説明

車両用歩行者検出装置

【課題】歩行者の立ち止まりからの動き出しについて精度良く判定できる車両用歩行者検出装置を提供する。
【解決手段】歩行者の挙動(走行路横断行動)に関し、歩行者の意思が反映された膝部位置移動速度及Vkt及び肩部位置移動速度Vstを用いて、歩行者動き出し条件式を、膝部及び肩部の運動エネルギの形(Vst/α)2+(Vkt/α)2>1 (但し、Vst>0且つVkt>0、α:正規化係数)とすることにより、その運動エネルギにおける速度の2乗値に基づき、歩行者8の挙動予測に及ぼす膝部位置移動速度Vkt及び肩部位置移動速度Vstの反映度を高め、判定精度を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用歩行者検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歩行者が走行の支障となることを検出する車両用歩行者検出装置には、特許文献1に示すように、歩行者の身長と脚部開度とを検出し、その身長に対する脚部開度の比率が所定値以上か否かを判別することにより、歩行者の横断可能性を判断するものがある。
【特許文献1】特開2007−264778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記車両用歩行者検出装置においては、歩行者が既に動き出しを開始した後の脚部開度が広いことを検出するものであり、このような構成の下では、判定が遅れて衝突回避が遅れるという問題がある。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、歩行者の立ち止まり状態からの動き出しについて精度良く判定できる車両用歩行者検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記技術的課題を達成するために本発明(請求項1に係る発明)にあっては、
歩行者の立ち止まり状態からの動き出しを判定する車両用歩行者検出装置であって、
自車両の周辺を撮影する撮像手段と、
前記撮像手段からの撮影情報に基づき、歩行者を検出して歩行者情報を検出すると共に、該歩行者情報に基づき該歩行者の膝部位置と上半身部位置とを推定する歩行者情報検出手段と、
前記歩行者情報検出手段からの情報に基づき、前記膝部位置の膝部位置移動速度と前記上半身部の上半身部位置移動速度とを検出する移動速度検出手段と、
前記移動速度検出手段からの膝部位置移動速度及び上半身部位置移動速度に基づき、前記膝部移動による運動エネルギ及び前記上半身部移動による運動エネルギを算出すると共に、該両運動エネルギの運動エネルギ総和量を算出するエネルギ算出手段と、
前記エネルギ算出手段からの前記運動エネルギ総和量に基づき、該運動エネルギ総和量が所定値を超えたとき、前記歩行者が動き出したと判定する判定手段と、
が備えられている構成としてある。請求項1の好ましい態様としては、請求項2以下の記載の通りとなる。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、歩行者の挙動(走行路横断行動)を、歩行者の意思が反映された膝部位置の膝部位置移動速度と上半身部位置の上半身部位置移動速度とにより的確に予測できるだけでなく、その膝部位置移動速度及び上半身部位置移動速度を利用して、膝部及び上半身部の運動エネルギの形にすることにより、その運動エネルギにおける速度の2乗値に基づき、歩行者の挙動予測に及ぼす膝部位置移動速度及び上半身部位置移動速度の反映度を高めることができる。このため、歩行者の立ち止まり状態からの動き出しについて、判定遅れなく精度良く判定できる。
【0007】
請求項2の発明によれば、歩行者情報検出手段が、撮像手段の撮影情報から、歩行者の膝部間幅を下底、歩行者の上半身幅を上底とする台形形状の歩行者平面モデルを推定するように設定され、移動速度検出手段が、膝部位置移動速度として、歩行者情報検出手段が推定した下底の広がり速度を検出すると共に、上半身部位置移動速度として、歩行者情報検出手段が推定した上底の移動速度を検出するように設定されていることから、歩行者の膝部及び上半身部の情報を簡単化して膝部位置移動速度及び上半身部位置移動速度を算出することができ、処理負担の軽減を図ることができる。このため、歩行者の立ち止まり状態からの動き出し判定を、より早めることができる。
【0008】
