説明

負極缶とアルカリ電池、及びそれらの製造方法

【課題】
本発明は、水素ガスが発生しない無水銀アルカリ電池の提供を目的とするものである。
【解決手段】
本発明のアルカリ電池は、正極と、亜鉛合金粉末を含む負極と、前記正極と前記負極を分離するセパレータと、アルカリ電解液と、前記正極を配する正極缶と、前記負極を配する負極缶であって、導電性高分子による表面処理後に形成した錫被覆層を有し、前記錫被覆層を介して前記負極と接している負極缶と、前記正極缶と前記負極缶とに挟持されるガスケットとからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイン形アルカリ電池あるいはボタン形アルカリ電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
腕時計など小型の電子機器に用いられるアルカリ電池は、図3に示すように、正極缶2の開口端が、ガスケット6を介して負極缶4によって封止される。負極缶4は、その開口端縁に断面U字状に外周面に沿って折り返された折り返し部4aと折り返し底部4bが形成され、この折り返し部4aにおいて、ガスケット6を介して正極缶2の開口端縁の内周面によって締め付けられて密封保持される。
【0003】
この負極缶4は、ニッケルより成るニッケル層7と、ステンレスよりなるステンレススチール層8と、銅よりなる集電体層9との3層クラッド材がカップ状にプレス加工されて構成される。
【0004】
正極缶2内には、正極1が収容され、負極缶4内には、正極1とセパレータ5を介して水銀を含まない亜鉛または亜鉛合金粉末を負極活物質とする負極3が配置され、アルカリ電解液が注入されて成る。
【0005】
負極3は、亜鉛または亜鉛合金粉末に水銀をアマルガム化した汞化亜鉛を使用することにより、亜鉛または亜鉛合金粉末から発生する水素ガス(H2 )、更に亜鉛または亜鉛合金粉末が、負極缶の集電体層9の銅とアルカリ電解液を介して接触することによってこの集電体から発生する水素ガス(H2 )を抑制するようにしている。この水素ガス発生の反応は、亜鉛または亜鉛合金粉末がアルカリ電解液に溶解して起こる反応であり、亜鉛は酸化されて酸化亜鉛に変化するものである。これに対し、上述したように、水銀によりアマルガム化された汞化亜鉛を使用することによって、水素発生の抑制を行うことができ、これによってこの水素発生に伴う容量保存性の低下、内圧の上昇による耐漏液性の低下、電池の膨れをそれぞれ抑制する効果を得ることができる。
【0006】
ところが、近年、環境問題から、これらコイン形あるいはボタン形アルカリ電池においても、水銀の使用をできるだけ回避する方向にあって、水銀の使用を回避するための多くの研究がなされている。
【0007】
この水素ガスの発生を効果的に抑えるために、集電体の銅よりも水素過電圧の高い金属である錫より成る被覆層を被着する方法の提案がなされている(例えば特許文献1参照)。被覆層は、無電解メッキや電解メッキなどで、上述した錫を被着することによって形成される。
【0008】
さらに、負極缶の銅全面をメッキ法により錫を被着後、120〜180℃で2分以上熱処理することにより銅−錫拡散合金層を錫メッキ厚みの30%以上とする方法の提案もなされている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001-307739号公報(第2項〜第5項、第1図、第2図)
【特許文献2】特開平9-55194号公報(第2項〜第3項、第1図、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のアルカリ電池では、完全に水素ガスの発生を防止することができなかった。ピンホールや亀裂等が被覆層に生じ、集電体層が露出し水素ガスが発生するという問題があった。
【0010】
負極缶に設けられた被覆層は5μm以下と非常に薄く、かつ、無電解メッキなどで形成されるため、ピンホールや亀裂等の欠陥が生じ易い。被覆層にピンホールや亀裂等が存在した場合、その欠陥部分から水素が発生し、容量保存性の低下、耐漏液性の低下、電池缶の膨張などを生じる。
【0011】
また、負極缶にクラッド材を用いる場合には、圧延加工で製作するため銅表面に不純物が付着する可能性が高く、不純物が付着した場合、被覆層の欠陥を引き起こし、上述した水素ガスが発生するおそれがある。
【0012】
