説明

表皮付き発泡成形品の成形型およびこの成形型を使用した表皮付き発泡成形品の成形方法

【課題】表皮成形面にスプレーした表皮原料がスライド型部とスライド支持面との間へ進入するのを防止する。
【解決手段】スプレー成形により表皮が成形される表皮成形面42を有する第1成形型40は、成形された表皮付き発泡成形品の脱型を可能にするスライド型部50を有する。スライド型部50は、第1成形型40に設けたスライド支持面48に沿ってスライドするスライド型本体54と、スライド型本体54のスライド支持面48側に配設した弾性体としてのシール部62とを備える。シール部62の内部に空洞部70が形成され、この空洞部70に空気を供給すると該空洞部70が膨張し、スライド支持面48と表皮成形面42との境界Lを閉塞するようにシール部62がスライド支持面48に当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮、基材および両部材間に設けた発泡体から構成される表皮付き発泡成形品を成形する成形型と、この成形型を使用した表皮付き発泡成形品の成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の乗員室内に設置される各種車両内装部材(インストルメントパネル、フロアコンソール、ドアパネル、ピラーガーニッシュ等)として、所要形状に成形した合成樹脂製の基材と、当該車両内装部材の外部意匠面を形成する表皮と、基材と表皮との間に設けられて弾力性を有する発泡体とからなる3層構造タイプのものが実用化されている。このような3層構造タイプの車両内装部材は、表皮および発泡体を備えていることから、「表皮付き発泡成形品」と称することができる。また表皮付き発泡成形品には、前述した車両内装部材の他に、ソファや椅子等の家具または事務用品等も含まれる。
【0003】
図11〜図13は、図13に示した表皮付き発泡成形品Mを、成形型F1を使用して成形する方法を示したものである。表皮付き発泡成形品Mは、図示しないインジェクション成形型により成形された合成樹脂製の基材10と、成形型F1でスプレー成形された表皮12と、該成形型F1で発泡成形された発泡体14とからなる。また表皮付き発泡成形品Mは、外部意匠面の一部に凹部16が形成されており、成形型F1からの脱型時にアンダーカットとなる凸状のアンダーカット部18を有している。
【0004】
表皮付き発泡成形品Mを成形する成形型F1は、図11に示すように、スプレー成形により表皮12が成形される表皮成形面22を有する第1成形型20と、別成形した基材10をセットするセット部26を設けた第2成形型24とを備え、表皮12が成形された第1成形型20に基材10をセットした第2成形型24を型閉めし、表皮12と基材10との間で発泡体14を発泡成形するよう構成されている。表皮12は、ノズルNによりウレタンからなる表皮原料U1を表皮成形面22にスプレーすることで該表皮成形面22の形状と同一形状に成形される。なお、第1成形型20には加熱手段(図示せず)が配設され、表皮原料U1の硬化促進に適した温度に表皮成形面22を加熱保温するよう構成されている。また、成形型F1を型閉めしたもとで表皮12と基材10との間に供給したウレタン等の発泡体原料U2を発泡させることで、これら表皮12と基材10との間に発泡体14が形成される(図12)。
【0005】
また、図12に示した成形型F1では、前述した凹部16を成形すると共に、アンダーカット部18から後退して表皮付き発泡成形品Mの脱型を可能とするスライド型部30が、第1成形型20に設けたスライド支持面28にスライド可能に配設されている。すなわちスライド型部30は、流体シリンダやモーター等のスライド手段(図示せず)により、型閉めした型内に画成されたキャビティ側に表皮成形面を突出させた成形位置(図11および図12)と、キャビティ側から表皮成形面を退避した脱型位置(図13)との間でスライド可能となっている。従って、スライド型部30を脱型位置に位置させた際には、該スライド型部30と表皮付き発泡成形品Mのアンダーカット部18とが脱型方向において重ならなくなり、第1成形型20からの該表皮付き発泡成形品Mの脱型が許容される。
【0006】
前述した成形型F1を使用した表皮付き発泡成形品Mの成形方法は、先ず図11に示すように、スライド型部30を成形位置に位置させたもとで、ノズルNにより表皮成形面22に表皮原料U1を所要厚にスプレーする。表皮原料U1のスプレーが完了して表皮成形面22に表皮12が成形されたら、基材10をセットした第2成形型24を第1成形型20に型閉めする。なお、オープン注入の場合は型閉め前に成形された表皮12の裏面に所定量の発泡体原料U2を注入し、クローズド注入の場合は型閉め後に注入口から所定量の発泡体原料U2を注入する。また、基材10の形状によっては、第1成形型20に該基材10をセットしたもとで、第2成形型24を第1成形型20に型閉めすることも可能である。
