説明

誘導加熱式乾留炉

【課題】被乾留物より発生した可燃性ガスを爆発燃焼させることなく乾留処理を連続的に行い、1バッチにかかる時間を短縮して処理能力を向上させる。
【解決手段】不活性ガス雰囲気の炉本体1内で被乾留物7を収容した乾留槽2を誘導加熱して被乾留物7を乾留処理し、処理後の被乾留物を炉本体1の下部から排出する誘導加熱式乾留炉において、炉本体1の下部に密閉構造の排出室12を接続するとともに、排出室12を不活性ガス置換する手段を設け、排出室12を窒素置換した後、底蓋6を開いて乾留処理が終了した被乾留物7を排出室12の排出トレイ10に排出するようにする。被乾留物7の排出時に炉内に外気が侵入しないので、次の被乾留物7の投入のために炉内を不活性ガス置換する必要がなく、また排出室12は低酸素濃度なので、排出された被乾留物7が酸化されることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、塗料、樹脂などの高分子化合物を含む廃棄物、特に使用済み飲料缶などの金属系廃棄物を誘導加熱により乾留処理するバッチ処理方式の誘導加熱式乾留炉に関する。
【背景技術】
【0002】
バッチ処理方式の誘導加熱式乾留炉については、例えば特許文献1や特許文献2に記載されているが、図4にこの種の乾留炉の従来構成を改めて示す。図2において、不活性ガス雰囲気を形成する閉塞された円筒状の炉本体1内に、磁性材(鉄)からなる円筒状の乾留槽2が設置され、炉本体1の外側に加熱コイル3が配置されている。加熱コイル3は励磁電源4により励磁され、乾留槽2を誘導加熱する。耐熱断熱材からなる炉本体1は上蓋5及び底蓋6を備え、上蓋5には乾留槽2に被乾留物7を投入するための投入ホッパ8がシュータ9を介して接続され、底蓋6の下方には乾留槽2から排出された被乾留物7を受け入れる排出トレイ10が設置されている。炉内は図示しない不活性ガスタンクから導入される不活性ガス(窒素)で置換されることにより酸素が遮断され、炉内で生じた乾留ガスは図示しない排ガス処理設備に排出されるようになっている。
【0003】
図4の乾留炉を運転するには、図示しないコンベアで投入ホッパ8に被乾留物7をいったん貯留し、炉本体1及び投入ホッパ8を不活性ガス置換する。炉本体1及び投入ホッパ8の内部の酸素濃度が所定値、例えば3%以下に到達したら、投入ホッパ8から被乾留物7を乾留槽2内に投入する。投入された被乾留物7は底蓋6の上面に取り付けられた炉底板11で支持される。次いで、加熱コイル3に通電して乾留槽2を誘導加熱する。被乾留物7は乾留槽2からの輻射や熱伝導よって加熱され、所定の温度まで到達した後、その温度で一定時間保持されることで乾留処理される。被乾留物7の加熱により高分子化合物(例えば飲料缶の塗料)が熱分解され、可燃性の乾留ガスが発生するが、この乾留ガスは排ガス処理設備に送られて処理される。
【0004】
乾留処理後の被乾留物7は底蓋6を開いて排出トレイ10に排出し、所定温度まで冷却した後、取り出して次工程へと送る。一方、炉本体1は底蓋6を閉め、次の乾留処理のために内部を不活性ガス置換する。炉本体1内の不活性ガス置換が完了したら、予め被乾留物7を貯留し、不活性ガス置換した投入ホッパ8から乾留槽2内に被乾留物7を投入し、次の乾留処理を開始する。
【特許文献1】特開平10−43714号公報
【特許文献2】特開2000−239009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したような従来の乾留炉は、以下の問題が挙げられる。
(1) 乾留処理後の被乾留物を排出するために底蓋を開くと外気が炉内に侵入し、炉内の酸素濃度が上昇する。ところが、連続処理において、一度乾留処理を終えた乾留槽は高温になっているため、そのままで再び被乾留物を炉内に投入すると、乾留槽からの熱を受けて被乾留物の温度が上昇し、含まれる高分子化合物が分解して燃焼や爆発を引き起こす危険性がある。そこで、被乾留物を投入する前に炉内の酸素濃度が所定値に低下するまで不活性ガス置換しているが、これに要する時間によって連続処理の効率が低下している。
(2) 乾留処理が終了した被乾留物は、炉外の排出トレイに取り出す際、高温のまま外気に触れてしまうため、飲料缶などの金属系の被乾留物は金属が酸化し、後工程での金属の回収率及び純度が低下する。なお、引用文献2に記載された発明においては、加熱分解炉内で乾留処理した後の被乾留物(炭素素材)を閉鎖密閉構造の冷却部に搬入して冷却しているが、加熱分解炉からの搬出時に被乾留物が高温のまま外気に触れてしまう点では変わりはない。
【0006】
