説明

車両の制御装置および制御方法

【課題】電流遮断装置(CID)を含んで構成される蓄電装置を備えた車両において、CID作動の有無を精度よく判定する。
【解決手段】制御装置40は、CIDを含んで構成される蓄電装置と、蓄電装置の電力を用いて車両の駆動力を発生する駆動装置と、蓄電装置の電力を消費する補機とを備えた車両に搭載される。CIDが作動(断線)すると、蓄電装置に電流が流れなくなる。制御装置40は、仮判定部40Aと、正式判定部40Bとを含む。仮判定部40Aは、蓄電装置から駆動装置に入力される電圧VLの変動に基づいてCID断線の有無を仮に判定する。正式判定部40Bは、仮判定部40Aが「CID断線」と仮判定した場合に、駆動装置または補機を制御して電圧VLを意図的に変動させるVL変動制御を実行し、VL変動制御中に蓄電装置から出力される電流Ibの変動量に基づいてCID断線の有無を正式に判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置と、蓄電装置の電力を用いて駆動力を発生する駆動装置と、蓄電装置の電力で作動する補機とを備えた車両の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両は、一般的に、バッテリからの電圧を昇圧コンバータで昇圧してインバータに供給すると共にバッテリからの電圧をDC/DCコンバータで降圧して補機に供給する動力システムを備える。
【0003】
このような電動車両において、たとえば特開2009−227078号公報(特許文献1)には、昇圧コンバータの入力電圧を検出する第1電圧センサの出力がしきい値以上となり仮異常と判定されたときでも、DC/DCコンバータの入力電圧を検出する第2電圧センサの出力としきい値とを比較することによりバッテリの過電圧異常であるのか第1電圧センサの異常であるのかを判別する技術が開示されている。この技術によれば、昇圧コンバータの入力電圧を検出する第1電圧センサの異常とバッテリの過電圧異常とを判別することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−227078号公報
【特許文献2】特開2008−312306号公報
【特許文献3】特開2007−18871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、蓄電装置には、電流遮断装置を含んで構成されるものが存在する。以下、電流遮断装置を「CID(Current Interrupt Device)」と称する。CIDは、蓄電装置の内圧が規定値を超えた場合にその内圧によって作動して蓄電装置の通電経路を遮断する。したがって、CIDが作動すると、蓄電装置に電流が流れなくなる。これにより、蓄電装置の過電圧が防止される。しかしながら、CIDが作動した状態でそのまま車両を走行させると、CIDに非常に大きな電圧が印加されてさらに二次的な故障を誘発するおそれがある。したがって、CIDが作動したか否かを素早く判定する必要がある。
【0006】
しかしながら、特開2009−227078号公報には、CIDについて記載されておらず、したがって、CIDが作動したか否かの判定手法についても何ら示されていない。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、CIDを含んで構成される蓄電装置を備えた車両において、CID作動の有無を精度よく判定することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る制御装置は、蓄電装置と、蓄電装置の電力を用いて車両の駆動力を発生する駆動装置と、蓄電装置の電力を消費する補機とを備えた車両を制御する。蓄電装置は、蓄電装置の内圧が規定値を超えた場合に作動して蓄電装置の通電経路を遮断する遮断装置を含んで構成される。制御装置は、蓄電装置から駆動装置への入力電圧の変動態様に基づいて遮断装置の作動の有無を仮に判定する仮判定部と、遮断装置が作動したと仮に判定された場合に、駆動装置または補機を制御して入力電圧を意図的に変動させる変動制御を実行し、変動制御中の蓄電装置の電流の変動態様または変動制御中の入力電圧の変動態様に基づいて遮断装置の作動の有無を正式に判定する正式判定部とを備える。
