説明

車両のレーン走行支援装置

【課題】 走行中の車両に対し横風等の外乱が加えられた場合にも、操舵制御装置による車両のレーン走行支援を円滑に行なう。
【解決手段】 操舵制御手段(電動パワーステアリングシステム)と、走行レーン検出手段(カメラ等)を備え、走行レーン検出手段の検出結果と車両の操舵状態及び走行状態に応じて、走行レーン内における車両の状態量を推定演算し、目標状態量との比較結果に応じて操舵制御を行ない車両の走行レーン内の走行を支援する。特に、車両のステアリングモデルに基づき車両に対する外乱量を推定演算し、この外乱量に基づき目標状態量と推定状態量の比較結果を修正し、この修正結果に応じて操舵制御を修正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のレーン走行支援装置に関し、特に、運転者のステアリングホイール操作に応じて作動すると共に車両の路面走行状態に応じて操舵状態を制御し得る操舵制御手段と、撮像手段によって路面を連続して撮像した画像から走行レーンを検出する走行レーン検出手段を備え、これらによって、走行レーン内を車両が走行するように支援する車両のレーン走行支援装置に係る。
【背景技術】
【0002】
車両のレーン走行支援装置としては、運転者のステアリングホイール操作に応じて作動すると共に車両の路面走行状態に応じて操舵状態を制御し得る操舵制御手段を備え、これを制御して車両が走行レーン内を走行するようにレーン走行支援を行うレーンキープアシストが基本であるが、更に、走行支援を越えて、運転者の操作とは無関係に自動的に操舵制御を行ない、車両が走行レーン内の走行を維持し得るように制御する装置も知られている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、自ら走行路を探索しながら、その走行路上に最適な目標経路を設定して、車両がその目標経路上を走行するように支援する車両の走行制御を行なわせることを目的とし、以下のように構成された自動走行装置が提案されている。即ち、撮像装置により車両の進行方向の領域を撮像した画像にもとづいて道路エッジを認識することにより自ら走行可能領域を探索しながら、その走行可能領域内に適切な目標経路を設定し、そのときの車両の走行状態にしたがって車両をその目標経路に合流させるための最適な制御目標量を求めて、その制御目標量に応じて車両の走行制御を行なわせる旨記載されている。
【0004】
あるいは、下記の特許文献2には、例えばプラント、工場等の床面に安全通路を表示するため前記通路両側に標記された白線を誘導帯として使用し、特に狭隘な場所でのコーナリングが容易になし得ることを目的として、安全通路の限界を示すために床面に設けられた白線等をそのまま誘導帯として使用し、走行車の現在の方位とコーナ部の角度とから操舵量を算出してコーナリングを行うように構成された走行車の誘導装置が提案されている。
【0005】
更に、下記の特許文献3には、運転者がハンドル操作しなくても前方の走行レーン上を外れることなく走行することができる自動車用自動操舵装置が提案されている。この特許文献3には、自動車の右側下方向の進路を撮影する撮影手段と、この撮影手段にて撮影した道路の中から隣接する走行レーンの境界を示すラインを認識する認識手段と、この認識手段にて認識したラインの基準位置からの距離を検出する距離検出手段と、この距離検出手段にて検出した距離に応じた舵角制御信号を発生する舵角制御手段と、この舵角制御手段からの舵角制御信号を受けて車両の進行方向を変化させる舵角駆動手段とを備え、前記舵角制御信号による舵角制御手段の作動にて前記距離検出手段にて検出される距離を所定値に保持せしめるようにする旨記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平2−48704号公報
【特許文献2】特開平2−27408号公報
【特許文献3】特開昭60−37011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献に記載の装置によれば、何れも画像によって検出した車両等の走行レーンに沿ってコーナリングを行なうことが可能とされている。この場合において、現実的な対応としては、必ずしも運転者の操作と無関係に自動的に操舵することは必要ではなく、例えば運転者によるステアリングホイールの操作に対し、車両が走行レーンの中央を維持するように操舵トルクを付加することによって、ステアリングホイールの操作負荷を軽減し、巡航運転を支援することができる。
