説明

薄膜トランジスタ

【課題】上記事情から、本発明の目的は、低温条件下で簡便な溶液塗布プロセスにより形成可能であり、かつ、良好なトランジスタ特性を発現する薄膜トランジスタを提供することである。
【解決手段】 ヒドロシリル化反応を架橋反応とする樹脂組成物を溶液塗布し形成されるゲート絶縁膜を有する有機薄膜トランジスタ素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、低温条件下で簡便な溶液塗布プロセスにより形成可能であり、かつ、良好なトランジスタ特性を発現する薄膜トランジスタを提供すること。
【背景技術】
【0002】
次世代ディスプレイとして注目を浴びる電子ペーパーなどをはじめとしたフレキシブルディスプレイ開発のため、プラスチックフィルムを基板として低温かつ印刷法等の簡便に形成できる薄膜トランジスタが盛んに研究開発されており、半導体材料としてペンタセン、ポリチオフェン化合物を用いる有機TFTやZnO化合物を用いる酸化物TFT(特許文献1)が提案されており、中には液晶ディスプレイで用いられているaSiTFT並みの特性を有する半導体材料も見出されている。
【0003】
一方、低温プロセスによるトランジスタ製造において半導体材料のみならず、ゲート絶縁膜、パッシベーション膜等の絶縁膜についても低温形成が必須であり、ポリビニルアルコール(特許文献2)やシリコン系ポリマー(特許文献3)などの有機材料を絶縁膜として用いたトランジスタが提案されているが、半導体特性として未だ満足するものが得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−158147号公報
【特許文献2】特開2004−349319号公報
【特許文献3】特開2007−43055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記事情から、本発明の目的は、簡便な溶液塗布プロセスにより形成可能な絶縁膜を有し、かつ、良好なトランジスタ特性を発現する薄膜トランジスタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記事情に鑑み、本発明者らが鋭意検討した結果、下記特長を有する薄膜トランジスタを用いることにより上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の構成を有するものである。
【0007】
1). ヒドロシリル化反応性官能基を有する組成物より形成される薄膜をゲート絶縁膜とする有機薄膜トランジスタ素子。
【0008】
2). ヒドロシリル化反応性官能基に加えさらにカチオン重合性官能基を含有する組成物より形成される薄膜をゲート絶縁膜とする1)に記載の有機薄膜トランジスタ素子。
【0009】
3). カチオン重合性官能基を有する組成物がポリシロキサン系である事を特徴とする2)に記載の有機薄膜トランジスタ素子。
【0010】
4). カチオン重合性化合物が同一分子中にSiH基を有する化合物であることを特徴とする2)または3)に記載の有機薄膜トランジスタ素子。
【0011】
5). ヒドロシリル化反応性官能基がSiH基であることを特徴とする2)〜4)のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ素子。
【0012】
6). カチオン重合性化合物の反応基がエポキシ基であることを特徴とする2)〜5)のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ素子。
【0013】
7). 組成物が下記一般式(I)
【0014】
【化1】

【0015】
(式中Rは水素原子または炭素数1〜50の一価の有機基を表し、それぞれのRは異なっていても同一であってもよい)で表される構造を含むことを特徴とする1)〜4)のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ素子。
【0016】
8). 組成物が環状シロキサン構造を含む化合物であることを特徴とする1)〜7)のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ素子。
【0017】
9). 半導体特性として10以上のIon/Ioff電流比を示すことを特徴とする1)〜8)のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ素子。
【0018】
10). 半導体特性として閾値電圧が−3〜3Vであることを特長とする1)〜9)のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ素子。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、低温条件下で簡便な溶液塗布プロセスにより形成可能であり、特性に優れる薄膜トランジスタを与え得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1により得られたトランジスタの電流伝達特性Vgvs(Id)1/2の曲線を示す。
【図2】実施例2により得られたトランジスタの電流伝達特性Vgvs(Id)1/2の曲線を示す。
