説明

車両負荷制御装置

【課題】 制御の起動トリガが故障した場合であっても、制御を継続可能な車両負荷制御装置を提供する。
【解決手段】 運転者による運転状態を検出する運転状態検出手段と、車両状態を制御する負荷と、負荷の制御量を演算する第1制御手段と、第1制御手段により演算された制御量に基づき負荷を駆動する第2制御手段と、第1制御手段と第2制御手段とを接続し、第1制御手段から第2制御手段に対し第1起動信号を伝達する第1通信手段と、第1制御手段と第2制御手段とを接続し、第1制御手段から第2制御手段に対し第2起動信号を伝達する第2通信手段と、第2制御手段に対し電流を供給する電源と、第2制御手段と電源とを接続する電源リレーと、第2制御手段に設けられ、電源リレーを通電側に保持する電源保持手段とを備え、第2制御手段は、第1起動信号と第2起動信号を監視する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に操舵力やブレーキ力を付与する負荷(モータ等)を制御する車両負荷制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、操舵力をアシストする車両負荷制御装置にあっては、電源スイッチからの信号は2重系で構成され、故障により制御中に電源スイッチがOFFした場合であっても自己保持回路により制御を継続する構成となっている。
【特許文献1】特開2005−289218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記従来技術にあっては、自己保持回路の起動トリガは電源スイッチのON時となっており、電源スイッチ自体の故障診断機能が備えられていないため、電源スイッチが故障した場合、以後の起動が保証されていない。したがって走行中に起動トリガ(電源スイッチ)が故障した場合、車両負荷制御装置の制御が停止され、修理工場に持ち込まれるまでの緊急的な運転継続ができない、という問題があった。
【0004】
本発明は上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、制御の起動トリガが故障した場合であっても、制御を継続可能な車両負荷制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、本発明では、運転者による運転状態を検出する運転状態検出手段と、車両状態を制御する負荷と、前記負荷の制御量を演算する第1制御手段と、前記第1制御手段により演算された制御量に基づき前記負荷を駆動する第2制御手段と、前記第1制御手段と前記第2制御手段とを接続し、前記第1制御手段から前記第2制御手段に対し第1起動信号を伝達する第1通信手段と、前記第1制御手段と前記第2制御手段とを接続し、前記第1制御手段から前記第2制御手段に対し第2起動信号を伝達する第2通信手段と、前記第2制御手段に対し電流を供給する電源と、前記第2制御手段と前記電源とを接続する電源リレーと、前記第2制御手段に設けられ、前記電源リレーを通電側に保持する電源保持手段とを備え、前記第2制御手段は、前記第1起動信号と前記第2起動信号を監視することとした。
【0006】
よって、制御の起動トリガが故障した場合であっても、制御を継続可能な車両負荷制御装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の車両負荷制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
[システム構成]
実施例1につき図1ないし図4に基づき説明する。図1は実施例1におけるブレーキ制御装置のシステム構成図である。実施例1におけるブレーキ制御装置は4輪ブレーキバイワイヤシステムであり、運転者によるブレーキペダルBP(運転状態検出手段)の操作とは独立して液圧を制御する2つの第1、第2液圧ユニットHU1,HU2(負荷)を備えている。
【0009】
また、ECU1(制御手段)には、各車輪FL〜RR輪の目標ホイルシリンダ圧P*fl〜P*rrを演算するメインECU300(第1制御手段)と、第1、第2液圧ユニットHU1,HU2を駆動する第1サブECU100,200(第2制御手段)が設けられている。
【0010】
この第1、第2液圧ユニットHU1,HU2はメインECU300からの指令に基づき第1、第2サブECU100,200により駆動される。ブレーキペダルBPはマスタシリンダM/Cと接続するストロークシミュレータS/Simにより反力を付与される。
【0011】
