説明

車両の最終減速装置

【課題】コンパクト化を図ることができる車両の最終減速装置を提供することを課題とする。
【解決手段】最終減速装置30は、静止体である右側ケース部材65と回転体である差動ケース56との間に掛け渡され、車軸方向に押圧力をかけ摩擦力を発生させて差動ケース56を制動させる第1摩擦ブレーキ81と、差動ケース56と右の車軸54との間に掛け渡され、車軸方向に押圧力をかけて摩擦力を発生させ回転差により差動機構55をロック状態にする第2摩擦ブレーキ82を有する。第1摩擦ブレーキ81の半径方向内側に第2摩擦ブレーキ82が配置されている。
【効果】コンパクトになり最終減速装置の車幅方向の長さを短くすることができる。結果、コンパクト化を図ることができる車両の最終減速装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を制動させる摩擦ブレーキを備えた車両の最終減速装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
差動機構と湿式多板ブレーキとを備えた不整地走行車両の最終減速装置が開示されている(例えば、特許文献1(図2、図3)参照。)。
【0003】
特許文献1の図2に示されるように、不整地走行車両では、車両の中央に原動機(8)(括弧付き数字は、特許文献1に記載された符号を示す。以下同様)が配置され、この原動機(8)で発生した駆動力は、駆動軸(12)を介して差動機構(17)に伝達される。差動機構(17)に伝達された駆動力は、左右の車軸(20)に伝達されて前輪(1)を回転させる。
【0004】
さらに、特許文献1の図3に示されるように、差動機構(17)は回転体である差動ケース(18)に収納され、この差動ケース(18)が静止体である減速ギヤケース(14)に収納されている。駆動軸(12)に伝達された駆動力は、駆動軸(12)に連結された減速小ギヤ(15)から、差動ケース(18)に一体的に設けられた減速大ギヤ(16)に伝達され、差動ケース(18)が回転することで左右の車軸(20)も回転する。
【0005】
差動機構(17)は、車軸(20)と直角方向に差動ケース(18)に固定された支軸(32)と、この支軸(32)に回転自在に設けられた複数の差動小ギヤ(31)と、これらの差動小ギヤ(31)に噛み合い左右の車軸(20)とそれぞれ一体的に回転する左右の差動大ギヤ(30)とからなる。左右の車軸(20)の回転数を適切に分配するので、円滑な車両走行を得ることができる。
【0006】
差動ケース(14)を制動する湿式多板ブレーキ(6)が、減速ギヤケース(14)と差動ケース(18)の間に掛け渡されている。湿式多板ブレーキ(6)は、減速ギヤケース(14)の内周面に車軸方向移動可能にスプライン嵌合する複数の静止摩擦板(41)と、差動ケース(18)の外周面に車軸方向移動可能にスプライン嵌合する複数の回転摩擦板(40)とが交互に配置され、制動板(42)により車軸方向に押圧力をかけ摩擦力を発生させて差動ケース(18)を制動させる。
【0007】
また、差動ケース(18)の内周面に支軸方向移動可能にスプライン嵌合する複数の側部摩擦板(36b)と、左の差動大ギヤ(30)に軸方向移動可能にスプライン嵌合する複数の車軸側摩擦板(36a)と、これらの摩擦板(36a、36b)を車軸方向に圧接する皿ばね(37)とから摩擦装置(35)が構成されている。この摩擦装置(35)により、左右の車軸(20)の差動をある程度制限することができる。
【0008】
ところで、不整地走行車両でも、左右の車軸(20)の差動をロックしたい場合がある。しかし、摩擦装置(35)に差動をロックするデフロック操作装置を取付けると、デフロック操作装置の配置スペースがさらに必要となり最終減速装置が大型化してしまう。
そこで、デフロック操作装置を備えてもコンパクト化を図ることができる最終減速装置が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−52943公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、コンパクト化を図ることができる車両の最終減速装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、駆動力を発生する原動機と、この原動機からの駆動力を伝達する駆動軸と、この駆動軸に連結され回転する減速小ギヤと、この減速小ギヤに噛み合い回転する減