説明

薄膜太陽電池の製造方法

【課題】高周波電力の入力を上げて光電変換層の成膜速度を増加させ、かつ薄膜太陽電池の光電変換効率を高い値にすることができる薄膜太陽電池の製造方法を提供する。
【解決手段】この薄膜太陽電池の製造方法は、反応室100内に反応ガスを導入し、かつ高周波電極120に高周波を印加してプラズマを生成することにより、プラズマCVD法を用いて基板200に光電変換層230を形成する工程を備える。光電変換層230における結晶及び微結晶の割合である結晶分率が30%以上80%以下になる原料ガスの組成の範囲である所望範囲を予め調べておく。そして、光電変換層230を形成する工程において、原料ガスの組成を所望範囲内に制御しながら、反応室内100における圧力を、高周波のピークツーピーク電圧が極小値となるように調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、太陽光を光電変換することにより電力を生成する。太陽電池の一つである薄膜太陽電池は、使用するシリコン等の量が少ないため、重要性が高まっている。薄膜太陽電池は、光電変換層にアモルファスシリコンを使用するものが多かったが、近年は光電変換効率を向上させるために、光電変換層に微結晶シリコンを用いるものが注目されている。
【0003】
特許文献1には、原料ガスのグロー放電を行うプラズマCVD法を用いて薄膜太陽電池を製造するときに、光電変換層中のSiH結合の水素量とSiH結合の水素量の比が0.3以下となる成膜条件を予め定め、かつこの成膜条件において高周波電極に生ずるピークツーピーク電圧を300V以下にすることが開示されている。これにより、薄膜太陽電池の光電変換効率が向上する、とされている。
【0004】
特許文献2には、プラズマ発生時のピークツーピーク電圧を制御することにより、プラズマを制御することが開示されている。
【特許文献1】特開2004−253417号公報
【特許文献2】特開2006−144091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薄膜太陽電池の製造コストを下げるためには、光電変換層の成膜速度を向上させることが有効である。光電変換層の成膜速度を向上させる方法の一つに、プラズマCVDにおける高周波電力の入力を上げることがある。しかし、高周波電力の入力を上げた場合、プラズマの生成条件が変化するため、特許文献1及び2に記載の技術をそのまま適用することはできない。このため、新たに、薄膜太陽電池の光電変換効率を高い値にするための条件を検討する必要がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高周波電力の入力を上げて成膜速度を増加させ、かつ薄膜太陽電池の光電変換効率を高くすることができる薄膜太陽電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、対向する電極を有する反応室内に反応ガスを導入し、かつ前記電極に高周波を印加してプラズマを生成することにより、プラズマCVD法を用いて基板に光電変換層を形成する工程を備え、
光電変換層における結晶及び微結晶の割合である結晶分率が30%以上80%以下になる原料ガスの組成の範囲である所望範囲を予め調べておき、
前記光電変換層を形成する工程において、
原料ガスの組成を前記所望範囲内に制御しながら、前記反応室内における圧力を、前記高周波のピークツーピーク電圧が極小値となるように調整する薄膜太陽電池の製造方法が提供される。
【0008】
高周波のピークツーピーク電圧が大きいと、光電変換層の光電変換効率が低下してしまう。本発明者が検討した結果、高周波入力を上げていくと、高周波のピークツーピーク電圧の圧力依存性が極小値を有することが見出された。一方で、成膜条件のうち圧力のみを変化させた場合、結晶分率が変わってしまい、光電変換層の光電変換効率が低下してしまう。このため、本発明のように、光電変換層における結晶及び微結晶の割合である結晶分率が30%以上80%以下になる原料ガスの組成の範囲である所望範囲を予め調べておき、原料ガスの組成を所望範囲内に制御しながら、反応室内における圧力を高周波のピークツーピーク電圧が極小値となるように調整すると、高周波電力の入力を上げて光電変換層の成膜速度を増加させ、かつ薄膜太陽電池の光電変換効率を高い値にすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高周波電力の入力を上げて光電変換層の成膜速度を増加させ、かつ薄膜太陽電池の光電変換効率を高い値にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0011】
図1は、本実施形態に係る薄膜太陽電池の製造方法に用いられる成膜装置の構成を示す図である。この薄膜太陽電池の製造方法は、対向する電極120,130を有する反応室100内に反応ガスを導入し、かつ電極120に高周波を印加してプラズマを生成することにより、プラズマCVD法を用いて基板200に光電変換層230を形成する工程を備える。そして光電変換層230における結晶及び微結晶の割合である結晶分率が30%以上80%以下になる原料ガスの組成の範囲である所望範囲を予め調べておき、光電変換層230を形成する工程において、原料ガスの組成を上記した所望範囲内に制御しながら、反応室100内における圧力を、高周波のピークツーピーク電圧が極小値となるように調整するものである。以下、詳細に説明する。
