説明

車両の制御装置

【課題】ノーマリークローズ型のクラッチを備える車両において、車両停止中に電動機によってオイルポンプを駆動させて油圧を確保する際の油圧の応答遅れを解消する車両の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン12と、電動機14と、少なくともエンジン12もしくは電動機14の一方の動力によって駆動されるオイルポンプ28と、エンジン12と電動機14との間に設けられ、油圧が供給されない状態で付勢部材の押し付け力によって係合している第1クラッチ26を備える車両の制御装置であって、車両停止中にエンジン12および電動機14が停止しており油圧が供給されない状態から電動機14によってオイルポンプ28を駆動し、オイルポンプ28の駆動中に第1クラッチ26に付勢部材の押し付け力とは逆方向の油圧を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関して、特に車両停止中にエンジンが停止した状態から、電動機を用いてオイルポンプを駆動する車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両停止中に所定のエンジン停止条件が成立するとエンジンを自動的に停止する所謂アイドルストップ制御を備える車両では、アイドルストップ制御によりエンジンが停止するとともにエンジンにより駆動される機械式オイルポンプも停止する。したがって、変速機等への油圧供給が停止するため、機械式オイルポンプとは別に電動式オイルポンプを設けて油圧を供給することが、例えば、特許文献1で提案されている。
【0003】
特許文献1では、エンジン停止により機械式オイルポンプが停止すると、電動式オイルポンプを駆動して油圧を確保している。しかしながら、電動式オイルポンプを追加する分、車両コストや設置スペースの点で電動式オイルポンプを備えない車両構成に対して不利となる。
【0004】
特許文献2では、エンジンと電動機と変速機とが直列に接続され、エンジンと電動機の間にクラッチが設けられ、電動機の回転によっても機械式オイルポンプを駆動可能であるハイブリッド車両の構成が開示されている。すなわち、車両停止中にエンジンを停止した場合であっても、電動式オイルポンプを別に設けることなく車両が停止した状態で油圧を供給することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−296720
【特許文献2】特開2006−137406
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2のクラッチはオイルポンプによる油圧が供給されていない状態で係合状態となるノーマリークローズ型のクラッチであるため、車両停止中にオイルポンプによる油圧の供給が停止するとクラッチが係合する。ゆえに、車両停止中に電動機によってオイルポンプを駆動するとエンジンが回転負荷となって連れ回り電動機の回転速度を上昇させにくく、油圧を素早く確保できず油圧の応答遅れが発生する。
【0007】
本発明は上記の問題を解決するものであって、エンジンと電動機との間にノーマリークローズ型のクラッチを備える車両において、車両停止中に電動機によってオイルポンプを駆動させて油圧を確保する際の油圧の応答遅れを解消する車両の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明に係る車両の制御装置は、エンジンと、電動機と、少なくとも前記電動機の動力によって駆動されるオイルポンプと、前記エンジンと前記電動機との動力伝達路に設けられる第1クラッチと、前記第1クラッチを係合方向に付勢する付勢部材とを備え、前記第1クラッチは油圧が供給されていない状態で前記付勢部材の押し付け力によって係合している車両の制御装置であって、前記車両の停止中に前記エンジンおよび前記電動機が停止しており前記第1クラッチに油圧が供給されていない状態から前記電動機によって前記オイルポンプを駆動し、前記オイルポンプの駆動中に前記第1クラッチに前記付勢部材の押し付け力とは逆方向の油圧を供給することを特徴とする。
【0009】
第2の発明に係る車両の制御装置は、第1の発明において、前記車両の駆動輪と前記電動機との間の動力伝達路に設けられ、前記油圧が供給されていない状態で解放させられる第2クラッチを備え、第2クラッチへ油圧を供給して前記車両を発進させる際に、前記電動機によるオイルポンプの駆動によって油圧が目標値まで上昇すると、前記第2クラッチの押し付け力を前記油圧が供給されていない状態よりも大きくする油圧を前記第2クラッチへ供給することを特徴とする。
