説明

車両用ブレーキ液圧制御装置

【課題】車輪ブレーキ側の液圧路の迅速な加圧を可能にし、実液圧を目標液圧に近づける。
【解決手段】ポンプ4、ポンプ4を駆動するモータ9と、調圧弁Rに流す電流を目標液圧に応じて制御する制御部20を備える車両用ブレーキ液圧制御装置である。制御部20は、車輪ブレーキFR,FL,RR,RLの目標液圧を液量に換算し、この液量から必要流量を計算する手段と、計算した必要流量から、ポンプ4の能力に基づいてモータ9の必要回転数を計算する手段と、必要回転数が、検出または推定して得られたモータ9の実回転数を超えた場合には、調圧弁Rに流す電流を所定量高くする手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ液圧制御装置に関し、特に、ポンプで車輪ブレーキに加えるブレーキ液圧を増加可能な車両用ブレーキ液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の車両用ブレーキ液圧制御装置においては、電動のポンプを備え、ポンプにより加圧したブレーキ液を車輪ブレーキに供給することで、運転者がブレーキペダルを操作していなくても積極的に制動力を発生するものがある。このような車両用ブレーキ液圧制御装置は、自ら制動力を発生することで、衝突被害軽減や、車両の姿勢制御を実現している。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された車両の制動制御装置は、ポンプおよび遮断弁(調圧弁)を用いて車輪ブレーキの液圧を制御している。この遮断弁は、リニアソレノイドバルブであり、供給される電流に応じた圧力で車輪ブレーキ側からマスタシリンダ側へのブレーキ液の流れを抑止するものである。
【0004】
【特許文献1】特開2000−203401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、衝突被害軽減システムのように目標液圧をなだらか(傾斜的)に増加しようとする場合、目標液圧に応じた電流を調圧弁に供給していると、初期の閉弁力がポンプの吐出圧力に比較して弱くなる。なぜなら、目標液圧がなだらかに上昇するので、閉弁力もなだらかに上昇するためである。そのため、増圧の初期において、閉弁力が弱く、ブレーキ液が若干マスタシリンダ側へ流れることで増圧の効率が悪くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みなされたもので、車輪ブレーキ側の液圧路の迅速な加圧を可能にし、車輪ブレーキ側の実液圧を目標液圧に近づけることが可能な車両用ブレーキ液圧制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するため、本発明は、液圧源からのブレーキ液を車輪ブレーキに向けて流すことを許容するとともに、入力される電流に応じた圧力で前記車輪ブレーキ側から前記液圧源側へのブレーキ液の流れを抑止する調圧弁と、ブレーキ液を加圧し、前記調圧弁よりも前記車輪ブレーキ側の液圧路に吐出するポンプと、前記ポンプを駆動するモータと、前記調圧弁に流す電流を前記目標液圧に応じて制御することで前記車輪ブレーキ側の液圧を制御する制御部とを備える車両用ブレーキ液圧制御装置であって、前記制御部は、前記車輪ブレーキの目標液圧を液量に換算し、この液量から必要流量を計算する手段と、計算した必要流量から、前記ポンプの能力に基づいて前記モータの必要回転数を計算する手段と、前記必要回転数が、検出または推定して得られた前記モータの実回転数を超えた場合には、前記調圧弁に流す電流を所定量高くする手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
このように、目標液圧からモータの必要回転数を計算し、必要回転数が実回転数を超える場合には、目標液圧と車輪ブレーキ側の現状の液圧の乖離が大きく、車輪ブレーキ側はブレーキ液を多量に要求している。この場合に、たとえ増圧の初期に目標液圧が低くても、目標液圧に応じて調圧弁を制御するのではなく、調圧弁に流す電流を所定量高くすることで、調圧弁から液圧源側にブレーキ液が漏れるのを抑止することができる。したがって、車輪ブレーキ側を目標液圧に倣うように迅速に加圧することができる。
【0009】
前記した車両用ブレーキ液圧制御装置においては、前記制御部は、前記実回転数と前記必要回転数の差が大きいほど前記所定量を大きくすることが望ましい。
【0010】
