止することが可能となる。これにより、遊離した金属リチウムが原因となる短絡や外装材11の腐食を防止することができ、蓄電デバイス30の安全性を高めることが可能となる。また、袋状のセパレータ18内に金属リチウムを留めておくことが可能であるため、蓄電デバイス30が開口する事態が生じた際における大気中への金属リチウムの飛散を防止し、異常時における蓄電デバイス30の安全性を高めることが可能となる。さらには、リチウムイオンのドーピング量を設計通りに確保することができ、蓄電デバイス30の品質を向上させることが可能となる。
【0030】
なお、図3に示すように、負極集電体23に対して金属リチウム箔16を直に貼り付けるようにしているが、これに限られることはなく、負極集電体23と金属リチウム箔16との間に、特開2001−15172号公報に記載されるような補助層を設けても良い。負極集電体23に補助層を介して金属リチウム箔16を貼り付けることにより、金属リチウム箔16の貼り付けに伴う電極抵抗の増加を抑制することが可能となる。また、図5に示すように、負極合材層24に対して金属リチウム箔35を直に貼り付けるようにしているが、これに限られることはなく、負極合材層24と金属リチウム箔35との間に、特開2001−15172号公報に記載されるような補助層を設けても良い。負極合材層24に補助層を介して金属リチウム箔35を貼り付けることにより、金属リチウム箔35の貼り付けに伴う電極抵抗の増加を抑制することが可能となる。
【0031】
以下、前述した蓄電デバイスの構成要素について下記の順に詳細に説明する。[A]正極、[B]負極、[C]正極集電体および負極集電体、[D]イオン供給源、[E]セパレータ、[F]電解液、[G]外装材。
【0032】
[A]正極
正極は、正極集電体とこれに一体となる正極合材層とを有している。蓄電デバイスをリチウムイオンキャパシタとして機能させる場合には、正極合材層に含まれる正極活物質として、リチウムイオン及び/又はアニオンを可逆的にドープ・脱ドープ可能な物質を採用することが可能である。すなわち、リチウムイオンとアニオンとの少なくともいずれか一方を可逆的にドープ・脱ドープ可能な物質であれば特に限定されることはない。例えば、活性炭、RuO等の金属酸化物、導電性高分子、ポリアセン系物質等を用いることが可能である。
【0033】
例えば、活性炭は、アルカリ賦活処理され、かつ比表面積600m/g以上を有する活性炭粒子から形成することが好ましい。活性炭の原料としては、フェノール樹脂、石油ピッチ、石油コークス、ヤシガラ、石炭系コークス等が使用される。フェノール樹脂や石炭系コークスは比表面積を高くできるという理由から好適である。これらの活性炭のアルカリ賦活処理に使用されるアルカリ活性化剤は、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物塩等が好ましい。中でも、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムが好適である。アルカリ賦活の方法は、例えば、炭化物と活性化剤を混合した後、不活性ガス気流中で加熱することにより行う方法が挙げられる。また、活性炭の原材料に予め活性化剤を担持させた後加熱して、炭化および賦活の工程を行う方法が挙げられる。さらに、炭化物を水蒸気などのガス賦活法で賦活した後、アルカリ活性化剤で表面処理する方法も挙げられる。このようなアルカリ賦活処理が施された活性炭は、洗浄によって残留灰分の除去およびpH調整を施した後に、ボールミル等の既知の粉砕機を用いて粉砕される。活性炭の粒度としては、一般的に使用される広い範囲のものを使用することが可能である。例えば、D50%が2μm以上であり、好ましくは2〜50μm、特に2〜20μmが最も好ましい。また、平均細孔径は1.5nm以上が好適である。比表面積は600〜3000m/gが好適である。中でも、1500m/g以上、特には1800〜2600m/gであるのが好適である。
【0034】
