説明

超急速冷凍装置及び超急速冷凍方法

【課題】従来の冷却技術の欠点を解消する。
【解決手段】サンプル1の冷却に適した超急速冷凍装置100は、基板チップ10と、少なくとも一のサンプル担持体20と、を備える。基板チップ10は、サンプル1の冷却に適している。少なくとも一のサンプル担持体20は、サンプル1の収容に適していると共に少なくとも一の加熱可能支持体21を備える。少なくとも一のサンプル担持体20は、基板チップ10に少なくとも一の加熱可能支持体21を通じて取り付けられている。好ましくは、少なくとも一のサンプル担持体20は、懸架状態で基板チップ10に取り付けられている。さらに、サンプル1を超急速冷凍する方法が記載される。少なくとも一のサンプル担持体20を、基板チップ10に対して温度勾配が形成される加熱状態と、基板チップ10に対して熱平衡が形成される冷却状態との間で切り替え可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本明細書は、2007年11月20日に出願された米国仮特許出願番号60/989,165の優先権を主張する。
[連邦政府による委託研究に関する記載]
【0002】
本発明は、陸軍研究局(Army Research Office)によって与えられた承認番号#DAAD 19-03-D-0004に基づき、米国政府の支援を受けてなされたものであって、米国政府は本発明について所定の権利を有する。
【0003】
[発明の技術内容]
本発明は、試料サンプルを冷却するための超急速冷凍装置(瞬間冷凍装置)に関し、特に生体サンプルの超急速冷凍に適した超急速冷凍装置に関する。さらに本発明は、サンプルを超急速に凍結する(瞬間冷凍)方法に関し、特に生体サンプルの超急速冷凍方法に関する。本発明は、人工的(synthetic)サンプルあるいは生体(biological)サンプルの超急速冷凍に適用可能であり、特に、例えば低温での撮像のような生体サンプルの検査や、生体サンプルの低温固定あるいは低温保存に適用できる。
【背景技術】
【0004】
光、電子及びナノ力学的なプローブを有する顕微鏡観察は生物学に大変革をもたらしたが、室温においては、熱雑音、放射損傷あるいは対象との機械的相互作用のため、多くの技術の可能性を十分には活用できていない。低温での撮像技術は、近年目覚ましい進歩を遂げたものの、この目的で利用される生体学的試料の固定は、冷却時の氷晶形成を防止する必要があるため、依然として困難である。
【0005】
含水サンプルをガラス化する(つまり氷結晶化を回避しながら冷凍する)従来の方法としては、高圧冷凍が知られているが、これは再現可能な結果を得ようとすれば極めて熟練したオペレータが実行しなければならない、非常に困難な手順である(非特許文献1:J.デュボシェ「細胞の低温固定化に関する急速冷却及びその実現における物理学」(細胞生物学における方法論79巻:細胞電子顕微鏡検査法,J.R.マッキントッシュ,アカデミック・プレス刊,2007年)を参照)。生体サンプルについては、高圧の印加によっても損傷を被るおそれがある(非特許文献2:A.ルフォレスティエ他「DNAコレステロール液体結晶構造における急速冷凍及び高圧冷凍法効果の比較」顕微鏡ジャーナル184巻,1996年,4〜13頁)(一般的には〜2000bar)。また細胞を、培養された環境から移す必要や、ときには冷凍作業のために水以外の媒体に埋め込む必要がある。これらの操作によって細胞状態に微妙な変化が生じることは本質的に不可避であるため、このような微妙変化は、この学界では暗黙のうちにずっと受け入れられてきた。一方で、自然位の(in-situ)超急速冷凍は、(急速冷却そのものを除く)外乱をすべて排するものであり、それがなければサンプル準備の人為的結果によって闇に包まれたままであったであろう多くの新しい生物学的な洞察が得られるものと期待されている。
【0006】
大気圧において、冷却速度が十分速い場合は、ガラス化を超急速冷凍によって達成できる。必要とされる臨界速度は、例えば塩、タンパク質、ジメチルスルホキシドあるいは1,2−プロパンジオールのような、天然あるいは人工の凍結防止剤の濃度に依存する。凍結防止剤を追加しない場合、氷結晶化を防止するためには、106K/sの冷却速度で水をガラス化する必要がある(非特許文献3:R.リスコ他「ガラス化作用に関する石英微小毛細管の熱的性能」低温生物学55巻,2007年,222〜229頁)。しかしながら、そのような急速冷却は、現在のところ従来技術の限界をはるかに超える要求である。したがって、通常は凍結防止剤を添加することで、この要求を緩和している。しかしながら凍結防止剤は、細胞には有毒であるおそれもあり、また物理構造及び生化学的組成を微妙に変えてしまう可能性もある。この場合は、急速冷却の魅力が大きく低下してしまう。その理由は、該プロセスによって、対象をありのままの状態で忠実に再現しているとは保証されないからである。一方で超高速冷却は、この限界を取り去るものである。
【0007】
高速な冷却速度は、特許文献1(US6300130B1)及び特許文献2(US6403376B1)に記載される細胞低温保存用の超急速冷凍方法で得られている。生体材料は、低温冷却可能な環境と熱的に接して配置され、同時に放射エネルギーがその生体材料に晒されて、その一部を溶融する。その照射を急速に遮断することにより、その生体材料が急速に冷却されて、ガラス化される。しかしながら、この冷凍技術は以下のような欠点を有する。第一に、生体材料が照射によって直接加熱される結果、放射源をその生体材料の吸収に適合させなければならず、そのため冷凍機器の用途が制限される。さらに、生体材料が損傷するおそれもある。このため、生体材料に含まれる細胞の一部のみが生き残ることとなる(約80%)。更なる制限は、サンプルに集束された放射ビームによる従来の加熱に起因し、点状にガラス化されたサンプル領域が得られるに過ぎないことが挙げられる。また、集光された放射源によって細胞が解凍される際、周囲の媒体は依然として冷凍されているため、媒体の交換や実験の操作のためにサンプルにアクセスすること(作業の目や手が届くこと)が容易ではない。さらに、照射をオフにした後には、この領域の冷却境界からその中心に移動する凍結面(freezing front)が生じる。またガラス化された領域の中心であっても、不均一なサンプル構造が生じるおそれもある。同様に、解凍された状態においては、10μmの桁(オーダー)の距離に渡って、水の凝固点からおよそ40℃までの温度勾配が生じ、この影響で生じる不均一な温度分布は、生きているサンプルには障害となる。
【0008】
高速な冷却速度で効率的な冷却を得るための取り組みは、生体サンプルの超急速冷凍の分野のみならず、エレクトロニクス、センサ技術及び化学工学、例えば動作条件の切り換えや化学反応の反応条件の調整といった、他の技術分野においても行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6300130号明細書
【特許文献2】米国特許第6403376号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J.デュボシェ「細胞の低温固定化に関する急速冷却及びその実現における物理学」細胞生物学における方法論79巻:細胞電子顕微鏡検査法,J.R.マッキントッシュ,アカデミック・プレス刊,2007年(J. Dubochet "The Physics of Rapid Cooling and Its Implications for Cryoimmobilization of Cells""Methods in Cell Biology, vol 79: Cellular Electron Microscopy" (J. R. Mclntosh) Academic Press, 2007.)
【非特許文献2】A.ルフォレスティエ他「DNAコレステロール液体結晶構造における急速冷凍及び高圧冷凍法効果の比較」顕微鏡ジャーナル184巻,1996年,4〜13頁(A. Leforestier "Comparison of slam-freezing and high-pressure freezing effects on the DNA cholesteric liquid crystalline structure" "Journal of Microscopy", vol 184, 1996, p 4-13.)