この発明は、上記問題を解決するためになされたもので、被乾留物を炉外に取り出す際の炉内への外気の侵入を防止し、連続処理時における炉内の不活性ガス置換を不要として、1バッチにかかる処理時間の短縮を図るとともに、乾留処理した後の被乾留物の酸化を防止し、金属系被乾留物の金属の回収率及び純度の向上を図ることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は、不活性ガス雰囲気を形成する炉本体内に被乾留物を収容する乾留槽が設置され、前記炉本体の外側に設置された加熱コイルで前記乾留槽を誘導加熱することにより、この乾留槽内の前記被乾留物を乾留処理するとともに、乾留処理後の前記被乾留物を前記炉本体の下部から排出する誘導加熱式乾留炉において、前記炉本体の下部に密閉構造の排出室を接続するとともに、この排出室内を不活性ガスで置換する手段を設け、前記排出室を不活性ガス雰囲気にした後、この排出室に乾留処理後の前記被乾留物を排出するようにするものである(請求項1)。
【0008】
請求項1の発明によれば、排出室を不活性ガス雰囲気にした後、底蓋を開いて被乾留物を排出するため、炉内に外気が侵入することがない。また、乾留処理後の被乾留物は不活性ガス雰囲気の排出室に排出されるため、外気に触れて酸化されることもない。
【0009】
請求項1の発明において、不活性ガス置換時に前記排出室から排出されるガスは、前記炉本体から排出されるガスを処理する排ガス処理設備に送るようにするとよい(請求項2)。不活性ガス置換により排出室から排出されるガスは空気と不活性ガスが主体であるため、大気に放出することも可能であるが、炉本体の排ガス処理設備に送るようにすれば環境への影響がより小さくなる。
【0010】
また、請求項1の発明において、排出された前記被乾留物に冷却水を噴霧する手段を設けるのがよい(請求項3)。冷却水を噴霧することにより、少量の冷却水で短時間に被乾留物を冷却することができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、炉本体の下部に密閉構造の排出室を接続し、不活性ガス置換した排出室に乾留処理後の被乾留物を排出することにより、乾留槽から被乾留物を排出する際に炉内の酸素濃度が上昇することがなくなり、炉内を不活性ガス置換することなく直ちに次処理の被乾留物を投入できるので、連続処理の効率が向上する。
【0012】
また、排出室内は低酸素濃度になっているので、高温で排出された被乾留物が燃焼する危険がなく、特に飲料缶など金属を含む被乾留物の酸化がなくなる結果、後工程で回収する金属の回収効率及び品質が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1〜図3はこの発明の実施の形態を示し、図1は乾留炉の縦断面図、図2は図1の乾留炉の底蓋が開いた状態の縦断面図、図3は不活性ガス置換手段及び排ガス処理手段を示す処理系統図である。なお、従来例と対応する部分には同一の符号を用いるものとする。図1において、図4の従来構成との相違は、炉本体1の下部から被乾留物7を排出する際、外気が炉本体1内に侵入しないように、炉本体1の下部に密閉構造の排出室12が気密に接続され、排出トレイ10は排出室12内に設置されている点である。排出室12は鋼板により炉本体と同心の円筒状に構成され、レンガ材で補強されている。排出室12の一部には底蓋6を開くための膨出部12aが形成され(図2参照)、側面には排出トレイ10を引き出すための扉13が設けられている。また、排出室12の側壁には、被乾留物7に冷却水を噴霧するためのスプレーノズル14が取り付けられている。
【0014】
一方、図3に示すように、投入ホッパ8、炉本体1及び排出室12には不活性ガスタンク15から不活性ガス(窒素ガス)が開閉バルブ16〜18を介してそれぞれ供給され、また投入ホッパ8、炉本体1及び排出室12内のガスは開閉バルブ19〜21を介して排ガス処理設備22に排出されるようになっている。投入ホッパ8、炉本体1及び排出室12には、内部の酸素濃度を検出する酸素濃度計23がそれぞれ設置されている。その他の構成は、図4の従来構成と実質的に同じである。
【0015】
図1及び図3において、被乾留物7として使用済み飲料缶を乾留処理する工程は次の通りである。図示しないコンベアから投入ホッパ8に所定量の被乾留物7を貯留したら、図示しない上蓋を閉めて投入ホッパ8を密閉状態とする。次に、開閉バルブ16を制御して窒素ガスを投入ホッパ8内へ供給する。窒素供給中は酸素濃度計23により投入ホッパ内の酸素濃度を管理し、酸素濃度が所定濃度の例えば3%以下(炉内のガス成分を基に算出した燃焼限界上限値における酸素濃度の4倍希釈値を満足する値)になるまで窒素置換を行う。また、投入ホッパ8から排出されるガス(投入ホッパ内の空気及び窒素)は開閉バルブ19を制御して排出ガス処理設備22に排出する。このとき、炉本体1内も開閉バルブ17,20を制御して同様に窒素置換する。