また、蓄電デバイスをリチウムイオン二次電池として機能させる場合には、正極合材層に含まれる正極活物質として、ポリアニリン等の導電性高分子や、リチウムイオンを可逆的にドープ・脱ドープ可能な物質を採用することが可能である。例えば、正極活物質として五酸化バナジウム(V)やコバルト酸リチウム(LiCoO)を用いることが可能である。この他にも、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiFeO等のLi(x,y,zは正の数、Mは金属、2種以上の金属でも良い)の一般式で表されうるリチウム含有金属酸化物、あるいはコバルト、マンガン、バナジウム、チタン、ニッケル等の遷移金属酸化物または硫化物を用いることも可能である。特に、高電圧を求める場合には、金属リチウムに対して4V以上の電位を有するリチウム含有金属酸化物を用いることが好ましい。例えば、リチウム含有コバルト酸化物、リチウム含有ニッケル酸化物、あるいはリチウム含有コバルト−ニッケル複合酸化物が特に好適である。また、安全性を求める場合には、高温環境下でもその構造中から酸素を放出し難い材料を用いることが好ましい。例えば、燐酸鉄リチウム、珪酸鉄リチウム、バナジウム酸化物等を挙げることができる。なお、上記に例示した正極活物質は適宜用途や仕様に応じて単独で使用しても良く、複数種混合して使用しても良い。
【0035】
前述した活性炭等の正極活物質は、粉末状、粒状、短繊維状等に形成される。この正極活物質とバインダーとを溶媒に分散させることで電極スラリーが形成される。そして、正極活物質を含有する電極スラリーを正極集電体に塗工して乾燥させることにより、正極集電体上に正極合材層が形成される。なお、正極活物質と混合されるバインダーとしては、例えばSBR等のゴム系バインダーやポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリレート等の熱可塑性樹脂、ポリビニルアルコールを用いることができる。溶媒としては、例えば、水やN−メチル−2−ピロリドンを用いることができる。また、正極合材層に対して、アセチレンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、カーボンブラック、金属粉末等の導電性材料を適宜加えるようにしても良い。
【0036】
[B]負極
負極は、負極集電体とこれに一体となる負極合材層とを有している。負極合材層に含まれる負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的にドープ・脱ドープできるものであれば特に限定されることはない。例えば、錫、ケイ素等の合金系材料、ケイ素酸化物、錫酸化物、チタン酸リチウム、バナジウム酸化物等の酸化物、グラファイト(黒鉛)、易黒鉛化性炭素、ハードカーボン(難黒鉛化性炭素)等の種々の炭素材料、ポリアセン系物質等を用いることが可能である。チタン酸リチウムは優れたサイクル特性を有するために負極活物質として好ましい。錫、錫酸化物、ケイ素、ケイ素酸化物、グラファイト等は高容量化を図ることができるため負極活物質として好ましい。また、芳香族系縮合ポリマーの熱処理物であるポリアセン系有機半導体(PAS)は、高容量化を図ることができるため負極活物質として好適である。このPASはポリアセン系骨格構造を有する。このPASの水素原子/炭素原子の原子数比(H/C)は0.05以上、0.50以下の範囲内であることが好ましい。PASのH/Cが0.50を超える場合には、芳香族系多環構造が充分に発達していないことから、リチウムイオンのドープ・脱ドープがスムーズに行われず、蓄電デバイスの充放電効率が低下するおそれがある。PASのH/Cが0.05未満の場合には、蓄電デバイスの容量が低下するおそれがある。なお、上記に例示した負極活物質は適宜用途や仕様に応じて単独で使用しても良く、複数種混合して使用しても良い。
【0037】
前述したPAS等の負極活物質は、粉末状、粒状、短繊維状等に形成される。この負極活物質とバインダーと溶媒に分散させることで電極スラリーが形成される。そして、負極活物質を含有する電極スラリーを、負極集電体に塗工して乾燥させることにより、負極集電体上に負極合材層が形成される。なお、負極活物質と混合されるバインダーとしては、例えば、ポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリレート等の熱可塑性樹脂、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)等のバインダーを用いることができる。これらの中でも少量の添加で高い接着性を発現できるためにSBRゴムバインダーを用いることが好ましい。溶媒としては、水、N−メチル−2−ピロリドン等を用いることができる。また、負極合材層に対して、アセチレンブラック、グラファイト、膨張黒鉛、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、カーボンブラック、炭素繊維、金属粉末等の導電性材料を適宜加えるようにしても良い。