【非特許文献3】R.リスコ他「ガラス化作用に関する石英微小毛細管の熱的性能」低温生物学55巻,2007年,222〜229頁(R. Risco"Thermal performance of qurtz capillaries for vitrification" "Cryobiology" vol 55, 2007, p 222-229.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、従来の冷却技術のこのような欠点を回避可能な、改良された超急速冷凍装置を提供することにある。特にこの超急速冷凍装置は、凍結防止剤を用いることなく、大気圧でサンプルをガラス化可能な冷却速度で、生体サンプルを凍結できる。また本発明の他の目的は、従来技術の欠点を回避し得る改良された超急速冷凍方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0012】
これらの目的は、独立請求項に記載した特徴をそれぞれ備える超急速冷凍装置及び超急速冷凍方法により達成される。本発明の好ましい態様及び応用例は、従属請求項で規定される。
【0013】
本発明の第1の側面によれば、基板チップ(substrate chip)と、一又は複数の加熱可能支持体を通じて基板チップと接続される少なくとも一のサンプル担持体とを備える超急速冷凍装置を提供する。少なくとも一のサンプル担持体が取り付けられる基板チップは、微細設計デバイス(微細構造デバイス、例えばマイクロフルイディクス(microfluidic)チップ)である。少なくとも一のサンプル担持体は、サンプル(例えば生体サンプル等)を収容できるよう構成される。基板チップは、少なくとも一のサンプル担持体及びそこに収容されたサンプルを、0℃より低い温度、特に生体サンプルのガラス転移温度より低い温度まで冷却するために、配置される。冷却は、好ましくは大気圧、あるいは大気圧より低い減圧下で行なわれる。
【0014】
本発明によれば、少なくとも一のサンプル担持体は、少なくとも一の加熱可能支持体を介してのみ基板チップと熱伝導接触している。このために、少なくとも一のサンプル担持体は、好ましくは、懸架状態で基板チップに取り付けられている。語「懸架」は、少なくとも一のサンプル担持体が微細設計デバイスにおいて自立して装着されていることを意味する。加熱可能持体は、中実構造あるいは中空構造体を有するロッド状のエレメントあるいはビーム状のエレメントを好ましくは備える。
【0015】
少なくとも一のサンプル担持体を保持する特に懸架する機能と、基板との熱的接触を提供する機能との二重機能を有する加熱可能支持体を、少なくとも一のサンプル担持体から基板チップへ正味の熱損失がないように加熱できる。
【0016】
加熱可能支持体の加熱が停止されると、少なくとも一のサンプル担持体と基板チップとの間の熱平衡を形成できる。本発明者は、熱平衡をms以下の範囲の非常に短い遷移時間で得ることができ、例えば生体サンプルのガラス化を可能にする高い冷却速度が得られることを見出した。なお本明細書において「超急速冷凍」又は「瞬間冷凍」の用語は、完全なサンプルを室温〜0℃より低い温度まで、1ms未満で、特に50μsよりも短時間で冷却するのと同様な意味合いで用いる。
【0017】
更なる利点として、本発明の超急速冷凍装置は、人工的材料又は生体材料、液体及び/又は固体材料等、種々のタイプのサンプル(総じて「対象物」)を凍結できるという点で、広汎な用途に適応できることが挙げられる。このことは上述した特許文献1(US6300130B1)の従来技術とは異なり、超急速冷凍装置を、冷凍すべきサンプルタイプに適応させる必要がないということである。すなわち、加熱可能支持体の加熱効果の切り替えを介した間接冷凍のため、例えば直接加熱するためにある照射波長を選択することに関して制限がない。さらに、上記特許文献1(US6300130B1)の従来技術とは対照的に、均一な温度分布を少なくとも一のサンプル担持体内で提供できる。それぞれの加熱可能支持体において散逸される熱は、同じ支持体を通じて熱伝導によって失われた熱を高精度に平衡を保つよう調整できるからである。
【0018】
本発明の第2の側面によれば、冷却しようとするサンプル、特に冷凍しようとする生体サンプルが、少なくとも一の加熱可能支持体を通じて基板チップに取り付けられているサンプル担持体上で配置される超急速冷凍方法を提供する。加熱可能支持体が加熱される間は、温度勾配をサンプル担持体と基板チップとの間で維持でき、例えば生物学的な培養条件あるいはあらゆる所定動作条件、特に室温等、をサンプル担持体において得ることができる。加熱可能支持体の加熱の停止により、温度勾配は消失し、サンプル担持体は基板チップあるいはその一部によって与えられる温度まで冷却される。このように、サンプルは冷却条件へと移る。
【0019】
好ましくは、本発明の上記第1の側面に係る超急速冷凍装置を用いて、超急速冷凍方法が実施される。
【0020】
特に好ましい応用では、化学的な凍結防止剤を必要としない、マイクロフルイディクスチップ上の単細胞の、例えば培養、刺激、自然位(in-situ)、可逆的かつ繰り返し的超急速冷凍を可能にする方法を提案する。これを可能にする発想は、特に、体積が小さく熱時定数が非常に小さい自立(free-standing)マイクロフルイディクス流路に細胞を懸架することである。流路が加熱された支持体を通じて基板チップの冷却リザーバに接続される場合、ヒータが流体を室温に保っている間は、細胞及び栄養素を送出できる。ヒータがオフに切り替えられると、流路は迅速にリザーバと平衡に達し、熱時定数が十分に小さい場合にはサンプルがガラス化することになる(以下及び図1を参照)。
【0021】
凍結防止剤を用いずに室温から直接ガラス化できる水の最大の滴は、約14ピコリットルである。これは技術的な制限ではなく、滴の中心における冷却速度を制限する水の熱伝導率の有限性に起因する。同様に、純水のガラス化を可能にする引き延ばされた毛管等細長いシリンダーの直径はおよそ20μm未満でなければならない。これらの数は、基本的には、広範囲なバクテリア、植物及び動物細胞が直接低温固定に適していることを示している。
【0022】
細胞を低温で固定し撮像するという最も関心の高い事項に関して、細胞を含水状態で、ほぼそのままの状態で保存することができ、細胞と分子機械を本当に「冷凍」可能な、要するに過渡的状態に維持できるという、化学的な固定とは異なる独特の利点が得られる。
【0023】
本発明の超急速冷凍装置の微細加工により、リソグラフィックパターニングを通じた独特の汎用性が得られ、2桁にわたる熱伝導率の材料を広い範囲から選択でき、さらに1μm未満〜100μm超の壁の厚さにもできる。例えばガラス毛管の引き延ばしのような従来の方法はこの点に関して厳しく制限されている。このことが重要である提案のシステムの一の面は、細胞、成長媒体及び異なる化学薬品の懸架されている流路への送出を制御するために、マイクロフルイディクスとの一体化を可能にするリソグラフィックパターニングである。
【0024】
このように、特有の利点として、微細設計超急速冷凍装置のサンプル担持体が、種々の形状及び寸法を有することができる。本発明の第1の変形例では、サンプル担持体は流路(マイクロフルイディクス流路)である。流路は、長手方向の延長部を有するサンプルに対するスペースを提供する。好ましくは、流路の長さは、基本的に、断面寸法より、例えば100倍長い。流路は、カバー壁でカバーされた閉じた流路とでき、あるいはサンプルが露出される開放流路とできる。
【0025】
サンプル担持体としてマイクロフルイディクス流路を用いることにより、以下の利点がある。第1に、貫通フローシステムの提供が容易になる。供給チューブを、サンプル及び/又は化学反応パートナーあるいは培養媒体のような追加の液体を送出し排出する流路の端部と、接続することができる。さらに、小さい断面寸法にもかかわらず、比較的多量のサンプルに直ちに超急速冷凍を行うことができる。さらに流路は、超急速冷凍あるいは更なる検査の際、サンプルの保護機能を改善する囲いを提供する。この囲いにより、例えば空気中の水蒸気の凝縮を防止するよう、装置全体を真空中に配置でき、同時に流路壁を用いてサンプルを真空環境から遮蔽することもできよう。
【0026】
懸架マイクロ流路設計では、概略的な発明概念に対する多くの変形が可能である。したがって、サンプル担持体の第2の変形例では、基板チップに懸架されているプラットホームあるいは隔壁を配置することもできる。いずれの場合も、サンプル担持体は自立的に懸架されている(free-suspended)プレートあるいはシートを備える。主な利点として、プラットホームあるいは隔壁により、面が露出しているサンプルの超急速冷凍が可能になる。特に低温保存された状態にある例えば生体サンプルの操作が容易になる。さらに、プラットホームあるいは隔壁を用いることは、ディスペンサー装置によって液体状態にあるサンプルを供給する点で、利点がある。
【0027】
プラットホーム上では、細胞の層を形成でき、その上で細胞の層に超急速冷凍を実施できる。一例として、神経細胞のネットワークを培養し、プラットホームと一体化された電極によって刺激することができる。細胞電位の測定の際には、超急速冷凍を実施できる。
【0028】
第3の変形例では、中空キャビティ(カップ状の小室)をサンプル担持体として用いることが可能である。この場合、小さいサンプル量の超急速冷凍において特に有利となる。好ましくは、キャビティは、サンプルを送出する開口部を有する。あるいは、サンプルを完全に囲うように構成してもよい。
