説明

車両用駆動装置及びこれを備えた自動車

【課題】 電動機の各ロータの動作制御が容易な車両用駆動装置及びこれを備えた自動車を提供する。
【解決手段】 本発明の車両用駆動装置1Aは、一つのステータ21でインナーロータ22及びアウターロータ23をそれぞれ駆動する電動機を備える。そして、リングギア34、サンギア35及びキャリア36を有し、サンギア35に接続された出力軸32とキャリア36に接続された出力軸33との間の差動を許容する遊星差動機構3を備え、アウターロータがリングギア34に接続された入力軸31に連結されるとともに、インナーロータ22が出力軸32に連結される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つのステータで二つのロータを駆動する電動機を備えた車両用駆動装置及びこの駆動装置を備えた自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用駆動装置として、一つのステータで二つのロータを駆動する電動機を備え、これらのロータによって左右の車輪をそれぞれ独立して駆動する駆動装置が知られている(特許文献1)。その他本発明に関連する先行技術文献として、特許文献2及び3が存在する。
【0003】
【特許文献1】特開平5−276719号公報
【特許文献2】特開2000−142135号公報
【特許文献3】特開平9−172705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載された駆動装置は、差動装置を備えていないので機械的に左右輪の差動を許容することができない。左右輪に回転差及びトルク差の少なくとも一方を付与するには、各ロータの動作を例えば車両の舵角や車速等の運転状態に基づいてそれぞれ制御しなければならず、制御が難しくなる問題がある。
【0005】
そこで、本発明は電動機のロータの動作制御が容易な車両用駆動装置及びこれを備えた自動車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両用駆動装置は、一つのステータで二つのロータを駆動する電動機を備えた車両用駆動装置において、入力軸及び二つの出力軸を有し前記二つの出力軸間の差動を許容する三軸式差動装置を備え、前記二つのロータのいずれか一方のロータが前記入力軸に連結されるとともに、他方のロータが前記二つの出力軸のいずれか一方の出力軸に連結されることにより、上述した課題を解決する(請求項1)。
【0007】
この発明によれば、一方のロータのトルクは、三軸式差動装置によって二つの出力軸間の差動が許容されつつこれらの出力軸に機械的に分配される。そのため、電動機のロータの動作制御が容易となる。また、例えば、二つの出力軸にトルク差の付与が必要なときには、これらの出力軸のいずれか一方に接続された他方のロータのトルクを制御すればよい。この場合、一方のロータが出力軸の駆動用、他方のロータがトルク差の付与用としてそれぞれ役割分担されているため、二つのロータの動作を各別に制御する形態と比して各ロータの制御が容易となる。更に、例えば、二つの出力軸を車両の左右輪に接続してこれらを駆動する場合には、二つの出力軸の差動が機械的に許容されるため左右輪に適宜な回転数差(回転速度差)が機械的に付与される。その上で、アンダーステアが生じた場合等のように左右輪の回転差に加えてトルク差の付与が更に必要なときには、出力軸に接続されたロータのトルクを制御することにより左右輪へ容易にトルク差を付与することができる。
【0008】
本発明の車両用駆動装置において、前記二つのロータのいずれか一方のロータが変速機を介して前記入力軸に連結されてもよい(請求項2)。この場合は、変速機によってロータの回転速度が減速又は増速されてロータの回転が二つの出力軸に伝達される。これにより二つの出力軸のトルクを増加又は減少できる。
【0009】
以上の駆動装置においては、前記二つのロータとして、インナーロータと前記インナーロータの外側を旋回するアウターロータとを備え、前記アウターロータが前記入力軸に連結されるとともに、前記インナーロータが前記二つの出力軸のいずれか一方の出力軸に連結されてもよいし(請求項3)、これとは反対に、前記前記インナーロータが前記入力軸に連結されるとともに、前記アウターロータが前記二つの出力軸のいずれか一方の出力軸に連結されてもよい(請求項4)。
【0010】
また、本発明は、上述した車両用駆動装置により車輪を駆動する自動車として具現化してもよい(請求項5)。この発明によれば、上述した車両用駆動装置の特徴を生かし、車輪の駆動制御が容易な自動車を提供できる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、二つのロータのいずれか一方のロータが三軸式差動装置の入力軸に連結されるとともに、他方のロータが三軸式差動装置の二つの出力軸のいずれか一方の出力軸に連結されているので、ロータの動作制御が容易な車両用駆動装置及び車輪の駆動制御が容易な自動車を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(第1実施形態)
