説明

超音波照射装置

【課題】照射効率の高い超音波照射装置を提供することを目的とする。
【解決手段】超音波と洗浄媒体とで基板の洗浄を行う超音波照射装置12に、超音波を発生する振動子32と、振動子から発生した超音波を所定の位置にライン状に集束させる、焦点を有する放物面形状36Aの表面を持つ反射レンズ36と、を少なくとも備えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波照射装置に係り、特に、超音波と洗浄媒体とで被洗浄基板の洗浄を行う超音波照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置や半導体の製造工程には、ガラス基板や半導体ウエハなどの基板を高い清浄度で洗浄することが要求される工程がある。このような工程では、従来、薬品を用いた洗浄と超純水を用いたリンスを繰り返す方法が用いられていた。
【0003】
しかし、このような方法でガラス基板や半導体ウエハなどの基板を洗浄すると、薬品や超純水が大量に必要になるという問題があった。このため、近年は超音波を利用して基板を洗浄する方法が広く用いられており、その洗浄効果を高める方法も種々提案されている。たとえば、特許文献1では、洗浄液中に機能性のガスを溶解させ、この機能性のガスを溶解させた洗浄液に所定周波数(たとえば、20kHz以上)の超音波を照射して、基板に供給する方法が提案されている。この方法によれば、洗浄液中の溶存ガスとキャビティの生成圧壊効果により、反応性の高いラジカルを発生させることができ、基板上の汚染物を効果的に分解除去することができる。
【0004】
ところで、このように超音波を利用して基板を洗浄する方法では、一般に平板状に形成された超音波振動子が用いられるが、このような平板状の超音波振動子は、発生面全域に超音波が照射されるため、洗浄対象領域以外にも超音波が照射されてしまい、照射効率が悪いという欠点があった。
【0005】
そこで、特許文献2では、平板状の超音波振動子に音響レンズを取り付け、超音波振動子から発生させた超音波を音響レンズでライン状に集束させて基板に照射する方法が提案されている(図7参照)。これによれば、図8に示すように、従来の既製メガソニック洗浄槽に比べ、少ないエネルギーで高い洗浄力を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−205205号公報
【特許文献2】特開2006−110418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、音響レンズのように、レンズの中心部の厚さ(h)と周辺部の厚さ(H)が大きく異なると、効率よく超音波を照射することができないという欠点がある。すなわち、音響レンズは、レンズ中を伝播する超音波の波長λに応じて最適な厚さが存在し、この最適な厚さを外れると、超音波の透過性能が急激に低下するという性質がある。このため、音響レンズのようにレンズの中心部の厚さと周辺部の厚さが大きく異なると、効率よく超音波を照射することができなくなるという問題があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、照射効率の高い超音波照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記目的を達成するために、超音波と洗浄媒体とで基板の洗浄を行う超音波照射装置であって、前記超音波照射装置には、前記超音波を発生する振動子と、該振動子から発生した超音波を所定の位置にライン状に集束させる、焦点を有する放物面形状の表面を持つ反射レンズと、が備えられていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、超音波照射装置の内部に取り付けられた振動子から発生した超音波は、同じく超音波照射装置の内部に取り付けられた反射レンズの表面で超音波を反射して焦点位置に超音波のエネルギーを集束することができるので、音響(透過型)レンズを用いて超音波を集束した場合に比べ、照射効率の高い超音波照射装置を提供することできる。
【0011】
そして、本発明の超音波照射装置は、前記反射レンズの全域又は一部に入射する超音波と、前記反射レンズの表面の法線と、がなす角度Θは、超音波の洗浄媒体中の音速Vと、超音波の反射レンズ中の音速Vと、から定まる臨界角度θ=asin(V/V)よりも大きいことが好ましい。
【0012】
超音波のレンズ法線との入射角度Θを臨界角度θより大きく設定することで、小さい範囲ではレンズ内を透過し減衰することなくレンズ表面に照射された超音波エネルギーを全反射することができる。なお、この際、全反射が生じる条件である臨界角度θはレンズ中の音速Vと洗浄媒体中の音速Vから定められるθ=asin(V/V)であるため、照射する超音波の周波数は制約されない。また、使用する洗浄媒体及び反射に用いるレンズ材質も特に制約されないが、音速の速い物質が望ましい。
【0013】
また、本発明の超音波洗浄装置は、前記反射レンズの表面を形成する放物線y=x/(4a)の準線aが、2<a<100の範囲であることが好ましい。
【0014】
