説明

薄肉成形品の成形方法

【課題】中型以上の液晶用の導光板を薄肉で成形することができる薄肉成形品の成形方法を提供する。
【解決手段】
加熱シリンダ(5)とスクリュ(6)とからなる射出装置(2)を使用して成形する。最初に金型(20、21)を所定量開いた状態にしてスクリュ(6)を軸方向に駆動してキャビティに溶融樹脂を射出する。そして金型(20、21)を型締めして射出された溶融樹脂を圧縮する。この圧縮の実施中に、所定時間だけスクリュ(6)を後退させてキャビティ内の溶融樹脂の樹脂圧を低下させる。その後スクリュ(6)に軸方向の駆動力をかけて溶融樹脂に所定の樹脂圧を印加する保圧を実施する。保圧におけるスクリュ(6)の駆動は、速度制御を実施し、その後圧力制御に切り換えるようにしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機において薄肉成形品を成形する成形方法に関するものであり、限定するものではないが液晶に使用される導光板を成形するのに好適な薄肉成形品の成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形機は、従来周知のように一対の金型、これらの金型を型締する型締装置、樹脂材料を溶融して金型内に射出する射出装置等から構成され、射出装置はシリンダ、このシリンダ内で軸方向と回転方向に駆動されるスクリュ等から構成されている。この型締装置によって一対の金型を型締めし、シリンダ内において計量した溶融樹脂をスクリュを軸方向に駆動して射出すると、金型内に形成されているキャビティに充填される。冷却固化を待って金型を開くと成形品が得られる。
【0003】
ところで液晶に使用されている導光板のようにその大きさに比して肉厚の薄い、いわゆる薄肉成形品を成形する金型においては、キャビティの隙間あるいは厚さは薄いので、射出される溶融樹脂の流動抵抗が大きい。そうすると射出装置から射出される溶融樹脂はキャビティ内に十分に充填されにくく、転写性も低下してしまう。このような薄肉成形品を成形する成形方法として、いわゆる射出圧縮成形法が周知である。特許文献1にはこのような射出圧縮成形法の例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−302686号公報
【0005】
特許文献1には導光板を成形する成形方法が記載されているが、この成形方法において使用される金型は、可動金型のキャビティ形成面が固定金型のキャビティ形成面に対して、その距離を可変にすることができるようになっている。すなわちキャビティの厚さを可変にすることができるようになっている。特許文献1に記載の方法においては、最終的に得られる導光板の肉厚よりも0.2〜0.5mmだけキャビティの厚さを大きくした状態で金型を閉じる。すなわち金型をわずかに開いた状態にする。この状態においてキャビティ内に溶融樹脂を射出し、射出中あるいは射出後に金型の型締めを開始する。射出の終了に遅れて型締めを完了する。これによって溶融樹脂を圧縮し、キャビティ内に押し広げる。冷却固化を待って金型を開くと、所望の肉厚の導光板を得ることができる。
【0006】
一般的な射出成形機においてスクリュは、スクリュ速度の制御と、駆動力の制御とを切り換えることができ、これによって溶融樹脂を射出する速度を制御したり、射出圧力あるいは樹脂圧力を制御することができる。また、型締力、スクリュ速度等の色々な制御は、スクリュ位置に基づいて制御したり、時間に基づいて制御したりすることができる。このような射出成形機において、前記した射出圧縮成形法を実施する場合には、図5のように制御することになる。図5において横軸はスクリュ位置、もしくは時間を表すが、最初はスクリュ位置に基づいて制御を開始する。また保圧工程に移行するまでは、スクリュはスクリュ速度により制御する。射出開始時、すなわちスクリュ位置が初期位置51においては、スクリュ速度の目標値つまり速度指令52は比較的小さな値62で制御を開始し、射出される溶融樹脂の速度を小さくする。このとき射出圧力53も小さい。金型はわずかに開いた状態で維持するだけであるので型締力54は比較的小さな値63である。スクリュ位置が位置55に達したら、速度指令52を高い値64にして射出される溶融樹脂の速度を大きくする。