説明

走行状態判定装置

【課題】車両に搭載されたカメラの撮影画像を処理してピッチ角からその車両の走行状態や路面状態を判定する走行状態判定装置において、ピッチ角を、簡単にかつ、実際との乖離なく正確に推定できるようにして判定性能を向上する。
【解決手段】車両1に搭載されたカメラ2の撮影画像を、射影変換部32によってカメラ視点を変える簡単な座標変換の処理で迅速に側面視画像に射影変換し、ピッチ角推定部4により即面視画像の時間変化から車両1のピッチ角を実際との乖離を防止して正確に推定推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両に搭載されたカメラの撮影画像を処理してピッチ角からその車両の走行状態や路面状態を判定する走行状態判定装置に関し、詳しくは、ピッチ角からの判定性能の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に前方を撮影するように単眼カメラ(撮影手段)を取り付け、その単眼カメラの撮影画像を処理して走行状態や路面状態を判定する走行状態判定装置として、単眼カメラにて撮像された路面の鳥瞰画像を変換した時系列の第1、第2の俯瞰画像のホモグラフィの行列式のパラメータ等を求めて自車両のヨー角やピッチ角を推定する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、車両に搭載されたカメラの時系列の2枚の撮影画像のうちの一方の画像の特徴点を抽出し、抽出した各特徴点に対応する点をもう一方の画像の中から探索し、オプティカルフローと自車挙動の関係を示すつぎの数1の(1)式の3点のオプティカルフローから、ピッチ角、ヨー角、ロール角を算出して推定することも提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
【数1】