【0007】
そして、型閉めすると、表皮12と基材10との間に発泡体14を成形する空間が画成され、この空間内で発泡体原料U2が発泡反応することで発泡体14が成形される(図12)。発泡体14の成形が完了したら、スライド型部30を脱型位置へ移動させた後に成形型F1を型開きして、成形された表皮付き発泡成形品Mを第1成形型20から脱型する(図13)。このようなスプレー成形による表皮を備えた表皮付き発泡成形品の成形型および成形方法に関しては、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2005−96217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図11〜図13に示した従来の成形型F1では、第1成形型20のスライド支持面28に沿ってスライド型部30が摺動するよう構成されており、スライド支持面28またはスライド型部30の底部摺動面32が、該スライド型部30が往復スライドを繰り返すことで摩耗し易くなっている。このため、スライド型部30とスライド支持面28との間に摩擦による間隙が形成されると、スライド型部30を成形位置に保持したもとで表皮成形面22に表皮原料U1をスプレーした際に、硬化前の液状の表皮原料U1がスライド支持面28と底部摺動面32との間に進入し易くなる。このように表皮原料U1が間隙に進入して硬化すると、成形された表皮12の表面にバリが形成されてしまい、当該表皮12の見栄えが悪くなって品質低下を招来する問題があった。また、スライド支持面28と底部摺動面32との間に進入した表皮原料U1が硬化して表皮12から分離すると、該表皮原料U1が表皮カスとしてスライド支持面28上に残留して堆積するようになり、スライド型部30がスムーズにスライドするのを阻害する不都合も発生する。従って、表皮カスの頻繁な除去作業が必要となり、該除去作業により表皮付き発泡成形品Mの成形作業が中断して成形効率が低下する問題もあった。
【0009】
そこで本発明では、前述した従来の技術に内在している課題に鑑み、表皮成形面にスプレーした表皮原料がスライド型部とスライド支持面との間へ進入するのを防止する構造として、品質低下防止および成形効率向上を図った表皮付き発泡成形品の成形型と、この成形型を使用した表皮付き発泡成形品の成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決し、所期の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、
スプレー成形により表皮が成形される表皮成形面を有する第1成形型と、型閉めした前記第1成形型との間に画成されたキャビティ内に、別成形した基材を保持可能な第2成形型とを備え、前記表皮と基材との間に発泡体を設けた表皮付き発泡成形品を成形する成形型であって、
前記第1成形型は、前記表皮付き発泡成形品のアンダーカット部の脱型を可能にするスライド型部を有し、
前記スライド型部は、
前記キャビティ側に表皮成形面を突出させる成形位置と、キャビティ側から表皮成形面を退避させた脱型位置との間で、前記第1成形型に設けたスライド支持面に沿ってスライドするスライド型本体と、
前記スライド型本体に設けられて、該スライド型本体と前記スライド支持面との間に位置して前記キャビティに臨む面が前記表皮成形面の一部を構成する弾性体と、
前記弾性体内に膨張・収縮可能に設けられ、膨張時に該弾性体を前記スライド支持面に当接させる加圧手段とを備えたことを要旨とする。
【0011】
従って、請求項1に係る発明によれば、スライド型部とスライド支持面との間に位置する弾性体を、該弾性体内に設けた加圧手段を膨張させることでスライド支持面に当接させ得る。これにより、第1成形型の表皮成形面に表皮原料をスプレーして表皮を成形するに際して、該表皮原料がスライド型部とスライド支持面との間に進入することを防止し得る。従って、成形された表皮にバリが形成されるのを防止できる一方、表皮原料の硬化による表皮カスがスライド支持面に堆積しないのでスライド型部のスムーズなスライドを維持できると共に、表皮カスの除去作業を頻繁に行なう必要がないので成形効率の向上を図り得る。
【0012】
請求項2に記載の発明は、
前記加圧手段は、前記スライド型部の前記成形位置で、前記スライド支持面と前記表皮成形面との境界を閉塞するように前記弾性体を該スライド支持面に当接させる位置に設けられることを要旨とする。
