説明

超音波探傷試験体の表面形状の同定方法並びに同定プログラム、開口合成処理プログラム及びフェーズドアレイ探傷プログラム

【課題】超音波を試験体に入射させたときの表面からの反射波を利用して試験体の表面形状を把握可能とする。
【解決手段】表面形状が変化した形状変化部を有する試験体の表面に、前記試験体の表面形状に沿って形態を変化させうる媒質を介してフェーズドアレイを配置し、前記フェーズドアレイの各振動子毎に超音波を試験体に向けて射出させて表面エコーを受信し、各振動子毎に取得された前記試験体の表面からの反射波を検出して各振動子から前記試験体の表面までのビーム路程を求めると共に、各振動子を中心とし各振動子毎に求まるビーム路程を半径とする円を想定し、隣り合う振動子を中心とする前記円の共通外接線を求め、前記共通外接線が求まる区間では前記共通外接線上の点を二次補間したものを試験体表面と同定し、前記共通外接線が求まらない区間ではそれら振動子間を形状変化の境界と判断して、各区間で得られた共通外接線上の点を二次補間し、これを外挿して前記境界における表面形状として同定し、試験体表面形状を求めるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探傷法を適用する試験体の表面形状を同定する方法並びに同定プログラム、開口合成処理プログラム及びフェーズドアレイ探傷プログラムに関する。さらに詳述すると、本発明は、フェーズドアレイを用いた超音波探傷において好適な試験体の表面形状を同定する方法並びに同定プログラム、開口合成処理プログラム及びフェーズドアレイ探傷プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
配管溶接部の探傷においては、超音波探触子の機械走査が溶接余盛により制限されるため、形状変化部表層域の探傷が困難となる。このように探触子のアクセスが悪い場合、配管内側裏面に超音波ビームを反射させて探傷する一回反射法が有効である。しかし、この一回反射法では、超音波の拡散減衰や裏面形状による超音波の散乱、伝播方向の変化などの影響で直射法と比較すると探傷精度は低下する。
【0003】
一方、火力発電設備における高温高圧配管では、高クロム鋼が使用されており、同材料の溶接継手における熱影響部細粒域に、クリープによるタイプIV損傷が発生することが確認されている。このタイプIV 損傷は火力発電設備の構造健全性確保の面で重要な問題である。タイプIV損傷は、熱影響部細粒域に肉厚内部から発生するクリープによる損傷形態であり、溶接熱影響部細粒域に沿って発生し、溶接止端部下側の表層域で進行する場合がある。このため、図15に示すように溶接止端部下側の表層域の探傷においては、接近限界により探触子の機械走査が制限され、また、タイプIV損傷の傾きによっては入射した超音波がほとんど返ってこない場合がある。さらに、タイプIV き裂発生前のクリープボイドが密集し始めた段階では、超音波探傷により得られる信号強度が微弱であるため検出が困難である。
【0004】
このことから、余盛のような形状変化部の上から直射法で探傷できるフェーズドアレイ法や開口合成法の開発が要望されている。特に、タイプIV き裂発生前のクリープボイドが密集し始めた段階では、超音波探傷により得られる信号強度が微弱であるため検出が困難であるが、信号増幅や方位分解能、SN比の向上が可能な開口合成法を適用することで検出性能の向上が期待できる。
【0005】
従来、形状変化部の上から直射法で超音波探傷を行う手法としては、試験体の表面形状に沿って形態を変化させうる媒質、例えば水やジェルなどの媒質をウェッジの代わりに用いる局部水浸法などが一般的である。しかしながら、フェーズドアレイ法や開口合成法は、表面形状が平坦な試験体に対して適用されることを前提としている(特許文献1〜3、非特許文献1〜3)。したがって、この局部水浸法などにフェーズドアレイ法による探傷を単に適用しても、平坦な試験体表面形状を想定した遅延制御では、余盛形状により超音波ビームが集束しなかったり、設定した方向に伝播しない場合がある。また、開口合成法を単に適用する場合においても、同様である。そこで、超音波試験に先立って、表面形状の測定技術として一般的な型取りを用いた機械的測定やレーザー変位計測等によって試験体の表面形状をあらかじめ把握することにより、余盛形状に応じた超音波の伝播経路を計算し、各振動子の遅延時間を制御したり、受信波形の位相を合わせたりする必要がある。
【0006】
また、最近では、フェーズドアレイ探触子の振動子群が1つずつ上下動可能に支持されると共に常時試験体表面に向けて付勢されるようにしたものが提案されている(非特許文献4)。このフェーズドアレイ探触子によれば、形状変化部に沿って振動子の1つ1つを可動し、この可動量をもって表面形状を機械的に測定しながら、各振動子の励振を遅延制御して、複雑形状部の上から超音波ビームを集束させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−201569号公報
【特許文献2】特開平10−142201号公報
【特許文献3】特開2008−122209号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】H. Karasawa, M. Izumi, T. Suzuki, S. Nagai,M. Tamura and S. Fujimori, “Development of under sodium 3D visual inspection technique by using matrix-arrayed ultrasonic transducer”, Journal of Nuclear Science and Technology, 37 (2000), pp. 769-779.