【0009】
好ましくは、正式判定部は、変動制御中の電流の変動量が所定量よりも小さい場合に、遮断装置が作動したと正式に判定する。
【0010】
好ましくは、正式判定部は、変動制御中の入力電圧の変動速度が所定速度よりも速い場合に、遮断装置が作動したと正式に判定する。
【0011】
好ましくは、車両は、蓄電装置の電力を駆動装置に入力するための正極線および負極線をさらに備える。補機は、正極線および負極線に接続される。変動制御は、補機および駆動装置の少なくともいずれかが正極線および負極線から受ける電力を消費するように、補機および駆動装置の少なくともいずれかを作動させる制御である。
【0012】
好ましくは、補機は、補機バッテリと、正極線と負極線との間の電圧を変換して補機バッテリに出力するコンバータと、空調用コンプレッサと、正極線と負極線との間の電力を変換して空調用コンプレッサに出力するインバータとを含む。
【0013】
好ましくは、車両は、正極線および負極線の間に接続される平滑用のコンデンサをさらに備える。
【0014】
この発明の別の局面に係る制御方法は、蓄電装置と、蓄電装置の電力を用いて車両の駆動力を発生する駆動装置と、蓄電装置の電力を消費する補機とを備えた車両の制御装置が行なう制御方法である。蓄電装置は、蓄電装置の内圧が規定値を超えた場合に作動して蓄電装置の通電経路を遮断する遮断装置を含んで構成される。制御方法は、蓄電装置から駆動装置への入力電圧の変動態様に基づいて遮断装置の作動の有無を仮に判定するステップと、遮断装置が作動したと仮に判定された場合に、駆動装置または補機を制御して入力電圧を意図的に変動させる変動制御を実行するステップと、変動制御中の蓄電装置の電流の変動態様または変動制御中の入力電圧の変動態様に基づいて遮断装置の作動の有無を正式に判定するステップとを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、遮断装置(CID)を含んで構成される蓄電装置を備えた車両において、遮断装置の作動(CID作動)の有無を精度よく判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】モータ駆動制御システムの全体構成図である。
【図2】蓄電装置の詳細な構成を示す図である。
【図3】制御装置の機能ブロック図である。
【図4】制御装置の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】制御装置の動作のタイミングチャートである。
【図6】高負荷時にCID断線が生じた場合の電圧VLと電流Ibの時間変化を示す図である。
【図7】低負荷時にCID断線が生じた場合の電圧VLと電流Ibの時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお以下図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則的に繰り返さないものとする。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態に従う制御装置が適用されるモータ駆動制御システム1の全体構成図である。モータ駆動制御システム1は、電動車両(ハイブリッド自動車、電気自動車や燃料電池車等の電気エネルギによって車両駆動力を発生する自動車をいうものとする)に搭載される。
【0019】
モータ駆動制御システム1は、蓄電装置10と、システムメインリレーSMRと、正極線6および負極線5と、コンデンサCfと、蓄電装置10の電力を用いて電動車両の駆動力を発生する駆動装置20と、蓄電装置10の電力を消費する補機30と、制御装置40とを備える。
【0020】
蓄電装置10は、代表的には、ニッケル水素またはリチウムイオン等の二次電池である。蓄電装置10の両端の電圧Vbおよび蓄電装置10から出力される電流Ibは、それぞれ、電圧センサ11および電流センサ12によって検出される。
【0021】
システムメインリレーSMRは、リレーSR1,SR2を含む。リレーSR1は、蓄電装置10の正極端子および正極線6の間に接続される。リレーSR2は、蓄電装置10の負極端子および負極線5の間に接続される。リレーSR1,SR2は、制御装置40からの制御信号SEによりオンオフされる。