【0029】
本発明の好ましい実施形態では、サンプル担持体の壁の厚さは、500μmより小さい。壁の厚さは、例えば流路の底壁、側壁、カバー壁の厚さ、プラットホームや隔壁の厚さ、又はキャビティの壁の厚さである。好ましい壁の厚さは、ミクロンのオーダー以下から、特に50nmより大きい値(例えば100nm又は200nm)から、1μmよりも大きい、例えば2μm又は5μmまでの範囲である。本発明者は、このような厚さの壁を有するサンプル担持体が急速冷凍プロセス(低熱容量)に最適であると共に、加熱や冷却に際しても十分な機械的安定性があることを見出した。
【0030】
本発明のさらに好ましい態様によれば、サンプル担持体の断面の寸法は、100nm〜200μm、特に500nm〜50μmの範囲である。サンプル担持体の好ましい例としては、上述した範囲内で選択された幅及び高さの四角形断面を備えているものが挙げられる。
【0031】
本発明のさらに好ましい態様では、超急速冷凍装置は貫通(through-flow:スルーフロー)デバイスとして設計されている。少なくとも一の、好ましくは2つの供給チューブが、少なくとも一のサンプル担持体と接続される。一例として、供給チューブは、プラットホーム又は隔壁の表面、あるいは中空のキャビティと接続された、マイクロフルイディクス流路の延長部又は管状ラインである。供給チューブは、概略的には、基板チップに対して熱的に絶縁される。特に供給チューブは、基板チップの冷却リザーバに対して所定の距離を隔てて配置される。貫通フローシステムを配置することによって、流路に係止された生体サンプルを、循環する媒体、又は時間的に変化する濃度の刺激物質に晒すことができるという利点が得られる。また、これに限定するものではないが、マイクロフルイディクス流路における細胞等の生体サンプルを係止する方法の例としては、特別コーティング(例えばポリリジン)を介した壁への粘着や、流路の内部でリソグラフィにより形成された括れやふるい構造での機械的な係止が含まれる。更なる利点として、フロースルー構成により、サンプル量を増加して検査することも可能である点が挙げられる。
【0032】
好ましくは、サンプル担持体の中央部分例えばマイクロフルイディクス流路の中央領域は、供給チューブから熱的に絶縁される。このために、供給チューブを、好ましくは、中央領域から十分に離して配置でき、したがって高い軸方向熱抵抗を能動的ではない(パッシブな)絶縁として活用できる。供給チューブに対する中央部分の熱的な絶縁は、流路の一端又は両端において、気泡を生成するでも得られる。泡は、典型的には側部流路を通じた(例えばT接続を介した)注入、電気分解及び/又はマイクロフルイディクス流路における一時的な局部加熱によって形成できる。
【0033】
有用には、サンプル担持体を、サンプルの超急速冷凍を更なる検査や操作と組み合わせる目的で適合させることができる。サンプル担持体がサンプルの撮像、サンプルの電気生理学的な刺激及びサンプルにおける測定の少なくとも一に適合している場合、特に有利となる。例えば生体サンプルに特徴的な利点が得られる。なお「サンプルを撮像する」行為には、例えば可視光や紫外線による光学的な微視的撮像、蛍光顕微鏡検査、あるいは透過型電子顕微鏡観察、X線回折やX線顕微鏡検査のような、粒子線又は電磁放射による撮像も含まれる。生物学的な用途に対する基本的な利点として、本発明の超急速冷凍装置は、例えば、光学顕微鏡検査をそれに続く分子レベルの細胞組織の検査と関連させることで、細胞コンポーネントの機能性の検査を可能にする。
【0034】
106K/s又はこれよりも大きな高い冷却速度を得るために、サンプル担持体及び加熱可能支持体は、単結晶シリコンの熱伝導率(〜150Wm-1-1)と同等あるいはそれを超える熱伝導率の材料で好ましくは形成される。マイクロエンジニアリングの技術による超高速冷凍装置の製造の観点から、サンプル担持体及び加熱可能支持体さらには基板チップの好ましい材料は、単結晶シリコンである。他の適切な材料としては、銅、金、アルミニウム、亜鉛、あるいは堆積可能でありリソグラフィによってされパターン化できるあるいはリソグラフィによって形成される型(moulds)へと電気めっきを施すことが可能な種々の他の金属が挙げられる。
【0035】
有用には、加熱可能支持体を、種々の加熱技術に対して設計できる。好ましくは、抵抗加熱が提供される。加熱可能支持体は、加熱電流源と電気的に接続される。加熱の際には、加熱電流が加熱可能支持体のそれぞれを流れる。好ましくは、加熱可能支持体には抵抗エレメント(抵抗部)が配置される。あるいは、加熱電流を、懸架されている流路自体に通すことができる。電気的加熱は、超急速冷凍装置上の最適場所に、特に流路及び加熱可能支持体にヒータを一体化できる点において有利となる。あるいは、又は追加的に、加熱可能支持体の放射加熱を、例えば集束されたレーザビームによる照射によって実現できる。好ましくは、IRレーザビームを、加熱可能支持体の放射加熱に利用できる。
【0036】
本発明の更なる有用な態様では、加熱可能支持体は、冷却媒体をガイドする中空構造を備えることができる。固体の加熱された梁(ビーム)によって流路を懸架する代わりに、支持ビームそれ自体が、中空であってもよく、液体窒素を流すと共に懸架されている流体流路の外側の壁と接する経路を提供できる。この場合、窒素は、冷却基板から中空支持体を通って連続的に循環することになる。中空支持体は、局所的に(電気的にあるいはレーザによって)加熱されたとき、液体窒素が懸架されている流路に到着する前に蒸発するよう、十分に薄く設計されることになる。そして、懸架されている流体流路からの熱損失は大幅に縮小されることになり、流路を室温に維持するのに必要なパワーも固体支持体設計の場合より非常に小さくなる。
【0037】
中空支持体のヒータを停止すると、温度勾配は急速に崩れ、したがって液体窒素を蒸発させることなく循環でき、さらに速い冷却速度に上昇できる。このポジティブフィードバック機構を、多くの用途ではパッシブな熱的平衡では遅すぎる、より大きな微細構造(隔壁等)による冷却を大幅に加速するために利用することもできる。
【0038】
更なる利点として、局所的冷却効果がある少なくとも一のオンチップ(on-chip)低温冷却器を提供するために、中空加熱可能支持体を用いることが可能な点が挙げられる。複数の低温冷却器、例えば加熱可能支持体のそれぞれに対して、一の低温冷却器を、生体サンプルを冷却する目的で独占的に利用できる。あるいは、上記少なくとも一のオンチップ低温冷却器は、基板チップにおける冷却リザーバの冷却を支援することもできる。
【0039】
本発明は、可逆的で繰り返し可能な、例えば生体サンプルの超急速冷凍に好適に適用可能な、懸架されている微細微構造のオンチップ冷却及び急速冷凍を提供する。このことは、超急速冷凍装置の設計を単純化できるという可能性に加え、オンチップ低温冷却の有効性から大きな利益を得る多数の技術が存在する点でも有利となる。一例として(これに限定するものではないが)、低ノイズエレクトロニクス、超電導量子干渉装置(SQUID)を用いる磁界センサ、超高感度光検出器又はマイクロフルイディクスシステムにおいて生物学的あるいは化学的プロセスを一時的に遅くする又は停止することも含まれる。これらの技術の多くは、それらの室温の相当物の仕様を数桁越えている。しかしながら、多大なエネルギー消費、物理的なサイズ及び冷却のための液化窒素やヘリウム供給上の依存性が、低温で作動する装置の技術的な活用をいつも妨げていた。
【0040】
本発明の更なる好ましい実施形態では、超急速冷凍装置は、少なくとも一のサンプル担持体を加熱状態と冷却状態との間で切り替可能に構成している。加熱状態においては、サンプル担持体から基板チップへの熱の流れは加熱可能支持体の加熱によって補償される。温度勾配は、サンプル担持体及びその中の生体サンプルが生体サンプルが生きる条件を与える温度、例えば室温となるように、形成される。冷却状態においては、環境の温度、特に基板チップの冷却リザーバあるいは低温冷却器の温度が、サンプル担持体において設定されたように、支持体加熱がオフに切り替えられる。切り替え(スイッチング)動作を行うために、超急速冷凍装置は、概略的には、加熱可能支持体の加熱を切り替え可能に構成しているスイッチングデバイスを有する。一例として、スイッチングデバイスは加熱電流源のスイッチや、加熱可能支持体の照射を遮断するよう構成されたスクリーンシールドとして配置できる。
【0041】
好ましくは、少なくとも一のサンプル担持体を、加熱状態から冷却状態へ10μsから1msまでの範囲にある時間定数で切り替えることができる。本発明のサンプル担持体では、106K/sのオーダーの冷却速度を得ることができる。冷却状態から加熱状態へのスイッチングは、生体サンプルのような水を含んでいるサンプルには一般的にそれほど重要ではない。それでも、少なくとも7・105K/sの速度が、数値的な実験においては少なくとも一のサンプル担持体の加熱で得られた。
【0042】
本発明では、単一サンプル担持体を基板チップに取り付けることができる。この態様は、超急速冷凍装置のサイズが小さく複雑さを低減する点から利点がある。さらに、超急速冷凍装置を測定装置、例えば顕微鏡に適応させることが容易になる。あるいは、複数のサンプル担持体を基板チップに取り付けることができる。この態様では、複数のサンプルの同時検査に対して利点がある。
【0043】
