説明

車両状態量検出装置

【課題】車両重心点の旋回中心に対する公転運動と、車両重心点回りの自転運動とを区別して検出する。
【解決手段】例えば車両重心点を挟んだ前後に前方GPSアンテナ1と後方GPSアンテナ2とを配設し、夫々のアンテナの位置情報を、例えばリアルタイムキネマティックGPSなどによって正確に且つ短周期に取得し、夫々のアンテナ位置の時間微分値から当該アンテナ位置の移動速度Vf、Vrを求め、夫々のベクトル成分から車両重心点の移動ベクトル、つまり走行速度V及び車体スリップ角βや、車両重心点回りの回転運動、つまりヨー角速度γなどを算出する。また、車両重心点の移動軌跡から旋回半径Rや、それらのパラメータの関係から路面摩擦係数μが得られるので、ヨー角速度乖離量Δγを求め、それが閾値を超えるときに運転者に警報を与えるようにしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の各種状態量を検出する車両状態量検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばGPS(Global Positioning System )で検出された自車両位置と、その位置における道路形状情報、並びに自車両に搭載された各種の車両状態量センサの情報に基づいて、カーブ路での適切な走行速度などを推定し、過大な走行速度でカーブ路に進入しそうになったときに警報するものがある(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開平10−31798号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来の車両状態量検出装置では、車両重心点の運動と車体の運動、例えば車両重心点の旋回中心に対する公転運動と、車両の重心点回りの自転運動とを区別して検出することができないので、旋回中の車両状態量を正確に検出できないという問題がある。
本発明はこれらの諸問題を解決するために開発されたものであり、特に旋回時、車両の状態量を正確に検出することができる車両状態量検出装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記諸問題を解決するため、本発明の車両状態量検出装置は、一台の車両に複数のGPS位置情報受信アンテナを設け、それらのGPS位置情報受信アンテナから取得された各GPS位置情報受信アンテナの位置情報に基づいて車両の状態量を検出することを特徴とするものである。車両状態量の検出にあたっては、各GPS位置情報受信アンテナ位置の移動速度を求め、夫々のアンテナ位置の移動速度に基づいて各車両状態量を算出する。
【発明の効果】
【0005】
而して、本発明の車両状態量検出装置によれば、一台の車両に複数のGPS位置情報受信アンテナを設け、それらのGPS位置情報受信アンテナから取得された各GPS位置情報受信アンテナの位置情報に基づいて車両の状態量を検出する構成としたため、例えば各GPS位置情報受信アンテナ位置の移動速度を求め、夫々のアンテナ位置の移動速度に基づいて各車両状態量を算出することにより、車両重心点の旋回中心に対する公転運動と、車両の重心点回りの自転運動とを区別して検出することができ、それにより旋回中の車両の状態量を正確に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態を図面を伴って説明する。
図1は、本発明の車両状態量検出装置の一例を示す車両概略構成図である。図中の符号1は、位置情報としてGPS衛星からの測位信号を受信するために、車両重心点よりも車両前方に設けられた前方GPSアンテナ(GPS位置情報受信アンテナ)、符号2は、同じくGPS衛星からの測位信号を受信するために、車両重心点よりも車両後方に設けられた後方GPSアンテナ、符号3は、既知の地点に配置された基準局で検出した誤差補正情報を受信するための誤差補正情報アンテナである。
【0007】
これらGPSアンテナ1,2で受信したGPS位置情報及び誤差補正情報アンテナ3で受信された誤差補正情報はコントロールユニット10に入力され、コントロールユニット10では、GPSアンテナ1,2からのGPS位置情報及び誤差補正情報アンテナ3からの誤差補正情報に基づいて自車両の現在位置を検出する、所謂リアルタイムキネマティックGPS(RTK−GPS)方式により、自車両の現在位置を検出すると共に、車両の、特に旋回中の各種の状態量を検出し、その検出された状態量を監視し、必要に応じてユーザインタフェース装置5を作動し、表示或いは警報によって、運転者に車両状態量の異常発生を通知する。
