説明

複層フィルム及び位相差フィルム並びにそれらの製造方法

【課題】位相差ムラを抑制した高品質の位相差フィルムを製造できる複層フィルム、位相差ムラを抑制した高品質の位相差フィルム、並びにそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】コア層と、前記コア層の両面にそれぞれ配置されるスキン層とを備え、溶融樹脂を溶融押出しすることにより成形された複層フィルムであって、前記コア層と前記スキン層との界面における幅300μm以上1000μm以下且つ高さ10nm以上1000nm以下の線状凹凸の本数が、前記複層フィルムの幅1400mm当たり2本以下である、複層フィルム;それを延伸してなる位相差フィルム;並びにそれらの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融樹脂を溶融押出しすることにより成形された複層フィルム及び位相差フィルム並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、薄型、軽量、低消費電力などの特徴をもち、テレビジョン、パーソナルコンピューターなどに広く用いられている。液晶表示装置は、通常、光入射側偏光板、液晶セル、および光出射側偏光板をこの順に備える液晶パネルと、光入射側偏光板の光入射側から光を照射する光源とを備えて構成されている。この際、光入射側偏光板の透過軸と、光出射側偏光板の透過軸とは、互いに直交するように配置されている。このような液晶表示装置では、液晶セルに電圧を印加することにより液晶分子の配向を変化させ、透過する光の量を調節することで、画面に画像を表示させている。
【0003】
液晶表示装置には、画質の向上等を目的として位相差フィルムを設け、光学補償を行なうことがある。このような位相差フィルムは、通常、位相差フィルムの材料となる樹脂をダイスから溶融押出しして原反フィルムを製造し、この原反フィルムを延伸することにより製造されていた。
【0004】
ところが、樹脂を溶融押出して原反フィルムを製造する際、原反フィルムの表面に、原反フィルムの流れ方向に沿った線状凹凸(ダイライン)が形成されることがあった。原反フィルムに線状凹凸が形成されていると、原反フィルムを延伸した位相差フィルムの表面にも線状凹凸が形成され、前記の線状凹凸を原因として位相差フィルムに位相差ムラが生じることがある。このため、従来から、表面の線状凹凸を防止する技術の開発がなされていた(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−156525号公報
【特許文献2】特開2007−98916号公報
【特許文献3】特開2009−73107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、位相差フィルムの光学特性の改良等を目的として、様々な層構成の位相差フィルムが開発されている。その一例として、大きい位相差(レターデーション)を有するコア層を、位相差の小さいスキン層で挟み込んだ3層構造の位相差フィルムが挙げられる。
このタイプの位相差フィルムでは、表面に線状凹凸が形成されていない場合であっても線状凹凸が原因とみられる位相差ムラが生じることがあった。また、同様の位相差ムラは、4層以上の層を有する多層構造の位相差フィルムでも生じることがあった。しかし、前記の位相差ムラは、表面の線状凹凸が無い場合であっても生じることがあったため、特許文献1〜3等の従来技術によっては解決できなかった。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、位相差ムラを抑制した高品質の位相差フィルムを製造できる複層フィルム、位相差ムラを抑制した高品質の位相差フィルム、及び、前記の複層フィルム及び位相差フィルムを製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決して目的を達成するために、本発明者は鋭意検討した結果、表面に線状凹凸が形成されていない場合であっても生じる前記の位相差ムラは、コア層とスキン層との界面において形成されたコア層の線状凹凸が原因となって生じているとの知見を得た。さらに、スキン層の表面よりもむしろコア層とスキン層との界面における線状凹凸を防止することにより、より効果的に位相差ムラを改善しうるとの知見を得た。本発明は、かかる知見に基づき完成させたものである。
すなわち、本発明によれば、以下の〔1〕〜〔7〕が提供される。
【0009】
〔1〕 コア層と、前記コア層の両面にそれぞれ配置されるスキン層とを備え、溶融樹脂を溶融押出しすることにより成形された複層フィルムであって、
前記コア層と前記スキン層との界面における幅300μm以上1000μm以下且つ高さ10nm以上1000nm以下の線状凹凸の本数が、前記複層フィルムの幅1400mm当たり2本以下である、複層フィルム。
〔2〕 〔1〕記載の複層フィルムを延伸してなる、位相差フィルム。
〔3〕 〔1〕記載の複層フィルムの製造方法であって、
前記スキン層及び前記コア層に対応する溶融樹脂をダイスから溶融共押出しすることを含み、
前記コア層に対応する溶融樹脂はポリマーフィルタでフィルタリングした後で前記ダイスに供給し、
前記ポリマーフィルタが、
平面状の内底面を有し送出口が形成された底部と、前記内底面に対して垂直な円筒状の内側面を有する側壁部と、前記側壁部の前記底部とは反対側に設けられ流入口を形成された蓋部とを備える筐体と、
前記筐体内において前記内底面に立設され、前記送出口に連通する流路が形成された支柱部と、
前記流入口から流入した溶融樹脂を濾過して前記支柱部の前記流路に送出する、複数枚積層するように前記支柱部に装着された円盤状のフィルタエレメントと、を備えるポリマーフィルタであって、
前記筐体は、前記内底面と前記内側面との境界部分において、前記内底面と前記内側面との間を跨るように、前記内底面及び前記内側面に対して前記筐体の中心側に向かって凸な形状である凸面部を備え、
0.3≦d/d≦0.8及び0.3≦d/d≦0.8(dは、前記フィルタエレメントから前記内側面までの距離を表す。dは、前記内側面から、前記内底面と前記凸面部とが交わる地点までの、前記内側面の径方向での距離を表す。dは、前記内底面から、前記内側面と前記凸面部とが交わる地点までの、前記内底面に垂直な方向での距離を表す。)の関係を満たす、複層フィルムの製造方法。
〔4〕 〔1〕記載の複層フィルムの製造方法であって、
前記スキン層及び前記コア層に対応する溶融樹脂をダイスから溶融共押出しすることを含み、
前記ダイスが、前記スキン層及び前記コア層それぞれに対応する溶融樹脂が流入する複数の樹脂流入口と、前記樹脂流入口から流入した前記スキン層及び前記コア層それぞれに対応する溶融樹脂が流通する複数の樹脂流路と、複数の前記樹脂流路が合流する樹脂合流部と、前記樹脂合流部で合流した溶融樹脂が流通する合流樹脂流路と、前記合流樹脂流路を流通した前記溶融樹脂をフィルム状に吐出する樹脂吐出口とを有し、
前記樹脂合流部における前記溶融樹脂の合流点から、前記樹脂吐出口までの、前記溶融樹脂の平均流通時間が2秒以上である、複層フィルムの製造方法。
〔5〕 〔3〕記載の複層フィルムの製造方法であって、
前記ダイスが、前記スキン層及び前記コア層それぞれに対応する溶融樹脂が流入する複数の樹脂流入口と、前記樹脂流入口から流入した前記スキン層及び前記コア層それぞれに対応する溶融樹脂が流通する複数の樹脂流路と、複数の前記樹脂流路が合流する樹脂合流部と、前記樹脂合流部で合流した溶融樹脂が流通する合流樹脂流路と、前記合流樹脂流路を流通した前記溶融樹脂をフィルム状に吐出する樹脂吐出口とを有し、
前記樹脂合流部における前記溶融樹脂の合流点から、前記樹脂吐出口までの、前記溶融樹脂の平均流通時間が2秒以上である、複層フィルムの製造方法。
〔6〕 〔3〕〜〔5〕のいずれか一項に記載の複層フィルムの製造方法であって、
前記ダイス内において、前記コア層に対応する溶融樹脂の粘度が550Pa・s以下である、複層フィルムの製造方法。
〔7〕 2層以上のスキン層と、前記スキン層の間に設けられた1層以上のコア層とを備え、溶融樹脂を溶融押出しすることにより成形された複層フィルムであって、前記コア層における幅300μm以上1000μm以下且つ高さ10nm以上1000nm以下の線状凹凸の本数が、前記複層フィルムの幅1400mm当たり2本以下である複層フィルムを延伸してなる、位相差フィルムの製造方法であって、
〔3〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の製造方法で製造された複層フィルムを延伸することを含む、位相差フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複層フィルムによれば、位相差ムラを抑制した高品質の位相差フィルムを製造できる。
本発明の位相差フィルムによれば、位相差ムラの発生を抑制した高品質の位相差フィルムが実現できる。
本発明の複層フィルムの製造方法によれば、位相差ムラを抑制した高品質の位相差フィルムを製造できる複層フィルムを製造できる。
本発明の位相差フィルムの製造方法によれば、位相差ムラの発生を抑制した高品質の位相差フィルムを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、複層フィルムの例を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、複層フィルムの別の例を模式的に示す断面図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態にかかる複層フィルムの製造装置の概要を示す模式図である。
【図4】図4は、図3に概略的に示したポリマーフィルタ201を、内底面に垂直な面で切った断面を模式的に示す断面図である。
【図5】図5は、図4に示したポリマーフィルタの断面の一部を模式的に示す断面図である。
【図6】図6は、ポリマーフィルタの別の例を模式的に示す断面図である。
【図7】図7は、図6に示したポリマーフィルタの断面の一部を模式的に示す断面図である。
【図8】図8は、図3に概略的に示したダイス301を、ダイス301の幅方向に垂直な面で切った断面を模式的に示す断面図である。
【図9】図9は、図8に示したダイス301の断面の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
【図10】図10は、図4に示したポリマーフィルタの使用時における溶融樹脂Rcの流通の様子を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲において任意に変更して実施できる。
【0013】
〔1.概要〕
本発明の複層フィルムは、コア層と、コア層の両面にそれぞれ配置されるスキン層とを備え、溶融樹脂を溶融押出しすることにより成形された複層フィルムであって、コア層とスキン層との界面における所定の大きさの線状凹凸の本数が少ないか、又はゼロである複層フィルムである。本発明の複層フィルムを延伸することにより、位相差ムラを抑制した高品質の位相差フィルムを製造できる。以下、例を示して前記線状凹凸と位相差ムラとの関係について説明する。
【0014】
図1及び図2は、いずれも、本発明の複層フィルムの一例として、1層のコア層と、コア層の両面に1層ずつ配置された2層のスキン層とを備える、溶融樹脂の溶融押出により成形された複層フィルムを模式的に示す断面図である。
図1に示す複層フィルム10は、コア層12と、コア層12の図中上下に接して設けられたスキン層11及び13とを備える。コア層12において、コア層12とスキン層13との界面には、コア層12が凹むことにより線状凹凸14が形成されている。また、スキン層13の図中上側の表面には線状凹凸15が形成されている。
【0015】