請求項3の発明によれば、エネルギ算出手段が、膝部位置移動速度と上半身部位置移動速度とを正規化係数にて正規化したものについて、そのエネルギ総和量を算出するように設定されていることから、歩行者の体格に依存することなく歩行者の動き出し判定を行うことができる。
【0009】
請求項4の発明によれば、エネルギ算出手段が、正規化係数を、歩行者情報検出手段が検出した歩行者情報のうちの身長情報に基づき変更するように設定されていることから、身長を反映させた正規化係数を用いることができ、歩行者の立ち止まり状態からの動き出し判定精度を、より高めることができる。
【0010】
請求項5の発明によれば、歩行者情報検出手段が、膝部位置を、該歩行者情報検出手段が検出した歩行者情報のうちの身長情報に対して膝部位置特有の割合位置と推定すると共に、上半身部位置を、該歩行者情報のうちの身長情報に対して上半身部位置特有の割合位置と推定するように設定されていることから、膝部位置、上半身部位置を簡易且つ精度良く推定できる。
【0011】
請求項6の発明によれば、判定手段が歩行者の動き出しを判定したときにドライバーへの警報情報を出力する出力手段が備えられていることから、ドライバーは歩行者の動き出しを警報情報に基づき早期に知ることができ、歩行者と自車両との衝突を回避できる。
【0012】
請求項7の発明によれば、上半身部が肩部であることから、上半身部の挙動を肩部をもって的確に捉えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
図1において、符号1は車両(自車両)で、この車両1には、実施形態に係る車両用歩行者検出装置2が搭載されている。この車両用歩行者検出装置2には、図1,図2に示すように、撮像手段としてのステレオカメラ3と、ブレーキ制御用アクチュエータ4と、警報表示装置5と、処理装置6とが備えられており、処理装置6にステレオカメラ3からの撮影情報が入力される一方、処理装置6からはブレーキ制御用アクチュエータ4、警報表示装置5に制御信号が出力されることになっている。
【0014】
前記ステレオカメラ3は、本実施形態においては、フロントウインドウの上部に取付けられて、走行方向である車両1の前方側全体を撮影することになっている。これに伴い、ステレオカメラ3は、車両1の前方側の走行路7周辺も撮影して、その走行路7周辺に図3,図4に示すように歩行者8が存在する場合には、その歩行者8も撮影することになる。このステレオカメラ3は、既知の如く、対象物を複数の異なる方向から同時に撮影することにより、その奥行き方向の情報も記録できるようにしたものであり、基本的には、2台分以上のカメラのレンズ機構とシャッター機構とを1台にした構造となっている。このステレオカメラ3には、図示を略す画像処理部が備えられており、ステレオカメラ3により撮影された撮影情報は、その画像処理部においてステレオ画像処理等を経た後、処理装置6に入力されることになっている。
【0015】
前記ブレーキ制御用アクチュエータ4は、ブレーキの作動を調整するものであり、そのブレーキ制御用アクチュエータ4は、処理装置6からブレーキ作動指示信号(制御信号)が入力されたときに、ブレーキを作動させることになっている。
【0016】
前記警報表示装置5は、処理装置6からの警報信号(制御信号)が入力されたとき、警報表示を表示してドライバーに知らせる表示装置であり、本実施形態においては、警報表示装置5として、ナビゲーション装置の表示装置が利用されている。
【0017】
前記処理装置6は、前記ステレオカメラ3からの撮影情報に基づき立ち止まり状態から走行路7に動き出す(歩き出す)歩行者8が存在するか否かを判定するものであり、この処理装置6には、図2に示すように、歩行者検出処理部9、歩行者抽出処理部10、歩行者動き出し判定処理部11、出力処理部12が備えられている。歩行者検出処理部9は、ステレオカメラ3からの撮影情報(画像情報)に基づき、その撮影情報中に存在する歩行者8を検出するものである。このため、歩行者検出処理部9においては、歩行者8検出のために、ステレオカメラによって対象物までの距離や大きさを検出し、形状によるパターンマッチング、あるいは、歩行者が携帯するICカードや電話などからの信号や電波の受信などによって対象物が歩行者であるかどうかを判定することが行われる。
【0018】
歩行者抽出処理部10は、歩行者検出処理部9で検出された歩行者8のうちから、車両1から所定距離内に存在し且つ立ち止まっている歩行者8を抽出するものである(図3,図4参照)。このため、歩行者抽出処理部10においては、予め記憶されている歩行者8の記憶データと、歩行者検出処理部9で検出された歩行者8データとのマッチング処理が行われ、対象歩行者8が選び出される。