【非特許文献2】阿部素久、黒沢博一著 「ポータブルタイプ3D超音波検査装置Matrixeye」東芝レビューVol.60 No.4、48-51、2005年
【非特許文献3】唐沢博一、磯部英夫、浜島隆之著「3次元開口合成(3D-SAFT)アレイと適用事9例」非破壊検査Vol.56 No.10、520-524、2007年
【非特許文献4】S. Chatillon, G. Cattiaux, M. Serre and O. Roy, “Ultrasonic non-destructive testing of pieces of complex geometry with flexible phased array transducer”, Ultrasonics, Vol. 38, pp. 131-134, 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、超音波試験に先立って、予め表面形状を把握するために、型取りを用いた機械的測定やレーザー変位計測等を実行する場合、探傷器の他の測定機器を設置してから検査するため多くの検査時間を要すると共に、探傷器の他の測定機器を必要とするために費用が増大する問題がある。
【0010】
また、非特許文献4で提案されている手法では、振動子自体が試験体の表面形状に沿って個々に変位することで接触するようにしているので、スネルの法則による横波入射ができず、縦波斜角探傷に限られるという問題がある。横波は縦波と比較して一般に分解能に優れることから、超音波探傷により得られる信号強度が微弱な傷、例えばタイプIV き裂発生前のクリープボイドが密集し始めた段階を検出するには、横波斜角探傷も行えるようにすることが望まれる。
【0011】
そこで、本発明は、超音波を試験体に入射させたときの表面からの反射波を利用して試験体の表面形状を把握可能とする超音波探傷試験体の表面形状の同定方法並びに同定プログラム、開口合成処理プログラム及びフェーズドアレイ探傷プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するため、本発明者等が種々研究した結果、ビームの広がりにより試験体の表面で反射が起きる座標を特定することで、試験体表面を再現することが可能であり、超音波を試験体に入射させたときの表面からの反射波を利用して表面形状の同定が可能であることを知見するに至った。本発明は、かかる知見に基づいて行われたものであって、超音波を試験体に入射されたときの表面からの反射波を利用して表面形状の測定を行うようにしている。
【0013】
即ち、請求項1記載の発明にかかる試験体の表面形状同定方法は、表面形状が変化した形状変化部を有する試験体の表面に、前記試験体の表面形状に沿って形態を変化させうる媒質を介してフェーズドアレイを配置し、前記フェーズドアレイの各振動子毎に超音波を試験体に向けて射出させて表面エコーを受信し、各振動子毎に取得された前記試験体の表面からの反射波を検出して各振動子から前記試験体の表面までのビーム路程を求めると共に、各振動子を中心とし各振動子毎に求まるビーム路程を半径とする円を想定し、隣り合う振動子を中心とする前記円の共通外接線を求め、前記共通外接線が求まる区間では前記共通外接線上の点を二次補間し、これを試験体表面と同定し、前記共通外接線が求まらない区間ではそれら振動子間を形状変化の境界と判断して、各区間で二次補間し得られた曲線を外挿して前記境界における表面形状として同定し、試験体表面形状を求めるようにしている。
【0014】
また、請求項2記載の発明にかかる試験体の表面形状同定プログラムは、表面形状が変化した形状変化部を有する試験体の表面に、前記試験体の表面形状に沿って形態を変化させうる媒質を介して配置されたフェーズドアレイの各振動子毎に超音波を試験体に向けて射出させて表面エコーを受信するステップと、各振動子毎に取得された前記試験体の表面からの反射波を検出して各振動子から前記試験体の表面までのビーム路程を求めるステップと、各振動子を中心とし各振動子毎に求まるビーム路程を半径とする円を想定し、隣り合う振動子を中心とする前記円の共通外接線を求めるステップと、前記共通外接線が求まる区間ではそれら円の接点を二次補間し試験体表面として特定しかつ前記前記共通外接線を試験体表面と同定するステップと、前記共通外接線が求まらない区間ではそれら振動子間を形状変化の境界と判断し、各区間で得られた共通外接線上の点を二次補間したものを外挿して作成した曲線を前記境界における表面形状として同定するステップとを、コンピュータに実行させて試験体表面形状を求めるようにしている。
【0015】
また、請求項3記載の発明にかかる開口合成処理プログラムは、表面形状が変化した形状変化部を有する試験体の表面に、前記試験体の表面形状に沿って形態を変化させうる媒質を介して配置されたフェーズドアレイの各振動子毎に超音波を試験体に向けて射出させて表面エコーを受信するステップと、各振動子毎に得られた前記試験体の表面からの反射波を検出して各振動子から前記試験体の表面までのビーム路程を求めるステップと、各振動子を中心とし各振動子毎に求まるビーム路程を半径とする円を想定し、隣り合う振動子を中心とする前記円の共通外接線を求めるステップと、前記共通外接線が求まる区間ではそれら円の接点を二次補間し、試験体表面として特定しかつ前記前記共通外接線を試験体表面と同定するステップと、前記共通外接線が求まらない区間ではそれら振動子間を形状変化の境界と判断し、各区間で得られた共通外接線上の点を二次補間したものを外挿して作成した曲線を前記境界における表面形状として同定するステップと、同定された前記試験体表面形状を用いて試験体内部の探傷範囲の任意の区画から振動子までの超音波の伝播距離を受信する振動子毎に演算するステップと、各振動子毎の超音波の伝播経路に基づいて各受信素子で受信されるAスコープ波形信号の遅れを修正するように波形の位相をシフトし、波の位相を揃えた状態で重ね合わせる開口合成処理と、位相操作された後の探傷画像をディスプレイに描写させるステップとをコンピュータに実行させるようにしている。
