説明

車両の排気系支持構造

【課題】パワートレインの後退移動に伴う排気浄化ユニットと燃料タンクとの干渉懸念を低減する。
【解決手段】トンネル部61と、プロペラシャフト4と、トンネル部に架設されたトンネルメンバ75と、燃料タンク50とを備え、プロペラシャフト4の途中に配設されたジョイント部6と、プロペラシャフト4に後向き荷重が作用したときに脱落するベアリングサポート部47と、排気浄化ユニット27と、排気浄化ユニット支持部材67,68,77とを備え、排気系20はトンネルメンバ75の下方に通され、トンネルメンバ75は、プロペラシャフト4の下方変位によってフロアパネル60から離脱可能とされ、排気浄化ユニット支持部材67,68,77は、フロアパネル60に、トンネルメンバ75を介して排気浄化ユニット27を支持させるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両に搭載されたエンジン排気系を支持する構造に関し、特にその排気系が車両前後方向に延びるプロペラシャフトに沿って配設されているものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フロアパネルに、車両正面視で上方に膨出した形状が車両前後方向に延びるように形成されたトンネル部と、上記トンネル部が形成するトンネル状空間に通され、車両前部のパワートレインから後輪側に駆動力を伝達するプロペラシャフトと、上記トンネル状空間の下方を閉じるように上記トンネル部に車幅方向に架設されたトンネルメンバと、上記プロペラシャフトに沿って配設されたエンジンの排気系と、上記トンネル部と後輪位置との間の上記フロアパネル下方に配設された燃料タンクとを備えた車両が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このような構造は一般的に、FR(フロントエンジン/リヤドライブ)車またはフロントエンジンの4輪駆動車に適用される。上記トンネル部は、広い車室内空間を確保するためにフロアパネルの地上高を下げつつ、プロペラシャフトや排気系を通す空間を確保するために設けられる。トンネルメンバは、トンネル部が形成するトンネル状空間の開き方向の変形を規制して断面形状を確保する、つまり車体剛性を高めるために設けられる。
【0004】
特許文献1にも開示されているように従来構造においては、プロペラシャフト及び排気系は上記トンネル状空間内の、トンネルメンバよりも上方に通される。
【0005】
プロペラシャフトは、2分割または3分割されており、そのジョイント部(接続部)近傍がベアリングサポート部を介してフロアパネルに支持されている。車両衝突時にパワートレイン(本明細書では、エンジンから車輪に至る動力伝達系のうち、プロペラシャフトよりも上流側の部材を指す。つまり、例えばエンジン、トランスミッション、4輪駆動車におけるフロントデフ等の総称である)が後退移動する等して、プロペラシャフトに所定以上の後向き荷重が作用すると、ベアリングサポート部がフロアパネルから脱落するように構成されている。これにより、プロペラシャフトが折れ曲がりつつ下方変位するので、パワートレインの後退移動に伴う衝撃荷重が後輪側に伝達されることが抑制される。
【0006】
特許文献1には、車体剛性を確保しつつ、衝突時におけるプロペラシャフトの下方変位を容易化することができるトンネルメンバが開示されている。
【特許文献1】特開平4−349080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら従来構造において、プロペラシャフトに沿って配設される排気系には、プロペラシャフトに見られるような衝突時のパワートレイン後退移動に対する配慮は特になされておらず、またその必要性も特に高くなかった。
【0008】
ところが近年、エンジンの排気ガスの浄化要求が高まるに伴い、その事情が変わりつつある。排気系に含まれる排気浄化ユニットが増加傾向にあるからである。従来、周知のように、排気系には排気浄化ユニットが設けられている。広く用いられている排気浄化ユニットとしては三元触媒や酸化触媒等が挙げられる。また特にディーゼルエンジン車では、排気微粒子(PM:Particulate Matter)を捕集する排気微粒子捕集器(DPF:Diesel Particulate Filter)が設けられることも多くなってきた。さらには、特にNOx(窒素酸化物)を浄化するための排気浄化ユニットが設けられる場合もある。排気浄化ユニットとしては、例えば選択接触還元触媒を内蔵したSCR(Selective Catalytic Reduction)ユニット等がある。
【0009】