図1は、本発明の車両用駆動装置を搭載した電気自動車の前輪側の要部を模式的に示したものである。車両用駆動装置(以下単に駆動装置という場合がある)1Aは、電動機2と三軸式差動装置としての遊星差動機構3とを備えている。電動機2は中空円筒状の一つのステータ21と、ステータ21の内側に配置された中空円筒状のインナーロータ22と、ステータ21(インナーロータ22)の外側に配置された中空円筒状のアウターロータ23とを備えている。これら二つのロータ22,23はステータ21に対してそれぞれ所定のギャップを形成するようにして同軸に設けられている。二つのロータ22,23はそれぞれ独立して同軸上で回転できる。
【0013】
電動機2は、二つの電流成分を有する複合電流によって駆動される。この複合電流はステータ21に設けたコイル24にインバータ(不図示)を介して供給され、二つの回転磁場が発生するように制御される。一方の回転磁場はインナーロータ22を駆動するためのものであり、他方の回転磁場はアウターロータ23を駆動するためのものである。複合電流を制御して二つの回転磁場をそれぞれ変化させることにより、インナーロータ22及びアウターロータ23をそれぞれ独立に動作制御することができる。各ロータ22,23を目標回転数(回転速度)及び目標トルクで駆動するために必要な複合電流は、周知の手法を用いて取得すればよいが、例えばインナーロータ22及びアウターロータ23のそれぞれの回転数及びトルクを複合電流に対応させたマップを予め実験的に求めて電動機2の制御装置(不図示)に記憶させ、これを参照することにより取得できる。
【0014】
遊星差動機構3は、入力軸31と左右二つの出力軸32,33とからなる三軸を有し、入力軸31を回転軸としたリングギア34と、左側の出力軸32を回転軸としたサンギア35と、右側の出力軸33を回転軸としたキャリア36とを備えている。キャリア36には、リングギア34と噛み合うアウターピニオンギア37と、アウターピニオンギア37及びサンギア35のそれぞれと噛み合うインナーピニオンギア38とが回転可能に連結されている。即ち、遊星差動機構3はいわゆるダブルピニオン型である。リングギア34、サンギア35、及びキャリア36はそれぞれの回転軸を一致させた状態で回転可能に配置されている。
【0015】
図2に遊星差動機構3の共線図を示す。共線図とは、縦軸にサンギア(S)、リングギア(R)、及びキャリア(C)のそれぞれの回転数(回転速度)をとり、横軸に互いの間隔がリングギア(R)に対するサンギヤ(S)の歯数比となるようにしてこれらをそれぞれ配置した周知の速度線図である。この図から明らかなように、本実施形態の遊星差動機構3では、サンギア35、リングギア34、及びキャリア36の回転数が図の破線で示した一本の直線で結ばれ、かつリングギア34の回転数がサンギア35の回転数とキャリア36の回転数との平均値と等しい(つまりSR間の距離とRC間の距離が等しい)。従って、遊星差動機構3は、出力軸32,33間の差動を許容する差動機構として機能する。なお、一つピニオンがキャリアに連結されるいわゆるシングルピニオン型の場合には、サンギアとリングギアとが逆回転し、共線図の横軸においてS、C、Rの並び順となるので、上述の関係を構築できず本実施形態と等価な差動機構を構成することができない。
【0016】
図1に示したように、遊星差動機構3の入力軸31には上述したアウターロータ23が連結されている。そして、左側の出力軸32には車輪4が、右側の出力軸33には車輪5がそれぞれ連結され、これらの出力軸32,33によって車輪4,5がそれぞれ駆動される。なお、図1においては、出力軸32,33が車輪4,5まで延びてこれらに直接連結されているように示されているが、実際の出力軸32,33は図示しないフロントアクスル(ドライブシャフト)及びフロントハブ等を介して車輪4,5に連結されている。
【0017】
以上の電気自動車によれば、左右の車輪4,5にトルク差を付与する必要がない場合には、インナーロータ22がフリーで回転するように動作制御(0トルク制御)することにより、アウターロータ23のトルクが車輪4,5に均等に配分され、なおかつ遊星差動機構3にて車輪4,5に適宜な差動が機械的に許容される。このため、スムーズなコーナーリングが実現される。そして、例えばコーナーへの進入車速が過剰でアンダーステアが生じる場合等のように左右の車輪4,5へトルク差を付与する必要が生じたときには、インナーロータ22のトルク制御を行うことにより、アンダーステア等を打ち消す方向に適切なトルク差を車輪4,5へ付与することができる。
