説明

車両

【課題】電動機の連れ回りにおける損失を抑制可能な車両を提供する。
【解決手段】後輪駆動装置1の駆動力が略零の状態で車両3を駆動するとき若しくは前輪駆動装置6の駆動力のみによって車両3を駆動するときに、制御装置8は、油圧ブレーキ60A、60Bを締結して接続状態とするとともに、油圧ブレーキ60A、60Bを接続状態とすることによって後輪Wrに伝達される電動機2A、2Bと動力伝達経路の少なくとも一方の損失を低減するように電動機2A、2Bを制御する損失低減制御を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪を駆動する駆動装置と後輪を駆動する駆動装置とが別々に設けられた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、前輪駆動装置と後輪駆動装置を備える四輪駆動車であって、後輪駆動装置には、駆動源である電動モータを切り離し可能にクラッチが設けられている。そして、クラッチに引き摺りトルクが発生している場合には、後輪回転数が前輪回転数に一致するように、電動モータの回転数を制御するモータ連れ回り制御を行なうことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−349917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の四輪駆動車では、後輪回転数が前輪回転数に一致するように、モータ連れ回り制御を行なうので、路面状況により前輪が急に空転した場合、後輪が回転数合わせにより四輪全てがスリップ状態になるおそれがある。また、これを回避しようとした場合、制御が複雑になる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、電動機の連れ回りにおける損失を抑制可能な車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、
前輪および後輪の一方である第1駆動輪(例えば、後述の実施形態の後輪Wr)を駆動する第1駆動装置(例えば、後述の実施形態の後輪駆動装置1)と、該前輪および後輪の他方である第2駆動輪(例えば、後述の実施形態の前輪Wf)を駆動する第2駆動装置(例えば、後述の実施形態の前輪駆動装置6)と、を備えた車両(例えば、後述の実施形態の車両3)であって、
前記第1駆動装置は、
車両の駆動力を発生する電動機(例えば、後述の実施形態の電動機2A、2B)と、
前記電動機を制御する電動機制御装置(例えば、後述の実施形態の制御装置8)と、
前記電動機と前記第1駆動輪との動力伝達経路上に設けられ、解放又は締結することにより電動機側と第1駆動輪側とを遮断状態又は接続状態にする断接手段(例えば、後述の実施形態の油圧ブレーキ60A、60B)と、
前記断接手段を制御する断接手段制御装置(例えば、後述の実施形態の制御装置8)と、を備え、
前記第1駆動装置の駆動力が略零の状態で車両を駆動するとき若しくは前記第2駆動装置の駆動力のみによって車両を駆動するときに、前記断接手段制御装置は、前記断接手段を締結して接続状態とするとともに、前記電動機制御装置は、前記断接手段を接続状態とすることによって前記第1駆動輪に伝達される前記電動機と前記動力伝達経路との少なくとも一方の損失を低減するように前記電動機を制御する損失低減制御(例えば、後述の実施形態のモータ端零トルク制御、車輪端零トルク制御)を行なうことを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、
前記損失低減制御は、前記電動機の損失と前記動力伝達経路の損失を取得し、前記両方の損失を低減するように前記電動機を制御することを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、
前記損失低減制御は、前記電動機の損失を取得し、前記損失を低減するように前記電動機を制御することを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、
前記損失低減制御は、前記動力伝達経路の損失を取得し、前記損失を低減するように前記電動機を制御することを特徴とする。
【0010】
また、請求項5に記載の発明は、請求項2〜4のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記損失は、前記電動機の回転数と、前記動力伝達経路を構成する回転部材の回転数と、温度との少なくとも一つに基づいて求められることを特徴とする。
【0011】
また、請求項6に記載の発明は、請求項2〜4のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記損失は、前記電動機の電流に基づいて求められることを特徴とする。
【0012】
また、請求項7に記載の発明は、請求項5項に記載の構成に加えて、
前記損失は、予め試験的に測定され又は算出され記憶されていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記電動機と前記第1駆動輪との動力伝達経路上に前記断接手段と並列に設けられ、電動機側の順方向の回転動力が第1駆動輪側に入力されるときに係合状態となるとともに電動機側の逆方向の回転動力が第1駆動輪側に入力されるときに非係合状態となり、第1駆動輪側の順方向の回転動力が電動機側に入力されるときに非係合状態となるとともに第1駆動輪側の逆方向の回転動力が電動機側に入力されるときに係合状態となる一方向動力伝達手段(例えば、後述の実施形態の一方向クラッチ50)をさらに備えることを特徴とする。
【0014】
上記の目的を達成するために、請求項9に記載の発明は、
前輪および後輪の一方である第1駆動輪(例えば、後述の実施形態の後輪Wr)を駆動する第1駆動装置(例えば、後述の実施形態の後輪駆動装置1)と、該前輪および後輪の他方である第2駆動輪(例えば、後述の実施形態の前輪Wf)を駆動する第2駆動装置(例えば、後述の実施形態の前輪駆動装置6)と、を備えた車両であって、
前記第1駆動装置は、
車両の駆動力を発生する、前記第1駆動輪に常時接続された電動機(例えば、後述の実施形態の電動機2A、2B)と、
前記電動機を制御する電動機制御装置(例えば、後述の実施形態の制御装置8)と、を備え、
前記第1駆動装置の駆動力が略零の状態で車両を駆動するとき若しくは前記第2駆動装置の駆動力のみによって車両を駆動するときに、前記電動機制御装置は、前記第1駆動輪に伝達される前記電動機と前記動力伝達経路との少なくとも一方の損失を低減するように前記電動機を制御する損失低減制御(例えば、後述の実施形態のモータ端零トルク制御、車輪端零トルク制御)を行なうことを特徴とする。
【0015】
また、請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の構成に加えて、
前記損失は、前記電動機の回転数と温度との少なくとも1つに基づいて求められることを特徴とする。
【0016】
また、請求項11に記載の発明は、請求項9に記載の構成に加えて、
前記損失は、前記電動機の電流に基づいて求められることを特徴とする。
【0017】
また、請求項12に記載の発明は、請求項10に記載の構成に加えて、
前記損失は、予め試験的に測定され又は算出され記憶されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の発明によれば、第1駆動装置の駆動力が略零の状態で車両を駆動するとき若しくは第2駆動装置の駆動力のみによって車両を駆動するときに、断接手段を接続状態とすることにより、再度第1駆動装置の電動機を駆動するときの回転数合わせを省略することができる。この場合、断接手段の締結時には電動機とその伝達経路は損失となり、車輪に負荷(負のトルク)を与えるので、電動機を制御してその損失を低減することで車両の走破性を向上させることができる。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、電動機の損失と動力伝達経路の損失を取得(推定、検出含む。以下、同様)して損失低減制御を行なうことによりほぼ全ての損失を考慮するので、第1駆動輪での損失に伴う負のトルクを略零とすることができる。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、電動機の損失のみを取得するので損失の取得が容易となる。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、動力伝達経路の損失の影響を低減することができる。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、容易に損失を推定することができる。