【0008】
しかし、このようなレーン走行支援装置においては、あくまで運転者に対しステアリングホイール操作の負担を軽減するものであって、自動運転装置ではない以上、手放し運転を許容するものではなく、過度に依存されることを制限する必要がある。このため、通常、走行レーンの中央を維持するために付加される操舵トルクは比較的小さな値に制限されている。従って、例えば走行中の車両に対し横風等の外乱が加えられた場合には、これに対処することは困難であり、このような場合には別途対策を講ずる必要があるが、前掲の何れの特許文献にもこのような点には言及されていない。
【0009】
そこで、本発明は、操舵制御装置の制御によって車両が走行レーン内を走行するように支援する車両のレーン走行支援装置において、走行中の車両に対し横風等の外乱が加えられた場合にも、操舵制御装置による車両のレーン走行支援を円滑に行ない得るレーン走行支援装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を達成するため、本発明は、運転者のステアリングホイール操作に応じて作動すると共に車両の路面走行状態に応じて操舵状態を制御し得る操舵制御手段と、撮像手段によって路面を連続して撮像した画像から走行レーンを検出する走行レーン検出手段を備え、該走行レーン検出手段が検出した走行レーン内を前記車両が走行するように前記操舵制御手段を制御して、前記車両の前記走行レーン内の走行を支援する車両のレーン走行支援装置において、前記走行レーン検出手段の検出結果と前記車両の操舵状態及び走行状態に応じて、前記走行レーン内における前記車両の状態量を推定する車両状態推定手段と、前記車両の操舵状態及び走行状態に基づき前記車両に対する目標状態量を設定する目標状態量設定手段と、前記操舵制御手段を含む前記車両のステアリングモデルに基づき、前記車両に対する外乱量を推定する外乱推定手段と、該外乱推定手段が推定した外乱量に基づき、前記目標状態量設定手段が設定した目標状態量と前記車両状態推定手段が推定した状態量の比較結果を修正し、該修正結果に応じて前記操舵制御手段による操舵制御を修正する修正操舵手段とを備えることとしたものである。
【0011】
尚、前記車両状態推定手段における車両の操舵状態及び走行状態を表す指標としては、例えば操舵角及びヨーレイトがあり、前記目標状態量設定手段における車両の操舵状態及び走行状態を表す指標としては、例えば操舵角及び車体速度がある。そして、前記状態量を表す指標としては、前記走行レーン内における前記車両の横方向位置たるレーン位置のほか、その微分値であるレーン位置変動速度、前記車両のヨー角、及びヨーレイトがある。前記操舵制御手段は、例えば電動パワーステアリングシステムを備えたものとするとよい。
【0012】
前記外乱推定手段は、請求項2に記載のように、前記ステアリングモデルに基づく推定値と、前記操舵制御手段の特性に応じて設定した所定値との差に基づき、前記外乱量を推定するように構成するとよい。尚、前記操舵制御手段の特性としては、例えば電動パワーステアリングシステムにおける摩擦成分を含む操舵特性があり、この操舵特性における摩擦成分の最大値を前記所定値として設定するとよい。
【0013】
また、前記修正操舵手段は、請求項3に記載のように、前記外乱推定手段が推定した外乱量の精度に応じて、前記操舵制御手段に対する修正操舵量を調整するように構成するとよい。例えば、推定結果の外乱量の精度が相対的に低くなれば、修正操舵量が相対的に小さくなるように調整するとよい。
【0014】
あるいは、本発明は、請求項4に記載のように、運転者のステアリングホイール操作に応じて作動すると共に車両の路面走行状態に応じて操舵状態を制御し得る操舵制御手段と、撮像手段によって路面を連続して撮像した画像から走行レーンを検出する走行レーン検出手段を備え、該走行レーン検出手段が検出した走行レーン内を前記車両が走行するように前記操舵制御手段を制御して、前記車両の前記走行レーン内の走行を支援する車両のレーン走行支援装置において、車両運動モデル及び道路モデルを有し、該車両運動モデル及び道路モデルに基づき、前記走行レーン検出手段の検出結果と前記車両の操舵状態及び走行状態に応じて、前記走行レーン内における前記車両の横方向位置を含む状態量を推定する車両状態推定手段と、前記車両の操舵状態及び走行状態に基づき前記車両に対する目標状態量を設定する目標状態量設定手段と、前記車両のステアリングモデルに基づき前記車両に対する外乱量を推定する外乱推定手段と、該外乱推定手段が推定した外乱量から高周波成分を取り出すフィルタ手段と、該フィルタ手段が取り出した外乱量の高周波成分に基づき、前記目標状態量設定手段が設定した目標状態量と前記車両状態推定手段が推定した状態量の比較結果を修正し、該修正結果に応じて、前記操舵制御手段による操舵制御を修正する修正操舵手段とを備えることとしてもよい。
