説明

車両の制御装置

【課題】路面状態に応じた走行モードの切替中におけるドライバビリティの悪化を防止し、かつ、従来の車両に低コストで追加可能な、動力分配機構と連携した電子制御を行う車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】ECUのCPUは、走行モードの入力があった場合(ステップS13でYes)、入力された走行モードに応じて動力分配機構の切替を指示し(ステップS14)、動力制御機構については、記憶した走行モードに応じて制御を行う(ステップS15)。動力分配機構の切替が完了したと判定した場合には(ステップS16でYes)、入力された走行モードに応じて、動力制御機構の特性を切り替えるが、動力分配機構の切替を指示してから、切替が完了しないまま一定の時間が経過したと判定した場合には(ステップS18でYes)、動力制御機構の特性を、記憶した走行モード(ステップS12)に対応する特性に維持する(ステップS19)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力分配機構と連携した電子制御を行う車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両が悪路(以下、「オフロード」という)を走行する場合には、舗装路(以下、「オンロード」という)を走行する場合よりも、路面の変化が大きいため、車両の走行状態の変動が大きい。
【0003】
例えば、オフロードのうち、摩擦係数の小さい積雪路面を走行する場合には、オンロードと同様のスロットル特性によってトルクを発生させていたのでは、適切なトルクを得ることができずに、スリップ等が発生して所望の走破性を得ることができない。
【0004】
また、四輪駆動車によって起伏の激しい山道を走行する場合において、例えば左後輪が接地せず、他の3つの駆動輪が接地している場合には、左後輪の回転抵抗が急激に減少するために、車両に設けられた差動装置としてのディファレンシャル機構の作用によって、接地していない左後輪にエンジンの動力が集中的に伝達されて、左後輪の回転数が著しく増大するとともに、接地している他の3つの駆動輪に動力が伝達され難くなってしまう。
【0005】
このように、回転数が著しく増大した左後輪が再び接地した場合には、左後輪の動力が右後輪および前輪の動力よりも大きいために、車両の進行方向が右方向へずれてしまう。このような現象が左右の車輪に交互に連続して発生すると、フィッシュテール(尻降り)が発生してしまい、所望の走破性を得ることができない。
【0006】
したがって、上述したように、車両がオフロードを走行する場合には、オンロードを走行する場合よりも、路面の変化に伴う車両の走行状態の変動が大きいため、オンロードを走る場合とは異なる車両の制御を行う必要がある。
【0007】
そこで、種々のオフロード走行時において、良好な走破性を維持する車両の制御装置が提案されている。このような車両の制御装置では、各車輪のスリップ率を車輪の回転速度と車両の走行速度との差によって定義し、車輪のスリップ率が所定値以上であればその車輪に対して制動力を与える。したがって、地面に接地しておらずスリップ率が高い車輪にブレーキをかけて空転を抑制するので、ディファレンシャル機構の作用によって、地面に接地している車輪に対して良好に動力を伝達し、オフロードの走破性を向上させるようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また、電子制御スロットルや自動変速機といった動力制御機構については、路面に応じて走行モードを変更させることができる技術が提案されている。例えば、車両が積雪路面を走行する場合には、アクセルペダルの開度に対する電子制御スロットルの開度の変化率を、オンロードを走行する場合よりも小さくする技術がある。
【0009】
このように、従来の四輪駆動車においては、スロットル弁の開度の調整、および変速機における変速段の切替といった動力制御機構の切替については、ECUによって制御されるものがあった。このような四輪駆動車において、さらに、ディファレンシャル機構のロック/フリーの切替、および動力分配装置としてのトランスファの高速段/低速段の切替といった動力分配機構の切替は、運転者の手動操作によって機械的に行われるものがあった。
【0010】
ところが、オフロードの走破性を向上させるためには、動力分配機構および動力制御機構を、路面状態に応じて一体的に制御する必要がある。各機構が別々に制御されていたのでは、所望の走破性を得ることができず、運転者に違和感を与えてしまう。
【0011】
そこで、動力分配機構および動力制御機構を、路面状態に応じて一体的に制御するためには、動力分配機構および動力制御機構を、ECUが総括して制御する方法が考えられる。
【特許文献1】特開2004−90886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来の四輪駆動車において、動力分配機構および動力制御機構をECUによって制御しようとすると、機械的に行われていたディファレンシャル機構およびトランスファの切替を、ECUによって行えるようにするために、大幅な設計変更が必要となり、追加のコストが増大するという問題があった。
【0013】
また、大幅な設計変更をすることなく、低コストで従来の四輪駆動車に追加するためには、運転者によって入力された走行モードに応じて、動力制御機構の切替はECUが行うとともに、動力分配機構の切替については、運転者に指示して機械的に切り替えさせることによって走行モードの切替を行う車両の制御装置が望ましい。しかし、動力分配機構の切替が完了する前に、切替先の走行モードに応じて動力制御機構の切替を行ってしまうと、一定時間内に動力分配機構の切替が完了しなかったことによって元の走行モードに戻る場合には、動力制御機構を再度元の状態に切り替えることとなってしまい、不要な制御切替が発生し、ドライバビリティが悪化するという問題があった。
【0014】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、路面状態に応じた走行モードの切替中における不要な制御切替に伴うドライバビリティの悪化を防止し、かつ、従来の車両と比較してコストを増大させることなく、動力分配機構と連携した電子制御を行う車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る車両の制御装置は、上記目的達成のため、(1)エンジンからの動力伝達状態および動力発生状態を制御する動力制御機構と、エンジンからの動力の分配を切り替えるとともに各駆動輪の差動を許容するか否かを切り替える動力分配機構と、複数の制御モードを有し、いずれか1つの制御モードを選択して、選択した制御モードに従って前記動力制御機構を制御する第1の制御部と、複数の作動モードを有し、いずれか1つの作動モードを切替操作の入力に応じて選択し、選択した作動モードに応じて前記動力分配機構を制御する第2の制御部と、前記作動モードの切替操作を入力する作動モード切替操作手段と、を備えた車両の制御装置において、前記作動モードおよび前記制御モードから構成される車両の走行モードを入力させる走行モード入力手段と、前記作動モードを、前記入力された車両の走行モードに応じた作動モードに切り替えるための切替操作を行うよう切替指示を出力する作動モード切替指示手段と、前記動力分配機構を前記入力された車両の走行モードに応じた作動モードに切り替えるための切替操作が、前記作動モード切替操作手段によって入力されたか否かを判定する作動モード切替操作判定手段と、を備え、前記第1の制御部は、前記入力された車両の走行モードに応じた制御モードを選択し、さらに、前記入力された車両の走行モードに応じた作動モードへの切替操作が、前記作動モード切替操作手段により入力されたと前記作動モード切替操作判定手段によって判定され、前記第2の制御部による前記動力分配機構の作動モードの切替が完了したとき、前記入力された車両の走行モードに応じた制御モードに切り替え、前記作動モードの切替操作が入力されたと前記作動モード切替操作判定手段によって判定されるまでは、前記車両の走行モードの入力時の制御モードを維持するよう構成する。
【0016】
