説明

複合型顕微鏡

【課題】
本発明は、試料の内部X線画像を取得するとともに、電子顕微鏡の機能も実現できるようにする。
【解決手段】
電子鏡筒1の電子線を可動式のターゲット9により遮蔽し、X線を発生させることで、X線発生器を電子線発生器と共用させる。これにより試料への照射X線と照射電子線が同軸上に落射されるため、同一視野で試料内部情報、表面情報の両方を観察することができる。また、試料全体の内部形態情報を示すX線画像に目的部位15の元素分布像を重ねがきして表示することも可能となる。機械的切断手段10を備えているため、試料内部の電子線画像などを表示することも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体や半導体などの微細構造物試料の表面状態や組成分布などを観察したり、分析する顕微鏡技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子線を試料上で走査して試料からの2次電子や反射電子を検出し、表面の形態をナノメートルオーダーで観察する走査電子顕微鏡(SEM)が、様々な産業分野で利用されている。また、これにエネルギー分散型X線分光器(EDX)や波長分散型X線分光器(WDX)を組み込んで、電子線の入射によって励起されるX線のエネルギーを調べることで、試料の形態や元素分布を測定したり、観察する装置も商品化されている。
【0003】
目的部分が試料内部に存在している場合や試料の下層に存在している場合、試料内部の形態や形状を測定し情報を得るには、透過性が高いX線を用いたX線顕微鏡が適している。
X線顕微鏡として、例えば、電子顕微鏡と同様の電子鏡筒に金属片ターゲットを固定して、数十nmのX線源径により表面からは観察できない試料内部を観察する投影型X線顕微鏡が提案されている(特許文献1参照。)。
また、電子部品など微細部品の検査用にはマイクロフォーカスX線透視装置、マイクロフォーカスX線CT装置などが実用化されており、これらの装置でのX線焦点サイズはサブミクロン(例えば0.4μm)である。さらに、X線には大気中で観察できるというメリットもある。
【0004】
このように、X線顕微鏡や電子顕微鏡は近年の様々な産業分野において重要な役割を担っており、これらの顕微鏡の機能や操作性を統合し、より利便性がよい複合型顕微鏡の開発が必要とされている。
これまでに、レーザ顕微鏡と走査型顕微鏡で光学系を共用するようにしたものにおいては、レーザ顕微鏡で得た試料表面の凹凸に関するデータを走査型プローブ顕微鏡での観測にも利用することが提案されている(特許文献2参照。)。
しかし、X線画像及び電子線画像を組み合わせることによって、同時又は時系列に試料内部の情報を表示できる複合型顕微鏡は知られていない。
【特許文献1】特開2003−131000号公報
【特許文献2】特開平7−198730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
走査型電子顕微鏡は試料表面近傍の情報をナノメートルオーダーで取得することが可能であるが、試料内部(例えばmmオーダー)の情報を選択的に取得するのは困難である。内部の観察情報を取得したい場合には、試料を切断して目的部位を露出させ、観察することになる。このとき、一般的には切断時に目的部位を目視や光学顕微鏡、時には電子顕微鏡で探しながら別の装置で切断した後、電子顕微鏡に試料を固定して観察することになるが、目的部位に対するマーカーが微小な場合には試料切断部位をうまく探せないケースがある。また、最悪の場合、貴重な目的部位を切断時に破損してしまう可能性もある。
【0006】
一方、投影型X線顕微鏡の場合は、数十nmのX線焦点サイズを達成するためにターゲットを薄くしており(20〜200nm)、放熱対策がされているものの、mmオーダーの試料を内部透視することが可能な程にX線量を上げると、ターゲットが損傷する問題が発生してしまう。mmオーダーのサンプルの内部をX線観察するには、例えば、ターゲットの厚みがミクロンオーダーであるマイクロフォーカスX線装置が適当であるが、X線焦点サイズは最小でもサブミクロン程度に過ぎない。
【0007】
したがって、試料内部の目的部位の形状や位置を正確に把握した上で、その部位の構造や組成(元素)の分布をナノメートルオーダーで観察する場合、単体の装置ではいずれの装置を用いても難しく、これら装置を組み合わせて使用する必要がある。ところが、複数の装置を使用するため、一連の作業には時間がかかり作業性が悪いばかりでなく、試料によっては表面状態が経時的に変化して、もしくは装置間試料移動時に不純物(コンタミ)が付着して本来の情報が得られないということも考えられる。