第1、第2液圧ユニットHU1,HU2はそれぞれ油路A1,A2によりマスタシリンダM/Cと接続し、油路B1,B2によりリザーバRSVと接続する。油路A1,A2には第1、第2M/C圧センサMC/Sen1,MC/Sen2が設けられている。
【0012】
また、第1、第2液圧ユニットHU1,HU2は、それぞれポンプ、モータ、および電磁弁を備え、それぞれ独立して液圧を発生させる油圧アクチュエータである。第1液圧ユニットHU1はFL,RR輪の液圧制御を行い、第2液圧ユニットHU2はFR,RL輪の液圧制御を行う。
【0013】
すなわち、2つの液圧源であるポンプによって、ホイルシリンダW/C(FL〜RR)を直接増圧する。アキュムレータを用いずに直接第1、第2ポンプによってホイルシリンダW/Cを増圧するため、故障時にアキュムレータ内のガスが油路内にリークすることがない。また、第1ポンプはFL,RR輪、第2ポンプはFR,RL輪を増圧することにより、いわゆるX配管を構成する。
【0014】
第1、第2液圧ユニットHU1,HU2はそれぞれ別体に設けられている。別体とすることで、一方の液圧ユニットにリークが発生した場合であっても、他方のユニットにより制動力を確保するものである。なお、第1、第2液圧ユニットHU1,HU2を一体に設け、電気回路構成を1箇所に集約してハーネス等を短縮し、レイアウトを簡素化することとしてもよく、特に限定しない。
【0015】
[メインECU]
メインECU300は各第1、第2液圧ユニットHU1,HU2が発生する目標ホイルシリンダ圧P*fl〜P*rrを演算する上位CPUである。このメインECU300は第1、第2電源BATT1,BATT2に接続してBATT1,BATT2のいずれかが正常であれば作動するよう設けられ、イグニッション信号IGNにより、またはCAN3により接続する他のコントロールユニットCU1〜CU6からの起動要求により起動する。
【0016】
メインECU300には第1、第2ストロークセンサS/Sen1、S/Sen2からストローク信号S1,S2、第1、第2M/C圧センサMC/Sen1,MC/Sen2からM/C圧Pm1、Pm2が入力される。
【0017】
また、メインECU300には車輪速VSPおよびヨーレイトY、前後Gも入力される。さらに、リザーバRSVに設けられた液量センサL/Senの検出値が入力され、ポンプ駆動によるブレーキバイワイヤ制御を実行可能であるかが判断される。また、ストップランプスイッチSTP.SWからの信号により、ストローク信号S1,S2、およびM/C圧Pm1、Pm2によらずブレーキペダルBPの操作を検出する。
【0018】
このメインECU300内には演算を行う2つの第1、第2CPU310,320が設けられている。第1、第2CPU310,320は、それぞれ第1、第2サブECU100,200とCAN通信線CAN1,CAN2(第2通信手段)によって接続され、第1、第2サブECU100,200を介して第1、第2CPU310,320にポンプ吐出圧Pp1,Pp2および実ホイルシリンダ圧Pfl〜Prrが入力される。このCAN通信線CAN1,CAN2は相互に接続されるとともに、バックアップ用に2重系が組まれている。
【0019】
入力されたストローク信号S1,S2、M/C圧Pm1、Pm2、実ホイルシリンダ圧Pfl〜Prrに基づき、第1、第2CPU310,320は目標ホイルシリンダ圧P*fl〜P*rrを演算し、CAN通信線CAN1,CAN2を介して各第1サブECU100,200へ出力する。
【0020】
なお、第1CPU310において第1、第2液圧ユニットHU1,HU2の目標ホイルシリンダ圧P*fl〜P*rrをまとめて演算し、第2CPU320は第1CPU310のバックアップ用としてもよく特に限定しない。
【0021】
また、メインECU300はこのCAN通信線CAN1,CAN2を介して各第1サブECU100,200の起動を行う。第1、第2サブECU100,200をそれぞれ独立して起動する信号を発するが、1つの信号で各第1サブECU100,200を同時に起動することとしてもよく特に限定しない。またイグニッションスイッチIGNにより起動することとしてもよい。
【0022】
ABS(車輪のロック回避のため制動力を増減する制御),VDC(車両挙動が乱れた際に横滑りを防ぐため制動力を増減する制御)およびTCS(駆動輪の空転を抑制する制御)等の車両挙動制御時には、車輪速VSPおよびヨーレイトY、前後Gも合わせて取り込んで目標ホイルシリンダ圧P*fl〜P*rrの制御を行う。VDC制御中にはブザーBUZZにより運転者に警告を発する。また、VDCスイッチVDC.SWにより制御のON/OFFを運転者の意思により切替可能となっている。