【0019】
歩行者動き出し判定処理部11は、歩行者抽出処理部10で抽出された歩行者8が立ち止まり状態から走行路7に向けて動き出すか否かを判定するものであり、この歩行者動き出し判定処理部11には、図5に示すように、その判定を行うべく、歩行者情報検出部13、移動速度検出部14、エネルギ算出部15、判定部16が備えられている。歩行者情報検出部13は、ステレオカメラ3からの撮影情報に基づき、車両1から当該歩行者8までの距離とその高さとを得て、図6に示すように、それらから歩行者8の見かけの身長hを算出すると共に、その見かけの身長hを利用して、歩行者8の上半身部位置の代表位置を示す肩高(肩部位置)と膝高(膝部位置)とを算出する機能を有している。具体的には、肩高は、肩高=0.80×hにより求められ、膝高は、膝高=0.27×hにより求められる。ここで、係数「0.80」「0.27」は、肩高、膝高を見かけ身長から導き出すために、予め最適なものとして求めたものである。
【0020】
移動速度検出部14は、対象歩行者8の肩部位置移動速度、膝部位置移動速度を検出するものであり、移動速度検出部14においては、歩行者情報検出部13で検出した肩部位置、膝位置について、ステレオカメラ3からの情報(時間経過に伴う変化情報)に基づき見かけの移動速度Vst,Vktをそれぞれ算出されることになっている(図7参照)。ここで、見かけ速度は、ステレオカメラ3に撮影される歩行者8の画像上での変位速度であり、その歩行者8の正面方向の速度が正とされる。
【0021】
エネルギ算出部15は、歩行者8が動き出すか否かを判定すべく、移動速度検出部14が検出した見かけの移動速度Vst,Vktに基づき、エネルギ相当値(Vst/α)2+(Vkt/α)2を算出するものである。このエネルギ相当値については後述するが、ここで使用されているαは、正規化係数であり、歩行者8の見かけ身長hに応じて変わるものである。図8は、歩行者8の見かけ身長に応じて変わる正規化係数の具体例を示すものであり、上記エネルギ相当値を算出するに際して、歩行者8の見かけ身長に応じた正規化係数αが用いられる。
【0022】
判定部16は、上記エネルギ算出部15が算出した前記エネルギ相当値が1を超えているか否かを判定するものである。すなわち、判定部16は、エネルギ相当値が1を超えていると判断したときには歩行者8が動き出す条件を満たしていると判定し、エネルギ相当値が1以下と判断したときには歩行者8が動き出す条件を満たしていないと判定する。
【0023】
上記エネルギ算出部15及び判定部16の処理は、本件発明者が見出した実験条件式(数1)に基づいている。
【数1】

【0024】
この実験条件式(数1)は、上述のエネルギ算出部15及び判定部16の処理の説明からも明らかなように、エネルギ相当値(Vst/α)2+(Vkt/α)2 が1を超えたとき、歩行者8が動き出し条件を満足するというものであるが、これは、膝部移動による運動エネルギと肩部移動による運動エネルギの総和量が所定値以上であるというものを、肩位置の見かけの移動速度Vstと膝部位置の見かけの移動速度Vktとを正規化係数αにて上述のように正規化したものである。具体的には、通常の歩行開始動作では床反力の作用点をずらすことによって発生した重力のモーメントにより身体を倒しながら足を振り出し、歩行を開始する。このため、歩行開始時に最低限必要な見かけの移動速度は身長に比例するとすることにより、上記実験条件式(数1)を得る。つまり身長150cmの人ではVst、Vktは共に身長170cmの人の150/170倍となり正規化係数も170cmの場合の150/170倍となる(実験では身長約170cmでα=400であった)。このように正規化するのは、歩行者の体格に依存することなく歩行者の動き出し判定をするためである。
【0025】
上記実験条件式(数1)において肩部位置の見かけの移動速度Vstと膝部位置の見かけの移動速度Vktとを用いているのは、歩行者8の走行路7への動き出し(走行路7横断行動)に関し、これら見かけの移動速度VstとVktとが歩行者8の意思を的確に反映しており、これらにより歩行者8の走行路7への動き出しを予測できるからであり、その見かけの移動速度Vkt及びVstを利用して、膝部及び肩部の運動エネルギの形にしているのは、その運動エネルギにおける速度の2乗値に基づき、歩行者8の挙動予測に及ぼす見かけの移動速度Vkt及びVstの反映度を高めることができるからである。
【0026】