このように排気系に設けられる排気浄化ユニットの数が増加傾向にあるにも係らず、これらを配設可能なスペース(長さ)は限られているので、これらとその後方に配設された燃料タンクとが近接配置とならざるを得ないケースが出てきた。従って、車両衝突時にパワートレインが後退移動することによる排気浄化ユニットと燃料タンクとの干渉が懸念されるようになってきた。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、排気浄化ユニットと燃料タンクとが比較的近接配置された場合であっても、パワートレインの後退移動に伴う両者の干渉懸念を低減することができる車両の排気系支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための請求項1に係る発明は、フロアパネルに、車両正面視で上方に膨出した形状が車両前後方向に延びるように形成されたトンネル部と、上記トンネル部が形成するトンネル状空間に通され、車両前部のパワートレインから後輪側に駆動力を伝達するプロペラシャフトと、上記トンネル状空間の下方を閉じるように上記トンネル部に車幅方向に架設されたトンネルメンバと、上記プロペラシャフトに沿って配設されたエンジンの排気系と、上記トンネル部と後輪位置との間の上記フロアパネル下方に配設された燃料タンクとを備えた車両の排気系支持構造であって、上記プロペラシャフトの途中に配設されたジョイント部と、上記フロアパネルに取付けられ、上記ジョイント部近傍で上記プロペラシャフトを支持するベアリングを内蔵するとともに上記プロペラシャフトに所定以上の後向き荷重が作用したときに上記フロアパネルから脱落するように構成されたベアリングサポート部と、上記排気系に含まれ、上記燃料タンクより前方に配設された排気浄化ユニットと、上記フロアパネルに上記排気浄化ユニットを支持させるための排気浄化ユニット支持部材とを備え、上記排気系は、少なくとも上記トンネルメンバ位置において該トンネルメンバの下方に通され、上記トンネルメンバは、上記ベアリングサポート部の脱落による上記プロペラシャフトの下方変位によって少なくとも一側部が上記フロアパネルから離脱可能とされ、上記排気浄化ユニット支持部材の少なくとも1つは、上記フロアパネルに、上記トンネルメンバを介して上記排気浄化ユニットを支持させることを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1記載の車両の排気系支持構造において、上記トンネルメンバは、上記ベアリングサポート部の脱落によって下方変位する上記プロペラシャフトとの干渉によって上記フロアパネルから離脱するものであり、その早期干渉部位近傍で、上記排気浄化ユニット支持部材を介して上記排気浄化ユニットを支持することを特徴とする。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または2記載の車両の排気系支持構造において、上記排気浄化ユニット支持部材は複数設けられ、車幅方向一方側のものは、上記フロアパネルに上記トンネルメンバを介して上記排気浄化ユニットを支持させるものであり、他方側のものは上記フロアパネルに上記排気浄化ユニットを弾性支持させるものであることを特徴とする。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両の排気系支持構造において、上記排気系に含まれ、上記排気浄化ユニットより前方側に、車両前後方向に配設された屈曲自在のフレキシブルチューブを備えることを特徴とする。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両の排気系支持構造において、上記排気浄化ユニットは、排気ガス中のNOxを浄化する選択接触還元触媒を内蔵し、上記排気系は、上記排気浄化ユニットより上流側に、酸化触媒および排気微粒子捕集器を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、以下説明するように、排気浄化ユニットと燃料タンクとが比較的近接配置された場合であっても、パワートレインの後退移動に伴う両者の干渉懸念を低減することができる。
【0017】
まず本発明の構成によれば、トンネル部によって、広い車室内空間の確保とプロペラシャフトや排気系を通す空間の確保とを両立させることができる。またトンネルメンバによって車体剛性を高めることができる。
【0018】
さらに、ジョイント部を有する(つまり2分割以上に分割された)プロペラシャフトが、そのジョイント部近傍でベアリングサポート部を介してフロアパネルに支持されている。このベアリングサポート部は、車両衝突時にパワートレインが後退移動する等して、プロペラシャフトに所定以上の後向き荷重が作用するとフロアパネルから脱落するように構成されている。従って車両衝突時、プロペラシャフトをジョイント部で折れ曲げつつ下方変位させることができ、パワートレインの後退移動に伴う衝撃荷重が後輪側に伝達されることを抑制することができる。
