説明

複合成型品の製法ならびにステアリングホイールおよびその製法

【課題】ステアリングホイールを、分割体を一体化する方法で製造する際に、接着剤を用いずに分割体を強固に一体化できるようにする。
【解決手段】表面材3とその内面上に設けられた樹脂層4と該樹脂層の内側に設けられた補強リブ5を有する分割体6を複数個組み合わせた状態で、前記複数個の分割体6の樹脂層4を溶着一体化して外殻部を形成した後、該外殻部内に芯金1を配した状態で、該外殻部と芯金1との間に樹脂を充填して中芯を形成する。分割体6どうしの接合端面において、表面材3の端面より樹脂層4の端面の方が突出しており、これらを溶着一体化した後にも表面材3の端面どうしが間隙を有して対向している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばステアリングホイールなど、表面材の内側に樹脂層を有する複合成型品の製法、ならびに該方法を用いてステアリングホイールを製造する方法および該方法で得られるステアリングホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
表面層が木質材料からなり、その内側に樹脂製の芯材を有する木目柄のステアリングホイールの製法として、例えば図9に示すような方法が提案されている。この方法は、ステアリングホイールの芯金54以外の部分を2分割した断面略U字状の分割体53,53を、芯金54を挟んで突き合わせ接合し、分割体53,53どうし、および分割体53と芯金54とを接着剤によって接着する方法である。分割体53は、木質材料からなる表面材51と、表面材51の内面上に形成された樹脂製芯材52とからなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、この方法は分割体53,53を一体化するのに接着剤を用いるために、次のような不都合があった。すなわち、製造されたステアリングホイールにあっては、分割体53,53どうしの接着面に沿って、クラックが発生し易いという問題があった。例えば環境温度の変化により樹脂製芯材52が膨張すると、図10に示すように分割体53,53の接合面に応力が集中し、この接合面への応力が大きくなると、図11に示すように、ステアリングホイール表面の塗膜に、接合面に沿って割れ(クラック)55が生じる。また、分割体53,53どうしの接合面には、ある程度大きい接着強度が要求され、このような接着強度を満たすために接着後にアニール工程が必要となるなど、接着工程が多くなり接着に要する時間も長くなる。また接着治具も必要となる。さらに、接着剤を用いるので、接着工程後には、ステアリングホイール表面にはみ出した接着剤ばりを除去するための工程が必要である。
【0004】
本発明は、このように分割体を一体化する方法で、例えばステアリングホイールなど、表面材の内側に樹脂層を有する複合成型品を製造する際に、接着剤を用いずに分割体を一体化できるようにした方法、およびこの方法で得られる複合成型品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明は、表面材と、該表面材の内面上に設けられた樹脂層と、該樹脂層の内側に設けられた補強リブとを有する分割体を、複数個組み合わせて複合成型品を製造する方法であって、前記複数個の分割体を仮合わせする工程と、前記仮合わせした前記複数個の分割体の樹脂層を、該分割体どうしが互いに突き合わされる接合端面において、振動溶着法、超音波溶着法、又は高周波溶着法のいずれかにより、溶着一体化する工程を有することを特徴とする複合成型品の製法を提供する。
【0006】
本発明の複合成型品およびその製法は、ステアリングホイールに好ましく適用できる。すなわち、本発明は、芯金と、該芯金の少なくとも一部の周上に設けられた中芯と、該中芯の周上に設けられた外殻部を備えたステアリングホイールを製造する方法であって、表面材と、該表面材の内面上に設けられた樹脂層と、該樹脂層の内側に設けられた補強用リブとを有する分割体を複数個組み合わせて一体化して外殻部を形成する工程と、該外殻部内に芯金を配した状態で、該外殻部と芯金との間に樹脂を充填して中芯を形成する工程を有し、前記外殻部を形成する工程は、前記複数個の分割体を仮合わせする工程と、仮合わせした前記複数個の分割体の樹脂層を、該分割体どうしが互いに突き合わされる接合端面において、振動溶着法、超音波溶着法、又は高周波溶着法のいずれかにより、溶着一体化する工程を有することを特徴とするステアリングホイールの製法を提供する。