従来の当業者の認識によれば、押出成形された複層フィルム10においては、スキン層13の表面の線状凹凸15が十分に小さければ、それは即ち全ての層が平坦な複層フィルムが得られたということであると考えられていた。したがって、スキン層13の表面の線状凹凸15が十分に小さい複層フィルム10を延伸して製造された位相差フィルムにおいて位相差ムラは生じないと考えられており、スキン層表面の欠陥とは別にコア層とスキン層との界面の欠陥について検討がなされることはなかった。しかし、本発明者の検討により、複層フィルム10を延伸しコア層12において大きな面内レターデーションを発現させて位相差フィルムを製造する場合には、線状凹凸14に起因するコア層12の厚みムラが、延伸フィルムにおける面内レターデーションのムラの大きな原因となることが見出された。
【0016】
図2に示す複層フィルム20は、コア層22と、コア層22の図中上下に接して設けられたスキン層21及び23とを備えるが、コア層22とスキン層21、23との界面における線状凹凸の発生は抑制され、界面における線状凹凸は無い。このため、複層フィルム20を延伸して製造された位相差フィルムでは、少なくともコア層とスキン層との界面の線状凹凸を原因とする位相差ムラは生じない。また、仮に図2に示すようにスキン層23に線状凹凸24が形成されていたとしても、線状凹凸24の大きさが十分に小さかったり、複層フィルム10を延伸した場合にスキン層23で発現する面内レターデーションが十分に小さかったりする場合には、複層フィルム20を延伸して製造された位相差フィルムで位相差ムラは生じないようにすることができる。なお、複層フィルム20においてコア層とスキン層との界面だけでなくスキン層21,22の表面においても線状凹凸の本数が少ないか、又はゼロであることが好ましい。
【0017】
〔2.複層フィルムの構成〕
本発明の複層フィルムは、コア層と、コア層の両面にそれぞれ配置されるスキン層とを備え、溶融樹脂を溶融押出しすることにより成形された複層フィルムである。したがって、本発明の複層フィルムはスキン層、コア層及びスキン層をこの順に備える。また、前記のスキン層及びコア層は、いずれも樹脂により形成された層となる。さらに、本発明の複層フィルムは、スキン層及びコア層以外にも層を備えていてもよい。
【0018】
本発明の複層フィルムは、1層のコア層と、かかる1層のコア層の両面にそれぞれ1層ずつ配置される2層のスキン層とを備え、かかる2層のスキン層が、同じ溶融樹脂の溶融押出により成形されたものである、即ち、いわゆる2種3層の層構成を有することが、製造の容易さ、及び得られる複層フィルム及びそれを元に得た位相差フィルムのカール低減などの観点から好ましい。しかしながら本発明の複層フィルムはこれに限定されず、コア層を2層以上備えるフィルムであってもよい。例えば、本発明の複層フィルムは、スキン層−コア層−スキン層−コア層−スキン層、といった2種5層の層構成を有していてもよい。また、コア層の内部において、材質の異なる複数の層が存在していてもよい。例えば、本発明の複層フィルムは、コア層が、複数の層C1層及びC2層から構成され、スキン層−C1層−C2層−スキン層といった層構成を有していてもよい。
【0019】
〔2−1.複層フィルムのコア層〕
本発明の複層フィルムでは、コア層とスキン層との界面における、幅が300μm以上1000μm以下且つ高さ10nm以上1000nm以下の線状凹凸の本数が、複層フィルムの幅1400mm当たり、2本以下であり、好ましくは1本以下であり、より好ましくは0本である。コア層とスキン層との界面における前記の大きさの線状凹凸の数を減らすことにより、本発明の複層フィルムを延伸した位相差フィルムのコア層においても位相差ムラの原因となりうる線状凹凸の数を減らしたり線状凹凸の大きさを小さくしたりできるため、位相差ムラを抑制することが可能となる。ここで、線状凹凸の「幅」とは、フィルムの面内において、溶融押出方向に垂直な方向の幅であり、線状凹凸の「高さ」とは、フィルムの厚み方向の高さである。
【0020】
線状凹凸は、コア層に凹状に形成されたもの(即ち、コア層上に溝状に形成されたもの)である場合もあり、コア層に凸状に形成されたもの(即ち、コア層上に山脈状に形成されたもの)である場合もある。凹状の場合は、基準となるコア層の平坦な部分から凹状の形状の最も深い部分までの深さが線状凹凸の「高さ」に該当し、凸状の場合は、基準となるコア層の平坦な部分から凸状の形状の最も高い部分までの高さが線状凹凸の「高さ」に該当する。
【0021】
複層フィルムの線状凹凸の数は、複層フィルムの断面を、顕微鏡を用いて観察することにより計数することができる。ここで、例えば幅1400mmといった広い幅を有する複層フィルムの全幅にわたって顕微鏡観察を行うことは実用的ではないので、複層フィルムに光を照射し、透過した光をスクリーンに写し出し、欠陥が生じている箇所を特定してから、かかる欠陥が生じている部分に対応する複層フィルムの部分を観察する方法が好ましい。
【0022】
具体的には、本発明において規定される複層フィルムのコア層とスキン層との界面の線状凹凸の個数は、下記の通りに計数することができる。即ち、複層フィルムに光を照射し、透過した光をスクリーンに写し出し、スクリーン上に投影された透過光の明暗を、複層フィルムの幅方向に相当する方向に沿って、全幅にわたって観察し、周囲よりも明るくなっている線状部分又は暗くなっている線状部分を特定する。かかるスクリーン上の線状部分に対応する、複層フィルムの部分を、3cm角程度の大きさに切り取り、顕微鏡を用いてフィルム両面の表面を観察して、コア層とスキン層との界面上に存在する線状凹凸の深さ及び高さ、並びにその幅を測定する。観察のための顕微鏡としては、例えば三次元表面構造解析顕微鏡(Zygo社製)を用いることができる。
【0023】
上記計数方法によれば、概ね、コア層とスキン層との界面における幅が300μm以上1000μm以下且つ高さ10nm以上1000nm以下の線状凹凸は全て検出しうる。一方、スキン層表面の線状凹凸については、幅が300μm以上1000μm以下且つ高さ10nm以上1000nm以下の線状凹凸は検出されない場合もある。しかしながら、本願発明者の検討したところによれば、上記計数方法により検出されないスキン層表面の線状凹凸は、複層フィルムを延伸し位相差フィルムとした際の位相差ムラの原因とはなり難く、したがって、上記計数方法により、位相差フィルムの位相差ムラの原因となる線状凹凸を的確に検出することができる。
【0024】
複層フィルムのコア層は、複層フィルムを延伸した場合に位相差を発現する。このように延伸した場合にコア層が位相差を発現するようになっていることから、コア層に所定の大きさの線状凹凸が形成されていると線状凹凸を原因として位相差ムラが生じるという課題が生じていた。本発明の複層フィルムでは、コア層の所定の大きさの線状凹凸の数が所定以下であるため、延伸後の位相差ムラの発現が抑制される。
【0025】
本発明の複層フィルムを延伸した場合にどの程度の位相差がコア層に発現するかは、本発明の複層フィルムを延伸して製造される位相差フィルムに要求される光学特性に応じて一様ではない。しかし、本発明の効果を顕著に発揮させる観点からは延伸によりコア層にある程度大きい位相差が発現するようになっていることが好ましい。具体的には、コア層を形成する樹脂のガラス転移温度に適合させて延伸温度を適宜選択し、かかる延伸温度において例えば延伸倍率3倍で幅方向に本発明の複層フィルムを延伸した場合、コア層に発現しうる面内レターデーションの絶対値は、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、特に好ましくは30nm以上である。なお、上限に特に制限は無いが、通常550nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは450nm以下である。
【0026】
また、複層フィルムを延伸した場合のコア層とスキン層との関係に着目すると、本発明の複層フィルムを延伸した場合にコア層で発現する面内レターデーションの絶対値は、スキン層で発現する面内レターデーションの絶対値よりも大きいことが好ましい。コア層における線状凹凸の形成を防止することにより、延伸後の位相差ムラを安定して抑制できるようにするためである。さらに、延伸後の位相差ムラをより効果的に抑制する観点からは、複層フィルムを延伸した場合にコア層で発現する面内レターデーションの絶対値とスキン層で発現する面内レターデーションの絶対値との差が大きいことが好ましい。具体的には、上で述べた、コア層を形成する樹脂のガラス転移温度に適合させて設定した延伸温度において、延伸倍率3倍で幅方向に本発明の複層フィルムを延伸した場合、コア層に発現する面内レターデーションの絶対値とスキン層で発現する面内レターデーションの絶対値との差は、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、特に好ましくは30nm以上である。なお、上限に特に制限は無いが、通常550nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは450nm以下である。
【0027】
各層の面内レターデーションは、|nx−ny|×d(式中、nxは厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表し、nyは厚み方向に垂直な方向(面内方向)であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表し、dは各層の膜厚を表す。)で表される値である。なお、各層の厚み方向のレターデーションは、{|nx+ny|/2−nz}×d(式中、nxは厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表し、nyは厚み方向に垂直な方向(面内方向)であってnxの方向に直交する方向の屈折率であり、nzは厚み方向の屈折率を表し、dは膜厚を表す。)で表される値である。なお、レターデーションはいずれも波長550nmの光に対する評価とする。前記の各レターデーションは市販の自動複屈折計を用いて測定することができ、例えばJ.A.Woollam社製分光エリプソメーターM−2000Uにより測定できる。なお、特に断らない限り、レターデーションの測定波長は550nmとする。
【0028】
コア層を形成する樹脂としては、通常、少なくとも1種類の重合体(ポリマー)と、必要に応じてその他の成分とを含む熱可塑性樹脂を用いる。
コア層を形成する樹脂に含まれる重合体の例を挙げると、ポリスチレン重合体;ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル重合体;ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド重合体;ポリビニルアルコール重合体;ポリカーボネート重合体;ポリアリレート重合体;セルロースエステル重合体;ポリエーテルスルホン重合体;ポリスルホン重合体;ポリアリルサルホン重合体;ポリ塩化ビニル重合体;ノルボルネン重合体;棒状液晶ポリマー;ポリフェニレンエーテル重合体等のポリアリーレンエーテル重合体などが挙げられる。なお、コア層を形成する樹脂に含まれる重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0029】