【0012】
図1に示す成膜装置は、反応室100を有する。反応室100には、基板200を搬入及び搬送するための開口部112が設けられている。高周波電極120及び接地電極130は、反応室100の中に配置されており、基板200を介して互いに対向している。反応室100は、基板200に容量結合型のプラズマCVDによる成膜処理を行う室である。成膜される膜は、例えば微結晶シリコン薄膜又はアモルファスシリコン薄膜などの薄膜太陽電池の光電変換層である。
【0013】
本実施形態において、基板200は、例えば長尺の可撓性基板である。基板200は、少なくとも表面が導電性を有しているとよい。具体的には、基板200は全体が導電性を有していても良いし、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、及びポリエーテルスルホン(PES)などの絶縁性の基材の上に導電性の層を設けたものであってもよい。また基板200は、ステンレスなどの金属基板やガラス基板であってもよい。
【0014】
なお、本実施形態に用いられる成膜装置は、図1に示した成膜装置に限定されず、例えば真空容器の中に複数の反応室100を設ける形式であっても良い。この場合、反応室100は、反応時には密閉されていても良いし、基板200を搬送する部分が開口したままであってもよい。
【0015】
図2は、本実施形態において製造される薄膜太陽電池の断面図である。この薄膜太陽電池は、基板200上に第1電極210、第1導電型半導体層220、光電変換層230、第2導電型半導体層240、及び第2電極250をこの順に積層した構成を有している。第1電極210は、例えば銀などの金属膜であり、例えばスパッタリング法により形成される。第1導電型半導体層220は、例えばn型微結晶シリコン層であり、光電変換層230は、例えばi型微結晶シリコン層であり、第2導電型半導体層240は、例えばp型微結晶シリコン層である。第2電極250は、例えばITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウム)層である。第1導電型半導体層220及び第2導電型半導体層240の厚さは例えば50nm以下であり、光電変換層230の厚さは例えば1μm以上3μm以下である。光電変換層230は単層であっても良いし複数の層を積層した構造であっても良い。薄膜太陽電池は図2に示した構造に限定されず、例えばn/i/pの接合部分が厚さ方向に複数ある多接合型であってもよい。
【0016】
第1導電型半導体層220、光電変換層230、及び第2導電型半導体層240は、それぞれプラズマCVD法により形成される。第1導電型半導体層220及び第2導電型半導体層240を成膜するとき、高周波電極120に入力される高周波電力は、例えば0.1W/cm以上0.25W/cm以下であり、反応室100の圧力は、例えば0.5Torr以上3Torr以下である。光電変換層230を成膜するとき、高周波電極120に入力される高周波電力は、例えば0.3W/cm以上2.5W/cm以下であり、反応室100の圧力は、例えば1Torr以上9Torr以下である。
【0017】
なお、第1導電型半導体層220、及び第2導電型半導体層240の形成方法は、容量結合型のプラズマCVD法に限定されず、CAT−CVD(Catalytic Chemical Vapor Deposition)、表面波プラズマCVD、誘導結合型CVD、又は熱CVD法であってもよい。
【0018】
そして光電変換層230を成膜するときには、高周波電極120を有する反応室100内に基板200を搬送する工程と、反応室100内に反応ガスを導入し、かつ高周波電極120に高周波を印加してプラズマを生成することにより、プラズマCVD法を用いて基板200に光電変換層230を形成する工程とを備える。基板200には、予め第1電極210及び第1導電型半導体層220が形成されている。光電変換層230を形成する工程において、原料ガスの組成を、光電変換層230における結晶及び微結晶の分率である結晶分率が30%以上80%以下になるように定め、かつ反応室100内における圧力を、高周波のピークツーピーク電圧(Vpp)が極小値となるように調整する。
【0019】
上記した製造方法を詳細に説明する。プラズマCVDにおける高周波電力の入力を上げると、光電変換層230の成膜速度が向上する。しかし図3に示すように、一般的には光電変換層230の成膜速度が向上すると、薄膜太陽電池の変換効率が低下する。このため、高周波電力の入力を上げると、新たに、薄膜太陽電池の光電変換効率を高い値にするための条件を検討する必要がある。薄膜太陽電池の光電変換効率を高い値にするためには、光電変換層230の結晶分率、すなわち結晶及び微結晶の割合を30%以上80%以下、好ましくは40%以上70%以下にするのが好ましい。
【0020】
結晶分率は、例えば以下のようにして測定される。まず、光電変換層230のラマンスペクトルを測定し、アモルファスに起因した第1ピーク、微結晶に起因した第2ピーク、及び結晶に起因した第3ピークそれぞれの積分強度を測定する。そして、(第2ピークの積分強度+第3ピークの積分強度)/(第1ピークの積分強度+第2ピークの積分強度+第3ピークの積分強度)×100が、結晶分率(%)となる。
【0021】
