説明

複合構造緩衝体

【課題】三次元複合構造体を用いた応力変位特性に優れた複合構造緩衝体を提供する。
【解決手段】線条ロッドが三次元に斜交配列してなる線条体の空隙が可撓性マトリックスによって充填された複合構造体からなり、該複合構造体が剛性仕切板を挟んで積層された構造を有することを特徴とし、橋台と橋桁端との間に介設され、橋梁の耐震構造部材として好適な複合構造緩衝体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元複合構造体を用いた応力変位特性に優れた複合構造緩衝体に関する。本発明は、より詳しくは、線条ロッドが斜交配列されてなる線条体の空隙が可撓性マトリックスによって充填されてなるエネルギー吸収性および減衰性に優れた複合構造体を用いた応力変位特性に優れた複合構造緩衝体に関する。本発明の複合構造緩衝体は、例えば、橘梁の耐震補強に用いる三次元複合緩衝部材として好適である。
【背景技術】
【0002】
橋梁の耐震補強構造として、対向する橋桁の間に緩衝材を介設した構造、橋台と橋桁の間に緩衝材を介設した構造などが従来から知られている。例えば、図8に示すように、橋脚20によって支持された橋桁21,22の接合部分において、互いに対向する橋桁端面の間に緩衝材23を介在させ、この緩衝材に一定の圧縮力を付与するように該緩衝材を挟んで連結棒24によって両側の橋桁端部を締め付け固定した連結構造が知られている(特許文献1)。また、図9に示すように、エネルギー吸収量の大きい緩衝材30を、橋桁31の端部32と橋台33の壁面との間に間隔を空けて介設し、橋桁に加えられた地震エネルギーなどをこの緩衝材30に吸収させる構造が知られている(特許文献2)。
【0003】
上記耐震補強構造に用いられる緩衝材としては、ガラス繊維、炭素繊維、不飽和ポリエステル繊維からなる群から選ばれた1または2種以上の材料をエポキシ樹脂でバインドした細径ロッドを立方体の対向頂点方向に斜交配列して編製したもの、マトリックス材としてエポキシ樹脂を含浸させて形成した複合構造体が知られている(特許文献1および特許文献2)。
【0004】
上記複合構造体のより詳しい構造は、例えば、図2に示すように、ガラス繊維強化プラスチックの線条ロッド40を立方体の対向頂点を結ぶ方向(4軸方向)に斜交配向して三次元の線条体を形成し、この線条体の空隙にマトリックス41として例えばエポキシ樹脂を含浸し加熱硬化させて線条体を充填してなる複合材料からなる構造体である(特許文献3)。この複合構造体に外力が負荷すると、最初に材料全体の弾性変形が起こり、次に構造体の大きな変形に伴う非線形な変形を生じ、この時、斜交配向した線条は互いに干渉することなく滑りながら変形を行うので構造体自身が損傷を受けることはなく、外部負荷がさらに大きくなって材料全体が終局破壊を迎えるまで非常に大きなエネルギーを吸収することができる。また、マトリックスとしてゴムのような可撓性材料を用いればマトリックスが成形基材に追随した変形を行うので変形に可逆性が生じ、繰り返し荷重にも対応できると云う特性を有するものである。
【特許文献1】特開平09−287111号公報
【特許文献2】特開2005−330688号公報
【特許文献3】特許第2551287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記複合構造体を橋梁の耐震補強構造などに用いる場合、例えば、図9に示すように、耐震構造として橋台と橋桁端の間に緩衝材を設ける場合、通常、橋台端面に対して僅かな隙間を空けて緩衝材を橋桁端面に設けるが、緩衝材として用いる上記複合構造体の厚さが必要以上に大きいと、応力−変位関係が耐震補強上不利な方向へ変化する。このため、従来、上記複合構造体の断面寸法を拡大して不利な変位を抑制し、あるいは設置数を追加して対処しているが、施工箇所の制約によっては設置が困難となる場合があった。
【0006】