本発明の主な用途には、生体サンプルの低温固定が含まれる。有用には、種々のタイプの生体サンプルに本発明の超急速冷凍を行うことができる。概して、生体サンプルには、流体(気体及び液体を含み、特に含水サンプルは空気で囲まれる)の中にある生体材料が含まれる。生体材料には、単一の生物学的細胞、特に、植物細胞あるいは動物(あるいは人間)細胞、例えば白血球細胞、神経細胞が含まれる。あるいは、一群の生物学的細胞を生体サンプルに含めることができる。複数の細胞を、懸濁液において互いから分離でき、あるいは、例えば生物学的組織として接続できる。更なる代替例として、少なくとも一のバクテリア、少なくとも一のウィルス、一以上の細胞小器官及び/又は生物学的高分子を、生体サンプルに含めることができる。また生物学的な材料を有する小胞のような人工的対象も生体サンプルに含めてもよい。流体には通常、栄養素の溶液あるいは培養媒体を含めるが、サンプルを乾燥させることが望ましい場合には気体としてもよい。従って、生体サンプルは、概略的には、液体においては生体材料の懸濁液又は溶液、あるいはサンプル担持体に付着し、担持体によって同時に支持される流体に囲まれるサンプルを含む。
【0044】
本発明の超急速冷凍は、生体材料の生存率が真に改善する特徴がある。本発明の更なる好ましい態様では、複数回の冷却及び/又は加熱(再加熱)ステップを含めることができる。有用には、サンプルに、それぞれの加熱/冷却サイクルの加熱状態あるいは冷却状態において、培養、刺激、検出、モニタ、及び/又は処理ステップを施すことができる。特に、本発明の他の重要な面は、細胞の冷凍と解凍の繰り返しにある。低温保存は、細胞の長期貯蔵に決まって用いられており、完全なガラス化を保証しない最適とまではいかない方法でさえ、細胞の生存可能性は多くの場合維持される。高い速度で単細胞の冷凍を制御し繰り返すことは以前には不可能であったが、構造は原子スケールで保存されており、失透のプロセスは冷却時の氷結晶化ほどにはそれほど破壊的ではないことを示す多くのものがある(非特許文献1(J. Dubochet)の上記引用箇所参照)。したがって、細胞は、生存し続けており、解凍時には通常のように分裂する。
【0045】
本発明の好ましい態様では、超急速冷凍装置は、以下の機能デバイスの内の少なくとも一を備えることができる。すなわち、少なくとも一のセンサデバイスをサンプル担持体に配置できる。この利点として、サンプル測定を、超急速冷凍前、超急速冷凍中及び/又は超急速冷凍後に行える。超急速冷凍装置を光学顕微鏡、透過型電子顕微鏡(TEM)、電子断層撮影装置、あるいはX線回折あるいはX線顕微鏡検査装置と組み合わせる場合は、サンプル構造の特徴描写が分子レベルで可能となる。最後に、サンプルの破壊的検査には、例えば集束イオンビーム装置(FIB)又はレーザ剥離、場合によっては質量分析等化学分析と組み合わせることもできる。
【0046】
生体サンプルは、以下の特定の手順を行うことができる。冷凍すると、いくつかの撮像方法及び分光学的方法を試料に関する情報を集めるために用いることができる。具体的には、蛍光分子のほとんど0の分散係数及び光漂白(photobleaching)の低減、ならびに対象において構造変化のない長時間露光を用いる可能性は、高解像度撮像には魅力的である。STORM、PALM、STED及び他のいくつか等特別の手法を用いる回折限界より小さい光学撮像("PNAS"(vol 104 no. 31, 2007, p 12596-12602)のW. E. Moerner及び"Science"(vol 316 no. 5828, p 1153 - 1158)のS.W.Hellの記事を参照)が、過去数年間の熱心な関心事となった。これらの方法によって、原則的にはナノメートルの分解能を達成することができるが、低い信号対ノイズ比、及び長い平均時間(PALMにおける一画像に対して12時間にも達する)が根本的な課題となっている。これによれば、露光時間が長時間必要な場合には細胞を固定しなければならず、さらに細胞分裂あるいは刺激に対する応答等、動的なイベントに関する研究ができない。これに対し、本発明で提供する技術を用いた単細胞の急速冷凍によれば、これらの制限を克服できる。本発明の装置又は方法を用いた冷凍では、化学的固定と異なり、可逆的とできる。重要なことは、サンプル作製が必要でなく、またサンプルをプロセスにおいて連続的に観察できるので、冷凍時間を正確に(〜1μs又はそれ以上の精度で)記録できる点である。
【0047】
またガラス化されたサンプルを撮像するために、光学撮像に加えて、電子顕微鏡観察及び電子断層撮影を利用することもできる。電子顕微鏡観察における新たな技術開発によって、(数μmまでの)厚い試料の断層撮影撮像が可能となった(J. C. Bouwerら("Methods in Cell Biology"(vol 79 ("Cellular Electron Microscopy")), J. R. Mclntosh, (Academic Press, 2007))を参照)。またナノメートルの解像度で綺麗な含水サンプルを撮像する(S. Nickellら("Nature Reviews" (vol 7, 2006, p 225))を参照)という大きな技術革新もあった。これらの方法や関連する方法を、懸架されている薄い壁(特に50〜500nmのオーダー)のマイクロ流路内のガラス化された細胞を撮像するために直接用いることができる。
【0048】
また細胞を解凍し、冷凍し、その後再び撮像することも可能となる。あるいは、集束イオンビーム(FIB)技術を、冷凍される構造の一部分を生成するために用いることができる(M. Markoら("Journal of Microscopy" vol 222, 2006, p 42)を参照)。
【0049】
同様に、非常に薄い流路(数十nmの薄い流体層及び上部/底部壁)で純粋なタンパク質の高濃溶液を薄層内に閉じ込めるよう機能させることが可能になり、電子低温顕微鏡観察によってタンパク質構造を判定する高品質試料を生成することが可能となる。試料調製は、現在、この方法に関して最も重要かつ挑戦的な分野の一であり(M. v. Heelら("Quarterly Reviews of Biophysics" vol 33, 2000, p 4, p 307-369)を参照)、懸架されているナノ流路装置の超急速冷凍及び幾何学的な閉じ込めは、このプロセスを容易に実現するには十分となる。
【0050】
以下、本発明の更なる詳細及び利点を、本明細書に添付した以下の図面を参照して、説明する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の生物学的細胞の超急速冷凍の第1実施形態の概略図である。
【図2】サンプル担持体流路の断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る超急速冷凍装置の斜視断面図である。
【図4】本発明の超急速冷凍装置の第1実施形態の更なる概略断面図である。
【図5】図3の超急速冷凍装置におけるサンプル担持体の更なる斜視図である。
【図6−7】本発明の超急速冷凍装置の例示的設計におけるサンプル担持体の図及び熱的特性の有限要素シミュレーションである。
【図8】本発明の超急速冷凍装置の例示的設計におけるサンプル担持体の図及び熱的特性の有限要素シミュレーションである。
【図9】本発明に係る超急速冷凍装置の第2実施形態の概略断面図である。
【図10】本発明に係る超急速冷凍装置の第3実施形態の概略上面図である。
【図11】図10の実施形態を用いて実施された超急速冷凍方法の実施形態の図である。
【図12】本発明に係る超急速冷凍装置の更なる好ましい用途の概略図である。
【図13】本発明に係る超急速冷凍装置の更なる好ましい用途の概略図である。
【図14】本発明に係る超急速冷凍装置の更なる好ましい用途の概略図である。
【図15】本発明に係る超急速冷凍装置の第4実施形態の概略的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明の好ましい実施形態を、本発明の超急速冷凍装置の構造及び本発明の超急速冷凍方法の特徴を参照して、以下に説明する。さらに、生体サンプルの超急速冷凍を例示的に記述する。超急速冷凍のためのサンプルの調製、例えば、マイクロフルイディクスデバイスによる生体サンプルの処理、及び例えば光学顕微鏡観察によるサンプルの検査の詳細は、これらの技術それ自体が従来の技術から知られている場合には、説明を省略する。本発明は、生体サンプルの超急速冷凍に限定されず、化学反応分析(chemical reaction assays)あるいは電子回路のような人工的な対象にも同じく適用可能である。さらに、冷却媒体液体窒素あるいは液体窒素の蒸気による超急速冷凍を以下に記述する。本発明の実施はこれらの低温媒体の使用に限定されず、他の低温液体あるいは気体、例えば液体のエタンを用いることも可能であることを強調しておく。さらに、基板チップにおいてサンプル担持体を懸架する複数の加熱可能支持体を有する好ましい超急速冷凍装置を以下に記述する。なお本発明は、複数の加熱可能支持体を配置する構成に限定されるものでなく、一の加熱可能支持体のみで実現することもできる。
【0053】
図1は、加熱状態(図1A)と冷却状態(図1B)にある本発明に係る超急速冷凍装置100の第1実施形態を示す。超急速冷凍装置100は、基板チップ10(部分的に図示)とサンプル担持体20とを備える。図1の断面図は、サンプル担持体20が、加熱支持ビーム21を通じて基板チップ10に取り付けられている薄いマイクロフルイディクス流路22を備えることを示している。基板チップ10は、冷却媒体流路11によって形成された冷却リザーバを有している。冷却媒体流路11は、チップ体にサンプル担持体の両側で形成される。冷却媒体流路11は冷媒供給源30(概略的に図示)と接続される。冷媒供給源30は、供給ライン及びコントロールバルブ(図示せず)を介して冷却媒体流路11と接続している液体窒素のリザーバを備える。