光電変換層230の結晶分率を30%以上80%以下にするためには、例えば原料ガスの組成を適切な範囲にする方法がある。図4は、原料ガスであるシラン(SiH)と水素(H)の比及び圧力を変えた場合における、光電変換層230の結晶分率の一例を示している。なお図4に示すデータにおいて、高周波電極120に印加する高周波電力の大きさは一定としている。図4に示すように、光電変換層230の結晶分率をある範囲に収めるためには、圧力及び原料ガスの組成それぞれを適切な範囲に収める必要がある。
【0022】
しかし、光電変換層230の結晶分率をある範囲に収めても、高周波電極120に入力される高周波電力のVppが大きいと、図5に示すように光電変換層230の光電変換効率が低下してしまう。これは、Vppが大きいとプラズマ内における電圧の振幅が大きくなり、この結果、成膜中の光電変換層230に衝突するイオンのエネルギーが大きくなりすぎるため、と考えられる。
【0023】
このため、光電変換層における結晶及び微結晶の割合である結晶分率が30%以上80%以下になる原料ガスの組成の範囲である所望範囲を調べ、原料ガスの組成を所望範囲内に制御しつつ、Vppが最小値となるように圧力を定める必要がある。
【0024】
図6は、高周波電極120に入力される高周波電力が1W/cmの場合における、圧力とVppの関係を示すグラフである。このグラフに示すように、高周波電力が大きい場合、Vppの圧力依存性は極小値を取ることが判明した。
【0025】
この現象を、別の視点で説明する。図7は、原料ガスとしてSiH+Hを用いて光電変換層230としての微結晶シリコン膜を形成するときの、結晶分率が最適となる条件と、Vppが最小になる条件とを示すグラフである。本図においてパラメータは、原料ガスの組成(SiHの分圧)と、処理室100内の圧力である。なお、高周波電極120に入力される高周波電力は、1W/cmとした。この図に示すように、結晶分率が最適となる条件を示す線と、Vppが最小値となる条件を示す線は、交点を有する。この交点を成膜条件とすると、光電変換層230における光電変換効率が向上することが判明した。
【0026】
このため、本実施形態の薄膜太陽電池の製造方法のように、光電変換層における結晶及び微結晶の割合である結晶分率が30%以上80%以下になる原料ガスの組成の範囲である所望範囲を予め調べておき、光電変換層を形成する工程において、原料ガスの組成を所望範囲内に制御しながら、反応室内における圧力を、高周波のピークツーピーク電圧が極小値となるように調整すると、高周波電力の入力を上げて光電変換層の成膜速度を増加させ、かつ薄膜太陽電池の光電変換効率を高い値にすることができる。この効果は、高周波電極120に入力される高周波電力が0.3W/cm以上2.5Wcm以下の場合、特に顕著になる。なお、その他の成膜条件は、例えば反応室100の圧力が1〜9Torr、SiHの流量が10〜100sccm、Hの流量が500〜5000sccmである。
【0027】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施形態に係る薄膜太陽電池の製造方法に用いられる成膜装置の構成を示す図である。
【図2】本実施形態において製造される薄膜太陽電池の断面図である。
【図3】成膜速度と光電変換効率の関係を示すグラフである。
【図4】原料ガスであるシラン(SiH)と水素(H)の比及び圧力を変えた場合における、光電変換層の結晶分率の一例を示すグラフである。
【図5】高周波電力のVppと光電変換層の光電変換効率の関係を示すグラフである。
【図6】圧力とVppの関係を示すグラフである。
【図7】結晶分率が最適となる条件と、Vppが最小になる条件とを示すグラフである。
【符号の説明】
【0029】
100 反応室
112 開口部
120 高周波電極
130 接地電極
200 基板
210 第1電極
220 第1導電型半導体層
230 光電変換層
240 第2導電型半導体層
250 第2電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する電極を有する反応室内に反応ガスを導入し、かつ前記電極に高周波を印加してプラズマを生成することにより、プラズマCVD法を用いて基板に光電変換層を形成する工程を備え、
光電変換層における結晶及び微結晶の割合である結晶分率が30%以上80%以下になる原料ガスの組成の範囲である所望範囲を予め調べておき、
前記光電変換層を形成する工程において、原料ガスの組成を前記所望範囲内に制御しながら、前記反応室内における圧力を、前記高周波のピークツーピーク電圧が極小値となるように調整する薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の薄膜太陽電池の製造方法において、
前記光電変換層を形成する工程において、前記電極に対する前記高周波の入力電力を0.3W/cm以上にする薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の薄膜太陽電池の製造方法において、
前記光電変換層は微結晶シリコン層である薄膜太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−59723(P2012−59723A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313093(P2008−313093)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】