説明

誘導電動機の制御装置及び制御方法

【課題】誘導電動機の回転速度を把握し、その回転速度よりトルク指令値を演算した後、そのトルク指令値で誘導電動機を制御することでトルクモータと同等の回転速度−トルク特性が得られるようにすることができる誘導電動機の制御装置又は制御方法を提供する
【解決手段】誘導電動機の制御装置10は、基本トルク指令値と誘導電動機106の検出速度又は速度推定部112からの推定速度とからトルク指令値を演算するトルク指令値演算部18と、トルク指令値に基づいて、トルク電流指令値を演算するトルク電流指令値演算部19とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導電動機の制御装置及び制御方法に関し、特に、トルク制御を行う誘導電動機の制御装置及び制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、誘導電動機の制御装置としては、誘導電動機に3相の駆動電流を供給するインバータ回路と、このインバータ回路に正弦波のPWM信号を供給するPWM回路とを備え、外部からの速度指令信号と磁束指令信号に基づいてPWM回路に制御信号を出力する誘導電動機の制御装置が種々提案されている。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
線材などドラムに巻かれている材料を一旦送り出して何らかの加工を施し、再び巻き取る従来の巻き取り装置は、図4で示す装置構成となる。図4で示す巻き取り装置200は、送り出し側ドラム201と送り出し側トルクモータ202と送り出し側ダンサーロール203と加工ブロック204と巻き取り側ダンサーロール205と巻き取り側ドラム206と巻き取り側トルクモータ207とトルクモータドライバ(モータコントローラ:送り出し側)208とトルクモータドライバ(モータコントローラ:巻き取り側)209とプログラマブルコントローラ(PLC)210を備えている。
【0004】
上記の巻き取り装置200では、材料の張力変動を吸収するため、図4で示したダンサーロール203,205を用いるが、電動機にトルクモータ202,207を使用して張力一定で巻き取ることで材料の張力変動を抑制している。トルクモータを用いた巻き取り制御装置として、特許文献2等に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−037300号公報
【特許文献2】特開平11−122982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
トルクモータは、図5に示すような回転速度−トルク特性を有しているため、トルクモータを駆動するためにモータ印加電圧を可変する必要があり、通常のインバータ(電動機の制御装置)によるV/f制御では駆動できず専用のモータコントローラが必要である。またトルクモータ自体が非常に高価なためシステムコストが高くなるという問題があった。そのため、トルクモータの代わりに汎用誘導電動機(以下、モータと称する)を用い、インバータで駆動されるモータによる巻き取り装置の要求があった。
【0007】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、モータの回転速度を把握し、その回転速度よりトルク指令値を演算した後、そのトルク指令値でモータを制御することでトルクモータと同等の回転速度−トルク特性が得られるようにすることができる誘導電動機の制御装置又は制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る誘導電動機の制御装置又は制御方法は、上記の目的を達成するため、次のように構成される。