この構成により、動力分配機構の切替操作が作動モード切替操作手段により入力されるまで、車両の走行モード入力時の制御モードを維持するので、不要な制御切替を防止することによってドライバビリティの悪化を防止することができる。また、動力分配機構を運転者に切り替えさせることにより、動力分配機構を電子制御により切り替えるようにするための大幅な設計変更を行う必要がなく、生産コストの増大を抑制することができるとともに、従来の四輪駆動車に低コストで追加可能となっている。
【0017】
また、上記(1)に記載の車両の制御装置において、(2)前記第1の制御部は、前記作動モード切替指示手段により前記切替指示が出力されてから、予め定められた時間内に、前記作動モード切替操作手段により前記入力された車両の走行モードに応じた作動モードへの切替操作が入力されなかったと前記作動モード切替操作判定手段によって判定された場合には、前記入力された車両の走行モードを無効とするよう構成する。
【0018】
この構成により、走行モード入力手段により入力された走行モードに従った作動モードの切替操作が、予め定められた時間内に行われなかった場合には、入力された走行モードを無効とするので、運転者の意図しない不要な制御切替を防止することによりドライバビリティの悪化を防止することができる。
【0019】
また、上記(1)または(2)に記載の車両の制御装置において、(3)前記動力制御機構は、エンジンからの複数の動力伝達経路のうちのいずれかを選択して入力されたエンジンの出力軸の回転速度を減速または増速して駆動輪に伝達する自動変速機と、エンジンに供給される空気の流量を変更するスロットルと、を有するよう構成する。
【0020】
この構成により、動力分配機構の切替操作が作動モード切替操作手段により入力されるまで、自動変速機および電子制御スロットルを、車両の走行モード入力時の制御モードに応じて制御するので、不要な制御切替を防止することによってドライバビリティの悪化を防止することができる。また、動力分配機構を運転者に切り替えさせることにより、動力分配機構を電子制御により切り替えるようにするための大幅な設計変更を行う必要がなく、生産コストの増大を抑制することができるとともに、従来の四輪駆動車に低コストで追加可能となっている。
【0021】
さらに、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の車両の制御装置において、(4)前記動力分配機構は、エンジンにおいて発生した動力を前輪と後輪とに差動可能に分配するとともに、入力されたエンジンの出力軸の回転速度を減速または増速して駆動輪に伝達するトランスファと、前記動力を左右の駆動輪に差動可能に分配するディファレンシャル機構と、を有するよう構成する。
【0022】
この構成により、トランスファおよびディファレンシャル機構の切替操作が作動モード切替操作手段により入力されるまで、自動変速機および電子制御スロットルを車両の走行モード入力時の制御モードに応じて制御するので、不要な制御切替を防止することによってドライバビリティの悪化を防止することができる。また、トランスファおよびディファレンシャル機構を運転者に切り替えさせることにより、トランスファおよびディファレンシャル機構を電子制御により切り替えるようにするための大幅な設計変更を行う必要がなく、生産コストの増大を抑制することができるとともに、従来の四輪駆動車に低コストで追加可能となっている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ドライバビリティの悪化を防止するとともに、従来の車両と比較してコストを増大させることなく、動力分配機構と連携した電子制御を行う車両の制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0025】
まず、本発明の実施の形態に係る車両の制御装置を搭載した車両の構成を、図1に基づいて説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る車両の制御装置を搭載した車両の概略ブロック構成図である。
【0026】
図1に示す車両10は、四輪駆動車(4WD:4 Wheel Drive)である。なお、本発明に係る車両の制御装置は、四輪駆動車以外の車両に搭載してもよい。
【0027】
図1に示すように、本実施の形態に係る車両10は、動力源としてのエンジン11と、エンジン11において発生した動力を伝達する出力軸としてのクランクシャフト15と、エンジン11において発生した動力を伝達するとともに車両10の走行状態に応じた変速段を選択する自動変速機(A/T:Automatic Transmission、以下、「A/T」という)20と、A/T20を油圧により制御するための油圧供給制御装置30と、A/T20によって伝達された動力を前輪側および後輪側に分配するトランスファ40と、トランスファ40によって分配された動力を前輪側に伝達するフロントプロペラシャフト43および後輪側に伝達するリヤプロペラシャフト45と、フロントプロペラシャフト43によって伝達された動力を伝達するフロントディファレンシャル機構50と、リヤプロペラシャフト45によって伝達された動力を伝達するリヤディファレンシャル機構55と、フロントディファレンシャル機構50によって伝達された動力を伝達する駆動軸としてのフロントドライブシャフト47L、47Rと、リヤディファレンシャル機構55によって伝達された動力を伝達する駆動軸としてのリヤドライブシャフト49L、49Rと、フロントドライブシャフト47L、47Rによって伝達された動力によって回転することにより車両10を駆動させる駆動輪としての前輪57L、57Rと、リヤドライブシャフト49L、49Rによって伝達された動力によって回転することにより車両10を駆動させる駆動輪としての後輪59L、59Rと、を備えている。
【0028】
ここで、車両10は、車両10全体の制御を統括する車両用電子制御装置としてのECU100を備えている。また、車両10は、図示しない各種センサを備えている。各種センサは、検出した検出信号を、ECU100に入力するようになっている。
【0029】
さらに、車両10は、エンジン11に燃焼用の空気を供給する吸気系統に、この空気の流量を調整するための図示しないスロットル弁を備えている。スロットル弁は、アクセルペダルの開度に応じて、ECU100によって所定の開度に制御されるものである。
【0030】
エンジン11は、ガソリンまたは軽油等の炭化水素系の燃料と空気との混合気を、シリンダ(図示せず)の燃焼室内で燃焼させることによって動力を出力する公知の内燃機関によって構成されている。エンジン11は、燃焼室内で混合気の燃焼を断続的に繰り返すことによりシリンダ内のピストンを往復動させ、ピストンと動力伝達可能に連結されたクランクシャフト15を回転させることにより、A/T20に動力を伝達するようになっている。なお、エンジン11に用いられる燃料は、エタノール等のアルコールを含むアルコール燃料であってもよい。
【0031】
A/T20は、図示しない複数の遊星歯車装置を備えている。これらの遊星歯車装置は、油圧アクチュエータによって係合制御される複数の摩擦要素としてのクラッチおよびブレーキを有している。
【0032】
また、これらのクラッチおよびブレーキは、油圧供給制御装置30が有するトランスミッションソレノイドおよびリニアソレノイドの励磁、非励磁や、マニュアルバルブによって切り替えられる油圧回路の状態に応じて、係合状態および解放状態のいずれか一方の状態をとるようになっている。したがって、A/T20は、これらのクラッチおよびブレーキの係合状態および解放状態の組み合わせに応じた変速段をとるようになっている。
【0033】
このような構成により、A/T20は、エンジン11の動力として入力されるクランクシャフト15の回転を所定の変速比γで減速あるいは増速してトランスファ40に伝達する有段式の変速機であり、走行状態に応じた変速段を構成し、各変速段に応じた速度変換を行うようになっている。なお、A/T20は、変速比を連続的に変化させる無段変速機によって構成されるものであってもよい。
【0034】
油圧供給制御装置30は、複数のトランスミッションソレノイドS、リニアソレノイドSLT、リニアソレノイドSLUを有し、ECU100によって制御され、油圧によりA/T20を制御するようになっている。複数のトランスミッションソレノイドSは、A/T20が各変速段を互いに切り替える場合に作動するようになっている。リニアソレノイドSLTは、ライン圧制御および図示しないアキュムレータの背圧制御を行うようになっている。
【0035】
