車両用ブレーキ装置
【課題】 装置全体の小型化・簡素化・低コスト化を可能としつつ、回生制動時に回収できるエネルギ量を増大できる車両用ブレーキ装置を提供すること。
【解決手段】 車両の駆動輪RL,RRを駆動するモータMを備え、回生制動時にはモータMをジェネレータとして回生ブレーキを実施する車両用ブレーキ装置において、マスタシリンダMCと、マスタシリンダMCと連動し運転者の踏力により作動するブレーキペダルBPと、マスタシリンダMCを作動させる倍力装置BSと、車両の各車輪に設けられたホイルシリンダ5a〜5dと、倍力装置BSにより昇圧されたブレーキ液を少なくとも従動輪FL,FRのホイルシリンダ5a、5bに供給する第1ブレーキ回路1と、を備え、回生制動実施時に上記(従動輪FL,FRに供給される)ブレーキ液の液圧を低減させる一方、駆動輪RL,RRの回生制動力を増加させることとした。
【解決手段】 車両の駆動輪RL,RRを駆動するモータMを備え、回生制動時にはモータMをジェネレータとして回生ブレーキを実施する車両用ブレーキ装置において、マスタシリンダMCと、マスタシリンダMCと連動し運転者の踏力により作動するブレーキペダルBPと、マスタシリンダMCを作動させる倍力装置BSと、車両の各車輪に設けられたホイルシリンダ5a〜5dと、倍力装置BSにより昇圧されたブレーキ液を少なくとも従動輪FL,FRのホイルシリンダ5a、5bに供給する第1ブレーキ回路1と、を備え、回生制動実施時に上記(従動輪FL,FRに供給される)ブレーキ液の液圧を低減させる一方、駆動輪RL,RRの回生制動力を増加させることとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者のブレーキ操作や車両の走行状態に基づき車両のブレーキ液圧を制御するブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回生制動を行う電気自動車やハイブリッド車などに適用されるブレーキ装置として、液圧ブレーキ装置と回生ブレーキ装置とを組み合わせて回生協調制御を実行するものが知られている。例えば、特許文献1に記載のブレーキ装置(以下、従来技術という)では、液圧ブレーキ装置は、ブレーキ操作力を増大する倍力装置が接続されたマスタシリンダによりブレーキ液圧を発生するとともに、ポンプの駆動によってもブレーキ液圧(制御液圧)を発生する。このような従来からある液圧ブレーキ装置を用いて回生協調制御を実行することで、上記従来技術は、ブレーキ装置全体の小型化・簡素化、および低コスト化を図っている。
【特許文献1】特開2006−21745号公報
【0003】
また、上記従来技術は、回生制動力を付与可能な輪においては、回生制動を行う際、ブレーキ操作に応じたマスタシリンダ圧を基礎液圧としてホイルシリンダに付与すると共に、制御液圧をホイルシリンダに付与する。そして、これらの液圧による制動力に、回生ブレーキ装置で発生された回生制動力を加えることで、トータル制動力とする。そして、回生制動力が変動した場合には、制御液圧を調整することで該変動を補正する。すなわち、回生制動力の変動によりトータル制動力が不足する分を、制御液圧(による制動力)により補償することで、運転者の要求制動力を安定的に実現している。一方、回生制動力を付与できない輪においては、ブレーキ操作に応じたマスタシリンダ圧を基礎液圧としてホイルシリンダに付与すると共に、制御液圧をホイルシリンダに付与する。すなわち、液圧制動力のみを発生させる。
【0004】
しかし、上記従来技術は、いずれの輪においても恒常的にマスタシリンダ圧を基礎液圧としてホイルシリンダに付与する構成であるため、このマスタシリンダ圧(基礎液圧)による制動力分だけ、発生可能な回生制動力が抑制されることとなる。よって、回生により回収できるエネルギ量がこの分だけ低減する、という問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、装置全体の小型化・簡素化・低コスト化を可能としつつ、回生制動時に回収できるエネルギ量を増大できる車両用ブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車両用ブレーキ装置は、車両の駆動輪を駆動するモータを備え、回生制動時には前記モータをジェネレータとして回生ブレーキを実施する車両用ブレーキ装置において、マスタシリンダと、前記マスタシリンダと連動し運転者の踏力により作動するブレーキペダルと、前記マスタシリンダを作動させる倍力装置と、車両の各車輪に設けられたホイルシリンダと、前記倍力装置により昇圧されたブレーキ液を少なくとも従動輪の前記ホイルシリンダに供給する第1ブレーキ回路と、を備え、回生制動実施時に前記ブレーキ液の液圧を低減させる一方、前記駆動輪の回生制動力を増加させることとした。
【発明の効果】
【0007】
このようにブレーキペダルとホイルシリンダとの間がメカ的に接続された状態で(運転者のブレーキ操作により発生する)マスタシリンダ圧をホイルシリンダに直接付与する従来式の液圧ブレーキ装置を用いるため、ブレーキ装置全体の小型化・簡素化が図れ、低コスト化を実現できる。また、回生制動を実施する際、マスタシリンダから従動輪のホイルシリンダに供給されるブレーキ液圧を低減させる一方、その分だけ駆動輪の回生制動力を増加させる。よって、回生により回収するエネルギ量を増やすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の車両用ブレーキ装置を実現する最良の形態を、図面に基づき説明する。
【実施例1】
【0009】
[車両のシステム構成]
図1は、実施例1の車両用ブレーキ装置(以下、ブレーキ装置という)が適用された車両の全体構成を示すシステム図である。この車両は、エンジンENGとモータMの2種類の動力源を併用して後輪RL,RRを駆動する後輪駆動方式のハイブリッド車両である。このハイブリッド車両は、ハイブリッドシステムαと、液圧ブレーキ装置βと、複数の制御ユニットCUと、を有している。
【0010】
(ハイブリッドシステム〜回生ブレーキ装置)
ハイブリッドシステムαは、車両の主たる動力源であるエンジンENGのほか、モータMと、ジェネレータGと、動力分割機構Pと、減速機Dと、インバータIと、バッテリBと、を有している。このうちモータM、インバータI、およびバッテリB等により、回生ブレーキ装置γが構成されている。
【0011】
モータMは、エンジンENGの補助動力源であって、(運転者によるブレーキペダルBPの操作時に)回生制動力を発生する発電機としても機能する交流同期モータである。
【0012】
ジェネレータGは、モータMと同様に交流同期型であり、エンジンENGにより駆動されて交流電力(交流電流)を発電する。発電された交流電力は、バッテリBの充電またはモータMの駆動のために用いられる。
【0013】
動力分割機構Pは、遊星歯車機構から構成されており、エンジンENG、モータM、ジェネレータG、および減速機Dに接続されている。動力分割機構Pは、動力の伝達経路(および方向)を切り替える機能を有しており、エンジンENGの駆動力およびモータMの駆動力をそれぞれ減速機Dに伝達可能である。これら動力源の駆動力が減速機Dに伝達され、さらに後輪側の動力伝達系を介して後輪RL,RRに伝達されることで、後輪RL,RRが駆動される。
【0014】
また、動力分割機構Pは、エンジンENGの駆動力をジェネレータGに伝達可能に設けられている。エンジンENGの駆動力がジェネレータGに伝達されることで、ジェネレータGが駆動される。
【0015】
さらに、動力分割機構Pは、減速機D(すなわち、駆動輪である後輪RL,RR)からの動力をモータMに伝達可能に設けられている。ブレーキペダルBPの操作時に、後輪RL,RRからの動力がモータMに伝達されることで、モータMが駆動され、回生制動力を発生する発電機として機能する。
【0016】
インバータIは、モータM、ジェネレータGおよびバッテリBに電気的に接続されており、ハイブリッド制御ユニットHCUからの制御信号に応じて制御される。インバータIは、バッテリBから供給される高電圧の直流電流を交流電力(交流電流)に変換し、この交流電力をモータMに供給可能に設けられている。この交流電力により、モータMが駆動される。また、インバータIは、ジェネレータGにより発電された交流電力をモータMに供給可能に設けられている。この交流電力によっても、モータMが駆動され得る。
【0017】
また、インバータIは、ジェネレータGにより発電された交流電力を直流電力に変換し、この直流電力をバッテリBに供給可能に設けられている。バッテリBの充電状態が低下している場合には、この直流電力により、バッテリBが充電され得る。
【0018】
さらに、インバータIは、ブレーキペダルBPの操作時に、発電機として駆動されている(回生制動力を発生している)モータMにより発電された交流電力を直流電力に変換し、この直流電力をバッテリBに供給可能に設けられている。これにより、車両の運動エネルギが電気エネルギに変換され、バッテリBに回収(充電)される。この場合、バッテリBに充電される電力は、モータMによる発電抵抗(すなわち回生制動力)が大きいほど大きくなる。
【0019】
モータM、インバータI、およびバッテリB等から構成されている回生ブレーキ装置γは、ハイブリッド制御ユニットHCUからの制御指令に応じて、ブレーキ操作状態に対応した回生制動力を、モータMにより発生させる。
【0020】
(液圧ブレーキ装置)
液圧ブレーキ装置βは、ブレーキペダルBPに接続された液圧供給源(マスタシリンダMC等)と、液圧供給源に接続されて車両の各車輪FL,FR,RL,RRのホイルシリンダ5a〜5dにブレーキ液圧を供給する液圧制御装置HUと、を有しており、各車輪において液圧制動力(摩擦制動力)を発生させる。液圧制御装置HUは、液圧ブレーキアクチュエータ(ブレーキペダルBPの操作とは無関係に作動する他の液圧供給源としてのポンプPや、複数の電磁弁6等)を備えている。
【0021】
液圧ブレーキ装置βは、ブレーキ操作力すなわちブレーキペダルBPの踏み込み操作力を倍力装置BSにて増大し、その力に応じたブレーキ液圧を前輪のホイルシリンダ5a、5bに付与可能に設けられている。一方、ブレーキ制御ユニットBCUからの制御指令に応じたブレーキ液圧(制御液圧)を液圧制御装置HUで形成し、この制御液圧を各車輪のホイルシリンダ5a〜5dに付与可能に設けられており、これによりABS制御や自動ブレーキ制御を実行可能である。
【0022】
ここで、ABS制御とは、運転者のブレーキ操作時に車輪がロック傾向になったことを検知すると、当該車輪につき、ロックを防止しつつ最大の制動力を発生させるためにホイルシリンダ圧の減圧・保持・増圧を繰り返す制御である。また自動ブレーキ制御には、車両旋回時に過オーバーステアや過アンダーステアとなったことを検出すると所定輪のホイルシリンダ圧を制御して車両姿勢の安定を図る車両運動制御(以下、VDC制御という)や、車間距離制御、衝突回避制御等がある。また、運転者の緊急ブレーキ操作時に実際にマスタシリンダで発生する圧力よりも高い圧力をホイルシリンダで発生させるブレーキアシスト制御(以下、BA制御という)も自動ブレーキ制御に含まれる。
【0023】
図2は、液圧ブレーキ装置βの油圧回路構成を示す。液圧ブレーキ装置βは、ブレーキペダルBPと、倍力装置BSと、リザーバRESと、マスタシリンダMCと、液圧制御装置HUと、ホイルシリンダ5と、を有している。
【0024】
以下、4つの車輪FL,FR,RL,RRのそれぞれに対応して設けられている構成については、a,b,c,dの記号を添えて区別するものとし、aは前左輪FL、bは前右輪FR、cは後左輪RL、dは後右輪RRにそれぞれ対応する構成を表すこととする。
【0025】
液圧ブレーキ装置βの油圧回路は独立した2つの系統に分かれており、第1ブレーキ回路1および第2ブレーキ回路2を有している。第1ブレーキ回路1は、遮断弁6を介してマスタシリンダMCと前輪側のホイルシリンダ5a、5bとを接続する通常ブレーキ回路である。第2ブレーキ回路2は、増圧制御弁7を介してポンプPと前後輪のホイルシリンダ5a〜5dとを接続する制御ブレーキ回路である。なお、減圧制御弁8a〜8dを介してホイルシリンダ5a〜5dとリザーバRESとを接続するリターン回路が、第2ブレーキ回路2との間で油路を一部共通しつつ、設けられている。
【0026】
ブレーキペダルBPは、運転者の踏力により作動し、運転者のブレーキ操作を倍力装置BSへ伝達する。ブレーキペダルBPにはストロークセンサ11が設けられている。ストロークセンサ11は、ブレーキペダルBPのストロークを検出し、検出した値をブレーキ制御ユニットBCUに入力する。
【0027】
倍力装置BSは、ブレーキペダルBPから伝達される力を例えばエンジン負圧により増幅し、該増幅した力をマスタシリンダMC(のピストン)に伝達してマスタシリンダMCを作動させることで、運転者の踏力をアシストする。なお、倍力装置BSは、上記負圧ブースタに限られない。
【0028】
リザーバRESは、ブレーキ液を貯留するリザーバタンクであり、マスタシリンダMCおよび第2ブレーキ回路2に接続されている。
【0029】
マスタシリンダMCは、倍力装置BSから伝達される力に比例したマスタシリンダ圧を発生する。マスタシリンダMCはタンデム型であり、前後に並んだ2つのマスタシリンダピストンによってシリンダの中に2つの液圧室(加圧室)が隔成されている。2つの液圧室は、それぞれ別々にリザーバRESからブレーキ液の供給を受ける。一方の液圧室は、第1ブレーキ回路1A、すなわち第1ブレーキ回路1の前左輪FL側の系統に接続されている。他方の液圧室は、第1ブレーキ回路1B、すなわち第1ブレーキ回路1の前右輪FR側の系統に接続されている。
【0030】
また、マスタシリンダMCは、2つのマスタシリンダピストンにより隔成された2つの背圧室を有している。これらの背圧室はそれぞれリザーバRESに連通している。
【0031】
ブレーキペダルBPが踏み込まれると、上記2つのマスタシリンダピストンがストロークして、上記2つの液圧室に同じマスタシリンダ圧を発生する。このマスタシリンダ圧が、それぞれ第1ブレーキ回路1A、1Bに供給される。
【0032】
なお、各マスタシリンダピストンの外周には周知のカップ状のシール部材が設けられており、ピストンストローク時には、このシール部材により各液圧室とリザーバRESとの連通が遮断されることで、各液圧室内の加圧が可能となる。このとき、リザーバRESからは第1ブレーキ回路1A、1Bへブレーキ液が供給されず、マスタシリンダMCの液圧室からのみ第1ブレーキ回路1A、1Bへブレーキ液が供給されることになる。
【0033】
一方、ブレーキペダルBPが戻されると、各マスタシリンダピストンが戻しバネの力で戻される。このとき、上記シール部材の構造により、マスタシリンダMCの液圧室とリザーバRESが連通する。これにより、リザーバRESのブレーキ液をマスタシリンダMCの液圧室(加圧室)に供給することが再び可能となる。
【0034】
リザーバRES側を上流とし、ホイルシリンダ5側を下流とすると、第1ブレーキ回路1A、1Bの下流側の端には、それぞれホイルシリンダ5a,5bが接続されている。また、第1ブレーキ回路1A、1B上には、それぞれ遮断弁6a,6bが設けられている。すなわち、マスタシリンダMCに接続された第1ブレーキ回路1Aは、遮断弁6aを介して前左輪FLのホイルシリンダ5aに接続されている。マスタシリンダMCに接続された第1ブレーキ回路1Bは、遮断弁6bを介して前右輪FRのホイルシリンダ5bに接続されている。
【0035】
遮断弁6bよりも上流側の第1ブレーキ回路1Bには、マスタシリンダ圧センサ12が設けられている。マスタシリンダ圧センサ12は、マスタシリンダ圧を検出し、検出した値をブレーキ制御ユニットBCUに入力する。
【0036】
遮断弁6は常開の(=非通電時に開き、通電時に閉じる)電磁弁であり、コイルに流される電流値によりバルブ開度が比例的に変化する、いわゆる比例弁である。遮断弁6a、6bは、ブレーキ制御ユニットBCUからの指令電流により開閉動作を行い、それぞれ第1ブレーキ回路1A、1Bを連通・遮断する。マスタシリンダ圧がホイルシリンダ5a、5bの圧力(ホイルシリンダ圧)より高いときは、開弁することでマスタシリンダ圧をホイルシリンダ5a、5bに供給し、閉弁することで上記供給を遮断する。一方、ホイルシリンダ圧がマスタシリンダ圧より高いときは、開弁することでホイルシリンダ圧をマスタシリンダMCに供給し、閉弁することで上記供給を遮断する。
【0037】
リザーバRESに接続された第2ブレーキ回路2の下流側には、ポンプPが接続されている。ポンプPは、リザーバRESから吸い上げたブレーキ液を下流側(増圧制御弁7a〜7d)へ高圧で供給する。モータM1は電動式であり、ブレーキ制御ユニットBCUからの指令電流により回転数制御され、ポンプPを駆動する。なお、モータM1以外の他の駆動力源を用いてポンプPを駆動することとしてもよい。
【0038】
ポンプPの下流側の第2ブレーキ回路2には、下流側から上流側へのブレーキ液の流れを防止するチェック弁9が設けられている。
【0039】
第2ブレーキ回路2は、チェック弁9の下流側で、前輪側の系統である第2ブレーキ回路2Aおよび後輪側の系統である第2ブレーキ回路2Bに分岐している。第2ブレーキ回路2Aの下流側は油路2a、2bに分岐している。同様に、第2ブレーキ回路2Bの下流側は油路2c、2dに分岐している。油路2a、2bは、それぞれ遮断弁6a、6bの下流側の第1ブレーキ回路1A、1Bに接続されており、第1ブレーキ回路1A、1Bを介して前輪側のホイルシリンダ5a、5bに接続されている。同様に、油路2c、2dは、それぞれ後輪側のホイルシリンダ5c、5dに接続されている。
【0040】
このように、後輪RL,RRのホイルシリンダ5c、5dには、第1ブレーキ回路1が接続されておらず、第2ブレーキ回路2のみが接続されている。よって、前輪側でのみ、第1、第2ブレーキ回路1,2の選択が可能であり、後輪側では、常に第2ブレーキ回路2(ポンプ圧)によってのみ、ホイルシリンダ圧が増圧される。
【0041】
油路2a〜2d上には、それぞれ増圧制御弁7a〜7dが設けられている。増圧制御弁7a〜7dは常閉の(=非通電時に閉じ、通電時に開く)比例電磁弁であり、ブレーキ制御ユニットBCUからの指令電流により開閉動作を行い、それぞれ油路2a〜2dを連通・遮断する。開弁することでポンプ圧をホイルシリンダ5a〜5dに供給し、閉弁することで上記供給を遮断する。
【0042】
増圧制御弁7a〜7dの下流側の油路2a〜2dには、それぞれ油路3a〜3dの一端が接続されている。油路3a〜3dの他端は、それぞれポンプPの上流側の第2ブレーキ回路2に接続されており、第2ブレーキ回路2を介してリザーバRESに接続されている。油路3a〜3d上には、それぞれ減圧制御弁8a〜8dが設けられている。「ホイルシリンダ5a〜5d(→油路2a〜2d→油路3a〜3d)→減圧制御弁8a〜8d(→油路3a〜3d→第2ブレーキ回路2)→リザーバRES」により、ブレーキ液をホイルシリンダ5からリザーバRESに戻すリターン回路が形成されている。
【0043】
前輪側の油路3a、3bに設けられた減圧制御弁8a、8bは常閉の比例電磁弁であり、後輪側の油路3c、3dに設けられた減圧制御弁8c、8dは常開の比例電磁弁である。減圧制御弁8a〜8dは、ブレーキ制御ユニットBCUからの指令電流により開閉動作を行い、それぞれ油路3a〜3dを連通・遮断する。開弁することでブレーキ液をホイルシリンダ5a〜5dからリザーバRESに戻し、ホイルシリンダ圧を抜き減圧する。閉弁状態では上記抜き減圧は行われない。
【0044】
ポンプPとチェック弁9との間の第2ブレーキ回路2には、リリーフ用の油路2eが接続されている。油路2eは、減圧制御弁8a〜8dの上流側の油路3a〜3d(のいずれか)に接続されており、油路3a〜3dおよび第2ブレーキ回路2を介してリザーバRESに接続されている。なお、油路2eをポンプPの上流側の第2ブレーキ回路2に直接接続してもよい。油路2e上には、リリーフ弁10が設けられている。リリーフ弁10は、ポンプ圧が所定値(例えば本油圧回路の所定耐圧)以上となった場合に開弁し、ポンプPの吐出側をリザーバRESに連通させる。これによりポンプ圧をリザーバRESに開放し、ポンプ圧が上記所定値以上になることを防止する。
【0045】
各車輪FR,FL,RR,RLに対応する増圧制御弁7および減圧制御弁8の下流側には、ホイルシリンダ5b〜5dのそれぞれの圧力(ホイルシリンダ圧=ブレーキ液圧)を検出するホイルシリンダ圧センサ13a〜13dが設けられている。検出された値は、ブレーキ制御ユニットBCUに入力される。また、各車輪FR,FL,RR,RLには、それぞれ車輪速センサ14a〜14dが設けられており(図1参照)、検出された各車輪速はブレーキ制御ユニットBCUに入力される。
【0046】
なお、前輪FL,FRのいずれかでブレーキ失陥が発生したときは、ホイルシリンダ圧センサ13a、13bによりこれを検出するとともに、ブレーキ制御ユニットBCUからの指令により、失陥が発生した車輪に対応する遮断弁6a、6bを遮断する。
【0047】
(遮断弁)
以下、遮断弁6の構成について説明する。図3は、遮断弁6a、6bの軸方向断面図である。説明のため弁の軸方向にx軸を設け、プランジャ64に対してアーマチュア67の側を正方向と定義する。遮断弁6は、ハウジング61、第1ポート62、バルブシート63、プランジャ64、第2ポート65、戻しバネ66、アーマチュア67、およびコイル(ソレノイド)68を有している。
【0048】
ハウジング61のx軸正方向側の外周には、コイル68が設けられている。ハウジング61の内部には、x軸正方向側に大径の第1シリンダ室61a、x軸負方向側に小径の第2シリンダ室61bが、それぞれ形成されている。
【0049】
第2シリンダ室61bに対してx軸負方向側のハウジング61には、第1ポート62がx軸方向に貫通形成され、第2シリンダ室61bのx軸負方向側の端面に開口している。第1ポート62は、第1ブレーキ回路1A,1Bの上流側に接続されており、第1ブレーキ回路1A,1Bを介してマスタシリンダMCに接続されている。すなわち、第1ポート62=マスタシリンダ圧ポートである。
【0050】
また、ハウジング61には、第2ポート65が弁の径方向に貫通形成され、第2シリンダ室61bの内周面に開口している。第2ポート65は、第1ブレーキ回路1A,1Bの下流側に接続されており、第1ブレーキ回路1A,1Bを介して前輪FL,FRのホイルシリンダ5a、5bに接続されている。すなわち、第2ポート65=ホイルシリンダ圧ポートである。
【0051】
第1シリンダ室61aの内部には、アーマチュア67がx軸方向に摺動可能に収容されている。第2シリンダ室61bの内部には、プランジャ64がx軸方向に摺動可能に収容されている。プランジャ64の段部64Bと第2シリンダ室61bのx軸負方向側の端面との間には、戻しバネ66がx軸方向に圧縮状態で設置されている。プランジャ64は、戻しバネ66のバネ力により、x軸正方向側に押し付けられている。この押し付け力により、プランジャ64のx軸正方向側の端面は、アーマチュア67のx軸負方向側の端面に当接している。
【0052】
第1ポート62の第2シリンダ室61bへの開口部には、バルブシート(弁座)63が設けられている。プランジャ64のx軸負方向側の先端部64Aは、x軸方向でバルブシート63と対向している。プランジャ64がx軸負方向側に移動することで先端部64Aがバルブシート63に当接して密着し(すなわち弁体であるプランジャ64が、弁座であるバルブシート63に着座し)、バルブシート63が閉じられる。これにより、第1ポート62と第2シリンダ室61bとの連通が遮断される。なお、第2ポート65と第2シリンダ室61bとは常に連通している。
【0053】