【0023】
請求項6に記載の発明によれば、電動機の電流に基づいて電動機の損失を求めることで、損失推定の精度を向上できる。
【0024】
請求項7に記載の発明によれば、損失を予め求めておくことで、逐次の損失計算(推定)が不要となる。
【0025】
請求項8に記載の発明によれば、電動機側の順方向の回転動力が第1駆動輪側に入力されるときに一方向動力伝達手段が係合状態となり、一方向動力伝達手段で動力伝達可能であるので、断接手段を解放するか又は断接手段の接続状態における締結力を弱くすることができ、断接手段の締結に伴うエネルギーを低減することができる。
【0026】
請求項9に記載の発明によれば、第1駆動輪の駆動力が略零の状態で車両を駆動するとき若しくは第2駆動装置の駆動力のみによって車両を駆動するときに、電動機の損失により車輪に負荷(負のトルク)を与えるので、電動機を制御してその損失を低減することで車両の走破性を向上させることができる。
【0027】
請求項10に記載の発明によれば、容易に損失を推定することができる。
【0028】
請求11に記載の発明によれば、電動機の電流に基づいて電動機の損失を求めることで、損失推定の精度を向上できる。
【0029】
請求項12に記載の発明によれば、損失を予め求めておくことで、逐次の損失計算(推定)が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る車両の一実施形態であるハイブリッド車両の概略構成を示すブロック図である。
【図2】後輪駆動装置の一実施形態の縦断面図である。
【図3】図2に示す後輪駆動装置の部分拡大図である。
【図4】後輪駆動装置がフレームに搭載された状態を示す斜視図である。
【図5】油圧ブレーキを制御する油圧制御装置の油圧回路図であり、油圧が供給されていない状態を示す油圧回路図である。
【図6】(a)は低圧油路切替弁が低圧側位置に位置するときの説明図であり、(b)は低圧油路切替弁が高圧側位置に位置するときの説明図である。
【図7】(a)はブレーキ油路切替弁が閉弁位置に位置するときの説明図であり、(b)はブレーキ油路切替弁が開弁位置に位置するときの説明図である。
【図8】(a)はソレノイド弁の非通電時の説明図であり、(b)はソレノイド弁の通電時の説明図である。
【図9】走行中であって油圧ブレーキの解放状態(EOP:低圧モード)における油圧制御装置の油圧回路図である。
【図10】油圧ブレーキの弱締結状態(EOP:低圧モード)における油圧制御装置の油圧回路図である。
【図11】油圧ブレーキの締結状態(EOP:高圧モード)における油圧制御装置の油圧回路図である。
【図12】電動オイルポンプの負荷特性を示すグラフである。
【図13】車両状態における前輪駆動装置と後輪駆動装置との関係を電動機の作動状態と油圧回路の状態とをあわせて記載した表である。
【図14】停車中の後輪駆動装置の速度共線図である。
【図15】前進低車速時の後輪駆動装置の速度共線図である。
【図16】前進中車速時の後輪駆動装置の速度共線図である。
【図17】減速回生時の後輪駆動装置の速度共線図である。
【図18】前進高車速時の後輪駆動装置の速度共線図である。
【図19】後進時の後輪駆動装置の速度共線図である。
【図20】図16の前進中車速時において、損失低減制御をしない状態における速度共線図である。
【図21】図16の前進中車速時において、モータ端零トルク制御をした状態における速度共線図である。
【図22】モータ端ゼロトルク制御を行なう電動機制御装置のシステムを示す図である。
【図23】図16の前進中車速時において、車輪端零トルク制御をした状態における速度共線図である。
【図24】車輪端零トルク制御を行なう電動機制御装置のシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
先ず、本発明に係る車両の一実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。
本発明に係る車両は、例えば図1に示すような駆動システムの車両に用いられる。
図1に示す車両3は、内燃機関4と電動機5が直列に接続された駆動装置6(以下、前輪駆動装置と呼ぶ。)を車両前部に有するハイブリッド車両であり、この前輪駆動装置6の動力がトランスミッション7を介して前輪Wfに伝達される一方で、この前輪駆動装置6と別に車両後部に設けられた駆動装置1(以下、後輪駆動装置と呼ぶ。)の動力が後輪Wr(RWr、LWr)に伝達されるようになっている。前輪駆動装置6の電動機5と、後輪Wr側の後輪駆動装置1の電動機2A、2Bは、バッテリ9に接続され、バッテリ9からの電力供給と、バッテリ9へのエネルギー回生が可能となっている。符号8は、車両全体の各種制御をするための制御装置である。なお、駆動装置6を後輪駆動装置として、駆動装置1を前輪駆動装置として用いてもよいが、本実施形態では、駆動装置6を前輪駆動装置、駆動装置1を後輪駆動装置として説明する。
【0032】
図2は、後輪駆動装置1の全体の縦断面図を示すものであり、同図において、10A、10Bは、車両3の後輪Wr側の左右の車軸であり、車幅方向に同軸上に配置されている。後輪駆動装置1の減速機ケース11は全体が略円筒状に形成され、その内部には、車軸駆動用の電動機2A、2Bと、この電動機2A、2Bの駆動回転を減速する遊星歯車式減速機12A、12Bとが、車軸10A、10Bと同軸上に配置されている。この電動機2A及び遊星歯車式減速機12Aは左後輪LWrを制御し、電動機2B及び遊星歯車式減速機12Bは右後輪RWrを制御し、電動機2A及び遊星歯車式減速機12Aと電動機2B及び遊星歯車式減速機12Bは、減速機ケース11内で車幅方向に左右対称に配置されている。そして、減速機ケース11は、図4に示すように、車両3の骨格となるフレームの一部であるフレーム部材13の支持部13a、13bと、不図示の後輪駆動装置1のフレームで支持されている。支持部13a、13bは、車幅方向でフレーム部材13の中心に対し左右に設けられている。なお、図4中の矢印は、後輪駆動装置1が車両3に搭載された状態における位置関係を示している。
【0033】
減速機ケース11の左右両端側内部には、それぞれ電動機2A、2Bのステータ14A、14Bが固定され、このステータ14A、14Bの内周側に環状のロータ15A、15Bが回転可能に配置されている。ロータ15A、15Bの内周部には車軸10A、10Bの外周を囲繞する円筒軸16A、16Bが結合され、この円筒軸16A、16Bが車軸10A、10Bと同軸で相対回転可能となるように減速機ケース11の端部壁17A、17Bと中間壁18A、18Bに軸受19A、19Bを介して支持されている。また、円筒軸16A、16Bの一端側の外周であって減速機ケース11の端部壁17A、17Bには、ロータ15A、15Bの回転位置情報を電動機2A、2Bの制御コントローラ(図示せず)にフィードバックするためのレゾルバ20A、20Bが設けられている。
【0034】
また、遊星歯車式減速機12A、12Bは、サンギヤ21A、21Bと、このサンギヤ21に噛合される複数のプラネタリギヤ22A、22Bと、これらのプラネタリギヤ22A、22Bを支持するプラネタリキャリア23A、23Bと、プラネタリギヤ22A、22Bの外周側に噛合されるリングギヤ24A、24Bと、を備え、サンギヤ21A、21Bから電動機2A、2Bの駆動力が入力され、減速された駆動力がプラネタリキャリア23A、23Bを通して出力されるようになっている。
【0035】
サンギヤ21A、21Bは円筒軸16A、16Bに一体に形成されている。また、プラネタリギヤ22A、22Bは、例えば図3に示すように、サンギヤ21A、21Bに直接噛合される大径の第1ピニオン26A、26Bと、この第1ピニオン26A、26Bよりも小径の第2ピニオン27A、27Bを有する2連ピニオンであり、これらの第1ピニオン26A、26Bと第2ピニオン27A、27Bが同軸にかつ軸方向にオフセットした状態で一体に形成されている。このプラネタリギヤ22A、22Bはプラネタリキャリア23A、23Bに支持され、プラネタリキャリア23A、23Bは、軸方向内側端部が径方向内側に伸びて車軸10A、10Bにスプライン嵌合され一体回転可能に支持されるとともに、軸受33A、33Bを介して中間壁18A、18Bに支持されている。
【0036】