本発明は、試料の内部X線画像を取得するとともに、電子顕微鏡の機能も実現できる複合型顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の複合型顕微鏡は、真空容器内で試料を支持する試料ステージと、試料にX線を照射するX線発生器と、試料を透過したX線を検出するX線検出器と、試料に電子線を照射して走査させることができる電子鏡筒と、電子線が照射された試料から発生した2次電子又は反射電子を検出する電子検出器と、表示部と、X線検出器からの信号を処理してX線画像を前記表示部に表示させるX線画像制御部と、電子検出器からの信号を処理して電子線画像を前記表示部に表示させる電子線画像制御部と、試料の同一部分のX線画像と電子線画像を同時に又は時系列的に表示する検出信号処理部とを備えている。
【0009】
この複合型顕微鏡は、電子線照射により励起された特性X線を検出して元素分析を行なう元素分析器をさらに備え、検出信号処理部は試料の元素分布像も表示部に表示できるようにすることも可能である。
検出信号処理部はX線透視像又はX線断層像に、電子線画像を重ねがきして表示部に表示できるようにすることもできる。
さらに、検出信号処理部はX線透視像又はX線断層像に、元素分布像を重ねがきして表示部に表示できるようにすることもできる。
【0010】
電子鏡筒から照射される電子線の経路上に、電子線照射によりX線を発生する金属プレートを着脱可能に設け、電子鏡筒がX線発生器を兼ねるようにすることもできる。
また、真空容器内に試料切断手段を備え、試料内部を外表面に露出させるようにすることもできる。
そのような試料切断手段としては、ミクロトーム、イオンビームエッチングを行なうイオン銃、又は集束イオンビーム加工装置などを用いることができる。
【0011】
X線発生器として、X線焦点サイズが10μm以下のマイクロフォーカスX線管を用いることができる。
前記試料切断手段は、前記X線透視像又はX線断層像に基づいて指示された面が露出するように試料切断を制御することができる。
本発明では、装置内の動作真空度は1から2,700Paの低真空で制御されることが適当である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、X線画像と電子線画像を同時に又は時系列的に表示することができる。
元素分析器をさらに備えれば、電子線照射により励起された特性X線を検出して、元素分析を行なうこともできるようになる。
X線画像と電子線画像を重ねて表示すれば、元の試料内部情報と表面情報との対比画像を取得することもできる。
その元素分析像をX線画像と重ねて表示するようになれば、特定された位置の元素分析を行なうことができる。
【0013】
電子鏡筒から照射される電子線の経路上に、X線を発生する金属プレートを着脱可能に設ければ、電子鏡筒がX線発生器を兼ねることができる。
試料切断手段を設ければ、ミリメートルオーダーの大型試料内部の目的部位を正確に抽出し、ナノメートルオーダーで構造や元素分析を取得することができるようになる。
試料切断手段を備えることによって、試料内部を外表面に露出させることができ、これまで不可能であった内部の同じ部分のX線画像と電子線画像を同時、又は時系列に得ることができる。
X線検出器を、X線焦点サイズが10μm以下のマイクロフォーカスX線管とすれば、より微細な観察を行なうことができる。
【0014】
X線画像は大気中で撮像できるメリットがあるが、電子線画像は真空引きされた環境が必要である。
本発明の装置の動作真空度を1から2700Paの低真空とすれば、例えば、生体などの含水試料などについても、X線による内部情報と電子線による表面情報を同時に確認することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の一実施例について説明する。
図1から図3は装置の各動作について示した図であり、図1はX線画像撮影時について、図2は電子線画像及び元素分布像撮影時、図3は電子鏡筒とX線発生器を共用させた場合について示している。
【0016】
装置について説明する。
真空排気されるチャンバ23内に試料ステージ24が設けられ、試料14が試料ステージ24上に載置される。チャンバ23内の真空度は1から2700Paである。
X線画像撮影に関するものとして、図1に示されるように、チャンバ23にはX線13を試料14に照射するX線発生装置11と、試料14を透過したX線を検出するX線検出器17とが対向配置されており、X線検出器17による結果は検出信号処理部21に送られ、表示部22に表示されるようになっている。
また、X線断層(CT)像を撮影するために試料ステージ24は回転式になっている。
【0017】
電子線画像撮影に関するものとして、図2に示されるように、チャンバ23の上部には、電子を発生するカソード2、カソード2で発生した電子を引き出し加速するためのアノード3、加速された電子線を集束させるための電磁レンズ5及び8、電子線を試料に照射し、試料上で走査するための走査コイル6を備える電子鏡筒1を備えている。
電子鏡筒1から出射された電子線7は試料14に照射され、発生した2次電子26は2次電子検出器18により捕獲されて検出され、検出信号処理部21で処理された後、表示部22のモニタに走査電子顕微鏡像が表示されるようになっている。
