説明

薄膜積層体製造装置の基板位置制御装置

【課題】 帯状可撓性基板を縦姿勢で搬送しつつも可撓性基板の下垂や皺の発生を抑制でき、高品質の製品を製造可能であると共に、可撓性基板の逆方向への搬送を含む成膜プロセスにも対応可能な薄膜積層体製造装置の基板位置制御装置を提供する。
【解決手段】 可撓性基板(1)の上側縁部を挟持する一対の挟持ローラ(103)と、前記一対の挟持ローラを回転可能かつ相互に接離可能に支持する支持機構(104)と、前記支持機構を介して前記一対の挟持ローラに加圧力を付与する付勢手段(105)と、前記加圧力の調整手段(106)と、を備えた基板位置制御装置(100)において、前記一対の挟持ローラは、それぞれが基板幅方向縁端側に位置した大径部(131)と、前記大径部に対して基板幅方向中央側に位置した小径部(132)を有し、前記大径部および前記小径部のそれぞれの挟持部における回転方向が、前記基板の搬送方向と同方向になるように、前記支持機構によって支持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状可撓性基板上に複数の薄膜を形成して、薄膜光電変換素子などの薄膜積層体を製造する装置における基板位置制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体薄膜などの薄膜積層体の基板には、通常、剛性基板が用いられるが、軽量でロールを介した取り扱いの利便性による生産性向上やコスト低減を目的として、プラスチックフィルムなどの可撓性基板が用いられる場合がある。特許文献1には、巻出しロールから供給される帯状可撓性基板(ポリイミドフィルム)を、その幅方向を鉛直方向に一致させて水平方向に所定ピッチで間欠的に搬送しながら、前記可撓性基板の搬送方向に配列された複数の成膜ユニットで、前記可撓性基板上に性質の異なる複数の薄膜を積層形成し、製品ロールとして巻取る薄膜積層体の製造装置が開示されている。
【0003】
このような薄膜積層体の製造装置は、設置面積が小さく、基板表面が汚染されにくい等の利点がある反面、光電変換層を複数設ける場合等、成膜ユニットの数が多くなり搬送スパンが長くなると、成膜部の両側のガイドローラのみで重力に抗して搬送高さを一定に維持するのが困難になり、可撓性基板の表面に皺が発生したり、可撓性基板が垂れ下がったりする傾向が顕著になる。
【0004】
そこで、多数並設された成膜ユニットの間に、可撓性基板の鉛直方向上側の縁部を挟持しつつ送出するグリップローラ対を設けることが提案されている(特許文献2〜4参照)。この装置では、各グリップローラ対の挟持部における回転方向が、可撓性基板の搬送方向に対して斜上方に向かう傾斜を有することで、可撓性基板に対して挟持圧および傾斜角に応じた持ち上げ力を付与し、それらを制御することで、可撓性基板の搬送高さを一定に維持するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−72408号公報
【特許文献2】特開2009−38276号公報
【特許文献3】特開2009−38277号公報
【特許文献4】特開2009−57632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この装置は、可撓性基板を上下幅方向に展張して張力皺や加熱皺を抑制するうえで有利であるが、可撓性基板の逆方向への搬送を含む往復成膜プロセスには直ちに適用できない。可撓性基板を逆方向に搬送すると、上記傾斜角に応じた持ち上げ力および引き下げ力が上下逆方向に作用し、各挟持ローラから可撓性基板が離脱する問題を生じる。
【0007】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、帯状可撓性基板を縦姿勢で搬送しつつも可撓性基板の下垂や皺の発生を抑制でき、高品質の製品を製造可能であると共に、可撓性基板の逆方向への搬送を含む成膜プロセスにも対応可能な薄膜積層体製造装置の基板位置制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、帯状の可撓性基板を、その幅方向を鉛直方向にして水平方向に搬送しながら、前記基板の搬送経路に設置された成膜部にて、前記基板の表面に薄膜を積層形成する薄膜積層体製造装置の基板位置制御装置であって、