速大ギヤと、この減速大ギヤから左右の車軸へ駆動力を伝達する差動機構と、この差動機構を収納する差動ケースと、車体側に設けられ前記減速小ギヤ、前記減速大ギヤ、前記差動機構及び前記差動ケースを収納する最終減速機ケースと、を有する車両の最終減速装置において、静止体である前記最終減速機ケースと回転体である前記差動ケースとの間に掛け渡され、車軸方向に押圧力をかけ摩擦力を発生させて前記差動ケースを制動させる第1摩擦ブレーキと、前記差動ケースと前記車軸との間に掛け渡され、車軸方向に押圧力をかけて摩擦力を発生させ回転差により前記差動機構をロック状態にする第2摩擦ブレーキと、を有し、前記第1摩擦ブレーキの半径方向内側に前記第2摩擦ブレーキを配置したことを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る発明では、第1摩擦ブレーキは、差動ケースに設けられこの差動ケースの左右一方の端部から車幅方向に延びる円筒状の第1摩擦ブレーキ支持部と、最終減速機ケースの円筒状内周面に車軸方向移動可能にスプライン嵌合する複数の静止摩擦板と、第1摩擦ブレーキ支持部の円筒状外周面にスプライン嵌合し静止摩擦板の間に交互に配置される複数の第1側回転摩擦板と、からなり、第2摩擦ブレーキは、第1摩擦ブレーキ支持部の円筒状内周面にスプライン嵌合する複数の第2側回転摩擦板と、車軸にスプライン嵌合して設けられたカラーと、このカラーの円筒状外周面にスプライン嵌合し第2側回転摩擦板の間に交互に配置される複数の車軸側摩擦板と、からなることを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る発明では、最終減速機ケースは、車幅方向左右両端面が開口する筒状の中央ケース部材と、この中央ケース部材の左側に配置され端壁を有する左側ケース部材と、中央ケース部材の右側に配置され端壁を有する右側ケース部材とからなり、中央ケース部材は、左右の側ケース部材の間に挟持されて左右の側ケース部材と一体に締結されると共に、第1摩擦ブレーキの押圧力を受けるように径方向の内向きに張り出すブレーキ支持壁を一体に有し、静止摩擦板及び第1側回転摩擦板は、ブレーキ支持壁と端壁との間に配置され、ブレーキ支持壁と端壁でブレーキの押付け反力を受けることを特徴とする。
【0014】
請求項4に係る発明では、第2側回転摩擦板及び車軸側摩擦板は、差動ケースの側壁と端壁との間にスラストベアリングを介して配置され、側壁と端壁でブレーキの押付け反力を受けることを特徴とする。
【0015】
請求項5に係る発明は、第1摩擦ブレーキ及び第2摩擦ブレーキを作動させることで車両を制動するブレーキ操作装置と、第2摩擦ブレーキのみを作動させることで差動機構をロック状態にするデフロック操作装置と、を備えていることを特徴とする。
【0016】
請求項6に係る発明では、第2摩擦ブレーキのスリップトルクは、第1摩擦ブレーキの制動力の半分に設定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明では、静止体である最終減速機ケースと回転体である差動ケースとの間に掛け渡され、車軸方向に押圧力をかけ摩擦力を発生させて差動ケースを制動させる第1摩擦ブレーキと、差動ケースと車軸との間に掛け渡され、車軸方向に押圧力をかけて摩擦力を発生させ回転差により差動機構をロック状態にする第2摩擦ブレーキと、を有し、第1摩擦ブレーキの半径方向内側に第2摩擦ブレーキを配置した。第1摩擦ブレーキと第2摩擦ブレーキを半径方向に重ねて配置したので、コンパクトになり最終減速装置の車幅方向の長さを短くすることができる。結果、コンパクト化を図ることができる車両の最終減速装置を提供することができる。
【0018】
請求項2に係る発明では、第1摩擦ブレーキは、第1摩擦ブレーキ支持部の円筒状外周面にスプライン嵌合し静止摩擦板の間に交互に配置される複数の第1側回転摩擦板を備え、第2摩擦ブレーキは、第1摩擦ブレーキ支持部の円筒状内周面にスプライン嵌合する複数の第2側回転摩擦板を備える。円筒状の第1摩擦ブレーキ支持部の半径方向に第1摩擦ブレーキと第2摩擦ブレーキを重ねて配置したので、2つの湿式多板ブレーキの機能を確保しつつ最終減速装置のコンパクト化を図ることができる。
【0019】