第1の誘導電動機の制御装置(請求項1に対応)は、3相電圧指令値に基づいて、直流電力を3相交流電力に変換して誘導電動機に供給するインバータ部と、前記誘導電動機に流れる3相電流を2相電流に変換する3相/2相座標変換部と、前記2相電流をd軸成分の磁束電流及びq軸成分のトルク電流に変換する2相/dq座標変換部と、磁束電流指令値及び前記磁束電流から磁束電圧指令値を生成する磁束電流制御部と、トルク電流指令値及び前記トルク電流からトルク電圧指令値を生成するトルク電流制御部と、前記磁束電圧指令値及び前記トルク電圧指令値から2相電圧指令値に変換するdq/2相座標変換部と、前記2相電圧指令値から前記3相電圧指令値に変換する2相/3相座標変換部と、前記2相電流及び前記2相電圧指令値から前記誘導電動機の磁束を推定する磁束推定部と、磁束指令値及び前記磁束推定部からの推定磁束から前記磁束電流指令値を生成する磁束制御部と、前記磁束推定部からの推定磁束から前記誘導電動機の速度を推定する速度推定部と、前記磁束電流指令値及び前記トルク電流指令値から前記誘導電動機のすべり角周波数を演算するすべり演算部と、前記誘導電動機の検出速度又は前記速度推定部からの推定速度と前記すべり角周波数とから位相角を演算する位相角演算部と、基本トルク指令値と前記誘導電動機の検出速度又は前記速度推定部からの推定速度とからトルク指令値を演算するトルク指令値演算部と、前記トルク指令値に基づいて、前記トルク電流指令値を演算するトルク電流指令値演算部と、を備えることを特徴とする。
第2の誘導電動機の制御装置(請求項2に対応)は、上記の構成において、好ましくは前記トルク指令値演算部は、基本トルク指令値Tとトルク指令値Tとの関係が、回転速度Nの基準回転速度Nに対する大小関係で、N≧Nの場合は、T=Tとし、N<Nの場合は、T=T(N/N)となるように演算を行うことを特徴とする。
第3の誘導電動機の制御装置(請求項3に対応)は、上記の構成において、好ましくは前記トルク指令値演算部は、低減率rと基本トルク指令値Tとトルク指令値Tとの関係が、回転速度Nの基準回転速度Nに対する大小関係で、N≧Nの場合は、T=Tとし、N<Nの場合は、T=T(r・N/(N+N(r−1)))となるように演算を行うことを特徴とする。
第1の誘導電動機の制御方法(請求項4に対応)は、3相電圧指令値に基づいて、直流電力を3相交流電力に変換して誘導電動機に供給するステップと、前記誘導電動機に流れる3相電流を2相電流に変換する3相/2相座標変換ステップと、前記2相電流をd軸成分の磁束電流及びq軸成分のトルク電流に変換する2相/dq座標変換ステップと、磁束電流指令値及び前記磁束電流から磁束電圧指令値を生成する磁束電流制御ステップと、トルク電流指令値及び前記トルク電流からトルク電圧指令値を生成するトルク電流制御ステップと、前記磁束電圧指令値及び前記トルク電圧指令値から2相電圧指令値に変換するdq/2相座標変換ステップと、前記2相電圧指令値から前記3相電圧指令値に変換する2相/3相座標変換ステップと、前記2相電流及び前記2相電圧指令値から前記誘導電動機の磁束を推定する磁束推定ステップと、磁束指令値及び前記磁束推定ステップからの推定磁束から前記磁束電流指令値を生成する磁束制御ステップと、前記磁束推定ステップからの推定磁束から前記誘導電動機の速度を推定する速度推定ステップと、前記磁束電流指令値及び前記トルク電流指令値から前記誘導電動機のすべり角周波数を演算するすべり演算ステップと、前記誘導電動機の検出速度又は前記速度推定ステップからの推定速度と前記すべり角周波数とから位相角を演算する位相角演算ステップと、基本トルク指令値と前記誘導電動機の検出速度又は前記速度推定ステップからの推定速度とからトルク指令値を演算するトルク指令値演算ステップと、前記トルク指令値に基づいて、前記トルク電流指令値を演算するトルク電流指令値演算ステップと、を備えることを特徴とする
第2の誘導電動機の制御方法(請求項5に対応)は、上記の方法において、好ましくは前記トルク指令値演算ステップは、基本トルク指令値Tとトルク指令値Tとの関係が、回転速度Nの基準回転速度Nに対する大小関係で、N≧Nの場合は、T=Tとし、N<Nの場合は、T=T(N/N)となるように演算を行うことを特徴とする。
第3の誘導電動機の制御方法(請求項6に対応)は、上記の方法において、好ましくは前記トルク指令値演算ステップは、低減率rと基本トルク指令値Tとトルク指令値Tとの関係が、回転速度Nの基準回転速度Nに対する大小関係で、N≧Nの場合は、T=Tとし、N<Nの場合は、T=T(r・N/(N+N(r−1)))となるように演算を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、モータの回転速度を把握し、その回転速度よりトルク指令値を演算した後、そのトルク指令値でモータを制御することでトルクモータと同等の回転速度−トルク特性が得られるようにすることができる誘導電動機の制御装置又は制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の本実施形態に係る誘導電動機の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の本実施形態に係る誘導電動機の制御装置でのトルク指令値演算の特性曲線である。
