説明

走行車両のサスペンション装置

【課題】 前フレームと前車軸ケースとの上下間隔が変化しても、前車軸ケースの左右揺動を一定角度で制限できるようにする。
【解決手段】 車体2の前部に揺動フレーム4の後部を左右方向の支持軸5廻り上下揺動自在に支持し、前記揺動フレーム4に前輪26を縣架した前車軸ケース6を前後方向のセンタ軸7廻り左右揺動自在に支持し、前記前フレーム3に前輪26用の左右サスペンションシリンダ8を設ける。前記揺動フレーム4に受け面36Aを有する揺動規制部36を設け、前記前車軸ケース6に左右揺動した時に前記受け面36Aと当接する当接面37Aを有する被揺動規制部37を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタ等の走行車両のサスペンション装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの後部にミッションケースを連結しかつエンジンから前方へ前フレームを突設して車体を構成し、この車体の前部に揺動フレームの後部を左右方向の支持軸廻り上下揺動自在に支持し、前記揺動フレームに前輪を縣架した前車軸ケースを前後方向のセンタ軸廻り左右揺動自在に支持し、前記前フレームと揺動フレームとの間に左右サスペンションシリンダを設け、前車軸ケースから前フレームに伝わる衝撃を、揺動フレームを介してサスペンションシリンダで緩衝するように構成されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】EP0761481B1号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記従来技術においては、前記前車軸ケースのセンタ軸廻りの左右揺動は、前フレームに水平又は垂直な受け面を有する揺動規制部を設け、前車軸ケースにその揺動規制部と当接する被揺動規制部を形成しておいて、両者の当接により規制するように構成されている。
ところで、前記車体は荷重、衝撃等を受けることにより、揺動フレームは後部の支持軸を中心に上下に揺動するものであり、前車軸ケースに対する前フレームの高さが変化し得るものであるので、前フレームが低位置にあるときと高位置にあるときとでは、前車軸ケースが左右揺動した時に被揺動規制部に対する揺動規制部の高さが大きく変化する。
【0004】
この揺動規制部の高さ変化は、被揺動規制部との当接角度にそのまま反映され、前フレームが高いとき、即ち、前フレームと前車軸ケースとの間隔が大きいときには前車軸ケースが大きく揺動可能になり、大きく揺動したときに前輪とボンネットとの間のクリアランスが減少して干渉を起こす可能性があり、また、前フレームが低く、前フレームと前車軸ケースとの間隔が小さいときには前車軸ケースの左右揺動範囲が極端に小さくなり、左右サスペンションシリンダの緩衝作用が制限されたり、その制限を回避するために車高を上げ、前フレームと前車軸ケースとの上下間隔を必要量確保するという調整が必要になったりする。
【0005】
本発明は、前記従来技術の問題点を解決できるようにした走行車両のサスペンション装置を提供することを目的とする。
本発明は、揺動フレームに揺動規制部を設け、前車軸ケースに被揺動規制部を設けることにより、前フレームと前車軸ケースとの上下間隔が変化しても、前車軸ケースの左右揺動を一定角度で制限できるようにした走行車両のサスペンション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における課題を解決するための技術的手段は、次の通りである。
第1に、エンジンEの後部にミッションケースMを連結しかつエンジンEから前方へ前フレーム3を突設して車体2を構成し、この車体2の前部に揺動フレーム4の後部を左右方向の支持軸5廻り上下揺動自在に支持し、前記揺動フレーム4に前輪26を縣架した前車軸ケース6を前後方向のセンタ軸7廻り左右揺動自在に支持し、前記前フレーム3に前輪26用の左右サスペンションシリンダ8を設けており、