従って、請求項2に係る発明によれば、弾性体がスライド支持面に当接すると、該スライド支持面と表皮成形面との境界が閉塞するので、スライド型部とスライド支持面との間に表皮原料が進入するのを好適に防止し得る。
【0013】
請求項3に記載の発明は、
前記加圧手段は、流体供給源から供給された流体の圧力により膨張する空洞部であることを要旨とする。
従って、請求項3に係る発明によれば、供給した流体の圧力により空洞部を膨張させることで、弾性体がスライド支持面に適切に当接する。
【0014】
請求項4に記載の発明は、
スプレー成形により表皮が成形される表皮成形面を有する第1成形型と、前記第1成形型に設けたスライド支持面に沿って成形位置および脱型位置にスライドするスライド型部と、型閉めした前記第1成形型との間に画成されたキャビティ内に別成形した基材を保持可能な第2成形型とを備えた成形型を使用して、前記表皮と基材との間に発泡体を設けた表皮付き発泡成形品を成形する方法であって、
前記スライド型部を前記成形位置に位置させたもとで前記表皮成形面で前記表皮の成形を開始する前に、該スライド型部の前記スライド支持面側に配設した弾性体を、該弾性体内に設けた加圧手段を膨張させることで該スライド支持面に当接させ、
前記スライド型部を前記脱型位置に移動する前に、前記加圧手段を収縮させて前記スライド支持面に対する前記弾性体の当接を解除することを要旨とする。
【0015】
従って、請求項4に係る発明によれば、スライド型部のスライド支持面側に配設した弾性体を、該弾性体内に設けた加圧手段の膨張により該スライド支持面に当接させたもとで、表皮成形面に表皮原料をスプレーして表皮を成形するようにしたので、表皮成形面にスプレーした表皮原料がスライド型部とスライド支持面との間に進入しない。これにより、成形された表皮にバリが形成されることがなく、表皮付き発泡成形品の品質低下を防止し得る。また、表皮原料の硬化による表皮カスがスライド支持面に堆積しないのでスライド型部のスムーズなスライドを維持できると共に、表皮カスの除去作業を頻繁に行なう必要もないので、表皮付き発泡成形品の成形効率の向上を図り得る。更に、表皮の成形に引き続いて発泡体を成形するに際し、発泡圧により表皮がスライド型部とスライド支持面との間に膨出することを防止できるので、表皮が完全に硬化する前(流動しない程度に硬化した状態)に発泡体の発泡成形を開始することが可能となり、成形時間の短縮化による表皮付き発泡成形品の成形効率の向上も期待できる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、
前記加圧手段は、前記弾性体内に穿設された空洞部であり、流体供給源から流体を供給して膨張させることを要旨とする。
従って、請求項5に係る発明によれば、加圧手段としての空洞部に流体を供給することで該空洞部が膨張し、弾性体を第1成形型のスライド支持面に適切に当接させ得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る表皮付き発泡成形品の成形型によれば、スライド型部とスライド支持面との間で該スライド型部に設けた弾性体を、該弾性体内に設けた加圧手段の膨張により該スライド支持面に当接させ得るので、表皮成形面にスプレーした表皮原料がスライド型部とスライド支持面との間へ進入するのを好適に防止できる。従って、表皮付き発泡成形品の品質低下や成形効率の低下を防止を図り得る。また、表皮原料の硬化による表皮カスがスライド支持面に堆積しないのでスライド型部のスムーズなスライドを維持できると共に、表皮カスの除去作業を頻繁に行なう必要がないので、表皮付き発泡成形品の成形効率の向上を図ることを可能とする。
また、別の発明に係る表皮付き発泡成形品の成形方法によれば、スライド型部とスライド支持面との間でスライド型部に設けた弾性体を、該弾性体内に設けた加圧手段の膨張により該スライド支持面に当接させたもとで、表皮原料を表皮成形面にスプレーするので、該表皮原料が第1成形型とスライド型部との間へ進入するのを防止した状態で表皮を成形し得る。従って、成形された表皮の表面にバリが形成されないので、表皮の品質低下を防止し得る。更に、表皮の成形に引き続いて発泡体を成形するに際し、発泡圧により表皮がスライド型部とスライド支持面との間に膨出することを防止できるので、表皮が完全に硬化する前(流動しない程度に硬化した状態)に発泡体の発泡成形を開始することが可能となり、成形時間の短縮化による表皮付き発泡成形品の成形効率の向上も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明に係る表皮付き発泡成形品の成形型およびこの成形型を使用した表皮付き発泡成形品の成形方法につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら以下説明する。なお実施例では、図9に示した表皮付き発泡成形品M(図13に示した表皮付き発泡成形品Mと同一形状)を成形する成形型および成形方法を例示して説明する。