【0008】
前記ユーザインタフェース装置5は、乗員の操作により情報入力を行うことができるように構成され、このユーザインタフェース装置5から乗員により入力された入力情報は、前記コントロールユニット10に入力される。
なお、ここでは、リアルタイムキネマティックGPS(RTK−GPS)方式により位置情報を検出するようにした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ディファレンシャルGPS(D−GPS)方式など、高精度に位置情報を検出することの可能なGPS方式であれば適用可能である。また、GPS衛星からのGPS受信情報のみに基づいて位置情報を検出するようにした場合であっても適用することができるが、誤差補正情報と用いて補正を行うような、高精度に位置情報を検出することの可能なGPS方式を用いることが望ましい。
【0009】
図2には、一般的なリアルタイムキネマティックGPS方式(ディファレンシャルGPS方式も同様)による、測位方法の概念を示したものである。これらのGPS方式では、4つ以上の測位衛星、つまりGPS衛星からの測位信号を車両側で受信することで、地球基準のGPS測位座標系における、自車両(正確にはアンテナ)の位置を推定する。このとき、各GPS衛星からの測位信号のほかに、地上に配置された基準局、つまり測位基準点からの誤差補正情報を、電波、地上波TV放送、もしくは、中継衛星等の中継局や放送施設を経由して車両側で受信し、測位信号及び誤差補正情報に基づいて測位を行うことによって、GPS衛星からの測位信号単独で測位を行う場合に比較して、測位制度を向上することができるようになっている。なお、標準的なGPSでは20Hz程度の更新周期で測位を行っているが、本実施形態では、測位更新周期を100Hz程度に高めてある。
【0010】
次に、前記コントロールユニット10で行われる車両状態量検出について説明する。図3は、本実施形態の車両の平面図である。なお、本実施形態では、前述のように測位更新周期を100Hz程度まで高めてあるので、車両の走行速度から考えて十分短い距離変化内で、車両の走行速度(重心点の移動速度)、車両の走行方向(重心点の移動方向)、ヨー角速度(重心点回りの回転角速度)などを検出することができる。
【0011】
例えば、図3の前方GPSアンテナ1及び後方GPSアンテナ2で受信された位置情報は、夫々のアンテナの位置情報であるから、その位置情報を時間微分すれば、夫々のアンテナの移動速度が得られる。このとき、前方GPSアンテナ1(の位置)の移動速度がVf、後方GPSアンテナ(の位置)の移動速度がVrであり、車両前後方向軸をX軸、横方向軸をY軸と定義すると、前方GPSアンテナ1の移動速度VfはX軸、Y軸成分として(VfX VfY )、同じく後方GPSアンテナ2の移動速度Vrは(VrX VrY )と表れる。
【0012】
次に、車両重心点の移動速度、即ち走行速度をV=(VX Y )、車両重心点回りの回転速度、即ちヨー角速度(=ヨーレート)をγとすると、各GPSアンテナの移動速度のベクトル成分から、下記1式、2式が成立する。
【0013】
【数1】

【0014】
このうち、X軸成分については、本実施形態では前後のGPSアンテナの位置が同じであるので、Y軸成分にのみ差が発生する。未知数は重心点の車体座標系のY軸成分VY とヨー角速度γなので、前記1式、2式のY軸成分の二つの式を用いて求めることができる。
【0015】
図4aには、旋回中の車両状態の概念図を示す。前述した1式及び2式から、GPSによる測位情報に基づいて、走行速度V、ヨー角速度γが分かる。更に、車両重心点の移動軌跡から車両重心点の旋回半径Rを求めることができるので、その旋回軌跡の接線と前記車両重心点の移動速度、即ち走行速度Vとのなす角度から車両重心点の移動方向、即ち車体スリップ角βが分かる。
【0016】
車体スリップ角βと走行速度Vと旋回半径Rとの関係は、タイヤが同じであれば、路面摩擦係数μによって決まるため、例えば図4bに示すような路面摩擦係数μ毎の車体スリップ角β、走行速度V、旋回半径Rのマップがあれば、路面摩擦係数μを推定することができる。