前記揺動フレーム4に受け面36Aを有する揺動規制部36を設け、前記前車軸ケース6に左右揺動した時に前記受け面36Aと当接する当接面37Aを有する被揺動規制部37を設けていることを特徴とする。
【0007】
第2に、前記揺動フレーム4は、後部が前記車体2に支持軸5を介して支持されかつ前部が前車軸ケース6のセンタ軸後部7Rを支持する後揺動フレーム4Rと、前記後揺動フレーム4Rの前上部に連結された後部から前車軸ケース6を越えて前部に至りかつ前車軸ケース6のセンタ軸前部7Fを支持する前揺動フレーム4Fとを有し、
前記揺動規制部36を後揺動フレーム4Rの前部に形成し、前記被揺動規制部37を前車軸ケース6の背面に形成していることを特徴とする。
第3に、前記揺動規制部36は後揺動フレーム4Rの前面にセンタ軸7廻り等間隔に複数の突起を形成してその各突起の周方向面で前記受け面36Aを形成しており、前記被揺動規制部37は前車軸ケース6の背面にセンタ軸7廻り等間隔に複数の突起を形成してその各突起の周方向面で前記当接面37Aを形成しており、前記受け面36Aと当接面37Aとを揺動許容間隙Hを介して対面させていることを特徴とする。
[作用]
前記特徴を有する走行車両のサスペンション装置は次のような作用を奏する。
【0008】
前輪26が圃場の凸部に乗り上げたり凹部に嵌り込むと、揺動フレーム4が左右サスペンションシリンダ8を伸縮して衝撃を緩和しながらセンタ軸7廻りに左右揺動する。この揺動が最大になったとき、前車軸ケース6に形成した被揺動規制部37の当接面37Aが、揺動フレーム4に形成した揺動規制部36の受け面36Aに当接し、それ以上の前車軸ケース6の左右揺動を規制し、左右サスペンションシリンダ8の伸張過多、収縮過多を防止する。
前記揺動フレーム4を後揺動フレーム4Rと前揺動フレーム4Fとで形成し、前記揺動規制部36を後揺動フレーム4Rの前部に形成し、前記被揺動規制部37を前車軸ケース6の背面に形成することにより、揺動規制部36及び被揺動規制部37を簡単かつ安価に形成できる。
【0009】
そして、前記揺動規制部36はセンタ軸7廻り等間隔に複数の突起で形成し、前記被揺動規制部37もセンタ軸7廻り等間隔に複数の突起で形成することにより、複数の受け面36Aと当接面37Aの当接により、前車軸ケース6から伝わる大負荷及び衝撃に十分対抗できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前フレームと前車軸ケースとの上下間隔が変化しても、前車軸ケースの左右揺動を一定角度で制限できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
トラクタTの前部を示す図3、5、6において、トラクタTはエンジンEの後部に前ミッションケースM及び後ミッションケースを連結し、かつエンジンEから前方へ前フレーム3を突出して車体2を構成しており、前フレーム3に左右前輪26を縣架する前車軸ケース6を支持している。
前記前フレーム3上にはラジエータR、バッテリ等が搭載され、ボンネットBによって覆われおり、また、前記車体2の後上部側には、ステアリングハンドル、操縦席等が設けられている。
【0012】
前記後ミッションケースの後輪デフピニオン軸から取り出される前輪動力は、前ミッションケースMの内部伝動軸27から前輪変速機構28を介して外部伝動軸29に伝達され、この外部伝動軸29から自在継手軸30を介して前車軸ケース6の前輪デフピニオン軸31に伝達される。
前記前輪変速機構28は油圧切換え式であり、内部伝動軸27からの前輪動力を後輪と等速の状態と、後輪に対して1.3〜2.0倍の増速の状態とに切り換えて外部伝動軸29に伝達可能になっている。
【0013】
前車軸ケース6は前輪デフ装置を内蔵している中央拡大部6aから左右外端へ次第に細くなっており、左右外端には終減速機構33を有し、中央拡大部6aの背面側には後部蓋兼軸受ケース6bが設けられ、前面側にステアリングシリンダ34が配置されている。