【0038】
[C]正極集電体および負極集電体
正極集電体および負極集電体の材料としては、一般に電池や電気二重層キャパシタに提案されている種々の材料を用いることが可能である。例えば、正極集電体の材料として、アルミニウム、ステンレス鋼等を用いることができる。負極集電体の材料として、ステンレス鋼、銅、ニッケル等を用いることができる。また、正極集電体や負極集電体に貫通孔を形成する場合において、貫通孔の開口率としては通常40〜60%である。なお、リチウムイオンの移動を阻害しないものであれば、貫通孔の大きさ、個数、形状等について特に限定されることはない。
【0039】
[D]イオン供給源
イオン供給源として金属リチウム箔を設けているが、イオン供給源としてリチウム−アルミニウム合金等を用いても良い。また、前述の説明では、金属リチウムを圧延した金属リチウム箔を用いているが、これに限られることはなく、蒸着によって負極集電体や負極合材層に対して金属リチウム層を形成しても良い。さらに、イオン供給源として細かな粒状の金属リチウムを負極合材層に含有させることにより、負極複合材としての負極に対してイオン供給源を設けるようにしても良い。
【0040】
[E]セパレータ
セパレータとしては、大きなイオン透過度(透気度)、所定の機械的強度、および電解液、正極活物質、負極活物質等に対する耐久性を有し、かつ連通気孔を有する絶縁性の多孔質体等を用いることができる。例えば、紙(セルロース)、ガラス繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンジフルオライド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン等からなる隙間を有する布、不織布あるいは微多孔体が用いられる。
【0041】
また、セパレータを閉じる際には粘着テープや高分子接着剤を用いることが可能であるが、これら粘着テープや高分子接着剤についても電解液に対して溶解せず、かつ電解液、正極活物質、負極活物質等に対して化学的および電気化学的に安定であることが好ましい。粘着テープとしては、例えば、ポリイミド粘着テープ等が挙げられる。高分子接着剤として用いる高分子としては、熱可塑性を有する高分子が好ましく、具体的に挙げるならば、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルやポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。接着方法としては、例えば、高分子接着剤を溶剤に溶解してセパレータの縁部に塗付した後に、接着部を加圧しながら加熱あるいは減圧操作によって溶剤を除去することにより接着を行う方法、あるいは前記高分子接着剤を含むポリマーフィルムをセパレータの縁部に配置し、熱加圧することによって接着を行う方法等が挙げられる。特に、電極合材層に高分子接着剤が付着した場合においても電極の特性低下を抑制できるという理由から、リチウムイオン伝導性を有するポリフッ化ビニリデンやポリエチレンオキシドを用いることが好ましい。高分子接着剤を溶解する溶剤としては、沸点が200℃以下の有機溶媒を用いることが望ましい。用いる高分子接着剤との溶解性にもよるが、溶媒を具体的に挙げるならば、例えば、ジメチルホルムアミド、アセトン等を挙げることができる。有機溶媒の沸点が200℃を超えると、100℃程度の加熱では溶媒除去に要する時間が長くなるために好ましくない。また、200℃以上に加熱することはセパレータ接着部の近傍に金属リチウムが存在するために安全上好ましくない。以上の理由により、有機溶媒の沸点は200℃以下、さらには180℃以下が好ましい。
【0042】