射出圧力53は高くなる。スクリュ位置が位置56に達したら速度指令52をさらに大きな値65にし、同時に型締力54が徐々に大きくなるように制御する。すなわち徐々に型締する。これによってキャビティ内に射出された溶融樹脂を圧縮して、キャビティ内に充填する。射出が完了したら、すなわちスクリュ位置が保圧切換位置58に到達したら、スクリュ位置に基づく制御から経過時間に基づく制御に切り換える。またスクリュはスクリュ速度の制御から駆動力の制御、つまり射出圧力あるいは樹脂圧力の制御に切り換える。なお、型締は保圧切換に若干遅れて完了するようにし、型締力54は保圧終了まで一定値68になるように制御する。保圧切換後、射出圧力53つまり樹脂圧力53は所定の目標値66になるように制御するが、樹脂圧力53は保圧切換後緩やかに低下して目標値66に到達することになる。所定の時間59が経過したら樹脂圧力53を若干低い目標値67になるように制御する。所定時間61が経過し、溶融樹脂が固化・冷却したら保圧を終了する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法のような、いわゆる射出圧縮成形法により成形すれば、溶融樹脂はキャビティの隅々に充填され、転写性に優れた薄肉成形品を得ることはできる。しかしながら問題も見受けられ、特に肉厚に比して成形品が非常に大きい薄肉成形品を成形する場合に問題が生じる。射出圧縮成形法においては、型締めによって圧縮すると溶融樹脂はキャビティの中心部近傍から周辺方向に流動する。流動する溶融樹脂はキャビティの壁面との間に流動抵抗が生じるので、溶融樹脂の圧力は成形品内で不均一になる。つまり溶融樹脂の周辺部は樹脂圧力が低い一方で、中心部近傍すなわちゲート近傍は高圧の状態になる。図5のグラフの符号69に示されているように、保圧切換後の射出圧力53は高く、ゲート近傍の樹脂圧が高いことが分かる。肉厚に比して非常に大きい成形品の場合、この樹脂圧の偏りは大きい。そうすると得られる成形品に大きな残留応力が残り、中心部近傍が肉厚になったり変形したりして所望の品質の成形品が得られない。特許文献1に記載されている例は、携帯電話用の小さな導光板の成形であるので比較的問題は生じないが、中型以上の液晶テレビ用の導光板を成形する場合には問題がある。導光板の場合、肉厚が不均一になると光学特性が悪化して利用することができない。中型以上の導光板を成形する場合には、このような問題が生じないように従来は肉厚を厚くする必要があり、重量が大きくなってしまう。
【0008】
本発明は、上記したような問題点を解決した、薄肉成形品の成形方法を提供することを目的としており、具体的には肉厚に比して非常に大きな成形品を得る場合であっても、成形品に残留応力が残ったり肉厚が変化したりすることはなく、高品質な薄肉成形品を得ることができる成形方法を提供することを目的としている。そして限定するものではないが、中型以上の液晶用の導光板であっても従来にない薄肉で成形することができる成形方法を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、加熱シリンダと、該加熱シリンダ内で軸方向に駆動可能に設けられているスクリュまたはプランジャとからなる射出装置を使用する成形方法として構成する。この成形方法においては、最初に金型を所定量開いた状態にしてスクリュまたはプランジャを軸方向に駆動して該金型のキャビティに溶融樹脂を射出する。そしてこの金型を型締めして射出された溶融樹脂を圧縮する。この圧縮の実施中に、所定時間だけスクリュまたはプランジャを後退させてキャビティ内の溶融樹脂の樹脂圧を低下させる。その後スクリュまたはプランジャに軸方向の駆動力をかけて溶融樹脂に所定の樹脂圧を印加する。すなわち保圧する。これによって薄肉成形品を成形する。なお保圧におけるスクリュまたはプランジャの駆動は、樹脂圧が所定の圧力になるようにする圧力制御によって実施するが、保圧開始直後に所定時間だけ速度制御を実施して短時間で樹脂圧を回復させた後に、圧力制御に移行するようにしてもよい。
【0010】