また、被覆層を熱処理することにより銅−錫拡散合金層を形成する方法では、拡散合金層は成長するものの、熱処理温度が120〜180℃と錫の融点よりも低いため、水素ガス発生の主原因である錫メッキ層にピンホールや亀裂等が存在した場合には、それら錫メッキ層の欠陥を修繕できない。
【0013】
本発明は、上記課題を解決し、水素ガスが発生しない無水銀アルカリ電池の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のアルカリ電池は、正極と、亜鉛合金粉末を含む負極と、前記正極と前記負極を分離するセパレータと、アルカリ電解液と、前記正極を配する正極缶と、前記負極を配する負極缶であって、導電性高分子による表面処理後に形成した錫被覆層を有し、前記錫被覆層を介して前記負極と接している負極缶と、前記正極缶と前記負極缶とに挟持されるガスケットとからなる。
【0015】
本発明のアルカリ電池に用いる負極缶は、ポリアニリンによる表面処理後に形成した錫被覆層を有する。
【0016】
また、本発明のアルカリ電池の製造方法は、負極缶をポリアニリンにより表面処理する第一工程と、前記負極缶に錫被覆層を形成する第二工程と、前記錫被覆層を錫の融点(232℃)以上で熱処理する第三工程と、正極と負極とセパレータとアルカリ電解液を包含した正極缶と負極缶をガスケットを挟持するように、かしめて封止する第四工程とからなる。
【0017】
本発明のアルカリ電池の負極缶の製造方法は、負極缶をポリアニリンにより表面処理する第一工程と、前記負極缶に錫被覆層を形成する第二工程とからなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明を用いることにより、負極活物質である亜鉛が負極缶の集電体(銅)層と接することにより発生する水素ガス(H2 )を抑制し、この亜鉛の腐食を抑制できると共にアルカリ電解液のクリープ現象による耐漏液特性を向上できる。
【0019】
負極缶に錫被覆層を形成する前に、ポリアニリンなどの導電性高分子で負極缶の表面処理を行うとピンホールや亀裂などの欠陥が無く均一な厚みの錫被覆層の形成が可能となる。導電性高分子で負極缶の銅層(集電体層)の表面を処理すると、表面がCu(1価の銅イオン)のみとなり、欠陥が無く均一な錫被覆層の形成できる。しかし、導電性高分子で負極缶の銅層(集電体層)の表面を処理行わないと、銅層の表面にCuとCu2+がランダムに存在することとなり、均一な錫被覆層の形成を阻害する。
【0020】
更に本発明によれば、ガスケットの中央側突起部6aの外周部6bが負極缶4の内面に接触するようにしたので耐漏液特性を向上させ且つこの負極缶の内面に錫被膜を設ける際の精度に多少のばらつきがあっても、このガスケットの中央側突起部の外周部6bと負極缶の内面とが接触していることによりアルカリ電解液の移動が阻止され、また、ガスケット6の中央側突起部6aの外周部6bと負極缶4の内面との隙間が0.05mm以下であることにより負極中の亜鉛粉末の移動が阻止され、かつ、ガスケットの先端が負極缶の内面に接触する場合と異なり、電池密封時、ガスケット中央側突起部が負極缶の突っ支い棒となることがないので電池内の負極と正極のコンタクトを阻害することがなく、負極缶の集電体(銅)層の負極活物質である亜鉛の腐食反応が進行せず容量保存性の低下を改善できる。
【0021】
本発明を用いることにより、水銀を使用することなく放電特性の良好なアルカリ電池の実現が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1と図2を用いて本発明のアルカリ電池を説明する。図1はボタン形のアルカリ電池の断面図を示している。正極缶2の開口端が断面J字状のガスケット6を介して負極缶4によって封止される。
【0023】
この正極缶2は、ステンレススチール板にニッケルメッキを施した構成とされ、正極端子を兼ねた構成とされる。この正極缶2内には正極1が、コイン状もしくはボタン状に成形されたペレットとして収容配置される。
【0024】
そして、この正極缶2内の正極1上に、セパレータ5を配置する。このセパレータ5は、例えば不織布、セロファン、ポリエチレンをグラフト重合した膜の3層構造とする。そして、セパレータ5に、アルカリ電解液を含浸させる。アルカリ電解液としては、例えば水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、あるいは、水酸化ナトリウム水溶液と水酸化カリウム水溶液の混合水溶液を用いることができる。