【0022】
コンデンサCfは、正極線6および負極線5の間に接続され、正極線6および負極線5の電力変動を平滑化する。コンデンサCfの両端の電圧(すなわち正極線6および負極線5の間の電圧、以下「電圧VL」ともいう)は、電圧センサ13によって検出される。
【0023】
駆動装置20は、コンバータ21と、コンデンサCmと、放電抵抗Rと、インバータ22A,22Bと、モータM1,M2とを備える。
【0024】
コンバータ21は、リアクトルL1と、スイッチング素子Q1,Q2と、逆並列ダイオードD1,D2とを含む。スイッチング素子Q1およびQ2は、正極線7および負極線5の間に直列に接続される。スイッチング素子Q1,Q2に対しては、それぞれ逆並列ダイオードD1,D2が配置されている。リアクトルL1は、スイッチング素子Q1およびQ2の中間点と正極線6との間に接続される。
【0025】
スイッチング素子Q1およびQ2は、制御装置40からの制御信号S1およびS2によってそれぞれ制御される。コンバータ21の作動時、スイッチング素子Q1およびQ2は、周期的かつ相補的に(交互に)オンされる。
【0026】
昇圧動作時には、コンバータ21は、電圧VLを電圧VL以上の電圧に変換して正極線7および負極線5の間に出力する。一方、降圧動作時には、コンバータ21は、電圧VHを電圧VH以下の電圧に変換して正極線6および負極線5の間に出力する。
【0027】
コンデンサCmは、正極線7および負極線5の間に接続され、正極線7および負極線5の間の電力変動を平滑化する。コンデンサCmの両端の電圧(すなわち正極線7および負極線5の間の電圧、以下「電圧VH」ともいう)は、電圧センサ14によって検出される。
【0028】
放電抵抗Rは、正極線7および負極線5の間に接続される。
モータM1,M2は、電動車両の駆動輪を駆動するためのトルクを発生するための電動機である。モータM1,M2は、どちらも、多相(本実施の形態では3相)の永久磁石型同期電動機である。モータM1の各相コイルの一端は、中性点に共通接続される。さらに、モータM1の各相コイルの他端は、それぞれインバータ22Aの各相上下アーム15〜17のスイッチング素子の中間点と接続されている。
【0029】
なお、モータM1,M2は、エンジンにて駆動される発電機の機能を持つものでもよく、電動機および発電機の機能を併せ持つものでもよい。さらに、モータM1,M2は、エンジンに対して電動機として動作し、たとえば、エンジン始動を行ない得るようなものとしてハイブリッド自動車に組み込まれるようにしてもよい。すなわち、本実施の形態において、「モータ」は、交流駆動の電動機、発電機および電動発電機(モータジェネレータ)を含むものである。
【0030】
インバータ22A,22Bは、正極線7および負極線5を介して、コンバータ21に対して互いに並列に接続される。また、インバータ22A,22Bは、それぞれモータM1,M2に接続される。なお、インバータ22A,22Bは基本的に同じ構造を有するため、以下の説明では主にインバータ22Aについて説明し、インバータ22Bについての説明は原則として繰り返さない。
【0031】
インバータ22Aは、U相上下アーム15と、V相上下アーム16と、W相上下アーム17とから成る。各相上下アームは、正極線7および負極線5の間に直列接続されたスイッチング素子Q3〜Q8から構成される。スイッチング素子Q3〜Q8に対して、逆並列ダイオードD3〜D8がそれぞれ接続されている。各相上下アーム15〜17のスイッチング素子の中間点には、モータM1の各相コイルの他端が接続される。スイッチング素子Q3〜Q8のオンオフは、制御装置40からの制御信号S3A〜S8Aによって制御される。
【0032】
インバータ22Aは、モータM1を駆動させる場合、制御信号S3A〜S8Aに応答したスイッチング動作により、コンバータ21から供給された直流電力を交流電力に変換してモータM1に供給する。一方、電動車両の回生制動時には、インバータ22Aは、制御信号S3A〜S8Aに応答したスイッチング動作により、モータM1が発電した回生電力を直流電力に変換し、その変換した直流電力をコンバータ21へ供給する。