【0023】
また、メインECU300はCAN通信線CAN3により他のコントロールユニットCU1〜CU6と接続し、協調制御を行う。回生ブレーキコントロールユニットCU1は制動力を回生して電力に変換し、レーダーコントロールユニットCU2は車間距離制御を行う。また、EPSコントロールユニットCU3は電動パワーステアリング装置のコントロールユニットである。
【0024】
ECMコントロールユニットCU4はエンジンのコントロールユニット、ATコントロールユニットCU5は自動変速機のコントロールユニットである。さらに、メータコントロールユニットCU6は各メータを制御する。メインECU300に入力された車輪速VSPは、CAN通信線CAN3を介してECMコントロールユニットCU4、ATコントロールユニットCU5、メータコントロールユニットCU6へ出力される。
【0025】
各ECU100,200,300の電源は第1、第2電源BATT1,BATT2である。第1電源BATT1はメインECU300および第1サブECU100に接続し、第2電源BATT2はメインECU300および第2サブECU200に接続する。
【0026】
[サブECU]
第1、第2サブECU100,200はそれぞれ第1、第2液圧ユニットHU1,HU2と一体に設けられる。なお、車両レイアウトに合わせ別体としてもよい。
【0027】
この第1、第2サブECU100,200には、メインECU300から出力された目標ホイルシリンダ圧P*fl〜P*rr、および第1、第2液圧ユニットHU1,HU2からそれぞれポンプの吐出圧Pp1,Pp2、各実ホイルシリンダ圧Pfl,PrrおよびPfr,Prlが入力される。
【0028】
入力されたポンプ吐出圧Pp1,Pp2および実ホイルシリンダ圧Ffl〜Prrに基づき、目標ホイルシリンダ圧P*fl〜P*rrを実現するよう各第1、第2液圧ユニットHU1,HU2内のポンプ、モータ、および電磁弁を駆動して液圧制御を行う。なお、第1、第2サブECU100,200は各第1、第2液圧ユニットHU1,HU2と別体であってもよい。
【0029】
この第1、第2サブECU100,200は、一旦目標ホイルシリンダ圧P*fl〜P*rrが入力されると、新たな目標値が入力されるまでは前回入力値に収束するよう制御するサーボ制御系を構成している。
【0030】
また、第1、第2サブECU100,200により電源BATT1,BATT2からの電流が第1、第2液圧ユニットHU1,HU2のバルブ駆動電流I1,I2およびモータ駆動電圧V1,V2に変換され、第1、第2液圧ユニットHU1,HU2へ出力される。
【0031】
[マスタシリンダおよびストロークシミュレータ]
ストロークシミュレータS/SimはマスタシリンダM/Cに内蔵され、ブレーキペダルBPの反力を発生させる。また、マスタシリンダM/CにはマスタシリンダM/CとストロークシミュレータS/Simとの連通/遮断を切り替える切替弁Can/Vが設けられている。
【0032】
この切替弁Can/VはメインECU300により開弁/閉弁され、ブレーキバイワイヤ制御終了時や第1サブECU100,200の失陥時に速やかにマニュアルブレーキに移行可能となっている。また、マスタシリンダM/Cには第1、第2ストロークセンサS/Sen1,S/Sen2が設けられている。ブレーキペダルBPのストローク信号S1,S2がメインECU300に出力される。
【0033】
[電源回路]
図2はメインECU300、第1サブECU100の電源回路図である。メインECU300内にはメインCPU310およびW/UP(ウェイクアップ)信号出力回路320が設けられている。また、第1サブECU100には第1サブCPU110、電源リレー120、第1〜第3電源トリガ回路131〜133、および電源リレーSW(スイッチ)140が設けられている。
【0034】
メインCPU310は、CAN通信線CAN1(第2通信手段)を介して第1サブCPU110に対し第2W/UP信号(第2起動信号)を出力する。第1W/UP信号出力回路320は通信線L1,L2(第1通信手段)によって第1CPU110と接続し第1W/UP1,2信号(第1起動信号)を第1サブCPU110へ出力する。第1W/UP1,2信号を伝達する通信線L1,L2を二重系とすることで信頼性を向上させる。
【0035】
また、通信線L1,L2はそれぞれ第1、第2電源トリガ回路131,132と接続し、各第1W/UP1,2信号はそれぞれ第1、第2電源トリガ回路131,132へ出力される。この第1W/UP1,2信号はイグニッションON後にメインECU300から出力されて第1、第2サブECU100,200を起動することにより、ブレーキ制御の起動トリガとして機能する。