【図3】本発明の本実施形態に係る誘導電動機の制御装置の動作を説明するフローチャートである。
【図4】従来の巻き取り装置の構成図である。
【図5】トルクモータの回転速度−トルク特性の図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は、本発明の本実施形態に係る誘導電動機の制御装置の構成を示すブロック図である。
【0013】
図1で示す誘導電動機の制御装置10(以下、制御装置10)は、3相交流電源101及びモータ(IM)106に接続され、モータ106を制御する制御装置であり、ダイオード整流回路102、平滑回路103、インバータ回路104、PWMゲート信号生成器105、パルスジェネレータ(PG)センサ107、電流センサ108、3相/2相座標変換器109、2相/dq座標変換器110、磁束推定器111、速度推定器112、フィードバック速度切替器113、すべり演算器114、積分器115、磁束PI制御器116、磁束電流PI制御器117、トルク電流PI制御器119、dq/2相座標変換器120、2相/3相座標変換器121を備えている。また、制御装置10は、トルク指令値演算部18とトルク電流指令値演算部19と速度PI制御器20とトルクリミッタ21とトルク指令値切替器22を備えている。
【0014】
制御装置10は、磁束指令値φと、基本トルク指令値T又は最大速度指令値ωmmaxを目標に、インバータ回路104を用いてモータ106を駆動するものである。なお、インバータ回路104の機能は、パワースイッチング素子によって実現されるが、以下で述べる各機能は、CPU(Central Proccesing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成されたコンピュータと、ROM,RAM等に格納されたプログラムとによって実現される。
【0015】
制御装置10は、まず、磁束指令値φと磁束推定器111によって推定された磁束推定値φ^との偏差Δφを偏差演算部122によって演算し、得られた偏差Δφは磁束PI制御器116に入力される。磁束PI制御器116は、入力された偏差Δφに基づいて磁束電流指令値Iを生成する。次に、磁束電流指令値Iと2相/dq座標変換器110から出力されるd軸の磁束電流iとの偏差ΔIを偏差演算部123によって演算し、得られた偏差ΔIは磁束電流PI制御器117に入力される。磁束電流PI制御器117は、入力された偏差ΔIに基づいてd軸電圧指令Vを生成する。
【0016】
一方、制御装置10は、トルク指令値演算部18において、基本トルク指令値Tと速度推定器112によって推定された速度推定値ω^または、パルスジェネレータセンサ107によって検出された速度ωとに基づいてトルク指令値Tを演算する。そして、回転速度Nが回転速度制限値Nmaxより小さいときは、トルク指令値切替器22を介して、そのトルク指令値Tがトルク電流指令値演算部19に入力され、そのトルク指令値Tに基づいてトルク電流指令値演算部19は、トルク電流指令値Iを演算する。また、回転速度Nが回転速度制限値Nmaxを超えたときは、回転速度制限値Nmaxから得られる最大速度指令値ωmmaxと速度推定器112によって推定された速度推定値ω^または、パルスジェネレータセンサ107によって検出された速度ωとの偏差Δωを偏差演算部124によって演算し、得られた偏差Δωは速度PI制御器20に入力される。その出力はトルクリミッタ21によって制限され、トルク指令値切替器22を介してトルク電流指令値演算部19に入力される。トルク電流指令値演算部19は、入力された信号に基づいてトルク電流指令値Iを生成する。次に、トルク電流指令値Iと2相/dq座標変換器110から出力されるq軸のトルク電流iとの偏差ΔIを偏差演算部125によって演算し、得られた偏差ΔIはトルク電流PI制御器119に入力される。トルク電流PI制御器119は、入力された偏差ΔIに基づいてq軸電圧指令Vを生成する。