請求項3に係る発明では、中央ケース部材の右側に配置される右側ケース部材は、端壁を有しており、中央ケース部材は、第1摩擦ブレーキの押圧力を受けるように径方向の内向きに張り出すブレーキ支持壁を一体に有する。中央ケース部材のブレーキ支持壁と右側ケース部材の端壁を利用して、ブレーキ支持壁と端壁との間に、静止摩擦板及び第1側回転摩擦板を配置するので、最終減速装置のコンパクト化をより一層図ることができる。
【0020】
請求項4に係る発明では、第2側回転摩擦板及び車軸側摩擦板は、差動ケースの側壁と右側ケース部材の端壁との間にスラストベアリングを介して配置される。側壁と端壁を利用して、側壁と端壁との間に、第2側回転摩擦板及び車軸側摩擦板を配置するので、最終減速装置のコンパクト化をより一層図ることができる。
【0021】
請求項5に係る発明では、第1摩擦ブレーキ及び第2摩擦ブレーキを作動させることで車両を制動するブレーキ操作装置と、第2摩擦ブレーキのみを作動させることで差動機構をロック状態にするデフロック操作装置と、を備えている。第2摩擦ブレーキのみを作動させるデフロック操作装置も設けたので、ブレーキ操作装置の操作時に左右の車輪を制動できると共に、デフロック状態での走行と制動を行うことができる。
【0022】
請求項6に係る発明では、第2摩擦ブレーキのスリップトルクは、第1摩擦ブレーキの制動力の半分に設定した。第1摩擦ブレーキと第2摩擦ブレーキとは互いに独立しているために、第1摩擦ブレーキのスリップトルクと第2摩擦ブレーキのスリップトルクとを各々設定することができる。第2摩擦ブレーキのスリップトルクを第1摩擦ブレーキの制動力の半分に設定すれば、同じ大きさの制動力を左右の車輪に与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】車両の左側面図である。
【図2】車両の平面図である。
【図3】車体カバーを外した状態の車両の左側面図である。
【図4】前輪の懸架装置を説明する側面図である。
【図5】前輪の懸架装置を説明する正面図である。
【図6】最終減速装置の断面図である。
【図7】図6の7−7矢視図である。
【図8】ブレーキ操作装置の作用図である。
【図9】ブレーキ時の最終減速装置の作用図である。
【図10】デフロック操作装置の作用図である。
【図11】デフロック時の最終減速装置の作用図である。
【図12】別実施例に係る最終減速装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例1】
【0025】
先ず、本発明の実施例1を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、車両10は、車体の前部下部に前輪11を備え、この前輪11の上方にフロントフェンダ12を備え、車体の後部下部に後輪13を備え、この後輪13に上方にリヤフェンダ14を備え、前輪11の上方にステアリングハンドル15を備え、このステアリングハンドル15の前にフロント荷台16を備え、ステアリングハンドル15の後方にシート17及びリヤ荷台18を備えている、小型車両である。
【0026】
車両10は、図2に示されるように、ステアリングハンドル15とシート17との間に左右のステップフロア19、19を備えて、シート17に座った乗員の足をステップフロア19、19に載せることができるようにした鞍乗り型不整地走行車両である。また、車両10は、ステアリング軸26とシート17との間に配置されると共に後述するエアクリーナ(図3、符号23)を覆うフロントカバー20を備える。
【0027】
図3に示されるように、車両10は、車体フレーム21の中央にガソリンエンジン等の原動機22を備え、車体フレーム21の上に備えたエアクリーナ23で吸入した空気に燃料を混合させて原動機22で燃焼させ、排気ガスは原動機22から延びる排気管24及びこの排気管24の後端に接続されているマフラー25を介して外へ排出し、得られた動力で車体フレーム21の前部下部に回転自在に取付けられる前輪11及び/又は車体フレーム21の後部下部に回転自在に取付けられる後輪13に伝達して走行し、車体フレーム21の前部上部に回転自在に取付けられているステアリング軸26及びこのステアリング軸26を回転させるステアリングハンドル15により転舵させることができる小型車両である。
【0028】
原動機22は、ガソリンエンジン、ジーゼルエンジン、電動モータなどの駆動源であれば、種類は問わない。
【0029】
前輪11及び後輪13が、バルーンタイヤと称する広幅で低圧の特殊タイヤであるときには、路面の凹凸を低圧のタイヤが変形して吸収し、路面が軟弱であっても広幅のタイヤで沈み込みを抑えることができるため、このような車両10は、不整地走行車両と呼ばれる。