かくして、請求項1記載の発明は、上記目的を達成するために、加熱シリンダと、該加熱シリンダ内で軸方向に駆動可能に設けられているスクリュまたはプランジャとからなる射出装置を使用して、金型を所定量開いた状態にして前記スクリュまたはプランジャを軸方向に駆動して該金型のキャビティに溶融樹脂を射出する射出工程と、前記金型を型締めして前記射出された溶融樹脂を圧縮する圧縮工程と、前記圧縮工程に並行して所定時間だけ前記スクリュまたは前記プランジャを後退させて前記キャビティ内の溶融樹脂の樹脂圧を低下させる圧抜き工程と、前記圧抜き工程後に前記スクリュまたは前記プランジャに軸方向の駆動力をかけて溶融樹脂に所定の樹脂圧を印加する保圧工程と、からなる薄肉成形品の成形方法として構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、前記圧縮工程は前記射出工程の終了前に開始するように構成される。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の方法において、前記圧抜き工程は、前記射出工程の終了後からの経過時間に基づいて前記スクリュまたは前記プランジャを制御する時間制御であるように構成される。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の方法において、前記保圧工程において前記スクリュまたは前記プランジャを軸方向に駆動するとき、工程開始から所定時間だけ目標速度になるように速度制御し、その後目標樹脂圧になるように圧力制御するように構成される。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかの項に記載の成形方法によって成形された導光板として構成される。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明は、加熱シリンダと、該加熱シリンダ内で軸方向に駆動可能に設けられているスクリュまたはプランジャとからなる射出装置を使用する成形方法として構成されているので、従来の一般的な射出装置によって成形することが可能である。そして、金型を所定量開いた状態にしてスクリュまたはプランジャを軸方向に駆動して該金型のキャビティに溶融樹脂を射出する射出工程と、金型を型締めして射出された溶融樹脂を圧縮する圧縮工程と、圧縮工程に並行して所定時間だけスクリュまたはプランジャを後退させてキャビティ内の溶融樹脂の樹脂圧を低下させる圧抜き工程と、圧抜き工程後にスクリュまたはプランジャに軸方向の駆動力をかけて溶融樹脂に所定の樹脂圧を印加する保圧工程により薄肉成形品を成形するように構成されている。すなわち射出工程と圧縮工程を備えているので、従来の射出圧縮成形法と同様にある程度の薄肉成形品を得ることができる。さらに本発明においては圧縮工程と並行して金型中の圧抜き工程を実施するので、圧縮工程においてキャビティ内に生じる溶融樹脂の圧力分布の偏りを緩和することができる。つまり残留応力が残ったり肉厚が不均一になることを防止することができる。これによって、従来成形することができなかった薄肉成形品、すなわち、その大きさに比して極めて薄い薄肉成形品であっても精度良く成形することができる。例えば中型の液晶の導光板の場合、従来の肉厚と比較して30%薄肉化することができる。また他の発明によると、圧縮工程は射出工程の終了前に開始するように構成されているので、射出工程と圧縮工程とをスムーズに実施することができ、成形サイクルを短縮することができる。さらに他の発明によると、圧抜き工程は、射出工程の終了後からの経過時間に基づいてスクリュまたはプランジャを制御する時間制御であるように構成されている。時間制御はタイマーによって管理することができ、容易に実施出来る効果が得られる。そして他の発明によると、保圧工程においてスクリュまたはプランジャを軸方向に駆動するとき、工程開始から所定時間だけ目標速度になるように速度制御し、その後目標樹脂圧になるように圧力制御するように構成されている。そうすると圧抜き工程において溶融樹脂が加熱シリンダ内に若干多めに戻されていても、速度制御によって速やかに溶融樹脂をキャビティ内に押し戻すことができるので、樹脂圧は非常に短時間で回復する。