また、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル等、例として挙げたこれらの材料をセパレータに含ませることによって、熱融着処理を施してセパレータを閉じることが可能である。セパレータの熱融着条件は加熱温度と加熱時間を適宜検討することで決定される。セパレータの加熱温度は、セパレータの溶融温度付近にすることが好ましい。具体的な溶融温度はセパレータの材質および構成により種々異なるが、例えば、発明者が所有するポリエチレンとポリプロピレンからなる微多孔性のセパレータは110℃付近で溶融する。したがって、上記セパレータを熱融着させる場合は、110℃前後の温度で加熱温度と加熱時間を変化させながらセパレータを融着し、その接着強度を確かめることで熱融着条件は決定される。加熱時間が短い、もしくは溶融温度が低いとセパレータの溶融が不十分となって接着不十分となるために好ましくない。また、加熱時間が長い、もしくは溶融温度が高いとセパレータにたわみが生じたり、電極合材面に接触する部位までセパレータが溶融して蓄電デバイスの抵抗上昇を招いたりするために好ましくない。
【0043】
また、セパレータの透気度は5秒/100mL以上〜600秒/100mL以下であることが好ましい。透気度は100mLの空気が多孔質シートを透過するのに要した時間(秒)を意味する。透気度が600秒/100mLを超えるとセパレータにおいて高いリチウムイオン移動度を得ることが困難となり、リチウムイオンプレドープ速度に支障をきたすために好ましくない。透気度が5秒/100mL未満になると、セパレータの強度が不十分となるために好ましくない。より好ましいセパレータの透気度は30秒/100mL以上〜500秒/100mL以下である。
【0044】
セパレータの気孔度は、30%以上〜90%以下であることが好ましい。セパレータの気孔度を30%未満にすると、セパレータの電解液の保持量が少なくなり蓄電デバイスの内部抵抗が増大するために好ましくない。また、セパレータの気孔度が90%以上を超えると、十分なセパレータ強度を得られないために好ましくない。セパレータの気孔度は35%以上〜80%以下がより好ましい。
【0045】
セパレータの厚さは5μm以上〜100μm以下が好ましい。厚さが100μmを超えると、正負極間の距離が大きくなって内部抵抗が増大するために好ましくない。また、厚さが5μm未満になると、セパレータの強度が著しく低下して内部ショートが生じ易くなるために好ましくない。セパレータの厚さとしてより好ましいのは10μm以上〜30μm以下である。
【0046】
また、蓄電デバイスの内部温度が仕様の上限温度以上に到達した場合にセパレータ構成成分の溶融によってセパレータの隙間が閉塞される特性(セパレータのシャットダウン機能)をセパレータに持たせることが蓄電デバイスの安全性のために好ましい。閉塞開始温度は蓄電デバイスの仕様にもよるが、通常90℃以上180℃以下である。耐熱性が高く、前記温度でセパレータが溶融し難いポリイミド等の材料をセパレータに使用している場合は、ポリエチレン等の前記温度で溶融可能な物質をセパレータに混合させることが好ましい。ここでいう混合とは、単なる複数の材質の混ぜ合わせだけでなく、材質の異なる2種以上のセパレータを積層したもの、セパレータの材質の共重合化等の意味を含む。なお、蓄電デバイスの内部温度が仕様上限温度を超えても熱収縮が小さいセパレータは蓄電デバイスの安全性の面においてより好ましい。
【0047】
以上、例示したセパレータは適宜用途や仕様に応じて単独で使用しても良く、同一種のセパレータを重ねて使用しても良い。また、複数種のセパレータを重ねて使用しても良い。
【0048】
[F]電解液
電解液としては、高電圧でも電気分解を起こさないという点、リチウムイオンが安定に存在できるという点から、リチウム塩を含む非プロトン性極性溶媒を用いることが好ましい。非プロトン性極性溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、塩化メチレン、スルホラン等を単独あるいは混合した溶媒が挙げられる。充放電特性に寄与する比誘電率、蓄電デバイスの作動温度範囲に寄与する凝固点および沸点、そして安全性に寄与する引火点の観点からはプロピレンカーボネートを用いることが好ましい。しかし、負極の活物質に黒鉛を用いる場合においては、負極の電位が約0.8V(vs.Li/Li)においてプロピレンカーボネートは黒鉛上で分解してしまうために代替溶媒としてエチレンカーボネートを使用することが好ましい。エチレンカーボネートの融点は36℃であり、常温では固体である。このため、エチレンカーボネートを電解液の溶媒として用いる場合には、エチレンカーボネート以外の非プロトン性極性溶媒と混合させることが必須となる。さらに、エチレンカーボネートと併用する非プロトン性極性溶媒には、充放電特性および蓄電デバイスの作動温度範囲の観点から、ジエチルカーボネートやエチルメチルカーボネート等に代表される低粘度かつ凝固点の低い非プロトン性極性溶媒を選択することが好ましい。しかしながら、溶媒がジエチルカーボネート等の低粘度かつ凝固点の低い非プロトン性極性溶媒とエチレンカーボネートからなる電解液は、雰囲気温度が約−10℃以下になることでエチレンカーボネートの凝固にともなう急激なイオン伝導度の低下を引き起こすために低温特性が優れない。そのため、低温特性を改善するには電解液の溶媒に上述したプロピレンカーボネートを含むことが好ましく、負極の活物質および導電性材料に黒鉛を用いる場合にはプロピレンカーボネートの還元分解性が低い黒鉛を用いることが好ましい。