本発明は、従来の上記問題を解決したものであり、エネルギー吸収性および減衰性に優れた複合構造体を用い、応力変位特性に優れた複合構造緩衝体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための請求項1に記載する発明は、線条ロッドが三次元に斜交配列してなる線条体の空隙が可撓性マトリックスによって充填された複合構造体からなり、該複合構造体が剛性仕切板を挟んで積層された構造を有することを特徴とする複合構造緩衝体に関するものである。
【0008】
請求項2に記載する発明は、上記請求項1の構成に加えて、複合構造体が外力の負荷方向に対して分割され、その間に剛性仕切板を挟んで積層した構造を有する複合構造緩衝体に関するものである。
【0009】
請求項3に記載する発明は、上記請求項1または請求項2の構成に加えて、複合構造体が剛性仕切板を挟んで積層された構造を有し、積層された複合構造体の表面全体が弾性被覆によって覆われている複合構造緩衝体に関するものである。
【0010】
請求項4に記載する発明は、上記請求項1〜請求項3の何れかの構成に加えて、複合構造体が、ガラス繊維強化プラスチックの線条ロッドが立方体の対向頂点方向に斜交配列した線条体が形成され、該線条体の空隙が可撓性マトリックスの熱硬化性樹脂によって充填された複合構造緩衝体に関するものである。
【0011】
請求項5に記載する発明は、上記請求項1〜4の何れかの構成に加えて、橋台と橋桁端との間に介設され、橋梁の耐震構造部材として用いられる複合構造緩衝体に関するものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の構成によれば、複合構造体が剛性仕切板を挟んで積層された構造を有するので、複合構造体の剛性仕切板に接する面の線条ロッド端部が該剛性仕切板によって支えられた状態になり、外部負荷に対する応力を生じるので、応力−変位関係が有利に向上し、大きな歪みに耐えることができる。
【0013】
従って、請求項2の構成に示すように、複合構造体が、外力の負荷方向に対して分割され、その間に剛性仕切板を挟んで積層した構造を有することによって、複合構造体の必要厚さを低減することができ、施工空間が限定された場所にも複合構造体を設置することができる。
【0014】
また、請求項3の構成に示すように、複合構造体が剛性仕切板を挟んで積層された構造を有し、積層された複合構造体の表面全体が弾性被覆によって覆われた構造を有するものは、上記応力−変位関係に加えて、弾性被覆による優れた耐久性を有することができる。例えば、弾性被覆として合成ゴム被覆を用い、複合構造体の表面全体を覆ったものは、複合構造体が温度変化や外部負荷による変形を繰り返しても、合成ゴム被覆が構造体の変形に追従するので亀裂ないし剥離を生じ難く、長期間にわって優れた耐久性を維持することができる。
【0015】
また、複合構造体を形成しているガラス繊維ロッドが部分的に微小な破損を生じた場合でも、構造体表面に弾性被覆が設けられていれば、破片が外部に脱落せず安全である。さらに、複合構造体が弾性被覆によって拘束された状態となり、温度伸縮などの構造体の変形が抑制されるので耐久性を高めることができる。
【0016】
また、請求項4に示すように、ガラス繊維強化プラスチックの線条ロッドが立方体の対向頂点方向に斜交配列した線条体が形成され、該線条体の空隙が可撓性マトリックスの熱硬化性樹脂によって充填されてなる複合構造体を用いることができる。この複合構造体は外部負荷に対して優れたエネルギー吸収効果および減衰効果を有するので、高性能の複合構造緩衝体を得ることができる。
【0017】
請求項5に示すように、本発明の複合構造緩衝体は、橋台と橋桁端との間に介設され、橋梁の耐震構造用の緩衝体として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて具体的に説明する。
図1〜図6は本発明に係る複合構造緩衝体を示し、図1は積層構造を有する複合構造体の外観図、図2は線条ロッドが斜交配向された線条体の空隙に可撓性マトリックスを充填してなる複合構造体の外観斜視図、図3は積層複合構造体の正面図、図4は積層複合構造体の側面図、図5は積層複合構造体の機能を説明する模式図、図6は表面被覆を有する積層構造体の部分切欠外観図である。