【0036】
第1サブCPU110は第1W/UP1,2信号をそれぞれモニタし、イグニッションがONされて第1W/UP1,2信号によって起動された後は、第3電源トリガ回路133へ電源自己保持信号S−ST(電源保持手段)を出力する。
【0037】
各第1〜第3電源トリガ回路131〜133はそれぞれ電源リレーSW140と接続し、電源リレーSW140側への流れのみを許容するダイオードを有する。第1、第2電源トリガ回路131,132はそれぞれメインCPU310からの第1W/UP1,2信号を電源リレーSW140へ出力し、第3電源トリガ回路133は第1サブCPU110からの電源自己保持信号S−STを電源リレーSW140へ出力する。
【0038】
電源リレーSW140は各第1W/UP1,2信号または電源自己保持信号S−STのHI出力によってONする。これにより電源リレー120が通電し、第1電源BATT1から第1サブECU100へ電流が供給されて第1サブECU100による制御が実行される。
【0039】
[電源リレー異常診断制御]
電源リレーSW140には第1、第2電源トリガ回路131,132を介して第1W/UP1,2信号が入力されるとともに、第3電源トリガ回路133を介して電源自己保持信号S−STが入力される。そのため電源リレー120は、イグニッションがONされ、第1W/UP1,2信号が出力されて一旦ONとされた後は、第1W/UP1,2信号の有無にかかわらず第1サブECU100,200からの電源自己保持信号S−STによってON固定される。
【0040】
したがって第1、第2サブECU100,200は、一旦起動した後はイグニッションをOFFしない限り、第1W/UP1,2信号の有無にかかわらず起動状態を維持可能となっている。よって、第1W/UP1,2信号を出力する第1W/UP信号出力回路320および通信線L1,L2の異常(断線、天絡または地絡)が発生した場合であっても、イグニッションがOFFされない限り第1、第2サブECU100,200を駆動してブレーキ制御を続行可能とし、ディーラー等の工場に到達するまでの制御を確保する。
【0041】
また、通信線L1,L2を介して伝達される第1W/UP1,2信号のモニタ検出値と、CAN通信線CAN1を介して伝達される第2W/UP信号のフラグFを監視して比較照合することにより、第1W/UP1,2信号の異常を検出可能である。これにより、第1W/UP1,2信号を出力する第1W/UP信号出力回路320および通信線L1,L2の異常(断線、天絡および地絡)を検出する。
【0042】
[電源リレー異常診断制御処理]
図3は、電源リレー異常診断制御処理の流れを示すフローチャートである。以下、各ステップにつき説明する。なお、図3では第1サブECU100についてのみ示すが、第2サブECU200についても同様である。
【0043】
ステップS101では液圧ユニットHU1による制御ブレーキ起動条件(イグニッションSW=ON、ストップランプSW=ON、または他のシステムとの通信による起動要求)が成立し、ステップS102へ移行する。
【0044】
ステップS102ではメインECU300を起動し、ステップS103へ移行する。
【0045】
ステップS103において、メインECU300は各第1W/UP1,2信号をHI出力として第1サブECU100に出力し、ステップS104へ移行する。また、メインECU300はCAN通信線CAN1によりW/UPフラグを出力する。
【0046】
ステップS104では電源リレー120がONし、第1サブECU100が起動されてステップS105へ移行する。
【0047】
ステップS105では電源自己保持信号S−STをHI出力とし、電源自己保持作用を開始する。これにより電源リレー120がON固定され、第1W/UP信号出力回路320の故障によって制御ブレーキの起動トリガである第1W/UP1,2信号に異常が発生した場合であっても、イグニッションをOFFするまではブレーキ制御を継続可能となる。
【0048】
ステップS106では前回動作時のシステム遮断処理時において不揮発メモリ(EEPROM等)へ記憶させたS−ST診断部フラグを読み出し、F=1であるかどうかを判断する。YESであればステップS108へ移行し、NOであればステップS107へ移行する。これにより故障診断を実行する。
【0049】
ステップS107では電源自己保持信号S−ST=NGと判断し、ステップS108へ移行する。
【0050】
