表面改質単結晶SiC基板、エピ成長層付き単結晶SiC基板、半導体チップ、単結晶SiC成長用種基板及び単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法
【課題】元となる単結晶SiC基板の結晶多形の如何にかかわらず、その表面を4H−SiC単結晶に改質することが可能な気相技術を提供する。
【解決手段】結晶多形が3C、4H、又は6Hの何れかよりなる単結晶SiC基板5を高真空環境において加熱して、当該単結晶SiC基板の表面に炭化層5aを形成させる。次に、炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記単結晶SiC基板を収容し、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記炭化層5aをシリコンと反応させてアモルファスSiC層5bを生成させる。また、前記嵌合容器に前記単結晶SiC基板を収容した状態で上記と同様の条件で加熱することで、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの少なくとも一部を再結晶させて単結晶4H−SiC層5cを生成させる。
【解決手段】結晶多形が3C、4H、又は6Hの何れかよりなる単結晶SiC基板5を高真空環境において加熱して、当該単結晶SiC基板の表面に炭化層5aを形成させる。次に、炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記単結晶SiC基板を収容し、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記炭化層5aをシリコンと反応させてアモルファスSiC層5bを生成させる。また、前記嵌合容器に前記単結晶SiC基板を収容した状態で上記と同様の条件で加熱することで、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの少なくとも一部を再結晶させて単結晶4H−SiC層5cを生成させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要には、単結晶又は多結晶のSiC基板の表面に、結晶多形が例えば4Hである単結晶SiC層を生成させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)は、耐熱性及び機械的強度に優れ、放射線にも強く、不純物の添加によって電子や正孔の価電子制御も容易にできるとともに、広い禁制帯幅(6H型の単結晶SiCで約3.0eV、4H型の単結晶SiCで3.3eV)を有するという特徴を備えている。従って、ケイ素(Si)やガリウム砒素(GaAs)などの既存の半導体材料では実現できない高温、高周波、耐電圧・耐環境性を実現することが可能であるとされ、次世代のパワーデバイス、高周波デバイス用半導体の材料として期待が高まっている。
【0003】
この種の単結晶SiCの製造方法は、例えば特許文献1に開示されている。この特許文献1の方法は、まず、SiC単結晶基板とSi原子及びC原子により構成された板材とを微少隙間を隔てて互いに平行に対峙させた状態とする。そして、大気圧以下の不活性ガス雰囲気、かつ、SiC飽和蒸気雰囲気下で、上記SiC単結晶基板側が上記板材よりも低温に保たれるように熱処理する。特許文献1の方法では、これにより、上記微小隙間内でSi原子及びC原子を昇華再結晶させて上記SiC単結晶基板上に単結晶を析出させるとともに、この析出単結晶を種結晶として上記板材を単結晶に変態させて、上記SiC単結晶基板の結晶軸と同方位に配向された単結晶を一体に成長させる。
【特許文献1】特開平11−315000号公報
【0004】
しかしながら、特許文献1のような昇華再結晶法では、種結晶としての単結晶SiC基板が有する欠陥(特に、「マイクロパイプ欠陥」と呼ばれる直径数ミクロンから0.1mm程度の管状の空隙)が、析出する単結晶のエピタキシャル構造に伝播し易く、これが、製造される単結晶SiCを前述のパワーデバイス等として用いる際の大きな障害となっている。
【0005】
この点は特許文献2も指摘するところであり、これを解決する方法として以下のような炭素ケイ素エピタキシャル層の形成方法を提案している。即ち、特許文献2の炭素ケイ素エピタキシャル層の形成方法は、種晶添加昇華技術を用いて炭化ケイ素のバルク結晶を成長させる工程と、後記基板から後記第一のエピタキシャル層の成長部の中に伝播したマイクロパイプ欠陥を、後記第一のエピタキシャル層の溶融成長においてマイクロパイプ欠陥の複製をかなり減らすようにふさぐのに十分な厚みのものとなるまで、バルク結晶から製造された基板の上に炭化ケイ素の、第一のエピタキシャル層を、液相エピタキシー技術により形成する工程と、その後、化学蒸着により炭化ケイ素の前記第一のエピタキシャル層の上に炭化ケイ素の第二のエピタキシャル層を形成する工程と、を有する。特許文献2は、これにより、欠陥の少ない炭化ケイ素のエピタキシャル層を成長させることができるとする。
【特許文献2】特表平10−509943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1及び2の方法は、SiC単結晶基板上にSiC単結晶を成長させることが可能であるものの、その成長結晶の結晶多形を特定の結晶多形に、例えば半導体基板の電気特性として好ましい最も広い禁制帯幅(3.3eV)を持つ4H型の単結晶SiCに制御することができなかった。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、単結晶又は多結晶のSiC結晶基板の表面を特定の結晶多形(例えば4H)のSiC単結晶に改質することが可能な気相技術を提供するとともに、その改質された4H−SiC単結晶上に4H−SiC単結晶を液相エピタキシャル成長させる方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、基板の表面の研磨傷や研磨時に発生したストレスを含む基板の表面のダメージ層を改質することにより、結晶欠陥のないサブナノオーダーの原子レベルに平坦な単結晶4H−SiC層を得るとともに、この単結晶4H−SiC層の上に、結晶欠陥の無い4H−SiC単結晶を厚み方向及び/又は水平方向に液相エピタキシャル成長させることにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
(1)本発明の第1の観点によれば、以下のような表面改質単結晶SiC基板の製造方法が提供される。即ち、この表面改質単結晶SiC基板の製造方法は、炭化工程と、アモルファスSiC形成工程と、再結晶工程と、を含む。前記炭化工程では、単結晶3C−SiC、単結晶4H−SiC、又は単結晶6H−SiCの何れかよりなる単結晶SiC基板を高真空環境において加熱して、当該単結晶SiC基板の表面に炭化層を形成させる。前記アモルファスSiC形成工程では、炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記単結晶SiC基板を収容し、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記炭化層をシリコンと反応させてアモルファスSiCからなる犠牲成長層を生成させる。前記再結晶工程では、炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記単結晶SiC基板を収容した状態で、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの少なくとも一部を再結晶させて単結晶4H−SiC層を生成させる。なお、本明細書において「高真空環境」とは10-2Pa以下の真空環境を意味する。
【0010】
これにより、元となる単結晶SiC基板の結晶多形に関係なく、その表面に単結晶4H−SiC層を形成することができる。従って、下地となる単結晶SiC基板の結晶多形はコスト等を考慮して決定することが可能な一方で、半導体基板として好適な電気特性を有する単結晶4H−SiC層をその表面に形成することが可能になる。また、前記炭化工程において基板の不安定サイトやダメージ層を改質により除去できるので、結晶欠陥のないサブナノオーダーの原子レベルに平坦な単結晶4H−SiC層を形成することができる。また、この表面改質単結晶SiC基板は、種々のエピタキシャル成長法のための種基板として用いることで、極めて高品質なエピタキシャル成長結晶を得ることができる。
【0011】
(2)前記の表面改質単結晶SiC基板の製造方法においては、前記再結晶工程において、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの一部を再結晶させて前記単結晶4H−SiC層を生成させる一方、残りのアモルファスSiCを熱エッチングにより除去することが好ましい。
【0012】
これにより、余剰となったアモルファスSiC層を効果的に取り除くことができるので、単結晶4H−SiC層の表面を良好に平坦化することができる。
【0013】
(3)前記の表面改質単結晶SiC基板の製造方法においては、前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において、前記単結晶SiC基板は1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されることが好ましい。
【0014】
これにより、アモルファスSiC形成工程及び再結晶工程を一層良好に且つ効率良く行うことができる。また、結晶多形が4Hの単結晶SiC層を確実に生成することができる。
【0015】
(4)前記の表面改質単結晶SiC基板の製造方法においては、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程で行われる加熱処理は、予備加熱工程と、本加熱工程と、を含む。前記予備加熱工程では、前記単結晶SiC基板を収容した嵌合容器を、予備加熱室において800℃以上の温度で加熱する。前記本加熱工程では、予め1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されている本加熱室に前記予備加熱室から前記嵌合容器を移動することで、前記単結晶SiC基板を1600℃以上2000℃以下の温度で加熱する。
【0016】
これにより、単結晶SiC基板を嵌合容器に収容して事前に予備加熱しておき、予備加熱室から本加熱室へ移動させることで急速に昇温させて加熱処理を行うので、アモルファスSiC形成工程及び再結晶工程を短時間で効率良く行うことができるとともに、その制御も容易になる。
【0017】
(5)前記の表面改質単結晶SiC基板の製造方法においては、前記炭化工程において、前記単結晶SiC基板は10-3Pa以下の減圧下で加熱されることが好ましい。
【0018】
これにより、炭化工程において他の不純物が単結晶SiC基板(又は嵌合容器)に侵入することを防止でき、品質の良好な表面改質単結晶SiC基板を得ることができる。
【0019】
(6)前記の表面改質単結晶SiC基板の製造方法においては、前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において、加熱時の前記嵌合容器の内部圧力は1Pa以下に維持されることが好ましい。
【0020】
これにより、アモルファスSiC形成工程及び再結晶工程において他の不純物が単結晶SiC基板(又は嵌合容器)に侵入することを防止でき、品質の良好な表面改質単結晶SiC基板を得ることができる。
【0021】
(7)前記の表面改質単結晶SiC基板の製造方法においては、前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において使用される嵌合容器は、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして備えることが好ましい。
【0022】
これにより、容器に炭素ゲッター機能を良好に発揮させて、その内部空間を高純度のシリコン雰囲気に保つことができる。
【0023】
(8)前記の表面改質単結晶SiC基板の製造方法においては、前記単結晶SiC基板が単結晶3C−SiCよりなる場合、前記炭化工程において前記炭化層を(001)Si面又は(00−1)C面に形成することができる。
【0024】
(9)前記の表面改質単結晶SiC基板の製造方法においては、前記単結晶SiC基板が単結晶4H−SiC又は単結晶6H−SiCよりなる場合、前記炭化工程において前記炭化層を(0001)Si面又は(000−1)C面に形成することができる。
【0025】
(10)前記の表面改質単結晶SiC基板の製造方法においては、前記炭化工程において、前記炭化層は(11−20)方向のオフ角が1°以下である面に形成されることが好ましい。
【0026】
これにより、原子レベルに平坦な単結晶4H−SiC層を容易にかつ効率良く得ることができる。
【0027】
(11)本発明の第2の観点によれば、以下のようなエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法が提供される。即ち、このエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法は、積層工程と、収容工程と、液相エピタキシャル成長工程と、を含む。前記積層工程では、前記の製造方法で製造された表面改質単結晶SiC基板の前記単結晶4H−SiC層に対し炭素フィード基板を対向させて積層体を構成する。前記収容工程では、前記積層体を、炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に収容する。前記液相エピタキシャル成長工程では、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら、前記表面改質単結晶SiC基板の前記単結晶4H−SiC層と前記炭素フィード基板との間にシリコンの極薄溶融層を介在させつつ加熱することで、前記単結晶4H−SiC層に準安定溶媒エピタキシー法によって単結晶4H−SiCを液相エピタキシャル成長させ、単結晶4H−SiCエピ成長層を形成する。
【0028】
これにより、温度勾配がなく濃度勾配だけで成長の動力学が制御される準安定溶媒エピタキシー法を用いることで、エピタキシャル成長を自動的に安定化させることができ、高品質なエピタキシャル成長層を得ることができる。更に、系に温度勾配を形成する必要がないので、プロセスを行うための装置構成を簡素化でき、プロセス制御も簡単になる。加えて、溶媒の厚みが極めて小さいために炭素フィード基板からの炭素の拡散が良好であり、温度上昇によりケイ素の溶融層(溶媒)に対する炭素の溶解度を上昇させる必要がないので、プロセスの低温化が容易である。
【0029】
(12)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、前記液相エピタキシャル成長工程において、前記単結晶SiC基板は1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されることが好ましい。
【0030】
これにより、エピタキシャル成長工程を一層良好に且つ効率良く行うことができる。
【0031】
(13)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記液相エピタキシャル成長工程で行われる加熱処理は、予備加熱工程と、本加熱工程と、を含む。前記予備加熱工程では、前記単結晶SiC基板を収容した嵌合容器を、予備加熱室において800℃以上の温度で加熱する。前記本加熱工程では、予め1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されている本加熱室に前記予備加熱室から前記嵌合容器を移動することで、前記単結晶SiC基板を1600℃以上2000℃以下の温度で加熱する。
【0032】
これにより、単結晶SiC基板を嵌合容器に収容して事前に予備加熱しておき、予備加熱室から本加熱室へ移動させることで急速に昇温させて加熱処理を行うので、液相エピタキシャル成長工程を短時間で効率良く行うことができるとともに、その制御も容易になる。
【0033】
(14)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、前記液相エピタキシャル成長工程において、加熱時の前記嵌合容器の内部圧力は1Pa以下に維持されることが好ましい。
【0034】
これにより、液相エピタキシャル成長工程において他の不純物が単結晶SiC基板(又は嵌合容器)に侵入することを防止でき、品質の良好なエピ成長層付き単結晶SiC基板を得ることができる。
【0035】
(15)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、前記エピタキシャル成長工程において使用される嵌合容器は、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして備えることが好ましい。
【0036】
これにより、容器に炭素ゲッター機能を良好に発揮させて、その内部空間を高純度のシリコン雰囲気に保つことができる。
【0037】
(16)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、前記炭素フィード基板は、単結晶3C−SiC、多結晶4H−SiC、多結晶3C−SiC、アモルファスSiC、グラファイトの少なくとも何れかを含む基板であることが好ましい。
【0038】
これにより、炭素フィード基板が単結晶4H−SiCよりも高い自由エネルギーを有することとなるので、前記液相エピタキシャル成長工程において単結晶4H−SiCエピ成長層に対し炭素原子を良好に供給することができる。
【0039】
(17)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記表面改質単結晶SiC基板の製造においては、前記炭化工程の前に、前記単結晶SiC基板の表面の一部にマスクを施すマスキング工程が行われる。前記再結晶工程において、前記単結晶4H−SiC層は、前記マスキング工程における非マスク領域に形成されている凹部の底部に生成される。
【0040】
これにより、液相エピタキシャル成長工程において極薄溶融層が凹部内に貯留される形となり、流失を防止して液相エピタキシャル成長工程を長時間行うことができる。
【0041】
(18)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、前記マスキング工程において、前記マスクは前記単結晶SiC基板の表面において一部の領域を取り囲むように施されることが好ましい。
【0042】
これにより、液相エピタキシャル成長工程において極薄溶融層が閉じ込められる形となり、流失を一層確実に防止して液相エピタキシャル成長工程を長時間行うことができる。
【0043】
(19)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、前記マスキング工程において、前記マスクは炭化タンタルによりなることが好ましい。
【0044】
これにより、十分な耐熱性を有するマスクを実現できるとともに、マスクが単結晶SiC基板に対して高温接合することを防止することができる。
【0045】
(20)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、前記表面改質単結晶SiC基板の製造においては、前記炭化工程の前に、前記単結晶SiC基板の表面を複数の領域に分割するように当該単結晶SiC基板に溝加工を施す溝形成工程が行われることが好ましい。
【0046】
これにより、液相エピタキシャル成長工程で単結晶4H−SiCエピ成長層が成長するのに伴って、前記単結晶SiC基板の表面に含まれている欠陥の伝播する方向が、基板の厚み方向と垂直な向きに近づくように曲げられ、最終的には単結晶4H−SiCエピ成長層の側面で欠陥の伝播が終端されることになる。従って、単結晶4H−SiCエピ成長層の表面に現れる欠陥を良好に抑制し、歩留まりの向上を実現できる。
【0047】
(21)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、前記積層工程の前に、前記炭素フィード基板において前記単結晶4H−SiC層に対向する面を複数の領域に分割するように当該炭素フィード基板に溝加工を施す炭素フィード側溝形成工程が行われることが好ましい。
【0048】
これにより、液相エピタキシャル成長工程で単結晶4H−SiCエピ成長層が成長するのに伴って、前記単結晶SiC基板の表面に含まれている欠陥の伝播する方向が、基板の厚み方向と垂直な向きに近づくように曲げられ、最終的には単結晶4H−SiCエピ成長層の側面で欠陥の伝播が終端されることになる。従って、単結晶4H−SiCエピ成長層の表面に現れる欠陥を良好に抑制し、歩留まりの向上を実現できる。
【0049】
(22)本発明の第3の観点によれば、前記の製造方法で製造されたエピ成長層付き単結晶SiC基板を前記溝に沿って切断する工程を含む半導体チップの製造方法が提供される。
【0050】
これにより、1枚の基板から多数の高品質の半導体チップを製造することができる。
【0051】
(23)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、前記溝加工はレーザ加工により行われることが好ましい。
【0052】
これにより、正確な溝加工を実現することができる。
【0053】
(24)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記表面改質単結晶SiC基板の製造においては、前記炭化工程の前に、前記単結晶SiC基板の表面に複数の柱状の脚部を形成する脚部形成工程が行われる。前記再結晶工程では、前記脚部のそれぞれの先端面に単結晶4H−SiC層を生成させる。前記液相エピタキシャル成長工程では、複数の前記脚部の先端面に架橋するように前記単結晶4H−SiCエピ成長層を形成させる。
【0054】
これにより、脚部の先端面に対向しない部分の単結晶4H−SiCエピ成長層は殆ど無欠陥領域とできるため、例えばパワーデバイスとして使用した場合に良好な特性を実現することができる。また、脚部の先端面に含まれる欠陥が単結晶4H−SiCエピ成長層の成長に従って基板の厚み方向と垂直な向きに伝播し、隣り合う脚部の単結晶4H−SiCエピ成長層が接合する部分において伝播が終端して新たな欠陥が現れるが、当該欠陥は脚部の先端面に対応しない位置にあるため、半導体回路への悪影響を効果的に抑えることができる。これにより、高耐圧パワーデバイスの製造に好適なエピ成長層付き単結晶SiC基板を提供することができ、歩留まりの向上が実現できる。
【0055】
(25)本発明の第4の観点によれば、以下のような単結晶SiC成長用種基板の製造方法が提供される。即ち、この単結晶SiC成長用種基板の製造方法は、炭化工程と、アモルファスSiC形成工程と、再結晶工程と、を含む。前記炭化工程では、多結晶SiC基板を高真空環境において加熱して、当該多結晶SiC基板の表面に相当する各結晶の端部に炭化層を形成させる。前記アモルファスSiC形成工程では、炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記多結晶SiC基板を収容し、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記炭化層をシリコンと反応させてアモルファスSiCからなる犠牲成長層を生成させる。前記再結晶工程では、前記嵌合容器に前記多結晶SiC基板を収容した状態で、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの少なくとも一部を再結晶させて単結晶4H−SiC層を生成させる。
【0056】
これにより、元となる基板としてコストの安い多結晶SiC基板を使用しながら、その表面に単結晶4H−SiC層を形成することができる。従って、半導体基板として好適な電気特性を有する4H−SiC層を著しく安価に提供することができる。
【0057】
(26)本発明の第5の観点によれば、以下のような単結晶SiC成長用種基板の製造方法が提供される。即ち、この単結晶SiC成長用種基板の製造方法は、炭化工程と、アモルファスSiC形成工程と、再結晶工程と、加工工程と、を含む。前記炭化工程では、多結晶SiC基板の表面の微小領域に真空中で電子ビームを照射して加熱することにより、当該微小領域に炭化層を形成させる。前記アモルファスSiC形成工程では、炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記多結晶SiC基板を収容し、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記炭化層をシリコンと反応させてアモルファスSiCからなる犠牲成長層を生成させる。前記再結晶工程では、前記嵌合容器に前記多結晶SiC基板を収容した状態で、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの少なくとも一部を再結晶させて単結晶4H−SiC層を生成させる。前記加工工程では、前記単結晶4H−SiCを生成させた微小領域が相対的に突出した形状となるように、前記多結晶SiC基板の表面を加工する。
【0058】
この方法により製造された単結晶SiC成長用種基板に炭素フィード基板を積層させて液相エピタキシャル成長を行った場合、突出形状の先端に形成された単結晶4H−SiC層と前記炭素フィード基板との間の距離が著しく小さくなるため、炭素フィード基板の前記単結晶4H−SiC層との対向部分が局所的に大量に炭素を供給する結果、当該炭素フィード基板に孔が形成される。この結果、突出形状の先端の単結晶4H−SiC層が炭素フィード基板の内部に入り込む形となり、炭素フィード基板の炭素供給能力を有効に利用して液相エピタキシャル成長を効率良く行うことができる。
【0059】
(27)前記の単結晶SiC成長用種基板の製造方法においては、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記炭化工程の前に、多結晶SiC基板の表面を分割した複数の領域のそれぞれに凹部を形成する凹部形成工程が行われる。前記炭化工程では、前記凹部形成工程によって形成された前記凹部の内底面の微小領域に真空中で電子ビームを照射して加熱することにより、当該微小領域に炭化層を形成させる。
【0060】
この方法により製造された単結晶SiC成長用種基板に炭素フィード基板を積層させて液相エピタキシャル成長を行った場合、各凹部の内底部の単結晶4H−SiC層を基点として、基板の厚み方向及びそれに垂直な方向に単結晶4H−SiC成長層を形成することができる。この結果、多結晶SiC基板を原料として、多数の単結晶4H−SiC半導体チップを切り出すことができる単結晶成長層付き多結晶SiC基板を製造することができる。
【0061】
(28)前記の単結晶SiC成長用種基板の製造方法においては、前記再結晶工程において、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの一部を再結晶させて前記単結晶4H−SiC層を生成させる一方、残りのアモルファスSiCを熱エッチングにより除去することが好ましい。
【0062】
これにより、余剰となったアモルファスSiC層を効果的に取り除くことができるので、単結晶4H−SiC層の表面を良好に平坦化することができる。
【0063】
(29)前記の単結晶SiC成長用種基板の製造方法においては、前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において、前記多結晶SiC基板は1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されることが好ましい。
【0064】
これにより、アモルファスSiC形成工程及び再結晶工程を一層良好に且つ効率良く行うことができる。また、結晶多形が4Hの単結晶SiC層を確実に生成することができる。
【0065】
(30)前記の単結晶SiC成長用種基板の製造方法においては、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程で行われる加熱処理は、予備加熱工程と、本加熱工程と、を含む。前記予備加熱工程では、前記多結晶SiC基板を収容した嵌合容器を、予備加熱室において800℃以上の温度で加熱する。前記本加熱工程では、予め1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されている本加熱室に前記予備加熱室から前記嵌合容器を移動することで、前記多結晶SiC基板を1600℃以上2000℃以下の温度で加熱する。
【0066】
これにより、多結晶SiC基板を嵌合容器に収容して事前に予備加熱しておき、予備加熱室から本加熱室へ移動させることで急速に昇温させて加熱処理を行うので、アモルファスSiC形成工程及び再結晶工程を短時間で効率良く行うことができるとともに、その制御も容易になる。
【0067】
(31)前記の単結晶SiC成長用種基板の製造方法においては、前記炭化工程において、前記多結晶SiC基板は10-3Pa以下の減圧下で加熱されることが好ましい。
【0068】
これにより、炭化工程において他の不純物が多結晶SiC基板(又は嵌合容器)に侵入することを防止でき、品質の良好な単結晶SiC成長用種基板を得ることができる。
【0069】
(32)前記の単結晶SiC成長用種基板の製造方法においては、前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において、加熱時の前記嵌合容器の内部圧力は1Pa以下に維持されることが好ましい。
【0070】
これにより、アモルファスSiC形成工程及び再結晶工程において他の不純物が多結晶SiC基板(又は嵌合容器)に侵入することを防止でき、品質の良好な単結晶SiC成長用種基板を得ることができる。
【0071】
(33)前記の単結晶SiC成長用種基板の製造方法においては、前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において使用される嵌合容器は、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして備えることが好ましい。
【0072】
これにより、容器に炭素ゲッター機能を良好に発揮させて、その内部空間を高純度のシリコン雰囲気に保つことができる。
【0073】
(34)本発明の第6の観点によれば、以下のような単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法が提供される。即ち、この単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法は、積層工程と、収容工程と、液相エピタキシャル成長工程と、を含む。前記積層工程では、前記の製造方法で製造された単結晶SiC成長用種基板の前記単結晶4H−SiC層に対し、炭素フィード基板を対向させて積層体を構成する。前記収容工程では、炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記積層体を収容する。前記液相エピタキシャル成長工程では、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら、前記単結晶SiC成長用種基板の前記単結晶4H−SiC層と前記炭素フィード基板との間にシリコンの極薄溶融層を介在させつつ加熱することで、前記単結晶4H−SiC層に準安定溶媒エピタキシー法によって単結晶4H−SiCを液相エピタキシャル成長させ、単結晶4H−SiC成長層を形成する。