【0019】
さらに、排気浄化ユニットが、トンネルメンバを介して排気浄化ユニット支持部材によってフロアパネルに支持されている。そして少なくともトンネルメンバ位置において、排気系がトンネルメンバの下方に通されているので、結局、排気浄化ユニット(の少なくとも一側部)がトンネルメンバに吊持されたようになっている。このトンネルメンバは、ベアリングサポート部の脱落によるプロペラシャフトの下方変位によって少なくとも一側部がフロアパネルから離脱可能とされている。
【0020】
従って、車両衝突時等にベアリングサポート部が脱落すると、プロペラシャフトが下方変位し、それによってトンネルメンバ(の少なくとも一側部)がフロアパネルから離脱する。その結果、排気浄化ユニットの、少なくともトンネルメンバを介してフロアパネルに支持されている部分がトンネルメンバと一緒にフロアパネルから離脱する。これにより、この排気浄化ユニットが下方に変位するので、比較的燃料タンクに近接配置されていても、その燃料タンクとの干渉懸念を低減することができる。
【0021】
請求項2の発明によれば、車両衝突時等において、より確実に排気浄化ユニットと燃料タンクとの干渉懸念を低減することができる。
【0022】
本発明のトンネルメンバは、ベアリングサポート部の脱落によって下方変位するプロペラシャフトとの干渉によってフロアパネルから離脱する。従って、その早期干渉部位近傍が早期に下方への変位を始め、換言すれば離脱動作を開始する。トンネルメンバが、この早期に離脱動作(下方変位)を開始する箇所で排気浄化ユニットを支持するので、排気浄化ユニットの離脱動作も早期化され、燃料タンクとの干渉懸念を低減することができる。
【0023】
請求項3の発明によれば、車両衝突時等において、より確実に排気浄化ユニットと燃料タンクとの干渉懸念を低減することができる。
【0024】
本発明では、排気浄化ユニットの車幅方向一方側がトンネルメンバを介してフロアパネルに吊持されている。従って、トンネルメンバの離脱によって確実に排気浄化ユニットの車幅方向一方側の支持が喪失され、他方側のみの片持支持となる。一方、その他方側においては排気浄化ユニットがフロアパネルに弾性支持されている。従って、片持支持による排気浄化ユニットの姿勢維持が困難となり、他方側の支持部から垂下するように変位する。このように排気浄化ユニットを変位させる確実性を高めることができるので、燃料タンクとの干渉懸念を一層低減することができる。
【0025】
なお本発明において、排気浄化ユニットの車幅方向一方側(トンネルメンバを介してフロアパネルに支持されている側)の支持形態として、弾性支持を排除する趣旨ではなく、こちら側も他方側と同様に弾性支持されていても良い。
【0026】
請求項4の発明によれば、車両衝突時等におけるエンジン後退移動に伴う排気系の初期の後退移動をフレキシブルチューブの屈曲または座屈変形によって吸収させることができる。従って、パワートレイン後退移動→プロペラシャフトに後ろ向き荷重が作用して後退移動→センターベアリングサポート部の脱落→プロペラシャフトが折れ曲がりながら下方変位→トンネルメンバ(の少なくとも一側部)がフロアパネルから離脱→排気浄化ユニット(の少なくとも一側部)がフロアパネルから離脱→排気浄化ユニットが後退移動しても燃料タンクとの干渉が回避される、という衝突時の一連の挙動を円滑かつ確実に行わせることができる。フレキシブルチューブの変形によって、排気浄化ユニットの後退移動をプロペラシャフトの下方変位よりも遅らせることができるからである。
【0027】
請求項5の発明によれば、選択接触還元触媒を内蔵する排気浄化ユニットと燃料タンクとの干渉回避効果をより顕著に奏することができる。
【0028】
本発明の構成によれば、排気系は、選択接触還元触媒を内蔵する排気浄化ユニットの他に、酸化触媒および排気微粒子捕集器を備えるが、これらも「選択接触還元触媒を内蔵する」と限定されない排気浄化ユニットである。このように多数の排気浄化ユニットを限られたスペース(エンジンから燃料タンク付近まで)に配設する必要があるので、最も下流側の選択接触還元触媒を内蔵する排気浄化ユニットは燃料タンクに近接した位置に配置せざるを得ない。すなわち選択接触還元触媒を内蔵する排気浄化ユニットと燃料タンクとの干渉懸念が高くなっている。そのような場合に本発明の構成を適用することにより、その干渉懸念低減効果が顕著となる。
【0029】