反射レンズの表面を形成する放物線の準線aが2<a<100の範囲となるようにし、反射レンズにSUSやガラス、石英など比較的音速の早い物質をレンズ材に選定することで、レンズ面に照射した超音波をレンズの表面で完全に反射でき、洗浄ノズルヘッドの大きさ及び超音波の集束位置を最適に設定できるため、超音波の減衰を低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の超音波照射装置によれば、照射効率の高い超音波照射装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る超音波洗浄装置を示す図
【図2】本発明に係る超音波照射装置の実施形態の例を示す図
【図3】本発明と従来との超音波集束性能を示す図
【図4】入射する超音波と反射レンズの表面の法線とがなす角度Θと臨界角度θとの関係による超音波入射状況を示す図
【図5】反射レンズの表面を形成する放物線の準線aが0<a<2の場合を示す図
【図6】反射レンズの表面を形成する放物線の準線aがa>100の場合を示す図
【図7】従来(特許文献2)の超音波照射装置の構成を示す図
【図8】超音波による洗浄性能を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に従って本発明に係る超音波照射装置の好ましい実施の形態について詳説する。
【0018】
図1は、本発明に係る超音波照射装置が組み込まれた超音波洗浄装置の一例を示す模式図である。
【0019】
この超音波洗浄装置10は、たとえば、液晶表示装置用の大型ガラス基板の洗浄装置として構成され、水平に搬送されるガラス基板Gの表面に超音波を照射した洗浄液を供給して、ガラス基板Gを洗浄する。ガラス基板Gの搬送は、たとえばコンベアによって行われ、そのコンベアの上方に設置された超音波照射装置(洗浄ノズルヘッド)12から超音波が照射された洗浄液がカーテン状に供給される。
【0020】
ガラス基板G面に供給する洗浄媒体(洗浄液)は、原水となる超純水中の溶存ガスを脱気膜モジュール20により脱気後、ガス溶解膜モジュール22で汚染除去効果を有する機能性ガス( オゾン、酸素、水素、窒素、アルゴン、ヘリウムなど)を溶存後、必要に応じて薬品(汚染除去の目的でアンモニア、硫酸、フッ酸など)を添加後、超音波照射装置12内部から洗浄対象であるガラス基板Gに向けて供給する。このように、洗浄液中に溶け込んでいる余分なガスを脱気後、機能性のガスを供給し、水中に溶存させることで、洗浄に寄与するガスの溶存量を増加させることができ、洗浄効率を一層向上させることができる。なお、溶存させるガスについては、特に限定されない。また、このように脱気した洗浄液に機能性のガスを溶解させる構成に代えて、洗浄液に空気を飽和させる構成としてもよい。
【0021】
超音波照射装置12では、所定の集束焦点にライン状に集束させた超音波が、内部の洗浄液に照射される。このように、超音波を集束させることにより、集束焦点近傍で効率よく洗浄に寄与するラジカルを発生させることができる。したがって、この集束焦点は、ガラス基板Gの表面近傍に設定することが好ましい。この超音波照射装置12の構成については、後に詳述する。
【0022】
以上のように構成された超音波洗浄装置10の作用は次のとおりである。
【0023】
洗浄対象のガラス基板Gは、図示しないコンベアによって所定の搬送経路を水平に搬送される。そして、超音波照射装置12の下部を通過する際、洗浄液吐出口14からカーテン状に吐出される洗浄液が表面に供給されて、表面が洗浄される。
【0024】
この洗浄液は、図示しない供給源から供給され、この供給源から供給された洗浄液が、脱気膜モジュール20で脱気後、ガス溶解膜モジュール22で機能性のガスが溶解されて超音波照射装置12に供給される。超音波照射装置12に供給された洗浄液は、集束超音波が照射された後、洗浄液吐出口14から吐出され、ガラス基板Gに供給される。
【0025】
なお、超音波洗浄装置10の構成は,図1のように水平方向でガラス基板Gを洗浄するものに限定されず、垂直方向であったり、超音波照射装置12を被洗浄基板面に沿って駆動しながら洗浄を行ったりするものであっても良い。
【0026】
図2は、本発明に係る超音波照射装置12の概略構成を示す側面断面図である。
【0027】
同図に示すように、本発明に係る超音波照射装置12は、スリット状の洗浄液吐出口14を形成するノズルケーシング30と、超音波を発生する振動子32と、その振動子32に取り付けられた振動板34と、反射レンズ36と、で構成されている。なお、断面形状は五角形に限られない。
【0028】
本発明に係る反射レンズ36には、図2に示すように焦点Pを有する放物面形状36Aの表面が形成されており、超音波照射装置12内部に取り付けられた振動子32から発生した超音波を反射レンズ36表面で反射して焦点Pに超音波のエネルギーを集束することができる。
【0029】
図3に本発明の超音波照射装置と従来の超音波照射装置との超音波集束性能の差を示す。図から分かるように、本発明は従来に比べ、焦点においてのエネルギー(音圧)が高くなるだけでなく、焦点から離れた箇所においてもエネルギーが高い傾向がある。したがって、本発明によって、音響(透過型)レンズを用いて超音波を集束した場合に比べ、照射効率の高い超音波照射装置を提供することできる。
【0030】
本発明の超音波照射装置は、反射レンズ36の全域又は一部に入射する超音波と反射レンズ36の表面の法線とがなす角度Θは、超音波の洗浄媒体中の音速Vと超音波の反射レンズ36中の音速Vとから定まる臨界角度θ=asin(V/V)よりも大きいことが好ましい。
【0031】