【0016】
さらに、請求項4記載の発明にかかるフェーズドアレイ探傷プログラムは、表面形状が変化した形状変化部を有する試験体の表面に、前記試験体の表面形状に沿って形態を変化させうる媒質を介して配置されたフェーズドアレイの各振動子毎に超音波を試験体に向けて射出させて表面エコーを受信するステップと、各振動子毎に得られた前記試験体の表面からの反射波を検出して各振動子から前記試験体の表面までのビーム路程を求めるステップと、各振動子を中心とし各振動子毎に求まるビーム路程を半径とする円を想定し、隣り合う振動子を中心とする前記円の共通外接線を求めるステップと、前記共通外接線が求まる区間ではそれら円の接点を二次補間し、試験体表面として特定しかつ前記前記共通外接線を試験体表面と同定するステップと、前記共通外接線が求まらない区間ではそれら振動子間を形状変化の境界と判断し、各区間で得られた共通外接線上の点を二次補間したものを外挿して作成した曲線を前記境界における表面形状として同定するステップと、同定された前記試験体表面形状を用いて試験体内部の探傷範囲の任意の区画から全ての振動子までの超音波の伝播距離を演算するステップと、各振動子毎の超音波の伝播経路に基づいて各振動子の遅延時間を算出するステップと、前記遅延時間に基づいて前記振動子を制御してフェーズアレイ探傷を実施するステップと、探傷画像をディスプレイに描写させるステップとをコンピュータに実行させるようにしている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の超音波探傷試験体の表面形状の同定方法並びに同定プログラムによれば、探傷器の振動子毎に送受信する超音波ビームを利用して、中央演算処理装置による演算で表面形状を算出することができるので、検査に要する時間はほとんど変わらない上に、フェーズドアレイを利用して測定できるので、別の測定装置や器具などを必要とせず、設備費用もほとんどかからない。
【0018】
また、本発明の開口合成処理プログラムによると、探傷器の振動子毎に送受信する超音波ビームを利用して、中央演算処理装置による演算で表面形状を算出すると共に、該表面形状データを用いて受信する振動子毎の超音波の伝播経路に基づいて各受信素子で受信されるAスコープ波形信号の遅れを修正するように波形の位相をシフトし、波の位相を揃えた状態で重ね合わせる開口合成処理を実行できるので、試験体の内部の探傷領域の全域において微弱な信号強度の増幅や方位分解能、SN比の向上が行われて高い方位分解能を維持しつつ微弱なエコーが検出できる。依って、溶接余盛のような形状変化部表層域の探傷を可能とする。しかも、集束させない拡がりの大きい超音波ビームを入射させるため、高クロム鋼が使用されている高温高圧配管の溶接継手における熱影響部細粒域に発生する図15に示すような溶接止端部下側の表層域のタイプIV損傷即ち超音波の伝播方向とタイプIV損傷が平行である場合においても、さらには、タイプIV き裂発生前のクリープボイドが密集し始めた段階の欠陥を検出することが期待できる。
【0019】
また、本発明のフェーズドアレイ探傷プログラムによると、探傷器の振動子毎に送受信する超音波ビームを利用して、中央演算処理装置による演算で表面形状を算出すると共に、該表面形状データを用いて試験体内部の探傷範囲の任意の区画から全ての振動子までの超音波の伝播距離を演算して、各振動子の遅延時間を算出することができるので、遅延時間に基づいて振動子の発信を制御してフェーズアレイ探傷を実施することができる。したがって、探傷領域の全領域で予め求められた表面形状に応じて順次超音波ビームが集束するように送受信が繰り返されるので、高精度に探傷することができる。このフェーズドアレイ探傷においても、上述の開口合成処理と同等の探傷を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明にかかる超音波探傷試験体の表面形状の同定方法の原理図である。
【図2】超音波探傷試験体の表面形状の同定方法によって同定された試験体の表面形状データを用いて開口合成処理する場合の原理図である。
【図3】試験体表面から反射する超音波ビームの状態を示す説明図で、(a)は通常の平坦な面、(b)は傾斜面での反射を示すものである。
【図4】共通接線による試験体表面形状の決定方法を示す説明図で、(a)は試験体と振動子との関係を示す図、(b)は振動子間の共通外接線を示す図である。
【図5】二次関数による表面形状の近似を示す説明図である。
【図6】2点間の経路の決定方法を示す説明図である。
【図7】探触子位置と集束点間の経路の決定方法を示す説明図である。
【図8】開口合成法の計算方法を示す説明図である。
【図9】表面形状同定方法の有効性の検証に使用した複雑形状部に横穴を有する試験体の平面図及び側面図であり、(a)は突き合わせ溶接の形状を模擬した試験体、(b)形状不連続部溶接部の形状を模擬した試験体を示す。
【図10】表面形状測定モデルであり、(a)は突き合わせ溶接モデルにおける垂直探傷、(b)は突き合わせ溶接モデルにおける斜角探傷、(c)は形状不連続部溶接モデルにおける斜角探傷の例を示す。
【図11】図10の(a)〜(c)に示す試験体表面形状の測定結果を示すグラフであり、(a)は突き合わせ溶接モデルにおける垂直探傷、(b)は突き合わせ溶接モデルにおける斜角探傷、(c)は形状不連続部溶接モデルにおける斜角探傷の結果をそれぞれ示す。
【図12】突合せ溶接モデルにおけるBスコープ画像であり、(a)はフェーズドアレイ法、(b)は本発明の開口合成法によるものを示す。