【0025】
正極缶2の開口端縁の内周面にリング状のガスケット6を配置する。そして、セパレータ5上に、負極3を載置する。この負極3は、非含有水銀すなわち、水銀を含まない亜鉛または亜鉛合金粉末とアルカリ電解液、増粘剤等からなりジェル状である。
【0026】
この負極3を収容するように、正極缶2の開口端縁内に、負極缶4を挿入する。この負極缶4は、その開口端縁に断面U字状に外周面に沿って折り返されたU字状の折り返し部4aと折り返し底部4bが形成され、この折り返し部4aにおいて、ガスケット6を介して正極缶2の開口端縁の内周面によって締めつけられて封止される。
【0027】
この負極缶4は、ニッケル層7と、ステンレススチール層8と、銅よりなる集電体層9との3層クラッド材を、集電体層9を内側にしてカップ状にプレス加工して後に、ポリアニリン等の導電性高分子材料で表面処理後、錫の無電解メッキ等により錫被覆層を形成する。
【0028】
また、負極缶の内面領域にのみ錫被覆層を設けると耐漏液性が向上して好ましい。内面領域とは、負極缶4の内側(電解液と接する側)であり、かつ折り返し底部4bより内面の領域である。ガスケットと接する折り返し部4aと、折り返し底部4bには錫被覆層を形成せず、クリープ現象により電解液が這い上がるのを防止し耐漏液性を向上させている。
集電体層9より錫被覆層10の方が、アルカリ電解液が這い上がり易いためである。
【0029】
不要部分(断面U字状に外周面に沿って折り返された折り返し部4aとこの折り返し底部4b)をマスキング等によって覆うことにより負極缶の内面領域にのみポリアニリン等の導電性高分子材料で表面処理後、錫の無電解メッキ等により錫被覆層を形成することができる。
【0030】
或いは、上述した3層クラッド材を、集電体層9を内側にしてカップ状にプレス加工した後に、カップ銅面全領域にポリアニリン等の導電性高分子で表面処理後、無電解メッキで錫被覆層を形成し、不要部分を酸によるエッチング等によって排除あるいは剥離することによってカップ内面領域のみ錫被覆層を形成することができる。
【0031】
錫被覆層を形成した後に錫の融点である232℃以上で熱処理すると、錫被覆層に存在するピンホールや亀裂が埋められるため更に好ましい。
【0032】
錫被覆層10の厚さは、0.05μm〜5μmとすることが好ましい。これは、0.05μm未満の厚さでは、導電性高分子による表面処理を行っても均一な錫被覆層が形成せず、ピンホールや亀裂等の欠陥を生じるためである。また、膜厚が5μmを越えると、被覆層の剥離が生じやすく、かつ被覆層の形成に長時間を要するため適していない。
【0033】
錫被覆層10の熱処理環境は、酸素濃度0.01%以上1%以下にすることが好ましい。負極缶の錫被覆層の熱処環境として、酸素濃度を低くすることにより錫被覆層の表面酸化が抑制されたためと考えられる。1%を超える酸素濃度環境下では、この錫被覆層10の熱処理時、錫表面の酸化による接触抵抗の増大より放電特性に問題が生じるおそれがあることにより、また、0.01%を下回るとこの錫被覆層10の表面抵抗にほとんど差がない上に、その環境を確保するために長時間と、コスト高を来すなど、なんらその酸素濃度を低くすることによる特段の利益が生じないことによる。
【0034】
アルカリ電解液は、水酸化ナトリウムが15〜30mass%、又は水酸化カリウムが1〜15mass%の範囲であることが好ましい。アルカリ電解液中で水酸化カリウムが1 mass%を下回る比率では、水酸化カリウム水溶液が水酸化ナトリウム水溶液より伝導度が優れることに起因する放電特性の向上が小さく好ましくない。また、水酸化カリウムが15mass%を超える比率では、水酸化カリウム水溶液が水酸化ナトリウム水溶液より銅に対するぬれ性が高いことに起因して耐漏液性が低下するため好ましくない。水酸化ナトリウムと水酸化カリウムは、それぞれ単体、混合して電解液に用いることができる。
【0035】
また、ガスケット6の中央側突起部6aの外周部6bが負極缶4の内面と接触する、若しくは、ガスケット6の中央側突起部6aの外周部6bと負極缶の内面との隙間が0.05mm以下である如くし、中央側突起部6aの外周部6bが負極缶3の突っ支い棒となることがないので電池内の負極と正極のコンタクトを阻害しないので好ましい。
【0036】
