説明

車両用シフト切替装置

【課題】P抜き時におけるトルクを保証し且つP入り時における速やかな切替を実現しつつ小型化を可能とする車両用シフト切替装置を提供する。
【解決手段】ディテント部材52を非パーキングポジションからパーキングポジションへ入れる方向に対応する正転時にアクチュエータ14から軸部材50へ駆動力を伝達する第1の変速装置108と、ディテント部材52をパーキングポジションから非パーキングポジションへ抜く方向に対応する負転時にアクチュエータ14から軸部材50へ駆動力を伝達する、第1の変速装置108よりもギヤ比の大きい第2の変速装置110とを、有する駆動力切替機構100を備えたものであることから、比較的小型のアクチュエータ14を用いた場合であっても、P入り時におけるディテント部材52の速やかな回動を実現する一方、P抜き時におけるディテント部材52を回動させるためのトルクを保証することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のアクチュエータを介して車両のシフトレンジを切り替える車両用シフト切替装置に関し、特に、装置の小型化を実現するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載された変速機のシフトレンジを切り替える車両用シフト切替装置の一例として、その変速機のシフトレンジを電気制御により切り替えるものが知られている。斯かる技術では、例えば、運転者によるシフトレバーの操作に従ってモータ等のアクチュエータによりディテント部材を所定の軸まわりに回動させ、そのディテント部材の回動に応じてパーキングレンジと非パーキングレンジとの間のシフト切替をはじめとする変速機のシフトレンジの切替動作を実行する。
【0003】
ところで、上述のように変速機のシフトレンジを電気制御により切り替えるシフト切替装置においては、P抜き時すなわちパーキングポジションから非パーキングポジションへの切替時に前記ディテント部材を回動させるために比較的大きなトルクが必要とされる一方、P入り時すなわち非パーキングポジションからパーキングポジションへの切替時に前記ディテント部材を比較的速やかに回動させて素早い切替を実現することが要請される。これらを両立させるためには、前記ディテント部材の駆動に係る出力トルクを増加させ且つその回転を高速化する必要があるが、それらを実現するためには駆動力源としてのモータを大型化して減速装置の減速比をハイギヤードにする等、装置の大型化による搭載性悪化やコスト増といった不具合があった。
【0004】
上記不具合を解消するための技術として、特許文献1のシフトバイワイヤ用レンジ切換装置が提案されている。この技術では、シフトバイワイヤ用レンジ切換装置において、アクチュエータに備えられた減速機のピッチ円が楕円形状に形成されているため、比較的小型のアクチュエータを用いた場合であっても、P抜き時の減速比をP入り時の減速比に比べて大きくすることができ、P抜き時における前記ディテント部材を回動させるためのトルクを保証する一方、P入り時における前記ディテント部材の速やかな回動を実現することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−151210号公報
【0006】
しかしながら、前記従来の技術のように、非円形歯車を用いた減速機においては、非円形歯車で取れるギヤ比幅(最大ギヤ比/最小ギヤ比)が作動角度に支配されるため、比較的作動角が小さい車両用シフト切替装置ではギヤ比幅を大きく取ることができないという弊害があった。そのため、P抜き時におけるトルクを保証しようとするとP入り時に要する時間が長くなり、逆にP入り時に要する時間を短縮しようとするとP抜き時におけるトルクを保証できないという従来の課題に帰結することとなり、装置の大型化は避けられなかった。このため、P抜き時におけるトルクを保証し且つP入り時における速やかな切替を実現しつつ小型化を可能とする車両用シフト切替装置の開発が求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、P抜き時におけるトルクを保証し且つP入り時における速やかな切替を実現しつつ小型化を可能とする車両用シフト切替装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
