説明

被加工物の表面改質方法

【課題】従来の改質方法と比較して、より簡単および安定的に表面処理の効果や持続性を向上させる基板の表面処理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】被加工物に集束イオンビームを選択的に照射することにより該被加工物のあらかじめ決められた領域に表面改質部を形成する表面改質方法であって、該集束イオンビームの照射は表面改質用ガスの雰囲気中においてなされ、および該集束イオンビームの照射によって該表面改質用ガスの成分を該被加工物の内部に導入することを特徴とする表面改質方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物の表面改質方法に関する。より詳しくは、被加工物表面の濡れ性、密着性または吸着性などを改善することを目的とした表面改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板などの被加工物表面の濡れ性、密着性または吸着性などを改善する目的で、様々な被加工物の表面改質が行なわれてきた。
【0003】
被加工物の表面改質方法としては、主に次の3通りのやり方がある。(1)被加工物表面に、プラズマ、コロナ放電、紫外線(UV光)、真空紫外線(VUV光)などを照射して被加工物表面の状態を変えることにより被加工物を表面改質する方法。(2)被加工物表面に、例えば撥水性、親水性または吸着性を有する材料といった、特定の機能を有する物質を付与することにより被加工物を表面改質する方法。(3)ビーム(光、電子、イオンなど)を被加工物に選択的に照射することにより(パターニングして)表面改質を行う方法。
【0004】
前記(1)の表面改質方法としては、特許文献1に記載されているような、コンタクトホールを介した配線間の接続の安定性を向上させる目的で、水素プラズマを用いて下配線の表面酸化層を還元する方法などが挙げられる。
【0005】
前記(2)の表面改質方法としては、特許文献2に記載されているような、インクジェットプリンターのインク吐出の安定性を向上させる目的で、プリンターヘッドのノズル表面に撥水剤を塗布することなどが挙げられる。
【0006】
前記(3)の表面改質方法としては、特許文献3に記載されているような、セラミックス部材表面にFIB照射することにより局部的に表面改質を行ない、所望のパターンの導電層を形成する方法が挙げられる。また、特許文献4では、ガス雰囲気中で被加工面に選択的に光照射することにより、選択的表面処理を行う方法が挙げられている。
【特許文献1】特開平8−298288号公報
【特許文献2】特開平3−227647号公報
【特許文献3】特開昭64−69579号公報
【特許文献4】特開平4−188621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記(1)および(2)の表面改質方法において、特定の微小領域を選択して(パターニングして)表面改質するためには、下記のような課題があった。すなわち、特定の微小領域を選択して(パターニングして)表面改質するための工程としてはレジストパターン形成を含むフォトリソグラフィー工程が一般的であるが、それ自体、レジスト塗布、露光パターン形成、レジスト除去という付加的な工程が必要になる。よって、これらの方法では、より多くの手間がかかるという問題が生じる。また、レジスト除去工程時に表面改質部にも影響を及ぼす可能性があり、表面改質効果の安定性が損なわれるという課題もある。
【0008】
また、前記(3)の表面改質方法においては、実際に適用できる表面改質の種類に制限があるという問題がある。すなわち、特許文献3では、表面改質の種類を変えるには、その都度イオン源そのものの種類を変えねばならず、単一イオン源で、表面改質の種類を変えることは不可能であった。さらに、単一イオン源でない場合には、装置の作りやすさや取り扱いやすさなどが、単一イオン源の場合と比較して難しくなるという問題がある。また、特許文献4では、光化学反応を利用しているので光化学反応が起こらねばならず、ガス雰囲気と被可能物の組み合わせは大きな制約を受ける。さらに、特許文献4では、光照射なので被加工物の深い位置まで元素を導入することができないので、表面処理の効果の持続性などに課題がある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、従来の改質方法と比較して、より簡単および安定的に表面処理の効果や持続性を向上させる、基板の表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、被加工物に集束イオンビームを選択的に照射することにより該被加工物のあらかじめ決められた領域に表面改質部を形成する表面改質方法であって、該集束イオンビームの照射は表面改質用ガスの雰囲気中においてなされ、および該集束イオンビームの照射によって該表面改質用ガスの成分を該被加工物の内部に導入することを特徴とする。