説明

複速度変速装置

【課題】トルク遮断があることを許容し、船のギヤの嵌脱の際の「鈍い音の発生」の問題を回避する複速度変速装置を提供する。
【解決手段】入力シャフトを同軸の出力シャフト34に接続するための第1クラッチ44、入力シャフトおよび出力シャフトに対して平行である副シャフト56、入力シャフトを副シャフトに接続する第1ギヤトレイン、副シャフトを出力シャフトに接続する第2ギヤトレインを含む、海洋使用の2速度変速装置システム。第1クラッチは、入力シャフトを出力シャフトに接続する。第2クラッチはより高速のギヤ噛み合いを提供するように選択される。制御システムは、クラッチ圧力センサー62、入力シャフトおよび出力シャフトの速度をそれぞれ測定するセンサー82,64、およびギヤトレインにおけるギヤの位置に関する情報を提供するセンサー66を含むセンサーからの入力値を受け、ソレノイドを制御してクラッチの滑りを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は変速装置に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、特に海洋用途における使用に適しているが、他の用途、特にコンパクトな変速装置が望ましい用途にも使用することのできる2速度複クラッチ自動手動型変速装置に関するものである。
【関連出願への相互参照】
【0002】
本発明は、オーストラリア仮出願第2003903771号からの、さらにまた米国仮出願第60/506947号からの優先権を主張するものである。両方の文書の全内容は参照として組み入れられている。同一の出願人/譲受人により提出された関連仮出願であるオーストラリア仮出願第2004901167号もまた言及される。この全内容もまた参照として組み入れられている。
【発明の背景】
【0003】
船舶における現行の大部分の海洋用駆動装置にあっては、海洋用エンジンが、単一ギヤ比を提供するギヤボックスを介してプロペラに連結されている。船舶の速度は、スロットルを介してエンジン速度を制御することによって制御される。一般的に言えば、船舶は、それらがそれらの所期巡航速度で最も効率的に動くようにギヤが噛み合わされている。大きいヨットは、35〜40ノットで巡航するように設計することができ、したがって、その速度であるいはその速度前後で最も効率的かつ制御可能であるようにギヤが噛み合わされている。しかしながら、この構成に伴う問題は、そのような船舶を、例えば船舶をドックに入れるときに必要である低い速度で作動させることが極めて難しいということである。例えば、船が満足のいくように進む最低速度が10ノット前後であるときには、船を安全にドックに入れることは極めて難しい。いくつかの場合には、高速作動のためのより高いギヤ比とともに、増大したトルクが必要である用途のための低いギヤ比を有することもまた望ましい。
【0004】
いくつかの多段速度駆動変速装置が船舶のために提案されてきたが、それらにはいくつかの問題が含まれている。例えば、米国特許第6,350,165号には、2つの前進速度に加え1つの後退速度の変速装置を組み入れている船舶が開示されている。この変速装置は、遊星ギヤ器具に基づいており、その結果、コストが比較的高い。この変速装置には、ギヤの噛み合いが構成されている方式のせいでさらに別の問題があり、すべてのギヤホイールを変更しなければならないため、ギヤ比を簡単に変えることはできない。したがって、相異なる用途、エンジン寸法などに適する遊星ギヤ噛み合いシステムをまとめるとともに適合させることは、いっそう困難である。
【0005】
船舶でのさらに別の問題となる区域は「トルク遮断」に関係がある。トルク遮断は、変速装置システムのギヤ比が変わって変速装置システムが一時的に係合解除されたときに生じる。トルク遮断の1つの共通例は、運転手が自動車両におけるギヤを変えるときに生じる。自動車では、変速装置が一時的に係合解除されたときにその車両の運動量がその時間帯の間、車両を移動させるので、トルク遮断があることは許容することができるが、船舶では、船舶の船体における抗力が自動車両における摩擦抗力よりも極めて大きいために変速装置が係合解除されたときの時間帯の間、船舶はそれとわかるほどに速度が落ちることから、トルク遮断はいっそう深刻な問題である。
【0006】
船舶で生じるさらに別の問題は、船舶が前進ギヤあるいは後退ギヤに入れられるために生じる「鈍い音の発生」である。それは操作上の観点からは深刻な問題ではないが、明らかなことには、船舶を購入するために大金を費やす人は、とりわけ市場でより高価なものにおいては、その船舶にギヤが入れられるときに「鈍い音の発生する」ことがない変速装置システムを手に入れることを期待するであろう。