次に、遮断弁6の作用について説明する。プランジャ64およびアーマチュア67は、上記バネ力の他、下記電磁力や油圧力の作用により、一体となってハウジング61内をx軸方向に摺動し、変位する。該変位により、プランジャ64の先端部64Aとバルブシート63との間の距離Xvが変化する。該距離Xvはいわゆるバルブ開度に相当する。
【0054】
Xvがゼロより大きく、先端部64Aがバルブシート63から離れているとき、第1ポート62と第2シリンダ室61bとが連通する。これにより、第1ポート62(マスタシリンダMC)と第2ポート65(ホイルシリンダ5a、5b)との間でブレーキ液の流通が可能となり、遮断弁6a、6bが開弁状態となる。この開弁状態では第1ブレーキ回路1A,1Bが連通し、マスタシリンダMCとホイルシリンダ5a、5bとが連通する。なお、Xvが最大値となるとき、遮断弁6a、6bは全開状態となる。
【0055】
Xvがゼロであり、先端部64Aとバルブシート63とが当接しているとき、第1ポート62と第2ポート65との間でブレーキ液の流通が不可能となり、遮断弁6a、6bは閉弁状態となる。この閉弁状態では第1ブレーキ回路1A,1Bが遮断され、マスタシリンダMCとホイルシリンダ5a、5bとの連通が遮断される。
【0056】
よって、プランジャ64に対してx軸正方向側に作用する上記バネ力は、遮断弁6a、6bを開弁させ、第1ブレーキ回路1A,1Bを連通させる方向に作用する。
【0057】
また、コイル68は、ブレーキ制御ユニットBCUから制御電流を供給されることで電磁力を発生する。この電磁力は電流値Iに応じて変化し、電流値Iが大きくなるほど増大するとともに、アーマチュア67(およびプランジャ64)に対してx軸負方向側に作用し、アーマチュア67をx軸負方向側に引き付ける。すなわち遮断弁6a、6bを閉弁させ、第1ブレーキ回路1A,1Bを遮断する方向に作用する。
【0058】
また、プランジャ64には、油圧による力、すなわちマスタシリンダ圧とホイルシリンダ圧との差圧Δp(=マスタシリンダ圧−ホイルシリンダ圧)に、プランジャ64の断面積(軸直方向での受圧面積)Sを乗じた力が作用する。マスタシリンダ圧>ホイルシリンダ圧のとき、差圧Δp>0であり、油圧力は、x軸正方向側、すなわち遮断弁6a、6bを開き、第1ブレーキ回路1A,1Bを連通させる方向に作用する。反対に、マスタシリンダ圧<ホイルシリンダ圧のとき、差圧Δp<0であり、油圧力は、x軸負方向側、すなわち遮断弁6a、6bを閉じ、第1ブレーキ回路1A,1Bを遮断する方向に作用する。
【0059】
以上のバネ力、電磁力、および油圧力のバランスにより、プランジャ64の変位量、すなわち距離Xv(バルブ開度)が決定される。例えば、「{バネ力+油圧力}によるx軸正方向の力<電磁力によるx軸負方向の力」となったときに、遮断弁6が閉じられる。
【0060】
図4は、遮断弁6a、6bにおける、コイル68の電流値Iと開弁圧との関係を示すグラフである。ここで開弁圧とは、上記差圧Δp(=マスタシリンダ圧−ホイルシリンダ圧)に相当し、(x軸正方向に作用して)遮断弁6を開弁させる油圧力を示す。電流値Iを大きくするほど(x軸負方向に作用する)電磁力が増加し、それに比例して遮断弁6の(x軸正方向に作用する)開弁圧も上昇する。言い換えると、遮断弁6の(x軸正方向に作用する)開弁圧が上昇するのに比例して、遮断弁6を閉じるために必要な(x軸負方向の)電磁力が増加し、電流値Iが増大する。
【0061】
増圧制御弁7および減圧制御弁8も、常閉か常開かという点を除けば、遮断弁6と同様の構成を有している。
【0062】
(制御系の構成)
図1に示すように、複数の制御ユニットCUは、ハイブリッド制御ユニットHCUと、ブレーキ制御ユニットBCUと、エンジン制御ユニットECUと、を有しており、これらの制御ユニットは、情報交換が可能なCAN通信線を介して互いに接続されている。また、バッテリBにはバッテリ制御ユニットBatCUが設けられている。バッテリ制御ユニットBatCUは、バッテリBの充電状態(バッテリSOC)や充電電流等を検出してハイブリッド制御ユニットHCUに出力する。
【0063】
エンジン制御ユニットECUは、エンジンENGの作動を制御する。具体的には、エンジン回転数センサが検出したエンジン回転数Neやハイブリッド制御ユニットHCUから入力された目標エンジントルクTe*等の情報に基づき、エンジン動作点(Ne,Te)を制御する指令を、例えばスロットルバルブアクチュエータへ出力する。
【0064】
(ハイブリッド制御ユニット)
ハイブリッド制御ユニットHCUは主に、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせる機能を有している。ハイブリッド制御ユニットHCUは、アクセル開度センサから入力されるアクセル開度と車速センサから入力される車速とに基づき、目標駆動力を演算する。また、モータMには、モータ回転数を検出する回転数センサが設けられており、その検出値がハイブリッド制御ユニットHCUに入力される。
【0065】
ハイブリッド制御ユニットHCUは、目標駆動力等に基づきモータ回転数NmおよびモータトルクTmの目標値を演算する。そして、演算した目標モータ回転数Tm*等に基づき、モータMの動作点(Nm,Tm)を制御する指令をインバータIへ出力し、モータMの作動を制御する。また、目標駆動力等に基づきエンジントルクの目標値Te *を演算し、これをエンジン制御ユニットECUに出力して、エンジンENGの動作を制御する。
【0066】
また、ハイブリッド制御ユニットHCUは、所定の目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCに基づき目標充放電電力を演算する。
【0067】
さらに、ハイブリッド制御ユニットHCUは、バッテリ制御ユニットBatCUから入力されるバッテリ充電状態(バッテリSOC)や車速を考慮して、後輪側の回生制動力の指令値を算出する。この回生制動力指令値(目標回生制動力)に応じた回生制動力を発生させるように、インバータIを介してモータM(回生ブレーキ装置γ)を制御する。なお、車速が低く小さい回生制動力しか得られない場合や、充電量(バッテリSOC)がフルに近いため回生により発生した電力をバッテリBに充電できない場合は、回生ブレーキが不可能であると判断して、回生制動を行わない。また、ハイブリッド制御ユニットHCUは、算出した回生制動力指令値や、回生ブレーキ不可と判断した信号を、ブレーキ制御ユニットBCUへ出力する。
【0068】
(ブレーキ制御ユニット)
ブレーキ制御ユニットBCUは、ストロークセンサ11、マスタシリンダ圧センサ12、ホイルシリンダ圧センサ13a〜13d、車輪速センサ14a〜14dから入力される各検出値、および車両側から入力される走行状態に関する各種情報に基づき、内蔵されたプログラムに従って情報処理を行う。また、処理結果に従って液圧制御装置HUの各アクチュエータに制御指令を出力し、遮断弁6,増圧制御弁7、減圧制御弁8、およびモータM1を制御することで、各車輪の液圧制動力(ホイルシリンダ圧)を制御する。
【0069】
ブレーキ制御ユニットBCUは、運転者のブレーキ操作状態に基づき、運転者の要求制動力を算出する。運転者のブレーキ操作状態は、ブレーキペダルBPに設けられたストロークセンサ11により検出する。なお、マスタシリンダ圧センサ12やブレーキスイッチにより検出することとしてもよい。ABS制御を行わない通常ブレーキ時には、車両全体の制動力は運転者の要求制動力に応じて決定される。
【0070】
(回生協調制御を行わない場合)
図5は、通常ブレーキ時における、回生協調制御を行わない場合の前後輪の制動力配分を示す。前輪側では、ペダルストローク(ストロークSp)に応じたマスタシリンダ圧をホイルシリンダ5a、5bに直接供給することで、液圧制動力を発生する。一方、後輪側では、図15に示すフローチャートにより制御される液圧(ホイルシリンダ圧)により、車両全体の制動力から前輪側の液圧制動力を差し引いた大きさの液圧制動力を発生する。具体的には、ブレーキ制御ユニットBCUは、図6に示すような特性マップに基づき後輪側のホイルシリンダ圧の目標値を設定し、この目標値に基づきホイルシリンダ圧を制御する。
【0071】
図6は、後輪側のホイルシリンダ圧(目標値)とマスタシリンダ圧との関係を示す。後輪のホイルシリンダ圧は、後輪側の液圧制動力に略比例した値である。マスタシリンダ圧は、前輪側の液圧制動力に略比例した値である。マスタシリンダ圧が0から所定値Pmc1までの領域では、マスタシリンダ圧に対する後輪ホイルシリンダ圧の傾きa1は1であり、マスタシリンダ圧に等しい後輪ホイルシリンダ圧となる。一方、マスタシリンダ圧がPmc1以上の領域では、マスタシリンダ圧に対する後輪ホイルシリンダ圧の傾きa2は例えば0.4程度に設定されており、マスタシリンダ圧の増分よりも後輪ホイルシリンダ圧の増分が小さくなっている。なお、上記所定値Pmcは例えば3〜5MPa程度の値に設定されている。
【0072】
(回生協調制御を行う場合)
ブレーキ制御ユニットBCUは、ブレーキペダルBPが踏み込まれて制動する際、車両全体の制動力を維持するように、液圧ブレーキ装置βを回生ブレーキ装置γと協調して制御する。例えば、運転者の要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、液圧制御装置HUに制御信号を出力して、上記不足分を補う液圧制動力を発生させる。
【0073】
図7は、通常ブレーキ時における、回生協調制御を行う場合の前後輪の制動力配分を示す。後述するように、回生制動力が付与されない前輪側では、図8に示す特性マップによりホイルシリンダ圧の目標値を設定し、この目標値に基づきホイルシリンダ圧を制御することで液圧制動力を発生する。一方、後輪側では、所定の回生制動力を発生するとともに、図15に示すフローチャートにより制御されるホイルシリンダ圧により、車両全体の制動力から前輪側の液圧制動力および後輪側の回生制動力を差し引いた大きさの液圧制動力を発生する。これにより、回生協調制御を行わない場合(図5)と同等の、車両全体の制動力を発生する。以下、これらの液圧制御について具体的に説明する。
【0074】
ブレーキ制御ユニットBCUは、回生制動力が付与される後輪RL,RR(駆動輪)については、車両全体の制動力から後輪側の回生制動力指令値と前輪側の(ホイルシリンダ圧目標値から算出される)液圧制動力目標値とを差し引くことで、後輪側の液圧制動力目標値を算出する。そして、算出した液圧制動力を液圧に変換することで、各後輪RL,RRのホイルシリンダ圧目標値を算出する。ブレーキ制御ユニットBCUは、このように算出したホイルシリンダ圧目標値に基づき、各後輪RL,RRのホイルシリンダ圧を制御する。
【0075】
前輪FL,FR(従動輪)については、(マスタシリンダ圧により発生させる)ホイルシリンダ圧の目標値を、回生協調制御を行わない場合よりも低く設定する。このように設定したホイルシリンダ圧目標値に基づき、各前輪FL,FRのホイルシリンダ圧を制御する。これによる前輪側の液圧制動力の減少分については、後輪側の回生制動力指令値を増加させることで埋め合わせ、車両全体の制動力を維持することとしている。すなわち、図7に示すように、後輪側の液圧制動力の大きさは略そのままとしつつ、後輪側の回生制動力のみを、前輪側の液圧制動力の上記減少分だけ増加させる。
【0076】
(ストローク−圧力の関係)
図8は、本実施例1における、ブレーキペダルBPのストロークSpと圧力(マスタシリンダ圧、前輪側のホイルシリンダ圧)との関係を示したものである。これらの関係は、ブレーキ制御ユニットBCUにおいて特性マップとして記憶されており、マスタシリンダ圧目標値および前輪側のホイルシリンダ圧目標値を算出する際に参照される。
【0077】
運転者が高い制動力を必要としない緩制動時のストローク域として、所定のストロークSpo以下の緩制動ストローク域(0≦Sp≦Spo)が予め定められている。また、運転者が高い制動力を必要とする急制動時のストローク域として、上記所定のストロークSpoよりも大きい急制動ストローク域(Sp>Spo)が予め定められている。Spoは、上記ストローク域(0≦Sp≦Spo)での制動Gが例えば0.3G相当以下となるように、30〜40mm以下の値に設定されている。
【0078】
ブレーキペダルBPのストロークSpに応じてホイルシリンダ圧(液圧制動力)の目標値が設定されている。緩制動ストローク域(0≦Sp≦Spo)が、前輪FL,FRの減圧制御領域に設定されており、この領域では、ホイルシリンダ圧目標値=0である。急制動ストローク域(Sp>Spo)が、前輪FL,FRの増圧制御領域に設定されている。この領域では、ホイルシリンダ圧目標値は、ストロークSpがSpoから増大するにつれて、0から徐々に増加し始める。また、ホイルシリンダ圧目標値の増加勾配も徐々に増大する。ストロークSpが所定値以上となると、上記増加勾配が一定となり、ストロークSpに比例してホイルシリンダ圧目標値が増加するようになる。
【0079】
また、運転者のブレーキペダルBPの踏み込みに対して理想的なブレーキペダル反力が得られるように、ストロークSpに対するマスタシリンダ圧目標値が設定されている。前輪減圧制御領域では、マスタシリンダ圧目標値は、ストロークSpが0のときに最小値Pmoであり、ストロークSpが0から増大するにつれて徐々に増加し始め、その増加勾配も徐々に増大する。ストロークSpが所定値(<Spo)以上となると、上記増加勾配が一定となり、ストロークSpに比例してマスタシリンダ圧目標値が増加するようになる。ストロークSp=Spoのときのマスタシリンダ圧目標値=Pm1に設定されている。一方、前輪増圧制御領域では、マスタシリンダ圧目標値は、ストロークSpに比例して(ホイルシリンダ圧目標値と略同じ増加勾配で)増加し続ける。
【0080】
また、差圧Δp(=マスタシリンダ圧−ホイルシリンダ圧)が、遮断弁6の(x軸正方向に作用する)開弁圧に相当する。前輪減圧制御領域では、ホイルシリンダ圧=0に制御されるため、差圧Δp=マスタシリンダ圧である。よって、遮断弁6の開弁圧は、ストロークSpが0から増大するにつれて値Pmoから徐々に増大し、ストロークSpoのときに値Pm1となる。
【0081】
(自動ブレーキ制御等を行う場合)
また、ブレーキ制御ユニットBCUは、自動ブレーキ制御を実行可能に設けられている。例えばVDC制御では、車両側に設けられた車両挙動センサから入力される車両挙動を示す信号に基づき、車両ヨーモーメントの制御に要求される制動力(これを要求制動力1とする)を各輪毎に演算する。そして、各輪毎に、運転者の要求制動力と要求制動力1を加算することで、VDC制動力を演算する。またBA制御では、衝突回避制御等の他のロジックからの入力に基づきアシスト要求制動力を演算し、これと運転者の要求制動力とを加算することで、BA制動力を演算する。
【0082】
そして、これらのVDC制動力やBA制動力から、各輪におけるホイルシリンダ圧目標値(VDC指令圧等)を演算する。上記演算されたホイルシリンダ圧目標値とホイルシリンダ圧センサ13から入力された検出値とに基づき、ホイルシリンダ圧を制御することで、自動ブレーキ制御を実行する。
【0083】
また、ブレーキ制御ユニットBCUは、ABS制御を実行可能に設けられている。ABS制御では、ホイルシリンダ圧の検出値に基づき路面μを推定し、所定のタイヤモデルに基づき、当該輪のロックを防止しつつ最大の制動力を得ることができるホイルシリンダ圧を、目標値として演算する。なお、車輪速センサ14で検出した各輪の車輪速および車輪加速度と、各車輪速に基づき推定した疑似車体速とに基づき、最適なスリップ率を実現するホイルシリンダ増減圧量を演算する、周知の方法を採用してもよい。なお、自動ブレーキ制御よりもABS制御のほうが優先的に実行される。
【0084】
また、自動ブレーキ制御やABS制御の実行時には回生協調制御を行わない。
【0085】
次に、ブレーキ制御ユニットBCUで実行される、回生協調制御における液圧制御の流れを説明する。まず、図9〜図14に基づき前輪側の制御を説明し、次に、図15に基づき後輪側の制御を説明する。
【0086】
(前輪マスタシリンダ圧:遮断弁の制御)
図9は、前輪側の第1ブレーキ回路1に設けられた遮断弁6の制御フローチャートを示す。
【0087】
ステップS11では、運転者のブレーキ操作状態および車両側から送られる信号に基づき、前輪側の制御を開始するか否かを判断する。図10は、S11の具体的な内容を示す。
【0088】
まず、S41で、運転者のブレーキ操作状態を検出する。運転者によりブレーキペダルBPが踏み込まれたことを検出すると、S42へ移行する。ブレーキペダルBPの踏み込みを検出しなければ、S44へ移行して前輪側の制御を開始しないと判断する。
【0089】
S42では、ハイブリッド制御ユニットHCUからの信号に基づき、回生ブレーキの実行が可能であるか否かを判断する。回生ブレーキが可能であれば、S43へ移行して前輪側の制御を開始すると判断する。回生ブレーキが不可能であれば、S44へ移行して前輪側の制御を開始しないと判断する。
【0090】
S11(S43)で前輪側の制御の開始を判断すると、S12へ移行する。一方、S11(S44)で前輪側の制御が不要と判断すると、S18へ移行して遮断弁制御を行わない。すなわち、電流値I=0として遮断弁6a、6bを全開状態に保つ。これにより、ストロークSpに応じたマスタシリンダ圧がホイルシリンダ5a、5bに直接供給されることで前輪側の液圧制動力が発生する。
【0091】
S12では、遮断弁6a、6bの開弁圧を初期値であるPm0に設定する。すなわち、図4のグラフに従い、開弁圧Pm0を実現する電流値Iを遮断弁6a、6bのコイル68に流す。その後、S13へ移行する。
【0092】
S13では、ストロークセンサ11からストロークSpの検出値の入力を受け、S14へ移行する。
S14では、ホイルシリンダ圧センサ13a、13bから前輪ホイルシリンダ圧の検出値の入力を受け、S15に移行する。
【0093】
S15では、検出されたストロークSpに基づき、図8の特性マップを用いてマスタシリンダ圧目標値を算出し、S16へ移行する。
【0094】
S16では、遮断弁6a、6bの開弁圧を(マスタシリンダ圧目標値−ホイルシリンダ圧検出値)に設定する。すなわち、図4のグラフに従い、開弁圧=(マスタシリンダ圧目標値−ホイルシリンダ圧検出値)を実現する電流値Iを遮断弁6a、6bのコイル68に流す。その後、S17へ移行する。
【0095】
S17では、運転者のブレーキ操作状態および車両側から送られる信号に基づき、前輪側の制御を終了するか否かを判断する。図11は、S17の具体的な内容を示す。
【0096】
まず、S51で、運転者が要求する減速度(制動力)の大きさを判断する。要求減速度が所定値未満であれば、S52へ移行する。要求減速度が所定値以上であれば、S54へ移行して前輪側の制御を終了すると判断する。運転者の要求減速度は、ストロークセンサ11またはマスタシリンダ圧センサ12の検出値に基づき検出する。また、上記所定値は、車両減速度が大きくなり、車両挙動の安定性が低下するおそれが生じ始める減速度(例えば0.4G以上)に設定する。
【0097】
S52〜S54は、S42〜S44と同様である。S52で回生ブレーキ可能と判断すれば、S53へ移行して前輪側の制御を終了しないと判断する。回生ブレーキ不可と判断すれば、S54へ移行して前輪側の制御を終了すると判断する。
【0098】
S17(S54)で前輪側の制御の終了を判断すると、S100へ移行して終了処理を実行する。S17(S53)で前輪側の制御を終了しないと判断すると、S13へ戻る。すなわち、前輪側の制御終了を判断するまで、S13からS17までの処理を繰り返す。
【0099】
このようにS13からS17までの処理を繰り返すことで、図8の特性マップにおけるストロークSpに応じたマスタシリンダ圧目標値と一致するように、実際のマスタシリンダ圧が制御される。これにより、運転者が操作するブレーキペダルBPのストロークSpに応じて、理想的なブレーキペダル反力が得られる。
【0100】
(前輪ホイルシリンダ圧:減圧制御弁の制御)
図12は、前輪側のリターン回路に設けられた減圧制御弁8a、8bの制御フローチャートを示す。
【0101】
ステップS21では、S11と同様にして、前輪側の制御を開始するか否かを判断する。制御を開始する場合、S22へ移行する。前輪側の制御が不要な場合、S26へ移行して減圧制御弁8a、8bの制御を行わない。すなわち、電流値=0として減圧制御弁8a、8bを全閉状態に保つ。なお、S26では増圧制御弁7a、7bの制御も行わず、増圧制御弁7a、7bを全閉状態に保つ。
【0102】
S22では、ストロークセンサ11からストロークSpの検出値の入力を受け、S23へ移行する。
【0103】
S23では、検出されたストロークSpが、緩制動ストローク域(0≦Sp≦Spo)にあるか否か、すなわち前輪減圧制御領域にあるか否かを判断する。0≦Sp≦Spoである場合は、S24へ移行し、Sp>Spoである場合は、S26へ移行する。
【0104】
S24では、増圧制御弁7a、7bを全閉状態に保つ一方、減圧制御弁8a、8bを開弁状態とする。その後、S25へ移行する。
【0105】
S25では、S17と同様にして、前輪側の制御を終了するか否かを判断する。終了する場合はS100へ移行し、終了処理を実行する。終了しない場合はS22へ戻る。
【0106】
このように、ストロークSpが前輪減圧制御領域(0≦Sp≦Spo)にある間は、前輪側の制御終了を判断するまで、前輪FL,FRのホイルシリンダ圧を抜き減圧して目標値=0になるように制御する(S22〜S25)。この値(=0)はホイルシリンダ圧センサ13a、13bにより検出されて、ブレーキ制御ユニットBCUに入力され、遮断弁6a、6bの制御ロジック(S16)に用いられる。
【0107】
一方、ストロークSpが前輪増圧制御領域(Sp>Spo)にある間は、増圧制御弁7a、7bおよび減圧制御弁8a、8bを閉弁状態に保ち(S23→S26)、前輪側の制御終了を判断するまで、この状態で遮断弁6a、6bの開弁圧を制御する(S13〜S16)。これによりマスタシリンダ圧が目標値と一致するように制御されるとともに、前輪ホイルシリンダ圧も0から上昇し、ストロークSpに応じた目標値(図8の特性マップ)に制御される。
【0108】
(前輪の終了処理)
図13は、前輪制御の終了処理の流れを示すフローチャートである。終了処理では、前輪ホイルシリンダ圧を制御する。
【0109】
ステップS101では、マスタシリンダ圧センサ12から(前輪制御終了時の)マスタシリンダ圧の検出値の入力を受け、S102へ移行する。
【0110】
S102では、前輪のホイルシリンダ圧目標値をマスタシリンダ圧の上記検出値に設定して、S103へ移行する。
【0111】
S103では、ホイルシリンダ圧センサ13a,13bの検出値と上記ホイルシリンダ圧目標値とに基づき、前輪ホイルシリンダ圧を増圧するか否かを判断する。増圧する場合、S104へ移行し、増圧しない場合、S109へ移行する。
【0112】
S104では、前輪側の増圧制御弁7a、7bを開き、第2ブレーキ回路2(油路2a、2b)を連通させる。また、前輪側の減圧制御弁8a、8bを閉じ、モータM1を制御してポンプPを駆動する。なお、モータ回転数(ポンプ吐出量)は、前後輪のホイルシリンダ圧目標値を確実に得ることができる最大値に維持する(以下、同様)。これにより、ポンプ圧が、第2ブレーキ回路2を介してホイルシリンダ5a、5bに供給され、前輪ホイルシリンダ圧が増圧される。その後、S105へ移行する。
【0113】
S105では、ホイルシリンダ圧センサ13a、13bの検出値に基づき、ホイルシリンダ圧が上記目標値に到達したか否かを判断する。目標値に到達した場合、S106へ移行する。到達していない場合、S104へ戻り、引き続きホイルシリンダ5a、5bの増圧を行う。
【0114】