【実施例】
【0019】
表皮付き発泡成形品Mは、図9に示すように、図示しないインジェクション成形型により成形された合成樹脂製の基材10と、実施例の成形型Fにおける第1成形型20で成形された表皮12と、実施例の成形型Fで基材10と表皮12との間で発泡成形された発泡体14とからなる3層構造を呈している。この表皮付き発泡成形品Mは、全体的に凸形状を呈する意匠形状となっていると共に意匠面の一部に凹部16が形成されており、この凹部16に隣接した部位には、該凹部16が形成されたことによる凸状のアンダーカット部18を有している。
【0020】
実施例の成形型Fは、図6および図7に示すように、スプレー成形により表皮12が成形される凹状の表皮成形面42を有する第1成形型40と、別成形された基材10を保持可能な凸状のセット部46を有する第2成形型44とを備え、表皮12を成形した第1成形型40に対して基材10をセットした第2成形型44を上方から型閉め可能となっている。そして、成形型Fの型閉めが完了すると、表皮12と基材10が固定保持されるキャビティが型内に画成されると共に、これら表皮12と基材10との間に発泡体14を発泡成形するための発泡空間が画成される。
【0021】
第1成形型40には、図1および図7に示すように、表皮付き発泡成形品Mの凹部16を成形すると共に、該凹部16の成形により形成されたアンダーカット部18を有する該表皮付き発泡成形品Mの脱型を可能とするスライド型部50が、第1成形型40に設けたスライド支持面48にスライド自在に配設されている。スライド型部50は、図示しないスライド手段(図示せず)によりスライド支持面48に対して摺動可能となっており、型閉めした型内に画成されたキャビティ側に表皮成形面を突出させた成形位置(図1および図5)と、キャビティ側から表皮成形面を退避した脱型位置(図9)との間でスライド可能となっている。従って、スライド型部50を脱型位置に位置させた際には、該スライド型部50と表皮付き発泡成形品Mのアンダーカット部18とが脱型方向において重ならなくなり、第1成形型40からの該表皮付き発泡成形品Mの脱型が許容される。
【0022】
スライド型部50は、図1〜図3に示すように、第1成形型40と同一材質の金属から形成されて剛性を有するスライド型本体54と、このスライド型本体54に密着的に配設された弾性体56とを備えている。スライド型本体54には、図2および図3に示すように、スライド支持面48側および表皮成形面42側に夫々開放して、第1成形型40とスライド型部50とのパーティングライン(境界ライン)に沿って延在する凹部58が形成されている。従ってスライド型本体54は、表皮成形面42側と反対側(図1の右側)の約1/2の部分が、第1成形型40のスライド支持面48に接触して摺動し、表皮成形面42側(図1の左側)の約1/2の部分が、スライド支持面48から離間した形状を呈している。なおスライド型本体54は、図3に示すように、スライド型部50が成形位置に位置する際に、表皮成形面42側の端面が、スライド支持面48と表皮成形面42との境界Lの略真上に位置するよう構成されている。
【0023】
弾性体56は、軟質シリコーン(silicone)樹脂から形成され、適度の柔軟性および弾力性を有している。この弾性体56は、図2および図3に示すように、スライド型本体54の前述した凹部58に配設されて該スライド型本体54に密着した状態で固定され、該スライド型本体54とスライド支持面48との間に位置するシール部(弾性体)62に、スライド型本体54のキャビティ側の端面に密着するように固定された突状部60が一体成形されている。突状部60は、表皮成形面42の一部を構成し、表皮付き発泡成形品Mにおける凹部16の外面形状と同一形状に形成されている。
【0024】
シール部62は、前述した如く、スライド型本体54の凹部58に配設されることでスライド支持面48に対向し、該シール部62の底面がスライド型本体54の底部摺動面52と同一平面となるように形成されている。また、図8に示すように、弾性体56の突状部60は、スライド型本体54の上面と同一高さまで延在しており、第2成形型44を第1成形型40に型閉めした際に、表皮12を介して基材10に当接するよう構成されている。従って、表皮12と基材10との間に発泡体14を発泡成形する際に、発泡圧が突状部60に加わったとしても該突状部60の変形が規制され、表皮成形面42の形状を保持し得る。