なお、中間壁18A、18Bは電動機2A、2Bを収容する電動機収容空間と遊星歯車式減速機12A、12Bを収容する減速機空間とを隔て、外径側から内径側に互いの軸方向間隔が広がるように屈曲して構成されている。そして、中間壁18A、18Bの内径側、且つ、遊星歯車式減速機12A、12B側にはプラネタリキャリア23A、23Bを支持する軸受33A、33Bが配置されるとともに中間壁18A、18Bの外径側、且つ、電動機2A、2B側にはステータ14A、14B用のバスリング41A、41Bが配置されている(図2参照)。
【0037】
リングギヤ24A、24Bは、その内周面が小径の第2ピニオン27A、27Bに噛合されるギヤ部28A、28Bと、ギヤ部28A、28Bより小径で減速機ケース11の中間位置で互いに対向配置される小径部29A、29Bと、ギヤ部28A、28Bの軸方向内側端部と小径部29A、29Bの軸方向外側端部を径方向に連結する連結部30A、30Bとを備えて構成されている。この実施形態の場合、リングギヤ24A、24Bの最大半径は、第1ピニオン26A、26Bの車軸10A、10Bの中心からの最大距離よりも小さくなるように設定されている。小径部29A、29Bは、それぞれ後述する一方向クラッチ50のインナーレース51とスプライン嵌合し、リングギヤ24A、24Bは一方向クラッチ50のインナーレース51と一体回転するように構成されている。
【0038】
ところで、減速機ケース11とリングギヤ24A、24Bの間には円筒状の空間部が確保され、その空間部内に、リングギヤ24A、24Bに対する制動手段を構成する油圧ブレーキ60A、60Bが第1ピニオン26A、26Bと径方向でラップし、第2ピニオン27A、27Bと軸方向でラップして配置されている。油圧ブレーキ60A、60Bは、減速機ケース11の内径側で軸方向に伸びる筒状の外径側支持部34の内周面にスプライン嵌合された複数の固定プレート35A、35Bと、リングギヤ24A、24Bの外周面にスプライン嵌合された複数の回転プレート36A、36Bが軸方向に交互に配置され、これらのプレート35A、35B,36A、36Bが環状のピストン37A、37Bによって締結及び解放操作されるようになっている。ピストン37A、37Bは、減速機ケース11の中間位置から内径側に延設された左右分割壁39と、左右分割壁39によって連結された外径側支持部34と内径側支持部40間に形成された環状のシリンダ室38A、38Bに進退自在に収容されており、シリンダ室38A、38Bへの高圧オイルの導入によってピストン37A、37Bを前進させ、シリンダ室38A、38Bからオイルを排出することによってピストン37A、37Bを後退させる。なお、油圧ブレーキ60A、60Bは図4に示すように、前述したフレーム部材13の支持部13a、13b間に配置された電動オイルポンプ70に接続されている。
【0039】
また、さらに詳細には、ピストン37A、37Bは、軸方向前後に第1ピストン壁63A、63Bと第2ピストン壁64A、64Bを有し、これらのピストン壁63A、63B,64A、64Bが円筒状の内周壁65A、65Bによって連結されている。したがって、第1ピストン壁63A、63Bと第2ピストン壁64A、64Bの間には径方向外側に開口する環状空間が形成されているが、この環状空間は、シリンダ室38A、38Bの外壁内周面に固定された仕切部材66A、66Bによって軸方向左右に仕切られている。減速機ケース11の左右分割壁39と第2ピストン壁64A、64Bの間は高圧オイルが直接導入される第1作動室S1(図5参照)とされ、仕切部材66A、66Bと第1ピストン壁63A、63Bの間は、内周壁65A、65Bに形成された貫通孔を通して第1作動室S1と導通する第2作動室S2(図5参照)とされている。第2ピストン壁64A、64Bと仕切部材66A、66Bの間は大気圧に導通している。
【0040】
この油圧ブレーキ60A、60Bでは、第1作動室S1と第2作動室S2に後述する油圧回路71からオイルが導入され、第1ピストン壁63A、63Bと第2ピストン壁64A、64Bに作用するオイルの圧力によって固定プレート35A、35Bと回転プレート36A、36Bを相互に押し付けが可能である。したがって、軸方向左右の第1,第2ピストン壁63A、63B,64A、64Bによって大きな受圧面積を稼ぐことができるため、ピストン37A、37Bの径方向の面積を抑えたまま固定プレート35A、35Bと回転プレート36A、36Bに対する大きな押し付け力を得ることができる。
【0041】
この油圧ブレーキ60A、60Bの場合、固定プレート35A、35Bが減速機ケース11から伸びる外径側支持部34に支持される一方で、回転プレート36A、36Bがリングギヤ24A、24Bに支持されているため、両プレート35A、35B,36A、36Bがピストン37A、37Bによって押し付けられると、両プレート35A、35B,36A、36B間の摩擦締結によってリングギヤ24A、24Bに制動力が作用し固定され、その状態からピストン37A、37Bによる締結が解放されると、リングギヤ24A、24Bの自由な回転が許容される。
【0042】
また、軸方向で対向するリングギヤ24A、24Bの連結部30A、30B間にも空間部が確保され、その空間部内に、リングギヤ24A、24Bに対し一方向の動力のみを伝達し他方向の動力を遮断する一方向クラッチ50が配置されている。一方向クラッチ50は、インナーレース51とアウターレース52との間に多数のスプラグ53を介在させたものであって、そのインナーレース51がスプライン嵌合によりリングギヤ24A、24Bの小径部29A、29Bと一体回転するように構成されている。またアウターレース52は、内径側支持部40により位置決めされるとともに、回り止めされている。一方向クラッチ50は、車両3が電動機2A、2Bの動力で前進する際に係合してリングギヤ24A、24Bの回転をロックするように構成されている。より具体的に説明すると、一方向クラッチ50は、電動機2A、2B側の順方向(車両3を前進させる際の回転方向)の回転動力が後輪Wr側に入力されるときに係合状態となるとともに電動機2A、2B側の逆方向の回転動力が後輪Wr側に入力されるときに非係合状態となり、後輪Wr側の順方向の回転動力が電動機2A、2B側に入力されるときに非係合状態となるとともに後輪Wr側の逆方向の回転動力が電動機2A、2B側に入力されるときに係合状態となる。
【0043】
このように本実施形態の後輪駆動装置1では、電動機2A、2Bと後輪Wrとの動力伝達経路上に一方向クラッチ50と油圧ブレーキ60A、60Bとが並列に設けられている。
【0044】
次に、図5〜図8を参照して後輪駆動装置1の油圧制御装置を構成する油圧回路について説明する。
油圧回路71は、オイルパン80に配設した吸入口70aから吸入され電動オイルポンプ70から吐出されるオイルを低圧油路切替弁73とブレーキ油路切替弁74とを介して油圧ブレーキ60A、60Bの第1作動室S1に給油可能に構成されるとともに、低圧油路切替弁73を介して電動機2A、2B及び遊星歯車式減速機12A、12Bなどの潤滑・冷却部91に供給可能に構成される。減速機ケース11には、電動オイルポンプ70から吐出され、電動機2A、2B及び遊星歯車式減速機12A、12Bなどの潤滑・冷却部91に供給されたオイルが貯留されている。オイルには、プラネタリキャリア23A、23Bの下部と電動機2A、2Bの下部が浸かっている。電動オイルポンプ70は、位置センサレス・ブラシレス直流モータからなる電動機90で高圧モードと低圧モードの少なくとも2つのモードで運転(稼動)可能となっておりPID制御で制御されている。なお、符号92は、ブレーキ油路77の油温を検出する油温センサである。
【0045】
低圧油路切替弁73は、ライン油路75を構成する電動オイルポンプ70側の第1ライン油路75aと、ライン油路75を構成するブレーキ油路切替弁74側の第2ライン油路75bと、潤滑・冷却部91に連通する第1低圧油路76aと、潤滑・冷却部91に連通する第2低圧油路76bと、に接続される。また、低圧油路切替弁73は、第1ライン油路75aと第2ライン油路75bとを常時連通させるとともにライン油路75を第1低圧油路76a又は第2低圧油路76bに選択的に連通させる弁体73aと、弁体73aをライン油路75と第1低圧油路76aとを連通する方向(図5において右方)へ付勢するスプリング73bと、弁体73aをライン油路75の油圧によってライン油路75と第2低圧油路76bとを連通する方向(図5において左方)へ押圧する油室73cと、を備える。従って、弁体73aは、スプリング73bによってライン油路75と第1低圧油路76aとを連通する方向(図5において右方)へ付勢されるとともに、図中右端の油室73cに入力されるライン油路75の油圧によってライン油路75と第2低圧油路76bとを連通する方向(図5において左方)へ押圧される。
【0046】
