説明

表面分析装置

【課題】SPMを用いた観察において、観察者が位相等、高さ以外の物理量について試料上の関心領域を指定する際の作業性を向上させる。
【解決手段】試料観察表示画面30中のナビゲーションウインドウ33には試料上の観察可能範囲を示す範囲指示画像34が表示され、該画像34には拡大観察範囲を指示するための関心領域設定指示枠35が重ねて表示される。また、画像履歴一覧表示ウインドウ32には同試料に対してそれまでに取得された拡大画像のサムネイルが一覧表示され、観察者が任意の画像を選択指示すると、そのサムネイルが範囲指示画像34上にマッピング表示される。これを参照して観察者がマウス操作により関心領域設定指示枠35の位置、大きさ、角度を変更すると、それに応じた試料上の拡大画像が新たに取得される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡、レーザ顕微鏡、電子線プローブマイクロアナライザといった、試料上の所定領域に対し複数の異なる種類の物理量の2次元分布データを取得することが可能な表面分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、顕微鏡を用いて試料表面の各種観察を行う際には、まず低倍率で試料上の広い視野の画像(広域画像)を表示画面上に表示させた上で観察者が所望の部位を探索し、その所望の部位を含む狭い視野の画像(拡大画像)を高倍率で観察して表示する、という手順がとられる。このような作業を効率よく行うために、従来、様々な技術が開発・提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、低倍率の広域画像と高倍率の拡大画像とを同一表示画面上に表示し、拡大画像に相当する領域や過去に取得した拡大画像に相当する領域を矩形等の枠でもって広域画像上に表示することにより、試料上の広域領域と観察者が注目している関心領域(ROI=Region Of Interest)との位置関係や過去に観察・測定した領域の位置情報などを観察者が容易に把握できるようにする技術が開示されている。
【0004】
ところで、典型的な表面分析装置の一つである走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope:以下「SPM」と略す) では、微小な探針(プローブ)により試料の表面を走査しながら試料と探針との間の相互作用による力を検出することで、試料上の同一領域について、表面の高さ(凹凸)情報のみならず、位相、電流、粘弾性、磁気力、表面電位、静電気力などの様々な物理量の2次元分布データを取得することができる(特許文献2参照)。そのため、観察者が、過去に取得した高さ以外の物理量の2次元分布データ、つまりその物理量に関する分布画像を参照しながら、試料上で次に測定を行う関心領域を指定したいような場合がよくある。
【0005】
こうした要求に対し、上記の特許文献1に記載の表示手法では十分に応えることができない。即ち、低倍率で撮像した形状(高さ像)を広域画像として表示し、その広域画像上で拡大画像に相当する領域を枠等で示すだけでは、観察者が表面高さ以外の任意の物理量について過去に取得した観察画像に基づいて関心領域を指定する場合に、広域画像上に表示された枠線表示と取得した任意の物理量における分布画像とを見比べながら、関心領域を指定しなければならない。このように2つ又はそれ以上の画像を見比べながら関心領域を特定するという作業は、観察者にとって非常に面倒であり、誤った判断を引き起こすおそれもある。
【0006】
また、表面高さの広域画像と高さ以外の任意の物理量の拡大観察画像とが同一表示画面上に表示されるようにした場合でも、観察者が選択・指定した拡大観察画像が広域画像上のどの位置に対応したものであるのかの対応付けが把握しにくい。このため、任意の物理量に対して過去に取得した複数の拡大観察画像の位置関係を把握しながら、所望の部分の任意の物理量の分布状況を観察したい場合に、作業が非常に面倒で非効率的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−139795号公報
【特許文献2】特開2010−54420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その主な目的とするところは、試料上で観察可能な領域と任意の物理量の拡大観察画像との位置関係の把握が表示画面上で容易になり、例えば、観察可能な領域全体の範囲の中で任意の位置の任意の物理量の拡大観察画像を観察しながら、次に測定すべき関心領域を簡便に且つ的確に設定することができる表面分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明は、試料上の任意の領域に対して複数種類の物理量の2次元分布情報を取得することが可能な表面分析装置において、