【0005】
なお、数1の(1)式において、現実のワイルド座標系(X、Y、Z)におけるωXはピッチング、ωYはヨーイング、ωZはローリングであり、x、yは画像座標系(x、y、z)の直交する2軸方向、zはその光軸方向である。そして、図8に示すように、カメラ視点の横方向(車幅方向)がX軸方向、高さ方向がY軸方向、車両の進行方向がZ軸方向である。この場合、図中の矢印線に示すように、ピッチ角はX軸周りのピッチングの回転角であり、ヨー角はY軸周りのヨーイングの回転角であり、ロール角はZ軸周りのローリングの回転角である。
【0006】
そして、ローリングは図9(a)の撮影画像Paに破線に示すように前方地平線の傾きとして現れ、ヨーイングは撮影画像Paを上方からの俯瞰画像に射影変換した同図(b)の路面の射影変換画像Pbに破線に示すように白線等のずれとして現れる。また、ピッチングは横方向(左または右方向)からの画像に射影変換した場合に高さ方向の傾きとして現れる。そのため、ピッチ角は、自車両の加減速や路面の凹凸による自車両の姿勢の変化を示し、ピッチ角から自車両の走行状態や路面状態を判定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−21161号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】小阪橋 宏礼、外3名、“単眼画像センサのための安定な自車挙動推定”、社団法人 自動車技術会 学術講演会前刷集、NO.56−08、p.15−18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記両文献に記載したように複雑な計算式(オプティカルフローと自車挙動の関係式の行列式等)の複数のパラメータを決定してピッチ角やヨー角、ロール角を推定する場合、パラメータが複数であり、複数変数の連立方程式を解くなどの複雑な計算が必要であり、煩雑で時間を要する演算処理が必要になり、また、推定結果の実際の車両挙動等からの乖離が大きい。そのため、とくにピッチ角からの車両の走行状態や路面状態の判定が迅速かつ正確に行なえず、判定結果に基づくサスペンション調整等が良好に行なえないない。
【0010】
本発明は、車両に搭載されたカメラの撮影画像を処理してピッチ角からその車両の走行状態や路面状態を判定する走行状態判定装置において、ピッチ角を、簡単にかつ、実際との乖離なく正確に推定できるようにして判定性能を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するために、本発明の走行状態判定装置は、車両に搭載されて車外を撮影するカメラと、前記カメラの撮影画像を側面視画像に射影変換する画像処理手段と、前記側面視画像の時間変化から前記車両のピッチ角を推定するピッチ角推定手段とを備えたことを特徴としている(請求項1)。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の本発明の走行状態判定装置によれば、車両に搭載されたカメラの撮影画像は、路面に垂直な自車両の左右の仮想面に射影した側面視画像に射影変換される。このとき、画像の射影変換は周知のカメラ視点を変える簡単な座標変換の処理で行なえ、前記した複数変数の連立方程式を解くなどの複雑な計算は不要であり、簡単で迅速に行なえる。また、側面視画像が実際のピッチ角の変化に応じて上下方向にずれるので、ピッチ角推定手段により側面視画像の時間変化から車両のピッチ角を実際との乖離を防止して正確に推定できる。したがって、車両に搭載されたカメラの撮影画像を処理してその車両のピッチ角を、簡単に、かつ、実際との乖離なく正確に推定し、走行状態や路面状態の判定性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の走行状態判定装置の一実施形態のブロック図である。
【図2】図1のカメラの取り付け例の説明図である。
【図3】撮影画像の一例である。
【図4】図3の撮影画像の射影変換の説明図である。
【図5】(a)、(b)はそれぞれ図3の撮影画像を射影変換した側面視画像の説明図である。
【図6】ピッチ角の推定の説明図である。
【図7】図1の動作説明用のフローチャートである。
【図8】車両のピッチ角、ヨー角、ロール角の説明図である。
【図9】(a)、(b)はローリング、ヨーイングによる画像変化の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態について、図1〜図7を参照して説明する。
【0015】
図1に示す本実施形態の走行状態判定装置は、車両1に搭載されたCCDの単眼カメラ2(本発明の「カメラ」)により、走行中の車両1の車外、具体的には、車両1の前方や後方を連続的に撮影する。
【0016】
図2は前方を撮影する場合の単眼カメラ2の取り付け例を示し、単眼カメラ2は、車室内の例えば車幅方向の中央に、上方から前方を水平よりやや下向きに狙うように取り付けられ、車両1の前方の路面を斜め上方から撮影し、例えば図3に示すように前方の路面αや前方の車両背面β等が写った撮影画像P(t)を出力する。
【0017】
単眼カメラ2の撮影画像は、マイクロコンピュータ構成の画像処理ECU3の画像取込部31に取り込まれて射影変換部32に送られる。
【0018】
射影変換部32の射影変換は、基本的に、周知の座標軸変換の射影変換操作により、単眼カメラ2の毎フレームの撮影画像P(t)を、例えば図4に示すように走行路を囲む仮想の六面体mの各面に射影する上下左右の各カメラ視点EYEの画像に変換するものであり、本実施例の場合、上下に変化するピッチ角を推定するため、撮影画像P(t)を、次に説明する左右のカメラ視線EYEの側面視画像Q(t)に射影変換する。
【0019】
射影変換とは、ある平面上の点を別の平面の点に変換することができる手法であり、道路面が平面であるという仮定を置くことで、撮影画像を道路面に対して真上から見た俯瞰図や左右から見た画像に変換するものである。
【0020】
そして、撮影画像P(t)の上面視の俯瞰画像への変換原理を説明すると、道路面をワールド座標におけるX−Z平面と仮定し、カメラ視点の座標を(xc、yc、zc)、光軸と道路面とがなす角をφ、焦点距離をfとした場合、撮影画像P(t)中の点(i、j)をワールド座標系に変換すれば、道路上の各点(Xw、Yw、Zw)は次の数2の(2)式で示される。
【0021】
【数2】

【0022】
さらに、カメラ視点を(x´c、y´c、z´c)に移動して道路面を真上から見下ろした時の画素の移動は次の数3の簡単な座標変換の(3)式によって計算される。
【0023】
【数3】