【0007】
また本発明は、芯金と、該芯金の少なくとも一部の周上に設けられた中芯と、該中芯の周上に設けられた外殻部を備えたステアリングホイールであって、
前記外殻部は、表面材と、該表面材の内面上に設けられた樹脂層と、該樹脂層の内側に設けられた補強リブを有する分割体を、複数個仮合わせし、該分割体どうしが互いに突き合わされる接合端面において、振動溶着法、超音波溶着法、又は高周波溶着法のいずれかにより、前記複数個の分割体の樹脂層を互いに溶着一体化してなることを特徴とするステアリングホイールを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、表面材とその内面上に設けられた樹脂層と、該樹脂層の内側に設けられた補強リブを有する分割体を複数個仮合わせして、前記複数個の分割体の樹脂層を溶着一体化する方法で複合成型品を製造することにより、接着剤を用いずに分割体を一体化することができる。したがって、溶着工程だけで十分な接合強度が得られるので、接着剤を用いた場合に必要となるアニール工程が不要となるほか、接着剤ばりを除去する工程も不要となるので、工程数が削減され、製造に要する時間が短縮される。また得られた複合成型品は強度に優れている。本発明の方法は、ステアリングホイールの製造に好ましく適用することができ、芯金と、該芯金の少なくとも一部の周上に設けられた中芯と、該中芯の周上に設けられた外殻部を備えたステアリングホイールを効率良く製造することができる。そして、本発明の方法により得られるステアリングホイールは、外殻部が、表面材とその内面上に設けられた樹脂層と該樹脂層の内側に設けられた補強リブを有する複数の分割体を組み合わせて形成されており、該複数の分割体の樹脂層が互いに溶着一体化されているので、強度に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳しく説明する。図1ないし図5は本発明の第1の実施形態を示したもので、図1はステアリングホイールの平面図、図2は図1中のII−II線に沿う断面図、図3ないし図5は製造工程の説明図である。図中符号1は芯金、2は外殻部、7は中芯をそれぞれ示す。本実施形態のステアリングホイールは、図1に示すように、表側(または裏側)から平面視したときに、リム部のうち左右のグリップ部付近が皮巻き部101で形成されており、左右の皮巻き部101の間の上部102および下部103が、図2に示すような断面構造を有している。すなわち、本実施形態のステアリングホイールの上部102および下部103は、芯金1の周上に樹脂製の中芯7が設けられており、中芯7の周上には、表面材3の内面上に樹脂層4および補強リブ5が順次積層された外殻部2が設けられた構造を有している。
【0010】
芯金1は、例えば鉄などの金属製の棒からなるリム部と、金属製棒又は金属板からなるスポーク部とを溶接して形成されている。以下、図においてスポーク部を省略することもある。芯金1のリム部はパイプ状でもよく、各種の断面形状とすることができる。また芯金1は、アルミニウムやマグネシウム等の軽金属をダイキャスト成形したものでもよく、この場合はリム部とスポーク部とを一括的に成形することができる。
【0011】
外殻部2は、2つの分割体6,6を組み合わせて構成されている。分割体6の形状は、複数個を組み合わせてステアリングホイールの外殻部2を形成できるものであればよく、本実施形態ではステアリングホイールの外殻部2を芯金1の中心を通る面で表側と裏側とに2分割した断面略半円形に形成されている。各分割体6は表面材3の内面上に樹脂層4および補強リブ5を順次積層一体化して構成されている。最終製品のステアリングホイールにおいて、2つの分割体6,6の樹脂層4は互いに溶着一体化されており、表面材3の端面どうしが僅かな隙間を介して対向している。