また、複数のトランスミッションソレノイドSおよびリニアソレノイドSLT、リニアソレノイドSLUの作動状態に応じて、ライン圧を元圧とする油圧によりA/T20の複数の摩擦要素が選択的に係合あるいは解放されるようになっている。油圧供給制御装置30は、これらの摩擦要素の係合および解放の組み合わせによって、A/T20に所望の変速段を構成させるようになっている。
【0036】
トランスファ40は副変速機とも呼ばれ、A/T20によって伝達された動力をフロントプロペラシャフト43と、リヤプロペラシャフト45とに分配して伝達することができるものである。例えば車両10が、通常走行時は後輪59L、59Rを駆動輪として走行する後輪駆動ベースの4WDであるとすると、トランスファ40は、通常走行時においては、A/T20によって伝達された動力をリヤプロペラシャフト45のみに伝達し、四輪駆動で走行する場合には、A/T20によって伝達された動力をフロントプロペラシャフト43と、リヤプロペラシャフト45とに分配して伝達するようになっている。
【0037】
また、トランスファ40は、後輪駆動と四輪駆動とを切り替えるための公知の切替機構を有するとともに、動力として入力された図示しない入力軸の回転を、所定の減速比でフロントプロペラシャフト43およびリヤプロペラシャフト45に伝達する公知の減速機構と、前輪57L、57Rの回転数と後輪59L、59Rの回転数との差を許容するセンターディファレンシャル機構とを有している。なお、センターディファレンシャル機構は、前輪57L、57Rの回転数と後輪59L、59Rの回転数との差を許容しない状態(センターデフロック状態)をとることができるものであってもよい。
【0038】
リヤディファレンシャル機構55は、複数の歯車を備えており、リヤプロペラシャフト45の回転により伝達されたエンジン11の動力を、リヤドライブシャフト49L、49Rを回転させることによって後輪59L、59Rに伝達するようになっている。また、リヤディファレンシャル機構55は、カーブ等を走行する場合に、これら複数の歯車が互いに噛合することにより、後輪59Lと後輪59Rとの回転数の差を許容するようになっている。さらに、リヤディファレンシャル機構55は、上記回転数の差を許容しない状態(リヤデフロック状態)をとることができる。
【0039】
なお、フロントディファレンシャル機構50は、リヤディファレンシャル機構55と略同一の構成を有しているため、説明を省略する。
【0040】
前輪57L、57Rおよび後輪59L、59Rは、それぞれフロントドライブシャフト47L、47Rおよびリヤドライブシャフト49L、49Rによって伝達された動力により回転し、路面との摩擦作用によって、車両10を駆動させるようになっている。
【0041】
ECU100は、中央処理装置としてのCPU(Central Processing Unit)、書き換え可能な不揮発性のメモリからなるEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)、一時的にデータを記憶するRAM(Random Access Memory)および入出力インターフェース回路(何れも図示しない)を有している。
【0042】
さらに、車両10は、図示しない車室内に、操作パネル51を備えている。操作パネル51は、ECU100と連結されており、例えば運転者が、操作パネル51に設けられたスイッチ等により走行モードを入力すると、走行モードの入力を表す信号をECU100の入力インターフェースに入力するようになっている。
【0043】
次に、トランスファ40の構成について、図面を参照して説明する。
【0044】
図2は、本実施の形態に係るトランスファの構成を示す概要図である。
【0045】
まず、トランスファ40の概略を説明する。トランスファ40は、図2に示すように、エンジン11からA/T20を介して伝達される動力をフロントプロペラシャフト43、およびリヤプロペラシャフト45に伝達するよう、A/T20の後段側に直列的に配置されている。
【0046】
また、トランスファ40は、高速段(Hi)と低速段(Lo)とに切り替え可能であって、その切り替えのために操作部に同期機構70が設けられた副変速機60と、プラネタリギヤタイプの差動制限機能付のディファレンシャルギヤ装置からなるセンターディファレンシャル機構80とを備えている。
【0047】
副変速機60は、A/T20の図示しない出力軸とスプライン嵌合する筒状のインプットシャフト61に一体的に形成された外歯車からなるサンギヤ62と、サンギヤ62の外周に配された複数のピニオンギヤ63と、これら複数のピニオンギヤ63が噛合するようにトランスファケース41の内部に固定されたリングギヤ65とを有するプラネタリギヤ方式の変速機であり、インプットシャフト61が複数回転、例えば2.6回転すると、キャリア64が1回転するという減速出力を、キャリア64に固着された筒状体67から取り出すことができるものである。筒状体67は、その先端部内周側にスプライン歯67aを有している。
【0048】
また、インプットシャフト61の内端部には、Hi用の歯付ホイール66が固定されている。歯付ホイール66は、インプットシャフト61によって入力された回転を等速で(変速比1:1)で出力するようになっている。なお、副変速機60の各ギヤは例えばヘリカルギヤ(はすば歯車)から構成されている。
【0049】
同期機構70は、いわゆるレバーシンクロ方式の機構であり、歯付ホイール66の内側面側に一体に装着されたテーパリング71と、テーパリング71に近接して配置されたシンクロナイザリング72と、インプットシャフト61と同軸配置されたシンクロスリーブとしての切替スリーブ73と、外周部で切替スリーブ73の内周軸央部に形成された環状溝(符号なし)に遊嵌されるとともに内周部で板ばね等により弾性支持されたシンクロレバー74と、切替スリーブ73と嵌合して切替スリーブ73を軸方向に変位させる高低切替用のシフトフォーク76と、シフトフォーク76を支持するとともにトランスファケース41に軸方向摺動可能に支持された操作用シャフト77とを有している。切替スリーブ73は、その内周部に軸方向に所定間隔を隔てた2組のスプライン歯73aを有し、2組のスプライン歯73aの間に上記環状溝を有している。
【0050】
また、切替スリーブ73の外端部の外周には、筒状体67のスプライン歯67aに嵌合可能なスプライン歯73tが設けられており、切替スリーブ73が歯付ホイール66のスプライン歯66aから離脱して、図中右方向へ移動するとき、切替スリーブ73がスプライン歯73tおよびスプライン歯67aによって筒状体67に回転方向一体にスプライン嵌合されるようになっている。
【0051】
センターディファレンシャル機構80は、インプットシャフト61と同一軸線上に配置されたアウトプットシャフト94に回転自在に支持されるとともに、外周部で切替スリーブ73の内周部にスプライン嵌合しているハウジング81と、ハウジング81の一端側内周部にスプライン嵌合されるとともに抜け止めされ、アウトプットシャフト94に軸受けを介して回転自在に支持された蓋状のピニオンキャリア82と、ピニオンキャリア82に回転自在に支持されてアウトプットシャフト94の周りに等角度間隔に配置された例えばヘリカルギヤからなる複数のピニオンギヤ83と、フロントドライブ用のチェーンスプロケット84に一体結合され、アウトプットシャフト94に回転自在に支持されたフロント側の出力部材85と、フロント側の出力部材85にスプライン嵌合するとともにピニオンギヤ83と噛合する外歯を有するサンギヤ86と、複数のピニオンギヤ83と噛合する内歯および複数のピニオンギヤ83の一端部に対向する環状板部87aを有するリングギヤ87と、リングギヤ87の環状板部87aとスプライン嵌合するとともにアウトプットシャフト94にスプライン嵌合した内筒部材88と、リングギヤ87の環状板部87aとハウジング81との間およびリングギヤ87の環状板部87aと複数のピニオンギヤ83との間にそれぞれ設けられたシム89a、89bとを有している。
【0052】
なお、チェーンスプロケット84は、チェーン92によって、ドリブン側のチェーンスプロケット91と連結されており、このチェーンスプロケット91を介して、フロントプロペラシャフト43を回転させるようになっている。また、アウトプットシャフト94は、リヤプロペラシャフト45と連結されている。なお、切替スリーブ73が、図中右方向に移動したとき、切替スリーブ73が内周部でハウジング81のスプライン歯81aに嵌合して、切替スリーブ73およびハウジング81が回転方向一体にスプライン嵌合されるようになっている。
【0053】