その後圧力制御によって所望の樹脂圧になるように制御されるので、保圧工程が安定することになり精度に優れた成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る電動射出成形機を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る成形方法を説明するフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態に係る成形方法を実施したときの、スクリュ速度、射出圧力、型締力等の変化を示すグラフである。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る成形方法を説明するグラフであり、所定の工程におけるスクリュ速度、射出圧力、型締力等の変化を示すグラフである。
【図5】従来の射出圧縮方法を実施したときの、スクリュ速度、射出圧力、型締力等の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施の形態に係る薄肉成形品の成形法は、従来周知の射出成形機によって実施することができる。本実施の形態においては電動射出成形機1によって中型以上の液晶用の導光板を成形する方法について説明するが、この電動射出成形機1について概略的に説明する。電動射出成形機1も、従来周知のように射出装置2と型締装置3とから構成され、図1に示されている。射出装置2は、加熱シリンダ5とこの加熱シリンダ5内に設けられているスクリュ6とから構成され、加熱シリンダ5の先端には射出ノズル7が設けられている。この加熱シリンダ5には、その外周面にはバンドヒータ8が巻かれており、後端部寄りには加熱シリンダ5内に樹脂材料を供給するホッパが設けられている。図1にはホッパは示されていない。スクリュ6は図示されない駆動機構によって回転方向に駆動できると共に、軸方向に駆動できるようになっており、軸方向に駆動するとき、スクリュ6の速度によって制御することも、駆動力によって制御することもできるようになっている。型締装置3も従来周知のように、固定盤10と、この固定盤10に対して型開閉される可動盤11と、型締ハウジング12と、可動盤11を貫通して固定盤10と型締ハウジング12とを連結している複数本のタイバー13、13、…と、固定盤10と型締ハウジング12との間に設けられているトグル機構15とから構成されている。型締ハウジング12には、ボールネジ16と、このボールネジ16に螺合しているボールナット17と、このボールナット17を駆動する所定のギヤとサーボモータ18とからなる駆動機構が設けられ、この駆動機構によってトグル機構15を駆動して型開閉できるようになっている。
【0014】
このような型締装置3には、本実施の形態に係る固定側金型20と可動側金型21が、それぞれ固定盤10と可動盤11に取り付けられている。これらの金型20、21は導光板を形成するための金型であり、固定側金型20には凹部が、可動側金型21にはこの凹部に対応するコアが形成されている。固定側金型20に対して可動側金型21を型閉じするとコアが凹部に挿入されて導光板成形用のキャビティが形成されるが、金型20、21をわずかに開いた状態にするとキャビティの隙間すなわち厚さが型開き量に応じて厚くなるようになっている。可動側金型21の上部の、固定側金型20に対向する面には、油圧シリンダ22が埋め込まれている。この油圧シリンダ22のピストンロッド23は、金型20、21がわずかに開かれた状態において固定側金型20に当接するようになっている。本実施の形態においては、金型20、21の平行度を精度良く維持するように油圧シリンダ22が駆動されるようになっている。これによって金型20、21が倒れることなく型締めすることができる。
【0015】
型締装置3の固定盤10には射出ノズル7が挿入される、くり抜き24が明けられている。射出装置2は、固定盤10の背面から挿入され、射出ノズル7は固定側金型20のスプルにタッチしている。図1には示されていないが、本実施の形態に係る電動射出成形機1にもコントローラが設けられており、各装置はコントローラによって制御されるようになっている。
【0016】
図2、図3を参照しながら、電動射出成形機1によって導光板を成形する、第1の実施の形態に係る成形方法を説明する。