ステアリングシリンダ34は前車軸ケース6と一体的に左右揺動可能であり、そのシリンダロッドにはタイロッドが連結されていて、ナックルアームを介して前輪26を操舵する。
図1〜8において、前記前車軸ケース6は左右外端が上下動可能になるように揺動フレーム4に支持されており、センタピンとなるセンタ軸7廻りに左右揺動自在であり、中央拡大部6aの前部にセンタ軸7のセンタ軸前部7Fが形成され、後部蓋兼軸受ケース6bの後部にセンタ軸後部7Rが形成されている。
【0014】
前記前フレーム3は、左右一対の外側板3aと左右一対の内側板3bと前板3cとを有し、対応する外側板3aと内側板3bとは左右に重合してボルトナット等の固定具又は溶接等により連結固定され、左右一対の外側板3a及び左右一対の内側板3bの前端間に前板3cが固定具又は溶接等により連結固定されており、前記内側板3bの内面が前フレーム3の左右側壁3Aを形成している。
前記前フレーム3と前車軸ケース6との間には、圃場、路面等からの衝撃や振動を緩衝するとともに、トラクタTの前部の高さ調整、傾動等を行うサスペンション機構1が設けられている。前記サスペンション機構1は前フレーム3及び前車軸ケース6とともにサスペンション装置を構成する。
【0015】
前記サスペンション機構1は、前フレーム3に支持軸5廻り揺動(上下揺動)自在に支持されかつ前車軸ケース6をセンタ軸(軸心が前後方向)7廻り揺動(左右揺動)自在に支持する揺動フレーム4と、前フレーム3と揺動フレーム4との間に左右一対設けられたサスペンションシリンダ8と、この左右サスペンションシリンダ8と連通する油圧バルブ21及びアキュムレータ22等で構成されている。
図1、2、7において、前フレーム3の後部下面には取付台44が設けられ、この取付台44に板金又は鋳物で形成された支持ブラケット35が固着されており、この支持ブラケット35はエンジンEの直下に位置している。この支持ブラケット35は水平板で形成した固着部35aと、この固着部35aの左右下面に2枚の板材を下方突出状に固着して形成された左右一対の軸支持部35bとを有する。左右一対の軸支持部35bは二股形状になっていて、それぞれに支持軸5が貫通されている。
【0016】
左右の支持軸5は軸心が左右方向でかつ同心であり、前記自在継手軸30の前継手を構成する十字継手30aの回転中心と、上下方向において同心又は可及的同心になるように配置されている。
また、前記センタ軸7の軸心7Sも支持軸5の軸心及び十字継手30aの回転中心と上下方向において同心又は可及的同心になるように配置されており、支持軸5を中心に前部が上下するように揺動可能であり、即ち、揺動フレーム4及び前車軸ケース6は支持軸5を中心に上下揺動可能になっており、上下揺動しても前輪デフピニオン軸31が正常に回転できるようになっている。
【0017】
前記揺動フレーム4は、前車軸ケース6の前部を支持する前揺動フレーム4Fと、この前揺動フレーム4Fと連結されていて前記前車軸ケース6の後部を支持しながら支持軸5に枢支された後揺動フレーム4Rとを有する。
後揺動フレーム4Rは、前記左右各支持軸5にそれぞれ嵌合する後部平面視二股形状の左右支持軸受部10と、この左右支持軸受部10の前側で前記前車軸ケース6のセンタ軸後部7Rに嵌合する後軸受部11と、左右支持軸受部10の前部から後軸受部11にかけてそれらの上面側に形成されていて平坦面を有する取付け部12とが形成されている。
【0018】
前揺動フレーム4Fは概ね平面視長方形でかつ側面視L字形状であって、前記後揺動フレーム4Rの取付け部12上にボルト等で着脱自在に固定される固定部13と、この固定部13から前車軸ケース6の上方を通って前方へ突出する支持部14と、この支持部14の前部で下向きに突出して前記前車軸ケース6のセンタ軸前部7Fに嵌合する前軸受部15とを有する。この前軸受部15はステアリングシリンダ34の上側に位置する。