【0010】
第3の発明に係る車両の制御装置は、第1または第2の発明において、前記車両がユーザのブレーキ踏み込みによって停止している際に、前記ユーザのブレーキ踏み込みが緩められると前記電動機によってオイルポンプが駆動されることを特徴とする。
【0011】
第4の発明に係る車両の制御装置は、第3の発明において、前記ユーザのブレーキ踏み込みが緩められる際のブレーキ踏力の単位時間当たりの減少量すなわち減少速度が大きいほど前記電動機の目標回転速度を高くして前記電動機によってオイルポンプを駆動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明によれば、エンジンと、電動機と、少なくとも前記電動機の動力によって駆動されるオイルポンプと、前記エンジンと前記電動機との動力伝達路に設けられる第1クラッチと、前記第1クラッチを係合方向に付勢する付勢部材とを備え、前記第1クラッチは油圧が供給されていない状態で前記付勢部材の押し付け力によって係合している車両の制御装置であって、前記車両の停止中に前記エンジンおよび前記電動機が停止しており前記第1クラッチに油圧が供給されていない状態から前記電動機によって前記オイルポンプを駆動し、前記オイルポンプの駆動中に前記第1クラッチに前記付勢部材の押し付け力とは逆方向の油圧を供給している。これにより、前記エンジンと前記電動機とを接続する前記第1クラッチの押し付け力を弱くすることで第1クラッチがスリップ状態または解放状態となるため前記電動機のイナーシャが低減され、電動機の回転速度を素早く上昇させることが可能となる。したがって、短時間で油圧を確保することができ、油圧を素早く上昇させることができる。
【0013】
第2の発明によれば、前記車両の駆動輪と前記電動機との間の動力伝達路に設けられ、前記油圧が供給されていない状態で開放させられる第2クラッチを備え、第2クラッチへ油圧を供給して前記車両を発進させる際に、前記電動機によるオイルポンプの駆動によって油圧が目標値まで上昇すると、前記第2クラッチの押し付け力を前記油圧が供給されていない状態よりも大きくする油圧を前記第2クラッチへ供給している。つまり、油圧が目標値まで上昇すると、第2クラッチの押し付け力を増加させる油圧を第2クラッチへ供給する。車両の発進にあたり、少なくともエンジンもしくは電動機の駆動力を駆動輪へ伝達するため、第2クラッチに油圧を供給して係合する必要があるが、油圧が低い状態で第2クラッチへの油圧供給を行うと、第2クラッチがスリップ状態となり電動機のイナーシャが増加して電動機の回転速度を上昇させづらくなり、油圧の確保に時間を要する。第2の発明は、目標値まで油圧が上昇してから第2クラッチへ油圧を供給して押し付け力を大きくするため、電動機のイナーシャが小さい状態で油圧を確保できる。故に、車両発進時に素早く油圧を供給でき、ユーザの駆動力要求に対する応答遅れの発生を解消できる。
【0014】
第3の発明によれば、前記車両がユーザのブレーキ踏み込みによって停止している際に、前記ユーザのブレーキ踏み込みが緩められると前記電動機によってオイルポンプが駆動される。つまり、ユーザのブレーキ踏み込みが緩められるとユーザによる車両発進が要求されたと判断し、電動機によってオイルポンプを駆動して油圧を確保する。したがって、車両発進時の油圧応答遅れに起因するユーザの駆動力要求に対する応答遅れの発生を解消できる。
【0015】
第4の発明によれば、前記ユーザのブレーキ踏み込みが緩められる際のブレーキ踏力の単位時間当たりの減少量が大きいほど前記電動機の目標回転速度を高くして前記電動機によってオイルポンプを駆動している。つまり、ブレーキ踏力の単位時間当たりの減少量が大きいほど、ユーザが素早く車両を発進しようとしていると判断して、電動機の目標回転速度を高くしてオイルポンプを駆動するため、油圧を素早く確保できる。したがって、ユーザが素早く車両を発進する際の駆動力要求に対する応答遅れの発生を解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明が適用された車両の制御装置を説明する骨子図である。
【図2】本発明の第1クラッチの実施例を説明する図である。