【0007】
本発明の例は、従来技術の諸問題の一つ以上を扱うかあるいは軽減することを目的とする。
【0008】
この明細書に含まれた、文書、作用、材料、装置、物品などについてのどのような検討も、本発明についての状況を提供する目的のためだけのものである。それは、これらの事柄のうちのどれかあるいはすべてが、従来技術の基礎の一部を形成するか、あるいはそれがこの出願のそれぞれの請求項の優先日以前に存在したように本発明に関連した分野における一般常識であるということの承認と受け止めるべきではない。
【発明の概要】
【0009】
本発明の一態様によれば、
海洋用船舶のための2速度変速装置システムであって、
入力シャフトと、
前記入力シャフトと同軸の出力シャフトと、
第1ギヤ比で前記入力シャフトから前記出力シャフトに駆動力を伝達する第1ギヤトレインと、
第2ギヤ比で前記入力シャフトから前記出力シャフトに駆動力を伝達する第2ギヤトレインと、
前記第1ギヤトレインを係合・係合解除するよう作動可能な第1摩擦クラッチと、
前記第2ギヤトレインを係合・係合解除するよう作動可能な第2摩擦クラッチと
を備え、
前記入力シャフトが、前記第1摩擦クラッチおよび前記第2摩擦クラッチの係合解除により前記出力シャフトとの駆動相互接続から分離され、
前記第1ギヤ比と前記第2ギヤ比との間のシフト時に、前記第1摩擦クラッチおよび前記第2摩擦クラッチの一方が、制御された滑りを用いることで係合解除され、前記第1摩擦クラッチおよび前記第2摩擦クラッチの他方が、制御された滑りを用いることで係合されるようになっている、2速度変速装置システムが提供される。
本発明の他の態様によれば、
入力シャフトと、
前記入力シャフトと同軸の出力シャフトと、
前記入力シャフトおよび前記出力シャフトと平行に配置された副シャフトと、
前記入力シャフトを介して前記副シャフトを駆動するよう前記入力シャフトを前記副シャフトに接続する第1ギヤトレインと、
前記副シャフトを前記出力シャフトに接続する第2ギヤトレインと、
前記副シャフトを介して前記入力シャフトを前記出力シャフトに接続すると共に、1対1以外の第1ギヤ比を与える第1クラッチ手段と、
前記入力シャフトを前記出力シャフトに第2ギヤ比で接続する第2クラッチ手段と
を備え、
前記入力シャフトが、前記第1クラッチ手段および前記第2クラッチ手段の係合解除により前記出力シャフトとの駆動相互接続から分離され、
前記第1ギヤ比と前記第2ギヤ比との間のシフト時に、前記第1クラッチ手段および前記第2クラッチ手段の一方が、制御された滑りを用いることで係合解除され、前記第1クラッチ手段および前記第2クラッチ手段の他方が、制御された滑りを用いることで係合されるようになっている、2速度変速装置システムが提供される。
また、海洋用船舶のためのコンパクトな2速度変速装置システムは、
入力シャフトと、
出力シャフトと、
入力シャフトを出力シャフトに接続して第1ギヤにおける出力シャフトを駆動するための第1ギヤトレインと、
入力シャフトを出力シャフトに接続して第2ギヤにおける出力シャフトを駆動するための第2ギヤトレインと、
入力シャフトを出力シャフトに1対1以外のギヤ比で接続するためのクラッチ手段と、
を備える。
【0010】
出力シャフトおよび入力シャフトは、平行であってもよく、かつ第1ギヤおよび第2ギヤのためのギヤトレインによってつながれてもよい。
【0011】
代わりに、出力シャフトおよび入力シャフトは、同軸であって、入力シャフトおよび出力シャフトに対して平行に延びている副シャフトを介してつながれていてもよい。
【0012】
ギヤトレインは、より高速のギヤ噛み合い、すなわち反対の構成が可能であっても第2クラッチが係合するときに副シャフトのより速い高速回転を提供するように選択されているのが好ましい。
【0013】
好ましい例では、第2ギヤが係合されると第1ギヤがオーバーランするように、第1ギヤトレインにワンウェイクラッチ手段が組み込まれている。
【0014】
クラッチ手段は摩擦クラッチであってもよい。
【0015】
第1ギヤを出力シャフトに接続するさらに別の摩擦クラッチ手段が設けられてもよい。
【0016】
摩擦クラッチは、第1ギヤと第2ギヤとの間か、そのクラッチと出力シャフトの出力端部との間に位置決めされた第1ギヤと第2ギヤとともにかのいずれかで、出力シャフトにおいて位置決めされていてもよい。