揺動フレーム4は前揺動フレーム4Fと後揺動フレーム4Rとで前車軸ケース6の中央拡大部6aに跨る側面視コ字形状(又はF字形状)であり、揺動フレーム4の上部を形成する前揺動フレーム4Fの固定部13及び支持部14は前フレーム3の左右側壁3A間に侵入配置されている。
【0019】
図1、2、4、5において、前記揺動フレーム4と前車軸ケース6との間のセンタ軸後部7Rの廻りには、前車軸ケース6が左右揺動した時にその揺動角度を一定に制限する左右揺動規制手段Sが設けられている。
この左右揺動規制手段Sは、揺動フレーム4の後揺動フレーム4Rの前面に形成された揺動規制部36と、前車軸ケース6の後部蓋兼軸受ケース6bの背面に形成された被揺動規制部37とで構成されている。
前記揺動規制部36と被揺動規制部37とはドッグクラッチ形状であり、揺動規制部36は、後揺動フレーム4Rの前面にセンタ軸後部7R廻り等間隔に複数の角形状突起を形成して、その各突起の周方向面で受け面36Aを形成しており、被揺動規制部37は前車軸ケース6の背面にセンタ軸後部7R廻り等間隔に複数の角形状突起を形成して、その各突起の周方向面で当接面37Aを形成しており、前記受け面36Aと当接面37Aとを揺動許容間隙Hを介して対面させている。
【0020】
前車軸ケース6が略水平姿勢のとき、1つの揺動規制部36とその周方向両側の被揺動規制部37との間には揺動許容間隙Hの2分の1ずつの間隙が形成され、左右どちら方向にもその間隙分だけ揺動が許容されており、揺動して受け面36Aに当接面37Aが当接することにより前車軸ケース6の揺動は規制される。
図4において、前車軸ケース6は2点鎖線で示す水平状態から実線で示す最大角度揺動状態まで左右一方へ揺動許容間隙Hの2分の1分だけ揺動する。この一方の最大角度揺動状態から反対方向の最大角度揺動状態まで揺動許容間隙H分だけ揺動できる。
【0021】
前記揺動規制部36及び被揺動規制部37は突起の幅を変更、即ち、受け面36A間幅、当接面37A間幅を変更すると、揺動許容間隙Hの大きさを変更でき、前車軸ケース6の最大揺動角度を変更できる。
前記揺動規制部36及び被揺動規制部37はそれぞれ5個ずつ形成されており、これは1個又は5個以外の複数個でもよいが、3〜6個の複数個が好ましく、複数カ所の面で当接することにより、前車軸ケース6から大負荷または衝撃が加わっても十分対抗できるものとなっている。
【0022】
前記前フレーム3には前車軸ケース6の中央拡大部6aに対向する窪み部3Dが形成されていて、中央拡大部6aの左右外側部分を侵入させることにより、揺動フレーム4をより上位まで上昇できるようになっている。
前記前フレーム3の内面と揺動フレーム4の前後中途部との間に、前フレーム3の昇降位置を検出する昇降検出センサ19が設けられている。この昇降検出センサ19はセンサ本体19aが前フレーム3の左右側壁3Aに固定され、センサロッド19bの先端が後揺動フレーム4Rの後軸受部11(又は前揺動フレーム4Fの固定部13)の側面に連結されている。
【0023】
前記支持部14の前部には、図1、2、8に示すように、突起部14bが左右外側方に突出しており、この突起部14bに前フレーム3の左右側壁3Aと当接して揺動フレーム4の左右方向の揺動を規制するストッパ23が設けられている。このストッパ23は揺動フレーム4に螺合したボルトで形成されていて、支持部14から頭部までの左右方向の突出量が可変であり、揺動フレーム4の左右揺動量の調整と制限とができるようになっている。
また、前フレーム3と揺動フレーム4との間には上下揺動規制手段25が設けられている。この上下揺動規制手段25は左右側壁3Aの上部と下部とから内方へ突出した上下揺動規制体25U、25Dを有する。
【0024】
前記上揺動規制体25Uには支持部14の上面に平坦に形成された当たり面14aが当接可能になっており、前輪26及び前車軸ケース6に対する前フレーム3の過剰な沈み込み(揺動フレーム4の過剰な浮き上がり)を防止している。
