説明

車両の下部構造

【課題】車体に対し駆動ユニットが無用に大きく揺動することを、サスペンションメンバを含む車体の下部構造により、効果的に規制できるようにしたものでありながら、車体の下部構造の構成を簡単に、かつ、より軽量にできるようにし、更に、その形成作業が容易にできるようにする。
【解決手段】サスペンションメンバ10が、上下方向で互いに対面し車体2の平面視での各外縁部が互いに結合される上、下板部材31,32を備えて、中空形状とされる。上、下板部材31,32のうち、少なくともいずれか一方の板部材を屈曲させて、サスペンションメンバ10の前後方向における中途部の外面に車体2の幅方向に延びる凹部34,35を形成すると共に、この凹部34,35の底板と、他方の板部材とを互いに結合する。サスペンションメンバ10の前、後部37,38にブラケット18を固着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンションメンバに対し走行用駆動ユニットをトルクロッドなどの連結体により連結することにより、上記駆動ユニットが車体に対し無用に大きく揺動することを規制するようにした車両の下部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記車両の下部構造には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、車両の下部構造において、車体に支持され、車輪を懸架するサスペンションメンバと、このサスペンションメンバに固着されるブラケットと、このブラケットに一端部が連結され、他端部が、弾性のエンジンマウントを介し車体に支持された走行用駆動ユニットに連結される連結体とが設けられている。上記サスペンションメンバは、上下方向で互いに対面し車体の平面視での各外縁部が互いに結合される上、下板部材を備えており、上記サスペンションメンバは中空形状とされている。また、上記サスペンションメンバの強度と剛性とを確保するため、このサスペンションメンバを補強する補強材が別途に設けられ、上記サスペンションメンバに取り付けられている。
【0003】
そして、車両の走行時に、車体と駆動ユニットとのうち、いずれか一方から他方に与えられようとする衝撃力は、上記エンジンマウントが弾性変形することにより緩和される。また、この場合、エンジンマウントの弾性変形に基づき、上記駆動ユニットは車体に対し揺動しようとするが、上記駆動ユニットが無用に大きく揺動しようとすることは、この駆動ユニットが上記連結体を介し上記のように補強材によって補強されたサスペンションメンバに連結されていることにより、効果的に規制される。
【特許文献1】特開2007−253642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記したように、従来の技術では、サスペンションメンバを補強するために別途の補強材を設けて、上記サスペンションメンバに取り付けている。しかし、これでは、車両の下部構造の構成部品が多くなって、その構成が複雑になると共に質量が過大となり、かつ、車両の下部構造の形成作業が煩雑になるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、車体に対し駆動ユニットが無用に大きく揺動することを、サスペンションメンバを含む車体の下部構造により、効果的に規制できるようにしたものでありながら、この車体の下部構造の構成を簡単に、かつ、より軽量にできるようにし、更に、その形成作業が容易にできるようにすることである。
【0006】
請求項1の発明は、車体2に支持され、車輪7を懸架するサスペンションメンバ10と、このサスペンションメンバ10に固着されるブラケット18と、このブラケット18に一端部が連結され、他端部が、弾性のエンジンマウント14を介し車体2に支持された走行用駆動ユニット15に連結される連結体25とを設け、上記サスペンションメンバ10が、上下方向で互いに対面し車体2の平面視での各外縁部が互いに結合される上、下板部材31,32を備えて、上記サスペンションメンバ10が中空形状とされた車両の下部構造において、
上記上、下板部材31,32のうち、少なくともいずれか一方の板部材を屈曲させて、上記サスペンションメンバ10の前後方向における中途部の外面に車体2の幅方向に延びる凹部34,35を形成すると共に、この凹部34,35の底板34a,35aと、他方の板部材とを互いに結合し、
上記サスペンションメンバ10の前、後部37,38に上記ブラケット18を固着したことを特徴とする車両の下部構造である。
【0007】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0008】
本発明による効果は、次の如くである。
【0009】
請求項1の発明は、車体に支持され、車輪を懸架するサスペンションメンバと、このサスペンションメンバに固着されるブラケットと、このブラケットに一端部が連結され、他端部が、弾性のエンジンマウントを介し車体に支持された走行用駆動ユニットに連結される連結体とを設け、上記サスペンションメンバが、上下方向で互いに対面し車体の平面視での各外縁部が互いに結合される上、下板部材を備えて、上記サスペンションメンバが中空形状とされた車両の下部構造において、
