説明

車両用電動補機駆動装置

【課題】軸方向の遊びを補正する装置を備える車両用電動補機駆動装置を提供する。
【解決手段】本発明は、車両用電動補機駆動装置に関し、筐体に回転可能に装着される少なくとも1つの軸体と、少なくとも1つの止め部材を有し、軸方向の遊びを補正する補正装置とを備え、止め部材は、少なくとも1つの接触面が筐体側の少なくとも1つの対向面に当接し、軸体に対して移動可能であるとき、少なくとも1つのばね要素のばね力が付与され、少なくとも1つの接触面、および/または、筐体側の少なくとも1つの対向面は、軸体の軸に対して傾斜する傾斜面として構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載の車両用電動補機駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用電動補機駆動装置は、例えば、ワイパ駆動装置やモータ、または、例えば、車両の座席を電気的に調節するためのアクチュエータや、車両の窓を開閉するためのアクチュエータのような、様々な例、様々な目的のものが知られている。
【0003】
この種の電動補機駆動装置は、しばしば、電気モータと、例えばウォーム歯車である前記電気モータに連結される歯車とから構成されている。このような補機駆動装置における基本的な問題は、軸方向の遊び、特に、モータまたは電機子軸の軸方向の遊びであり、同時に、その延長である歯車の従動軸の軸方向の遊びである。軸受の遊びは、特に、起こり得る初期故障や駆動装置の欠陥を伴う摩耗の増大に加えて、ワイパ駆動装置やモータが反転する場合、すなわち、駆動装置の出力軸が一方向および他方向に交互に回転する場合、騒音レベルの増大を引き起こす。
【0004】
最も単純な処置として、電動補機駆動装置における軸方向の遊びが調整ねじにより予め補正されるか、または、軸方向の遊びを適正に減少させた軸受が使用されている。しかしながら、これらの処置は、補機駆動装置の耐用期間中に軸方向の遊びが増大するという可能性をなくすものではない。
【0005】
特許文献1には、電動補機駆動装置において、独立して、または、自動的に軸方向の遊びを補正する軸方向の遊び補正装置が提案されている。この軸方向の遊び補正装置は、基本的には、くさびを構成し、かつ軸体に対して半径方向に可動である止め部材から構成されている。止め部材の一方の側面は、軸受を介してこの軸体に作用し、他方の側面は、軸体の軸に対してある角度に設定された筐体側の嵌合面に、くさび面として接触する。止め部材には、ばね力が軸方向の遊びを補正する軸方向の力に変換され、筐体側の傾斜嵌合面と相互作用する止め部材の傾斜面またはくさび面によって軸体に作用するように、ばねにより軸体の半径方向に予め張力が付与されている。この公知の軸方向遊び補正装置の欠点は、筐体を特定の形状とする必要があることに加えて、比較的大きな容積を有しており、従って、既存の車両用電動補機駆動装置、および/またはその筐体として確立されている構成物に適用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第19854535号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、電動補機駆動装置の全耐用期間を有効とし、問題となる軸体の軸方向の遊びを効果的に防止し、特に、独立した軸方向遊び補正機能を有するコンパクトな構成からなる、軸方向遊び補正装置を備える車両用電動補機駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明は、請求項1に記載の車両用電動補機駆動装置を提供するものである。
【0009】
本発明によると、独立した軸方向の遊びを補正するため、ばね要素によって予め張力が付与され、軸体の軸方向に作用する止め部材は、軸体の軸と平行もしくはほぼ平行である軸の周り、もしくは、軸体の軸と同軸に、旋回可能もしくは回転可能に配置されている。止め部材に、少なくとも1つの接触面を形成し、および/または、この接触面と相互作用する筐体の側面に傾斜面、または螺旋面としての嵌合面を形成し、それにより、旋回軸の周りの止め部材の回転または旋回により、軸方向の遊びが補正される。軸方向の遊びを補正する独立で一定の力を生成し、対応するトルクを軸体の軸方向に作用させるため、少なくとも1つのばね要素により止め部材に予め張力が付与される。
【0010】
本発明に係る軸方向の遊び補正装置は、寸法、特に、この装置と相互作用する軸受の直径と等しいか、ほぼ等しい直径のものとして提供される。
【0011】