【図3】図1の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。
【図4】ブレーキ踏力の単位時間当たりの減少量に対する電動機の目標回転速度の関係を表すグラフである。
【図5】図3の電子制御装置の信号処理によって実行される制御作動の要部を説明するフローチャートである。
【図6】図4のフローチャートによる制御例を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0018】
図1は、本発明が適用された車両10の制御装置を説明する骨子図である。図1に示すように、車両10は、エンジン12と、電動機14とを備え、エンジン12と電動機14との間の動力伝達経路に第1クラッチ26が設けられている。電動機14およびエンジン12の出力は、トルクコンバータ16、自動変速機18、差動歯車装置20、および左右一対の車軸22をそれぞれ介して左右一対の駆動輪24へ伝達される。車両10は、電動機14およびエンジン12の一方、他方、および両方の駆動によって走行する。すなわち、車両10は、電動機14のみによる電動機走行(モータ走行)、エンジン12のみによるエンジン走行、電動機14およびエンジン12によるハイブリッド走行のいずれか1の走行状態とされる。
【0019】
トルクコンバータ16は、電動機14の出力に連結されたポンプ翼車16p、および自動変速機18の入力軸に連結されたタービン翼車16tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それらのポンプ翼車16pおよびタービン翼車16tの間には、ロックアップクラッチ32が設けられており、図示しない油圧制御装置の切換弁などによって係合側油室および解放側油室に対する油圧供給が切り換えられることにより、係合または解放されるようになっている。このロックアップクラッチ32が係合されることによって、ポンプ翼車16pおよびタービン翼車16tは一体回転させられる。ポンプ翼車16pには、自動変速機18を変速制御したり、第1クラッチ26の押し付け力を制御したり、あるいは各部に潤滑油を供給したりするための油圧を発生させるオイルポンプ28が設けられている。
【0020】
自動変速機18は、例えば、前進6速/後退1速等の有段の変速段を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える有段変速機であり、かかる変速を行うために複数の係合要素を備えて構成されている。自動変速機18は、例えば、多板式のクラッチやブレーキ等、油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置であり、油圧制御回路34から供給される油圧に応じて油圧式摩擦係合装置が選択的に係合乃至開放されることにより、油圧式摩擦係合装置の連結状態の組合せに応じて複数(例えば、第1速から第6速)の前進変速段(前進ギヤ段、前進走行用ギヤ段)、或いは後進変速段(後進ギヤ段、後進走行用ギヤ段)の何れかが選択的に成立させられる。このように、前進変速段あるいは後進変速段が選択されている際の自動変速機18のシフトポジションを走行ポジションとする。また、自動変速機18は、例えば、多板式のクラッチやブレーキ等の解放により、電動機14の出力軸から駆動輪24への動力伝達を遮断する。すなわち、自動変速機18は、動力伝達を遮断する第2クラッチ30として機能する摩擦式クラッチまたはブレーキを備えている。
【0021】
図2は本発明の一実施例の第1クラッチ26の構成について説明する図である。第1クラッチ26は、摩擦係合要素42と、それを押圧するためのクラッチピストン44と、クラッチピストン44を押圧方向に付勢する皿ばね46とによって構成され、オイルポンプ28による油圧を元圧とする油圧制御回路34によって第1油室48、第2油室50に油圧を供給して摩擦係合部材42の押し付け力を可変とする。
【0022】
このように構成される第1クラッチ26は、油圧制御回路34によって第1油室48および第2油室50に油圧が供給されない場合は、皿ばね46がクラッチピストン44を押す力によって、摩擦係合要素42が押し付けられて係合した状態となるノーマリークローズ型のクラッチとなっている。
【0023】