【0015】
前記外乱推定手段は、請求項5に記載のように、前記ステアリングモデルに基づく推定値と、前記操舵制御手段の特性に応じて設定した所定値との差に基づき、前記外乱量を推定するように構成するとよい。例えば電動パワーステアリングシステムの操舵特性における摩擦成分の最大値を前記所定値として設定するとよい。また、前記修正操舵手段は、請求項6に記載のように、前記外乱推定手段が推定した外乱量の精度に応じて、前記操舵制御手段に対する修正操舵量を調整するように構成するとよい。例えば、推定結果の外乱量の精度が相対的に低くなれば、修正操舵量が相対的に小さくなるように調整するとよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、請求項1に記載のように構成された車両のレーン走行支援装置においては、外乱推定手段によってステアリングモデルに基づき車両に対する外乱量が推定され、この外乱量に基づき目標状態量と推定状態量の比較結果が修正され、この修正結果に応じて操舵制御が修正されるので、走行中の車両に対し横風等の外乱が加えられた場合にも、通常時のアシスト量を維持したままで、外乱のみに対して修正操舵を行うことができ、車両のレーン走行支援を適切に行なうことができる。
【0017】
また、請求項4に記載のように構成されたレーン走行支援装置においては、車両運動モデル及び道路モデルに基づき車両の状態量が推定されると共に、ステアリングモデルに基づき車両に対する外乱量が推定され、更にフィルタ手段によって外乱量から高周波成分が取り出され、この高周波成分に基づき目標状態量と推定状態量の比較結果が修正され、この修正結果に応じて操舵制御が修正されるので、走行中の車両に対し横風等の外乱が加えられた場合にも、通常時のアシスト量を維持したままで、外乱のみに対して修正操舵を行うことができ、車両のレーン走行支援を適切に行なうことができる。
【0018】
そして、外乱推定手段を請求項2又は5に記載のように構成すれば、操舵制御手段の特性に起因する変動を極力抑え、適切に修正操舵を行うことができ、車両のレーン走行支援を円滑に行なうことができる。更に、修正操舵手段を請求項3又は6に記載のように構成すれば、外乱量の精度に応じて適切に修正操舵を行うことができ、車両のレーン走行支援を円滑に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の望ましい実施形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態に係る車両のレーン走行支援装置の構成を示すもので、車両前方(図1の上方)に、撮像手段として例えばccdカメラで構成された前方監視用のカメラCMfが配置されると共に、車両後方にも後方監視用のカメラCMrが配置されているが、何れか一方のカメラが設けられておればよい。また、本実施形態の操舵制御手段として電動パワーステアリングシステムEPSを備えている。このような電動パワーステアリングシステムEPSは既に市販されており、運転者によるステアリングホイールSWの操作によってステアリングシャフトに作用する操舵トルクを、操舵トルクセンサTSによって検出し、この検出操舵トルクの値に応じてEPSモータ(図1では図示省略)を制御し、減速ギヤ及びラック・アンド・ピニオン(図示せず)を介して車両前方の車輪(図1では全車輪を代表してWHで表す)を操舵し、運転者のステアリング操作力(ハンドル操作力)を軽減するものである。
【0020】