【0074】
これにより、温度勾配がなく濃度勾配だけで成長の動力学が制御される準安定溶媒エピタキシー法を用いることで、エピタキシャル成長を自動的に安定化させることができ、高品質なエピタキシャル成長層を得ることができる。更に、系に温度勾配を形成する必要がないので、プロセスを行うための装置構成を簡素化でき、プロセス制御も簡単になる。加えて、溶媒の厚みが極めて小さいために炭素フィード基板からの炭素の拡散が良好であり、温度上昇によりケイ素の溶融層(溶媒)に対する炭素の溶解度を上昇させる必要がないので、プロセスの低温化が容易である。
【0075】
(35)前記の単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法においては、前記液相エピタキシャル成長工程において、前記単結晶SiC成長用種基板は1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されることが好ましい。
【0076】
これにより、エピタキシャル成長工程を一層良好に且つ効率良く行うことができる。
【0077】
(36)前記の単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法においては、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記液相エピタキシャル成長工程で行われる加熱処理は、予備加熱工程と、本加熱工程と、を含む。前記予備加熱工程では、前記単結晶SiC成長用種基板を収容した嵌合容器を、予備加熱室において800℃以上の温度で加熱する。前記本加熱工程では、予め1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されている本加熱室に前記予備加熱室から前記嵌合容器を移動することで、前記単結晶SiC成長用種基板を1600℃以上2000℃以下の温度で加熱する。
【0078】
これにより、単結晶SiC成長用種基板を嵌合容器に収容して事前に予備加熱しておき、予備加熱室から本加熱室へ移動させることで急速に昇温させて加熱処理を行うので、液相エピタキシャル成長工程を短時間で効率良く行うことができるとともに、その制御も容易になる。
【0079】
(37)前記の単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法においては、前記液相エピタキシャル成長工程において、加熱時の前記嵌合容器の内部圧力は1Pa以下に維持されることが好ましい。
【0080】
これにより、液相エピタキシャル成長工程において他の不純物が単結晶SiC基板(又は嵌合容器)に侵入することを防止でき、品質の良好な単結晶成長層付き多結晶SiC基板を得ることができる。
【0081】
(38)前記の単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法においては、前記エピタキシャル成長工程において使用される嵌合容器は、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして備えることが好ましい。
【0082】
これにより、容器に炭素ゲッター機能を良好に発揮させて、その内部空間を高純度のシリコン雰囲気に保つことができる。
【0083】
(39)前記の単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法においては、前記炭素フィード基板は、単結晶3C−SiC、多結晶4H−SiC、多結晶3C−SiC、アモルファスSiC、グラファイトの少なくとも何れかを含む基板であることが好ましい。
【0084】
これにより、炭素フィード基板が単結晶4H−SiCよりも高い自由エネルギーを有することとなるので、前記液相エピタキシャル成長工程において単結晶4H−SiC成長層に対し炭素原子を良好に供給することができる。
【0085】
(40)本発明の第7の観点によれば、前記の製造方法で形成された単結晶成長層付き多結晶SiC基板を前記凹部の境界で切断する工程を含む半導体チップの製造方法が提供される。
【0086】
これにより、1枚の基板から多数の高品質の半導体チップを製造することができる。
【0087】
(41)本発明の第8の観点によれば、以下の構成の表面改質単結晶SiC基板が提供される。即ち、この表面改質単結晶SiC基板は、単結晶3C−SiC、単結晶4H−SiC、又は単結晶6H−SiCの何れかよりなる単結晶SiC基板を備える。前記単結晶SiC基板は、基板の厚み方向の少なくとも一側の表面において、少なくとも最表層部分の結晶多形が母材の結晶多形に対して独立に制御され、かつ当該表面が原子レベルで平坦化されている。
【0088】
これにより、下地(母材)となる単結晶SiC基板の結晶多形はコスト等を考慮して決定することが可能な一方で、その表面には、用途に応じて最適な結晶多形を形成することが可能になる。また表面が原子レベルで平坦化されているので、例えば高耐圧パワーデバイス用ウエハとしての用途に好適である。
【0089】
(42)前記の表面改質単結晶SiC基板においては、前記単結晶SiC基板が単結晶3C−SiCよりなる場合、その結晶多形が母材の結晶多形に対して独立に制御された面は(001)Si面又は(00−1)C面とすることができる。
【0090】
(43)前記の表面改質単結晶SiC基板においては、前記単結晶SiC基板が単結晶4H−SiC又は単結晶6H−SiCよりなる場合、その結晶多形が母材の結晶多形に対して独立に制御された面は(0001)Si面又は(000−1)C面とすることができる。
【0091】
(44)前記の表面改質単結晶SiC基板においては、その結晶多形が母材の結晶多形に対して独立に制御された面は、(11−20)方向のオフ角が1°以下の面であることが好ましい。
【0092】
これにより、原子レベルに平坦な単結晶4H−SiC層を容易にかつ効率良く得ることができる。
【0093】
(45)前記の表面改質単結晶SiC基板においては、前記最表層部分の結晶多形が4Hであることが好ましい。
【0094】
これにより、半導体基板として好適な電気特性を有する単結晶4H−SiC層を最表層部分に形成することが可能になる。
【0095】
(46)前記の表面改質単結晶SiC基板においては、前記母材の結晶多形が3C又は6Hであり、前記最表層部分の結晶多形が4Hであることが好ましい。
【0096】
これにより、母材として単結晶3C−SiC基板又は6H−SiC基板を使用しつつ、その最表層に単結晶4H−SiC層が形成されているので、例えば高耐圧パワーデバイス用の半導体基板として好適である。
【0097】
(47)前記の表面改質単結晶SiC基板においては、前記母材の結晶多形が4Hであり、前記最表層部分の結晶多形が4Hであることが好ましい。
【0098】
これにより、母材としての単結晶4H−SiC基板の最表層に、原子レベルで平坦な単結晶4H−SiC層が形成されているので、例えば高耐圧パワーデバイス用の半導体基板として好適である。
【0099】
(48)本発明の第9の観点によれば、以下の構成の単結晶層付き単結晶SiC基板が提供される。即ち、この単結晶層付き単結晶SiC基板は、単結晶SiC基板と、平坦化結晶層と、単結晶4H−SiC層と、を備える。前記単結晶SiC基板は、単結晶3C−SiC、単結晶4H−SiC、又は単結晶6H−SiCの何れかよりなるとともに、基板の厚み方向の少なくとも一側の表面に溝が形成されている。前記平坦化結晶層は、前記単結晶SiC基板において前記溝が形成されている側の表面に備えられるとともに、その少なくとも最表層部分の結晶多形が4Hとなるように制御され、かつ当該表面が原子レベルで平坦化されている。前記単結晶4H−SiC層は、前記溝以外の位置において前記平坦化結晶層に対して積層される。
【0100】
これにより、高耐圧半導体ウエハとしての用途に好適な単結晶層付き単結晶SiC基板を得ることができる。また、溝に沿ってウエハを切り出すことで半導体チップを得ることができる。
【0101】
(49)本発明の第10の観点によれば、以下の構成の単結晶層付き単結晶SiC基板が提供される。即ち、この単結晶層付き単結晶SiC基板は、単結晶SiC基板と、平坦化結晶層と、単結晶4H−SiC層と、を備える。前記単結晶SiC基板は、単結晶3C−SiC、単結晶4H−SiC、又は単結晶6H−SiCの何れかよりなるとともに、基板の厚み方向の少なくとも一側の表面に複数の柱状の脚部が形成されている。前記平坦化結晶層は、前記脚部のそれぞれの先端面に備えられるとともに、その少なくとも最表層部分の結晶多形が4Hとなるように制御され、かつ当該表面が原子レベルで平坦化されている。前記単結晶4H−SiC層は、前記平坦化結晶層に対して積層されるとともに、複数の前記脚部の先端面に架橋するように備えられる。
【0102】
これにより、架橋部において生じる結晶欠陥が半導体回路に与える影響を抑制できるので、例えばパワーデバイスの半導体ウエハとして使用した場合、良好な高耐圧を実現できる。
【0103】
(50)前記の単結晶層付き単結晶SiC基板においては、前記単結晶SiC基板が単結晶3C−SiCよりなる場合、前記平坦化結晶層が備えられる面は(001)Si面又は(00−1)C面とすることができる。
【0104】
(51)前記の単結晶層付き単結晶SiC基板においては、前記単結晶SiC基板は単結晶4H−SiC又は単結晶6H−SiCよりなり、前記平坦化結晶層が備えられる面は(0001)Si面又は(000−1)C面とすることができる。
【0105】
(52)前記の単結晶層付き単結晶SiC基板においては、前記平坦化結晶層が備えられる面は、(11−20)方向のオフ角が1°以下の面であることが好ましい。
【0106】
これにより、原子レベルに平坦な単結晶4H−SiC層を容易にかつ効率良く得ることができる。
【0107】
(53)本発明の第10の観点によれば、以下の構成の単結晶層付き多結晶SiC基板が提供される。即ち、この単結晶層付き多結晶SiC基板は、多結晶SiC基板と、平坦化結晶層と、単結晶4H−SiC層と、を備える。前記多結晶SiC基板は、厚み方向の少なくとも一側の表面に複数の凹部が形成される。前記平坦化結晶層は、前記凹部の内底面の一部に備えられるとともに、その少なくとも最表層部分の結晶多形が4Hとなるように制御され、かつ当該表面が原子レベルで平坦化されている。前記単結晶4H−SiC層は、前記平坦化結晶層に対して積層されるとともに、前記凹部の内底面を覆うように延出した形状になっている。
【0108】
これにより、欠陥のない単結晶4H−SiC層を安価な多結晶SiC基板に形成することで、パワーデバイスに好適な半導体ウエハを低コストで提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0109】
次に、発明の実施の形態を説明する。まず図1から図12までを参照して、第1実施形態に係る表面改質単結晶SiC基板及びエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法について説明する。
【0110】
即ち、本実施形態の表面改質単結晶SiC基板の製造方法においては、最初に、図1(a)に示すような所定の厚みの単結晶SiC基板5(炭化ケイ素バルク基板)を用意する。この単結晶SiC基板5は、切欠き等がなく真円度の高い円形の板状に形成されており、その直径は2インチ以上であることが好ましい。また、この単結晶SiC基板5の結晶多形は、3C、4H、6Hの何れであっても良い。
【0111】
そして、この単結晶SiC基板5において、厚み方向の少なくとも一側の面を表面改質の対象とする。単結晶SiC基板5の結晶多形が3Cである場合、表面改質の対象となる面は(001)Si面又は(00−1)C面であることが好ましい。一方、結晶多形が4H又は6Hである場合、表面改質の対象となる面は(0001)Si面又は(000−1)C面であることが好ましい。また、表面改質の対象となる面は、その(11−20)方向のオフ角が1°以下の面(いわゆるジャスト面を含む)であることが好ましい。
【0112】
次に、前記単結晶SiC基板5を高真空環境(具体的には、圧力が10-2Pa以下の環境)において加熱する。このときの加熱温度は、1600℃以上2000℃以下とすることが好ましく、1700℃以上1900℃以下とすることが更に好ましい。この加熱処理には、例えば図2及び図3に示す熱処理装置としての高温真空炉を用いることができる。以下、この高温加熱炉について説明する。
【0113】
図2に示すように、この高温真空炉11は、被処理物を1000℃以上2400℃以下の温度に加熱することが可能な本加熱室21と、被処理物を500℃以上の温度に予備加熱可能な予備加熱室22と、を備えている。予備加熱室22は本加熱室21の下方に配置され、本加熱室21に対して上下方向に隣接している。また、高温真空炉11は、予備加熱室22の下方に配置された断熱室23を備えている。この断熱室23は予備加熱室22に対して上下方向に隣接している。
【0114】
高温真空炉11は真空チャンバ19を備え、前記本加熱室21と予備加熱室22は、この真空チャンバ19の内部に備えられている。真空チャンバ19には真空形成装置としてのターボ分子ポンプ34が接続されて、例えば10-2Pa以下、望ましくは10-7Pa以下の真空を真空チャンバ19内に得ることができるようになっている。ターボ分子ポンプ34と真空チャンバ19との間には、ゲートバルブ25が介設される。また、ターボ分子ポンプ34には、補助のためのロータリーポンプ26が接続される。
【0115】
高温真空炉11は、予備加熱室22と本加熱室21との間で被処理物を上下方向に移動させることが可能な移動機構27を備えている。この移動機構27は、被処理物を支持可能な支持体28と、この支持体28を上下動させることが可能なシリンダ部29と、を備えている。シリンダ部29はシリンダロッド30を備え、このシリンダロッド30の一端が前記支持体28に連結されている。また、高温真空炉11は、真空度を測定するための真空計31、及び、質量分析法を行うための質量分析装置32が備えられる。
【0116】
前記真空チャンバ19は、被処理物を保管しておくための図略のストック室と、搬送路65を通じて接続されている。この搬送路65は、ゲートバルブ66によって開閉可能になっている。
【0117】
前記本加熱室21は、平面断面視で正六角形に形成されるとともに、真空チャンバ19の内部空間の上部に配置される。図3に示すように、本加熱室21の内部には、加熱ヒータとしてのメッシュヒータ33が備えられている。また、本加熱室21の側壁や天井には第1多層熱反射金属板41が固定され、この第1多層熱反射金属板41によって、メッシュヒータ33の熱を本加熱室21の中央部に向けて反射させるように構成されている。
【0118】
これにより、本加熱室21内において、加熱処理対象としての被処理物を取り囲むようにメッシュヒータ33が配置され、更にその外側に多層熱反射金属板41が配置されるレイアウトが実現されている。従って、被処理物を強力且つ均等に加熱し、1000℃以上2400℃以下の温度まで昇温させることができる。
【0119】
本加熱室21の天井側は第1多層熱反射金属板41によって閉鎖される一方、底面の第1多層熱反射金属板41には貫通孔55が形成されている。被処理物は、この貫通孔55を介して、本加熱室21と、この本加熱室21の下側に隣接する予備加熱室22との間で移動できるようになっている。
【0120】
前記貫通孔55には、移動機構27の支持体28の一部が挿入されている。この支持体28は、上から順に、第2多層熱反射金属板42、第3多層熱反射金属板43、及び第4多層熱反射金属板44を互いに間隔をあけて配置した構成となっている。
【0121】
3つの多層熱反射金属板42〜44は、何れも水平に配置されるとともに、垂直方向に設けた柱部35によって互いに連結されている。そして、第2多層熱反射金属板42及び第3多層熱反射金属板43とで挟まれたスペースに受け台36が配置され、この受け台36上に被処理物(例えば、前記単結晶SiC基板5)を載置できるように構成されている。本実施形態において、この受け台36はタンタルカーバイドにより構成されている。
【0122】
前記シリンダ部29のシリンダロッド30の端部にはフランジが形成されて、このフランジが第4多層熱反射金属板44の下面に固定される。この構成により、前記シリンダ部29を伸縮させることで、受け台36上の被処理物(単結晶SiC基板5)を前記3つの多層熱反射金属板42〜44とともに上下動させることができる。
【0123】
前記予備加熱室22は、本加熱室21の下側の空間を、多層熱反射金属板46で囲うことにより構成されている。この予備加熱室22は、平面断面視で円状となるように構成されている。なお、予備加熱室22内には、前記メッシュヒータ33のような加熱手段は備えられていない。
【0124】
図3に示すように、予備加熱室22の底面部においては、前記多層熱反射金属板46に貫通孔56が形成されている。また、予備加熱室22の側壁をなす多層熱反射金属板46において、前記搬送路65と対面する部位に通路孔50が形成されている。更に、前記高温真空炉11は、前記通路孔50を閉鎖可能な開閉部材51を備えている。
【0125】
予備加熱室22の下側で隣接する前記断熱室23は、上側が前記多層熱反射金属板46によって区画され、下側及び側部が多層熱反射金属板47によって区画されている。断熱室23の下側を覆う多層熱反射金属板47には貫通孔57が形成されて、前記シリンダロッド30を挿通できるようになっている。
【0126】
前記貫通孔57の上端部に相当する位置において、多層熱反射金属板47には収納凹部58が形成される。この収納凹部58には、前記支持体28が備える第4多層熱反射金属板44を収納可能になっている。
【0127】
多層熱反射金属板41〜44,46,47は何れも、金属板(タングステン製)を所定の間隔をあけて積層した構造になっている。前記開閉部材51においても、通路孔50を閉鎖する部分には、同様の構成の多層熱反射金属板が用いられている。
【0128】
多層熱反射金属板41〜44,46,47の材質としては、メッシュヒータ33の熱輻射に対して十分な加熱特性を有し、また、融点が雰囲気温度より高い物質であれば、任意のものを用いることができる。例えば、前記タングステンのほか、タンタル、ニオブ、モリブデン等の高融点金属材料や、タングステンカーバイド、ジリコニウムカーバイド、タンタルカーバイド、ハフニウムカーバイド、モリブデンカーバイド等の炭化物を、多層熱反射金属板41〜44,46,47として用いることができる。また、その反射面に、金やタングステンカーバイド等からなる赤外線反射膜を更に形成しても良い。
【0129】
そして、支持体28に備えられる多層熱反射金属板42〜44は、小さな貫通孔を多数有するパンチメタル構造のタングステン板を、当該貫通孔の位置を異ならせつつ所定の間隔をあけて積層した構造になっている。
【0130】
また、支持体28の最も上層に備えられる第2多層熱反射金属板42の積層枚数は、本加熱室21の第1多層熱反射金属板41の積層枚数よりも少なくなっている。
【0131】
この構成で、被処理物としての単結晶SiC基板5を、真空チャンバ19内の汚染を防止するために適宜の容器に収納する。なお、前記容器は後述の坩堝2であっても良いし、それ以外の容器であっても良い。そして、この状態で前記単結晶SiC基板5を搬送路65から真空チャンバ19の内部へ導入し、予備加熱室22内にある前記受け台36上に載置する。この状態で前記メッシュヒータ33を駆動すると、本加熱室21が1,000℃以上2,400℃以下の所定の温度(今回は約1800℃)に加熱される。またこのとき、前記ターボ分子ポンプ34の駆動によって、真空チャンバ19内の圧力は10-3以下、好ましくは10-5以下となるように調整されている。
【0132】
ここで前述したとおり、支持体28の第2多層熱反射金属板42の積層枚数は、前記第1多層熱反射金属板41の積層枚数よりも少なくなっている。従って、メッシュヒータ33が発生する熱の一部が第2多層熱反射金属板42を介して予備加熱室22に適度に供給(分配)され、予備加熱室22内の単結晶SiC基板5を500℃以上の所定の温度(例えば800℃)となるように予備加熱することができる。即ち、予備加熱室22にヒータを設置しなくても予備加熱を実現でき、予備加熱室22の簡素な構造が実現できている。
【0133】
上記の予備加熱処理を所定時間行った後、シリンダ部29を駆動し、支持体28を上昇させる。この結果、単結晶SiC基板5が下側から貫通孔55を通過して本加熱室21内に移動する。これにより、直ちに本加熱処理が開始され、本加熱室21内の単結晶SiC基板5を所定の温度(約1800℃)に急速に昇温させることができる。
【0134】
今回の処理では、前記単結晶SiC基板5を上記の温度に加熱した状態で約5〜10分間保持する。これにより、前記単結晶SiC基板5の表面の炭素分子が昇華し、図1(b)に示すように、単結晶SiC基板5の表面にカーボンナノチューブ状の炭化層5aが形成される。詳細に言えば、単結晶SiC基板5の表面のダメージ層のケイ素と一部の炭化ケイ素を気相プロセスで昇華させることで、炭素リッチな組成に換えて炭化層5aが形成され、ダメージ層が炭化層に改質される。
【0135】
なお、当初の単結晶SiC基板5の表面には、結晶欠陥を含む不安定サイトと、基板の表面の研磨傷や研磨時に発生したストレスを含むダメージ層が存在する。しかしながら、本実施形態では上記の炭化工程によって、当該ダメージ層を含む単結晶SiC基板5の表面部分を炭化により改質することができる。従って、前記不安定サイト及びストレスによる基板の表面平坦性への悪影響を良好に排除することができる。
【0136】
次に、この単結晶SiC基板5を所定の坩堝(嵌合容器)2に収容し、前述の高温真空炉11を用いて再び加熱処理を行う。
【0137】
図4(a)は坩堝を上方から撮影した外観写真であり、図4(b)は坩堝の断面顕微鏡写真である。図4(a)に示すように、坩堝2は互いに嵌合可能な上容器2aと下容器2bとを備えている。また、この坩堝2は、真空下で高温処理を行う場合に後述の炭素ゲッター効果を発揮するように構成されており、具体的には、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして備えている。
【0138】
更に詳細に説明すると、坩堝2は図4(b)に示すように、その最表層の部分にTaC層を形成し、このTaC層の内側にTa2C層を形成し、更にその内側に基材としてのタンタル金属を配置した構成となっている。なお、図5に、タンタルと炭素の結合状態の温度依存性を示す状態図を示す。この図5でも判るように、前記坩堝2は、炭素濃度が高いTaCを最も表層の部分に配置するとともに、炭素濃度が若干低いTa2Cを内側に配置し、更に内側に、炭素濃度がゼロである基材のタンタル金属を配置した構成となっている。
【0139】
今回の処理では、前記坩堝2の内部に、前記単結晶SiC基板5とともに、シリコン供給源としての図略のシリコンペレットを配置する。そして、当該坩堝2を前記高温真空炉11によって加熱する。このときの加熱温度は、1600℃以上2000℃以下とすることが好ましく、1700℃以上1900℃以下とすることが更に好ましい。
【0140】
そして、前記坩堝2を図3の鎖線で示すように高温真空炉11の予備加熱室22に配置し、約800℃に予備加熱する。次に、約1800℃まで予め昇温させておいた本加熱室21へ、予備加熱室22内の坩堝2をシリンダ部29の駆動によって移動させ、急速に昇温させる。今回の加熱処理では、この昇温させた状態を約10〜20分間保持することが好ましい。
【0141】
なお、本加熱室21での加熱時において、坩堝2内の雰囲気は約1Pa以下に維持されることが好ましい。また、上容器2aと下容器2bとを嵌め合わせたときの嵌合部分の遊びは、約2mm以下であることが好ましい。これによって、実質的な密閉状態が実現され、前記本加熱室21での加熱処理において坩堝2内のシリコン圧力を高めて外部圧力(本加熱室21内の圧力)よりも高い圧力とし、不純物がこの嵌合部分を通じて坩堝2内に侵入するのを防止することができる。
【0142】
この昇温により、坩堝2の内部空間がシリコンの飽和蒸気圧に保たれる。また、前記坩堝2は上述したように、その表面が炭化タンタル層に覆われており、当該炭化タンタル層(TaC層)が坩堝2の内部空間に露出する構成になっている。従って、上述のように真空下で高温処理を続ける限りにおいて、坩堝2は図6に示すように、炭化タンタル層の表面から連続的に炭素原子を吸着して取り込む機能を奏する。この意味で、本実施形態の坩堝2は炭素原子吸着イオンポンプ機能(イオンゲッター機能)を有するということができる。これにより、加熱処理時に坩堝2内の雰囲気に含まれているシリコン蒸気及び炭素蒸気のうち、炭素蒸気だけが坩堝2に選択的に吸蔵されるので、坩堝2内を高純度のシリコン雰囲気に保つことができる。
【0143】
以上のシリコン雰囲気での加熱処理により、前記単結晶SiC基板5の表面の炭化層5aにシリコン分子が吸着反応する。具体的には、前記炭化層5aの部分の炭素分子に過飽和シリコン分子が再結合し、炭化還元による成長反応が起こる。従って、加熱開始から5〜10分程度経過した時点で、図1(c)に示すように単結晶SiC基板5の表面が改質され、アモルファスSiC層5bを生成することができる。なお、本明細書では、前記アモルファスSiC層5bを、将来的に取り除かれる成長層という意味で「犠牲成長層」と称することがある。
【0144】
また、アモルファスSiC層5bが形成されてからも条件を変えずに更に5〜10分程度加熱を継続すると、当該アモルファスSiC層5bの一部において再結晶反応が起こり、図1(d)のように単結晶4H−SiC層(再結晶層、平坦化結晶層)5cを生成することができる。
【0145】
なお、前記犠牲成長層としての前記アモルファスSiC層5bは熱的に不安定であるので、加熱処理が継続されると、前記再結晶反応が起きなかった余剰のアモルファスSiC層5bが熱エッチングにより分解され、除去される。この昇華反応により、図1(e)のように、表面に単結晶4H−SiC層5cが形成された単結晶SiC基板5(表面改質単結晶SiC基板6p)を得ることができる。また、前記昇華反応によって、単結晶4H−SiC層5cの表面を原子レベルに平坦化することができる。
【0146】
なお、前記再結晶層5cの結晶多形は、元の単結晶SiC基板5の結晶多形の如何にかかわらず常に4Hとなる(単結晶4H−SiC層5c)。即ち、元となる単結晶SiC基板5として3C、4H、6Hの何れの結晶多形を用いた場合でも、当該基板の表面にできる単結晶の結晶多形を4Hとなるように制御することができる。従って、単結晶SiC基板5についてはコスト等を考慮して最適な結晶多形を選択しつつ、それとは独立に、上述したように広い禁制帯幅(3.3eV)等の優れた特性を有する単結晶4H−SiC層5cを形成することができる。
【0147】
図7には、結晶多形が異なる3種類の単結晶SiC基板のそれぞれについて上記の一連の工程を行ったときの結晶表面の分子結合の様子が示されている。なお、図7に示される結晶転移例1は単結晶3C−SiC基板の場合であり、結晶転移例2は単結晶4H−SiC基板の場合であり、結晶転移例3は6H−SiC基板の場合である。また、図7の(i)が処理前の状態(図1(a))、(ii)が再結晶工程(図1(b))にそれぞれ対応している。
【0148】
この図7に沿って説明すると、処理前の状態では、3種類の結晶多形の基板表面はそれぞれ異なる結晶構造を有している(図7(i))。しかしながら、炭化工程によってケイ素分子が昇華すると、ケイ素原子と炭素原子との結合が失われる。そして、前記アモルファスSiC形成工程によって炭素とケイ素が結び付いてアモルファスSiC層を形成し、更に再結晶工程を経ることで(図7(ii))、結晶多形が3C又は6Hの場合は4Hに転移し、結晶多形が4Hの単結晶からなる再結晶層が形成される。
【0149】
図8は、SiC基板表面にSiC単結晶を生成させる場合において、当該単結晶の生成方法及び反応温度に対する結晶多形の依存性を示している。この図8に示すように、非熱平衡状態を用いる手法、即ちCVD法(Chemical vapor deposit)によってSiC単結晶を生成させる場合、そのSiC単結晶の結晶多形は常に3Cになる。一方、近熱平衡状態を用いる手法としてのPVD法(Physical Vapor Deposition)による場合、反応温度にもよるが、生成されるSiC単結晶の結晶多形は6Hが支配的である。一方、本実施形態においては、PVD法と同じく近熱平衡状態を用いるが、その反応温度を1600℃以上2000℃以下とすることで、4Hの結晶多形を確実に実現することができる。なお、図8の「MSE」とはMSE法(準安定溶媒エピタキシー)を意味しており、詳細は後述する。
【0150】
図9は、単結晶4H−SiC基板の表面にSiC単結晶を生成させる場合において、当該単結晶の生成方法を代表的な反応温度別に並べて示したものである。この図9に示すように、結晶成長温度が1400℃以下の方法、例えば前記CVD法及びMBE法では、元となる基板の結晶多形が4Hであっても、成長するSiC結晶の結晶多形は全て3Cとなる。また、結晶成長温度が2200℃以上である方法、例えば前記PVD法では、元の基板の結晶多形と無関係に、成長するSiC結晶の結晶多形は6Hとなるのが一般的である。一方、本実施形態の手法を用いて結晶成長温度を例えば1800℃としてSiC単結晶を成長させた場合、結晶多形が4Hとなる。このように、本実施形態の方法は、結晶多形が4Hの単結晶を得られるという点で、他の育成方法に比較して有利である。
【0151】
なお、本実施形態の方法を用いて単結晶を成長させた場合、上述したとおり、元となる単結晶SiC基板5の結晶多形の如何にかかわらず、生成されるSiC単結晶の結晶多形(少なくとも最表層部分の結晶多形)はすべて4Hであることが確認されている。この理由の1つを示すと考えられるのが図10のグラフであり、このグラフは、SiC単結晶の各結晶多形の自由エネルギーの温度に対する変化を6Hに対する相対値として示したものである。この図10のグラフで示すとおり、4H−SiCの自由エネルギーが3C−SiC及び6H−SiCの自由エネルギーより低くなる温度領域が存在しており、これは温度制御を適宜行うことで4Hの結晶多形となるように(もっと言えば、特定の結晶多形となるように)表面を改質できる可能性を示唆している。
【0152】
また、図11は、単結晶6H−SiC基板の(000−1)C面に単結晶SiCを成長させる場合において、各結晶多形が発生する確率の温度による変化を示している。この図11のグラフに示すように、1600℃から2000℃までの温度領域において、4H−SiCの発生確率は6H−SiCの発生確率よりも高い値となっており、本実施形態において生成される再結晶層5cの結晶多形が4Hとなる理由を示唆しているものと考えられる。
【0153】
また、本実施形態の方法により得られた表面改質単結晶SiC基板6pの単結晶4H−SiC層5cは、結晶欠陥や研磨傷等がなく、その表面平坦度がサブナノオーダー(1nm未満)即ち原子レベルであり、表面平均粗さが1.0nm以下を実現することができる。また、単結晶4H−SiC層5cの表面は、ステップの高さが0.5nm(即ち、結晶多形が4H−SiCの場合の積層順位方向に対するユニットセル長)以下である面形状を実現することができる。また、上記の工程により、単結晶SiC基板5の表面に存在する不純物を原子レベルでクリーニングして除去することもできる。
【0154】
従って、この表面改質単結晶SiC基板6pは、例えば準安定溶媒エピタキシー(MSE)、化学気相堆積(CVD)、液相エピタキシー(LPE)等をはじめとした種々のエピタキシャル成長法のための種基板として用いることで、極めて高品質なエピタキシャル成長結晶を得ることができる。