斯かる目的を達成するために、本発明の要旨とするところは、ディテント部材に連結された軸部材を所定のアクチュエータを介して回転駆動することにより車両のシフトレンジを切り替える車両用シフト切替装置であって、前記ディテント部材を非パーキングポジションからパーキングポジションへ入れる方向に対応する正転時に前記アクチュエータから軸部材へ駆動力を伝達する第1の変速装置と、前記ディテント部材をパーキングポジションから非パーキングポジションへ抜く方向に対応する負転時に前記アクチュエータから軸部材へ駆動力を伝達する、前記第1の変速装置よりもギヤ比の大きい第2の変速装置とを、有する駆動力切替機構を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
このようにすれば、前記ディテント部材を非パーキングポジションからパーキングポジションへ入れる方向に対応する正転時に前記アクチュエータから軸部材へ駆動力を伝達する第1の変速装置と、前記ディテント部材をパーキングポジションから非パーキングポジションへ抜く方向に対応する負転時に前記アクチュエータから軸部材へ駆動力を伝達する、前記第1の変速装置よりもギヤ比の大きい第2の変速装置とを、有する駆動力切替機構を備えたものであることから、比較的小型のアクチュエータを用いた場合であっても、前記第1の変速装置によりP入り時における前記ディテント部材の速やかな回動を実現する一方、前記第2の変速装置によりP抜き時における前記ディテント部材を回動させるためのトルクを保証することができる。すなわち、P抜き時におけるトルクを保証し且つP入り時における速やかな切替を実現しつつ小型化を可能とする車両用シフト切替装置を提供することができる。
【0010】
ここで、好適には、前記駆動力切替機構は、前記アクチュエータと軸部材との動力伝達経路に設けられたそれぞれギヤ比の異なる2組の歯車対と、各歯車対に対応して備えられた前記正転時にロックする第1のワンウェイクラッチ及び前記負転時にロックする第2のワンウェイクラッチとから成るものである。このようにすれば、実用的な構成の駆動力切替機構により、P抜き時におけるトルクを保証し且つP入り時における速やかな切替を実現しつつ装置の小型化を可能とすることができる。
【0011】
また、好適には、前記アクチュエータと駆動力切替機構との間の動力伝達経路及びその駆動力切替機構と前記軸部材との間の動力伝達経路の少なくとも一方に減速装置を備えたものである。このようにすれば、P抜き時におけるトルクを保証し且つP入り時における速やかな切替を実現しつつ装置の小型化を可能とする実用的な構成の車両用シフト切替装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の車両用シフト切替装置を制御するためのシフト制御システムを例示する図である。
【図2】本発明の一実施例である車両用シフト切替装置の構成を説明する斜視図である。
【図3】図2の車両用シフト切替装置に備えられたディテント部材を拡大して示す図である。
【図4】図2の車両用シフト切替装置に備えられた駆動力切替機構の構成の一例を説明する骨子図である。
【図5】図4の駆動力切替機構の作用を概念的に示す図である。
【図6】図4の駆動力切替機構における第1の変速装置により、図2の車両用シフト切替装置によるP入り切替時にアクチュエータの出力が増速されて軸部材に伝達される様子を説明する図である。
【図7】図4の駆動力切替機構における第2の変速装置により、図2の車両用シフト切替装置によるP抜き切替時にアクチュエータの出力が減速されて軸部材に伝達される様子を説明する図である。
【図8】図4の駆動力切替機構を設けたことによる装置の小型化について説明するグラフであり、基準トルク特性を実線で、P抜き時トルク特性を一点鎖線で、P入り時トルク特性を二点鎖線でそれぞれ示している。
【図9】本発明が好適に適用される車両用シフト切替装置に備えられる他のディテント部材を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明の車両用シフト切替装置を制御するためのシフト制御システム10を例示する図である。このシフト制御システム10は、アクチュエータ14を介して本発明の一実施例である車両用シフト切替装置(以下、単にシフト切替装置という)16による車両のシフトレンジの切替を制御するパーキング制御装置(以下、SBW−ECUという)12と、エンコーダ18と、図示しない変速機等を含む駆動装置22の動作を制御する車両制御装置(以下、ECT−ECUという)20と、表示部24と、メータ26と、車両電源スイッチ28と、インジケータ32及び入力部34を有するPスイッチ30と、シフトスイッチ36と、バッテリ38と、バッテリ電圧センサ40と、勾配センサ42と、重量センサ44と、トーイングスイッチ46とを、備えて構成されている。ここで、上記駆動装置22に含まれる変速機は、有段変速機であると無段変速機であるとを問わない。
【0015】