ここで、実回転数と必要回転数の大小関係のみで調圧弁に流す電流を所定量大きくするだけでは、電流を大きくする場合としない場合とでON/OFF的に切り替わることになる。調圧弁その他の各部品の精度が高ければ、このような制御でも十分な性能を発揮できるが、実際の構成で考えると、部品のばらつきなどの要因により、電流を大きくするタイミングがずれてしまうことが多い。そこで、実回転数と必要回転数との差の大きさから所定量を連続的に変化させることにより、差が大きい場合は車輪ブレーキ側のブレーキ液の要求が大きいと確実に判断でき、調圧弁に流す電流を高くする量である所定量を大きくできる。また、差が小さい場合には、所定量を小さく設定することにより、ばらつきによるタイミングのずれがあっても大きな影響を出すことなく、また2つの状態が連続的に切り替わることによりスムーズな調圧が実現できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、なだらかに目標液圧が上昇する場合でも、調圧弁の車輪ブレーキ側から液圧源側にブレーキ液が流れにくくなるので、車輪ブレーキ側のブレーキ液を迅速に加圧することができる。その結果、実液圧を目標液圧に近づけることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
参照する図において、図1は、本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置を備えた車両の構成図であり、図2は、車両用ブレーキ液圧制御装置のブレーキ液圧回路図である。
図1に示すように、車両用ブレーキ液圧制御装置100は、車両CRの各車輪Wに付与する制動力(ブレーキ液圧)を適宜制御するためのものであり、油路(液圧路)や各種部品が設けられた液圧ユニット10と、液圧ユニット10内の各種部品を適宜制御するための制御部20とを主に備えている。また、この車両用ブレーキ液圧制御装置100の制御部20には、車輪Wの車輪速度を検出する車輪速センサ91、ステアリングSTの操舵角を検出する操舵角センサ92、車両CRの横方向に働く加速度を検出する横加速度センサ93、車両CRの旋回角速度を検出するヨーレートセンサ94、および車両CRの前後方向の加速度を検出する加速度センサ95が接続されている。各センサ91〜95の検出結果は、制御部20に出力される。
【0013】
制御部20は、例えば、CPU、RAM、ROMおよび入出力回路を備えており、車輪速センサ91、操舵角センサ92、横加速度センサ93、ヨーレートセンサ94および加速度センサ95からの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて各演算処理を行うことによって、制御を実行する。また、ホイールシリンダHは、マスタシリンダMCおよび車両用ブレーキ液圧制御装置100により発生されたブレーキ液圧を各車輪Wに設けられた車輪ブレーキFR,FL,RR,RLの作動力に変換する液圧装置であり、それぞれ配管を介して車両用ブレーキ液圧制御装置100の液圧ユニット10に接続されている。
【0014】
図2に示すように、車両用ブレーキ液圧制御装置100の液圧ユニット10は、運転者がブレーキペダルBPに加える踏力に応じたブレーキ液圧を発生する液圧源であるマスタシリンダMCと、車輪ブレーキFR,FL,RR,RLとの間に配置されている。液圧ユニット10は、ブレーキ液が流通する油路を有する基体であるポンプボディ10a、油路上に複数配置された入口弁1、出口弁2などから構成されている。マスタシリンダMCの二つの出力ポートM1,M2は、ポンプボディ10aの入口ポート121に接続され、ポンプボディ10aの出口ポート122が、各車輪ブレーキFR,FL,RR,RLに接続されている。そして、通常時はポンプボディ10a内の入口ポート121から出口ポート122までが連通した油路となっていることで、ブレーキペダルBPの踏力が各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達されるようになっている。
【0015】
ここで、出力ポートM1から始まる油路は、前輪左側の車輪ブレーキFLと後輪右側の車輪ブレーキRRに通じており、出力ポートM2から始まる油路は、前輪右側の車輪ブレーキFRと後輪左側の車輪ブレーキRLに通じている。なお、以下では、出力ポートM1から始まる油路を「第一系統」と称し、出力ポートM2から始まる油路を「第二系統」と称する。
【0016】
液圧ユニット10には、その第一系統に各車輪ブレーキFL,RRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられており、同様に、その第二系統に各車輪ブレーキRL,FRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられている。また、この液圧ユニット10には、第一系統および第二系統のそれぞれに、リザーバ3、ポンプ4、ダンパ5、オリフィス5a、調圧弁(レギュレータ)R、吸入弁7、貯留室7aが設けられている。また、液圧ユニット10には、第一系統のポンプ4と第二系統のポンプ4とを駆動するための共通のモータ9が設けられている。このモータ9は、回転数制御可能なモータであり、本実施形態では、デューティ制御により回転数制御が行われる。また、本実施形態では、第二系統にのみ圧力センサ8が設けられている。