【0054】
サンプル担持体20(図2も参照)の流路22は、幅が例えば1μm〜30μmの範囲にある例えば15μmの、そして高さが例えば40nm〜40μmの範囲にある例えば20μmの四角形断面を有する。流路22の長手方向の長さ(図3も参照)は例えば1mm〜5mmである。流路22は、例えば培養媒体内に懸架されたあるいは流路壁に取り付けられた生物学的な細胞を備える生体サンプル1を収容するスペースを形成する。
【0055】
図2は、サンプル担持体20の流路22の断面図を示す。例として、水を多く含んだサンプルが流路22に入っている。流路22の底部壁22.1は厚さ200nmのSiO2で形成される。流路22の側壁22.2は厚さ約3μmのシリコンで形成される。
【0056】
流路22のカバー壁22.3は厚さ約200nmのSiO2で形成される。
【0057】
流路22の上部・下部カバー壁が、平坦で、そして例えば光学顕微鏡72(例えば可視光及び/又はIR波長範囲で機能する)あるいは電子顕微鏡を用いて流路22内のサンプルの検査を可能にする光学的品質を有して形成可能であることは、本発明の超急速冷凍装置の特有の利点である。さらに、以下に概説するように、集束イオンビーム(FIB)検査も可能である。
【0058】
加熱可能支持体21は、抵抗加熱法に適合するよう構成される。このため抵抗部21.1が、加熱可能支持体21の、特にその表面内又は表面上に形成されている。ここでは、電気的接続41を介して加熱可能支持体に加熱電流を供給するよう構成された加熱電流源40が配置されている。説明のため、電気的な接続41を基板チップ10表面の上方に示している。実用上、好ましくは電気的接続41を基板チップの本体と一体化させる。スイッチングデバイス45は、電気的接続41の内の一の電気的スイッチを備える。あるいは、スイッチングデバイス45を加熱電流源40と一体化することができる。
【0059】
抵抗部21.1は、例えば支持体21の単結晶Siに、例えばホウ素、リン、ヒ素のようなドーパントを注入することで、あるいは支持体21に、例えばタンタルにような金属を堆積させることで、形成できる。電気的接続41は、厚さが500nm〜1000nm超の範囲のアルミニウム、銅あるいは金コーティングのような低抵抗材料で形成される。
【0060】
ヒータ(抵抗部21.1を有する加熱可能支持体21)がオンされると、サンプル担持体20から基板チップ10への伝導によって失われた熱は、ヒータにおいて生じた熱によって補償される。この加熱状態(図1A)において、生体サンプル1を、液体条件で、特に生体サンプル1の冷凍温度より高く、かつその変性温度より低い温度範囲である0℃〜50℃の範囲、例えば室温(20℃)で、流路22に供給することができる。ヒータがオフされると、流路温度は急速に基板チップ10と平衡に達する。10μs〜1msの範囲にある典型的な時間定数では、流路22における温度は、冷却リザーバの温度、例えば−196℃以下まで下がる。ここでは従来の技術と異なり、サンプルの中心からサンプル担持体の暖かい境界に移動する凍結面が生成される。その結果、冷凍されたサンプルの長い部分(例えば長さ1mm)にわたって均一な構造がもたらされる。この冷却状態を、図1Bに概略的に示す。
【0061】
本発明の特有な利点は、周囲環境、特にサンプル担持体の上方及び下方が室温にある場合であっても、サンプル担持体が下がった温度で保持されるという点である。周囲環境に関しては、特段の要求は概ね存在しない。ただ、特に光学的検査、例えば光学顕微鏡観察のために、又はデバイス表面上に材料が凝縮されることを回避するために、乾いた不活性雰囲気、あるいは真空状態を提供することで、サンプル担持体20の外側での湿気水分の凝縮を回避することは有用となろう。
【0062】
懸架されているマイクロ流路の組立て、及び懸架されているマイクロ流路への細胞の送出等、本発明に係るステムの重要なコンポーネント(T.P.Burgら("Nature" vol 446, 2007, p 1066)を参照)、及びチップ上に大きなまま維持される温度勾配を生じさせること(D. Briandら("J. Micromech. Microeng." vol 12, 2002, p 971)を参照)は、以前に例証されている。その利点は、懸架されている流路及びすべての接続管及びリザーバを、安定的に室温に維持しながら基板を冷却できる点である。水のガラス化は、好ましくは100μsのオーダーの熱時間定数で行われる(冷却が液体窒素で行われると仮定)。特に、単結晶シリコンで形成された、懸架されているマイクロ流路は、優れた熱伝導体であり、このような急速な平衡時間を提供できる。しかしながら、サンプル自体の熱伝導率もまた冷却速度を制限するので、サンプルが水(−0.6Wm-1-1)と同様な熱伝導率を有する場合、流路の内側断面を〜20×20μmよりも小さくする必要がある。単結晶シリコンから(T. P. Burg("Nature")及びP. Enokssonら("Sensors and Actuators A" vol. 46-47, 1995, p. 327 - 331)の上記刊行物を参照)、窒化ケイ素から(T. P. Burgら("Appl. Phys. Lett." vol. 83, 2003, p. 2698)を参照)、二酸化ケイ素から(T. S. Hug他("Generic fabrication technology for transparent and suspended microfluidic and nanofluidic channels", in "13th Intl. Conf. on TRANSDUCERS'05" June 5-9, 2005,)を参照)、及びCMOSプロセスにおいて利用可能な種々の誘電体層から(D. Westberg他("J. Micromech. Microeng." vol. 7, 1997, p. 253 - 255)を参照)、懸架されているマイクロ流路を製造するための技術が幾つか提案されており、流体層及び数十nm〜何百μmの壁の厚さをカバーするのために適用できる。
【0063】
図3は、加熱可能支持体21を有するサンプル担持体20の拡大イメージ(図3の挿入図)と共に、超急速冷凍装置100の概略斜視断面図を示している。
【0064】
基板チップ10は、冷却、熱的絶縁、及び/又は保持機能を実行する複数のコンポーネント12、13、14から形成される。上部コンポーネント12は、冷却リザーバ、例えば冷却媒体流路11(図1に図示)を有する単結晶シリコンで形成されたチップ体を備える。コンポーネント10は、内部にサンプル担持体20が懸架されている凹部12.1を有している。さらに凹部12.1は、供給チューブ25を収容するシリコンポスト12.2を収容する。コンポーネント13は、室温で、チップ体の熱的に絶縁された部分である(以下及び図4を参照)。コンポーネント14は、コンポーネント11のように液体冷却媒体で満たされたチップ体の、さらに冷却される部分である。
【0065】
図3に示すように、サンプル担持体20は加熱可能支持体21を介して基板チップ10に取り付けられている。サンプル担持体20はチップ体10の凹部12.1内でぶら下がっている。流路22は、サンプル担持体20の両側で均一に分配された約40個の加熱可能支持体21を通じて懸架されている。加熱可能支持体の数は、サンプル担持体のサイズに依存するが、一般的には1〜500、好ましくは約10〜50である。一般的に、加熱可能支持体21の寸法は以下の通りとできる。加熱可能支持体21の長さは、5μm〜500μmの範囲で選択される。加熱可能支持体21の断面寸法は、例えば1μm〜100μmの範囲で選択される。一般的に、サンプル担持体20の縦方向における加熱可能支持体21間の距離は、10μm〜100μmの範囲である。
【0066】
本発明の超急速冷凍装置100には、図3に概略的に示すマイクロフルイディクスデバイス60を配置できる。マイクロフルイディクスデバイス60は、サンプル担持体20への生体サンプルの供給、サンプル担持体20における生体サンプルへの成長媒体(培養媒体、栄養素)の供給、及び化学物質の供給(例えばサンプル担持体における細胞の分化を引き起こすための刺激目的のため、−あるいは非生物学的な用途では−化学反応物の供給のため)の内の少なくとも一のために配置される。マイクロフルイディクスデバイス60は、特にマイクロ流路、リザーバ、ポンプ、バルブ及びコントロールを有する従来のマイクロフルイディクスから知られている構造を有する。
【0067】
マイクロフルイディクスデバイス60は、シリコンピラー25を介してサンプル担持体20に接続するチップ体の室温部分13と、供給チューブ25.1を介して接続される。
【0068】
図4は、本発明の超急速冷凍装置100の更なる概略断面図である。サンプル担持体20は基板チップ10の凹部12.1内に配置されている。サンプル担持体20は、上述の通り基板チップ10に取り付けられている。基板チップ10のコンポーネント13は、ガラス等低熱伝導率の材料で形成される。また、コンポーネント13は、チップ状(tip−like)のブリッジを介して基板チップの本体と接続される。室温にあるコンポーネント13と低温にある基板10の他の部分(コンポーネント12、14)との間の熱の移動を低減するために、接触面積は最小限にされる。
【0069】