上記SBW−ECU12は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、上記アクチュエータ14を介して上記シフト切替装置16により車両のシフトレンジをパーキングレンジ(以下、Pレンジという)とパーキングレンジ以外のレンジ(以下、非Pレンジという)との間で切り替えるシフト切替制御を行う。すなわち、本実施例においては、上記SBW−ECU12が切替制御装置として機能する。また、このSBW−ECU12から上記表示部24、メータ26、インジケータ32へ所定の指示信号が出力されると共に、上記エンコーダ18から上記アクチュエータ14の回転状況を表す信号が、上記バッテリ電圧センサ40からバッテリ38の電圧Vを表す信号が、上記勾配センサ42から車両の勾配φを表す信号が、重量センサ44から車両の総重量Wを表す信号が、及び上記トルーイングスイッチ46から車両の牽引の有無を表す信号がぞれぞれ上記SBW−ECU12に入力されるようになっている。
【0016】
前記アクチュエータ14は、好適には、スイッチトリラクタンスモータ(SRM)等の電動モータにより構成され、前記SBW−ECU12から供給される指示信号に応じて前記シフト切替装置16を駆動する。また、前記エンコーダ18は、前記アクチュエータ14と一体的に回転させられることでそのアクチュエータ14の回転状況を検知してその回転状況を表す信号を前記SBW−ECU12へ供給するものであり、好適には、A相、B相、及びZ相の信号を出力するロータリエンコーダである。前記SBW−ECU12は、このエンコーダ18から供給される前記アクチュエータ14の回転状況を表す信号に基づいてそのアクチュエータ14の回転駆動をフィードバック制御する。
【0017】
前記ECT−ECU20は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、前記駆動装置22を介して車両の駆動制御を行う。また、このSBW−ECU12から上記表示部24及びメータ26へ所定の指示信号が出力されると共に、前記車両電源スイッチ28から車両電源のオン・オフ信号が、前記Pスイッチ30の入力部34から運転者による指示信号が、前記シフトスイッチ36の信号が前記SBW−ECU12に入力されるようになっている。また、前記SBW−ECU12及びECT−ECU20相互間で上記種々の信号をはじめとする情報の送受信(交換)が可能とされている。
【0018】
前記車両電源スイッチ28は、車両電源のオン・オフを切り替えるためのスイッチである。この車両電源スイッチ28が運転者等により操作されると、その操作に応じた指示信号が前記ECT−ECU20へ入力される。例えば、前記車両電源スイッチ28がオンとされることにより、前記バッテリ38から電力が供給されて前記シフト制御システム10が起動される。
【0019】
前記Pスイッチ30は、車両のシフトレンジをPレンジと非Pレンジとの間で切り替えるためのスイッチであり、そのPスイッチ30の状態を運転者等に示すためのインジケータ32と、運転者等の入力操作を受け付ける入力部34とを備えている。この入力部34を介して入力された運転者等からの指示は前記ECT−ECU20へ入力されると共に、そのECT−ECU20を介して前記SBW−ECU12へ入力される。ここで、前記入力部34は、モーメンタリスイッチ等であっても構わない。
【0020】
前記シフトスイッチ36は、シフトレンジをドライブレンジ(D)、リバースレンジ(R)、ニュートラルレンジ(N)、ブレーキレンジ(B)等のレンジに切り替えるための操作を受け付けるスイッチである。このシフトスイッチ36が運転者等により操作されると、その操作に応じた指示信号が前記ECT−ECU20へ入力される。
【0021】
前記バッテリ38は、前記シフト制御システム10に電力を供給するための電源装置であり、好適には、最大12.6V程度の電圧を発生させる鉛蓄電池である。このバッテリ38は、前記アクチュエータ14を駆動するための電源として用いられる。また、前記バッテリ電圧センサ40は、例えば、前記バッテリ38の端子電圧を検出することで、そのバッテリ38により発生させられる電圧(起電力)Vを検出する。このバッテリ電圧センサ40により検出されたバッテリ38の電圧Vを表す信号は前記SBW−ECU12へ入力される。
【0022】
路面勾配センサ52は、例えば、車速略零時において用いられるGセンサ或いは傾斜計等から構成されるものであり、路面傾斜角θROAD或いは勾配(傾斜)φ(=tanθROAD)を検出する。この路面勾配センサ52により検出された路面傾斜角θROAD或いは勾配φを表す信号は前記SBW−ECU12へ入力される。
【0023】