前記の例示の中でも、位相差発現性の観点から、ポリスチレン重合体が好ましい。ポリスチレン重合体とは芳香族ビニル単量体由来の構造を繰り返し単位の一部又は全部に有する重合体である。具体例を挙げると、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、p−ニトロスチレン、p−アミノスチレン、p−カルボキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−メトキシスチレン、p−t−ブトキシスチレン等の芳香族ビニル単量体の単独重合体;芳香族ビニル単量体と、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、イソプレン、メタクリロニトリル、アクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸、マレイミド、フェニルマレイミド、酢酸ビニル、塩化ビニル等の芳香族ビニル単量体以外のエチレン性不飽和単量体との共重合体などを挙げることができる。これらの中で、スチレン単独重合体、及びスチレンと無水マレイン酸との共重合体が好適である。なお、本明細書において単に「単量体」というときは、ある単量体1種類からなる場合のみならず、複数の単量体が混合された状態、いわゆる単量体混合物も包含するものとする。
【0030】
コア層を形成する樹脂に含まれる重合体の重量平均分子量は、通常10,000以上、好ましくは15,000以上であり、通常300,000以下、好ましくは250,000以下である。
なお重量平均分子量は、例えば、溶媒としてシクロヘキサンを用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによって、標準ポリイソプレン換算の値として測定できる。
【0031】
コア層を形成する樹脂は、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。添加剤の例を挙げると、滑剤;層状結晶化合物;無機微粒子;酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤、赤外線吸収剤等の安定剤;可塑剤:染料及び顔料等の着色剤;帯電防止剤;などが挙げられる。なお、添加剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の比率で用いてもよい。
添加剤の量は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で適宜定めることができ、例えば位相差フィルムの全光線透過率を85%以上に維持できる範囲である。
【0032】
コア層を形成する樹脂のガラス転移温度は、好ましくは110℃以上であり、また、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下である。
【0033】
複層フィルムのコア層の厚さは、通常10μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上であり、通常300μm以下、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下である。本発明の複層フィルムが複数層のコア層を有する場合、上記好ましい厚さの範囲は、各層あたりの好ましい厚さである。
【0034】
〔2−2.複層フィルムのスキン層〕
スキン層を形成する樹脂としては、通常、少なくとも1種類の重合体(ポリマー)と、必要に応じてその他の成分とを含む熱可塑性樹脂を用いることができる。
本発明の複層フィルム及び位相差フィルムの強度及び耐久性を良好にするため、並びに、複層フィルムにスキン層に発現する位相差を前記の好ましい範囲に収める観点から、スキン層を形成する樹脂は重合体としてメタクリル酸エステル重合体を含むことが好ましく、中でも、後述するメタクリル酸エステル重合体(イ)を含有することが好ましい。
【0035】
メタクリル酸エステル重合体(イ)は、メタクリル酸エステル(M1)を主成分とする重合体である。メタクリル酸エステル重合体(イ)の例を挙げると、メタクリル酸エステルの単独重合体や、メタクリル酸エステルとその他の単量体との共重合体が挙げられる。
メタクリル酸エステル(M1)としては、通常、メタクリル酸アルキルが用いられる。共重合体とする場合にメタクリル酸エステルと共重合するその他の単量体としては、例えば、アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、ビニルシアン化合物などが用いられる。
【0036】
前記メタクリル酸エステル重合体(イ)は、炭素数1〜4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルと、アクリル酸エステル(M2)と、必要に応じてこれらに共重合可能なビニル基を有する化合物(M3)とを含む単量体の重合により得られる重合体であることが好ましい。
【0037】
前記メタクリル酸アルキルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられるが、特にメタクリル酸メチルが好ましく用いられる。
前記アクリル酸エステル(M2)としては、通常はアクリル酸アルキルが用いられ、そのアルキル基は、炭素数1〜8程度でよい。例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられる。
メタクリル酸アルキル(M1)及び/又はアクリル酸エステル(M2)に共重合可能な、前記ビニル基を有する化合物(M3)とは、従来からメタクリル樹脂の分野で知られている各種単量体が使用でき、例えば、スチレンのような芳香族ビニル化合物や、アクリロニトリルのようなビニルシアン化合物などが挙げられる。
なお、これらの単量体は、それぞれ、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0038】
前記メタクリル酸エステル重合体(イ)は、前記メタクリル酸エステル(M1)50重量%〜100重量%、より好ましくは50重量%〜99.9重量%、さらに好ましくは50重量%〜99.5重量%と、前記アクリル酸エステル(M2)0重量%〜50重量%、より好ましくは0.1重量%〜50重量%、さらに好ましくは0.5重量%〜50重量%と、これらに共重合可能な前記ビニル基を有する化合物(M3)0重量%〜49重量%とからなる単量体を重合させて得られるものが好適である。
なお、メタクリル酸エステル重合体(イ)は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0039】
メタクリル酸エステル重合体(イ)の重量平均分子量は、通常10000以上、好ましくは15000以上、より好ましくは20000以上であり、通常300000以下、好ましくは250000以下、より好ましくは200000以下である。
【0040】
前記メタクリル酸エステル重合体(イ)の重合方法は特に限定されず、例えば、通常の懸濁重合、乳化重合、塊状重合等の重合方法で合成できる。また、好適なガラス転移温度を得るため、又は好適な複層フィルムへの成形性を示す粘度を得るために、重合時に連鎖移動剤を使用することが好ましい。連鎖移動剤の量は、単量体の種類及び組成に応じて、適宜決定すればよい。
【0041】
スキン層を形成する樹脂は、本発明の複層フィルム及び位相差フィルムのハンドリング性の向上などを目的として、粒子を含んでいてもよい。例えば、スキン層を形成する樹脂がメタクリル酸エステル重合体(イ)を含む場合、さらに、メタクリル重合体からなる外層および架橋構造を有するゴムからなる内層を有する粒子(ロ)を含むことが好ましい。なお、粒子(ロ)が外層及び内層を「有する」とは、粒子(ロ)が外層及び内層のみからなることを意味するものではなく、それ以外の層をさらに有していてもよい。例えば後述するように内層の内側にさらに芯内層をも有することができる。
【0042】
粒子(ロ)の外層を構成するメタクリル重合体とは、メタクリル酸またはメタクリル酸エステル構造を繰り返し単位として有する重合体であり、好ましくは、前記メタクリル酸エステル重合体(イ)を構成する重合体と同様のものが挙げられ、より好ましくは、前記メタクリル酸エステル(M1)50重量%〜100重量%と、前記アクリル酸エステル(M2)0重量%〜50重量%と、前記ビニル基を有する化合物(M3)0重量%〜49重量%とからなる単量体組成物(ii)を重合してなるものが挙げられる。
なお、粒子(ロ)の外層を構成するメタクリル重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0043】
粒子(ロ)の内層を構成する架橋構造を有するゴムとしては、各種の弾性共重合体からなるゴムを用いることができる。また、粒子(ロ)の内層を構成するゴムは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、粒子(ロ)の内層を構成するゴムとしては、好ましくは、アクリル酸アルキル単量体(m1)50重量%〜99.9重量%と、炭素−炭素二重結合を一分子中に1個有する単官能単量体(m2)0重量%〜49.9重量%と、炭素−炭素二重結合を一分子中に少なくとも2個有する多官能単量体(m3)0.1重量%〜10重量%との共重合体(i−1)が挙げられる。
【0044】
前記アクリル酸アルキル(m1)としては、例えば、アルキル基の炭素数が1〜8のものが挙げられる。なかでも、アクリル酸ブチルやアクリル酸2−エチルヘキシルのような、アルキル基の炭素数4〜8のものが好ましい。なお、アクリル酸アルキル(m1)は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0045】
必要に応じて用いられる、前記炭素−炭素二重結合を一分子中に1個有する単官能化合物(m2)としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸エステル、スチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル等のビニルシアン化合物などが、好適なものとして挙げられる。なお、単官能化合物(m2)は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0046】
前記炭素−炭素二重結合を一分子中に少なくとも2個有する多官能化合物(m3)としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート等のグリコール類の不飽和カルボン酸ジエステル、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、ケイ皮酸アリル等の不飽和カルボン酸のアルケニルエステル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等の多塩基酸のポリアルケニルエステル、トリメチロールプロパントリアクリレート等の多価アルコールの不飽和カルボン酸エステル、ジビニルベンゼンなどを挙げることができる。中でも、不飽和カルボン酸のアルケニルエステル及び多塩基酸のポリアルケニルエステルが好ましい。なお、多官能化合物(m3)は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、多官能化合物(m3)は、架橋性を有することが好ましい。
【0047】
粒子(ロ)は、好ましくは、前記架橋構造を含むゴムを少なくとも表層に有する芯粒子(ロ−1)100重量部の存在下で、前記単量体組成物(ii)10〜400重量部を重合して調製することができる。なお、芯粒子(ロ−1)は、その全てが前記架橋構造を含むゴムから形成されていてもよい。具体的には、芯粒子(ロ−1)100重量部の存在下に、前記単量体組成物(ii)通常10〜400重量部、好ましくは20〜400重量部、より好ましくは20〜200重量部を重合させることにより、単量体組成物(ii)による重合層を芯粒子(ロ−1)の表面に少なくとも1層結合させた構成にすることができる。単量体組成物(ii)の量が上記範囲内であると、芯粒子(ロ−1)の凝集が生じにくくなり、位相差フィルムとした際の透明性が良好となる。単量体組成物(ii)の量が上記範囲から外れると、粒子(ロ)を分散させたメタクリル酸エステル重合体の組成物全体の流動性の低下が起こり、スキン層の成膜が困難となるおそれがある。また、この重合の際、反応条件を調節して、粒子(ロ)の内層の平均粒子径が0.05μm以上0.3μm以下となるようにすることができる。