【0012】
表面材3の材料は特に限定されないが、例えば木質化粧板、皮革、合成樹脂フィルム等が用いられる。表面材3の厚さは材質によって異なるが、例えば0.45〜0.85mmの化粧単板が用いられる。樹脂層4の材料としては、ポリカーボネート、ABS樹脂、PPS(ポリフェニレンスルフィド)樹脂等が用いられ、特にPPSが好ましい。樹脂層4の厚さは、薄すぎると後述の溶着工程における分割体の接合が不十分となり、厚すぎると芯金1と外殻部2とのクリアランスが小さくなり、中芯7材料の注入量が不十分となるので、例えば2.8〜3.2mm程度とされる。また本実施形態では、樹脂層4の内側に補強リブ5が設けられている。補強リブ5は、後述の振動溶着工程における分割体6の変形を防止できるものであればよく、その形状、大きさ、形成位置等は特に限定されない。補強リブ5は、分割体6の長さ方向に間隔をおいて設けてもよく、あるいは分割体6の長さ方向に沿って連続して形成してもよい。補強リブ5は樹脂層4と同じ材料で、樹脂層4と一体に形成することが好ましい。
【0013】
中芯7は合成樹脂材料からなり、芯金1と外殻部2との間を埋めるように形成されている。中芯7の材料としては、例えば、発泡ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ABS樹脂、PPS樹脂などが用いられ、特に発泡ウレタン樹脂が好ましい。また、ステアリングホイールの革巻き部101は、芯金1の周上に、革巻きの下地を形成し、その上に革巻きが施されている。革巻きの下地を形成する材料は特に限定されないが、例えば発泡ウレタン、エラストマー、発泡エポキシ等が好適である。
【0014】
以下、本実施形態のステアリングホイールの製法を図3ないし図5を参照しながら説明する。図3は本実施形態の方法に好適に用いられる振動溶着装置の例を示したもので、(a)は要部の斜視図、(b)は一部断面視した平面図である。この図3は、ステアリングホイールの左右の皮巻き部101の間の上部102の外殻部2を形成する工程を示している。図4は、図3の振動溶着装置に分割体6をセットする工程を説明するための断面図である。図5は外殻部2内に樹脂を充填する工程の説明図である。
【0015】
本実施形態のステアリングホイールを製造するには、まず分割体6を作製する。具体的には、表面材3を熱圧プレス、真空プレスなど、材料に適した方法で予備成形した後、これを型内に配し、その内側に樹脂を、インジェクション成形、発泡成形、トランスファー成形、あるいは圧縮成形することによって樹脂層4および補強リブ5を一体的に形成することが好ましい。このとき、分割体6どうしが互いに突き合わされる端面(以下、接合端面ということもある)において、樹脂層4の端面に接合相手の分割体6の樹脂層4と互いに係合する形状の係合部を設ける。本実施形態では、一方の分割体6の樹脂層4の端面には分割体6の長さ方向に沿う凸条4aが形成されており、他方の分割体6の樹脂層4の端面には前記凸条4aと係合する凹溝4bが形成されている。また分割体6,6の係合部(凸条4a、凹溝4b)を係合させて仮合わせしたときに、表面材3,3の接合端面が互いに接触せず、得ようとするステアリングホイールにおける表面材3,3間の間隙よりも若干大きい間隙が形成されるようにするために、表面材3の端面より樹脂層4の端面の方が突出するように形成する。
【0016】
次に、図3に例示する振動溶着装置20を用いて、ステアリングホイールの表側となる分割体6と裏側となる分割体6の樹脂層4を溶着により一体化して外殻部2を形成する。図3の振動溶着装置20の溶着治具10は、上下に分割可能で、内部に分割体6を保持するキャビティを備えている。溶着治具10の上側パーツ11は振動手段(図示略)に固定され、溶着治具10の下側パーツ12は固定台13に固定される。振動溶着装置20の振動手段は、両サイド(リニア方式)、もしくは3方向(オービタル方式)に配置された電磁石を備えており、電磁石の相互同期をとることにより溶着治具10の上側パーツ11に、上側パーツ11の中央におけるステアリングホイールの直径方向に垂直な方向(図中矢印方向)の振動を与えるように構成されている。