【0017】
第1クラッチおよび第2クラッチを制御するために制御システムが設けられていてもよい。その制御システムは、他の入力値の中でもとりわけ、クラッチ圧力センサー、入力シャフトおよび出力シャフトの速度をそれぞれ測定するセンサー、およびギヤトレインにおけるギヤの位置に関する情報を提供するセンサーを含むさまざまなセンサーからの入力値を受けることができる。
【0018】
2〜3ノット程度の極めて低い速度が望ましいドック入れおよび他の機能のための制御されたクラッチ滑りを提供するために、1つ以上の制御バルブと電子油圧ソレノイドとを使用することができる。
【0019】
この制御システムは、船舶の移動を開始するときに船のギヤが入れられるかあるいはギヤが外される際の「鈍い音の発生」の問題を回避するために、ソレノイドを制御してクラッチの滑りを可能にするために使用することもできる。
【0020】
さらに、2速度変速装置システムは、
入力シャフトを同軸の出力シャフトに接続するための第1クラッチ手段と、
典型的には入力シャフトおよび出力シャフトに対して平行である副シャフトと、
入力シャフトを副シャフトに接続して入力シャフトを介して前記のものを駆動する第1ギヤトレインと、
副シャフトを出力シャフトに接続する第2ギヤトレインと
を含み、
第1クラッチ手段は入力シャフトを出力シャフトに接続し、かつ、
第2クラッチ手段が、入力シャフトを、1対1以外のギヤ比を与える副シャフトを介して出力シャフトに接続するようになっている。
【0021】
ギヤトレインは、より高速のギヤ噛み合い、すなわち反対の構成が可能であっても第2クラッチが係合するときに副シャフトのより速い高速回転を提供するように選択されているのが好ましい。
【0022】
本発明を使用すると、トルク遮断の問題は、第1クラッチが第2クラッチの係合と同時に係合解除するようにまたその逆になるように変速装置を操作することで、克服することができる。
【0023】
第1クラッチおよび第2クラッチを制御するために制御システムが設けられていてもよい。その制御システムは、他の入力値の中でもとりわけ、クラッチ圧力センサー、入力シャフトおよび出力シャフトの速度をそれぞれ測定するセンサー、およびギヤトレインにおけるギヤの位置に関する情報を提供するセンサーを含むさまざまなセンサーからの入力値を受けることができる。
【0024】
2〜3ノット程度の極めて低い速度が望ましいドック入れおよび他の機能のための制御されたクラッチ滑りを提供するために、1つ以上の制御バルブと電子油圧ソレノイドとを使用することができる。
【0025】
この制御システムは、船舶の移動を開始するときに船のギヤが入れられるかあるいはギヤが外される際の「鈍い音の発生」の問題を回避するために、ソレノイドを制御してクラッチの滑りを可能にするために使用することもできる。
【0026】
本発明のさまざまな態様を具体化する変速装置は、船舶、とりわけ船尾駆動ユニットに使用することができるが、限定的なものではない。
【0027】
以下、本発明を、例示としてだけ、かつ、添付図面を参照して、説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】当分野においてブラボー型と広く称されている型の船尾駆動変速装置を有する船舶の船尾の模式図である。
【図2】図1の船舶についての第1の船尾駆動変速装置の模式図である。
【図3】図2の上に重ね合わされた制御システムの備わった図2の模式図を再現している。
【図4】第2の船尾駆動変速装置の模式図である。
【図5】図4の上に重ね合わされた制御システムの備わった図4の模式図を再現している。
【図6】当分野においてアルファ型と広く称されている型の船尾駆動変速装置を有する船舶の船尾の模式図である。
【図7】単一摩擦クラッチを有する2速度変速装置であって、出力ギヤがこの変速装置の出力部に近接して位置決めされている2速度変速装置の模式図である。
【図8】単一摩擦クラッチのある2速度変速装置であって、そのクラッチが出力部に近接して位置決めされている2速度変速装置を示している。
【図9】シャフトの出力端部に位置決めされた出力ギヤの備わった複クラッチの備わった2速度変速装置を示している。
【図10】クラッチが変速装置の出力端部の近くに位置決めされた2つのクラッチを有する2速度変速装置を示している。
【図11】海洋用船舶におけるスイミングプラットフォームに対する変速装置の位置を図示している。
【詳細な説明】
【0029】