また、本発明のさらなる発展、利点および適用の可能性は、以下に記載する実施形態および図面から明らかに理解できると思う。この場合、説明し、および/または、図示した全ての特徴は、請求項や背景の関係にかかわらず、それ自体、または、あらゆる望ましい組み合わせとして、基本的に本発明の対象となる。また、請求項の内容は、記載内容を集約した部分を示している。
【0012】
本発明を、図面に基づく以下の実施形態により説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかる電動補機駆動装置の概略断面図である。
【図2】軸方向遊び補正装置の要素とともに示す、図1における補機駆動装置の伝動装置筐体の部分拡大斜視分解図である。
【図3】図2とは異なる方向から見た図2と類似する図である。
【図4】軸方向遊び補正装置の足ばねまたは螺旋ばねに止め部材を加えた図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1において、1は、ワイパ駆動装置を構成する電動補機駆動装置である。電動補機駆動装置1は、本質的には、電気モータ2およびウォーム歯車として設計された伝動装置3からなる公知の形態のものである。電気モータ2は、ポット形状のモータ筐体4に配設された電機子軸5を備え、電機子軸5は、整流子7に加えて、電機子巻線が巻かれた電機子束6を有する。電機子軸5は、軸受8により、ポット形状のモータ筐体4の基部に装着され、モータ筐体4の内部から伝動装置3および伝動装置筐体9の内部に延在している。伝動装置筐体9には、電気モータ2に移行する部位に、ポット形状のモータ筐体4の開口部が、適切な方法でフランジ取り付けられるか、または、固定されるフランジ10が形成されている。
【0015】
さらに、伝動装置筐体9のフランジ10の部分と、フランジ10から見て外方となる伝動装置筐体9の端部とには、電機子軸5のための軸受11、12が設けられている。電機子軸5には、2つの軸受11、12間の部分5.1に、図示していないが、伝動装置3のピニオンまたはウォームホイールと相互作用するウォームが設けられている。
【0016】
軸受12が、ラジアル軸受として構成されるのに対して、軸受8、11は、実施形態では、電機子軸5を半径方向に支持するとともに、軸方向にも支持するように構成されている。
【0017】
軸受8、12を含む軸受の中、少なくとも軸受11は、ボール軸受である。この軸受11は、フランジ10の部分に形成される軸受開口部13に配置され、規格の円筒状外面が嵌合する外部環状軸受リング、または軸受要素11.1と、電機子軸5の周りで、電機子軸5の軸方向の移動に対して、しっかりと固定されている内部軸受リングまたは軸受要素11.2と、軸受要素11.1と11.2との間の軸受溝に配置されているボール11.3とから構成されている。
【0018】
軸方向遊び補正装置14は、軸方向、すなわち、電機子軸5の軸方向に移動可能な状態で軸受開口部13に設けられる軸受11に配置され、円形止め部材15と、螺旋形の足ばねまたはねじりばね16とを備えている。円形止め部材15は、リング開口部17を有するリング本体18から構成されている。リング本体18は、リング開口部17を囲繞して円形止め部材15の一方の面15.1に開口し、少なくとも一部が足ばねまたはねじりばね16を受けるための環状溝19を有する。円形止め部材15の他方の面15.2には、突出するフランジ状部分20が設けられ、フランジ状部分20の面15.1側には、同一中心を有する左右対称な2つの傾斜面21が設けられている。各傾斜面21は、円形止め部材15の軸の周りに仮定した回転方向に対して、円形止め部材15の面15.2から各傾斜面21までの距離が同じ方向に増減するように、この軸の周りに略180°の角度に渡って螺旋状に延在している。
【0019】
組み立てられた状態において、電機子軸5は、充分な遊びを有する状態で、リング開口部17を貫通し、また、一部が環状溝19に収容され、間隙を介して電機子軸5を囲繞するねじりばね16の一端部16.1が、円形止め部材15の溝22に係止される。次いで、電機子軸5の軸の周りに回転可能な円形止め部材15は、その端面15.2だけが、外側の筐体側、具体的には、伝動装置3および伝動装置内部の方向に面する軸受要素11.1の側部に位置する軸受要素11.1に接触するように配置される。
【0020】
伝動装置筐体9の軸受開口部13の領域における部分またはカラー23には、軸受開口部13側に少しだけ突出する2つの接触面24が、傾斜面21に対して配置されている。接触面24は、傾斜面21と同様に構成されている。接触面24は、傾斜面21が接触面24または傾斜面24と接触し、円形止め部材15を電機子軸5の軸線の周りに回転させることにより(矢印A)、くさび作用またはねじ作用により、軸受11の軸方向変位、従って、モータ筐体4の基台の方向、すなわち、矢印B方向の電機子軸5の軸方向変位が生じ、具体的には、電機子軸5に存在する軸方向のいかなる遊びをも除去するため、傾斜面21と相補的である。