前記基板の上側縁部を挟持する一対の挟持ローラと、前記一対の挟持ローラを回転可能かつ相互に接離可能に支持する支持機構と、前記支持機構を介して前記一対の挟持ローラに加圧力を付与する付勢手段と、前記加圧力の調整手段と、を備えるものにおいて、
前記一対の挟持ローラは、それぞれが基板幅方向縁端側に位置した大径部と、前記大径部に対して基板幅方向中央側に位置した小径部を有し、前記大径部および前記小径部のそれぞれの挟持部における回転方向が、前記基板の搬送方向と同方向になるように、前記支持機構によって支持されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の好適な態様では、前記一対の挟持ローラと前記基板の搬送方向に対して同位置で前記基板の下側縁部を挟持する一対の下側挟持ローラと、前記一対の下側挟持ローラを回転可能かつ相互に接離可能に支持する下側支持機構と、前記下側支持機構を介して前記一対の下側挟持ローラに加圧力を付与する下側付勢手段と、をさらに備え、前記一対の下側挟持ローラは、それぞれが基板幅方向縁端側に位置した大径部と、前記大径部に対して基板幅方向中央側に位置した小径部を有し、前記大径部および前記小径部のそれぞれの挟持部における回転方向が、前記基板の搬送方向と同方向になるように、前記下側支持機構によって支持されている。
【0010】
本発明の好適な態様では、前記挟持ローラの少なくとも一方が、前記大径部と前記小径部との間に連続した周面を有する円錐ローラである。また、本発明のさらに好適な態様では、前記挟持ローラの少なくとも一方が、前記大径部と前記小径部とに区分された周面を有する円錐ローラである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る薄膜積層体製造装置の基板位置制御装置は、上記構成により、以下に記載されるような作用および効果を有する。
【0012】
上記薄膜積層体製造装置において、可撓性基板は、成膜部の上流側および下流側それぞれに配置されたフィードローラ等の搬送手段により、張力を付与された状態で水平方向に搬送される。その際、前記基板の上側縁部を挟持する一対の挟持ローラは、基板幅方向縁端側に位置したそれぞれの大径部、および、基板幅方向中央側に位置したそれぞれの小径部で可撓性基板を挟持しているので、このような大径部と小径部の周速差によって、可撓性基板は周速の大きい側すなわち上方に誘導される。
【0013】
可撓性基板に対する挟持ローラの挟圧力(摩擦力)が充分に大きい場合には、可撓性基板に対する上昇力が、挟持ローラの幾何学的形状通りに発揮されるが、挟圧力が小さい場合は、その分、可撓性基板に伝達される上昇力も小さくなる。したがって、付勢手段による加圧力を調整することにより、可撓性基板に対する上昇力を調整でき、それにより、可撓性基板の上下方向の位置を調整することで、可撓性基板の搬送高さを一定に維持することが可能となる。
【0014】
このように、可撓性基板の上側縁部が、搬送スパンの中間部で自重による垂れ下がりに抗して上方に展張されることで、搬送張力や成膜時の熱による皺が抑制され、良好な成膜を行うことができる。しかも、挟持ローラは、可撓性基板の搬送経路に対して固定配置され、かつ、大径部および小径部の挟持部における回転方向が、前記基板の搬送方向と同方向に設定されているので、可撓性基板の正逆双方向の搬送に対して全く同様に位置制御を行なうことができ、正逆双方向の搬送を含む往復成膜プロセスに低コストで対応可能である。
【0015】
本発明の好適な態様では、前記一対の挟持ローラと前記基板の搬送方向に対して同位置で前記基板の下側縁部を挟持する一対の下側挟持ローラと、前記一対の下側挟持ローラを回転可能かつ相互に接離可能に支持する下側支持機構と、前記下側支持機構を介して前記一対の下側挟持ローラに加圧力を付与する下側付勢手段と、をさらに備え、前記一対の下側挟持ローラは、それぞれが基板幅方向縁端側に位置した大径部と、前記大径部に対して基板幅方向中央側に位置した小径部を有し、前記大径部および前記小径部のそれぞれの挟持部における回転方向が、前記基板の搬送方向と同方向になるように、前記下側支持機構によって支持されているので、可撓性基板の上下側縁部が、搬送方向に対して同位置で上下両方向に展張されることで、搬送張力や成膜時の熱による皺を一層確実に抑制でき、良好な成膜を行う上で有利である。