なお、本発明で用いる正極活物質は、酸化銀、二酸化マンガン、ニッケルと銀の複合酸化物、オキシ水酸化ニッケルを用いることができるが、これに限定されない。
【実施例1】
【0037】
図1で示した構造のSR626SW電池を実施例1として作製した。ニッケル層7と、SUS304によるステンレススチール層8と、銅による集電体層9からなる厚さ0.2mmの3層クラッド材をプレス加工することによって、折り返し部4aと折り返し底部4bを有した負極缶4が形成される。この負極缶4を硫酸と過酸化水素の混合水溶液でエッチング後水洗し、続いてポリアニリンを主成分とする導電性高分子溶液に揺動させながら浸漬、水洗する。続いて無電解錫メッキ液に揺動させながら浸漬後温水洗浄し、続いて水洗、乾燥して、負極缶4の銅面全領域に0.3μm厚の緻密で結晶構造の大きい錫被覆層を形成した。最後に、負極缶の内面領域11をクロロスルフォン化ポリエチレンゴム栓にてマスキング後、内面の折り返し部4aと折り返し底部4bの錫被覆層が不要な部分を酸を主成分とする銅素材上の錫メッキ剥離液に浸漬することによって剥離除去して負極缶4を作製した。
【0038】
一方、水酸化ナトリウムが22mass%、水酸化カリウムが9mass%であるアルカリ電解液を注入し、次に正極1をディスク状に成形したペレットを、正極缶2内に挿入して、正極1にアルカリ電解液を吸収させる。
【0039】
この正極1によるペレット上に、不織布、セロファン、ポリエチレンをグラフト重合した膜の3層構造の円形状に打ち抜いたセパレータ5を装填し、このセパレータ5に、水酸化ナトリウムを22mass%、水酸化カリウムを9mass%含んだアルカリ電解液を滴下して含浸させた。
【0040】
このセパレータ5上に、水銀を含まないアルミニウム、インジウム、ビスマスを含む亜鉛合金粉、酸化亜鉛、増粘剤、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および、水から成るジェル状の負極3を載置し、この負極3を覆って負極缶4を、正極缶2の開口端縁内に、66ナイロンにアスファルト+エポキシ系シーラントを塗布して成るナイロン製リング状のガスケット6を挿入し、正極缶2の開口端縁をかしめることで密封してアルカリ電池を作製した。この場合、ガスケット6の中央側突起部6aの外周部6bが負極缶4の内面と接触するようにした。
【実施例2】
【0041】
実施例2においては、ガスケット6の中央側突起部6aの外周部6bと負極缶の内面との隙間を0.05mmとした。その他の条件は、実施例1と同様の条件で作製した。
【実施例3】
【0042】
実施例3においては、ガスケット6の中央側突起部6aの外周部6bと負極缶の内面との隙間を0.07mmとした。その他の条件は、実施例1と同様の条件で作製した。
【実施例4】
【0043】
この実施例4においては、アルカリ電解液を水酸化ナトリウムが15mass%、水酸化カリウムが15mass%含まれる混合溶液とした。その他の条件は、実施例1と同様の条件で作製した。
【実施例5】
【0044】
この実施例5においては、アルカリ電解液を水酸化ナトリウムが30mass%、水酸化カリウムが1mass%溶液とした。その他の条件は、実施例1と同様の条件で作製した。
【実施例6】
【0045】
この実施例6においては、アルカリ電解液を水酸化ナトリウムが30mass%、水酸化カリウムが15mass%溶液とした。その他の条件は、実施例1と同様の条件で作製した。
【実施例7】
【0046】
この実施例7においては、アルカリ電解液を水酸化ナトリウムが30mass%、水酸化カリウムが0.5mass%の水溶液とした。その他の条件は、実施例1と同様の条件で作製した。
【実施例8】
【0047】
この実施例8においては、アルカリ電解液を水酸化ナトリウムが15mass%、水酸化カリウムが20mass%の水溶液とした。その他の条件は、実施例1と同様の条件で作製した。
【0048】
〔比較例1〕
この比較例1においては、負極缶4に通常の無電解メッキで0.1μm厚の錫被覆層を形成した負極缶を用いてアルカリ電池を作製した。ポリアニリンによる負極缶の表面処理は行っていない。他の条件は、実施例1と同様とした。
【0049】