具体的に正規化係数400(身長170cm)の場合を例にとり上記実験条件式を図示すれば、図9に示すように、円形境界線(半径=400)を示すことになり、その円形境界線においてその第1象限における内側が歩行者8の非動き出し領域を示し、その円形境界線外側が歩行者8の動き出し領域を示すことになる(図9中、斜線領域)。これに対して、この図9において一点鎖線は、運動エネルギではなく移動速度(Vst、Vkt)をもって境界線を示すものであり、その移動速度(Vst、Vkt)にて境界線を示す場合には、その境界線の外側が歩行者8の動き出し領域を示すことになる。このため、実験条件式(数1)で示す場合には、移動速度(Vst、Vkt)にて示す境界線(一点鎖線)の内側にまで歩行者8の動き出し領域が拡大されることになり(円と一点鎖線とで囲まれる領域)、実験条件式(数1)を用いれば、見かけの移動速度(Vst、Vkt)にて境界線(一点鎖線)を示す場合に比して歩行者8の立ち止まり状態からの動き出しについて、判定遅れなく精度良く検出できることになる。
尚、本実施形態においては、見かけの移動速度Vst,Vktの各項に用いられる正規化係数をαとして同じにしているが、条件、状況に応じて、それを異ならせて重み付けを行うようにしてもよい。
【0027】
出力処理部12は、前記判定部16が歩行者8の動き出し条件を満たしていると判定したとき、警報表示装置5に対して警報信号を出力すると共に、ブレーキ制御用アクチュエータ4に対してブレーキ作動指示信号を出力する機能を有している。
【0028】
このような車両用歩行者8検出装置2は、次のように作動する。処理装置6の処理内容を示す図10のフローチャートを中心として具体的に説明する。
先ず、ステレオカメラ3から画像情報(画像処理済み)が処理装置6に入力されると、S1(Sはステップを示す)において、その画像データに基づき歩行者8の検出処理が行われる。画像データ中に存在する歩行者8を検出するためである。次のS2においては、その歩行者8のうち、自車両1から所定距離内に存在する歩行者8であって、立ち止まっている歩行者8が検出される。この場合の検出処理は、S1における歩行者8の画像データと、予め記憶されている歩行者8の画像データのマッチング処理により行われる。次に、S3において、S2の検出処理の結果に基づき、対象歩行者8が存在するか否かが判別される。衝突可能性のある歩行者か否かを早期に知るためである。そのS3がNOのときには、リターンされて対象歩行者8の監視が続けられる一方、S3がYESのときには、S4において、歩行者8の動き出し判定処理が行われる。
【0029】
歩行者8の動き出し判定処理は、本実施形態においては、図11に示すフローチャートに従って行われる。この判定処理においては、先ず、S4−1で、自車両1から歩行者8までの距離と高さから歩行者8の見かけの身長hが算出され、次のS4−2においては、上記見かけの身長hから、前述の如く歩行者8の肩高(肩位置)、膝高(膝位置)が算出される(肩高=0.80×h、膝高=0.27×h)。
【0030】
次に、S4−3において、S4−2において求めた肩位置の見かけの移動速度Vstが算出され、S4−4において、S4−2において求めた膝位置の見かけの移動速度Vktが算出される。そして、S4−5において、S4−1で求めた身長hに応じた正規化係数αがマップデータ(図8参照)より求められ、S4−6において、エネルギ相当値(Vst/α)2+(Vst/α)2が算出される。そして次のS4−7において、S4−6のエネルギ相当値が1より大きいか否かが判別され、そこにおいて、S4−6のエネルギ相当値が1を超えていると判断されたときには、S4−8において、走行路7へ動き出す歩行者8が存在すると判定される。一方、S4−7の判別において、S4−6のエネルギ相当値が1より小さいと判断されたときには、S4−9において、走行路7へ動き出す歩行者8が存在しないと判定される。
【0031】
歩行者8の動き出し判定処理を終えると、S5において、そのS4の歩行者8の動き出し判定処理の結果に基づき、走行路7へ動き出す歩行者8が存在するか否かが判別される。そのS5がNOのときには、S1に戻されて歩行者8の監視が続けられる一方、S5の判別がYESのときには、警報信号、ブレーキ作動制御が出力される。これにより、警報表示をもってドライバーは走行路7へ動き出す歩行者8を知ることができると共に、ブレーキ作動により、その歩行者8と車両1との衝突を未然に防止できることになる。この場合、警告表示に限らず、警告音を単独的に又は警告表示と共に出力してもよい。
【0032】