図4の超急速冷凍装置100の実施形態は、液体窒素の半分解凍されたものによる、コンポーネント13を除いた基板チップの冷却に適合している。半分解凍されたものは、冷媒供給装置30のポンプ装置を介して流路11(図1参照)を通じて汲み上げられる(図1参照)。冷媒供給装置30との接続ラインは、基板チップ10の底部14に直接接続される熱的絶縁14.1を担う。
【0070】
図4に示すように、専用のパッケージングが、冷却基板と流体供給チューブとの間の十分な熱的絶縁を保証する。ヒータがオフにされると、入口から遠く離れた流体はガラス化することになり、一方、懸架されている流路の端部に近い水は液体のままである。この空間的不均一性はたいてい許容されるが、超急速冷凍の直前にどちらかの側に泡を形成することにより流路の中央部分を熱的に絶縁することによって回避することもできる。マイクロフルイディクス流路において小さい気泡を生成する適当な方法は、例えば、側部流路を通じた注入、電気分解、あるいは一時的な局部加熱がある。
【0071】
図4は、液体窒素(あるいは他の冷媒、例えば半分解凍された窒素あるいは液体エタン)によって冷却される基板と、サンプル担持体20(加熱される支持ビームを有し、流体で満たされる流路)と、を有するマイクロチップの一の可能な設計を示す。流路の入口及び出口は、常に室温にある流体供給源に接続される。機械剛性と適切な熱的絶縁を、微細設計装置の特有の精度により兼ね備えることができる。
【0072】
超急速冷凍装置100の変形例を、図5の斜視断面図に示す。図1を参照して上に説明した抵抗加熱を図5に概略的に示す放射加熱で置き換えることができる。この場合、抵抗部21.1を省略することができる。放射加熱には、例えばIRレーザ装置を備える放射源50が配置される。IR放射線ビームは、加熱可能支持体21のそれぞれに誘導される。放射源50がIRレーザダイオードアレイを備える場合、加熱可能支持体21のそれぞれをレーザダイオードの内の1つで照射することができる。あるいは、複数のIRガイドファイバーを介して加熱可能支持体21を照射する単一のレーザ源を配置することもできる。スイッチングデバイス45はこの場合、照射を遮断するよう構成された可動シールドを備える。あるいは、スイッチングデバイスを放射源50と一体化することができる。
【0073】
図6乃至図8は、加熱可能支持体21の加熱効果を理論的にシミュレートする結果を示す。図6の温度シミュレーション(グレー値で示される)は、基板チップ10における−196℃(グレー)から加熱可能支持体21(グレーの勾配)を介してサンプル担持体20における−20℃(ダークグレー)までの分布を示す。図6の挿入図は、本発明の超急速冷凍装置のスイッチング特性を示す。サンプル担持体20温度は−140℃よりも低い温度に360μs足らずで、最大冷却速度〜7・105℃/sで低下する。
【0074】
図示した温度分布は、例えば以下のパラメータで形成された図7に示す構造(図6においてハイライト表示されたフレームに対応)を用いて得られる。図6が全体の長方形のチップの四半分のみを示しており、チップの中心が図の右下コーナーにおける流路の端部と一致していることを付言しておく。これに対応して、図7は、対称面を破線のラインで示している、全断面の右半分を示す。
【0075】
SiO2で形成された2つの層21.2、21.3との間にSiで形成された加熱可能支持体21は、Siで形成された基板チップ10と接続される。加熱可能支持体21のSi部分の厚さzは、10μmであり、そして、その長さx1は52μmである。SiO2の2つの層21.2,21.3の厚さは200nmである。抵抗部21.1の長さx3は20μmである。また、抵抗部21.1は約60mWの加熱力に適合されており、流路が室温(〜20°C)にあり、かつ基板が−196°Cにあるとき、流路22から冷却基板10への熱損失を補償する。加熱可能支持体21と厚さが同じである流路22は、水を多く含んだサンプル22.8で満たされており、流路22の半値幅x2/2が5μmである。サンプルは、幅x4が3μmのシリコンで形成された側壁22.2によって閉じ込められている。図6に示す有限要素シミュレーションは、よく知られている微細加工技術で製造することができる現実的な設計を示す。
【0076】
図8は、四角形断面のサンプル担持体20における温度の展開に関する最善のシナリオを概略的に示す。上の例(図6及び図7)とは対照的に、ここでは、支持体の熱容量及び有限の熱伝導率は考慮に入れていない。20℃〜−196℃への支持体21の瞬間冷却によるサンプル担持体20における水を多く含んだサンプル22.2における等温線を数値的に演算する。加熱可能支持体21間の幅x2が15μmの場合では、冷却速度は水の熱伝導率のみによって制限される。15μmの幅のシリコン流路は、純水がガラス化するのに十分速く平衡に達する。
【0077】
本発明の第2実施形態を、超急速冷凍装置の上面図あるいは側面図を表わすと考えることができる図9に概略的に示す。超急速冷凍装置100の図示する部分は、冷却媒体流路11を有する基板チップ10と、プラットホーム23及び/又はキャビティ24(部分的図示)を備えるサンプル担持体20と、を示す。第2実施形態は、流路状のサンプル担持体と同様に実現することができる。サンプル担持体20は、それぞれが一の局所的なオンチップ低温冷却器13を提供する複数の中空加熱可能支持体21を介して基板チップ10と接続される。図9の部分が、それぞれがサンプル担持体20を懸架するあるいは支持する複数の加熱可能支持体21によって繰り返されて、超急速冷凍装置100が完成する。
【0078】
本発明のマイクロフルイディクス超急速冷凍装置100の実現を、オンチップ低温冷却の有効性によって大きく単純化することができる。このために、ジュール=トムソン(Joule-Thompson)効果(以下及び図9を参照)によるオンチップ冷却を可能にするために、中空支持体設計の変形例を、スロットル構造21.2(ナノフルイディクス流路あるいは多孔性プラグ)と組み合わせて用いる。この概念は、マクロスケールでは、ガス液化に関するLindeサイクルの形でよく知られており、この原理に基づきマイクロ低温冷却器を構築する試みが最近行われている(Lerouら("Characterization of micromachined cryogenic coolers"("Journal of Micromech. and Microeng." vol. 17, 2007, p.1956-1960))を参照)。
【0079】
しかしながら、微細加工技術の使用にもかかわらず、先の報告例では、センチメートルのスケールより小さいスケールでの小型化(〜10mWの冷却力)を可能にする向流式熱交換器(counterflow heat exchanger)を通じて熱的損失を十分に低減することに成功していない。ミリワットのオーダーでの有効な冷却力においては、はるかに小さい冷却板が、放射及び空気対流によって熱的負荷を効果的に打ち消すために用いられる。熱交換器を懸架されているマイクロ流路と一体化し、それらの流路の端部においてモノリシックに製造された冷却板を支持することにより、既存の技術(熱交換器の断面に基づいた)より3桁以上優れた熱的絶縁が得られる。これにより、基板が室温にあり、かつ、絶縁された孤立部分のみ(数千〜数万平方μm)が低温で保持される、オンチップ冷却板を製造するための手段が提供される。
【0080】
また、いくつかの冷却ステージを段階的に行って次々により低い温度を達成すること、あるいは単一の冷却板に接続されるアレイ状の冷却器を形成してより高い冷却力を達成することも可能である。Joule-Thompson効果によって冷却するための一要件は、気体の初期温度が逆転温度(inversion temperature)より低いことである。窒素ガスの逆転温度は例えば室温(1気圧における649K)より高く、室温から液体窒素の沸点(77K)へと冷却する適当な媒体である。後のステージにおいて異なる媒体を用いることによって、そしてこれらの媒体を窒素で冷却されたステージを通じてまず通過させて広範囲な逆転温度を利用可能とすることよって、より低温が得られる。
【0081】
図10Aは、化学あるいは生化学的反応の急速な過渡応答の撮像に適合させた超急速冷凍装置100の第3実施形態の概略平面図を示す。超急速冷凍装置100は、それぞれが基板チップ10と接続されている複数のサンプル担持体20を備える。サンプル担持体20は、入口22.4及び出口22.5を有する複数の並列流路22を備える。サンプル担持体20は、生物学的細胞の電気穿孔法に適合するよう構成されている。このため図10Bの下側部分図に示すように、電気穿孔法電極22.6は流路22と一体化されている。
【0082】
電気穿孔法後の蛍光性分子の取り込み及び輸送を、蛍光性分子を含んでいる溶液において浮動している複数の細胞1、2、3、...を同時に撮像することで検査できる。細胞1、2、3...は、同時に時間t0で高電圧電気穿孔法パルスが印加される。次に、細胞1、2、3、...は、電気穿孔法時間t0の後に、複数の特定の遅延をもって冷凍される。光学顕微鏡観察による撮像によって、蛍光性分子の細胞内への輸送を測定することができる。
【0083】
図12は、本発明の超急速冷凍装置100の更に好ましい応用例を示す。図12Aでは、光学撮像を、(低温)集束イオンビーム(FIB)処理及びTEM撮像と組み合わせることができる。サンプル担持体20の流路22の幅は15μmであり、高さは1μm〜20μmである。底部壁及びカバー壁はSiO2(厚さ約1μm)で形成される。サンプルを、冷凍前、冷凍中、及び冷凍後、光学顕微鏡によってモニタすることができる。次に、チップ全体が、冷却条件でFIB装置へと転送される。チップが、従来のTEMグリッドの定位置に装着される、TEM装置へ転送された後、厚さ約50nmのサンプル担持体20のスライス22.7が得られる。