【0017】
なお、以下では、マスタシリンダMCの出力ポートM1,M2から各調圧弁Rに至る油路を「出力液圧路A1」と称し、第一系統の調圧弁Rから車輪ブレーキFL,RRに至る油路および第二系統の調圧弁Rから車輪ブレーキRL,FRに至る油路をそれぞれ「車輪液圧路B」と称する。また、出力液圧路A1からポンプ4に至る油路を「吸入液圧路C」と称し、ポンプ4から車輪液圧路Bに至る油路を「吐出液圧路D」と称し、さらに、車輪液圧路Bから吸入液圧路Cに至る油路を「開放路E」と称する。
【0018】
制御弁手段Vは、マスタシリンダMCまたはポンプ4側から車輪ブレーキFL,RR,RL,FR側(詳細には、ホイールシリンダH側)への液圧の行き来を制御する弁であり、ホイールシリンダHの圧力を増加または低下させることができる。そのため、制御弁手段Vは、入口弁1、出口弁2、チェック弁1aを備えて構成されている。
【0019】
入口弁1は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRとマスタシリンダMCとの間、すなわち車輪液圧路Bに設けられた常開型の電磁弁である。入口弁1は、通常時に開いていることで、マスタシリンダMCから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRへブレーキ液圧が伝達するのを許容している。また、入口弁1は、車輪Wがロックしそうになったときに制御部20により閉塞されることで、ブレーキペダルBPから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに伝達するブレーキ液圧を遮断する。
【0020】
出口弁2は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRと各リザーバ3との間、すなわち車輪液圧路Bと開放路Eとの間に介設された常閉型の電磁弁である。出口弁2は、通常時に閉塞されているが、車輪Wがロックしそうになったときに制御部20により開放されることで、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに作用するブレーキ液圧を各リザーバ3に逃がす。
【0021】
チェック弁1aは、各入口弁1に並列に接続されている。このチェック弁1aは、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入のみを許容する弁であり、ブレーキペダルBPからの入力が解除された場合に、入口弁1を閉じた状態にしたときにおいても、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入を許容する。
【0022】
リザーバ3は、開放路Eに設けられており、各出口弁2が開放されることによって逃がされるブレーキ液圧を吸収する機能を有している。また、リザーバ3とポンプ4との間には、リザーバ3側からポンプ4側へのブレーキ液の流れのみを許容するチェック弁3aが介設されている。
【0023】
ポンプ4は、出力液圧路A1に通じる吸入液圧路Cと車輪液圧路Bに通じる吐出液圧路Dとの間に介設されており、リザーバ3で貯留されているブレーキ液を吸入して吐出液圧路Dに吐出する機能を有している。これにより、リザーバ3により吸収されたブレーキ液をマスタシリンダMCに戻すことができるとともに、後述するようにブレーキペダルBPの操作に代わってブレーキ液圧を発生して、非ペダル操作時にも車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに制動力を発生することができる。
なお、ポンプ4によるブレーキ液の吐出量は、モータ9の回転数(デューティ比)に依存している。すなわち、モータ9の回転数(デューティ比)が大きくなると、ポンプ4によるブレーキ液の吐出量も大きくなる。
【0024】
ダンパ5およびオリフィス5aは、その協働作用によってポンプ4から吐出されたブレーキ液の圧力の脈動および後記する調圧弁Rが作動することにより発生する脈動を減衰させている。
【0025】
調圧弁Rは、通常時に出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容するとともに、ポンプ4が発生したブレーキ液圧によりホイールシリンダH側の圧力を増加するときには、この流れを遮断しつつ、車輪液圧路BおよびホイールシリンダH側の圧力を設定値以下に調節する機能を有し、切換弁6およびチェック弁6aを備えて構成されている。