a)試料上の観察又は測定が可能な範囲全体を示す2次元的な範囲指示画像を表示画面上に表示する第1表示処理手段と、
b)試料上の観察又は測定が可能な範囲全体の中の任意の位置及び大きさの小範囲に対して取得された任意の物理量の2次元分布情報に基づいて分布画像を作成し、該分布画像を前記第1表示処理手段により表示される範囲指示画像上で対応する位置に重ねて表示する第2表示処理手段と、
を備えることを特徴としている。
【0010】
例えば本発明に係る表面分析装置がSPMである場合には、上記「複数種類の物理量」とは表面高さ、位相、電流、粘弾性、磁気力、表面電位、静電気力などである。
【0011】
本発明に係る表面分析装置において第1及び第2表示処理手段は、典型的には、表面分析装置のシステムを構成するパーソナルコンピュータにインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアを実行することにより具現化される手段である。
【0012】
本発明に係る表面分析装置において、第1表示処理手段により表示画面上に表示される範囲指示画像は単に試料上の観察又は測定が可能な範囲全体の位置や大きさのみを示すために実体的な画像情報がないものであってもよいが、例えば試料上の観察又は測定が可能な範囲全体に亘る表面高さなどの実体的な画像情報を含むものでもよい。第2表示処理手段は、そうした範囲指示画像に重ねて、試料に対する観察や測定により取得された任意の物理量、例えばSPMであれば位相などの2次元分布情報に基づく分布画像を、その情報が得られた試料上の位置に対応付けて表示する。当然のことながら、範囲指示画像の全てを覆うように同一の物理量に対する複数の分布画像を該範囲指示画像に重ねて表示すれば、観察又は測定が可能な範囲全体におけるその物理量に対する分布画像が表示画面上に表示されることになる。
【0013】
本発明に係る表面分析装置によれば、既に取得した任意の物理量の分布画像が試料上の観察又は測定が可能な範囲全体を示す範囲指示画像に重ねて表示されるため、1乃至複数の分布画像と観察又は測定が可能な範囲全体との位置関係や、複数の分布画像同士の位置関係、或いは、観察又は測定が可能な範囲全体の中で拡大観察や測定を実行していない部分の位置などについて、ユーザ(観察者)が一目で容易に把握することができる。
【0014】
また、本発明に係る表面分析装置の一態様は、
試料上の前記観察又は測定が可能な範囲全体の中の任意の位置及び大きさの範囲に対して取得された任意の物理量の2次元分布情報に基づく1乃至複数の分布画像を前記範囲指示画像と同一表示画面上で且つ該範囲指示画像の表示領域とは異なる表示領域に一覧表示する一覧表示処理手段と、
前記一覧表示処理手段により一覧表示された分布画像の中で任意の画像をユーザが指示するための画像選択指示手段と、
を備え、前記第2表示処理手段は前記画像選択指示手段により指示された分布画像を前記範囲指示画像上の対応する位置に重ねて表示する構成とすることができる。
【0015】
この構成によれば、過去に取得した任意の物理量に対する分布画像を一覧表示から簡単に選択して範囲指示画像上に重ねて表示させることができるので、例えば複数の分布画像の位置関係を把握しながら、所望の部分の任意の物理量の分布状況を的確に且つ効率良く観察することができる。
【0016】
また本発明に係る表面分析装置において好ましくは、
前記第1表示処理手段により表示される前記範囲指示画像上で任意の位置及び大きさの範囲をそれ以外の部分と識別するための識別表示を該範囲指示画像に重ねて表示しつつ、該範囲をユーザが指示するための範囲指示手段と、
該範囲指示手段により指示された範囲に対応した試料上の領域について任意の物理量の2次元分布情報を取得するように、試料に対して観察又は測定を実行する測定実行手段を制御する制御手段と、
をさらに備える構成とするとよい。
【0017】
本発明がSPMに適用される場合には、上記測定実行手段は、試料表面を走査するプローブが先端に設けられたカンチレバー、試料をX−Y−Zの3次元方向に駆動させるスキャナ、プローブのZ方向の移動量を検知する検知手段、などを含む。
【0018】
上記構成では、ユーザが範囲指示手段により範囲指示画像上で次に観察したい部分をグラフィカルに指示すると、制御手段はその指示に応じて測定すべき試料上の位置や大きさ(範囲)を確定し、該範囲を測定するように測定実行手段を制御する。それにより、ユーザは既に観察又は測定により得られた分布画像を確認しながら、同じ画像上で引き続いて観察又は測定したい部分を簡便に指定し、その部分の観察又は測定による画像を得ることができる。