【図13】形状不連続部溶接モデルにおけるBスコープ画像であり、(a)はフェーズドアレイ法により横波成分と縦波成分とによる横穴からのエコーを、(b)は本発明の開口合成法により横波成分による横穴からのエコーを、(c)は本発明の開口合成法により縦波成分による横穴からのエコーをそれぞれ示す。
【図14】形状変化部における超音波ビームの屈折を示す説明図である。
【図15】溶接余盛形状変化部表層域の探傷を示す説明図である。
【図16】開口合成処理の全体の手順を示すフローチャートである。
【図17】表面形状の同定の手順を示すフローチャートである。
【図18】開口合成処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の構成を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0022】
探触子1から送信された超音波ビーム4は、一部が試験体2の内部に伝播し、一部が試験体2の表面で反射する。通常、超音波探触子は試験体表面からのエコーがウェッジ内で吸収されて探触子で検出しないように配慮されており、試験体内部からのエコーのみを検出するように設けられている。本発明の形状変化部を有する試験体の表面形状同定方法は、試験体表面からのエコーを積極的に利用することにより、表面形状を同定するものである。
【0023】
ここで、超音波ビーム4は、試験体2の表面に対して垂直な反射波が探触子1に検出される。したがって、広がりのある超音波の場合、図1に示すように、試験体2の表面と振動子1の面とが平行なときには試験体表面と振動子面との双方に垂直な振動子直下の試験体表面からのエコーが検出され、試験体表面と振動子面とが非平行なときには試験体表面と垂直なエコーが検出される。しかしながら、検出信号だけでは超音波が振動子直下の試験体表面で反射されたものか、振動子直下から離れた地点で反射されたものかは判断できない。このため、斜面で反射したものは、図1のA’点で反射したものと推定され、実際の振動子直下の試験体2の表面上の点Aとの間に誤差が生ずる。このため、試験体の表面エコーから導き出されるビーム路程を単純に繋ぐことで形状を特定しても、表面形状に誤差が生ずることとなる。
【0024】
即ち、図3(a)に示すように超音波ビームの伝播方向と試験体表面の法線方向が平行な場合は、ビーム路程を実距離として計算すれば、表面反射波の受信エコーまでのビーム路程が振動子面から試験体表面までの距離である。しかし、図3(b)のようにビームの伝播方向と試験体表面の法線方向が傾いている場合は、表面に垂直に入射する波(図中に実線矢印で示す)による反射波が受信され、これを用いて振動子面と試験体表面の距離を算出すると、図中のΔyだけ誤差が生ずる。試験体表面が平坦な場合は、入射角度が一様なためΔyの補正が容易であるが、表面形状が途中で変化する試験体では補正は困難である。そこで、ビームの拡がりにより表面反射が起きる座標を特定することにより、試験体表面を再構成することを考えた。
【0025】
図4に示すように、反射波が得られる試験体表面が隣接する振動子間で直線であると仮定すれば、振動子を中心とし、表面からのエコーが現れるビーム路程rを半径として円を考え、隣接する振動子が描写する円との接線が試験体表面となる。本発明では、接線と円の接点を試験体表面の座標と考えることとした。この方法では、拡がりが大きいビームを用いた方が傾斜の大きい試験体表面からも反射波が得られるが、図5に示す隣接する振動子A、Bにおいて、振動子の中心間距離Δxより表面エコーが現れるビーム路程差Δrが大きい場合は、共通接線が作成できなくなる。これは振動子間で測定する表面の形状変化が著しい場合に起き、例えば突合せ溶接における余盛のように母材から溶金が盛り上がって形状変化が起き始める点などで起こる。そこで、本発明では、このような共通接線が作成できない点を境界として、形状変化の傾きが不連続になると考えた。そして、突合せ溶接の余盛形状は二次関数で近似できると仮定し、その境界で区切り、各区間での表面座標を二次補間することとした。
【0026】
以下に、表面形状同定方法の手順を図16及び図17に基づいてさらに具体的に示す。
まず、表面形状が変化した形状変化部を有する試験体2の表面に、試験体の表面形状に沿って形態を変化させうる媒質3を介してフェーズドアレイ1を配置する。このとき、アレイ探触子1は治具5などで固定され、試験体の表面との間の間隔が保たれる。ここで、探傷器のフェーズドアレイ1と試験体2との間に介在される媒質3は、例えば水などの液体あるいはジェルなどの半固形体の使用が好ましい。水を媒質として用いる場合、一般に局部水浸法と呼ばれる探傷法においてフェーズドアレイを用いたものとなる。
【0027】
次に、超音波探傷器で、1素子を用いたリニア電子走査により、各探触子位置において試験体の表面反射に起因する振幅を検出する(S1)。つまり、フェーズドアレイの各振動子毎に超音波を試験体に向けて射出させて表面エコーを取得する。例えば、64素子のフェーズドアレイを用いる場合、1素子の送受信を順番に1素子から64素子まで繰り返して、各振動子毎の表面エコーを取得する。
【0028】
次に、各振動子毎に取得された表面反射に起因する振幅が現れるまでのビーム路程、即ち各振動子から反射が起きた試験体の表面までのビーム路程を求める(S3−1)。
【0029】
そして、各振動子を中心とし各振動子毎に求まるビーム路程を半径とする円を想定し、隣り合う振動子を中心とする円の共通外接線を計算によって求める(S3−2)。尚、2つの円の共通接線は、2つの円の半径(ビーム路程)と、2つの円の中心距離(振動子間隔)とが定まれば計算できるものであり、既にその共通接線を計算する方程式は導出され公知であるあることから説明を省略する。
【0030】