【0030】
なお、原動機22で発生した駆動力は、図4に示すように、プロペラシャフトなどの駆動軸28で最終減速装置30へ伝達される。
そして、図5に示すように、動力は、最終減速装置30から車幅方向に延びる車軸31を介して前輪11に伝達され、前輪11が回転駆動される。
【0031】
前輪懸架装置40は、図5に示すように、車体フレーム21に上端が連結され下方へ延びるフロントクッション41と、このフロントクッション41の下部から下方へ延びるナックル支持部材42と、車幅方向に延びナックル支持部材42の下部を車体フレーム21に連結するロアアーム43と、ナックル支持部材42にキングピン軸44廻りに回転自在に取付けられ前輪11を支えるナックル45と、車幅方向に延びナックル45をキングピン軸44廻りに回転させるタイロッド46とからなる。
【0032】
このタイロッド46は、図4に示すように、パワーステアリングユニット47の出力軸に連結されている。このパワーステアリングユニット47は、想像線で示すフロントテンションブラケット48でボルト49、49により、締結される。
【0033】
次に最終減速装置30の構造を詳しく説明する。
図6に示すように、最終減速装置30は、車体フレーム21に取付けられている。最終減速装置30は、原動機(図4、符号22)からの駆動力を伝達する駆動軸28と、この駆動軸28に連結され回転する減速小ギヤ51と、この減速小ギヤ51に噛み合い回転する減速大ギヤ52と、この減速大ギヤ52から左右の車軸53、54へ駆動力を伝達する差動機構55とを有する。
【0034】
差動機構55は差動ケース56に収納され、差動ケース56、減速小ギヤ51、減速大ギヤ52及び差動ケース56は最終減速機ケース57に収納され、最終減速機ケース57は車体フレーム21に固定されている。なお、差動ケース56と減速大ギヤ52は一体的に成形されている。
【0035】
最終減速機ケース57は、車幅方向左右両端面が開口する筒状の中央ケース部材61と、この中央ケース部材61の左側に配置され端壁62を有する左側ケース部材63と、中央ケース部材61の右側に配置され端壁64を有する右側ケース部材65とで構成される。中央ケース部材61は、左右の側ケース部材63、65の間に狭持されて左右の側ケース部材63、65にボルト66で一体に締結される。
【0036】
減速小ギヤ51の先端に突出部67が形成され、この突出部67はニードルベアリング68を介して左側ケース部材63に回転自在に支持されている。また、駆動軸28は、ボールベアリング71を介して左側ケース部材63に回転自在に支持されている。
【0037】
差動機構55は、車軸53、54と直角方向に差動ケース56に固定された支軸72と、この支軸72に回転自在に設けられた複数の差動小ギヤ73と、これらの差動小ギヤ73に噛み合い左の車軸53と一体的に回転する左の差動大ギヤ74と、差動小ギヤ73に噛み合い右の車軸54と一体的に回転する右の差動大ギヤ75とからなる。左右の車軸53、54の回転数を適切に分配するので、円滑な車両走行を得ることができる。
【0038】
差動ケース56は、左側ケース部材63に設けられたボールベアリング76及び中央ケース部材61に設けられたボールベアリング77に回転自在に支持されている。差動ケース56の端部に、車幅方向に延びる円筒状の第1摩擦ブレーキ支持部78が設けられている。なお、第1摩擦ブレーキ支持部78は、差動ケース56の一部を形成すると言え、差動ケース56と一体になり回転する。
【0039】
また、最終減速装置30は、静止体である右側ケース部材65と回転体である差動ケース56との間に掛け渡され、車軸方向に押圧力をかけ摩擦力を発生させて差動ケース56を制動させる第1摩擦ブレーキ81を有する。また、最終減速装置30は、差動ケース56と右の車軸54との間に掛け渡され、車軸方向に押圧力をかけて摩擦力を発生させ回転差により差動機構55をロック状態にする第2摩擦ブレーキ82を有する。第1摩擦ブレーキ81の半径方向内側に第2摩擦ブレーキ82が配置されている。
【0040】
第1摩擦ブレーキ81は、第1摩擦ブレーキ支持部78と、右側ケース部材65の円筒状内周面83に車軸方向移動可能にスプライン嵌合する複数の静止摩擦板84と、第1摩擦ブレーキ支持部78の円筒状外周面85にスプライン嵌合し静止摩擦板84の間に交互に配置される複数の第1側回転摩擦板86とからなる。
【0041】