【0018】
元素分布像撮影に関するものとして、チャンバ23には、上記の各装置に加えて電子鏡筒1から出射された電子線7が試料に照射されることで発生した特性X線27を検出するX線検出器19を備えている。X線検出器19の検出信号も、検出信号処理部21で処理された後、表示部22に元素分布像が表示されるようになっている。
また、電子鏡筒1の電子線をX線発生器として共用させるものとして、図3に示されるように、金属ターゲット9が電子鏡筒1のすぐ下に着脱可能に配置されており、これはチャンバ23の真空中で移動できるものである。
チャンバ23には試料14を挟んで金属ターゲット9と対向する位置にX線検出部16が配置されている。X線検出部16の検出信号も検出信号処理部のみで処理されて表示部22に表示されるようになっている。
【0019】
検出信号処理部21及び表示部22はそれぞれの測定で共用するのが望ましいが、別々に処理し表示してもよい。
試料切断手段に関するものとして、例えばミクロトーム等の切断手段10により試料14を切断して目的部位15の表面25を露出できれば有効である。切断手段は機械的切断手段に限るものではなく、例えばイオンエッチングやFIB(集束イオンビーム加工装置)のような手段でもよい。チャンバ23内にこれらの切断手段を設けることにより、大気中に出した場合に発生する、表面状態の経時変化や妨害成分(いわゆるコンタミ)の付着を防止することができる。
【0020】
次に各動作について説明する。
図1は同実施例において、X線画像を取得する場合の模式図である。X線発生装置11内にある電子発生源で放出された電子は加速され、銅などの金属ターゲットに衝突して領域12の範囲でX線13を発生し、発生したX線13は試料14に照射される。X線の発生は制御部20にあるX線発生制御部により制御される。
試料14を透過したX線13はX線検出器17により検出され、検出信号処理部21を経て表示部22のモニタ画面に試料内部のX線透視画像が映し出される。
【0021】
X線透視画像の代わりに、試料ステージ24を回転させてX線断層(CT)像を撮影することにより内部情報を取得して目的部位15を確認することもできる。X線透視画像からは目的部位の表面からの深さ方向の距離aを、X線CT像からは目的部位の水平方向の距離bを把握することができる。試料ステージ24の回転は制御部20にあるステージ制御部により制御される。
【0022】
図2は同実施例において、電子線により表面状態や元素分布像を観察する場合の模式図である。
電子鏡筒1から出射された電子線7は試料に照射され、発生した2次電子26は2次電子検出器18により捕獲されて検出され、検出信号処理部21で処理された後、表示部22のモニタに走査電子顕微鏡像が表示される。電子鏡筒1からの電子線の照射は、制御部20にある電子線制御部により制御される。
ここでは、2次電子検出器18を例に説明したが、試料からの反射電子を反射電子検出器で検出する構成でもよい。
【0023】
また、このとき走査電子線7により励起されて発生する特性X線をX線分光器19で取得して、元素分布像を表示させることもできる。
試料14の表面の情報のみを取得したい場合はこのような手順になるが、試料内部の目的部位15を観察したい場合は、このままでは観察不可能である。その場合、例えばミクロトーム等の切断手段10により試料14を切断して目的部位15の表面を露出させるようにすることができる。切断手段10の動作は制御部20にある試料切断制御部により制御される。
【0024】
試料の目的部位が、例えばmmオーダーの試料内部に存在する場合、電子線では内部透過能がないため、X線だけが非破壊的に目的部位15の形状、位置を確認できる有効な手段となる。ここで使用するX線発生器はX線焦点サイズができるだけ小さいほうが望ましく、例えばマイクロフォーカスX線発生管などを使用するのがよい。現在、マイクロフォーカスX線管はサブミクロンレベルの装置も商品化されているため、かなりの微細構造の確認が可能であるが、さらに高い分解能で観察像や元素分布像を取得したいという要求がある。
【0025】
試料切断位置は、図1に示した前述のX線画像から判断することができる。例えば、最初にX線画像を取得して表示部のモニタに表示し、目的部位を指示(例えばクリック)することで切断手段10を自動制御して切断を実行することができる。また、自動制御でなくても、電子線像、別途内蔵された光学顕微鏡像又は位置センサの変位量などを見ながら、手動で切断するようにすることもできる。
これにより、試料内部の目的部位15の位置を正確に把握し、表面構造又は元素分布像をナノメートルオーダーで微細観察することができるようになる。
【0026】
図3は同実施例において、電子鏡筒1の電子線をターゲット9により遮蔽することによりX線を発生させることで、X線発生器を共用させたものである。ターゲットの着脱は制御部20にあるターゲット制御部により制御される。