【0019】
なお、上記構成において範囲指示手段は、前記範囲指示画像に重ねて表示した前記識別表示としての矩形状の枠を移動、拡大・縮小、及び回転させる操作を行うことで分析対象の範囲を設定するものとするとよい。具体的には、マウス等のポインティングデバイスの操作により範囲指示画像に重ねて表示された矩形状の枠を移動、拡大・縮小、回転させるものとすればよい。
【0020】
矩形状の枠の移動は試料上での観察又は測定したい部分の位置の変更であり、矩形状の枠の拡大・縮小は試料上での観察又は測定したい部分の大きさの変更である。また、矩形状の枠の回転は試料上での観察又は測定した部分を観察又は測定する方向の変更であり、本発明に係る表面分析装置がSPMである場合には、走査方向の変更である。
直線状に溝が形成された回折格子などの特徴的な構造を有する試料を観察する際には、試料の向きと走査方向の角度とが重要な要因であり、一般にSPMでは走査角度の指定が可能である。したがって、上記構成のように、関心領域を設定する際に走査方向を指定し、その走査方向に基づく画像を取得・表示できることは解析や評価の上で有益である。
【発明の効果】
【0021】
以上のように本発明に係る表面分析装置によれば、任意の物理量についての1乃至複数の小範囲に対する分布画像と観察又は測定が可能な範囲全体との位置関係や、複数の分布画像同士の位置関係、或いは、観察又は測定が可能な範囲全体の中で拡大観察や測定を実行していない部分の位置などについて、ユーザが一目で容易に把握することができる。それによって、試料表面の観察・測定の作業を効率良く行うことができ、また例えば複数の画像を見比べること等に起因する作業ミスを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施例であるSPMの要部の構成図。
【図2】SPMで得られる高さ画像と位相画像の一例を示す図。
【図3】本実施例のSPMにおいて特徴的な試料観察を行う際の操作や処理の手順の一例を示すフローチャート。
【図4】試料上の観察可能範囲と実際の観察範囲との関係の説明図。
【図5】本実施例のSPMにおいて特徴的な試料観察を行う際に用いる表示画面の一例を示す概略図。
【図6】図5中のナビゲーション画面の拡大図。
【図7】図6に示したナビゲーション画面中に表示される関心領域指示枠に対する操作の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る表面分析装置の一実施例であるSPMについて、添付図面を参照して説明する。図1は本実施例によるSPMの要部の構成図である。
【0024】
観察対象である試料1は略円筒形状であるスキャナ3の上端に設けられた試料台2の上に載置される。スキャナ3は複数の圧電素子を備え、スキャナ駆動部7から印加される電圧に応じて、試料1をX、Yの2軸方向に走査し且つZ軸方向に微動させる。試料1の上方には先端にプローブ5を有するカンチレバー4が配置され、カンチレバー4は図示しない圧電素子を含む励振部により振動される。カンチレバー4の上方には、カンチレバー4のZ軸方向の変位を検出するために、レーザ光源11、レンズ12、ビームスプリッタ13、ミラー14、光検出器15などを含む変位検出部10が設けられている。変位検出部10では、レーザ光源11から出射しレンズ12で集光したレーザ光をビームスプリッタ13で反射させ、カンチレバー4の先端付近に照射する。その反射光をミラー14を介して光検出器15で検出する。光検出器15はカンチレバー4の変位方向(Z軸方向)に複数に分割された受光面を有する。
【0025】
例えばDFM(ダイナミックフォースモード)による観察を行う際には、カンチレバー4はその共振点付近の周波数fでZ軸方向に振動される。このときプローブ5と試料1の表面との間に原子間力などによる引力又は斥力が作用すると、カンチレバー4の振動振幅が変化する。カンチレバー4がZ軸方向に変位すると、光検出器15の複数の受光面に入射する光量の割合が変化する。変位量算出部6は、その複数の受光光量に応じた検出信号を演算処理することにより、カンチレバー4の変位量を算出し制御部21に入力する。
【0026】