重量センサ44は、例えば、図示しないサスペンション装置の撓み変形量等を検出する変位センサ等を介して車両の総重量Wを検出する。また、図示しないシートスイッチ等から乗員の人数を判定し、その人数に基づいて積載重量を概算してその積載重量から車両の総重量Wを算出する態様や、前記駆動装置22に備えられた図示しないエンジン及びモータジェネレータ等の作動状態と、変速機のギヤ段(変速比)や、車速変化などに基づいて、終減速装置の減速比や駆動輪の径寸法、動力伝達効率等を考慮して予め定められた演算式やマップ等に従って車両重量を算出する態様も考えられる。この重量センサ44により検出された車両の総重量Wを表す信号は前記SBW−ECU12へ入力される。
【0024】
トルーイングスイッチ46は、例えば、車両における牽引対象との連結部に設けられたものであり、その連結部への牽引対象の連結の有無すなわち車両の牽引の有無を検出する牽引センサとして機能する。また、上記重量センサ44により検出される車両の重量に基づいて、予め定められた判定値より大きいか否かによって牽引の有無を判定するものであってもよい。このトルーイングスイッチ46により検出された牽引の有無を表す信号は前記SBW−ECU12へ入力される。
【0025】
図2は、本実施例のシフト切替装置16の構成を説明する斜視図であり、図3は、そのシフト切替装置16に備えられたディテント部材52を拡大して示す図である。図2に示すように、前記シフト切替装置16は、前記アクチュエータ14により回転駆動される軸部材50と、パーキングロック位置及び非パーキングロック位置に位置決めされるための第1凹状谷部54及び第2凹状谷部56(図3を参照)を有するカム面58を外周縁部に備えて上記軸部材50の所定位置に相対回転不能に固定されると共にその軸心まわりに回動可能に設けられるディテント部材52と、そのディテント部材52のカム面58に向かって付勢されてそのカム面58に圧接させられると共に前記第1凹状谷部54及び第2凹状谷部56に選択的に係合される係合部62と、ボルト等の締着具68により固定部材66に固定される固定部64とを、両端部に備えた長手平板状のばね材から成る係合部材60とを、有している。ここで、前記アクチュエータ14の本体及び固定部材66等は、ハウジング70に固設されている。なお、上記ディテント部材52は、ディテントプレート、パーキングレバー、ディテントレバー、節度板等とも称される。また、上記係合部材60は、ディテントスプリング等とも称される。
【0026】
上記ハウジング70内には、前記駆動装置22に備えられた図示しない変速機の出力軸と差動歯車装置との間の動力伝達経路の一部を構成する図示しないカウンタ軸が設けられており、そのカウンタ軸の軸端にはパーキングロックギヤ72が固設されている。また、そのパーキングロックギヤ72の外周歯74と係合するパーキングロック位置と非パーキングロック位置とに回動させられる長手状(レバー状)のパーキングロックポール(係合爪部材)76が回動可能に設けられている。このパーキングロックポール76は、基端部がピン78によって回動可能にハウジング70に支持されており、上記外周歯74と係合するための係合歯80を長手方向の中央部に備えるとともに、後述のパーキングロックカム86に摺接させられる摺接部82を先端部に備え、図示しないリターンスプリングによって非パーキングロック位置すなわち上記外周歯74及び係合歯80が相互に係合しない位置に向かって常時付勢されている。
【0027】
基端部が前記ディテント部材52に回動可能に連結されたL字状のパーキングロッド84の先端部には、前記パーキングロックカム86が長手方向の移動可能に嵌め付けられている。このパーキングロックカム86はテーパ状カム面92を備えており、そのパーキングロッド84の先端部には、パーキングロックカム86を図示しない先端ストッパへ向かって予め設定された予荷重で付勢するコイル状の与圧ばね88が上記パーキングロッド84の先端部の所定位置に固定されたばね受90と上記パーキングロックカム86との間に介挿されている。そして、このように構成されたパーキングロッド84の先端部は、そのパーキングロッド84の長手方向(ディテント部材52に回動可能に連結されている軸方向と垂直を成す方向)の移動可能に支持され、パーキングロックカム86がパーキングロックポール76の摺接部82に対して摺動可能に移動させられるようになっている。
【0028】
前記係合部材60は、好適には、長手平板状の板ばねであり、その一端部に設けられた係合部62が前記ディテント部材52のカム面58に向かって所定の押圧力で常時付勢されてカム面58に圧接させられている。前記係合部62は、前記係合部材60の先端部においてディテント部材52の回動軸心と平行な軸心まわりの回転が可能に支持されるローラであり、これにより、基本的には、その係合部62が前記第1凹状谷部54内に落ち込むことによりディテント部材52がパーキングロック位置に位置決めされ、前記第2凹状谷部56内に落ち込むことによりディテント部材52が非パーキングロック位置に位置決めされるようになっている。