センターディファレンシャル機構80においては、ハウジング81からピニオンキャリア82を介してピニオンギヤ83の公転運動が入力されると、サンギヤ86からフロント側の出力部材85へ回転運動が伝達されるとともに、リングギヤ87から内筒部材88を介してアウトプットシャフト94へと回転が伝達され、サンギヤ86と一定回転するフロントドライブ用のチェーンスプロケット84と、リングギヤ87と一体回転するアウトプットシャフト94との差動が許容される。
【0054】
また、センターディファレンシャル機構80は、ヘリカルギヤからなるピニオンギヤ83に作用するスラスト方向の力を利用してリングギヤ87の環状板部87aをハウジング81の内壁側に押圧することで、上記差動を所定範囲内に制限できるようになっている。
【0055】
ハウジング81の一端側外周部には、スプライン歯81bが形成されており、そこにデフロック切替用のスリーブ93が装着されている。スリーブ93は、チェーンスプロケット84およびフロント側の出力部材85に固着された歯付ホイール96にスプライン嵌合したとき、センターディファレンシャル機構80のハウジング81とチェーンスプロケット84とを回転方向に一体に結合して、チェーンスプロケット84と、リングギヤ87とアウトプットシャフト94との差動を禁止することができる。この差動が禁止された状態をセンターデフロック状態という。
【0056】
上述したように、センターデフロック状態においては、フロントプロペラシャフト43への動力伝達手段であるチェーンスプロケット84と、リヤプロペラシャフト45への動力伝達手段であるアウトプットシャフト94との差動が禁止されるので、前輪57L、57Rと、後輪59L、59Rとの差動が禁止されることとなり、リジッドな四輪駆動状態が実現される。そのため、前輪57L、57Rまたは後輪59L、59Rが断続的に浮いてしまうような起伏の激しいオフロードを走行する場合においても、浮いた車輪以外の車輪に対しても好適に動力が伝達されるので、走破性を向上させることができる。
【0057】
ここで、操作用シャフト77は、軸方向に2つに分割されるか、または2本のシャフトから構成されており、一方のシャフトはシフトフォーク76を支持し、他方のシャフトはシフトフォーク97を支持するようになっている。
【0058】
アウトプットシャフト94には、リヤプロペラシャフト45への取付ブラケット114が固定されている。また、ドリブン側のチェーンスプロケット91には、フロントプロペラシャフト43への取付ブラケット115がそれぞれ固定されている。
【0059】
さらに、軸受102、103および104は、玉軸受により構成され、軸受105、106、107、108および109は、ころ軸受やニードル軸受により構成されている。
【0060】
また、トランスファ40には、車室側に装備されたHi−Lo切替レバー110と、センターデフロック切替レバー111とが、図示しない機械的構造によって、それぞれ接続されている。
【0061】
トランスファ40は、運転者によるHi−Lo切替レバー110の操作に応じて、高速段と低速段とを切り替えるようになっている。具体的には、トランスファ40は、Hi−Lo切替レバー110がHi側に操作された場合には、シフトフォーク76を支持する操作用シャフト77およびシフトフォーク76を図中左方向へ移動させる。これにより、シフトフォーク76が切替スリーブ73を図中左方向へ移動させることとなり、切替スリーブ73のスプライン歯73aと、歯付ホイール66のスプライン歯66aとが回転方向一体にスプライン嵌合されると、インプットシャフト61の回転が、等速(変速比1:1)で切替スリーブ73に伝達され、切替スリーブ73を介して、インプットシャフト61の回転が、等速でセンターディファレンシャル機構80に伝達される。これにより、高速側の変速段(Hi)を得る。なお、歯付ホイール66のスプライン歯66aと切替スリーブ73のスプライン歯73aとが完全にスプライン嵌合するまでは、切替スリーブ73の移動に伴ってシンクロレバー74がシンクロナイザリング72に押圧されることにより、切替スリーブ73の回転数が歯付ホイール66の回転数に近づくように、同期させられる。
【0062】
一方、トランスファ40は、Hi−Lo切替レバー110がLo側に切り替えられた場合には、シフトフォーク76を支持する操作用シャフト77およびシフトフォーク76を図中右方向へ移動させる。これにより、シフトフォーク76が切替スリーブ73を図中右方向へ移動させることとなり、筒状体67のスプライン歯67aと切替スリーブ73のスプライン歯73tとが回転方向一体に嵌合され、さらに切替スリーブ73のスプライン歯73aと、ハウジング81のスプライン歯81aとが回転方向一体に嵌合されることによって、副変速機60によって減速されたインプットシャフト61の回転が、切替スリーブ73を筒状体67および切替スリーブ73を介してセンターディファレンシャル機構80に伝達されることとなり、Loを得る。
【0063】
また、トランスファ40は、センターデフロック切替レバー111が、センターデフロック状態に対応する位置に切り替えられた場合には、シフトフォーク97を支持する操作用シャフト77およびシフトフォーク97を図中右方向へ移動させる。これにより、デフロック切替用のスリーブ93を歯付ホイール96にスプライン嵌合させ、センターディファレンシャル機構80のハウジング81とチェーンスプロケット84とを回転方向に一体に嵌合させることによって、上述したセンターデフロック状態を実現する。
【0064】
さらに、トランスファ40は、センターデフロック切替レバー111が、センターデフロック状態を解除する状態(センターデフフリー状態)に対応する位置に切り替えられた場合には、シフトフォーク97を支持する操作用シャフト77およびシフトフォーク97を図中左方向へ移動させる。これにより、デフロック切替用のスリーブ93と歯付ホイール96とのスプライン嵌合を解除することによって、センターデフロックフリー状態を得る。
【0065】
ここで、トランスファ40には、Hi−Lo切替センサ112と、センターデフロック切替センサ113とを備えている。Hi−Lo切替センサ112は、シフトフォーク76の位置を検出して、シフトフォーク76の位置を表す検出信号をECU100の入力インターフェースに入力するようになっている。また、センターデフロック切替センサ113は、シフトフォーク97の位置を検出して、シフトフォーク97の位置を表す検出信号をECU100の入力インターフェースに入力するようになっている。
【0066】
したがって、ECU100は、Hi−Lo切替センサ112によって入力された検出信号が表すシフトフォーク76の位置に基づいて、トランスファ40における変速段が、Hi(高速段)かLo(低速段)かを判定するようになっている。さらに、ECU100は、センターデフロック切替センサ113によって入力された検出信号が表すシフトフォーク97の位置に基づいて、トランスファ40がセンターデフロック状態であるかセンターデフロックフリー状態であるかを判定するようになっている。
【0067】
次に、リヤディファレンシャル機構55の構成について、図面を参照して説明する。
【0068】
図3は、本発明の実施の形態に係るリヤディファレンシャル機構の構成を示す概要図である。
【0069】
図3に示すように、リヤディファレンシャル機構55は、ハウジング120と、リヤドライブピニオンギヤ46と噛合するリヤリングギヤ122と、リヤディファレンシャルケース125と、リヤピニオンシャフト126と、リヤピニオンシャフト126に回転自在に装着されたリヤディファレンシャルピニオンギヤ127a、127bと、リヤドライブシャフト49L、49Rにそれぞれスプライン嵌合するとともにリヤディファレンシャルピニオンギヤ127a、127bと噛合するリヤディファレンシャルサイドギヤ128a、128bと、リヤディファレンシャル機構55における差動を禁止するリヤデフロック機構140とを備えている。
【0070】
図3に示すように、リヤディファレンシャル機構55は、ハウジング120に収納されている。また、ハウジング120内には、トランスファ40から伝達されたエンジンの動力をリヤディファレンシャル機構55に伝達するためのリヤプロペラシャフト45が、複数のテーパローラベアリング121によってハウジング120に回転可能に支持されている。
【0071】