ステップS108では不揮発メモリのS−ST診断部フラグをゼロにセットし、ステップS109へ移行する。
【0051】
ステップS109では第1W/UP1信号をモニタ検出し、ステップS110へ移行する。
【0052】
ステップS110では第1W/UP2信号をモニタ検出し、ステップS111へ移行する。
【0053】
ステップS111では、第1サブECU100はCAN通信線CAN1によって第2W/UP信号フラグFを受信し、ステップS112へ移行する。
【0054】
ステップS112ではメインECU300から第1サブECU100への起動要求が継続されているかどうかが判断される。すなわち、メインECU300から出力される各第1W/UP1,2信号および第2W/UP信号フラグF(第1サブECU100が受信するデータ)が全て起動要求外であればステップS117へ移行し、NOであればステップS113へ移行する。
【0055】
ステップS113では第1W/UP1信号モニタ検出値と第2W/UP信号フラグFの受信データを照合して一致したかどうかが判断され、YESであればステップS115へ移行し、NOであればステップS114へ移行する。
【0056】
ステップS114では第1W/UP1信号フラグF1=NGとし、ステップS115へ移行する。
【0057】
ステップS115では第1W/UP2信号モニタ検出値と第2W/UP信号フラグFの受信データを照合して一致したかどうかが判断され、YESであればステップS109へ移行し、NOであればステップS116へ移行する。
【0058】
ステップS116では第1W/UP2信号フラグF2=NGとし、ステップS109へ移行する。
【0059】
ステップS117ではメインECU300から第1サブECU100への起動要求が解除されたと判断し、ステップS118へ移行する。
【0060】
ステップS118では電源自己保持作用が稼動しているかどうか(電源リレー120がONとなっているかどうか)が判断され、YESであればステップS119へ移行し、NOであれば制御を終了する。
【0061】
ステップS119では不揮発メモリのS−ST診断部フラグを1にセットして記憶し、ステップS120へ移行する。
【0062】
ステップS120では電源自己保持信号S−STをLO出力とし、電源リレー120のON固定を解除して制御を終了する。これにより第1サブECU100の電源遮断が完了する。
【0063】
[電源リレー異常診断制御の経時変化]
図4は電源リレー異常診断制御のタイムチャートである。図4では第1サブECU100における第1W/UP1信号の異常診断を示すが、第1W/UP2信号でも同様である。また、第2サブECU200においても同様である。
【0064】
[I:正常時]
(時刻t1)
時刻t1においてメインECU300から第1W/UP1,2信号がHI出力され、電源リレー120がONされて第1サブECU100が起動する。
【0065】
(時刻t2)
時刻t2において第1サブECU100は電源保持信号S−STをHI出力する。
【0066】
(時刻t3)
時刻t3において、第1サブECU100はメインECU300から出力された第1W/UP1,2信号モニタ検出値とW/UPフラグの照合・一致判断を実行する。
【0067】
(時刻t4)
時刻t4において、メインECU300は第1W/UP1,2信号をLO出力、第2W/UP信号フラグFをゼロ(サブECU起動解除)とする。また、第1サブECU100は電源自己保持信号S−STをHI出力を検知することにより、電源リレー120が自己保持信号S−STによりON固定されているかどうかを判断する。
【0068】
(時刻t5)
時刻t5において自己保持信号S−STがLO出力となり、電源リレー120のON固定を解除する。
【0069】
[II:起動後に第1W/UP1信号系統断線]
(時刻t6)
時刻t6においてブレーキ制御中に第1W/UP1信号系統の通信線L1が断線する。第1W/UP2信号および自己保持信号S−STは正常であり、これにより電源リレー120はON固定に保たれる。
これにより第1W/UP1信号モニタ検出値と第2W/UP信号フラグFが不一致となり、第1W/UP1信号系統(通信線L1)異常を検出する。
【0070】
[III:起動後に第1W/UP1信号系統天絡]
(時刻t7)
時刻t7においてブレーキ制御中に第1W/UP1信号系統(通信線L1)が天絡(HI固着)し、これに伴いL1に接続する通信線L2も天絡して第1W/UP2信号系統もHI固着する。天絡の場合、各フラグは正常時のt3〜t4と同様の信号論理となるため故障検出は不可能である。また、天絡時は電源リレー120がON固着のため第1サブECU100の電源遮断が不可能となる。