また固定台13は上下に微動可能であり、下側パーツ12を上側パーツ11に押し付ける方向に所定の加圧力を加えることができるように構成されている。溶着治具10の上側パーツ11および下側パーツ12には、図4に示すように、分割体6の外面形状と同様の内面形状を有するキャビティが設けられており、キャビティ内に分割体6を収容して、上側パーツ11および下側パーツ12を振動溶着装置20に固定した状態で、分割体6の樹脂層4の係合部(凸条4a、凹溝4b)が係合して、分割体6,6が仮合わせされるように構成されている。また、固定台13上には、芯金1を着脱可能に固定する芯金固定治具14が設けられている。この芯金固定治具14に芯金1を固定させると、上側パーツ11および下側パーツ12を振動溶着装置20に固定した状態で、これらのパーツ11,12の間に芯金1が宙に浮いた状態で保持されるように構成されている。
【0017】
このような振動溶着装置20を用いて、ステアリングホイールの表側となる分割体6と裏側となる分割体6を一体化するには、図4に示すように、溶着治具10の上側パーツ11内、および下側パーツ12内に、ステアリングホイールの表側となる分割体6および裏側となる分割体6をそれぞれセットした後、上側パーツ11および下側パーツ12を振動溶着装置20に固定し、分割体6,6を仮合わせさせる。このとき、予め皮巻きの下地(図示せず)を形成した芯金1を芯金固定治具14に固定しておき、分割体6,6の間に芯金1を保持する。次いで、振動溶着治具20の振動手段により、上側パーツ11に前記の振動方向(図中矢印方向)の振動を与えつつ、固定台13を上昇させて下側パーツ12を上側パーツ11に押し付ける方向に加圧する。これにより仮合わせされている分割体6,6の接合端面に摩擦が生じ、この摩擦熱によって樹脂層4の係合部4a、4b付近が溶着一体化する。分割体6,6の溶着一体化は、ステアリングホイールの上部102となる部分、および下部103となる部分それぞれについて行う。
【0018】
このような振動溶着法において、単位時間当たりの摩擦発熱量Q1は、Q1=2afμp(2a;振幅、f;振動数、μ;摩擦係数、p;加圧力)で表され、単位面積当たりの発熱量Q2は、Q2=Q1・t/S=2afμpt/S(t;摩擦時間、S:接触面積)で表される。本実施形態において与えられる溶着条件は、振動の周波数が100〜240Hz、振幅が0.5〜5mm、圧力が0.5〜5MPa、発振時間1〜20秒程度が好ましく、この範囲で適切な溶着状態が得られるように設定される。ここで、本実施形態における適切な溶着状態とは分割体6,6の接合端面において樹脂層4が互いに溶融一体化しており、かつ表面材3どうしは互いに接触しておらず、表面材3の端面どうしが僅かな隙間を介して対向している状態である。本実施形態においては、分割体6の接合端面が、表面材3の端面より樹脂層4の端面の方が突出している形状となっているので、分割体6,6を仮合わせした状態で表面材3の端面どうしの間には間隙ができる。そして、振動溶着時には分割体6,6を互いに押し付け合う方向に加圧するので、溶融または軟化した樹脂層4が加圧力により変形して表面材3間の間隙が徐々に減少する。したがって、溶着条件を調整して、表面材3の端面どうしが接触する前に振動溶着を止めるようにする。なお、分割体6には補強リブ5が設けられているので、振動が加えられたときに、分割体6どうしの摩擦力によって分割体6に変形が生じるのが防止され、樹脂層4の係合部4a、4bに効率良く加圧力が加えられる。
【0019】
このようにして分割体6,6を溶着一体化して外殻部2を形成した後、図5に示すように、中芯注入治具30に外殻部2および芯金1を固定した状態で、外殻部2と芯金1との間に樹脂Pを充填して中芯7を形成する。図5(a)はは平面図であり、(b)は要部を拡大して示した斜視図である。本実施形態の中芯注入治具30は、基台の上面に、ステアリングホイールの上部102の外殻部2、下部103の外殻部2、および皮巻き部101の芯金1が所定の位置に配された形状の、裏側(または表側)半分の外面形状と同様の内面形状を有する溝(図示略)が彫り込まれており、この溝内に外殻部2と、その内部を貫通している芯金1を配すると、外殻部2内の中心位置に芯金1が配された状態で固定されるようになっている。