【0018】
例えば、アウターロータ23が10のトルクで、インナーロータ22が0のトルクでそれぞれ制御されている場合には、左右の車輪4,5にはそれぞれ5のトルクが配分され、かつ適切な差動が許容されて運転される。ここで、左右の車輪4,5の合計トルクを維持しつつ左側の車輪4のトルクの配分を減らす必要がある場合には、車輪4の回転方向に対して逆方向に作用するトルクをインナーロータ22に発生させるとともに、そのトルクと同量のトルクをアウターロータ23に加算すればよい。例えば1のトルクをインナーロータ22に発生させた場合には、アウターロータ23のトルクを10から11に増やす。これにより、左側の車輪4には4.5のトルクが、右側の車輪5には5.5のトルクがそれぞれ配分され、1のトルク差が付与される。つまり、車輪4から車輪5へ0.5のトルク移動が実現される。一方、左側の車輪4のトルクの配分を増やす必要がある場合には、車輪4の回転方向と同方向のトルクをインナーロータ22に発生させ、そのトルクと同量のトルクをアウターロータ23から減算すればよい。例えば1のトルクをインナーロータ22に発生させる場合には、アウターロータ23のトルクを10から9に減らす。これにより、左側の車輪4には5.5のトルクが、右側の車輪5には4.5のトルクがそれぞれ配分され、1のトルク差が付与される。つまり、車輪5から車輪4へ0.5のトルク移動が実現される。
【0019】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態を説明する。図3に示した本実施形態の駆動装置1Bは、図1の駆動装置1Aに変速装置としての減速機6を追加したものである。駆動装置1Aと同一の構成については同一符号を付して重複説明は省略する。図3に示したように、減速機6はシングルピニオン型の遊星歯車機構であり、固定されたリングギア61と、電動機2のアウターロータ23と連結されたサンギア62と、遊星差動機構3の入力軸31と連結されたキャリア63とを備えている。キャリア63には、サンギア62及びリングギア63のそれぞれと噛み合うピニオンギア64が回転可能に連結されている。図4に示したように、減速機6は、サンギア62に入力されたアウターロータ23の回転が減速されてキャリア63に伝達され、キャリア63に伝達された回転が遊星差動機構3の入力軸31に入力される。このため、アウターロータ23のトルクを増幅して遊星差動機構3に伝達することができる。その他の作用は第1実施形態と同一である。
【0020】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る第3実施形態について説明する。図5に示したように、この実施形態の駆動装置1Cは、アウターロータ23を出力軸33に連結し、インナーロータ22を遊星差動機構3の入力軸(リングギア34)に連結したものである。つまり、駆動装置1Cは、第1実施形態におけるインナーロータ22とアウターロータ23の役割を入れ替えたものに相当する。従って、インナーロータ23のトルクが左右の車輪4,5にそれぞれ均等に配分され、アウターロータ23のトルクを制御することにより、左右の車輪4,5の間でトルク移動を実現することができる。なお、図5においては、図1と同一の構成には同一符号を付してある。
【0021】
本発明は、上述した実施形態に限定されず種々の形態で実施できる。例えば、図6及び図7に示したように、本発明に係る三軸式差動装置として、ディファレンシャルケース91と、ディファレンシャルケース91に回転可能に連結されたピニオンギア92と、ピニオンギア92と噛み合うサイドギア93,94とを備えた差動装置9を用いてもよい。この差動装置9は上述した遊星差動機構3と機構的に等価である。この場合には、ディファレンシャルケース91の回転軸が入力軸31に相当し、サイドギア93の回転軸が左側の出力軸32に,サイドギア94の回転軸が右側の出力軸33にそれぞれ相当する。図6は図1の遊星差動機構3を、図7は図3の遊星差動機構3を差動装置9にそれぞれ置換したものである。従って、インナーロータ22は出力軸32に、アウターロータ23はディファレンシャルケース91(入力軸31)にそれぞれ連結されている。また、図示は省略したが、図5の遊星差動機構3を差動装置9に置換してもよい。この場合には、インナーロータ22を差動装置9のディファレンシャルケース91(入力軸31)に、アウターロータ23を出力軸33にそれぞれ連結すればよい。
【0022】