【0017】
磁束電流PI制御器117から出力されるd軸電圧指令Vと、トルク電流PI制御器119から出力されるq軸電圧指令Vは、dq/2相座標変換器120に入力される。dq/2相座標変換器120は、d軸電圧指令Vとq軸電圧指令Vと積分器115から出力される位相角θに基づいてα軸、β軸の2相電圧指令Vα、Vβを出力する。2相電圧指令Vα、Vβは、2相/3相座標変換器121に入力される。2相/3相座標変換器121は、入力された2相電圧指令Vα、Vβに基づいてU相、V相、W相の3相電圧指令V、V、Vを生成する。生成された3相電圧指令V、V、Vは、PWM(Pulse Width Moduration)ゲート信号生成器105に入力される。PWMゲート信号生成器105は、PWM制御によりインバータ回路104の出力電圧を3相電圧指令V、V、Vに従い制御する。
【0018】
図1の構成図において、制御装置10には、3相のモータ106が接続されており、電流センサ108がモータ106のW相の電流iとU相の電流iを検出している。なお、この電流センサ108は、3相(U相,V相,W相)の内、2相(W相、U相)の電流i,iを検出しているが、3相電流の和はゼロであるから他の1相(V相)の電流iは一意に定められる。また、モータ106の速度ωは、パルスジェネレータセンサ107で検出している。
【0019】
電流センサ108によって検出された電流i,iは、3相/2相座標変換器109に入力される。3相/2相座標変換器109は、電流i,iに基づいて3相/2相座標変換を行ってα軸、β軸の2相電流iα,iβを生成し、2相/dq座標変換器110に出力する。2相/dq座標変換器110は、2相電流iα,iβと、積分器115から出力される位相角θに基づいてd軸の磁束電流iとq軸のトルク電流iを出力する。
【0020】
一方、磁束推定器111は、dq/2相座標変換器120から出力される2相電圧指令Vα、Vβと、3相/2相座標変換器109から出力される2相電流iα,iβに基づいてα軸、β軸の磁束推定値φα^、φβ^を生成し、それらを速度推定器112に出力する。速度推定器112は、磁束推定値φα^、φβ^に基づいて速度推定値ω^を生成する。フィードバック速度切替器113は、フィードバックに用いる速度信号として速度推定値ω^を用いるか、パルスジェネレータセンサ107によって検出された速度ωを用いるかを選択して切り替えることができるスイッチである。
【0021】
すべり演算器114は、磁束PI制御器116から出力される磁束電流指令値Iと、トルク電流指令値演算部19から出力されるトルク電流指令値Iとに基づいて、モータ106のすべり速度推定値ωを演算し、演算器126は、速度推定値ω^または、速度ωと、すべり速度推定値ωとを入力し、ω=ω^+ωまたはω=ω+ωを演算し、電源角周波数(インバータ出力角周波数)ωを出力する。このωは、積分器115によって位相角θに変換され、2相/dq座標変換器110と、dq/2相座標変換器120に入力される。
【0022】
上記のように、モータ106を制御する場合、磁束とトルクを個別に制御するベクトル制御が使用される。トルクはモータ106の速度をパルスジェネレータセンサ107で検出するか、又はモータパラメータ及び2相電圧指令Vα、Vβとモータ106の電流i,iから得られた2相電流iα,iβを用いて推定された磁束推定値φα^、φβ^とともに速度推定値ω^を演算することにより、モータ106の速度信号(ω^またはω)と基本トルク指令値Tとに基づいてトルク指令値演算部18において、トルク指令値Tを演算する。そして、回転速度Nが回転速度制限値Nmaxより小さいときは、トルク指令値切替器22を介して、そのトルク指令値Tがトルク電流指令値演算部19に入力され、そのトルク指令値Tに基づいてトルク電流指令値演算部19は、トルク電流指令値Iを演算する。また、回転速度Nが回転速度制限値Nmaxを超えたときは、回転速度制限値Nmaxから得られる最大速度指令値ωmmaxと速度推定器112によって推定された速度推定値ω^または、パルスジェネレータセンサ107によって検出された速度ωとの偏差Δωを偏差演算部124によって演算し、得られた偏差Δωは速度PI制御器20に入力される。