【0016】
炉本体1内の酸素濃度が3%以下になった時点で、投入ホッパ8の図示しない底蓋を開き、被乾留物7を乾留槽2に投入する。次いで、乾留槽2を加熱コイル3によって誘導加熱し、被乾留物7が所定の温度、例えば550℃まで到達した後、一定時間保持して乾留処理を行う。被乾留物7の乾留が終了するまでの間に、開閉バルブ18を制御して窒素ガスを排出室12に供給し、酸素濃度が3%以下になるまで窒素置換を行う。窒素供給中は酸素濃度計23により酸素濃度を管理する。排出されるガス(排出室12内の空気及び窒素)は、開閉バルブ21を制御して排ガス処理設備22に排出する。
【0017】
乾留が終了した被乾留物7は、図2に示すように底蓋6を開いて排出トレイ10へ排出する。底蓋6は、いったん下降させ、次いで横にスライドさせて開く。排出室12は窒素置換されているため、底蓋6を開いても炉本体1に空気が侵入して酸素濃度が上昇することはない。また、高温の被乾留物7を排出しても金属が酸化されることもない。排出された被乾留物7は、スプレーノズル14から冷却水を噴霧して100〜200℃程度まで冷却した後、扉13を開いて次工程に送る。噴霧した冷却水は瞬時に蒸発し、その蒸発熱により短時間で被乾留物7を冷却する。生じた水蒸気は、排ガス処理設備22に送られる。
【0018】
連続処理の場合、投入ホッパ8は乾留処理中に次のバッチを貯留して窒素置換しておき、炉本体1から乾留処理した被乾留物7を排出して底蓋6を閉めた段階で、投入ホッパ8から直ちに被乾留物7を炉内に投入する。炉内は酸素の侵入がないため、高温のままで被乾留物7を投入しても炉内で被乾留物7が燃焼したり乾留ガスが爆発したりする危険はない。従って、被乾留物7の投入のために炉内を冷却する必要がなく、連続処理工程の時間が短縮される。排出室12は、被乾留物7の取り出しの際に側面の扉13が開放されるため、外気が入り込んで内部の酸素濃度が上昇する。そこで、被乾留物7の排出後は排出室12内の窒素置換を開始し、次の被乾留物7が排出されるまでに窒素置換を完了させておく。以降、上記した工程の繰り返しにより、バッチ処理を連続して行う。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施の形態を示す乾留炉の縦断面図である。
【図2】図1の乾留炉の底蓋を開いた上体の縦断面図である。
【図3】図1の乾留炉の不活性ガス置換手段及び排ガス処理手段を示す処理系統図である。
【図4】従来例を示す乾留炉の縦断面図である。
【符号の説明】
【0020】
1 炉本体
2 乾留槽
3 加熱コイル
4 電源
5 上蓋
6 底蓋
7 被乾留物
8 投入ホッパ
10 排出トレイ
12 排出室
13 扉
14 スプレーノズル
15 不活性ガスタンク
23 酸素濃度計


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガス雰囲気を形成する炉本体内に被乾留物を収容する乾留槽が設置され、前記炉本体の外側に設置された加熱コイルで前記乾留槽を誘導加熱することにより、この乾留槽内の前記被乾留物を乾留処理するとともに、乾留処理後の前記被乾留物を前記炉本体の下部から排出する誘導加熱式乾留炉において、
前記炉本体の下部に密閉構造の排出室を接続するとともに、この排出室内を不活性ガスで置換する手段を設け、前記排出室を不活性ガス雰囲気にした後、この排出室に乾留処理後の前記被乾留物を排出するようにしたことを特徴とする誘導加熱式乾留炉。
【請求項2】
不活性ガス置換時に前記排出室から排出されるガスを前記炉本体から排出されるガスを処理する排ガス処理設備に送るようにしたことを特徴とする請求項1記載の誘導加熱式乾留炉。
【請求項3】
排出された前記被乾留物に冷却水を噴霧する手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の誘導加熱式乾留炉。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−220328(P2006−220328A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32437(P2005−32437)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】