次に、2つの振動子の間の区間で共通外接線が求まったか否かを判断し(S3−3)、共通外接線が求まったときにはさらに全振動子について共通外接線を求める処理を行ったか否かを判断する(S3−5)。即ち、共通外接線を順次作成しながら、共通接線が作成できない境界を探索する。そして、共通外接線が求まらないときには、その振動子区間を境界と判断してフラグjを立てあるいはフラッグjに1を加算してその振動子区間を境界と特定し(S3−4)、ステップS3−5にジャンプする。そして、全振動子について共通外接線を求める処理が加算されていないときには、振動子のフラグiに1を加算して(S3−6)、ステップS3−2の前にジャンプし、次の振動子についてステップS3−2〜S3−5を繰り返す。そして、全振動子について共通外接線を求める処理が完了したときに、ステップS3−7に移る。
【0031】
次いで、ステップS3−7において、初期値をk=1とし,境界と判断される区間kとk+1内の共通外接線上の点のグループを二次補間し、これら二次補間したものを試験体表面として同定する。次いで、境界と判断される区間を全てについて二次補間したか否かを判断し(S3−8)、終了していない場合にはステップS3−9でフラグkに1を加算し、ステップS3−7にジャンプし、該当区間内の共通外接線上の点のグループを二次補間する。
【0032】
次いで、それぞれグループの二次曲線を互いの交点まで外挿して繋げたものを表面形状として同定する。この各交点の間に対応する二次曲線がその交点(x座標)間の表面座標となる(S3−10)。試験体の表面形状データは、例えば、1番目の振動子の位置を原点としたx−y平面を考え、振動子の並んだ方向をx軸方向、ビーム路程方向をy軸方向とし、二次曲線をy=ax+bx+cとしてメモリに格納される(S3−11)。具体的には、境界を境とする2つの共通外接線が得られる区間のグループの2つの二次曲線の係数a,b,cがメモリに保存される。そして、必要に応じて、PCのディスプレイに画像表示されたり、開口合成処理やフェーズドアレイ探傷に用いられる。勿論、試験体の表面形状データは、作業メモリなどに一時的にストアし、次工程の開口合成処理あるいはフェーズドアレイ探傷に向けた演算処理に用いられるようにしても良い。
【0033】
以上の計算と表面形状等の同定とは、パーソナルコンピュータ(PC)のROMなどの記憶媒体に格納されているプログラムによって、パーソナルコンピュータに実行させるものである。ここで、超音波探傷器とPCとは、探傷器で取得した表面エコーデータをPCに取り込んだ後はオフラインとしてPC内で処理し、PCのディスプレイに画像表示するようにしているが、これに特に限られるものではない。
【0034】
以上の手順により試験体表面形状を同定すれば、その表面形状データを用いて振動子から放射された超音波ビームが試験体内の点に達するまでの経路を計算することができる。
例えば、波は2点間を伝播するのに要する時間が最小となる経路を進むというフェルマーの原理に従って伝播経路を計算することができる。いま、図6に示すように直交座標系x−yが定義され、y=ax+bx+cで記述される境界線で媒質1と2が区分されている。このとき、媒質1の点P(x,0)と、媒質2の点Q(x+x+x,y+y)の2点間の伝播経路を考えると、幾何学的に次式が成り立つ。
tanθ+(y−y)tanθ=x−x (3-1)
sin(θ+θ)=Csin(θ+θ) (3-2)
tanθ=2a(x+x)+b (3-3)
=a(x+x+b(x+x)+c (3-4)
ここで、CとCは媒質1と2の音速である。上式は非線形であるため、逐次近似などで角度を決定する必要がある。式を微分し整理すると次の式が得られる。

(3-5)
δx=0になるように上式に逐次近似を適用することで、θ,θ,θ,yを計算できる。本手法では試験体表面を複数の二次曲線で近似しており、経路が複数あるため、逐次計算を行う際には初期値を与える曲線を決定する必要がある。
【0035】
以下において、初期値の与え方も含めた超音波ビーム伝播経路の決定方法を説明する。図7に示すx−y直交座標系を定義する。
1)試験体表面をn個に分割し、分割点をS(i=1,n)とする。
2)試験体内の任意点Qを起点として、フェルマーの原理に従って試験体表面上の各点
を透過し探傷面に達する点をX(i=1,n)とする。
3)振動子Pを間に挟む点X,Xi+1を探索し、Pと点XおよびXi+1とのx軸方向の
距離をそれぞれΔxおよびΔxi+1とおく。
4)試験体表面上の点Rを考え、Rと点SおよびSi+1とのx軸方向距離をそれぞれΔ
およびΔsi+1とおくとき、Δs:Δsi+1=Δx:Δxi+1を満たすx座標を
点Rのx座標とする。
5)点Rを初期値として、式(3-5)の逐次計算よりフェルマーの原理を満たす座標を決
定する。
6)線分PRおよびQRがRが存在する表面以外の表面近似曲線と交差していないかを
確認し、伝播経路を決定する。
【0036】
そして、上述の手順をコンピュータで実行し形状変化部に入射した超音波の伝播経路を決定すれば、以下の方法で任意点の振幅を計算することができる。即ち、表面形状が変化した形状変化部を有する試験体に対して開口合成処理が実行できる。
図8に示すように、Bスコープ画像内の着目する画素Q(x,y)の振幅値E (x,y)は、振動子位置P(x,0)で得られたAスコープ波形S(x,t)を用いて次式で計算される。

(3-6)
ここで、
およびc:媒質1および2の音速
N:素子の総数
(x,y,x):振動子位置P(x,0)から超音波が画素Q(x,y)にフェル マーの原理を満たすように到達するまでの経路上で、P(x, 0)から媒質1と媒質2の境界上の点までの距離
(x,y,x):上記経路のうち境界上の点から画素Q(x,y)までの距離
である。
【0037】
具体的には、開口合成処理プログラムは図16に示す以下の手順を超音波送信器並びにそれに接続されたPCの各々の中央演算処理部において実行させる。
1)送受信に1素子を用いたリニアスキャンを超音波探傷器で実行して、各振動子毎の表面反射データを取得する(S1)。