【0049】
リチウム塩としては、例えば、LiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、LIN(CSO)等が挙げられる。また、電解液中の電解質濃度は、電解液による内部抵抗を小さくするため、少なくとも0.1モル/L以上とすることが好ましい。更には、0.5〜1.5モル/Lの範囲内とすることが好ましい。また、リチウム塩は単独あるいは混合して使用しても良い。
【0050】
なお、特性改善のための添加剤としてビニレンカーボネート(VC)、エチレンサルファイト(ES)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)およびこれらの誘導体を電解液に添加しても構わない。添加量としては0.01〜10体積%の範囲内にすることが好ましい。さらに蓄電デバイスの難燃化のための添加剤として、ホスファゼン化合物やその誘導体、フッ素化カルボン酸エステル、フッ素化リン酸エステル等の物質を電解液に添加しても構わない。難燃化のための添加剤としては、例えば、ホスライト(日本化学工業株式会社製)や(CFCHO)PO、(HCFCFCHO)CO等が挙げられる。
【0051】
また、有機溶媒に代えてイオン性液体(イオン液体)を用いても良い。イオン性液体は各種カチオン種とアニオン種の組み合わせが提案されている。カチオン種としては、例えば、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム(PP13)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(EMI)、ジエチルメチル−2−メトキシエチルアンモニウム(DEME)等が挙げられる。また、アニオン種としては、ビス(フルオロスルフォニル)イミド(FSI)、ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド(TFSI)、PF、BF等が挙げられる。
【0052】
[G]外装材
外装材としては、一般に電池に用いられている種々の材質を用いることができる。例えば、鉄やアルミニウム等の金属材料を使用しても良い。また、樹脂等のフィルム材料を使用しても良い。また、外装材の形状についても特に限定されることはない。円筒型や角型など用途に応じて適宜選択することが可能である。蓄電デバイスの小型化や軽量化の観点からは、アルミニウムのラミネートフィルムを用いたフィルム型の外装材を用いることが好ましい。一般的には、外側にナイロンフィルム、中心にアルミニウム箔、内側に変性ポリプロピレン等の接着層を有した3層ラミネートフィルムが用いられている。
【0053】
以上、本発明を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。たとえば、本発明の蓄電デバイスの構造は、リチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタだけでなく、マグネシウムイオン二次電池等の様々な形式の電池やこれらのハイブリッドキャパシタに適用することが可能である。
【実施例】
【0054】
(実施例)
前述した構成を有する蓄電デバイスを用いて、本発明の有効性を検証した。蓄電デバイスとして、リチウムイオンキャパシタを用いた。このリチウムイオンキャパシタは、負極上に金属リチウム箔を貼り付けた負極複合材を電極積層ユニットの最外部に備え、この負極複合材を挟むセパレータの縁部を全周に渡って閉じた構成を有している。かかるリチウムイオンキャパシタを、次のように作製した。
【0055】
[正極の作製方法]
フェノール樹脂をアルカリ賦活することでBET比表面積2200m/gの活性炭を得た。この活性炭に対し、十分に洗浄することで残留灰分の除去、pH調製を実施した。このように作製した活性炭を正極活物質として用いた。