【0016】
また、下側挟持ローラに加圧力を付与する下側付勢手段は、加圧力が一定であっても良く、その場合にも、先述したように、上側の挟持ローラの加圧力を調整することで、可撓性基板の上下方向の位置を調整可能であり、搬送高さを一定に維持することが可能となる。正逆双方向の搬送を含む往復成膜プロセスにも対応可能である点も前記同様である。
【0017】
本発明の好適な態様では、前記挟持ローラの少なくとも一方が、前記大径部と前記小径部との間に連続した周面を有する円錐ローラであるので、上述した作用効果を簡素な構成で得ることができる。
【0018】
本発明のさらに好適な態様では、前記挟持ローラの少なくとも一方が、前記大径部と前記小径部とに区分された周面を有する円錐ローラであるので、挟持ローラの接圧が大径部と小径部に集中的に付加され、かつ、可撓性基板の搬送力が静止静摩力として伝達される実質的な挟持点が、伝達トルクの大きい挟持ローラ大径部となり、挟持ローラ大径部の周速が可撓性基板の搬送速度と一致することで、大きな上昇力が得られる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)は本発明実施形態に係る薄膜積層体製造装置の一部を示す概略平面図、(b)は概略側面図、(c)は(b)のA−A断面図である。
【図2】本発明第1実施形態に係る挟持ローラによる可撓性基板の上方への誘導作用を示す概略側面図である。
【図3】図2のB−B断面図である。
【図4】本発明第2実施形態に係る基板位置制御装置を示す正面図である。
【図5】本発明第3実施形態に係る挟持ローラを示す一部切除した拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、本発明に係る基板位置制御装置を、太陽光発電用の薄膜光電変換素子を構成する薄膜積層体製造装置11に実施する場合を例にとり、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
薄膜積層体製造装置11は、図1に部分的に示されるように、所定の真空度に維持された共通真空室10の内部に、帯状の可撓性基板1(プラスチックフィルム)を、その幅方向を鉛直方向にして水平方向に搬送する搬送経路が形成され、該搬送経路に沿って複数の成膜ユニット2が並設されている。この薄膜積層体製造装置11は、図中矢印F,Rで示されるように、正逆双方向の搬送に対応しており、成膜部(2,2,・・・)の両側には、図示を省略するが、可撓性基板1を上下全幅に亘って案内するガイドローラ(アイドルローラ)を介して、正逆双方向の駆動に対応したフィードローラや巻出し/巻取りロール、テンションローラなどが配設されている。
【0022】
各成膜ユニット2は、プラズマCVDなどの化学蒸着(CVD)や、スパッタなどの物理蒸着(PVD)を行なうための真空蒸着ユニットのいずれかで構成され、基本的に、可撓性基板1を挟んでその両側に対向配置された電極21(表面に多数の原料ガス噴出孔を有する高周波電極またはターゲット)と、ヒータを内蔵した接地電極22で構成されている。ステップ成膜プロセスを行なう薄膜積層体製造装置11では、各成膜ユニット2が可撓性基板1の搬送経路に沿って等ピッチで配列され、各成膜ユニット2の電極21および接地電極22が、それぞれ、可撓性基板1の搬送面に向かって開口したチャンバーに収容されるとともに、1ユニット分に相当するステップ搬送の停止時に、チャンバーを開閉すべく電極21および/または接地電極22が進退駆動される。
【0023】
上記のように構成された薄膜積層体製造装置11の各成膜ユニット2の間には、可撓性基板1の搬送高さを一定に維持するとともに、可撓性基板1を幅方向すなわち上下方向に展張するための基板位置制御装置(3,3′)が配設されている。基板位置制御装置(3,3′)は、搬送経路(1)の上部に設置された上側挟持ローラ3と、搬送経路(1)の下部に設置された下側挟持ローラ3′とで構成されている。上下の挟持ローラ3,3′は、図1(c)に示すように、基本的に上下対称構造であるため、以下、上側挟持ローラ3の実施形態について説明する。