上述した実施例1〜8、比較例1の電池をそれぞれ210個づつ作製した。之等100個ずつの電池を、温度40℃、相対湿度90%の過酷環境下で保存し、120日及び140日後の漏液発生率についての評価結果を表1に示す。また、之等100個づつの電池を温度60℃、相対湿度0%の環境で100日間保存し、30kΩで定抵抗放電させ、1.2Vを終止電圧とした時の放電容量〔mAh〕を表1に示す。なお、このいずれの電池も初期放電容量は28mAh前後であった。最後に、之等10個づつの電池を温度−10℃の環境下、初期(放電深度0%)、負荷抵抗2kΩで5秒後の閉路電圧〔V〕を表1に示す。
【0050】
【表1】

まず初めに、この表1より実施例1と比較例1とを比較するに負極缶をポリアニリン等の導電性高分子材料で処理後、無電解メッキで錫被覆層を形成することで、耐漏液特性と容量保存性を向上できることがわかる。実施例1では、120日後および140日後の漏液は全く生じなかった。これに対し比較例1では120後に3%が漏液を生じ、140日後では10%が漏液生じる結果となった。実施例1では錫の無電解メッキ前にポリアニリン等の導電性高分子材料でメッキ面を表面処理することにより、亀裂やピンホールの無い緻密な錫被覆層が形成されたためである。一方の比較例1は、導電性高分子により負極缶の表面処理を行っておらず、錫被覆層に亀裂やピンホールがあり錫より水素過電圧の低い銅が露出しているため水素が発生し、漏液発生率が高くなったものと考えられる。
【0051】
次に、この表1より実施例1〜3を比較するに実施例1と実施例2では共に漏液が生じなかった。実施例3では、比較例1に比べると漏液発生率は低いものの140日保存後で漏液を3%程生じた。ガスケット6の中央側突起部の外周部6bと負極缶の内面との隙間が、0.05mm以下のアルカリ電池では耐漏液特性と容量保存性が優れていた。これはガスケットの中央側突起部6aの外周部6bと負極缶4の内面とを接触、若しくは隙間を0.05mm以下と小さくすることにより、電池密封時の負極中の亜鉛粉末がガスケットと負極缶の隙間に入り込むことが防止できるためである。亜鉛粉末がガスケットと負極缶の間に入り込むと、水素過電圧の低い銅からなる集電体層に亜鉛粉末が接触し水素ガス発生の原因となる。また、ガスケットの中央側突起部の外周部6bと負極缶の内面との隙間は0.05mm以下ならば良く、負極缶とガスケットの組み付け誤差や、錫被覆層を形成する位置の誤差など多少の誤差を許容する。特に錫被覆層の端部に多少ばらつきが生じて集電体層が露出したとしても、ガスケット亜鉛粉末がガスケットと負極缶の隙間に入り込むことが無く水素発生を防止できる。
【0052】
表1より実施例4〜6を比較するに、アルカリ電解液を水酸化ナトリウムが15〜30mass%、水酸化カリウムが1〜15mass%の水溶液とすることで、好ましい閉路電圧特性を得られることがわかった。また、実施例4〜6では漏液は全く生じなかった。好ましい閉路電圧特性を得るためには、水酸化ナトリウムの添加量は15〜30mass%の範囲が適していることがわかった。
【0053】
一方、実施例7は漏液発生が全く無く実施例1に比べ好ましいが、閉路電圧が他の実施例に比べ低い。これは、アルカリ電解液中に含まれる水酸化カリウムの量が少なかったためと考えられる。水酸化カリウム水溶液は、水酸化ナトリウム水溶液より伝動度が優れる。このため、水酸化カリウムの含有量が少ない実施例7では、閉路電圧が低くなったものと考えられる。このため、閉路電圧特性を重視する場合には、アルカリ電解液中に水酸化カリウムが1ma ss%以上含まれることが好ましい。
【0054】
実施例8では140日後に漏液が生じた。これは、アルカリ電解液中に含まれる水酸化カリウムの量が多かったためである。水酸化カリウム水溶液が水酸化ナトリウム水溶液より銅に対するぬれ性が高いため、水酸化カリウムの含有量が多いとクリープ現象を生じ漏液の原因となる。耐漏液性を向上させるためには、水酸化カリウムの含有量を15mass%以下とすることが特に好ましい。
【0055】
なお、負極缶の被覆層としては、錫ばかりでなく銅よりも水素過電圧の高い金属もしくは合金として、インジウム(融点156.6℃)、ビスマス(融点271.4℃)の1種以上の金属もしくは合金であっても良い。
【0056】
本発明により、負極缶4の内側にピンホール、亀裂、および不純物等による欠陥のない錫被覆層10を形成できるので、負極活物質である亜鉛が負極缶4の集電体層9と接することにより発生する水素ガス(H2 )を抑制し、この亜鉛の腐食を抑制できると共にアルカリ電解液のクリープ現象による耐漏液特性を向上できる。本発明を用いれば、水銀を使用することなく良好なアルカリ電池を得ることができる。