【0026】
切換弁6は、マスタシリンダMCに通じる出力液圧路A1と各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに通じる車輪液圧路Bとの間に介設された常開型のリニアソレノイド弁である。詳細は図示しないが、切換弁6の弁体は、付与される電流に応じた電磁力によって車輪液圧路BおよびホイールシリンダH側へ付勢されており、車輪液圧路Bの圧力が出力液圧路A1の圧力より所定値(この所定値は、付与される電流による)以上高くなった場合には、車輪液圧路Bから出力液圧路A1へ向けてブレーキ液が逃げることで、車輪液圧路B側の圧力が所定圧に調整される。
なお、切換弁6に付与する電流は、デューティ制御により制御される。
【0027】
チェック弁6aは、各切換弁6に並列に接続されている。このチェック弁6aは、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容する一方向弁である。
【0028】
吸入弁7は、吸入液圧路Cに設けられた常閉型の電磁弁であり、吸入液圧路Cを開放する状態および遮断する状態を切り換えるものである。吸入弁7は、切換弁6が閉じるとき、言い換えれば、非ペダル操作時において各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRにブレーキ液圧を作用させるときに制御部20の制御により開放(開弁)される。
【0029】
貯留室7aは、吸入液圧路C上におけるポンプ4と吸入弁7の間に設けられている。この貯留室7aは、ブレーキ液を貯留するものであり、これにより、吸入液圧路Cに貯留されるブレーキ液の容量が実質的に増大する。
【0030】
圧力センサ8は、出力液圧路A1のブレーキ液圧を検出するものであり、その検出結果は制御部20に入力される。
【0031】
図3は、制御部のブロック構成図であり、図4は、調圧弁駆動部の詳細ブロック図であり、図5(a)は、モータ電流と目標液圧の関係を示すマップであり、(b)は、調圧弁電流と目標液圧の関係を示すマップである。また、図6は、ホイールシリンダに供給する液量と圧力の関係を示した図である。
図3に示すように、制御部20は、各センサ91〜95から入力された信号に基づき、液圧ユニット10内の制御弁手段V、切換弁6および吸入弁7の開閉動作ならびにモータ9の動作を制御して、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの動作を制御するものである。制御部20は、機能部として目標液圧設定部21、ブレーキ液圧計算部22、弁駆動部23、モータ駆動部24および記憶部29を備えている。
【0032】
目標液圧設定部21は、各センサ91〜95から入力された信号に基づき、制御ロジックを選択し、当該制御ロジックに応じて各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの目標液圧を設定する。この設定の方法は、従来公知の方法により行えばよく、特に限定されない。
一例を挙げれば、4つの車輪Wの車輪速度から車体速度を計算する。そして、車輪速度と車体速度からスリップ率を計算する。さらに、横加速度と車両CRの前後方向への加速度に基づき、合成加速度を演算し、この合成加速度から路面の摩擦係数を推定する。そして、この摩擦係数、スリップ率および現在のホイールシリンダHのブレーキ液圧に基づき各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの目標液圧を設定することができる。
また、他の例を挙げれば、車両CRにミリ波レーダを設けて前方車両との車間距離を取得し、車間距離が小さくなったときに衝突被害を軽減すべく運転者の操作によらず自動ブレーキを掛ける場合には、目標液圧を徐々に増加するように設定することもある。
【0033】
また、目標液圧設定部21は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの目標液圧のうち、同系統のもの同士を比較し、これらのうち、最も高い目標液圧をその系統におけるホイールシリンダHの目標液圧とする。原則として、この目標液圧に従い、切換弁6に流す電流、すなわちデューティ比が決定される。
設定された各目標液圧は、適宜弁駆動部23およびモータ駆動部24に出力される。
【0034】
ブレーキ液圧計算部22は、圧力センサ8によって検出されたブレーキ液圧、すなわちマスタシリンダ圧と弁駆動部23による各電磁弁1,2,6の駆動量に基づき、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRのブレーキ液圧(推定ブレーキ液圧)を計算する。計算されたブレーキ液圧は、弁駆動部23およびモータ駆動部24に出力される。