上記上、下板部材のうち、少なくともいずれか一方の板部材を屈曲させて、上記サスペンションメンバの前後方向における中途部の外面に車体の幅方向に延びる凹部を形成すると共に、この凹部の底板と、他方の板部材とを互いに結合している。
【0010】
このため、上記凹部の形成により、車体の側面視で、上記サスペンションメンバの前部と後部とはそれぞれ中空の閉断面構造体とされる。これによりこのサスペンションメンバは、特に、車体の幅方向からこのサスペンションメンバに与えられる横方向外力に対し、十分に大きい強度と剛性とで対抗するよう補強される。よって、このサスペンションメンバが上記横方向外力で屈曲させられたり、座屈させられたりする、ということはより確実に防止される。
【0011】
また、上記サスペンションメンバの前、後部に上記ブラケットを固着している。
【0012】
このため、上記ブラケットは、車体の側面視で、それぞれ中空の閉断面構造とされる上記サスペンションメンバの前、後部に架設されて支持される。これにより、このサスペンションメンバは、特に、前後方向からこのサスペンションメンバに与えられる縦方向外力に対し、十分に大きい強度と剛性とで対抗するよう補強される。よって、このサスペンションメンバが上記縦方向外力により上記底板と他方の板部材同士の結合部で屈曲させられる、ということはより確実に防止される。
【0013】
即ち、上記構成のサスペンションメンバは、種々の方向からの外力に対し、十分に大きい強度と剛性とで対抗するよう補強される。
【0014】
そして、車両の走行時に、上記エンジンマウントの弾性変形に基づき、上記駆動ユニットが無用に大きく揺動しようとすることは、この駆動ユニットが上記連結体を介し上記のように補強されたサスペンションメンバに連結されていることにより、効果的に規制される。
【0015】
また、上記したように、サスペンションメンバの補強は、このサスペンションメンバに凹部を形成することと、上記サスペンションメンバへのブラケットの固着を工夫することとによって達成されたのであり、このため、上記サスペンションメンバの補強は別途の補強材を設けることなく達成される。よって、上記したように、車体に対し駆動ユニットが無用に大きく揺動することを、上記サスペンションメンバを含む車体の下部構造により、効果的に規制できるようにしたものでありながら、この車体の下部構造の構成を簡単に、かつ、より軽量にでき、また、上記したように構成が簡単である分、その形成作業が容易にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の車両の下部構造に関し、車体に対し駆動ユニットが無用に大きく揺動することを、サスペンションメンバを含む車体の下部構造により、効果的に規制できるようにしたものでありながら、この車体の下部構造の構成を簡単に、かつ、より軽量にできるようにし、更に、その形成作業が容易にできるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための最良の形態は、次の如くである。
【0017】
即ち、車体に支持され、車輪を懸架するサスペンションメンバと、このサスペンションメンバに固着されるブラケットと、このブラケットに一端部が連結され、他端部が、弾性のエンジンマウントを介し車体に支持された走行用駆動ユニットに連結される連結体とが設けられる。上記サスペンションメンバが、上下方向で互いに対面し車体の平面視での各外縁部が互いに結合される上、下板部材を備えて、上記サスペンションメンバが中空形状とされる。
【0018】
上記上、下板部材のうち、少なくともいずれか一方の板部材が屈曲させられて、上記サスペンションメンバの前後方向における中途部の外面に車体の幅方向に延びる凹部が形成されると共に、この凹部の底板と、他方の板部材とが互いに結合される。上記凹部を跨いで上記サスペンションメンバの前、後部に上記ブラケットが固着される。
【実施例1】
【0019】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例1を添付の図1,2に従って説明する。
【0020】
図1,2において、符号1は、自動車で例示される車両であり、矢印Frは、この車両1の進行方向の前方を示している。
【0021】
上記車両1の車体2は、その下部の骨格部材を構成する車体フレーム3を備えている。この車体フレーム3は、前後方向に延びる左右一対のサイドメンバ4,4と、これらサイドメンバ4,4を互いに強固に結合させる不図示のクロスメンバとを備えている。
【0022】
上記車体フレーム3の前部に対し左右の前車輪7,7を懸架させるフロントサスペンション8が設けられている。このサスペンション8は、上記車体フレーム3の各サイドメンバ4に締結具9により強固に支持される板金製のサスペンションメンバ10と、このサスペンションメンバ10の左右各側部に上下に揺動可能に枢支され、その各揺動端に上記各車輪7を支持するロアリンク11とを備えている。
