説明

超伝導ケーブル用基板の製造方法

【課題】基板の電解研磨時間を短縮することで生産性を向上させることができ、さらには、単位面積当たりのクラックの発生を低減させ、且つ水平度に優れている超伝導ケーブル用基板の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明による超伝導ケーブル用基板の製造方法は、ハステロイ(登録商標)(Hastelloy)C−276またはステンレス鋼を、表面粗さがRMS(Root Mean Square)値にて10nm以下の圧延ロールで圧延し基板を形成するステップと、圧延された基板を電解研磨液に浸漬して電解研磨するステップと、電解研磨された基板上に超伝導層を蒸着するステップとを含むことを技術的特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導ケーブル用基板を製造する方法に係り、特に、基板の電解研磨時間を短縮することで生産性を向上させることができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、超伝導ケーブルは、臨界温度以下で電気抵抗がゼロになる特性を持っていて、該ケーブルを介して損失を最小化しながら大電流を流すことができる。この種の超伝導ケーブルを導体として用いると、変圧器、モーター、発電機、限流器といった多くの超伝導電力機器の実用化が可能となる。また、超伝導ケーブルは、超伝導電力貯蔵装置、超伝導送電ケーブル、超伝導リニアモーターカー、超伝導磁気分離装置などの電磁場を応用する各種のエネルギー、交通、環境産業分野に活用され得る。
【0003】
この種の超伝導ケーブルを製造する方法の例が、下記の特許文献に開示されている。
【0004】
この種の超伝導ケーブルを製造するに際しては、該超伝導ケーブルをなす基板を製造する工程時間を短縮し、製造工程中における基板の水平度を保持させることが課題となっている。
【特許文献1】米国特許第6,103,669号
【特許文献2】米国特許第5,872,080号
【特許文献3】米国特許第5,661,112号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、その目的は、基板の電解研磨時間を短縮することで生産性を向上させ、さらには、単位面積当たりのクラックの発生を低減させ、且つ水平度に優れている超伝導ケーブル用基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の目的は、ハステロイ(登録商標)C−276またはステンレス鋼を、表面粗さがRMS値にて10nm以下の圧延ロールで圧延し基板を形成するステップと、圧延された上記基板を電解研磨液に浸漬して電解研磨するステップと、電解研磨された上記基板上に超伝導層を蒸着するステップとを含むことを技術的特徴とする超伝導ケーブル用基板の製造方法により達成される。
【0007】
本発明の一実施の形態によれば、上記圧延ステップで形成された基板の厚さは、0.05〜0.1mmであることが好ましい。上記超伝導層の材料としては、ReBCOを用いることができる。
【0008】
本発明による製造方法は、上記基板と上記超伝導層の間での拡散を防止するために、それらの間に金属のバッファ層を形成するステップをさらに含んでもよい。
【0009】
また、本発明による製造方法は、上記超伝導層上に該超伝導層を保護するための金属の保護層を形成するステップをさらに含んでもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の超伝導ケーブル用基板製造方法によれば、基板の厚さと表面粗さを管理することにより電解研磨の工程時間を短縮することができる。この結果、生産性を向上させることができる。
【0011】
また、蒸着工程時における水平度の保持が容易となるため、蒸着層の品質を長手方向に沿って一定に保持することができ、好適な機械的特性を保持することができるため、蒸着層へのクラックの発生を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付した図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を詳述する。
【0013】
図1は、本発明の一実施の形態による超伝導ケーブル用基板の製造方法を示すフローチャートである。
【0014】
同図に示すように、本発明による超伝導ケーブル用基板の製造方法は、ハステロイC−276またはステンレス鋼を、表面粗さがRMS値にて10nm以下の圧延ロールで圧延して、厚さ(t)0.05〜0.1mm、幅(W)4〜10mmに圧延して基板を形成するステップ(S10)と、圧延された基板を電解研磨液に浸漬して連続電解研磨するステップ(S20)と、電解研磨された基板上に超伝導層及び各種の金属層を形成する蒸着ステップ(S30〜S80)とを含む。なお、これらの製造工程は、基板の移動に従って順次に進められる。
【0015】
以下、このように構成された本発明による製造方法をより具体的に説明する。
【0016】
まず、超伝導ケーブルの基板を製造するために、前述したように、ハステロイC−276またはステンレス鋼(SUS)を、表面粗さがRMS値にて10nm以下の圧延ロールで圧延して、0.05〜0.1mmの厚さと、4〜10mmの幅を持つ基板を形成する(S10)。
【0017】
次いで、圧延された基板は、次工程としての電解研磨工程(S20)を施される。基板は、電解研磨液が貯められた水槽に浸漬された状態で通りながら電解研磨され、このとき、下の表1に表すように、基板を圧延するための圧延ロールの表面粗さが低いほど、以後に進められる基板の電解研磨時間を短縮することができる。
【0018】
【表1】