S106では、増圧制御弁7a、7bを閉じ、第2ブレーキ回路2(油路2a、2b)を遮断する。また、モータM1をオフし、ポンプPの駆動を停止して、ポンプ圧によるホイルシリンダ圧の増圧を終了する。その後、S107へ移行する。
【0115】
S107では、前輪ホイルシリンダ圧制御の終了を判断する。すなわち、ホイルシリンダ圧の検出値がマスタシリンダ圧の検出値と一致していない場合、S103へ戻ってホイルシリンダ圧の制御を続ける。ホイルシリンダ圧の検出値がマスタシリンダ圧の検出値と一致している場合、S108へ移行する。
【0116】
S108では、遮断弁6a、6bを全開状態とする。また、増圧制御弁7a、7bおよび減圧制御弁8a、8bを全閉状態として、モータM1をオフとする。すなわち、これらの弁6,7,8を初期状態に戻してホイルシリンダ圧制御を終了する。
【0117】
S109では、ホイルシリンダ圧の上記目標値と検出値とに基づき、前輪ホイルシリンダ圧を減圧するか否かを判断する。減圧する場合、S110へ移行し、減圧しない場合、S113へ移行する。
【0118】
S110では、増圧制御弁7a、7bを閉じ、第2ブレーキ回路2(油路2a、2b)を遮断する。また、減圧制御弁8a、8bを開き、リザーバRESとホイルシリンダ5a、5bとを連通させ、ホイルシリンダ圧をリザーバRESに抜き減圧する。その後、S111へ移行する。
【0119】
S111では、ホイルシリンダ圧が目標値に到達したか否かを判断する。目標値に到達した場合、S112へ移行する。到達していない場合、S110へ戻り、引き続きホイルシリンダ5a、5bの減圧を行う。
【0120】
S112では、減圧制御弁8a、8bを閉じ、リザーバRESとホイルシリンダ5a、5bとの間を遮断することで、ホイルシリンダ圧の減圧を終了する。その後、上記S107へ移行する。
【0121】
S113では、ホイルシリンダ圧を増圧も減圧もしない、すなわち保持する。増圧制御弁7a、7bを閉じて第2ブレーキ回路2(油路2a、2b)を遮断し、減圧制御弁8a、8bを閉じる。よって、当該前輪のホイルシリンダ5a、5b内のブレーキ液は、増圧制御弁7と減圧制御弁8とにより封じ込められることとなり、ホイルシリンダ圧が保持される。その後、上記S107へ移行する。
【0122】
図14は、前輪制御終了時に上記終了処理を行った際の、マスタシリンダ圧および前輪ホイルシリンダ圧のタイムチャートを示す。
【0123】
前輪制御中、ブレーキペダルBPのストロークSpは前輪減圧制御領域(0≦Sp≦Spo)にあるものとする。前輪制御中は、遮断弁6の開弁圧を制御することで、マスタシリンダ圧がストロークSpに応じた所定値に制御される。また、減圧制御弁8a、8bが開かれることで、ホイルシリンダ圧は0に制御される。
【0124】
前輪の制御終了が判断され、終了処理(S100)が開始されると、前輪ホイルシリンダ圧の目標値がマスタシリンダ圧(検出値)に設定され、前輪ホイルシリンダ圧がこの目標値(=マスタシリンダ圧)に一致するように増圧制御される(S101〜S105)。なお、この増圧制御による前輪側の液圧制動力の増加に応じて、後輪側の回生制動力を減少させることで、車両全体の制動力のバランスを保つ。
【0125】
そして、前輪ホイルシリンダ圧がマスタシリンダ圧と一致すると、前輪ホイルシリンダ圧の制御終了が判断され(S107)、遮断弁6が全開にされる(S108)。その後、ブレーキペダルBPが戻されるのに応じて、カップ状シール部材によりマスタシリンダMCの液圧室(加圧室)とリザーバRESが連通し、マスタシリンダ圧と一致したままホイルシリンダ圧が減圧される。
【0126】
このように、本実施例1の終了処理では、マスタシリンダ圧とホイルシリンダ圧の差圧をなくした後に遮断弁6を開く。よって、遮断弁6の開弁時におけるブレーキペダルBPのストロークSpの急激な変動が抑制され、自然なペダル操作フィーリングが実現される。
【0127】
(後輪ホイルシリンダ圧)
図15は、後輪側のホイルシリンダ圧制御のフローチャートを示す。
【0128】
ステップS201では、前輪側の制御開始判断ステップS11と同様にして、運転者のブレーキ操作状態および車両側から送られる信号に基づき、後輪側のホイルシリンダ圧制御を開始するか否かを判断する。後輪側の制御開始を判断するとS202へ移行し、制御開始を判断しなければS207へ移行する。
【0129】
S202では、別途演算された後輪のホイルシリンダ圧目標値とホイルシリンダ圧センサ13c、13dの検出値とに基づき、ホイルシリンダ圧を増圧するか否かを判断する。増圧する場合、S203へ移行し、増圧しない場合、S208へ移行する。
【0130】
S203では、増圧制御弁7c、7dを開き、第2ブレーキ回路2(油路2c、2d)を連通させる。また、減圧制御弁8c、8dを閉じ、モータM1を制御してポンプPを駆動する。これにより、ポンプ圧が増圧制御弁7c、7d(第2ブレーキ回路2)を介してホイルシリンダ5c、5dに供給され、後輪のホイルシリンダ圧が増圧される。その後、S204へ移行する。
【0131】
S204では、ホイルシリンダ圧センサ13c、13dの検出値に基づき、ホイルシリンダ圧が目標値に到達したか否かを判断する。目標値に到達した場合、S205へ移行する。到達していない場合、S203へ戻り、引き続きホイルシリンダ5c、5dの増圧を行う。
【0132】
S205では、増圧制御弁7c、7dを閉じ、第2ブレーキ回路2(油路2c、2d)を遮断する。また、モータM1をオフし、ポンプPの駆動を停止して、ポンプ圧による後輪ホイルシリンダ圧の増圧を終了する。その後、S206へ移行する。
【0133】
S206では、前輪側の制御終了判断ステップS17と同様にして、後輪側のホイルシリンダ圧制御を終了するか否かを判断する。制御を続ける場合はS202へ戻り、制御を終了する場合はS207へ移行する。
【0134】
S207では、モータM1をオフとし、増圧制御弁7c、7dを閉じるとともに減圧制御弁8c、8dを開く。これにより後輪ホイルシリンダ圧を0まで減圧する。すなわち、これらの弁7,8を初期状態に戻してホイルシリンダ圧制御を終了する。
【0135】
S208では、別途演算された後輪のホイルシリンダ圧目標値と検出値とに基づき、ホイルシリンダ圧を減圧するか否かを判断する。減圧する場合、S209へ移行し、減圧しない場合、S212へ移行する。
【0136】
S209では、増圧制御弁7c、7dを閉じ、第2ブレーキ回路2(油路2c、2d)を遮断する。また、減圧制御弁8c、8dを開き、リザーバRESとホイルシリンダ5c、5dとを連通させ、ホイルシリンダ圧をリザーバRESに抜き減圧する。その後、S210へ移行する。
【0137】
S210では、ホイルシリンダ圧センサ13c、13dの検出値に基づき、ホイルシリンダ圧が目標値に到達したか否かを判断する。目標値に到達した場合、S211へ移行する。到達していない場合、S209へ戻り、引き続きホイルシリンダ5c、5dの減圧を行う。
【0138】
S211では、減圧制御弁8c、8dを閉じ、リザーバRESとホイルシリンダ5c、5dとの間を遮断することで、ホイルシリンダ圧の減圧を終了する。その後、上記S206へ移行する。
【0139】
S212では、後輪ホイルシリンダ圧を増圧も減圧もしない、すなわち保持する。増圧制御弁7c、7dを閉じて第2ブレーキ回路2(油路2c、2d)を遮断し、減圧制御弁8c、8dを閉じる。よって、後輪のホイルシリンダ5c、5d内のブレーキ液は、増圧制御弁7と減圧制御弁8とにより封じ込められることとなり、ホイルシリンダ圧が保持される。その後、上記S206へ移行する。
【0140】
なお、以上の制御フローは、回生協調制御だけでなくVDC制御等の自動ブレーキ制御でも基本的に同様である。また、S201とS202の間に遮断弁6を閉じるステップを設け、S207で遮断弁6を開く(とともに減圧制御弁8を閉じる)処理を追加することで、VDC制御等の自動ブレーキ制御における前輪側の制御フローを実現できる。
【0141】
[実施例1の効果]
以下、本実施例1から把握される本発明の車両用ブレーキ装置の作用効果を列挙する。
【0142】
(1)本発明の車両用ブレーキ装置は、車両の駆動輪RL,RRを駆動するモータMを備え、回生制動時にはモータMをジェネレータとして回生ブレーキを実施する車両用ブレーキ装置において、マスタシリンダMCと、マスタシリンダMCと連動し運転者の踏力により作動するブレーキペダルBPと、マスタシリンダMCを作動させる倍力装置BSと、車両の各車輪に設けられたホイルシリンダ5a〜5dと、倍力装置BSにより昇圧されたブレーキ液を少なくとも従動輪FL,FRのホイルシリンダ5a、5bに供給する第1ブレーキ回路1と、を備え、回生制動実施時に上記(従動輪FL,FRに供給される)ブレーキ液の液圧を低減させる一方、駆動輪RL,RRの回生制動力を増加させることとした。
【0143】
すなわち、従来、液圧制動力を回生制動力と協調して制御し、かつブレーキペダル操作フィーリングを確保する車両用ブレーキ装置として、いわゆるブレーキバイワイヤ(以下、BBWという)と呼ばれるシステムが用いられている。このシステムは、ブレーキペダルとホイルシリンダとの間がメカ的に接続されておらず、運転者によるブレーキペダル操作量を電気的に検出し、該検出値および各種車両情報に基づきホイルシリンダ圧を電気的に制御する。言い換えれば、ブレーキペダル操作によってマスタシリンダに発生する液圧がそのままホイルシリンダに供給されることはなく、マスタシリンダとは別の電気的加圧手段(電動ポンプ)により、ホイルシリンダ圧(液圧制動力)が制御される。また、ブレーキペダル操作フィーリングは、運転者操作により発生するマスタシリンダ圧を擬似的な負荷(ストロークシミュレータ)に作用させることで確保する。
【0144】
しかし、上記BBWシステムは、倍力装置を有しておらず、ホイルシリンダ圧を電気的に制御することから、電源系やコントロールユニットの信頼性確保が必要である。信頼性確保のためには電気系の冗長系を組むことが一般的である。よって、上記擬似的な負荷を設ける必要性と併せて、システム全体が大型化・複雑化し、また高コスト化する、という問題があった。
【0145】
これに対し、本実施例1の車両用ブレーキ装置は、倍力装置BSを有し、ブレーキペダルBPとホイルシリンダ5との間がメカ的に接続されており、運転者のブレーキ操作により発生するマスタシリンダ圧がホイルシリンダ5に直接付与される従来式の(BBWとは異なる)液圧ブレーキ装置βを用いる。このため、回生協調制御を行うブレーキ装置全体の小型化・簡素化を図ることができ、低コスト化を実現できる。
【0146】
すなわち、液圧源(ポンプP)を作動させる電気系統が失陥した場合(第2ブレーキ回路2による増圧が不能となった場合)でも、マスタシリンダMCを作動させる倍力装置BSによって運転者の踏力がアシストされる(第1ブレーキ回路1による増圧が可能である)ため、ブレーキ力低下のおそれがない。よって、信頼性確保のため電気系統(CPUやセンサ系統)を冗長系にする必要がなく、擬似負荷も不要である。したがって、装置の小型化や簡素化が図れ、低コスト化を実現できる。
【0147】
また、回生制動を実施して回生協調制御を行う際、マスタシリンダMCから前輪(従動輪)のホイルシリンダ5a、5bに供給されるブレーキ液圧を低減させる一方、この前輪側の液圧制動力の減少分だけ、後輪側の回生制動力を増加させる。具体的には、回生制動力指令値を通常よりも大きな(ただし、機械的・電気的最大値以下の)値に設定し、この値に応じた回生制動力を後輪に発生させる。よって、車両全体の制動力を維持しつつ、回生により回収される運動エネルギ(回生エネルギ)を増大できる。
【0148】
(2)具体的には、ブレーキペダルBPの作動量(ストロークSp)を検出する作動量検出手段(ストロークセンサ11)を設け、回生制動実施時に、検出された作動量(ストロークSp)が所定値Spo以下のときは、上記(従動輪FL,FRに供給される)ブレーキ液の液圧を0とする一方、駆動輪RL,RRの回生制動力を増加させることとした。
【0149】
すなわち、所定の緩制動ストローク域(0≦Sp≦Spo)を前輪減圧制御領域とし、この領域では、前輪のホイルシリンダ圧を減圧して0とする一方、その分だけ後輪側の回生制動力を増大させる。このように、前輪のホイルシリンダ圧(液圧制動力)の減少分は、後輪の液圧制動力を増大させることで埋め合わせるのではなく、回生制動力の増大により埋め合わせる。よって、通常の使用頻度が高いストローク域(0≦Sp≦Spo)で、車両全体の制動力を維持しつつ、回生エネルギを増大できる。
【0150】
なお、前輪のホイルシリンダ圧を減圧して0とする制御は、運転者が高い制動力を必要としない緩制動ストローク域(0≦Sp≦Spo)に限定されているため、前輪(従動輪)の液圧制動力を0とすることで車両挙動が不安定になるといった不都合は発生しない。
【0151】
(3)ホイルシリンダ圧の減圧時に低圧部(リザーバRES)と連通する減圧回路(リターン回路)と、減圧回路(リターン回路)に設けられ、ホイルシリンダ5a、5bと低圧部(リザーバRES)の断接を行う減圧制御弁8a、8bと、を有し、ブレーキ液圧を低減させるときに、減圧制御弁8a、8bを開弁することとした。
【0152】
すなわち、減圧制御弁8a〜8bの開弁によりホイルシリンダ5a〜5bから排出されるブレーキ液は、リザーバRESに戻される。ブレーキペダルBPが戻されると、マスタシリンダMCの液圧室(加圧室)とリザーバRESが連通し、戻されたブレーキ液はマスタシリンダMCの液圧室に再び吸入される。よって液量収支の問題を発生させずに、ホイルシリンダ圧の減圧(S24,S110,S207,S209)を円滑に行うことができる。特に、第1ブレーキ回路1を介さずに減圧を行うことが可能であるため、以下の作用効果を得ることができる。
【0153】
本発明のブレーキ装置とは異なり、第1ブレーキ回路が減圧回路を兼ねる構成、すなわち、ホイルシリンダ圧の減圧時にホイルシリンダからのブレーキ液がマスタシリンダの液圧室(加圧室)に戻される構成である従来の液圧ブレーキ装置では、ホイルシリンダ圧の減圧時にブレーキペダルが押し戻され、運転者に違和感を与えるおそれがある。すなわち、ブレーキペダルの反力を適切に保ちつつ、ホイルシリンダ圧を減圧制御するのは困難だった。
【0154】
これに対し、本発明の液圧ブレーキ装置βでは、リザーバRESはマスタシリンダMCの背圧側に連通しており、リターン回路によりホイルシリンダ圧を減圧する際、ブレーキ液がリザーバRES(マスタシリンダMCの背圧側)に抜ける。このため、回生協調制御やABS制御においてホイルシリンダ圧を減圧する際、ブレーキペダルBPに作用する反力を考慮する必要がなく、減圧制御弁8a、8bを開くだけで足りる。したがって、ホイルシリンダ圧の減圧制御が簡単かつ確実となり、円滑かつ精度良く減圧を実行できる。
【0155】
(4)ブレーキペダルBPの作動量(ストロークSp)を検出する作動量検出手段(ストロークセンサ11)と、第1ブレーキ回路1中には、マスタシリンダMCとホイルシリンダ5a、5bとの間を断接する第1制御弁(遮断弁6a、6b)と、を設け、回生制動実施時に、検出された作動量(ストロークSp)に応じて第1制御弁(遮断弁6a、6b)の開弁圧を制御することとした。
【0156】
このように遮断弁6の開弁圧をストロークSpに応じて制御することで、ブレーキペダルBPに反力を伝達するマスタシリンダ圧の大きさを、ストロークSpに応じて任意に制御できる。よって、ストロークシミュレータ等の擬似負荷発生手段を別に設けなくても、運転者のブレーキ操作に応じたブレーキペダル反力を任意に生成できる。したがって、ブレーキペダルBPとホイルシリンダ5との間がメカ的に接続された液圧ブレーキ装置βを用いても、適切なブレーキペダル操作フィールを確保しつつ回生協調制御を実現できる。
【0157】
なお、上記(3)の構成と併せると、前輪ホイルシリンダ圧の減圧が遮断弁6の開弁圧制御に干渉することがないため、ブレーキペダル反力の生成と、回生制動力の増加に必要な前輪ホイルシリンダ圧の減圧とを互いに独立して行うことができる。
【0158】
(5)第1ブレーキ回路1に設けられ、マスタシリンダMCとホイルシリンダ5a、5bとの間を断接する第1制御弁(遮断弁6a、6b)と、ホイルシリンダ圧の減圧時に低圧部(リザーバRES)と連通する減圧回路(リターン回路)と、減圧回路(リターン回路)に設けられ、ホイルシリンダ5a、5bと低圧部(リザーバRES)との間を断接する減圧制御弁8a、8bと、を有することとした。
【0159】
このように減圧回路(リターン回路)および減圧制御弁8a、8bを設けたため、第1ブレーキ回路1を経由しないでホイルシリンダ圧を減圧することができる。また、第1制御弁(遮断弁6a、6b)を制御することで、ブレーキペダル反力を任意に生成できる。このようにマスタシリンダ圧(ブレーキペダル反力)と前輪ホイルシリンダ圧(液圧制動力)を独立に制御することができるため、(回生制動力の増加に必要な)前輪ホイルシリンダ圧の減圧と、ブレーキペダル反力の生成とを両立できる。したがって、ブレーキペダルBPとホイルシリンダ5a、5bとの間がメカ的に接続された液圧ブレーキ装置βを用いても、適切なブレーキペダル操作フィールを確保しつつ、前輪側の液圧制動力を減少させることができ、これにより後輪側の回生制動力を増加できる。
【0160】
(6)倍力装置BSとは別に設けられブレーキ液を昇圧するための液圧源(ポンプP)と、第1ブレーキ回路1に対して並列に設けられ、液圧源(ポンプP)により昇圧されたブレーキ液をホイルシリンダ5a〜5dに供給する第2ブレーキ回路2と、第2ブレーキ回路2中に設けられ、液圧源(ポンプP)とホイルシリンダ5a〜5dとの間を断接する増圧制御弁7a〜7dと、増圧制御弁7a〜7dおよび液圧源(ポンプP)の作動をコントロールするコントロールユニット(ブレーキ制御ユニットBCU)と、を有し、コントロールユニット(ブレーキ制御ユニットBCU)は、少なくとも増圧制御弁7a〜7d(のいずれか)を開制御しているときは液圧源(ポンプP)を作動させホイルシリンダ5a〜5d内を昇圧させることとした(S104,S203)。
【0161】
よって、後輪RL,RRがマスタシリンダMCとメカ的に接続されていなくても、後輪のホイルシリンダ圧を任意に制御することができる。
また、前輪のホイルシリンダ圧を減圧して回生エネルギ量を増加した後の終了処理(S100)では、遮断弁6を開く前に液圧源(ポンプP)を作動させてホイルシリンダ5a、5b内を昇圧させれば、予めマスタシリンダ圧とホイルシリンダ圧の差圧をなくすことができ(S101〜S105)、よって遮断弁6の開弁時におけるペダル操作フィーリングを向上することが可能である。
【0162】
また、前輪のホイルシリンダ5a、5bへのブレーキ液の供給経路として、運転者操作(マスタシリンダMC)による第1ブレーキ回路1と、液圧源(ポンプP)による第2ブレーキ回路2とを別々に設け、前輪のホイルシリンダ圧を増圧する際、(遮断弁6a、6bや増圧制御弁7a、7bを制御することで)第1ブレーキ回路1と第2ブレーキ回路2を適宜選択することとした。よって、運転者操作による増圧と液圧源による増圧との干渉を防止し、制御性およびペダル操作フィーリングを改善できる。具体的には、以下の効果が得られる。
【0163】
第1に、例えばVDC制御中、制御輪のホイルシリンダ(例えば5a)については第2ブレーキ回路2を選択し、非制御輪のホイルシリンダ(例えば5b)については第1ブレーキ回路1を選択する。よって、VDC制御中に運転者が踏み増した場合、非制御輪のホイルシリンダ5bにマスタシリンダMCから直接ブレーキ液を供給できる。したがって、運転者意思を直接的に反映でき、制御性を向上できる。また、ブレーキペダルBPのストロークが確保されるため、ペダル操作フィーリングも良い。
【0164】
第2に、運転者操作により増圧する通常ブレーキ時は、第1ブレーキ回路1を選択してマスタシリンダ圧により遮断弁6を介した増圧とする。一方、液圧源(ポンプP)により増圧する制御ブレーキ(VDC制御等)時には、第2ブレーキ回路2でポンプ圧により増圧制御弁7を介した増圧とする。これにより、第1ブレーキ回路1と第2ブレーキ回路2の特性を互いに独立に設定できる。例えば、遮断弁6のバルブシート径を通常ブレーキに適した設定とし(例えばシート径大として増圧応答性を向上)、増圧制御弁7のバルブシート径を制御ブレーキ(ホイルシリンダ圧制御)に適した設定(例えばシート径小として制御精度を向上)とすることができる。したがって、通常ブレーキ時の応答性を向上できるとともに、制御ブレーキ時の制御精度を向上できる。
【0165】
第3に、BA制御中、第1ブレーキ回路1を介して運転者のブレーキ操作により生じるマスタシリンダ圧をホイルシリンダ5a、5bに供給しつつ、(運転者のブレーキ操作とは無関係にブレーキ液を供給することが可能な)第2ブレーキ回路2を介してポンプ圧をホイルシリンダ5a、5bに供給する。第2ブレーキ回路2では、液圧源(ポンプP)は、マスタシリンダMCを介さずリザーバRESから直接ブレーキ液を吸入するため、マスタシリンダMC(ピストン)の移動速度とは無関係にホイルシリンダ圧を増圧することができる。これによりBA制御中、マスタシリンダMCにより増圧しつつ、液圧源(ポンプP)を作動させることで、運転者の操作速度以上の速度でホイルシリンダ圧を増圧できる。よって、BA制御におけるホイルシリンダ圧の増圧応答性を向上できる。
【0166】
(7)回生制動終了時にはホイルシリンダ圧に応じて第1制御弁(遮断弁6)を制御することとした。
【0167】
すなわち、本実施例1の終了処理(S100)では、前輪ホイルシリンダ圧をマスタシリンダ圧と一致させた後に(S101〜S107)、遮断弁6を開弁することとした(S108)。よって、遮断弁6の開弁時におけるブレーキペダルBPのストロークSpの急激な変動が抑制され、自然なペダル操作フィーリングを実現できる。
【実施例2】
【0168】
実施例2の車両用ブレーキ装置は、実施例1の特性マップ(図8)におけるブレーキペダルBPのストロークSpとマスタシリンダ圧(目標値)との関係を変更し、それに応じて遮断弁6の制御ロジックを変更したものである。なお、その他の構成については、実施例1と同様である。
【0169】
図16は、実施例2の特性マップであり、ストロークSpと圧力(マスタシリンダ圧および前輪ホイルシリンダ圧)との関係を示す。前輪ホイルシリンダ圧の特性は実施例1(図8)と同様に設定されている。緩制動ストローク域(0≦Sp≦Spo)は前輪減圧制御領域とされ、この領域では前輪ホイルシリンダ圧目標値が0に設定されている。
【0170】
一方、マスタシリンダ圧の特性についてみると、前輪減圧制御領域(0≦Sp≦Spo)では、マスタシリンダ圧目標値が一定値Pm2に設定されている。前輪増圧制御領域(Sp>Spo)では、マスタシリンダ圧の特性曲線は、前輪ホイルシリンダ圧の特性曲線を高圧側に平行移動したような形となっており、ストロークSpがSpoから増大するにつれてPm2から徐々に増加し始める。ストロークSpが所定値(>Spo)以上になると、マスタシリンダ圧の増加勾配が一定(ホイルシリンダ圧の増加勾配と略同じ)となり、ストロークSpに比例してマスタシリンダ圧が増加する。
【0171】
(前輪マスタシリンダ圧:遮断弁制御)
図17は、実施例2のブレーキ制御ユニットBCUで実行される、遮断弁6の制御フローチャートを示す。
【0172】
S31では、実施例1のS11(図9)と同様にして、前輪側の制御を開始するか否かを判断する。制御を開始する場合、S32へ移行する。前輪側の制御が不要な場合、S39へ移行して、遮断弁6を全開状態に保つ。
【0173】
S32では、ストロークセンサ11からストロークSpの検出値の入力を受け、S33へ移行する。
【0174】
S33では、検出されたストロークSpが、緩制動ストローク域(0≦Sp≦Spo)、すなわち前輪減圧制御領域にあるか否かを判断する。0≦Sp≦Spoである場合は、S37へ移行し、Sp>Spoである場合は、S34へ移行する。