図12〜図14は第2実施形態を示す。この第2実施形態においては、歩行者8の動態予測判定の演算負荷を低減すべく、第1実施形態の歩行者8を平面モデル(歩行者リンクモデル)に置き換えることとした内容を示している。すなわち、この第2実施形態においては、歩行者の見かけの身長hから、第1実施形態同様、歩行者8の肩高(肩位置)、膝高(膝部位置)が算出された後(肩高=0.80×h、膝高=0.27×h)、その歩行者の肩高での両肩部幅(●印間)を上底、歩行者の膝高での膝部間幅(●印間)を下底とする台形形状の歩行者平面モデルが推定される。図12は、正面視の歩行者について台形形状の歩行者平面モデルを推定する場合を示し、図13は、側面視の歩行者について台形形状の歩行者平面モデルを推定する場合を示している。
【0033】
上記歩行者平面モデルにおいて、台形形状の上底(肩高での両肩幅)は、次の性質を有している。
(1)前傾のため、身長に対する肩部の幅(上底)はほとんど変化しない。
(2)前傾するため上底は進行方向に平行移動する。
(3)歩行開始後の速度が速いほど上底の移動速度も速くなる。
【0034】
また、上記台形形状の下底(膝部間幅)は、次の性質を有している。
(1)身長に対して膝部の幅は、最初に踏み出す側の足が前方に移動し反対側の足は動かないため、大きくなる。
(2)片側の足が動いていないので、下底の片側のみが移動することで膝部の幅が拡がる(図6の状態参照)。
(3)歩行開始後の速度が速いほど下底が広がる速度も速い。
【0035】
このため、このような台形形状の上底、下底の性質から、本件発明者は、歩行者の動き出し実験条件式(数2)を導き出した。
【数2】

ここで、Vu:上底の平行移動速度 Vd:下底の広がる速度
尚、実験条件式(数2)において、上底の移動方向と下底の広がる方向は同一方向となる。また、αは、前記第1実施形態同様、正規化係数を示す。
【0036】
この実験条件式(数1)も、前記第1実施形態同様、歩行者動き出し判定処理に用いられるが、その詳細については、図14に示すフローチャートに基づき具体的に説明する。
【0037】
この第2実施形態においても、前記第1実施形態同様、先ず、歩行者8の見かけの身長h、歩行者8の肩高(肩部位置)、膝高(膝部位置)が算出される(S4−1’、S4−2’)。次に、S4−3’においては、S4−2’で求めた肩部位置、膝部位置とから歩行者8を平面モデル(歩行者8リンクモデル)とした台形形状が算出され、続いて、S4−4’においては、S4−3’における台形形状の上底平行移動速度Vu、S4−5’においては、S4−3’における台形形状の下底の広がり速度Vdが算出される。そして、S4−6’において、S4−1で求めた身長hに応じた正規化係数αがマップデータ(図8参照)より求められ、S4−7’において、エネルギ相当値(Vu/α)2+(Vd/α)2が算出される。そして次のS4−8’において、S4−7’のエネルギ相当値が1より大きいか否かが判別され、そこにおいて、S4−7’のエネルギ相当値が1を超えていると判断されたときには、S4−9’において、動き出し歩行者8が存在すると判定される。一方、S4−8’の判別において、S4−7’のエネルギ相当値が1より小さいと判断されたときには、S4−10’において、動き出し歩行者8が存在しないと判定される。これにより、この第2実施形態においては、歩行者8の動き出しを精度良く早期に判定できるだけでなく、歩行者8の動態予測判定の演算負荷を低減できることになる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】第1実施形態に係る車両用歩行者検出装置を搭載した車両を示す図。
【図2】第1実施形態に係る車両用歩行者検出装置における各処理工程を示すブロック図。
【図3】歩行者が走行路横断に向けて動き出す状態を車両側から示した図。
【図4】歩行者が走行路横断に向けて動き出す状態を平面的に示した図。
【図5】第1実施形態に係る歩行者動き出し判定処理部の具体的内容を示す図。
【図6】歩行者の見かけ身長と肩高、膝高との関係を説明する説明図。
【図7】肩位置の見かけ移動速度Vst、膝位置の移動速度Vktを説明する説明図。
【図8】歩行者の見かけ身長と正規化係数との関係を示すマップデータ。
【図9】第1実施形態に係る実験条件式の下での歩行者の動き出し領域を説明する説明図。
【図10】第1実施形態に係る制御例を示すフローチャート。
【図11】第1実施形態に係る歩行者動き出し判定処理の制御例を示すフローチャート。