なお、選択接触還元触媒を内蔵する排気浄化ユニットが、周知のSCRユニットである場合は一層効果的となる。SCRユニットは、高温の排ガス中に尿素水溶液等から得られるアンモニア(還元剤)を注入して排気ガス中のNOxを浄化するものである。これには尿素水溶液等を噴霧する還元剤噴霧ノズルを必要とする。つまりSCRユニットよりも上流側に還元剤噴霧ノズルを配設するスペースを要する。このため、一層SCRユニットが燃料タンクに近接配置されがちになるので、本発明の効果を顕著に奏するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0031】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両の排気系支持構造を含む車両の部分側面図である。また図2は、図1の底面図(下から見た図)である。これらの図には、主に車両前部のパワートレイン10から後部のリアデフ7に至る動力伝達系と、エンジン1の排気系20とを示す。
【0032】
当該車両はフロントエンジンの4輪駆動車であって、パワートレイン10は、エンジン1、トランスミッション2(図2に示す)、及びフロントデフ3とで構成されている。エンジン1はディーゼルエンジンである。車両後部の後輪位置にはリアデフ7が配設されている。フロントデフ3とリアデフ7とはプロペラシャフト4で連絡されている。
【0033】
プロペラシャフト4は所謂3分割タイプであり、フロントシャフト4a、センターシャフト4b及びリアシャフト4cとで構成されている。フロントシャフト4aとセンターシャフト4bとの間およびセンターシャフト4bとリアシャフト4cとの間にはユニバーサルジョイント部5,6(ジョイント部)が設けられている。
【0034】
図3は、センターシャフト4b及びその両端のユニバーサルジョイント部5,6の近傍を抜粋して示す図1の底面図である。この図に示すように、センターシャフト4bのユニバーサルジョイント部5,6の近傍にはベアリングを内蔵するセンターベアリングサポート部45,47が設けられている。そしてセンターベアリングサポート部45,47は、ブラケット46,48を介してフロアパネル60に支持されている。より詳細には、後述するトンネル部61に形成されたボルト座面形成部材62に支持されている(図5参照)。ブラケット46,47には、これをフロアパネル60に固定するボルト49を通すボルト挿通孔46a,48aが形成されている。このボルト挿通孔46a,48aは完全には閉じておらず、その前部にスリット46b,48bが形成されている。
【0035】
図1、2に戻って説明を続ける。排気系20は、エンジン1の排気ポートから下流側へ順に、屈曲自在のフレキシブルチューブ21、DPFユニット23、排気管25、SCRユニット27、排気管29を備える。排気管29より下流側は省略しているが、サイレンサを経て排気口へと続いている。図示のように排気系20はプロペラシャフト4に沿って配設されている。
【0036】
図2に示すように、フロアパネル60には、前後方向に延びるフロアメンバ63,64,65が形成されている。フロアメンバ63,64,65は正面視で閉断面を有する剛性部であって(図5参照)、平面視でプロペラシャフト4の両側(一方にフロアメンバ63、他方にフロアメンバ64,65)に形成されている。そしてフロアメンバ63とフロアメンバ65との間には、正面視で上方に膨出した形状が車両前後方向に延びるトンネル部61が形成されている。プロペラシャフト4及び排気系20は、このトンネル部61が形成する窪み(トンネル状空間)に通されている。
【0037】
トンネル部61を設けることにより、フロアパネル60の(トンネル部61以外の部分の)地上高を下げて広い車室内空間を確保しつつ、プロペラシャフト4や排気系20を通す空間を確保することができる。
【0038】
またトンネル部61と後輪位置との間のフロアパネル60下方に、燃料タンク50が配設されている。燃料タンク50は略直方体であるが、その車幅方向略中央の底面が上方に窪んでおり、下方にトンネル状の空間を形成している。そのトンネル状の空間にプロペラシャフト4のリアシャフト4c及び排気管29が通されている。燃料タンク50をこのような形状とすることにより、大きなタンク容量を確保しつつ、プロペラシャフト4や排気系20を通す空間を確保することができる。
【0039】
図4は図2の部分拡大図である。また図5は、図4に示す範囲を後下方から見た斜視図である。これらの図に示すように、トンネル部61が形成するトンネル状空間の下方を閉じるように車幅方向にトンネルメンバ71,75が架設されている。トンネルメンバ71,75はトンネル部61の剛性を高める板状の剛性部材であって、トンネル部61が形成するトンネル状空間の開き方向の変形を規制して断面形状を確保する。プロペラシャフト4はトンネルメンバ71,75の上方を通され、排気系20はトンネルメンバ71,75の下方を通される。また、ユニバーサルジョイント部5,6の下方に、これらと平面視で重なる領域に板状のインシュレータ72,76が設けられ、トンネルメンバ71,75に溶接等によって固定されている。