図面を参照すれば、図1は船体12を有する船舶10の船尾を示している。複クラッチ自動手動型変速装置18を組み入れている船尾駆動ユニット16が、船舶の船尾梁20の後方に位置決めされ、エンジン(図示略)が船体の内側に位置決めされているとともに、エンジンからの出力シャフト22が船舶の船尾からほぼ水平に突出して、船尾駆動ユニット16へ動力が提供されるようになっている。この型の海洋用推進システムは、「船内/船外駆動装置」としても広く称されている。
【0030】
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船舶10の出力シャフト22は、ほぼ水平な軸の周りに回転する。出力シャフト22の先端部にはベベルギヤ24が固定されている。出力シャフト22の端部に画成されたベベルギヤ24は、前進および後退ベベルギヤ26,28にそれぞれ噛み合っており、また、ドッグクラッチ(あるいはコーンクラッチ、摩擦クラッチ、などの類似した装置)は、右ねじプロペラが嵌められているか左ねじプロペラが嵌められているかによって決まるが、矢印「A」の方向へ移動して垂直な出力シャフト32を前進ベベルギヤ26に接続し、あるいは方向「B」へ移動して垂直な出力シャフト32を後退ベベルギヤ28に接続するように、またはその逆となるように作用する。垂直な出力シャフトの下部34はさらに、出力シャフト32の下部34の垂直軸の移動をプロペラまたは複数のプロペラ42の駆動のためのほぼ水平なシャフト40の回転へ変換する一対の噛み合いベベルギヤ36,38に作動可能に接続されている。上記構成は、現行の海洋用船尾駆動システムの典型的なものであり、一部の企業では「ブラボー」型駆動装置として広く知られている。本発明は、船舶のための2速度駆動装置を提供するだけでなく現行の海洋用変速装置システムに勝る他のいくつかの利点をも提供する変速装置システムと制御手段とに関するものである。
【0031】
図2は、第1変速装置18をいっそう詳しく示している。大部分の現行の船尾駆動装置のように、より低速のベベルギヤ36に直接連結される代わりに、垂直な出力シャフト32(変速装置18のための入力シャフトである)が、第1摩擦クラッチ44を介して同軸の下部出力シャフト46に接続されている。第1クラッチ44が係合すると、下部出力シャフト46が垂直出力シャフト32と同じ速度で高速回転する。第2摩擦クラッチ48も設けられている。第2摩擦クラッチ48が係合すると、副シャフト56が、構成要素52,54を介して駆動され、次には、ギヤ57および58を介して下部出力シャフト46を駆動する。記載された例では、ギヤ噛み合いは、より高速のギヤ噛み合い、すなわち第2クラッチが係合するときの下部シャフト46のより速い高速回転を提供するように選択されたが、しかしながら、このことはすべての例の場合に必ずしも必要ではなく、ギヤは増速駆動装置あるいは減速駆動装置として使用することができる。前進および後退はさらに、ベベルギヤの噛み合いと出力シャフト32の頭部でのドッグクラッチ30(あるいは類似装置)とによって選択され、このシステムは前進方向および後退方向の両方において2速度を提供することができる。
【0032】
図3に図示された制御システムは、この複クラッチ(デュアル・クラッチ)44,48を制御するために提供されている。この制御システムには、クラッチの位置/圧力に関するECUに情報を提供するセンサーを含むさまざまなセンサーにつながれた電子制御ユニット(ECU)60が含まれている。このシステムには、変速装置18の入力シャフト32および変速装置18の出力シャフト34の速度をそれぞれ測定するセンサー62および64、ギヤの位置についての情報を提供するセンサー66、エンジンのスロットル位置についての情報を提供するセンサー68、およびこのシステムの油圧流体の温度に関する情報を提供するセンサー70もまた含まれている。代わりに、この情報のいくつかは、共通の槽/エンジンBUSあるいはCAN100から収集することができる。
【0033】
この制御システムは、電子油圧ソレノイド82へ送られた電気信号を介するピストン圧力の制御を通して出力速度を制御する。このシステムは、このシステムがボタン、レバー、無線操縦装置などのような任意の適切な入力手段から、ドック入れ、トローリング、進水のエネルギーのようなもので作動するさまざまなモードについての電子的要求を受けることもできる。
【0034】
図3は、制御バルブを収容するバルブ本体80と、以下でさらに詳しく説明されるように制御されたクラッチ滑りを活動的にする(2つ以上を使用してもよい)電子油圧ソレノイド82もまた示している。ソレノイド82の圧力はECUにも送り込むことができる。図3は、このシステムの油圧制御における油圧を維持するために使用される油圧ポンプ84もまた図示している。