【0033】
電流センサ24は、モータM1に流れる電流を検出し、その検出したモータ電流を制御装置40へ出力する。なお、三相電流iu,iv,iwの瞬時値の和は零であるので、図1に示すように電流センサ24は2相分の電流を検出するように配置すれば足りる。
【0034】
回転角センサ(レゾルバ)25は、モータM1のロータ回転角θ1を検出する。制御装置40では、回転角θ1に基づきモータM1の回転速度を算出できる。
【0035】
インバータ22Bのスイッチング素子Q3〜Q8のオンオフは、制御装置40からの制御信号S3B〜S8Bに基づいて制御される。上述したように、インバータ22Bは、インバータ22Aと基本的に同じ構造を有するため、インバータ22Bについての詳細な説明は繰り返さない。
【0036】
補機30は、DC/DCコンバータ31と、補機バッテリ32と、A/C(Air Conditioner)インバータ33と、A/Cコンプレッサ34とを備える。なお、これらは補機30の代表的なものを示したもので、実際には電動車両の走行を補助する他のさまざまな電気機器を含んで構成される。
【0037】
DC/DCコンバータ31は、正極線6および負極線5を介して、蓄電装置10に接続される。A/Cインバータ33も、正極線6および負極線5を介して、蓄電装置10に接続される。したがって、コンバータ21、DC/DCコンバータ31、A/Cインバータ33は、正極線6および負極線5を介して、蓄電装置10に並列に接続される。
【0038】
DC/DCコンバータ31は、制御装置40からの制御信号S9に応じて作動し、電圧VLを降圧して補機バッテリ32に出力する。これにより、補機バッテリ32が正極線6および負極線5から受ける電力(蓄電装置10またはコンデンサCfに蓄えられた電力)で充電される。
【0039】
A/Cインバータ33は、制御装置40からの制御信号S10に応じて作動し、正極線6および負極線5から受ける電力(蓄電装置10またはコンデンサCfに蓄えられた電力)をA/Cコンプレッサ34を駆動するための電力に変換してA/Cコンプレッサ34に出力する。これにより、A/Cコンプレッサ34が駆動され、電動車両の室内の空調が行なわれる。
【0040】
制御装置40は、図示しないCPU(Central Processing Unit)およびメモリを内蔵した電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)により構成される。制御装置40は、各センサからの情報やメモリに記憶された情報等に基づいて所定の演算処理を実行することによって、駆動装置20および補機30の動作を制御する。より具体的には、制御装置40は、制御信号S1,S2をPWM制御によって生成してコンバータ21に出力する。また、制御装置40は、制御信号S3A〜S8A,S3B〜S8BをPWM制御によって生成し、それぞれインバータ22A,22Bに出力する。また、制御装置40は、必要に応じて制御信号S9,S10を生成し、それぞれDC/DCコンバータ31およびA/Cインバータ33に出力する。
【0041】
図2は、蓄電装置10の詳細な構成を示す図である。
蓄電装置10は、複数の電池セルCbが直列に接続されて構成される。そして、各電池セルCbは、電流遮断装置(Current Interrupt Device、以下、単に「CID」という)を含んで構成される。
【0042】
CIDは、電池セルCbの電解液から発生するガスによって電池セルCbの内圧が規定値よりも上昇した場合に、その内圧によって作動して、その電池セルCbを他の電池セルCbから物理的に遮断する。したがって、各電池セルCbのいずれかのCIDが作動すると、蓄電装置10に電流が流れなくなる。以下、CIDが作動して蓄電装置10に電流が流れなくなることを「CID断線」という。
【0043】
実際にCID断線が生じると、CID断線が生じた電池セル以外の電池セルの合計電圧と電圧VLとの差電圧が、断線したCIDに印加されることがわかっている。したがって、電圧VLの減少に伴なって、断線したCIDに印加される電圧も徐々に増加することになる。CID耐電圧を超える電圧が断線したCIDに印加されると、さらに二次的な故障を誘発することが懸念される。したがって、CID断線の有無を素早く検出する必要がある。