【0035】
弁駆動部23は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRのホイールシリンダHのブレーキ液圧が目標液圧設定部21の設定した目標液圧に一致するように、液圧ユニット10内の各入口弁1、出口弁2、切換弁6および吸入弁7を作動させるパルス信号を液圧ユニット10へ出力する。このパルス信号は、例えば、現在のホイールシリンダHのブレーキ液圧と目標液圧との差が大きいほど多くのパルスを出力するようにする。
弁駆動部23は、各目標液圧および各推定ブレーキ液圧に基づき各制御弁手段V、調圧弁Rおよび吸入弁7の駆動を決定し、駆動するものであり、制御弁手段Vを駆動する制御弁手段駆動部23aと、調圧弁Rを駆動する調圧弁駆動部23bと、吸入弁7を駆動する吸入弁駆動部23cと、を備えている。
【0036】
制御弁手段駆動部23aは、目標圧力とブレーキ液圧計算部22が計算した推定ブレーキ液圧との差から、ホイールシリンダHの圧力を増加すべき場合には、入口弁1および出口弁2の双方に電流を流さない。一方、ホイールシリンダHの圧力を減少させるべき場合には、入口弁1および出口弁2の双方にパルス信号を送り、入口弁1を閉じ、出口弁2を開放させることで、ホイールシリンダHのブレーキを出口弁2から流出させる。
【0037】
調圧弁駆動部23bは、図4に示すように必要流量計算部231、必要回転数計算部232、モータ回転数推定部233、電流値決定部234および信号出力部235を有する。
【0038】
必要流量計算部231は、目標液圧から、必要流量Fnを計算する部分である。図6に示すように、記憶部29には、ホイールシリンダHの圧力(液圧)と液量の関係を示した圧力−液量マップが記憶してある。図6において、圧力が0のときは、車輪ブレーキFR,FL,RR,RLに全く制動力が働いていない場合である。そして、ホイールシリンダHに供給する液量が増えるにつれて、車輪ブレーキFR,FL,RR,RLに制動力が働き、圧力もそれに伴い上昇している。この圧力と液量の関係は、予め実験により求めておくとよい。
【0039】
必要流量計算部231は、この圧力−液量マップを参照して、目標液圧から液量Mを取得する。そして、今回得た液量Mと前回得た液量Mn−1の差ΔMを計算し、この差ΔMを、前回と今回の計算の時的間隔(「サンプリング時間」とする)で割ることで、必要流量Fnを計算する。計算した結果は、必要回転数計算部232に出力される。
【0040】
必要回転数計算部232は、必要流量Fnからモータ9の必要回転数VMnを計算する部分である。
必要回転数VMnは、下記式(1)により求めることができる。
【数1】

【0041】
ここで、rは、ポンプ4のプランジャの半径、sは、同プランジャのストローク、ζはポンプ4の効率である。
【0042】
モータ回転数推定部233は、モータ9の実際の回転数(実回転数VMa)を推定する部分である。モータ9の実回転数VMaは、例えば、モータ9に電流を送っていないときのモータ9の端子電圧を取得することで推定することができる。本実施形態では、モータ9をデューティ制御するので、デューティ制御の周期中の電流がOFFの期間の端子電圧を取得することができる。モータ9は、電流を流していない場合には、回転運動により逆起電力が発生するので、端子電圧にはこの逆起電力が現れる。モータ9の逆起電力と、回転数の関係を予め記憶部29に記憶しておくことで、端子電圧からモータ9の回転数を推定することができる。
【0043】
電流値決定部234は、調圧弁Rに供給する電流、すなわち本実施形態ではデューティ比を決定する部分である。
電流値決定部234は、原則として目標液圧設定部21が設定した目標液圧に従い、調圧弁Rに流す電流を決定し、この決定した電流からデューティ比を決定する。例えば、図5(b)に示すような、調圧弁Rの電流と目標液圧の関係を示したマップを記憶部29に記憶しておき、このマップを参照して目標液圧から調圧弁電流、すなわちデューティ比を決定する。
【0044】
また、電流値決定部234は、モータの必要回転数VMnが実回転数VMaを超えた場合に、調圧弁Rに流す電流を所定量高くする。このときの所定量の増加は、一定割合で割増してもよいし、一定値を付加するのでもよい。さらに、この割合や値は一定でなくてもよく、可変としてもよい。例えば、実回転数VMaと必要回転数VMnの差が大きいほど、この割合や値(所定量)を大きくすることもできる。実回転数VMaと必要回転数VMnの差が大きい場合は、調圧弁RのホイールシリンダH側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流れを極力少なくする必要があるので、このような形態とすると、より迅速にホイールシリンダH側を加圧することができる。