【0019】
本発明の複合緩衝体は、線条ロッドが三次元に斜交配列してなる線条体の空隙が可撓性マトリックスによって充填された複合構造体からなり、該複合構造体が剛性仕切板を挟んで積層された構造を有することを特徴とする複合構造緩衝体である。
【0020】
本発明の複合緩衝体を形成する複合構造体の例を図2に示す。図示するように、複合構造体は、線条ロッド40が立方体の対向頂点を結ぶ方向(4軸方向)に斜交配向して三次元の線条体が形成され、この線条体の空隙が可撓性マトリックス41によって充填された構造を有する。線条ロッド40としては例えばガラス繊維強化プラスチックの細径ロッドが用いられる。可撓性マトリックス41としては例えばエポキシ樹脂が用いられる。上記線条体にエポキシ樹脂を含浸し、加熱硬化させて線条体の空隙を可撓性マトリックスによって充填して上記複合構造体が形成されている。
【0021】
本発明の複合構造緩衝体は、図1に示すように、線条ロッドが三次元に斜交配列して線条体が形成去れ、該線条体の空隙が可撓性マトリックスによって充填された複合構造体10が分割され、その間に剛性仕切板12を挟んで積層された構造を有するものである。剛性仕切板12としては鋼板などの金属板や、硬質プラスチック板などが用いられる。
【0022】
上記積層構造は、例えば、剛性仕切板12の両面に接着剤を塗布して複合構造体10,10を重ねることによって一体化させておき、使用に際して図3および図4に示すように、両側の複合構造体10および剛性仕切板12を一体に貫通する孔13を設け、該孔13にボルト等の連結材を挿入して使用箇所に固定する方法をとりうる。
【0023】
上記積層構造を有する複合構造体は、図5に示すように、線条ロッド40が剛性仕切板12に接触する面において、線条ロッド40の先端が剛性仕切板12に突き当たり、この線条ロッド先端部が該剛性仕切板によって支えられた状態になり、剛性仕切板12を設けない単一構造よりも、線条ロッド40を支える面が多くなるので、外部負荷に対する応力が大きくなり、応力−変位関係が有利に向上し、積層構造を有しない単一構造に比べて大きな降伏応力および平均応力を得ることができ、大きな歪みに耐えることができる。
【0024】
従って、図1に示すように、複合構造体が、外力の負荷方向Sに対して分割され、その間に剛性仕切板12を挟んで積層した構造を有することによって、外力の負荷に対して大きな降伏応力および平均応力を得ることができるので、複合構造体の必要厚さを低減することができ、施工空間が限定された場所にも複合構造体を設置することができる。
【0025】
構造体に耐震緩衝体を用いる場合、耐震緩衝体の必要厚さが大きいと、応力−変位関係が耐震補強上不利な方向に変化するので、緩衝体の断面寸法の拡大や、設置個数の追加などの対策が必要になる。一方、本発明の複合構造緩衝体は、良好な上記応力変位特性を有するので必要厚さを低減することができ、複合構造緩衝体の断面寸法の拡大や設置個数の追加などの対策が不要であり、長期間にわたって信頼性の高い緩衝効果を得ることができる。
【0026】
従って、本発明の複合緩衝体は橋梁の耐震緩衝体として好適である。さらに、例えば、橋台と橋梁端面の間に耐震緩衝体を設ける場合、橋台と橋梁端面の間の遊間が大きいと、地震時の慣性力が大きくなり、耐震設計上は不利になるので、遊間を出来るだけ小さくすることが求められる。本発明の上記積層構造を有する複合緩衝体は必要厚が小さく、従って上記遊間を小さくすることができ、有利な耐震構造を設計することができる。
【0027】
本発明の複合緩衝体は、図6に示すように、積層構造体の表面に合成ゴム等の弾性被覆を設けた構造を有することができる。積層構造体の表面が合成ゴムなどの弾性被覆によって覆われていることによって、積層構造体が温度変化や外部負荷による変形を繰り返しても、合成ゴム被覆が積層構造体の変形に追従するので亀裂や剥離を生じ難く、長期間にわって優れた耐久性を維持することができる。従って、屋外に設置しても長期間にわって優れた緩衝性能を維持することができる。