【0057】
また、本発明は上述例に限ることなく本発明の要旨を逸脱することなく、その他種々の構成が採り得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のアルカリ電池の断面図である。
【図2】本発明の負極缶の断面図である。
【図3】従来のアルカリ電池の断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 正極
2 正極缶
3 負極
4 負極缶
4a 折り返し部
4b 折り返し底部
5 セパレータ
6 ガスケット
6a 中央側突起部
6b 外周部
7 ニッケル層
8 ステンレススチール層
9 集電体層
10 錫被覆層
11 内面領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、亜鉛合金粉末を含む負極と、前記正極と前記負極を分離するセパレータと、アルカリ電解液と、前記正極を配する正極缶と、前記負極を配する負極缶であって、導電性高分子による表面処理後に形成した錫被覆層を有し、前記錫被覆層を介して前記負極と接している負極缶と、前記正極缶と前記負極缶とに挟持されるガスケットとからなるアルカリ電池。
【請求項2】
前記正極が酸化銀もしくは二酸化マンガンを含む請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項3】
前記錫被覆層が、前記負極缶の内面領域に形成された請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項4】
前記負極缶が、ポリアニリンによる表面処理後に形成した錫被覆層を有する負極缶である請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項5】
前記錫被覆層が、無電解メッキにより形成された錫被覆層である請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項6】
前記錫被覆層の厚さが0.05μm以上5μm以下である請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項7】
前記錫被覆層が、錫の融点(232℃)以上で熱処理した錫被覆層である請求項1から6のいずれか一項に記載のアルカリ電池。
【請求項8】
前記錫被覆層が、酸素濃度1%以下の雰囲気下で熱処理をした錫被覆層である請求項7に記載のアルカリ電池。
【請求項9】
前記アルカリ電解液中に水酸化ナトリウムが15〜30mass%、又は水酸化カリウムが1〜15mass%含まれる請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項10】
前記ガスケットの中央側突起部の外周部が前記負極缶の内面と接触する、若しくは、0.05mm以下の隙間である請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項11】
ポリアニリンによる表面処理後に形成した錫被覆層を有するアルカリ電池に用いる負極缶。
【請求項12】
負極缶をポリアニリンにより表面処理する第一工程と、前記負極缶に錫被覆層を形成する第二工程と、前記錫被覆層を錫の融点(232℃)以上で熱処理する第三工程と、正極と負極とセパレータとアルカリ電解液を包含した正極缶と負極缶をガスケットを挟持するように、かしめて封止する第四工程とからなるアルカリ電池の製造方法。
【請求項13】
負極缶をポリアニリンにより表面処理する第一工程と、前記負極缶に錫被覆層を形成する第二工程とからなるアルカリ電池に用いる負極缶の製造方法。
【請求項14】
前記第二工程後に、前記錫被覆層を錫の融点(232℃)以上で熱処理する第三工程を行う請求項13に記載のアルカリ電池に用いる負極缶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−172875(P2006−172875A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−363125(P2004−363125)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(595071852)株式会社エスアイアイ・マイクロパーツ (32)
【Fターム(参考)】