【0021】
ねじりばね16の他端部16.2は、伝動装置筐体9の溝25に係止され、電動補機駆動装置1の耐用期間を通して、円形止め部材15に矢印A方向のモーメントを常に働かせるように張力が予め付与されている。そのため、軸方向遊び補正装置14により、電機子軸5の軸方向の遊びの自動補正が常時達成され、かつ維持される。
【0022】
特に、図3に示すように、円形止め部材15における軸受11および軸受要素11.1と相互作用する面15.2は、この面15.2から突出する外縁部26を備えている。外縁部26は、電機子軸5の軸方向遊びの自動補正を行うため、円形止め部材15が実際に筐体側の軸受要素11.1だけに接触することを保証する。
【0023】
組み立てを容易にするため、この実施形態の円形止め部材15には、さらに、面15.1から突出するスナップフック27が設けられている。スナップフック27は、ねじりばね16に張力が付与された状態で、伝動装置筐体9の対応する係止部28に係合され、電機子軸5の組み立てが完了するまで、ねじりばね16の付勢状態を維持する。
【0024】
軸方向遊び補正装置14の特徴は、全長を縮小し、容積を縮小し、縁または傾斜面21、24からのねじりばね16のねじり力を、電機子軸5に作用する軸方向の力に変換することにより、電機子軸5の軸方向遊びを効果的に補正可能なことにある。さらに、一旦軸方向の遊び補正が達成されると、たとえ電機子軸5が反対方向に回転しても、補正状態が失われることがないように、傾斜面21、24を介して自己抑制効果が達成される。
【0025】
軸方向遊び補正装置14の設計により、特に、全体寸法が規制されているため、補機駆動装置の既存の形状および/または構造を根本的に変更することなく、個々の電動補機駆動装置1およびその伝動装置筐体9に、この装置を適用することができる。
【0026】
円形止め部材15は、例えば、円形止め部材15に適したプラスチックまたは他の材料、例えば、焼結金属から成形することが好ましい。
【0027】
本発明を、一実施形態に基づいて説明したが、本発明の概念に基づく変更および変形が可能なことは言うまでもない。
【0028】
以上、本発明を、電動補機駆動装置1に関し、電気モータ2と伝動装置3との間で移動する軸受11との組み合わせとして説明した。また、軸方向遊び補正装置14を、他の軸受、および/または、電動補機駆動装置の電機子軸ではない他の軸にも適用することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0029】
1 電動補機駆動装置
2 電気モータ
3 伝動装置
4 モータ筐体
5 電機子軸
5.1 部分
6 電機子束
7 整流子
8 軸受
9 伝動装置筐体
10 フランジ
11、12 軸受
11.1、11.2 軸受要素
11.3 軸受11のボールまたは回転要素
13 軸受開口部
14 軸方向遊び補正装置
15 止め部材
15.1、15.2 止め部材15の面
16 足ばねまたはねじりばね
16.1、16.2 ばね端部
17 リング開口部
18 リング本体
19 環状溝
20 フランジ
21 傾斜面
22 溝
23 カラー
24 接触面または傾斜面
25 溝
26 外縁部
27 スナップフック
28 係止部
A ねじりばね16により働くモーメント
B 軸方向遊びを除去するための軸移動

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの止め部(15)を有する軸方向遊び補正装置(14)を備え、筐体(4、9)側の少なくとも1つの嵌合面(24)に対して、少なくとも1つの接触面(21)が接触する前記止め部(15)は、軸体に対して、少なくとも1つのばね要素(16)のばね力が可動的に付与され、これにより、前記軸体(5)に軸方向の遊びを補正する軸方向の力が付与され、少なくとも1つの前記接触面(21)、および/または、前記筐体(4、9)側の少なくとも1つの前記嵌合面(24)が、前記軸体(5)の軸に対してある角度をなす面となる、前記筐体(4、9)に回転可能に装着される少なくとも1つの前記軸体(5)を有する車両用電動補機駆動装置において、
前記止め部(15)は、前記軸体(5)の軸の周りまたは前記軸体(5)の軸に平行な旋回軸の周りに、回転可能または旋回可能であり、少なくとも1つの前記ある角度をなす面は、少なくとも一部領域において前記軸体(5)の前記軸を囲繞する傾斜面または螺旋面であり、少なくとも1つの前記ばね要素(16)は、前記止め部(15)にねじり力またはトルクを付与し、前記止め部(15)の前記旋回軸の周りに配置されるように構成されることを特徴とする車両用電動補機駆動装置。