【0024】
(第1実施形態)
図2および図3は、本発明の基本的な第1実施形態に係る一対の上側挟持ローラ3を示している。各図において、上側挟持ローラ3は、それぞれが、大径部31と小径部32を有する円錐ローラで構成され、それぞれの大径部31が可撓性基板1の幅方向縁端側(すなわち上側)に位置し、それぞれの小径部32が可撓性基板1の幅方向中央側(すなわち下側)に位置するように軸4を中心に回転可能にかつ軸方向に移動不可能に支持され、かつ、大径部31から小径部32にかけての周面で可撓性基板1が挟持されるように、後述する支持機構を介して所定の接圧P1,P2で相互に圧接されている。
【0025】
上側挟持ローラ3のそれぞれの軸4は、可撓性基板1の搬送方向と直交する仮想平面内で、鉛直上下方向に対して、母線の傾斜角の分だけ傾斜しているが、可撓性基板1の搬送方向に対しては垂直に配置されており、大径部31から小径部32にかけての挟持部における回転方向は、可撓性基板1の搬送方向Fと同方向になっている。
【0026】
このような上側挟持ローラ3で、張力を付与された状態で水平方向に搬送される可撓性基板1の上側縁部が挟持されると、上側挟持ローラ3の大径部31と小径部32には周速差があるため、大径部31と小径部32との間の挟持点で可撓性基板1の搬送速度と一致した状態で転接し、その挟持点より大径部31側および小径部32側では、周速差に応じて互いに反対方向の滑りを生じることになる。これら大径部31側および小径部32側の摩擦力が平衡する地点が挟持点(可撓性基板1の搬送力が静止静摩力として上側挟持ローラ3に伝達される地点)となり、挟持点は、伝達トルクが大きい大径部31寄りとなる。
【0027】
ここで、理解を容易にするために、静止している可撓性基板1上で上側挟持ローラ3aが搬送方向と反対方向に転動する場合を想定すると、上側挟持ローラ3aが無拘束状態であれば、図1に符号3bおよび矢印t1,t2で示すように、大径部31aと小径部32aの直径差によって小径側すなわち可撓性基板1の幅方向中央側に曲がって行く。
【0028】
しかし、実際には上側挟持ローラ3の軸方向は、側面視における上下方向となる可撓性基板の搬送方向と直交する仮想平面内に固定されているので、上側挟持ローラ3の主に小径部32側で連続的な滑りを生じつつ、上側挟持ローラ3は垂直姿勢に保持され、上側挟持ローラ3(3b)の可撓性基板1に対する相対的な垂直変位のみが残り、この垂直変位に応じて、可撓性基板1が上方に誘導されることになる。
【0029】
可撓性基板1に対する上側挟持ローラ3の接圧P1,P2(摩擦力)が充分に大きい場合には、可撓性基板1に対する上昇力が、上側挟持ローラ3の幾何学的形状通りに発揮される。しかし、上側挟持ローラ3の接圧P1,P2が減少するにつれて、可撓性基板1に伝達される上昇力も減少する。したがって、後述するような支持機構(104)を介して上側挟持ローラ3の接圧P1,P2を調整することにより、可撓性基板1に対する上昇力を調整可能である。
【0030】
また、上側挟持ローラ3の大径部31から小径部32にかけての挟持部における回転方向は、可撓性基板1の搬送方向Fと同方向であり、搬送方向Fに対する偏角を含まないので、可撓性基板1の逆方向Rへの搬送に対しても全く同様に上昇力を作用させ、かつ、その調整を行うことができる。したがって、正逆双方向の搬送を含む往復成膜プロセスに対してもそのままの形態で対応可能である。
【0031】
さらに、図1に示したように、上記上側挟持ローラ3と搬送方向に対して同位置で、可撓性基板1の下側縁部を挟持する下側挟持ローラ3′を備え、該下側挟持ローラ3′は、上側挟持ローラ3と上下対称に配置されており、可撓性基板1の下側縁部を下方に誘導可能である。このような上側挟持ローラ3と下側挟持ローラ3′とで、可撓性基板1の上下側縁部が、搬送方向に対して同位置で上下両方向に展張されることで、搬送張力や成膜時の熱による皺を抑制できる。
【0032】