【0035】
この制御システムは、船のギヤが入れられるかあるいはギヤが外される際の「鈍い音の発生」の問題を回避するために、クラッチの滑りを可能にするために構成されている。ドッグクラッチ(あるいは類似した装置)30は、出力シャフト34を係合解除させた状態で、シャフト22を前進ベベルギヤ26かあるいは後退ベベルギヤ28かのいずれかに係合させる。この制御システムは、入力シャフト32から出力シャフト34へ動力を滑らかに伝達するために、電子油圧ソレノイドを使用してクラッチを徐々に適用するように構成されている。
【0036】
このクラッチ滑りのシステムは、2〜3ノット程度の極めて低い速度が望ましいドック入れ機能のためにも使用することができ、クラッチ滑りは、出力シャフト34の過剰な回転速度を消散させて、スロットル速度を維持しながら船のいっそうゆっくりした移動を可能にする。加えて、滑り速度の制御によって、クラッチが任意の速度あるいはトルクで滑ることが可能になり、高エネルギー進水が達成されるとともに、船舶のプロペラが海底、枝、岩などのような障害物に接触したときに船舶の動力伝達系統の保護もなされる。
【0037】
トルク遮断の問題は、船が移動するときに、制御された滑りを利用した第2クラッチの係合と同時に、制御された滑りを利用して第1クラッチが係合解除するように、またその逆になるように、変速装置を操作することで、克服することができる。
【0038】
図4および図5は、図2および図3の変速装置の変形例18aを図示している。両方の例に共通である構成要素には同じ参照符号が付けられている。変速装置18aには、副シャフト56と入力シャフト32との間にワンウェイクラッチ100が設けられている。これによって、どのギヤが選択されるかによって左右されるがワンウェイクラッチ100がつかむかあるいは解放するかのいずれかであるので、クラッチ切換に時間を要することなく滑らかなギヤシフトの利点がもたらされる。これの欠点は、後退ギヤが低速ギヤにおいてだけ操作することができることである。この例では、制御システムは共通の槽/エンジンBUSあるいはCAN110に接続されている。
【0039】
図6は、図1に示されたブラボー「型」駆動装置の代わりに、「アルファ」型駆動装置とともに使用するシステムを図示している。この場合において、出力シャフト22はベベルギヤ24および28を介してシャフト32へ直接接続されており、また、この駆動装置の下端には、ドッグクラッチ120あるいは類似物を介して選択されたプロペラ42に隣接して前進および後退ベベルギヤが設けられている。
【0040】
上で説明されたシステムには2つの湿式クラッチが組み入れられているが、乾式クラッチもまた湿式クラッチに取って代わることができる、ということは認識されるであろう。
【0041】
図7は、海洋用変速装置のさらに別の例であり、この場合は単一摩擦クラッチ自動手動型変速装置100を示している。先に説明した変速装置の場合と同じように、この変速装置もまた、船内/船外海洋用駆動装置の一部として示されている。
【0042】
図示されていない船舶の出力シャフトは、ほぼ水平な軸の周りに回転するとともに、ベアリング103に取り付けられた変速装置の入力シャフト102と同軸であってこれを駆動させる。この海洋用変速装置の出力シャフト104は、ベアリング105に支持されており、また、入力シャフト102に対して平行であって入力シャフト102から間隔を置いて配置されている。
【0043】
出力シャフト104の出力端部104aに画成されたベベルギヤ106は、前進および後退ベベルギヤ108,110にそれぞれ噛み合っており、また、ドッグクラッチ112(あるいは類似した装置)は、右ねじプロペラが嵌められているか左ねじプロペラが嵌められているかによって決まるが、垂直方向へ移動して垂直な出力シャフト114を後退ベベルギヤ110かあるいは前進ベベルギヤ108かのいずれかに接続するように、またはその逆となるように作用する。
【0044】
この海洋用船舶のプロペラの、前進あるいは後退の方向の選択は、この海洋用変速装置の出力の後にドッグクラッチ112によって実行され、それゆえ、海洋用変速装置の入力シャフトおよび出力シャフトは、常に同じ向きに回転し、また、変速装置101は、入力シャフトあるいは出力シャフトを2つ以上の方向に回転させるように対処することを要求されない。
【0045】