制御部21は、カンチレバー4の変位量をゼロにするように、つまりプローブ5と試料1表面との間の距離が常に一定になるように、スキャナ駆動部7を介してスキャナ3をZ軸方向に微小変位させる電圧値を算出し、スキャナ駆動部7を介してスキャナ3をZ軸方向に微動させる。また、制御部21は予め決められた走査パターンに従って、試料1がX−Y平面内でプローブ5に対して相対移動するようにX軸、Y軸方向の電圧値を算出し、スキャナ駆動部7を介してスキャナ3をX軸及びY軸方向に微動させる。Z軸方向のフィードバック量(スキャナ電圧)を反映した信号は制御部21からデータ処理部22にも送られ、データ処理部22はX軸、Y軸方向の各位置においてその信号を処理することによって試料1の表面高さ等に対応するデータを計算し、表示処理部24はこれにより2次元画像等を形成して表示部26の画面上に描出する。また、取得されたデータはデータ記憶部23に格納される。
【0027】
このSPMでは、上記のような試料1の表面の高さ、つまり凹凸形状のほか、測定モードに応じて、試料1表面の位相、電流、磁気力、表面電位などの物理量の測定も同時に行うことができ、こうして得られたデータも全てデータ記憶部23に格納される。なお、制御部21、データ処理部22、データ記憶部23、表示処理部24などはパーソナルコンピュータ20により具現化され、このコンピュータ20に予めインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアを実行することにより、上述したようなデータ収集のための動作や後述する画像表示処理などを行うようにすることができる。
【0028】
次に、本実施例のSPMにおいて、試料観察を行う際の特徴的な画像表示処理及びその表示画像に基づく測定制御について説明する。
図3は本実施例のSPMにおいて特徴的な試料観察を行う際の操作や処理の手順の一例を示すフローチャート、図4は試料上の観察可能範囲と実際の観察範囲との関係の説明図、図5は本実施例のSPMにおいて特徴的な試料観察を行う際に用いる表示画面の一例を示す概略図、図6は図5中のナビゲーション画面の拡大図、図7は図6に示したナビゲーション画面中に表示される関心領域指示枠に対する操作の説明図である。
以下の説明では、SPMにより、試料1の表面高さのほかに、位相を2次元的に測定し位相の分布画像を拡大画像として作成する場合を例に挙げる。ここでいう「位相」とは、カンチレバー4を振動させる電圧信号と実際の振動信号との位相のずれ(遅れ)であり、この位相は試料1の表面の粘弾性や吸着性のような物性の相違を反映する。図2は試料上の同一領域に対してSPMで得られる高さ画像と位相画像の一例を示す図である。
【0029】
図5に示すように、試料観察表示画面30には、リアルタイムで観察されている画像(拡大画像)が表示されるリアルタイム画像表示ウインドウ31と、既に取得されてデータ記憶部23に格納されている同試料1に対する拡大画像の縮小版(サムネイル)を一覧表示する画像履歴一覧表示ウインドウ32と、試料1上の観察範囲全体と取得された拡大画像との位置関係を示すとともに次の測定範囲を指定するためのナビゲーションウインドウ33と、が配置されている。前述したように、ここでは試料1上の高さ画像と位相画像とを同時に取得しているため、画像履歴一覧表示ウインドウ32には同一領域に対する高さ画像と位相画像とが一覧で表示されている。もちろん、試料観察表示画面30における各ウインドウ31、32、33の配置はこれに限るものではない。
【0030】
図5に示すように、ナビゲーションウインドウ33には、その時点での試料1上の観察可能な範囲を矩形状の枠で示す範囲指示画像34が表示され、該範囲指示画像34上には観察したい関心領域を設定するための矩形状の関心領域設定指示枠35が重ねて表示されている。この関心領域設定指示枠35は、入力部25に含まれるマウス等のポインティングデバイスによりグラフィカルに操作が可能である。即ち、図6に示すように、関心領域設定指示枠35の四隅をマウスでドラッグ・アンド・ドロップすることにより該指示枠35の拡大又は縮小が行え(図6(a)参照)、関心領域設定指示枠35全体をマウスでドラッグ・アンド・ドロップすることにより該指示枠35の移動が行え(図6(b)参照)、回転操作を指定した上でマウスで回転軌跡を描くことにより指示枠35から上方に突出した点を中心に該指示枠35が任意の角度だけ回転する(図6(c)参照)。
【0031】
ナビゲーションウインドウ33中の範囲指示画像34は、観察対象である試料1上では図4に観察可能範囲40で示した範囲に対応する。即ち、スキャナ3によるX方向及びY方向の駆動により、プローブ5が走査可能な範囲全体である。図4において観察可能範囲40の内側に点線で示した小範囲41は、後述するように関心領域設定指示枠35を用いた範囲指定に応じて実際にプローブ5が走査されて観察が実施される範囲である。
【0032】
図3に従って、本実施例のSPMにおける特徴的な試料観察の手順を説明する。