【0029】
前記アクチュエータ14は、前記ハウジング70と一体的に設けられた非回転部材であるケース98内に収納されている。また、そのケース98内における前記アクチュエータ14の出力軸106(図4を参照)と前記軸部材50との間の動力伝達経路には、そのアクチュエータ14の回転出力方向によってそれぞれギヤ比(=入力回転部材である出力軸106の回転数/出力回転部材である軸部材50の回転数)の異なる2つの変速状態を選択的に成立させる機械式の変速装置である駆動力切替機構100が設けられており、前記アクチュエータ14の出力は、斯かる駆動力切替機構100を介して前記軸部材50へ伝達される。
【0030】
図4は、上記駆動力切替機構100の構成の一例を説明する骨子図である。この図4に示すように、本実施例の駆動力切替機構100は、前記アクチュエータ14と軸部材50との動力伝達経路に設けられたそれぞれギヤ比の異なる第1の歯車対102及び第2の104と、各歯車対102、104に対応して備えられた前記アクチュエータ14の正転時にロックする(負転時には回転を阻害しない)第1のワンウェイクラッチOWC1及び負転時にロックする(正転時には回転を阻害しない)第2のワンウェイクラッチOWC2とを、備えて構成されている。前記アクチュエータ14の出力軸106は、上記第1のワンウェイクラッチOWC1を介して上記第1の歯車対102の大径歯車102aに連結されると共に、上記第2の歯車対104の小径歯車104aに連結されている。また、前記軸部材50は、減速装置120を介して上記第1の歯車対102の小径歯車102bに連結されると共に、その減速装置120及び上記第2のワンウェイクラッチOWC2を介して上記第2の歯車対104の大径歯車104bに連結されている。すなわち、上記第1の歯車対102は、前記アクチュエータ14の出力軸106の正転時にその回転を増速して前記軸部材50へ伝達するものであり、上記第2の歯車対104は、前記アクチュエータ14の出力軸106の負転時にその回転を減速して前記軸部材50へ伝達するものである。
【0031】
上記減速装置120は、前記駆動力切替機構100の出力すなわち上記第1の歯車対102の小径歯車102b及び第2のワンウェイクラッチOWC2を介して上記第2の歯車対104の大径歯車104bに連結された回転軸122の回転を減速して前記軸部材50へ伝達する機械的な減速機構であり、その回転軸122と一体的に回転させられるように連結された小径歯車124及び前記軸部材50と一体的に回転させられるように連結された大径歯車126から成り、例えば100程度の変速比(減速比)を有するものである。なお、上記減速装置120は、前記アクチュエータ14と駆動力切替機構100との間の動力伝達経路に設けられたものであってもよい。
【0032】
ここで、前記シフト切替装置16においては、前記アクチュエータ14の正転(正回転)に対応する前記軸部材50の回転により、その軸部材50に固定されたディテント部材52が非パーキングポジション(非パーキングロック位置)からパーキングポジション(パーキングロック位置)へ入れる方向に回動させられる。すなわち、前記係合部材60の係合部62の係合位置が図3に示す第2凹状谷部56から第1凹状谷部54へ切り替えられる方向に回動させられる。また、前記アクチュエータ14の負転(負回転)に対応する前記軸部材50の回転により、その軸部材50に固定されたディテント部材52がパーキングポジション(パーキングロック位置)から非パーキングポジション(非パーキングロック位置)へ抜く方向に回動させられる。すなわち、前記係合部材60の係合部62の係合位置が図3に示す第1凹状谷部54から第2凹状谷部56へ切り替えられる方向に回動させられる。
【0033】
図5は、前記駆動力切替機構100の作用を概念的に示す図である。なお、以下の説明に用いる図5〜図7に関して、上述の構成から便宜上前記減速装置120等の構成を省略して示している。図5に示すように、本実施例の駆動力切替機構100においては、前記第1の歯車対102及び第1のワンウェイクラッチOWC1により、前記ディテント部材52を非パーキングポジションからパーキングポジションへ入れる方向に対応する正転時(P入り駆動時)に前記アクチュエータ14から軸部材50へ駆動力を伝達する第1の変速装置108が構成されている。また、前記第2の歯車対104及び第2のワンウェイクラッチOWC2により、前記ディテント部材52をパーキングポジションから非パーキングポジションへ抜く方向に対応する負転時(P抜き駆動時)に前記アクチュエータ14から軸部材50へ駆動力を伝達する、前記第1の変速装置108よりもギヤ比(変速比)の大きい第2の変速装置110が構成されている。なお、本実施例においては、前記第1の変速装置108及び第2の変速装置110の何れかの変速比が1であってもよい。斯かる場合であっても、前記第2の変速装置110のギヤ比が前記第1の変速装置108のギヤ比よりも大きい構成とすることにより、後述する本発明の効果が得られる。