【0056】
上記正極用の活物質100重量部、電気化学工業株式会社製アセチレンブラック6重量部、カルボキシメチルセルロース4重量部を水と混練することでペーストに調製した。かかるペーストに、アクリレート系ゴムバインダーのエマルジョンを固形分として6重量部になるように添加し、水を加えて粘度調製を行うことで正極スラリーを調製した。かかる正極スラリーを、貫通孔を有するアルミニウム箔の両面に塗布することで正極を得た。
【0057】
[負極の作製方法]
株式会社クレハ製の難黒鉛化性炭素カーボトロンP−S(F)を負極活物質として88重量部、電気化学工業株式会社製アセチレンブラックの特殊プレス品HS−100を6重量部、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩3重量部を、水と混練することでペーストに調製した。かかるペーストに、スチレンブタジエンジゴムバインダーのラテックスを固形分として4重量部になるよう添加し、水を加えて粘度調製を行うことで負極スラリーを調製した。かかる負極スラリーを、貫通孔を有する銅のエキスパンドメタルの両面に塗布することで負極を得た。
【0058】
[セルの作製方法]
上記の様にして得られた正極および負極に対してそれぞれ減圧乾燥を施した。乾燥後、合材部のサイズが3.8cm×2.4cmである正極14枚と、合材部のサイズが4.0cm×2.6cmである負極15枚を切り出した。次に、35μmの厚みで4.6cm×3.2cmのサイズの紙セパレータを30枚切り出した。以上の様にして用意された正極、負極、セパレータのうち、正極14枚、負極13枚、セパレータ26枚を、正極、セパレータ、負極、セパレータ、正極、セパレータ、負極・・・正極となる様に積層することで電極積層ユニットを作製した。
【0059】
次に、前記電極積層ユニットにおいて、3.8cm×2.4cmのサイズで切り出され、かつリチウムイオンプレドープ後に正負極間で3.8Vの電圧に印加した際の負極電位が20mV(vs.Li/Li)となる重量の1/2の重量の金属リチウム箔を、電極の積層に用いなかった負極の一方面に貼り付けることで負極複合材を作製した。そして、電極の積層に用いなかったセパレータ2枚を負極複合材の両面に配置し、さらに厚さ30μm、幅2mmのポリエチレンフィルムを、前記負極複合材を挟むセパレータの間で、かつセパレータの縁部の全周にくまなく設置した。次に、富士インパルス株式会社製のチャンバー式脱気シーラーFCB−200を用いることにより、前記ポリエチレンフィルムを挟むセパレータの縁部に熱加圧を施してセパレータの縁部を閉じた。この熱加圧操作を繰り返すことで、縁部が全周に渡って閉じられた袋状のセパレータ内に前記負極複合材を収容させた。さらに、この操作を繰り返すことで負極複合材のセパレータ収容物を2体作製した。
【0060】
次いで、前記負極複合材のセパレータ収容物2体を、前記電極積層ユニットの最外部の両側に配置させることで、リチウムイオン供給源を具備する電極積層ユニットを完成させた。なお、前記電極積層ユニットの最外部に配置する負極複合材について、金属リチウム箔が電極積層ユニットの最外層となる様に配置した。さらに、正極集電体の端子接合部に正極端子を配置して溶接し、負極集電体の端子接合部に負極端子を配置して溶接した。
【0061】
次に、蓄電デバイス内の正極および負極電位を測定するための参照電極として、120μmの厚みのステンレスメッシュに金属リチウム箔を圧着し、かつステンレスメッシュにニッケル製端子を溶接してリチウム極を作製した。そして、前記リチウムイオン供給源を具備する電極積層ユニットの最外部の一方面に前記リチウム極を配置し、さらに電極積層ユニットと電位参照用リチウム極の外周を厚み35μmの紙セパレータで覆い、当該セパレータが重なった部分をポリイミド粘着テープで止めてリチウムイオンキャパシタ素子を完成させた。
【0062】
次いで、リチウムイオンキャパシタ素子を外装材であるアルミラミネートフィルムで覆い、アルミラミネートフィルムの三辺を加熱融着した。その後に、LiPFを1.2モル/Lの濃度になるようにプロピレンカーボネートに溶解することで調製した電解液を、アルミラミネートフィルム内に注液し、減圧含浸工程を経て含浸させた。そして、アルミラミネートフィルムの残りの一辺を真空封止することで、実施例となるリチウムイオンキャパシタを100セル作製した。
【0063】