また基台には、外殻部2および芯金1を溝内に固定した状態で、ステアリングホイールの上部102を構成する外殻部2の一方の端部、および下部103を構成する外殻部2の一方の端部を密閉する密閉治具31も設けられている。本実施形態における密閉治具31は、芯金1を溝内に固定するための押さえも兼ねている。また図中符号32は芯金1の押さえである。この中芯注入治具30に、外殻部2および芯金1を固定して、外殻部2の密閉されていない方の端部から、外殻部2と芯金1との間の空間内に、樹脂Pを注入した後、硬化させて中芯7を形成する。
【0020】
このようにして中芯7を形成した後、塗装などの必要に応じた仕上げを施し、また皮巻き部101に皮巻きを施して、ステアリングホイールが出来上がる。
【0021】
振動溶着装置20の振動手段は、両サイド(リニア方式)、もしくは3方向(オービタル方式)に配置された電磁石を備えており、電磁石の相互同期をとることにより溶着治具10の上側パーツ11に、上側パーツ11の長手方向(図中矢印方向)の振動を与えるように構成されている。また固定台13は上下に微動可能であり、下側パーツ12を上側パーツ11に押し付ける方向に所定の加圧力を加えることができるように構成されている。本実施形態によれば、分割体6,6の接合が表面材3の内面上の樹脂層4の溶着により行われるので、接着剤を用いずに分割体6,6を一体化してステアリングホイールを製造することができる。樹脂層4は融合して一体化されるので、溶着工程だけで十分な接合強度が得られる。したがって接着剤を用いた場合のアニール工程が不要となるほか、接着剤ばりを除去する工程も不要となるので、工程数が削減され、製造に要する時間が短縮される。また得られたステアリングホイールにおいて、分割体6,6が一体化しているので、環境温度変化により中芯7に膨張や収縮が生じても接合部位に曲げモーメントが集中することはなく、分割体6,6の合わせ面におけるクラックの発生が防止される。
【0022】
図6ないし図8は本発明の第2の実施形態を示したものであり、図6はステアリングホイールを製造する工程の説明図、図7は図6において破線で囲んだ部分を拡大して示した要部拡大図、図8は本実施形態において得られるステアリングホイールの断面図である。本実施形態が前記第1の実施形態と大きく異なる点は、分割体46の樹脂層44を溶着させるのに、前記振動溶着法に代えて高周波誘導加熱溶着法を用いる点である。前記第1の実施形態における構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略することがある。本実施形態においてステアリングホイールを製造するには、まず前記第1の実施形態と同様に、予備成形した表面材3の内側に、樹脂をインジェクション成形、発泡成形、トランスファー成形、あるいは圧縮成形することによって樹脂層44を形成して、分割体46を作製する。このとき、樹脂層44の接合端面に接合相手の分割体46の樹脂層44と互いに係合する形状の係合部を設ける。係合部の形状は特に限定されないが、分割体46,46を仮合わせした状態で、表面材3,3の接合端面間に、得ようとするステアリングホイールにおける表面材3,3間の間隙よりも若干大きい間隙が形成されるようにするとともに、樹脂層44内部に強磁性体43を収容するための空隙45が形成されるようにする。空隙45は、分割体46の長さ方向の一端から他端まで連続する溝状に形成する。
【0023】
次に、樹脂層44内の空隙45に強磁性体43を収容させる。強磁性体43は、例えば鉄などの強磁性材料からなるもので、分割体46の樹脂層44内に、分割体46の長さ方向に沿って連続的に配することができるものであればよく、形状や性状は限定されない。例えば強磁性材料をワイヤー状またはシート状に成形したものでもよく、あるいは固体でなくてもよくて、例えば強磁性材料の粉末を含む樹脂でもよい。
【0024】