【図12】第2実施形態において用いる平面モデル(正面視)を推定する過程を説明する説明図。
【図13】第2実施形態において用いる平面モデル(側面視)を推定する過程を説明する説明図。
【図14】第2実施形態に係る歩行者動き出し判定処理の制御例を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0039】
1 車両
2 車両用歩行者検出装置
3 ステレオカメラ(撮像手段)
4 ブレーキ制御用アクチュエータ
5 警告表示装置
6 処理装置
8 歩行者
11 歩行者動き出し判定処理部
13 歩行者情報検出部(歩行者情報検出手段)
14 移動速度検出部(移動速度検出手段)
15 エネルギ算出部(エネルギ算出手段)
16 判定部(判定手段)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行者の立ち止まり状態からの動き出しを判定する車両用歩行者検出装置であって、
自車両の周辺を撮影する撮像手段と、
前記撮像手段からの撮影情報に基づき、歩行者を検出して歩行者情報を検出すると共に、該歩行者情報に基づき該歩行者の膝部位置と上半身部位置とを推定する歩行者情報検出手段と、
前記歩行者情報検出手段からの情報に基づき、前記膝部位置の膝部位置移動速度と前記上半身部の上半身部位置移動速度とを検出する移動速度検出手段と、
前記移動速度検出手段からの膝部位置移動速度及び上半身部位置移動速度に基づき、前記膝部移動による運動エネルギ及び前記上半身部移動による運動エネルギを算出すると共に、該両運動エネルギの運動エネルギ総和量を算出するエネルギ算出手段と、
前記エネルギ算出手段からの前記運動エネルギ総和量に基づき、該運動エネルギ総和量が所定値を超えたとき、前記歩行者が動き出したと判定する判定手段と、
が備えられている、
ことを特徴とする車両用歩行者検出装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記歩行者情報検出手段が、前記撮像手段の撮影情報から、歩行者の膝部間幅を下底、歩行者の上半身幅を上底とする台形形状の歩行者平面モデルを推定するように設定され、
前記移動速度検出手段が、前記膝部位置移動速度として、前記歩行者情報検出手段が推定した前記下底の広がり速度を検出すると共に、前記上半身部位置移動速度として、前記歩行者情報検出手段が推定した前記上底の移動速度を検出するように設定されている、
ことを特徴とする車両用歩行者検出装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記エネルギ算出手段が、前記膝部位置移動速度と前記上半身部位置移動速度とを正規化係数にて正規化したものについて、そのエネルギ総和量を算出するように設定されている、
ことを特徴とする車両用歩行者検出装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記エネルギ算出手段が、前記正規化係数を、前記歩行者情報検出手段が検出した歩行者情報のうちの身長情報に基づき変更するように設定されている、
ことを特徴とする車両用歩行者検出装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記歩行者情報検出手段が、前記膝部位置を、該歩行者情報検出手段が検出した歩行者情報のうちの身長情報に対して膝部位置特有の割合位置と推定すると共に、前記上半身部位置を、該歩行者情報のうちの身長情報に対して上半身部位置特有の割合位置と推定するように設定されている、
ことを特徴とする車両用歩行者検出装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記判定手段が歩行者の動き出しを判定したときにドライバーへの警報情報を出力する出力手段が備えられている、
ことを特徴とする車両用歩行者検出装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項において、
前記上半身部が、肩部である、
ことを特徴とする車両用歩行者検出装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−66810(P2010−66810A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229997(P2008−229997)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】