【0040】
図6はトンネルメンバ71,75の取付状態を示す説明図である。図示のように、トンネルメンバ71はフロアメンバ63とフロアメンバ64とを車幅方向に繋ぐように架設されている。その両端部はボルト73,74によって固定されている。一方、トンネルメンバ75は、フロアメンバ63と、フロアメンバ64より内側のトンネル部61(又はこれに設けられた図略のボルト座面形成部材)とを車幅方向に繋ぐように架設されている。その両端部はボルト73,74によってフロアメンバ63及びトンネル部61(又は上記ボルト座面形成部材)に固定されている。
【0041】
図6の詳細Eは、トンネルメンバ75の、ボルト73側のボルト固定部を拡大して示すものである。詳細Eに示すように、トンネルメンバ75の端部には2本のボルト73を通すための2つのボルト挿通孔75aが形成されている。このボルト挿通孔75aは閉じておらず、端部に開いたスリット75bが形成されている。特に図示していないが、トンネルメンバ71のボルト73側のボルト固定部にも、同様にスリット75bが形成されている。
【0042】
なおトンネルメンバ71,75のボルト74側では、ボルト挿通孔は閉じており、スリット75bは形成されていない(形成しても良い)。
【0043】
次に、図4を参照してDPFユニット23及びSCRユニット27について説明する。DPFユニット23及びSCRユニット27は、排気系20が備える排気浄化ユニットである。
【0044】
DPFユニット23は酸化触媒23aと排気微粒子捕集器23b(以下DPF23bという)とを内蔵する。酸化触媒23aは、例えばコーディエライト製のモノリス担体にアルミナの触媒担持層をコーティングにより形成し、この触媒担持層にPt、Pb等の触媒成分を担持させたものである。酸化触媒23aは主に排気ガス中のHCやCOを酸化し、浄化する。
【0045】
DPF23bは、外形が円筒または楕円筒状に形成された所謂ウォールフロータイプのフィルタであって、コーディエライトやSiC、Si等のセラミックスにより、多数のセル(通路)を有するハニカム状の多孔質壁で形成されたフィルタ本体を備え、排気ガスをフィルタ本体の多孔質壁に流通させてPMを捕集するように構成されている。
【0046】
SCRユニット27は、いわゆるSCR法によって、排気ガス中のNOxを浄化するユニットである。このSCR法とは、高温の排ガス中に尿素水溶液やアンモニア水溶液や液体アンモニア等から発生するアンモニア(還元剤)を注入して金属触媒と接触させて脱硝し、排気ガス中のNOxを浄化する方法である。本実施形態では、尿素水溶液を用い、尿素を加水分解して得られるアンモニアを還元剤とする。
【0047】
SCRユニット27は、上流触媒27a(選択接触還元触媒)と、その下流側に配置された下流触媒27bとを内蔵する。上流触媒27aは、アルミナやチタニア等により形成された担体に、白金、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化銅、酸化マンガン、酸化クロム、酸化モリブデン等の活性体を担持させたものである。上流触媒27aは、排気ガス中のNOxをアンモニア等の還元剤と触媒反応させ、これを浄化する。
【0048】
下流触媒27bは、余剰アンモニアを分解し、いわゆるアンモニアスリップ(アンモニアが大気に放出される現象)を防止するための余剰還元剤酸化触媒である。なお、アンモニアスリップを発生させない尿素添加制御を行うことができる還元剤供給手段を備える場合には下流触媒27bを省略しても良い。
【0049】
SCRユニット27の上流側である排気管25には、図略の還元剤供給タンクから供給された還元剤を排気管25内に噴霧する還元剤噴霧ノズル40が接続されている。還元剤と排気ガスとの混合状態を均質にするために、還元剤噴霧ノズル40はSCRユニット27から所定の距離をおいて設けられている。
【0050】
以上説明したように、排気系20は、トンネル部61という限られた領域(長さ)にDPFユニット23とSCRユニット27とを備える。しかも還元剤噴霧ノズル40を配設するために、DPFユニット23とSCRユニット27との間隔を所定値以上確保する必要がある。このため、例えばSCRユニット27を設けない場合に比べ、排気浄化ユニット(DPFユニット23又はSCRユニット27)と燃料タンク50とが比較的近接配置となっている(図1及び2参照)。
【0051】
次に、図4及び図5を参照してSCRユニット27の取付形態について説明する。SCRユニット27は、屈曲した棒状の3つのハンガー67,68,77(排気浄化ユニット支持部材)によってフロアパネル60に支持(吊持)されている。このうち、ハンガー77はSCRユニット27の車幅方向一方側を支持し、ハンガー67,68は他方側を支持する。ハンガー77のフロアパネル60側はトンネルメンバ75に固定されている。つまりハンガー77はトンネルメンバ75を介してフロアパネル60にSCRユニット27を支持させる。