【0045】
さらに、所定量の増加は、割合を乗じたり値を付加したりするのではなく、調圧弁Rに流す電流のデューティ比を100%や90%といった高い値に変更するのでも構わない。
本実施形態においては、この所定量の増加の一例として、電流補正量を設定し、この電流補正量を、上述した目標液圧から定まる調圧弁電流に付加することとする。
電流値決定部234は、最終的に、この電流補正量を付加して、調圧弁Rに流す電流値(デューティ比)を決定する。このデューティ比は、信号出力部235に出力される。
【0046】
信号出力部235は、電流値決定部234が決定したデューティ比に基づいて、調圧弁Rにパルス信号を出力する部分である。
【0047】
吸入弁駆動部23cは、通常時は、吸入弁7に電流を流さない。目標液圧設定部21が出力した目標液圧から、ホイールシリンダHの圧力を増加させるべき場合であって、圧力センサ8が検出したマスタシリンダ圧が目標液圧より低い場合に、ポンプ4での加圧を可能にするため吸入弁7にパルス信号を出力する。これにより、吸入弁7が開いてマスタシリンダMCからポンプ4へブレーキ液が吸入されるようになっている。
【0048】
モータ駆動部24は、各目標液圧および各推定ブレーキ液圧に基づきモータ9の回転数を決定し、駆動するものである。すなわち、モータ駆動部24は、回転数制御によりモータ9を駆動するものであり、本実施形態では、デューティ制御により回転数制御を行う。
モータ駆動部24は、一例として、目標液圧設定部21が設定した目標液圧に従い、モータ回転数を決定し、この決定したモータ回転数からデューティ比を決定する。例えば、図5(a)に示すような、モータ電流と目標液圧の関係を示したマップを記憶部29に記憶しておき、このマップを参照して目標液圧からモータ電流、すなわちデューティ比を決定する。
【0049】
以上のように構成された車両用ブレーキ液圧制御装置100の動作について、本発明の特徴部分を中心に説明する。参照する図において、図7は、車両用ブレーキ液圧制御装置の処理を説明するフローチャートである。
【0050】
制御部20は、図7に示すフローチャートに従い、スタートからエンドまでの処理を繰り返し行う。
まず、車両CRが進行中に、各センサ91〜95の検出結果に基づき、目標液圧設定部21が車両挙動制御や、衝突被害軽減の自動ブレーキ制御または車輪ブレーキFL,RR,RL,FRのロックを防止するアンチロックブレーキ制御の開始を決定し、目標液圧を設定する(S101)。
そして、ブレーキ液圧計算部22は、圧力センサ8が検出したマスタシリンダ圧と弁駆動部23による各電磁弁1,2,6の前回の駆動量に基づき、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRのブレーキ液圧(推定ブレーキ液圧)を計算する(S102)。
【0051】
次に、調圧弁駆動部23bの必要流量計算部231は、圧力−液量マップを参照して目標液圧を液量Mに換算する(S103)。そして、必要流量計算部231は、今回得た液量Mと前回得た液量Mn−1との差ΔMを計算する(S104)。さらに、必要流量計算部231は、ΔMをサンプリング時間で割って必要流量Fnを計算する(S105)。
【0052】
次に、必要回転数計算部232は、モータ9の必要回転数VMnを、前記した式(1)に従い算出する(S106)。
【0053】
そして、モータ回転数推定部233は、モータ9に電流が流れていない瞬間の端子電圧を取得して、端子電圧とモータ9の回転数の関係に基づいて、モータ9の実回転数VMaを推定する(S107)。
【0054】
次に、電流値決定部234は、モータ9の必要回転数VMnと実回転数VMaを比較し、必要回転数VMnが実回転数VMa以下の場合(S108,No)、電流補正量を0に決定する(S109)。一方、必要回転数VMnが実回転数VMaより大きい場合(S108、Yes)、電流値決定部234は、電流補正量を例えば必要回転数VMnと実回転数VMaの差に応じて設定する(S110)。つまり、この差が大きいほど大きな電流補正量を設定する。
【0055】
次に、電流値決定部234は、図5(b)のような目標液圧と調圧弁電流の関係を参照して、目標液圧から基本となる調圧弁Rの電流値を設定する(S111)。さらに、電流値決定部234は、この基本となる電流値に、ステップS109またはS110で設定した電流補正量を付加して、調圧弁Rの電流値を補正し、補正して得られた電流値を実際に調圧弁Rに流す電流値とする(S112)。
【0056】