第2摩擦ブレーキ82は、第1摩擦ブレーキ支持部78の円筒状内周面87にスプライン嵌合する複数の第2側回転摩擦板88と、右の車軸54にスプライン嵌合して設けられたカラー91と、このカラー91の円筒状外周面92にスプライン嵌合し第2側回転摩擦板88の間に交互に配置される複数の車軸側摩擦板93とからなる。
【0042】
中央ケース部材61は、第1摩擦ブレーキの押圧力を受けるように径方向の内向きに張り出すブレーキ支持壁94を一体に有する。また、右側ケース部材65の端壁64に第1側鋼球95を保持する第1側半球凹部96が設けられ、第1側鋼球95の反対側に第1カムリング97が配置されている。
静止摩擦板84及び第1側回転摩擦板86は、ブレーキ支持壁94と右の端壁64との間に配置され、ブレーキ支持壁94と右の端壁64でブレーキの押付け反力を受ける。
【0043】
第2側回転摩擦板88及び車軸側摩擦板93は、第1摩擦ブレーキ支持部78の側壁101と右の端壁64との間にスラストベアリング102を介して配置されている。また、右側ケース部材65の端壁64に第2側鋼球103を保持する第2側半球凹部104が設けられ、第2側鋼球103の反対側に第2カムリング105が配置されている。側壁101と右の端壁64でブレーキの押付け反力を受ける。
車軸側摩擦板93がスプライン嵌合されているカラー91は、右側ケース部材65に設けられたニードルベアリング106に回転自在に支持されている。
また、第2摩擦ブレーキ82のスリップトルクは、第1摩擦ブレーキ81の制動力の半分に設定した。
なお、原動機(図3、符号22)からの駆動力は、太い矢印Aで示したように伝達され、左右の車軸53、54の力は太い矢印Bで示したように伝達される。
【0044】
次にブレーキ操作装置及びデフロック操作装置について説明する。
図7に示すように、ブレーキ操作装置111は、第1カムリング97の第1側カム溝112に第1側鋼球95が移動自在に配置されている。第1カムリング97は、外周に突起部113を有し、この突起部113に設けられた半円状凹部114にブレーキ操作部材115が噛み合っている。ブレーキ操作部材115は、右側ケース部材(図6、符号65)に回転自在に設けられたブレーキ軸116に、ブレーキ軸116と一体に回転するように取付けられている。
【0045】
さらに、ブレーキ軸116に、ブレーキアーム117がブレーキ軸116と一体に回転するように取付けられている。ブレーキアーム117には、ブレーキ軸116の取付け部と反対側に貫通穴118が設けられ、この貫通穴118にブレーキワイヤー121が通されている。
【0046】
また、第2カムリング105の第2側カム溝122に第2側鋼球103が移動自在に配置されている。第2カムリング105は、外周に突起部123を有し、この突起部123に設けられた半円状凹部124にデフロック操作部材125が噛み合っている。デフロック操作部材125は、右側ケース部材65に回転自在に設けられたデフロック軸126に、デフロック軸126と一体に回転するように取付けられている。
【0047】
さらに、デフロック軸126に、デフロックアーム127がデフロック軸126と一体に回転するように取付けられている。デフロックアーム127には、デフロック軸126の取付け部と反対側にブレーキワイヤー121を係止するブレーキワイヤー係止部128と、このブレーキワイヤー係止部128の下方にデフロックワイヤー131を係止するデフロックワイヤー係止部132が設けられている。
【0048】
ブレーキワイヤー121は、ブレーキチューブ133に通されている。ブレーキチューブ133のブレーキアーム117にあたる部分に、ブレーキチューブ133が貫通穴118に入らないように留める留め具134が設けられている。さらにブレーキアーム117とデフロックアーム127の間では、ブレーキワイヤー121は想像線で示す可撓性チューブ135に通されている。
ブレーキワイヤー121を引くと、ブレーキアーム117とデフロックアーム127が近づく方向に、ブレーキアーム117とデフロックアーム127がそれぞれ回転する。
【0049】
デフロック操作装置141は、上述した第2カムリング105、第2側鋼球103、デフロック操作部材125、デフロック軸126、デフロックアーム127、デフロックワイヤー131及びデフロック係止部132とからなる。デフロックワイヤー131は、デフロックチューブ142に通されている。
デフロックワイヤー131を引くと、デフロックアーム127のみが回転する。
【0050】