【0044】
実験から、CID断線が生じると、電圧VLが変動することがわかっている。これは、CID断線によって蓄電装置10からコンデンサCfへの電力供給が途絶えるため、駆動装置20や補機30の負荷に応じてコンデンサCfに蓄えられている電荷量が変動するためである。高負荷時(たとえば駆動装置20が発生する駆動力で電動車両を走行させている時)にCID断線が生じた場合には、コンデンサCfの電力がモータM1,M2の駆動電力として消費されるため、CID正常時よりも電圧VLが急激に減少する。したがって、高負荷時であれば、電圧VLがCID正常時よりも急激に減少していることを検出することによって、CID断線が生じていることを検出することが可能である。
【0045】
しかしながら、低負荷時(たとえば駆動装置20の停止中でさらに補機30の消費電力も小さい時)にCID断線が生じた場合には、コンデンサCfに蓄えられた電力が消費される量が少なく電圧VLの変動量も小さくなるため、CID断線時とCID正常時との区別が難しい。
【0046】
このような問題に鑑み、本実施の形態に従う制御装置40は、電圧VLの変動に基づいてCID断線の有無を仮に判定する処理(以下、「仮判定」という)を行なう。そして、仮判定によって「CID断線」と仮判定された場合、制御装置40は、電圧VLを意図的に変動させるための制御(以下「VL変動制御」という)を実行し、VL変動制御中の電流Ibの変動量に基づいてCID断線の有無を正式に判定する処理(以下、「正式判定」という)を行なう。このようにすると、電動車両の走行状態(駆動装置20や補機30の負荷の大小)に関わらず、CID断線の有無を高い精度で常時監視することができる。この点が本実施の形態の特徴的な点である。
【0047】
図3は、上述した仮判定および正式判定を行なう場合の制御装置40の機能ブロック図である。図3に示した各機能ブロックは、電子回路等によるハードウェア処理によって実現してもよいし、プログラムの実行等によるソフトウェア処理によって実現してもよい。
【0048】
制御装置40は、仮判定部40Aと、正式判定部40Bとを含む。
仮判定部40Aは、電圧VLの変動に基づいて、上述した仮判定を行なう。具体的には、仮判定部40Aは、まず、単位時間あたりの電圧VLの変動量(以下「変動量ΔVL」ともいう)およびその変動量ΔVLの合計値(以下「変動合計量ΣΔVL」ともいう)を算出する。なお、以下では、変動量ΔVLは、電圧VLの低下時に「正」の値に算出され、電圧VLの増加時に「負」の値に算出されるものとして説明する。したがって、変動合計量ΣΔVLは、電圧VLの低下時に増加し、電圧VLの増加時に減少する値である。
【0049】
仮判定部40Aは、変動量ΔVLおよび変動合計量ΣΔVLをそれぞれ所定値V1,V2と比較し、ΔVL>V1かつΣΔVL>V2である場合(すなわち電圧VLがCID正常時よりも急減している状態が継続している場合)に「CID断線」と仮判定し、そうでない場合は「CID正常」と判定する。
【0050】
正式判定部40Bは、仮判定部40Aが「CID断線」と仮判定した場合に、上述した正式判定を行なう。具体的には、正式判定部40Bは、まず、VL変動制御を実行して、電圧VLを意図的に変動させる。VL変動制御は、たとえば、DC/DCコンバータ31の出力(補機バッテリ32に充電される電力)やA/Cインバータ33の出力(A/Cコンプレッサ34で消費される電力)を意図的に変動させて正極線6および負極線5から補機30に供給される電力を意図的に変動させたり、ディスチャージ制御によって正極線6および負極線5から駆動装置20に供給される電力を意図的に変動させたりすることよって実現される。ディスチャージ制御とは、正極線6および負極線5から駆動装置20に供給される電力をモータM1,M2でトルクを発生させることなく熱として消費させるように駆動装置20(インバータ22A,22B、および必要に応じてコンバータ21)を動作させる制御である。このように、VL変動制御は、既存の構成を用いて行なわれるため、VL変動制御のために新たな構成を設ける必要はない。
【0051】