【0155】
また、元となる単結晶SiC基板5(図1(a))は、化学機械研磨工程(CMP工程)が行われたものであっても良いし、この化学機械研磨工程を省略しても良い。即ち、化学機械研磨を行わなくても、上述の炭化工程等によって単結晶SiC基板5の表面が良好に平坦化されるので、表面改質単結晶SiC基板6pの製造コスト及び工数を低減することができる。ただし、化学機械研磨を行った後の単結晶SiC基板表面に対しても、当該化学機械研磨工程では除去が困難な表面内部の欠陥及び歪等の不安定領域を破壊して平坦化できるという意味で、本実施形態の一連の工程を行うことは有効である。
【0156】
次に、図12を参照して、前記表面改質単結晶SiC基板6pを種基板として液相エピタキシャル成長を行う方法について説明する。
【0157】
本実施形態の製造方法では、まず図12(f)に示すように、図1に示す工程を順に行って得られた表面改質単結晶SiC基板6pに対し炭素フィード基板7を積層させ、積層体8を構成する。炭素フィード基板7は、切欠き等がなく真円度の高い円形状に形成されており、その直径は単結晶SiC基板5の直径と同一とされている。また、前記炭素フィード基板7は前記単結晶4H−SiC層5cに対向するように配置され、両者がズレなく一致するよう正確に位置決めされる。
【0158】
前記炭素フィード基板7は単結晶SiCの液相エピタキシャル成長に必要な炭素原子を供給するための基板であり、4H−SiC単結晶よりも高い自由エネルギーを有するものが用いられる。具体的には、例えば、単結晶3C−SiC、多結晶4H−SiC、多結晶3C−SiC、アモルファスSiC、又はグラファイトを炭素フィード基板7として用いることができる。本実施形態では、炭素フィード基板7として多結晶3C−SiC基板を用いている。
【0159】
そして、この積層体8を、シリコン供給源としての図略のシリコンペレットとともに前記坩堝2に収容する。なお、シリコンの供給形態としては、前記シリコンペレットによることに代えて、例えば坩堝2の内壁に取り付けた板状のシリコンによって供給を行うようにしても良い。
【0160】
そして、この状態の坩堝2を、前述の高温真空炉11によって加熱処理する。このときの加熱温度は、1600℃以上2000℃以下とすることが好ましく、1700℃以上1900℃以下とすることが更に好ましい。
【0161】
具体的には、前記坩堝2を図3の鎖線で示すように高温真空炉11の予備加熱室22に配置し、約800℃に予備加熱する。次に、約1800℃まで予め昇温させておいた本加熱室21へ、予備加熱室22内の坩堝2をシリンダ部29の駆動によって移動させ、急速に昇温させる。この結果、前記シリコンペレットからシリコンが蒸発し、坩堝2の内部はシリコンの飽和蒸気圧に保たれる。
【0162】
なお、本加熱室21での加熱時において、坩堝2内の雰囲気は約1Pa以下に維持されることが好ましい。また、加熱時における坩堝2内のシリコン圧力を高め、外部圧力(本加熱室21内の圧力)よりも高い圧力とすることが好ましい。これにより、不純物が坩堝2内に侵入するのを防止することができる。
【0163】
以上により、図12(f)に示すように、単結晶4H−SiC層5cと炭素フィード基板7との間にシリコンの極薄溶融層4を介在させ、準安定溶媒エピタキシー法(MSE)による液相エピタキシャル成長を行わせることができる。なお、前記極薄溶融層4の原料とするために、前記積層体8における単結晶4H−SiC層5cと炭素フィード基板7との間に例えばシリコン微細粉末を予め配置しておくことが好ましい。
【0164】
ここで、表面改質単結晶SiC基板6p及び炭素フィード基板7は、直径が等しく且つ2インチ以上の大径に形成されており、互いに位置を合わせるように位置決めされている。従って、両者の間に極薄溶融層4を良好に保持させることができ、長時間の液相エピタキシャル成長が可能になる。
【0165】
更に、図12(f)の液相エピタキシャル成長工程で用いられる坩堝2は、前述のとおり、その表面の炭化タンタル層が炭素ゲッターとしての機能を果たす。従って、坩堝2の内部空間のシリコン蒸気及び炭素蒸気のうち、炭素のみが選択的に坩堝2の内部に吸蔵される。この結果、坩堝2内を高純度のシリコン雰囲気に保つことができ、良好な液相エピタキシャル成長が可能になる。
【0166】
以上の加熱処理により、図12(g)に示すように、前記単結晶4H−SiC層5cの表面にマイクロパイプ欠陥のない原子レベルに平坦な単結晶4H−SiCエピ成長層5dを形成し、エピ成長層付き単結晶SiC基板6qを得ることができる。
【0167】
本実施形態では、温度勾配がなく濃度勾配だけで成長の動力学が制御される準安定溶媒エピタキシー法を用いることで、エピタキシャル成長を自動的に安定化させることができ、高品質な単結晶4H−SiCエピ成長層5dを得ることができる。更に、系に温度勾配を形成する必要がないので、プロセスを行うための装置構成を簡素化でき、プロセス制御も簡単になる。加えて、極薄溶融層4の厚みが極めて小さいために炭素フィード基板7からの炭素の拡散が良好であり、温度上昇により前記極薄溶融層4(溶媒)に対する炭素の溶解度を上昇させる必要がないので、プロセスの低温化が容易である。
【0168】
次に、図13から図15までを参照して、第2実施形態に係る表面改質単結晶SiC基板及びエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法について説明する。なお、この第2実施形態及びそれ以降の説明において、前記第1実施形態と同一又は類似の部材には同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0169】
この第2実施形態では、まず、単結晶SiC基板5を用意し、その表面を適宜の気相プロセスによって平坦化しておく(図13(a))。この平坦化処理後の単結晶SiC基板5が図13(b)に示される。なお、この単結晶SiC基板5の結晶多形は、前記第1実施形態と同様に、3C−SiC、4H−SiC、6H−SiCの何れであっても良い。
【0170】
なお、図13(a)に対応する表面写真(前記平坦化処理前の基板表面を撮影した顕微鏡写真)が図15(a)に示されており、基板表面に生じている傷及び凹凸を観察することができる。なお、適宜の方法を用いて傷及び凹凸の深さを測定したところ、その結果は1μm程度であった。一方、図13(b)に対応する表面写真(平坦化処理後の基板表面を撮影した顕微鏡写真)が図15(b)に示されており、極めて良好な平坦度(具体的には、平坦度が0.25nm以下)の基板表面が得られていることが確認できる。
【0171】
次に、図13(c)で示すように、単結晶SiC基板5の表面の一部にマスク12を施すマスキング工程を行った上で、前述の炭化工程を行う。なお、この炭化工程を行う方法は図1(b)で説明した方法と全く同様であるので、説明を省略する。
【0172】
前記マスク12は、例えば炭化タンタルからなるものを用いることができる。本実施形態では、図13(c)で示すように、単結晶SiC基板5の縁部を一周するようにマスクを施し、表面の中央側領域を取り囲むようなマスク12を形成している。従って、前記炭化工程により、マスクが施されていない中央側領域に炭化層5aを形成することができる。ただし、マスク12は単結晶SiC基板5を縁取りするように形成されることに限定されず、任意の形状のマスクを形成することができる。
【0173】
次に、図13(d)で示すように、前述のアモルファスSiC形成工程を行う。なお、このアモルファスSiC形成工程を行う方法は図1(c)で説明した方法と全く同様であるので、説明を省略する。これにより、非マスク部分の炭化層5aが改質され、アモルファスSiC層5bを形成することができる。
【0174】
また、図13(d)の状態から加熱を継続することにより、図13(e)で示すように、アモルファスSiC層5bの一部を再結晶させて単結晶4H−SiC層5cを生成させることができる。この再結晶工程で、前記単結晶4H−SiC層5cは、前記マスキング工程における非マスク領域に形成された凹部13aの底部に生成される。
【0175】
更に加熱を継続することにより、前記アモルファスSiC層5bが熱分解されて除去される。更に前記マスク12を適宜の方法で除去することにより、図14(f)に示す表面改質単結晶SiC基板6rを得ることができる。なお、図14(f)に対応する表面写真(表面改質単結晶SiC基板6rの表面を撮影した写真)を図15(c)に示す。
【0176】
この表面改質単結晶SiC基板6rにおいては、その表面のうち前記マスク12が施されなかった部分に凹部13aが形成され、この凹部13aの底部に単結晶4H−SiC層5cが配置される。また、前記マスク12に相当する部分においては土手状ないし堤状の凸部13bが形成されている。従って、単結晶4H−SiC層5cの周囲が凸部13bで取り囲まれるような表面形状が実現されている。
【0177】
次に図14(g)に示すように、前記表面改質単結晶SiC基板6rに対して炭素フィード基板7を積層させて積層体8を構成し、これを坩堝2の内部に収容して、準安定溶媒エピタキシー法による液相エピタキシャル工程を行う。なお、坩堝2内において、前記表面改質単結晶SiC基板6rは前記凸部13bを上に向けるようにして配置される。この液相エピタキシャル工程を行う方法は、前記第1実施形態において図12(f)で説明した方法と全く同様であるので、説明を省略する。
【0178】
この液相エピタキシャル工程において、前記極薄溶融層4は前記凹部13aの内部に貯留されるような形となり、外部への流出は凸部13bによって阻止される。特に、前記マスキング工程において基板表面の中央領域を取り囲むように(閉じた形状の)マスク12を形成したことにより、極薄溶融層4が前記凸部13bによって閉じ込められることになる。従って、積層体8の側部からの極薄溶融層4の流失を抑制でき、長時間の液相エピタキシャル成長が可能になる。これにより、大口径の単結晶4H−SiCエピ成長層5dを容易に形成することができる。この実施形態は特に、表面改質単結晶SiC基板6r及び炭素フィード基板7が小さい場合や非円形の板状である場合にも、両者の間に極薄溶融層4を長時間保持できる点で好適である。
【0179】
以上の工程により、図14(h)に示すように、凹部13a内において単結晶4H−SiC層5c上に単結晶4H−SiCエピ成長層5dを形成し、エピ成長層付き単結晶SiC基板6sを得ることができる。
【0180】
次に、図16から図19までを参照して、第3実施形態に係る表面改質単結晶SiC基板及びエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法について説明する。
【0181】
本実施形態では、まず前述の実施形態と同様に、結晶多形が3C−SiC、4H−SiC、又は6H−SiCである単結晶SiC基板5を用意する。そして図16(a)に示すように、この単結晶SiC基板5の表面に、当該表面を複数の領域に分割するように複数本の溝14を形成する(溝加工工程)。
【0182】
本実施形態は、この溝加工をレーザによって行うこととしている。具体的には、単結晶SiC基板5が有する800mm×800mmの表面領域に、大気中でYAGレーザ(出力13W)を照射し、これによって直線状の溝14を10mm間隔で縦横に形成した。前記レーザのスポット径は50μmであり、一往復の照射走査により形成された溝14の溝幅は60μm、溝深さは32μmであった。レーザの照射走査回数を増やし照射走査位置を必要に応じて広げることで、溝の深さ及び溝の幅を好ましい値に制御できることが確認できた。なお、この溝加工がされた基板表面の一例を撮影した写真を図18に示す。
【0183】
なお、溝加工をレーザによって行うことに限定されず、例えば基板表面に所定のマスクを施し、マスク以外の部分を気相エッチング法でエッチングすることで溝を形成しても良い。
【0184】
この溝加工工程によって溝14を形成した後は、前述の第1実施形態(図1)と全く同様に、炭化工程、アモルファスSiC形成工程、及び再結晶工程を行う。なお、炭化工程後の基板の様子が図16(b)に、アモルファスSiC形成工程後の様子が図16(c)に、再結晶工程後の様子が図16(d)にそれぞれ示される。そして、残存しているアモルファスSiC層5bを熱分解させて除去することにより、表面に単結晶4H−SiC層5cが形成されるとともに溝14を有する表面改質単結晶SiC基板6tを得ることができる。
【0185】
次に、図17(f)に示すように、前記表面改質単結晶SiC基板6tに炭素フィード基板7を積層して坩堝2内に収容し、前述と同様に準安定溶媒エピタキシー法によるエピタキシャル成長を行う。すると図17(g)に示すように、溝14を形成した部分以外の表面において単結晶4H−SiCエピ成長層5dが生成される。以上の工程を行うことにより、図17(h)に示すようなエピ成長層付き単結晶SiC基板6uを得ることができる。このエピ成長層付き単結晶SiC基板6uは、単結晶4H−SiC層5cに積層されるとともに複数領域に分割された単結晶4H−SiCエピ成長層5dを有している。
【0186】
なお、図17(g)の液相エピタキシャル工程において、前記溝14の部分では液相エピタキシャル成長が行われない。このことに伴い、前記単結晶4H−SiCエピ成長層5dが成長するのに伴って、前記単結晶SiC基板5の表面に含まれている欠陥(具体的には螺旋転位や基底面転位及びC軸方位欠陥等)が伝播する方向が、基板の厚み方向と垂直な方向に近づくように曲げられる。そして、欠陥の伝播は、最終的には単結晶4H−SiCエピ成長層5dの側面(前記溝14に対応する部分)で終端されることになる。従って、単結晶4H−SiCエピ成長層5dの表面に現れる欠陥を良好に抑制して高品質の単結晶4H−SiCエピ成長層5dを得ることができ、歩留まりの向上を実現できる。
【0187】
ここで、前述の溝形成工程で形成される溝14の深さは、50μm以上であることが好ましい。溝14の深さが50μmを下回ると、液相エピタキシャル成長工程において溝14の内部に成長反応が生じる場合がある。
【0188】
なお、エピ成長層付き単結晶SiC基板6uを前記溝14に沿って切断することにより、1枚の基板を有効利用して多数の高品質の半導体チップを製造することができる。図19(a)及び図19(b)には、円形の単結晶SiC基板5に複数の溝14を形成して、溝14に囲まれた領域に単結晶4H−SiCエピ成長層5dを形成した例が示されている。この例においては、前記溝14に沿ってエピ成長層付き単結晶SiC基板6uを切断することで、半導体チップを得ることになる。
【0189】
次に図20を参照して、前記第3実施形態の第1変形例を説明する。図20(a)に示すように、この第1変形例において前記溝14は、(単結晶SiC基板5ではなく)炭素フィード基板7側に形成される。この溝加工は、炭素フィード基板7の前記単結晶4H−SiC層5cに対向する面を複数に分割するように行われる。一方、単結晶SiC基板5には溝14を形成せず、前述の第1実施形態(図1)の工程を同様に行うことにより、前記表面改質単結晶SiC基板6pを製造する。
【0190】
そして、図20(b)に示すように、炭素フィード基板7と前記表面改質単結晶SiC基板6pとを積層させ、準安定溶媒エピタキシー法による液相エピタキシャル成長工程を行わせる。このとき、炭素フィード基板7は、前記溝14を形成した面が表面改質単結晶SiC基板6pの前記単結晶4H−SiC層5cに対向するように配置される。
【0191】
なお、前述の炭素フィード基板7に形成される溝14は、その溝幅が100μm以上であり、深さが50μm以上であることが好ましい。上記の条件を満たさない場合、図20(c)の単結晶4H−SiCエピ成長層5dの形状が明瞭に現れないおそれがある。
【0192】
以上により、図20(c)に示すように、前記溝14を形成した部分以外の領域に単結晶4H−SiCエピ成長層5dを有するエピ成長層付き単結晶SiC基板6vを得ることができる。
【0193】
また、図21の第2変形例に示されるように、単結晶SiC基板5及び炭素フィード基板7の双方に溝14を形成しても良い。この第2変形例では、図16の工程を行うことにより、前記第3実施形態と同様の溝付きの表面改質単結晶SiC基板6tを製造する。一方で、炭素フィード基板7には、前記第1変形例(図20(a))と同様に溝14を形成しておく。
【0194】
そして、表面改質単結晶SiC基板6tと炭素フィード基板7とを、溝14を形成した面がそれぞれ向かい合うように積層させ、準安定溶媒エピタキシー法による液相エピタキシャル成長工程を行わせる。以上により、図21(b)に示すように、前記溝14を形成した部分以外の位置に単結晶4H−SiCエピ成長層5dを有するエピ成長層付き単結晶SiC基板6wを得ることができる。
【0195】
以上に示した2つの変形例に係るエピ成長層付き単結晶SiC基板6v,6wは、前述の第3実施形態と同様に、単結晶4H−SiCエピ成長層5dの表面に現れる欠陥を良好に抑制することができる。従って、高品質の単結晶4H−SiCエピ成長層5dを得ることができ、歩留まりの向上を実現できる。
【0196】
次に、図22から図25までを参照して、第4実施形態に係る表面改質単結晶SiC基板及びエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法について説明する。
【0197】
本実施形態では、まず前述の実施形態と同様に、結晶多形が3C−SiC、4H−SiC、又は6H−SiCである単結晶SiC基板5を用意する。そして図16(a)に示すように、この単結晶SiC基板5の表面から突出させるようにして複数の脚部16を形成する。この脚部16は微細な円柱状に形成されており、その軸方向が前記単結晶SiC基板5の厚み方向と平行となるように配置される。ただし、脚部16は円柱状に限定されず、その断面形状は例えば楕円状、多角形状等であっても良い。
【0198】
図16(b)は、図16(a)の状態の単結晶SiC基板5の表面を示す平面図である。この図16(b)に示すように、前記脚部16は、単結晶SiC基板5の表面の中央の円形の領域の内部に、前記脚部16を縦横にそれぞれ等間隔で配置している。この脚部16の高さは、例えば50μm程度に形成することができる。また、この脚部16は、当該脚部16の部分を残して前記単結晶SiC基板5の表面を除去する加工を施すことで形成することができる。
【0199】
次に、前記脚部16を形成した単結晶SiC基板5に対して、前述の実施形態と同様に、炭化工程、アモルファスSiC形成工程、及び再結晶工程を行う。これらの工程を行う方法は、例えば第1実施形態と全く同様であるので、説明を省略する。以上により、前記脚部16のそれぞれの先端面に単結晶4H−SiC層5cを形成して、図22(c)のような表面改質単結晶SiC基板6xを得ることができる。
【0200】
続いて、前記表面改質単結晶SiC基板6xに対し炭素フィード基板7を図22(d)に示すように積層する。前記炭素フィード基板7は、前記脚部16の先端面に対向する第1壁7aと、前記表面改質単結晶SiC基板6xの周縁部分に対向する第2壁7bと、を備えている。前記第2壁7bは円筒状に形成されており、炭素フィード基板7を表面改質単結晶SiC基板6xに対向させたとき、前記脚部16の形成領域の周囲を取り囲むように備えられている。また、本実施形態では炭素フィード基板7は多結晶3C−SiCにより構成されており、その結晶方向は前記表面改質単結晶SiC基板6xの厚み方向に沿うように配向されている。更に、前述の実施形態では、例えば図17(f)及び図17(g)に示すように炭素フィード基板7は表面改質単結晶SiC基板6tに対して上部に配置されているが、本実施形態では図22(d)に示すように、炭素フィード基板7は表面改質単結晶SiC基板6xに対して下部に配置されている。
【0201】
この構成で準安定溶媒エピタキシー法による液相エピタキシャル成長工程を行わせることにより、図23(e)に示すように、複数の脚部16の先端面に架橋するように単結晶4H−SiCを液相エピタキシャル成長させたエピ成長層付き単結晶SiC基板6yを得ることができる。図23(f)にはエピ成長層付き単結晶SiC基板6yを基板表面側から見た平面図が示され、この図23(f)に示すように、前記単結晶4H−SiCエピ成長層5dは全ての脚部16の先端面を覆うように一面に形成される。これは、前記単結晶4H−SiCエピ成長層5dが、基板の厚み方向に成長するとともに、当該厚み方向に垂直な方向にも良好に成長して炭素フィード基板7bにまで成長していることを意味している。
【0202】
図23(f)に示すように、全体として見た場合に単結晶4H−SiCエピ成長層5dは円形状に成長する。なお、本来は単結晶4H−SiCエピ成長層5dは正六角形に成長し、その辺に対応する縁部には(1−100)ファセット面が現れる。ただし、本実施形態においては単結晶4H−SiCエピ成長層5dの成長は、最終的には前記炭素フィード基板7の第2壁7bの内壁によって止められる。従って、第2壁7bの内壁形状に基づいて、最終的な単結晶4H−SiCエピ成長層5dの形状を円形に制御することができる。
【0203】
なお、基板の厚み方向に垂直な方向に液相エピタキシャル成長している部分においては、脚部16の先端面に含まれる各種の欠陥及びダメージは、当該単結晶4H−SiCエピ成長層5dに殆ど影響しない。従って、良好な品質の単結晶4H−SiCエピ成長層5dを得ることができる。
【0204】
以下、図24及び図25を用いて、本実施形態の特徴を説明する。図24(a)には処理前の単結晶SiC基板5が示されており、直線で模式的に示すように、当該単結晶SiC基板5の内部には前述のとおり相当の数の欠陥が存在する。この欠陥とは、例えば螺旋転位、基底面転位、及びC軸方位欠陥等である。
【0205】
この点、本実施形態では、前記単結晶SiC基板5に対して図24(b)に示すように脚部16を加工した上で、炭化工程、アモルファスSiC形成工程、及び再結晶工程を行う。これにより、前記脚部16のそれぞれの先端面に単結晶4H−SiCが形成される。
【0206】
そして、前記準安定溶媒エピタキシー法による液相エピタキシャル成長工程を行うことにより、脚部16の先端面の単結晶4H−SiC層5cに対し単結晶4H−SiCエピ成長層5dを、基板の厚み方向及びそれに垂直な方向に成長させる。なお、単結晶4H−SiCエピ成長層5dが基板の厚みに垂直な方向(水平方向)に成長している部分については、前記基板の内部に存在する欠陥が伝播しないので、ほぼ無欠陥の単結晶4H−SiCエピ成長層5dが得られる。
【0207】
この液相エピタキシャル成長工程において、前記脚部16の先端面に含まれる欠陥が伝播される方向は、単結晶4H−SiCエピ成長層5dの成長に伴って、基板の厚みと垂直な方向に近づくように曲げられる。そして、液相エピタキシャル成長工程を所定時間継続すると、互いに隣り合う脚部16において、先端面の単結晶4H−SiCエピ成長層5d同士が互いに結合する(図24(d))。この架橋の結果、図23(e)及び図23(f)で示すような大きな単結晶4H−SiCエピ成長層5dを形成することができる。
【0208】
また、前記欠陥の伝播は、単結晶4H−SiCエピ成長層5d同士が互いに接合する箇所において終端される。即ち、互いに隣接する脚部16上の単結晶4H−SiCエピ成長層5d同士が結合するとき、その結合部分(継目)に新しい欠陥が現れることになる。しかしながら、この結合部分には前記脚部16(導電層)が位置しないので、当該結合部分が下地の基板と直接接触することがない。従って、図25(a)の領域Aで囲った部分の拡大図である図25(b)に示すように、単結晶4H−SiCエピ成長層5d同士の結合部分の欠陥を電流が通過したとしても、当該電流が下地側の単結晶SiC基板5に直接伝導することはない。即ち、単結晶4H−SiCエピ成長層5dに生じる欠陥を脚部16と脚部16の中間の位置に集めることで、半導体回路への悪影響を効果的に抑制することができる。これにより、高耐圧パワーデバイスの製造に好適なエピ成長層付き単結晶SiC基板6yを提供することができ、歩留まりの向上が実現できる。
【0209】
また、図24(d)の構成は、図25(c)に示すように、多数の小面積の伝導領域を並列に接続したものと捉えることができる。このように考えた場合、個々の単結晶4H−SiCエピ成長層5dはそれぞれ無欠陥領域を備えているため、例えば高耐圧半導体ウエハとしての用途に好適である。
【0210】
次に、図26から図28までを参照して、第5実施形態に係る単結晶SiC成長用種基板及び単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法について説明する。
【0211】
本実施形態では前述の実施形態と異なり、多結晶3C−SiC基板の表面に単結晶4H−SiC層を形成するものである。具体的には、図26(a)に示すような多結晶SiC基板17を用意し、この多結晶SiC基板17を高真空環境下で加熱することで、前記多結晶SiC基板17の表面に相当する各結晶の端部に炭化層17aを形成する(図26(b))。
【0212】
次に、前記炭化層17aをアモルファスSiC層17bに改質させるために、例えば前述の第1実施形態におけるアモルファスSiC形成工程と同様の処理を行う。なお、アモルファスSiC形成工程後の多結晶SiC基板17が図26(c)に示されている。
【0213】
更に、前記アモルファスSiC層17bを再結晶させて単結晶4H−SiC層(再結晶層、平坦化結晶層)17cとするために、前述の第1実施形態における再結晶工程と同様の処理を行う。なお、再結晶工程後の多結晶SiC基板17が図26(d)に示される。
【0214】
以上の一連の工程により、図26(d)に示すような単結晶SiC成長用種基板18pが得られる。この単結晶SiC成長用種基板18pにおいては、多結晶SiC基板17の表面に相当する各結晶の端部に単結晶4H−SiC層17cが形成される。
【0215】
次に、図27(e)に示すように、単結晶SiC成長用種基板18pに対して炭素フィード基板7を対向させるように積層して積層体8を形成し、前述の実施形態と同様に、準安定溶媒エピタキシー法によるエピタキシャル成長を行う。
【0216】
すると、前記多結晶SiC基板17の(−1−1−1)C面での反応の場合は、単結晶4H−SiC層17cから、前記多結晶SiC基板17の厚み方向及び厚みに垂直な方向に単結晶4H−SiC成長層17dが形成される(図27(f)及び図28(a)を参照)。一方、(111)Si面の反応の場合においても、単結晶4H−SiC層17cから、前記多結晶SiC基板17の厚み方向及び厚みに垂直な方向に単結晶4H−SiC成長層17dが形成される(図27(g)及び図28(b)を参照)。
【0217】
以上のようにして、あたかも茸が群生するように形成された単結晶4H−SiC成長層17dを有する多結晶SiC基板(単結晶成長層付き多結晶SiC基板18q)を製造することができる。
【0218】
次に、図29及び図30を参照して、第6実施形態に係る単結晶SiC成長用種基板及び単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法について説明する。
【0219】
本実施形態では前記第5実施形態と異なり、図29(a)に示すように、多結晶SiC基板17の表面の中央の微小領域に真空中で電子ビームを照射して加熱処理する。これにより、多結晶SiC基板17の表面の前記微小領域に炭化層17aを形成させるように構成されている。
【0220】
次に、前述の第1実施形態と同様にアモルファスSiC形成工程及び再結晶工程を行う。なお、アモルファスSiC形成工程後の多結晶SiC基板17が図29(b)に示され、再結晶工程後の様子が図29(c)に示される。
【0221】
続いて、前記単結晶4H−SiC層17cが形成された部分(前記微小領域)を残すようにして、前記多結晶SiC基板17の表面を所定の深さだけ除去する加工を行う。この加工処理は、例えばレーザ加工によって行うことができる。この結果、前記単結晶4H−SiC層17cが相対的に突出したような表面形状の単結晶SiC成長用種基板18rを得ることができる。
【0222】
次に、前記単結晶SiC成長用種基板18rに対し炭素フィード基板7を対向させるように積層し、図29(e)のように坩堝2に収納して加熱し、前記準安定溶媒エピタキシー法による液相エピタキシャル成長工程を行う。すると、突出形状の先端に形成された単結晶4H−SiC層17cと炭素フィード基板7との間の距離が著しく小さくなる。
【0223】
ここで一般的に、液相エピタキシャル成長速度は炭素フィード基板との距離に反比例するので、炭素フィード基板7は、前記単結晶4H−SiC層17cと対向する部分が局所的に大量に炭素を供給することになる。この結果、炭素フィード基板7に穴が形成されるので、当該穴の内部に前記突出形状の先端の単結晶4H−SiC層17cが入り込む形となり、炭素フィード基板7の炭素供給能力を有効に利用して液相エピタキシャル成長を効率的に行うことができる。
【0224】
本実施形態では、図30(f)及び図30(g)に示すように、単結晶4H−SiC層17cの部分から単結晶4H−SiC成長層17dが基板の厚み方向に成長するとともに、当該厚み方向と垂直な方向にも良好に成長している。そして、最終的には図30(g)に示すように、前記炭素フィード基板7の全体を置き換えるように単結晶4H−SiC成長層17dを形成することができる。
【0225】
以上の一連の工程を行うことにより、基板の表面を単結晶4H−SiC成長層17dで覆った構成の単結晶成長層付き多結晶SiC基板18sを製造することができる。
【0226】
次に、図31から図33までを参照して、第7実施形態に係る単結晶SiC成長用種基板及び単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法を説明する。
【0227】
本実施形態では先ず、図31(a)に示すように、前記多結晶SiC基板17の表面を分割するように複数の領域を設定し、この領域のそれぞれに凹部20を形成する。この凹部20の加工は、例えばレーザ加工によって行うことができる。なお、凹部20を形成しなかった部分は相対的に突出する凸部3となる。凹部20は平面視で正方形に形成されるとともに、前記凸部3は細長い直線状に形成されている。
【0228】
次に、図31(b)に示すように、各凹部20において内底面のほぼ中央に位置する微小領域に真空中で電子ビームを照射し、当該微小領域を加熱して炭化し、炭化層17aを形成させる。更に、図31(c)に示すように、前記炭化層17aを改質してアモルファスSiC層17bを形成する。更に、前記アモルファスSiC層17bの一部を再結晶させることにより単結晶4H−SiC層17cを生成するとともに、残りのアモルファスSiC層17bを熱分解して除去する。これにより、前記凹部20の内底面の中央に単結晶4H−SiC層17cが局所的に形成された単結晶SiC成長用種基板18tが得られる。
【0229】
続いて、図31(e)に示すように、前記単結晶SiC成長用種基板18tと炭素フィード基板7とを互いに対向させるように積層させ、準安定溶媒エピタキシー法による液相エピタキシャル成長工程を行う。これにより、前記単結晶4H−SiC層17cの部分から単結晶4H−SiC成長層17dが基板の厚み方向に成長するとともに、基板の厚み方向と垂直な方向にも良好に成長している。そして、最終的には図32(f)に示すように、前記凹部20をほぼ埋めるようにして単結晶4H−SiC成長層17dが形成される。以上により、単結晶成長層付き多結晶SiC基板18uを製造することができる。
【0230】