【図3】実施例3により得られたトランジスタの電流伝達特性Vgvs(Id)1/2の曲線を示す。
【図4】比較例1により得られたトランジスタの電流伝達特性Vgvs(Id)1/2の曲線を示す。
【図5】比較例2により得られたトランジスタの電流伝達特性Vgvs(Id)1/2の曲線を示す
【図6】本発明の一実施例で収得された有機薄膜トランジスタの単位素子の断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明の詳細を説明する。
本発明で得られる薄膜トランジスタとは、電界効果トランジスタ(FET)を示し、ソース、ドレイン、ゲート電極から形成されている3端子型、およびバックゲートを含む4端子型のトランジスタのことであり、ゲート電極に電圧印加することで発生するチャネルの電界によりソース/ドレイン間の電流を制御する薄膜型のトランジスタを示す。
【0022】
トランジスタ構造としては、ゲート電極の配置に関してボトムゲート型、トップゲート型、さらにはソース/ドレイン電極の配置に関し、ボトムコンタクト型、トップコンタクト型など適用する表示デバイス構造に応じて様々な組み合わせ、配置で設計可能であり、特にはその構造は限定されない。
【0023】
このトランジスタにおいて、アクティブマトリクス型のフラットパネルディスプレイにおける画素トランジスタとして広く用いられている。ディスプレイを安定的に駆動させるためトランジスタの特性として、閾値電圧、ヒステリシス、ON/OFF比が重要特性として挙げられる。
【0024】
ここで言う閾値電圧とは、トランジスタがON状態となり半導体層に電流が流れ始める電圧値を示し、トランジスタの電流伝達特性においてソース/ドレイン間に流れる電流Id、ゲート印加電圧Vgとした際の(Id)1/2 とVg 間のグラフにおいて線形部分の延長線とVg 軸との交点より算出される。トランジスタの駆動にかかる消費電力が小さくなるという観点より、−5〜5Vであることが好ましく、さらに−3〜3Vであることが好ましい。
【0025】
またヒステリシスとは、トランジスタ反復動作に対し電流伝達特性の再現動作性を示し、反復動作時の閾値電圧の差で表される。ディスプレイとした際の安定した駆動のためには、ヒステリシスが5V以下であることが好ましく、3V以下であることがさらに好ましい。
【0026】
ON/OFF電流比とは、トランジスタの電流伝達特性におけるソース/ドレイン間に流れる電流Idの最大電流値と最小電流値の比(Ion/Ioff)で表され、大きければ大きいほどスイッチとしての機能に優れることを示し、駆動に大電流を要する方式の駆動も可能となることより10以上であることが好ましく、10以上であることがさらに好ましい。
【0027】
(トランジスタの形成方法)
薄膜トランジスタの形成温度については、フレキシブルディスプレイなどへの展開のためにはプラスチック基板での形成可能であることが必要であり、寸法安定性などの観点より180℃以下での形成がこの好ましく、より安定性が増すことより好ましくは140℃以下、プラスチック基板として使用可能なフィルム素材種の選択の幅が広がるという点よりさらに120℃以下であることが好ましい。この形成温度を達成するためには、トランジスタの電極層、半導体層、絶縁膜層の個々が低温条件で形成されることが必要となる。
【0028】
ただし、低温条件で形成されたトランジスタについては、上記トランジスタ特性を満足するものが得られにくく、特に絶縁膜を低温で形成したトランジスタについては、上記にあるようなディスプレイ駆動に必要な特性に関し、満足のいく特性発現がなされにくい。
【0029】
有機半導体層としては様々な素材のものが提案されており、ペンタセン系、オリゴチオフェン系、フタロシアニン系等の化合物が挙げられ、特に限定されず適用できる。また半導体層の形成方法に関しては、蒸着、塗布など様々な工法が提案されており特に限定されないが、CVDを使用するシリコン系半導体と比べて低温での形成が可能であり、プラスチック基板上での形成が可能となる。
【0030】
電極材料に関しては、特に限定せず使用することができるが、簡便に入手できるAu、Al、Pt、Mo、Ti、Cr、Ni、Cu、ITO、PEDOT/PSS等の導電性高分子、導電ペースト、メタルインクなどが好適に用いられる。抵抗が低く、高い導電性を得られることよりAl、Mo、Ti、Cr、Ni、Cuなどが好ましく、また透明性が必要な箇所に適用できる観点からは、ITO、PEDOT/PSSが好ましく、電極表面が酸化されにくくの安定性に優れるという観点からは、Au、Ptが好ましく、印刷プロセスにより形成できることよりPEDOT/PSS等の導電性高分子、導電ペースト、メタルインクが好ましく用いられる。
【0031】
薄膜トランジスタにおけるゲート絶縁膜とは、ゲート電極と半導体層との間に形成される絶縁膜であり、微小な電流リークでも動作不良に影響することから極めて高い絶縁信頼性が必要となる部材である。またパッシベーション膜については、半導体素子を保護する役目を担う絶縁膜であり、ゲート絶縁膜と同様、高い絶縁信頼性が必要となる部材である。
【0032】