【0071】
(時刻t8)
時刻t8においてブレーキ制御が終了するが、天絡により第1W/UP1,2信号はHI出力のままであるため、CAN通信線CAN1を介した第2W/UP信号フラグF=0とすることによってのみブレーキ制御終了を指令可能な状態となる。その際、第2W/UP信号フラグF=0かつ第1W/UP1,2信号=1(HI出力)となり、W/UPフラグと第1W/UP1,2信号の不一致により故障と判断される。
なお、第2W/UP信号フラグF=0(ブレーキ制御終了)となってから所定時間以上第1サブECU100が起動し続けた場合、電源リレー120の故障と判断してもよい。
【0072】
[IV:起動後に第1W/UP1信号系統地絡]
(時刻t9)
時刻t9においてブレーキ制御中に第1W/UP1信号系統(通信線L1)が地絡(LO固着)し、これに伴いL1に接続する通信線L2も地絡して第1W/UP2信号系統もLO固着する。地絡の場合、第1W/UP1,2信号(=ゼロ)とW/UPフラグ(=1)が不一致となり、故障検出が可能となる。
【0073】
[V:起動前に第1W/UP1信号系統断線]
(時刻t10)
時刻t10において第1サブECU100起動前に第1W/UP1信号系統の通信線L1が断線する。第1W/UP2信号および自己保持信号S−STは正常であり、これにより電源リレー120はON固定に保たれる。
時刻t6と同様、第1W/UP1信号モニタ検出値と第2W/UP信号フラグFが不一致となり、第1W/UP1信号系統(通信線L1)異常を検出する。
【0074】
[VI:起動前に第1W/UP1信号系統天絡]
(時刻t11)
時刻t11において第1サブECU100起動前に第1W/UP1信号系統(通信線L1)が天絡(HI固着)し、これに伴いL1に接続する通信線L2も天絡して第1W/UP2信号系統もHI固着する。したがってメインECU300の起動状態によらず第1サブECU100が起動する可能性があるが、スタンバイ状態(メインECU300起動待ち)であるため問題はない。
時刻t7と同様、ブレーキ制御開始後は各フラグは正常時のt3〜t4と同様の信号論理となるため、故障検出は不可能である。また、天絡時は電源リレー120がON固着のため第1サブECU100の電源遮断が不可能となる。
【0075】
[VII:起動前に第1W/UP1信号系統地絡]
(時刻t12)
時刻t12において第1サブECU100起動前に第1W/UP1信号系統(通信線L1)が地絡(LO固着)し、これに伴いL1に接続する通信線L2も地絡して第1W/UP2信号系統もLO固着する。
時刻t9と異なり、第1サブECU100起動前の地絡の場合はメインECU300からの第1W/UP1,2信号を伝達不能となるため、第1サブECU100は作動不能となる。したがってブレーキ制御中はCAN通信線CAN1経由のW/UPフラグと第1W/UP1,2信号検出値が不一致となり、故障と診断される。
【0076】
[本願実施例の効果]
(1)運転者による運転状態を検出する運転状態検出手段(ブレーキペダル)と、車両状態(制動力)を制御する負荷と、負荷の制御量を演算する第1制御手段(メインECU300)と、第1制御手段により演算された制御量に基づき負荷を駆動する第2制御手段(第1、第2サブECU100,200)と、第1制御手段と第2制御手段とを接続し、第1制御手段から第2制御手段に対し第1起動信号(第1W/UP1,2信号)を伝達する第1通信手段(通信線L1,L2)と、第1制御手段と第2制御手段とを接続し、第1制御手段から第2制御手段に対し第2起動信号(第2W/UP信号)を伝達する第2通信手段(CAN通信線CAN1,CAN2)と、第2制御手段に対し電流を供給する電源(第1、第2電源BATT1,2)と、第2制御手段と電源とを接続する電源リレー120と、第2制御手段に設けられ、電源リレーを通電側に保持する電源保持手段(電源自己保持信号S−ST)とを備え、第2制御手段は、第1起動信号と第2起動信号を監視することとした。
【0077】
第1W/UP1,2信号と第2W/UP信号を監視することによって、第1、第2サブECU100,200は、一旦起動した後はイグニッションをOFFしない限り、第1W/UP1,2信号の有無にかかわらず起動状態を維持することが可能となる。よって、制御の起動トリガである第1W/UP1,2信号を出力する第1W/UP信号出力回路320および通信線L1,L2の異常が発生した場合であっても、制御を継続可能な車両負荷制御装置を提供することができる。
(他の実施例)
【0078】