当然ながら、上側挟持ローラ3と同様に、下側挟持ローラ3′の挟持部における回転方向も可撓性基板1の搬送方向Fと同方向であるので、可撓性基板1の逆方向Rへの搬送に対しても全く同様に上下両方向への展張作用が得られ、かつ、展張力の調整を行うことができ、正逆双方向の搬送を含む往復成膜プロセスにそのままの形態で対応可能である。
【0033】
上述した上側挟持ローラ3および下側挟持ローラ3′を含む基板位置制御装置は、薄膜積層体製造装置11の各成膜ユニット2間にそれぞれ配設されているが、それらの全て接圧をアクティブに調整可能である必要はない。成膜ユニット2の設置数にもよるが、好適な実施形態では、成膜部における搬送経路の中央付近に配置された1つ(ないしは少数)の上側挟持ローラ3が、接圧をアクティブに調整可能であり、他の上側挟持ローラ3および各下側挟持ローラ3′は、全て接圧を事前調整するプリセットタイプである。
【0034】
例えば、図1に部分的に示される薄膜積層体製造装置11において、中央の上側挟持ローラ3が接圧をアクティブに調整可能である場合、その搬送方向(F,R)の上流側および下流側(に配置された上側挟持ローラ3の付近)に、可撓性基板1の搬送高さを検知するセンサが配設され、そのうち、成膜時の搬送方向(F,R)における下流側のセンサに基づいて制御値が決定され、次のように基板位置制御プロセスが実行される。
【0035】
先ず、搬送方向Fへの1ステップの搬送が終了し、各成膜ユニット2の成膜チャンバー(21,22)が閉鎖され、成膜工程が実施されるのと並行して、下流側のセンサが、可撓性基板1の上端位置(搬送レベル)を検知する。可撓性基板1が、基準レベルと比較して上方または下方に有意な偏位を生じている場合には、その偏位方向および偏位量に応じた制御値によって中央の上側挟持ローラ3の接圧が更新される。
【0036】
次いで、各成膜ユニット2の成膜工程が終了し、各成膜チャンバー(21,22)が開放された後、可撓性基板1が、搬送方向Fに1ユニット分だけ搬送される過程で、中央の上側挟持ローラ3により、更新された接圧に応じた上昇力が可撓性基板1に付与され、可撓性基板1の上方または下方への偏位が補正される。
【0037】
このように、搬送サイクルの停止期間における成膜工程と並行した搬送高さの検知とそれに基づく上側挟持ローラ3の接圧の調整プロセス、および、搬送期間における可撓性基板1の搬送力を利用した搬送高さの補正プロセスが、交互に実行されることによって、可撓性基板1の搬送レベルが一定または所定の公差内に維持される。また、搬送期間中に搬送レベルの監視とそれに基づく上側挟持ローラ3の接圧調整を同時に実行することもできる。可撓性基板を連続的に搬送しながら成膜を行なう薄膜積層体製造装置では、このような方式で基板位置制御が実行される。
【0038】
(第2実施形態)
次に、図4は、本発明第2実施形態に係る一対の上側挟持ローラ103,103およびそれらの支持機構104を備えた基板位置制御装置100を示している。図において、上側挟持ローラ103,103は、それぞれ、大径部131と小径部132とに区分された周面を有する円錐ローラで構成されている。
【0039】
各上側挟持ローラ103,103の大径部131と小径部132は、共通のハブ130に固定されるかまたはハブ130と一体に形成されており、例えば、金属、セラミック、プラスチックなどで形成されるか、または、それらの材料からなる芯体の周囲に耐熱性ゴムなどの弾性体を被着したゴムローラで構成され、それぞれのハブ130,130において、可動支持部材143,144の下端部143a,144aから斜下方に突設された支軸141,142に、スラスト荷重を受圧可能なベアリングを介して回転可能かつ軸方向に移動不可能に支持されている。それぞれの大径部131が可撓性基板1の幅方向縁端側(上側)に位置し、それぞれの小径部132が可撓性基板1の幅方向中央側(下側)に位置する点は、先述した第1実施形態と同様である。
【0040】
支持機構104を構成する一対の可動支持部材143,144は、それぞれ、L字状に屈曲した中間部において、真空室10の構造要素に固定されたブラケット12に軸13,14を介して揺動可能に支持され、該軸13,14を中心とした可動支持部材143,144の揺動により、一対の上側挟持ローラ103,103が相互に接離可能となっている。さらに、一対の可動支持部材143,144の間には、調整ネジ106を介してスプリング105が介装されており、該スプリング105により、一対の上側挟持ローラ103,103を相互に圧接させる方向に付勢されるとともに、調整ネジ106により加圧力を調整可能である。