また、前記表面改質用ガスの成分を変えることで、前記表面改質部の表面改質の種類を変えることを特徴とする。また、前記表面改質部の形成と同時に、前記被加工物のエッチングを行うことを特徴とする。また、前記集束イオンビームの照射時に、前記被加工物は冷却されていることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明は、集束イオンビームが選択的に照射されることによってあらかじめ決められた領域に表面改質部が形成された被加工物であって、前記の方法により作製され、および、該表面改質部は、該集束イオンビームのイオン種と、表面改質用ガスの成分と、該被加工物の成分と、から主に構成されていることを特徴とする。また、前記被加工物は、マイクロリアクター、μTASあるいはマイクロチップとして使用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の表面改質方法は、表面改質用ガス雰囲気中で集束イオンビームを被加工物の所望の箇所に照射するので、付加的なフォトリソグラフィー工程などを導入せずに、直接的に被加工物の特定の領域を選択して(パターニングして)表面改質できる。よって、余計な手間をかけることなく表面改質を実施することが可能である。また、レジスト除去工程を導入する必要がないので、レジスト除去工程が表面改質部に良くない影響を及ぼす可能性を抑制することができるので、安定した表面改質効果を得ることが可能である。また、集束イオンビームを使用しているので、被加工物の特定の微小領域に表面改質を実施することが可能である。また、表面改質用ガスの種類を変えることにより、多様な種類の表面処理を実施することも可能になる。そのため、本発明の表面改質方法は、表面改質の種類を変えるのに、その都度イオン源そのものの種類を変える必要はなく、単一イオン源で、表面改質の種類を変えることが可能である。また、光化学反応を起こすことが必須ではないので、光化学反応を起こさないガス雰囲気と被加工物の組み合わせにも適用することが可能である。また、被加工物の深い位置まで元素を導入することが可能であるので、表面処理の効果の持続性を向上させることが可能である。さらに、集束イオンビーム照射を行うので、エッチング加工と表面改質を同時に実施することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
これより、本発明の表面改質方法について、図1を参照しながら工程を順に説明する。ここで、以下の工程a〜cは、図1のa〜cに対応している。なお、図1において、符号1は被加工物、符号2は表面改質用ガス、符号3は集束イオンビーム、符号4は表面改質部を指示している。
【0014】
a)被加工物準備工程
この工程では、被加工物1を準備する。
【0015】
被加工物1の形状としては、基板状、直方体状、球状、円柱状、らせん状、歯車状など任意の形状のものが挙げられるが、表面改質部4の形成などに不都合がなければ、特に制限されるものではない。
【0016】
また、被加工物1の表面形状としては、平滑なものに限らず、曲面を有するもの、表面に凹凸部、段差部あるいは開口部などを有するものなどが挙げられるが、表面改質部4の形成などに不都合がなければ、特に限定されるものではない。
【0017】
さらに、被加工物1として、集束イオンビーム照射による微細加工があらかじめ施されたものを採用してもよい。この場合には、同一の集束イオンビーム加工装置を用いて表面処理プロセスと加工プロセスとを進めることが可能であるので好ましい。
【0018】
また、本発明の被加工物1の材質としては、金属、セラミック、有機物など任意の材質のものが挙げられるが、表面改質部4の形成などに不都合がなければ、特に制限されるものではない。また、前記被加工物1は単一の材料からなっていても、複数以上の材料を組み合わせたものであっても、表面改質部4の形成などに不都合がなければ、特に限定されるものではない。
【0019】
b)表面改質部の形成工程
この工程では、被加工物1の所望の位置に表面改質用ガス雰囲気2中で集束イオンビーム3を選択的に照射することにより、所望の位置である集束イオンビーム照射位置に表面改質部4を形成する。
【0020】
まず、被加工物1に対するパターニング位置(すなわち集束イオンビーム照射位置)の設定を行う。それは、集束イオンビーム加工装置に付属している観察機能を用いることにより容易に高精度で行うことが可能である。この観察機能としては、集束イオンビームを試料(被加工物)上で走査したときに発生する2次電子を検出して走査像を得る方法が挙げられる。この方法では観察時に集束イオンビームを照射することになるが、充分に弱い集束イオンビームを用いても走査像を得ることができるので、被加工物1に対して好ましくない影響を及ぼすことなくパターニング位置を決定することが可能である。また、走査電子顕微鏡やレーザー顕微鏡などの観察機能を付属させた集束イオンビーム加工装置を用いれば、集束イオンビーム照射を行わずに被加工物のパターニング位置を設定することも可能である。
【0021】
