説明

試料作製方法

【課題】 既存技術よりはるかに安価に、かつ簡便に平面観察を行ってから観察後に断面を加工することができる試料作製方法を提供する。
【解決手段】 集束イオンビーム装置のチャンバ内で試料1をブロック状に切り出し、その試料ブロック(バルク)4を真空外に取り出して、マニピュレータの先端にセットしたガラスプローブ5に接触させて支持する。次に、バルク4を試料台である円筒状のピン6の先端にエポキシ樹脂で固定する。次に、平面観察用の薄膜試料をFIB加工により作製する。次に、内部の欠陥位置を2次元的にTEM/STEMで観察し同定する。その後、ピン6を手動で90°回転させてから、欠陥部位を含む位置を断面加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)を用いて、分析や観察に好適な形状の試料を作成するための試料作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透過型電子顕微鏡用の試料の作製方法の一つに、集束イオンビーム(FIB)を用いた方法がある。集束イオンビーム装置により、走査イオン顕微鏡像を観察しながら目的部位を精確にGaイオンビームにより矩形のミリング加工をする方法である。この集束イオンビーム装置を用いた試料作製においては、試料素材の目的部分に対して試料素材上面側(試料素材加工面側)からイオンビームが照射されて、目的部分が薄膜試料として切り出される。
【0003】
ところで、半導体デバイスは微細化、複雑化が進み不良解析も難しくなっている。電気特性から不良部位のセルは特定できてもセル内の詳細な位置がわからず、TEM観察用に直接集束イオンビーム加工し、試料作製することができない場合も多々ある。
【0004】
このような場合、半導体デバイスを集束イオンビーム装置に装着しイオンビームにより一度平面観察用に試料作成後、TEM等で観察を行い、不良箇所の位置を2次元的に決定し、その後、再度FIBに戻し、イオンビームにより同じ試料の薄膜部分を不良箇所を含む断面観察用に薄膜作製し、TEM等で観察を行う。
【0005】
図6は、同一場所の平面観察後に断面観察する工程を示す図である。レーザーマーカーでマーキングされた部分をイオンビームによりブロック状に加工後、マニピュレータを用いメッシュ等に固定し通常よりも厚め(約1μm程度)に薄膜加工する。
【0006】
欠陥部位が特定できたら、イオンビームにより薄膜を切り離し、マニピュレータで90°回転させ再度メッシュ等に固定する。その後、平面観察時に特定した欠陥部位を含むように断面観察用に薄膜加工を行う。
【0007】
このような従来技術を用いると一旦平面観察用に固定された試料を薄膜加工後にイオンビームにより切り離し、マニピュレータを用いて90度回転させ固定しなおした後、再度イオンビーム加工により断面方向観察用に薄膜化するという複雑な工程を必要とした。
【0008】
また、下記特許文献1には、試料を薄膜にして、TEMで観察した後、目的領域を切り取り、その部分(薄膜)を試料台に固定し、断面加工を行うといういう技術が開示されている。詳細には、薄膜試料をTEM又はSTEMによって平面TEM観察し、この薄片試料から所望の注目部を含む微小薄片試料を取り出し、この微小薄片試料を試料ホルダに固着させ、注目部を含み微小薄片試料面に対して略垂直で、電子が透過しうる薄さの断面薄片試料に集束イオンビームによって加工するという技術である。
【特許文献1】特開2000−146781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、既存技術よりはるかに安価に、かつ簡便に平面観察を行ってから観察後に断面を加工することができる試料作製方法の提供を目的とする。また、目的部位の位置決めを容易とする試料作製方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る試料作製方法は、前記課題を解決するために、第1のステップが試料素材にイオンビームを照射して試料ブロックを切り出し、第2のステップが第1のステップにて切り出された試料ブロックをピックアップし、第3のステップが第2のステップによりピックアップされた試料ブロックを試料台に取り付け、第4のステップが第3のステップにより試料台に取り付けられた試料ブロックにイオンビームを照射して平面観察用の薄膜試料を切り出し、第5のステップが第4のステップにより切り出された前記薄膜試料を平面観察して欠陥位置を同定し、第6のステップが第5のステップにより同定された欠陥位置を断面加工するために前記試料台を90°手動回転し、第7のステップが第6のステップで90°回転した前記試料台上の前記薄膜試料の前記欠陥部位を含む位置を断面加工する。
【0011】
また、第2のステップは、第1のステップで切り出した試料ブロックをマニピュレータの先端にセットしたプローブに接触させて支持し、プローブを持ち上げてピックアップし、さらにピックアップしたプローブを回転させるのが好ましい。また、第3のステップは、第2のピックアップによりピックアップされた前記試料ブロックを試料台として用いるピンに固定するのが好ましい。また、第3のステップは、前記試料ブロックを固定したピンをチップオンカートリッジに板バネを用いて取り付けるのが好ましい。