第1クラッチ26は、油圧制御回路34によって第1クラッチ26の第1油室48に作動油圧が供給されると油圧によってクラッチピストン44が摩擦係合要素42を押し付ける方向に移動させられ、押し付け力が大きくなる。しかし、第1クラッチ26は、第2油室50に作動油圧が供給させられると油圧によってクラッチピストン44が摩擦係合要素42を解放する方向に押し動かされ、摩擦係合要素42の押し付け力が弱くなる。すなわち、第1クラッチ26は、第1油室48の油圧をゼロにして、皿ばね46がクラッチピストン44に作用させる力よりも大きな油圧を第2油室50で発生させることで、第1クラッチ26を解放状態とすることができる。
【0024】
図3は、電子制御装置58に備えられた制御機能の要部を説明するブロック線図である。電子制御装置58は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されている。この電子制御装置58は、CPUがRAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、電動機14の回転速度の制御、第1クラッチ26の押し付け力制御および第2クラッチ30の押し付け力制御などを実行する。電子制御装置58は、車両10のオイルポンプ制御装置として機能する。
【0025】
電子制御装置58には、車両10に設けられた各センサにより検出される各種入力信号が供給される。上記入力信号としては、例えば、電動機回転速度センサ62により検出される電動機回転速度NMG[rpm]を表す信号、エンジン回転速度センサ64により検出されるエンジン回転速度N[rpm]を表す信号、車速センサ68により検出される車速V[km/h]を表す信号、ブレーキ踏力センサ66により検出されるブレーキ踏力Brk[N]を表す信号などがある。
【0026】
電子制御装置58からは、車両10に設けられた各装置に各種出力信号が供給される。上記出力信号としては、例えば、電動機14の出力制御のためにインバータ56に供給される信号、第1クラッチ26等の押し付け力制御のために油圧制御回路34に供給される信号などがある。
【0027】
図3において、車両停止判定部70は、車速センサ68やブレーキ踏力センサ66に基づいて、車両10が停止状態であるか否かの判定を行う。車両停止判定部70は、例えば、車速センサ68による検出値がゼロであれば車両10が停止していると判断できる。また、車両停止判定部70は、ブレーキ踏力センサ66によるブレーキ踏力Brkがゼロよりも大きければ、ユーザの意思によって車両10を停止させていることを判別できる。
【0028】
エンジン停止判定部72は、エンジン回転速度センサ64に基づきエンジン12が停止状態にあるか否かの判定を行う。ここでエンジン12の停止とは、エンジン12への燃料供給が停止し、エンジン回転速度Nがゼロとなっている状態をいう。
【0029】
電動機停止判定部74は、電動機回転速度センサ62に基づき電動機14が停止状態にあるか否かの判定を行う。ここで、電動機14の停止とは、電動機回転速度NMGがゼロとなっている状態をいう。
【0030】
オイルポンプ駆動判定部76は、ブレーキ踏力センサ66に基づいてオイルポンプ28の始動が要求されたか否かの判定を行う。そして、車両停止判定部70の信号とエンジン停止判定部72と電動機停止判定部74との信号より、車両停止中にエンジン12および電動機14が停止した状態でブレーキ踏力Brkが開放されてオイルポンプ28の始動が要求されたと判断すると電動機制御部78へ電動機駆動の要求信号を出力する。例えば、オイルポンプ28は、電動機14とともに回転するため、電動機回転速度NMGがゼロであれば、オイルポンプ28が停止状態にあると判定できる。また、ブレーキ踏力Brkが弱くなるように変化する場合、ユーザが車両10を停止状態から発進させようとしていると判断し、自動変速機18への油圧供給を開始するために電動機制御部78に対して電動機駆動の要求信号を出力する。
【0031】
電動機制御部78は、オイルポンプ28を駆動させるために目標回転速度NMG*となるように電動機14の回転制御を行う。電動機制御部78は、オイルポンプ駆動判定部76から電動機駆動の要求信号を受けとると、予め記憶された関係からブレーキ踏力Brkの単位時間当たりの減少量などに基づき電動機14の目標回転速度NMG*を決定し、インバータ56に信号を出力して電動機14を目標回転速度NMG*となるように制御する。また、電動機制御部78は、油圧制御回路34に対して、第1クラッチ26押し付け力を弱くする信号を出力する。電動機14の目標回転速度NMG*は、例えば、予め記憶された関係からブレーキ踏力Brkの単位時間当たりの減少量に応じて決定される。図4はその関係の一例であり、ブレーキ踏力Brkの単位時間当たりの減少量が大きいほどユーザが素早く車両10を発進させようとしているという判断に基づき、電動機14の目標回転速度NMG*が高くなるように変化させている。