その出力はトルクリミッタ21によって制限され、トルク指令値切替器22を介してトルク電流指令値演算部19に入力される。トルク電流指令値演算部19は、入力された信号に基づいてトルク電流指令値Iを生成する。一方磁束は、モータ106の励磁電流から演算された磁束指令値φと磁束推定値φ^との偏差ΔφからPI制御することで磁束電流指令値Iを生成する。それぞれの電流指令値I、Iとモータ106の電流i,iを座標変換して得られた回転座標(q軸、d軸)上の電流i,iとの偏差ΔI、ΔIからPI制御を行い、電圧指令値V、Vを生成し、最終的に3相交流の電圧指令値V、V、Vに変換して、PWMゲート信号を生成してインバータ回路104のスイッチングを制御してモータ106を駆動する。
【0023】
次に、図1及び図2に基づき本発明の動作を説明する。図2は、トルク指令値演算部18で行われる演算を説明するためのグラフである。図1の制御ブロックは、ベクトル制御のブロック図となっているが、トルクモータと同等の回転速度−トルク特性を実現するに当たり、トルク指令値演算部18によってトルク指令値Tを基本トルク指令値T及びモータ106の回転速度Nから演算する。また、トルク電流指令値演算部19は、トルク指令値Tに基づいてトルク電流指令値iを演算する。さらに、トルク指令値切替器22は、回転速度Nが回転速度制限値Nmax以下のときは、トルク指令値演算部18からの出力をトルク電流指令値演算部19に入力するように切り替え、回転速度Nが回転速度制限値Nmax以上になったときはトルクリミッタ21からの出力をトルク電流指令値演算部19に入力するように切り替える。
【0024】
通常のトルク制御は、外部から任意のトルク指令値を受けて、そのトルク指令値に追従するトルクを出力する。本発明ではトルクモータのように回転速度に応じたトルク特性を得られるよう、モータ106の回転速度(回転角周波数ω又は推定回転角周波数ω^)をフィードバックして、図2に示すようなトルク指令値を自動で生成するようにしている。図2での横軸は、回転速度Nを表し、縦軸は、トルク指令値Tを表している。図2では、縦軸のTはトルク指令値Tに対する低減率(トルク低減率)で示している。
【0025】
図2に示すように、トルク指令値演算部18では、モータ106のトルク指令値Tを回転速度Nに対して定トルク指令値と低減トルク指令値の領域に分割する。領域を分割するモータ106の基準回転速度Nは任意の値で設定可能である。回転速度Nが基準回転速度Nより小さいときは、トルク指令値Tを100%出力する定トルク指令値であり、定トルク指令値については基本となる基本トルク指令値Tをそのまま出力するようにしておく。この基本トルク指令値Tは任意の値で設定可能である。回転速度Nが基準回転速度N以上のときは図2の基本カーブで示す低減トルク指令値となる。低減トルク指令値については基本トルク指令値Tとモータ106の回転速度Nから(1)式で計算されたトルク指令値Tを出力する(図2の曲線(基本カーブ))。
【0026】
=T(N/N)・・・・(1)
【0027】
なお、低減トルク指令値の低減率を任意に設定できるようにするため、別途入力により低減率rを設定しておき、(2)式を用いることで自由にトルク特性を可変することが可能となる(図2の曲線(ゲイン倍カーブ1,ゲイン倍カーブ2))。
【0028】
=T(r・N/(N+N(r−1)))・・・・(2)
【0029】
図2でのゲイン倍カーブ1は(2)式でのrを1より小さくした場合であり、ゲイン倍カーブ2は(2)式でのrを1より大きくした場合である。
【0030】
また、回転速度制限値Nmaxを設定しておき、回転速度Nが回転速度制限値Nmaxを超えた場合は回転速度制限値Nmaxによる速度制御に切り替えを行い、回転速度Nの上昇による危険を回避するようにする。すなわち、トルク指令値切替器22を、トルク指令値演算部18との接続からトルクリミッタ21との接続に切り替える。
【0031】
図3は、制御装置10のトルク指令値演算部18とトルク指令値切替器22で行われる動作を説明するフローチャートである。
ステップS11:トルク指令値演算部18にトルク指令値Tが入力される。
ステップS12:速度推定値ω^又は速度ωが入力される。