本実施形態では、図1に示すように、画像処理用の電子制御ユニットECU1及び操舵制御用の電子制御ユニットECU2を備え、両者が通信バスを介して接続されている。電子制御ユニットECU1にはカメラCMf(及びCMr)が接続されており、画像信号が電子制御ユニットECU1に入力されるように構成されている。一方、電子制御ユニットECU2には、入力側に上記の操舵トルクセンサTSのほか、車両前方の車輪WHの操舵角を検出する操舵角センサSS、車体速度を検出する車体速度センサVS、車両のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサYS、及びEPSモータの回転角を検出する回転角センサRS等が接続されると共に、出力側にEPSモータが接続されている。尚、車体速度センサVSに代えて、各車輪の車輪速度を検出する車輪速度センサ(図示せず)を備えたものとし、検出車輪速度に基づき車体速度を推定することとしてもよい。
【0021】
図2は本発明のシステム構成を示すもので、画像処理システム(図2の上方)及び操舵制御システム(図2の下方)が通信バスを介して接続されている。本実施形態の画像処理システムは、画像処理用のCPU、フレームメモリ等を備えた電子制御ユニットECU1に、前方監視カメラCMf及び後方方監視カメラCMr、ヨーレイトセンサYS、操舵角センサSS及び車体速度センサVSが接続されている。また、本実施形態の操舵制御システムは、電動パワーステアリング制御用のCPU、ROM及びRAMを備えた電子制御ユニットECU2に、操舵トルクセンサTS及び回転角センサRSが接続されると共に、モータ駆動回路AC2を介してEPSモータMTが接続されている。尚、警報用の電子制御ユニット(図示せず)を介して、警報表示や音声警報を出力する警報装置(図示せず)を接続することとしてもよい。
【0022】
これらの電子制御ユニットECU1及びECU2は夫々、通信用のCPU、ROM及びRAMを備えた通信ユニットを介して通信バスに接続されており、各制御システムに必要な情報を他の制御システムから送信することができる。更に、図示は省略するが、この通信バスに、アクティブステアリングシステム、ブレーキ制御システム、スロットル制御システム等を接続し、各システム間で互いのシステム情報を共有することができるように構成することとしてもよい。尚、図1に示すように、電子制御ユニットECU1(又はECU2)には操作スイッチOSが接続されており、走行支援制御は運転者による操作スイッチOSの操作によって開始されるように構成されている。
【0023】
上記のように構成されたレーン走行支援装置において、レーン走行支援(レーンキープアシスト)制御部は、図3の制御ブロック図に示すように構成されており、カメラCMf(又はCMr)によって撮像された画像情報が図2の電子制御ユニットECU1にて画像処理されて走行レーンが検出される。この電子制御ユニットECU1には、レーン検出手段たるレーン認識演算部M1が構成されており、ここで、走行レーン内における車両の横方向位置y(レーン位置)及び走行レーンに対するヨー角ψが演算される。尚、画像処理による走行レーンの検出については前掲の特許文献1に記載された方法のほか、公知の何れの方法でもよい。
【0024】
上記のレーン認識演算部M1による演算結果とヨーレイトセンサYS及び操舵角センサSSの検出信号を用いた車両モデルと道路モデルに基づき、車両状態推定手段たる状態推定演算部M2にて、レーン位置y、レーン位置変動速度dy(走行レーン内における車両の横方向移動速度でレーン位置yの時間微分値)、ヨー角ψ、及びヨーレイトγをファクターとする現在の車両の状態量Xが推定演算される。即ち、車両の状態量をX、状態量出力をY、道路モデルの入力をUとすると、X=[y,dy,ψ,γ]T、Y=[y,dy,ψ,γ]T、U=[δf,Fw]Tと表すことができる。尚、δfは操舵角センサSSで検出される操舵角で、Fwは外乱横力で、これは後述するように推定演算される。そして、状態量推定値をXeとし、オブザーバゲインをKoとすると、以下の状態方程式が成り立ち、状態量出力YはY=C・Xeとなる。
dXe/dt=A・Xe+B・U+Rl・Ko・(X−Xe)
【0025】
尚、上記の状態方程式におけるモデル定数A、B及びCは以下に示すとおりである。
A=[a11 a12 a13 a14 ; a21 a22 a23 a24 ; a31 a32 a33 a34 ; a41 a42 a43 a44]
B=[b11 b12 ; b21 b22 ; b31 b32 ; b41 b42]
C=[1000 ; 0100 ; 0010 ; 0001]
【0026】