【0048】
粒子(ロ)は、例えば、前記共重合体(i−1)を構成する上記単量体成分(m1)〜(m3)を、乳化重合法等により少なくとも一段の反応で重合させて、共重合体(i−1)を少なくともその表層に有する芯粒子(ロ−1)を得て、この芯粒子(ロ−1)の存在下で単量体組成物(ii)を、乳化重合法等により少なくとも一段の反応で重合させて、製造することができる。このような複数段階の重合により、単量体組成物(ii)は芯粒子(ロ−1)にグラフト共重合され、グラフト鎖を有する架橋弾性共重合体となった粒子(ロ)を製造することができる。すなわち、この粒子(ロ)は、アクリル酸アルキルをゴムの主成分として含む多層構造を有するグラフト共重合体となる。
【0049】
粒子(ロ)は、その内層の内側に芯内層をさらに有し、該芯内層が、メタクリル酸エステル(M4)70重量%〜100重量%と、ビニル基を有する化合物(M5)0重量%〜30重量%との(共)重合体(i−2)からなることが、さらに好ましい。このように粒子(ロ)が3層以上の構造を有すると、位相差フィルムの弾性率、表面平滑性、表面硬度などが改善されるためである。前記の3層以上の構造を有する粒子(ロ)は、例えば、前記(共)重合体(i−2)を構成する単量体を最初に重合させ、得られる重合体の存在下で上記の共重合体(i−1)を構成する単量体を重合させ、さらに得られる芯粒子(ロ−1)の存在下で、上記の単量体組成物(ii)を重合させることにより、得ることができる。
【0050】
前記メタクリル酸エステル(M4)としては、メタクリル酸アルキル、特にメタクリル酸メチルが有利である。必要に応じて用いられるビニル基を有する化合物(M5)としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸エステル;スチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル等のビニルシアン化合物などが挙げられる。また、前記ビニル基を有する化合物(M5)は、共重合性の架橋性物質であることが好ましい。このような物質としては、前記共重合体(i−1)を構成する成分である多官能化合物(m3)と同様の化合物を用いることができる。なお、メタクリル酸エステル(M4)及びビニル基を有する化合物(M5)は、それぞれ、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0051】
前記のような3層構造の粒子は、例えば、特公昭55−27576号公報(米国特許明細書第3,793,402号)に開示されている。特に同公報の実施例3に記載のものは、好ましい組成の一つである。
また、粒子(ロ)を前記のような少なくとも3層からなる多層構造の粒子とする場合、外層としてグラフトさせる単量体組成物(ii)は、前記共重合体(i−1)及び前記(共)重合体(i−2)の合計100重量部に対して、10〜400重量部用いることが好ましい。
【0052】
粒子(ロ)は、その内層の平均粒径が、通常0.05μm以上であり、通常0.3μm以下、好ましくは0.2μm以下である。粒子(ロ)の内層の平均粒径がこの範囲にあると、スキン層の製膜性が安定するとともに、複層フィルム及び位相差フィルム自体の柔軟性及び取扱い性の面で優れる。粒子(ロ)の内層の平均粒径があまり小さいと、複層フィルム及び位相差フィルムの柔軟性が損なわれ、取扱い性が低下する傾向がある。一方、粒子(ロ)の内層の平均粒径があまり大きいと、表面平滑性が低下し、位相差フィルムの透明感が損なわれる可能性がある。なお、メタクリル重合体からなる外層をも含めた粒子(ロ)の平均粒径は、好ましくは0.07μm以上、好ましくは0.1μm以上であり、通常0.5μm以下、好ましくは0.45μm以下である。
【0053】
粒子(ロ)の内層の平均粒径は、乳化重合における乳化剤の添加量や単量体の仕込み量などを調節することによって、適切な値に設定することができる。なお、粒子(ロ)の内層の平均粒径は、粒子(ロ)をメタクリル重合体と混合してフィルム化し、その断面を酸化ルテニウムにより染色し、染色された粒子の直径を電子顕微鏡で観察することにより求めることができる。すなわち、粒子(ロ)は、外層のメタクリル重合体が、混合するメタクリル重合体と混和して染色されず、架橋構造を有するゴムからなる内層のみが染色されるので、電子顕微鏡などで観察することで、粒子(ロ)の内層の粒子径を求めることができる。
【0054】
スキン層を形成する樹脂がメタクリル酸エステル重合体(イ)と粒子(ロ)とを含有する場合、スキン層を形成する樹脂の全量を100重量%とすると、前記粒子(ロ)の量は、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、また、通常80重量%以下、好ましくは35重量%以下、より好ましくは25重量%以下とする。粒子(ロ)の量がこのような範囲であると、位相差フィルムが脆くなることがなくなり、スキン層の製膜性を向上させたり、複層フィルムを破断させることなく延伸したりすることができる。粒子(ロ)の量が少なすぎると、フィルム化するのが困難になるおそれがあり、またその量が多すぎると、位相差フィルムの透明性や表面硬度が失われるおそれがある。また、メタクリル酸エステル重合体(イ)の割合は、通常20〜99重量%であるが、メタクリル酸エステル重合体(イ)及び粒子(ロ)以外の他の添加剤を含む場合は、その割合を適宜調整することができる。
【0055】
スキン層を形成する樹脂は、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、有機系染料、顔料、無機系色素、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤などが挙げられる。なお、添加剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。なかでも紫外線吸収剤は、より優れた耐候性を与える点で好ましく用いられる。
【0056】
紫外線吸収剤としては、例えば、一般に用いられるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2−ヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸フェニルエステル系紫外線吸収剤などが挙げられる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例を挙げると、2,2′−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール〕、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−アミル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−5′−tert−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。また、2−ヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤の具体例を挙げると、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−4′−クロロベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4,4′−ジメトキシベンゾフェノンなどが挙げられる。さらに、サリチル酸フェニルエステル系紫外線吸収剤の具体例を挙げると、p−tert−ブチルフェニルサリチル酸エステル、p−オクチルフェニルサリチル酸エステルなどが挙げられる。
なお、紫外線吸収剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
紫外線吸収剤を配合する場合、その量は、例えばメタクリル酸エステル重合体(イ)及び粒子(ロ)の合計100重量部を基準にした場合、通常0.1重量部以上であり、好ましくは0.3重量部以上、また好ましくは2重量部以下である。
【0057】
スキン層を形成する樹脂のガラス転移温度は、40℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。スキン層を形成する樹脂のガラス転移温度が40℃未満では、本発明の複層フィルム及び位相差フィルムの耐熱性が低くなる可能性がある。スキン層を形成する樹脂のガラス転移温度は、例えばスキン層を形成する樹脂としてメタクリル酸エステル重合体(イ)を含む組成物を用いる場合には、メタクリル酸エステルと共重合される他の単量体の種類と量を変化させることにより、適宜設定できる。なお、メタクリル酸メチルの単独重合体のガラス転移温度は約106℃であるので、メタクリル酸エステルとしてメタクリル酸メチルを用いる場合、メタクリル酸エステル重合体(イ)のガラス転移温度は、通常106℃以下となる。
【0058】
さらに、コア層を形成する樹脂のガラス転移温度をTg(c)とし、スキン層を形成する樹脂のガラス転移温度をTg(s)とした場合、Tg(s)はTg(c)よりも低いことが好ましく、Tg(c)>Tg(s)+5℃の関係を満たすことがより好ましい。一方Tg(c)とTg(s)との差の上限は、通常40℃未満であり、30℃未満であることが好ましい。即ち、通常Tg(c)<Tg(s)+40℃であり、Tg(c)<Tg(s)+30℃であることが好ましい。このような関係を満たすことにより、複層フィルムを延伸した際にコア層に有効に光学的異方性を与え、良好な位相差フィルムを得ることができる。なお、スキン層を形成する樹脂は2以上のガラス転移温度を示す場合があるが、その場合、高い方のガラス転移温度の値を前記のTg(s)とする。
【0059】
スキン層を形成する樹脂の温度250℃、剪断速度150sec−1により測定した溶融粘度は、好ましくは400Pa・s以上、より好ましくは450Pa・s以上であり、好ましくは1000Pa・s以下、より好ましくは900以下である。このような溶融粘度を有することにより、延伸時の破断などが起こりにくくなり、延伸時及び製品の使用時における強度をさらに向上させることができる。
【0060】
複層フィルムのスキン層の厚さは、通常10μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上であり、通常400μm以下、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下である。本発明の複層フィルムは、複数層のスキン層を有するが、上記好ましい厚さの範囲は、各層あたりの好ましい厚さである。
【0061】
本発明の複層フィルムは、スキン層を2層以上備えるが、前記の2層以上のスキン層の組成、寸法などは、同じでもよく、異なっていてもよい。
スキン層は、複層フィルムにおいて2層以上設けられ、好ましくは、1層のコア層に対し、その表裏に接して、2層のスキン層が設けられる。スキン層は、通常複層フィルムの表及び裏の最外層に設けられるが、必ずしもそれに限られず、例えば、複層フィルムはスキン層のさらに外層に他の層を有していてもよい。また、コア層が2層以上ある場合、その間にスキン層がさらに存在していてもよい。
【0062】
本発明の複層フィルムではスキン層における線状凹凸の数が少ないことが好ましい。本発明の複層フィルムは、上述したようにコア層における線状凹凸の発生が抑制されているため延伸後の位相差フィルムにおける位相差ムラを低減できるようになっているが、位相差ムラを更に低減するようにするためである。具体的には、本発明の複層フィルムのスキン層における幅が通常300μm以上1000μm以下且つ高さ10nm以上1000nm以下の線状凹凸の本数は、好ましくは2本以下であり、より好ましくは1本以下であり、特に好ましくは0本である。