形成方法に関しても、CVD法、スパッタリング、蒸着、塗布など様々な工法が提案されている。ただし印刷プロセスによるフレキシブルディスプレイなどへの展開のためには半導体材料同様、塗布により形成できるものが好ましく、高い絶縁性を有する樹脂組成物が好適に用いられる。さらに塗布方法に関しても特に限定されるものではなく、スピンコーティング、ディップコーティング、ロールコーティング、スクリーンコーティング、スプレーコーティング、スピンキャスティング、フローコーティング、スクリーン印刷、インクジェットまたはドロップキャスティングなどの方法で成膜することができる。また成膜する基材の状態に合わせ適宜、溶剤による粘度調整、界面活性剤による表面張力調整を行っても良い。
【0033】
このように塗布プロセスで形成できる絶縁膜材料として、様々な樹脂化合物が適用・検討されているが、絶縁信頼性などに欠け上記トランジスタ特性において満足する材料およびそれを用いる薄膜トランジスタは得られていない。
【0034】
(ゲート絶縁膜材料について)
また本発明のゲート絶縁膜材料について説明する。
本発明に用いることができる材料としては、ヒドロシリル化反応性官能基を有する組成物で絶縁性を発現する薄膜となるものであれば限定されるものではないが、特に形成される薄膜において、薄膜での絶縁性に優れ、その他製造プロセス中に暴露されるエッチング液、現像液、溶剤等の薬液への耐性が高いという観点より、ポリシロキサン系組成物であることが好ましい。またこのポリシロキサン系化合物としては、シロキサン単位(Si−O−Si)を含有する化合物、重合体を示し、構造上特に限定されるものではない。
【0035】
また、これら化合物中のシロキサン単位のうち、構成成分中T単位(XSiO3/2)、またはQ単位(SiO4/2)の含有率が高いものほど得られる硬化物は硬度が高くより耐熱信頼性に優れ、またM単位(XSiO1/2)、またはD単位(XSiO2/2)の含有率が高いものほど硬化物はより柔軟で低応力なものが得られる。
【0036】
(架橋反応について)
さらにゲート絶縁膜として良好に機能する為には、上記好ましい構造に加えて熱もしくは光エネルギーを外部より加えて架橋させ高い絶縁性を発現させることが重要であり、架橋反応を伴わない組成物では絶縁耐圧性に欠けトランジスタの繰り返し使用に支障があるため好ましくない。
【0037】
中でも反応後に未反応部位が少なく絶縁性に優れる薄膜が形成できることからヒドロシリル化反応性官能基を有する組成物であることが必要である。さらにヒドロシリル化反応と同時にカチオン重合反応を併用させ2種の架橋反応を適用する事により、さらに緻密な架橋体となり絶縁信頼性に優れた絶縁膜を形成する事ができるためより好ましい。またこの場合、カチオン重合性を有する化合物とヒドロシリル化反応性を有する化合物とを混合し使用してもよいが、カチオン重合性官能基とヒドロシリル化反応基とを同一分子中に有する化合物を用いる事で樹脂組成物の相溶性が優れより均質な絶縁膜となるためより好ましい。
【0038】
ここでいうヒドロシリル化反応性官能基とは、アルケニル基とSiH基との2種を示し、同一分子中に両官能基が存在しても良いし、それぞれアルケニル基含有化合物とSiH基含有化合物との混合物であっても良い。
【0039】
カチオン重合性官能基としては、特に限定されるものではないが、例えばエポキシ基、オキセタニル基、アルコキシシリル基、ビニルエーテル基などが挙げられ、カチオン重合性が高い観点より、エポキシ基が好ましく、さらには脂環式エポキシ基がより好ましい。
またカチオン重合性を有する化合物としてカチオン重合性を有するものであれば特に限定されないが、耐薬品性、絶縁性に優れる薄膜が得られる観点よりカチオン重合性を有するポリシロキサン化合物であることが好ましい。
【0040】
カチオン重合性を有するポリシロキサン化合物を得る方法として、特には限定されないが、カチオン重合性官能基を有するアルコキシシラン化合物を縮合させる方法、カチオン重合性官能基とアルケニル基とを同一分子内中に有する化合物とSiH基を有するポリシロキサン化合物とをヒドロシリル化反応させて得る方法などが挙げられるが、未反応部位が残りにくく絶縁性に優れる薄膜となりやすい観点より、後者の方法が好適である。
【0041】
この製法の際使用するカチオン重合性官能基とアルケニル基とを同一分子内中に有する化合物としては、例えばエポキシ化合物としては、ビニルシクロヘキセンオキシド、アリルグリシジルエーテル、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等が挙げられ、光重合反応性に優れている観点より、脂環式エポキシ基を有する化合物であるビニルシクロヘキセンオキシドが特に好ましい。
【0042】
またオキセタニル基を有する化合物として、アリルオキセタニルエーテル、ビニルオキセタニルエーテルなどが挙げられる。オキセタニル基を有する化合物を用いる場合、硬化物の靭性が向上するという観点より好ましい。
【0043】
カチオン重合性官能基としてアルコキシシリル基を有する化合物の具体例としては、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、メトキシジメチルビニルシラン、エトキシジメチルビニルシランが挙げられる。
【0044】
ヒドロシリル化反応性官能基を有する組成物としては、アルケニル基とSiH基およびヒドロシリル化触媒を含有している樹脂組成物が好ましい。
【0045】