一方、操舵角センサSSで検出された操舵角δf、及び車体速度センサVSで検出された車体速度(車速)vx等に基づき、目標状態量演算部M3にて以下の4ファクターから成る目標状態量が演算される。先ず、走行レーン内における車両の横方向位置(レーン位置)に対する目標レーン位置ytが、走行レーンの中心(レーン境界線間の中心)を起点として、yt =0に設定される。そして、目標レーン位置変動速度dytに関し、車両が横振れすることなく走行レーンの中心に沿って移動するように、dyt =0に設定される。また、目標ヨー角ψtがψt =C・ρに設定される。尚、このCは道路曲率から目標ヨー角への変換定数で、ρは道路曲率の逆数である。そして、車体速度vxと道路曲率逆数ρに基づき、目標ヨーレイトγtがγt=vx・ρとして設定される。
【0027】
而して、目標状態量演算部M3の演算結果(目標状態量)と、状態推定演算部M2の演算結果(現在の状態量)との差が演算され、この差に基づき、フィードバック制御演算部M4にてトルク指令値が演算される。即ち、フィードバック制御演算部M4においては、上記の目標状態量を表す4ファクターの目標値(tを付加)と推定値(eを付加)における各々の差にゲインK1乃至K4によって重み付けがされ、これらの総和が下記のように目標回転角(目標ステアリング角)δswtとして設定される。
δswt = K1・(yt−ye)+K2・(dyt−dye)+K3・(ψt−ψe)+K4・(γt−γe)
【0028】
そして、上記の目標回転角(目標ステアリング角)δswtと、回転角センサRSで検出される実回転角(実ステアリング角)δswとの差に応じて、付加ステアリングトルク指令値TaddがTadd=K0・(δswt−δsw)として演算される(K0はゲイン)。この付加ステアリングトルク指令値Taddは、更に、以下に説明する操舵補正量(δft)が付加された後、操舵制御用の電子制御ユニットECU2(図2)に送信される。
【0029】
本発明の外乱推定手段たる外乱推定演算部M5においては、車両に対する外乱量として外乱(横力)fwが推定演算される。先ず、図4は、本実施形態の電動パワーステアリングシステムEPSを含む操舵系のスケルトンと、これを構成する構成要素あるいは構成要素相互の作動を表すパラメータ(検出信号を含む変数)の記号を示すものである。本実施形態では、本発明のステアリングモデルとして、図5に示すように2輪モデルを用いたときの構成要素相互のバランスに基づき運動方程式を求めることとしており、図4において、構成要素相互のバランスに基づく運動方程式の対象部分をEM1乃至EM9で示している。尚、図5において前輪WF及び後輪WRが対象の2輪とされ、例えば横風によって外乱(横力)fwが着力点×に付与されたときの、着力点×と両車輪との間の距離がLwf及びLwrで表され、Lwf + Lwr = L(ホイールベース)となっている。尚、fwfは外乱fwの前輪FWに対する分力を示す。以下、図4に示す各対象部分の運動方程式について順次説明する。
【0030】
先ず、図4に示すステアリングホイールに係る対象部分EM1において、運転者によって印加されるトルクを「td」で表し(単位は(Nm)、以下これと同様、括弧内に単位を記す。尚、符号は左旋回方向を正とする)、ステアリング角速度を「ωh」で表し (rad/sec)、ステアリングホイールSW(図1)から操舵トルクセンサ(図示せず)までのステアリングシャフト慣性を「Jh」(kgm2)、操舵トルクセンサ(図示せず)の検出操舵トルクを「tss」(Nm)、ステアリング摩擦トルクを「tfsw」(Nm)で夫々表すと、ステアリングホイールSWの回転運動に係る下記(1)の運動方程式が求められる。
td + tss + tfsw = Jh・dωh/dt ・・(1)
【0031】
次に、ラック・アンド・ピニオン近傍の対象部分EM2において、ラックストロークに対するピニオンギヤ回転の比、即ちラック比を「Rrp」(m/rad)で表し、ラック摩擦力を「ffr」(N)、ラック速度を「vr」(m/s)、ピニオン角速度を「ωpn」(rad/sec)で表すと、ラック・アンド・ピニオンのギヤ比変換に係る下記(2)の運動方程式が求められる。
ωpn = vr / Rrp ・・(2)
【0032】
そして、操舵トルクセンサに係る対象部分EM3においては、操舵トルクセンサ(図示せず)の検出操舵トルクを「tss」(Nm)で表し、トルクセンサ剛性(ばね係数)を「Kts」(Nm/rad) で表し 、ステアリング角、即ちハンドル角を「θh」(rad) で表し、トーションバー(図示せず)のねじれ角を「θpn」(rad)で表すと、操舵トルクセンサとトーションバーの関連に係る下記(3)の運動方程式が求められる。