【0025】
更にシール部62には、図2〜図4に示すように、細長の空洞をなす加圧手段としての空洞部70が、該シール部62の内部に穿設されている。この空洞部70は、断面形状が円形の細長管状をなしており、スライド型本体54とスライド支持面48との間で、かつスライド型部50が成形位置に位置した状態において、スライド支持面48における境界L側の端縁部位48Aに対向する位置に設けられている。すなわち空洞部70は、スライド型部50の成形位置において、スライド支持面48と表皮成形面42との境界Lを閉塞するようにシール部62を該スライド支持面48に当接させる位置に設けられている。また空洞部70は、図2に示すように、端部または途中の適宜位置において流体供給源としての空気供給装置72に接続されており、該空気供給装置72から加圧された空気が供給されるよう構成されている。
【0026】
そして、空気供給装置72から加圧空気が空洞部70内に供給されると、該空洞部70の内部が50〜600kPa程度に加圧されるようになっており、これにより柔軟性を有するシール部62が変形して空洞部70が膨張する。すなわち、空洞部70が膨張すると、図4に示すように、シール部62における該空洞部70の周辺部分が外方へ押されてスライド支持面48側へ膨出し、該シール部62は、スライド支持面48の端縁部位48Aに弾力的に当接するようになる。これにより、第1成形型40とスライド型部50とがパーティングラインに沿って密着的に当接しているので、表皮成形面42に液状の表皮原料U1をスプレーした際に、スライド型部50の底部摺動面52と第1成形型40のスライド支持面48との間に該表皮原料U1が進入するのを好適に防止し得る。
【0027】
次に、前述の成形型Fを使用した表皮付き発泡成形品の成形方法について説明する。先ず図1に示すように、型開きした成形型Fの第1成形型40において、図示しないスライド手段により、スライド型部50を成形位置にスライドさせて停止保持する。次いで、空気供給装置72から空洞部70内へ空気を供給して該空洞部70を膨張させ、シール部62をスライド支持面48に弾力的に当接させる。
【0028】
シール部62がスライド支持面48の端縁部位48Aに当接して、該スライド支持面48と表皮成形面42との境界Lが閉塞されたら、図5に示すように、第1成形型40からスライド型部50に亘る表皮成形面42に沿ってノズルNを移動させながら、該表皮成形面42に表皮原料U1を所要厚にスプレーする。この際に、第1成形型40とスライド型部50とがパーティングラインに沿って密着的に当接しているので、第1成形型40のスライド支持面48とスライド型部50との間に表皮原料U1が進入することを防止し得る。
【0029】
表皮成形面42にスプレーした表皮原料U1が、流動しない程度まで硬化したら、図6に示すように、セット部46に基材10をセットした第2成形型44を第1成形型40に型閉めする。図6では、オープン注入方式を採用した場合を例示しており、型閉めに先立ち、表皮成形面42に成形された表皮12の裏面に、発泡体14を発泡成形するための発泡体原料U2を所要量注入しておく。型閉めが完了すると、キャビティ内に保持された表皮12と基材10との間の発泡空間内で発泡体原料U2が発泡反応し、これら表皮12と基材10との間に発泡体14が成形される(図7)。なお、発泡体14の発泡成形時においても、空洞部70への空気の供給が継続されてシール部62がスライド支持面48の端縁部位48Aに当接して、該スライド支持面48と表皮成形面42との境界Lが閉塞しているので、スライド型部50とスライド支持面48との間に表皮原料U1が進入することが防止される。
【0030】
所要のキュアタイムが経過して発泡体14の成形が完了したら、図8に示すように、空洞部70に対する空気の供給を停止して該空洞部70を収縮させ、スライド支持面48に対するシール部62の当接を解除する。これによりスライド型部50は、スライド手段を作動させると、スライド支持面48に沿ってスムーズにスライドする。なお、表皮原料U1の硬化が完了しているので、スライド支持面48に対するシール部62の当接を解除しても、該表皮原料U1が第1成形型40とスライド型部50との間に進入することはない。
【0031】
スライド支持面48に対するシール部62の当接が解除されたら、図9に示すように、スライド型部50を脱型位置に移動させ、該スライド型部50を表皮成形面42から退避させる。次いで、成形型Fを型開きすると、成形された表皮付き発泡成形品Mは、第2成形型44に保持された状態で第1成形型40から脱型される。