ステップS13:速度推定値ω^又は速度ωから回転速度Nが計算される。
ステップS14:回転速度Nが基準回転速度Nより小さい(N<N)か否か判断する。YESのとき、ステップS15を実行し、NOのとき、ステップS16を実行する。
ステップS15:トルク指令値TとしてTをそのまま出力する。
ステップS16:回転速度Nが回転速度制限値Nmaxより小さい(N<Nmax)か否か判断する。YESのとき、ステップS17を実行し、NOのとき、ステップS18を実行する。
ステップS17:トルク指令値TとしてT(N/N)を出力する。
ステップS18:トルクリミッタ21からの出力をトルク電流指令値演算部19に入力するようにトルク指令値切替器(スイッチ)22を切り替える。
そして、リターンする。
【0032】
なお、上記のステップS17は、TとしてT(r・N/(N+N(r−1)))を出力するようにすることができる。また、図5で示したトルクモータの回転速度−トルク特性と同様に、出力されるトルク指令値Tm*を回転速度Nの増加で直線的に減少するような一次関数になるように設定することもできる。
【0033】
以上説明したように、モータの回転速度によりトルク指令値を自動で可変することで、トルクモータと同等の回転速度−トルク特性を得られる。また、基本トルクや低減トルクとなる回転速度やトルク低減率を任意に設定することで、自由に回転速度−トルク特性を設定することが可能となる。この結果、トルクモータを使用していた巻き取り装置に、モータ(汎用誘導電動機)を用いて安価でかつ安定した巻き取り装置を実現することが可能となる。
【0034】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎず、また数値および各構成の組成(材質)等については例示にすぎない。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る誘導電動機の制御装置及び制御方法は、誘導電動機の駆動を制御する装置及び方法として利用される。
【符号の説明】
【0036】
10 誘導電動機の制御装置
18 トルク指令値演算部
19 トルク電流指令値演算部
20 速度PI制御器
21 トルクリミッタ
22 トルク指令値切替器
101 3相交流電源
102 ダイオード整流回路
103 平滑回路
104 インバータ回路
105 PWMゲート信号生成器
106 誘導電動機(モータ)
107 パルスジェネレータ(PG)センサ
108 電流センサ
109 3相/2相座標変換器
110 2相/dq座標変換器
111 磁束推定器
112 速度推定器
113 フィードバック速度切替器
114 すべり演算器
115 積分器
116 磁束PI制御器
117 磁束電流PI制御器
119 トルク電流PI制御器
120 dq/2相座標変換器
121 2相/3相座標変換器
122 偏差演算部
123 偏差演算部
124 偏差演算部
125 偏差演算部
126 偏差演算部
200 巻き取り装置
201 送り出し側ドラム
202 送り出し側トルクモータ
203 送り出し側ダンサーロール
204 加工ブロック
205 巻き取り側ダンサーロール
206 巻き取り側ドラム
207 巻き取り側トルクモータ
208 トルクモータドライバ(モータコントローラ:送り出し側)
209 トルクモータドライバ(モータコントローラ:巻き取り側)
210 プログラマブルコントローラ(PLC)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相電圧指令値に基づいて、直流電力を3相交流電力に変換して誘導電動機に供給するインバータ部と、
前記誘導電動機に流れる3相電流を2相電流に変換する3相/2相座標変換部と、
前記2相電流をd軸成分の磁束電流及びq軸成分のトルク電流に変換する2相/dq座標変換部と、
磁束電流指令値及び前記磁束電流から磁束電圧指令値を生成する磁束電流制御部と、
トルク電流指令値及び前記トルク電流からトルク電圧指令値を生成するトルク電流制御部と、
前記磁束電圧指令値及び前記トルク電圧指令値から2相電圧指令値に変換するdq/2相座標変換部と、
前記2相電圧指令値から前記3相電圧指令値に変換する2相/3相座標変換部と、