以上、本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は各実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【0079】
さらに、上記各実施例から把握しうる請求項以外の技術的思想について、以下にその効果とともに記載する。
【0080】
(イ)請求項1に記載の車両負荷制御装置において、
前記第1通信手段は、複数の系統を有すること
を特徴とする車両負荷制御装置。
【0081】
多重系とすることで信頼性を向上させることができる。
【0082】
(ロ)上記(イ)に記載の車両負荷制御装置において、
前記第2制御手段は、前記第1起動信号および第2起動信号をともに受信すること
を特徴とする車両負荷制御装置。
【0083】
第1、第2起動信号を監視して比較照合することにより、第1起動信号の異常を検出することができる。
【0084】
(ハ)上記(ロ)に記載の車両負荷制御装置において、
前記電源リレーは、前記第1起動信号または前記電源保持手段からの自己保持信号によりONされること
を特徴とする車両負荷制御装置。
【0085】
安価なOR論理出力回路によって、第1起動信号が故障した場合であっても電源リレーONを継続し、制御の中断を防止することができる。
【0086】
(ニ)上記(ロ)に記載の車両負荷制御装置において、
前記第2制御手段は多重系であること
を特徴とする車両負荷制御装置。
【0087】
第2制御手段として第1、第2サブECU100,200を設けることにより、一方のサブECU失陥時にも他方で制御を続行させ、信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本願車両負荷制御装置のシステム構成図である。
【図2】インECU、第1サブECUの電源回路図である。
【図3】電源リレー異常診断制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】電源リレー異常診断制御のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0089】
100,200 第1、第2サブECU
110 サブCPU
120 電源リレー
131〜133 電源トリガ回路
140 電源リレーSW
300 メインECU
310 メインCPU
320 信号出力回路
A1,A2 油路
B1,B2 油路
BATT1,BATT2 第1、第2電源
BP ブレーキペダル
BUZZ ブザー
CAN1〜CAN3 通信線
CU1〜CU6 コントロールユニット
Can/V 切替弁
HU1,HU2 第1、第2液圧ユニット
IGN.SW イグニッションスイッチ
L1,L2 通信線
L/Sen 液量センサ
M/C マスタシリンダ
M1,M2 第1、第2モータ
MC/Sen1,2 第1、第2マスタシリンダ圧センサ
P1,P2 第1、第2ポンプ
RSV リザーバ
S/Sen1,S/Sen2 ストロークセンサ
S/Sim ストロークシミュレータ
STP.SW ストップランプスイッチ
VDC.SW スイッチ
W/C ホイルシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者による運転状態を検出する運転状態検出手段と、
車両状態を制御する負荷と、
前記負荷の制御量を演算する第1制御手段と、
前記第1制御手段により演算された制御量に基づき前記負荷を駆動する第2制御手段と、
前記第1制御手段と前記第2制御手段とを接続し、前記第1制御手段から前記第2制御手段に対し第1起動信号を伝達する第1通信手段と、
前記第1制御手段と前記第2制御手段とを接続し、前記第1制御手段から前記第2制御手段に対し第2起動信号を伝達する第2通信手段と、
前記第2制御手段に対し電流を供給する電源と、
前記第2制御手段と前記電源とを接続する電源リレーと、
前記第2制御手段に設けられ、前記電源リレーを通電側に保持する電源保持手段と
を備え、
前記第2制御手段は、前記第1起動信号と前記第2起動信号を監視すること
を特徴とする車両負荷制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−149807(P2008−149807A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−337967(P2006−337967)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】