まず、観察者は入力部25により試料1上の観察可能範囲40全体の表面高さの観察を指示する。この指示に応じて制御部21はスキャナ駆動部7を通してスキャナ3を動作させ、観察可能範囲40全体に亘りプローブ5を走査させる。その結果、データ処理部22では試料1上の観察可能範囲40全体に対する高さの2次元分布データが得られるから、表示処理部24は上記データに基づいて2次元の高さ画像を作成し、この画像(試料表面高さの広域画像)を表示部26の画面上に表示される試料観察表示画面30の中のリアルタイム画像表示ウインドウ31に描出する(ステップS1)。観察者はこの画像から、試料1上の観察可能範囲40全体の表面高さの概要を把握することができる。
【0033】
観察者は上述のようにリアルタイム画像表示ウインドウ31に表示されている試料表面高さの広域画像を参照しつつ、範囲指示画像34上に表示されている関心領域設定指示枠35の位置、大きさ、角度(方向)を入力部25のマウス操作により任意に変更することにより、試料1上で拡大観察したい関心領域を設定する(ステップS2)。この関心領域設定指示枠35の設定に応じて制御部21はスキャナ駆動部7を通してスキャナ3を動作させ、設定された関心領域設定指示枠35に対応した試料1上の小領域の範囲のみをプローブ5が走査するようにする。これにより、データ処理部22では上記小領域に対する高さの2次元分布データ及び位相の2次元分布データが得られるから、表示処理部24は上記データに基づいて2次元の高さ画像を作成し、この画像(試料表面高さの拡大画像)を表示部26の画面上に表示される試料観察表示画面30の中のリアルタイム画像表示ウインドウ31に描出する(ステップS3)。
【0034】
この時点では、得られたデータはデータ記憶部23に未だ格納されておらず、観察者が範囲指示画像34上に表示されている関心領域設定指示枠35の位置、大きさ、角度を適宜変更すると、それに応じて実際のプローブ5による走査範囲が変化し、リアルタイム画像表示ウインドウ31に描出される拡大画像も変化する。観察者が入力部25によりデータの取り込み指示を行うと、その指示に応じて、その時点で得られている、つまり時点における関心領域設定指示枠35に対応した小領域に対する高さの2次元分布データ及び位相の2次元分布データがデータ記憶部23に格納される(ステップS4、S5)。このとき、それら2次元分布データを取得した位置が特定できるように、例えば試料1上の観察可能範囲40内での相対位置を示す位置データも同時に格納される。
【0035】
表示処理部24は、上述したようにデータ記憶部23に格納されたデータに基づいて、試料表面の高さの拡大画像及び位相の拡大画像のサムネイルを作成し、これを試料観察表示画面30中の画像履歴一覧表示ウインドウ32に表示する(ステップS6)。即ち、この画像履歴一覧表示ウインドウ32には、同一試料に対してそれまでに収集された様々な物理量(この例では試料表面高さ及び位相)における拡大画像のサムネイルが表示される。
【0036】
観察者が、画像履歴一覧表示ウインドウ32に表示されている任意の画像(サムネイル)を入力部25により選択指示して範囲指示画像34上に移動させる操作を行うと(ステップS7)、その操作を受けて表示処理部24は該画像の元となった2次元分布データとともに記憶されている位置データを取得し、その位置データに基づいて、上記選択指示された拡大画像のサムネイルを、観察可能範囲40に対応した範囲指示画像34上において上記拡大画像が本来得られた位置に表示する(ステップS8)。つまり、小領域に対する拡大画像のサムネイルを範囲指示画像34上にマッピング表示する。これにより、図5に示すように、範囲指示画像34の外枠で示される試料上の観察可能範囲と既に取得した拡大画像との位置関係が一目で把握可能となる。
【0037】
上記のように既に取得した画像がマッピング表示された範囲指示画像34を見ながら、観察者がさらに試料1上の観察可能範囲40内の別の部位の拡大画像を取得したい場合には、ステップS2に戻り、観察者は入力部25のマウス操作により範囲指示画像34上に表示されている関心領域設定指示枠35の位置等を変更し、新たな関心領域を設定する。これにより、上述したとおり、新たに設定された試料1上の小範囲(関心領域)に対するプローブ5による走査が実行され、その小範囲に対する試料表面高さ及び位相の2次元分布データが収集され、それらデータに基づく拡大画像のサムネイルが画像履歴一覧表示ウインドウ32に追加される。
【0038】
図5は2つの位相画像のサムネイルが範囲指示画像34上に重ねて表示されている例であるが、未観察の部分に順次関心領域設定指示枠35を設定してデータ収集を繰り返すことにより、試料1上の観察可能範囲40全体についての詳細な試料表面高さ及び位相の2次元分布データを収集することも可能である。もちろん、一般的には、試料1上の特定部位付近のみの試料表面高さ及び位相の2次元分布データが収集できればよい場合も多いから、その場合には目的とするデータが収集できた時点で観察を終了すればよい。