以上に述べたブレーキ操作装置111の作用を以下に説明する。
図8(a)に示すように、ブレーキワイヤー121を矢印(1)のように引くと、ブレーキアーム117が矢印(2)のように回転移動する。ブレーキ操作部材115が矢印(3)のように移動することで、第1カムリング97が矢印(4)のように移動する。
図8(b)は第1カムリング97の移動を示す図であり、第1カムリング97が矢印(4)のように移動すると、相対的に第1側鋼球95が第1側カム溝112の傾斜に沿って移動する。
【0051】
図8(c)は第1カムリング97の移動を示す図であり、第1カムリング97は、矢印(5)のように移動する。
【0052】
すると、図9に示すように、第1カムリング97が、静止摩擦板84及び第1側回転摩擦板86を押付け、差動ケース56が制動される。
図8(a)に戻って、ブレーキアーム117の移動と同時に、デフロックアーム127が矢印(6)のように回転移動する。デフロック操作部材125が矢印(7)のように移動することで、第2カムリング105が矢印(8)のように移動する。
図9に戻って、第2カムリング105が、第2側回転摩擦板88及び車軸側回転摩擦板93を押付け、差動機構55がロックされる。
【0053】
次にデフロック装置141の作用を以下に説明する。
図10に示すように、デフロックワイヤー131を矢印(9)のように引くと、デフロックアーム127が矢印(10)のように回転移動し、デフロック操作部材125が矢印(11)のように移動する。
【0054】
すると、図11に示すように、第2側回転摩擦板88及び車軸側回転摩擦板93を押付け、差動機構55がロックされる。
なお、原動機(図3、符号22)からの駆動力は、太い矢印Cで示したように伝達される。
【実施例2】
【0055】
次に、本発明の実施例2を図面に基づいて説明する。なお、図6に示した構成と同一構成については同一符号を付け、詳細説明は省略する。
図12に示すように、最終減速装置30は、中央ケース部材61が外側から右の車軸54近傍まで延びている。差動ケース56は、減速大ギヤ52と切り離された別部品になっており、差動ケース56と減速大ギヤ52はボルト143によって締結されている。
【0056】
以上に述べた内容をまとめて以下に記載する。
上記の図6に示したように、駆動力を発生する原動機(図3、符号22)と、この原動機22からの駆動力を伝達する駆動軸28と、この駆動軸28に連結され回転する減速小ギヤ51と、この減速小ギヤ51に噛み合い回転する減速大ギヤ52と、この減速大ギヤ52から左右の車軸53、54へ駆動力を伝達する差動機構55と、この差動機構55を収納する差動ケース56と、車体側に設けられ減速小ギヤ51、減速大ギヤ52、差動機構55及び差動ケース56を収納する最終減速機ケース57と、を有する車両の最終減速装置30において、静止体である最終減速機ケース57と回転体である差動ケース56との間に掛け渡され、車軸方向に押圧力をかけ摩擦力を発生させて差動ケース56を制動させる第1摩擦ブレーキ81と、差動ケース56と車軸54との間に掛け渡され、車軸方向に押圧力をかけて摩擦力を発生させ回転差により差動機構55をロック状態にする第2摩擦ブレーキ82と、を有し、第1摩擦ブレーキ81の半径方向内側に第2摩擦ブレーキ82を配置した。
【0057】
この構成により、第1摩擦ブレーキ81と第2摩擦ブレーキ82を半径方向に重ねて配置したので、コンパクトになり最終減速装置30の車幅方向の長さを短くすることができる。結果、コンパクト化を図ることができる車両の最終減速装置30を提供することができる。
【0058】
上記の図6に示したように、第1摩擦ブレーキ81は、差動ケース56に設けられこの差動ケース56の左右一方の端部から車幅方向に延びる円筒状の第1摩擦ブレーキ支持部78と、最終減速機ケース57の円筒状内周面83に車軸方向移動可能にスプライン嵌合する複数の静止摩擦板84と、第1摩擦ブレーキ支持部78の円筒状外周面85にスプライン嵌合し静止摩擦板84の間に交互に配置される複数の第1側回転摩擦板86と、からなり、第2摩擦ブレーキ82は、第1摩擦ブレーキ支持部78の円筒状内周面87にスプライン嵌合する複数の第2側回転摩擦板88と、車軸54にスプライン嵌合して設けられたカラー91と、このカラー91の円筒状外周面92にスプライン嵌合し第2側回転摩擦板88の間に交互に配置される複数の車軸側摩擦板93と、からなる。
【0059】