次に、図6に示すように、ステアリングホイールの表側となる分割体46と裏側となる分割体46とを係合させて仮合わせした後、両者の樹脂層44を溶着により一体化する。本実施形態では、樹脂層44を溶着するのに、水冷コイルからなる磁場発生装置41を用いる。この磁場発生装置41は、コイルに高周波電流を印加すると、図7に矢印で示すように、コイル周辺に磁場を発生させるものである。具体的には、まず、分割体46,46を仮合わせするが、このとき、予め皮巻きの下地(図示せず)を形成した芯金1を、芯金固定治具(図示せず)等を用いて分割体6,6の間に保持する。そして分割体46,46の接合面の近傍、すなわち樹脂層44の内部に収容されている強磁性体43近傍に磁場発生装置41を配し、分割体46,46を互いに押しつけ合う方向に加圧しつつ、磁場発生装置41に高周波電流を印加する。磁場発生装置41により発生した磁場によって、強磁性体43が励起し、渦電流が発生する。そして発生した渦電流により強磁性体43は発熱し、これによって樹脂層44の係合部付近が溶融し、この後冷却することによって樹脂層44が溶着一体化される。
【0025】
溶着条件は、溶着後の分割体46,46の接合面において樹脂層44が互いに溶融一体化しており、かつ表面材3どうしは互いに接触しておらず、表面材3の端面どうしが僅かな隙間を介して対向している状態となるように設定する。また本実施形態においては、分割体46,46を仮合わせした状態で表面材3の端面どうしの間に間隙が生じており、高周波誘導加熱溶着時には分割体46,46を互いに押し付け合う方向に加圧するので、溶融または軟化した樹脂層44の接合端面付近で変形が生じて表面材3間の間隙が徐々に減少する。したがって、溶着条件を調整して、表面材3の端面どうしが接触する前に高周波誘導加熱溶着を止めるようにする。具体的には、高周波誘導加熱溶着時に分割体46,46を加圧する圧力は0.1〜10bar、コイルに印加する高周波電流の周波数は100kHz〜15MHz、電流の印加時間は1〜60秒程度の範囲内で設定するのが好ましい。
【0026】
このようにして分割体46,46を溶着一体化して外殻部42を形成した後、前記第1の実施形態と同様にして、外殻部42と芯金1との間に樹脂を充填して中芯7を形成する。そして中芯7を形成した後、塗装などの必要に応じた仕上げを施し、また皮巻き部101に皮巻きを施して、ステアリングホイールが出来上がる。本実施形態により得られるステアリングホイールの上部102および下部103においては、図8に示すように、2つに分割している表面材3の内面上に一体化した樹脂層44および中芯7が順次形成されており、中心に芯金1が配されている。また表面材3の接合面近傍の樹脂層44内には強磁性体43が埋め込まれている。
【0027】
本実施形態においても、分割体46,46の接合が表面材3の内面上の樹脂層44の溶着により行われるので、接着剤を用いずに分割体46,46を一体化してステアリングホイールを製造することができる。したがって、前記第1の実施形態と同様に、工程数が削減され、製造に要する時間が短縮され、クラックの発生が防止されるといった効果が得られる。
【0028】
さらに、前記実施形態における、振動溶着法または高周波溶着法に代えて超音波溶着法を用いることも可能である。この場合は、超音波装置の治具ホーンに、ステアリングホイールの表側となる分割体6および裏側となる分割体6を突き合わせた状態でセットし、超音波を付加することで共振させ、一方の分割体6が他方の分割体6と衝突することで発熱、溶融して両者が溶着される。
【0029】
なお、上記各実施形態では、ステアリングホイールを製造する方法を例に挙げて説明したが、本発明の製法はステアリングホイール以外にも、表面材とその内面上に設けられた樹脂層を有する分割体を複数個組み合わせて形成可能な複合成型品であれば各種形状のものに同様に適用することでき、樹脂層を溶着一体化することによって、接着剤を用いずに分割体を一体化することができる。芯金および/中芯が無い構造の複合成型品にも適用できる。
【実施例】
【0030】