【0175】
S37では、遮断弁6の開弁圧をPm2に設定する。すなわち、開弁圧=Pm2を実現する一定の電流値Iを遮断弁6a、6bのコイル68に流す。その後、S38へ移行する。
【0176】
S34では、ホイルシリンダ圧センサ13a,13bから前輪ホイルシリンダ圧の検出値の入力を受け、S35に移行する。
【0177】
S35では、検出されたストロークSpに基づき、図16の特性マップを用いてマスタシリンダ圧目標値を算出し、S36へ移行する。
【0178】
S36では、遮断弁6a、6bの開弁圧を(マスタシリンダ圧目標値−ホイルシリンダ圧検出値)に設定する。すなわち、図4のグラフに従い、開弁圧=(マスタシリンダ圧目標値−ホイルシリンダ圧検出値)を実現する電流値Iを遮断弁6a、6bのコイル68に流す。その後、S38へ移行する。
【0179】
S38では、実施例1のS17(図9)と同様にして、前輪側の制御を終了するか否かを判断する。終了する場合はS100(図13)へ移行し、終了処理を実行する。終了しない場合はS32へ戻る。すなわち、前輪減圧制御領域(0≦Sp≦Spo)では、前輪側の制御終了を判断するまでS37の処理を繰り返し、遮断弁6a、6bの開弁圧を一定値Pm2に保つ。一方、前輪増圧制御領域(Sp>Spo)では、前輪側の制御終了を判断するまで、S34からS36までの処理を繰り返すことにより、ストロークSpに応じたブレーキペダル反力を得る。
【0180】
このように、前輪減圧制御領域(0≦Sp≦Spo)では、遮断弁6a、6bに一定の制御電流を流す。このとき前輪ホイルシリンダ圧も0に制御されているため、マスタシリンダ圧は一定値に制御され、常に一定のブレーキペダル反力を得ることができる。このとき、S37を繰り返し実行するだけ(一定の電流値Iを出力するだけ)であるため、通常の使用頻度が高いストローク域(0≦Sp≦Spo)における制御ロジックを簡略化できる。
【0181】
[実施例2の効果]
(8)回生制動実施時に、検出されたブレーキペダル作動量(ストロークSp)が所定値Spo以下のときは、第1制御弁(遮断弁6a、6b)の開弁圧を一定値Pm2に制御することとした。
【0182】
よって、前輪減圧制御領域(0≦Sp≦Spo)では、常に一定のブレーキペダル反力を得ることができる。このとき、開弁圧を一定値Pm2に制御するためには、第1制御弁(遮断弁6a、6b)に一定電流を流し続けるだけでよいため、使用頻度が高いストローク域である前輪減圧制御領域(0≦Sp≦Spo)における制御ロジックを簡略化でき、演算等の容量を低減できる。
【実施例3】
【0183】
実施例3の車両用ブレーキ装置は、実施例1の特性マップ(図8)におけるブレーキペダルBPのストロークSpとホイルシリンダ圧との関係を変更し、それに応じて前輪側の制御ロジックを変更したものである。なお、その他の構成については、実施例1と同様である。
【0184】
図18は、実施例3の特性マップであり、ストロークSpと圧力(マスタシリンダ圧および前輪ホイルシリンダ圧)との関係を示す。マスタシリンダ圧の特性は、実施例1(図8)と同様に設定されている。
【0185】
一方、前輪ホイルシリンダ圧の特性についてみると、0≦Sp≦Spoの緩制動ストローク域は前輪FL,FRの微小増圧制御領域とされ、この領域では、前輪ホイルシリンダ圧は、ストロークSpに比例して緩やかに、すなわち小さな一定の増加勾配で上昇するように設定されている。すなわち、緩制動ストローク域で、実施例1では前輪ホイルシリンダ圧を0にまで減圧するのに対し、本実施例3では微小増圧する。
【0186】
よって、遮断弁6の開弁圧は、前輪微小増圧制御領域では、ストロークSpが0から増大するにつれて一定値Pmoから増大し、Sp=SpoのときはPm1よりも若干小さい値となる。
【0187】
一方、Sp>Spoの急制動ストローク域は、実施例1と同様の(大きな増加勾配による)前輪FL,FRの増圧制御領域に設定されている。具体的には、ストロークSpがSpoから増大するにつれて前輪ホイルシリンダ圧の増加勾配は徐々に増大し、ストロークSpが所定値(>Spo)以上になると一定(マスタシリンダ圧の増加勾配と略同じ)となる。
【0188】
図19は、本実施例3における前輪側のホイルシリンダ圧制御のフローチャートを示す。
【0189】
ステップS301では、実施例1のS21(図12)と同様にして、前輪側の制御を開始するか否かを判断する。制御を開始する場合、S302へ移行する。S301で前輪側の制御を行わないと判断した場合、S313へ移行し、増圧制御弁7a、7bおよび減圧制御弁8a、8bを全閉状態に保ち、本制御フローを終了する。
【0190】
S302では、ストロークセンサ11からストロークSpの検出値の入力を受け、S303へ移行する。
【0191】
S303では、検出されたストロークSpが、緩制動ストローク域(0≦Sp≦Spo)、すなわち前輪微小増圧制御領域にあるか否かを判断する。0≦Sp≦Spoである場合は、S304へ移行し、Sp>Spoである場合は、上記S313へ移行する。
【0192】
S304では、検出されたストロークSpに応じて、図18の特性マップに基づき前輪のホイルシリンダ圧目標値を算出し、S305へ移行する。
【0193】
S305では、ホイルシリンダ圧の目標値と検出値とに基づき、前輪ホイルシリンダ圧を増圧するか否かを判断する。増圧する場合、S306へ移行し、増圧しない場合、S308へ移行する。
【0194】
S306では、減圧制御弁8a、8bの制御を行わず、全閉状態に保つ。また、モータM1を制御してポンプPを駆動する。そして、増圧制御弁7a、7bを制御することで、ホイルシリンダ5a、5bにブレーキ液を供給する。その後、S307へ移行する。
【0195】
S307では、ホイルシリンダ圧センサ13a、13bの検出値に基づき、ホイルシリンダ圧が特性マップ(図18)の目標値に到達したか否かを判断する。目標値に到達した場合、S311へ移行する。到達していない場合、S306へ戻り、引き続きホイルシリンダ5a、5bの増圧を行う。S306, S307を繰り返すことで、ホイルシリンダ圧の微小増圧が実現される。
【0196】
S311では、増圧制御弁7および減圧制御弁8を閉弁してホイルシリンダ圧を保持する。その後、S312へ移行する。
【0197】
S312では、実施例1のS25(図12)と同様にして、前輪制御の終了を判断する。制御を続ける場合、S302へ戻って制御を続ける。終了する場合、S100(図13)へ移行し、終了処理を実行する。
【0198】
S308では、ホイルシリンダ圧の目標値と検出値とに基づき、前輪ホイルシリンダ圧を減圧するか否かを判断する。減圧する場合、S309へ移行し、減圧しない場合、S311へ移行する。
【0199】
S309では、増圧制御弁7a、7bを閉じたまま減圧制御弁8a、8bを開き、リザーバRESとホイルシリンダ5a、5bとを連通させて、前輪ホイルシリンダ圧をリザーバRESに抜き減圧する。その後、S310へ移行する。
【0200】
S310では、ホイルシリンダ圧センサ13a、13bの検出値に基づき、前輪ホイルシリンダ圧が特性マップ(図18)の目標値に到達したか否かを判断する。目標値に到達した場合、S311へ移行し、ホイルシリンダ圧の減圧を終了する。到達していない場合、S309へ戻り、引き続きホイルシリンダ5a、5bの減圧を行う。
【0201】
すなわち、前輪微小増圧制御領域(0≦Sp≦Spo)では、前輪側の制御終了を判断するまで、S304からS310までの処理を繰り返す。これにより、前輪FL,FRのホイルシリンダ圧が増減圧され、ホイルシリンダ圧が特性マップ(図18)の目標値と一致する。言い換えれば、検出されたストロークSpが緩制動時のストローク域(0≦Sp≦Spo)にあるときは、前輪ホイルシリンダ圧を0まで減圧せず、ストロークSpに応じて微小増圧する。すなわち、マスタシリンダMCから供給されるブレーキ液による若干の液圧制動力を前輪に発生させる。
【0202】
[実施例3の効果]
(9)回生制動実施時に、検出されたブレーキペダル作動量(ストロークSp)が所定値Spo以下のときは、作動量(ストロークSp)に応じてブレーキ液の液圧(ホイルシリンダ圧)を微小増圧させる一方、駆動輪(後輪RL,RR)の回生制動力を増加させることとした。
【0203】
よって、緩制動時に、前輪側のホイルシリンダ圧を低下させた分だけ後輪側の回生制動力を増大させつつ、前輪側にもストロークSpに応じた液圧制動力を残すことができる。言い換えれば、回生協調制御中の車両全体の制動力をより高く確保できる。したがって、車両重量が大きい等により緩制動時に(実施例1、2に比べて)高い制動力が要求される車両にも、本発明のブレーキ装置を適用し、実施例1と同様、車両挙動を安定化しつつ回生エネルギを増大できる。
【実施例4】
【0204】
実施例4の車両用ブレーキ装置は、前輪制御終了時の終了処理(S100)が実施例1〜3の処理(図13)と異なる。その他の構成は実施例1または実施例2と同様である。
【0205】
図20は、実施例4の終了処理を示す。終了処理(S100)はステップS120のみを有している。S120では、前輪側の減圧制御弁8a、8b(および増圧制御弁7a、7b)を閉じるとともに、遮断弁6a、6bを開弁することで終了処理を実施する。このとき遮断弁6a、6bのコイル68に流す電流値Iを制御して、遮断弁6のバルブ開度Xvの時間当たり変化量を制御する。これにより、前輪制御終了後の前輪ホイルシリンダ圧およびマスタシリンダ圧の時間変化を調整する。
【0206】
図21は、遮断弁6a、6bのバルブ開度Xvの時間変化を示すタイムチャートである。前輪側の制御中、バルブ開度Xvは所定の値に制御されている。前輪制御が終了すると、終了処理(S120)が開始される。この終了処理では、バルブ開度Xvが所定速度で最大開度まで増大される。図21の(a)は、バルブ開度Xvの時間変化量(増大勾配)が大きい場合、すなわち遮断弁6を急速に開いた場合のタイムチャートを示す。図21の(b)は、バルブ開度Xvの時間変化量(増大勾配)が小さく、遮断弁6を緩やかに開いた場合のタイムチャートを示す。
【0207】
図22および図23は、前輪制御終了時に上記終了処理を行う際の、マスタシリンダ圧および前輪ホイルシリンダ圧のタイムチャートを示す。図22(a)および図23は、遮断弁6を急速に開いた場合であり、図21の(a)に対応する。図22(b)は、遮断弁6を緩やかに開いた場合であり、図21の(b)に対応する。
【0208】
図22(a)(b)は、運転者のブレーキ操作状態(ストロークSp)は一定であるが車両側から送られる信号が回生ブレーキ不可を示すものであることにより前輪側の制御を終了する場合のタイムチャートを示す。なお、全ての時点でストロークSpは前輪減圧制御領域(0≦Sp≦Spo)にあるものとする。
【0209】
図22で、前輪の制御中は、減圧制御弁8a、8bが開弁されることで前輪ホイルシリンダ圧がゼロに制御されている。この前輪制御を終了し、終了処理(S120)を開始すると、減圧制御弁8a、8bが閉じられるとともに、遮断弁6a、6bが所定速度で開かれる。これにより第1ブレーキ回路1が連通し、高圧のマスタシリンダMC(加圧室)から低圧のホイルシリンダ5a、5bに向けてブレーキ液が供給される。このときマスタシリンダ圧が減少すると同時に前輪ホイルシリンダ圧が増加し、最終的に両者は、ブレーキペダルBPの踏み込み量(ストロークSp)に応じた所定圧において一致する。
【0210】
図22(a)に示すように、遮断弁6a、6bを急速に開いた場合、マスタシリンダ圧は急激に減少する一方でホイルシリンダ圧は急激に増加し、両圧は短時間で上記所定圧となる。よって、前輪制御終了後、両圧が短時間で安定する。一方、図22(b)に示すように、遮断弁6a、6bを緩やかに開いた場合、マスタシリンダ圧は緩やかに減少する一方でホイルシリンダ圧も緩やかに増加し、両圧は上記所定圧に向かって緩やかに収束する。よって、前輪制御終了後、マスタシリンダ圧の時間変化(減少勾配)が緩やかとなり、ストロークSpの急激な変動が抑制される。
【0211】
図23は、ストロークSpの値が、前輪減圧制御領域(0≦Sp≦Spo)から前輪増圧制御領域(Sp>Spo)に移行し、その後、ブレーキペダルBPが戻されることで前輪制御を終了する場合のタイムチャートを示す。減圧制御領域(0≦Sp≦Spo)では、前輪ホイルシリンダ圧は、減圧制御弁8a、8bの開弁制御(図12のS24)によってゼロに維持される。増圧制御領域(Sp>Spo)では、前輪ホイルシリンダ圧は、遮断弁6a、6bの制御(図9のS13〜S16)によって、ストロークSpに応じた値に制御される。
【0212】
ブレーキペダルBPが戻されることで前輪の制御が終了すると、遮断弁6a、6bを開弁する終了処理(S120)が開始される。このように遮断弁6a、6bを開弁した状態でブレーキペダルBPが戻されると、カップ状シール部材を介してマスタシリンダMCの液圧室(加圧室)とリザーバRESが連通し、マスタシリンダ圧が減圧される。これに伴い、前輪のホイルシリンダ5a、5bに供給されていたブレーキ液も第1ブレーキ回路1および遮断弁6を介してリザーバRESに戻され、前輪ホイルシリンダ圧も減圧される。
【0213】
すなわち、本実施例4では、前輪の制御終了時、ブレーキペダルBPの作動方向(踏み込み方向であるか戻し方向であるか)に応じて、遮断弁6の開弁を制御する。これに対し、実施例1〜3では、ブレーキペダルBPが戻された後、ホイルシリンダ圧をマスタシリンダ圧と一致させた後に(すなわち前輪ホイルシリンダ圧に応じて)、遮断弁6の開弁を制御する。
【0214】
このように、終了処理(S120)で遮断弁6を開弁する際、ブレーキペダルBPは戻されている最中である。ここで、ブレーキペダルBPの戻し方向では、踏み込み方向とは異なり、ブレーキペダルBPに作用する反力の変動がペダル操作フィーリングとして運転者に違和感を与えることが少ない。また、前輪の制御(回生協調制御)中およびその終了時にはホイルシリンダ圧はマスタシリンダ圧よりも低くなっている。このため、前輪の制御終了時に遮断弁6を急速に開いても、ホイルシリンダ圧がマスタシリンダ圧を増大させることはなく、ブレーキペダルBPの戻し方向の反力が発生することはないため、ペダル操作フィーリングが悪化するおそれはない。
【0215】
以上のように、本実施例4では、緩制動ストローク域(0≦Sp≦Spo)で、実施例1、2と同様に前輪ホイルシリンダ圧をゼロまで低下させることとしたが、実施例3のように微少増圧制御することとしてもよく、この場合も下記作用効果を得ることができる。
【0216】
[実施例4の効果]
(10)回生制動終了時にはブレーキペダルBPの作動方向に応じて第1制御弁(遮断弁6)を制御することとした。
【0217】
よって、回生制動(前輪制御)終了時、前輪ホイルシリンダ圧に応じることなく、ブレーキペダルBPの作動方向のみに応じて遮断弁6を制御するため、実施例1〜3よりも簡単な制御ロジックで、終了処理における自然なペダル操作フィーリングを実現できる。
【0218】
なお、図22に示すように、この終了処理において、遮断弁6のバルブ開度Xvの時間当たり変化量(増大勾配)を制御することとしてもよい。例えば、前輪制御終了後、遮断弁6を急速に開いた場合(図22(a))、短時間でマスタシリンダ圧およびホイルシリンダ圧を安定させることができる。よって、フェール時等、緊急の場合を想定した場合に有効である。一方、遮断弁6を緩やかに開いた場合(図22(b))、マスタシリンダ圧の時間当たり変化を緩やかにでき、ストロークSpの急激な変動を抑制できる。この場合、(ブレーキペダルBPが踏み込まれたままの状態で回生制動を終了するときは特に)ペダル操作フィーリングをより向上できるため、マスタシリンダ圧およびホイルシリンダ圧の変化時間が長くてもよい場合に有効である。
【0219】
[他の実施例]
以上、本発明を実施するための最良の形態を、実施例1〜4に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例1〜4に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【0220】
例えば、実施例1〜4では、倍力装置BSにより昇圧されたブレーキ液を従動輪である前輪FL,FRのホイルシリンダ5a、5bに供給することとしたが、駆動輪である後輪RL,RR側も前輪FL,FR側と同様の油圧回路構成とし、倍力装置BSにより昇圧されたブレーキ液を駆動輪である後輪RL,RRのホイルシリンダ5c、5dにも供給することとしてもよい。この場合も、回生制動時に、供給された上記ブレーキ液の液圧を低減し、この低減分だけ駆動輪の回生制動力を増加させることで、上記と同様の作用効果が得られる。
【0221】
実施例1〜4では、後輪を駆動輪として前輪を従動輪としたが、その逆に、前輪を駆動輪として後輪を従動輪としてもよい。例えば、第1ブレーキ回路1を介してマスタシリンダMCと後輪側のみのホイルシリンダ5c、5dを接続するとともに、第2ブレーキ回路2を介して液圧源(ポンプP)と前後輪のホイルシリンダ5a〜5dを接続する構成とし、第2ブレーキ回路2のみを介して前輪FL,FR(ホイルシリンダ5a、5b)を増圧する構成としてもよく、この場合も上記と同様の作用効果が得られる。
【0222】
実施例1〜4では、遮断弁6、増圧制御弁7、および減圧制御弁8として、電流値によりバルブ開度が比例的に変化するいわゆる比例弁を用いたが、バルブ開度が開と閉の2位置のみとる、いわゆるオン・オフ弁を用いることとしてもよい。また、例えば遮断弁6はオン・オフ弁であり、増圧制御弁7および減圧制御弁8は比例弁である、というように、オン・オフ弁と比例弁とを組み合わせて用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0223】
【図1】車両用ブレーキ装置が適用されたハイブリッド車両の全体システム図である。
【図2】液圧ブレーキ装置の油圧回路構成を示す。
【図3】遮断弁の軸方向断面図である。
【図4】遮断弁の開弁圧と電流値との関係を示すグラフである。
【図5】通常ブレーキ時に回生協調制御を行わない場合の前後輪の制動力配分を示す。
【図6】後輪ホイルシリンダ圧とマスタシリンダ圧との関係を示す特性マップである。
【図7】通常ブレーキ時に回生協調制御を行う場合の前後輪の制動力配分を示す。
【図8】実施例1におけるブレーキペダルストロークとマスタシリンダ圧および前輪ホイルシリンダ圧との関係を示す特性マップである。
【図9】遮断弁の制御フローチャートである。
【図10】前輪側の制御の開始判断フローである。
【図11】前輪側の制御の終了判断フローである。
【図12】前輪ホイルシリンダ圧の制御フローチャートである。
【図13】前輪制御の終了処理のフローチャートである。
【図14】実施例1における前輪制御終了時のタイムチャートである。
【図15】後輪側の制御フローチャートである。
【図16】実施例2におけるブレーキペダルストロークとマスタシリンダ圧および前輪ホイルシリンダ圧との関係を示す特性マップである。
【図17】実施例2における遮断弁の制御フローチャートである。
【図18】実施例3におけるブレーキペダルストロークとマスタシリンダ圧およびホイルシリンダ圧との関係を示す特性マップである。
【図19】実施例3における前輪ホイルシリンダ圧の制御フローチャートである。
【図20】実施例4における前輪制御の終了処理のフローチャートである。
【図21】実施例4における前輪制御終了時の遮断弁開度のタイムチャートである。
【図22】実施例4における前輪制御終了時(ブレーキペダルが戻されない場合)のマスタシリンダ圧およびホイルシリンダ圧のタイムチャートである。
【図23】実施例4における前輪制御終了時(ブレーキペダルが戻された場合)のマスタシリンダ圧およびホイルシリンダ圧のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0224】
1 第1ブレーキ回路
2 第2ブレーキ回路
3 油路(リターン回路)
5 ホイルシリンダ
6 遮断弁
7 増圧制御弁
8 減圧制御弁
11 ストロークセンサ
12 マスタシリンダ圧センサ
13 ホイルシリンダ圧センサ
68 コイル
B バッテリ
BCU ブレーキ制御ユニット
BP ブレーキペダル
BS 倍力装置
HU 液圧制御装置
I インバータ
M モータ
M1 モータ(ポンプ駆動用)
MC マスタシリンダ
P ポンプ
RES リザーバ
β 液圧ブレーキ装置
γ 回生ブレーキ装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者のブレーキ操作や車両の走行状態に基づき車両のブレーキ液圧を制御するブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回生制動を行う電気自動車やハイブリッド車などに適用されるブレーキ装置として、液圧ブレーキ装置と回生ブレーキ装置とを組み合わせて回生協調制御を実行するものが知られている。例えば、特許文献1に記載のブレーキ装置(以下、従来技術という)では、液圧ブレーキ装置は、ブレーキ操作力を増大する倍力装置が接続されたマスタシリンダによりブレーキ液圧を発生するとともに、ポンプの駆動によってもブレーキ液圧(制御液圧)を発生する。このような従来からある液圧ブレーキ装置を用いて回生協調制御を実行することで、上記従来技術は、ブレーキ装置全体の小型化・簡素化、および低コスト化を図っている。
【特許文献1】特開2006−21745号公報
【0003】
また、上記従来技術は、回生制動力を付与可能な輪においては、回生制動を行う際、ブレーキ操作に応じたマスタシリンダ圧を基礎液圧としてホイルシリンダに付与すると共に、制御液圧をホイルシリンダに付与する。そして、これらの液圧による制動力に、回生ブレーキ装置で発生された回生制動力を加えることで、トータル制動力とする。そして、回生制動力が変動した場合には、制御液圧を調整することで該変動を補正する。すなわち、回生制動力の変動によりトータル制動力が不足する分を、制御液圧(による制動力)により補償することで、運転者の要求制動力を安定的に実現している。一方、回生制動力を付与できない輪においては、ブレーキ操作に応じたマスタシリンダ圧を基礎液圧としてホイルシリンダに付与すると共に、制御液圧をホイルシリンダに付与する。すなわち、液圧制動力のみを発生させる。
【0004】
しかし、上記従来技術は、いずれの輪においても恒常的にマスタシリンダ圧を基礎液圧としてホイルシリンダに付与する構成であるため、このマスタシリンダ圧(基礎液圧)による制動力分だけ、発生可能な回生制動力が抑制されることとなる。よって、回生により回収できるエネルギ量がこの分だけ低減する、という問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、装置全体の小型化・簡素化・低コスト化を可能としつつ、回生制動時に回収できるエネルギ量を増大できる車両用ブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車両用ブレーキ装置は、車両の駆動輪を駆動するモータを備え、回生制動時には前記モータをジェネレータとして回生ブレーキを実施する車両用ブレーキ装置において、マスタシリンダと、前記マスタシリンダと連動し運転者の踏力により作動するブレーキペダルと、前記マスタシリンダを作動させる倍力装置と、車両の各車輪に設けられたホイルシリンダと、前記倍力装置により昇圧されたブレーキ液を少なくとも従動輪の前記ホイルシリンダに供給する第1ブレーキ回路と、を備え、回生制動実施時に前記ブレーキ液の液圧を低減させる一方、前記駆動輪の回生制動力を増加させることとした。
【発明の効果】
【0007】