さらに、リヤプロペラシャフト45のリヤディファレンシャル機構55側の軸端部には、リヤドライブピニオンギヤ46が一体的に設けられている。リヤドライブピニオンギヤ46は、例えば、カーブを描いた歯が刻まれたスパイラルベベルギヤ(傘歯歯車)によって構成されている。また、リヤドライブピニオンギヤ46は、その歯と噛合するように歯が刻まれたリヤリングギヤ122と、互いの回転軸が軸間距離を隔てて直交するように噛合している。なお、リヤドライブピニオンギヤ46およびリヤリングギヤ122は、リヤプロペラシャフト45の回転を減速してリヤディファレンシャル機構55に伝達する最終減速装置としてのファイナルギヤを構成している。
【0072】
リヤリングギヤ122は、複数の固定用ボルト123によってリヤディファレンシャルケース125に固定されている。したがって、リヤリングギヤ122は、保修や交換等の際には、固定用ボルト123を抜くことによって、リヤディファレンシャルケース125から取り外し可能となっている。
【0073】
リヤディファレンシャルケース125は、図3に示すように、例えば2つの環状ケース部品に分割されているが、分割されたケース部品は、複数の結合ボルト129によって互いに一体的に結合されている。また、リヤディファレンシャルケース125は、回転軸方向の外端部をそれぞれ複数のテーパローラベアリング124a、124bによってハウジング120に回転可能に支持されている。したがって、リヤディファレンシャルケース125は、リヤプロペラシャフト45によりリヤドライブピニオンギヤ46およびリヤリングギヤ122を介して伝達されたエンジン11の動力によって回転するようになっている。
【0074】
リヤディファレンシャルケース125の分割された各ケース部品の間には、リヤピニオンシャフト126が配設されている。リヤピニオンシャフト126は、結合ボルト129によって、リヤディファレンシャルケース125と一体的に結合されている。
【0075】
リヤディファレンシャルケース125の内部空間におけるリヤピニオンシャフト126には、リヤディファレンシャルピニオンギヤ127a、127bが、リヤピニオンシャフト126の周方向に回転可能に、かつ、リヤピニオンシャフト126と同軸上に対向して設けられている。
【0076】
さらに、リヤディファレンシャルケース125の内部空間には、リヤドライブシャフト49L、49Rの内端部の外周面に設けられたスプライン溝とそれぞれ嵌合するリヤディファレンシャルサイドギヤ128a、128bが、対向して収納されている。リヤディファレンシャルサイドギヤ128a、128bは、リヤディファレンシャルピニオンギヤ127a、127bと、互いの回転軸が軸間距離を隔てて直交するように噛合している。
【0077】
また、リヤディファレンシャルケース125の一端を形成する環状面には、ドッグ歯125aが設けられている。
【0078】
リヤデフロック機構140は、リヤディファレンシャル機構55において、後述するリヤデフロック状態を成立または解除するものであり、リヤデフロックアクチュエータ141と、リヤデフロックシフトフォーク142と、リヤデフロックスリーブ143とを備えている。
【0079】
リヤデフロックアクチュエータ141は、車室内に設けられたリヤデフロック切替レバー56と、図示しない機械的構造により接続されている。リヤデフロックアクチュエータ141は、運転者によるリヤデフロック切替レバー56の操作に応じて、リヤデフロックシフトフォーク142をリヤドライブシャフト49Rの軸方向に移動させることによって、リヤデフロック状態を成立または解除することができるものである。
【0080】
リヤデフロックシフトフォーク142は、一端がリヤデフロックアクチュエータ141に取り付けられており、他端はリヤデフロックスリーブ143に設けられた溝に嵌合するようになっている。
【0081】
リヤデフロックスリーブ143は、環状の部品であり、内周面には軸方向にスプライン状の凸部が形成されている。リヤデフロックスリーブ143は、これらの凸部を、リヤドライブシャフト49Rの内端部の外周面に設けられたスプライン溝と嵌合させることによって、リヤドライブシャフト49Rの内端部を軸方向移動自在に、かつ、リヤドライブシャフト49Rと一体回転可能となるように構成されている。また、リヤデフロックスリーブ143には、ドッグ歯143aが、リヤディファレンシャルケース125のドッグ歯125aと対向して設けられている。
【0082】
ここで、リヤディファレンシャル機構55における、差動を許容する状態(リヤデフフリー状態)および差動を禁止する状態(リヤデフロック状態)について説明する。
【0083】
まず、リヤデフフリー状態について説明する。
【0084】
例えば、リヤディファレンシャル機構55を備えた車両10が、直線道路を走行する場合には、後輪59L、59Rの回転速度は互いに略等しい。すなわち、リヤドライブシャフト49L、49Rの回転速度が互いに略等しい。この場合には、リヤディファレンシャルピニオンギヤ127a、127bは、リヤディファレンシャルサイドギヤ128a、128bと相対回転することなく一体的に回転(公転)する。
【0085】
一方、車両10がカーブ道路を走行する場合等には、内外輪の旋回半径の差から、内外輪の回転数に差が生じることとなる。仮に、車両10がリヤディファレンシャル機構55を備えておらず、一本のドライブシャフトの両端に後輪59L、59Rを備えているとすると、例えば内輪である後輪59Lが空転気味にスリップするか、また、外輪である後輪59Rが引きずられて、車両10の挙動が不安定になるという問題が発生する。
【0086】
しかし、リヤディファレンシャル機構55を備えることによって、以下に説明するように、上記問題が解決される。なお、ここでは、説明を簡単にするため、車両10が極端なカーブ道路を走行している場合を想定し、後輪59Lの回転速度が零であり、後輪59Rが所定の回転速度で回転しているものとする。この場合には、後輪59Lと連結されたリヤドライブシャフト49Lは回転しないため、リヤドライブシャフト49Lとスプライン嵌合しているリヤディファレンシャルサイドギヤ128aも回転しない。
【0087】
リヤディファレンシャルサイドギヤ128aが回転しないにも関らず、エンジン11の駆動によって、リヤプロペラシャフト45、リヤドライブピニオンギヤ46、リヤリングギヤ122、リヤディファレンシャルケース125およびリヤピニオンシャフト126は回転を継続する。
【0088】
したがって、リヤディファレンシャルサイドギヤ128aが回転しないため、リヤピニオンシャフト126に回転自在に装着されたリヤディファレンシャルピニオンギヤ127a、127bは、公転を継続するとともに、リヤディファレンシャルピニオンシャフト126を軸とする回転(自転)を行う。
【0089】
リヤディファレンシャルピニオンギヤ127a、127bが公転を継続しながら自転することによって、回転しないリヤディファレンシャルサイドギヤ128aとリヤディファレンシャルピニオンギヤ127a、127bを介して対向するリヤディファレンシャルサイドギヤ128bは、回転を継続することができる。したがって、後輪59Lが回転しない場合においても、後輪59Rはエンジン11の駆動力によって回転することができる。
【0090】
このように、リヤディファレンシャル機構55がリヤデフフリー状態であれば、車両10がカーブ道路を走行する場合等において、リヤディファレンシャルサイドギヤ128a、128bの互いの相対回転(差動)を許容することができるので、車両10の挙動を安定させることができる。
【0091】
次に、リヤデフロック状態について説明する。
【0092】
例えば、リヤディファレンシャル機構55を備えた車両が、起伏の激しい山道を走行するような場合、起伏の形状によっては、後輪59Lが接地し、後輪59Rが地面から離れているような事態が発生し得る。
【0093】
この場合には、地面から離れた後輪59Rの回転抵抗は、接地している後輪59Lの回転抵抗に対して著しく小さくなる。すなわち、リヤディファレンシャルサイドギヤ128bの回転抵抗が、リヤディファレンシャルサイドギヤ128aの回転抵抗に対して著しく小さくなる。このような場合に、リヤディファレンシャル機構55が上述したリヤデフフリー状態であるとすると、リヤディファレンシャル機構55は、リヤディファレンシャルピニオンギヤ127a、127bを公転させながら自転させて、回転抵抗の小さいリヤディファレンシャルサイドギヤ128bを、回転抵抗の大きいリヤディファレンシャルサイドギヤ128aよりも優先的に回転させることとなる。
【0094】