また、左右一対の下揺動規制体25Dには、前記支持部14の前部に形成した突起部14bが当接可能になっており、前フレーム3の過剰な浮き上がり(揺動フレーム4の過剰な沈み込み)を防止している。
前記当たり面14a及び突起部14bがそれぞれ上下揺動規制体25U、25Dに当接することにより、揺動フレーム4がサスペンション機能時に過大に上昇又は下降しようとするのを規制するだけでなく、サスペンションシリンダ8に過大な引き抜き力又は圧縮力がかかるのを抑制できる。
【0025】
前記揺動フレーム4は前後方向中途部が左右方向幅が細くなっており、前フレーム3の左右側壁3Aとの間にシリンダ配置空間を形成し、左右サスペンションシリンダ8を配置しており、前記後揺動フレーム4Rの前下部に左右方向に突出した連結部4Raが形成されている。
前記左右一対のサスペンションシリンダ8は、シリンダ本体8Aの上端部が水平横軸状の支軸40を介して前フレーム3に枢支連結され、ピストンロッド8Bの下端部が連結ピン41を介して揺動フレーム4の連結部4Raに枢支連結されている。この連結部4Raは前車軸ケース6の背面側の後部蓋兼軸受ケース6bに近接する位置まで前方突出され、かつ後揺動フレーム4Rの下面から下方に突出している。
【0026】
即ち、前記後揺動フレーム4Rの前下部に前車軸ケース6のセンタ軸後部7Rよりも下方に突出しかつセンタ軸後部7Rと前後方向でオーバラップする左右一対の連結部4Raを形成し、この左右各連結部4Raに前記サスペンションシリンダ8のピストンロッド8Bの下端部を連結ピン41を介して連結している。
前記左右連結ピン41はセンタ軸後部7Rより若干低く位置し、左右方向においてセンタ軸後部7Rから略等距離の位置で、前後方向においてセンタ軸後部7Rと同一か又は前方に配置され、前車軸ケース6の背面側にステアリングシリンダ34が配置されていないことにより、サスペンションシリンダ8を後部蓋兼軸受ケース6bの背面により近接して配置できるようになっている。
【0027】
従って、左右一対のサスペンションシリンダ8は前車軸ケース6の背面側としては支持軸5から最も遠い配置となり、前車軸ケース6の中心に近づいた位置となっている。また、連結部4Raを下方へ突出させることにより、サスペンションシリンダ8にストロークの長いものを適用しても、そのシリンダ本体8Aが前フレーム3内に配置できるようになっている。
左右一対のサスペンションシリンダ8は作動油を供給することにより伸縮自在であり、左右同時に伸長させて、揺動フレーム4を前車軸ケース6と共に支持軸5廻りに下方へ揺動(相対的に車体2前部が上昇)させ、左右同時に収縮させて、揺動フレーム4を前車軸ケース6と共に支持軸5廻りに上方に揺動(相対的に車体2前部が下降)させる。
【0028】
また、左右のサスペンションシリンダ8からの作動油の流動をロックすると、揺動フレーム4及び前車軸ケース6は支持軸5廻りの上下揺動がロックされる。
前記左右サスペンションシリンダ8と連通する油圧バルブ21及びアキュムレータ22は、前フレーム3の左右側壁3A間の前部内に配置されている。油圧バルブ21は前フレーム3に固定され、アキュムレータ22は油圧バルブ21の下面側に直付けされ、油圧バルブ21の上面側にサスペンションシリンダ8と連通する油圧配管24が接続されている。この油圧配管24は前記上下揺動規制体25の上側に配置して、上下動する揺動フレーム4との干渉を回避しておくことが好ましい。
【0029】
前記油圧バルブ21は油圧配管24を介して左右サスペンションシリンダ8への作動油の供給、停止、ロックを行い、アキュムレータ22は左右サスペンションシリンダ8との間の作動油を貯溜し、前車軸ケース6に加わる圃場、路面等からの衝撃や振動を緩衝するサスペンション機能を発揮する。