またアルケニル基を有する化合物については、ポリシロキサン化合物、有機化合物にかかわらず特に限定なく使用することができる。アルケニル基を有する直鎖状のポリシロキサンの具体例としては、ジメチルビニルシリル基で末端が封鎖されたポリもしくはオリゴシロキサン、側鎖にビニル基を有するポリもしくはオリゴシロキサン、テトラメチルジビニルジシロキサン、ヘキサメチルトリビニルトリシロキサン、上記SiH基を含有する環状シロキサンの例示でSiH基をビニル基、アリル基等のアルケニル基に置換したものなどが例示される。
【0046】
アルケニル基含有有機化合物の例としては、ポリシロキサン−有機ブロックコポリマーやポリシロキサン−有機グラフトコポリマーのようなシロキサン単位(Si−O−Si)を含むものではなく、構成元素としてC、H、N、O、Sおよびハロゲンからなる群から選ばれる原子より構成される化合物であって、1分子中にSiH基との反応性を有する炭素−炭素二重結合を1個以上有する有機化合物であれば特に限定されない。またSiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合の結合位置は特に限定されず、分子内のどこに存在してもよい。
【0047】
上記有機化合物は、有機重合体系の化合物と有機単量体系化合物に分類でき、有機重合体系化合物としては例えば、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリアリレート系、ポリカーボネート系、飽和炭化水素系、不飽和炭化水素系、ポリアクリル酸エステル系、ポリアミド系、フェノール−ホルムアルデヒド系(フェノール樹脂系)、ポリイミド系の化合物を用いることができる。
【0048】
また有機単量体系化合物としては例えば、フェノール系、ビスフェノール系、ベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素系:直鎖系、脂環系等の脂肪族炭化水素系:複素環系の化合物およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0049】
化合物の具体的な例としては、ジアリルフタレート、トリアリルトリメリテート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル、1,1,2,2−テトラアリロキシエタン、ジアリリデンペンタエリスリット、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルモノベンジルイソシアヌレート、1,2,4−トリビニルシクロヘキサン、1,4−ブタンジオールジビニルエーテル、ノナンジオールジビニルエーテル、1,4−シクロへキサンジメタノールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、ビスフェノールSのジアリルエーテル、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、1,3−ジイソプロペニルベンゼン、1,4−ジイソプロペニルベンゼン、1,3−ビス(アリルオキシ)アダマンタン、1,3−ビス(ビニルオキシ)アダマンタン、1,3,5−トリス(アリルオキシ)アダマンタン、1,3,5−トリス(ビニルオキシ)アダマンタン、ジシクロペンタジエン、ビニルシクロへキセン、1,5−ヘキサジエン、1,9−デカジエン、ジアリルエーテル、ビスフェノールAジアリルエーテル、2,5−ジアリルフェノールアリルエーテル、およびそれらのオリゴマー、1,2−ポリブタジエン(1、2比率10〜100%のもの、好ましくは1、2比率50〜100%のもの)、ノボラックフェノールのアリルエーテル、アリル化ポリフェニレンオキサイドなどが挙げられる。
【0050】
SiH基を有する化合物については、上記例示にある化合物は特に限定なく使用することができる。また強靭な薄膜が得られるという観点より、あらかじめポリシロキサン化合物同士または有機化合物とポリシロキサン化合物とを部分的に反応させているオリゴマーも用いることが好ましい。この一部架橋させる反応としては特には限定されるものではないが、加水分解縮合と比較して反応後に電気的および熱的に安定なC−Si結合を形成し、また反応制御が容易で未架橋基が残りにくいという観点より、ヒドロシリル化反応を適用することが好ましい。
【0051】
部分架橋させるモノマーとしては特に限定されるものではなく、上記SiH基を有するシロキサン化合物とアルケニル基を有するシロキサン化合物または有機化合物を適宜組み合わせて用いることができる。また上記ヒドロシリル化反応させる場合の触媒としては、公知のヒドロシリル化触媒を用いればよい。触媒活性の点から塩化白金酸、白金−オレフィン錯体、白金−ビニルシロキサン錯体等が好ましい。また、これらの触媒は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0052】
さらには、同一分子中にカチオン重合性官能基とヒドロシリル化官能基とを同時に有する化合物も本発明の絶縁膜形成用の組成物に使用することができ、相溶性に優れ、より緻密な絶縁膜が得られるという観点より好ましい。化合物としては、カチオン重合性官能基とアルケニル基とを同一分子内に有する化合物、カチオン重合性官能基とSiH基とを同一分子内に有する化合物が挙げられる。
【0053】