射出装置2においてバンドヒータ8、8、…によって加熱シリンダ5を加熱し、スクリュ6を回転させ、樹脂材料をホッパから供給する。そうすると樹脂材料はバンドヒータ8、8、…による熱と、スクリュ6の回転のせん断による熱とで溶融し、加熱シリンダ5の先端部に計量される。計量される溶融樹脂によってスクリュ6が所定の長さだけ後退したら計量を完了する(ステップS1)。
【0017】
型締装置3を駆動して、金型20、21を型閉じ方向に駆動する。そして金型20、21をわずかに開いた状態にする(ステップS2)。金型20、21は型閉じされていないので、図3のグラフに示されているように、型締力28は比較的低い値41である。スクリュ6を軸方向に駆動して射出工程を開始する(ステップS3)。スクリュ6は、射出工程中においてはその速度、すなわちスクリュ速度によって制御する。スクリュ速度の指令すなわち速度指令27はスクリュ6の位置に基づいて設定されている。つまりスクリュ位置に基づいて制御することになる。射出開始後の溶融樹脂がゲートに達するまでの間、すなわちスクリュ6の位置が開始位置30から位置31の間は、速度指令27は低速38に設定されている。従って溶融樹脂は低速で射出する。溶融樹脂がゲートに達した後は、中速39に設定されている速度指令27に従って、中速で射出する。射出圧力26は、射出工程開始から徐々に高くなるが、型締力28は、ほぼ一定値41で維持される。このとき、金型20、21のキャビティ内には、溶融樹脂が充填されているが図1に示されているように、ショートショットの状態である。
【0018】
スクリュ6が所定の位置32に到達したら圧縮工程を開始する(ステップS4)。すなわち型締装置3を駆動して徐々に型閉じする。これによってキャビティ内の溶融樹脂を圧縮し、押し広げる。型締力28は上昇する。なお、本実施の形態においてはスクリュ6が位置32に到達した後、速度指令27は高速40に設定されており、溶融樹脂を高速に射出する。つまり圧縮工程の開始後にも射出を継続する。スクリュ6が保圧切換位置33に到達したら射出工程を終了する(ステップS5)。すなわちスクリュ6の速度指令27はゼロに設定されており、溶融樹脂の射出を停止して射出工程を終了する。これ以後スクリュ6は、射出工程終了後からの経過時間に基づいて制御する。すなわち時間制御に移行する。
【0019】
射出工程の終了後、圧縮工程の実施中に短い時間だけスクリュ6を所定の速度で後退する。すなわち圧抜き工程を実施する(ステップS6)。圧縮工程において溶融樹脂がキャビティ内に押し広げられるとき、中心部すなわちゲート近傍の溶融樹脂は、周囲に比して高圧になり、圧力分布に著しい偏りが生じているが、この圧抜き工程によってゲート近傍の溶融樹脂の圧力が低下する。これによって溶融樹脂の圧力分布の不均一が緩和される。図3のグラフには、符号43で示されているように、射出圧力26が急激に低下している様子が示されている。圧抜き工程の終了に遅れて圧縮工程が終了する(ステップS7)。つまり型締めが完了し、型締力28が最大値42に到達する。溶融樹脂はキャビティの隅々にまで充填された状態になる。圧抜き工程の終了後、あるいは圧縮工程の終了後、保圧工程を開始する(ステップS8)。すなわちキャビティ内の溶融樹脂が冷却されるとき、スクリュ6を所定の背圧で駆動して所定の樹脂圧44を印加してヒケを防止する。所定時間34が経過し、ある程度溶融樹脂が冷却したら、溶融樹脂の圧力を符号45に示されているように低下させる。冷却時間35が経過し、樹脂が固化・冷却したら保圧工程を終了する。
【0020】
一般的に、保圧工程においては、スクリュ6の駆動力を制御して所望の樹脂圧44になるように圧力制御する。すなわちスクリュ6を駆動するサーボモータにについてトルク制御を実施する。圧抜き工程のスクリュ6の後退によって加熱シリンダ5内に戻る樹脂量が適正な場合には、保圧工程において速やかに目標となる樹脂圧に到達するので問題はない。しかしながら圧抜き工程において加熱シリンダ5内に戻る樹脂量が多い場合、スクリュ6がある程度軸方向に駆動されて溶融樹脂がキャビティ内に押し込まれないと樹脂圧が高くならない。この場合圧力制御のみによってスクリュ6を駆動すると、応答性が悪く、所望の樹脂圧が得られるまでに時間がかかって、成形品の品質に影響を与えてしまう。