【0032】
従って、実施例の表皮付き発泡成形品の成形型Fによれば、スライド型部50のスライド支持面48側に設けたシール部62が、該シール部62内に設けた空洞部70を空気の供給により膨張させることで、スライド支持面48における境界L側の端縁部位48Aに当接するよう構成した。これにより、スライド支持面48と表皮成形面42との境界Lが閉塞され、第1成形型40とスライド型部50とがパーティングラインに沿って密着的に当接するので、表皮成形面42に表皮原料U1をスプレーして表皮12を成形するに際し、液状の該表皮原料U1が第1成形型40とスライド型部50との間に進入することを防止し得る。従って、成形された表皮12の表面にバリが形成されることを防止でき、表皮付き発泡成形品Mの品質低下を防止し得る。また、第1成形型40とスライド型部50との間に表皮原料U1の硬化により形成される表皮カスがスライド支持面48に堆積しないので、スライド型部50のスムーズなスライドを維持できる。更に、スライド支持面48に堆積した表皮カスの除去作業を頻繁に行なう必要がないので、表皮付き発泡成形品Mの成形効率の低下を図り得る。
【0033】
また、前述の成形型Fを使用した実施例の表皮付き発泡成形品の成形方法によれば、スライド型部50のスライド支持面48側に設けたシール部62を、該シール部62内に設けた空洞部70の膨張によりスライド支持面48における境界L側の端縁部位48Aに当接させ、該スライド支持面48と表皮成形面42との境界Lを閉塞させたもとで、表皮成形面42に表皮原料U1をスプレーして表皮12を成形するようにした。これにより、第1成形型40とスライド型部50とがパーティングラインに沿って密着的に当接するので、表皮成形面42にスプレーした液状の表皮原料U1がスライド型部50とスライド支持面48との間に進入しない。従って、成形された表皮12の表面にバリ状の突片が形成されることがなく、当該表皮12の品質低下を招来することがない。また、スライド型部50とスライド支持面48との間に表皮カスが堆積しないので、該表皮カスの除去作業を頻繁に行なう必要がなくなり、表皮付き発泡成形品Mの成形効率が低下しない。更に、表皮12の成形に引き続いて発泡体14を成形するに際し、発泡体原料U2の発泡圧により表皮12がスライド型部50とスライド支持面48との間に膨出することを防止できるので、表皮12が完全に硬化する前(流動しない程度に硬化した状態)に発泡体14の発泡成形を開始することが可能となり、成形時間の短縮化による表皮付き発泡成形品Mの成形効率の向上も期待できる。
【0034】
(変更例)
本願の表皮付き発泡成形品の成形型Fは、前述した実施例の形態に限定されるものではなく、様々に変更可能である。
(1)スライド型部50に配設される弾性体56は、図10に示すように、スライド型本体54に設けた凹部58に整合する形状、すなわち実施例におけるシール部62だけの構成としてもよい。このような形状であっても、空洞部70を膨張させた際には、シール部62が第1成形型40のスライド支持面48に当接する。なお、この形態では、スライド型本体54のキャビティ側の外面形状を、表皮成形面42に合わせて形成する。
(2)加圧手段としての空洞部70の膨張は、実施例に示した空気を供給することに限定されるものではなく、空気以外の気体や、水またはオイル等の液体であってもよく、様々な流体を採用可能である。
(3)空洞部70は、断面形状が円形の空洞に限定されず、例えば楕円形や多角形の断面形状をなす空洞としてもよい。また空洞部70は、直線状のものに限らず、屈曲状、湾曲状等としてもよい。更に空洞部70は、1つから構成されるものに限らず、複数の空洞を並列、直列または交差するように形成してもよい。
(4)空洞部70は、両端で開口している必要はなく、1つの開口を有する空洞として、該開口を介して流体を供給する形態であってもよい。
(5)空洞部70に対する流体の供給は、表皮成形面42にスプレーした表皮原料U1の硬化後の適時に中止すればよく、例えば発泡体14の成形開始前、成形途中または成形完了後であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例の成形型における第1成形型の構成を概略的に示す断面図である。
【図2】第1成形型に設けたスライド型部の構成を概略的に示す斜視図である。
【図3】スライド型部の断面図である。
【図4】スライド型部に配設した弾性体のシール部に設けた空洞部が膨張することで、該弾性体が第1成形型のスライド支持面に当接する状態を示す断面図である。
【図5】スライド型部を成形位置に位置させ、空洞部を膨張させてシール部をスライド支持面に当接させたもとで、表皮成形面に表皮原料をスプレーする状態を示す断面図である。