ここで、スプリング73bの付勢力は、電動オイルポンプ70が低圧モードで運転中に油室73cに入力されるライン油路75の油圧では、図6(a)に示すように、弁体73aが移動せずライン油路75を第2低圧油路76bから遮断し第1低圧油路76aに連通させるように設定され(以下、図6(a)の弁体73aの位置を低圧側位置と呼ぶ。)、電動オイルポンプ70が高圧モードで運転中に油室73cに入力されるライン油路75の油圧では、図6(b)に示すように、弁体73aが移動してライン油路75を第1低圧油路76aから遮断し第2低圧油路76bに連通させるように設定されている(以下、図6(b)の弁体73aの位置を高圧側位置と呼ぶ。)。
【0047】
ブレーキ油路切替弁74は、ライン油路75を構成する第2ライン油路75bと、油圧ブレーキ60A、60Bに接続されるブレーキ油路77と、ハイポジションドレン78を介して貯留部79と、に接続される。また、ブレーキ油路切替弁74は、第2ライン油路75bとブレーキ油路77とを連通・遮断させる弁体74aと、弁体74aを第2ライン油路75bとブレーキ油路77とを遮断する方向(図5において右方)へ付勢するスプリング74bと、弁体74aをライン油路75の油圧によって第2ライン油路75bとブレーキ油路77とを連通する方向(図5において左方)へ押圧する油室74cと、を備える。従って、弁体74aは、スプリング74bによって第2ライン油路75bとブレーキ油路77とを遮断する方向(図5において右方)へ付勢されるとともに、油室74cに入力されるライン油路75の油圧によって第2ライン油路75bとブレーキ油路77とを連通する方向(図5において左方)へ押圧可能にされる。
【0048】
スプリング74bの付勢力は、電動オイルポンプ70が低圧モード及び高圧モードで運転中に、油室74cに入力されるライン油路75の油圧で、弁体74aを図7(a)の閉弁位置から図7(b)の開弁位置に移動させて、ブレーキ油路77をハイポジションドレン78から遮断し第2ライン油路75bに連通させるように設定されている。即ち、電動オイルポンプ70が低圧モードで運転されても高圧モードで運転されても、油室74cに入力されるライン油路75の油圧がスプリング74bの付勢力を上回り、ブレーキ油路77をハイポジションドレン78から遮断し第2ライン油路75bに連通させる。
【0049】
第2ライン油路75bとブレーキ油路77とを遮断した状態においては、油圧ブレーキ60A、60Bはブレーキ油路77とハイポジションドレン78を介して貯留部79に連通される。ここで、貯留部79は、オイルパン80よりも鉛直方向で高い位置、より好ましくは、貯留部79の鉛直方向最上部が、油圧ブレーキ60A、60Bの第1作動室S1の鉛直方向最上部と鉛直方向最下部との中分点よりも鉛直方向で高い位置となるように配設される。従って、ブレーキ油路切替弁74が閉弁した状態においては、油圧ブレーキ60A、60Bの第1作動室S1に貯留していたオイルが直接オイルパン80に排出されず、貯留部79に排出されて蓄えられるように構成される。なお、貯留部79から溢れたオイルは、オイルパン80に排出されるように構成される。また、ハイポジションドレン78の貯留部側端部78aは、貯留部79の底面に接続される。
【0050】
ブレーキ油路切替弁74の油室74cは、パイロット油路81とソレノイド弁83を介してライン油路75を構成する第2ライン油路75bに接続可能にされている。ソレノイド弁83は、制御装置8によって制御される電磁三方弁で構成されており、制御装置8によるソレノイド弁83のソレノイド174(図8参照)への非通電時に第2ライン油路75bをパイロット油路81に接続し、油室74cにライン油路75の油圧を入力する。
【0051】
ソレノイド弁83は、図8に示すように、3方弁部材172と、ケース部材173に設けられ、不図示のケーブルを介して供給される電力を受けて励磁されるソレノイド174と、ソレノイド174の励磁力を受けて右方に引っ張られるソレノイド弁体175と、ケース部材173の中心に形成されるバネ保持凹部173aに収容され、ソレノイド弁体175を左方に付勢するソレノイドバネ176と、3方弁部材172内に設けられ、ソレノイド弁体175の進退を摺動自在にガイドするガイド部材177と、を備える。
【0052】
3方弁部材172は、略有底円筒状の部材であって、その中心線に沿って右端部から略中間部まで形成される右部凹状穴181と、同じく中心線に沿って左端部から右部凹状穴181の近傍まで形成される左部凹状穴182と、右部凹状穴181と左部凹状穴182との間において中心線と直交する方向に沿って形成される第1径方向穴183と、右部凹状穴181の略中間部と連通し中心線と直交する方向に沿って形成される第2径方向穴184と、中心線に沿って形成され、左部凹状穴182と第1径方向穴183とを連通する第1軸方向穴185と、中心線に沿って形成され、第1径方向穴183と右部凹状穴181とを連通する第2軸方向穴186と、を有する。
【0053】
また、3方弁部材172の左部凹状穴182の底部には、第1軸方向穴185を開閉するボール187が左右方向に移動可能に入れられると共に、左部凹状穴182の入口側には、ボール187の離脱を規制するキャップ188が嵌合されている。また、キャップ188には、第1軸方向穴185と連通する貫通穴188aが中心線に沿って形成されている。
【0054】
また、第2軸方向穴186は、左右動するソレノイド弁体175の左端部に形成される開閉突起175aの根元部の接触又は非接触により開閉される。また、第1軸方向穴185を開閉するボール187は、左右動するソレノイド弁体175の開閉突起175aの先端部により左右に移動される。
【0055】
そして、ソレノイド弁83では、ソレノイド174へ非通電(電力非供給)にすることにより、図8(a)に示すように、ソレノイドバネ176の付勢力を受けてソレノイド弁体175が左動して、ソレノイド弁体175の開閉突起175aの先端部がボール187を押すことにより、第1軸方向穴185が開放されると共に、ソレノイド弁体175の開閉突起175aの根元部が第2軸方向穴186に接触することにより、第2軸方向穴186が閉塞される。これにより、ライン油路75を構成する第2ライン油路75bが、第1軸方向穴185と第1径方向穴183からパイロット油路81を介して油室74cに連通する(以下、図8(a)のソレノイド弁体175の位置を開弁位置と呼ぶことがある。)。
【0056】
また、ソレノイド174へ通電(電力供給)することにより、図8(b)に示すように、ソレノイド174の励磁力を受けてソレノイド弁体175がソレノイドバネ176の付勢力に抗して右動し、貫通穴188aからの油圧がボール187を押すことにより、第1軸方向穴185が閉塞されると共に、ソレノイド弁体175の開閉突起175aの根元部が第2軸方向穴186から離れることにより、第2軸方向穴186が開放される。これにより、油室74cに貯留していたオイルが、第1径方向穴183と第2軸方向穴186と第2径方向穴184を介してオイルパン80に排出され、第2ライン油路75bとパイロット油路81とが遮断される(以下、図8(b)のソレノイド弁体175の位置を閉弁位置と呼ぶことがある。)。
【0057】
また、図5に戻って、油圧回路71では、第1低圧油路76aと第2低圧油路76bは下流側で合流して共通の低圧共通油路76cを構成しており、合流部には、低圧共通油路76cのライン圧が所定圧以上になった場合に低圧共通油路76c内のオイルをリリーフドレン86を介してオイルパン80に排出させ、油圧を低下させるリリーフ弁84が接続されている。
【0058】
ここで、第1低圧油路76aと第2低圧油路76bには、図6に示すように、それぞれ流路抵抗手段としてのオリフィス85a、85bが形成されており、第1低圧油路76aのオリフィス85aが第2低圧油路76bのオリフィス85bよりも大径となるように構成されている。従って、第2低圧油路76bの流路抵抗は第1低圧油路76aの流路抵抗よりも大きく、電動オイルポンプ70を高圧モードで運転中における第2低圧油路76bでの減圧量が、電動オイルポンプ70を低圧モードで運転中における第1低圧油路76aでの減圧量よりも大きくなって、高圧モード及び低圧モードにおける低圧共通油路76cの油圧は略等しくなっている。
【0059】
このように第1低圧油路76aと第2低圧油路76bとに接続された低圧油路切替弁73は、電動オイルポンプ70が低圧モードで運転中においては、油室73c内の油圧よりもスプリング73bの付勢力が勝りスプリング73bの付勢力により弁体73aが低圧側位置に位置して、ライン油路75を第2低圧油路76bから遮断し第1低圧油路76aに連通させる。第1低圧油路76aを流れるオイルは、オリフィス85aで流路抵抗を受けて減圧され、低圧共通油路76cを経由して潤滑・冷却部91に至る。一方、電動オイルポンプ70が高圧モードで運転中においては、スプリング73bの付勢力よりも油室73c内の油圧が勝りスプリング73bの付勢力に抗して弁体73aが高圧側位置に位置して、ライン油路75を第1低圧油路76aから遮断し第2低圧油路76bに連通させる。第2低圧油路76bを流れるオイルは、オリフィス85bでオリフィス85aよりも大きな流路抵抗を受けて減圧され、低圧共通油路76cを経由して潤滑・冷却部91に至る。