このようにブレーキペダルとホイルシリンダとの間がメカ的に接続された状態で(運転者のブレーキ操作により発生する)マスタシリンダ圧をホイルシリンダに直接付与する従来式の液圧ブレーキ装置を用いるため、ブレーキ装置全体の小型化・簡素化が図れ、低コスト化を実現できる。また、回生制動を実施する際、マスタシリンダから従動輪のホイルシリンダに供給されるブレーキ液圧を低減させる一方、その分だけ駆動輪の回生制動力を増加させる。よって、回生により回収するエネルギ量を増やすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の車両用ブレーキ装置を実現する最良の形態を、図面に基づき説明する。
【実施例1】
【0009】
[車両のシステム構成]
図1は、実施例1の車両用ブレーキ装置(以下、ブレーキ装置という)が適用された車両の全体構成を示すシステム図である。この車両は、エンジンENGとモータMの2種類の動力源を併用して後輪RL,RRを駆動する後輪駆動方式のハイブリッド車両である。このハイブリッド車両は、ハイブリッドシステムαと、液圧ブレーキ装置βと、複数の制御ユニットCUと、を有している。
【0010】
(ハイブリッドシステム〜回生ブレーキ装置)
ハイブリッドシステムαは、車両の主たる動力源であるエンジンENGのほか、モータMと、ジェネレータGと、動力分割機構Pと、減速機Dと、インバータIと、バッテリBと、を有している。このうちモータM、インバータI、およびバッテリB等により、回生ブレーキ装置γが構成されている。
【0011】
モータMは、エンジンENGの補助動力源であって、(運転者によるブレーキペダルBPの操作時に)回生制動力を発生する発電機としても機能する交流同期モータである。
【0012】
ジェネレータGは、モータMと同様に交流同期型であり、エンジンENGにより駆動されて交流電力(交流電流)を発電する。発電された交流電力は、バッテリBの充電またはモータMの駆動のために用いられる。
【0013】
動力分割機構Pは、遊星歯車機構から構成されており、エンジンENG、モータM、ジェネレータG、および減速機Dに接続されている。動力分割機構Pは、動力の伝達経路(および方向)を切り替える機能を有しており、エンジンENGの駆動力およびモータMの駆動力をそれぞれ減速機Dに伝達可能である。これら動力源の駆動力が減速機Dに伝達され、さらに後輪側の動力伝達系を介して後輪RL,RRに伝達されることで、後輪RL,RRが駆動される。
【0014】
また、動力分割機構Pは、エンジンENGの駆動力をジェネレータGに伝達可能に設けられている。エンジンENGの駆動力がジェネレータGに伝達されることで、ジェネレータGが駆動される。
【0015】
さらに、動力分割機構Pは、減速機D(すなわち、駆動輪である後輪RL,RR)からの動力をモータMに伝達可能に設けられている。ブレーキペダルBPの操作時に、後輪RL,RRからの動力がモータMに伝達されることで、モータMが駆動され、回生制動力を発生する発電機として機能する。
【0016】
インバータIは、モータM、ジェネレータGおよびバッテリBに電気的に接続されており、ハイブリッド制御ユニットHCUからの制御信号に応じて制御される。インバータIは、バッテリBから供給される高電圧の直流電流を交流電力(交流電流)に変換し、この交流電力をモータMに供給可能に設けられている。この交流電力により、モータMが駆動される。また、インバータIは、ジェネレータGにより発電された交流電力をモータMに供給可能に設けられている。この交流電力によっても、モータMが駆動され得る。
【0017】
また、インバータIは、ジェネレータGにより発電された交流電力を直流電力に変換し、この直流電力をバッテリBに供給可能に設けられている。バッテリBの充電状態が低下している場合には、この直流電力により、バッテリBが充電され得る。
【0018】
さらに、インバータIは、ブレーキペダルBPの操作時に、発電機として駆動されている(回生制動力を発生している)モータMにより発電された交流電力を直流電力に変換し、この直流電力をバッテリBに供給可能に設けられている。これにより、車両の運動エネルギが電気エネルギに変換され、バッテリBに回収(充電)される。この場合、バッテリBに充電される電力は、モータMによる発電抵抗(すなわち回生制動力)が大きいほど大きくなる。
【0019】
モータM、インバータI、およびバッテリB等から構成されている回生ブレーキ装置γは、ハイブリッド制御ユニットHCUからの制御指令に応じて、ブレーキ操作状態に対応した回生制動力を、モータMにより発生させる。
【0020】
(液圧ブレーキ装置)
液圧ブレーキ装置βは、ブレーキペダルBPに接続された液圧供給源(マスタシリンダMC等)と、液圧供給源に接続されて車両の各車輪FL,FR,RL,RRのホイルシリンダ5a〜5dにブレーキ液圧を供給する液圧制御装置HUと、を有しており、各車輪において液圧制動力(摩擦制動力)を発生させる。液圧制御装置HUは、液圧ブレーキアクチュエータ(ブレーキペダルBPの操作とは無関係に作動する他の液圧供給源としてのポンプPや、複数の電磁弁6等)を備えている。
【0021】
液圧ブレーキ装置βは、ブレーキ操作力すなわちブレーキペダルBPの踏み込み操作力を倍力装置BSにて増大し、その力に応じたブレーキ液圧を前輪のホイルシリンダ5a、5bに付与可能に設けられている。一方、ブレーキ制御ユニットBCUからの制御指令に応じたブレーキ液圧(制御液圧)を液圧制御装置HUで形成し、この制御液圧を各車輪のホイルシリンダ5a〜5dに付与可能に設けられており、これによりABS制御や自動ブレーキ制御を実行可能である。
【0022】
ここで、ABS制御とは、運転者のブレーキ操作時に車輪がロック傾向になったことを検知すると、当該車輪につき、ロックを防止しつつ最大の制動力を発生させるためにホイルシリンダ圧の減圧・保持・増圧を繰り返す制御である。また自動ブレーキ制御には、車両旋回時に過オーバーステアや過アンダーステアとなったことを検出すると所定輪のホイルシリンダ圧を制御して車両姿勢の安定を図る車両運動制御(以下、VDC制御という)や、車間距離制御、衝突回避制御等がある。また、運転者の緊急ブレーキ操作時に実際にマスタシリンダで発生する圧力よりも高い圧力をホイルシリンダで発生させるブレーキアシスト制御(以下、BA制御という)も自動ブレーキ制御に含まれる。
【0023】
図2は、液圧ブレーキ装置βの油圧回路構成を示す。液圧ブレーキ装置βは、ブレーキペダルBPと、倍力装置BSと、リザーバRESと、マスタシリンダMCと、液圧制御装置HUと、ホイルシリンダ5と、を有している。
【0024】
以下、4つの車輪FL,FR,RL,RRのそれぞれに対応して設けられている構成については、a,b,c,dの記号を添えて区別するものとし、aは前左輪FL、bは前右輪FR、cは後左輪RL、dは後右輪RRにそれぞれ対応する構成を表すこととする。
【0025】
液圧ブレーキ装置βの油圧回路は独立した2つの系統に分かれており、第1ブレーキ回路1および第2ブレーキ回路2を有している。第1ブレーキ回路1は、遮断弁6を介してマスタシリンダMCと前輪側のホイルシリンダ5a、5bとを接続する通常ブレーキ回路である。第2ブレーキ回路2は、増圧制御弁7を介してポンプPと前後輪のホイルシリンダ5a〜5dとを接続する制御ブレーキ回路である。なお、減圧制御弁8a〜8dを介してホイルシリンダ5a〜5dとリザーバRESとを接続するリターン回路が、第2ブレーキ回路2との間で油路を一部共通しつつ、設けられている。
【0026】
ブレーキペダルBPは、運転者の踏力により作動し、運転者のブレーキ操作を倍力装置BSへ伝達する。ブレーキペダルBPにはストロークセンサ11が設けられている。ストロークセンサ11は、ブレーキペダルBPのストロークを検出し、検出した値をブレーキ制御ユニットBCUに入力する。
【0027】
倍力装置BSは、ブレーキペダルBPから伝達される力を例えばエンジン負圧により増幅し、該増幅した力をマスタシリンダMC(のピストン)に伝達してマスタシリンダMCを作動させることで、運転者の踏力をアシストする。なお、倍力装置BSは、上記負圧ブースタに限られない。
【0028】
リザーバRESは、ブレーキ液を貯留するリザーバタンクであり、マスタシリンダMCおよび第2ブレーキ回路2に接続されている。
【0029】
マスタシリンダMCは、倍力装置BSから伝達される力に比例したマスタシリンダ圧を発生する。マスタシリンダMCはタンデム型であり、前後に並んだ2つのマスタシリンダピストンによってシリンダの中に2つの液圧室(加圧室)が隔成されている。2つの液圧室は、それぞれ別々にリザーバRESからブレーキ液の供給を受ける。一方の液圧室は、第1ブレーキ回路1A、すなわち第1ブレーキ回路1の前左輪FL側の系統に接続されている。他方の液圧室は、第1ブレーキ回路1B、すなわち第1ブレーキ回路1の前右輪FR側の系統に接続されている。
【0030】
また、マスタシリンダMCは、2つのマスタシリンダピストンにより隔成された2つの背圧室を有している。これらの背圧室はそれぞれリザーバRESに連通している。
【0031】
ブレーキペダルBPが踏み込まれると、上記2つのマスタシリンダピストンがストロークして、上記2つの液圧室に同じマスタシリンダ圧を発生する。このマスタシリンダ圧が、それぞれ第1ブレーキ回路1A、1Bに供給される。
【0032】
なお、各マスタシリンダピストンの外周には周知のカップ状のシール部材が設けられており、ピストンストローク時には、このシール部材により各液圧室とリザーバRESとの連通が遮断されることで、各液圧室内の加圧が可能となる。このとき、リザーバRESからは第1ブレーキ回路1A、1Bへブレーキ液が供給されず、マスタシリンダMCの液圧室からのみ第1ブレーキ回路1A、1Bへブレーキ液が供給されることになる。
【0033】
一方、ブレーキペダルBPが戻されると、各マスタシリンダピストンが戻しバネの力で戻される。このとき、上記シール部材の構造により、マスタシリンダMCの液圧室とリザーバRESが連通する。これにより、リザーバRESのブレーキ液をマスタシリンダMCの液圧室(加圧室)に供給することが再び可能となる。
【0034】
リザーバRES側を上流とし、ホイルシリンダ5側を下流とすると、第1ブレーキ回路1A、1Bの下流側の端には、それぞれホイルシリンダ5a,5bが接続されている。また、第1ブレーキ回路1A、1B上には、それぞれ遮断弁6a,6bが設けられている。すなわち、マスタシリンダMCに接続された第1ブレーキ回路1Aは、遮断弁6aを介して前左輪FLのホイルシリンダ5aに接続されている。マスタシリンダMCに接続された第1ブレーキ回路1Bは、遮断弁6bを介して前右輪FRのホイルシリンダ5bに接続されている。
【0035】
遮断弁6bよりも上流側の第1ブレーキ回路1Bには、マスタシリンダ圧センサ12が設けられている。マスタシリンダ圧センサ12は、マスタシリンダ圧を検出し、検出した値をブレーキ制御ユニットBCUに入力する。
【0036】
遮断弁6は常開の(=非通電時に開き、通電時に閉じる)電磁弁であり、コイルに流される電流値によりバルブ開度が比例的に変化する、いわゆる比例弁である。遮断弁6a、6bは、ブレーキ制御ユニットBCUからの指令電流により開閉動作を行い、それぞれ第1ブレーキ回路1A、1Bを連通・遮断する。マスタシリンダ圧がホイルシリンダ5a、5bの圧力(ホイルシリンダ圧)より高いときは、開弁することでマスタシリンダ圧をホイルシリンダ5a、5bに供給し、閉弁することで上記供給を遮断する。一方、ホイルシリンダ圧がマスタシリンダ圧より高いときは、開弁することでホイルシリンダ圧をマスタシリンダMCに供給し、閉弁することで上記供給を遮断する。
【0037】
リザーバRESに接続された第2ブレーキ回路2の下流側には、ポンプPが接続されている。ポンプPは、リザーバRESから吸い上げたブレーキ液を下流側(増圧制御弁7a〜7d)へ高圧で供給する。モータM1は電動式であり、ブレーキ制御ユニットBCUからの指令電流により回転数制御され、ポンプPを駆動する。なお、モータM1以外の他の駆動力源を用いてポンプPを駆動することとしてもよい。
【0038】
ポンプPの下流側の第2ブレーキ回路2には、下流側から上流側へのブレーキ液の流れを防止するチェック弁9が設けられている。
【0039】
第2ブレーキ回路2は、チェック弁9の下流側で、前輪側の系統である第2ブレーキ回路2Aおよび後輪側の系統である第2ブレーキ回路2Bに分岐している。第2ブレーキ回路2Aの下流側は油路2a、2bに分岐している。同様に、第2ブレーキ回路2Bの下流側は油路2c、2dに分岐している。油路2a、2bは、それぞれ遮断弁6a、6bの下流側の第1ブレーキ回路1A、1Bに接続されており、第1ブレーキ回路1A、1Bを介して前輪側のホイルシリンダ5a、5bに接続されている。同様に、油路2c、2dは、それぞれ後輪側のホイルシリンダ5c、5dに接続されている。
【0040】
このように、後輪RL,RRのホイルシリンダ5c、5dには、第1ブレーキ回路1が接続されておらず、第2ブレーキ回路2のみが接続されている。よって、前輪側でのみ、第1、第2ブレーキ回路1,2の選択が可能であり、後輪側では、常に第2ブレーキ回路2(ポンプ圧)によってのみ、ホイルシリンダ圧が増圧される。
【0041】
油路2a〜2d上には、それぞれ増圧制御弁7a〜7dが設けられている。増圧制御弁7a〜7dは常閉の(=非通電時に閉じ、通電時に開く)比例電磁弁であり、ブレーキ制御ユニットBCUからの指令電流により開閉動作を行い、それぞれ油路2a〜2dを連通・遮断する。開弁することでポンプ圧をホイルシリンダ5a〜5dに供給し、閉弁することで上記供給を遮断する。
【0042】
増圧制御弁7a〜7dの下流側の油路2a〜2dには、それぞれ油路3a〜3dの一端が接続されている。油路3a〜3dの他端は、それぞれポンプPの上流側の第2ブレーキ回路2に接続されており、第2ブレーキ回路2を介してリザーバRESに接続されている。油路3a〜3d上には、それぞれ減圧制御弁8a〜8dが設けられている。「ホイルシリンダ5a〜5d(→油路2a〜2d→油路3a〜3d)→減圧制御弁8a〜8d(→油路3a〜3d→第2ブレーキ回路2)→リザーバRES」により、ブレーキ液をホイルシリンダ5からリザーバRESに戻すリターン回路が形成されている。
【0043】
前輪側の油路3a、3bに設けられた減圧制御弁8a、8bは常閉の比例電磁弁であり、後輪側の油路3c、3dに設けられた減圧制御弁8c、8dは常開の比例電磁弁である。減圧制御弁8a〜8dは、ブレーキ制御ユニットBCUからの指令電流により開閉動作を行い、それぞれ油路3a〜3dを連通・遮断する。開弁することでブレーキ液をホイルシリンダ5a〜5dからリザーバRESに戻し、ホイルシリンダ圧を抜き減圧する。閉弁状態では上記抜き減圧は行われない。
【0044】
ポンプPとチェック弁9との間の第2ブレーキ回路2には、リリーフ用の油路2eが接続されている。油路2eは、減圧制御弁8a〜8dの上流側の油路3a〜3d(のいずれか)に接続されており、油路3a〜3dおよび第2ブレーキ回路2を介してリザーバRESに接続されている。なお、油路2eをポンプPの上流側の第2ブレーキ回路2に直接接続してもよい。油路2e上には、リリーフ弁10が設けられている。リリーフ弁10は、ポンプ圧が所定値(例えば本油圧回路の所定耐圧)以上となった場合に開弁し、ポンプPの吐出側をリザーバRESに連通させる。これによりポンプ圧をリザーバRESに開放し、ポンプ圧が上記所定値以上になることを防止する。
【0045】
各車輪FR,FL,RR,RLに対応する増圧制御弁7および減圧制御弁8の下流側には、ホイルシリンダ5b〜5dのそれぞれの圧力(ホイルシリンダ圧=ブレーキ液圧)を検出するホイルシリンダ圧センサ13a〜13dが設けられている。検出された値は、ブレーキ制御ユニットBCUに入力される。また、各車輪FR,FL,RR,RLには、それぞれ車輪速センサ14a〜14dが設けられており(図1参照)、検出された各車輪速はブレーキ制御ユニットBCUに入力される。
【0046】
なお、前輪FL,FRのいずれかでブレーキ失陥が発生したときは、ホイルシリンダ圧センサ13a、13bによりこれを検出するとともに、ブレーキ制御ユニットBCUからの指令により、失陥が発生した車輪に対応する遮断弁6a、6bを遮断する。
【0047】
(遮断弁)
以下、遮断弁6の構成について説明する。図3は、遮断弁6a、6bの軸方向断面図である。説明のため弁の軸方向にx軸を設け、プランジャ64に対してアーマチュア67の側を正方向と定義する。遮断弁6は、ハウジング61、第1ポート62、バルブシート63、プランジャ64、第2ポート65、戻しバネ66、アーマチュア67、およびコイル(ソレノイド)68を有している。
【0048】
ハウジング61のx軸正方向側の外周には、コイル68が設けられている。ハウジング61の内部には、x軸正方向側に大径の第1シリンダ室61a、x軸負方向側に小径の第2シリンダ室61bが、それぞれ形成されている。
【0049】
第2シリンダ室61bに対してx軸負方向側のハウジング61には、第1ポート62がx軸方向に貫通形成され、第2シリンダ室61bのx軸負方向側の端面に開口している。第1ポート62は、第1ブレーキ回路1A,1Bの上流側に接続されており、第1ブレーキ回路1A,1Bを介してマスタシリンダMCに接続されている。すなわち、第1ポート62=マスタシリンダ圧ポートである。
【0050】
また、ハウジング61には、第2ポート65が弁の径方向に貫通形成され、第2シリンダ室61bの内周面に開口している。第2ポート65は、第1ブレーキ回路1A,1Bの下流側に接続されており、第1ブレーキ回路1A,1Bを介して前輪FL,FRのホイルシリンダ5a、5bに接続されている。すなわち、第2ポート65=ホイルシリンダ圧ポートである。
【0051】
第1シリンダ室61aの内部には、アーマチュア67がx軸方向に摺動可能に収容されている。第2シリンダ室61bの内部には、プランジャ64がx軸方向に摺動可能に収容されている。プランジャ64の段部64Bと第2シリンダ室61bのx軸負方向側の端面との間には、戻しバネ66がx軸方向に圧縮状態で設置されている。プランジャ64は、戻しバネ66のバネ力により、x軸正方向側に押し付けられている。この押し付け力により、プランジャ64のx軸正方向側の端面は、アーマチュア67のx軸負方向側の端面に当接している。
【0052】
第1ポート62の第2シリンダ室61bへの開口部には、バルブシート(弁座)63が設けられている。プランジャ64のx軸負方向側の先端部64Aは、x軸方向でバルブシート63と対向している。プランジャ64がx軸負方向側に移動することで先端部64Aがバルブシート63に当接して密着し(すなわち弁体であるプランジャ64が、弁座であるバルブシート63に着座し)、バルブシート63が閉じられる。これにより、第1ポート62と第2シリンダ室61bとの連通が遮断される。なお、第2ポート65と第2シリンダ室61bとは常に連通している。
【0053】
次に、遮断弁6の作用について説明する。プランジャ64およびアーマチュア67は、上記バネ力の他、下記電磁力や油圧力の作用により、一体となってハウジング61内をx軸方向に摺動し、変位する。該変位により、プランジャ64の先端部64Aとバルブシート63との間の距離Xvが変化する。該距離Xvはいわゆるバルブ開度に相当する。
【0054】
Xvがゼロより大きく、先端部64Aがバルブシート63から離れているとき、第1ポート62と第2シリンダ室61bとが連通する。これにより、第1ポート62(マスタシリンダMC)と第2ポート65(ホイルシリンダ5a、5b)との間でブレーキ液の流通が可能となり、遮断弁6a、6bが開弁状態となる。この開弁状態では第1ブレーキ回路1A,1Bが連通し、マスタシリンダMCとホイルシリンダ5a、5bとが連通する。なお、Xvが最大値となるとき、遮断弁6a、6bは全開状態となる。
【0055】
Xvがゼロであり、先端部64Aとバルブシート63とが当接しているとき、第1ポート62と第2ポート65との間でブレーキ液の流通が不可能となり、遮断弁6a、6bは閉弁状態となる。この閉弁状態では第1ブレーキ回路1A,1Bが遮断され、マスタシリンダMCとホイルシリンダ5a、5bとの連通が遮断される。
【0056】
よって、プランジャ64に対してx軸正方向側に作用する上記バネ力は、遮断弁6a、6bを開弁させ、第1ブレーキ回路1A,1Bを連通させる方向に作用する。
【0057】
また、コイル68は、ブレーキ制御ユニットBCUから制御電流を供給されることで電磁力を発生する。この電磁力は電流値Iに応じて変化し、電流値Iが大きくなるほど増大するとともに、アーマチュア67(およびプランジャ64)に対してx軸負方向側に作用し、アーマチュア67をx軸負方向側に引き付ける。すなわち遮断弁6a、6bを閉弁させ、第1ブレーキ回路1A,1Bを遮断する方向に作用する。
【0058】
また、プランジャ64には、油圧による力、すなわちマスタシリンダ圧とホイルシリンダ圧との差圧Δp(=マスタシリンダ圧−ホイルシリンダ圧)に、プランジャ64の断面積(軸直方向での受圧面積)Sを乗じた力が作用する。マスタシリンダ圧>ホイルシリンダ圧のとき、差圧Δp>0であり、油圧力は、x軸正方向側、すなわち遮断弁6a、6bを開き、第1ブレーキ回路1A,1Bを連通させる方向に作用する。反対に、マスタシリンダ圧<ホイルシリンダ圧のとき、差圧Δp<0であり、油圧力は、x軸負方向側、すなわち遮断弁6a、6bを閉じ、第1ブレーキ回路1A,1Bを遮断する方向に作用する。
【0059】
以上のバネ力、電磁力、および油圧力のバランスにより、プランジャ64の変位量、すなわち距離Xv(バルブ開度)が決定される。例えば、「{バネ力+油圧力}によるx軸正方向の力<電磁力によるx軸負方向の力」となったときに、遮断弁6が閉じられる。
【0060】
図4は、遮断弁6a、6bにおける、コイル68の電流値Iと開弁圧との関係を示すグラフである。ここで開弁圧とは、上記差圧Δp(=マスタシリンダ圧−ホイルシリンダ圧)に相当し、(x軸正方向に作用して)遮断弁6を開弁させる油圧力を示す。電流値Iを大きくするほど(x軸負方向に作用する)電磁力が増加し、それに比例して遮断弁6の(x軸正方向に作用する)開弁圧も上昇する。言い換えると、遮断弁6の(x軸正方向に作用する)開弁圧が上昇するのに比例して、遮断弁6を閉じるために必要な(x軸負方向の)電磁力が増加し、電流値Iが増大する。
【0061】
増圧制御弁7および減圧制御弁8も、常閉か常開かという点を除けば、遮断弁6と同様の構成を有している。
【0062】
(制御系の構成)
図1に示すように、複数の制御ユニットCUは、ハイブリッド制御ユニットHCUと、ブレーキ制御ユニットBCUと、エンジン制御ユニットECUと、を有しており、これらの制御ユニットは、情報交換が可能なCAN通信線を介して互いに接続されている。また、バッテリBにはバッテリ制御ユニットBatCUが設けられている。バッテリ制御ユニットBatCUは、バッテリBの充電状態(バッテリSOC)や充電電流等を検出してハイブリッド制御ユニットHCUに出力する。
【0063】
エンジン制御ユニットECUは、エンジンENGの作動を制御する。具体的には、エンジン回転数センサが検出したエンジン回転数Neやハイブリッド制御ユニットHCUから入力された目標エンジントルクTe*等の情報に基づき、エンジン動作点(Ne,Te)を制御する指令を、例えばスロットルバルブアクチュエータへ出力する。
【0064】
(ハイブリッド制御ユニット)
ハイブリッド制御ユニットHCUは主に、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせる機能を有している。ハイブリッド制御ユニットHCUは、アクセル開度センサから入力されるアクセル開度と車速センサから入力される車速とに基づき、目標駆動力を演算する。また、モータMには、モータ回転数を検出する回転数センサが設けられており、その検出値がハイブリッド制御ユニットHCUに入力される。
【0065】