【0063】
〔2−3.複層フィルムのその他の層〕
本発明の複層フィルムは、本発明の効果を著しく損なわない限り、前記のコア層及びスキン層以外に、その他の任意の層を備えていてもよい。かかる任意の層としては、ハードコート層、反射防止層、拡散層等を挙げることができる。
【0064】
〔3.複層フィルムの製造方法〕
本発明の複層フィルムは、複層フィルムを構成する各層に対応する溶融樹脂を溶融押出しすることによりフィルム状に成形して製造される。したがって、例えばスキン層、コア層及びスキン層をこの順に備える複層フィルムを製造する場合には、スキン層、コア層及びスキン層を形成する樹脂を溶融させ、各溶融樹脂を前記の順で積層するようにして共押出しすることによって3層構造の複層フィルムを製造できる。通常、溶融樹脂の共押出しにはダイスを用い、スキン層及びコア層に対応する溶融樹脂をダイスから溶融共押出しすることによって複層フィルムを製造する。
【0065】
本発明の複層フィルムの製造において、コア層及びスキン層の界面における線状凹凸を所定数以下とするために、以下の(1)及び/又は(2)の手段を講じることができる。また、(1)及び/又は(2)の手段に加えて、下記(3)〜(5)の手段のいずれか1以上を講じることが好ましい。
【0066】
(1)コア層に対応する溶融樹脂を、筐体内の滞留が軽減されたポリマーフィルタでフィルタリングした後でダイスに供給するようにする。
コア層における線状凹凸の発生原因の一つは溶融樹脂中に存在する異物がダイス内面に付着することにあると考えられる。そこで、ポリマーフィルタでコア層に対応する溶融樹脂の滞留が生じ難くすることにより、滞留時に溶融樹脂が凝集して異物が発生することを防止し、コア層に線状凹凸が形成されることを防止する。
【0067】
(2)ダイスにおいて樹脂合流部で合流した溶融樹脂が樹脂吐出口から吐出されるまでに合流樹脂流路を流通する平均流通時間を長くする。
コア層における線状凹凸の原因の一つである溶融樹脂中の異物は、ダイス内において、スキン層及びコア層に対応する溶融樹脂が合流する樹脂合流部よりも上流に付着すると考えられる。したがって、コア層における線状凹凸は、ダイス内の樹脂合流部よりも上流において形成されると考えられる。そこで、樹脂合流部よりも下流の合流樹脂流路を流通する時間を長くすることにより、スキン層に対応する溶融樹脂によってコア層に対応する溶融樹脂を高圧で長時間挟み込むようにする。これにより、合流流路部よりも上流で形成された線状凹凸は、下流の合流流路部において周囲から長時間かけられる圧力により平坦化するので、コア層に線状凹凸が形成されることを防止できる。
【0068】
(3)ダイスを流通するコア層に対応した溶融樹脂の粘度を低くする。
粘度が低ければ一度形成された線状凹凸も合流流路部において平坦化しやすくなり、コア層に線状凹凸が形成されることを防止できる。なお、溶融樹脂の粘度は、例えば、ダイス内の温度を高温にしたり、ダイス内での溶融樹脂のせん断速度を大きくしたりすることにより、低くすることができる。
【0069】
(4)コア層に対応した溶融樹脂が流れる樹脂合流部よりも上流の樹脂流路の表面を同一の材質によって形成し、且つ、その樹脂流路の表面粗さを小さくする。
コア層における線状凹凸の原因の一つとして、ダイス内の樹脂合流部よりも上流の樹脂流路における溶融樹脂の滞留が考えられる。溶融樹脂の滞留が生じると、前記のように異物が生じる。そこで、樹脂合流部よりも上流の樹脂流路の表面の材質を同一にし、且つ、表面粗さを小さくすることにより、溶融樹脂の滞留を防止して、コア層に線状凹凸が形成されることを防止できる。
【0070】
(5)コア層に対応した溶融樹脂が樹脂合流部へ流入する樹脂流路の下流先端部分の傷を小さくし、且つ、傷の数を少なくする。
前記の傷はコア層における線状凹凸の原因の一つであると考えられることから、その大きさを小さくしたり数を減らしたりすることで、線状凹凸が形成され難くして、コア層に線状凹凸が形成されることを防止する。
【0071】
以下、スキン層、コア層及びスキン層をこの順に備え、2種3層の積層構造を有する複層フィルムを例に挙げて、本発明の実施形態としての複層フィルムの製造方法を説明する。なお、以下の実施形態の説明において「平行」又は「垂直」という場合、それぞれ特に断らない限り、通常±10°以内、好ましくは±5°以内、より好ましくは±3°以内であれば、誤差を含んでいても良い。
【0072】
図3は、本発明の一実施形態にかかる複層フィルムの製造装置の概要を示す模式図である。図3に示すように、本実施形態の製造装置1は、樹脂供給装置である押出機101と、ポリマーフィルタ201と、ダイス301と、ダイス301の温度を制御する温度調整手段としてのダイスヒーター401とを備える。この製造装置1においては、コア層に対応する樹脂(Rc)が押出機101から溶融樹脂Rcとして送出され、配管X1を介してポリマーフィルタ201に供給される。溶融樹脂Rcはポリマーフィルタ201でフィルタリングされ、配管X2を介してダイス301に供給される。一方、別の押出機(図示せず。)から、スキン層に対応する溶融樹脂Rs1、Rs2がそれぞれ配管X3及びX4を介してダイス301に供給される。溶融樹脂Rc、Rs1及びRs2は、ダイス301から、フィルム状の樹脂成形物Fとして溶融共押出される。樹脂成形物Fは、必要に応じて冷却等の任意の操作を経た後、所望の複層フィルムが製造される。
【0073】
押出機101は、ポリマーフィルタ201の流入口254に、溶融樹脂Rcを加圧した状態で供給する装置である。
本実施形態では、押出機101が溶融樹脂Rcを加圧する圧力を調整することにより、溶融樹脂Rcの流通速度を制御できる。複層フィルムのコア層に線状凹凸が形成されることを防止する観点から、押出機101が溶融樹脂Rcを加圧する圧力は、ダイス301において樹脂合流点340で溶融樹脂Rs1及び溶融樹脂Rs2と合流した溶融樹脂Rcが樹脂吐出口360から吐出されるまでに合流樹脂流路350を流通する平均流通時間を所望の時間にするように設定しうる(後述する図8の説明を参照)。
【0074】
図4は図3に概略的に示したポリマーフィルタ201を、内底面に垂直な面で切った断面を模式的に示す断面図である。なお本実施形態では図4に示すように、ボトムカバー204を水平な台に設置した縦置きの様子を例に挙げて説明するが、ポリマーフィルタ201の設置方向は、横向きでもよく、斜め向きでもよく、逆向き(すなわち、蓋部が鉛直下側となり、底部が鉛直上側となる方向)でもよい。
【0075】
図4に模式的に示すように、本実施形態において用いられるポリマーフィルタ201は、溶融樹脂Rcを流通させて溶融樹脂Rcを濾過する機器であり、内部に中空部202を形成された筐体としてのハウジング203と、ハウジング203の中空部202に収納された支柱部としてのセンターポール206と、ハウジング203の中空部202に収納された複数枚のフィルタエレメント207とを備える。ハウジング203は、底部としてのボトムカバー204と、蓋部251及び側壁部252を有するケース205とを備える。ハウジング203内の中空部202には支柱部としてのセンターポール206及び複数枚のフィルタエレメント207が収納され、中空部202内を流通する溶融樹脂Rcがフィルタエレメント207で濾過されるようになっている。
【0076】
ボトムカバー204はハウジング203の下部(下流側)に位置し、その中央部に表裏を貫通する送出口241が形成された平板状の部材である。このボトムカバー204の上側(上流側)の面204Aは平面状に形成されている。したがって、ボトムカバー204の上側の面204Aのうち、ケース205で覆われず中空部202に露出した部分はハウジング203の内底面203Aを構成する。
【0077】
センターポール206は、ボトムカバー204の中央部に、内底面203Aに垂直に立設するようにして設けられている。なお、本実施形態では、センターポール206はボトムカバー204と一体に成形されているものとして説明するが、センターポール206とボトムカバー204とは着脱可能に設けても構わない。センターポール206は、そのフィルタエレメント207を装着する部分(頂部を除く部分)261は多角柱状(例えば、六角柱状)に形成されている。センターポール206の軸心部分には、センターポール206の頂部から底部まで貫通して送出口241と連通する中空部262が形成されている。さらに、センターポール206の部分261にはセンターポール206の外側と内側の中空部262とを連通する吐出口263が形成されている。したがって本実施形態では、センターポール206とフィルタエレメント207との間に形成される空隙264、吐出口263及び中空部262が溶融樹脂Rcを流通させる流路として機能して、フィルタエレメント7から送出された濾過済みの溶融樹脂Rcは、これらの空隙264、吐出口263及び中空部262からなる流路を流通して送出口241からポリマーフィルタ201の外に送出されるようになっている。
【0078】
フィルタエレメント207は円盤状の濾過用部材であり、その中央部にはセンターポール206にフィルタエレメント207を装着するための中央孔271が形成されている。このフィルタエレメント207は円盤状であれば任意のものを用いることができるが、本実施形態では例えば、表裏両面に濾過材(図示せず)を備え、前記の濾過材で濾過した溶融樹脂Rcをフィルタエレメント207内の流路(図示せず)を介して内側の中央孔271へ(すなわち、空隙264へ)送出するリーフディスク型のフィルタエレメントを用いる。
通常、このフィルタエレメント207は複数枚が積層するようにしてセンターポール6に装着される。本実施形態では、フィルタエレメント207の内縁部272において積層されたフィルタエレメント207同士の間をシールするパッキン等のシール部材を用いて、フィルタエレメント207をセンターポール206に装着する。具体的には、このシール部材(図示せず)とフィルタエレメント207とを交互に組み付けて所望の枚数だけフィルタエレメント207をセンターポール206に装着し、その上側に押さえディスク208を組み付け、上から押圧し、押さえボルトとしても機能するトゥーピード209をセンターポール206の頂部にボルト締めして組み立ててあるものとする。
【0079】
ケース205はセンターポール206、フィルタエレメント207、押さえディスク208及びトゥーピード209を収納できる大きさの中空部202を形成された容器であり、前記のように蓋部251及び側壁部252を備える。なお、本実施形態では蓋部251と側壁部252とは一体に成形されているものとして説明するが、蓋部251と側壁部252とは着脱可能に設けても構わない。
【0080】
蓋部251はハウジング203の上部(上流側)に位置し、ケース205においては側壁部252の上側(すなわち、ボトムカバー204とは反対側)に位置する部分である。蓋部251の内表面251Aの形状及び寸法は、中空部202に収納されたセンターポール206、フィルタエレメント207、押さえディスク208及びトゥーピード209と内表面251Aとが接触せず、押さえディスク208及びトゥーピード209と内表面2051Aとの間に空隙253が形成されるように設定されている。また、蓋部251の中央部には中空部202に溶融樹脂Rcを供給するための流入口254が形成され、流入口254から流入した溶融樹脂Rcは前記の空隙253を流通するようになっている。
【0081】
側壁部252はハウジング203の側方に位置し、蓋部251とボトムカバー204との間に位置する部分である。側壁部252の内表面252Aの形状及び寸法は、中空部202に収納されたセンターポール206、フィルタエレメント207、押さえディスク208及びトゥーピード209と内表面252Aとが接触せず、フィルタエレメント207及び押さえディスク208と内表面252Aとの間に空隙255が形成されるように設定されている。したがって、流入口254から流入し空隙253を流通した溶融樹脂Rcは、空隙255を流通して各フィルタエレメント207により濾過されるようになっている。