【0060】
従って、電動オイルポンプ70が低圧モードから高圧モードに切り替わると、ライン油路75の油圧の変化に応じて自動的に流路抵抗の小さい油路から流路抵抗の大きい油路に切り替わるので、高圧モードのときに潤滑・冷却部91に過度のオイルが供給されることが抑制される。
【0061】
また、低圧共通油路76cから潤滑・冷却部91に至る油路には、他の流路抵抗手段としての複数のオリフィス85cが設けられている。複数のオリフィス85cは、第1低圧油路76aのオリフィス85aの最小流路断面積の方が複数のオリフィス85cの最小流路断面積よりも小さくなるように設定されている。即ち、複数のオリフィス85cの流路抵抗よりも第1低圧油路76aのオリフィス85aの流路抵抗の方が大きく設定されている。このとき、複数のオリフィス85cの最小流路断面積は、各オリフィス85cの最小流路断面積の総和である。これにより、第1低圧油路76aのオリフィス85aと第2低圧油路76bのオリフィス85bで所望の流量を流すことが調整可能になっている。
【0062】
ここで、制御装置8(図1参照)は、車両全体の各種制御をするための制御装置であり、制御装置8には車速、操舵角、アクセルペダル開度AP、シフトポジション、SOC、油温、電動機2A、2Bの回転数などが入力される一方、制御装置8からは、内燃機関4を制御する信号、電動機2A、2Bを制御する信号、バッテリ9における発電状態・充電状態・放電状態などを示す信号、ソレノイド弁83のソレノイド174への制御信号、電動オイルポンプ70を制御する制御信号などが出力される。
【0063】
即ち、制御装置8は、電動機2A、2Bを制御する電動機制御装置としての機能と、断接手段としての油圧ブレーキ60A、60Bを制御する断接手段制御装置としての機能を、少なくとも備えている。断接手段制御装置としての制御装置8は、電動機2A、2Bの駆動状態及び/又は電動機2A、2Bの駆動指令(駆動信号)に基づいて電動オイルポンプ70とソレノイド弁83のソレノイド174を制御する。
【0064】
次に、後輪駆動装置1の油圧回路71の動作について説明する。
図5は、停車中に油圧ブレーキ60A、60Bが解放している状態の油圧回路71を示している。この状態では、制御装置8は、電動オイルポンプ70を稼動しない。これにより、低圧油路切替弁73の弁体73aは低圧側位置に位置し、ブレーキ油路切替弁74の弁体74aは閉弁位置に位置し、油圧回路71には油圧が供給されていない。
【0065】
図9は、車両走行中に油圧ブレーキ60A、60Bが解放している状態を示している。この状態では、制御装置8は、電動オイルポンプ70を低圧モードで運転する。また、制御装置8は、ソレノイド弁83のソレノイド174へ通電しており、第2ライン油路75bとパイロット油路81とが遮断される。これにより、ブレーキ油路切替弁74の弁体74aはスプリング74bの付勢力により閉弁位置に位置して、第2ライン油路75bとブレーキ油路77とが遮断されるとともにブレーキ油路77とハイポジションドレン78とが連通され、油圧ブレーキ60A、60Bが解放される。そして、ブレーキ油路77は、ハイポジションドレン78を介して貯留部79に接続される。
【0066】
また、低圧油路切替弁73は、スプリング73bの付勢力が、図中右端の油室73cに入力される電動オイルポンプ70の低圧モードで運転中のライン油路75の油圧より大きいため、弁体73aが低圧側位置に位置し、ライン油路75を第2低圧油路76bから遮断し第1低圧油路76aに連通させる。これにより、ライン油路75のオイルが第1低圧油路76aを介してオリフィス85aで減圧され、潤滑・冷却部91に供給される。
【0067】
図10は、油圧ブレーキ60A、60Bが弱締結している状態における油圧回路71を示している。なお、弱締結とは、動力伝達可能であるが、油圧ブレーキ60A、60Bの締結状態の締結力に対し弱い締結力で締結している状態をいう。このとき、制御装置8は、電動オイルポンプ70を低圧モードで運転する。また、制御装置8は、ソレノイド弁83のソレノイド174へ非通電にして、ブレーキ油路切替弁74の油室74cに第2ライン油路75bの油圧を入力している。これにより、スプリング74bの付勢力より油室74c内の油圧が勝り、弁体74aが開弁位置に位置して、ブレーキ油路77とハイポジションドレン78とが遮断されるとともに第2ライン油路75bとブレーキ油路77とが連通され、油圧ブレーキ60A、60Bが弱締結する。
【0068】
低圧油路切替弁73は、このときも油圧ブレーキ60A、60Bの解放時と同様に、スプリング73bの付勢力が、図中右端の油室73cに入力される電動オイルポンプ70の低圧モードで運転中のライン油路75の油圧より大きいため、弁体73aが低圧側位置に位置し、ライン油路75を第2低圧油路76bから遮断し第1低圧油路76aに連通させる。これにより、ライン油路75のオイルが第1低圧油路76aを介してオリフィス85aで減圧され、潤滑・冷却部91に供給される。
【0069】
図11は、油圧ブレーキ60A、60Bが締結している状態における油圧回路71を示している。このとき、制御装置8は、電動オイルポンプ70を高圧モードで運転する。また、制御装置8は、ソレノイド弁83のソレノイド174へ非通電にして、ブレーキ油路切替弁74の右端の油室74cに第2ライン油路75bの油圧を入力している。これにより、スプリング74bの付勢力より油室74c内の油圧が勝り、弁体74aが開弁位置に位置して、ブレーキ油路77とハイポジションドレン78とが遮断されるとともに第2ライン油路75bとブレーキ油路77とが連通され、油圧ブレーキ60A、60Bが締結する。
【0070】
低圧油路切替弁73は、電動オイルポンプ70の高圧モードで運転中の図中右端の油室73cに入力されるライン油路75の油圧がスプリング73bの付勢力より大きいため、弁体73aが高圧側位置に位置し、ライン油路75を第1低圧油路76aから遮断し第2低圧油路76bに連通させる。これにより、ライン油路75のオイルが第2低圧油路76bを介してオリフィス85bで減圧され、潤滑・冷却部91に供給される。
【0071】
このように、制御装置8は、電動オイルポンプ70の運転モード(稼動状態)と、ソレノイド弁83の開閉を制御することにより、油圧ブレーキ60A、60Bを解放又は締結させ、電動機2A、2B側と後輪Wr側とを遮断状態及び接続状態に切り替えるとともに、油圧ブレーキ60A、60Bの締結力を制御することができる。
【0072】
図12は電動オイルポンプ70の負荷特性を示すグラフである。
図12に示すように、高圧モード(油圧PH)に比べて低圧モード(油圧PL)は、オイルの供給流量を維持しつつも電動オイルポンプ70の仕事率を1/4〜1/5程度に低減することができる。即ち、低圧モードにおいては電動オイルポンプ70の負荷が小さく、高圧モードに比べて電動オイルポンプ70を駆動する電動機90の消費電力を低減することができる。
【0073】
図13は、各車両状態における前輪駆動装置6と後輪駆動装置1との関係を電動機2A、2Bの作動状態と油圧回路71の状態とをあわせて記載したものである。図中、フロントユニットは前輪駆動装置6、リアユニットは後輪駆動装置1、リアモータは電動機2A、2B、EOPは電動オイルポンプ70、SOLはソレノイド174、OWCは一方向クラッチ50、BRKは油圧ブレーキ60A、60Bを表わす。また、図14〜図19は後輪駆動装置1の各状態における速度共線図を表わし、左側のS、Cはそれぞれ電動機2Aに連結された遊星歯車式減速機12Aのサンギヤ21A、車軸10Aに連結されたプラネタリキャリア23A、右側のS、Cはそれぞれ電動機2Bに連結された遊星歯車式減速機12Bのサンギヤ21B、車軸10Bに連結されたプラネタリキャリア23B、Rはリングギヤ24A、24B、BRKは油圧ブレーキ60A、60B、OWCは一方向クラッチ50を表わす。以下の説明において電動機2A、2Bによる車両前進時のサンギヤ21A、21Bの回転方向を順方向とする。また、図中、停車中の状態から上方が順方向の回転、下方が逆方向の回転であり、矢印は、上方が順方向のトルクを表し、下方が逆方向のトルクを表す。
【0074】