前者の化合物としては、上記例示されている化合物を使用することができ、例えばエポキシ化合物としては、ビニルシクロヘキセンオキシド、アリルグリシジルエーテル、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等が挙げられ、光重合反応性に優れている観点より、脂環式エポキシ基を有する化合物であるビニルシクロヘキセンオキシドが特に好ましい。
【0054】
またオキセタニル基を有する化合物として、アリルオキセタニルエーテル、ビニルオキセタニルエーテルなどが挙げられる。オキセタニル基を有する化合物を用いる場合、硬化物の靭性が向上するという観点より好ましい。
カチオン重合性官能基としてアルコキシシリル基を有する化合物の具体例としては、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、メトキシジメチルビニルシラン、エトキシジメチルビニルシランが挙げられる。
【0055】
後者の化合物は、上記カチオン重合性官能基を有するポリシロキサン化合物を得る製法時、カチオン重合基の導入量を調整することでSiH基とカチオン重合官能基とを同一分子中に有する化合物を得る事ができる。
また、樹脂構造中に下記一般式(I)
【0056】
【化2】

【0057】
(式中Rは水素原子または炭素数1〜50の一価の有機基を表し、それぞれのRは異なっていても同一であってもよい)で表される構造を含むことにより、構造上緻密となり絶縁性、耐圧性に優れる絶縁膜となりうる観点より好ましい。
【0058】
当該構造を樹脂組成物に導入する手法としては特に限定されないが、汎用のイソシアヌル環含有化合物を添加する手法が挙げられる。イソシアヌル環含有化合物としては、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルイソシアヌレート、モノアリルイソシアヌレート、トリグリシジルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート、トリス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、トリ(3−メルカプトプロピオニロオキシエチル)イソシアヌレートなどが挙げられ、樹脂組成物の架橋反応に応じて適宜選択して使用することができる。
【0059】
架橋反応としてカチオン重合反応を適用する場合には、トリグリシジルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレートが好ましく、架橋反応としてヒドロシリル化反応を適用する場合には、SiH基を有するポリシロキサン化合物とアルケニル基を有するイソシアヌル環化合物、例えば、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルイソシアヌレート、モノアリルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート、トリス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレートが好適である。
【0060】
架橋反応としてラジカル重合反応を適用する場合には、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルイソシアヌレート、モノアリルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート、トリス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、トリ(3−メルカプトプロピオニロオキシエチル)イソシアヌレートが好適である。
【0061】
またさらに、上記汎用イソシアヌル環含有化合物とその他化合物とをあらかじめ一部反応させた化合物も適用することができる。その方法は特に限定はされないが、SiH基を有するポリシロキサン化合物とトリアリルイソシアヌレート、ジアリルイソシアヌレート、モノアリルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート、トリス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレートなどのヒドロシリル化反応性を有する2重結合を構造中に有するイソシアヌル環含有化合物とをあらかじめヒドロシリル化反応させた化合物は、さらにはエポキシ基とアルケニル基を同一分子中に有する化合物、例えば、ビニルシクロヘキセンオキシド、アリルグリシジルエーテル、等をヒドロシリル化反応させたエポキシシリコン化合物は特に液状となりハンドリング性、塗布膜の均一性に優れるという観点より好ましい。
【0062】
(溶媒)
樹脂組成物を均一に塗布するために溶媒を使用してもよい。使用できる溶剤は特に限定されるものではなく具体的に例示すれば、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート(PGMEA)、エチレングリコールジエチルエーテル等のグリコール系溶剤、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒を好適に用いることができる。
【0063】