【0041】
上記上側挟持ローラ103においても、前記第1実施形態の上側挟持ローラ3と同様に、大径部131と小径部132の周速差によって、可撓性基板1を上方に誘導可能であるが、第2実施形態の上側挟持ローラ103では、大径部131と小径部132との間に周面が存在しないので、可撓性基板1の搬送力が静止静摩力として伝達される実質的な挟持点は、伝達トルクの大きい大径部131となる。したがって、第2実施形態の上側挟持ローラ103は、可撓性基板1を上方に誘導する上昇力(垂直変位)を効率良く、かつ、安定的に作用させるうえで有利である。
【0042】
また、支持機構104を構成する一対の可動支持部材143,144は、それぞれの中間部(軸13,14)から搬送経路(1)の上方に延出した腕部143b,144bを備え、各腕部143b,144bの交差部分に、相互に摺動かつ回動可能に係合するピン146と長孔145が設けられている。この構成により、一方の可動支持部材143の腕部143bの操作部147を、スプリング105の付勢力に抗して下方に押圧操作107することで、一対の上側挟持ローラ103,103を相互に離反させて、可撓性基板1の導入作業を行うことができ、その後、押圧操作107を解除すれば、ピン146と長孔145の上記係合によって、一対の可動支持部材143,144が相互に連動し、スプリング105の付勢力で一対の上側挟持ローラ103,103が相互に圧接され、可撓性基板1の上側縁部が挟持される。
【0043】
また、上記操作部147に、リンク機構などを介して図示しない駆動手段を連結し、上記解除操作を真空室10の外部から行うように構成することもできる。さらに、上記操作部147と駆動手段(アクチュエータ)との間に図示しない第2スプリングを設け、駆動手段により制御される第2スプリングの付勢力(調整力)を操作部147に作用させ、スプリング105(第1スプリング)の付勢力と平衡させることにより、真空室10の外部から一対の上側挟持ローラ103,103の接圧を調整できるように構成しても良い。その場合、基板位置制御装置100が、可撓性基板1の搬送高さを検知するセンサと、該センサの検出値に基づいて上記駆動手段を制御する制御手段(コントローラ)とをさらに備えることで、可撓性基板1の搬送高さをアクティブに制御可能となる。
【0044】
また、支持機構104を構成する一対の可動支持部材143,144のうち一方をブラケット12に固定し、一方の上側挟持ローラ103を固定ローラとしても良い。例えば、図4における右側の可動支持部材144を固定支持部材(144)とし、その場合、ピン146、長孔145は省略される。一方の上側挟持ローラ103が固定ローラの場合も、他方の上側挟持ローラ103(可動ローラ)を、可動支持部材143の操作部147の押圧操作107で離反させ、あるいは、駆動手段(アクチュエータ)やセンサなどを用いて可撓性基板1の搬送高さをアクティブに制御するように構成できる。
【0045】
さらに、一方を固定支持部材(144)とすることにより、調整ネジ106にリンク機構を介して駆動手段(アクチュエータ)を連結するか、または、スプリング105の端部を、調整ネジ106の代わりに駆動アームに連結することで、スプリング105の付勢力を直接かつアクティブに制御するように構成できる。また、第1スプリング105を省略し、上述した第2スプリングの付勢力により可動支持部材143を固定支持部材(144)に圧接し、かつ、第2スプリングの付勢力をアクティブに制御するように構成することもできる。
【0046】
上述した第2実施形態の上側挟持ローラ103およびその支持機構104も、第1実施形態と同様に、可撓性基板1の正逆双方向への搬送にそのままの形態で対応可能であり、可撓性基板1の搬送高さをアクティブに制御するための駆動手段(アクチュエータ)やセンサ、あるいは第2スプリングを追加した場合も同様である。
【0047】