【0052】
なお、ハンガー77に対応するフロアパネル60側の車体側ハンガー77bは、トンネルメンバ75のうちでも特に早期干渉部位75c(図4、図6に二点鎖線で示す)に固定されている。トンネルメンバ75の早期干渉部位75cは、プロペラシャフト4の真下に相当する部分である。後述するように、車両衝突時にプロペラシャフト4が支持を喪失して下方変位する場合がある。トンネルメンバ75はプロペラシャフト4の下方に設けられているので、プロペラシャフト4が下方変位すると、これと干渉する。早期干渉部位75cは、プロペラシャフト4の下方変位時に、早期にプロペラシャフト4と干渉する。なお、本実施形態のように、早期干渉部位75cの位置がユニバーサルジョイント部6の真下近傍になるようにするのが望ましい。
【0053】
一方、ハンガー67,68に対応するフロアパネル60側の車体側ハンガー67b,68bは、直接フロアパネル60のフロアメンバ65に固定されている。
【0054】
ハンガー67,68,77は、その中間部にゴム等からなる弾性部材67a,68a、77aが介設されている。従ってSCRユニット27は、フロアパネル60に弾性支持されている。
【0055】
次に、パワートレイン10の通常の動作について説明する。エンジン1が駆動し、その燃焼室内で燃焼が行われると、燃焼によって生成された排気ガスが排気系20に排出される。排気ガスはフレキシブルチューブ21を経由してDPFユニット23に導かれる。DPFユニット23内では、まず酸化触媒23aによって排気ガス中のHCやCOが浄化される。続いてDPF23bによってPMが捕集され、除去される。
【0056】
続いて排気ガスは排気管25に導かれ、還元剤噴霧ノズル40によって噴霧された尿素水溶液と混合される。尿素水溶液は排気ガスの高温によって加水分解され、アンモニアを生成する。そしてそのアンモニアを含有した排気ガスがSCRユニット27に導かれる。
【0057】
SCRユニット27内では、まず上流触媒27aにおいてアンモニアによる排気ガス中のNOxの還元反応が行われ、浄化される。続いて下流触媒27bにおいて余剰アンモニアの酸化反応が行われ、アンモニアスリップが抑制される。
【0058】
こうして排気管29には、HC、CO、NOxおよびPMが高度に浄化された排気ガスが導出される。その後、浄化された排気ガスは図略のサイレンサを経て大気中に放出される。
【0059】
一方、エンジン1の燃焼によって発生した駆動力はトランスミッション2で走行状態に適した回転数およびトルクに変換される。フロントデフ3は、そのトルクを前輪側と後輪側とに割り振るとともに、前輪側のトルクと回転を左右前輪に割り振る。プロペラシャフト4は、後輪側に割り振られたトルクと回転をリアデフ7に伝達する。その際、プロペラシャフト4が3分割されていてユニバーサルジョイント部5,6で接続されているので、プロペラシャフト4が一直線でなくても(折れ角があっても)適正な動力伝達が行われる。リアデフ7は、伝達されたトルクと回転を左右後輪に割り振る。こうして、前後左右の4輪全てにエンジン1からの駆動力が伝達される。
【0060】
次に、車両衝突時(前突)の各部の挙動について説明する。車両が前方の障害物等と衝突すると、まず車体前部が変形し、衝撃を吸収する。更に衝突が進行すると、パワートレイン10に後向き荷重が作用し、これが後方移動する。
【0061】
パワートレイン10が後方移動すると、プロペラシャフト4に後向き荷重が作用する。その荷重はセンターベアリングサポート部45,47を支持するブラケット46,48に伝達され、これを後向きに移動させようとする。図3に示すように、ブラケット46,48のボルト挿通孔46a,48aの前側にはスリット46b,48bが形成され、他の部位よりも破断し易くなっている。従って、プロペラシャフト4に作用する後向き荷重がある値を超えると、ボルト挿通孔46a,48aがスリット46b,48bの部分から破断し、ボルト49を残してブラケット46,48が後方移動する。つまりブラケット46,48がボルト49から外れる。
【0062】
なお、ボルト挿通孔46a,48aが破断してブラケット46,48の後方移動に至る荷重は、ボルト49のサイズ(太さ)、締付トルク、ボルト頭部とブラケット46,48(ボルト座面)との摩擦係数、ブラケット46,48の材質と板厚、スリット46bの幅と長さ等々によって変化する。狙いの荷重(所定荷重)でブラケット46,48が後方移動に至るように、予め実験等により好適なスリット46b,48bの幅と長さが求められ、適用されている。
【0063】