当分野において標準であるように、垂直な出力シャフト114の下部(図示略)が、垂直な出力シャフト114の垂直軸の移動をプロペラ駆動用水平シャフトのほぼ水平軸の移動に変換するさらに別の一対の噛み合いベベルギヤに作動可能に接続されている。
【0046】
第1ギヤのためのギヤホイール120が出力シャフト114に取り付けられ、これは次には、入力シャフト102に取り付けられたワンウェイクラッチを組み入れるギヤホイール122に噛み合っている。第2ギヤおよび関連クラッチ126のためのギヤホイール124が、第1ギヤに隣接する出力シャフト104に、かつ、第1ギヤ120の、出力シャフトの出力端部104aとは反対側に取り付けられている。第2ギヤ124は、ワンウェイクラッチを組み込んだギヤホイール122に隣接する入力シャフト102に取り付けられたギヤホイール128に噛み合っている。
【0047】
クラッチ126が係合しないときには、それは海洋用船舶がクラッチ126の故障の場合に第1ギヤで進むことができるような初期設定状態であるが、入力シャフト102は、ドック入れおよび低速操作のために使用される第1ギヤ120を介して出力シャフトを駆動する。ギヤが回転すると、第1クラッチパックを横切って滑りが生じる。クラッチ126の主要部は出力シャフトとともに回転する。
【0048】
クラッチ126が係合すると、第2ギヤ124が係合し、かつ、クラッチ126と第2ギヤ124とが出力シャフト104とともに回る。第1ギヤ120は、第2ギヤ124と同じ速度、同じ角速度で回転させられ、また、ワンウェイクラッチ122はオーバーランする。
【0049】
現行の海洋用変速装置とは対照的に、ギヤ比を2つのギヤホイールであるいは第1比および第2比の両方が変更される(第2ギヤ比が通常は1:1であっても)ときには4つのギヤホイールで単に置き換えることによって変更することは比較的簡単な事柄である、ということは認識される。
【0050】
さらに別の利点は、この駆動装置が、2つの相異なるギヤを提供するためにはただ1つの摩擦クラッチだけを使用し、また、それゆえ、いっそうコンパクトであるということである。
【0051】
この変速装置には、電子制御部130、油圧ポンプ132および先に説明された例に関して説明されたものと同じ型のセンサーを含む制御システムが組み入れられている。
【0052】
図8には、図7に示されているものに類似した構成が示されているが、ただし、この構成では、第1ギヤホイール120および第2ギヤホイール124の相対位置は入力シャフト102および出力シャフト104において逆になっており、また、クラッチ126は出力シャフト104の出力端部に隣接して位置決めされている。この構成には、全体の変速装置が上部でいっそう短くされており、図11を参照して以下でいっそう詳しく検討するように、変速装置がスイミングプラットフォームを取り除くことができるということを保証するのに役立つという利点がある。図8では、および、続いて記載される変速装置システムでは、図7の変速装置システムと共通である構成要素には同じ参照符号が付けられている。
【0053】
図9および図10は、2つの摩擦クラッチが組み入れられている海洋用2速度変速装置を示している。図9に示されたように、入力シャフト150はこれもまた、出力シャフト152に対して平行にかつ出力シャフト152から間隔を置いて配置され、出力シャフトの出力端部152aはこれもまた、図7および図8の構成について説明されたものに類似した構成で、垂直な軸を介して船のプロペラを駆動するためのベベルギヤおよびドッグクラッチ構成に接続されている。
【0054】
入力シャフト150は、第1ギヤ154および第2ギヤ156を介して出力シャフト152に接続されている。第1ギヤ154は、ワンウェイクラッチを含むギヤホイール158に噛み合っている。第2ギヤ156は、ギヤホイール160に噛み合っている。摩擦クラッチ162および164が、第2ギヤおよび第1ギヤにそれぞれ係合するために設けられている。
【0055】
第2ギヤがクラッチ162を使用することで係合されると、ワンウェイクラッチがオーバーランし、ギヤホイール158は入力シャフト150に対して単に回転する。第2ギヤでは、第1ギヤ154とこの第1ギヤに関連したクラッチ164とは、第2ギヤ152よりも低速で回転する。
【0056】
この構成によれば、摩擦クラッチを制御するために電子空気圧ソレノイドあるいは電子油圧ソレノイドを使用することで、図1〜図6に示された例に関連して上で説明されたような現行の海洋用駆動装置に勝るいくつかの利点が提供される。この構成は、前進および後退の選択が出力シャフトの端部152aの後で行われるため、逆回転感知性のものではない。