ハイブリッド制御ユニットHCUは、目標駆動力等に基づきモータ回転数NmおよびモータトルクTmの目標値を演算する。そして、演算した目標モータ回転数Tm*等に基づき、モータMの動作点(Nm,Tm)を制御する指令をインバータIへ出力し、モータMの作動を制御する。また、目標駆動力等に基づきエンジントルクの目標値Te *を演算し、これをエンジン制御ユニットECUに出力して、エンジンENGの動作を制御する。
【0066】
また、ハイブリッド制御ユニットHCUは、所定の目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCに基づき目標充放電電力を演算する。
【0067】
さらに、ハイブリッド制御ユニットHCUは、バッテリ制御ユニットBatCUから入力されるバッテリ充電状態(バッテリSOC)や車速を考慮して、後輪側の回生制動力の指令値を算出する。この回生制動力指令値(目標回生制動力)に応じた回生制動力を発生させるように、インバータIを介してモータM(回生ブレーキ装置γ)を制御する。なお、車速が低く小さい回生制動力しか得られない場合や、充電量(バッテリSOC)がフルに近いため回生により発生した電力をバッテリBに充電できない場合は、回生ブレーキが不可能であると判断して、回生制動を行わない。また、ハイブリッド制御ユニットHCUは、算出した回生制動力指令値や、回生ブレーキ不可と判断した信号を、ブレーキ制御ユニットBCUへ出力する。
【0068】
(ブレーキ制御ユニット)
ブレーキ制御ユニットBCUは、ストロークセンサ11、マスタシリンダ圧センサ12、ホイルシリンダ圧センサ13a〜13d、車輪速センサ14a〜14dから入力される各検出値、および車両側から入力される走行状態に関する各種情報に基づき、内蔵されたプログラムに従って情報処理を行う。また、処理結果に従って液圧制御装置HUの各アクチュエータに制御指令を出力し、遮断弁6,増圧制御弁7、減圧制御弁8、およびモータM1を制御することで、各車輪の液圧制動力(ホイルシリンダ圧)を制御する。
【0069】
ブレーキ制御ユニットBCUは、運転者のブレーキ操作状態に基づき、運転者の要求制動力を算出する。運転者のブレーキ操作状態は、ブレーキペダルBPに設けられたストロークセンサ11により検出する。なお、マスタシリンダ圧センサ12やブレーキスイッチにより検出することとしてもよい。ABS制御を行わない通常ブレーキ時には、車両全体の制動力は運転者の要求制動力に応じて決定される。
【0070】
(回生協調制御を行わない場合)
図5は、通常ブレーキ時における、回生協調制御を行わない場合の前後輪の制動力配分を示す。前輪側では、ペダルストローク(ストロークSp)に応じたマスタシリンダ圧をホイルシリンダ5a、5bに直接供給することで、液圧制動力を発生する。一方、後輪側では、図15に示すフローチャートにより制御される液圧(ホイルシリンダ圧)により、車両全体の制動力から前輪側の液圧制動力を差し引いた大きさの液圧制動力を発生する。具体的には、ブレーキ制御ユニットBCUは、図6に示すような特性マップに基づき後輪側のホイルシリンダ圧の目標値を設定し、この目標値に基づきホイルシリンダ圧を制御する。
【0071】
図6は、後輪側のホイルシリンダ圧(目標値)とマスタシリンダ圧との関係を示す。後輪のホイルシリンダ圧は、後輪側の液圧制動力に略比例した値である。マスタシリンダ圧は、前輪側の液圧制動力に略比例した値である。マスタシリンダ圧が0から所定値Pmc1までの領域では、マスタシリンダ圧に対する後輪ホイルシリンダ圧の傾きa1は1であり、マスタシリンダ圧に等しい後輪ホイルシリンダ圧となる。一方、マスタシリンダ圧がPmc1以上の領域では、マスタシリンダ圧に対する後輪ホイルシリンダ圧の傾きa2は例えば0.4程度に設定されており、マスタシリンダ圧の増分よりも後輪ホイルシリンダ圧の増分が小さくなっている。なお、上記所定値Pmcは例えば3〜5MPa程度の値に設定されている。
【0072】
(回生協調制御を行う場合)
ブレーキ制御ユニットBCUは、ブレーキペダルBPが踏み込まれて制動する際、車両全体の制動力を維持するように、液圧ブレーキ装置βを回生ブレーキ装置γと協調して制御する。例えば、運転者の要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、液圧制御装置HUに制御信号を出力して、上記不足分を補う液圧制動力を発生させる。
【0073】
図7は、通常ブレーキ時における、回生協調制御を行う場合の前後輪の制動力配分を示す。後述するように、回生制動力が付与されない前輪側では、図8に示す特性マップによりホイルシリンダ圧の目標値を設定し、この目標値に基づきホイルシリンダ圧を制御することで液圧制動力を発生する。一方、後輪側では、所定の回生制動力を発生するとともに、図15に示すフローチャートにより制御されるホイルシリンダ圧により、車両全体の制動力から前輪側の液圧制動力および後輪側の回生制動力を差し引いた大きさの液圧制動力を発生する。これにより、回生協調制御を行わない場合(図5)と同等の、車両全体の制動力を発生する。以下、これらの液圧制御について具体的に説明する。
【0074】
ブレーキ制御ユニットBCUは、回生制動力が付与される後輪RL,RR(駆動輪)については、車両全体の制動力から後輪側の回生制動力指令値と前輪側の(ホイルシリンダ圧目標値から算出される)液圧制動力目標値とを差し引くことで、後輪側の液圧制動力目標値を算出する。そして、算出した液圧制動力を液圧に変換することで、各後輪RL,RRのホイルシリンダ圧目標値を算出する。ブレーキ制御ユニットBCUは、このように算出したホイルシリンダ圧目標値に基づき、各後輪RL,RRのホイルシリンダ圧を制御する。
【0075】
前輪FL,FR(従動輪)については、(マスタシリンダ圧により発生させる)ホイルシリンダ圧の目標値を、回生協調制御を行わない場合よりも低く設定する。このように設定したホイルシリンダ圧目標値に基づき、各前輪FL,FRのホイルシリンダ圧を制御する。これによる前輪側の液圧制動力の減少分については、後輪側の回生制動力指令値を増加させることで埋め合わせ、車両全体の制動力を維持することとしている。すなわち、図7に示すように、後輪側の液圧制動力の大きさは略そのままとしつつ、後輪側の回生制動力のみを、前輪側の液圧制動力の上記減少分だけ増加させる。
【0076】
(ストローク−圧力の関係)
図8は、本実施例1における、ブレーキペダルBPのストロークSpと圧力(マスタシリンダ圧、前輪側のホイルシリンダ圧)との関係を示したものである。これらの関係は、ブレーキ制御ユニットBCUにおいて特性マップとして記憶されており、マスタシリンダ圧目標値および前輪側のホイルシリンダ圧目標値を算出する際に参照される。
【0077】
運転者が高い制動力を必要としない緩制動時のストローク域として、所定のストロークSpo以下の緩制動ストローク域(0≦Sp≦Spo)が予め定められている。また、運転者が高い制動力を必要とする急制動時のストローク域として、上記所定のストロークSpoよりも大きい急制動ストローク域(Sp>Spo)が予め定められている。Spoは、上記ストローク域(0≦Sp≦Spo)での制動Gが例えば0.3G相当以下となるように、30〜40mm以下の値に設定されている。
【0078】
ブレーキペダルBPのストロークSpに応じてホイルシリンダ圧(液圧制動力)の目標値が設定されている。緩制動ストローク域(0≦Sp≦Spo)が、前輪FL,FRの減圧制御領域に設定されており、この領域では、ホイルシリンダ圧目標値=0である。急制動ストローク域(Sp>Spo)が、前輪FL,FRの増圧制御領域に設定されている。この領域では、ホイルシリンダ圧目標値は、ストロークSpがSpoから増大するにつれて、0から徐々に増加し始める。また、ホイルシリンダ圧目標値の増加勾配も徐々に増大する。ストロークSpが所定値以上となると、上記増加勾配が一定となり、ストロークSpに比例してホイルシリンダ圧目標値が増加するようになる。
【0079】
また、運転者のブレーキペダルBPの踏み込みに対して理想的なブレーキペダル反力が得られるように、ストロークSpに対するマスタシリンダ圧目標値が設定されている。前輪減圧制御領域では、マスタシリンダ圧目標値は、ストロークSpが0のときに最小値Pmoであり、ストロークSpが0から増大するにつれて徐々に増加し始め、その増加勾配も徐々に増大する。ストロークSpが所定値(<Spo)以上となると、上記増加勾配が一定となり、ストロークSpに比例してマスタシリンダ圧目標値が増加するようになる。ストロークSp=Spoのときのマスタシリンダ圧目標値=Pm1に設定されている。一方、前輪増圧制御領域では、マスタシリンダ圧目標値は、ストロークSpに比例して(ホイルシリンダ圧目標値と略同じ増加勾配で)増加し続ける。
【0080】
また、差圧Δp(=マスタシリンダ圧−ホイルシリンダ圧)が、遮断弁6の(x軸正方向に作用する)開弁圧に相当する。前輪減圧制御領域では、ホイルシリンダ圧=0に制御されるため、差圧Δp=マスタシリンダ圧である。よって、遮断弁6の開弁圧は、ストロークSpが0から増大するにつれて値Pmoから徐々に増大し、ストロークSpoのときに値Pm1となる。
【0081】
(自動ブレーキ制御等を行う場合)
また、ブレーキ制御ユニットBCUは、自動ブレーキ制御を実行可能に設けられている。例えばVDC制御では、車両側に設けられた車両挙動センサから入力される車両挙動を示す信号に基づき、車両ヨーモーメントの制御に要求される制動力(これを要求制動力1とする)を各輪毎に演算する。そして、各輪毎に、運転者の要求制動力と要求制動力1を加算することで、VDC制動力を演算する。またBA制御では、衝突回避制御等の他のロジックからの入力に基づきアシスト要求制動力を演算し、これと運転者の要求制動力とを加算することで、BA制動力を演算する。
【0082】
そして、これらのVDC制動力やBA制動力から、各輪におけるホイルシリンダ圧目標値(VDC指令圧等)を演算する。上記演算されたホイルシリンダ圧目標値とホイルシリンダ圧センサ13から入力された検出値とに基づき、ホイルシリンダ圧を制御することで、自動ブレーキ制御を実行する。
【0083】
また、ブレーキ制御ユニットBCUは、ABS制御を実行可能に設けられている。ABS制御では、ホイルシリンダ圧の検出値に基づき路面μを推定し、所定のタイヤモデルに基づき、当該輪のロックを防止しつつ最大の制動力を得ることができるホイルシリンダ圧を、目標値として演算する。なお、車輪速センサ14で検出した各輪の車輪速および車輪加速度と、各車輪速に基づき推定した疑似車体速とに基づき、最適なスリップ率を実現するホイルシリンダ増減圧量を演算する、周知の方法を採用してもよい。なお、自動ブレーキ制御よりもABS制御のほうが優先的に実行される。
【0084】
また、自動ブレーキ制御やABS制御の実行時には回生協調制御を行わない。
【0085】
次に、ブレーキ制御ユニットBCUで実行される、回生協調制御における液圧制御の流れを説明する。まず、図9〜図14に基づき前輪側の制御を説明し、次に、図15に基づき後輪側の制御を説明する。
【0086】
(前輪マスタシリンダ圧:遮断弁の制御)
図9は、前輪側の第1ブレーキ回路1に設けられた遮断弁6の制御フローチャートを示す。
【0087】
ステップS11では、運転者のブレーキ操作状態および車両側から送られる信号に基づき、前輪側の制御を開始するか否かを判断する。図10は、S11の具体的な内容を示す。
【0088】
まず、S41で、運転者のブレーキ操作状態を検出する。運転者によりブレーキペダルBPが踏み込まれたことを検出すると、S42へ移行する。ブレーキペダルBPの踏み込みを検出しなければ、S44へ移行して前輪側の制御を開始しないと判断する。
【0089】
S42では、ハイブリッド制御ユニットHCUからの信号に基づき、回生ブレーキの実行が可能であるか否かを判断する。回生ブレーキが可能であれば、S43へ移行して前輪側の制御を開始すると判断する。回生ブレーキが不可能であれば、S44へ移行して前輪側の制御を開始しないと判断する。
【0090】
S11(S43)で前輪側の制御の開始を判断すると、S12へ移行する。一方、S11(S44)で前輪側の制御が不要と判断すると、S18へ移行して遮断弁制御を行わない。すなわち、電流値I=0として遮断弁6a、6bを全開状態に保つ。これにより、ストロークSpに応じたマスタシリンダ圧がホイルシリンダ5a、5bに直接供給されることで前輪側の液圧制動力が発生する。
【0091】
S12では、遮断弁6a、6bの開弁圧を初期値であるPm0に設定する。すなわち、図4のグラフに従い、開弁圧Pm0を実現する電流値Iを遮断弁6a、6bのコイル68に流す。その後、S13へ移行する。
【0092】
S13では、ストロークセンサ11からストロークSpの検出値の入力を受け、S14へ移行する。
S14では、ホイルシリンダ圧センサ13a、13bから前輪ホイルシリンダ圧の検出値の入力を受け、S15に移行する。
【0093】
S15では、検出されたストロークSpに基づき、図8の特性マップを用いてマスタシリンダ圧目標値を算出し、S16へ移行する。
【0094】
S16では、遮断弁6a、6bの開弁圧を(マスタシリンダ圧目標値−ホイルシリンダ圧検出値)に設定する。すなわち、図4のグラフに従い、開弁圧=(マスタシリンダ圧目標値−ホイルシリンダ圧検出値)を実現する電流値Iを遮断弁6a、6bのコイル68に流す。その後、S17へ移行する。
【0095】
S17では、運転者のブレーキ操作状態および車両側から送られる信号に基づき、前輪側の制御を終了するか否かを判断する。図11は、S17の具体的な内容を示す。
【0096】
まず、S51で、運転者が要求する減速度(制動力)の大きさを判断する。要求減速度が所定値未満であれば、S52へ移行する。要求減速度が所定値以上であれば、S54へ移行して前輪側の制御を終了すると判断する。運転者の要求減速度は、ストロークセンサ11またはマスタシリンダ圧センサ12の検出値に基づき検出する。また、上記所定値は、車両減速度が大きくなり、車両挙動の安定性が低下するおそれが生じ始める減速度(例えば0.4G以上)に設定する。
【0097】
S52〜S54は、S42〜S44と同様である。S52で回生ブレーキ可能と判断すれば、S53へ移行して前輪側の制御を終了しないと判断する。回生ブレーキ不可と判断すれば、S54へ移行して前輪側の制御を終了すると判断する。
【0098】
S17(S54)で前輪側の制御の終了を判断すると、S100へ移行して終了処理を実行する。S17(S53)で前輪側の制御を終了しないと判断すると、S13へ戻る。すなわち、前輪側の制御終了を判断するまで、S13からS17までの処理を繰り返す。
【0099】
このようにS13からS17までの処理を繰り返すことで、図8の特性マップにおけるストロークSpに応じたマスタシリンダ圧目標値と一致するように、実際のマスタシリンダ圧が制御される。これにより、運転者が操作するブレーキペダルBPのストロークSpに応じて、理想的なブレーキペダル反力が得られる。
【0100】
(前輪ホイルシリンダ圧:減圧制御弁の制御)
図12は、前輪側のリターン回路に設けられた減圧制御弁8a、8bの制御フローチャートを示す。
【0101】
ステップS21では、S11と同様にして、前輪側の制御を開始するか否かを判断する。制御を開始する場合、S22へ移行する。前輪側の制御が不要な場合、S26へ移行して減圧制御弁8a、8bの制御を行わない。すなわち、電流値=0として減圧制御弁8a、8bを全閉状態に保つ。なお、S26では増圧制御弁7a、7bの制御も行わず、増圧制御弁7a、7bを全閉状態に保つ。
【0102】
S22では、ストロークセンサ11からストロークSpの検出値の入力を受け、S23へ移行する。
【0103】
S23では、検出されたストロークSpが、緩制動ストローク域(0≦Sp≦Spo)にあるか否か、すなわち前輪減圧制御領域にあるか否かを判断する。0≦Sp≦Spoである場合は、S24へ移行し、Sp>Spoである場合は、S26へ移行する。
【0104】
S24では、増圧制御弁7a、7bを全閉状態に保つ一方、減圧制御弁8a、8bを開弁状態とする。その後、S25へ移行する。
【0105】
S25では、S17と同様にして、前輪側の制御を終了するか否かを判断する。終了する場合はS100へ移行し、終了処理を実行する。終了しない場合はS22へ戻る。
【0106】
このように、ストロークSpが前輪減圧制御領域(0≦Sp≦Spo)にある間は、前輪側の制御終了を判断するまで、前輪FL,FRのホイルシリンダ圧を抜き減圧して目標値=0になるように制御する(S22〜S25)。この値(=0)はホイルシリンダ圧センサ13a、13bにより検出されて、ブレーキ制御ユニットBCUに入力され、遮断弁6a、6bの制御ロジック(S16)に用いられる。
【0107】
一方、ストロークSpが前輪増圧制御領域(Sp>Spo)にある間は、増圧制御弁7a、7bおよび減圧制御弁8a、8bを閉弁状態に保ち(S23→S26)、前輪側の制御終了を判断するまで、この状態で遮断弁6a、6bの開弁圧を制御する(S13〜S16)。これによりマスタシリンダ圧が目標値と一致するように制御されるとともに、前輪ホイルシリンダ圧も0から上昇し、ストロークSpに応じた目標値(図8の特性マップ)に制御される。
【0108】
(前輪の終了処理)
図13は、前輪制御の終了処理の流れを示すフローチャートである。終了処理では、前輪ホイルシリンダ圧を制御する。
【0109】
ステップS101では、マスタシリンダ圧センサ12から(前輪制御終了時の)マスタシリンダ圧の検出値の入力を受け、S102へ移行する。
【0110】
S102では、前輪のホイルシリンダ圧目標値をマスタシリンダ圧の上記検出値に設定して、S103へ移行する。
【0111】
S103では、ホイルシリンダ圧センサ13a,13bの検出値と上記ホイルシリンダ圧目標値とに基づき、前輪ホイルシリンダ圧を増圧するか否かを判断する。増圧する場合、S104へ移行し、増圧しない場合、S109へ移行する。
【0112】
S104では、前輪側の増圧制御弁7a、7bを開き、第2ブレーキ回路2(油路2a、2b)を連通させる。また、前輪側の減圧制御弁8a、8bを閉じ、モータM1を制御してポンプPを駆動する。なお、モータ回転数(ポンプ吐出量)は、前後輪のホイルシリンダ圧目標値を確実に得ることができる最大値に維持する(以下、同様)。これにより、ポンプ圧が、第2ブレーキ回路2を介してホイルシリンダ5a、5bに供給され、前輪ホイルシリンダ圧が増圧される。その後、S105へ移行する。
【0113】
S105では、ホイルシリンダ圧センサ13a、13bの検出値に基づき、ホイルシリンダ圧が上記目標値に到達したか否かを判断する。目標値に到達した場合、S106へ移行する。到達していない場合、S104へ戻り、引き続きホイルシリンダ5a、5bの増圧を行う。
【0114】
S106では、増圧制御弁7a、7bを閉じ、第2ブレーキ回路2(油路2a、2b)を遮断する。また、モータM1をオフし、ポンプPの駆動を停止して、ポンプ圧によるホイルシリンダ圧の増圧を終了する。その後、S107へ移行する。
【0115】
S107では、前輪ホイルシリンダ圧制御の終了を判断する。すなわち、ホイルシリンダ圧の検出値がマスタシリンダ圧の検出値と一致していない場合、S103へ戻ってホイルシリンダ圧の制御を続ける。ホイルシリンダ圧の検出値がマスタシリンダ圧の検出値と一致している場合、S108へ移行する。
【0116】
S108では、遮断弁6a、6bを全開状態とする。また、増圧制御弁7a、7bおよび減圧制御弁8a、8bを全閉状態として、モータM1をオフとする。すなわち、これらの弁6,7,8を初期状態に戻してホイルシリンダ圧制御を終了する。
【0117】
S109では、ホイルシリンダ圧の上記目標値と検出値とに基づき、前輪ホイルシリンダ圧を減圧するか否かを判断する。減圧する場合、S110へ移行し、減圧しない場合、S113へ移行する。
【0118】
S110では、増圧制御弁7a、7bを閉じ、第2ブレーキ回路2(油路2a、2b)を遮断する。また、減圧制御弁8a、8bを開き、リザーバRESとホイルシリンダ5a、5bとを連通させ、ホイルシリンダ圧をリザーバRESに抜き減圧する。その後、S111へ移行する。
【0119】
S111では、ホイルシリンダ圧が目標値に到達したか否かを判断する。目標値に到達した場合、S112へ移行する。到達していない場合、S110へ戻り、引き続きホイルシリンダ5a、5bの減圧を行う。
【0120】
S112では、減圧制御弁8a、8bを閉じ、リザーバRESとホイルシリンダ5a、5bとの間を遮断することで、ホイルシリンダ圧の減圧を終了する。その後、上記S107へ移行する。
【0121】
S113では、ホイルシリンダ圧を増圧も減圧もしない、すなわち保持する。増圧制御弁7a、7bを閉じて第2ブレーキ回路2(油路2a、2b)を遮断し、減圧制御弁8a、8bを閉じる。よって、当該前輪のホイルシリンダ5a、5b内のブレーキ液は、増圧制御弁7と減圧制御弁8とにより封じ込められることとなり、ホイルシリンダ圧が保持される。その後、上記S107へ移行する。
【0122】
図14は、前輪制御終了時に上記終了処理を行った際の、マスタシリンダ圧および前輪ホイルシリンダ圧のタイムチャートを示す。
【0123】
前輪制御中、ブレーキペダルBPのストロークSpは前輪減圧制御領域(0≦Sp≦Spo)にあるものとする。前輪制御中は、遮断弁6の開弁圧を制御することで、マスタシリンダ圧がストロークSpに応じた所定値に制御される。また、減圧制御弁8a、8bが開かれることで、ホイルシリンダ圧は0に制御される。
【0124】
前輪の制御終了が判断され、終了処理(S100)が開始されると、前輪ホイルシリンダ圧の目標値がマスタシリンダ圧(検出値)に設定され、前輪ホイルシリンダ圧がこの目標値(=マスタシリンダ圧)に一致するように増圧制御される(S101〜S105)。なお、この増圧制御による前輪側の液圧制動力の増加に応じて、後輪側の回生制動力を減少させることで、車両全体の制動力のバランスを保つ。
【0125】
そして、前輪ホイルシリンダ圧がマスタシリンダ圧と一致すると、前輪ホイルシリンダ圧の制御終了が判断され(S107)、遮断弁6が全開にされる(S108)。その後、ブレーキペダルBPが戻されるのに応じて、カップ状シール部材によりマスタシリンダMCの液圧室(加圧室)とリザーバRESが連通し、マスタシリンダ圧と一致したままホイルシリンダ圧が減圧される。
【0126】
このように、本実施例1の終了処理では、マスタシリンダ圧とホイルシリンダ圧の差圧をなくした後に遮断弁6を開く。よって、遮断弁6の開弁時におけるブレーキペダルBPのストロークSpの急激な変動が抑制され、自然なペダル操作フィーリングが実現される。
【0127】
(後輪ホイルシリンダ圧)
図15は、後輪側のホイルシリンダ圧制御のフローチャートを示す。
【0128】
ステップS201では、前輪側の制御開始判断ステップS11と同様にして、運転者のブレーキ操作状態および車両側から送られる信号に基づき、後輪側のホイルシリンダ圧制御を開始するか否かを判断する。後輪側の制御開始を判断するとS202へ移行し、制御開始を判断しなければS207へ移行する。
【0129】
S202では、別途演算された後輪のホイルシリンダ圧目標値とホイルシリンダ圧センサ13c、13dの検出値とに基づき、ホイルシリンダ圧を増圧するか否かを判断する。増圧する場合、S203へ移行し、増圧しない場合、S208へ移行する。
【0130】
S203では、増圧制御弁7c、7dを開き、第2ブレーキ回路2(油路2c、2d)を連通させる。また、減圧制御弁8c、8dを閉じ、モータM1を制御してポンプPを駆動する。これにより、ポンプ圧が増圧制御弁7c、7d(第2ブレーキ回路2)を介してホイルシリンダ5c、5dに供給され、後輪のホイルシリンダ圧が増圧される。その後、S204へ移行する。
【0131】