【0034】
以上のように構成された駆動力切替機構100において、例えば前記Pスイッチ30が押される等して前記SBW−ECU12により非PレンジからPレンジへの切替が判定された場合、そのSBW−ECU12からの指令に応じて前記アクチュエータ14が正転方向に駆動させられる。それにより、前記ディテント部材52が前記係合部材60の係合部62の係合位置を第2凹状谷部56から第1凹状谷部54へ切り替えられる方向に回動させられる。この場合、図6に示すように、前記アクチュエータ14の出力は、前記第1の変速装置108を介して前記軸部材50へ伝達される。上述のように、前記第1の変速装置108は、前記第1の歯車対102により前記アクチュエータ14の出力軸106の回転(正回転)を増速して前記軸部材50へ伝達するものであるため、P入り時すなわち非パーキングポジションからパーキングポジションへの切替時に前記ディテント部材52を比較的速やかに回動させて素早い切替を実現することができる。
【0035】
一方、例えば前記シフトスイッチ36が押される等して前記SBW−ECU12によりPレンジから非Pレンジへの切替が判定された場合、そのSBW−ECU12からの指令に応じて前記アクチュエータ14が負転方向に駆動させられる。それにより、前記ディテント部材52が前記係合部材60の係合部62の係合位置を第1凹状谷部54から第2凹状谷部56へ切り替えられる方向に回動させられる。この場合、図7に示すように、前記アクチュエータ14の出力は、前記第2の変速装置110を介して前記軸部材50へ伝達される。前述のように、前記第2の変速装置110は、前記第2の歯車対104により前記アクチュエータ14の出力軸106の回転(負回転)を減速して前記軸部材50へ伝達するものであるため、P抜き時すなわちパーキングポジションから非パーキングポジションへの切替時に前記ディテント部材52を回動させるために比較的大きなトルクを保証することができる。特に坂路でのP抜き発進に際しては、前記ディテント部材52のP抜き駆動に大きなトルクが必要とされるため効果がある。
【0036】
図8は、前記駆動力切替機構100を設けたことによる装置の小型化について説明するグラフであり、基準トルク特性(アクチュエータ14と軸部材50との間の変速比が1としたときのトルク特性)を実線で、P抜き時(負転時)トルク特性を一点鎖線で、P入り時(正転時)トルク特性を二点鎖線でそれぞれ示している。また、比較のために前記駆動力切替機構100を設けない場合に必要なトルク特性を破線で示している。この図8に示すように、本実施例の駆動力切替機構100を備えたシフト切替装置16においては、前記アクチュエータ14を小型化して実線で示すような基準トルク特性とした場合であっても、P抜き時には前記第2の変速装置110により一点鎖線で示すようなトルク特性が成立させられて前記ディテント部材52を回動させるための比較的高いトルクを実現できる一方、P入り時には前記第1の変速装置108により二点鎖線で示すようなトルク特性が成立させられて前記ディテント部材52を比較的速やかに回動させることができる。すなわち、破線で示すようなトルク特性を有する従来の大型のアクチュエータの代替として実線で示すようなトルク特性を有する小型のアクチュエータを用いた場合であっても、P抜き時におけるトルクを保証し且つP入り時における速やかな切替を実現することができるのである。
【0037】
このように、本実施例によれば、前記ディテント部材52を非パーキングポジションからパーキングポジションへ入れる方向に対応する正転時に前記アクチュエータ14から軸部材50へ駆動力を伝達する第1の変速装置108と、前記ディテント部材52をパーキングポジションから非パーキングポジションへ抜く方向に対応する負転時に前記アクチュエータ14から軸部材50へ駆動力を伝達する、前記第1の変速装置108よりもギヤ比の大きい第2の変速装置110とを、有する駆動力切替機構100を備えたものであることから、比較的小型のアクチュエータ14を用いた場合であっても、前記第1の変速装置108によりP入り時における前記ディテント部材52の速やかな回動を実現する一方、前記第2の変速装置110によりP抜き時における前記ディテント部材52を回動させるためのトルクを保証することができる。すなわち、P抜き時におけるトルクを保証し且つP入り時における速やかな切替を実現しつつ小型化を可能とするシフト切替装置16を提供することができる。
【0038】