【0057】
代わりの構成が図10に示されている。この型のものでは、2つのクラッチパック162,164が、ギヤと出力シャフト152の出力部との間において、ギヤの反対側に位置決めされている。図10の構成と比べると、図9は最上部でいっそう短いものである。この構成によれば、全体の変速装置が最上部でいっそう短くなる。船尾駆動装置が使用されないときには、それは水の外へ上げられるが、その駆動装置がきれいにしなければならないスイミングプラットフォームが存在する。この設計は、最上部の軸でいっそう短くて、スイミングプラットフォームをきれいにするための多くの部屋が可能になる。図11へ移ると、変速およびプロペラアセンブリー200は、このアセンブリーを矢印Aで表したように時計回り方向へ回転させることによって、水の外へ引き上げることができる。アセンブリー200の最上部202はこの船の後部へ向かって移動し、後部204はスイミングプラットフォーム206へ向かって移動する。この変速装置が短ければ短いほど、それがスイミングプラットフォームにぶつかるおそれはより少ない。
【0058】
また、図10において、ワンウェイクラッチは、入力シャフトにおける噛み合い用ギヤホイール158にではなく出力シャフト152における第1ギヤ154に設けられている。この構成では、出力シャフト152は第2ギヤ比でより速く回転し、その後に、ワンウェイクラッチが第1ギヤ比の異なる速度でオーバーランする。
【0059】
さらに、このシステムは、船内/船外海洋用推進システムの船尾駆動ユニットに組み入れられて説明されているが、このシステムはエンジンおよび変速装置システムがそのコンパクトな寸法と軽い重量とに起因して船尾梁の後方にすべて位置決めされている船外機付きボートシステムに組み入れることもできる、ということは認識される。このシステムは、エンジンとプロペラとの間におけるシャフト駆動、v駆動、ジェット駆動および表面駆動の海洋用推進システムの変形例にもまた使用することができる。
【0060】
この変速装置は、フォークリフトまたは工業用変速装置のような、寸法、コストおよび重量が課題である非海洋用途に使用することもできる。
【0061】
広く説明されたように本発明の精神あるいは範囲から逸脱することなく特定の例に関して多数の変更および/または修正を本発明に行うことができるということは、当業者に明らかである。これらの例はそれゆえ、すべての点で例示的なものであって限定的なものではないとみなされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋用船舶のための2速度変速装置システムであって、
入力シャフトと、
前記入力シャフトと同軸の出力シャフトと、
第1ギヤ比で前記入力シャフトから前記出力シャフトに駆動力を伝達する第1ギヤトレインと、
第2ギヤ比で前記入力シャフトから前記出力シャフトに駆動力を伝達する第2ギヤトレインと、
前記第1ギヤトレインを係合・係合解除するよう作動可能な第1摩擦クラッチと、
前記第2ギヤトレインを係合・係合解除するよう作動可能な第2摩擦クラッチと
を備え、
前記入力シャフトが、前記第1摩擦クラッチおよび前記第2摩擦クラッチの係合解除により前記出力シャフトとの駆動相互接続から分離され、
前記第1ギヤ比と前記第2ギヤ比との間のシフト時に、前記第1摩擦クラッチおよび前記第2摩擦クラッチの一方が、制御された滑りを用いることで係合解除され、前記第1摩擦クラッチおよび前記第2摩擦クラッチの他方が、制御された滑りを用いることで係合されるようになっている、2速度変速装置システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−162256(P2012−162256A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−34469(P2012−34469)
【出願日】平成24年2月20日(2012.2.20)
【分割の表示】特願2006−520631(P2006−520631)の分割
【原出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(511265774)エヌティー コンサルティング インターナショナル ピーティーワイ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】