【図6】第1成形型の表皮成形面に表皮が成形された後に、基材をセットした第2成形型を該第1成形型に型閉めする状態を示す断面図である。
【図7】成形型を型閉めしたもとで、表皮と基材との間で発泡体を発泡成形する状態を示す断面図である。
【図8】発泡体の発泡成形が完了した後、空洞部の膨張を中止してスライド支持面に対するシール部の当接を解除する状態を示す断面図である。
【図9】スライド型部を脱型位置に移動させた後、成形型を型開きして、成形された表皮付き発泡成形品を第1成形型から脱型する状態を示す断面図である。
【図10】変更例に係るスライド型部の構成を概略的に示す断面図である。
【図11】従来の表皮付き発泡成形品の成形型を示した断面図であって、第1成形型の表皮成形面で表皮をスプレー成形した後、基材をセットした第2成形型を型閉めする状態を示している。
【図12】成形型を型閉めしたもとで、表皮と基材との間で発泡体を発泡成形する状態を示す断面図である。
【図13】スライド型部を脱型位置に移動させた後、成形型を型開きして、成形された表皮付き発泡成形品を第1成形型から脱型する状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
10 基材,12 表皮,14 発泡体,18 アンダーカット部,40 第1成形型
42 表皮成形面,44 第2成形型,48 スライド支持面,50 スライド型部
54 スライド型本体,62 弾性シール部(弾性体),70 空洞部(加圧手段)
72 空気供給装置(流体供給源),L 境界,M 表皮付き発泡成形品,U1 表皮原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプレー成形により表皮が成形される表皮成形面を有する第1成形型と、型閉めした前記第1成形型との間に画成されたキャビティ内に、別成形した基材を保持可能な第2成形型とを備え、前記表皮と基材との間に発泡体を設けた表皮付き発泡成形品を成形する成形型であって、
前記第1成形型は、前記表皮付き発泡成形品のアンダーカット部の脱型を可能にするスライド型部を有し、
前記スライド型部は、
前記キャビティ側に表皮成形面を突出させる成形位置と、キャビティ側から表皮成形面を退避させた脱型位置との間で、前記第1成形型に設けたスライド支持面に沿ってスライドするスライド型本体と、
前記スライド型本体に設けられて、該スライド型本体と前記スライド支持面との間に位置して前記キャビティに臨む面が前記表皮成形面の一部を構成する弾性体と、
前記弾性体内に膨張・収縮可能に設けられ、膨張時に該弾性体を前記スライド支持面に当接させる加圧手段とを備えた
ことを特徴とする表皮付き発泡成形品の成形型。
【請求項2】
前記加圧手段は、前記スライド型部の前記成形位置で、前記スライド支持面と前記表皮成形面との境界を閉塞するように前記弾性体を該スライド支持面に当接させる位置に設けられる請求項1記載の表皮付き発泡成形品の成形型。
【請求項3】
前記加圧手段は、流体供給源から供給された流体の圧力により膨張する空洞部である請求項1または2記載の表皮付き発泡成形品の成形型。
【請求項4】
スプレー成形により表皮が成形される表皮成形面を有する第1成形型と、前記第1成形型に設けたスライド支持面に沿って成形位置および脱型位置にスライドするスライド型部と、型閉めした前記第1成形型との間に画成されたキャビティ内に別成形した基材を保持可能な第2成形型とを備えた成形型を使用して、前記表皮と基材との間に発泡体を設けた表皮付き発泡成形品を成形する方法であって、
前記スライド型部を前記成形位置に位置させたもとで前記表皮成形面で前記表皮の成形を開始する前に、該スライド型部の前記スライド支持面側に配設した弾性体を、該弾性体内に設けた加圧手段を膨張させることで該スライド支持面に当接させ、
前記スライド型部を前記脱型位置に移動する前に、前記加圧手段を収縮させて前記スライド支持面に対する前記弾性体の当接を解除する
ことを特徴とする表皮付き発泡成形品の成形方法。
【請求項5】
前記加圧手段は、前記弾性体内に穿設された空洞部であり、流体供給源から流体を供給して膨張させる請求項4記載の表皮付き発泡成形品の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−30175(P2010−30175A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195457(P2008−195457)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】