また、前記駆動力切替機構100は、前記アクチュエータ14と軸部材50との動力伝達経路に設けられたそれぞれギヤ比の異なる2組の歯車対102、104と、各歯車対102、104に対応して備えられた前記正転時にロックする第1のワンウェイクラッチOWC1及び前記負転時にロックする第2のワンウェイクラッチOWC2とから成るものであるため、実用的な構成の駆動力切替機構100により、P抜き時におけるトルクを保証し且つP入り時における速やかな切替を実現しつつ装置の小型化を可能とすることができる。
【0039】
また、前記アクチュエータ14と駆動力切替機構100との間の動力伝達経路及びその駆動力切替機構100と前記軸部材50との間の動力伝達経路の少なくとも一方に減速装置120を備えたものであるため、P抜き時におけるトルクを保証し且つP入り時における速やかな切替を実現しつつ装置の小型化を可能とする実用的な構成の車両用シフト切替装置16を提供することができる。
【0040】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
【0041】
例えば、前述の実施例において、前記シフト切替装置16に適用されるディテント部材52は、パーキングロック位置及び非パーキングロック位置に位置決めされるための第1凹状谷部54及び第2凹状谷部56を有するカム面58を外周縁部に備えたものであったが、例えば、図9に示すように、よく知られたPポジション、Rポジション、Nポジション、Dポジション、2ポジションに対応する3つ以上(図9では5つ)の凹状谷部が順次設けられたカム面58を外周縁部に備えたディテント部材52′が前記シフト切替装置16に適用されても構わない。すなわち、パーキングロック位置及び非パーキングロック位置に位置決めされるための第1凹状谷部及び第2凹状谷部を有するカム面を外周縁部に備えて前記軸部材50の軸心まわりに回動可能に設けられるディテント部材であれば、その形態は問わない。
【0042】
また、前述の実施例では、ディテント部材52をパーキングロック位置および非パーキングロック位置へ位置決めするように、その第1凹状谷部54及び第2凹状谷部56内に選択的に係合される回転可能に支持された係合ローラである係合部62が用いられていたが、必ずしも係合ローラでなくてもよく、第1凹状谷部54および第2凹状谷部56内に係合可能な凸状突起を備えた部材が用いられてもよい。
【0043】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0044】
14:アクチュエータ
16:車両用シフト切替装置
50:軸部材
52、52′:ディテント部材
98:ケース(非回転部材)
100:駆動力切替機構
102:第1の歯車対
104:第2の歯車対
108:第1の変速装置
110:第2の変速装置
120:減速装置
OWC1:第1のワンウェイクラッチ
OWC2:第2のワンウェイクラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディテント部材に連結された軸部材を所定のアクチュエータを介して回転駆動することにより車両のシフトレンジを切り替える車両用シフト切替装置であって、
前記ディテント部材を非パーキングポジションからパーキングポジションへ入れる方向に対応する正転時に前記アクチュエータから軸部材へ駆動力を伝達する第1の変速装置と、
前記ディテント部材をパーキングポジションから非パーキングポジションへ抜く方向に対応する負転時に前記アクチュエータから軸部材へ駆動力を伝達する、前記第1の変速装置よりもギヤ比の大きい第2の変速装置と
を、有する駆動力切替機構を備えたものであることを特徴とする車両用シフト切替装置。
【請求項2】
前記駆動力切替機構は、
前記アクチュエータと軸部材との動力伝達経路に設けられたそれぞれギヤ比の異なる2組の歯車対と、
各歯車対に対応して備えられた前記正転時にロックする第1のワンウェイクラッチ及び前記負転時にロックする第2のワンウェイクラッチと
から成るものである請求項1に記載の車両用シフト切替装置。
【請求項3】
前記アクチュエータと駆動力切替機構との間の動力伝達経路及び該駆動力切替機構と前記軸部材との間の動力伝達経路の少なくとも一方に減速装置を備えたものである請求項2に記載の車両用シフト切替装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−117561(P2011−117561A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277067(P2009−277067)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】