【0082】
内表面252Aは、その下端に形成された凸面部252Bを除き、内底面203Aに対して垂直な円筒状の面となっている。したがって、側壁部252の内表面252Aのうち、前記の内底面203Aに対して垂直な円筒状の面の部分はハウジング203の内側面203Bを構成する。また、側壁部252の内表面252Aのうち、その下端に形成された凸面部252Bは、ハウジング203の内底面203Aと内側面203Bとの境界部分に位置し、内底面203Aと内側面203Bとの間を跨るように形成された面部となる。
【0083】
凸面部252Bは前記の内底面203A及び内側面203Bに対してハウジング203の中心側に向かって凸な形状になっている。換言すれば、凸面部252Bは中空部202の内側へと張り出した略面形状の部分である。すなわち、凸面部252Bは、内底面203Aに対し垂直な方向においては内底面203Aよりも上側(即ち、蓋部251に近い側)に位置し、内側面203Bが構成する円筒形状の径方向においては内側面203Bよりも内側(即ち、センターポール206に近い側)に位置するようになっている。このような形状の凸面部252Bが設けられていることにより、内底面203Aと内側面203Bとで形成される角部(入隅部)が埋められて、いわば、この角部に設けられた流路に面取りが施されたようになっている。換言すれば、当該流路は、内側面203Bの径方向内側(センターポール206側/後述するX方向)へ狭まったテーパ構造状に形成されている。
【0084】
本実施形態に用いるポリマーフィルタ201においては、前記の凸面部252Bの寸法を適切に設定することにより、溶融樹脂Rcの滞留を抑制できるようになっている(手段(1)参照)。この寸法の設定について、図5を用いて説明する。図5は、図4に示したポリマーフィルタ201を、内底面203Aに垂直な面で切った断面の一部を模式的に示す断面図であって、図4における凸面部252Bの近傍を拡大して示す図である。なお、図5において、内側面203Bが構成する円筒形状の径方向をX方向、内底面203Aに垂直な方向をY方向として示す。
図5に示すように、dは、フィルタエレメント207からハウジング203の内側面203Bまでの距離(最短距離)を表す。また、dは、ハウジング203の内側面203Bから、ハウジング203の内底面203Aと凸面部252Bとが交わる地点Pまでの、内側面203Bの径方向Xでの距離を表す。さらに、dは、ハウジング203の内底面203Aから、ハウジング203の内側面203Bと凸面部252Bとが交わる地点Qまでの、内底面203Aに垂直な方向Yでの距離を表す。距離d、d及びdをこのように定義した場合、d/dが、0.3以上、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.6以上であり、また、0.8以下となるように凸面部252Bの寸法を設定する。さらに、d/dが、0.3以上、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.6以上であり、また、0.8以下となるように凸面部252Bの寸法を設定する。ここで、距離d、d及びdの単位は統一し、d/d及びd/dの単位は無次元となるようにする。凸面部252Bの寸法を前記のように設定することにより、溶融樹脂Rcの滞留を抑制できる。
【0085】
以下、凸面部252Bを形成したことにより溶融樹脂Rcの滞留を抑制できる点について、凸面部252Bが無いポリマーフィルタと対比しながら詳述する。図6は凸面部が形成されていないポリマーフィルタを、内底面に垂直な面で切った断面を模式的に示す断面図である。また、図7は凸面部が形成されていないポリマーフィルタを、内底面に垂直な面で切った断面の一部を模式的に示す断面図であって、図6におけるボトムカバーとケースとの接続部分の近傍を拡大して示す図である。図6,7において、図4,5と同様の部位は、図4,5と同様の符号で示す。
図6,7に示すポリマーフィルタ901は、凸面部252Bが形成されていないこと以外は上記実施形態にかかるポリマーフィルタ201と同様に構成されていて、図6に示すように、ハウジング203の内側面203Bは内底面203Aまで連続して延在している。このため、図7に示すように、ポリマーフィルタ901内の中空部202においてハウジング203の内底面203Aと内側面203Bとの境界近傍(すなわち、中空部202の底側の角部)には、断面が略直角三角形状の領域202Eが形成される。本願出願人では、黒色のカーボンを分散させた溶融樹脂Rcをポリマーフィルタ901により濾過する実験を行い、ハウジング203の内底面203Aの近傍に着色樹脂が残留する傾向があることを目視観察により確認し、さらに、その内底面203Aの近傍の着色樹脂の残留の原因が、前記の断面が略直角三角形状の領域202Eにおいて溶融樹脂Rcの滞留が生じることにある旨を、シミュレーションにより見出した。そして、前記の溶融樹脂Rcの滞留が生じないような流路形状を検討した結果、図5に示すように、フィルタエレメント207とハウジング3の内側面203Bとの間の距離dに応じて内底面203Aと内側面203Bとの境界近傍の流路を狭くすることにより、前記の溶融樹脂Rcの滞留を抑制して、内底面203Aの近傍における溶融樹脂Rcの残留を防止できるとの知見を得た。具体的には、d/d及びd/dを前記範囲の下限値以上にすることによって、溶融樹脂Rcの滞留が生じやすい前記の断面が略直角三角形状の領域202Eに溶融樹脂Rcが進入することを防止して、滞留発生を抑制できる。また、d/d及びd/dを前記範囲の上限値以下にすることによって、凸面部252Bの近傍において流路が過度に狭くなり予期せぬ不具合が生じることを防止できると推察できる。
【0086】
図5に示す凸面部252Bの形状に関し、d/dは、0.5以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、また、2.0以下が好ましく、1.0以下がより好ましい。d/dを前記範囲の値とすることにより、前記の領域202Eに溶融樹脂Rcが進入することを防止して、滞留発生を抑制できる。
【0087】
前記の凸面部252Bは、滑らかに連続する単独の面により形成してもよく、2面以上の領域に区分けされた複数の面により形成してもよい。さらに、凸面部252Bは平面により形成してもよく、曲面により形成してもよく、平面と曲面との組み合わせにより形成しても良い。ただし、内底面203Aに対して垂直な面で凸面部252Bを切った断面が曲線状となる曲面形状に凸面部252Bを形成する場合、前記の断面の曲線の曲率半径Rをdで除した値は、0.5以上が好ましく、1.0以上がより好ましい。Rをdで除した値を前記好適な範囲とすることにより、前記の領域202Eに溶融樹脂Rcが進入することを防止して、滞留発生を抑制できる。
なお、本実施形態において凸面部252Bは、図4,5に示すように、内底面203Aに対して垂直な面で切った断面が直線状になる形状を有し、且つ、円筒形状となる内側面203Bの周方向に滑らかに連続する曲面として形成されているものとする。このような構成によれば、溶融樹脂Rcの滞留をより抑えることができる。
【0088】
図8は、図3に概略的に示したダイス301を、ダイス301の幅方向(即ち、吐出口360から押し出されるフィルム状の樹脂成形物Fの幅方向と並行な方向)に垂直な面で切った断面を模式的に示す断面図である。
図8に模式的に示すように、本実施形態のダイス301は、コア層及びスキン層それぞれに対応した溶融樹脂Rc,Rs1,Rs2が流入する複数の樹脂流入口311,321,331と、樹脂流入口311,321,331から流入した溶融樹脂Rc,Rs1,Rs2が流通する複数の樹脂流路310,320,330と、複数の樹脂流路310,320,330が合流する樹脂合流点340と、樹脂合流点340で合流した溶融樹脂Rc,Rs1,Rs2が平行に流通する合流樹脂流路350と、合流樹脂流路350を流通した溶融樹脂Rc,Rs1,Rs2をフィルム状に吐出する樹脂吐出口360とを有する。
【0089】
樹脂流入口311はポリマーフィルタ201の送出口241と、配管X2(図3)を介して接続されていて、樹脂流入口311へ、所定の圧力で溶融樹脂Rcが供給されるようになっている。また、樹脂流路310は、マニホールド312と、樹脂流入口311からマニホールド312までを連通する上流樹脂流路313と、マニホールド312から樹脂合流点340までを連通する下流樹脂流路314とを有している。さらに、マニホールド312及び下流樹脂流路314はダイス301の幅方向に延在して形成されている。これにより、樹脂流入口311から上流樹脂流路313へ流入した溶融樹脂Rcは、マニホールド312でダイス301の幅方向に広げられ、その状態で下流へと流れる。
【0090】
同様に、樹脂流入口321,331はそれぞれ溶融樹脂Rs1,Rs2に対応した押出機(図示せず。)と、配管X3、X4(図3)を介して接続されていて、樹脂流入口321,331へ、所定の圧力で溶融樹脂Rs1,Rs2が供給されるようになっている。また、樹脂流路320,330は、マニホールド322,332と、樹脂流入口321,331からマニホールド322,332までを連通する上流樹脂流路323,333と、マニホールド322,332から樹脂合流点340までを連通する下流樹脂流路324,334とをそれぞれ有している。さらに、マニホールド322,332及び下流樹脂流路324,334はダイス301の幅方向に延在して形成されている。これにより、樹脂流入口321,331から上流樹脂流路323,333へ流入した溶融樹脂Rs1、Rs2は、マニホールド322,332でダイス301の幅方向に広げられ、その状態で下流へと流れる。
【0091】
図9は、図8に示したダイス301の断面の一部を拡大して模式的に示す断面図であって、図8における樹脂合流点340、合流樹脂流路350及び樹脂吐出口360の近傍を拡大して示す図である。
図9に示すように、下流樹脂流路314,324,334の下流端部はいずれも樹脂合流点340に接続されている。また、合流樹脂流路350は、その上流端部が樹脂合流点340に接続され、その下流端部が樹脂吐出口360に接続されている。
【0092】
樹脂合流点340及び合流樹脂流路350はいずれもダイス301の幅方向に延在して形成されている。また、樹脂吐出口360は、ダイス301の幅方向に延在するスリット状の開口となっている。したがって、下流樹脂流路314,324,334から幅方向に広げられた状態で流通してきた溶融樹脂Rc,Rs1,Rs2は、幅方向に広げられた状態を維持したまま樹脂合流点340で合流し、幅方向に広げられた状態を維持したまま層をなして合流樹脂流路350を流通し、樹脂吐出口360からフィルム状に吐出される。
【0093】
さらに、本実施形態では、樹脂合流点340で合流した溶融樹脂Rc,Rs1,Rs2が樹脂吐出口360から吐出されるまでに合流樹脂流路350を流通する流通時間を長くするため、合流樹脂流路350の長さLを長くしてある。具体的には、溶融樹脂Rc,Rs1,Rs2が合流樹脂流路350を流通する平均流通時間が、通常2秒以上、好ましくは2.5秒以上となるよう、長さLを設定している。なお、前記の平均流通時間の上限は、通常10秒以下である(手段(2)参照)。これにより、合流流路部350における長時間の圧力によって、コア層を平坦化できるようになっている。また、合流樹脂流路350の長さLは90mm以上が好ましい。
【0094】