S204では、ホイルシリンダ圧センサ13c、13dの検出値に基づき、ホイルシリンダ圧が目標値に到達したか否かを判断する。目標値に到達した場合、S205へ移行する。到達していない場合、S203へ戻り、引き続きホイルシリンダ5c、5dの増圧を行う。
【0132】
S205では、増圧制御弁7c、7dを閉じ、第2ブレーキ回路2(油路2c、2d)を遮断する。また、モータM1をオフし、ポンプPの駆動を停止して、ポンプ圧による後輪ホイルシリンダ圧の増圧を終了する。その後、S206へ移行する。
【0133】
S206では、前輪側の制御終了判断ステップS17と同様にして、後輪側のホイルシリンダ圧制御を終了するか否かを判断する。制御を続ける場合はS202へ戻り、制御を終了する場合はS207へ移行する。
【0134】
S207では、モータM1をオフとし、増圧制御弁7c、7dを閉じるとともに減圧制御弁8c、8dを開く。これにより後輪ホイルシリンダ圧を0まで減圧する。すなわち、これらの弁7,8を初期状態に戻してホイルシリンダ圧制御を終了する。
【0135】
S208では、別途演算された後輪のホイルシリンダ圧目標値と検出値とに基づき、ホイルシリンダ圧を減圧するか否かを判断する。減圧する場合、S209へ移行し、減圧しない場合、S212へ移行する。
【0136】
S209では、増圧制御弁7c、7dを閉じ、第2ブレーキ回路2(油路2c、2d)を遮断する。また、減圧制御弁8c、8dを開き、リザーバRESとホイルシリンダ5c、5dとを連通させ、ホイルシリンダ圧をリザーバRESに抜き減圧する。その後、S210へ移行する。
【0137】
S210では、ホイルシリンダ圧センサ13c、13dの検出値に基づき、ホイルシリンダ圧が目標値に到達したか否かを判断する。目標値に到達した場合、S211へ移行する。到達していない場合、S209へ戻り、引き続きホイルシリンダ5c、5dの減圧を行う。
【0138】
S211では、減圧制御弁8c、8dを閉じ、リザーバRESとホイルシリンダ5c、5dとの間を遮断することで、ホイルシリンダ圧の減圧を終了する。その後、上記S206へ移行する。
【0139】
S212では、後輪ホイルシリンダ圧を増圧も減圧もしない、すなわち保持する。増圧制御弁7c、7dを閉じて第2ブレーキ回路2(油路2c、2d)を遮断し、減圧制御弁8c、8dを閉じる。よって、後輪のホイルシリンダ5c、5d内のブレーキ液は、増圧制御弁7と減圧制御弁8とにより封じ込められることとなり、ホイルシリンダ圧が保持される。その後、上記S206へ移行する。
【0140】
なお、以上の制御フローは、回生協調制御だけでなくVDC制御等の自動ブレーキ制御でも基本的に同様である。また、S201とS202の間に遮断弁6を閉じるステップを設け、S207で遮断弁6を開く(とともに減圧制御弁8を閉じる)処理を追加することで、VDC制御等の自動ブレーキ制御における前輪側の制御フローを実現できる。
【0141】
[実施例1の効果]
以下、本実施例1から把握される本発明の車両用ブレーキ装置の作用効果を列挙する。
【0142】
(1)本発明の車両用ブレーキ装置は、車両の駆動輪RL,RRを駆動するモータMを備え、回生制動時にはモータMをジェネレータとして回生ブレーキを実施する車両用ブレーキ装置において、マスタシリンダMCと、マスタシリンダMCと連動し運転者の踏力により作動するブレーキペダルBPと、マスタシリンダMCを作動させる倍力装置BSと、車両の各車輪に設けられたホイルシリンダ5a〜5dと、倍力装置BSにより昇圧されたブレーキ液を少なくとも従動輪FL,FRのホイルシリンダ5a、5bに供給する第1ブレーキ回路1と、を備え、回生制動実施時に上記(従動輪FL,FRに供給される)ブレーキ液の液圧を低減させる一方、駆動輪RL,RRの回生制動力を増加させることとした。
【0143】
すなわち、従来、液圧制動力を回生制動力と協調して制御し、かつブレーキペダル操作フィーリングを確保する車両用ブレーキ装置として、いわゆるブレーキバイワイヤ(以下、BBWという)と呼ばれるシステムが用いられている。このシステムは、ブレーキペダルとホイルシリンダとの間がメカ的に接続されておらず、運転者によるブレーキペダル操作量を電気的に検出し、該検出値および各種車両情報に基づきホイルシリンダ圧を電気的に制御する。言い換えれば、ブレーキペダル操作によってマスタシリンダに発生する液圧がそのままホイルシリンダに供給されることはなく、マスタシリンダとは別の電気的加圧手段(電動ポンプ)により、ホイルシリンダ圧(液圧制動力)が制御される。また、ブレーキペダル操作フィーリングは、運転者操作により発生するマスタシリンダ圧を擬似的な負荷(ストロークシミュレータ)に作用させることで確保する。
【0144】
しかし、上記BBWシステムは、倍力装置を有しておらず、ホイルシリンダ圧を電気的に制御することから、電源系やコントロールユニットの信頼性確保が必要である。信頼性確保のためには電気系の冗長系を組むことが一般的である。よって、上記擬似的な負荷を設ける必要性と併せて、システム全体が大型化・複雑化し、また高コスト化する、という問題があった。
【0145】
これに対し、本実施例1の車両用ブレーキ装置は、倍力装置BSを有し、ブレーキペダルBPとホイルシリンダ5との間がメカ的に接続されており、運転者のブレーキ操作により発生するマスタシリンダ圧がホイルシリンダ5に直接付与される従来式の(BBWとは異なる)液圧ブレーキ装置βを用いる。このため、回生協調制御を行うブレーキ装置全体の小型化・簡素化を図ることができ、低コスト化を実現できる。
【0146】
すなわち、液圧源(ポンプP)を作動させる電気系統が失陥した場合(第2ブレーキ回路2による増圧が不能となった場合)でも、マスタシリンダMCを作動させる倍力装置BSによって運転者の踏力がアシストされる(第1ブレーキ回路1による増圧が可能である)ため、ブレーキ力低下のおそれがない。よって、信頼性確保のため電気系統(CPUやセンサ系統)を冗長系にする必要がなく、擬似負荷も不要である。したがって、装置の小型化や簡素化が図れ、低コスト化を実現できる。
【0147】
また、回生制動を実施して回生協調制御を行う際、マスタシリンダMCから前輪(従動輪)のホイルシリンダ5a、5bに供給されるブレーキ液圧を低減させる一方、この前輪側の液圧制動力の減少分だけ、後輪側の回生制動力を増加させる。具体的には、回生制動力指令値を通常よりも大きな(ただし、機械的・電気的最大値以下の)値に設定し、この値に応じた回生制動力を後輪に発生させる。よって、車両全体の制動力を維持しつつ、回生により回収される運動エネルギ(回生エネルギ)を増大できる。
【0148】
(2)具体的には、ブレーキペダルBPの作動量(ストロークSp)を検出する作動量検出手段(ストロークセンサ11)を設け、回生制動実施時に、検出された作動量(ストロークSp)が所定値Spo以下のときは、上記(従動輪FL,FRに供給される)ブレーキ液の液圧を0とする一方、駆動輪RL,RRの回生制動力を増加させることとした。
【0149】
すなわち、所定の緩制動ストローク域(0≦Sp≦Spo)を前輪減圧制御領域とし、この領域では、前輪のホイルシリンダ圧を減圧して0とする一方、その分だけ後輪側の回生制動力を増大させる。このように、前輪のホイルシリンダ圧(液圧制動力)の減少分は、後輪の液圧制動力を増大させることで埋め合わせるのではなく、回生制動力の増大により埋め合わせる。よって、通常の使用頻度が高いストローク域(0≦Sp≦Spo)で、車両全体の制動力を維持しつつ、回生エネルギを増大できる。
【0150】
なお、前輪のホイルシリンダ圧を減圧して0とする制御は、運転者が高い制動力を必要としない緩制動ストローク域(0≦Sp≦Spo)に限定されているため、前輪(従動輪)の液圧制動力を0とすることで車両挙動が不安定になるといった不都合は発生しない。
【0151】
(3)ホイルシリンダ圧の減圧時に低圧部(リザーバRES)と連通する減圧回路(リターン回路)と、減圧回路(リターン回路)に設けられ、ホイルシリンダ5a、5bと低圧部(リザーバRES)の断接を行う減圧制御弁8a、8bと、を有し、ブレーキ液圧を低減させるときに、減圧制御弁8a、8bを開弁することとした。
【0152】
すなわち、減圧制御弁8a〜8bの開弁によりホイルシリンダ5a〜5bから排出されるブレーキ液は、リザーバRESに戻される。ブレーキペダルBPが戻されると、マスタシリンダMCの液圧室(加圧室)とリザーバRESが連通し、戻されたブレーキ液はマスタシリンダMCの液圧室に再び吸入される。よって液量収支の問題を発生させずに、ホイルシリンダ圧の減圧(S24,S110,S207,S209)を円滑に行うことができる。特に、第1ブレーキ回路1を介さずに減圧を行うことが可能であるため、以下の作用効果を得ることができる。
【0153】
本発明のブレーキ装置とは異なり、第1ブレーキ回路が減圧回路を兼ねる構成、すなわち、ホイルシリンダ圧の減圧時にホイルシリンダからのブレーキ液がマスタシリンダの液圧室(加圧室)に戻される構成である従来の液圧ブレーキ装置では、ホイルシリンダ圧の減圧時にブレーキペダルが押し戻され、運転者に違和感を与えるおそれがある。すなわち、ブレーキペダルの反力を適切に保ちつつ、ホイルシリンダ圧を減圧制御するのは困難だった。
【0154】
これに対し、本発明の液圧ブレーキ装置βでは、リザーバRESはマスタシリンダMCの背圧側に連通しており、リターン回路によりホイルシリンダ圧を減圧する際、ブレーキ液がリザーバRES(マスタシリンダMCの背圧側)に抜ける。このため、回生協調制御やABS制御においてホイルシリンダ圧を減圧する際、ブレーキペダルBPに作用する反力を考慮する必要がなく、減圧制御弁8a、8bを開くだけで足りる。したがって、ホイルシリンダ圧の減圧制御が簡単かつ確実となり、円滑かつ精度良く減圧を実行できる。
【0155】
(4)ブレーキペダルBPの作動量(ストロークSp)を検出する作動量検出手段(ストロークセンサ11)と、第1ブレーキ回路1中には、マスタシリンダMCとホイルシリンダ5a、5bとの間を断接する第1制御弁(遮断弁6a、6b)と、を設け、回生制動実施時に、検出された作動量(ストロークSp)に応じて第1制御弁(遮断弁6a、6b)の開弁圧を制御することとした。
【0156】
このように遮断弁6の開弁圧をストロークSpに応じて制御することで、ブレーキペダルBPに反力を伝達するマスタシリンダ圧の大きさを、ストロークSpに応じて任意に制御できる。よって、ストロークシミュレータ等の擬似負荷発生手段を別に設けなくても、運転者のブレーキ操作に応じたブレーキペダル反力を任意に生成できる。したがって、ブレーキペダルBPとホイルシリンダ5との間がメカ的に接続された液圧ブレーキ装置βを用いても、適切なブレーキペダル操作フィールを確保しつつ回生協調制御を実現できる。
【0157】
なお、上記(3)の構成と併せると、前輪ホイルシリンダ圧の減圧が遮断弁6の開弁圧制御に干渉することがないため、ブレーキペダル反力の生成と、回生制動力の増加に必要な前輪ホイルシリンダ圧の減圧とを互いに独立して行うことができる。
【0158】
(5)第1ブレーキ回路1に設けられ、マスタシリンダMCとホイルシリンダ5a、5bとの間を断接する第1制御弁(遮断弁6a、6b)と、ホイルシリンダ圧の減圧時に低圧部(リザーバRES)と連通する減圧回路(リターン回路)と、減圧回路(リターン回路)に設けられ、ホイルシリンダ5a、5bと低圧部(リザーバRES)との間を断接する減圧制御弁8a、8bと、を有することとした。
【0159】
このように減圧回路(リターン回路)および減圧制御弁8a、8bを設けたため、第1ブレーキ回路1を経由しないでホイルシリンダ圧を減圧することができる。また、第1制御弁(遮断弁6a、6b)を制御することで、ブレーキペダル反力を任意に生成できる。このようにマスタシリンダ圧(ブレーキペダル反力)と前輪ホイルシリンダ圧(液圧制動力)を独立に制御することができるため、(回生制動力の増加に必要な)前輪ホイルシリンダ圧の減圧と、ブレーキペダル反力の生成とを両立できる。したがって、ブレーキペダルBPとホイルシリンダ5a、5bとの間がメカ的に接続された液圧ブレーキ装置βを用いても、適切なブレーキペダル操作フィールを確保しつつ、前輪側の液圧制動力を減少させることができ、これにより後輪側の回生制動力を増加できる。
【0160】
(6)倍力装置BSとは別に設けられブレーキ液を昇圧するための液圧源(ポンプP)と、第1ブレーキ回路1に対して並列に設けられ、液圧源(ポンプP)により昇圧されたブレーキ液をホイルシリンダ5a〜5dに供給する第2ブレーキ回路2と、第2ブレーキ回路2中に設けられ、液圧源(ポンプP)とホイルシリンダ5a〜5dとの間を断接する増圧制御弁7a〜7dと、増圧制御弁7a〜7dおよび液圧源(ポンプP)の作動をコントロールするコントロールユニット(ブレーキ制御ユニットBCU)と、を有し、コントロールユニット(ブレーキ制御ユニットBCU)は、少なくとも増圧制御弁7a〜7d(のいずれか)を開制御しているときは液圧源(ポンプP)を作動させホイルシリンダ5a〜5d内を昇圧させることとした(S104,S203)。
【0161】
よって、後輪RL,RRがマスタシリンダMCとメカ的に接続されていなくても、後輪のホイルシリンダ圧を任意に制御することができる。
また、前輪のホイルシリンダ圧を減圧して回生エネルギ量を増加した後の終了処理(S100)では、遮断弁6を開く前に液圧源(ポンプP)を作動させてホイルシリンダ5a、5b内を昇圧させれば、予めマスタシリンダ圧とホイルシリンダ圧の差圧をなくすことができ(S101〜S105)、よって遮断弁6の開弁時におけるペダル操作フィーリングを向上することが可能である。
【0162】
また、前輪のホイルシリンダ5a、5bへのブレーキ液の供給経路として、運転者操作(マスタシリンダMC)による第1ブレーキ回路1と、液圧源(ポンプP)による第2ブレーキ回路2とを別々に設け、前輪のホイルシリンダ圧を増圧する際、(遮断弁6a、6bや増圧制御弁7a、7bを制御することで)第1ブレーキ回路1と第2ブレーキ回路2を適宜選択することとした。よって、運転者操作による増圧と液圧源による増圧との干渉を防止し、制御性およびペダル操作フィーリングを改善できる。具体的には、以下の効果が得られる。
【0163】
第1に、例えばVDC制御中、制御輪のホイルシリンダ(例えば5a)については第2ブレーキ回路2を選択し、非制御輪のホイルシリンダ(例えば5b)については第1ブレーキ回路1を選択する。よって、VDC制御中に運転者が踏み増した場合、非制御輪のホイルシリンダ5bにマスタシリンダMCから直接ブレーキ液を供給できる。したがって、運転者意思を直接的に反映でき、制御性を向上できる。また、ブレーキペダルBPのストロークが確保されるため、ペダル操作フィーリングも良い。
【0164】
第2に、運転者操作により増圧する通常ブレーキ時は、第1ブレーキ回路1を選択してマスタシリンダ圧により遮断弁6を介した増圧とする。一方、液圧源(ポンプP)により増圧する制御ブレーキ(VDC制御等)時には、第2ブレーキ回路2でポンプ圧により増圧制御弁7を介した増圧とする。これにより、第1ブレーキ回路1と第2ブレーキ回路2の特性を互いに独立に設定できる。例えば、遮断弁6のバルブシート径を通常ブレーキに適した設定とし(例えばシート径大として増圧応答性を向上)、増圧制御弁7のバルブシート径を制御ブレーキ(ホイルシリンダ圧制御)に適した設定(例えばシート径小として制御精度を向上)とすることができる。したがって、通常ブレーキ時の応答性を向上できるとともに、制御ブレーキ時の制御精度を向上できる。
【0165】
第3に、BA制御中、第1ブレーキ回路1を介して運転者のブレーキ操作により生じるマスタシリンダ圧をホイルシリンダ5a、5bに供給しつつ、(運転者のブレーキ操作とは無関係にブレーキ液を供給することが可能な)第2ブレーキ回路2を介してポンプ圧をホイルシリンダ5a、5bに供給する。第2ブレーキ回路2では、液圧源(ポンプP)は、マスタシリンダMCを介さずリザーバRESから直接ブレーキ液を吸入するため、マスタシリンダMC(ピストン)の移動速度とは無関係にホイルシリンダ圧を増圧することができる。これによりBA制御中、マスタシリンダMCにより増圧しつつ、液圧源(ポンプP)を作動させることで、運転者の操作速度以上の速度でホイルシリンダ圧を増圧できる。よって、BA制御におけるホイルシリンダ圧の増圧応答性を向上できる。
【0166】
(7)回生制動終了時にはホイルシリンダ圧に応じて第1制御弁(遮断弁6)を制御することとした。
【0167】
すなわち、本実施例1の終了処理(S100)では、前輪ホイルシリンダ圧をマスタシリンダ圧と一致させた後に(S101〜S107)、遮断弁6を開弁することとした(S108)。よって、遮断弁6の開弁時におけるブレーキペダルBPのストロークSpの急激な変動が抑制され、自然なペダル操作フィーリングを実現できる。
【実施例2】
【0168】
実施例2の車両用ブレーキ装置は、実施例1の特性マップ(図8)におけるブレーキペダルBPのストロークSpとマスタシリンダ圧(目標値)との関係を変更し、それに応じて遮断弁6の制御ロジックを変更したものである。なお、その他の構成については、実施例1と同様である。
【0169】
図16は、実施例2の特性マップであり、ストロークSpと圧力(マスタシリンダ圧および前輪ホイルシリンダ圧)との関係を示す。前輪ホイルシリンダ圧の特性は実施例1(図8)と同様に設定されている。緩制動ストローク域(0≦Sp≦Spo)は前輪減圧制御領域とされ、この領域では前輪ホイルシリンダ圧目標値が0に設定されている。
【0170】
一方、マスタシリンダ圧の特性についてみると、前輪減圧制御領域(0≦Sp≦Spo)では、マスタシリンダ圧目標値が一定値Pm2に設定されている。前輪増圧制御領域(Sp>Spo)では、マスタシリンダ圧の特性曲線は、前輪ホイルシリンダ圧の特性曲線を高圧側に平行移動したような形となっており、ストロークSpがSpoから増大するにつれてPm2から徐々に増加し始める。ストロークSpが所定値(>Spo)以上になると、マスタシリンダ圧の増加勾配が一定(ホイルシリンダ圧の増加勾配と略同じ)となり、ストロークSpに比例してマスタシリンダ圧が増加する。
【0171】
(前輪マスタシリンダ圧:遮断弁制御)
図17は、実施例2のブレーキ制御ユニットBCUで実行される、遮断弁6の制御フローチャートを示す。
【0172】
S31では、実施例1のS11(図9)と同様にして、前輪側の制御を開始するか否かを判断する。制御を開始する場合、S32へ移行する。前輪側の制御が不要な場合、S39へ移行して、遮断弁6を全開状態に保つ。
【0173】
S32では、ストロークセンサ11からストロークSpの検出値の入力を受け、S33へ移行する。
【0174】
S33では、検出されたストロークSpが、緩制動ストローク域(0≦Sp≦Spo)、すなわち前輪減圧制御領域にあるか否かを判断する。0≦Sp≦Spoである場合は、S37へ移行し、Sp>Spoである場合は、S34へ移行する。
【0175】
S37では、遮断弁6の開弁圧をPm2に設定する。すなわち、開弁圧=Pm2を実現する一定の電流値Iを遮断弁6a、6bのコイル68に流す。その後、S38へ移行する。
【0176】
S34では、ホイルシリンダ圧センサ13a,13bから前輪ホイルシリンダ圧の検出値の入力を受け、S35に移行する。
【0177】
S35では、検出されたストロークSpに基づき、図16の特性マップを用いてマスタシリンダ圧目標値を算出し、S36へ移行する。
【0178】
S36では、遮断弁6a、6bの開弁圧を(マスタシリンダ圧目標値−ホイルシリンダ圧検出値)に設定する。すなわち、図4のグラフに従い、開弁圧=(マスタシリンダ圧目標値−ホイルシリンダ圧検出値)を実現する電流値Iを遮断弁6a、6bのコイル68に流す。その後、S38へ移行する。
【0179】
S38では、実施例1のS17(図9)と同様にして、前輪側の制御を終了するか否かを判断する。終了する場合はS100(図13)へ移行し、終了処理を実行する。終了しない場合はS32へ戻る。すなわち、前輪減圧制御領域(0≦Sp≦Spo)では、前輪側の制御終了を判断するまでS37の処理を繰り返し、遮断弁6a、6bの開弁圧を一定値Pm2に保つ。一方、前輪増圧制御領域(Sp>Spo)では、前輪側の制御終了を判断するまで、S34からS36までの処理を繰り返すことにより、ストロークSpに応じたブレーキペダル反力を得る。
【0180】
このように、前輪減圧制御領域(0≦Sp≦Spo)では、遮断弁6a、6bに一定の制御電流を流す。このとき前輪ホイルシリンダ圧も0に制御されているため、マスタシリンダ圧は一定値に制御され、常に一定のブレーキペダル反力を得ることができる。このとき、S37を繰り返し実行するだけ(一定の電流値Iを出力するだけ)であるため、通常の使用頻度が高いストローク域(0≦Sp≦Spo)における制御ロジックを簡略化できる。
【0181】
[実施例2の効果]
(8)回生制動実施時に、検出されたブレーキペダル作動量(ストロークSp)が所定値Spo以下のときは、第1制御弁(遮断弁6a、6b)の開弁圧を一定値Pm2に制御することとした。
【0182】
よって、前輪減圧制御領域(0≦Sp≦Spo)では、常に一定のブレーキペダル反力を得ることができる。このとき、開弁圧を一定値Pm2に制御するためには、第1制御弁(遮断弁6a、6b)に一定電流を流し続けるだけでよいため、使用頻度が高いストローク域である前輪減圧制御領域(0≦Sp≦Spo)における制御ロジックを簡略化でき、演算等の容量を低減できる。
【実施例3】
【0183】
実施例3の車両用ブレーキ装置は、実施例1の特性マップ(図8)におけるブレーキペダルBPのストロークSpとホイルシリンダ圧との関係を変更し、それに応じて前輪側の制御ロジックを変更したものである。なお、その他の構成については、実施例1と同様である。
【0184】
図18は、実施例3の特性マップであり、ストロークSpと圧力(マスタシリンダ圧および前輪ホイルシリンダ圧)との関係を示す。マスタシリンダ圧の特性は、実施例1(図8)と同様に設定されている。
【0185】
一方、前輪ホイルシリンダ圧の特性についてみると、0≦Sp≦Spoの緩制動ストローク域は前輪FL,FRの微小増圧制御領域とされ、この領域では、前輪ホイルシリンダ圧は、ストロークSpに比例して緩やかに、すなわち小さな一定の増加勾配で上昇するように設定されている。すなわち、緩制動ストローク域で、実施例1では前輪ホイルシリンダ圧を0にまで減圧するのに対し、本実施例3では微小増圧する。
【0186】
よって、遮断弁6の開弁圧は、前輪微小増圧制御領域では、ストロークSpが0から増大するにつれて一定値Pmoから増大し、Sp=SpoのときはPm1よりも若干小さい値となる。
【0187】
一方、Sp>Spoの急制動ストローク域は、実施例1と同様の(大きな増加勾配による)前輪FL,FRの増圧制御領域に設定されている。具体的には、ストロークSpがSpoから増大するにつれて前輪ホイルシリンダ圧の増加勾配は徐々に増大し、ストロークSpが所定値(>Spo)以上になると一定(マスタシリンダ圧の増加勾配と略同じ)となる。
【0188】
図19は、本実施例3における前輪側のホイルシリンダ圧制御のフローチャートを示す。
【0189】
ステップS301では、実施例1のS21(図12)と同様にして、前輪側の制御を開始するか否かを判断する。制御を開始する場合、S302へ移行する。S301で前輪側の制御を行わないと判断した場合、S313へ移行し、増圧制御弁7a、7bおよび減圧制御弁8a、8bを全閉状態に保ち、本制御フローを終了する。
【0190】
S302では、ストロークセンサ11からストロークSpの検出値の入力を受け、S303へ移行する。
【0191】
S303では、検出されたストロークSpが、緩制動ストローク域(0≦Sp≦Spo)、すなわち前輪微小増圧制御領域にあるか否かを判断する。0≦Sp≦Spoである場合は、S304へ移行し、Sp>Spoである場合は、上記S313へ移行する。