ブラケット46,48がボルト49から外れると、センターベアリングサポート部45,47がフロアパネル60から脱落するので、プロペラシャフト4はユニバーサルジョイント部5,6で折れ曲がりつつ下方変位する。この下方変位によってプロペラシャフト4に作用する後向き荷重が逃がされるので、衝撃荷重が後輪側に伝達されることが抑制される。
【0064】
プロペラシャフト4が下方変位すると、トンネルメンバ71,75と干渉し、これらに対して下向きの荷重をかける。これにより、トンネルメンバ71,75の両端のボルト固定部には、下向きの荷重と、車幅方向中央側に向かう引張力が作用する。その引張力がある値を超えると、ボルト73の支持部において、スリット75bにボルト73を通すようにしてボルト挿通孔75aがボルト73から抜ける。つまりトンネルメンバ71,75がボルト73から外れる。
【0065】
トンネルメンバ71,75がボルト73から外れるための荷重は、ボルト73の締付トルクやボルト頭部とトンネルメンバ71,75(ボルト座面)との摩擦係数等々によって変化する。プロペラシャフト4の自重による荷重でトンネルメンバ71,75がボルト73から外れるように、予め実験等により好適な上記摩擦係数等が求められ、適用されている。
【0066】
トンネルメンバ71,75がボルト73から外れ、その部分がフロアパネル60から離脱すると、これらは片持ちとなり、ボルト74による支持部を中心に容易に垂下する。従ってトンネルメンバ71,75はプロペラシャフト4の下方変位を妨げない。なお、ボルト74側よりもボルト73側の方が外れ易くすることにより、トンネルメンバ71,75がフロアパネル60から完全に脱落することを防止することができる。
【0067】
一方、衝突時の排気系20の挙動は次のようになる。パワートレイン10が後方移動しても、初期段階においてはDPFユニット23より下流側へはその影響があまり及ばない。フレキシブルチューブ21が屈曲または座屈することにより、初期段階の衝撃と変位の多くを吸収するからである。
【0068】
そしてパワートレイン10の後方移動がさらに進行すると、DPFユニット23より下流側に後向きの荷重が本格的に作用し、これを後退移動させる。
【0069】
ここで、SCRユニット27がそのまま後方移動すれば、燃料タンク50との干渉が懸念されるが、これに先立ち、上述のようにトンネルメンバ75の一端がフロアパネル60から離脱している(フレキシブルチューブ21で吸収する分、SCRユニット27の後方移動が遅れる)。SCRユニット27を支持するハンガー77はトンネルメンバ75に固定されているので、トンネルメンバ75が下方変位(垂下)するに伴って、その支持部も下方移動する。
【0070】
従ってSCRユニット27はハンガー67,68による片持ちとなる。ハンガー67,68による支持は弾性部材67aの介在する弾性支持なので、SCRユニット27はハンガー67,68の弾性部材67aを中心に容易に下方変位(垂下)する。これにより、SCRユニット27の位置が下方かつ車幅方向外側に移動するので、SCRユニット27の後方移動による燃料タンク50との干渉懸念を大幅に低減することができる。
【0071】
なお、このような効果をより的確に得るには、SCRユニット27の下方変位を後方移動よりも相対的に早期化することが望ましい。上記フレキシブルチューブ21の変形によってSCRユニット27の後方移動を遅らせる作用はこの要求に貢献するものである。さらに本実施形態では、ハンガー77のトンネルメンバ75への固定位置が早期干渉部位75cであることも上記要求に貢献している。早期干渉部位75cでは、プロペラシャフト4の折れ曲がりによりプロペラシャフト4とトンネルメンバ75とが早期に干渉する。そしてその干渉直後からトンネルメンバ75の下方変位(変形)が開始する。従って、SCRユニット27の下方変位が可及的に早期化されるのである。
【0072】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、上記実施形態は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、エンジン1はディーゼルエンジンに限定するものではなく、ガソリンエンジンその他であっても良い。また車両は4輪駆動車でなくても良く、例えばFR車であっても良い。
【0073】
また燃料タンク50に最も近い(燃料タンク50との干渉懸念のある)排気浄化ユニットはSCRユニット27に限定するものではなく、他のユニット、例えばDPFユニット23であっても良いし、従来知られている酸化触媒ユニットや三元触媒ユニットであっても良い。
【0074】