ここで、走行速度Vを旋回半径Rで除した値が、その旋回半径を車両が公転するためのヨー角速度(公転文ヨー角速度)になるので、下記3式で表されるヨー角速度γから公転分ヨー角速度を減じた値をヨー角速度乖離量Δγとする。
【0017】
【数2】

【0018】
検出されるヨー角速度乖離量Δγは、例え車両の旋回状態が適正であっても、操舵の速度、つまり操舵角速度θ’及び路面摩擦係数μによって、適正値は変わる。そこで、検出された操舵角θの時間微分値及び推定された路面摩擦係数μに応じてヨー角速度乖離量Δγの適正範囲を設定し、ヨー角速度乖離量Δγが適正範囲の閾値を超えている場合には、車両の旋回状態が適正でないものとして、前記ユーザインタフェース装置5を介して運転者に警報を与える。
【0019】
次に、前記前方GPSアンテナ1及び後方GPSアンテナ2の位置情報から、前述したヨー角速度乖離量Δγを算出し、必要に応じて運転者に警報を与えるために、前記コントロールユニット10で行われる演算処理について、図5のフローチャートを用いて説明する。この演算処理は、例えば10msec. 程度に設定された所定サンプリング時間ΔT毎にタイマ割込処理として実行される。
【0020】
この演算処理では、まずステップS1で、前記リアルタイムキネマティックGPSからの入力情報を取得し、その中から、特に前方GPSアンテナ1の位置情報並びに後方GPSアンテナ2の位置情報を取得する。
次にステップS2に移行して、前記ステップS1で取得した前方GPSアンテナ1の位置情報並びに後方GPSアンテナ2の位置情報を夫々時間微分して、前記前方GPSアンテナ1の位置の移動速度Vf及び後方GPSアンテナ2の位置の移動速度Vrを算出する。
【0021】
次にステップS3に移行して、前記ステップS2で算出された前方GPSアンテナ1の位置の移動速度Vf及び後方GPSアンテナ2の位置の移動速度Vrに基づいて、前記1式及び2式から車体スリップ角β、ヨー角速度γ、走行速度Vを算出する。
次にステップS4に移行して、前記ステップS1で取得した前方GPSアンテナ1の位置情報並びに後方GPSアンテナ2の位置情報の移動軌跡から旋回半径Rを算出すると共に、その旋回半径R、及び前記ステップS3で算出された車体スリップ角β、ヨー角速度γ、走行速度Vから、例えば前記図4bの制御マップに従って、路面摩擦係数μを算出する。
【0022】
次にステップS5に移行して、前記ステップS3で算出されたヨー角速度γ、走行速度V及びステップS4で算出された旋回半径Rを用いて、前記式3から、ヨー角速度乖離量Δγを算出する。
次にステップS6に移行して、前記操舵角センサ4で検出された操舵角θを読込み、その時間微分値から操舵角速度θ’を算出する。
【0023】
次にステップS7に移行して、前記ステップS6で算出された操舵角速度θ’及びステップS4で算出された路面摩擦係数μに応じたヨー角速度乖離量の適正範囲を設定し、前記ステップS5で算出されたヨー角速度乖離量Δγが当該適正範囲の閾値を超えているか否かを判定し、ヨー角速度乖離量Δγが閾値を超えている場合にはステップS8に移行し、そうでない場合にはメインプログラムに復帰する。
【0024】
前記ステップS8では、前記ユーザインターフェース装置5を介して運転者に警報を与えてからメインプログラムに復帰する。
この演算処理によれば、一台の車両に設けられた二つのGPSアンテナ1,2から取得されるリアルタイムキネマティックGPSの正確な位置情報から、それらのアンテナ位置の移動速度Vf、Vrを求め、その二つの点の移動速度Vf、Vrから車体スリップ角β、ヨー角速度γ、走行速度Vといった車両状態量を算出すると共に、旋回半径Rや、路面摩擦係数μといった情報まで得ることができ、更にはヨー角速度乖離量Δγを用いて運転者に警報を与えることができる。なお、ヨー角速度乖離量Δγを用いて、車両の状態量や各諸元を制御することも、勿論、可能である。また、その他にも、算出された種々の情報、即ち車体スリップ角やヨー角速度、走行速度、旋回半径、路面摩擦係数を用いて、各種の警報や情報提供、或いは車両状態量や各諸元の制御を行うことも、当然にして可能である。
【0025】
このように、本実施形態の車両状態量検出装置によれば、一台の車両に設けられた複数のGPSアンテナ1,2で、それらのアンテナの位置情報を取得し、それらのアンテナ位置情報から車両の状態量を検出する構成としたため、旋回中の車両の状態量を正確に検出することができる。