【0023】
上記サスペンションメンバ10の前方近傍域において、上記車体フレーム3の各サイドメンバ4に、左右一対の弾性のエンジンマウント14,14を介し走行用駆動ユニット15が支持されている。この駆動ユニット15は具体的にはエンジンである。
【0024】
上記サスペンションメンバ10の下面に板金製のブラケット18がアーク溶接Wにより強固に取り付けられている。また、上記サスペンションメンバ10とブラケット18とに跨って、これら10,18に、軸心19が縦向きの第1支軸20が固着されている。一方、この第1支軸20の前方近傍における上記駆動ユニット15の後端部には軸心22が車体2の幅方向に延びる第2支軸23が固着されている。
【0025】
上記ブラケット18と第1、第2支軸20,23とを介し上記サスペンションメンバ10に駆動ユニット15を連結させる連結体25が設けられている。この連結体25はトルクロッドであって、この連結体25は、前後方向に長く延びるパイプ形状の連結体本体26と、この連結体本体26の前、後端部に固着される円環形状で弾性を有する前、後緩衝体27,28とを備えている。
【0026】
上記連結体25の一端部(後端部)は、上記後緩衝体28が上記第1支軸20に外嵌されて固着されることにより上記ブラケット18を介しサスペンションメンバ10に弾性的に連結される。また、上記連結体25の他端部(前端部)は、上記前緩衝体27が上記第2支軸23に外嵌されて固着されることにより上記駆動ユニット15に弾性的に連結される。
【0027】
上記サスペンションメンバ10は、上下方向で互いに対面し、車体2の平面視(図2)での各外縁部が互いにスポット溶接S1,S2により結合される上、下板部材31,32を備えている。そして、上記サスペンションメンバ10は中空形状(最中形状)で閉断面構造とされている。
【0028】
上記上、下板部材31,32はそれぞれ屈曲させられ、上記サスペンションメンバ10の前後方向の中途部の上、下各外面に、車体2の幅方向の全体に渡って延びる溝形状の上、下凹部34,35が形成されている。また、これら各凹部34,35の底板34a,35aは、その内面同士が面接触させられて、互いにスポット溶接S3により結合されている。
【0029】
このため、上記凹部34,35の形成により、車体2の側面視で、上記サスペンションメンバ10の前部37と後部38とはそれぞれ中空の閉断面構造体とされる。これにより、このサスペンションメンバ10は、特に、車体2の幅方向からこのサスペンションメンバ10に与えられる横方向外力に対し、十分に大きい強度と剛性とで対抗するよう補強される。よって、このサスペンションメンバ10が上記横方向外力で屈曲させられたり、座屈させられたりする、ということはより確実に防止される。
【0030】
前記ブラケット18は、上記サスペンションメンバ10の長手方向の中途部の下方に位置し上方かつ前方に向かって開口する箱形のブラケット本体40と、このブラケット本体40の左、右外縁部かつ後縁部からそれぞれ一体的に延出する外向きフランジ41とを備えている。この外向きフランジ41の各部が前記アーク溶接Wにより上記サスペンションメンバ10の板部材32の下面の各部に結合されている。
【0031】
前記第1支軸20は、上記軸心19上で、上記サスペンションメンバ10の前部37内に配置される第1カラー20aと、上記ブラケット18の内部空間43に配置される第2カラー20bと、上記サスペンションメンバ10の前部37、ブラケット18、および第1、第2カラー20a,20bを貫通して、これらを互いに締結させる締結具20cとを備えている。前記緩衝体28は上記第1支軸20の第2カラー20bに固着され、上記ブラケット18の内部空間43に収容されている。
【0032】
上記の場合、ブラケット18は、上記サスペンションメンバ10の前、後部37,38にそれぞれ前記アーク溶接Wにより固着されている。
【0033】
このため、上記ブラケット18は、車体2の側面視で、それぞれ中空の閉断面構造とされる上記サスペンションメンバ10の前、後部37,38に架設されて支持される。これにより、このサスペンションメンバ10は、特に、前後方向からこのサスペンションメンバ10に与えられる縦方向外力に対し、十分に大きい強度と剛性とで対抗するよう補強される。よって、上記サスペンションメンバ10が上記縦方向外力により上記両底板34a,35a同士の結合部で屈曲させられる、ということはより確実に防止される。
【0034】
即ち、上記構成のサスペンションメンバ10は、種々の方向からの外力に対し、十分に大きい強度と剛性とで対抗するよう補強される。
【0035】
なお、図1中一点鎖線で示すように、上記サスペンションメンバ10の上面に上記ブラケット18を固着させてもよい。
【0036】