tss = Kts・(θh - θpn) ・・(3)
上記(3)式において、「θh」及び「θpn」は、夫々、θh = ∫ωh・dt、及びθpn = ∫ωpn・dtとして求めることができる。
【0033】
図4に示すラック近傍の対象部分EM4においては、EPSトルク出力を「teps」(Nm)で表し、EPSモータのギヤ比を「Rmr」(m/rad)、ラックストロークに対するピニオンギヤ回転の比、即ちラック比を「Rrp」(m/rad)、ラック、即ちタイロッド(図示せず)の質量を「Mrack」(kg)、キングピン周りトルクを「t1」(Nm)、ラック速度を「vr」(m/s)、ナックルアーム(図示せず)の長さを「Lna」(m)、ラック摩擦力を「ffr」(N)で夫々表すと、ラック軸上直線運動に係る下記(4)の運動方程式が求められる。
teps/Rmr + tss/Rrp = Mrack・dvr/dt + t1/Lna + ffr ・・(4)
【0034】
図4に一点鎖線で示すキングピン周りの対象部分EM5においては、キングピン周りトルクを「t1」(Nm)で表し、セルフアライニングトルクを「tsa」(Nm)、キングピンに対する外乱トルク成分を「twkp」(Nm)、キングピン周り摩擦力(タイヤスリップ分を含んだ非線形特性関数)を「tfkp」(Nm/(rad /s))、タイヤキングピン周り慣性を「Jtkp」(kgm2)、キングピン周り回転速度を「ωkp」(rad /s)で夫々表すと、キングピン周り回転運動に係る下記(5)の運動方程式が求められる。
t1 + tsa + twkp + tfkp = 2・Jtkp・dωkp/dt ・・(5)
【0035】
図4に示すキングピンとラックに係る対象部分EM6においては、キングピン周り回転速度を「ωkp」(rad /s) で表し、ラック速度を「vr」(m/s) で表し、ナックルアーム(図示せず)の長さを「Lna」(m)で表すと、キングピン−ラック運動変換に係る下記(6)の運動方程式が求められる。
ωkp = vr / Lna ・・(6)
【0036】
図4の対象部分EM7においては、タイヤとしての車輪に関し、セルフアライニングトルクを「tsa」(Nm)で表し、コーナリングパワーを「Kf」、前輪WFの車輪横すべり角を「βf」(rad)、車体横すべり角を「β」(rad)、車体重心から前輪WFの車軸までの距離を「Lf」(m)、車体速度を「vx」(m/s)、ヨーレイトを「γ」、操舵角を「δf」(rad)で夫々表すと、セルフアライニングトルクに係る下記(7)の運動方程式が求められる。
tsa = Kf・βf = Kf・(β + Lf/vx・γ - δf) ・・(7)
【0037】
図4に示す接地タイヤ(車輪)に係る対象部分EM8においては、キングピンに対する外乱トルク成分を「twkp」(Nm) で表し、キャスタトレールを「Ltrl」(m)、ニューマチックトレールを「Lptrl」(m)、図5に示す着力点×から後輪WRの車軸までの距離を「Lwr」(m)、ホイールベースを「L」(m)、外乱(横力)を「fw」(N)で夫々表すと、外乱を含む下記(8)の運動方程式が求められる。尚、上記の各トレールは近似計算で求められる。
twkp = (Ltrl + Lptrl)・Lwr/L・fw ・・(8)
【0038】
そして、図4に示すEPSモータに係る対象部分EM9においては、EPSトルク出力を「teps」(Nm)で表し、トルク増幅率を「Kea」で表し、操舵トルクを「tss」(Nm)、レーンキープアシストトルク、即ち操舵アシストトルクを「tlkas」(Nm)、モータのロータ摩擦を「tfmr」(Nm)で夫々表すと、モータ軸におけるEPSモータトルクに係る下記(9)の運動方程式が求められる。
teps = Kea・tss + tlkas - tfmr ・・(9)
【0039】
而して、上記の運動方程式(1)乃至(9)を整理すると下記のように外乱(fw)が求められる。即ち、ステアリングモデルにより、入力信号から外乱(fw)が逆算される。
fw = C1・((2・Jtkp + Lna2・Mrack)・dωkp/dt - Lna・(Kea/Rmr + 1/Rrp)・tss - Lna/Rmr・tlkas + Lna/Rmr・tfmr + Lna・ffr - tsa - tfkp) ・・(10)