そして、正式判定部40Bは、VL変動制御中の電流Ibの合計値(以下「電流合計値ΣIb」という)を算出し、電流合計値ΣIbが所定値I0よりも小さい場合(電流合計値ΣIbが略零である場合)に「CID断線」と正式に判定し、そうでない場合に「CID正常」と判定する。
【0052】
なお、「CID断線」と正式に判定された場合、制御装置40は、その旨を図示しないインフォメーションパネルに表示させてユーザに報知するととも、電動車両の走行モードをフェールセーフモードに切り替える。フェールセーフモードでは、SMRがオフされ、蓄電装置10の電力を用いないで電動車両が走行される。
【0053】
図4は、上述の制御装置40の機能を実現するための処理手順を示すフローチャートである。以下に示すフローチャートの各ステップ(以下、ステップを「S」と略す)は、上述したようにハードウェア処理によって実現してもよいしソフトウェア処理によって実現してもよい。なお、以下では、VL変動制御として、DC/DCコンバータ31の出力を意図的に変動させる場合を例示的に説明する。
【0054】
S100にて、制御装置40は、システムメインリレーSMRがオン状態であるか否かを判断する。SMRがオン状態であると(S100にてYES)、制御装置40は、処理をS110に移す。そうでないと(S100にてNO)、制御装置40は、この処理を終了させる。
【0055】
S110にて、制御装置40は、変動量ΔVLが所定値V1よりも大きいか否かを判断する。ΔVL>V1である場合(S110にてYES)、制御装置40は、電圧VLがCID正常時よりも急減している状態であると判断して、処理をS120に移す。そうでないと(S110にてNO)、処理はS170に移される。
【0056】
S120にて、制御装置40は、変動合計量ΣΔVLが所定値V2よりも大きいか否かを判断する。ΣΔVL>V2である場合(S120にてYES)、制御装置40は、電圧VLがCID正常時よりも急減している状態が継続していると判断して、処理をS130に移す。そうでないと(S120にてNO)、制御装置40は、処理をS170に移す。
【0057】
S130にて、制御装置40は、「CID断線」と仮判定する。
S140にて、制御装置40は、DC/DCコンバータ31の出力を意図的に変動させる(VL変動制御を実行する)。
【0058】
S150にて、制御装置40は、電流合計値ΣIbが所定値I0よりも小さいか否かを判断する。ΣIb<I0である場合(S150にてYES)、制御装置40は、電流合計値ΣIbが略零である(電流Ibがほとんど流れていない)と判断して、処理をS160に移す。そうでないと(S150にてNO)、制御装置40は、処理をS170に移す。
【0059】
S160にて、制御装置40は、「CID断線」と正式に判定する。すなわち、仮判定した「CID断線」を確定させる。
【0060】
S170にて、制御装置40は、「CID正常」と判定する。
図5は、上述した仮判定および正式判定を行なう場合の制御装置40の動作のタイミングチャートである。
【0061】
時刻t1で実際にCID断線が生じると、電流Ibはほぼ瞬間的に略零に低下するとともに、電圧VLが低下し始める。時刻t2でΔVL>V1かつΣΔVL>V2となると「CID断線」と仮判定される。
【0062】
「CID断線」と仮判定されたことに伴って、CID断線の有無の正式判定が開始される。すなわち、時刻t3にてVL変動制御の実行が開始されて、DC/DCコンバータ31の出力が意図的に変動させられる。
【0063】
この際、仮にCID断線が生じていないのであれば、VL変動制御によって電流Ibが変動するはずである(図5の電流Ibの破線参照)。しかしながら、実際にはCID断線が生じているため、電流Ibは変動しない(図5の電流Ibの実線参照)。
【0064】
この点に鑑み、制御装置40は、VL変動制御中の電流合計値ΣIbが所定値I0よりも小さいか否かを判断する。そして、制御装置40は、ΣIb<I0と判断した時刻t4にて、「CID断線」と正式に判定する。
【0065】