したがって、エンジン11の駆動力は、リヤディファレンシャルサイドギヤ128bを介して、地面から離れた後輪59Rに優先的に伝達されるので、後輪59Rの回転速度が急激に増大する一方、接地した後輪59Lに伝達されるエンジン11の駆動力は急激に減少することとなる。そのため、一度地面から離れた後輪59Rが再度接地した際に、増大した駆動力が地面に伝達されるので、車両10の進行方向が右側へずれ、車両10の挙動が不安定になってしまう。
【0095】
そこで、起伏の激しい山道を走行する場合等において、運転者がリヤデフロック切替レバー56の切替位置を、リヤデフロック状態に対応する切替位置に切り替えると、リヤディファレンシャル機構55は、以下のようにリヤデフロック状態を実現する。
【0096】
すなわち、リヤデフロック切替レバー56がリヤデフロック状態に対応する切替位置に切り替えられたことによって、リヤデフロックアクチュエータ141は、リヤデフロックシフトフォーク142を介して、リヤデフロックスリーブ143をリヤディファレンシャルケース125側にスライドさせて、ドッグ歯125aとドッグ歯143aとを噛合させる。
【0097】
ドッグ歯125aとドッグ歯143aとが噛合することによって、リヤディファレンシャルケース125とリヤドライブシャフト49Rとが一体的に回転するようになる。すなわち、ドッグ歯125aとドッグ歯143aとが噛合することによって、リヤディファレンシャルケース125と、リヤディファレンシャルピニオンシャフト126と、リヤディファレンシャルサイドギヤ128bが一体的に回転するようになる。
【0098】
リヤディファレンシャルケース125と、リヤディファレンシャルピニオンシャフト126と、リヤディファレンシャルサイドギヤ128bとが一体的に回転することによって、リヤディファレンシャルサイドギヤ128a、128bが互いに相対回転(差動)することができなくなるので、リヤディファレンシャル機構55における差動が禁止されたリヤデフロック状態が実現される。
【0099】
リヤデフロック状態においては、リヤプロペラシャフト45を介してリヤディファレンシャル機構55に伝達されるエンジン11の駆動力は、リヤディファレンシャルサイドギヤ128a、128bに均等に分配されるので、後輪59L、59Rにもエンジン11の駆動力が均等に伝達されることとなる。
【0100】
そのため、後輪59Rが地面から離れたとしても、後輪59L、59Rにエンジン11の駆動力が均等に伝達されるので、後輪59Rが再度接地した際においても、車両10の挙動が不安定になることはない。このように、リヤディファレンシャル機構55は、運転者によって、リヤデフフリー状態とリヤデフロック状態とを切り替えられることによって、路面状態に応じた車両10の走行状態を実現させることができるものである。
【0101】
ここで、リヤディファレンシャル機構55は、リヤデフロック切替センサ144を備えている。リヤデフロック切替センサ144は、リヤデフロックスリーブ143の位置を検出して、リヤデフロックスリーブ143の位置を表す検出信号をECU100の入力インターフェースに入力するようになっている。
【0102】
したがって、ECU100は、リヤデフロック切替センサ144によって入力された検出信号が表すリヤデフロックスリーブ143の位置に基づいて、リヤディファレンシャル機構55がリヤデフロック状態であるかリヤデフロックフリー状態であるかを判定するようになっている。
【0103】
上述したように、センターディファレンシャル機構80、リヤディファレンシャル機構55およびフロントディファレンシャル機構50が、それぞれデフロック状態をとることができる。したがって、車両10は、これらを備えることによって、前輪57L、57Rおよび後輪59L、59Rの4つの駆動輪について、差動を許容するデフフリー状態、あるいは許容しないデフロック状態を選択的に成立させることができるため、路面状態に応じて所望の走破性を得ることができる。
【0104】
以下、本実施の形態に係る車両の制御装置の特徴的な構成について説明する。
【0105】
A/T20は、エンジン11からの動力伝達状態および動力発生状態を制御するようになっている。すなわち、A/T20は、本発明における動力制御機構を構成している。
【0106】
トランスファ40、フロントディファレンシャル機構50、およびリヤディファレンシャル機構55は、エンジンからの動力を前後輪に伝達するか否かを切り替えるとともに各駆動輪の差動を許容するか否かを切り替えるようになっている。すなわち、トランスファ40、フロントディファレンシャル機構50、およびリヤディファレンシャル機構55は、本発明における動力分配機構を構成している。
【0107】
ECU100は、複数の制御モードを有し、いずれか1つの制御モードを選択して、選択した制御モードに従ってA/T20を制御するようになっている。また、ECU100は、入力された車両の走行モードに応じた制御モードを選択し、さらに、入力された車両の走行モードに応じた作動モードへの切替操作が、リヤデフロック切替レバー56、Hi−Lo切替レバー110、およびセンターデフロック切替レバー111により入力されたと判定され、操作用シャフト77、シフトフォーク76、シフトフォーク97およびリヤデフロック機構140によるトランスファ40、フロントディファレンシャル機構50、およびリヤディファレンシャル機構55の作動モードの切替が完了したとき、入力された車両の走行モードに応じた制御モードに切り替え、作動モードの切替操作が入力されたと判定されるまでは、車両の走行モードの入力時の制御モードを維持するようになっている。
【0108】
さらに、ECU100は、切替指示を出力してから、予め定められた時間内に、リヤデフロック切替レバー56、Hi−Lo切替レバー110、およびセンターデフロック切替レバー111により入力された車両の走行モードに応じた作動モードへの切替操作が入力されなかったと判定した場合には、入力された車両の走行モードを無効とするようになっている。すなわち、ECU100は、本発明における第1の制御部を構成している。
【0109】
操作用シャフト77、シフトフォーク76、シフトフォーク97およびリヤデフロック機構140は、複数の作動モードを有し、いずれか1つの作動モードを切替操作の入力に応じて選択し、選択した作動モードに応じてトランスファ40、フロントディファレンシャル機構50、およびリヤディファレンシャル機構55を制御するようになっている。すなわち、操作用シャフト77、シフトフォーク76、シフトフォーク97およびリヤデフロック機構140は、本発明における第2の制御部を構成している。
【0110】
なお、本実施の形態において、第2の制御部は、機械的にトランスファ40、フロントディファレンシャル機構50、およびリヤディファレンシャル機構55を制御するようになっているが、例えば入力信号に基づいて電気的に制御するシフトバイワイヤ方式で制御するようにしてもよい。
【0111】
リヤデフロック切替レバー56、Hi−Lo切替レバー110、およびセンターデフロック切替レバー111は、作動モードの切替操作を入力するようになっている。すなわち、リヤデフロック切替レバー56、Hi−Lo切替レバー110、およびセンターデフロック切替レバー111は、本発明における作動モード切替操作手段を構成している。
【0112】
操作パネル51は、作動モードおよび制御モードから構成される車両の走行モードを入力させるようになっている。すなわち、操作パネル51は、本発明における走行モード入力手段を構成している。
【0113】
ECU100は、作動モードを、入力された車両の走行モードに応じた作動モードに切り替えるための切替操作を行うよう切替指示を出力するようになっている。すなわち、ECU100は、本発明における作動モード切替指示手段を構成している。
【0114】
さらに、ECU100は、トランスファ40、フロントディファレンシャル機構50、およびリヤディファレンシャル機構55を入力された車両の走行モードに応じた作動モードに切り替えるための切替操作が、リヤデフロック切替レバー56、Hi−Lo切替レバー110、およびセンターデフロック切替レバー111によって入力されたか否かを判定するようになっている。すなわち、ECU100は、本発明における作動モード切替操作判定手段を構成している。
【0115】
次に、本実施の形態に係る車両の制御装置の動作について、図面を参照して説明する。
【0116】