以下、具体的な実施例を示して本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)図3〜5に示す振動溶着法を用いた製法でステアリングホイールを製造した。まず、次のようにしてステアリングホイールの表側となる分割体6、および裏側となる分割体6を作製した。すなわち、木質の表面材3として厚さ0.65mmの化粧単板を用意し、熱圧プレスで曲面加工を施して予備成形を行った。次に、予備成形した表面材3を成形用型内に配し、その内側にPPS樹脂をインジェクション成形して樹脂層4および補強リブ5を一体的に形成して分割体6を得た。樹脂層4の厚さ3.0mmとし、補強リブ5の厚さは1.5mmとした。また、表側となる分割体6の接合端面は、表面材3の端面より樹脂層4の端面の方が0.05mm程度突出しており、かつ樹脂層4の端面上に幅1.5mm、高さ1.0mmの凸条4aを有する形状とした。一方、裏側となる分割体6の接合端面は、表面材3の端面より樹脂層4の端面の方が0.05mm程度突出しており、かつ樹脂層4の端面に幅2.5mm、深さ0.5mmの凹溝4bを有する形状とした。一方、リム部が金属棒からなる芯金1を用意し、皮巻きの下地を形成した。
【0031】
次いで、ステアリングホイールの表側となる分割体6と裏側となる分割体6を、図3および図4に示すように、振動溶着装置20の溶着治具10の上側の振動治具11内、および下側の加圧治具12内にそれぞれはめ込みセットした。このとき、芯金1を芯金固定治具14に固定させて、分割体6,6の間に芯金1を宙に浮かせた状態で保持した。そして、振動溶着治具20の上側パーツ11に前記振動方向(図中矢印方向)の振動を与えつつ、固定台13を上昇させて下側の分割体6を上側の分割体6に押し付ける方向に加圧した。振動溶着の条件は、振動の周波数を240Hz、振幅を1.5mm、加圧力300kgf、発振時間を5秒とした。このような振動溶着により、樹脂層4の係合部4a、4b付近が溶融一体化し、分割体6,6が強固に接合して外殻部2が形成された。得られた外殻部2において、分割体6,6の表面材3の接合端面どうしの間には0.05mm程度の間隙が形成されていた。また振動溶着による分割体の変形は認められなかった。続いて、外殻部2および芯金1を、図5に示すように中芯注入治具30にセットし、外殻部2と芯金1の間に発泡ウレタン樹脂を充填した後、この樹脂を発泡させて中芯7を形成した。この後、塗装などの必要に応じた仕上げを施し、また皮巻き部101に皮巻きを施して、ステアリングホイールを得た。
【0032】
(実施例2)図6〜8に示す高周波誘導加熱溶着法を用いた製法でステアリングホイールを製造した。まず、前記実施例1と同様にして予備成型した木質の表面材3を成形用型内に配し、その内側にPPS樹脂をインジェクション成形して樹脂層44を形成して分割体46を得た。樹脂層44の厚さは3.0mmとした。また、下側の分割体46の接合端面は、樹脂層44が表面材3より0.05mm突き出しており、かつ幅1.0mm、深さ2.0mmの凹溝を有する形状とした。一方、上側の分割体46の接合端面は、樹脂層44が表面材3より0.05mm突き出しており、幅0.95mm、高さ2.0mmの凸条を有する形状とした。
【0033】
一方、前記実施例1と同様にして芯金1を用意した。次いで、ステアリングホイールの裏側となる分割体46の空隙部45内に、強磁性体43として鉄からなる直径0.8mmのワイヤーを収容させた後、ステアリングホイールの表側となる分割体46と裏側となる分割体46を仮合わせさせた。このとき、芯金1を芯金固定治具に固定させて、分割体46,46の間に芯金1を宙に浮かせた状態で保持した。そして、分割体46,46の接合面の近傍に磁場発生装置41を配し、分割体46,46を互いに押しつけ合う方向に加圧しつつ、磁場発生装置41に高周波電流を印加した。高周波誘導加熱溶着時に分割体46,46を加圧する圧力は4bar、コイルに印加する高周波電流の周波数は8MHz、電流の印加時間は15秒とした。このような高周波誘導加熱溶着により、樹脂層44の接合端面付近が溶融一体化し、分割体46,46が強固に接合して外殻部42が形成された。得られた外殻部42において、分割体46,46の表面材3の接合端面どうしの間には0.05mm程度の間隙が形成されていた。続いて、前記実施例1と同様にして外殻部42と芯金1の間に発泡ウレタン樹脂を充填した後、この樹脂を発泡させて中芯7を形成した。この後、塗装などの必要に応じた仕上げを施し、また皮巻き部101に皮巻きを施して、ステアリングホイールを得た。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るステアリングホイールの例を示す平面図である。