また、複数のGPSアンテナ1,2の位置情報から夫々のアンテナ位置の移動速度Vf、Vrを算出し、そのアンテナ位置移動速度Vf、Vrに基づいて車両の状態量を検出する構成としたため、車両重心点の旋回中心に対する公転運動と、車両の重心点回りの自転運動とを区別して検出することができ、それにより旋回中の車両の状態量を正確に検出することができる。
【0026】
また、車両重心点の旋回中心に対する公転運動としては、車両重心点の移動速度、即ち走行速度Vや車両重心点の移動方向、即ち車体スリップ角βなどを正確に算出することができる。
また、車両の重心点回りの自転運動として、ヨー角速度γを正確に算出することができる。
【0027】
以上より、前記GPSアンテナ1,2が本発明のGPS位置情報受信アンテナを構成し、以下同様に、図5の演算処理のステップS1がアンテナ位置情報取得手段を構成し、図5の演算処理のステップS2〜ステップS8が車両状態量検出手段を構成し、図5の演算処理のステップS2がアンテナ位置移動速度算出手段を構成し、図5の演算処理のステップS3が車両重心点移動速度算出手段及び車両重心点移動方向算出手段及び車両ヨー角速度算出手段を構成している。
【0028】
なお、演算処理装置はマイクロコンピュータに限定されるものではなく、各種の論理回路を組合せて構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の車両状態量検出装置の一実施形態を示す車両概略構成図である。
【図2】リアルタイムキネマティックGPSの概念図である。
【図3】旋回中に車両運動の説明図である。
【図4】旋回中の走行速度と車体スリップ角とヨー角速度と旋回半径との関係を示す説明図であり、(a)は車両運動の説明図、(b)は走行速度と車体スリップ角と旋回半径と路面摩擦係数との関係の説明図である。
【図5】図1のコントロールユニットで行われる演算処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0030】
1は前方GPSアンテナ
2は後方GPSアンテナ
3は誤差補正情報受信アンテナ
4は操舵角センサ
5はユーザインターフェース装置
10はコントロールユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一台の車両に設けられた複数のGPS位置情報受信アンテナと、前記複数のGPS位置情報受信アンテナの位置情報を取得するアンテナ位置情報取得手段と、前記アンテナ位置情報取得手段で取得された複数のGPS位置情報受信アンテナの位置情報から車両の状態量を検出する車両状態量検出手段とを備えたことを特徴とする車両状態量検出装置。
【請求項2】
前記車両状態量検出手段は、前記複数の位置情報受信アンテナの位置情報から夫々の位置情報受信アンテナ位置の移動速度を算出するアンテナ位置移動速度算出手段を備え、そのアンテナ位置移動速度算出手段で算出された複数の位置情報受信アンテナ位置の移動速度に基づいて車両の状態量を検出することを特徴とする請求項1に記載の車両状態量検出装置。
【請求項3】
前記車両状態量検出手段は、前記アンテナ位置移動速度算出手段で算出された複数の位置情報受信アンテナ位置の移動速度に基づいて車両重心点の移動速度を算出する車両重心点移動速度算出手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載の車両状態量検出装置。
【請求項4】
前記車両状態量検出手段は、前記アンテナ位置移動速度算出手段で算出された複数の位置情報受信アンテナ位置の移動速度に基づいて車両重心点の移動方向を算出する車両重心点移動方向算出手段を備えたことを特徴とする請求項2又は3に記載の車両状態量検出装置。
【請求項5】
前記車両状態量検出手段は、前記アンテナ位置移動速度算出手段で算出された複数の位置情報受信アンテナ位置の移動速度に基づいて車両重心点の回りの回転角速度を算出する車両ヨー角速度算出手段を備えたことを特徴とする請求項2乃至4の何れか一項に記載の車両状態量検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−44316(P2006−44316A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−224398(P2004−224398)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】