アキュムレータ22は左右一対のサスペンションシリンダ8のヘッド側に接続されたヘッド側アキュムレータ22Hと、ロッド側に接続されたロッド側アキュムレータ22Lとを有し、前フレーム3の前板3cに装着された保護板38によって前下方から障害物と接触するのを防止されている。
【0030】
前記揺動フレーム4の枢支点である支持軸5は、エンジンEより前方に配置することも可能であるが、ここでは図6に示すように、エンジンEの直下であって、車体2の重心Pの下方でかつ前方に位置している。
トラクタTは、駆動時や制動をかけたときに車体2の重心Pにピッチングモーメントが発生し、車体2の前部が上昇するノーズリフト又は車体2の前部が沈むノーズダイブが発生するようになるが、前記支持軸5は前後方向において、ノーズリフトとノーズダイブとが発生し難い位置に配置されている。
【0031】
即ち、図6において、重心Pの高さ、前輪26と後輪の接地スパン、前輪26分担荷重又はサスペンションシリンダ8にかかる荷重、後輪分担荷重等を測定し、点Q1は重心Pの高さにおいて、前輪分担荷重と後輪分担荷重の比で前輪26からの距離を算出して得られた点であり、トラクタTが単体のときのピッチング発生(ノーズリフト、ノーズダイブ)有無の平衡点であり、前輪26の接地点を通って点Q1を結ぶアンチピッチング平衡線Y1より支持軸5は後方に位置し、理論的に駆動時にノーズダイブを、制動時にはノーズリフトを発生しない状態となる。
【0032】
また、点Q2は重心Pの高さにおいて、トラクタTが急制動をかけたときのサスペンションシリンダ8にかかる荷重から算出した前輪分担荷重と後輪分担荷重の比で前輪26からの距離を算出して得られた点であり、トラクタTが急制動をかけたときのピッチング発生有無の平衡点であり、前輪26の接地点と点Q2とを結ぶアンチピッチング平衡線Y2より支持軸5は前方に位置し、理論的に急制動時にはノーズダイブ、ノーズリフトを発生しない状態であり、アンチピッチング平衡線Y2に極めて近い位置である。
支持軸5をアンチピッチング平衡線Y2より後方に配置することもできるが、そのようにすると制動時のノーズダイブが発生しやすくなり、また支持軸5が低位置となり、トラクタTの地上高が採り難くなる、という問題が生じるので好ましくない。また、トラクタTでは過大な制動力が加わることが少ないので、前記アンチピッチング平衡線Y2に近い前側でも、実際的に加えられる中程度の制動力では十分なアンチピッチング状態が得られる。
【0033】
揺動フレーム4の支持軸5を単体時の前後輪分担荷重から算出したアンチピッチング平衡線Y1と急制動時の前後輪分担荷重から算出したアンチピッチング平衡線Y2との角度範囲内に配置することにより、制動をかけたときに大きくノーズリフトやノーズダイブをするのが減少でき、安定的な走行が可能になる。
なお、水平線に対するアンチピッチング平衡線Y1のアンチピッチング角λ1は例えば42〜49°又はその前後角度であり、アンチピッチング平衡線Y2のアンチピッチング角λ2は24〜30°又はその前後角度である。
【0034】
前記揺動フレーム4の支持軸5は、トラクタTの前部に一定重さのウエイトを取り付けた荷重付加状態での点Q3(重心Pの高さにおいて、前輪分担荷重と後輪分担荷重の比で前輪26からの距離を算出して得られた点)を求め、この点Q3と前輪26の接地点とを通るアンチピッチング平衡線Y3上に位置するように設定されている。水平線に対する支持軸5を通るアンチピッチング平衡線Y3のアンチピッチング角は34〜44°、好ましくは36〜42°である。
なお、本発明は前記実施形態における各部材の形状及びそれぞれの前後・左右・上下の位置関係は、図1〜8に示すように構成することが最良である。しかし、前記実施形態に限定されるものではなく、部材、構成を種々変形したり、組み合わせを変更したりすることもできる。
【0035】
例えば、左右揺動規制手段Sの揺動規制部36と被揺動規制部37とは、後揺動フレーム4Rと前車軸ケース6のそれぞれの対向面に形成されているが、前揺動フレーム4Fの前軸受部15と前車軸ケース6の間でセンタ軸前部7F廻りに形成してもよい。