プロペラシャフト4は、当実施形態のような3分割タイプに限定するものではなく、2分割タイプであっても良い。但し3分割タイプの方が(後側の)ユニバーサルジョイント部6を後方に位置させることができるので、ハンガー77(排気浄化ユニット支持部)をトンネルメンバ75の早期干渉部位75cに固定するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両の排気系支持構造を含む車両の部分側面図である。
【図2】図1の底面図である。
【図3】プロペラシャフトのセンターシャフト及びその両端のユニバーサルジョイント部の近傍を抜粋して示す図1の底面図である。
【図4】図2の部分拡大図である。
【図5】図4に示す範囲を後下方から見た斜視図である。
【図6】トンネルメンバの取付状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0076】
1 エンジン
4 プロペラシャフト
6 ユニバーサルジョイント部(ジョイント部)
10 パワートレイン
20 排気系
21 フレキシブルチューブ
23a 酸化触媒
23b DPF(排気微粒子捕集器)
27 SCRユニット(排気浄化ユニット)
27a 上流触媒(選択接触還元触媒)
47 センターベアリングサポート部
50 燃料タンク
60 フロアパネル
61 トンネル部
67,68 ハンガー(排気浄化ユニット支持部材)
75 トンネルメンバ
75c 早期干渉部位
77 ハンガー(排気浄化ユニット支持部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロアパネルに、車両正面視で上方に膨出した形状が車両前後方向に延びるように形成されたトンネル部と、
上記トンネル部が形成するトンネル状空間に通され、車両前部のパワートレインから後輪側に駆動力を伝達するプロペラシャフトと、
上記トンネル状空間の下方を閉じるように上記トンネル部に車幅方向に架設されたトンネルメンバと、
上記プロペラシャフトに沿って配設されたエンジンの排気系と、
上記トンネル部と後輪位置との間の上記フロアパネル下方に配設された燃料タンクとを備えた車両の排気系支持構造であって、
上記プロペラシャフトの途中に配設されたジョイント部と、
上記フロアパネルに取付けられ、上記ジョイント部近傍で上記プロペラシャフトを支持するベアリングを内蔵するとともに上記プロペラシャフトに所定以上の後向き荷重が作用したときに上記フロアパネルから脱落するように構成されたベアリングサポート部と、
上記排気系に含まれ、上記燃料タンクより前方に配設された排気浄化ユニットと、
上記フロアパネルに上記排気浄化ユニットを支持させるための排気浄化ユニット支持部材とを備え、
上記排気系は、少なくとも上記トンネルメンバ位置において該トンネルメンバの下方に通され、
上記トンネルメンバは、上記ベアリングサポート部の脱落による上記プロペラシャフトの下方変位によって少なくとも一側部が上記フロアパネルから離脱可能とされ、
上記排気浄化ユニット支持部材の少なくとも1つは、上記フロアパネルに、上記トンネルメンバを介して上記排気浄化ユニットを支持させることを特徴とする車両の排気系支持構造。
【請求項2】
上記トンネルメンバは、上記ベアリングサポート部の脱落によって下方変位する上記プロペラシャフトとの干渉によって上記フロアパネルから離脱するものであり、その早期干渉部位近傍で、上記排気浄化ユニット支持部材を介して上記排気浄化ユニットを支持することを特徴とする請求項1記載の車両の排気系支持構造。
【請求項3】
上記排気浄化ユニット支持部材は複数設けられ、車幅方向一方側のものは、上記フロアパネルに上記トンネルメンバを介して上記排気浄化ユニットを支持させるものであり、他方側のものは上記フロアパネルに上記排気浄化ユニットを弾性支持させるものであることを特徴とする請求項1または2記載の車両の排気系支持構造。
【請求項4】
上記排気系に含まれ、上記排気浄化ユニットより前方側に、車両前後方向に配設された屈曲自在のフレキシブルチューブを備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両の排気系支持構造。
【請求項5】
上記排気浄化ユニットは、排気ガス中のNOxを浄化する選択接触還元触媒を内蔵し、
上記排気系は、上記排気浄化ユニットより上流側に、酸化触媒および排気微粒子捕集器を備えることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両の排気系支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−302851(P2008−302851A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152963(P2007−152963)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】