なお、単結晶成長層付き多結晶SiC基板18uを前記凹部20の境界に沿って切断することにより、1枚の基板を有効利用して多数の高品質の半導体チップを製造することができる。図33(a)及び図33(b)には、円形の単結晶SiC基板5の表面領域を分割するように複数の凹部20を形成するとともに、当該凹部20の境界には凸部3を形成して、前記凹部20に単結晶4H−SiCエピ成長層5dを形成した例が示されている。この例においては、前記凸部3に沿って単結晶成長層付き多結晶SiC基板18uを切断することで、半導体チップを得ることになる。
【0231】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、以上の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0232】
嵌合容器としての坩堝2は、炭化タンタルに限定されない。例えばタンタル以外の金属であって、炭素元素に対するゲッター効果を有し、SiC基板に対して高温接合せず、2000℃程度の温度に対する耐熱性を有し、更に超高真空材料であるものがあれば、当該金属からなる坩堝2に変更することができる。
【0233】
同様に、前記マスク12の材料は炭化タンタルによるものに限られず、高温環境でSiC基板に高温接合しない材料であって耐熱性を有する超高真空材料であれば、当該材料によるマスクに変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0234】
【図1】第1実施形態に係る表面改質単結晶SiC基板の製造方法を示す工程図。
【図2】表面改質単結晶SiC基板を製造するための加熱処理に用いられる高温真空炉を示す模式図。
【図3】高温真空炉の本加熱室及び予備加熱室を詳細に示す断面図。
【図4】炭素ゲッター効果を有する坩堝の外観写真及び断面写真。
【図5】タンタルと炭素の結合状態の温度依存性を示す状態図。
【図6】炭素ゲッター効果を説明する模式図。
【図7】元の基板の結晶多形別に結晶転位の様子を示す説明図。
【図8】SiC基板表面にSiC単結晶を生成させる場合において、当該単結晶の生成方法及び反応温度に対する結晶多形の依存性を示す図。
【図9】単結晶4H−SiC基板の表面にSiC単結晶を生成させる場合において、当該単結晶の生成方法を代表的な反応温度別に並べて示した説明図。
【図10】SiC単結晶の各結晶多形の自由エネルギーの温度変化を6Hに対する相対値として示したグラフ。
【図11】単結晶6H−SiC基板の(0001)Si面又は(000−1)C面に単結晶SiCを成長させる場合において、各結晶多形が発生する確率の温度による変化を示すグラフ。
【図12】前記表面改質単結晶SiC基板に対して液相エピタキシャル成長工程を行うことにより、エピ成長層付き単結晶SiC基板を製造する様子を示す工程図。
【図13】第2実施形態に係る表面改質単結晶SiC基板の製造方法を示す工程図。
【図14】前記表面改質単結晶SiC基板に対して液相エピタキシャル成長工程を行うことにより、エピ成長層付き単結晶SiC基板を製造する様子を示す工程図。
【図15】基板の表面平坦化前後の顕微鏡写真、及び、表面改質単結晶SiC基板の表面を撮影した写真。
【図16】第3実施形態に係る表面改質単結晶SiC基板の製造方法を示す工程図。
【図17】前記表面改質単結晶SiC基板に対して液相エピタキシャル成長工程を行うことにより、エピ成長層付き単結晶SiC基板を製造する様子を示す工程図。
【図18】溝加工後の基板の表面を撮影した写真。
【図19】エピ成長層付き単結晶SiC基板の一例を示す平面図及び断面図。
【図20】第3実施形態の第1変形例に係るエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法を示す工程図。
【図21】第3実施形態の第2変形例に係るエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法を示す工程図。
【図22】第4実施形態に係る表面改質単結晶SiC基板の製造方法を示すとともに、当該表面改質単結晶SiC基板に対する液相エピタキシャル成長工程を示す工程図。
【図23】第4実施形態のエピ成長層付き単結晶SiC基板の断面図及び平面図。
【図24】第4実施形態における単結晶4H−SiCエピ成長層の生成過程を示す説明図。
【図25】第4実施形態の効果を説明する図。
【図26】第5実施形態に係る単結晶SiC成長用種基板の製造方法を示す工程図。
【図27】前記単結晶SiC成長用種基板に対して液相エピタキシャル成長工程を行うことにより、単結晶成長層付き多結晶SiC基板を製造する様子を示す工程図。
【図28】単結晶成長層付き多結晶SiC基板における単結晶4H−SiCエピ成長層を示す顕微鏡写真。
【図29】第6実施形態に係る単結晶SiC成長用種基板の製造方法を示すとともに、当該単結晶SiC成長用種基板に対する液相エピタキシャル成長工程を示す工程図。
【図30】液相エピタキシャル成長工程における単結晶4H−SiCエピ成長層の成長の様子及び単結晶成長層付き多結晶SiC基板を示す説明図。
【図31】第7実施形態の単結晶SiC成長用種基板の製造方法を示すとともに、当該単結晶SiC成長用種基板に対する液相エピタキシャル成長工程を示す工程図。
【図32】液相エピタキシャル成長工程における単結晶4H−SiCエピ成長層の成長の様子及び単結晶成長層付き多結晶SiC基板を示す説明図。
【図33】単結晶成長層付き多結晶SiC基板の一例を示す平面図及び断面図。
【符号の説明】
【0235】
2 坩堝(嵌合容器)
4 極薄溶融層
5 単結晶SiC基板
5a 炭化層
5b アモルファスSiC層
5c 単結晶4H−SiC層(再結晶層、平坦化結晶層)
5d 単結晶4H−SiCエピ成長層
6p 表面改質単結晶SiC基板
6q エピ成長層付き単結晶SiC基板
7 炭素フィード基板
8 積層体
11 高温真空炉
12 マスク
17 多結晶SiC基板
17a 炭化層
17b アモルファスSiC層
17c 単結晶4H−SiC層
17d 単結晶4H−SiC成長層
18p 単結晶SiC成長用種基板
18q 単結晶成長層付き多結晶SiC基板
21 加熱室
22 予備加熱室
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要には、単結晶又は多結晶のSiC基板の表面に、結晶多形が例えば4Hである単結晶SiC層を生成させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)は、耐熱性及び機械的強度に優れ、放射線にも強く、不純物の添加によって電子や正孔の価電子制御も容易にできるとともに、広い禁制帯幅(6H型の単結晶SiCで約3.0eV、4H型の単結晶SiCで3.3eV)を有するという特徴を備えている。従って、ケイ素(Si)やガリウム砒素(GaAs)などの既存の半導体材料では実現できない高温、高周波、耐電圧・耐環境性を実現することが可能であるとされ、次世代のパワーデバイス、高周波デバイス用半導体の材料として期待が高まっている。
【0003】
この種の単結晶SiCの製造方法は、例えば特許文献1に開示されている。この特許文献1の方法は、まず、SiC単結晶基板とSi原子及びC原子により構成された板材とを微少隙間を隔てて互いに平行に対峙させた状態とする。そして、大気圧以下の不活性ガス雰囲気、かつ、SiC飽和蒸気雰囲気下で、上記SiC単結晶基板側が上記板材よりも低温に保たれるように熱処理する。特許文献1の方法では、これにより、上記微小隙間内でSi原子及びC原子を昇華再結晶させて上記SiC単結晶基板上に単結晶を析出させるとともに、この析出単結晶を種結晶として上記板材を単結晶に変態させて、上記SiC単結晶基板の結晶軸と同方位に配向された単結晶を一体に成長させる。
【特許文献1】特開平11−315000号公報
【0004】
しかしながら、特許文献1のような昇華再結晶法では、種結晶としての単結晶SiC基板が有する欠陥(特に、「マイクロパイプ欠陥」と呼ばれる直径数ミクロンから0.1mm程度の管状の空隙)が、析出する単結晶のエピタキシャル構造に伝播し易く、これが、製造される単結晶SiCを前述のパワーデバイス等として用いる際の大きな障害となっている。
【0005】
この点は特許文献2も指摘するところであり、これを解決する方法として以下のような炭素ケイ素エピタキシャル層の形成方法を提案している。即ち、特許文献2の炭素ケイ素エピタキシャル層の形成方法は、種晶添加昇華技術を用いて炭化ケイ素のバルク結晶を成長させる工程と、後記基板から後記第一のエピタキシャル層の成長部の中に伝播したマイクロパイプ欠陥を、後記第一のエピタキシャル層の溶融成長においてマイクロパイプ欠陥の複製をかなり減らすようにふさぐのに十分な厚みのものとなるまで、バルク結晶から製造された基板の上に炭化ケイ素の、第一のエピタキシャル層を、液相エピタキシー技術により形成する工程と、その後、化学蒸着により炭化ケイ素の前記第一のエピタキシャル層の上に炭化ケイ素の第二のエピタキシャル層を形成する工程と、を有する。特許文献2は、これにより、欠陥の少ない炭化ケイ素のエピタキシャル層を成長させることができるとする。
【特許文献2】特表平10−509943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1及び2の方法は、SiC単結晶基板上にSiC単結晶を成長させることが可能であるものの、その成長結晶の結晶多形を特定の結晶多形に、例えば半導体基板の電気特性として好ましい最も広い禁制帯幅(3.3eV)を持つ4H型の単結晶SiCに制御することができなかった。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、単結晶又は多結晶のSiC結晶基板の表面を特定の結晶多形(例えば4H)のSiC単結晶に改質することが可能な気相技術を提供するとともに、その改質された4H−SiC単結晶上に4H−SiC単結晶を液相エピタキシャル成長させる方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、基板の表面の研磨傷や研磨時に発生したストレスを含む基板の表面のダメージ層を改質することにより、結晶欠陥のないサブナノオーダーの原子レベルに平坦な単結晶4H−SiC層を得るとともに、この単結晶4H−SiC層の上に、結晶欠陥の無い4H−SiC単結晶を厚み方向及び/又は水平方向に液相エピタキシャル成長させることにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
(1)本発明の第1の観点によれば、以下のような表面改質単結晶SiC基板の製造方法が提供される。即ち、この表面改質単結晶SiC基板の製造方法は、炭化工程と、アモルファスSiC形成工程と、再結晶工程と、を含む。前記炭化工程では、単結晶3C−SiC、単結晶4H−SiC、又は単結晶6H−SiCの何れかよりなる単結晶SiC基板を高真空環境において加熱して、当該単結晶SiC基板の表面に炭化層を形成させる。前記アモルファスSiC形成工程では、炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記単結晶SiC基板を収容し、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記炭化層をシリコンと反応させてアモルファスSiCからなる犠牲成長層を生成させる。前記再結晶工程では、炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記単結晶SiC基板を収容した状態で、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの少なくとも一部を再結晶させて単結晶4H−SiC層を生成させる。なお、本明細書において「高真空環境」とは10-2Pa以下の真空環境を意味する。
【0010】
これにより、元となる単結晶SiC基板の結晶多形に関係なく、その表面に単結晶4H−SiC層を形成することができる。従って、下地となる単結晶SiC基板の結晶多形はコスト等を考慮して決定することが可能な一方で、半導体基板として好適な電気特性を有する単結晶4H−SiC層をその表面に形成することが可能になる。また、前記炭化工程において基板の不安定サイトやダメージ層を改質により除去できるので、結晶欠陥のないサブナノオーダーの原子レベルに平坦な単結晶4H−SiC層を形成することができる。また、この表面改質単結晶SiC基板は、種々のエピタキシャル成長法のための種基板として用いることで、極めて高品質なエピタキシャル成長結晶を得ることができる。
【0011】
(2)前記の表面改質単結晶SiC基板の製造方法においては、前記再結晶工程において、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの一部を再結晶させて前記単結晶4H−SiC層を生成させる一方、残りのアモルファスSiCを熱エッチングにより除去することが好ましい。
【0012】
これにより、余剰となったアモルファスSiC層を効果的に取り除くことができるので、単結晶4H−SiC層の表面を良好に平坦化することができる。
【0013】
(3)前記の表面改質単結晶SiC基板の製造方法においては、前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において、前記単結晶SiC基板は1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されることが好ましい。
【0014】
これにより、アモルファスSiC形成工程及び再結晶工程を一層良好に且つ効率良く行うことができる。また、結晶多形が4Hの単結晶SiC層を確実に生成することができる。
【0015】
(4)前記の表面改質単結晶SiC基板の製造方法においては、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程で行われる加熱処理は、予備加熱工程と、本加熱工程と、を含む。前記予備加熱工程では、前記単結晶SiC基板を収容した嵌合容器を、予備加熱室において800℃以上の温度で加熱する。前記本加熱工程では、予め1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されている本加熱室に前記予備加熱室から前記嵌合容器を移動することで、前記単結晶SiC基板を1600℃以上2000℃以下の温度で加熱する。
【0016】
これにより、単結晶SiC基板を嵌合容器に収容して事前に予備加熱しておき、予備加熱室から本加熱室へ移動させることで急速に昇温させて加熱処理を行うので、アモルファスSiC形成工程及び再結晶工程を短時間で効率良く行うことができるとともに、その制御も容易になる。
【0017】
(5)前記の表面改質単結晶SiC基板の製造方法においては、前記炭化工程において、前記単結晶SiC基板は10-3Pa以下の減圧下で加熱されることが好ましい。
【0018】
これにより、炭化工程において他の不純物が単結晶SiC基板(又は嵌合容器)に侵入することを防止でき、品質の良好な表面改質単結晶SiC基板を得ることができる。
【0019】
(6)前記の表面改質単結晶SiC基板の製造方法においては、前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において、加熱時の前記嵌合容器の内部圧力は1Pa以下に維持されることが好ましい。
【0020】
これにより、アモルファスSiC形成工程及び再結晶工程において他の不純物が単結晶SiC基板(又は嵌合容器)に侵入することを防止でき、品質の良好な表面改質単結晶SiC基板を得ることができる。
【0021】
(7)前記の表面改質単結晶SiC基板の製造方法においては、前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において使用される嵌合容器は、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして備えることが好ましい。
【0022】
これにより、容器に炭素ゲッター機能を良好に発揮させて、その内部空間を高純度のシリコン雰囲気に保つことができる。
【0023】
(8)前記の表面改質単結晶SiC基板の製造方法においては、前記単結晶SiC基板が単結晶3C−SiCよりなる場合、前記炭化工程において前記炭化層を(001)Si面又は(00−1)C面に形成することができる。
【0024】
(9)前記の表面改質単結晶SiC基板の製造方法においては、前記単結晶SiC基板が単結晶4H−SiC又は単結晶6H−SiCよりなる場合、前記炭化工程において前記炭化層を(0001)Si面又は(000−1)C面に形成することができる。
【0025】
(10)前記の表面改質単結晶SiC基板の製造方法においては、前記炭化工程において、前記炭化層は(11−20)方向のオフ角が1°以下である面に形成されることが好ましい。
【0026】
これにより、原子レベルに平坦な単結晶4H−SiC層を容易にかつ効率良く得ることができる。
【0027】
(11)本発明の第2の観点によれば、以下のようなエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法が提供される。即ち、このエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法は、積層工程と、収容工程と、液相エピタキシャル成長工程と、を含む。前記積層工程では、前記の製造方法で製造された表面改質単結晶SiC基板の前記単結晶4H−SiC層に対し炭素フィード基板を対向させて積層体を構成する。前記収容工程では、前記積層体を、炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に収容する。前記液相エピタキシャル成長工程では、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら、前記表面改質単結晶SiC基板の前記単結晶4H−SiC層と前記炭素フィード基板との間にシリコンの極薄溶融層を介在させつつ加熱することで、前記単結晶4H−SiC層に準安定溶媒エピタキシー法によって単結晶4H−SiCを液相エピタキシャル成長させ、単結晶4H−SiCエピ成長層を形成する。
【0028】
これにより、温度勾配がなく濃度勾配だけで成長の動力学が制御される準安定溶媒エピタキシー法を用いることで、エピタキシャル成長を自動的に安定化させることができ、高品質なエピタキシャル成長層を得ることができる。更に、系に温度勾配を形成する必要がないので、プロセスを行うための装置構成を簡素化でき、プロセス制御も簡単になる。加えて、溶媒の厚みが極めて小さいために炭素フィード基板からの炭素の拡散が良好であり、温度上昇によりケイ素の溶融層(溶媒)に対する炭素の溶解度を上昇させる必要がないので、プロセスの低温化が容易である。
【0029】
(12)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、前記液相エピタキシャル成長工程において、前記単結晶SiC基板は1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されることが好ましい。
【0030】
これにより、エピタキシャル成長工程を一層良好に且つ効率良く行うことができる。
【0031】
(13)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記液相エピタキシャル成長工程で行われる加熱処理は、予備加熱工程と、本加熱工程と、を含む。前記予備加熱工程では、前記単結晶SiC基板を収容した嵌合容器を、予備加熱室において800℃以上の温度で加熱する。前記本加熱工程では、予め1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されている本加熱室に前記予備加熱室から前記嵌合容器を移動することで、前記単結晶SiC基板を1600℃以上2000℃以下の温度で加熱する。
【0032】
これにより、単結晶SiC基板を嵌合容器に収容して事前に予備加熱しておき、予備加熱室から本加熱室へ移動させることで急速に昇温させて加熱処理を行うので、液相エピタキシャル成長工程を短時間で効率良く行うことができるとともに、その制御も容易になる。
【0033】
(14)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、前記液相エピタキシャル成長工程において、加熱時の前記嵌合容器の内部圧力は1Pa以下に維持されることが好ましい。
【0034】
これにより、液相エピタキシャル成長工程において他の不純物が単結晶SiC基板(又は嵌合容器)に侵入することを防止でき、品質の良好なエピ成長層付き単結晶SiC基板を得ることができる。
【0035】
(15)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、前記エピタキシャル成長工程において使用される嵌合容器は、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして備えることが好ましい。
【0036】
これにより、容器に炭素ゲッター機能を良好に発揮させて、その内部空間を高純度のシリコン雰囲気に保つことができる。
【0037】
(16)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、前記炭素フィード基板は、単結晶3C−SiC、多結晶4H−SiC、多結晶3C−SiC、アモルファスSiC、グラファイトの少なくとも何れかを含む基板であることが好ましい。
【0038】
これにより、炭素フィード基板が単結晶4H−SiCよりも高い自由エネルギーを有することとなるので、前記液相エピタキシャル成長工程において単結晶4H−SiCエピ成長層に対し炭素原子を良好に供給することができる。
【0039】
(17)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記表面改質単結晶SiC基板の製造においては、前記炭化工程の前に、前記単結晶SiC基板の表面の一部にマスクを施すマスキング工程が行われる。前記再結晶工程において、前記単結晶4H−SiC層は、前記マスキング工程における非マスク領域に形成されている凹部の底部に生成される。
【0040】
これにより、液相エピタキシャル成長工程において極薄溶融層が凹部内に貯留される形となり、流失を防止して液相エピタキシャル成長工程を長時間行うことができる。
【0041】
(18)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、前記マスキング工程において、前記マスクは前記単結晶SiC基板の表面において一部の領域を取り囲むように施されることが好ましい。
【0042】
これにより、液相エピタキシャル成長工程において極薄溶融層が閉じ込められる形となり、流失を一層確実に防止して液相エピタキシャル成長工程を長時間行うことができる。
【0043】
(19)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、前記マスキング工程において、前記マスクは炭化タンタルによりなることが好ましい。
【0044】
これにより、十分な耐熱性を有するマスクを実現できるとともに、マスクが単結晶SiC基板に対して高温接合することを防止することができる。
【0045】
(20)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、前記表面改質単結晶SiC基板の製造においては、前記炭化工程の前に、前記単結晶SiC基板の表面を複数の領域に分割するように当該単結晶SiC基板に溝加工を施す溝形成工程が行われることが好ましい。
【0046】
これにより、液相エピタキシャル成長工程で単結晶4H−SiCエピ成長層が成長するのに伴って、前記単結晶SiC基板の表面に含まれている欠陥の伝播する方向が、基板の厚み方向と垂直な向きに近づくように曲げられ、最終的には単結晶4H−SiCエピ成長層の側面で欠陥の伝播が終端されることになる。従って、単結晶4H−SiCエピ成長層の表面に現れる欠陥を良好に抑制し、歩留まりの向上を実現できる。
【0047】
(21)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、前記積層工程の前に、前記炭素フィード基板において前記単結晶4H−SiC層に対向する面を複数の領域に分割するように当該炭素フィード基板に溝加工を施す炭素フィード側溝形成工程が行われることが好ましい。
【0048】
これにより、液相エピタキシャル成長工程で単結晶4H−SiCエピ成長層が成長するのに伴って、前記単結晶SiC基板の表面に含まれている欠陥の伝播する方向が、基板の厚み方向と垂直な向きに近づくように曲げられ、最終的には単結晶4H−SiCエピ成長層の側面で欠陥の伝播が終端されることになる。従って、単結晶4H−SiCエピ成長層の表面に現れる欠陥を良好に抑制し、歩留まりの向上を実現できる。
【0049】
(22)本発明の第3の観点によれば、前記の製造方法で製造されたエピ成長層付き単結晶SiC基板を前記溝に沿って切断する工程を含む半導体チップの製造方法が提供される。
【0050】
これにより、1枚の基板から多数の高品質の半導体チップを製造することができる。
【0051】
(23)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、前記溝加工はレーザ加工により行われることが好ましい。
【0052】
これにより、正確な溝加工を実現することができる。
【0053】
(24)前記のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法においては、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記表面改質単結晶SiC基板の製造においては、前記炭化工程の前に、前記単結晶SiC基板の表面に複数の柱状の脚部を形成する脚部形成工程が行われる。前記再結晶工程では、前記脚部のそれぞれの先端面に単結晶4H−SiC層を生成させる。前記液相エピタキシャル成長工程では、複数の前記脚部の先端面に架橋するように前記単結晶4H−SiCエピ成長層を形成させる。
【0054】
これにより、脚部の先端面に対向しない部分の単結晶4H−SiCエピ成長層は殆ど無欠陥領域とできるため、例えばパワーデバイスとして使用した場合に良好な特性を実現することができる。また、脚部の先端面に含まれる欠陥が単結晶4H−SiCエピ成長層の成長に従って基板の厚み方向と垂直な向きに伝播し、隣り合う脚部の単結晶4H−SiCエピ成長層が接合する部分において伝播が終端して新たな欠陥が現れるが、当該欠陥は脚部の先端面に対応しない位置にあるため、半導体回路への悪影響を効果的に抑えることができる。これにより、高耐圧パワーデバイスの製造に好適なエピ成長層付き単結晶SiC基板を提供することができ、歩留まりの向上が実現できる。
【0055】
(25)本発明の第4の観点によれば、以下のような単結晶SiC成長用種基板の製造方法が提供される。即ち、この単結晶SiC成長用種基板の製造方法は、炭化工程と、アモルファスSiC形成工程と、再結晶工程と、を含む。前記炭化工程では、多結晶SiC基板を高真空環境において加熱して、当該多結晶SiC基板の表面に相当する各結晶の端部に炭化層を形成させる。前記アモルファスSiC形成工程では、炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記多結晶SiC基板を収容し、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記炭化層をシリコンと反応させてアモルファスSiCからなる犠牲成長層を生成させる。前記再結晶工程では、前記嵌合容器に前記多結晶SiC基板を収容した状態で、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの少なくとも一部を再結晶させて単結晶4H−SiC層を生成させる。
【0056】
これにより、元となる基板としてコストの安い多結晶SiC基板を使用しながら、その表面に単結晶4H−SiC層を形成することができる。従って、半導体基板として好適な電気特性を有する4H−SiC層を著しく安価に提供することができる。
【0057】
(26)本発明の第5の観点によれば、以下のような単結晶SiC成長用種基板の製造方法が提供される。即ち、この単結晶SiC成長用種基板の製造方法は、炭化工程と、アモルファスSiC形成工程と、再結晶工程と、加工工程と、を含む。前記炭化工程では、多結晶SiC基板の表面の微小領域に真空中で電子ビームを照射して加熱することにより、当該微小領域に炭化層を形成させる。前記アモルファスSiC形成工程では、炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記多結晶SiC基板を収容し、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記炭化層をシリコンと反応させてアモルファスSiCからなる犠牲成長層を生成させる。前記再結晶工程では、前記嵌合容器に前記多結晶SiC基板を収容した状態で、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの少なくとも一部を再結晶させて単結晶4H−SiC層を生成させる。前記加工工程では、前記単結晶4H−SiCを生成させた微小領域が相対的に突出した形状となるように、前記多結晶SiC基板の表面を加工する。
【0058】
この方法により製造された単結晶SiC成長用種基板に炭素フィード基板を積層させて液相エピタキシャル成長を行った場合、突出形状の先端に形成された単結晶4H−SiC層と前記炭素フィード基板との間の距離が著しく小さくなるため、炭素フィード基板の前記単結晶4H−SiC層との対向部分が局所的に大量に炭素を供給する結果、当該炭素フィード基板に孔が形成される。この結果、突出形状の先端の単結晶4H−SiC層が炭素フィード基板の内部に入り込む形となり、炭素フィード基板の炭素供給能力を有効に利用して液相エピタキシャル成長を効率良く行うことができる。
【0059】
(27)前記の単結晶SiC成長用種基板の製造方法においては、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記炭化工程の前に、多結晶SiC基板の表面を分割した複数の領域のそれぞれに凹部を形成する凹部形成工程が行われる。前記炭化工程では、前記凹部形成工程によって形成された前記凹部の内底面の微小領域に真空中で電子ビームを照射して加熱することにより、当該微小領域に炭化層を形成させる。
【0060】
この方法により製造された単結晶SiC成長用種基板に炭素フィード基板を積層させて液相エピタキシャル成長を行った場合、各凹部の内底部の単結晶4H−SiC層を基点として、基板の厚み方向及びそれに垂直な方向に単結晶4H−SiC成長層を形成することができる。この結果、多結晶SiC基板を原料として、多数の単結晶4H−SiC半導体チップを切り出すことができる単結晶成長層付き多結晶SiC基板を製造することができる。
【0061】
(28)前記の単結晶SiC成長用種基板の製造方法においては、前記再結晶工程において、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの一部を再結晶させて前記単結晶4H−SiC層を生成させる一方、残りのアモルファスSiCを熱エッチングにより除去することが好ましい。
【0062】
これにより、余剰となったアモルファスSiC層を効果的に取り除くことができるので、単結晶4H−SiC層の表面を良好に平坦化することができる。
【0063】