停車中は、前輪駆動装置6も後輪駆動装置1も駆動していない。従って、図14に示すように、後輪駆動装置1の電動機2A、2Bは停止しており、車軸10A、10Bも停止しているため、いずれの要素にもトルクは作用していない。この車両3の停車中においては、油圧回路71は、図5に示すように、電動オイルポンプ70が非稼動であり、ソレノイド弁83のソレノイド174は非通電になっているものの油圧が供給されないため油圧ブレーキ60A、60Bは解放(OFF)している。また、一方向クラッチ50は、電動機2A、2Bが非駆動のため係合していない(OFF)。
【0075】
そして、イグニッションをONにした後、EV発進、EVクルーズなどモータ効率のよい前進低車速時は、後輪駆動装置1による後輪駆動となる。図15に示すように、電動機2A、2Bが順方向に回転するように力行駆動すると、サンギヤ21A、21Bには順方向のトルクが付加される。このとき、前述したように一方向クラッチ50が係合しリングギヤ24A、24Bがロックされる。これによりプラネタリキャリア23A、23Bは順方向に回転し前進走行がなされる。なお、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bからの走行抵抗が逆方向に作用している。このように車両3の発進時には、イグニッションをONにして電動機2A、2Bのトルクをあげることで、一方向クラッチ50が機械的に係合してリングギヤ24A、24Bがロックされる。
【0076】
このとき油圧回路71は、図10に示すように、電動オイルポンプ70が低圧モード(Lo)で稼動し、ソレノイド弁83のソレノイド174は非通電(OFF)になっており、油圧ブレーキ60A、60Bが弱締結状態となっている。このように、電動機2A、2Bの順方向の回転動力が後輪Wr側に入力されるときには一方向クラッチ50が係合状態となり、一方向クラッチ50のみで動力伝達可能であるが、一方向クラッチ50と並列に設けられた油圧ブレーキ60A、60Bも弱締結状態とし電動機2A、2B側と後輪Wr側とを接続状態としておくことで、電動機2A、2B側からの順方向の回転動力の入力が一時的に低下して一方向クラッチ50が非係合状態となった場合にも、電動機2A、2B側と後輪Wr側とで動力伝達不能になることを抑制できる。また、後述する減速回生への移行時に電動機2A、2B側と後輪Wr側とを接続状態とするための回転数制御が不要となる。このときの油圧ブレーキ60A、60Bの締結力は、後述する減速回生時や後進時と比べて弱い締結力となっている。一方向クラッチ50が係合状態のときの油圧ブレーキ60A、60Bの締結力を一方向クラッチ50が非係合状態のときの油圧ブレーキ60A、60Bの締結力よりも弱くすることにより、油圧ブレーキ60A、60Bの締結のための消費エネルギーが低減される。さらにこの状態においても、上述したようにライン油路75のオイルが第1低圧油路76aを介してオリフィス85aで減圧され、潤滑・冷却部91に供給され、潤滑・冷却部91の潤滑及び冷却がなされている。
【0077】
前進低車速走行から車速があがりエンジン効率のよい前進中車速走行に至ると、後輪駆動装置1による後輪駆動から前輪駆動装置6による前輪駆動となる。図16に示すように、電動機2A、2Bの力行駆動が停止すると、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bから前進走行しようとする順方向のトルクが作用するので、前述したように一方向クラッチ50が非係合状態となる。
【0078】
このとき油圧回路71は、図10に示すように、電動オイルポンプ70が低圧モード(Lo)で稼動し、ソレノイド弁83のソレノイド174は非通電(OFF)になっており、油圧ブレーキ60A、60Bが弱締結状態となっている。このように、後輪Wr側の順方向の回転動力が電動機2A、2B側に入力されるときには一方向クラッチ50は非係合状態となり、一方向クラッチ50のみで動力伝達不能であるが、一方向クラッチ50と並列に設けられた油圧ブレーキ60A、60Bを弱締結させ、電動機2A、2B側と後輪Wr側とを接続状態としておくことで動力伝達可能な状態に保つことができ、後述する減速回生時への移行時に回転数制御が不要となる。なお、このときの油圧ブレーキ60A、60Bの締結力も、後述する減速回生時や後進時と比べて弱い締結力となっている。さらにこの状態においては、上述したようにライン油路75のオイルが第1低圧油路76aを介してオリフィス85aで減圧され、潤滑・冷却部91に供給され、潤滑・冷却部91の潤滑及び冷却がなされている。
【0079】
この前進中車速走行中は、油圧ブレーキ60A、60Bを弱締結状態とすることで電動機2A、2Bが連れ回ってしまうこととなり、後輪Wrには電動機2A、2Bの連れ周りに伴う負のトルクが発生するが、本発明においては後述する損失低減制御により、後輪Wrに発生する負のトルクを相殺している。
【0080】
図15又は図16の状態から電動機2A、2Bを回生駆動しようすると、図17に示すように、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bから前進走行を続けようとする順方向のトルクが作用するので、前述したように一方向クラッチ50が非係合状態となる。
【0081】
このとき、油圧回路71は、図11に示すように、電動オイルポンプ70が高圧モード(Hi)で稼動し、ソレノイド弁83のソレノイド174は非通電(OFF)とされ、油圧ブレーキ60A、60Bが締結状態(ON)となる。従って、リングギヤ24A、24Bが固定されるとともに電動機2A、2Bには逆方向の回生制動トルクが作用し、電動機2A、2Bで減速回生がなされる。このように、後輪Wr側の順方向の回転動力が電動機2A、2B側に入力されるときには一方向クラッチ50は非係合状態となり、一方向クラッチ50のみで動力伝達不能であるが、一方向クラッチ50と並列に設けられた油圧ブレーキ60A、60Bを締結させ、電動機2A、2B側と後輪Wr側とを接続状態としておくことで動力伝達可能な状態に保つことができ、この状態で電動機2A、2Bを回生駆動状態に制御することにより、車両3のエネルギーを回生することができる。さらにこの状態においては、上述したようにライン油路75のオイルが第2低圧油路76bを介してオリフィス85bで減圧され、潤滑・冷却部91に供給され、潤滑・冷却部91の潤滑及び冷却がなされている。
【0082】
続いて加速時には、前輪駆動装置6と後輪駆動装置1の四輪駆動となり、後輪駆動装置1は、図15に示す前進低車速時と同じ状態であり、油圧回路71も、図10に示す状態となる。
【0083】
前進高車速時には、前輪駆動装置6による前輪駆動となる。図18に示すように、電動機2A、2Bが力行駆動を停止すると、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bから前進走行しようとする順方向のトルクが作用するので、前述したように一方向クラッチ50が非係合状態となる。
【0084】
このとき油圧回路71は、図9に示すように、電動オイルポンプ70が低圧モード(Lo)で稼動し、ソレノイド弁83のソレノイド174は通電(ON)され、油圧ブレーキ60A、60Bが解放状態(OFF)となる。従って、電動機2A、2Bの連れ回りが防止され、前輪駆動装置6による高車速時に電動機2A、2Bが過回転となるのが防止される。さらにこの状態においては、上述したようにライン油路75のオイルが第1低圧油路76aを介してオリフィス85aで減圧され、潤滑・冷却部91に供給され、潤滑・冷却部91の潤滑及び冷却がなされている。
【0085】
後進時には、図19に示すように、電動機2A、2Bを逆力行駆動すると、サンギヤ21A、21Bには逆方向のトルクが付加される。このとき、前述したように一方向クラッチ50が非係合状態となる。
【0086】
このとき、油圧回路71は、図11に示すように、電動オイルポンプ70が高圧モード(Hi)で稼動し、ソレノイド弁83のソレノイド174は非通電(OFF)とされ、油圧ブレーキ60A、60Bが締結状態となる。従って、リングギヤ24A、24Bが固定されて、プラネタリキャリア23A、23Bは逆方向に回転し後進走行がなされる。なお、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bからの走行抵抗が順方向に作用している。このように、電動機2A、2B側の逆方向の回転動力が後輪Wr側に入力されるときには一方向クラッチ50は非係合状態となり、一方向クラッチ50のみで動力伝達不能であるが、一方向クラッチ50と並列に設けられた油圧ブレーキ60A、60Bを締結させ、電動機2A、2B側と後輪Wr側とを接続状態としておくことで動力伝達可能に保つことができ、電動機2A、2Bの回転動力によって車両3を後進させることができる。さらにこの状態においては、上述したようにライン油路75のオイルが第2低圧油路76bを介してオリフィス85bで減圧され、潤滑・冷却部91に供給され、潤滑・冷却部91の潤滑及び冷却がなされている。