【0028】
また、積層構造体を形成しているガラス繊維ロッドが部分的に破損しても、弾性被覆によって全体が覆われているので破片が外部に脱落せず安全である。さらに、複合構造体が弾性被覆によって拘束された状態となり、温度伸縮などの構造体の変形が抑制されるので耐久性を高めることができる。
〔試験例〕
図1に示す積層構造を有する複合構造体(125mm×125mm×100mmの複合構造体を二分割し、同一断面寸法および厚さ3mmのステンレス板を間に挟んで積層した構造)と、上記積層構造を有しない単一構造の複合構造体(125mm×125mm×100mm)について、降伏応力と平均応力を測定した。この結果を図7に示した。なお、上記複合構造体はガラス繊維強化プラスチックを図2に示すように斜交配列して線条体を形成し、これにエポキシ樹脂を含浸させ熱硬化して可撓性マトリックスを形成したものである。
【0029】
図7に示すように、単一構造の複合構造体は降伏応力が75.1N/mm、平均応力が77.4N/mmであるが、積層構造を有する複合構造体は降伏応力が104.6N/mm、平均応力が103.8N/mmで、単一構造の複合構造体に比べて降伏応力および平均応力が格段に大きい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の積層構造を有する複合構造体の外観図
【図2】線条ロッドが斜交配向された線条体の空隙に可撓性マトリックスを充填してなる複合構造体の外観斜視図
【図3】本発明の積層構造体の正面図
【図4】本発明の積層構造体の側面図
【図5】本発明の積層構造体の機能を説明する模式図
【図6】本発明の表面被覆を有する積層構造体の部分切欠外観図
【図7】複合構造体について降伏応力および平均応力の変化を示すグラフ
【図8】橋梁耐震構造を示す説明図。
【図9】橋梁耐震構造を示す説明図。
【符号の説明】
【0031】
10−複合構造体
11−弾性被覆
12−剛性仕切板
13−孔
20−橋脚
21,22−橋桁
23−緩衝材
24−連結棒
30−緩衝材
31−橋桁
32−橋桁端部
33−橋台
40−線条ロッド
41−可撓性マトリックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線条ロッドが三次元に斜交配列してなる線条体の空隙が可撓性マトリックスによって充填された複合構造体からなり、該複合構造体が剛性仕切板を挟んで積層された構造を有することを特徴とする複合構造緩衝体。
【請求項2】
複合構造体が外力の負荷方向に対して分割され、その間に剛性仕切板を挟んで積層した構造を有する請求項1に記載する複合構造緩衝体。
【請求項3】
複合構造体が剛性仕切板を挟んで積層された構造を有し、積層された複合構造体の表面全体が弾性被覆によって覆われている請求項1または請求項2に記載する複合構造緩衝体。
【請求項4】
複合構造体が、ガラス繊維強化プラスチックの線条ロッドが立方体の対向頂点方向に斜交配列した線条体が形成され、該線条体の空隙が可撓性マトリックスの熱硬化性樹脂によって充填されたものである請求項1〜請求項3の何れかに記載する複合構造緩衝体。
【請求項5】
橋台と橋桁端との間に介設され、橋梁の耐震構造部材として用いられる請求項1〜請求項4の何れかに記載する複合構造緩衝体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−230209(P2008−230209A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77419(P2007−77419)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000112196)株式会社ピーエス三菱 (181)
【出願人】(591040122)株式会社トーカン (15)
【Fターム(参考)】