(29)前記の単結晶SiC成長用種基板の製造方法においては、前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において、前記多結晶SiC基板は1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されることが好ましい。
【0064】
これにより、アモルファスSiC形成工程及び再結晶工程を一層良好に且つ効率良く行うことができる。また、結晶多形が4Hの単結晶SiC層を確実に生成することができる。
【0065】
(30)前記の単結晶SiC成長用種基板の製造方法においては、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程で行われる加熱処理は、予備加熱工程と、本加熱工程と、を含む。前記予備加熱工程では、前記多結晶SiC基板を収容した嵌合容器を、予備加熱室において800℃以上の温度で加熱する。前記本加熱工程では、予め1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されている本加熱室に前記予備加熱室から前記嵌合容器を移動することで、前記多結晶SiC基板を1600℃以上2000℃以下の温度で加熱する。
【0066】
これにより、多結晶SiC基板を嵌合容器に収容して事前に予備加熱しておき、予備加熱室から本加熱室へ移動させることで急速に昇温させて加熱処理を行うので、アモルファスSiC形成工程及び再結晶工程を短時間で効率良く行うことができるとともに、その制御も容易になる。
【0067】
(31)前記の単結晶SiC成長用種基板の製造方法においては、前記炭化工程において、前記多結晶SiC基板は10-3Pa以下の減圧下で加熱されることが好ましい。
【0068】
これにより、炭化工程において他の不純物が多結晶SiC基板(又は嵌合容器)に侵入することを防止でき、品質の良好な単結晶SiC成長用種基板を得ることができる。
【0069】
(32)前記の単結晶SiC成長用種基板の製造方法においては、前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において、加熱時の前記嵌合容器の内部圧力は1Pa以下に維持されることが好ましい。
【0070】
これにより、アモルファスSiC形成工程及び再結晶工程において他の不純物が多結晶SiC基板(又は嵌合容器)に侵入することを防止でき、品質の良好な単結晶SiC成長用種基板を得ることができる。
【0071】
(33)前記の単結晶SiC成長用種基板の製造方法においては、前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において使用される嵌合容器は、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして備えることが好ましい。
【0072】
これにより、容器に炭素ゲッター機能を良好に発揮させて、その内部空間を高純度のシリコン雰囲気に保つことができる。
【0073】
(34)本発明の第6の観点によれば、以下のような単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法が提供される。即ち、この単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法は、積層工程と、収容工程と、液相エピタキシャル成長工程と、を含む。前記積層工程では、前記の製造方法で製造された単結晶SiC成長用種基板の前記単結晶4H−SiC層に対し、炭素フィード基板を対向させて積層体を構成する。前記収容工程では、炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記積層体を収容する。前記液相エピタキシャル成長工程では、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら、前記単結晶SiC成長用種基板の前記単結晶4H−SiC層と前記炭素フィード基板との間にシリコンの極薄溶融層を介在させつつ加熱することで、前記単結晶4H−SiC層に準安定溶媒エピタキシー法によって単結晶4H−SiCを液相エピタキシャル成長させ、単結晶4H−SiC成長層を形成する。
【0074】
これにより、温度勾配がなく濃度勾配だけで成長の動力学が制御される準安定溶媒エピタキシー法を用いることで、エピタキシャル成長を自動的に安定化させることができ、高品質なエピタキシャル成長層を得ることができる。更に、系に温度勾配を形成する必要がないので、プロセスを行うための装置構成を簡素化でき、プロセス制御も簡単になる。加えて、溶媒の厚みが極めて小さいために炭素フィード基板からの炭素の拡散が良好であり、温度上昇によりケイ素の溶融層(溶媒)に対する炭素の溶解度を上昇させる必要がないので、プロセスの低温化が容易である。
【0075】
(35)前記の単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法においては、前記液相エピタキシャル成長工程において、前記単結晶SiC成長用種基板は1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されることが好ましい。
【0076】
これにより、エピタキシャル成長工程を一層良好に且つ効率良く行うことができる。
【0077】
(36)前記の単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法においては、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記液相エピタキシャル成長工程で行われる加熱処理は、予備加熱工程と、本加熱工程と、を含む。前記予備加熱工程では、前記単結晶SiC成長用種基板を収容した嵌合容器を、予備加熱室において800℃以上の温度で加熱する。前記本加熱工程では、予め1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されている本加熱室に前記予備加熱室から前記嵌合容器を移動することで、前記単結晶SiC成長用種基板を1600℃以上2000℃以下の温度で加熱する。
【0078】
これにより、単結晶SiC成長用種基板を嵌合容器に収容して事前に予備加熱しておき、予備加熱室から本加熱室へ移動させることで急速に昇温させて加熱処理を行うので、液相エピタキシャル成長工程を短時間で効率良く行うことができるとともに、その制御も容易になる。
【0079】
(37)前記の単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法においては、前記液相エピタキシャル成長工程において、加熱時の前記嵌合容器の内部圧力は1Pa以下に維持されることが好ましい。
【0080】
これにより、液相エピタキシャル成長工程において他の不純物が単結晶SiC基板(又は嵌合容器)に侵入することを防止でき、品質の良好な単結晶成長層付き多結晶SiC基板を得ることができる。
【0081】
(38)前記の単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法においては、前記エピタキシャル成長工程において使用される嵌合容器は、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして備えることが好ましい。
【0082】
これにより、容器に炭素ゲッター機能を良好に発揮させて、その内部空間を高純度のシリコン雰囲気に保つことができる。
【0083】
(39)前記の単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法においては、前記炭素フィード基板は、単結晶3C−SiC、多結晶4H−SiC、多結晶3C−SiC、アモルファスSiC、グラファイトの少なくとも何れかを含む基板であることが好ましい。
【0084】
これにより、炭素フィード基板が単結晶4H−SiCよりも高い自由エネルギーを有することとなるので、前記液相エピタキシャル成長工程において単結晶4H−SiC成長層に対し炭素原子を良好に供給することができる。
【0085】
(40)本発明の第7の観点によれば、前記の製造方法で形成された単結晶成長層付き多結晶SiC基板を前記凹部の境界で切断する工程を含む半導体チップの製造方法が提供される。
【0086】
これにより、1枚の基板から多数の高品質の半導体チップを製造することができる。
【0087】
(41)本発明の第8の観点によれば、以下の構成の表面改質単結晶SiC基板が提供される。即ち、この表面改質単結晶SiC基板は、単結晶3C−SiC、単結晶4H−SiC、又は単結晶6H−SiCの何れかよりなる単結晶SiC基板を備える。前記単結晶SiC基板は、基板の厚み方向の少なくとも一側の表面において、少なくとも最表層部分の結晶多形が母材の結晶多形に対して独立に制御され、かつ当該表面が原子レベルで平坦化されている。
【0088】
これにより、下地(母材)となる単結晶SiC基板の結晶多形はコスト等を考慮して決定することが可能な一方で、その表面には、用途に応じて最適な結晶多形を形成することが可能になる。また表面が原子レベルで平坦化されているので、例えば高耐圧パワーデバイス用ウエハとしての用途に好適である。
【0089】
(42)前記の表面改質単結晶SiC基板においては、前記単結晶SiC基板が単結晶3C−SiCよりなる場合、その結晶多形が母材の結晶多形に対して独立に制御された面は(001)Si面又は(00−1)C面とすることができる。
【0090】
(43)前記の表面改質単結晶SiC基板においては、前記単結晶SiC基板が単結晶4H−SiC又は単結晶6H−SiCよりなる場合、その結晶多形が母材の結晶多形に対して独立に制御された面は(0001)Si面又は(000−1)C面とすることができる。
【0091】
(44)前記の表面改質単結晶SiC基板においては、その結晶多形が母材の結晶多形に対して独立に制御された面は、(11−20)方向のオフ角が1°以下の面であることが好ましい。
【0092】
これにより、原子レベルに平坦な単結晶4H−SiC層を容易にかつ効率良く得ることができる。
【0093】
(45)前記の表面改質単結晶SiC基板においては、前記最表層部分の結晶多形が4Hであることが好ましい。
【0094】
これにより、半導体基板として好適な電気特性を有する単結晶4H−SiC層を最表層部分に形成することが可能になる。
【0095】
(46)前記の表面改質単結晶SiC基板においては、前記母材の結晶多形が3C又は6Hであり、前記最表層部分の結晶多形が4Hであることが好ましい。
【0096】
これにより、母材として単結晶3C−SiC基板又は6H−SiC基板を使用しつつ、その最表層に単結晶4H−SiC層が形成されているので、例えば高耐圧パワーデバイス用の半導体基板として好適である。
【0097】
(47)前記の表面改質単結晶SiC基板においては、前記母材の結晶多形が4Hであり、前記最表層部分の結晶多形が4Hであることが好ましい。
【0098】
これにより、母材としての単結晶4H−SiC基板の最表層に、原子レベルで平坦な単結晶4H−SiC層が形成されているので、例えば高耐圧パワーデバイス用の半導体基板として好適である。
【0099】
(48)本発明の第9の観点によれば、以下の構成の単結晶層付き単結晶SiC基板が提供される。即ち、この単結晶層付き単結晶SiC基板は、単結晶SiC基板と、平坦化結晶層と、単結晶4H−SiC層と、を備える。前記単結晶SiC基板は、単結晶3C−SiC、単結晶4H−SiC、又は単結晶6H−SiCの何れかよりなるとともに、基板の厚み方向の少なくとも一側の表面に溝が形成されている。前記平坦化結晶層は、前記単結晶SiC基板において前記溝が形成されている側の表面に備えられるとともに、その少なくとも最表層部分の結晶多形が4Hとなるように制御され、かつ当該表面が原子レベルで平坦化されている。前記単結晶4H−SiC層は、前記溝以外の位置において前記平坦化結晶層に対して積層される。
【0100】
これにより、高耐圧半導体ウエハとしての用途に好適な単結晶層付き単結晶SiC基板を得ることができる。また、溝に沿ってウエハを切り出すことで半導体チップを得ることができる。
【0101】
(49)本発明の第10の観点によれば、以下の構成の単結晶層付き単結晶SiC基板が提供される。即ち、この単結晶層付き単結晶SiC基板は、単結晶SiC基板と、平坦化結晶層と、単結晶4H−SiC層と、を備える。前記単結晶SiC基板は、単結晶3C−SiC、単結晶4H−SiC、又は単結晶6H−SiCの何れかよりなるとともに、基板の厚み方向の少なくとも一側の表面に複数の柱状の脚部が形成されている。前記平坦化結晶層は、前記脚部のそれぞれの先端面に備えられるとともに、その少なくとも最表層部分の結晶多形が4Hとなるように制御され、かつ当該表面が原子レベルで平坦化されている。前記単結晶4H−SiC層は、前記平坦化結晶層に対して積層されるとともに、複数の前記脚部の先端面に架橋するように備えられる。
【0102】
これにより、架橋部において生じる結晶欠陥が半導体回路に与える影響を抑制できるので、例えばパワーデバイスの半導体ウエハとして使用した場合、良好な高耐圧を実現できる。
【0103】
(50)前記の単結晶層付き単結晶SiC基板においては、前記単結晶SiC基板が単結晶3C−SiCよりなる場合、前記平坦化結晶層が備えられる面は(001)Si面又は(00−1)C面とすることができる。
【0104】
(51)前記の単結晶層付き単結晶SiC基板においては、前記単結晶SiC基板は単結晶4H−SiC又は単結晶6H−SiCよりなり、前記平坦化結晶層が備えられる面は(0001)Si面又は(000−1)C面とすることができる。
【0105】
(52)前記の単結晶層付き単結晶SiC基板においては、前記平坦化結晶層が備えられる面は、(11−20)方向のオフ角が1°以下の面であることが好ましい。
【0106】
これにより、原子レベルに平坦な単結晶4H−SiC層を容易にかつ効率良く得ることができる。
【0107】
(53)本発明の第10の観点によれば、以下の構成の単結晶層付き多結晶SiC基板が提供される。即ち、この単結晶層付き多結晶SiC基板は、多結晶SiC基板と、平坦化結晶層と、単結晶4H−SiC層と、を備える。前記多結晶SiC基板は、厚み方向の少なくとも一側の表面に複数の凹部が形成される。前記平坦化結晶層は、前記凹部の内底面の一部に備えられるとともに、その少なくとも最表層部分の結晶多形が4Hとなるように制御され、かつ当該表面が原子レベルで平坦化されている。前記単結晶4H−SiC層は、前記平坦化結晶層に対して積層されるとともに、前記凹部の内底面を覆うように延出した形状になっている。
【0108】
これにより、欠陥のない単結晶4H−SiC層を安価な多結晶SiC基板に形成することで、パワーデバイスに好適な半導体ウエハを低コストで提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0109】
次に、発明の実施の形態を説明する。まず図1から図12までを参照して、第1実施形態に係る表面改質単結晶SiC基板及びエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法について説明する。
【0110】
即ち、本実施形態の表面改質単結晶SiC基板の製造方法においては、最初に、図1(a)に示すような所定の厚みの単結晶SiC基板5(炭化ケイ素バルク基板)を用意する。この単結晶SiC基板5は、切欠き等がなく真円度の高い円形の板状に形成されており、その直径は2インチ以上であることが好ましい。また、この単結晶SiC基板5の結晶多形は、3C、4H、6Hの何れであっても良い。
【0111】
そして、この単結晶SiC基板5において、厚み方向の少なくとも一側の面を表面改質の対象とする。単結晶SiC基板5の結晶多形が3Cである場合、表面改質の対象となる面は(001)Si面又は(00−1)C面であることが好ましい。一方、結晶多形が4H又は6Hである場合、表面改質の対象となる面は(0001)Si面又は(000−1)C面であることが好ましい。また、表面改質の対象となる面は、その(11−20)方向のオフ角が1°以下の面(いわゆるジャスト面を含む)であることが好ましい。
【0112】
次に、前記単結晶SiC基板5を高真空環境(具体的には、圧力が10-2Pa以下の環境)において加熱する。このときの加熱温度は、1600℃以上2000℃以下とすることが好ましく、1700℃以上1900℃以下とすることが更に好ましい。この加熱処理には、例えば図2及び図3に示す熱処理装置としての高温真空炉を用いることができる。以下、この高温加熱炉について説明する。
【0113】
図2に示すように、この高温真空炉11は、被処理物を1000℃以上2400℃以下の温度に加熱することが可能な本加熱室21と、被処理物を500℃以上の温度に予備加熱可能な予備加熱室22と、を備えている。予備加熱室22は本加熱室21の下方に配置され、本加熱室21に対して上下方向に隣接している。また、高温真空炉11は、予備加熱室22の下方に配置された断熱室23を備えている。この断熱室23は予備加熱室22に対して上下方向に隣接している。
【0114】
高温真空炉11は真空チャンバ19を備え、前記本加熱室21と予備加熱室22は、この真空チャンバ19の内部に備えられている。真空チャンバ19には真空形成装置としてのターボ分子ポンプ34が接続されて、例えば10-2Pa以下、望ましくは10-7Pa以下の真空を真空チャンバ19内に得ることができるようになっている。ターボ分子ポンプ34と真空チャンバ19との間には、ゲートバルブ25が介設される。また、ターボ分子ポンプ34には、補助のためのロータリーポンプ26が接続される。
【0115】
高温真空炉11は、予備加熱室22と本加熱室21との間で被処理物を上下方向に移動させることが可能な移動機構27を備えている。この移動機構27は、被処理物を支持可能な支持体28と、この支持体28を上下動させることが可能なシリンダ部29と、を備えている。シリンダ部29はシリンダロッド30を備え、このシリンダロッド30の一端が前記支持体28に連結されている。また、高温真空炉11は、真空度を測定するための真空計31、及び、質量分析法を行うための質量分析装置32が備えられる。
【0116】
前記真空チャンバ19は、被処理物を保管しておくための図略のストック室と、搬送路65を通じて接続されている。この搬送路65は、ゲートバルブ66によって開閉可能になっている。
【0117】
前記本加熱室21は、平面断面視で正六角形に形成されるとともに、真空チャンバ19の内部空間の上部に配置される。図3に示すように、本加熱室21の内部には、加熱ヒータとしてのメッシュヒータ33が備えられている。また、本加熱室21の側壁や天井には第1多層熱反射金属板41が固定され、この第1多層熱反射金属板41によって、メッシュヒータ33の熱を本加熱室21の中央部に向けて反射させるように構成されている。
【0118】
これにより、本加熱室21内において、加熱処理対象としての被処理物を取り囲むようにメッシュヒータ33が配置され、更にその外側に多層熱反射金属板41が配置されるレイアウトが実現されている。従って、被処理物を強力且つ均等に加熱し、1000℃以上2400℃以下の温度まで昇温させることができる。
【0119】
本加熱室21の天井側は第1多層熱反射金属板41によって閉鎖される一方、底面の第1多層熱反射金属板41には貫通孔55が形成されている。被処理物は、この貫通孔55を介して、本加熱室21と、この本加熱室21の下側に隣接する予備加熱室22との間で移動できるようになっている。
【0120】
前記貫通孔55には、移動機構27の支持体28の一部が挿入されている。この支持体28は、上から順に、第2多層熱反射金属板42、第3多層熱反射金属板43、及び第4多層熱反射金属板44を互いに間隔をあけて配置した構成となっている。
【0121】
3つの多層熱反射金属板42〜44は、何れも水平に配置されるとともに、垂直方向に設けた柱部35によって互いに連結されている。そして、第2多層熱反射金属板42及び第3多層熱反射金属板43とで挟まれたスペースに受け台36が配置され、この受け台36上に被処理物(例えば、前記単結晶SiC基板5)を載置できるように構成されている。本実施形態において、この受け台36はタンタルカーバイドにより構成されている。
【0122】
前記シリンダ部29のシリンダロッド30の端部にはフランジが形成されて、このフランジが第4多層熱反射金属板44の下面に固定される。この構成により、前記シリンダ部29を伸縮させることで、受け台36上の被処理物(単結晶SiC基板5)を前記3つの多層熱反射金属板42〜44とともに上下動させることができる。
【0123】
前記予備加熱室22は、本加熱室21の下側の空間を、多層熱反射金属板46で囲うことにより構成されている。この予備加熱室22は、平面断面視で円状となるように構成されている。なお、予備加熱室22内には、前記メッシュヒータ33のような加熱手段は備えられていない。
【0124】
図3に示すように、予備加熱室22の底面部においては、前記多層熱反射金属板46に貫通孔56が形成されている。また、予備加熱室22の側壁をなす多層熱反射金属板46において、前記搬送路65と対面する部位に通路孔50が形成されている。更に、前記高温真空炉11は、前記通路孔50を閉鎖可能な開閉部材51を備えている。
【0125】
予備加熱室22の下側で隣接する前記断熱室23は、上側が前記多層熱反射金属板46によって区画され、下側及び側部が多層熱反射金属板47によって区画されている。断熱室23の下側を覆う多層熱反射金属板47には貫通孔57が形成されて、前記シリンダロッド30を挿通できるようになっている。
【0126】
前記貫通孔57の上端部に相当する位置において、多層熱反射金属板47には収納凹部58が形成される。この収納凹部58には、前記支持体28が備える第4多層熱反射金属板44を収納可能になっている。
【0127】
多層熱反射金属板41〜44,46,47は何れも、金属板(タングステン製)を所定の間隔をあけて積層した構造になっている。前記開閉部材51においても、通路孔50を閉鎖する部分には、同様の構成の多層熱反射金属板が用いられている。
【0128】
多層熱反射金属板41〜44,46,47の材質としては、メッシュヒータ33の熱輻射に対して十分な加熱特性を有し、また、融点が雰囲気温度より高い物質であれば、任意のものを用いることができる。例えば、前記タングステンのほか、タンタル、ニオブ、モリブデン等の高融点金属材料や、タングステンカーバイド、ジリコニウムカーバイド、タンタルカーバイド、ハフニウムカーバイド、モリブデンカーバイド等の炭化物を、多層熱反射金属板41〜44,46,47として用いることができる。また、その反射面に、金やタングステンカーバイド等からなる赤外線反射膜を更に形成しても良い。
【0129】
そして、支持体28に備えられる多層熱反射金属板42〜44は、小さな貫通孔を多数有するパンチメタル構造のタングステン板を、当該貫通孔の位置を異ならせつつ所定の間隔をあけて積層した構造になっている。
【0130】
また、支持体28の最も上層に備えられる第2多層熱反射金属板42の積層枚数は、本加熱室21の第1多層熱反射金属板41の積層枚数よりも少なくなっている。
【0131】
この構成で、被処理物としての単結晶SiC基板5を、真空チャンバ19内の汚染を防止するために適宜の容器に収納する。なお、前記容器は後述の坩堝2であっても良いし、それ以外の容器であっても良い。そして、この状態で前記単結晶SiC基板5を搬送路65から真空チャンバ19の内部へ導入し、予備加熱室22内にある前記受け台36上に載置する。この状態で前記メッシュヒータ33を駆動すると、本加熱室21が1,000℃以上2,400℃以下の所定の温度(今回は約1800℃)に加熱される。またこのとき、前記ターボ分子ポンプ34の駆動によって、真空チャンバ19内の圧力は10-3以下、好ましくは10-5以下となるように調整されている。
【0132】
ここで前述したとおり、支持体28の第2多層熱反射金属板42の積層枚数は、前記第1多層熱反射金属板41の積層枚数よりも少なくなっている。従って、メッシュヒータ33が発生する熱の一部が第2多層熱反射金属板42を介して予備加熱室22に適度に供給(分配)され、予備加熱室22内の単結晶SiC基板5を500℃以上の所定の温度(例えば800℃)となるように予備加熱することができる。即ち、予備加熱室22にヒータを設置しなくても予備加熱を実現でき、予備加熱室22の簡素な構造が実現できている。
【0133】
上記の予備加熱処理を所定時間行った後、シリンダ部29を駆動し、支持体28を上昇させる。この結果、単結晶SiC基板5が下側から貫通孔55を通過して本加熱室21内に移動する。これにより、直ちに本加熱処理が開始され、本加熱室21内の単結晶SiC基板5を所定の温度(約1800℃)に急速に昇温させることができる。
【0134】
今回の処理では、前記単結晶SiC基板5を上記の温度に加熱した状態で約5〜10分間保持する。これにより、前記単結晶SiC基板5の表面の炭素分子が昇華し、図1(b)に示すように、単結晶SiC基板5の表面にカーボンナノチューブ状の炭化層5aが形成される。詳細に言えば、単結晶SiC基板5の表面のダメージ層のケイ素と一部の炭化ケイ素を気相プロセスで昇華させることで、炭素リッチな組成に換えて炭化層5aが形成され、ダメージ層が炭化層に改質される。
【0135】
なお、当初の単結晶SiC基板5の表面には、結晶欠陥を含む不安定サイトと、基板の表面の研磨傷や研磨時に発生したストレスを含むダメージ層が存在する。しかしながら、本実施形態では上記の炭化工程によって、当該ダメージ層を含む単結晶SiC基板5の表面部分を炭化により改質することができる。従って、前記不安定サイト及びストレスによる基板の表面平坦性への悪影響を良好に排除することができる。
【0136】
次に、この単結晶SiC基板5を所定の坩堝(嵌合容器)2に収容し、前述の高温真空炉11を用いて再び加熱処理を行う。
【0137】
図4(a)は坩堝を上方から撮影した外観写真であり、図4(b)は坩堝の断面顕微鏡写真である。図4(a)に示すように、坩堝2は互いに嵌合可能な上容器2aと下容器2bとを備えている。また、この坩堝2は、真空下で高温処理を行う場合に後述の炭素ゲッター効果を発揮するように構成されており、具体的には、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして備えている。
【0138】
更に詳細に説明すると、坩堝2は図4(b)に示すように、その最表層の部分にTaC層を形成し、このTaC層の内側にTa2C層を形成し、更にその内側に基材としてのタンタル金属を配置した構成となっている。なお、図5に、タンタルと炭素の結合状態の温度依存性を示す状態図を示す。この図5でも判るように、前記坩堝2は、炭素濃度が高いTaCを最も表層の部分に配置するとともに、炭素濃度が若干低いTa2Cを内側に配置し、更に内側に、炭素濃度がゼロである基材のタンタル金属を配置した構成となっている。
【0139】
今回の処理では、前記坩堝2の内部に、前記単結晶SiC基板5とともに、シリコン供給源としての図略のシリコンペレットを配置する。そして、当該坩堝2を前記高温真空炉11によって加熱する。このときの加熱温度は、1600℃以上2000℃以下とすることが好ましく、1700℃以上1900℃以下とすることが更に好ましい。
【0140】
そして、前記坩堝2を図3の鎖線で示すように高温真空炉11の予備加熱室22に配置し、約800℃に予備加熱する。次に、約1800℃まで予め昇温させておいた本加熱室21へ、予備加熱室22内の坩堝2をシリンダ部29の駆動によって移動させ、急速に昇温させる。今回の加熱処理では、この昇温させた状態を約10〜20分間保持することが好ましい。
【0141】
なお、本加熱室21での加熱時において、坩堝2内の雰囲気は約1Pa以下に維持されることが好ましい。また、上容器2aと下容器2bとを嵌め合わせたときの嵌合部分の遊びは、約2mm以下であることが好ましい。これによって、実質的な密閉状態が実現され、前記本加熱室21での加熱処理において坩堝2内のシリコン圧力を高めて外部圧力(本加熱室21内の圧力)よりも高い圧力とし、不純物がこの嵌合部分を通じて坩堝2内に侵入するのを防止することができる。
【0142】
この昇温により、坩堝2の内部空間がシリコンの飽和蒸気圧に保たれる。また、前記坩堝2は上述したように、その表面が炭化タンタル層に覆われており、当該炭化タンタル層(TaC層)が坩堝2の内部空間に露出する構成になっている。従って、上述のように真空下で高温処理を続ける限りにおいて、坩堝2は図6に示すように、炭化タンタル層の表面から連続的に炭素原子を吸着して取り込む機能を奏する。この意味で、本実施形態の坩堝2は炭素原子吸着イオンポンプ機能(イオンゲッター機能)を有するということができる。これにより、加熱処理時に坩堝2内の雰囲気に含まれているシリコン蒸気及び炭素蒸気のうち、炭素蒸気だけが坩堝2に選択的に吸蔵されるので、坩堝2内を高純度のシリコン雰囲気に保つことができる。
【0143】
以上のシリコン雰囲気での加熱処理により、前記単結晶SiC基板5の表面の炭化層5aにシリコン分子が吸着反応する。具体的には、前記炭化層5aの部分の炭素分子に過飽和シリコン分子が再結合し、炭化還元による成長反応が起こる。従って、加熱開始から5〜10分程度経過した時点で、図1(c)に示すように単結晶SiC基板5の表面が改質され、アモルファスSiC層5bを生成することができる。なお、本明細書では、前記アモルファスSiC層5bを、将来的に取り除かれる成長層という意味で「犠牲成長層」と称することがある。
【0144】
また、アモルファスSiC層5bが形成されてからも条件を変えずに更に5〜10分程度加熱を継続すると、当該アモルファスSiC層5bの一部において再結晶反応が起こり、図1(d)のように単結晶4H−SiC層(再結晶層、平坦化結晶層)5cを生成することができる。
【0145】
なお、前記犠牲成長層としての前記アモルファスSiC層5bは熱的に不安定であるので、加熱処理が継続されると、前記再結晶反応が起きなかった余剰のアモルファスSiC層5bが熱エッチングにより分解され、除去される。この昇華反応により、図1(e)のように、表面に単結晶4H−SiC層5cが形成された単結晶SiC基板5(表面改質単結晶SiC基板6p)を得ることができる。また、前記昇華反応によって、単結晶4H−SiC層5cの表面を原子レベルに平坦化することができる。
【0146】
なお、前記再結晶層5cの結晶多形は、元の単結晶SiC基板5の結晶多形の如何にかかわらず常に4Hとなる(単結晶4H−SiC層5c)。即ち、元となる単結晶SiC基板5として3C、4H、6Hの何れの結晶多形を用いた場合でも、当該基板の表面にできる単結晶の結晶多形を4Hとなるように制御することができる。従って、単結晶SiC基板5についてはコスト等を考慮して最適な結晶多形を選択しつつ、それとは独立に、上述したように広い禁制帯幅(3.3eV)等の優れた特性を有する単結晶4H−SiC層5cを形成することができる。
【0147】
図7には、結晶多形が異なる3種類の単結晶SiC基板のそれぞれについて上記の一連の工程を行ったときの結晶表面の分子結合の様子が示されている。なお、図7に示される結晶転移例1は単結晶3C−SiC基板の場合であり、結晶転移例2は単結晶4H−SiC基板の場合であり、結晶転移例3は6H−SiC基板の場合である。また、図7の(i)が処理前の状態(図1(a))、(ii)が再結晶工程(図1(b))にそれぞれ対応している。
【0148】
この図7に沿って説明すると、処理前の状態では、3種類の結晶多形の基板表面はそれぞれ異なる結晶構造を有している(図7(i))。しかしながら、炭化工程によってケイ素分子が昇華すると、ケイ素原子と炭素原子との結合が失われる。そして、前記アモルファスSiC形成工程によって炭素とケイ素が結び付いてアモルファスSiC層を形成し、更に再結晶工程を経ることで(図7(ii))、結晶多形が3C又は6Hの場合は4Hに転移し、結晶多形が4Hの単結晶からなる再結晶層が形成される。