【0084】
図12Bでは、光学撮像を、TEM撮像及び/又はX線回折あるいはX線顕微鏡測定(FIB処理を用いない)と組み合わせることができる。幅が5μmで高さが3μmより低い流路22は、SiO2(厚さ50nm〜200nm)で形成された底部壁及びカバー壁を有する。ここでも、サンプルを、冷凍前、冷凍中、及び冷凍後、光学顕微鏡によってモニタすることができる。次に、サンプル担持体20は、基板チップから分離され、冷却条件でTEM装置、あるいはX線回折あるいはX線顕微鏡観察装置へと転送される。図13は、顕微鏡72、TEM73、電子断層撮影法装置74、あるいはX線回折あるいはX線顕微鏡観察装置75またあるいはそれらの組み合わせによる撮像を、本発明の超急速冷凍装置によって直接行なうことができることを示している。好ましくはサンプル担持体を検査するとき、上記装置を超急速冷凍装置にすぐ隣接して配置することができる。
【0085】
図12Bの右側部分は、開いた表面の検査に適した設計変更を示す。サンプル担持体20は、加熱可能支持体21によって懸架されている円形プラットホーム23を備える。円形プラットホーム23上には、表面張力に応じた湾曲面を有するサンプルの小滴を形成することができる。このような設計は、精液あるいは卵母細胞の低温保存には有用であろう。
【0086】
図12Cは、本発明の超急速冷凍装置100の開いたプラットホームの実施形態の応用を示す。サンプル担持体20は、局所的低温冷却器13(図9を参照)を同時に提供することができる、加熱可能支持体21によって支持されている構造的なプラットホーム23を備える。光学測定、TEM検査、SEM検査等、さらにはプラットホーム23内の一体電極によるサンプルの刺激を行うことができる。サンプルを薄い液体として、特に例えばプラットホームの3D表面構造のウェッティング(wetting)、エレクトロウェッティング(electrowetting)による液体除去あるいは薄いポリマーカバー(例えばPDMS)によるカバーによって形成された水を多く含んだフィルムとして、形成することができる。
【0087】
図14は、本発明の超急速冷凍装置100の他の動作サイクルを示す。非破壊的撮像を冷却された状態において行なうことができ、同時に、加熱状態においてサンプルの刺激あるいは更なる非破壊的撮像を行うことができる。冷凍及び解凍時のダメージを与える氷結晶化が高い冷却・加熱速度により抑えられるので、このサイクルを複数回繰り返すことができる。最後に、破壊的撮像を、冷却状態におけるサンプルの構造分析のために行うことができる。
【0088】
図15は、電子回路のような人工的対象をサンプル担持体20に収容する、本発明の実施形態を概略的に示す。基本的に、特に、基板チップ10、冷却リザーバ、熱電流源と接続された抵抗部に関しては、超急速冷凍装置は図1の実施形態と同様に構成される。サンプル担持体20に、例えば、磁界センサのような、電子回路あるいはコンポーネント24が収容される。電子部品24は、サンプル担持体20の固体材料に一体化される。
【0089】
上記説明、図面及び特許請求の範囲に開示した本発明の特徴は、種々の実施形態における発明の実現のために、個々にさらには組み合わせの両方で意義がある。
【符号の説明】
【0090】
100…超急速冷凍装置
1…サンプル
10…基板
11…流路
12…コンポーネント
12.1…凹部
12.2…シリコンポスト
13…局所的低温冷却器
14…底部
14.1…熱的絶縁
20…サンプル担持体
21…加熱可能支持体
21.1…抵抗部
21.2、21.3…層
22…流路
22.1…底部壁
22.2…側壁
22.3…カバー壁
22.4…入口
22.5…出口
22.6…電気穿孔法電極
22.7…スライス
22.8…サンプル
23…プラットホーム
24…キャビティ
25…シリコンピラー
25.1…供給チューブ
30…冷媒供給源
40…加熱電流源
41…電気的接続
45…スイッチングデバイス
50…放射源
55…低温生物学
60…マイクロフルイディクスデバイス
72…光学顕微鏡
73…TEM
74…電子断層撮影法装置
75…X線顕微鏡観察装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル(1)の冷却用に構成された超急速冷凍装置(100)であって、
前記サンプル(1)の冷却用に適合された基板チップ(10)と、
前記サンプル(1)を収容可能に構成されると共に、少なくとも一の加熱可能支持体(21)を備えた少なくとも一のサンプル担持体(20)と、
を備え、
前記少なくとも一のサンプル担持体(20)は前記基板チップ(10)に、前記少なくとも一の加熱可能支持体(21)を通じて取り付けられてなることを特徴とする超急速冷凍装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超急速冷凍装置であって、
前記少なくとも一のサンプル担持体(20)は、懸架状態で前記基板チップ(10)に取り付けられてなることを特徴とする超急速冷凍装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の超急速冷凍装置であって、
前記少なくとも一のサンプル担持体(20)は、流路(22)、プラットホーム(23)、隔壁、あるいはキャビティ(24)の少なくとも一を備えることを特徴とする超急速冷凍装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一に記載の超急速冷凍装置であって、
前記少なくとも一のサンプル担持体(20)の壁の厚さは、50nm〜、特に100nm〜、100μm以上まで、特に500μmまでの範囲で選択されてなることを特徴とする超急速冷凍装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一に記載の超急速冷凍装置であって、
前記少なくとも一のサンプル担持体(20)は、幅及び高さが100nm〜200μmまで、特に500nm〜50μmまでの範囲で設定された四角形断面を有することを特徴とする超急速冷凍装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一に記載の超急速冷凍装置であって、
前記少なくとも一のサンプル担持体(20)は流体流通装置を備えており、供給チューブ(25)が前記少なくとも一のサンプル担持体(20)と接続されてなることを特徴とする超急速冷凍装置。
【請求項7】
請求項6に記載の超急速冷凍装置であって、
前記少なくとも一のサンプル担持体(20)の中央部分は、前記供給チューブ(25)から熱的に絶縁されてなることを特徴とする超急速冷凍装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一に記載の超急速冷凍装置であって、
前記少なくとも一のサンプル担持体(20)は、前記サンプルの撮像及び前記サンプルに対する測定の少なくとも一に適合するよう構成されてなることを特徴とする超急速冷凍装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一に記載の超急速冷凍装置であって、
前記少なくとも一のサンプル担持体(20)及び前記少なくとも一の加熱可能支持体(21)は、熱伝導率が単結晶シリコンと同等以上の材料で形成されてなることを特徴とする超急速冷凍装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一に記載の超急速冷凍装置であって、
前記少なくとも一のサンプル担持体(20)及び前記少なくとも一の加熱可能支持体(21)は、単結晶シリコンで形成されてなることを特徴とする超急速冷凍装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一に記載の超急速冷凍装置であって、
前記少なくとも一の加熱可能支持体(21)は、抵抗加熱及び放射加熱の少なくとも一に適合するよう構成されてなることを特徴とする超急速冷凍装置。
【請求項12】
請求項11に記載の超急速冷凍装置であって、前記少なくとも一の加熱可能支持体(21)は、抵抗ヒータ(21.1)を有してなることを特徴とする超急速冷凍装置。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一に記載の超急速冷凍装置であって、
前記少なくとも一の加熱可能支持体(21)は、冷却媒体が供給可能な中空構造を有することを特徴とする超急速冷凍装置。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一に記載の超急速冷凍装置であって、
前記基板チップ(10)は、冷却リザーバ(11)及び少なくとも一のオンチップ低温冷却器(13)の少なくとも一を有してなることを特徴とする超急速冷凍装置。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一に記載の超急速冷凍装置であって、
前記少なくとも一のサンプル担持体(20)を、基板チップ(10)に対して温度勾配が形成される加熱状態と、基板チップ(10)に対して熱平衡が形成される冷却状態との間で切り替え可能に構成してなることを特徴とする超急速冷凍装置。
【請求項16】
請求項15に記載の超急速冷凍装置であって、