【0087】
このように後輪駆動装置1は、車両3の走行状態、言い換えると、電動機2A、2Bの回転方向が順方向か逆方向か、及び電動機2A、2B側と後輪Wr側のいずれから動力が入力されるかに応じて、油圧ブレーキ60A、60Bの締結・解放が制御され、さらに油圧ブレーキ60A、60Bの締結時であっても締結力が調整される。
【0088】
ここで、本発明における損失低減制御について詳細に説明する。
先ず、図20を参照して、図16で説明した前進中車速時において、損失低減制御をしない場合について説明する。
前進中車速時は、上述したように油圧ブレーキ60A、60Bが弱締結状態となるが、この際、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bから前進走行しようとする順方向の走行トルクTcが作用し、リングギヤ24A、24Bには油圧ブレーキ60A、60Bの締結力Frが逆方向に作用し、サンギヤ21A、21Bには逆方向に電動機側損失に起因する抵抗力Fsが作用する。
【0089】
電動機側損失とは、電動機2A、2Bの損失(以下、MOT損失とも呼ぶ。)と動力伝達経路を構成する遊星歯車式減速機12A、12B等の損失(以下、伝達経路損失とも呼ぶ。)である。MOT損失は、具体的には主に電動機2A、2Bの摩擦損失、銅損、鉄損であり、伝達経路損失は、電動機2A、2Bの出力軸として機能する円筒軸16A、16Bとサンギヤ21A、21Bとに作用する摩擦損失である。
【0090】
また、プラネタリキャリア23A、23Bには電動機側損失に起因する抵抗力Fsの分配力Fsdが逆方向に作用する。この分配力Fsdは、油圧ブレーキ60A、60Bで固定されたリングギヤ24A、24Bを支点として、力点であるサンギヤ21A、21Bに電動機側損失に起因する抵抗力Fsが作用した際に、作用点であるプラネタリキャリア23A、23Bに発生する力である。このプラネタリキャリア23A、23Bに発生する分配力Fsdが、車両3の走行における抵抗として後輪Wrに作用することとなる。
【0091】
また、サンギヤ21A、21Bにも、プラネタリキャリア23A、23Bに作用する走行トルクTcの分配力Tcdが順方向に作用する。この走行トルクTcの分配力Tcdは、油圧ブレーキ60A、60Bで固定されたリングギヤ24A、24Bを支点として、力点であるプラネタリキャリア23A、23Bに走行トルクTcが作用した際に、作用点であるサンギヤ21A、21Bに発生する力である。この分配力Tcdにより、電動機2A、2Bが連れ回される。
【0092】
本発明では、前進中車速時、即ち後輪駆動装置1の駆動力が略零の状態で車両3を駆動するとき若しくは前輪駆動装置6の駆動力のみによって車両3を駆動するときに、電動機側損失を低減するため、電動機2A、2Bを制御する損失低減制御を行なう。かかる損失低減制御として、以下に説明するモータ端零トルク制御と車輪端零トルク制御の2つの制御方法について説明する。
【0093】
<モータ端零トルク制御>
先ず、モータ端零トルク制御について図21及び図22を参照して説明する。
モータ端零トルク制御は、電動機2A、2Bが連れ回される状態で生じる負のトルク(MOT損失)に起因する抵抗力を相殺する制御である。
【0094】
制御装置8の一部を構成する電動機制御装置8A(MOT CTRL)には、図22に示すように、電動機2A、2Bに取り付けられた回転センサ94で検出した電動機2A、2Bの回転子の電気角度θと、電気角度θの検出値を時間微分することによって算出された電動機2A、2Bの回転子の角速度ωと、相電流センサ95が検出したU相電流Iu及びW相電流Iwの各値と、零トルク指令とが入力される。
【0095】
電動機2A、2Bがプラネタリキャリア23A、23Bに作用する走行トルクTcの分配力Tcdにより連れ回されている状態では、電動機2A、2Bには回転に応じたMOT損失が生じており、電動機制御装置8Aは、電気角度θと、角速度ωと、相電流センサ95が検出したU相電流Iu及びW相電流IwからMOT損失を取得する。
【0096】
そして、電動機制御装置8Aは、零トルク指令に基づいて、取得されるMOT損失が略零となるように、電動機2A、2Bを零トルク状態に制御する。
【0097】
これにより、MOT損失が相殺され、サンギヤ21A、21Bには、電動機側損失のうち伝達経路損失のみに起因する抵抗力Fs´が作用することとなる。従って、このプラネタリキャリア23A、23Bに発生する分配力Fsd´も、MOT損失分だけ低減されることとなる。
【0098】
このように、後輪駆動装置1のトルクが略零の状態で車両3を駆動するとき若しくは前輪駆動装置6のトルクのみによって車両3を駆動するときに、モータ端零トルク制御を行なうことにより、プラネタリキャリア23A、23Bを介して後輪Wrに発生する負荷(負のトルク)を低減することができ車両3の走破性を向上させることができる。なお、このモータ端零トルク制御は、後述する車輪端零トルク制御と比較して、消費電力が少ない。
【0099】
また、このモータ端零トルク制御では、電動機2A、2Bの損失のみを相殺するので、損失の取得が容易である。また、損失の取得に電動機2A、2Bの電流値を考慮するので、精度よく損失を推定することができる。
【0100】
<車輪端零トルク制御>
次に、車輪端零トルク制御について図23及び図24を参照して説明する。
車輪端零トルク制御では、制御装置8は、図20で説明したサンギヤ21A、21Bに作用する、電動機側損失に起因する抵抗力Fsが零になるように、MOT損失と伝達経路損失に相当するトルクである順方向のトルクTmを電動機2A、2Bに発生させて、MOT損失と伝達経路損失に起因する抵抗力を相殺する制御である。
【0101】
車輪端零トルク制御では、電動機2A、2Bの温度と回転数(モータ回転数)とから、予め試験的に測定され又は算出され記憶されていた損失MAPに基づいて、MOT損失と伝達経路損失の総損失、即ち電動機側損失が取得される。そして、取得した電動機側損失に基づいてトルク指令値が決定される。
【0102】
制御装置8の一部を構成する電動機制御装置8B(MOT CTRL)は、電動機2A、2Bに取り付けられた回転センサ94で検出した電動機2A、2Bの回転子の電気角度θと、電気角度θの検出値を時間微分することによって算出された電動機2A、2Bの回転子の角速度ωと、相電流センサ95が検出したU相電流Iu及びW相電流Iwの各値と、トルク指令値とが入力される。そして、電動機制御装置8Bは、損失MAPに基づいて決定されたトルク指令値に基づいて、電動機側損失を相殺するために電動機2A、2Bの発生トルクTmを制御する。
【0103】
電動機側損失に相当するトルクである順方向のトルクTmを電動機2A、2Bに発生させることにより(図23参照)、電動機側損失が相殺、即ち、電動機側損失に起因する抵抗力Fsが相殺される。従って、プラネタリキャリア23A、23Bに作用する電動機側損失に起因する抵抗力Fsの分配力Fsdも略零となり、後輪Wrには抵抗力が発生しなくなる。
【0104】
このように、後輪駆動装置1の駆動力が略零の状態で車両3を駆動するとき若しくは前輪駆動装置6の駆動力のみによって車両3を駆動するときに、車輪端零トルク制御を行なうことにより、プラネタリキャリア23A、23Bを介して後輪Wrに発生する負荷(負のトルク)を略零とすることができ車両3の走破性を向上させることができる。
【0105】
また、この車輪端零トルク制御では、損失MAPが、予め試験的に測定又は算出され電動機2A、2Bの温度と回転数とに相関付けられて記憶されているので、逐次の損失計算(推定)が不要となる。なお、損失MAPは、電動機2A、2Bの温度と回転数との両方に相関付けられている必要はなく、いずれか一方に相関付けられいてもよい。また、回転数として、電動機2A、2Bの回転数に限らず、動力伝達経路を構成する回転部材の回転数、例えば、遊星歯車式減速機12A、12Bのサンギヤ21A、21Bを用いてもよい。
【0106】
また、損失MAPは、車輪端零トルク制御以外にも流用することができる。例えば、損失MAPにおいて、電動機2A、2Bの回転数、動力伝達経路を構成する回転部材の回転数、電動機2A、2Bの温度の少なくとも1つと、電動機2A、2Bの損失であるMOT損失のみを相関付けて記憶してもよく、電動機2A、2Bの回転数、動力伝達経路を構成する回転部材の回転数、電動機2A、2Bの温度の少なくとも1つと、動力伝達経路を構成する遊星歯車式減速機12A、12B等の損失である伝達経路損失のみを相関づけて記憶してもよい。これらの場合には、プラネタリキャリア23A、23Bを介して後輪Wrに発生する負荷(負のトルク)を略零とすることはできないが、MOT損失と伝達経路損失のいずれか一方が他方に比べて大きい場合に、大きい方の損失を相殺することができる。