【0149】
図8は、SiC基板表面にSiC単結晶を生成させる場合において、当該単結晶の生成方法及び反応温度に対する結晶多形の依存性を示している。この図8に示すように、非熱平衡状態を用いる手法、即ちCVD法(Chemical vapor deposit)によってSiC単結晶を生成させる場合、そのSiC単結晶の結晶多形は常に3Cになる。一方、近熱平衡状態を用いる手法としてのPVD法(Physical Vapor Deposition)による場合、反応温度にもよるが、生成されるSiC単結晶の結晶多形は6Hが支配的である。一方、本実施形態においては、PVD法と同じく近熱平衡状態を用いるが、その反応温度を1600℃以上2000℃以下とすることで、4Hの結晶多形を確実に実現することができる。なお、図8の「MSE」とはMSE法(準安定溶媒エピタキシー)を意味しており、詳細は後述する。
【0150】
図9は、単結晶4H−SiC基板の表面にSiC単結晶を生成させる場合において、当該単結晶の生成方法を代表的な反応温度別に並べて示したものである。この図9に示すように、結晶成長温度が1400℃以下の方法、例えば前記CVD法及びMBE法では、元となる基板の結晶多形が4Hであっても、成長するSiC結晶の結晶多形は全て3Cとなる。また、結晶成長温度が2200℃以上である方法、例えば前記PVD法では、元の基板の結晶多形と無関係に、成長するSiC結晶の結晶多形は6Hとなるのが一般的である。一方、本実施形態の手法を用いて結晶成長温度を例えば1800℃としてSiC単結晶を成長させた場合、結晶多形が4Hとなる。このように、本実施形態の方法は、結晶多形が4Hの単結晶を得られるという点で、他の育成方法に比較して有利である。
【0151】
なお、本実施形態の方法を用いて単結晶を成長させた場合、上述したとおり、元となる単結晶SiC基板5の結晶多形の如何にかかわらず、生成されるSiC単結晶の結晶多形(少なくとも最表層部分の結晶多形)はすべて4Hであることが確認されている。この理由の1つを示すと考えられるのが図10のグラフであり、このグラフは、SiC単結晶の各結晶多形の自由エネルギーの温度に対する変化を6Hに対する相対値として示したものである。この図10のグラフで示すとおり、4H−SiCの自由エネルギーが3C−SiC及び6H−SiCの自由エネルギーより低くなる温度領域が存在しており、これは温度制御を適宜行うことで4Hの結晶多形となるように(もっと言えば、特定の結晶多形となるように)表面を改質できる可能性を示唆している。
【0152】
また、図11は、単結晶6H−SiC基板の(000−1)C面に単結晶SiCを成長させる場合において、各結晶多形が発生する確率の温度による変化を示している。この図11のグラフに示すように、1600℃から2000℃までの温度領域において、4H−SiCの発生確率は6H−SiCの発生確率よりも高い値となっており、本実施形態において生成される再結晶層5cの結晶多形が4Hとなる理由を示唆しているものと考えられる。
【0153】
また、本実施形態の方法により得られた表面改質単結晶SiC基板6pの単結晶4H−SiC層5cは、結晶欠陥や研磨傷等がなく、その表面平坦度がサブナノオーダー(1nm未満)即ち原子レベルであり、表面平均粗さが1.0nm以下を実現することができる。また、単結晶4H−SiC層5cの表面は、ステップの高さが0.5nm(即ち、結晶多形が4H−SiCの場合の積層順位方向に対するユニットセル長)以下である面形状を実現することができる。また、上記の工程により、単結晶SiC基板5の表面に存在する不純物を原子レベルでクリーニングして除去することもできる。
【0154】
従って、この表面改質単結晶SiC基板6pは、例えば準安定溶媒エピタキシー(MSE)、化学気相堆積(CVD)、液相エピタキシー(LPE)等をはじめとした種々のエピタキシャル成長法のための種基板として用いることで、極めて高品質なエピタキシャル成長結晶を得ることができる。
【0155】
また、元となる単結晶SiC基板5(図1(a))は、化学機械研磨工程(CMP工程)が行われたものであっても良いし、この化学機械研磨工程を省略しても良い。即ち、化学機械研磨を行わなくても、上述の炭化工程等によって単結晶SiC基板5の表面が良好に平坦化されるので、表面改質単結晶SiC基板6pの製造コスト及び工数を低減することができる。ただし、化学機械研磨を行った後の単結晶SiC基板表面に対しても、当該化学機械研磨工程では除去が困難な表面内部の欠陥及び歪等の不安定領域を破壊して平坦化できるという意味で、本実施形態の一連の工程を行うことは有効である。
【0156】
次に、図12を参照して、前記表面改質単結晶SiC基板6pを種基板として液相エピタキシャル成長を行う方法について説明する。
【0157】
本実施形態の製造方法では、まず図12(f)に示すように、図1に示す工程を順に行って得られた表面改質単結晶SiC基板6pに対し炭素フィード基板7を積層させ、積層体8を構成する。炭素フィード基板7は、切欠き等がなく真円度の高い円形状に形成されており、その直径は単結晶SiC基板5の直径と同一とされている。また、前記炭素フィード基板7は前記単結晶4H−SiC層5cに対向するように配置され、両者がズレなく一致するよう正確に位置決めされる。
【0158】
前記炭素フィード基板7は単結晶SiCの液相エピタキシャル成長に必要な炭素原子を供給するための基板であり、4H−SiC単結晶よりも高い自由エネルギーを有するものが用いられる。具体的には、例えば、単結晶3C−SiC、多結晶4H−SiC、多結晶3C−SiC、アモルファスSiC、又はグラファイトを炭素フィード基板7として用いることができる。本実施形態では、炭素フィード基板7として多結晶3C−SiC基板を用いている。
【0159】
そして、この積層体8を、シリコン供給源としての図略のシリコンペレットとともに前記坩堝2に収容する。なお、シリコンの供給形態としては、前記シリコンペレットによることに代えて、例えば坩堝2の内壁に取り付けた板状のシリコンによって供給を行うようにしても良い。
【0160】
そして、この状態の坩堝2を、前述の高温真空炉11によって加熱処理する。このときの加熱温度は、1600℃以上2000℃以下とすることが好ましく、1700℃以上1900℃以下とすることが更に好ましい。
【0161】
具体的には、前記坩堝2を図3の鎖線で示すように高温真空炉11の予備加熱室22に配置し、約800℃に予備加熱する。次に、約1800℃まで予め昇温させておいた本加熱室21へ、予備加熱室22内の坩堝2をシリンダ部29の駆動によって移動させ、急速に昇温させる。この結果、前記シリコンペレットからシリコンが蒸発し、坩堝2の内部はシリコンの飽和蒸気圧に保たれる。
【0162】
なお、本加熱室21での加熱時において、坩堝2内の雰囲気は約1Pa以下に維持されることが好ましい。また、加熱時における坩堝2内のシリコン圧力を高め、外部圧力(本加熱室21内の圧力)よりも高い圧力とすることが好ましい。これにより、不純物が坩堝2内に侵入するのを防止することができる。
【0163】
以上により、図12(f)に示すように、単結晶4H−SiC層5cと炭素フィード基板7との間にシリコンの極薄溶融層4を介在させ、準安定溶媒エピタキシー法(MSE)による液相エピタキシャル成長を行わせることができる。なお、前記極薄溶融層4の原料とするために、前記積層体8における単結晶4H−SiC層5cと炭素フィード基板7との間に例えばシリコン微細粉末を予め配置しておくことが好ましい。
【0164】
ここで、表面改質単結晶SiC基板6p及び炭素フィード基板7は、直径が等しく且つ2インチ以上の大径に形成されており、互いに位置を合わせるように位置決めされている。従って、両者の間に極薄溶融層4を良好に保持させることができ、長時間の液相エピタキシャル成長が可能になる。
【0165】
更に、図12(f)の液相エピタキシャル成長工程で用いられる坩堝2は、前述のとおり、その表面の炭化タンタル層が炭素ゲッターとしての機能を果たす。従って、坩堝2の内部空間のシリコン蒸気及び炭素蒸気のうち、炭素のみが選択的に坩堝2の内部に吸蔵される。この結果、坩堝2内を高純度のシリコン雰囲気に保つことができ、良好な液相エピタキシャル成長が可能になる。
【0166】
以上の加熱処理により、図12(g)に示すように、前記単結晶4H−SiC層5cの表面にマイクロパイプ欠陥のない原子レベルに平坦な単結晶4H−SiCエピ成長層5dを形成し、エピ成長層付き単結晶SiC基板6qを得ることができる。
【0167】
本実施形態では、温度勾配がなく濃度勾配だけで成長の動力学が制御される準安定溶媒エピタキシー法を用いることで、エピタキシャル成長を自動的に安定化させることができ、高品質な単結晶4H−SiCエピ成長層5dを得ることができる。更に、系に温度勾配を形成する必要がないので、プロセスを行うための装置構成を簡素化でき、プロセス制御も簡単になる。加えて、極薄溶融層4の厚みが極めて小さいために炭素フィード基板7からの炭素の拡散が良好であり、温度上昇により前記極薄溶融層4(溶媒)に対する炭素の溶解度を上昇させる必要がないので、プロセスの低温化が容易である。
【0168】
次に、図13から図15までを参照して、第2実施形態に係る表面改質単結晶SiC基板及びエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法について説明する。なお、この第2実施形態及びそれ以降の説明において、前記第1実施形態と同一又は類似の部材には同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0169】
この第2実施形態では、まず、単結晶SiC基板5を用意し、その表面を適宜の気相プロセスによって平坦化しておく(図13(a))。この平坦化処理後の単結晶SiC基板5が図13(b)に示される。なお、この単結晶SiC基板5の結晶多形は、前記第1実施形態と同様に、3C−SiC、4H−SiC、6H−SiCの何れであっても良い。
【0170】
なお、図13(a)に対応する表面写真(前記平坦化処理前の基板表面を撮影した顕微鏡写真)が図15(a)に示されており、基板表面に生じている傷及び凹凸を観察することができる。なお、適宜の方法を用いて傷及び凹凸の深さを測定したところ、その結果は1μm程度であった。一方、図13(b)に対応する表面写真(平坦化処理後の基板表面を撮影した顕微鏡写真)が図15(b)に示されており、極めて良好な平坦度(具体的には、平坦度が0.25nm以下)の基板表面が得られていることが確認できる。
【0171】
次に、図13(c)で示すように、単結晶SiC基板5の表面の一部にマスク12を施すマスキング工程を行った上で、前述の炭化工程を行う。なお、この炭化工程を行う方法は図1(b)で説明した方法と全く同様であるので、説明を省略する。
【0172】
前記マスク12は、例えば炭化タンタルからなるものを用いることができる。本実施形態では、図13(c)で示すように、単結晶SiC基板5の縁部を一周するようにマスクを施し、表面の中央側領域を取り囲むようなマスク12を形成している。従って、前記炭化工程により、マスクが施されていない中央側領域に炭化層5aを形成することができる。ただし、マスク12は単結晶SiC基板5を縁取りするように形成されることに限定されず、任意の形状のマスクを形成することができる。
【0173】
次に、図13(d)で示すように、前述のアモルファスSiC形成工程を行う。なお、このアモルファスSiC形成工程を行う方法は図1(c)で説明した方法と全く同様であるので、説明を省略する。これにより、非マスク部分の炭化層5aが改質され、アモルファスSiC層5bを形成することができる。
【0174】
また、図13(d)の状態から加熱を継続することにより、図13(e)で示すように、アモルファスSiC層5bの一部を再結晶させて単結晶4H−SiC層5cを生成させることができる。この再結晶工程で、前記単結晶4H−SiC層5cは、前記マスキング工程における非マスク領域に形成された凹部13aの底部に生成される。
【0175】
更に加熱を継続することにより、前記アモルファスSiC層5bが熱分解されて除去される。更に前記マスク12を適宜の方法で除去することにより、図14(f)に示す表面改質単結晶SiC基板6rを得ることができる。なお、図14(f)に対応する表面写真(表面改質単結晶SiC基板6rの表面を撮影した写真)を図15(c)に示す。
【0176】
この表面改質単結晶SiC基板6rにおいては、その表面のうち前記マスク12が施されなかった部分に凹部13aが形成され、この凹部13aの底部に単結晶4H−SiC層5cが配置される。また、前記マスク12に相当する部分においては土手状ないし堤状の凸部13bが形成されている。従って、単結晶4H−SiC層5cの周囲が凸部13bで取り囲まれるような表面形状が実現されている。
【0177】
次に図14(g)に示すように、前記表面改質単結晶SiC基板6rに対して炭素フィード基板7を積層させて積層体8を構成し、これを坩堝2の内部に収容して、準安定溶媒エピタキシー法による液相エピタキシャル工程を行う。なお、坩堝2内において、前記表面改質単結晶SiC基板6rは前記凸部13bを上に向けるようにして配置される。この液相エピタキシャル工程を行う方法は、前記第1実施形態において図12(f)で説明した方法と全く同様であるので、説明を省略する。
【0178】
この液相エピタキシャル工程において、前記極薄溶融層4は前記凹部13aの内部に貯留されるような形となり、外部への流出は凸部13bによって阻止される。特に、前記マスキング工程において基板表面の中央領域を取り囲むように(閉じた形状の)マスク12を形成したことにより、極薄溶融層4が前記凸部13bによって閉じ込められることになる。従って、積層体8の側部からの極薄溶融層4の流失を抑制でき、長時間の液相エピタキシャル成長が可能になる。これにより、大口径の単結晶4H−SiCエピ成長層5dを容易に形成することができる。この実施形態は特に、表面改質単結晶SiC基板6r及び炭素フィード基板7が小さい場合や非円形の板状である場合にも、両者の間に極薄溶融層4を長時間保持できる点で好適である。
【0179】
以上の工程により、図14(h)に示すように、凹部13a内において単結晶4H−SiC層5c上に単結晶4H−SiCエピ成長層5dを形成し、エピ成長層付き単結晶SiC基板6sを得ることができる。
【0180】
次に、図16から図19までを参照して、第3実施形態に係る表面改質単結晶SiC基板及びエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法について説明する。
【0181】
本実施形態では、まず前述の実施形態と同様に、結晶多形が3C−SiC、4H−SiC、又は6H−SiCである単結晶SiC基板5を用意する。そして図16(a)に示すように、この単結晶SiC基板5の表面に、当該表面を複数の領域に分割するように複数本の溝14を形成する(溝加工工程)。
【0182】
本実施形態は、この溝加工をレーザによって行うこととしている。具体的には、単結晶SiC基板5が有する800mm×800mmの表面領域に、大気中でYAGレーザ(出力13W)を照射し、これによって直線状の溝14を10mm間隔で縦横に形成した。前記レーザのスポット径は50μmであり、一往復の照射走査により形成された溝14の溝幅は60μm、溝深さは32μmであった。レーザの照射走査回数を増やし照射走査位置を必要に応じて広げることで、溝の深さ及び溝の幅を好ましい値に制御できることが確認できた。なお、この溝加工がされた基板表面の一例を撮影した写真を図18に示す。
【0183】
なお、溝加工をレーザによって行うことに限定されず、例えば基板表面に所定のマスクを施し、マスク以外の部分を気相エッチング法でエッチングすることで溝を形成しても良い。
【0184】
この溝加工工程によって溝14を形成した後は、前述の第1実施形態(図1)と全く同様に、炭化工程、アモルファスSiC形成工程、及び再結晶工程を行う。なお、炭化工程後の基板の様子が図16(b)に、アモルファスSiC形成工程後の様子が図16(c)に、再結晶工程後の様子が図16(d)にそれぞれ示される。そして、残存しているアモルファスSiC層5bを熱分解させて除去することにより、表面に単結晶4H−SiC層5cが形成されるとともに溝14を有する表面改質単結晶SiC基板6tを得ることができる。
【0185】
次に、図17(f)に示すように、前記表面改質単結晶SiC基板6tに炭素フィード基板7を積層して坩堝2内に収容し、前述と同様に準安定溶媒エピタキシー法によるエピタキシャル成長を行う。すると図17(g)に示すように、溝14を形成した部分以外の表面において単結晶4H−SiCエピ成長層5dが生成される。以上の工程を行うことにより、図17(h)に示すようなエピ成長層付き単結晶SiC基板6uを得ることができる。このエピ成長層付き単結晶SiC基板6uは、単結晶4H−SiC層5cに積層されるとともに複数領域に分割された単結晶4H−SiCエピ成長層5dを有している。
【0186】
なお、図17(g)の液相エピタキシャル工程において、前記溝14の部分では液相エピタキシャル成長が行われない。このことに伴い、前記単結晶4H−SiCエピ成長層5dが成長するのに伴って、前記単結晶SiC基板5の表面に含まれている欠陥(具体的には螺旋転位や基底面転位及びC軸方位欠陥等)が伝播する方向が、基板の厚み方向と垂直な方向に近づくように曲げられる。そして、欠陥の伝播は、最終的には単結晶4H−SiCエピ成長層5dの側面(前記溝14に対応する部分)で終端されることになる。従って、単結晶4H−SiCエピ成長層5dの表面に現れる欠陥を良好に抑制して高品質の単結晶4H−SiCエピ成長層5dを得ることができ、歩留まりの向上を実現できる。
【0187】
ここで、前述の溝形成工程で形成される溝14の深さは、50μm以上であることが好ましい。溝14の深さが50μmを下回ると、液相エピタキシャル成長工程において溝14の内部に成長反応が生じる場合がある。
【0188】
なお、エピ成長層付き単結晶SiC基板6uを前記溝14に沿って切断することにより、1枚の基板を有効利用して多数の高品質の半導体チップを製造することができる。図19(a)及び図19(b)には、円形の単結晶SiC基板5に複数の溝14を形成して、溝14に囲まれた領域に単結晶4H−SiCエピ成長層5dを形成した例が示されている。この例においては、前記溝14に沿ってエピ成長層付き単結晶SiC基板6uを切断することで、半導体チップを得ることになる。
【0189】
次に図20を参照して、前記第3実施形態の第1変形例を説明する。図20(a)に示すように、この第1変形例において前記溝14は、(単結晶SiC基板5ではなく)炭素フィード基板7側に形成される。この溝加工は、炭素フィード基板7の前記単結晶4H−SiC層5cに対向する面を複数に分割するように行われる。一方、単結晶SiC基板5には溝14を形成せず、前述の第1実施形態(図1)の工程を同様に行うことにより、前記表面改質単結晶SiC基板6pを製造する。
【0190】
そして、図20(b)に示すように、炭素フィード基板7と前記表面改質単結晶SiC基板6pとを積層させ、準安定溶媒エピタキシー法による液相エピタキシャル成長工程を行わせる。このとき、炭素フィード基板7は、前記溝14を形成した面が表面改質単結晶SiC基板6pの前記単結晶4H−SiC層5cに対向するように配置される。
【0191】
なお、前述の炭素フィード基板7に形成される溝14は、その溝幅が100μm以上であり、深さが50μm以上であることが好ましい。上記の条件を満たさない場合、図20(c)の単結晶4H−SiCエピ成長層5dの形状が明瞭に現れないおそれがある。
【0192】
以上により、図20(c)に示すように、前記溝14を形成した部分以外の領域に単結晶4H−SiCエピ成長層5dを有するエピ成長層付き単結晶SiC基板6vを得ることができる。
【0193】
また、図21の第2変形例に示されるように、単結晶SiC基板5及び炭素フィード基板7の双方に溝14を形成しても良い。この第2変形例では、図16の工程を行うことにより、前記第3実施形態と同様の溝付きの表面改質単結晶SiC基板6tを製造する。一方で、炭素フィード基板7には、前記第1変形例(図20(a))と同様に溝14を形成しておく。
【0194】
そして、表面改質単結晶SiC基板6tと炭素フィード基板7とを、溝14を形成した面がそれぞれ向かい合うように積層させ、準安定溶媒エピタキシー法による液相エピタキシャル成長工程を行わせる。以上により、図21(b)に示すように、前記溝14を形成した部分以外の位置に単結晶4H−SiCエピ成長層5dを有するエピ成長層付き単結晶SiC基板6wを得ることができる。
【0195】
以上に示した2つの変形例に係るエピ成長層付き単結晶SiC基板6v,6wは、前述の第3実施形態と同様に、単結晶4H−SiCエピ成長層5dの表面に現れる欠陥を良好に抑制することができる。従って、高品質の単結晶4H−SiCエピ成長層5dを得ることができ、歩留まりの向上を実現できる。
【0196】
次に、図22から図25までを参照して、第4実施形態に係る表面改質単結晶SiC基板及びエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法について説明する。
【0197】
本実施形態では、まず前述の実施形態と同様に、結晶多形が3C−SiC、4H−SiC、又は6H−SiCである単結晶SiC基板5を用意する。そして図16(a)に示すように、この単結晶SiC基板5の表面から突出させるようにして複数の脚部16を形成する。この脚部16は微細な円柱状に形成されており、その軸方向が前記単結晶SiC基板5の厚み方向と平行となるように配置される。ただし、脚部16は円柱状に限定されず、その断面形状は例えば楕円状、多角形状等であっても良い。
【0198】
図16(b)は、図16(a)の状態の単結晶SiC基板5の表面を示す平面図である。この図16(b)に示すように、前記脚部16は、単結晶SiC基板5の表面の中央の円形の領域の内部に、前記脚部16を縦横にそれぞれ等間隔で配置している。この脚部16の高さは、例えば50μm程度に形成することができる。また、この脚部16は、当該脚部16の部分を残して前記単結晶SiC基板5の表面を除去する加工を施すことで形成することができる。
【0199】
次に、前記脚部16を形成した単結晶SiC基板5に対して、前述の実施形態と同様に、炭化工程、アモルファスSiC形成工程、及び再結晶工程を行う。これらの工程を行う方法は、例えば第1実施形態と全く同様であるので、説明を省略する。以上により、前記脚部16のそれぞれの先端面に単結晶4H−SiC層5cを形成して、図22(c)のような表面改質単結晶SiC基板6xを得ることができる。
【0200】
続いて、前記表面改質単結晶SiC基板6xに対し炭素フィード基板7を図22(d)に示すように積層する。前記炭素フィード基板7は、前記脚部16の先端面に対向する第1壁7aと、前記表面改質単結晶SiC基板6xの周縁部分に対向する第2壁7bと、を備えている。前記第2壁7bは円筒状に形成されており、炭素フィード基板7を表面改質単結晶SiC基板6xに対向させたとき、前記脚部16の形成領域の周囲を取り囲むように備えられている。また、本実施形態では炭素フィード基板7は多結晶3C−SiCにより構成されており、その結晶方向は前記表面改質単結晶SiC基板6xの厚み方向に沿うように配向されている。更に、前述の実施形態では、例えば図17(f)及び図17(g)に示すように炭素フィード基板7は表面改質単結晶SiC基板6tに対して上部に配置されているが、本実施形態では図22(d)に示すように、炭素フィード基板7は表面改質単結晶SiC基板6xに対して下部に配置されている。
【0201】
この構成で準安定溶媒エピタキシー法による液相エピタキシャル成長工程を行わせることにより、図23(e)に示すように、複数の脚部16の先端面に架橋するように単結晶4H−SiCを液相エピタキシャル成長させたエピ成長層付き単結晶SiC基板6yを得ることができる。図23(f)にはエピ成長層付き単結晶SiC基板6yを基板表面側から見た平面図が示され、この図23(f)に示すように、前記単結晶4H−SiCエピ成長層5dは全ての脚部16の先端面を覆うように一面に形成される。これは、前記単結晶4H−SiCエピ成長層5dが、基板の厚み方向に成長するとともに、当該厚み方向に垂直な方向にも良好に成長して炭素フィード基板7bにまで成長していることを意味している。
【0202】
図23(f)に示すように、全体として見た場合に単結晶4H−SiCエピ成長層5dは円形状に成長する。なお、本来は単結晶4H−SiCエピ成長層5dは正六角形に成長し、その辺に対応する縁部には(1−100)ファセット面が現れる。ただし、本実施形態においては単結晶4H−SiCエピ成長層5dの成長は、最終的には前記炭素フィード基板7の第2壁7bの内壁によって止められる。従って、第2壁7bの内壁形状に基づいて、最終的な単結晶4H−SiCエピ成長層5dの形状を円形に制御することができる。
【0203】
なお、基板の厚み方向に垂直な方向に液相エピタキシャル成長している部分においては、脚部16の先端面に含まれる各種の欠陥及びダメージは、当該単結晶4H−SiCエピ成長層5dに殆ど影響しない。従って、良好な品質の単結晶4H−SiCエピ成長層5dを得ることができる。
【0204】
以下、図24及び図25を用いて、本実施形態の特徴を説明する。図24(a)には処理前の単結晶SiC基板5が示されており、直線で模式的に示すように、当該単結晶SiC基板5の内部には前述のとおり相当の数の欠陥が存在する。この欠陥とは、例えば螺旋転位、基底面転位、及びC軸方位欠陥等である。
【0205】
この点、本実施形態では、前記単結晶SiC基板5に対して図24(b)に示すように脚部16を加工した上で、炭化工程、アモルファスSiC形成工程、及び再結晶工程を行う。これにより、前記脚部16のそれぞれの先端面に単結晶4H−SiCが形成される。
【0206】
そして、前記準安定溶媒エピタキシー法による液相エピタキシャル成長工程を行うことにより、脚部16の先端面の単結晶4H−SiC層5cに対し単結晶4H−SiCエピ成長層5dを、基板の厚み方向及びそれに垂直な方向に成長させる。なお、単結晶4H−SiCエピ成長層5dが基板の厚みに垂直な方向(水平方向)に成長している部分については、前記基板の内部に存在する欠陥が伝播しないので、ほぼ無欠陥の単結晶4H−SiCエピ成長層5dが得られる。
【0207】
この液相エピタキシャル成長工程において、前記脚部16の先端面に含まれる欠陥が伝播される方向は、単結晶4H−SiCエピ成長層5dの成長に伴って、基板の厚みと垂直な方向に近づくように曲げられる。そして、液相エピタキシャル成長工程を所定時間継続すると、互いに隣り合う脚部16において、先端面の単結晶4H−SiCエピ成長層5d同士が互いに結合する(図24(d))。この架橋の結果、図23(e)及び図23(f)で示すような大きな単結晶4H−SiCエピ成長層5dを形成することができる。
【0208】
また、前記欠陥の伝播は、単結晶4H−SiCエピ成長層5d同士が互いに接合する箇所において終端される。即ち、互いに隣接する脚部16上の単結晶4H−SiCエピ成長層5d同士が結合するとき、その結合部分(継目)に新しい欠陥が現れることになる。しかしながら、この結合部分には前記脚部16(導電層)が位置しないので、当該結合部分が下地の基板と直接接触することがない。従って、図25(a)の領域Aで囲った部分の拡大図である図25(b)に示すように、単結晶4H−SiCエピ成長層5d同士の結合部分の欠陥を電流が通過したとしても、当該電流が下地側の単結晶SiC基板5に直接伝導することはない。即ち、単結晶4H−SiCエピ成長層5dに生じる欠陥を脚部16と脚部16の中間の位置に集めることで、半導体回路への悪影響を効果的に抑制することができる。これにより、高耐圧パワーデバイスの製造に好適なエピ成長層付き単結晶SiC基板6yを提供することができ、歩留まりの向上が実現できる。
【0209】
また、図24(d)の構成は、図25(c)に示すように、多数の小面積の伝導領域を並列に接続したものと捉えることができる。このように考えた場合、個々の単結晶4H−SiCエピ成長層5dはそれぞれ無欠陥領域を備えているため、例えば高耐圧半導体ウエハとしての用途に好適である。
【0210】
次に、図26から図28までを参照して、第5実施形態に係る単結晶SiC成長用種基板及び単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法について説明する。
【0211】
本実施形態では前述の実施形態と異なり、多結晶3C−SiC基板の表面に単結晶4H−SiC層を形成するものである。具体的には、図26(a)に示すような多結晶SiC基板17を用意し、この多結晶SiC基板17を高真空環境下で加熱することで、前記多結晶SiC基板17の表面に相当する各結晶の端部に炭化層17aを形成する(図26(b))。
【0212】
次に、前記炭化層17aをアモルファスSiC層17bに改質させるために、例えば前述の第1実施形態におけるアモルファスSiC形成工程と同様の処理を行う。なお、アモルファスSiC形成工程後の多結晶SiC基板17が図26(c)に示されている。
【0213】
更に、前記アモルファスSiC層17bを再結晶させて単結晶4H−SiC層(再結晶層、平坦化結晶層)17cとするために、前述の第1実施形態における再結晶工程と同様の処理を行う。なお、再結晶工程後の多結晶SiC基板17が図26(d)に示される。
【0214】
以上の一連の工程により、図26(d)に示すような単結晶SiC成長用種基板18pが得られる。この単結晶SiC成長用種基板18pにおいては、多結晶SiC基板17の表面に相当する各結晶の端部に単結晶4H−SiC層17cが形成される。
【0215】
次に、図27(e)に示すように、単結晶SiC成長用種基板18pに対して炭素フィード基板7を対向させるように積層して積層体8を形成し、前述の実施形態と同様に、準安定溶媒エピタキシー法によるエピタキシャル成長を行う。
【0216】
すると、前記多結晶SiC基板17の(−1−1−1)C面での反応の場合は、単結晶4H−SiC層17cから、前記多結晶SiC基板17の厚み方向及び厚みに垂直な方向に単結晶4H−SiC成長層17dが形成される(図27(f)及び図28(a)を参照)。一方、(111)Si面の反応の場合においても、単結晶4H−SiC層17cから、前記多結晶SiC基板17の厚み方向及び厚みに垂直な方向に単結晶4H−SiC成長層17dが形成される(図27(g)及び図28(b)を参照)。
【0217】
以上のようにして、あたかも茸が群生するように形成された単結晶4H−SiC成長層17dを有する多結晶SiC基板(単結晶成長層付き多結晶SiC基板18q)を製造することができる。
【0218】
次に、図29及び図30を参照して、第6実施形態に係る単結晶SiC成長用種基板及び単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法について説明する。
【0219】
本実施形態では前記第5実施形態と異なり、図29(a)に示すように、多結晶SiC基板17の表面の中央の微小領域に真空中で電子ビームを照射して加熱処理する。これにより、多結晶SiC基板17の表面の前記微小領域に炭化層17aを形成させるように構成されている。
【0220】
次に、前述の第1実施形態と同様にアモルファスSiC形成工程及び再結晶工程を行う。なお、アモルファスSiC形成工程後の多結晶SiC基板17が図29(b)に示され、再結晶工程後の様子が図29(c)に示される。
【0221】