前記少なくとも一のサンプル担持体(20)を、少なくとも106K/sの冷却速度が得られるように、前記加熱状態と前記冷却状態との間で切り替え可能に構成してなることを特徴とする超急速冷凍装置。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一に記載の超急速冷凍装置であって、
複数のサンプル担持体(20.1、20.2、20.3)が、懸架状態で前記基板チップ(10)に取り付けられてなることを特徴とする超急速冷凍装置。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一に記載の超急速冷凍装置であって、さらに、
前記基板チップに冷却媒体を供給するよう構成された冷却材供給装置(30)と、
前記少なくとも一の加熱可能支持体(21)に加熱電流を供給するよう配置されてなる電流源(40)と、
前記少なくとも一の加熱可能支持体(21)を照射するよう配置されてなる放射源(50)と、
前記少なくとも一のサンプル担持体(20)を加熱状態と冷却状態との間で切り替え可能に構成されてなるスイッチングデバイス(45)と、
前記少なくとも一のサンプル担持体(20)への前記サンプル、媒体及び/又は化学物質の送出を制御するよう構成されてなるマイクロフルイディクスデバイス(60)と、
少なくとも一のセンサ装置(71)と、
光学顕微鏡(72)と、
透過型電子顕微鏡(73)と、
電子断層撮影装置(74)と、
X線回折装置(75)と、
集束イオンビーム装置(76)
の内、少なくとも一を備えてなることを特徴とする超急速冷凍装置。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか一に記載の超急速冷凍装置であって、
前記サンプル(1)は、電子回路、SQUID装置を用いる磁界センサ及び光検出器の少なくとも一を備えており、
前記サンプル(1)は、前記少なくとも一のサンプル担持体(20)と一体的に接続されてなることを特徴とする超急速冷凍装置。
【請求項20】
サンプル(1)を超急速冷凍する方法であって、
少なくとも一の加熱可能支持体(21)を通じて基板チップ(10)に取り付けられるサンプル担持体(20)に、前記サンプル(1)を配置するステップであって、前記基板チップ(10)が前記サンプル(1)の冷凍温度よりも低い冷却温度に調整されるステップと、
前記サンプル担持体(20)が、温度勾配が前記サンプル担持体(20)と前記基板チップ(10)との間で形成される加熱状態となるよう、前記少なくとも一の加熱可能支持体(21)を加熱するステップと、
前記サンプル担持体(20)が、温度平衡が前記サンプル担持体(20)に対して形成される冷却状態となるよう、前記少なくとも一の加熱可能支持体(21)の前記加熱を停止するステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項20に記載の超急速冷凍方法であって、
前記冷却状態にある前記サンプル(1)の温度は、0℃より低く、特に−140℃より低いことを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項20から21のいずれかに記載の超急速冷凍方法であって、
前記冷却状態への前記サンプル担持体(20)の前記冷却は、106K/sのオーダーの冷却速度で行われることを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項20から22のいずれか一に記載の超急速冷凍方法であって、
前記サンプル(1)は、前記冷却状態にあるとき低温固定条件下となる生体サンプルであることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項20から23のいずれか一に記載の超急速冷凍方法であって、
前記冷却状態にある前記サンプル(1)は、ガラス化状態にあることを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項20から24のいずれか一に記載の超急速冷凍方法であって、
前記サンプル(1)は、前記サンプル担持体(20)と接続された供給チューブ(25)を通じて、前記サンプル担持体(20)に配置されてなることを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項25に記載の超急速冷凍方法であって、
泡の形成を通じて前記供給チューブ(25)から前記サンプル担持体(20)の中央部分を熱的に絶縁するステップ
を含むことを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項26に記載の超急速冷凍方法であって、
前記泡は、注入、電気分解あるいは一時的局所加熱の少なくとも一によって形成されることを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項20から27のいずれか一に記載の超急速冷凍方法であって、
前記冷却状態への前記サンプル担持体(20)の前記冷却は、前記サンプル担持体(20)の中央部からその長手方向の端部へと移動する過渡的な冷凍フロントを、前記サンプル(1)内に形成することを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項20から28のいずれか一に記載の超急速冷凍方法であって、
前記基板チップ(10)は、液体窒素、半分解凍された窒素、液体エタンあるいはヘリウムの少なくとも一を用いて冷却されてなることを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項20から29のいずれか一に記載の超急速冷凍方法であって、
前記サンプル(1)は、生体サンプル、電子回路、SQUID装置を用いる磁界センサ、光検出器あるいは化学反応分析の少なくとも一を含むことを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項30に記載の超急速冷凍方法であって、
前記生体サンプル(1)は、生物学的細胞、細胞群、細胞小器官、バクテリア、ウィルス及び生物学的高分子の少なくとも一を含むことを特徴とする方法。
【請求項32】
請求項31に記載の超急速冷凍方法であって、
生体サンプル(1)は、単一の生物学的細胞を含むことを特徴とする方法。
【請求項33】
請求項20から32のいずれか一に記載の超急速冷凍方法であって、さらに、
前記サンプル担持体(20)が、前記生体サンプル(1)が培養条件下にある加熱状態へと再加熱されるよう、前記少なくとも一の加熱可能支持体(21)をさらに加熱するステップと、
培養、刺激、検出、モニタ及び処理ステップの少なくとも一を前記生体サンプル(1)に行うステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項34】
請求項33に記載の超急速冷凍方法であって、さらに、
前記少なくとも一の加熱可能支持体(21)の前記加熱を停止することによって、前記冷却状態へと前記サンプル担持体(20)を冷却するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項35】
請求項34に記載の超急速冷凍方法であって、
前記加熱ステップ及び前記冷却ステップは、前記サンプル(1)を可逆的超急速冷凍を複数回行うよう繰り返されることを特徴とする方法。
【請求項36】
請求項20から35のいずれか一に記載の超急速冷凍方法であって、
冷却材供給装置(30)を用いて、前記基板チップに、特に冷却リザーバ(11)及び/又はその少なくとも一のオンチップ低温冷却器(13)に冷却媒体を供給するステップ、
電流源を用いて前記少なくとも一の加熱可能支持体(21)に加熱電流を供給するステップ、
放射源(50)を用いて前記少なくとも一の加熱可能支持体(21)を照射するステップ、
マイクロフルイディクスデバイス(60)を用いて前記少なくとも一のサンプル担持体への前記生体サンプル、成長媒体及び/又は化学物質の送出を制御するステップ、
少なくとも一のセンサ装置(71)を用いて前記生体サンプルの少なくとも一のパラメータとを検出するステップ、
光学顕微鏡(72)、透過型電子顕微鏡(73)、電子断層撮影装置(74)、又はX線回折あるいはX線顕微鏡検査の装置(75)を用いて前記冷却状態にある生体サンプルをモニタするステップ、
集束イオンビーム装置(76)を用いて前記冷却状態にある前記サンプル(1)を処理するステップの、少なくとも一を含むことを特徴とする方法。
【請求項37】
請求項1から19のいずれか一に記載の超急速冷凍装置を用いた生体材料の低温固定の方法及び/又は請求項20から36のいずれか一に記載の生体材料の低温固定の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2011−508185(P2011−508185A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534405(P2010−534405)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際出願番号】PCT/EP2008/009825
【国際公開番号】WO2009/065585
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(501497655)マックス プランク ゲゼルシャフト ツゥアー フェデルゥン デル ヴィッセンシャフテン エー フォー (10)
【Fターム(参考)】