本発明の駆動装置は、電動機のみで駆動する電気自動車の他、内燃機関と電動機とを備えこれらの原動機を同時に又は適宜に使い分けるように構成した、いわゆるハイブリッド車にも適用できる。また、本発明の駆動装置によって後輪を駆動するようにしてもよい。更に、本発明の駆動装置によって前後輪(四輪)を駆動するようにしてもよい。この場合、駆動装置を2台搭載し、一方を前輪の駆動に、他方を後輪の駆動にそれぞれ利用する形態としてもよい。また、例えば図8に示したように、駆動装置1Aの出力軸32,33をプロペラシャフト7,8に連結して、前側差動機構10及びフロントアクスル11を介して前輪12,12を、後側差動機構13及びリアアクスル14を介して後輪15,15を駆動するようにしてもよい。この場合、遊星差動機構3を図6及び図7に示した差動装置9に置換してもよい。また、駆動装置1B及び駆動装置1Cも以上と同様に適用できる。このように、本発明の駆動装置を四輪の駆動に適用した場合には、遊星差動機構3はいわゆるセンターデフとして機能し、前後輪の差動を許容しつつ前後輪にトルク差を付与することができる。なお、この場合の駆動方式は、フルタイムの四輪駆動でもよいし、必要に応じて前後の駆動を切り替えることができるパートタイムの四輪駆動でもよい。
【0023】
また、電動機の構成は上述したものに限定されず、例えば、円筒状のステータの内周側に二つのロータを配置するように構成してもよい。また、電動機の回転を増速する必要があれば、図9に示したように、固定されたリングギア161と、遊星差動機構3の入力軸に連結されたサンギア162と、アウターロータ23に連結されたキャリア163とを備えた増速機16を設けてもよい。この場合にも遊星差動機構3を図6及び図7に示した差動装置9に置換してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態に係る電気自動車の前輪側の要部を模式的に示した図。
【図2】図1の遊星差動機構の共線図を示した図。
【図3】第2実施形態に係る電気自動車の前輪側の要部を模式的に示した図。
【図4】図3の減速機の共線図を示した図。
【図5】第3実施形態に係る電気自動車の前輪側の要部を模式的に示した図。
【図6】図1の遊星差動機構をこれと等価な差動装置に置換した形態を示した図。
【図7】図3の遊星差動機構をこれと等価な差動装置に置換した形態を示した図。
【図8】駆動装置を四輪の駆動に利用した形態を模式的に示した図。
【図9】増速機を設けた駆動装置を模式的に示した図。
【符号の説明】
【0025】
1A,1B,1C 車両用駆動装置
2 電動機
3 遊星差動機構(三軸式差動装置)
6 減速機(変速機)
9 差動装置(三軸式差動装置)
10 増速機(変速機)
21 ステータ
22 インナーロータ(ロータ)
23 アウターロータ(ロータ)
31 入力軸
32,33 出力軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つのステータで二つのロータを駆動する電動機を備えた車両用駆動装置において、
入力軸及び二つの出力軸を有し前記二つの出力軸間の差動を許容する三軸式差動装置を備え、
前記二つのロータのいずれか一方のロータが前記入力軸に連結されるとともに、他方のロータが前記二つの出力軸のいずれか一方の出力軸に連結されることを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
前記二つのロータのいずれか一方のロータが変速機を介して前記入力軸に連結されることを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記電動機は、前記二つのロータとして、インナーロータと前記インナーロータの外側を旋回するアウターロータとを備え、
前記アウターロータが前記入力軸に連結されるとともに、前記インナーロータが前記二つの出力軸のいずれか一方の出力軸に連結されることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記電動機は、前記二つのロータとして、インナーロータと前記インナーロータの外側を旋回するアウターロータとを備え、
前記前記インナーロータが前記入力軸に連結されるとともに、前記アウターロータが前記二つの出力軸のいずれか一方の出力軸に連結されることを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項の車両用駆動装置を備え、前記車両用駆動装置により車輪を駆動する自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−29438(P2006−29438A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208668(P2004−208668)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】