次に、前記パターニング位置に合わせて集束イオンビーム3の照射位置を移動させる方法について説明する。収束イオンビーム3の移動方法としては、集束イオンビーム3自体を移動させる方法、被加工物の方を移動させる方法、またはその両者を組み合わせる方法などが挙げられる。集束イオンビーム3を移動させる方法は装置的に合理的であるが、移動可能な距離に制限があるので、大面積かつ高密度に表面改質部を形成したいときには、前記両者を組み合わせる方法が適していると考えられる。また、被加工物のみを移動させる方法でも、高精度の位置制御が可能な試料ステージを用いれば、本発明を適用することが可能である。
【0022】
本発明における集束イオンビーム3のイオン種としては、液体金属イオン源であるGa、Si、Ge、Cs、Nb、Cuなどや、電界電離ガスイオン源であるO、N、H、He、Arなどが挙げられる。しかし、表面改質部4の形成などに不都合がなければ、集束イオンビーム3のイオン種は特に制限されるものではない。ただし、扱いやすさなどの理由から、集束イオンビーム3のイオン種としてGaを使用することが多い。
【0023】
また、使用される集束イオンビーム3のイオン種の数としては、単一のイオン種でも、複数以上のイオン種でも構わず、表面改質部4の形成などに不都合がなければ特に制限されるものではない。ただし、実際には、装置の作りやすさや取り扱いやすさなどの装置構成上などの理由から、使用される集束イオンビーム3のイオン種の数としては、単一のイオン種(すなわち単一イオン源)を使用する方が好ましい場合が多い。さらに、本発明においては、単一イオン源の場合でも、表面改質用ガス2の種類を変えることにより、多様な種類の表面処理を実施することが可能である。すなわち、詳しくは後述するが、本発明においては、集束イオンビーム2により表面改質用ガス2を被加工物1の内部に導入することができるので、イオン源でなく表面改質ガス2を変えるだけで、被加工物1に付与する特質の種類を変化させることが可能である。
【0024】
本発明における表面改質用ガス2の種類としては、表面改質部4の形成などに不都合がなければ特に限定されるものではない。また、前記表面改質用ガス2の使用法としては、単独で用いること、複数を混合して用いること、He、Ne、Arなどの不活性ガスと混合して用いることなどが挙げられるが、表面改質部4の形成などに不都合がなければ特にこれらに限定されるものではない。
【0025】
例えば、表面改質の種類が表面改質部4のフッ化である場合には、表面改質用ガス2としてF系の成分(F、CFなど)を含有するガスが挙げられる。この場合の効果としては、例えば実施例3に記載されているように、フッ化により撥水性を得ることなどが期待される。また、表面改質の種類が表面改質部4の酸化である場合には、表面改質用ガス2としてO系の成分(O、HOなど)を含有するガスが挙げられる。この場合の効果としては、酸化により親水性を得ることなどが期待される。さらに、表面改質の種類が表面改質部4の水酸化である場合には、表面改質用ガス2としてOH系の成分(HO、H+Oなど)を含有するガスが挙げられる。この場合の効果としては、水酸化により密着性や表面反応性が向上することなどが期待される。また、表面改質の種類が表面改質部4の炭化である場合には、表面改質用ガス2としてC系の成分(CH、COなど)を含有するガスが挙げられる。この場合の効果としては、炭化により表面硬度が高まって耐磨耗性や耐摩擦性が向上することなどが期待される。さらに、表面改質の種類が表面改質部4の窒化である場合には、表面改質用ガス2としてN系の成分(N、NHなど)を含有するガスなどが挙げられる。この場合の効果としては、窒化により表面硬度が高まって耐磨耗性や耐摩擦性が向上することなどが期待される。
【0026】
ただし、前記表面改質用ガス2のなかには、ある条件においては表面改質部4の形成に好ましくない影響を与えるものがある。その条件とは、表面改質用ガス2と被加工物1とが、ガスアシストエッチングを引き起こすような組み合わせになっている場合である。例えば、表面改質用ガス2の種類がHO、被加工物1の材質がCを主成分とする組み合わせの場合には、集束イオンビーム照射時に被加工物1が表面改質用ガス2と反応して揮発化してしまうために、表面改質部4を形成することが困難となる。したがって、表面改質用ガス2がガスアシストエッチング用ガスとして作用するような、表面改質用ガス2と被加工物1の組み合わせを除外することが求められる。
【0027】
また、本発明の表面改質方法においては、集束イオンビーム照射時に被加工物4の表面改質と同時に、被加工物1のエッチングが同時に起こっている。そこで、集束イオンビーム3によって微細加工(パターニング)した箇所に、そのまま同時に表面改質を行うことも可能になる。また、加工内容にもよるが、微細加工と表面改質を同時に行う場合には、イオンビーム照射時間は長くなる場合がある。したがって、表面改質部の形成工程の最終段階でのみに表面改質用ガス2を導入する方法を採用してもよく、その場合には表面改質用ガス2の使用量を節約することが可能である。