【0192】
S304では、検出されたストロークSpに応じて、図18の特性マップに基づき前輪のホイルシリンダ圧目標値を算出し、S305へ移行する。
【0193】
S305では、ホイルシリンダ圧の目標値と検出値とに基づき、前輪ホイルシリンダ圧を増圧するか否かを判断する。増圧する場合、S306へ移行し、増圧しない場合、S308へ移行する。
【0194】
S306では、減圧制御弁8a、8bの制御を行わず、全閉状態に保つ。また、モータM1を制御してポンプPを駆動する。そして、増圧制御弁7a、7bを制御することで、ホイルシリンダ5a、5bにブレーキ液を供給する。その後、S307へ移行する。
【0195】
S307では、ホイルシリンダ圧センサ13a、13bの検出値に基づき、ホイルシリンダ圧が特性マップ(図18)の目標値に到達したか否かを判断する。目標値に到達した場合、S311へ移行する。到達していない場合、S306へ戻り、引き続きホイルシリンダ5a、5bの増圧を行う。S306, S307を繰り返すことで、ホイルシリンダ圧の微小増圧が実現される。
【0196】
S311では、増圧制御弁7および減圧制御弁8を閉弁してホイルシリンダ圧を保持する。その後、S312へ移行する。
【0197】
S312では、実施例1のS25(図12)と同様にして、前輪制御の終了を判断する。制御を続ける場合、S302へ戻って制御を続ける。終了する場合、S100(図13)へ移行し、終了処理を実行する。
【0198】
S308では、ホイルシリンダ圧の目標値と検出値とに基づき、前輪ホイルシリンダ圧を減圧するか否かを判断する。減圧する場合、S309へ移行し、減圧しない場合、S311へ移行する。
【0199】
S309では、増圧制御弁7a、7bを閉じたまま減圧制御弁8a、8bを開き、リザーバRESとホイルシリンダ5a、5bとを連通させて、前輪ホイルシリンダ圧をリザーバRESに抜き減圧する。その後、S310へ移行する。
【0200】
S310では、ホイルシリンダ圧センサ13a、13bの検出値に基づき、前輪ホイルシリンダ圧が特性マップ(図18)の目標値に到達したか否かを判断する。目標値に到達した場合、S311へ移行し、ホイルシリンダ圧の減圧を終了する。到達していない場合、S309へ戻り、引き続きホイルシリンダ5a、5bの減圧を行う。
【0201】
すなわち、前輪微小増圧制御領域(0≦Sp≦Spo)では、前輪側の制御終了を判断するまで、S304からS310までの処理を繰り返す。これにより、前輪FL,FRのホイルシリンダ圧が増減圧され、ホイルシリンダ圧が特性マップ(図18)の目標値と一致する。言い換えれば、検出されたストロークSpが緩制動時のストローク域(0≦Sp≦Spo)にあるときは、前輪ホイルシリンダ圧を0まで減圧せず、ストロークSpに応じて微小増圧する。すなわち、マスタシリンダMCから供給されるブレーキ液による若干の液圧制動力を前輪に発生させる。
【0202】
[実施例3の効果]
(9)回生制動実施時に、検出されたブレーキペダル作動量(ストロークSp)が所定値Spo以下のときは、作動量(ストロークSp)に応じてブレーキ液の液圧(ホイルシリンダ圧)を微小増圧させる一方、駆動輪(後輪RL,RR)の回生制動力を増加させることとした。
【0203】
よって、緩制動時に、前輪側のホイルシリンダ圧を低下させた分だけ後輪側の回生制動力を増大させつつ、前輪側にもストロークSpに応じた液圧制動力を残すことができる。言い換えれば、回生協調制御中の車両全体の制動力をより高く確保できる。したがって、車両重量が大きい等により緩制動時に(実施例1、2に比べて)高い制動力が要求される車両にも、本発明のブレーキ装置を適用し、実施例1と同様、車両挙動を安定化しつつ回生エネルギを増大できる。
【実施例4】
【0204】
実施例4の車両用ブレーキ装置は、前輪制御終了時の終了処理(S100)が実施例1〜3の処理(図13)と異なる。その他の構成は実施例1または実施例2と同様である。
【0205】
図20は、実施例4の終了処理を示す。終了処理(S100)はステップS120のみを有している。S120では、前輪側の減圧制御弁8a、8b(および増圧制御弁7a、7b)を閉じるとともに、遮断弁6a、6bを開弁することで終了処理を実施する。このとき遮断弁6a、6bのコイル68に流す電流値Iを制御して、遮断弁6のバルブ開度Xvの時間当たり変化量を制御する。これにより、前輪制御終了後の前輪ホイルシリンダ圧およびマスタシリンダ圧の時間変化を調整する。
【0206】
図21は、遮断弁6a、6bのバルブ開度Xvの時間変化を示すタイムチャートである。前輪側の制御中、バルブ開度Xvは所定の値に制御されている。前輪制御が終了すると、終了処理(S120)が開始される。この終了処理では、バルブ開度Xvが所定速度で最大開度まで増大される。図21の(a)は、バルブ開度Xvの時間変化量(増大勾配)が大きい場合、すなわち遮断弁6を急速に開いた場合のタイムチャートを示す。図21の(b)は、バルブ開度Xvの時間変化量(増大勾配)が小さく、遮断弁6を緩やかに開いた場合のタイムチャートを示す。
【0207】
図22および図23は、前輪制御終了時に上記終了処理を行う際の、マスタシリンダ圧および前輪ホイルシリンダ圧のタイムチャートを示す。図22(a)および図23は、遮断弁6を急速に開いた場合であり、図21の(a)に対応する。図22(b)は、遮断弁6を緩やかに開いた場合であり、図21の(b)に対応する。
【0208】
図22(a)(b)は、運転者のブレーキ操作状態(ストロークSp)は一定であるが車両側から送られる信号が回生ブレーキ不可を示すものであることにより前輪側の制御を終了する場合のタイムチャートを示す。なお、全ての時点でストロークSpは前輪減圧制御領域(0≦Sp≦Spo)にあるものとする。
【0209】
図22で、前輪の制御中は、減圧制御弁8a、8bが開弁されることで前輪ホイルシリンダ圧がゼロに制御されている。この前輪制御を終了し、終了処理(S120)を開始すると、減圧制御弁8a、8bが閉じられるとともに、遮断弁6a、6bが所定速度で開かれる。これにより第1ブレーキ回路1が連通し、高圧のマスタシリンダMC(加圧室)から低圧のホイルシリンダ5a、5bに向けてブレーキ液が供給される。このときマスタシリンダ圧が減少すると同時に前輪ホイルシリンダ圧が増加し、最終的に両者は、ブレーキペダルBPの踏み込み量(ストロークSp)に応じた所定圧において一致する。
【0210】
図22(a)に示すように、遮断弁6a、6bを急速に開いた場合、マスタシリンダ圧は急激に減少する一方でホイルシリンダ圧は急激に増加し、両圧は短時間で上記所定圧となる。よって、前輪制御終了後、両圧が短時間で安定する。一方、図22(b)に示すように、遮断弁6a、6bを緩やかに開いた場合、マスタシリンダ圧は緩やかに減少する一方でホイルシリンダ圧も緩やかに増加し、両圧は上記所定圧に向かって緩やかに収束する。よって、前輪制御終了後、マスタシリンダ圧の時間変化(減少勾配)が緩やかとなり、ストロークSpの急激な変動が抑制される。
【0211】
図23は、ストロークSpの値が、前輪減圧制御領域(0≦Sp≦Spo)から前輪増圧制御領域(Sp>Spo)に移行し、その後、ブレーキペダルBPが戻されることで前輪制御を終了する場合のタイムチャートを示す。減圧制御領域(0≦Sp≦Spo)では、前輪ホイルシリンダ圧は、減圧制御弁8a、8bの開弁制御(図12のS24)によってゼロに維持される。増圧制御領域(Sp>Spo)では、前輪ホイルシリンダ圧は、遮断弁6a、6bの制御(図9のS13〜S16)によって、ストロークSpに応じた値に制御される。
【0212】
ブレーキペダルBPが戻されることで前輪の制御が終了すると、遮断弁6a、6bを開弁する終了処理(S120)が開始される。このように遮断弁6a、6bを開弁した状態でブレーキペダルBPが戻されると、カップ状シール部材を介してマスタシリンダMCの液圧室(加圧室)とリザーバRESが連通し、マスタシリンダ圧が減圧される。これに伴い、前輪のホイルシリンダ5a、5bに供給されていたブレーキ液も第1ブレーキ回路1および遮断弁6を介してリザーバRESに戻され、前輪ホイルシリンダ圧も減圧される。
【0213】
すなわち、本実施例4では、前輪の制御終了時、ブレーキペダルBPの作動方向(踏み込み方向であるか戻し方向であるか)に応じて、遮断弁6の開弁を制御する。これに対し、実施例1〜3では、ブレーキペダルBPが戻された後、ホイルシリンダ圧をマスタシリンダ圧と一致させた後に(すなわち前輪ホイルシリンダ圧に応じて)、遮断弁6の開弁を制御する。
【0214】
このように、終了処理(S120)で遮断弁6を開弁する際、ブレーキペダルBPは戻されている最中である。ここで、ブレーキペダルBPの戻し方向では、踏み込み方向とは異なり、ブレーキペダルBPに作用する反力の変動がペダル操作フィーリングとして運転者に違和感を与えることが少ない。また、前輪の制御(回生協調制御)中およびその終了時にはホイルシリンダ圧はマスタシリンダ圧よりも低くなっている。このため、前輪の制御終了時に遮断弁6を急速に開いても、ホイルシリンダ圧がマスタシリンダ圧を増大させることはなく、ブレーキペダルBPの戻し方向の反力が発生することはないため、ペダル操作フィーリングが悪化するおそれはない。
【0215】
以上のように、本実施例4では、緩制動ストローク域(0≦Sp≦Spo)で、実施例1、2と同様に前輪ホイルシリンダ圧をゼロまで低下させることとしたが、実施例3のように微少増圧制御することとしてもよく、この場合も下記作用効果を得ることができる。
【0216】
[実施例4の効果]
(10)回生制動終了時にはブレーキペダルBPの作動方向に応じて第1制御弁(遮断弁6)を制御することとした。
【0217】
よって、回生制動(前輪制御)終了時、前輪ホイルシリンダ圧に応じることなく、ブレーキペダルBPの作動方向のみに応じて遮断弁6を制御するため、実施例1〜3よりも簡単な制御ロジックで、終了処理における自然なペダル操作フィーリングを実現できる。
【0218】
なお、図22に示すように、この終了処理において、遮断弁6のバルブ開度Xvの時間当たり変化量(増大勾配)を制御することとしてもよい。例えば、前輪制御終了後、遮断弁6を急速に開いた場合(図22(a))、短時間でマスタシリンダ圧およびホイルシリンダ圧を安定させることができる。よって、フェール時等、緊急の場合を想定した場合に有効である。一方、遮断弁6を緩やかに開いた場合(図22(b))、マスタシリンダ圧の時間当たり変化を緩やかにでき、ストロークSpの急激な変動を抑制できる。この場合、(ブレーキペダルBPが踏み込まれたままの状態で回生制動を終了するときは特に)ペダル操作フィーリングをより向上できるため、マスタシリンダ圧およびホイルシリンダ圧の変化時間が長くてもよい場合に有効である。
【0219】
[他の実施例]
以上、本発明を実施するための最良の形態を、実施例1〜4に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例1〜4に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【0220】
例えば、実施例1〜4では、倍力装置BSにより昇圧されたブレーキ液を従動輪である前輪FL,FRのホイルシリンダ5a、5bに供給することとしたが、駆動輪である後輪RL,RR側も前輪FL,FR側と同様の油圧回路構成とし、倍力装置BSにより昇圧されたブレーキ液を駆動輪である後輪RL,RRのホイルシリンダ5c、5dにも供給することとしてもよい。この場合も、回生制動時に、供給された上記ブレーキ液の液圧を低減し、この低減分だけ駆動輪の回生制動力を増加させることで、上記と同様の作用効果が得られる。
【0221】
実施例1〜4では、後輪を駆動輪として前輪を従動輪としたが、その逆に、前輪を駆動輪として後輪を従動輪としてもよい。例えば、第1ブレーキ回路1を介してマスタシリンダMCと後輪側のみのホイルシリンダ5c、5dを接続するとともに、第2ブレーキ回路2を介して液圧源(ポンプP)と前後輪のホイルシリンダ5a〜5dを接続する構成とし、第2ブレーキ回路2のみを介して前輪FL,FR(ホイルシリンダ5a、5b)を増圧する構成としてもよく、この場合も上記と同様の作用効果が得られる。
【0222】
実施例1〜4では、遮断弁6、増圧制御弁7、および減圧制御弁8として、電流値によりバルブ開度が比例的に変化するいわゆる比例弁を用いたが、バルブ開度が開と閉の2位置のみとる、いわゆるオン・オフ弁を用いることとしてもよい。また、例えば遮断弁6はオン・オフ弁であり、増圧制御弁7および減圧制御弁8は比例弁である、というように、オン・オフ弁と比例弁とを組み合わせて用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0223】
【図1】車両用ブレーキ装置が適用されたハイブリッド車両の全体システム図である。
【図2】液圧ブレーキ装置の油圧回路構成を示す。
【図3】遮断弁の軸方向断面図である。
【図4】遮断弁の開弁圧と電流値との関係を示すグラフである。
【図5】通常ブレーキ時に回生協調制御を行わない場合の前後輪の制動力配分を示す。
【図6】後輪ホイルシリンダ圧とマスタシリンダ圧との関係を示す特性マップである。
【図7】通常ブレーキ時に回生協調制御を行う場合の前後輪の制動力配分を示す。
【図8】実施例1におけるブレーキペダルストロークとマスタシリンダ圧および前輪ホイルシリンダ圧との関係を示す特性マップである。
【図9】遮断弁の制御フローチャートである。
【図10】前輪側の制御の開始判断フローである。
【図11】前輪側の制御の終了判断フローである。
【図12】前輪ホイルシリンダ圧の制御フローチャートである。
【図13】前輪制御の終了処理のフローチャートである。
【図14】実施例1における前輪制御終了時のタイムチャートである。
【図15】後輪側の制御フローチャートである。
【図16】実施例2におけるブレーキペダルストロークとマスタシリンダ圧および前輪ホイルシリンダ圧との関係を示す特性マップである。
【図17】実施例2における遮断弁の制御フローチャートである。
【図18】実施例3におけるブレーキペダルストロークとマスタシリンダ圧およびホイルシリンダ圧との関係を示す特性マップである。
【図19】実施例3における前輪ホイルシリンダ圧の制御フローチャートである。
【図20】実施例4における前輪制御の終了処理のフローチャートである。
【図21】実施例4における前輪制御終了時の遮断弁開度のタイムチャートである。
【図22】実施例4における前輪制御終了時(ブレーキペダルが戻されない場合)のマスタシリンダ圧およびホイルシリンダ圧のタイムチャートである。
【図23】実施例4における前輪制御終了時(ブレーキペダルが戻された場合)のマスタシリンダ圧およびホイルシリンダ圧のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0224】
1 第1ブレーキ回路
2 第2ブレーキ回路
3 油路(リターン回路)
5 ホイルシリンダ
6 遮断弁
7 増圧制御弁
8 減圧制御弁
11 ストロークセンサ
12 マスタシリンダ圧センサ
13 ホイルシリンダ圧センサ
68 コイル
B バッテリ
BCU ブレーキ制御ユニット
BP ブレーキペダル
BS 倍力装置
HU 液圧制御装置
I インバータ
M モータ
M1 モータ(ポンプ駆動用)
MC マスタシリンダ
P ポンプ
RES リザーバ
β 液圧ブレーキ装置
γ 回生ブレーキ装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動輪を駆動するモータを備え、回生制動時には前記モータをジェネレータとして回生ブレーキを実施する車両用ブレーキ装置において、
マスタシリンダと、
前記マスタシリンダと連動し運転者の踏力により作動するブレーキペダルと、
前記マスタシリンダを作動させる倍力装置と、
車両の各車輪に設けられたホイルシリンダと、
前記倍力装置により昇圧されたブレーキ液を少なくとも従動輪の前記ホイルシリンダに供給する第1ブレーキ回路と、を備え、
回生制動実施時に前記ブレーキ液の液圧を低減させる一方、前記駆動輪の回生制動力を増加させることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用ブレーキ装置において、
ホイルシリンダ圧力の減圧時に低圧部と連通する減圧回路と、
前記減圧回路に設けられ、前記ホイルシリンダと前記低圧部の断接を行う減圧制御弁と、を有し、
前記ブレーキ液圧を低減させるときに、該減圧制御弁を開弁することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用ブレーキ装置において、
前記ブレーキペダルの作動量を検出する作動量検出手段と、
前記第1ブレーキ回路中には、前記マスタシリンダと前記ホイルシリンダとの間を断接する第1制御弁と、を設け、
前記回生制動実施時に、前記検出された作動量に応じて前記第1制御弁の開弁圧を制御することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用ブレーキ装置において、
前記回生制動実施時に、前記検出された作動量が所定値以下のときは、前記第1制御弁の開弁圧を一定値に制御することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項3に記載の車両用ブレーキ装置において、
前記回生制動実施時に、前記検出された作動量が所定値以下のときは、前記作動量に応じて前記ブレーキ液の液圧を微小増圧させる一方、前記駆動輪の回生制動力を増加させることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載の車両用ブレーキ装置において、
前記回生制動終了時にはホイルシリンダ圧力またはブレーキペダルの作動方向に応じて前記第1制御弁を制御することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項7】
請求項1に記載の車両用ブレーキ装置において、
前記第1ブレーキ回路に設けられ、前記マスタシリンダと前記ホイルシリンダとの間を断接する第1制御弁と、
ホイルシリンダ圧力の減圧時に低圧部と連通する減圧回路と、
前記減圧回路に設けられ、前記ホイルシリンダと前記低圧部との間を断接する減圧制御弁と、を有することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の車両用ブレーキ装置において、
前記倍力装置とは別に設けられブレーキ液を昇圧するための液圧源と、
前記第1ブレーキ回路に対して並列に設けられ、前記液圧源により昇圧されたブレーキ液をホイルシリンダに供給する第2ブレーキ回路と、
前記第2ブレーキ回路中に設けられ、前記液圧源とホイルシリンダとの間を断接する増圧制御弁と、
前記増圧制御弁および前記液圧源の作動をコントロールするコントロールユニットと、を有し、
前記コントロールユニットは、少なくとも前記増圧制御弁を開制御しているときは前記液圧源を作動させホイルシリンダ内を昇圧させることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項1】
車両の駆動輪を駆動するモータを備え、回生制動時には前記モータをジェネレータとして回生ブレーキを実施する車両用ブレーキ装置において、
マスタシリンダと、
前記マスタシリンダと連動し運転者の踏力により作動するブレーキペダルと、
前記マスタシリンダを作動させる倍力装置と、
車両の各車輪に設けられたホイルシリンダと、
前記倍力装置により昇圧されたブレーキ液を少なくとも従動輪の前記ホイルシリンダに供給する第1ブレーキ回路と、を備え、
回生制動実施時に前記ブレーキ液の液圧を低減させる一方、前記駆動輪の回生制動力を増加させることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用ブレーキ装置において、
ホイルシリンダ圧力の減圧時に低圧部と連通する減圧回路と、
前記減圧回路に設けられ、前記ホイルシリンダと前記低圧部の断接を行う減圧制御弁と、を有し、
前記ブレーキ液圧を低減させるときに、該減圧制御弁を開弁することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用ブレーキ装置において、
前記ブレーキペダルの作動量を検出する作動量検出手段と、
前記第1ブレーキ回路中には、前記マスタシリンダと前記ホイルシリンダとの間を断接する第1制御弁と、を設け、
前記回生制動実施時に、前記検出された作動量に応じて前記第1制御弁の開弁圧を制御することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用ブレーキ装置において、
前記回生制動実施時に、前記検出された作動量が所定値以下のときは、前記第1制御弁の開弁圧を一定値に制御することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項3に記載の車両用ブレーキ装置において、
前記回生制動実施時に、前記検出された作動量が所定値以下のときは、前記作動量に応じて前記ブレーキ液の液圧を微小増圧させる一方、前記駆動輪の回生制動力を増加させることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載の車両用ブレーキ装置において、
前記回生制動終了時にはホイルシリンダ圧力またはブレーキペダルの作動方向に応じて前記第1制御弁を制御することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項7】
請求項1に記載の車両用ブレーキ装置において、
前記第1ブレーキ回路に設けられ、前記マスタシリンダと前記ホイルシリンダとの間を断接する第1制御弁と、
ホイルシリンダ圧力の減圧時に低圧部と連通する減圧回路と、
前記減圧回路に設けられ、前記ホイルシリンダと前記低圧部との間を断接する減圧制御弁と、を有することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の車両用ブレーキ装置において、
前記倍力装置とは別に設けられブレーキ液を昇圧するための液圧源と、
前記第1ブレーキ回路に対して並列に設けられ、前記液圧源により昇圧されたブレーキ液をホイルシリンダに供給する第2ブレーキ回路と、
前記第2ブレーキ回路中に設けられ、前記液圧源とホイルシリンダとの間を断接する増圧制御弁と、
前記増圧制御弁および前記液圧源の作動をコントロールするコントロールユニットと、を有し、
前記コントロールユニットは、少なくとも前記増圧制御弁を開制御しているときは前記液圧源を作動させホイルシリンダ内を昇圧させることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
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【図14】
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【図16】
【図17】
【図18】
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【図20】
【図21】
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【公開番号】特開2009−67268(P2009−67268A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238963(P2007−238963)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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