そして、車両1の走行時に、車体2と駆動ユニット15とのうち、いずれか一方から他方に与えられようとする衝撃力は、上記エンジンマウント14が弾性変形することにより緩和される。また、この場合、エンジンマウント14の弾性変形に基づき、上記駆動ユニット15は車体2に対し揺動しようとするが、上記駆動ユニット15が無用に大きく揺動しようとすることは、この駆動ユニット15が上記連結体25を介し上記のように補強されたサスペンションメンバ10に連結されていることにより、効果的に規制される。
【0037】
また、上記したように、サスペンションメンバ10の補強は、このサスペンションメンバ10に凹部34,35を形成することと、上記サスペンションメンバ10へのブラケット18の固着を工夫することとによって達成されたのであり、このため、上記サスペンションメンバ10の補強は別途の補強材を設けることなく達成される。よって、上記したように、車体2に対し駆動ユニット15が無用に大きく揺動することを、上記サスペンションメンバ10を含む車体2の下部構造により、効果的に規制できるようにしたものでありながら、この車体2の下部構造の構成を簡単に、かつ、より軽量にでき、また、上記したように構成が簡単である分、その形成作業が容易にできる。
【0038】
なお、以上は図示の例によるが、上記凹部34,35は、車体2の幅方向における上記サスペンションメンバ10の中途部にのみ形成してもよい。また、上記サスペンションメンバ10とブラケット18とを個別に形成した後、これら10,18を締結により互いに固着させてもよい。
【0039】
以下の図3は、実施例2を示している。この実施例2は、前記実施例1と構成、作用効果において多くの点で共通している。そこで、これら共通するものについては、図面に共通の符号を付してその重複した説明を省略し、異なる点につき主に説明する。また、これら実施例における各部分の構成を、本発明の目的、作用効果に照らして種々組み合せてもよい。
【実施例2】
【0040】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例2を添付の図3に従って説明する。
【0041】
図3において、上記サスペンションメンバ10の上、下板部材31,32のうち、一方の板部材である上板部材31のみを屈曲させて、凹部34が形成されている。この凹部34の底板34aと、他方の板部材である下板部材32とがスポット溶接S3により結合されている。
【0042】
上記ブラケット18は、上下方向で互いに対面し、左右各外縁部と後部外縁部とがそれぞれスポット溶接S4により結合される上、下板部材46,47を備え、車体2の正面視で中空の閉断面構造体とされている。上記上、下板部材46,47に上記第1支軸20が架設されている。また、上記ブラケット18は、上記凹部34を跨いで、このサスペンションメンバ10の前、後部37,38にそれぞれ上記スポット溶接S4により固着されている。
【0043】
なお、上記構成に代え、下板部材32のみを屈曲させて、サスペンションメンバ10の下面に凹部35を形成してもよく、上記サスペンションメンバ10の下面に上記ブラケット18を固着させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1を示し、図2のI−I線矢視断面図である。
【図2】実施例1を示し、車体の部分平面簡略図である。
【図3】実施例2を示し、図1に相当する図である。
【符号の説明】
【0045】
1 車両
2 車体
3 車体フレーム
7 車輪
8 サスペンション
10 サスペンションメンバ
14 エンジンマウント
15 駆動ユニット
18 ブラケット
25 連結体
31 板部材
32 板部材
34 凹部
34a 底板
35 凹部
35a 底板
37 前部
38 後部
40 ブラケット本体
41 外向きフランジ
42 開口
43 内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に支持され、車輪を懸架するサスペンションメンバと、このサスペンションメンバに固着されるブラケットと、このブラケットに一端部が連結され、他端部が、弾性のエンジンマウントを介し車体に支持された走行用駆動ユニットに連結される連結体とを設け、上記サスペンションメンバが、上下方向で互いに対面し車体の平面視での各外縁部が互いに結合される上、下板部材を備えて、上記サスペンションメンバが中空形状とされた車両の下部構造において、
上記上、下板部材のうち、少なくともいずれか一方の板部材を屈曲させて、上記サスペンションメンバの前後方向における中途部の外面に車体の幅方向に延びる凹部を形成すると共に、この凹部の底板と、他方の板部材とを互いに結合し、
上記サスペンションメンバの前、後部に上記ブラケットを固着したことを特徴とする車両の下部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−64637(P2010−64637A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233486(P2008−233486)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【出願人】(597044391)ナミコー株式會社 (7)
【Fターム(参考)】