2)受信した表面反射波から試験体表面形状の座標をコンピュータの演算処理で決定する(S3)。具体的には、上述の1),2)のステップ(S1,S3)は、図17に示すように、超音波探傷器から取り込んだ試験体の表面エコーのデータ(S1)を基に表面形状同定処理(S3−1〜S3−12)をコンピュータで実行することにより、y=ax+bx+cの二次曲線で表される試験体の表面形状データを算出する。
3)また、超音波探傷器で試験体内部を探傷し、受信波形を取得する(S2)。例えば、複数振動素子を同時送信させるリニアスキャンを行って試験体内部の探傷のための探傷領域の内部エコーのデータを取得する。
4)そして、上記2)のステップ(S3)で決定した表面形状座標から、素子Pから表面Rを通過して試験体内の点Qに達する超音波の伝播経路を決定する(S4)。即ち、試験体内部の探傷範囲をメッシュ状に区画し、同定された試験体表面形状に基づいて受信する振動子毎の各メッシュから振動子までの超音波の伝播距離を演算する。
5)上記4)で決定した経路に対応する受信波形の振幅をQ点の振幅に加算する(S5−1)。
6)試験体内のQ点を移動させながら上記4および5を繰り返す(S5−2)。つまり、探傷範囲の全区画に対して各振動子毎の超音波の伝播経路に基づいて各受信素子で受信されるAスコープ波形信号の遅れを修正するように波形の位相をシフトし、波の位相を揃えた状態で重ね合わせる開口合成処理を行う(S5)。
本実施例においては、表面エコーのデータと内部エコーのデータとは連続してPCに取り込まれ、その後、オフライン状態のPC(パーソナルコンピュータ)で振動子毎の表面エコーを利用して表面形状を演算して同定し、さらにこの同定された表面形状データを利用して内部エコーを受信する振動子毎の試験体内部の任意の点までの超音波の伝播経路を求めて、その伝播経路に応じて各振動子毎に受信したAスコープ波形信号の遅れを修正するように波形の位相をシフトし、波の位相を揃えた状態で重ね合わせる開口合成処理を行うようにしている。そして、開口合成処理により生成された探傷画像をPCのディスプレイに表示させるようにしている(S6)。
【0038】
尚、本実施形態の場合、ステップ1及び2では、ともに表面エコーと内部エコーを取得しているが、ステップ1では表面エコーを利用し、ステップ2では試験体内部のエコーを利用している。したがって、ステップ1の1素子による送信で試験体内部のエコーに内在き裂からのエコーが受信できる場合には、1回のスキャンで取得されるエコーデータで試験体の表面形状の同定と、内部の探傷とが実施できるので、ステップ2のデータ取得は必要なくなる。即ち、本実施形態では、試験体の表面形状の同定ための1振動素子を用いたリニアスキャンと、試験体内部の探傷のための複数振動素子を同時送信させるリニアスキャンとは、別々のステップで実行するようにしているが、これに特に限定されるものではなく、必要に応じて1つのステップで処理するようにしても良い。例えば、大きな振動子を用いる場合には、単一の振動子から送信することで、試験体表面からのエコーと試験体内部からの探傷に十分な大きさのエコーとを受信可能となるので、1振動素子を用いたリニアスキャンだけで双方のエコーを同時に取得することが可能である。しかし、振動子寸法の小さな1素子だけの超音波ではエネルギが弱く、探傷に十分な大きさのエコーを受信できないことがあるので、試験体内部のエコーを収集するには同時送信する素子数を増やして超音波のエネルギーを大きくすることが好ましい。また、場合によっては、試験体内部の探傷のための複数振動素子を同時送信させるリニアスキャンの後に、試験体の表面形状の同定ための1振動素子を用いたリニアスキャンを実行するようにしても良い。いずれにしても、超音波探傷器で取得された表面エコー並びに試験体内部のエコーのデータは、一旦PCのメモリに格納された後、オフライン状態PCの中央演算処理部で処理される場合には、データ取得の前後関係は関係ないものである。
【実施例】
【0039】
本発明の超音波探傷試験体の表面形状の同定方法並びに同定プログラムの有効性を検証した。
図9に示す突合せ溶接と形状不連続部溶接部の形状を模擬した試験体を作製し、溶接熱影響部細粒域を想定した位置にタイプIV損傷を想定した直径1mmの横穴を複数個導入した。ここで、試験体の材質はSUS304である。そして、周波数5MHz、素子数64個、各素子の開口面積0.6mm×10mm、ピッチ0.7mmのフェーズドアレイ探触子を使って水浸探傷を行った。このとき、探傷面が平行であれば屈折角45度で横波が入射する角度を保持できる冶具を探触子に装着した。冶具はアレイ探触子の1chで高さ8mmである。データ取得には三次元開口合成アレイ検査装置(東芝電力システム社製Matrixeye EX(登録商標))を用い、電子走査は送受信に1素子を用いたリニアスキャンとした。Matrixeyeは各素子で受信されたAスコープ波形からBスコープ画像内の画素の振幅値を内蔵された並列演算回路と4つのA/D変換器により高速に開口合成処理し、リアルタイムでBスコープ画像を表示できる。
【0040】
まず、本発明にかかる試験体の表面形状の同定方法によって試験体表面形状を測定した。表面形状測定に関しては、図10に示すように探傷面と高さ20mmを保持できる冶具を用いた垂直探傷も行った。図11において、表面からの反射エコーのビーム路程を基準に試験体表面座標を計算したものを方法1(Method 1)、本発明方法により再構成した表面座標を方法2(Method 2)、および実際の表面座標を参考(Reference)として併せて示している。図11(a)と(b)において、点線で囲っている部分では参考と方法2とで誤差がある。この部分では、超音波の主ビームに関しては屈折角が臨界角を越え試験体に入射しないため、開口合成法後の結果にあまり寄与しないと考えられる。また、図11の点線で囲っている部分以外に関しては実際の表面形状とよく一致しており、本発明手法により、表面形状を再現できていることが判った。