図4は、本発明の実施の形態に係る車両の制御装置における走行モード切替処理を示すフローチャートである。また、図5は、本発明の実施の形態に係る走行モードの切替状態を示す概要図である。図5(a)は、本発明の実施の形態に係る走行モードが通常モードから山道モードに切り替えられる場合の切替状態を表す概要図であり、図5(b)は、本発明の実施の形態に係る走行モードが雪道モードから山道モードに切り替えられる場合の切替状態を表す概要図である。さらに、図6は、本発明の実施の形態に係る走行モード毎のスロットル弁の開度特性を示すグラフである。
【0117】
なお、図4に示すフローチャートは、ECU100のCPUによって、RAMを作業領域として実行される走行モード切替処理のプログラムの実行内容を示すものである。この走行モード切替処理のプログラムは、ECU100のROMに記憶されている。また、この走行モード切替処理は、ECU100のCPUによって、予め定められた時間間隔(例えば、100msec)ごとに実行される。
【0118】
また、図6に示す走行モード毎のスロットル弁の開度特性は、ECU100のROMに記憶されたマップを図示したものである。ECU100のCPUは、図6に示す走行モードに従って、各走行モードにおけるスロットル弁の開度を調整する。
【0119】
図4に示すように、ECU100のCPUは、まず、車両10の制御状態がオフロードガイダンスモードであるか否かを判定する(ステップS11)。オフロードガイダンスモードは、運転者による操作パネル51の操作により入力される車両10の制御モードを示す。オフロードガイダンスモードにおいては、ECU100のCPUは、運転者により入力された走行モードに応じて、フロントディファレンシャル機構50、リヤディファレンシャル機構55およびトランスファ40の切替指示を運転者に出し、運転者による切替が完了するとともに、上記走行モードに応じて、図6に示すスロットル弁の開度特性およびA/T20の変速特性を切り替える。
【0120】
次に、ECU100のCPUは、車両10の制御状態がオフロードガイダンスモードであると判定した場合には(ステップS11でYes)、当該時刻における車両10の走行モードを記憶する(ステップS12)。一方、ECU100のCPUは、車両10の制御状態がオフロードガイダンスモードではないと判定した場合には(ステップS11でNo)、走行モード切替処理を実行する必要がないため、本処理を終了する。
【0121】
ECU100のCPUは、例えば、当該時刻における走行モードが、オンロードを走るためのノーマルモードである場合には、走行モードをノーマルモードとして記憶した後(ステップS12)、走行モードの入力があったか否かを判定する(ステップS13)。具体的には、ECU100のCPUは、操作パネル51によって入力された走行モードの入力を表す信号を検出した場合には、走行モードの入力があったと判定する(ステップS13でYes)。
【0122】
ECU100のCPUは、走行モードの入力があったと判定した場合には(ステップS13でYes)、入力された走行モードに応じて、トランスファ40、フロントディファレンシャル機構50およびリヤディファレンシャル機構55といった動力分配機構の切替を指示する(ステップS14)。なお、本明細書においては、走行モードを通常モードから山道モードに切り替えるように走行モードが入力された場合について、以降の処理を説明する(図5(a)を参照)。
【0123】
ECU100のCPUは、通常モードから山道モードに切り替えるように走行モードが入力された場合には、トランスファ40の変速段をHiからLoに、トランスファ40をセンターデフロック状態に、フロントディファレンシャル機構50をフロントデフロック状態に、さらに、リヤディファレンシャル機構55をリヤデフロック状態に切り替えるように、操作パネル51に表示することによって、運転者に指示を出す(ステップS14)。
【0124】
なお、ECU100のCPUが運転者に上記動力分配機構の切替指示を出すと、走行モードの切替状態は、図5(a)における「切替中」に対応する状態となる。
【0125】
ここで、山道モードに切り替えるように入力された場合に、上述のようにトランスファ40等を切り替えるよう運転者に指示を出すのは、以下の理由による。すなわち、トランスファ40の変速段をHiからLoに切り替えることによって、変速比を小さくし、前輪57L、57Rおよび後輪59L、59Rに伝達するトルクを増大させ、斜面や障害物を乗り越え易くするためである。
【0126】
さらに、トランスファ40、フロントディファレンシャル機構50およびリヤディファレンシャル機構55をデフロック状態に切り替えることによって、いずれかの駆動輪が接地していない場合における他の駆動輪への動力の伝達を確実に行い、山道に対する走破性を向上するためである。
【0127】
次に、ECU100のCPUは、動力分配機構の切替指示を出した後(ステップS14)、スロットル弁およびA/T20について、記憶した走行モードである通常モードに応じて制御を行う(ステップS15)。すなわち、ECU100のCPUは、図5(a)に示すように、走行モードの切替状態が「切替中」である場合には、スロットル弁を、図6に示す通常モードに応じた開度特性に従って制御するとともに、A/T20を、通常モードに応じた変速特性に従って制御する。ここで、A/T20の変速特性とは、エンジン回転数や車速等に応じたA/T20の変速段の切替タイミングを示す。
【0128】
次に、ECU100のCPUは、運転者による動力分配機構の切替が完了したか否かを判定する(ステップS16)。具体的には、ECU100のCPUは、Hi−Lo切替センサ112によって、トランスファ40の変速段がLoであるか否かを検出し、センターデフロック切替センサ113によって、トランスファ40がセンターデフロック状態であるか否かを検出する。さらにECU100のCPUは、リヤデフロック切替センサ144によってリヤディファレンシャル機構55がリヤデフロック状態であるか否かを検出するとともに、図示しないフロントデフロック切替センサによってフロントディファレンシャル機構50がフロントデフロック状態であるか否かを検出する。
【0129】
ECU100のCPUは、上記検出結果に基づいて、トランスファ40、フロントディファレンシャル機構50、およびリヤディファレンシャル機構55の全ての切替が完了したと判定した場合には、動力分配機構の切替完了と判定する(ステップS16でYes)。一方、ECU100のCPUは、上記検出結果に基づいて、トランスファ40、フロントディファレンシャル機構50、およびリヤディファレンシャル機構55のうち、いずれかの切替が完了していないと判定した場合には、動力分配機構の切替完了とは判定しない(ステップS16でNo)。
【0130】
次に、ECU100のCPUは、動力分配機構の切替完了と判定した場合には(ステップS16でYes)、入力された走行モードである山道モードに応じて、図6に示すようにスロットル弁の開度特性を切り替えるとともに、アクセル開度や速度に対するA/T20の変速特性を切り替え、本処理を終了する(ステップS17)。
【0131】
すなわち、ECU100のCPUが、動力分配機構の切替完了と判定し(ステップS16でYes)、スロットル弁の開度特性およびA/T20の変速特性の切替を完了した場合には(ステップS17)、走行モードの切替状態は、図5(a)における「切替後」に対応する状態となり、切替状態のステータスは「切替完了」となるとともに、走行モードが山道モードに確定する。
【0132】
ここで、図6に基づいて、山道モードに対応するスロットル弁の開度特性について説明する。山道モードにおいては、通常モードよりも、スロットル弁の開度特性の曲線の勾配が小さい。車両10が山道を走行する場合には、急な斜面において、岩石や起伏等の多くの障害物を乗り越えなければならない状況が考えられるため、運転者には高度なハンドル操作や動力制御が要求される。そのため、アクセルペダルの開度に対するスロットル弁の開度の割合を小さくすることによって、微妙な動力制御を可能としている。
【0133】
一方、ECU100のCPUは、動力分配機構の切替完了とは判定しなかった場合には(ステップS16でNo)、動力分配機構の切替指示を運転者に出した時刻から(ステップS14)、切替が完了しないまま予め定められた一定の時間(例えば、30sec)が経過したか否かを判定する(ステップS18)。
【0134】