また、本実施形態では、溶融樹脂Rcが流れる樹脂流路310(すなわち、マニホールド312、上流樹脂流路313及び下流樹脂流路314)の表面310Aを同一の材質によって形成し、且つ、その樹脂流路310の表面粗さを小さくしている(手段(4)参照)。具体的な表面粗さの程度は、算術平均粗さRaで通常1μm以下である。なお、算術平均粗さRaはJIS B0601−1994に規定されている。これにより、樹脂流路310における溶融樹脂Rcの滞留を防止できるようになっている。
【0095】
また、本実施形態では、溶融樹脂Rcが樹脂合流点340へ流入する樹脂流路310の下流先端部分315の傷を小さくし、且つ、傷の数を少なくしてある(手段(5)参照)。これにより、コア層に線状凹凸が形成され難くできるようになっている。
【0096】
ダイスヒーター401は、ダイス301の温度を制御するために設けられたヒーターである。ダイスヒーター401はダイス301の温度を制御することにより内部を流通する溶融樹脂Rc,Rs1,Rs2の粘度を調整できるようになっている。具体的には、ダイスヒーター401は、ダイス内の溶融樹脂Rcの粘度を通常550Pa・s以下、好ましくは520Pa・s以下、より好ましくは490Pa・s以下にできる温度にダイス301の温度を制御するようになっている。これにより、コア層に一度形成された線状凹凸を合流流路部350において平坦化しやすくできるようになっている(手段(3)参照)。また、コア層に対応する溶融樹脂Rcの粘度を上記範囲とするのに加えて、スキン層に対応する溶融樹脂の粘度よりコア層に対応する溶融樹脂Rcの粘度を低くすることが好ましい。
【0097】
本実施形態の複層フィルムの製造装置による複層フィルムの製造においては、まず、押出機101により溶融樹脂Rcを所定の流圧でポリマーフィルタ201に供給し、ポリマーフィルタ201において溶融樹脂Rcのフィルタリングを行い、溶融樹脂Rc内の異物を除去する。
【0098】
図10は、図4に示したポリマーフィルタの使用時における溶融樹脂Rcの流通の様子を説明するための断面図である。なお、図10において図4と同様の部位は、図4と同様の符号で示す。
図5に示すように、流入口254へ溶融樹脂Rcが所定の流圧で供給されると、ハウジング203内の中空部202に溶融樹脂Rcが流入する(矢印A)。流入口254から流入した溶融樹脂Rcは、押さえディスク208及びトゥーピード209と蓋部251の内表面251Aとの間の空隙253を流通し(矢印A)、フィルタエレメント207及び押さえディスク208と側壁部252の内表面252Aとの間の空隙255を流通して各フィルタエレメント207の濾過材(図示せず)に浸入して濾過される(矢印A)。フィルタエレメント207で濾過された溶融樹脂Rcは、フィルタエレメント207内の流路(図示せず)を通り、センターポール206とフィルタエレメント207との間の空隙264及び吐出口263を介して中空部262に流入し(矢印A)、中空部262と連通する送出口241からポリマーフィルタ201の外に送出される(矢印A)。この際、ハウジング203の内底面203Aと内側面203Bとの境界部分に凸面部252Bが形成されているため、前記境界部分の近傍において溶融樹脂Rcの滞留を抑制できる。このため、送出口241から送出される溶融樹脂Rcに樹脂の劣化による異物の混入を防止して、コア層に線状凹凸が形成されることを防止できる。
【0099】
ポリマーフィルタ201から送出された溶融樹脂Rcは、ダイス301の樹脂流入口311に流入する。また、ダイス301の樹脂流入口321,331へは、スキン層に対応した溶融樹脂Rs1,Rs2が流入する。これらの溶融樹脂Rc,Rs1,Rs2は、それぞれ樹脂流路310,320,330を流通し、樹脂合流点340で合流し、合流して層をなした状態で合流樹脂流路350を流通し、樹脂吐出口360からフィルム状に吐出されて、複層フィルムが得られる。
【0100】
この際、押出機101が溶融樹脂Rcを加圧する圧力を調整することにより、溶融樹脂Rcの流通速度を制御して、樹脂合流点340で溶融樹脂Rs1及び溶融樹脂Rs2と合流した溶融樹脂Rcが樹脂吐出口360から吐出されるまでに合流樹脂流路350を流通する平均流通時間を調整する。これにより、樹脂合流点340よりも上流で形成された線状凹凸は、下流の合流流路部350において周囲から長時間かけられる圧力により平坦化するので、コア層に線状凹凸が形成されることを防止できる。
【0101】
さらに、ダイスヒーター401がダイス301の温度を制御し、溶融樹脂Rcの粘度を低くする。これにより、コア層に一度形成された線状凹凸を合流流路部350において平坦化しやすくして、コア層に線状凹凸が形成されることを防止できる。
【0102】
また、溶融樹脂Rcが流れる樹脂流路310の表面310Aを同一の材質によって形成し、且つ、その樹脂流路310の表面粗さを小さくしてあるため、樹脂流路310における溶融樹脂Rcの滞留を防止して、コア層に線状凹凸が形成されることを防止できる。
【0103】
さらに、溶融樹脂Rcが樹脂合流点340へ流入する樹脂流路310の下流先端部分315の傷を小さくし、且つ、傷の数を少なくしてあるため、コア層に線状凹凸が形成され難くしてある。
【0104】
なお、通常は、ダイス301の吐出口360の近傍に、吐出口360からと出されたフィルム状の樹脂成形物Fを冷却するためのロールが設けられる(図示せず)。このロール上に樹脂成形物Fを押し出し、冷却することにより、樹脂が硬化し、複層フィルムが得られる。
【0105】
〔4.位相差フィルム〕
本発明の位相差フィルムは、前記本発明の複層フィルムを延伸してなる。したがって、本発明の位相差フィルムの層構成は、前記本発明の複層フィルムと同様であり、コア層と、コア層の両面にそれぞれ配置されるスキン層とを備える。
【0106】
かかる延伸における延伸温度は、120℃〜140℃とすることができ、好ましくは125℃〜135℃である。
【0107】
延伸の態様は、光学フィルムの延伸に用いうる任意の態様とすることができ、例えば、フィルムの流れ方向への縦延伸、フィルムの幅方向への横延伸、縦及び横方向への逐次二軸延伸、縦及び横方向への同時二軸延伸、斜め延伸、さらにはこれらの組み合わせ等とすることができる。
【0108】
延伸倍率は、所望の位相差を発現しうる任意の倍率とすることができるが、1.1倍以上5倍以下であることが好ましく、1.3倍以上3倍以下であることがより好ましい。二軸延伸の場合は、二方向のそれぞれにおいて上記倍率で好ましく延伸することができる。
【0109】
本発明の位相差フィルムにおけるコア層の厚さは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。一方スキン層の厚さは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。本発明の位相差フィルムが複数層のコア層及び/又はスキン層を備える場合は、上記好ましい厚さの範囲は、各層1層あたりの好ましい厚さである。
【0110】
本発明の位相差フィルムの面内レターデーション、及びコア層及びスキン層それぞれの面内レターデーションは、位相差フィルムの用途に応じて一様ではないが、本発明の効果を顕著に発揮させる観点からはコア層が大きいレターデーションを有し、一方スキン層が小さいレターデーションを有することが好ましい。
【0111】
具体的には、位相差フィルムのコア層に発現する面内レターデーションの絶対値(複数層のコア層を有する場合はその合計として発現する値)は、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、特に好ましくは40nm以上である。なお、上限に特に制限は無いが、通常550nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは450nm以下である。
位相差フィルムのスキン層に発現する面内レターデーションの絶対値(複数層のスキン層の合計として発現する値)は、好ましくは2nm以上、より好ましくは5nm以上である。なお、上限に特に制限は無いが、通常550nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは450nm以下である。
コア層に発現する面内レターデーションの絶対値とスキン層に発現する面内レターデーションの絶対値との差は、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、特に好ましくは30nm以上である。なお、上限に特に制限は無いが、通常550nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは450nm以下である。
【0112】
本発明の位相差フィルム全体としての面内レターデーションは、例えば本発明の位相差フィルムを光学補償フィルムとして使用する場合には、好ましくは20nm以上、より好ましくは30nm以上であり、好ましくは600nm以下、より好ましくは400nm以下である。本発明の位相差フィルムの厚み方向レターデーションは、例えば本発明の位相差フィルムを光学補償フィルムとして使用する場合には、好ましくは−600nm以上、より好ましくは−400nm以上であり、好ましくは−20nm以下、より好ましくは−30nm以下である。
【0113】
本発明の位相差フィルムは、好ましくは、全光線透過率が92%以上、且つ、ヘーズが5%以下である。このように高い全光線透過率および低いヘーズを有することにより、位相差フィルムとして有利に用いることができる。
【0114】
本発明の位相差フィルムは、線状の位相差ムラの少ないフィルムとすることができる。かかる位相差ムラは、下記の方法で評価することができる。即ち、クロスニコルに配置された2枚の偏光板で挟み、バックライト装置の面状の発光面上に置いて観察し、周りより暗い又は明るいと目視で判定される線状のムラを位相差ムラとして計数することで、位相差ムラの多少を評価することができる。かかる観察の位置は、位相差フィルムの幅方向の全幅とすることもできるが、複層フィルムにおいて、スキン層表面上、及びコア層とスキン層との界面上に線状凹凸が存在した箇所に対応する位相差フィルム上の箇所を観察することで、より効率的な評価を行うことができる。
【0115】
〔5.位相差フィルムの用途〕
本発明の位相差フィルムの用途は、特に限定されないが、例えば、液晶表示装置等の表示装置において、円偏光分離素子と組み合わせて、輝度向上フィルムとして用いることができる。かかる輝度向上フィルムは、例えば、バックライト装置及び液晶セルを有する液晶表示装置において、これらの間に設けることができる。位相差フィルムは、円偏光分離素子から透過した所定の円偏光を直線偏光に変換し、液晶セルに、液晶セルの表示に必要な所定の直線偏光を効率的に供給することができる。
【実施例】
【0116】
以下において、本願発明を、実施例及び比較例を参照してより詳細に説明するが、本願発明はこれらに限定されない。
【0117】
<実施例1>
図3に概略的に示す装置を用い、スキン層−コア層−スキン層の2種3層の層構成を有する複層フィルム、及びそれを延伸してなる位相差フィルムを製造した。
【0118】
スキン層を構成する溶融樹脂Rs1及びRs2として、ゴム粒子を含むポリメチルメタクリレート系樹脂(ガラス転移温度105℃、250℃、100(/s)における粘度が880Pa・s)を、ダブルフライト型の単軸押出機に投入し、樹脂を押し出した。押し出した樹脂は、配管を介してポリマーフィルタに通し、さらに、配管X3及びX4を介してダイス301に通した。
【0119】
一方、コア層を構成する溶融樹脂Rcとして、ポリスチレン系樹脂(ガラス転移温度130℃、商品名「ダイラークD332」、ノヴァケミカル社製、250℃、100(/s)における粘度が485Pa・s)を、ダブルフライト型の単軸押出機101に投入し、樹脂を押し出した。押し出した樹脂は、配管X1を介してポリマーフィルタ201に通し、さらに、配管X2を介してダイス301に通した。
【0120】