但し、上記「C1」は、C1 = 1 / {(Ltrl + Lptrl)・Lwr/L}である。
【0040】
上記の式(10)において、摩擦に関する項(Lna/Rmr・tfmr + Lna・ffr - tsa - tfkp)は実際に計測することはできないが、予め実験等に基づき摩擦成分の最大値を設定しておき、これを超えた分を外乱とすることができる。即ち、上記の式(10)に対し、符号関数(sign)、絶対値を求める関数(abs)、最大値を求める関数(max)を用いて外乱(fw')を表すと、下記の式(11)となる。
fw' = C1・sign(fw1)・max(abs(fw1)-fmax, 0) ・・(11)
【0041】
上記の「fw1」は次のように表わされる。
fw1 = (2・Jtkp + Lna2・Mrack)・dωkp/dt - Lna・(Kea/Rmr + 1/Rrp)・tss - Lna/Rmr ・tlkas ・・(12)
【0042】
尚、上記の式(11)における最大値 (fmax)は下記の式(13)を意味することになるが、外乱の推定演算では設定値が用いられる。
fmax = max(abs(Lna/Rmr・tfmr + Lna・ffr - tsa - tfkp)) ・・(13)
【0043】
上記の外乱(fw')の推定演算に関し、例えば、車体速度100km/hで直進走行中の車両に対し、車両状態を示す各状態量が図6に実線で示す状態(後述する修正操舵が行われた状態)において、図7に細い実線(ステップ状の横風外乱トルク)で示すように、風速70km/hの横風が0乃至2秒間加えられたときのシミュレーション結果から明らかなように、設定値である最大値 (fmax)を超える値(abs(fw1)-fmax)は、図7に「外乱」として示す領域となるので、容易に特定することができる。この「外乱」に対し後述の修正操舵が行なわれると、図6に実線で示す特性となるが、修正操舵が行なわれない場合には図6に破線で示す特性となる。尚、車両状態における各状態量は図3の制御ブロックにて前述のように検出される。
【0044】
更に、上記のように求められた外乱(fw')に対し、上記の逆算が行われるときに発生し得るノイズへの対策として下記のようにフィルタ処理されて、推定外乱横力Fwhとされる。即ち、折点周波数ωlpを含むωlp/(s+ωlp)が乗じられ、以下のように推定外乱横力Fwhが求められる(尚、「s」はラプラス演算子を示す)。
Fwh =ωlp/(s+ωlp)・fw'
【0045】
而して、図3の制御ブロックに戻り、外乱推定演算部M5にて上記のように求められた推定外乱横力Fwhに対し、ハイパスフィルタ部M6にて高周波成分が取り出される。このとき、通常時ではなく急激な変動があったときにのみに操舵補正が行われるように、換言すれば、操舵補正量δftが変動分のみとなるように、折点周波数ωhpを含むs/(s+ωhp)が乗じられ、以下のように求められる。
δft = s/(s+ωhp)・(−b42/b41)・Fwh
【0046】
そして、図3の電動パワーステアリング制御部M7において、上記操舵補正量δftがトルク値に変換されて、前述のようにトルク指令値Taddに加算され、これが更に通常のパワーステアリング制御量に加算されて、電動パワーステアリングシステムEPSが制御され、本発明にいう修正操舵が行われる。而して、結果的に、推定外乱量の精度に応じて修正操舵量が調整されることになる。尚、操舵補正量δftのトルク値への変換は外乱推定演算部M5にて行うこととしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の車両のレーン走行支援装置の一実施形態を示す構成図である。
【図2】本発明の一実施形態における制御態様を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態における操舵制御手段を含むレーン走行支援装置の構成例を示すブロック図である。
【図4】本発明の一実施形態における電動パワーステアリングシステムを含む操舵系のスケルトンを示す構成図である。
【図5】本発明のステアリングモデルの一例として、2輪モデルを示す構成図である。
【図6】本発明の一実施形態において、外乱推定演算時の種々の車両状態量の変化の一例を示すグラフである。