そして、制御弁手段駆動部23aは、制御弁手段Vを駆動し、吸入弁駆動部23cは、吸入弁7を駆動する(S113)。すなわち、目標液圧と推定ブレーキ液圧から定まる、増圧、減圧、保持のいずれの動作であるか、またポンプ4による加圧をするか否かに応じて制御弁手段駆動部23aが制御弁手段Vを駆動し、吸入弁駆動部23cが吸入弁7を駆動する。
そして、調圧弁駆動部23bの信号出力部235は、前記した処理で決定したデューティ比に基づき調圧弁Rを駆動する信号を調圧弁Rに出力する(S114)。
【0057】
以上の処理により、目標液圧がなだらかに増圧するような場合、例えば前記した衝突被害軽減の自動ブレーキ制御のような場合であっても、必要回転数VMnが実回転数VMaよりも大きい場合に、調圧弁Rに流す電流値を所定量高くするので、調圧弁Rからマスタシリンダ側へ逃げるブレーキ液を少なくして、ホイールシリンダHの液圧を迅速に高め、目標液圧通りの制御をすることができる。
【0058】
このような処理の結果を図8および図9のタイムチャートを参照しながら説明する。図8(a)は、参考例として、本発明の電流補正を行わずにモータを100%デューティ制御した場合の液圧のタイムチャートであり、(b)は、参考例として、本発明の電流補正を行わずに、100%デューティより低い電流値でモータを駆動させた場合の液圧のタイムチャートである。図9(a)は、本実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置における調圧弁電流のタイムチャートであり、(b)は、同車輪ブレーキ側の液圧のタイムチャートであり、(c)は、モータ回転数のタイムチャートである。
【0059】
まず、図8(a),(b)を参照して、車両用ブレーキ液圧制御装置における増圧状態について説明する。図8(a),(b)に示す圧力(目標液圧およびホイールシリンダ側の実液圧)は、図2に示した液圧回路と同等の回路において、本発明の電流補正を行わず、目標液圧に応じた大きさの電流を調圧弁Rに供給した場合の結果である。
図8(b)に示すように、モータ9を100%デューティより低い電流値で駆動した場合、時刻t1〜t2において加圧するとき、および時刻t3〜t4において加圧するとき、のいずれの場合にも、目標液圧の上昇に対し、実液圧の上昇が遅れている。そして、圧力がP1からP2に上昇するのに、ΔT2の時間がかかっている。
【0060】
これに対し、図8(a)に示すように、モータ9を、100%デューティで駆動した場合、つまり、図8(b)の例より高い回転数で回転させた場合、時刻t1〜t2において加圧するとき、および時刻t3〜t4において加圧するとき、のいずれの場合にも、100%デューティより低い電流値でモータ9を駆動したときに比較してさらに実液圧の上昇が目標液圧の上昇に対し遅れている。そして、圧力がP1からP2に上昇するのに、ΔT2より長い時間であるΔT1の時間がかかっている。
このことは、モータ9を高回転で回転させても、調圧弁Rにおいてマスタシリンダ側にブレーキ液が逃げていることを示している。つまり、調圧弁Rに流す電流が小さい場合には、モータ9を高回転で回転させても、調圧弁Rの開弁量が大きくなる結果、効率的に昇圧できないということである。
【0061】
一方、本実施形態の電流値の補正をした場合には、図9に示すようになる。図9(c)に示すように、実回転数VMaは、図示したような短時間では、ほとんど変化しないが、計算の結果得られた必要回転数VMnは、目標液圧の変化に応じて大きく変化する。そして、目標液圧が増加し始めるタイミングである時刻t1〜t2の間および時刻t3〜t4の間は、必要回転数VMnは急増し、実回転数VMaを上回る。この必要回転数VMnが急増し、実回転数VMaを上回る場合というのは、ポンプ4で汲み上げたブレーキ液をすべてホイールシリンダH側に供給する必要がある状態である。そのため、図9(a)に示すように、調圧弁電流が所定量高く補正され、それにより調圧弁Rが強く閉まることで、ポンプ4から吐出されたブレーキ液が、調圧弁RよりもホイールシリンダH側に留まり、ホイールシリンダH側の液圧が効率よく上昇する。
このため、図9(b)に示すように、本実施形態の車両用ブレーキ液圧制御装置100では、図8(a),(b)の場合に比較して、実液圧が目標液圧に倣うように制御される。
【0062】
以上のように、本実施形態の車両用ブレーキ液圧制御装置100によれば、衝突被害軽減のための自動ブレーキのように目標液圧がなだらかに上昇する場合においても、モータ9の必要回転数VMnを計算し、実回転数VMaよりも必要回転数VMnが高いときに調圧弁Rの電流値を高くするので、ポンプ4で吐出されたブレーキ液を有効に利用し、効率的にホイールシリンダH側を加圧することができる。また、必要回転数VMnが実回転数VMaより大きくない場合には、目標液圧にしたがって調圧弁Rに電流を供給するので、実液圧が大きくなりすぎることもない。その結果、目標液圧により倣うように実液圧を制御することが可能となる。