また、上述した第2実施形態の上側挟持ローラ103およびその支持機構104を、搬送方向に対して同位置で、上下逆にして搬送経路(1)の下部に設置し、可撓性基板1の下側縁部を挟持する下側挟持ローラ(103)およびその支持機構(104)を構成することで、可撓性基板1を上下両方向に展張しつつその搬送高さを制御可能となる。しかし、下側挟持ローラ(103)の加圧力調整手段としては、調整ネジ(106)のようなプリセットタイプの調整手段を備えれば良く、駆動手段は不要である。
【0048】
なお、上記実施形態では、スプリング105(付勢手段)として引張スプリングを用いる場合を示したが、各可動支持部材143,144や固定支持部材に対する連結点を適宜変更して圧縮スプリングを用いることもでき、かつ、スプリング形式は、コイルスプリング以外のスパイラルスプリング、トーションスプリング、リーフスプリング等、周知の形式に変更されても良い。また、各可動支持部材143,144や固定支持部材が相互に接離する形態を、直線的な摺動で代替することもできる。
【0049】
(第3実施形態)
次に、図5は、本発明第3実施形態に係る一対の上側挟持ローラ203,203を備えた基板位置制御装置200を示している。この第3実施形態の上側挟持ローラ203,203では、大径部(231)と小径部(232)に周溝231g,232gを有する円錐形状のローラ芯体230と、前記各周溝231g,232gに嵌着されたリング状弾性体231,232で構成され、ローラ芯体230において、可動支持部材243,244の下端部243a,244aから斜下方に突設された支軸241,242に、スラスト荷重を受圧可能なベアリングを介して回転可能かつ軸方向に移動不可能に支持されている。それぞれの大径部231が可撓性基板1の幅方向縁端側(上側)に位置し、それぞれの小径部232が可撓性基板1の幅方向中央側(下側)に位置する点は、先述した各実施形態と同様である。
【0050】
リング状弾性体231,232としては、円形断面を有する丸ベルトやOリングなどの汎用部品を利用可能であるので、部品コストを低減するうえで有利であり、かつ、弾性を利用して周溝231g,232gに嵌着されるので、摩耗した場合に新しいものと容易に交換可能である。リング状弾性体231,232は、単体で見れば挟持部分が断面円弧状をなしているが、上側挟持ローラ203,203が相互に圧接された状態では、第2実施形態と同様に、大径部(231)と小径部(232)とに区分された周面を有する円錐ローラと見ることができる。
【0051】
本実施形態の上側挟持ローラ203においても、大径部(231)と小径部(232)の間に周面が存在しないので、挟持点は伝達トルクの大きい大径部(231)となり、第2実施形態と同様に、可撓性基板1を上方に誘導する上昇力を大きくかつ安定的に作用させることができる。しかも、個々のリング状弾性体231,232の挟持部分は断面円弧状をなしているので、滑り接触する小径部(232)においても可撓性基板1に対する損傷が抑制される利点がある。なお、支持機構204を構成する可動支持部材243,244の他の構成は、第2実施形態の支持機構104と同様であり、既に述べた支持機構104に対する各種の変更例は、本実施形態や第1実施形態についても適用可能である。
【0052】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記以外にも本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能である。
【0053】
例えば、上記各実施形態では、一対の上側挟持ローラ3,103,203が相互に同形状の場合を示したが、それぞれの形態を組み合わせて用いることもできる。例えば、一対の上側挟持ローラのうち一方を固定ローラとする場合、固定ローラに第1実施形態の円錐ローラ(3)または第2実施形態の区分型の円錐ローラ(103)を用い、可動ローラに、第3実施形態の上側挟持ローラ203を用いれば、細いリング状弾性体231を備えた可動ローラ(203)に対する厳密な位置合わせが不要になる。
【0054】