【0012】
また、第5のステップは、第4のステップにより切り出された薄膜試料の欠陥位置を2次元的にTEM/STEMで観察して同定するのが好ましい。また、第5のステップは、前記第4のステップにより切り出された薄膜試料の欠陥位置を観察したときに、欠陥位置部分にマーキング加工を施しておくのが好ましい。また、第5のステップは、前記マーキング加工におけるマーキングの幅や間隔を左右非対称に配置するのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、手動の試料回転機構を採用することにより既存技術(マイクロサンプリング/360°回転ホルダ)よりはるかに安価に実現できる。バルクピックアップ法を用いることにより既存技術(マイクロサンプリング)よりはるかに簡便に平面観察が可能となる。また、非対称に配置するマーキング方法により目的部位の位置決めが容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。この実施の形態は、集束イオンビーム(FIB)装置にて実行される。
【0015】
先ず、実施例1について説明する。集束イオンビーム装置は、イオン源からのイオンビームを細く集束し、その細く集束したイオンビームを試料上で2次元的に走査する機能を有している。また、集束イオンビーム装置は、前記イオンビーム走査によって試料から発生した2次イオン検出器を備え、そのイオン検出器の出力に基づいてイオンビーム走査領域の試料像(SIM像)をCRT画面上に表示させる機能を有している。
【0016】
さらに、この集束イオンビーム装置では、そのSIM像上において加工領域をマウスなどで任意に指定できるように構成されている。
【0017】
以下、このような集束イオンビーム装置を用いた試料作製の手順について説明する。図1は、試料作製手順を示すフローチャートである。図2は、実際の作業手順を示す模式図である。
【0018】
先ず、図1のステップS1に示すように集束イオンビーム装置のチャンバ内で試料をブロック状に切り出す。図2の(A)に示すとおり、試料素材(Specimen)1にイオンビーム2をクロス矢印方向に走査することにより試料1内の目的とする部分の周囲を掘り出し、角柱4を作製する。さらに、集束イオンビーム装置のステージを60°傾斜し、角柱の底辺にイオンビーム加工によってスリット状に切り込みを入れ(ボトムカット)、角柱をブロック状に切り出す。
【0019】
次に、ステップS2にて試料ブロック(バルク)4を真空外に取り出して、図2の(B)に示すようにマニピュレータの先端にセットしたガラスプローブ5に接触させて支持する。その後、油圧ハンドルを操作し、プローブ5を矢印U方向に持ち上げてピックアップし、さらに後述のピン6に安定な位置で固定するためにピックアップしたガラスプローブ5を矢印T方向に回転させる。
【0020】
次に、ステップS3にて前記バルク4を図2の(C)に示す試料台である円筒状のピン6の先端にエポキシ樹脂で固定する。図2の(D)は固定された状態を示す。この円筒状のピン6は図3に示すチップオンカートリッジ7に装着し、手動により回転させることができる。チップオンカートリッジ7は、メッシュ装着部分にピンを取り付けられる構造とした。これによってFIB/TEMの往復が簡便となり、加工/観察の繰り返しが容易にできる。なお、ピン6は、後述するように、円柱形のピン6−1でも、載置部が角柱で残りが円柱のピン6−2でも、全体が角柱6−3でもよい。各ピン6−1,6−2,6−3をチップオンカートリッジに形成した穴8に差し込んで取り付ける。また、板バネにて取り付けるようにしてもよい。
【0021】
次に、ステップS4にて平面観察用の薄膜試料をFIB加工により作製する。図2の(E)に示すようにイオンビーム2により薄膜を切り出す。
【0022】
次に、ステップS5にて前記ステップS4にて切り出された薄膜試料の欠陥位置を2次元的にTEM/STEMで観察し(図2の(E))同定する。
【0023】
その後、ステップS6にてピン6を手動で90°回転させて図2の(F)の状態としてから、ステップS7にて欠陥部位を含む位置を断面加工する。つまり、目的の領域の断面観察用薄膜をFIBを用いて作製する。この後、欠陥部分をTEMで断面観察する。
【0024】
ステップS6及び図2の(E),(F)を用いて説明したように、ピン6はチップオンカートリッジ7に装着し、手動により回転させることによって、手動で90°回転できる。このため一度固定した試料を切り離すことなく回転できる。
【0025】
以上に説明したように、本願発明の試料作製方法によれば、手動の試料回転機構を採用することにより既存技術(マイクロサンプリング/360°回転ホルダ)よりはるかに安価に試料を作成できる。また、バルクピックアップ法を用いることにより既存技術(マイクロサンプリング)よりはるかに簡便に平面観察が可能となる。