【0039】
なお、図5の例では、画像履歴一覧表示ウインドウ32中に表示されている位相画像のサムネイルを選択指示して範囲指示画像34上に表示させているが、同一の物理量に対する画像だけでなく、異なる物理量に対する拡大画像のサムネイルを範囲指示画像34上で混在させて表示することも可能である。また、試料表面高さ、位相以外の、SPMで取得可能な他の物理量についても同様の処理が可能であることは上述したとおりである。
【0040】
上記実施例はSPMを例に挙げて説明したが、本発明は、試料表面の所定領域に対し複数種の物理量の2次元分布を測定可能な表面分析装置全般に適用できることは明白である。こうした表面分析装置として、具体的には、レーザ顕微鏡、電子線プローブマイクロアナライザなどが挙げられる。
【0041】
また、上記実施例は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨に沿った範囲で適宜変形や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0042】
1…試料
2…試料台
3…スキャナ
4…カンチレバー
5…プローブ
6…変位量算出部
7…スキャナ駆動部
10…変位検出部
11…レーザ光源
12…レンズ
13…ビームスプリッタ
14…ミラー
15…光検出器
20…パーソナルコンピュータ
21…制御部
22…データ処理部
23…データ記憶部
24…表示処理部
25…入力部
26…表示部
30…試料観察表示画面
31…リアルタイム画像表示ウインドウ
32…画像履歴一覧表示ウインドウ
33…ナビゲーションウインドウ
34…範囲指示画像
35…関心領域設定指示枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料上の任意の領域に対して複数種類の物理量の2次元分布情報を取得することが可能な表面分析装置において、
a)試料上の観察又は測定が可能な範囲を示す2次元的な範囲指示画像を表示画面上に表示する第1表示処理手段と、
b)試料上の前記観察又は測定が可能な範囲の中の任意の位置及び大きさの範囲に対して取得された任意の物理量の2次元分布情報に基づいて分布画像を作成し、該分布画像を前記第1表示処理手段により表示される範囲指示画像上で対応する位置に重ねて表示する第2表示処理手段と、
を備えることを特徴とする表面分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の表面分析装置であって、
試料上の前記観察又は測定が可能な範囲の中の任意の位置及び大きさの範囲に対して取得された任意の物理量の2次元分布情報に基づく1乃至複数の分布画像を前記範囲指示画像と同一表示画面上で且つ該範囲指示画像の表示領域とは異なる表示領域に一覧表示する一覧表示処理手段と、
前記一覧表示処理手段により一覧表示された分布画像の中で任意の画像をユーザが指示するための画像選択指示手段と、
を備え、前記第2表示処理手段は前記画像選択指示手段により指示された分布画像を前記範囲指示画像上の対応する位置に重ねて表示することを特徴とする表面分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の表面分析装置であって、
前記第1表示処理手段により表示される前記範囲指示画像上で任意の位置及び大きさの範囲をそれ以外の部分と識別するための識別表示を該範囲指示画像に重ねて表示しつつ、該範囲をユーザが指示するための範囲指示手段と、
該範囲指示手段により指示された範囲に対応した試料上の領域について任意の物理量の2次元分布情報を取得するように、試料に対して観察又は測定を実行する測定実行手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする表面分析装置。
【請求項4】
請求項3に記載の表面分析装置であって、
前記範囲指示手段は、前記範囲指示画像に重ねて表示した前記識別表示としての矩形状の枠を移動、拡大・縮小、及び回転させる操作を行うことで分析対象の範囲を設定することを特徴とする表面分析装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−63212(P2012−63212A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206844(P2010−206844)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】