図6は、高負荷時(たとえば駆動装置20が発生する駆動力で電動車両を走行させている時)に実際にCID断線が生じた場合の電圧VLと電流Ibの時間変化を示す図である。一方、図7は、低負荷時(たとえば駆動装置20の停止中でさらに補機30の消費電力も小さい時)に実際にCID断線が生じた場合の電圧VLと電流Ibの時間変化を示す図である。
【0066】
高負荷時においては、図6に示すように、CID断線が生じた時刻t11で、電流Ibはほぼ瞬間的に略零に低下する。また、コンデンサCfに蓄えられていた電力がモータM1,M2の駆動電力として消費されるため、電圧VLがCID正常時よりも急激に減少する。したがって、高負荷時は、電圧VLの変動速度や変動量に基づいてCID断線の有無を判定することが可能である。
【0067】
しかしながら、低負荷時においては、図7に示すように、CID断線が生じた時刻t21で、電流Ibはほぼ瞬間的に略零に低下するが、コンデンサCfに蓄えられていた電力は放電抵抗Rで消費される程度で緩やかにしか消費されず、CID正常時と同様、電圧VLの変動量は小さい(電圧VLの一点鎖線参照)。したがって、低負荷時に電圧VLの変動量に基づいてCID断線の有無を判定すると誤判定するおそれがある。
【0068】
そこで、制御装置40は、図6、7に示すように、高負荷時および低負荷時のいずれの場合であっても、電圧VLの変動量に基づいてCID断線の有無の仮判定を行ない、CID断線有りと仮判定した場合にVL変動制御の実行を開始して電圧VLを意図的に変動させる。そして、VL変動制御の実行中においても電流Ibが略零のままである場合(図6においては時刻t12〜t13の間の電流Ibの合計値が所定値I0よりも小さい場合、図7においては時刻t22〜t23の間の電流Ibの合計値が所定値I0よりも小さい場合)、制御装置40は、CID断線と正式に判定する。これにより、電動車両の走行状態(駆動装置20や補機30の負荷の高低)に関わらず、CID断線の有無を高い精度で常時監視することができる。
【0069】
以上のように、本実施の形態に従う制御装置40は、電圧VLの変動態様に基づいてCID断線の有無の仮判定を行ない、CID断線有りと仮判定すると、補機30の消費電力を意図的に変動させ、その時の電流Ibの変動態様に基づいてCID断線の有無の正式判定を行なう。このようにすると、電動車両の走行状態(駆動装置20や補機30の負荷の高低)に関わらず、CID断線の有無を高い精度で常時監視することができる。
【0070】
なお、本実施の形態では、VL変動制御中の「電流Ib」に基づいてCID断線の有無の正式判定を行なう場合について説明したが、VL変動制御中の「電圧VL」に基づいてCID断線の有無の正式判定を行なうようにしてもよい。すなわち、VL変動制御中にCID断線が生じていない場合は、蓄電装置10の電力が駆動装置20や補機30に供給されるため、VL変動制御中であってもコンデンサCfの電荷量はほぼ安定しており電圧VLはほとんど変動しない。一方、VL変動制御中にCID断線が生じている場合は、蓄電装置10の電力ではなくコンデンサCfの電力が駆動装置20や補機30に供給されるため、VL変動制御中の電圧VLは急減する。このような相違を考慮し、VL変動制御中の「電圧VL」に基づいてCID断線の有無の正式判定を行なうようにしてもよい。たとえば、VL変動制御中の「電圧VL」の変動速度が所定速度(CID正常時の変動速度に対応する値)よりも速い場合に「CID断線」と正式に判定するようにしてもよい。
【0071】
また、本実施の形態では、CID断線が生じていると仮判定する条件を「ΔVL>V1」かつ「ΣΔVL>V2」とする場合について説明したが、仮判定はあくまで本判定を開始するトリガーであるため、CID断線が生じている可能性があることをより広く判定すべく、CID断線が生じていると仮判定する条件をたとえば「ΔVL>V1」のみにして緩和させるようにしてもよい。
【0072】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0073】