【0019】
上記表1において、条件1は、pH4、20℃の電解研磨液を用いた場合であり、条件2は、pH2、20℃の電解研磨液を用いた場合である。
【0020】
基板を電解研磨液に60秒以上浸漬した場合、基板表面に塩が生成し、該塩は不純物として作用して超伝導ケーブルの機能を低下させる。このような理由から、できる限り表面粗さ10nm以下を有する圧延ロールを採択して、表1に表すように基板の電解研磨液への浸漬時間が60秒を超えない範囲を有するようにすることが好ましい。ここで、電解研磨液の浸漬時間60秒と、圧延ロールの表面粗さ10nmとの相関関係は、数多くの繰り返し実験を通じて得られたものであって、表1に表す表面粗さと電解研磨時間との関係は、上記相関関係の一例である。参考までに、本実施の形態における電解研磨された基板の表面粗さは、RMS値にて、5×5μm当たりに1nmである。
【0021】
一方、基板の厚さは、0.05〜0.1mm、すなわち50〜100μmであることが好ましい。これは、下の表2に表すように、基板の厚さが50μmより薄い場合は、機械的特性が悪いため、後述する蒸着工程で形成された蒸着層にクラックが生じることがあり、基板の厚さが100μmより厚い場合は、基板の流動性が落ちてしまい、蒸着工程中における水平度が悪くなることがあるためである。
【0022】
【表2】

【0023】
上記表2において、m当たりのクラック発生数は、光学顕微鏡を用いた目視検査によって測定されたものである。また、表2に表す水平度は、基板が移動する時に基板の両側をガイドする一対のガイドローラーの最上端部をつなぐ仮想の線を水平と見做し、その仮想線から外れる度合いを示したものである。
【0024】
基板にクラックが発生すると、超伝導の機能が低下され、基板が平坦でなく傾くと、蒸着後における超伝導ケーブルの結晶構造が均一にならず、超伝導の機能が低下するという短所がある。
【0025】
このような電解研磨工程以降は、後述する各種の金属層の蒸着工程が行われる。
【0026】
まず、電解研磨された基板上にYを100Åの厚さにて、またはAlを500Åの厚さにて、常温で電子ビームまたはイオンスパッタリングを用いて蒸着する(S30)。
【0027】
そして、MgOを常温で二軸培養方式で100Åの厚さにて蒸着(S40)した後、epi−MgOを高温で二軸培養方式で500〜1500Åの厚さにて蒸着する(S50)。
【0028】
MgO及びepi−MgOの蒸着は、イオンガンを用いた電子ビームまたはイオンスパッタリングによって行われる。
【0029】
次いで、バッファ層を蒸着し(S60)、その上に超伝導層を蒸着する(S70)。
【0030】
バッファ層は、金属基板と超伝導層の間での拡散を防止することにより、格子不整合を低減させる。バッファ層の材料としては、Tb、LaZr、LaGaO、NdGaO、YAlO、PrGaO、KTaOなどを用いればよい。超伝導層の材料としては、ReBCO(Re=Y、Sm、Ho、Dy)を用いればよい。
【0031】
最後に、超伝導層上に保護層を蒸着(S80)することで基板を完成する。保護層は、超伝導層を外部環境(衝撃、湿気など)から保護するためのものであって、その材料としては、Ag、Cu、Ptなどを用いればよい。
【0032】
以上、本発明の特定の好適な実施例について図示しまた説明した。しかし、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲で請求する本発明の要旨を脱することなく、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者であれば何人も種々の変形実施が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の超伝導ケーブル用基板の製造方法は、基板の電解研磨時間を短縮することが可能な製造方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施の形態による超伝導ケーブル用基板の製造方法を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハステロイ(登録商標)(Hastelloy)C−276またはステンレス鋼を、表面粗さがRMS(Root Mean Square)値にて10nm以下の圧延ロールで圧延し基板を形成するステップと、
圧延された前記基板を電解研磨液に浸漬して電解研磨するステップと、
電解研磨された前記基板上に超伝導層を蒸着するステップと、を含むことを特徴とする超伝導ケーブル用基板の製造方法。
【請求項2】
前記圧延ステップで形成された基板の厚さが、0.05〜0.1mmであることを特徴とする請求項1に記載の超伝導ケーブル用基板の製造方法。
【請求項3】
前記超伝導層が、ReBCOからなることを特徴とする請求項1に記載の超伝導ケーブル用基板の製造方法。
【請求項4】
前記基板と前記超伝導層の間での拡散を防止するために、それらの間に金属のバッファ層を形成するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の超伝導ケーブル用基板の製造方法。
【請求項5】
前記超伝導層上に該超伝導層を保護するための金属の保護層を形成するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の超伝導ケーブル用基板の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−200870(P2007−200870A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−346280(P2006−346280)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(506336603)エルエス ケーブル リミテッド (9)
【Fターム(参考)】