【0028】
また、本発明によって形成された表面改質部(すなわち、集束イオンビーム照射部)4は、集束イオンビーム3のイオン種と、表面改質用ガス2の成分と、被加工物1の材質の成分と、から主に構成されている。ここで、集束イオンビーム照射部に堆積物を形成する作用を有する堆積物形成用ガスを用いると、集束イオンビーム3のイオン種と堆積物形成用ガス成分とから主に構成される堆積物が生じる。したがって、そのような堆積物形成用ガスは、本来目的とされる表面改質の効果を妨げる可能性があるので、表面改質用ガス2からは除外することが求められる。ただし、集束イオンビーム3の照射条件(イオンビームの電流量、イオンビームの滞在時間など)によっては、堆積物が形成されずにエッチングが進行する場合がある。そのときには、堆積物形成用ガスを表面改質用ガス2として流用することが可能となる場合もある。なお、本発明の表面改質部4は、集束イオンビーム3のイオン種と、表面改質用ガス2と、被加工物1の材質の成分と、がミキシングして形成されるので、結晶化を起こすような特別な反応が起こらない限り非晶質である。
【0029】
また、被加工物1の表面への表面改質用ガス2の吸着量を変えることによって、表面改質部4における表面改質の程度を変化させることが可能である。例えば、表面改質用ガス2の流量を増やすあるいは試料(被加工物)を冷却することにより、被加工物1の表面への表面改質用ガス2の吸着量が増えるので、表面改質部4における表面改質の程度を大きくすることが可能である。なお、試料を冷却する場合には、冷却手段として、液体窒素、ドライアイスなどの冷却用物質を使用する手段や、ペルチェ素子などの熱力学的現象を用いる手段などが挙げられる。また、必要に応じて安定した表面改質を実現するための冷却温度制御手段、試料を冷却して表面改質した後に試料を常温にすみやかに戻すための加熱手段などを備えることが好ましい。冷却するタイミングとしては、表面改質用ガスを流す前でも後でもよく、表面改質部4の形成などに不都合がなければ、特に制限されるものではない。さらに、冷却時間や温度については、表面改質用ガスや被加工物の種類などに依存して選択されるが、表面改質部4の形成などに不都合がなければ、特に制限されるものではない。なお、このとき冷却時に表面改質用ガスが試料表面に堆積しすぎないような状態になるように、冷却温度の制御を行うことが、より望ましい。
【0030】
さらに、集束イオンビーム3の加速電圧(すなわちエネルギー)を変えることによって、表面改質部4の深さを変えることが可能である。本発明では、被加工物1の表面に吸着している表面改質用ガス2の成分が、集束イオンビーム3と衝突してエネルギーを付与されることにより、被加工物内部に導入される。したがって、加速電圧を大きくすることにより、より深くまで表面改質用ガス2の成分を導入することが可能である。例えば、集束イオンビーム3が被加工物1の表面に存在している元素と正面弾性衝突したときにおける、該元素の平均射影飛程は、加速電圧と比例関係にあることが計算される。ここで、前記平均射影飛程とは、表面に存在している元素が被加工物1の内部に導入される深さと対応している。以上のように、本発明では、被加工物1のより深い位置まで表面改質用ガス2の成分元素を導入することによって、表面処理の効果の持続性を向上させることが可能である。ただし、集束イオンビーム3の照射条件(イオンビームの電流量、イオンビームの滞在時間など)によっては、表面改質用ガス2の導入のみならずエッチングがより進行する場合があり、そのときにはエッチングの効果を充分に考慮することが求められる。
【0031】
以上のようにして製造された被加工物は、例えば、マイクロリアクター、μTAS(微小化学分析システム)あるいはマイクロチップとして使用されることが可能である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の例に限定されはしない。
【0033】
(実施例1)
本実施例では、本発明の表面改質方法にしたがって被加工物の表面を改質した。
【0034】
a)被加工物準備工程
図1aに示すように、被加工物としてSi基板1を準備した。
【0035】
b)表面改質部形成工程
図1bに示すように、集束イオンビーム加工装置を用い、被加工物1の所望の位置に表面改質用ガス2の雰囲気中で集束イオンビーム3を照射することにより、所望の集束イオンビーム照射位置に表面改質部4を形成した。ここで、集束イオンビーム加工装置のイオン種はGa、加速電圧は30kVとした。また、表面改質用ガス2としてCFを用いた。
【0036】
次に、被加工物1の表面改質部4をμ−XPS(微小領域のX線光電子分光)を用いて分析した。そうしたところ、被加工物1の材質であるSiおよび集束イオンビーム3のイオン種であるGaの他に、表面改質用ガス2の成分であるFが検出され、本発明が実現されていることが確認できた。
【0037】
(実施例2)