1 モータ駆動制御システム、5 負極線、6,7 正極線、10 蓄電装置、11,13,14 電圧センサ、12,24 電流センサ、15〜17 上下アーム、20 駆動装置、21 コンバータ、22A,22B インバータ、30 補機、31 DC/DCコンバータ、32 補機バッテリ、33 A/Cインバータ、34 A/Cコンプレッサ、40 制御装置、40A 仮判定部、40B 正式判定部、CID 電流遮断装置、Cb 電池セル、Cf,Cm コンデンサ、D1〜D8 逆並列ダイオード、L1 リアクトル、M1,M2 モータ、Q1〜Q8 スイッチング素子、R 放電抵抗、SMR システムメインリレー、SR1,SR2 リレー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置と、前記蓄電装置の電力を用いて車両の駆動力を発生する駆動装置と、前記蓄電装置の電力を消費する補機とを備えた車両の制御装置であって、
前記蓄電装置は、前記蓄電装置の内圧が規定値を超えた場合に作動して前記蓄電装置の通電経路を遮断する遮断装置を含んで構成され、
前記制御装置は、
前記蓄電装置から前記駆動装置への入力電圧の変動態様に基づいて前記遮断装置の作動の有無を仮に判定する仮判定部と、
前記遮断装置が作動したと仮に判定された場合に、前記駆動装置または前記補機を制御して前記入力電圧を意図的に変動させる変動制御を実行し、前記変動制御中の前記蓄電装置の電流の変動態様または前記変動制御中の前記入力電圧の変動態様に基づいて前記遮断装置の作動の有無を正式に判定する正式判定部とを備える、車両の制御装置。
【請求項2】
前記正式判定部は、前記変動制御中の前記電流の変動量が所定量よりも小さい場合に、前記遮断装置が作動したと正式に判定する、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記正式判定部は、前記変動制御中の前記入力電圧の変動速度が所定速度よりも速い場合に、前記遮断装置が作動したと正式に判定する、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記車両は、前記蓄電装置の電力を前記駆動装置に入力するための正極線および負極線をさらに備え、
前記補機は、前記正極線および前記負極線に接続され、
前記変動制御は、前記補機および前記駆動装置の少なくともいずれかが前記正極線および前記負極線から受ける電力を消費するように、前記補機および前記駆動装置の少なくともいずれかを作動させる制御である、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記補機は、補機バッテリと、前記正極線と前記負極線との間の電圧を変換して前記補機バッテリに出力するコンバータと、空調用コンプレッサと、前記正極線と前記負極線との間の電力を変換して前記空調用コンプレッサに出力するインバータとを含む、請求項4に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記車両は、前記正極線および前記負極線の間に接続される平滑用のコンデンサをさらに備える、請求項4に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
蓄電装置と、前記蓄電装置の電力を用いて車両の駆動力を発生する駆動装置と、前記蓄電装置の電力を消費する補機とを備えた車両の制御装置が行なう制御方法であって、
前記蓄電装置は、前記蓄電装置の内圧が規定値を超えた場合に作動して前記蓄電装置の通電経路を遮断する遮断装置を含んで構成され、
前記制御方法は、
前記蓄電装置から前記駆動装置への入力電圧の変動態様に基づいて前記遮断装置の作動の有無を仮に判定するステップと、
前記遮断装置が作動したと仮に判定された場合に、前記駆動装置または前記補機を制御して前記入力電圧を意図的に変動させる変動制御を実行するステップと、
前記変動制御中の前記蓄電装置の電流の変動態様または前記変動制御中の前記入力電圧の変動態様に基づいて前記遮断装置の作動の有無を正式に判定するステップとを含む、車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−60786(P2012−60786A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201841(P2010−201841)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】