図4は、Θ<θの場合(a)とΘ>θの場合(b)を示したものである。超音波の入射角度Θを臨界角度θより大きく設定することで、図4(a)のように超音波の入射角度Θを臨界角度θより小さく設定した場合のようにレンズ36’内を透過し減衰していた超音波エネルギーは、図4(b)のようにレンズ36’で全反射することができるので、集束効果を向上することができる。
【0032】
なお、この際、全反射が生じる条件である臨界角度θはレンズ中の音速Vと洗浄媒体中の音速Vから定められるθ=asin(V/V)であるため、照射する超音波の周波数は制約されない。また、使用する洗浄媒体及び反射に用いるレンズ材質も特に制約されないが、音速の速い物質が望ましい。
【0033】
例えば、反射レンズ36のレンズ材にPTFE(四フッ化エチレン樹脂)(V=1500(m/s))を用いた場合、供給する媒体がPTFEより音速の速いひまし油(V=1502(m/s))やグリセリン(V=1923(m/s))のような液質のものでは反射が起こらないため、レンズ材として適用できない。また、水(V=1482(m/s)、20(℃))についてもPTFEがレンズ材であると音速の違いが小さいため、入力した超音波を全反射できる範囲は81.1°<θ<90°と小さくなり、レンズの形状に制約が生じる。これに対して、例えば、レンズ材にSUS(V=5900(m/s))を選定すると、供給する媒体が水(V=1482(m/s)、20(℃))では臨界角度θは14.5°となり、14.5°<θ<90°の範囲で超音波を反射して集束することが可能である。また、供給する媒体が音速の速いグリセリン(V=1923(m/s))のような液質のものでも、臨界角度θは19.8となり、19.8°<θ<90°の範囲で超音波を反射して集束することが可能である。
【0034】
また、本発明の超音波照射装置は、反射レンズ36の表面を形成する放物線y=x/(4a)の準線aが、2<a<100の範囲であることが好ましい。
【0035】
反射レンズの表面を形成する放物線の準線aが2<a<100の範囲となるようにし、反射レンズにSUSやガラス、石英など比較的音速の早い物質をレンズ材に選定することで、レンズ面に照射した超音波をレンズの表面で完全に反射でき、洗浄ノズルヘッドの大きさ及び超音波の集束位置を最適に設定できるため、超音波の減衰を低減することができる。
【0036】
これは、0<a<2の範囲では、図5に示すように、焦点P近傍でも反射レンズ36の反射面の法線と超音波の入射角とのなす角度を20°以上と十分に大きくできるため超音波をレンズ表面で全反射することが可能であるが、レンズ面の立ち上りが急であるため振動子の幅を確保するためにはレンズ高さを大きく取る必要がある。
【0037】
また、a>100の範囲では、図6に示すように、レンズ面の立ち上りが緩やかであるため、振動子の幅を確保するためのレンズ高さを小さくできるが、焦点P近傍では反射レンズ36の反射面の法線と超音波の入射角とのなす角度が20°よりも小さくなり超音波が全反射しなくなるためレンズ反射面から焦点までの距離を長く取る必要がある。
【0038】
このため、反射レンズの表面を形成する放物線y=x/(4a)(レンズ面)の準線aが2<a<100の範囲内となるようにすることで、超音波照射装置12のサイズを適正にできるため、超音波を減衰させることなく集束することが可能となる。
【0039】
以上のように、超音波を発生する振動子と、該振動子から発生した超音波を所定の位置にライン状に集束させる、焦点を有する放物面形状の表面を持つ反射レンズと、が備えられている本発明に係る超音波照射装置によって、従来に比べ高いエネルギーを得ることができ、効率よく洗浄を行うことができる。したがって、本発明の超音波洗浄装置によれば、照射効率の高い超音波洗浄装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0040】
10…超音波洗浄装置、12…超音波照射装置(洗浄ノズルヘッド)、14…洗浄液吐出口、20…脱気膜モジュール、22…ガス溶解膜モジュール、30…ノズルケーシング、32…振動子、34…振動板、36…反射レンズ、36’…レンズ、36A…放物面形状、P…焦点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波と洗浄媒体とで基板の洗浄を行う超音波照射装置であって、
前記超音波照射装置には、前記超音波を発生する振動子と、該振動子から発生した超音波を所定の位置にライン状に集束させる、焦点を有する放物面形状の表面を持つ反射レンズと、が備えられていることを特徴とする超音波照射装置。
【請求項2】
前記反射レンズの全域又は一部に入射する超音波と、前記反射レンズの表面の法線と、がなす角度Θは、超音波の洗浄媒体中の音速Vと、超音波の反射レンズ中の音速Vと、から定まる臨界角度θ=asin(V/V)よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の超音波照射装置。
【請求項3】
前記反射レンズの表面を形成する放物線y=x/(4a)の準線aが、2<a<100の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−61147(P2011−61147A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211987(P2009−211987)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】