特に均一な膜が形成しやすい観点より、トルエン、テトラヒドロフラン、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、メチルイソブチルケトン、クロロホルム、等が好ましい。
【0064】
使用する溶媒量は適宜設定できるが、用いる樹脂組成物1gに対しての好ましい使用量の下限は0.1gであり、好ましい使用量の上限は10gである。使用量が少ないと、低粘度化等の溶媒を用いることの効果が得られにくく、また、使用量が多いと、材料に溶剤が残留して熱クラック等の問題となり易く、またコスト的にも不利になり工業的利用価値が低下する。これらの、溶媒は単独で使用してもよく、2種類以上の混合溶媒として用いることもできる。
【実施例】
【0065】
当該発明の手法を用いて下記実施例および比較例で作成した薄膜トランジスタについて、半導体パラメーターアナライザー(Agilent4156)を用い電流伝達特性を評価し得られたトランジスタの電流伝達特性の曲線を図1〜5に示す。測定により得られた電流伝達特性の曲線から電気的特性を下記の方法によって算出した結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
この結果からもわかるように、本発明により低温で形成が可能でトランジスタ特性に優れる薄膜トランジスタが得られている事がわかる。
【0068】
(電流伝達特性)
作製したトランジスタにおいてソース/ドレイン間に−40Vの電圧を印加した状態で、ゲート電極に20〜−40Vで印加した際のソース/ドレイン間電流量(Id)をプロットし伝達特性とした。
【0069】
(閾値電圧)
電流伝達特性の曲線においてソース/ドレイン間に流れる電流Id、ゲート印加電圧Vgとした際の(Id)1/2とVg間の曲線より線形領域の延長線とVg軸との交点より算出した。
【0070】
(ヒステリシス)
トランジスタ反復動作時において、閾値電圧の差をヒステリシスとして算出した。
【0071】
(ON/OFF電流比)
オン時の電流Ionは、電流伝達特性の曲線において飽和領域での最大電流値とし、オフ時の電流Ioffは、オフ状態の最小電流から求めた。ON/OFF電流比Ion/Ioffは、オン状態の最大電流値とオフ状態の最小電流値との比から算出した。
【0072】
(合成実施例1)
300mL四つ口フラスコにトルエン72.4g、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン72.4gを入れて気相部を窒素置換した後、内温105℃とし、トリアリルイソシアヌレート10g、トルエン10g及び白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)0.0063gの混合液を滴下した。H−NMRでアリル基が消失したことを確認し、冷却により反応を終了した。溶剤のトルエンを減圧留去し、ポリシロキサン系化合物Aを得た。H−NMR測定により、9.2mmol/gのSiH基を有するポリシロキサン化合物であった。
【0073】
(合成実施例2)
200mL四つ口フラスコに合成実施例1で得られたポリシロキサン化合物A10g、トルエン20gを入れ、気相部を窒素置換した後、内温105℃とし、トルエン3.81g、ビニルシクロヘキセンオキシド3.81gの混合液を滴下した。H−NMRでビニル基が消失したことを確認し、冷却により反応を終了した。溶剤のトルエンを減圧留去し、ポリシロキサン系化合物Bを得た。H−NMR測定により、2.5mmol/gのエポキシ基および4.8mmol/gのSiH基を有するポリシロキサン化合物であった。
【0074】
(合成実施例3)
300mL四つ口フラスコにトルエン72.4g、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン72.4gを入れて気相部を窒素置換した後、内温105℃とし、ジアリルイソシアヌレート12.7g、ジオキサン60g及び白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)0.0236gの混合液を滴下した。H−NMRでアリル基が消失したことを確認し、冷却により反応を終了した。
【0075】
未反応の1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンを減圧留去し、さらにトルエン200gを入れ、気相部を窒素置換した後、内温105℃とし、トルエン22.3g、ビニルシクロヘキセンオキシド22.3gの混合液を滴下した。H−NMRでビニル基が消失したことを確認し、冷却により反応を終了した。溶剤のトルエンを減圧留去し、ポリシロキサン系化合物Cを得た。H−NMR測定により、2.0mmol/gのエポキシ基および3.5mmol/gのSiH基を有するポリシロキサン化合物であった。
【0076】
(製造実施例1)
得られたポリシロキサン系化合物B1g、トリアリルイソシアヌレート0.2g、ヨードニウム塩系カチオン重合開始剤(BBI−103、みどり化学製)0.02g、白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)0.0036g、2−メチル−3−ブチン−2−オール0.0144g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(溶剤、PGMEA)4.0gを混合し、樹脂組成物1とした。