【0026】
次に、実施例2について説明する。この実施例2も図1に示したフローチャート及び図2に示した模式図にて処理手順を説明できる。ただし、この実施例2は、ステップS5における平面観察処理に特徴がある。
【0027】
図4及び図5は、平面観察処理におけるマーキング加工について説明するための図である。平面観察時に欠陥など断面観察を目的とする場所の2次元的位置を特定し、次の断面加工を行う場合、あらかじめデポジション部分にいくつかのマーキング加工されていると便利である。しかし、TEMやSEM像は透過像を観察しており、マーキングの幅や間隔が図4に示すように左右対称であると位置の特定が不可能である。
【0028】
そこで、この実施例2における試料作製方法では、図5に示すように、マーキングの幅や間隔を左右非対称に配置する。紙面に向かって左側に見える平面画像Aと平面画像Bでは、明らかにマーキング位置が異なる。これは、上面からみたSIM画像上が平面画像Bのものであり、平面画像Aのものではないのが、切り欠き部からマーキングまでの距離bによって区別されることからも分かる。このようにすれば表面より電子線を照射したTEM像でも、裏面より電子線を照射したTEM像であっても位置の特定が可能となる。
【0029】
なお、実施例1、実施例2にあって用いたピンの形状を全体、あるいは先端部分のみ角柱にしてもよい。ピンの形状を全体、あるいは先端部分のみ角柱にすると、前記図1におけるステップS6にてピンを手動で90°回転するときに、正確に90°回転させることが可能となる。また、回転操作自体も容易となる。さらに、ピンの周囲に等間隔のメモリを刻印し、回転角度が容易に分かるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1における試料作製手順を示すフローチャートである。
【図2】実施例1における実際の作業手順を示す模式図である。
【図3】チップオンカートリッジの外観図である。
【図4】平面観察処理におけるマーキング加工について説明するための図である
【図5】マーキングの幅や間隔を左右非対称に配置した図である。
【図6】同一場所の平面観察後に断面観察する工程を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 試料
2 イオンビーム
4 試料ブロック(バルク)
5 ガラスプローブ
6 ピン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料素材にイオンビームを照射して試料ブロックを切り出すステップと、
前記切り出された試料ブロックをピックアップするステップと、
前記ピックアップされた試料ブロックを試料台に取り付けるステップと、
前記試料台に取り付けられた試料ブロックにイオンビームを照射して平面観察用の薄膜試料を切り出すステップと、
前記切り出された前記薄膜試料を平面観察して欠陥位置を同定するステップと、
前記同定された欠陥位置を断面加工するために前記試料台を90°回転するステップと、
前記90°回転した前記試料台上の前記薄膜試料の前記欠陥部位を含む位置を断面加工するステップと
を備えることを特徴とする試料作製方法。
【請求項2】
前記試料ブロックをピックアップするステップは、前記試料ブロックを切り出すステップで切り出した試料ブロックをマニピュレータの先端にセットしたプローブに接触させて支持し、プローブを持ち上げてピックアップし、さらにピックアップしたプローブを回転させることを特徴とする請求項1記載の試料作製方法。
【請求項3】
前記薄膜試料を切り出すステップは、前記試料ブロックをピックアップするステップでピックアップされた前記試料ブロックを試料台として用いるピンに固定することを特徴とする請求項1記載の試料作製方法。
【請求項4】
前記薄膜試料を切り出すステップは、前記試料ブロックを固定したピンをチップオンカートリッジに板バネを用いて取り付けることを特徴とする請求項3記載の試料作製方法。
【請求項5】
前記欠陥位置を同定するステップは、前記薄膜試料を切り出すステップにより切り出された薄膜試料の欠陥位置を2次元的にTEM/STEMで観察して同定することを特徴とする請求項1記載の試料作製方法。
【請求項6】
前記欠陥位置を同定するステップは、前記薄膜試料を切り出すステップにより切り出された薄膜試料の欠陥位置を観察したときに、欠陥位置部分にマーキング加工を施しておくことを特徴とする請求項1記載の試料作製方法。
【請求項7】
前記欠陥位置を同定するステップは、前記マーキング加工におけるマーキングの幅や間隔を左右非対称に配置することを特徴とする請求項6記載の試料作製方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−14899(P2008−14899A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−189128(P2006−189128)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】