ECU100のCPUは、動力分配機構の切替指示を運転者に出した時刻から、切替が完了しないまま一定の時間が経過したと判定した場合には(ステップS18でYes)、タイムアウトであると判定し、スロットル弁の開度特性およびA/T20の変速特性を、記憶した走行モード(ステップS12)である通常モードに対応する開度特性および変速特性に維持し、本処理を終了する(ステップS19)。
【0135】
すなわち、ECU100のCPUが、タイムアウトであると判定した場合には、走行モードの切替状態は、図5(a)における「切替後」に対応する状態となり、切替状態のステータスは「タイムアウト」となるとともに、走行モードは通常モードに確定する。
【0136】
一方、ECU100のCPUは、動力分配機構の切替指示を運転者に出した時刻から、切替が完了しないまま一定の時間がまだ経過していないと判定した場合には(ステップS18でNo)、再度、動力分配機構の切替完了の判定処理を行う(ステップS16)。すなわち、ECU100のCPUは、動力分配機構の切替完了と判定しない限り(ステップS16でNo)、動力分配機構の切替指示を運転者に出した時刻から、切替が完了しないまま一定の時間が経過したか否かの判定を繰り返すこととなる(ステップS18)。
【0137】
なお、ECU100のCPUは、タイムアウトと判定した場合には、走行モードが確定しない不安定な状態が継続するのを避けるために、入力された走行モードを無効とするよう、トランスファ40、フロントディファレンシャル機構50およびリヤディファレンシャル機構55等の動力分配機構の切替操作を取り消すようにエラーメッセージを出して、本走行モード切替処理を終了するようにしてもよい。この場合、運転者は、エラーメッセージが消えた後、再度、走行モードの入力を操作パネル51によって行うようにしてもよい。
【0138】
以上のように、本実施の形態に係る車両の制御装置は、動力分配機構の作動モードが、入力に対応する走行モードに応じた作動モードに切り替えられるまでは、スロットル弁の開度特性やA/T20の変速特性を、入力時の特性に維持することによって、不要な制御切替を防止することができるので、ドライバビリティの悪化を防止することができる。
【0139】
また、本実施の形態に係る車両の制御装置は、生産コストの増大を抑制することができるとともに、従来の四輪駆動車に低コストで追加可能となっている。
【0140】
以上に説明したように、本発明に係る車両の制御装置は、ドライバビリティの悪化を防止するとともに、従来の車両と比較してコストを増大させることなく、動力分配機構と連携した電子制御を行うことができるという効果を有し、動力分配機構と連携した電子制御を行う車両の制御装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両の制御装置を搭載した車両の概略ブロック構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るトランスファの構成を示す概要図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るリヤディファレンシャル機構の構成を示す概要図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る車両の制御装置における走行モード切替処理を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態に係る走行モードの切替状態を示す概要図である。(a)は、本発明の実施の形態に係る走行モードが通常モードから山道モードに切り替えられる場合の切替状態を表す概要図であり、(b)は、本発明の実施の形態に係る走行モードが雪道モードから山道モードに切り替えられる場合の切替状態を表す概要図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る走行モード毎のスロットル弁の開度特性を示すマップである。
【符号の説明】
【0142】
10 車両
11 エンジン
15 クランクシャフト
20 自動変速機(A/T)(動力制御機構)
30 油圧供給制御装置
40 トランスファ(動力分配機構)
43 フロントプロペラシャフト
45 リヤプロペラシャフト
47L、47R フロントドライブシャフト
49L、49R リヤドライブシャフト
50 フロントディファレンシャル機構(動力分配機構)
51 操作パネル(走行モード入力手段)
55 リヤディファレンシャル機構(動力分配機構)
56 リヤデフロック切替レバー(作動モード切替操作手段)
57L、57R 前輪
59L、59R 後輪
60 副変速機
70 同期機構
80 センターディファレンシャル機構
100 ECU(第1の制御部、第2の制御部、作動モード切替指示手段、作動モード切替操作判定手段)
110 Hi−Lo切替レバー(作動モード切替操作手段)
111 センターデフロック切替レバー(作動モード切替操作手段)
112 Hi−Lo切替センサ
113 センターデフロック切替センサ
140 リヤデフロック機構
144 リヤデフロック切替センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの動力伝達状態および動力発生状態を制御する動力制御機構と、エンジンからの動力の分配を切り替えるとともに各駆動輪の差動を許容するか否かを切り替える動力分配機構と、複数の制御モードを有し、いずれか1つの制御モードを選択して、選択した制御モードに従って前記動力制御機構を制御する第1の制御部と、複数の作動モードを有し、いずれか1つの作動モードを切替操作の入力に応じて選択し、選択した作動モードに応じて前記動力分配機構を制御する第2の制御部と、前記作動モードの切替操作を入力する作動モード切替操作手段と、を備えた車両の制御装置において、
前記作動モードおよび前記制御モードから構成される車両の走行モードを入力させる走行モード入力手段と、
前記作動モードを、前記入力された車両の走行モードに応じた作動モードに切り替えるための切替操作を行うよう切替指示を出力する作動モード切替指示手段と、
前記動力分配機構を前記入力された車両の走行モードに応じた作動モードに切り替えるための切替操作が、前記作動モード切替操作手段によって入力されたか否かを判定する作動モード切替操作判定手段と、を備え、
前記第1の制御部は、前記入力された車両の走行モードに応じた制御モードを選択し、さらに、前記入力された車両の走行モードに応じた作動モードへの切替操作が、前記作動モード切替操作手段により入力されたと前記作動モード切替操作判定手段によって判定され、前記第2の制御部による前記動力分配機構の作動モードの切替が完了したとき、前記入力された車両の走行モードに応じた制御モードに切り替え、前記作動モードの切替操作が入力されたと前記作動モード切替操作判定手段によって判定されるまでは、前記車両の走行モードの入力時の制御モードを維持することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記第1の制御部は、前記作動モード切替指示手段により前記切替指示が出力されてから、予め定められた時間内に、前記作動モード切替操作手段により前記入力された車両の走行モードに応じた作動モードへの切替操作が入力されなかったと前記作動モード切替操作判定手段によって判定された場合には、前記入力された車両の走行モードを無効とすることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記動力制御機構は、エンジンからの複数の動力伝達経路のうちのいずれかを選択して入力されたエンジンの出力軸の回転速度を減速または増速して駆動輪に伝達する自動変速機と、エンジンに供給される空気の流量を変更するスロットルと、を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記動力分配機構は、エンジンにおいて発生した動力を前輪と後輪とに差動可能に分配するとともに、入力されたエンジンの出力軸の回転速度を減速または増速して駆動輪に伝達するトランスファと、前記動力を左右の駆動輪に差動可能に分配するディファレンシャル機構と、を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−89744(P2010−89744A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264223(P2008−264223)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】