【0024】
そして、カメラ視点を道路面に垂直な左右の平面上に移動して道路の左右側面のいずれか一方から見たときの画素の移動も同様にして求められ、この移動を求めることによって、撮影画像P(t)が、左右のカメラ視線EYEの側面視画像Q(t)に射影変換される。
【0025】
この射影変換で得られる側面視画像Q(t)は、例えば図5の(a)、(b)に示すようになる。図5(a)は図3の撮影画像P(t)を左の仮想面に射影変換した側面視画像Ql(t)、図5(b)は図3の撮影画像P(t)を右の仮想面に射影変換した側面視画像Qr(t)を示し、それぞれの直線L(t)は路面境界線を示す。
【0026】
そして、自車1が加減速して走行状態が変化したり、路面の凹凸によって自車1の姿勢が変化し、ピッチングによって自車の1のピッチ角が変化すると、このピッチ角の変化にしたがってカメラ視線も変化し、例えば図6に示すように、時刻tのフレームの撮影画像P(t)の射影変換で得られた側面視画像Q(t)では水平な路面境界線L(t)に対して、つぎの時刻t+1のフレームの撮影画像P(t+1)の射影変換で得られた側面視画像Q(t+1)の路面境界線L(t+1)が、ピッチ角θ傾く。
【0027】
そこで、射影変換部32で得られた各フレームの側面視画像Q(t)、Q(t+1)、…はピッチ角推定部4に取り込まれ、ピッチ角推定部4は例えば前後の2フレームの側面視画像、例えばQ(t)、Q(t+1)の路面境界線L(t)、L(t+1)の角度(ピッチ角)θの向き、大きさから、側面視画像Q(t)、Q(t+1)の時間変化を把握して車両1のピッチ角θを推定する。また、必要に応じて、例えばアクセルペダルセンサ5やブレーキ液圧センサセンサ6の変化等から、ピッチングが加減速による走行状態の変化か、路面の凹凸によって生じたものかを識別する。
【0028】
そして、ピッチ角推定部4の推定結果がサスペンション調整部7に送られ、サスペンション調整部7はピッチ角θに応じて車両1のサスペンションを時々刻々に可変して乗り心地を改善する。
【0029】
図7は上記の一連の処理手順を示し、単眼カメラ2が新たなフレームの撮影をすると(ステップS1)、射影変換部32が撮影画像P(t)を側面視画像Q(t)に射影変換し(ステップS2)、ピッチ角推定部4が前後2フレームの側面視画像Q(t)、Q(t+1)、…の路面境界線L(t)、L(t+1)、…の時間変化からピッチ角θを推定し(ステップS3)、この推定に基づき、サスペンション調整部7が車両1のサスペンションを調整する(ステップS4)。そして、ステップS1〜S4の処理が新たなフレームの撮影毎に繰り返される。
【0030】
したがって、本実施形態の場合、単眼カメラ2の撮影画像P(t)、P(t+1)、…を射影変換部32の簡単な射影変換の演算で迅速に側面視画像Q(t)、Q(t+1)、…に射影変換し、ピッチ角推定部4により、例えば最新の2フレームの側面視画像Q(t)、Q(t+1)の路面境界線L(t)、L(t+1)の傾きから実際のピッチングに合致したピッチ角θを推定することができ、その推定結果に基づいて、サスペンションの良好な調整を行なうことができる。
【0031】
そして、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能であり、例えば、射影変換部32により、撮影画像P(t)、P(t+1)、…を上面視の俯瞰画像にも変換し、ピッチ角推定部4と同様のヨー角推定部により、前記俯瞰画像の道路白線等の時間変化、すなわち、フレーム間のずれから前記したヨー角も推定するようにしてもよい。
【0032】
つぎに、ピッチ角やヨー角の推定は、数フレーム間隔の2フレームの撮影画像に基づいて行うようにしてもよい。また、ピッチ角やヨー角の推定を、1又は複数フレームのフレーム間隔で行なってもよく、3フレーム以上の多数フレーム毎に、その間における各フレーム間のピッチ角やヨー角の平均値から推定するようにしてもよい。
【0033】
また、ピッチ角やヨー角は、路面境界線L(t)、L(t+1)、…の傾きから検出しなくてもよく、例えば画像中の車両βの下端の傾き等から検出してもよい。
【0034】
さらに、推定結果は、サスペンションション調整以外の種々の車両1の制御や調整に用いてもよいのは勿論である。
【0035】
また、本実施形態においては、単眼カメラ2によって車両1の前方を撮影するようにしたが、例えば、単眼カメラ2に代えて、あるいは、単眼カメラ2とともに、車両1の車外後方を撮影する単眼カメラを備え、射影変換部32により、自車1の車外後方の撮影画像を同様の側面視画像に射影変換し、その時間変化からピッチ角推定部4によりピッチ角を推定するようにしてもよい。
【0036】
つぎに、車両1の各部の構成や処理手順はどのようであってもよく、例えば、本発明のカメラは単眼カメラでなくてもよいのは勿論である。
【0037】
そして、本発明は種々の車両のピッチ角の推定に適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 車両
2 単眼カメラ
3 画像処理ECU
4 ピッチ角推定部
32 射影変換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されて車外を撮影するカメラと、
前記カメラの撮影画像を前記車両の側面視画像に射影変換する画像処理手段と、
前記側面視画像の時間変化から前記車両のピッチ角を推定するピッチ角推定手段とを備えたことを特徴とする走行状態判定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−46081(P2012−46081A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190276(P2010−190276)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】