この構成により、円筒状の第1摩擦ブレーキ支持部78の半径方向に第1摩擦ブレーキ81と第2摩擦ブレーキ82を重ねて配置したので、2つの湿式多板ブレーキ81、82の機能を確保しつつ最終減速装置30のコンパクト化を図ることができる。
【0060】
上記の図6に示したように、最終減速機ケース57は、車幅方向左右両端面が開口する筒状の中央ケース部材61と、この中央ケース部材61の左側に配置され端壁62を有する左側ケース部材63と、中央ケース部材61の右側に配置され端壁64を有する右側ケース部材65とからなり、中央ケース部材61は、左右の側ケース部材63、65の間に挟持されて左右の側ケース部材63、65と一体に締結されると共に、第1摩擦ブレーキ81の押圧力を受けるように径方向の内向きに張り出すブレーキ支持壁94を一体に有し、静止摩擦板84及び第1側回転摩擦板86は、ブレーキ支持壁94と端壁64との間に配置され、ブレーキ支持壁94と端壁64でブレーキの押付け反力を受ける。
【0061】
この構成により、中央ケース部材61のブレーキ支持壁94と右側ケース部材65の端壁64を利用して、ブレーキ支持壁94と端壁64との間に、静止摩擦板84及び第1側回転摩擦板86を配置するので、最終減速装置30のコンパクト化をより一層図ることができる。
【0062】
上記の図6に示したように、第2側回転摩擦板88及び車軸側摩擦板93は、差動ケース56の側壁101と端壁64との間にスラストベアリング102を介して配置され、側壁101と端壁64でブレーキの押付け反力を受ける。
この構成により、側壁101と端壁64を利用して、側壁101と端壁64との間に、第2側回転摩擦板88及び車軸側摩擦板93を配置するので、最終減速装置30のコンパクト化をより一層図ることができる。
【0063】
上記の図7に示したように、第1摩擦ブレーキ(図6、符号81)及び第2摩擦ブレーキ(図6、符号82)を作動させることで車両を制動するブレーキ操作装置111と、第2摩擦ブレーキ82のみを作動させることで差動機構(図6、符号55)をロック状態にするデフロック操作装置141と、を備えている。
この構成により、第2摩擦ブレーキ82のみを作動させるデフロック操作装置141も設けたので、ブレーキ操作装置111の操作時に左右の車輪(図2、符号11)を制動できると共に、デフロック状態での走行と制動を行うことができる。
【0064】
上記の図6に示したように、第2摩擦ブレーキ82のスリップトルクは、第1摩擦ブレーキ81の制動力の半分に設定した。
この構成により、第1摩擦ブレーキ81と第2摩擦ブレーキ82とは互いに独立しているために、第1摩擦ブレーキ81のスリップトルクと第2摩擦ブレーキ82のスリップトルクとを各々設定することができる。第2摩擦ブレーキ82のスリップトルクを第1摩擦ブレーキ81の制動力の半分に設定すれば、両輪11にホイールブレーキを備えている車両と同じ大きさの制動力を左右の車輪11に与えることができる。
【0065】
尚、本発明の車両の最終減速装置は、小型車両、特に不整地走行車両に好適であるが、一般の車両に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の車両の最終減速装置は、不整地走行車両に好適である。
【符号の説明】
【0067】
10…車両、22…原動機、23…エアクリーナ、28…駆動軸、30…最終減速装置、51…減速小ギヤ、52…減速大ギヤ、53…左の車軸、54…右の車軸、55…差動機構、56…差動機構、57…最終減速機ケース、61…中央ケース部材、62…左の端壁、63…左側ケース部材、64…右の端壁、65…右側ケース部材、78…第1摩擦ブレーキ支持部、81…第1摩擦ブレーキ、82…第2摩擦ブレーキ、83…円筒状内周面、84…静止摩擦板、85…円筒状外周面、86…第1側回転摩擦板、87…円筒状内周面、88…第2側回転摩擦板、91…カラー、92…円筒状外周面、93…車軸側摩擦板、94…ブレーキ支持壁、101…側壁、102…スラストベアリング、111…ブレーキ操作装置、141…デフロック操作装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力を発生する原動機(22)と、この原動機(22)からの駆動力を伝達する駆動軸(28)と、この駆動軸(28)に連結され回転する減速小ギヤ(51)と、この減速小ギヤ(51)に噛み合い回転する減速大ギヤ(52)と、この減速大ギヤ(52)から左右の車軸(53、54)へ駆動力を伝達する差動機構(55)と、この差動機構(55)を収納する差動ケース(56)と、車体側に設けられ前記減速小ギヤ(51)、前記減速大ギヤ(52)、前記差動機構(55)及び前記差動ケース(56)を収納する最終減速機ケース(57)と、を有する車両の最終減速装置(30)において、