【0041】
次に、探傷結果を示す。電子走査は、同時送信に7素子を用い、受信は送信素子群と中心を同じとする15個の素子群を設定した。比較として超音波フェーズドアレイ探傷装置(Omniscan)を用いて、表面の形状変化による超音波伝播経路の変化を考慮しない横波斜角水浸探傷を実施した。電子走査はリニアスキャンとし、同時送受信素子数を16素子とし、平板を仮定した場合に横穴近傍でビームが集束するように遅延制御設定した。突き合せ溶接模擬試験体と形状不連続部溶接部模擬試験体を探傷して得られたBスコープ画像をそれぞれ図12、図13に示す。図12(a)及び図13(a)は形状変化を考慮しないフェーズドアレイ法により得られた結果、図12(b)は本発明にかかる開口合成法を適用した探傷結果である。また縦軸はビーム路程を示すが、ここでは水の音速を基準にビーム路程を計算している。図12において、Tは横波による横穴からのエコーを示す。また、図12(b)の結果では、解析が容易になるように後処理により試験体内は実際の座標表示になるように補正している。開口合成法によるエコーの集束は、16素子を用いて集束させたフェーズドアレイ法の探傷結果と同程度であるが、開口合成法による結果の方がエコーの位置関係が明確である。
【0042】
図13において、Lは縦波成分による横穴からのエコーを示す。図14に示すように、振動子から放射された超音波ビームは、試験体表面Aに入射後にモード変換された横波が横穴に達し、表面Bに入射後は縦波が横穴に達する。フェーズドアレイ法の探傷結果を示す図13(a)では、TとLが混在して表示されているが、横波を基準に開口合成法処理を行った図13(b)では、破線で囲ったLが薄くなり、Tだけが集束している。また、縦波を基準に開口合成法処理を行った図13(c)ではTは消え、Lだけが集束している。また、Lに関しては3個の横穴からの指示が得られているのに対し、Tに関しては2個しか得られていない。これは、図14に示すように表面近傍の横穴に達する横波は、他の横穴に達する横波と比較すると、その振幅が小さいため、得られるエコーも他の横穴と比較すると小さく、ほとんど見えないと考えられる。このように、形状変化による超音波ビームの伝播経路を考慮した開口合成法を適用することで、エコーの縦波成分と横波成分の混在を除去し、探傷を容易にすることが可能となる。
【0043】
以上の結果、試験体の表面形状を表面反射波による受信波形だけを用いて同定可能であることが検証された。また、従来のフェーズドアレイ法では、形状変化部による影響で縦波と横波の両モードによるエコーが混在して探傷後の解析が困難であったが、同定した試験体表面形状をもとに、超音波ビームの伝播経路を計算し、試験体内全点に集束するように受信波形を位相制御する本発明の開口合成法によれば、信号強度の増幅や方位分解能,SN比の向上が可能となると共に、縦波と横波の個々のモードを選択的に表示させることができるため、反射源位置の同定精度が向上する。
【0044】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本発明は、フェーズドアレイを用いる開口合成処理について主に説明したが、これに特に限られるものではなく、試験体の表面形状の同定並びに同表面形状を考慮した超音波の伝播経路の決定までのステップはフェーズドアレイ探傷における各振動子毎の遅延時間の設定において共通しているので、フェーズドアレイ探傷に応用することも容易である。
【0045】
即ち、上述の試験体の表面形状同定方法により、溶接余盛のような形状変化部を有する試験体の表面形状が特定されると、同試験体表面形状から試験体内部の探傷範囲をメッシュ状に区画して各メッシュ毎に全ての振動子までの超音波の伝播距離を算出することができるので、各振動子毎の超音波の伝播経路に基づいて各振動子の遅延時間を求めることができる。そこで、コンピュータで算出されたこの振動子毎の遅延時間を探傷器に入力して、各振動子の発信を制御してフェーズアレイ探傷を実施することができる。これにより、全ての振動子毎に独自の遅延時間を以て超音波が送信されることにより、試験体の内部の探傷領域の任意の位置に超音波が集束される。集束点では全ての振動子から送信される超音波が集まるので探傷精度が高くなる。同様にして、探傷領域の全領域で予め求められた表面形状に応じて順次超音波ビームが集束するように送受信が繰り返されるので、高精度に探傷することができる。そして、その探傷領域の全域の探傷画像がディスプレイに描写される。
【0046】
具体的には、フェーズドアレイ探傷プログラムは以下の手順を超音波送信器並びにそれにオンライン接続されたPCの各々の中央演算処理部において実行させる。
1)送受信に1素子を用いたリニアスキャンを超音波探傷器で実行して、各振動子毎の表面反射データを取得する(S1)。
2)また、超音波探傷器で1または数素子を用いたリニア電子走査により、試験体内部を探傷し、受信波形を取得する(S2)。ステップ1と2で取得した表面エコーと内部エコーのデータはPCにそれぞれ取り込まれる。
3)取得された表面エコーのデータに基づいて、試験体表面形状の座標をPCでの演算処理で決定する(S3)。
4)そして、ステップ(S3)で決定した表面形状座標から、素子Pから表面Rを通過して試験体内の点Qに達する超音波の伝播経路を決定する(S4)。
5)次いで、ステップ4で算出された超音波の伝播経路に基づいて、試験体の内部の探傷領域の任意の位置に全ての振動子の超音波が集束される遅延時間を計算する(S5’)。ここで、形状変化部に合わせてフェーズドアレイの遅延制御(delay law)を計算する機能を実装したPC用ソフトウェアとしては、例えば米国Zetec社製 UltraVision 3(登録商標)などが知られている。したがって、試験体の表面形状が同定できれば、フェーズドアレイの遅延制御(delay law)は既存のソフトウェアでも容易に計算される。