また、被揺動規制部37を後部蓋兼軸受ケース6bの後部外周面に形成し、揺動規制部36を後部蓋兼軸受ケース6bの後部の径外側に位置する後揺動フレーム4Rの連結部4Raの内周面に形成してもよい。
さらに、前フレーム3に枢支された左右サスペンションシリンダ8は、ピストンロッド8Bを前車軸ケース6の前側で前揺動フレーム4Fの前軸受部15に連結したり、前車軸ケース6に連結したりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態を示す要部の側面図である。
【図2】同平面図である。
【図3】同正面図である。
【図4】左右揺動規制手段の作用を示す説明図である。
【図5】トラクタの前部の平面図である。
【図6】トラクタの前部の側面図である。
【図7】図1のX−X線断面図である。
【図8】図1のY−Y線断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 サスペンション機構
2 車体
3 前フレーム
3A 側壁
4 揺動フレーム
4F 前揺動フレーム
4R 後揺動フレーム
5 支持軸
6 前車軸ケース
7 センタ軸
7F センタ軸前部
7R センタ軸後部
8 サスペンションシリンダ
26 前輪
34 ステアリングシリンダ
36 揺動規制部
36A 受け面
37 被揺動規制部
37A 当接面
S 左右揺動規制手段
H 揺動許容間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(E)の後部にミッションケース(M)を連結しかつエンジン(E)から前方へ前フレーム(3)を突設して車体(2)を構成し、この車体(2)の前部に揺動フレーム(4)の後部を左右方向の支持軸(5)廻り上下揺動自在に支持し、前記揺動フレーム(4)に前輪(26)を縣架した前車軸ケース(6)を前後方向のセンタ軸(7)廻り左右揺動自在に支持し、前記前フレーム(3)に前輪(26)用の左右サスペンションシリンダ(8)を設けており、
前記揺動フレーム(4)に受け面(36A)を有する揺動規制部(36)を設け、前記前車軸ケース(6)に左右揺動した時に前記受け面(36A)と当接する当接面(37A)を有する被揺動規制部(37)を設けていることを特徴とする走行車両のサスペンション装置。
【請求項2】
前記揺動フレーム(4)は、後部が前記車体(2)に支持軸(5)を介して支持されかつ前部が前車軸ケース(6)のセンタ軸後部(7R)を支持する後揺動フレーム(4R)と、前記後揺動フレーム(4R)の前上部に連結された後部から前車軸ケース(6)を越えて前部に至りかつ前車軸ケース(6)のセンタ軸前部(7F)を支持する前揺動フレーム(4F)とを有し、
前記揺動規制部(36)を後揺動フレーム(4R)の前部に形成し、前記被揺動規制部(37)を前車軸ケース(6)の背面に形成していることを特徴とする請求項1に記載の走行車両のサスペンション装置。
【請求項3】
前記揺動規制部(36)は後揺動フレーム(4R)の前面にセンタ軸(7)廻り等間隔に複数の突起を形成してその各突起の周方向面で前記受け面(36A)を形成しており、前記被揺動規制部(37)は前車軸ケース(6)の背面にセンタ軸(7)廻り等間隔に複数の突起を形成してその各突起の周方向面で前記当接面(37A)を形成しており、前記受け面(36A)と当接面(37A)とを揺動許容間隙(H)を介して対面させていることを特徴とする請求項2に記載の走行車両のサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−298227(P2009−298227A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153106(P2008−153106)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】