【0032】
電動機14の目標回転速度NMG*は、車両10が停止しオイルポンプ28が停止してからの経過時間との関係に基づいて設定してもよい。この場合、電動機14は、例えば前記経過時間が長くなるほど、目標回転速度NMG*が高くなるように変化させる。油圧は、時間経過とともに徐々に低下するため、オイルポンプ停止からの時間が長くなるほど油圧を回復させるために多くの油量が必要となる。ゆえに、電動機14は、電動機回転速度NMGを高くすることで、より短時間で油量を確保することができ、油圧の応答性を向上させることができる。
【0033】
図5は、前記電子制御装置58によるオイルポンプ始動の要部を説明するフローチャートであり、数ミリ秒乃至十数ミリ秒程度の所定の周期で繰り返し実行される。
【0034】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、車両が停止中であるか否かが判定される。このS1の判定が否定される場合は、本ルーチンを終了する。しかし、その判定を繰り返すうち上記S1が肯定される場合には、S2に進みエンジン12が停止されているか否かを判定する。
【0035】
S2の判定が否定される場合は、本ルーチンを終了する。しかし、その判定を繰り返すうち上記S2が肯定される場合には、S3に進み電動機14が停止されているか否かを判定する。
【0036】
S3の判定が否定される場合は、本ルーチンを終了する。しかし、その判定を繰り返すうち上記S3が肯定される場合には、S4に進みオイルポンプ28の駆動が要求されたか否かを判定する。
【0037】
S4では、オイルポンプ28の始動が要求されたか否かを判定する。このS4の判定が否定される場合は、本ルーチンを終了する。しかし、その判定を繰り返すうちに上記S4の判定が肯定される場合には、S5に進み電動機14の駆動を開始する。
【0038】
次にS5では、例えば、ブレーキ踏力Brkの単位時間当たりの減少量について予め定められた関係に基づいて電動機14の目標回転速度NMG*を設定して電動機14によってオイルポンプ28を駆動する。
【0039】
次にS6では、第1クラッチ26の押し付け力TK0を調整する油圧であるライン圧Pが上昇したか否かを判定する。このS6の判定が否定される場合には、ライン圧Pが上昇するまでS6の判定を繰り返す。ここで、ライン圧Pを素早く上昇させるために、S6の判定が否定された場合には、電動機14の目標回転速度NMG*をさらに所定置を高く設定するようにしても良い。S6の判定を繰り返すうち判定が肯定される場合には、S7に進み第1クラッチ26の押し付け力制御を行う。
【0040】
S7では、ライン圧Pが上昇したことを受けて、油圧制御回路34によって第1クラッチ26の押し付け力TK0を弱くする。すなわち、油圧制御回路34は、第1クラッチ26を解放するように油圧を供給する。
【0041】
図6は本実施例にしたがった車両10の制御作動を説明するタイムチャートの一例であり、横軸は時間を表している。
【0042】
図6の時刻tにおいて、車両10はユーザのブレーキ踏み込みによって車両10が停止し、オイルポンプ28も停止した状態となっている。すなわち、時刻tにおいては、エンジン12および電動機14が停止している。実際には、車両10は、システムオンであって、エンジン12および電動機14の回転が停止した状態でユーザのブレーキ踏み込みによって車両10が停止している状態に相当する。ここで、エンジン12および電動機14の回転停止は、エンジン回転速度Nと電動機回転速度NMGがゼロであり、車速Vがゼロであることがエンジン回転速度センサ64、電動機回転速度センサ62、車速センサ68からそれぞれ読み取ることができ、ブレーキ踏力Brkがゼロよりも大きいことが、ブレーキ踏力センサ66からそれぞれ読み取ることができる。
【0043】