(比較例)
負極複合材を挟み込みように配置される一対のセパレータの端部を閉じなかったこと以外は、実施例のリチウムイオンキャパシタと全く同様にして、比較例となるリチウムイオンキャパシタを100セル作製した。
【0064】
(実施例および比較例についての検討)
実施例および比較例にて作製したリチウムイオンキャパシタセルを室温下で2週間静置することでリチウムイオンプレドープを終了させた。比較例のセルは34セルが膨張しており、不良セルとなった。リチウム極を用いて正極および負極の電位を確認したところ、正極の電位が2V(vs.Li/Li)を大きく下回っていることが確認された。金属リチウムから脱落した金属リチウム片が正極に接触(ショート)し、正極電位が低下することによって、正極上で電解液の還元分解に起因するガスが発生していると考えられる。一方、実施例のセルにおいては上述の状態のセルは全く見られなかった。セルの膨張が見られない実施例の100セル、および比較例の66セルのセル電圧、正極電位、負極電位を測定した結果を表1に示した。実施例のセルの方が測定サンプル数は多いにもかかわらず、セル電圧、正極電位、負極電位のバラつきが小さいことが確認できる。比較例のセルにおいては、セル膨張にまでには至らないがマイクロショートを引き起こした可能性のあるセルが潜在していると推察される。
【0065】
次に、実施例および比較例のセルから10セルを任意に抜き取り、セルの解体を実施することでセル内部の状況を調査した。比較例のセルについては、負極複合材を設置した場所以外の電解液中や電極積層ユニット中から、金属リチウムと思われる金属光沢を有する微粒子が存在していることが確認された。これにより、比較例のセルは金属リチウムの遊離により所定のリチウムイオンプレドープ量が負極にドーピングできていないこと、および突発的にセルがショートする危険性を有していることがわかる。これに対し、実施例のセルからは金属リチウムと思われる物質の存在は認められなかった。以上のことから、本発明における実施の形態を構成する実施例のセルは品質に優れていることが示された。
【0066】
【表1】

【符号の説明】
【0067】
10 蓄電デバイス
13 正極
14 負極
15 負極
16 金属リチウム箔(イオン供給源)
18 セパレータ
20 正極集電体
20a 貫通孔
21 正極合材層
23 負極集電体
23a 貫通孔
24 負極合材層
26 負極複合材
30 蓄電デバイス
31 正極
32 負極(負極複合材)
33 正極集電体
34 負極集電体
35 金属リチウム箔(イオン供給源)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体および正極合材層を備える正極と負極集電体および負極合材層を備える負極とを有する蓄電デバイスであって、
前記負極の少なくとも1つは、前記負極集電体および前記負極合材層に加えてイオン供給源を備える負極複合材として構成され、
前記負極複合材は袋状のセパレータに収容されることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項2】
請求項1記載の蓄電デバイスにおいて、
前記セパレータの縁部は全周に渡って閉じられることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項3】
請求項1または2記載の蓄電デバイスにおいて、
前記正極集電体および前記負極集電体には複数の貫通孔が形成されることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項4】
正極集電体および正極合材層を備える正極と負極集電体および負極合材層を備える負極とを有する蓄電デバイスの製造方法であって、
前記負極の少なくとも1つを、前記負極集電体および前記負極合材層に加えてイオン供給源を備える負極複合材とする工程と、
前記負極複合材を袋状のセパレータに収容する工程と、を有することを特徴とする蓄電デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−199282(P2010−199282A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42139(P2009−42139)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】