カソード2で発生した電子は、図3に示すようにターゲット9が電子線の通路を遮蔽しているとき、ターゲットに衝突することでX線が発生し、X線が試料に照射される。試料を透過したX線は検出部16によって検出され、検出信号処理部21で処理されたあと、表示部22にX線画像が表示される。
X線画像を得た位置の電子線画像を得る場合、ターゲット9は電子線の通路を遮蔽しない位置に退避させる。
【0027】
電子鏡筒1をX線発生器と共用化させることにより、試料への照射X線と照射電子線が同軸上に落射されるため、同一視野で試料内部情報及び表面情報の両方を観察することができる。また、試料全体の内部形態情報を示すX線画像に、目的部位15の元素分布像を重ねがきして表示することも可能となる。
【0028】
X線画像と電子線画像を得た後に、目的試料を機械的切断手段によって切断して試料内部を外部に露出させ、前記方法によって試料内部のX線画像又は電子線画像を得ることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施例をX線画像撮影時の状態で示す概略構成図である。
【図2】同実施例を電子線画像及び元素分布像撮影時の状態で示す概略構成図である。
【図3】同実施例を電子鏡筒とX線発生器を共用させた場合の状態で示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0030】
1 電子鏡筒
2 カソード
3 アノード
5,8 電磁レンズ
6 走査コイル
7 走査電子線
9 ターゲット
10 機械的切断手段
11 X線発生装置
12 領域
13 X線
14 試料
15 目的部位
16 検出部
17 X線検出器
18 2次電子検出部
19 X線分光器
21 検出信号処理部
22 表示部
23 チャンバ
24 試料ステージ
25 表面
26 2次電子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内で試料を支持する試料ステージと、
前記試料にX線を照射するX線発生器と、
前記試料を透過したX線を検出するX線検出器と、
前記試料に電子線を照射して走査させることができる電子鏡筒と、
電子線が照射された試料から発生した2次電子又は反射電子を検出する電子検出器と、
表示部と、
前記X線検出器からの信号を処理してX線画像を前記表示部に表示させるX線画像制御部と、
前記電子検出器からの信号を処理して電子線画像を前記表示部に表示させる電子線画像制御部と、
試料の同一部分のX線画像と電子線画像を同時に又は時系列的に表示する検出信号処理部と、を備えた複合型顕微鏡。
【請求項2】
電子線照射により励起された特性X線を検出して元素分析を行なう元素分析器をさらに備え、前記検出信号処理部は試料の元素分布像も表示部に表示できるようにした請求項1に記載の複合型顕微鏡。
【請求項3】
前記検出信号処理部は、X線透視像又はX線断層像に元素分布像を重ねがきして表示部に表示することができるようにした請求項2に記載の複合型顕微鏡。
【請求項4】
前記検出信号処理部は、X線透視像又はX線断層像に電子線画像を重ねがきして表示部に表示することができるようにした請求項1に記載の複合型顕微鏡。
【請求項5】
さらに、前記電子鏡筒から照射される電子線の経路上に、電子線照射によりX線を発生する金属プレートを着脱可能に設け、前記電子鏡筒がX線発生器を兼ねる請求項1から4のいずれかに記載の複合型顕微鏡。
【請求項6】
前記真空容器内に試料切断手段を具備し、試料内部を外表面に露出させることを可能にした請求項1から5のいずれかに記載の複合型顕微鏡。
【請求項7】
前記試料切断手段がミクロトームである請求項6に記載の複合型顕微鏡。
【請求項8】
前記試料切断手段がイオンビームエッチングを行なうイオン銃である請求項6に記載の複合型顕微鏡。
【請求項9】
前記試料切断手段がイオンビーム加工装置である請求項6に記載の複合型顕微鏡。
【請求項10】
前記X線発生器のX線焦点サイズが10μm以下のマイクロフォーカスX線管であることを特徴とする請求項1から4及び6から9のいずれか1項に記載の複合型顕微鏡。
【請求項11】
前記試料切断手段は、前記X線透視像又はX線断層像に基づいて指示された面が露出するように試料切断が制御される請求項6から10のいずれかに記載の複合型顕微鏡。
【請求項12】
前記装置内の動作真空度が1から2,700Paの低真空で制御される請求項1から11のいずれかに記載の複合型顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−47206(P2006−47206A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−231334(P2004−231334)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】