続いて、前記単結晶4H−SiC層17cが形成された部分(前記微小領域)を残すようにして、前記多結晶SiC基板17の表面を所定の深さだけ除去する加工を行う。この加工処理は、例えばレーザ加工によって行うことができる。この結果、前記単結晶4H−SiC層17cが相対的に突出したような表面形状の単結晶SiC成長用種基板18rを得ることができる。
【0222】
次に、前記単結晶SiC成長用種基板18rに対し炭素フィード基板7を対向させるように積層し、図29(e)のように坩堝2に収納して加熱し、前記準安定溶媒エピタキシー法による液相エピタキシャル成長工程を行う。すると、突出形状の先端に形成された単結晶4H−SiC層17cと炭素フィード基板7との間の距離が著しく小さくなる。
【0223】
ここで一般的に、液相エピタキシャル成長速度は炭素フィード基板との距離に反比例するので、炭素フィード基板7は、前記単結晶4H−SiC層17cと対向する部分が局所的に大量に炭素を供給することになる。この結果、炭素フィード基板7に穴が形成されるので、当該穴の内部に前記突出形状の先端の単結晶4H−SiC層17cが入り込む形となり、炭素フィード基板7の炭素供給能力を有効に利用して液相エピタキシャル成長を効率的に行うことができる。
【0224】
本実施形態では、図30(f)及び図30(g)に示すように、単結晶4H−SiC層17cの部分から単結晶4H−SiC成長層17dが基板の厚み方向に成長するとともに、当該厚み方向と垂直な方向にも良好に成長している。そして、最終的には図30(g)に示すように、前記炭素フィード基板7の全体を置き換えるように単結晶4H−SiC成長層17dを形成することができる。
【0225】
以上の一連の工程を行うことにより、基板の表面を単結晶4H−SiC成長層17dで覆った構成の単結晶成長層付き多結晶SiC基板18sを製造することができる。
【0226】
次に、図31から図33までを参照して、第7実施形態に係る単結晶SiC成長用種基板及び単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法を説明する。
【0227】
本実施形態では先ず、図31(a)に示すように、前記多結晶SiC基板17の表面を分割するように複数の領域を設定し、この領域のそれぞれに凹部20を形成する。この凹部20の加工は、例えばレーザ加工によって行うことができる。なお、凹部20を形成しなかった部分は相対的に突出する凸部3となる。凹部20は平面視で正方形に形成されるとともに、前記凸部3は細長い直線状に形成されている。
【0228】
次に、図31(b)に示すように、各凹部20において内底面のほぼ中央に位置する微小領域に真空中で電子ビームを照射し、当該微小領域を加熱して炭化し、炭化層17aを形成させる。更に、図31(c)に示すように、前記炭化層17aを改質してアモルファスSiC層17bを形成する。更に、前記アモルファスSiC層17bの一部を再結晶させることにより単結晶4H−SiC層17cを生成するとともに、残りのアモルファスSiC層17bを熱分解して除去する。これにより、前記凹部20の内底面の中央に単結晶4H−SiC層17cが局所的に形成された単結晶SiC成長用種基板18tが得られる。
【0229】
続いて、図31(e)に示すように、前記単結晶SiC成長用種基板18tと炭素フィード基板7とを互いに対向させるように積層させ、準安定溶媒エピタキシー法による液相エピタキシャル成長工程を行う。これにより、前記単結晶4H−SiC層17cの部分から単結晶4H−SiC成長層17dが基板の厚み方向に成長するとともに、基板の厚み方向と垂直な方向にも良好に成長している。そして、最終的には図32(f)に示すように、前記凹部20をほぼ埋めるようにして単結晶4H−SiC成長層17dが形成される。以上により、単結晶成長層付き多結晶SiC基板18uを製造することができる。
【0230】
なお、単結晶成長層付き多結晶SiC基板18uを前記凹部20の境界に沿って切断することにより、1枚の基板を有効利用して多数の高品質の半導体チップを製造することができる。図33(a)及び図33(b)には、円形の単結晶SiC基板5の表面領域を分割するように複数の凹部20を形成するとともに、当該凹部20の境界には凸部3を形成して、前記凹部20に単結晶4H−SiCエピ成長層5dを形成した例が示されている。この例においては、前記凸部3に沿って単結晶成長層付き多結晶SiC基板18uを切断することで、半導体チップを得ることになる。
【0231】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、以上の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0232】
嵌合容器としての坩堝2は、炭化タンタルに限定されない。例えばタンタル以外の金属であって、炭素元素に対するゲッター効果を有し、SiC基板に対して高温接合せず、2000℃程度の温度に対する耐熱性を有し、更に超高真空材料であるものがあれば、当該金属からなる坩堝2に変更することができる。
【0233】
同様に、前記マスク12の材料は炭化タンタルによるものに限られず、高温環境でSiC基板に高温接合しない材料であって耐熱性を有する超高真空材料であれば、当該材料によるマスクに変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0234】
【図1】第1実施形態に係る表面改質単結晶SiC基板の製造方法を示す工程図。
【図2】表面改質単結晶SiC基板を製造するための加熱処理に用いられる高温真空炉を示す模式図。
【図3】高温真空炉の本加熱室及び予備加熱室を詳細に示す断面図。
【図4】炭素ゲッター効果を有する坩堝の外観写真及び断面写真。
【図5】タンタルと炭素の結合状態の温度依存性を示す状態図。
【図6】炭素ゲッター効果を説明する模式図。
【図7】元の基板の結晶多形別に結晶転位の様子を示す説明図。
【図8】SiC基板表面にSiC単結晶を生成させる場合において、当該単結晶の生成方法及び反応温度に対する結晶多形の依存性を示す図。
【図9】単結晶4H−SiC基板の表面にSiC単結晶を生成させる場合において、当該単結晶の生成方法を代表的な反応温度別に並べて示した説明図。
【図10】SiC単結晶の各結晶多形の自由エネルギーの温度変化を6Hに対する相対値として示したグラフ。
【図11】単結晶6H−SiC基板の(0001)Si面又は(000−1)C面に単結晶SiCを成長させる場合において、各結晶多形が発生する確率の温度による変化を示すグラフ。
【図12】前記表面改質単結晶SiC基板に対して液相エピタキシャル成長工程を行うことにより、エピ成長層付き単結晶SiC基板を製造する様子を示す工程図。
【図13】第2実施形態に係る表面改質単結晶SiC基板の製造方法を示す工程図。
【図14】前記表面改質単結晶SiC基板に対して液相エピタキシャル成長工程を行うことにより、エピ成長層付き単結晶SiC基板を製造する様子を示す工程図。
【図15】基板の表面平坦化前後の顕微鏡写真、及び、表面改質単結晶SiC基板の表面を撮影した写真。
【図16】第3実施形態に係る表面改質単結晶SiC基板の製造方法を示す工程図。
【図17】前記表面改質単結晶SiC基板に対して液相エピタキシャル成長工程を行うことにより、エピ成長層付き単結晶SiC基板を製造する様子を示す工程図。
【図18】溝加工後の基板の表面を撮影した写真。
【図19】エピ成長層付き単結晶SiC基板の一例を示す平面図及び断面図。
【図20】第3実施形態の第1変形例に係るエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法を示す工程図。
【図21】第3実施形態の第2変形例に係るエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法を示す工程図。
【図22】第4実施形態に係る表面改質単結晶SiC基板の製造方法を示すとともに、当該表面改質単結晶SiC基板に対する液相エピタキシャル成長工程を示す工程図。
【図23】第4実施形態のエピ成長層付き単結晶SiC基板の断面図及び平面図。
【図24】第4実施形態における単結晶4H−SiCエピ成長層の生成過程を示す説明図。
【図25】第4実施形態の効果を説明する図。
【図26】第5実施形態に係る単結晶SiC成長用種基板の製造方法を示す工程図。
【図27】前記単結晶SiC成長用種基板に対して液相エピタキシャル成長工程を行うことにより、単結晶成長層付き多結晶SiC基板を製造する様子を示す工程図。
【図28】単結晶成長層付き多結晶SiC基板における単結晶4H−SiCエピ成長層を示す顕微鏡写真。
【図29】第6実施形態に係る単結晶SiC成長用種基板の製造方法を示すとともに、当該単結晶SiC成長用種基板に対する液相エピタキシャル成長工程を示す工程図。
【図30】液相エピタキシャル成長工程における単結晶4H−SiCエピ成長層の成長の様子及び単結晶成長層付き多結晶SiC基板を示す説明図。
【図31】第7実施形態の単結晶SiC成長用種基板の製造方法を示すとともに、当該単結晶SiC成長用種基板に対する液相エピタキシャル成長工程を示す工程図。
【図32】液相エピタキシャル成長工程における単結晶4H−SiCエピ成長層の成長の様子及び単結晶成長層付き多結晶SiC基板を示す説明図。
【図33】単結晶成長層付き多結晶SiC基板の一例を示す平面図及び断面図。
【符号の説明】
【0235】
2 坩堝(嵌合容器)
4 極薄溶融層
5 単結晶SiC基板
5a 炭化層
5b アモルファスSiC層
5c 単結晶4H−SiC層(再結晶層、平坦化結晶層)
5d 単結晶4H−SiCエピ成長層
6p 表面改質単結晶SiC基板
6q エピ成長層付き単結晶SiC基板
7 炭素フィード基板
8 積層体
11 高温真空炉
12 マスク
17 多結晶SiC基板
17a 炭化層
17b アモルファスSiC層
17c 単結晶4H−SiC層
17d 単結晶4H−SiC成長層
18p 単結晶SiC成長用種基板
18q 単結晶成長層付き多結晶SiC基板
21 加熱室
22 予備加熱室
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶3C−SiC、単結晶4H−SiC、又は単結晶6H−SiCの何れかよりなる単結晶SiC基板を高真空環境において加熱して、当該単結晶SiC基板の表面に炭化層を形成させる炭化工程と、
炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記単結晶SiC基板を収容し、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記炭化層をシリコンと反応させてアモルファスSiCからなる犠牲成長層を生成させるアモルファスSiC形成工程と、
炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記単結晶SiC基板を収容した状態で、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの少なくとも一部を再結晶させて単結晶4H−SiC層を生成させる再結晶工程と、
を含むことを特徴とする表面改質単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の表面改質単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記再結晶工程において、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの一部を再結晶させて前記単結晶4H−SiC層を生成させる一方、残りのアモルファスSiCを熱エッチングにより除去することを特徴とする表面改質単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の表面改質単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において、前記単結晶SiC基板は1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の表面改質単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程で行われる加熱処理は、
前記単結晶SiC基板を収容した嵌合容器を、予備加熱室において800℃以上の温度で加熱する予備加熱工程と、
予め1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されている本加熱室に前記予備加熱室から前記嵌合容器を移動することで、前記単結晶SiC基板を1600℃以上2000℃以下の温度で加熱する本加熱工程と、
を含むことを特徴とする表面改質単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の表面改質単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記炭化工程において、前記単結晶SiC基板は10-3Pa以下の減圧下で加熱されることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の表面改質単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において、加熱時の前記嵌合容器の内部圧力は1Pa以下に維持されることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6までの何れか一項に記載の表面改質単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において使用される嵌合容器は、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして備えることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7までの何れか一項に記載の表面改質単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記単結晶SiC基板は単結晶3C−SiCよりなり、前記炭化工程において前記炭化層は(001)Si面又は(00−1)C面に形成されることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項9】
請求項1から7までの何れか一項に記載の表面改質単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記単結晶SiC基板は単結晶4H−SiC又は単結晶6H−SiCよりなり、前記炭化工程において前記炭化層は(0001)Si面又は(000−1)C面に形成されることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9までの何れか一項に記載の表面改質単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記炭化工程において、前記炭化層は(11−20)方向のオフ角が1°以下である面に形成されることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項11】
請求項1から7までの何れか一項に記載の製造方法で製造された表面改質単結晶SiC基板の前記単結晶4H−SiC層に対し炭素フィード基板を対向させて積層体を構成する積層工程と、
前記積層体を、炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に収容する収容工程と、
前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら、前記表面改質単結晶SiC基板の前記単結晶4H−SiC層と前記炭素フィード基板との間にシリコンの極薄溶融層を介在させつつ加熱することで、前記単結晶4H−SiC層に準安定溶媒エピタキシー法によって単結晶4H−SiCを液相エピタキシャル成長させ、単結晶4H−SiCエピ成長層を形成する液相エピタキシャル成長工程と、
を含むことを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記液相エピタキシャル成長工程において、前記単結晶SiC基板は1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記液相エピタキシャル成長工程で行われる加熱処理は、
前記単結晶SiC基板を収容した嵌合容器を、予備加熱室において800℃以上の温度で加熱する予備加熱工程と、
予め1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されている本加熱室に前記予備加熱室から前記嵌合容器を移動することで、前記単結晶SiC基板を1600℃以上2000℃以下の温度で加熱する本加熱工程と、
を含むことを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項14】
請求項11から13までの何れか一項に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記液相エピタキシャル成長工程において、加熱時の前記嵌合容器の内部圧力は1Pa以下に維持されることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項15】
請求項11から14までの何れか一項に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記エピタキシャル成長工程において使用される嵌合容器は、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして備えることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項16】
請求項11から15までの何れか一項に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記炭素フィード基板は、単結晶3C−SiC、多結晶4H−SiC、多結晶3C−SiC、アモルファスSiC、グラファイトの少なくとも何れかを含む基板であることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項17】
請求項11から16までの何れか一項に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記表面改質単結晶SiC基板の製造においては、前記炭化工程の前に、前記単結晶SiC基板の表面の一部にマスクを施すマスキング工程が行われ、
前記再結晶工程において、前記単結晶4H−SiC層は、前記マスキング工程における非マスク領域に形成されている凹部の底部に生成されることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項18】
請求項17に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記マスキング工程において、前記マスクは前記単結晶SiC基板の表面において一部の領域を取り囲むように施されることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項19】
請求項17又は18に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記マスキング工程において、前記マスクは炭化タンタルによりなることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項20】
請求項11から19までの何れか一項に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記表面改質単結晶SiC基板の製造においては、前記炭化工程の前に、前記単結晶SiC基板の表面を複数の領域に分割するように当該単結晶SiC基板に溝加工を施す溝形成工程が行われることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項21】
請求項11から20までの何れか一項に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記積層工程の前に、前記炭素フィード基板において前記単結晶4H−SiC層に対向する面を複数の領域に分割するように当該炭素フィード基板に溝加工を施す炭素フィード側溝形成工程が行われることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項22】
請求項20又は21に記載の製造方法で製造されたエピ成長層付き単結晶SiC基板を前記溝に沿って切断する工程を含むことを特徴とする半導体チップの製造方法。
【請求項23】
請求項20から22までの何れか一項に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記溝加工はレーザ加工により行われることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項24】
請求項11から19までの何れか一項に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記表面改質単結晶SiC基板の製造においては、前記炭化工程の前に、前記単結晶SiC基板の表面に複数の柱状の脚部を形成する脚部形成工程が行われ、
前記再結晶工程では、前記脚部のそれぞれの先端面に単結晶4H−SiC層を生成させ、
前記液相エピタキシャル成長工程では、複数の前記脚部の先端面に架橋するように前記単結晶4H−SiCエピ成長層を形成させることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項25】
多結晶SiC基板を高真空環境において加熱して、当該多結晶SiC基板の表面に相当する各結晶の端部に炭化層を形成させる炭化工程と、
炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記多結晶SiC基板を収容し、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記炭化層をシリコンと反応させてアモルファスSiCからなる犠牲成長層を生成させるアモルファスSiC形成工程と、
前記嵌合容器に前記多結晶SiC基板を収容した状態で、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの少なくとも一部を再結晶させて単結晶4H−SiC層を生成させる再結晶工程と、
を含むことを特徴とする単結晶SiC成長用種基板の製造方法。
【請求項26】
多結晶SiC基板の表面の微小領域に真空中で電子ビームを照射して加熱することにより、当該微小領域に炭化層を形成させる炭化工程と、
炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記多結晶SiC基板を収容し、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記炭化層をシリコンと反応させてアモルファスSiCからなる犠牲成長層を生成させるアモルファスSiC形成工程と、
前記嵌合容器に前記多結晶SiC基板を収容した状態で、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの少なくとも一部を再結晶させて単結晶4H−SiC層を生成させる再結晶工程と、
前記単結晶4H−SiCを生成させた微小領域が相対的に突出した形状となるように、前記多結晶SiC基板の表面を加工する加工工程と、
を含むことを特徴とする単結晶SiC成長用種基板の製造方法。
【請求項27】
請求項26に記載の単結晶SiC成長用種基板の製造方法であって、
前記炭化工程の前に、多結晶SiC基板の表面を分割した複数の領域のそれぞれに凹部を形成する凹部形成工程が行われ、
前記炭化工程では、前記凹部形成工程によって形成された前記凹部の内底面の微小領域に真空中で電子ビームを照射して加熱することにより、当該微小領域に炭化層を形成させることを特徴とする単結晶SiC成長用種基板の製造方法。
【請求項28】
請求項25から27までの何れか一項に記載の単結晶SiC成長用種基板の製造方法であって、
前記再結晶工程において、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの一部を再結晶させて前記単結晶4H−SiC層を生成させる一方、残りのアモルファスSiCを熱エッチングにより除去することを特徴とする単結晶SiC成長用種基板の製造方法。
【請求項29】
請求項25から28までの何れか一項に記載の単結晶SiC成長用種基板の製造方法であって、
前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において、前記多結晶SiC基板は1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されることを特徴とする単結晶SiC成長用種基板の製造方法。
【請求項30】
請求項29に記載の単結晶SiC成長用種基板の製造方法であって、
前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程で行われる加熱処理は、
前記多結晶SiC基板を収容した嵌合容器を、予備加熱室において800℃以上の温度で加熱する予備加熱工程と、
予め1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されている本加熱室に前記予備加熱室から前記嵌合容器を移動することで、前記多結晶SiC基板を1600℃以上2000℃以下の温度で加熱する本加熱工程と、
を含むことを特徴とする単結晶SiC成長用種基板の製造方法。
【請求項31】
請求項25から30までの何れか一項に記載の単結晶SiC成長用種基板の製造方法であって、
前記炭化工程において、前記多結晶SiC基板は10-3Pa以下の減圧下で加熱されることを特徴とする単結晶SiC成長用種基板の製造方法。
【請求項32】
請求項25から31までの何れか一項に記載の単結晶SiC成長用種基板の製造方法であって、
前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において、加熱時の前記嵌合容器の内部圧力は1Pa以下に維持されることを特徴とする単結晶SiC成長用種基板の製造方法。
【請求項33】
請求項25から32までの何れか一項に記載の単結晶SiC成長用種基板の製造方法であって、
前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において使用される嵌合容器は、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして備えることを特徴とする単結晶SiC成長用種基板の製造方法。
【請求項34】
請求項25から33までの何れか一項に記載の製造方法で製造された単結晶SiC成長用種基板の前記単結晶4H−SiC層に対し、炭素フィード基板を対向させて積層体を構成する積層工程と、
炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記積層体を収容する収容工程と、
前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら、前記単結晶SiC成長用種基板の前記単結晶4H−SiC層と前記炭素フィード基板との間にシリコンの極薄溶融層を介在させつつ加熱することで、前記単結晶4H−SiC層に準安定溶媒エピタキシー法によって単結晶4H−SiCを液相エピタキシャル成長させ、単結晶4H−SiC成長層を形成する液相エピタキシャル成長工程と、
を含むことを特徴とする単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法。
【請求項35】
請求項34に記載の単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法であって、
前記液相エピタキシャル成長工程において、前記単結晶SiC成長用種基板は1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されることを特徴とする単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法。
【請求項36】
請求項35に記載の単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法であって、
前記液相エピタキシャル成長工程で行われる加熱処理は、
前記単結晶SiC成長用種基板を収容した嵌合容器を、予備加熱室において800℃以上の温度で加熱する予備加熱工程と、
予め1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されている本加熱室に前記予備加熱室から前記嵌合容器を移動することで、前記単結晶SiC成長用種基板を1600℃以上2000℃以下の温度で加熱する本加熱工程と、
を含むことを特徴とする単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法。
【請求項37】
請求項34から36までの何れか一項に記載の単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法であって、
前記液相エピタキシャル成長工程において、加熱時の前記嵌合容器の内部圧力は1Pa以下に維持されることを特徴とする単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法。
【請求項38】
請求項34から37までの何れか一項に記載の単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法であって、
前記エピタキシャル成長工程において使用される嵌合容器は、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして備えることを特徴とする単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法。
【請求項39】
請求項34から38までの何れか一項に記載の単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法であって、
前記炭素フィード基板は、単結晶3C−SiC、多結晶4H−SiC、多結晶3C−SiC、アモルファスSiC、グラファイトの少なくとも何れかを含む基板であることを特徴とする単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法。
【請求項40】
請求項34から39までの何れか一項に記載の製造方法で形成された単結晶成長層付き多結晶SiC基板を前記凹部の境界で切断する工程を含むことを特徴とする半導体チップの製造方法。
【請求項41】
単結晶3C−SiC、単結晶4H−SiC、又は単結晶6H−SiCの何れかよりなる単結晶SiC基板において、
基板の厚み方向の少なくとも一側の表面において、少なくとも最表層部分の結晶多形が母材の結晶多形に対して独立に制御され、かつ当該表面が原子レベルで平坦化されていることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板。
【請求項42】
請求項41に記載の表面改質単結晶SiC基板であって、