【図2】図1中、II−II線に沿う断面図である。
【図3】本発明に係るステアリングホイールの製法の第1の実施形態を示したもので(a)は振動溶着装置の斜視図、(b)は平面図である。
【図4】本発明に係るステアリングホイールの製法の第1の実施形態における製造工程の説明図である。
【図5】本発明に係るステアリングホイールの製法の第1の実施形態で用いられる中芯注入治具を示したもので、(a)は平面図、(b)は要部斜視図である。
【図6】本発明に係るステアリングホイールの製法の第2の実施形態における製造工程の説明図である。
【図7】図6において破線で囲んだ部分を拡大して示した要部拡大図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係るステアリングホイールの断面図である。
【図9】従来のステアリングホイールの製法を説明するための断面図である。
【図10】従来法における課題を説明するための断面図である。
【図11】従来法における課題を説明するための斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
1…芯金、2,42…外殻部、3…表面材、4,44…樹脂層、6,46…分割体、7…中芯。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面材と、該表面材の内面上に設けられた樹脂層と、該樹脂層の内側に設けられた補強リブとを有する分割体を、複数個組み合わせて複合成型品を製造する方法であって、
前記複数個の分割体を仮合わせする工程と、
前記仮合わせした前記複数個の分割体の樹脂層を、該分割体どうしが互いに突き合わされる接合端面において、振動溶着法、超音波溶着法、又は高周波溶着法のいずれかにより、溶着一体化する工程を有することを特徴とする複合成型品の製法。
【請求項2】
芯金と、該芯金の少なくとも一部の周上に設けられた中芯と、該中芯の周上に設けられた外殻部を備えたステアリングホイールを製造する方法であって、
表面材と、該表面材の内面上に設けられた樹脂層と、該樹脂層の内側に設けられた補強用リブとを有する分割体を複数個組み合わせて一体化して外殻部を形成する工程と、該外殻部内に芯金を配した状態で、該外殻部と芯金との間に樹脂を充填して中芯を形成する工程を有し、
前記外殻部を形成する工程は、前記複数個の分割体を仮合わせする工程と、仮合わせした前記複数個の分割体の樹脂層を、該分割体どうしが互いに突き合わされる接合端面において、振動溶着法、超音波溶着法、又は高周波溶着法のいずれかにより、溶着一体化する工程を有することを特徴とするステアリングホイールの製法。
【請求項3】
芯金と、該芯金の少なくとも一部の周上に設けられた中芯と、該中芯の周上に設けられた外殻部を備えたステアリングホイールであって、
前記外殻部は、表面材と、該表面材の内面上に設けられた樹脂層と、該樹脂層の内側に設けられた補強リブを有する分割体を、複数個仮合わせし、該分割体どうしが互いに突き合わされる接合端面において、振動溶着法、超音波溶着法、又は高周波溶着法のいずれかにより、前記複数個の分割体の樹脂層を互いに溶着一体化してなることを特徴とするステアリングホイール。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−90890(P2007−90890A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300809(P2006−300809)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【分割の表示】特願2000−304217(P2000−304217)の分割
【原出願日】平成12年10月3日(2000.10.3)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】