【0077】
(製造実施例2)
得られたポリシロキサン系化合物A1g、ポリシロキサン系化合物B1g、トリアリルイソシアヌレート0.81g、ヨードニウム塩系カチオン重合開始剤(BBI−103、みどり化学製)0.056g、白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)0.0084g、2−メチル−3−ブチン−2−オール0.0336g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(溶剤、PGMEA)6.6gを混合し、樹脂組成物2とした。
【0078】
(製造実施例3)
得られたポリシロキサン系化合物C1g、トリアリルイソシアヌレート0.15g、ヨードニウム塩系カチオン重合開始剤(BBI−103、みどり化学製)0.02g、白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)0.0030g、2−メチル−3−ブチン−2−オール0.0130g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(溶剤、PGMEA)4.0gを混合し、樹脂組成物3とした。
【0079】
(製造比較例1)
ポリビニルフェノール(分子量:8500、Aldrich製)1g、Poly(melamine−co−formaldehyde)methylate1.5gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(溶剤、PGMEA)8g溶解させ樹脂組成物4とした。
【0080】
(製造比較例2)
セロキサイド2021(2官能性エポキシ化合物、ダイセル化学製)1g、ヨードニウム塩系カチオン重合開始剤(PI2074、ローディア製)0.04g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(溶剤、PGMEA)4g溶解させ樹脂組成物5とした。
【0081】
(実施例1〜3、比較例1、2)
ガラス基板1にアルミ(Al)を用いて厚さ500Åのゲート電極2を形成し、その上に製造実施例および比較製造例で得られた樹脂組成物1〜5を1000rpm、30secの条件でスピンコートにより塗布し、150℃、1hでポストベイクしゲート絶縁膜3を形成した。さらに蒸着により500Åの厚さにペンタセンの有機半導体層4を形成させ、その上にチャネル長さ100μm、チャネル幅5mmのマスクを用いて蒸着によって厚さ300Åのソース/ ドレインAu電極5,6を形成し薄膜トランジスタを製作した。
【符号の説明】
【0082】
1 基板
2 ゲート電極
3 有機絶縁膜
4 有機半導体層
5 ソース電極
6 ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロシリル化反応性官能基を有する組成物より形成される薄膜をゲート絶縁膜とする有機薄膜トランジスタ素子。
【請求項2】
ヒドロシリル化反応性官能基に加えさらにカチオン重合性官能基を含有する組成物より形成される薄膜をゲート絶縁膜とする請求項1に記載の有機薄膜トランジスタ素子。
【請求項3】
カチオン重合性官能基を有する組成物がポリシロキサン系である事を特徴とする請求項2に記載の有機薄膜トランジスタ素子。
【請求項4】
カチオン重合性化合物が同一分子中にSiH基を有する化合物であることを特徴とする請求項2または3に記載の有機薄膜トランジスタ素子。
【請求項5】
ヒドロシリル化反応性官能基がSiH基であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ素子。
【請求項6】
カチオン重合性化合物の反応基がエポキシ基であることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ素子。
【請求項7】
組成物が下記一般式(I)
【化1】

(式中Rは水素原子または炭素数1〜50の一価の有機基を表し、それぞれのRは異なっていても同一であってもよい)で表される構造を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ素子。
【請求項8】
組成物が環状シロキサン構造を含む化合物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ素子。
【請求項9】
半導体特性として10以上のIon/Ioff電流比を示すことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ素子。
【請求項10】
半導体特性として閾値電圧が−3〜3Vであることを特長とする請求項1〜9のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−89610(P2012−89610A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233687(P2010−233687)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】