本実施例は、実施例1の表面改質部4の形成工程において試料(被加工物)の冷却を行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で表面改質部4を形成した。ここで、試料の冷却は、温度制御手段を有する液体窒素を使用する冷却ステージを用いて行った。また、試料冷却は、表面改質用ガスが試料表面に堆積しすぎないような状態になるように、観察用の弱いイオンビームを用いて観察しながら、冷却温度の制御を行ないながら実施した。
【0038】
被加工物1の表面改質部4をμ−XPS(微小領域のX線光電子分光)を用いて分析した。そうしたところ、被加工物1の材質であるSiおよび集束イオンビーム3のイオン種であるGaの他に、表面改質用ガス2の成分であるFが、実施例1の場合よりも多く検出された。
【0039】
(実施例3)
本実施例は、実施例1の表面改質方法の別態である。
【0040】
a)被加工物準備工程
図2aに示すように、被加工物としてガラス基板5を準備した。
【0041】
b)マイクロ流路の形成工程
図2bに示すように、集束イオンビーム加工装置を用い、マイクロ流路6を形成するために、マイクロ流路6となる領域に集束イオンビームを照射してエッチング加工を行った。詳しくは、加工の最終段階で表面改質用ガスを導入し、該表面改質用ガス雰囲気中で集束イオンビームを照射することでマイクロ流路6となる表面改質部を形成した。ここで、集束イオンビーム加工装置のイオン種はGa、加速電圧は30kVとした。また、表面改質用ガスとしてCFを用いた。
【0042】
以上のようにして作製された被加工物(マイクロ流路を有するガラス基板)に対向基板を接合した後に、μTASとして使用したところ、液体の流路に付着物が見られず、安定して使用することができた。これは、マイクロ流路6の表面の改質部にFが存在していることによる撥水効果によるものと考えられる。
【0043】
(比較例1)
本比較例は、実施例3のマイクロ流路の形成工程において、表面改質用ガス雰囲気を導入しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法でマイクロ流路6を形成した。
【0044】
以上のようにして作られた被加工物(マイクロ流路を有するガラス基板)に対向基板を接合した後に、μTASとして使用したところ、液体の流露に付着物が見られる場合があり、よって安定して使用することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の表面改質方法は、特定の微小領域を選択して表面改質することが可能であり、電子デバイスや光デバイス、マイクロデバイスなどの機能材料や、構造材料などに対して適用可能であり、広い利用範囲を有する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の表面改質方法の一例を示す断面模式図である。
【図2】本発明の表面改質方法の一例を示す平面模式図である。
【符号の説明】
【0047】
1 被加工物
2 表面改質用ガス
3 集束イオンビーム
4 表面改質部
5 ガラス基板
6 マイクロ流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物に集束イオンビームを選択的に照射することにより該被加工物のあらかじめ決められた領域に表面改質部を形成する表面改質方法であって、
該集束イオンビームの照射は表面改質用ガスの雰囲気中においてなされ、および該集束イオンビームの照射によって該表面改質用ガスの成分を該被加工物の内部に導入することを特徴とする表面改質方法。
【請求項2】
前記表面改質用ガスの成分を変えることで、前記表面改質部の表面改質の種類を変えることを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項3】
前記表面改質部の形成と同時に、前記被加工物のエッチングを行うことを特徴とする請求項1または2に記載の表面改質方法。
【請求項4】
前記集束イオンビームの照射時に、前記被加工物は冷却されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の表面改質方法。
【請求項5】
集束イオンビームが選択的に照射されることによってあらかじめ決められた領域に表面改質部が形成された被加工物であって、
請求項1から4の方法により作製されており、
該表面改質部は、該集束イオンビームのイオン種と、表面改質用ガスの成分と、該被加工物の成分と、から主に構成されていることを特徴とする被加工物。
【請求項6】
前記被加工物は、マイクロリアクター、μTASあるいはマイクロチップとして使用されることを特徴とする請求項5に記載の被加工物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−136917(P2009−136917A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318426(P2007−318426)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】