また、上記各実施形態では、主に、本発明に係る基板位置制御装置を、可撓性基板を成膜装置1ユニット分ずつ間欠的にステップ搬送しながらその停止期間中に成膜を行うステッピングロール方式の薄膜積層体製造装置に実施する場合について述べたが、本発明に係る基板位置制御装置は、可撓性基板を連続的に搬送しながら成膜を行なうロールツーロール方式の薄膜積層体製造装置にも実施可能である。後者の場合、各成膜ユニットは、可撓性基板の搬送経路に対して固定配置されるので、基板位置制御装置を各成膜ユニット構成する電極間に設置することもできる。
【0055】
また、本発明に係る基板位置制御装置は、太陽電池用の薄膜積層体の製造装置の他に、有機EL等の半導体薄膜など、可撓性基板を用いた各種薄膜積層体の製造装置や処理装置に適用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 可撓性基板
2 成膜ユニット(成膜部)
3,103,203 上側挟持ローラ
3′ 下側挟持ローラ
4 軸
10 真空室
11 薄膜積層体製造装置
31,131 大径部
32,132 小径部
100,200 基板位置制御装置
104,204 支持機構
105,205 スプリング(付勢手段)
106,206 調整ネジ(加圧力調整手段)
107 操作部
141,142,241,242 支軸
143,144,243,244 可動支持部材
231,232 リング状弾性体
231g,232g 周溝


【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の可撓性基板を、その幅方向を鉛直方向にして水平方向に搬送しながら、前記基板の搬送経路に設置された成膜部にて、前記基板の表面に薄膜を積層形成する薄膜積層体製造装置の基板位置制御装置であって、
前記基板の上側縁部を挟持する一対の挟持ローラと、前記一対の挟持ローラを回転可能かつ相互に接離可能に支持する支持機構と、前記支持機構を介して前記一対の挟持ローラに加圧力を付与する付勢手段と、前記加圧力の調整手段と、を備えるものにおいて、
前記一対の挟持ローラは、それぞれが基板幅方向縁端側に位置した大径部と、前記大径部に対して基板幅方向中央側に位置した小径部を有し、前記大径部および前記小径部のそれぞれの挟持部における回転方向が、前記基板の搬送方向と同方向になるように、前記支持機構によって支持されていることを特徴とする薄膜積層体製造装置の基板位置制御装置。
【請求項2】
前記一対の挟持ローラと前記基板の搬送方向に対して同位置で前記基板の下側縁部を挟持する一対の下側挟持ローラと、前記一対の下側挟持ローラを回転可能かつ相互に接離可能に支持する下側支持機構と、前記下側支持機構を介して前記一対の下側挟持ローラに加圧力を付与する下側付勢手段と、をさらに備え、
前記一対の下側挟持ローラは、それぞれが基板幅方向縁端側に位置した大径部と、前記大径部に対して基板幅方向中央側に位置した小径部を有し、前記大径部および前記小径部のそれぞれの挟持部における回転方向が、前記基板の搬送方向と同方向になるように、前記下側支持機構によって支持されていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜積層体製造装置の基板位置制御装置。
【請求項3】
前記挟持ローラの少なくとも一方が、前記大径部と前記小径部との間に連続した周面を有する円錐ローラであることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜積層体製造装置の基板位置制御装置。
【請求項4】
前記挟持ローラの少なくとも一方が、前記大径部と前記小径部とに区分された周面を有する円錐ローラであることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜積層体製造装置の基板位置制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−32555(P2011−32555A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181491(P2009−181491)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】