時刻tにてユーザによってブレーキペダルの踏み込みが緩められブレーキ踏力Brkが弱くなるように変化すると、ユーザが車両10を発進させようとしていると判断され、自動変速機18へ供給する油圧を確保するため電動機14によってオイルポンプ28が駆動される。油圧制御回路34は、オイルポンプ28の駆動によってライン圧Pが上昇すると、電動機14の負荷を軽減するため第1クラッチ26の押し付け力TK0を弱くするよう油圧制御回路34によって第1クラッチ26の第2油室50へ油圧が供給される。電動機14によるオイルポンプ28の駆動は、ブレーキ踏力Brkの減少とともに、電動機14の回転速度NMGが上昇し、ライン圧Pが上昇していることから確認できる。
【0044】
時刻t近傍では、ライン圧Pが低く第1クラッチ26の押し付け力TK0を弱くすることができず電動機14の回転とともにエンジン12が連れ回るため、エンジン回転速度Nが電動機14の回転速度NMGとともに上昇開始する。しかし、時刻t以降は、電動機14によるオイルポンプ28の駆動によってライン圧Pが上昇し、油圧制御回路34によって第1クラッチ26を解放するように第1クラッチ26の押し付け力TK0弱くするため、エンジン回転速度Nが徐々に低下する。これらは、第2クラッチ30の押し付け力TC1が一定であり、電動機14によるオイルポンプ28の駆動によってライン圧Pが上昇する間に、エンジン回転速度Nが徐々に低下またはゼロとなっていれば、第1クラッチ26の押し付け力TK0が弱くなるように制御されたとみなすことができる。なお、第1クラッチ26に対して油圧制御回路34の指令から第1クラッチ26が解放されるように制御されているか否かを判断するようにしてもよい。
【0045】
なお、自動変速機18のシフトポジションが走行ポジションであれば、オイルポンプ28の駆動によってライン圧Pが目標値まで上昇すると、時刻tにおいて自動変速機18へ油圧供給を行い、第2クラッチ30の油圧を上昇させる。なお、油圧の目標値(目標油圧)は車両10のエンジン12がアイドリング状態にあるときにオイルポンプ28によって確保される油圧などが設定される。
【0046】
本実施例の車両10の制御装置によれば、車両10の停止中にエンジン12および電動機14が停止しており、第1クラッチ26に油圧が供給されていない状態から電動機14によってオイルポンプ28を駆動し、オイルポンプ28の駆動中に第1クラッチ26に付勢部材の押し付け力とは逆方向の油圧を供給している。つまり、エンジン12と電動機14との間にノーマリークローズ型の第1クラッチ26を備える車両10において、車両停止中に電動機14によってオイルポンプ28を駆動させて油圧を確保する際に、クラッチの押し付け力を弱くして電動機14の負荷を軽くするので油圧を素早く供給することができ、油圧応答遅れが解消される。
【0047】
また、本実施例の車両10の制御装置によれば、第2クラッチ30へ油圧を供給して車両10を発進させる際に、電動機14によるオイルポンプ28の駆動によって油圧が目標値まで上昇すると、第2クラッチ30の押し付け力を油圧が供給されていない状態よりも大きくする油圧を第2クラッチ30へ供給している。つまり、油圧が目標値まで上昇すると、第2クラッチ30の押し付け力を増加させる油圧を第2クラッチ30へ供給する。車両10の発進にあたり、少なくともエンジン12もしくは電動機14の駆動力を駆動輪24へ伝達するため、第2クラッチ30に油圧を供給して係合する必要があるが、油圧が低い状態で第2クラッチへ30への油圧供給を行うと、第2クラッチ30がスリップ状態となり電動機14のイナーシャが増加して電動機14の回転速度を上昇させづらくなり、油圧の確保に時間を要する。しかし、目標値まで油圧が上昇してから第2クラッチ30へ油圧を供給して押し付け力を大きくすることにより、電動機14のイナーシャが小さい状態で油圧を確保できる。これにより、車両発進時に素早く油圧を供給でき、ユーザの駆動力要求に対する応答遅れの発生を解消できる。
【0048】
また、本実施例の車両10の制御装置によれば、車両10がユーザのブレーキ踏み込みによって停止している際に、ユーザのブレーキ踏み込みが緩められると電動機14によってオイルポンプ28が駆動される。つまり、ユーザのブレーキ踏み込みが緩められるとユーザによる車両発進が要求されたと判断し、電動機14によってオイルポンプ28を駆動して油圧を確保する。したがって、車両10発進時の油圧応答遅れに起因するユーザの駆動力要求に対する応答遅れの発生を解消できる。
【0049】