【0107】
以上説明したように、本実施形態によれば、後輪駆動装置1のトルクが略零の状態で車両3を駆動するとき若しくは前輪駆動装置6のトルクのみによって車両3を駆動するときに、油圧ブレーキ60A、60Bを接続状態とすることにより、再度後輪駆動装置1の電動機2A、2Bを駆動するときの回転数合わせを省略することができる。この場合、油圧ブレーキ60A、60Bの締結時には電動機2A、2Bとその伝達経路は損失となり、車輪Wrに負荷(負のトルク)を与えるので、制御装置8は、油圧ブレーキ60A、60Bを接続状態とすることによって後輪Wrに生じる電動機2A、2Bと動力伝達経路の少なくとも一方の損失を低減するように電動機2A、2Bを制御する損失低減制御を行なうことにより、車両3の走破性を向上させることができる。
【0108】
また、本実施形態の後輪駆動装置1は、電動機2A、2Bと後輪Wrとの動力伝達経路上に油圧ブレーキ60A、60Bと並列に一方向クラッチ50が設けられており、電動機2A、2B側の順方向の回転動力が後輪Wr側に入力されるときに一方向クラッチ50が係合状態となり、一方向クラッチ50で動力伝達可能であるので、油圧ブレーキ60A、60Bを解放するか又は油圧ブレーキ60A、60Bの接続状態における締結力を弱くすることができ、油圧ブレーキ60A、60Bの締結に伴うエネルギーを低減することができる。
【0109】
また、本発明の車両における後輪駆動装置としては、上記実施形態の後輪駆動装置1に限らず、車両の駆動力を発生する電動機と、電動機の動力で回転する車輪と、を備えていれば、その構造は限定されるものではなく、例えば、一方向動力伝達手段である一方向クラッチ50、断接手段である油圧ブレーキ60A、60Bを備えない、電動機が車輪に常時接続された構成も採用することができる。また、変速機である遊星歯車式減速機12A、12Bも備えない、電動機が車輪に直結された構成も採用することができる。これらの後輪駆動装置を用いた車両においても、前輪駆動装置のトルクが略零の状態で車両を駆動するとき若しくは他の駆動源のトルクのみによって車両を駆動するときに、電動機と動力伝達経路との少なくとも一方の損失を低減するように電動機を制御する損失低減制御を行なうことにより、車両の走破性を向上させることができる。
【0110】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
即ち、本発明の車両に用いられる後輪駆動装置は、電動機と、車輪と、を備えるものであれば、特にその構成は限定されるものではない。
例えば、リングギヤ24A、24Bにそれぞれ油圧ブレーキ60A、60Bを設ける必要はなく、連結されたリングギヤ24A、24Bに少なくとも1つの油圧ブレーキと1つの一方向クラッチが設けられていればよい。
また、反対に、リングギヤ24A、24Bは必ずしも連結されている必要はなく、それぞれに一方向クラッチと油圧ブレーキを設けてもよい。
また、変速機として遊星歯車式減速機12A、12Bを例示したが、これに限らず、任意の変速機を用いることができる。さらに、変速機は必ずしも設ける必要はない。
また、右車輪と左車輪を1つの電動機で制御するものであってもよい。
また、断接手段として油圧ブレーキを例示したが、これに限らず機械式、電磁式等任意に選択できる。
また、前輪駆動装置は、内燃機関を用いずに電動機を唯一の駆動源とするものでもよい。
【符号の説明】
【0111】
1 後輪駆動装置(第1駆動装置)
2A、2B 電動機
6 前輪駆動装置(第2駆動装置)
8 制御装置(電動機制御装置、断接手段制御装置)
50 一方向クラッチ(一方向動力伝達手段)
60A、60B 油圧ブレーキ(断接手段)
Wf 前輪(第2駆動輪)
Wr 後輪(第1駆動輪)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪および後輪の一方である第1駆動輪を駆動する第1駆動装置と、該前輪および後輪の他方である第2駆動輪を駆動する第2駆動装置と、を備えた車両であって、
前記第1駆動装置は、
車両の駆動力を発生する電動機と、
前記電動機を制御する電動機制御装置と、
前記電動機と前記第1駆動輪との動力伝達経路上に設けられ、解放又は締結することにより電動機側と第1駆動輪側とを遮断状態又は接続状態にする断接手段と、
前記断接手段を制御する断接手段制御装置と、を備え、
前記第1駆動装置の駆動力が略零の状態で車両を駆動するとき若しくは前記第2駆動装置の駆動力のみによって車両を駆動するときに、前記断接手段制御装置は、前記断接手段を締結して接続状態とするとともに、前記電動機制御装置は、前記断接手段を接続状態とすることによって前記第1駆動輪に伝達される前記電動機と前記動力伝達経路との少なくとも一方の損失を低減するように前記電動機を制御する損失低減制御を行なうことを特徴とする車両。
【請求項2】
前記損失低減制御は、前記電動機の損失と前記動力伝達経路の損失を取得し、前記両方の損失を低減するように前記電動機を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記損失低減制御は、前記電動機の損失を取得し、前記損失を低減するように前記電動機を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両。
【請求項4】
前記損失低減制御は、前記動力伝達経路の損失を取得し、前記損失を低減するように前記電動機を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両。
【請求項5】
前記損失は、前記電動機の回転数と、前記動力伝達経路を構成する回転部材の回転数と、温度との少なくとも一つに基づいて求められることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の車両。
【請求項6】
前記損失は、前記電動機の電流に基づいて求められることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の車両。
【請求項7】
前記損失は、予め試験的に測定され又は算出され記憶されていることを特徴とする請求項5に記載の車両。
【請求項8】
前記電動機と前記第1駆動輪との動力伝達経路上に前記断接手段と並列に設けられ、電動機側の順方向の回転動力が第1駆動輪側に入力されるときに係合状態となるとともに電動機側の逆方向の回転動力が第1駆動輪側に入力されるときに非係合状態となり、第1駆動輪側の順方向の回転動力が電動機側に入力されるときに非係合状態となるとともに第1駆動輪側の逆方向の回転動力が電動機側に入力されるときに係合状態となる一方向動力伝達手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の車両。
【請求項9】
前輪および後輪の一方である第1駆動輪を駆動する第1駆動装置と、該前輪および後輪の他方である第2駆動輪を駆動する第2駆動装置と、を備えた車両であって、
前記第1駆動装置は、
車両の駆動力を発生する、前記第1駆動輪に常時接続された電動機と、
前記電動機を制御する電動機制御装置と、を備え、
前記第1駆動装置の駆動力が略零の状態で車両を駆動するとき若しくは前記第2駆動装置の駆動力のみによって車両を駆動するときに、前記電動機制御装置は、前記第1駆動輪に伝達される前記電動機の損失を低減するように前記電動機を制御する損失低減制御を行なうことを特徴とする車両。
【請求項10】
前記損失は、前記電動機の回転数と温度との少なくとも1つに基づいて求められることを特徴とする請求項9に記載の車両。
【請求項11】
前記損失は、前記電動機の電流に基づいて求められることを特徴とする請求項9に記載の車両。
【請求項12】
前記損失は、予め試験的に測定され又は算出され記憶されていることを特徴とする請求項10に記載の車両。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−218562(P2012−218562A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85653(P2011−85653)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】