【0063】
以上に本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能である。
例えば、液圧源はブレーキペダルBPにより圧力を発生するマスタシリンダMCには限られない。また、本発明にいう調圧弁は、ポンプの吐出側の液圧路から液圧源側へのブレーキ液の流れを抑止する弁であればよく、他の呼び方がされる場合もある。
また、前記実施形態においては、モータ9の実回転数VMaを、モータ9の端子電圧から推定していたが、モータ9に回転数センサを設け、この回転数センサで検出した回転数をモータ9の実回転数VMaとして取得してもよい。
【0064】
本発明においては、モータ9の必要回転数VMnが実回転数VMaを超えた場合に調圧弁電流を所定量高くするが、この必要回転数VMnの決定方法は、前記した実施形態には限られない。例えば、前記した求め方で決定した必要回転数VMnに一定値を乗じ、または必要回転数VMnを一定値オフセットするなどして、実際の車両の特性で好適な結果が得られるように調整してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置を備えた車両の構成図である。
【図2】車両用ブレーキ液圧制御装置のブレーキ液圧回路図である。
【図3】制御装置のブロック構成図である。
【図4】調圧弁駆動部の詳細ブロック図である。
【図5】(a)はモータ電流と目標液圧の関係を示すマップであり、(b)は、調圧弁電流と目標液圧の関係を示すマップである。
【図6】ホイールシリンダに供給する液量と圧力の関係を示した図である。
【図7】車両用ブレーキ液圧制御装置の処理を説明するフローチャートである。
【図8】(a)は、参考例として、本発明の電流補正を行わずにモータを100%デューティ制御した場合の液圧のタイムチャートであり、(b)は、参考例として、本発明の電流補正を行わずに、100%デューティより低い電流値でモータを駆動させた場合の液圧のタイムチャートである。
【図9】(a)は、本実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置における調圧弁電流のタイムチャートであり、(b)は、同車輪ブレーキ側の液圧のタイムチャートであり、(c)は、モータ回転数のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0066】
1 入口弁
2 出口弁
3 リザーバ
4 ポンプ
6 切換弁
7 吸入弁
8 圧力センサ
9 モータ
10 液圧ユニット
20 制御部
21 目標液圧設定部
22 ブレーキ液圧計算部
23 弁駆動部
23a 制御弁手段駆動部
23b 調圧弁駆動部
23c 吸入弁駆動部
24 モータ駆動部
29 記憶部
100 車両用ブレーキ液圧制御装置
CR 車両
FR,FL,RR,RL 車輪ブレーキ
H ホイールシリンダ
MC マスタシリンダ
R 調圧弁
V 制御弁手段
W 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧源からのブレーキ液を車輪ブレーキに向けて流すことを許容するとともに、入力される電流に応じた圧力で前記車輪ブレーキ側から前記液圧源側へのブレーキ液の流れを抑止する調圧弁と、
ブレーキ液を加圧し、前記調圧弁よりも前記車輪ブレーキ側の液圧路に吐出するポンプと、
前記ポンプを駆動するモータと、
前記調圧弁に流す電流を前記車輪ブレーキの目標液圧に応じて制御することで前記車輪ブレーキ側の液圧を制御する制御部とを備える車両用ブレーキ液圧制御装置であって、
前記制御部は、
前記目標液圧を液量に換算し、この液量から必要流量を計算する手段と、
計算した必要流量から、前記ポンプの能力に基づいて前記モータの必要回転数を計算する手段と、
前記必要回転数が、検出または推定して得られた前記モータの実回転数を超えた場合には、前記調圧弁に流す電流を所定量高くする手段とを備えることを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記実回転数と前記必要回転数の差が大きいほど前記所定量を大きくすることを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−12492(P2009−12492A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173093(P2007−173093)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】