また、本実施例の車両10の制御装置によれば、ユーザのブレーキ踏み込みが緩められる際のブレーキ踏力の単位時間当たりの減少量が大きいほど電動機14の目標回転速度を高くして電動機14によってオイルポンプ28を駆動している。つまり、ブレーキ踏力の単位時間当たりの減少量が大きいほど、ユーザが素早く車両10を発進しようとしていると判断して、電動機14の目標回転速度を高くしてオイルポンプ28を駆動するため、油圧を素早く確保できる。したがって、ユーザが素早く車両10を発進する際の駆動力要求に対する応答遅れの発生を解消できる。
【0050】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
【0051】
例えば、前述の実施例において、前記エンジン12と電動機14との間の動力伝達経路に設けられた第1クラッチ26等は、油圧により係合状態が制御される油圧式摩擦係合装置であったが、例えば、電磁気的に係合状態が制御される電磁式クラッチ或いは磁粉式クラッチが前記エンジン12と電動機14との間の動力伝達経路に設けられたものであっても構わない。すなわち、本発明は、エンジン12と電動機14との間の動力伝達経路にその動力伝達経路における動力伝達を制御するクラッチを備えたハイブリッド車両に広く適用され得るものである。
【0052】
また、前述の実施例では、複数の油圧式摩擦係合装置を備えた有段式の自動変速機18が備えられた車両10に本発明が適用された例を説明したが、例えば、自動変速機としてベルト式無段変速機やトロイダル式無段変速機等のCVTを備えたハイブリッド車両にも本発明は好適に適用される。また、本発明は、複数の電動機相互間の電気パスによりそれら複数の電動機が電気的な無段変速機として機能する形式のハイブリッド車両が適用されても構わない。
【0053】
その他、例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0054】
12:エンジン
14:電動機
26:第1クラッチ
28:オイルポンプ
30:第2クラッチ
34:油圧制御回路
42:摩擦係合要素
44:クラッチピストン
46:皿ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、電動機と、少なくとも前記電動機の動力によって駆動されるオイルポンプと、前記エンジンと前記電動機との動力伝達路に設けられる第1クラッチと、前記第1クラッチを係合方向に付勢する付勢部材とを備え、前記第1クラッチは油圧が供給されていない状態で前記付勢部材の押し付け力によって係合している車両の制御装置であって、
前記車両の停止中に前記エンジンおよび前記電動機が停止しており前記第1クラッチに油圧が供給されていない状態から前記電動機によって前記オイルポンプを駆動し、前記オイルポンプの駆動中に前記第1クラッチに前記付勢部材の押し付け力とは逆方向の油圧を供給すること
を特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記電動機の出力軸に接続される駆動輪と前記電動機との間の動力伝達路に設けられ、前記油圧が供給されていない状態で解放している第2クラッチを備え、
第2クラッチへ油圧を供給して前記車両を発進させる際に、前記電動機によるオイルポンプの駆動によって油圧が目標値まで上昇すると、前記第2クラッチの押し付け力を前記油圧が供給されていない状態よりも大きくする油圧を第2クラッチへ供給すること
を特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記車両がユーザのブレーキ踏み込みによって停止している際に、前記ユーザのブレーキ踏み込みが緩められると前記電動機によってオイルポンプを駆動すること
を特徴とする請求項1または2記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記ユーザのブレーキ踏み込みが緩められる際のブレーキ踏力の単位時間当たりの減少量が大きいほど前記電動機の目標回転速度を高くして前記電動機によってオイルポンプを駆動すること
を特徴とする請求項3記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−67265(P2013−67265A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207313(P2011−207313)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】