【図7】本発明の一実施形態において、外乱の推定状況の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
SW ステアリングホイール
WH 車輪
EPS 電動パワーステアリングシステム
CMf 前方監視カメラ
CMr 後方監視カメラ
TS 操舵トルクセンサ
SS 車輪舵角センサ
RS 回転角センサ
YS ヨーレイトセンサ
VS 車体速度センサ
OS 操作スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者のステアリングホイール操作に応じて作動すると共に車両の路面走行状態に応じて操舵状態を制御し得る操舵制御手段と、撮像手段によって路面を連続して撮像した画像から走行レーンを検出する走行レーン検出手段を備え、該走行レーン検出手段が検出した走行レーン内を前記車両が走行するように前記操舵制御手段を制御して、前記車両の前記走行レーン内の走行を支援する車両のレーン走行支援装置において、前記走行レーン検出手段の検出結果と前記車両の操舵状態及び走行状態に応じて、前記走行レーン内における前記車両の状態量を推定する車両状態推定手段と、前記車両の操舵状態及び走行状態に基づき前記車両に対する目標状態量を設定する目標状態量設定手段と、前記操舵制御手段を含む前記車両のステアリングモデルに基づき、前記車両に対する外乱量を推定する外乱推定手段と、該外乱推定手段が推定した外乱量に基づき、前記目標状態量設定手段が設定した目標状態量と前記車両状態推定手段が推定した状態量の比較結果を修正し、該修正結果に応じて前記操舵制御手段による操舵制御を修正する修正操舵手段とを備えたことを特徴とする車両のレーン走行支援装置。
【請求項2】
前記外乱推定手段は、前記ステアリングモデルに基づく推定値と、前記操舵制御手段の特性に応じて設定した所定値との差に基づき、前記外乱量を推定することを特徴とする請求項1記載の車両のレーン走行支援装置。
【請求項3】
前記修正操舵手段は、前記外乱推定手段が推定した外乱量の精度に応じて、前記操舵制御手段に対する修正操舵量を調整することを特徴とする請求項1又は2記載の車両のレーン走行支援装置。
【請求項4】
運転者のステアリングホイール操作に応じて作動すると共に車両の路面走行状態に応じて操舵状態を制御し得る操舵制御手段と、撮像手段によって路面を連続して撮像した画像から走行レーンを検出する走行レーン検出手段を備え、該走行レーン検出手段が検出した走行レーン内を前記車両が走行するように前記操舵制御手段を制御して、前記車両の前記走行レーン内の走行を支援する車両のレーン走行支援装置において、車両運動モデル及び道路モデルを有し、該車両運動モデル及び道路モデルに基づき、前記走行レーン検出手段の検出結果と前記車両の操舵状態及び走行状態に応じて、前記走行レーン内における前記車両の横方向位置を含む状態量を推定する車両状態推定手段と、前記車両の操舵状態及び走行状態に基づき前記車両に対する目標状態量を設定する目標状態量設定手段と、前記車両のステアリングモデルに基づき前記車両に対する外乱量を推定する外乱推定手段と、該外乱推定手段が推定した外乱量から高周波成分を取り出すフィルタ手段と、該フィルタ手段が取り出した外乱量の高周波成分に基づき、前記目標状態量設定手段が設定した目標状態量と前記車両状態推定手段が推定した状態量の比較結果を修正し、該修正結果に応じて、前記操舵制御手段による操舵制御を修正する修正操舵手段とを備えたことを特徴とする車両のレーン走行支援装置。
【請求項5】
前記外乱推定手段は、前記ステアリングモデルに基づく推定値と、前記操舵制御手段の特性に応じて設定した所定値との差に基づき、前記外乱量を推定することを特徴とする請求項4記載の車両のレーン走行支援装置。
【請求項6】
前記修正操舵手段は、前記外乱推定手段が推定した外乱量の精度に応じて、前記操舵制御手段に対する修正操舵量を調整することを特徴とする請求項4又は5記載の車両のレーン走行支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−1420(P2006−1420A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180102(P2004−180102)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】