6)PCの中央演算処理部で算出された各振動子毎の遅延時間を超音波探傷器に入力して、フェーズドアレイ探傷を実施する(S6’)。
7)探傷画像はPCのディスプレイに表示される(S7’)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面形状が変化した形状変化部を有する試験体の表面に、前記試験体の表面形状に沿って形態を変化させうる媒質を介してフェーズドアレイを配置し、前記フェーズドアレイの各振動子毎に超音波を試験体に向けて射出させて表面エコーを受信し、各振動子毎に取得された前記試験体の表面からの反射波を検出して各振動子から前記試験体の表面までのビーム路程を求めると共に、各振動子を中心とし各振動子毎に求まるビーム路程を半径とする円を想定し、隣り合う振動子を中心とする前記円の共通外接線を求め、前記共通外接線が求まる区間では前記共通外接線上の点を二次補間したものを試験体表面と同定し、前記共通外接線が求まらない区間ではそれら振動子間を形状変化の境界と判断して、各区間で二次補間し得られた曲線を外挿して前記境界における表面形状として同定し、試験体表面形状を求めることを特徴とする形状変化部を有する試験体の表面形状同定方法。
【請求項2】
表面形状が変化した形状変化部を有する試験体の表面に、前記試験体の表面形状に沿って形態を変化させうる媒質を介して配置されたフェーズドアレイの各振動子毎に超音波を試験体に向けて射出させて表面エコーを受信するステップと、各振動子毎に取得された前記試験体の表面からの反射波を検出して各振動子から前記試験体の表面までのビーム路程を求めるステップと、各振動子を中心とし各振動子毎に求まるビーム路程を半径とする円を想定し、隣り合う振動子を中心とする前記円の共通外接線を求めるステップと、前記共通外接線が求まる区間ではそれら円の接点を二次補間し試験体表面として特定しかつ前記共通外接線を試験体表面と同定するステップと、前記共通外接線が求まらない区間ではそれら振動子間を形状変化の境界と判断し、各区間で得られた共通外接線上の点を二次補間したものを外挿して前記境界における表面形状として同定するステップとを、コンピュータに実行させて試験体表面形状を求めることを特徴とする形状変化部を有する試験体の表面形状同定プログラム。
【請求項3】
表面形状が変化した形状変化部を有する試験体の表面に、前記試験体の表面形状に沿って形態を変化させうる媒質を介して配置されたフェーズドアレイの各振動子毎に超音波を試験体に向けて射出させて表面エコーを受信するステップと、各振動子毎に得られた前記試験体の表面からの反射波を検出して各振動子から前記試験体の表面までのビーム路程を求めるステップと、各振動子を中心とし各振動子毎に求まるビーム路程を半径とする円を想定し、隣り合う振動子を中心とする前記円の共通外接線を求めるステップと、前記共通外接線が求まる区間ではそれら円の接点を二次補間したものを試験体表面として特定しかつ前記共通外接線を試験体表面と同定するステップと、前記共通外接線が求まらない区間ではそれら振動子間を形状変化の境界と判断し、各区間で得られた共通外接線上の点を二次補間したものを外挿して作成した曲線を前記境界における表面形状として同定するステップと、同定された前記試験体表面形状を用いて試験体内部の探傷範囲の任意の区画から振動子までの超音波の伝播距離を受信する振動子毎に演算するステップと、各振動子毎の超音波の伝播経路に基づいて各受信素子で受信されるAスコープ波形信号の遅れを修正するように波形の位相をシフトし、波の位相を揃えた状態で重ね合わせる開口合成処理と、位相操作された後の探傷画像をディスプレイに描写させるステップとをコンピュータに実行させる開口合成処理プログラム。
【請求項4】
表面形状が変化した形状変化部を有する試験体の表面に、前記試験体の表面形状に沿って形態を変化させうる媒質を介して配置されたフェーズドアレイの各振動子毎に超音波を試験体に向けて射出させて表面エコーを受信するステップと、各振動子毎に得られた前記試験体の表面からの反射波を検出して各振動子から前記試験体の表面までのビーム路程を求めるステップと、各振動子を中心とし各振動子毎に求まるビーム路程を半径とする円を想定し、隣り合う振動子を中心とする前記円の共通外接線を求めるステップと、前記共通外接線が求まる区間ではそれら円の接点を二次補間し、試験体表面として特定しかつ前記共通外接線を試験体表面と同定するステップと、前記共通外接線が求まらない区間ではそれら振動子間を形状変化の境界と判断し、各区間で得られた共通外接線上の点を二次補間したものを外挿して作成した曲線を前記境界における表面形状として同定するステップと、同定された前記試験体表面形状を用いて試験体内部の探傷範囲の任意の区画から全ての振動子までの超音波の伝播距離を演算するステップと、各振動子毎の超音波の伝播経路に基づいて各振動子の遅延時間を算出するステップと、前記遅延時間に基づいて前記振動子を制御してフェーズアレイ探傷を実施するステップと、探傷画像をディスプレイに描写させるステップとを、コンピュータに実行させるフェーズドアレイ探傷プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図3】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−247649(P2011−247649A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118832(P2010−118832)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】