静止体である前記最終減速機ケース(57)と回転体である前記差動ケース(56)との間に掛け渡され、車軸方向に押圧力をかけ摩擦力を発生させて前記差動ケース(56)を制動させる第1摩擦ブレーキ(81)と、
前記差動ケース(56)と前記車軸(53、54)との間に掛け渡され、車軸方向に押圧力をかけて摩擦力を発生させ回転差により前記差動機構(55)をロック状態にする第2摩擦ブレーキ(82)と、を有し、
前記第1摩擦ブレーキ(81)の半径方向内側に前記第2摩擦ブレーキ(82)を配置したことを特徴とする車両の最終減速装置。
【請求項2】
前記第1摩擦ブレーキ(81)は、前記差動ケース(56)に設けられこの差動ケース(56)の左右一方の端部から車幅方向に延びる円筒状の第1摩擦ブレーキ支持部(78)と、前記最終減速機ケース(57)の円筒状内周面(83)に車軸方向移動可能にスプライン嵌合する複数の静止摩擦板(84)と、前記第1摩擦ブレーキ支持部(78)の円筒状外周面(85)にスプライン嵌合し前記静止摩擦板(84)の間に交互に配置される複数の第1側回転摩擦板(86)と、からなり、
前記第2摩擦ブレーキ(82)は、前記第1摩擦ブレーキ支持部(78)の円筒状内周面(87)にスプライン嵌合する複数の第2側回転摩擦板(88)と、前記車軸(53、54)にスプライン嵌合して設けられたカラー(91)と、このカラー(91)の円筒状外周面(92)にスプライン嵌合し前記第2側回転摩擦板(88)の間に交互に配置される複数の車軸側摩擦板(93)と、からなることを特徴とする請求項1記載の車両の最終減速装置。
【請求項3】
前記最終減速機ケース(57)は、車幅方向左右両端面が開口する筒状の中央ケース部材(61)と、この中央ケース部材(61)の左側に配置され端壁(62)を有する左側ケース部材(63)と、前記中央ケース部材(61)の右側に配置され端壁(64)を有する右側ケース部材(65)とからなり、
前記中央ケース部材(61)は、前記左右の側ケース部材(63、65)の間に挟持されて前記左右の側ケース部材(63、65)と一体に締結されると共に、前記第1摩擦ブレーキ(81)の押圧力を受けるように径方向の内向きに張り出すブレーキ支持壁(94)を一体に有し、
前記静止摩擦板(84)及び前記第1側回転摩擦板(86)は、前記ブレーキ支持壁(94)と前記端壁(64)との間に配置され、前記ブレーキ支持壁(94)と前記端壁(64)でブレーキの押付け反力を受けることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両の最終減速装置。
【請求項4】
前記第2側回転摩擦板(88)及び前記車軸側摩擦板(93)は、前記差動ケース(56)の側壁(101)と前記端壁(64)との間にスラストベアリング(102)を介して配置され、前記側壁(101)と前記端壁(64)でブレーキの押付け反力を受けることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3記載の車両の最終減速装置。
【請求項5】
前記第1摩擦ブレーキ(81)及び前記第2摩擦ブレーキ(82)を作動させることで車両を制動するブレーキ操作装置(111)と、前記第2摩擦ブレーキ(82)のみを作動させることで前記差動機構(55)をロック状態にするデフロック操作装置(141)と、を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の車両の最終減速装置。
【請求項6】
前記第2摩擦ブレーキ(82)のスリップトルクは、前記第1摩擦ブレーキ(81)の制動力の半分に設定したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の車両の最終減速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−196467(P2011−196467A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64456(P2010−64456)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】