前記単結晶SiC基板は単結晶3C−SiCよりなり、その結晶多形が母材の結晶多形に対して独立に制御された面は(001)Si面又は(00−1)C面であることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板。
【請求項43】
請求項41に記載の表面改質単結晶SiC基板であって、
前記単結晶SiC基板は単結晶4H−SiC又は単結晶6H−SiCよりなり、その結晶多形が母材の結晶多形に対して独立に制御された面は(0001)Si面又は(000−1)C面であることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板。
【請求項44】
請求項41から43までの何れか一項に記載の表面改質単結晶SiC基板であって、
その結晶多形が母材の結晶多形に対して独立に制御された面は、(11−20)方向のオフ角が1°以下の面であることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板。
【請求項45】
請求項41から44までの何れか一項に記載の表面改質単結晶SiC基板であって、
前記最表層部分の結晶多形が4Hであることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板。
【請求項46】
請求項41から44までの何れか一項に記載の表面改質単結晶SiC基板であって、
前記母材の結晶多形が3C又は6Hであり、前記最表層部分の結晶多形が4Hであることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板。
【請求項47】
請求項41から44までの何れか一項に記載の表面改質単結晶SiC基板であって、
前記母材の結晶多形が4Hであり、前記最表層部分の結晶多形が4Hであることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板。
【請求項48】
単結晶3C−SiC、単結晶4H−SiC、又は単結晶6H−SiCの何れかよりなるとともに、基板の厚み方向の少なくとも一側の表面に溝が形成された単結晶SiC基板と、
前記単結晶SiC基板において前記溝が形成されている側の表面に備えられるとともに、その少なくとも最表層部分の結晶多形が4Hとなるように制御され、かつ当該表面が原子レベルで平坦化されている平坦化結晶層と、
前記溝以外の位置において前記平坦化結晶層に対して積層される単結晶4H−SiC層と、
を備えることを特徴とする単結晶層付き単結晶SiC基板。
【請求項49】
単結晶3C−SiC、単結晶4H−SiC、又は単結晶6H−SiCの何れかよりなるとともに、基板の厚み方向の少なくとも一側の表面に複数の柱状の脚部が形成された単結晶SiC基板と、
前記脚部のそれぞれの先端面に備えられるとともに、その少なくとも最表層部分の結晶多形が4Hとなるように制御され、かつ当該表面が原子レベルで平坦化されている平坦化結晶層と、
前記平坦化結晶層に対して積層されるとともに、複数の前記脚部の先端面に架橋するように備えられた単結晶4H−SiC層と、
を備えることを特徴とする単結晶層付き単結晶SiC基板。
【請求項50】
請求項48又は49に記載の単結晶層付き単結晶SiC基板であって、
前記単結晶SiC基板は単結晶3C−SiCよりなり、前記平坦化結晶層が備えられる面は(001)Si面又は(00−1)C面であることを特徴とする単結晶層付き単結晶SiC基板。
【請求項51】
請求項48又は49に記載の単結晶層付き単結晶SiC基板であって、
前記単結晶SiC基板は単結晶4H−SiC又は単結晶6H−SiCよりなり、前記平坦化結晶層が備えられる面は(0001)Si面又は(000−1)C面であることを特徴とする単結晶層付き単結晶SiC基板。
【請求項52】
請求項48から51までの何れか一項に記載の単結晶層付き単結晶SiC基板であって、
前記平坦化結晶層が備えられる面は、(11−20)方向のオフ角が1°以下の面であることを特徴とする単結晶層付き単結晶SiC基板。
【請求項53】
厚み方向の少なくとも一側の表面に複数の凹部が形成された多結晶SiC基板と、
前記凹部の内底面の一部に備えられるとともに、その少なくとも最表層部分の結晶多形が4Hとなるように制御され、かつ当該表面が原子レベルで平坦化されている平坦化結晶層と、
前記平坦化結晶層に対して積層されるとともに、前記凹部の内底面を覆うように延出した形状の単結晶4H−SiC層と、
を備えることを特徴とする単結晶層付き多結晶SiC基板。
【請求項1】
単結晶3C−SiC、単結晶4H−SiC、又は単結晶6H−SiCの何れかよりなる単結晶SiC基板を高真空環境において加熱して、当該単結晶SiC基板の表面に炭化層を形成させる炭化工程と、
炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記単結晶SiC基板を収容し、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記炭化層をシリコンと反応させてアモルファスSiCからなる犠牲成長層を生成させるアモルファスSiC形成工程と、
炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記単結晶SiC基板を収容した状態で、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの少なくとも一部を再結晶させて単結晶4H−SiC層を生成させる再結晶工程と、
を含むことを特徴とする表面改質単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の表面改質単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記再結晶工程において、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの一部を再結晶させて前記単結晶4H−SiC層を生成させる一方、残りのアモルファスSiCを熱エッチングにより除去することを特徴とする表面改質単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の表面改質単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において、前記単結晶SiC基板は1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の表面改質単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程で行われる加熱処理は、
前記単結晶SiC基板を収容した嵌合容器を、予備加熱室において800℃以上の温度で加熱する予備加熱工程と、
予め1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されている本加熱室に前記予備加熱室から前記嵌合容器を移動することで、前記単結晶SiC基板を1600℃以上2000℃以下の温度で加熱する本加熱工程と、
を含むことを特徴とする表面改質単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の表面改質単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記炭化工程において、前記単結晶SiC基板は10-3Pa以下の減圧下で加熱されることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の表面改質単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において、加熱時の前記嵌合容器の内部圧力は1Pa以下に維持されることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6までの何れか一項に記載の表面改質単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において使用される嵌合容器は、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして備えることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7までの何れか一項に記載の表面改質単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記単結晶SiC基板は単結晶3C−SiCよりなり、前記炭化工程において前記炭化層は(001)Si面又は(00−1)C面に形成されることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項9】
請求項1から7までの何れか一項に記載の表面改質単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記単結晶SiC基板は単結晶4H−SiC又は単結晶6H−SiCよりなり、前記炭化工程において前記炭化層は(0001)Si面又は(000−1)C面に形成されることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9までの何れか一項に記載の表面改質単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記炭化工程において、前記炭化層は(11−20)方向のオフ角が1°以下である面に形成されることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項11】
請求項1から7までの何れか一項に記載の製造方法で製造された表面改質単結晶SiC基板の前記単結晶4H−SiC層に対し炭素フィード基板を対向させて積層体を構成する積層工程と、
前記積層体を、炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に収容する収容工程と、
前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら、前記表面改質単結晶SiC基板の前記単結晶4H−SiC層と前記炭素フィード基板との間にシリコンの極薄溶融層を介在させつつ加熱することで、前記単結晶4H−SiC層に準安定溶媒エピタキシー法によって単結晶4H−SiCを液相エピタキシャル成長させ、単結晶4H−SiCエピ成長層を形成する液相エピタキシャル成長工程と、
を含むことを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記液相エピタキシャル成長工程において、前記単結晶SiC基板は1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記液相エピタキシャル成長工程で行われる加熱処理は、
前記単結晶SiC基板を収容した嵌合容器を、予備加熱室において800℃以上の温度で加熱する予備加熱工程と、
予め1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されている本加熱室に前記予備加熱室から前記嵌合容器を移動することで、前記単結晶SiC基板を1600℃以上2000℃以下の温度で加熱する本加熱工程と、
を含むことを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項14】
請求項11から13までの何れか一項に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記液相エピタキシャル成長工程において、加熱時の前記嵌合容器の内部圧力は1Pa以下に維持されることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項15】
請求項11から14までの何れか一項に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記エピタキシャル成長工程において使用される嵌合容器は、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして備えることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項16】
請求項11から15までの何れか一項に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記炭素フィード基板は、単結晶3C−SiC、多結晶4H−SiC、多結晶3C−SiC、アモルファスSiC、グラファイトの少なくとも何れかを含む基板であることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項17】
請求項11から16までの何れか一項に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記表面改質単結晶SiC基板の製造においては、前記炭化工程の前に、前記単結晶SiC基板の表面の一部にマスクを施すマスキング工程が行われ、
前記再結晶工程において、前記単結晶4H−SiC層は、前記マスキング工程における非マスク領域に形成されている凹部の底部に生成されることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項18】
請求項17に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記マスキング工程において、前記マスクは前記単結晶SiC基板の表面において一部の領域を取り囲むように施されることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項19】
請求項17又は18に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記マスキング工程において、前記マスクは炭化タンタルによりなることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項20】
請求項11から19までの何れか一項に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記表面改質単結晶SiC基板の製造においては、前記炭化工程の前に、前記単結晶SiC基板の表面を複数の領域に分割するように当該単結晶SiC基板に溝加工を施す溝形成工程が行われることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項21】
請求項11から20までの何れか一項に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記積層工程の前に、前記炭素フィード基板において前記単結晶4H−SiC層に対向する面を複数の領域に分割するように当該炭素フィード基板に溝加工を施す炭素フィード側溝形成工程が行われることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項22】
請求項20又は21に記載の製造方法で製造されたエピ成長層付き単結晶SiC基板を前記溝に沿って切断する工程を含むことを特徴とする半導体チップの製造方法。
【請求項23】
請求項20から22までの何れか一項に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記溝加工はレーザ加工により行われることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項24】
請求項11から19までの何れか一項に記載のエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法であって、
前記表面改質単結晶SiC基板の製造においては、前記炭化工程の前に、前記単結晶SiC基板の表面に複数の柱状の脚部を形成する脚部形成工程が行われ、
前記再結晶工程では、前記脚部のそれぞれの先端面に単結晶4H−SiC層を生成させ、
前記液相エピタキシャル成長工程では、複数の前記脚部の先端面に架橋するように前記単結晶4H−SiCエピ成長層を形成させることを特徴とするエピ成長層付き単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項25】
多結晶SiC基板を高真空環境において加熱して、当該多結晶SiC基板の表面に相当する各結晶の端部に炭化層を形成させる炭化工程と、
炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記多結晶SiC基板を収容し、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記炭化層をシリコンと反応させてアモルファスSiCからなる犠牲成長層を生成させるアモルファスSiC形成工程と、
前記嵌合容器に前記多結晶SiC基板を収容した状態で、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの少なくとも一部を再結晶させて単結晶4H−SiC層を生成させる再結晶工程と、
を含むことを特徴とする単結晶SiC成長用種基板の製造方法。
【請求項26】
多結晶SiC基板の表面の微小領域に真空中で電子ビームを照射して加熱することにより、当該微小領域に炭化層を形成させる炭化工程と、
炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記多結晶SiC基板を収容し、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記炭化層をシリコンと反応させてアモルファスSiCからなる犠牲成長層を生成させるアモルファスSiC形成工程と、
前記嵌合容器に前記多結晶SiC基板を収容した状態で、前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら加熱することで、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの少なくとも一部を再結晶させて単結晶4H−SiC層を生成させる再結晶工程と、
前記単結晶4H−SiCを生成させた微小領域が相対的に突出した形状となるように、前記多結晶SiC基板の表面を加工する加工工程と、
を含むことを特徴とする単結晶SiC成長用種基板の製造方法。
【請求項27】
請求項26に記載の単結晶SiC成長用種基板の製造方法であって、
前記炭化工程の前に、多結晶SiC基板の表面を分割した複数の領域のそれぞれに凹部を形成する凹部形成工程が行われ、
前記炭化工程では、前記凹部形成工程によって形成された前記凹部の内底面の微小領域に真空中で電子ビームを照射して加熱することにより、当該微小領域に炭化層を形成させることを特徴とする単結晶SiC成長用種基板の製造方法。
【請求項28】
請求項25から27までの何れか一項に記載の単結晶SiC成長用種基板の製造方法であって、
前記再結晶工程において、前記犠牲成長層のアモルファスSiCの一部を再結晶させて前記単結晶4H−SiC層を生成させる一方、残りのアモルファスSiCを熱エッチングにより除去することを特徴とする単結晶SiC成長用種基板の製造方法。
【請求項29】
請求項25から28までの何れか一項に記載の単結晶SiC成長用種基板の製造方法であって、
前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において、前記多結晶SiC基板は1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されることを特徴とする単結晶SiC成長用種基板の製造方法。
【請求項30】
請求項29に記載の単結晶SiC成長用種基板の製造方法であって、
前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程で行われる加熱処理は、
前記多結晶SiC基板を収容した嵌合容器を、予備加熱室において800℃以上の温度で加熱する予備加熱工程と、
予め1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されている本加熱室に前記予備加熱室から前記嵌合容器を移動することで、前記多結晶SiC基板を1600℃以上2000℃以下の温度で加熱する本加熱工程と、
を含むことを特徴とする単結晶SiC成長用種基板の製造方法。
【請求項31】
請求項25から30までの何れか一項に記載の単結晶SiC成長用種基板の製造方法であって、
前記炭化工程において、前記多結晶SiC基板は10-3Pa以下の減圧下で加熱されることを特徴とする単結晶SiC成長用種基板の製造方法。
【請求項32】
請求項25から31までの何れか一項に記載の単結晶SiC成長用種基板の製造方法であって、
前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において、加熱時の前記嵌合容器の内部圧力は1Pa以下に維持されることを特徴とする単結晶SiC成長用種基板の製造方法。
【請求項33】
請求項25から32までの何れか一項に記載の単結晶SiC成長用種基板の製造方法であって、
前記アモルファスSiC形成工程及び前記再結晶工程において使用される嵌合容器は、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして備えることを特徴とする単結晶SiC成長用種基板の製造方法。
【請求項34】
請求項25から33までの何れか一項に記載の製造方法で製造された単結晶SiC成長用種基板の前記単結晶4H−SiC層に対し、炭素フィード基板を対向させて積層体を構成する積層工程と、
炭素ゲッター効果を有する嵌合容器に前記積層体を収容する収容工程と、
前記嵌合容器の内部をシリコンの飽和蒸気圧下かつ高温真空下とし、更に前記嵌合容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなる状態を維持しながら、前記単結晶SiC成長用種基板の前記単結晶4H−SiC層と前記炭素フィード基板との間にシリコンの極薄溶融層を介在させつつ加熱することで、前記単結晶4H−SiC層に準安定溶媒エピタキシー法によって単結晶4H−SiCを液相エピタキシャル成長させ、単結晶4H−SiC成長層を形成する液相エピタキシャル成長工程と、
を含むことを特徴とする単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法。
【請求項35】
請求項34に記載の単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法であって、
前記液相エピタキシャル成長工程において、前記単結晶SiC成長用種基板は1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されることを特徴とする単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法。
【請求項36】
請求項35に記載の単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法であって、
前記液相エピタキシャル成長工程で行われる加熱処理は、
前記単結晶SiC成長用種基板を収容した嵌合容器を、予備加熱室において800℃以上の温度で加熱する予備加熱工程と、
予め1600℃以上2000℃以下の温度で加熱されている本加熱室に前記予備加熱室から前記嵌合容器を移動することで、前記単結晶SiC成長用種基板を1600℃以上2000℃以下の温度で加熱する本加熱工程と、
を含むことを特徴とする単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法。
【請求項37】
請求項34から36までの何れか一項に記載の単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法であって、
前記液相エピタキシャル成長工程において、加熱時の前記嵌合容器の内部圧力は1Pa以下に維持されることを特徴とする単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法。
【請求項38】
請求項34から37までの何れか一項に記載の単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法であって、
前記エピタキシャル成長工程において使用される嵌合容器は、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして備えることを特徴とする単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法。
【請求項39】
請求項34から38までの何れか一項に記載の単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法であって、
前記炭素フィード基板は、単結晶3C−SiC、多結晶4H−SiC、多結晶3C−SiC、アモルファスSiC、グラファイトの少なくとも何れかを含む基板であることを特徴とする単結晶成長層付き多結晶SiC基板の製造方法。
【請求項40】
請求項34から39までの何れか一項に記載の製造方法で形成された単結晶成長層付き多結晶SiC基板を前記凹部の境界で切断する工程を含むことを特徴とする半導体チップの製造方法。
【請求項41】
単結晶3C−SiC、単結晶4H−SiC、又は単結晶6H−SiCの何れかよりなる単結晶SiC基板において、
基板の厚み方向の少なくとも一側の表面において、少なくとも最表層部分の結晶多形が母材の結晶多形に対して独立に制御され、かつ当該表面が原子レベルで平坦化されていることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板。
【請求項42】
請求項41に記載の表面改質単結晶SiC基板であって、
前記単結晶SiC基板は単結晶3C−SiCよりなり、その結晶多形が母材の結晶多形に対して独立に制御された面は(001)Si面又は(00−1)C面であることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板。
【請求項43】
請求項41に記載の表面改質単結晶SiC基板であって、
前記単結晶SiC基板は単結晶4H−SiC又は単結晶6H−SiCよりなり、その結晶多形が母材の結晶多形に対して独立に制御された面は(0001)Si面又は(000−1)C面であることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板。
【請求項44】
請求項41から43までの何れか一項に記載の表面改質単結晶SiC基板であって、
その結晶多形が母材の結晶多形に対して独立に制御された面は、(11−20)方向のオフ角が1°以下の面であることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板。
【請求項45】
請求項41から44までの何れか一項に記載の表面改質単結晶SiC基板であって、
前記最表層部分の結晶多形が4Hであることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板。
【請求項46】
請求項41から44までの何れか一項に記載の表面改質単結晶SiC基板であって、
前記母材の結晶多形が3C又は6Hであり、前記最表層部分の結晶多形が4Hであることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板。
【請求項47】
請求項41から44までの何れか一項に記載の表面改質単結晶SiC基板であって、
前記母材の結晶多形が4Hであり、前記最表層部分の結晶多形が4Hであることを特徴とする表面改質単結晶SiC基板。
【請求項48】
単結晶3C−SiC、単結晶4H−SiC、又は単結晶6H−SiCの何れかよりなるとともに、基板の厚み方向の少なくとも一側の表面に溝が形成された単結晶SiC基板と、
前記単結晶SiC基板において前記溝が形成されている側の表面に備えられるとともに、その少なくとも最表層部分の結晶多形が4Hとなるように制御され、かつ当該表面が原子レベルで平坦化されている平坦化結晶層と、
前記溝以外の位置において前記平坦化結晶層に対して積層される単結晶4H−SiC層と、
を備えることを特徴とする単結晶層付き単結晶SiC基板。
【請求項49】
単結晶3C−SiC、単結晶4H−SiC、又は単結晶6H−SiCの何れかよりなるとともに、基板の厚み方向の少なくとも一側の表面に複数の柱状の脚部が形成された単結晶SiC基板と、
前記脚部のそれぞれの先端面に備えられるとともに、その少なくとも最表層部分の結晶多形が4Hとなるように制御され、かつ当該表面が原子レベルで平坦化されている平坦化結晶層と、
前記平坦化結晶層に対して積層されるとともに、複数の前記脚部の先端面に架橋するように備えられた単結晶4H−SiC層と、
を備えることを特徴とする単結晶層付き単結晶SiC基板。
【請求項50】
請求項48又は49に記載の単結晶層付き単結晶SiC基板であって、
前記単結晶SiC基板は単結晶3C−SiCよりなり、前記平坦化結晶層が備えられる面は(001)Si面又は(00−1)C面であることを特徴とする単結晶層付き単結晶SiC基板。
【請求項51】
請求項48又は49に記載の単結晶層付き単結晶SiC基板であって、
前記単結晶SiC基板は単結晶4H−SiC又は単結晶6H−SiCよりなり、前記平坦化結晶層が備えられる面は(0001)Si面又は(000−1)C面であることを特徴とする単結晶層付き単結晶SiC基板。
【請求項52】
請求項48から51までの何れか一項に記載の単結晶層付き単結晶SiC基板であって、
前記平坦化結晶層が備えられる面は、(11−20)方向のオフ角が1°以下の面であることを特徴とする単結晶層付き単結晶SiC基板。
【請求項53】
厚み方向の少なくとも一側の表面に複数の凹部が形成された多結晶SiC基板と、
前記凹部の内底面の一部に備えられるとともに、その少なくとも最表層部分の結晶多形が4Hとなるように制御され、かつ当該表面が原子レベルで平坦化されている平坦化結晶層と、
前記平坦化結晶層に対して積層されるとともに、前記凹部の内底面を覆うように延出した形状の単結晶4H−SiC層と、
を備えることを特徴とする単結晶層付き多結晶SiC基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図4】
【図15】
【図18】
【図28】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図4】
【図15】
【図18】
【図28】
【公開番号】特開2009−188117(P2009−188117A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25483(P2008−25483)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発/大面積SiC革新的基盤技術の研究開発」に関する業務委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(503092180)学校法人関西学院 (71)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発/大面積SiC革新的基盤技術の研究開発」に関する業務委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(503092180)学校法人関西学院 (71)
【Fターム(参考)】
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