この現象を回避することができる、第2の実施の形態に係る成形方法を、図4によって説明する。図4は、図3のグラフにおける符号Aで示されている区間を横軸方向に拡大したグラフである。第2の実施の形態に係る成形方法は、既に説明した第1の実施の形態に係る成形方法と保圧工程だけが相違している。そこで保圧工程だけを説明する。第2の実施の形態に係る成形方法では、保圧工程を開始するとき、スクリュ6を設定されている短時間だけ速度制御する。図4には、符号47で示されているようにスクリュ6の速度指令27’が設定されている。スクリュ6は設定されている目標速度が達成されるように軸方向に駆動され、極めて短時間に樹脂圧が高くなる。この後に、スクリュ6の駆動を圧力制御に移行する。そうすると短時間で所望の樹脂圧44が得られることになる。
【0021】
本実施の形態に係る成形方法は、他の射出成形機においても実施が可能である。例えば油圧式射出成形機においても実施することができるし、射出装置が、加熱シリンダと該加熱シリンダ内で軸方向に駆動されるプランジャとから構成されていても同様に実施することができる。また本実施の形態に係る成形方法についても色々な変形が可能である。例えば本実施の形態において、圧縮工程は射出工程が終了する前に開始するように説明しているが、射出工程が完了した後に開始するようにしてもよい。また射出工程は速度指令が3段に設定され、保圧工程は樹脂圧が2段に設定されているが、これらはそれぞれ1段だけ設定されていても良いし、さらに多段に設定されていてもよい。
【符号の説明】
【0022】
1 電動射出成形機 2 射出装置
3 型締装置 5 加熱シリンダ
6 スクリュ 7 射出ノズル
10 固定盤 11 可動盤
12 型締ハウジング 13 タイバー
15 トグル機構 20 固定側金型
21 可動側金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱シリンダと、該加熱シリンダ内で軸方向に駆動可能に設けられているスクリュまたはプランジャとからなる射出装置を使用して、
金型を所定量開いた状態にして前記スクリュまたはプランジャを軸方向に駆動して該金型のキャビティに溶融樹脂を射出する射出工程と、前記金型を型締めして前記射出された溶融樹脂を圧縮する圧縮工程と、前記圧縮工程に並行して所定時間だけ前記スクリュまたは前記プランジャを後退させて前記キャビティ内の溶融樹脂の樹脂圧を低下させる圧抜き工程と、前記圧抜き工程後に前記スクリュまたは前記プランジャに軸方向の駆動力をかけて溶融樹脂に所定の樹脂圧を印加する保圧工程と、からなる薄肉成形品の成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記圧縮工程は前記射出工程の終了前に開始することを特徴とする薄肉成形品の成形方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、前記圧抜き工程は、前記射出工程の終了後からの経過時間に基づいて前記スクリュまたは前記プランジャを制御する時間制御であることを特徴とする薄肉成形品の成形方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法において、前記保圧工程において前記スクリュまたは前記プランジャを軸方向に駆動するとき、工程開始から所定時間だけ目標速度になるように速度制御し、その後目標樹脂圧になるように圧力制御することを特徴とする薄肉成形品の成形方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの項に記載の成形方法によって成形された導光板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−144042(P2012−144042A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−270014(P2011−270014)
【出願日】平成23年12月9日(2011.12.9)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】