前記2相電流及び前記2相電圧指令値から前記誘導電動機の磁束を推定する磁束推定部と、
磁束指令値及び前記磁束推定部からの推定磁束から前記磁束電流指令値を生成する磁束制御部と、
前記磁束推定部からの推定磁束から前記誘導電動機の速度を推定する速度推定部と、
前記磁束電流指令値及び前記トルク電流指令値から前記誘導電動機のすべり角周波数を演算するすべり演算部と、
前記誘導電動機の検出速度又は前記速度推定部からの推定速度と前記すべり角周波数とから位相角を演算する位相角演算部と、
基本トルク指令値と前記誘導電動機の検出速度又は前記速度推定部からの推定速度とからトルク指令値を演算するトルク指令値演算部と、
前記トルク指令値に基づいて、前記トルク電流指令値を演算するトルク電流指令値演算部と、を備えることを特徴とする誘導電動機の制御装置。
【請求項2】
前記トルク指令値演算部は、基本トルク指令値Tとトルク指令値Tとの関係が、回転速度Nの基準回転速度Nに対する大小関係で、
≧Nの場合は、T=Tとし、
<Nの場合は、T=T(N/N)
となるように演算を行うことを特徴とする請求項1記載の誘導電動機の制御装置。
【請求項3】
前記トルク指令値演算部は、低減率rと基本トルク指令値Tとトルク指令値Tとの関係が、回転速度Nの基準回転速度Nに対する大小関係で、
≧Nの場合は、T=Tとし、
<Nの場合は、T=T(r・N/(N+N(r−1)))
となるように演算を行うことを特徴とする請求項1記載の誘導電動機の制御装置。
【請求項4】
3相電圧指令値に基づいて、直流電力を3相交流電力に変換して誘導電動機に供給するステップと、
前記誘導電動機に流れる3相電流を2相電流に変換する3相/2相座標変換ステップと、
前記2相電流をd軸成分の磁束電流及びq軸成分のトルク電流に変換する2相/dq座標変換ステップと、
磁束電流指令値及び前記磁束電流から磁束電圧指令値を生成する磁束電流制御ステップと、
トルク電流指令値及び前記トルク電流からトルク電圧指令値を生成するトルク電流制御ステップと、
前記磁束電圧指令値及び前記トルク電圧指令値から2相電圧指令値に変換するdq/2相座標変換ステップと、
前記2相電圧指令値から前記3相電圧指令値に変換する2相/3相座標変換ステップと、
前記2相電流及び前記2相電圧指令値から前記誘導電動機の磁束を推定する磁束推定ステップと、
磁束指令値及び前記磁束推定ステップからの推定磁束から前記磁束電流指令値を生成する磁束制御ステップと、
前記磁束推定ステップからの推定磁束から前記誘導電動機の速度を推定する速度推定ステップと、
前記磁束電流指令値及び前記トルク電流指令値から前記誘導電動機のすべり角周波数を演算するすべり演算ステップと、
前記誘導電動機の検出速度又は前記速度推定ステップからの推定速度と前記すべり角周波数とから位相角を演算する位相角演算ステップと、
基本トルク指令値と前記誘導電動機の検出速度又は前記速度推定ステップからの推定速度とからトルク指令値を演算するトルク指令値演算ステップと、
前記トルク指令値に基づいて、前記トルク電流指令値を演算するトルク電流指令値演算ステップと、を備えることを特徴とする誘導電動機の制御方法。
【請求項5】
前記トルク指令値演算ステップは、基本トルク指令値Tとトルク指令値Tとの関係が、回転速度Nの基準回転速度Nに対する大小関係で、
≧Nの場合は、T=Tとし、
<Nの場合は、T=T(N/N)
となるように演算を行うことを特徴とする請求項4記載の誘導電動機の制御方法。
【請求項6】
前記トルク指令値演算ステップは、低減率rと基本トルク指令値Tとトルク指令値Tとの関係が、回転速度Nの基準回転速度Nに対する大小関係で、
≧Nの場合は、T=Tとし、
<Nの場合は、T=T(r・N/(N+N(r−1)))
となるように演算を行うことを特徴とする請求項4記載の誘導電動機の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−157155(P2012−157155A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13854(P2011−13854)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000106276)サンケン電気株式会社 (982)
【Fターム(参考)】