【請求項2】
前記止め部(15)は、軸受(11)を介して前記軸体(5)に作用し、前記軸受(11)は、前記筐体(4、9)に前記軸体(5)を支持する軸受であることを特徴とする請求項1に記載の車両用電動補機駆動装置。
【請求項3】
前記止め部(15)と相互作用する前記軸受(11)は、少なくとも2つのリング状軸受要素(11.1、11.2)を有するころ軸受またはボール軸受として設けられ、前記軸受要素(11.2)の1つは、前記軸体(5)に軸方向に固定して設けられ、前記止め部(15)は、他の前記軸受要素(11.1)に作用していることを特徴とする請求項2に記載の車両用電動補機駆動装置。
【請求項4】
前記止め部(15)は、前記軸体(5)を囲繞するリングとして構成され、前記止め部(15)の軸に対して半径方向を向く表面、例えば、リング本体の残余の部分から突出する面またはフランジ(20)の表面に、少なくとも1つの接触面(21)を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両用電動補機駆動装置。
【請求項5】
少なくとも1つの前記ばね要素は、前記止め部(15)と、少なくとも1つの前記嵌合面(24)を有する前記筐体(9)または前記筐体の部材(10)との間で動作する足ばねまたはねじりばね(16)から構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の車両用電動補機駆動装置。
【請求項6】
前記止め部(15)は、少なくとも一部が前記ばね要素(16)を受ける凹部、例えば、環状溝(19)を備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の車両用電動補機駆動装置。
【請求項7】
前記足ばねまたはねじりばね(16)は、前記軸体(5)を囲繞するように配置されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の車両用電動補機駆動装置。
【請求項8】
少なくとも1つの前記接触面(21、24)と少なくとも1つの前記嵌合面との両方が、それぞれ傾斜面または螺旋面として形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の車両用電動補機駆動装置。
【請求項9】
前記止め部(15)と相互作用する前記軸受(11)は、前記筐体(4、9)において軸方向に移動可能に構成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の車両用電動補機駆動装置。
【請求項10】
前記軸体(5)は、少なくとも1つの前記止め部(15)によって生成される軸方向の力に対する軸受または軸受要素(8)により支持されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の車両用電動補機駆動装置。
【請求項11】
前記軸体(5)は、電気モータ(2)の電機子軸または前記電機子軸の延長であり、前記電気モータ(2)に連結される伝動装置(3)の筐体(9)の内部に到達していることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の車両用電動補機駆動装置。
【請求項12】
前記止め部(15)と相互作用する前記軸受(11)に加えて、前記軸方向遊び補正装置と、少なくとも1つの前記止め部(15)とは、モータ筐体(4)または伝動装置筐体(9)の中の、前記電気モータ(2)と前記伝動装置(3)の間の移行部に配置されていることを特徴とする請求項11に記載の車両用電動補機駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−525791(P2011−525791A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515206(P2011−515206)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004586
【国際公開番号】WO2009/156152
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(590003744)ヴァレオ システム デシュヤージュ (74)
【氏名又は名称原語表記】VALEO SYSTEMES D’ESSUYAGE
【Fターム(参考)】