ポリマーフィルタとしては、目開き5μのリーフディスク形状のフィルタエレメントを備えた、図6及び図7に概略的に示した従来型の筐体のフィルターを用いた。流路X2、X3及びX4への、それぞれの樹脂の押出量は1:1:1(体積比)とした。ダイス301内の樹脂の温度は、いずれの樹脂も240℃とした。
【0121】
ダイス301としては、図8に概略的に示す構造を有するものを用いた。ダイス301において、溶融樹脂Rcの流路310の内表面は同一の材質によって形成され、表面粗さは、Ra=0.5μであった。樹脂合流点340から樹脂吐出口360までの合流樹脂流路350の長さLは100mmであった。樹脂が、樹脂合流点340から吐出口360に達するまでの平均時間が2.5sになるように押出量を決定した。
【0122】
上記条件で、ダイス301から、樹脂を長尺のフィルム状に押し出した。これを100℃に温度調整された冷却ロールにキャストし、(スキン層)−(コア層)−(スキン層)の3層の層構成を有し、幅が1400mmである複層フィルムを得た。干渉式膜厚計で求めた各層の厚さはいずれも45μmであり、総厚さが135μmであった。
得られた複層フィルムを、延伸温度134℃、延伸速度10m/分、MD(フィルム流れ方向)延伸倍率2.0倍、TD(フィルムの幅方向)延伸倍率1.5倍で同時二軸延伸して、位相差フィルムを得た。
【0123】
得られた複層フィルム及び位相差フィルムについて、下記の通り、線状凹凸の本数についての評価を行った。結果を表1に示す。
【0124】
(複層フィルムの評価)
複層フィルムに光を照射し、透過した光をスクリーンに写し出し、スクリーン上に投影された透過光の明暗を、複層フィルムの幅方向に相当する方向に沿って、全幅にわたって観察し、周囲よりも明るくなっている線状部分又は暗くなっている線状部分を特定した。かかるスクリーン上の線状部分に対応する、複層フィルムの部分を、3cm角程度の大きさに切り取り、三次元表面構造解析顕微鏡(Zygo社製)を用いて、フィルム両面の表面を観察して、スキン層表面上、及びコア層とスキン層との界面上に存在する線状凹凸の深さ及び高さ、並びにその幅を測定した。このとき線状の凹または凸部分の幅が300μm以上ありかつ深さまたは高さが10nm以上あるものを線状凹凸として計数した。
この計数方法により観察された線状凹凸の総数、及びそれらのうちコア層とスキン層との界面上に存在していた線状凹凸の本数を、表1に示す。
【0125】
(位相差フィルムの評価)
複層フィルムにおいて、スキン層表面上、及びコア層とスキン層との界面上に線状凹凸が存在した箇所に対応する位相差フィルム上の箇所を観察した。観察対象の箇所を、クロスニコルに配置された2枚の偏光板で挟み、バックライト装置の面状の発光面上に置いて観察し、周りより暗い又は明るいと目視で判定される線状のムラを位相差ムラとして計数した。結果を表1に示す。
通常は、コア層に凹状の線状凹凸があれば周りより暗いと目視で判定され、コア層に凸状の線状凹凸があれば周りより明るいと目視で判定される。
【0126】
<実施例2>
ダイス301内の樹脂の温度を250℃とした他は、実施例1と同様にして、複層フィルム及び位相差フィルムを製造し評価した。結果を表1に示す。
【0127】
<実施例3>
溶融樹脂Rs1、Rs2及びRscを通すポリマーフィルタの筐体の形状を変更した点、及びダイスの形状を変更した点の他は、実施例1と同様にして、複層フィルム及び位相差フィルムを製造し評価した。結果を表1に示す。
本実施例で用いたポリマーフィルタの筐体としては、図4及び図5に概略的に示した、その内部の滞留が低減された形状のものを用いた。図5に示した筐体内の寸法d、d及びdの寸法については、それぞれ10mm、8mm及び8mmであるものを用いた。
本実施例で用いたダイスとしては、樹脂合流点340から樹脂吐出口360までの合流樹脂流路350の長さLが70mmである他は実施例1〜2で用いたものと同様の形状のものを用いた。
【0128】
<実施例4>
ダイス301内の樹脂の温度を250℃とした点、及び溶融樹脂Rs1、Rs2及びRscを通すポリマーフィルタとして実施例3で用いたものと同一のものを用いた他は、実施例1と同様にして、複層フィルム及び位相差フィルムを製造し評価した。結果を表1に示す。
【0129】
<比較例1>
ダイスとして、実施例3で用いたものと同一の、合流樹脂流路350の長さLが70mmのものを用いた他は、実施例1と同様にして、複層フィルム及び位相差フィルムを製造し評価した。結果を表1に示す。
【0130】
<比較例2>
ダイスとして、実施例3で用いたものと同一の、合流樹脂流路350の長さLが70mmのものを用いた点、及びダイス内の樹脂の温度を250℃とした点の他は、実施例1と同様にして、複層フィルム及び位相差フィルムを製造し評価した。結果を表1に示す。
【0131】
上記実施例及び比較例のいずれにおいても、観察された線状凹凸の幅は、いずれも1000μm以内であり、高さはいずれも1000nm以内であった。また、得られた位相差フィルムの全体を目視で観察したところ、上記「位相差フィルムの評価」で位相差ムラとして観察される可能性のあるムラは観察されなかった。
【0132】
【表1】

【0133】
表中のスキン層の厚みの記載において、2つの値の組は、2つの値のそれぞれが2層あるスキン層のそれぞれの厚みであることを示す。例えば、45/45は、2層のスキン層のそれぞれが、厚さ45μmであることを示す。
【0134】
表1に示した通り、位相差フィルムにおいて表れた位相差ムラの本数は、原反の複層フィルムにおいてコア層とスキン層との界面に生じた線状凹凸の本数にほぼ等しかった。
また、実際の観察において、位相差フィルムにおいて位相差ムラが表れた位置は、原反の複層フィルムにおいてコア層とスキン層との界面に線状凹凸が存在していた場所のいずれかと対応していた。原反の複層フィルムにおいてスキン層表面のみに線状凹凸が存在していた場所に対応した位置において、位相差フィルムの位相差ムラが発生した箇所は見当たらなかった。
【0135】
以上の結果より、コア層とスキン層との界面の線状凹凸が少ない本発明の複層フィルムを延伸してなる本発明の位相差フィルムは、位相差ムラの少ないフィルムとすることができることがわかる。また、コア層とスキン層との界面の線状凹凸が少ない本発明の複層フィルムは、本発明の所定の製造方法により得られることがわかる。
【符号の説明】
【0136】
1:製造装置
10、20:複層フィルム
11、13、21、23:スキン層
12、22:コア層
14、15、24:線状凹凸
101:押出機
201、901:ポリマーフィルタ
202:中空部
203:ハウジング
203A:内底面
203B:内側面
204:ボトムカバー
205:ケース
206:センターポール
207:フィルタエレメント
241:送出口
251:蓋部
252:側壁部
252B:凸面部
254:流入口
301:ダイス
310、320、330:樹脂流路
310A:樹脂流路の表面
311、321、331:樹脂流入口
340:樹脂合流点
350:合流樹脂流路
360:樹脂吐出口
401:ダイスヒーター
F:樹脂成形物
Rc、Rs1、Rs2:溶融樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア層と、前記コア層の両面にそれぞれ配置されるスキン層とを備え、溶融樹脂を溶融押出しすることにより成形された複層フィルムであって、
前記コア層と前記スキン層との界面における幅300μm以上1000μm以下且つ高さ10nm以上1000nm以下の線状凹凸の本数が、前記複層フィルムの幅1400mm当たり2本以下である、複層フィルム。
【請求項2】
請求項1記載の複層フィルムを延伸してなる、位相差フィルム。
【請求項3】
請求項1記載の複層フィルムの製造方法であって、
前記スキン層及び前記コア層に対応する溶融樹脂をダイスから溶融共押出しすることを含み、
前記コア層に対応する溶融樹脂はポリマーフィルタでフィルタリングした後で前記ダイスに供給し、
前記ポリマーフィルタが、
平面状の内底面を有し送出口が形成された底部と、前記内底面に対して垂直な円筒状の内側面を有する側壁部と、前記側壁部の前記底部とは反対側に設けられ流入口を形成された蓋部とを備える筐体と、
前記筐体内において前記内底面に立設され、前記送出口に連通する流路が形成された支柱部と、
前記流入口から流入した溶融樹脂を濾過して前記支柱部の前記流路に送出する、複数枚積層するように前記支柱部に装着された円盤状のフィルタエレメントと、を備えるポリマーフィルタであって、
前記筐体は、前記内底面と前記内側面との境界部分において、前記内底面と前記内側面との間を跨るように、前記内底面及び前記内側面に対して前記筐体の中心側に向かって凸な形状である凸面部を備え、
0.3≦d/d≦0.8及び0.3≦d/d≦0.8(dは、前記フィルタエレメントから前記内側面までの距離を表す。dは、前記内側面から、前記内底面と前記凸面部とが交わる地点までの、前記内側面の径方向での距離を表す。dは、前記内底面から、前記内側面と前記凸面部とが交わる地点までの、前記内底面に垂直な方向での距離を表す。)の関係を満たす、複層フィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の複層フィルムの製造方法であって、
前記スキン層及び前記コア層に対応する溶融樹脂をダイスから溶融共押出しすることを含み、
前記ダイスが、前記スキン層及び前記コア層それぞれに対応する溶融樹脂が流入する複数の樹脂流入口と、前記樹脂流入口から流入した前記スキン層及び前記コア層それぞれに対応する溶融樹脂が流通する複数の樹脂流路と、複数の前記樹脂流路が合流する樹脂合流部と、前記樹脂合流部で合流した溶融樹脂が流通する合流樹脂流路と、前記合流樹脂流路を流通した前記溶融樹脂をフィルム状に吐出する樹脂吐出口とを有し、
前記樹脂合流部における前記溶融樹脂の合流点から、前記樹脂吐出口までの、前記溶融樹脂の平均流通時間が2秒以上である、複層フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項3記載の複層フィルムの製造方法であって、
前記ダイスが、前記スキン層及び前記コア層それぞれに対応する溶融樹脂が流入する複数の樹脂流入口と、前記樹脂流入口から流入した前記スキン層及び前記コア層それぞれに対応する溶融樹脂が流通する複数の樹脂流路と、複数の前記樹脂流路が合流する樹脂合流部と、前記樹脂合流部で合流した溶融樹脂が流通する合流樹脂流路と、前記合流樹脂流路を流通した前記溶融樹脂をフィルム状に吐出する樹脂吐出口とを有し、
前記樹脂合流部における前記溶融樹脂の合流点から、前記樹脂吐出口までの、前記溶融樹脂の平均流通時間が2秒以上である、複層フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか一項に記載の複層フィルムの製造方法であって、
前記ダイス内において、前記コア層に対応する溶融樹脂の粘度が550Pa・s以下である、複層フィルムの製造方法。
【請求項7】
2層以上のスキン層と、前記スキン層の間に設けられた1層以上のコア層とを備え、溶融樹脂を溶融押出しすることにより成形された複層フィルムであって、前記コア層における幅300μm以上1000μm以下且つ高さ10nm以上1000nm以下の線状凹凸の本数が、前記複層フィルムの幅1400mm当たり2本以下である複層フィルムを延伸してなる、位相差フィルムの製造方法であって、
請求項3〜6のいずれか一項に記載の製造方法で製造された複層フィルムを延伸することを含む、位相差フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−126084(P2011−126084A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285315(P2009−285315)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】