説明

車体フロア構造

【課題】水抜きを十分に行うことを可能にし、車体フロアのシール性を十分に確保することを可能にするとともに、メンテナンス作業の作業性の向上を図ることを可能にする。
【解決手段】平坦な車体のフロアパネル13に物品15,17を収納する凹部14を設け、この凹部14に車室内と車室外とを貫通させる貫通孔31を設け、この貫通孔31に車室内側からシールナット32を固定し、このシールナット32に車室外からボルト(水抜き用ボルト)33を締結し、シールナット32が、環状突起74を有し、フロアパネル13にプロジェクション溶接にて固定され、車体組み付け部品64を締結可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体後部の車体フロア構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車体フロア構造として、車体のフロアパネルに凹部を形成し、この凹部にスペアタイヤなどの物品を収納する車体フロア構造が知られている。
この種の車体フロア構造は、車体のフロアの収納性を向上させるために、車体のフロアパネルに凹部を形成して物品を収納できるようにするものであった。
【0003】
このような車体フロア構造として、フロアパネルにスペアタイヤを収納する凹部を設け、この凹部に水抜き孔を形成したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平8−80877号公報
【0004】
特許文献1の車体フロア構造は、フロアパネルにスペアタイヤを収納する凹部を設け、この凹部の中心にスペアタイヤを固定する固定部を設け、凹部にスペアタイヤを収納したときに、スペアタイヤの下部位置で且つフロアパネルに凹部の水抜きをする水抜き孔を設けたものである。
【0005】
このような車体フロア構造では、通常、水抜き孔には雨水等の侵入を防止するために、室内側から蓋を嵌め込むことが多い。この場合に、水抜き孔の上部にはスペアタイヤがあるため、このスペアタイヤを凹部から取り外さないと水抜きができない。
【0006】
近年、ガソリンエンジンと電気モータとを組合わせたハイブリッド車が注目を集めている。このようなハイブリッド車では、バッテリ、インバータ、DC−DCコンバータや冷却ファンなどが一つの筐体に納められ、自己診断機能などを有するハイブリッド車両用電源装置が搭載される。さらに、このハイブリッド車両用電源装置は、後部シートの背もたれ部に配置されたり、車体フロアに配置されることが多い。
【0007】
ハイブリッド車両用電源装置の取り外しは困難であり、車体フロアにハイブリッド車両用電源装置が配置される場合に、上記の車体フロア構造では、ハイブリッド車両用電源装置を取り外さないと水抜きができない。従って、車両のメンテナンス性の低下を招くことになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、水抜きを十分に行うことができ、車体フロアのシール性を十分に確保することができるとともに、メンテナンス作業の作業性の向上を図ることができる車体フロア構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、平坦な車体のフロアパネルに物品を収納する凹部を設け、この凹部に車室内と車室外とを貫通させる貫通孔を設け、この貫通孔に車室内側からシールナットを固定し、このシールナットに車室外からボルトを締結することを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、シールナットが、環状突起を有し、フロアパネルにプロジェクション溶接にて固定され、車体組み付け部品を締結可能にしたことを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、凹部が、一つの筐体に電源供給部品を一体的に納めたハイブリッド車両用電源装置を収納するものであり、このハイブリッド車両用電源装置の下部位置にシールナットが配置されたことを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、シールナットの高さ分の段差部を、車室内から車室外に向けて凹部内に設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明では、車体フロア構造が、フロアパネルに物品を収納する凹部と、この凹部に車室内と車室外とを貫通させる貫通孔と、この貫通孔に車室内側から固定されるシールナットと、このシールナットに車室外から締結するボルトとから構成される。
貫通孔に且つ車室内側からシールナットを固定し、このシールナットに車室外からボルトを締結したので、物品を収納する凹部に、スペアタイヤやハイブリッド車両用電源装置などを収納する場合に、これらの物品を取り外さなくても、ボルトを車室外から外すことで、フロアパネルの凹部の水抜きをすることができる。この結果、フロアパネル(車体フロア)のシール性を十分に確保することができるとともに、フロアパネル廻りのメンテナンス性の向上を図ることができる。
【0014】
請求項2に係る発明では、シールナットが、フロアパネルにプロジェクション溶接にて固定されたので、フロアパネルとシールナットのシール性を十分に確保することができる。また、フロアパネルとシールナットとを同時に挟み込み、電流を流すだけなので、締結作業の作業性向上を図ることができる。さらに、シールナットの環状突起がフロアパネルに一体的に接合されるので、十分な取付強度を有し、バッフルなどの車体組み付け部品(他部品)を同時に締結することができ、部品点数の低減を図ることができる。
【0015】
請求項3に係る発明では、ハイブリッド車両用電源装置は、バッテリ、インバータ、DC−DCコンバータなどを一つの筐体に納めたものであり、ハイブリッド車両用電源装置の取り外しは困難なので、凹部に収納する物品がハイブリッド車両用電源装置のときには特に有効である。すなわち、ハイブリッド車両用電源装置の下部位置に前記シールナットが配置されたので、メンテナンス作業の作業性の向上を図ることができる。
【0016】
請求項4に係る発明では、シールナットの高さ分の段差部を、車室内から車室外に向けて凹部内に設けたので、凹部の水抜きを十分に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。また、図中Frは車体前方、Rrは車体後方、Lは車体左側、Rは車体右側を示す。
図1は本発明に係る車体フロア構造の斜視図であり、図2は本発明に係る車体フロア構造のハイブリッド車両用電源装置の斜視図であり、図3は本発明に係る車体フロア構造のハイブリッド車両用電源装置の背面断面図であり、図4は本発明に係る車体フロア構造の凹部の底面からの斜視図であり、図5は図4の5−5線断面図である。
【0018】
図1、図4及び図5に示されたように、車体フロア構造は、車体前後方向に延ばされた左右のリヤフレーム12,12と、これらのリヤフレーム12,12の間に設けられたフロアパネル(車体フロア)13と、このフロアパネル13に設けられた凹部(収納凹部)14と、この凹部14に収納されるハイブリッド車両用電源装置15と、このハイブリッド車両用電源装置15の上部に設けられる保持アーム16と、この保持アーム16に支持されるスペアタイヤ17と、凹部14に開けた貫通孔31と、この貫通孔31にプロジェクション溶接したシールナット32と、このシールナット32にねじ込んだボルト(水抜き用ボルト)33とから構成される。
なお、ハイブリッド車両用電源装置15及びスペアタイヤ17は、凹部14に収納される物品の一例である。
【0019】
図2及び図3に示されるように、ハイブリッド車両用電源装置15は、電源を蓄えるバッテリ35と、電源を高周波に換えて高出力から低出力まで出力を制御するインバータ36と、直流電圧から直流電圧に変換するDC−DCコンバータ37と、これらのバッテリ35、インバータ36、DC−DCコンバータ37などの電源供給部品を納める筐体38とを主要構成とするユニットである。
【0020】
筐体38は、左右のリヤフレーム12,12に取付けられ、筐体38の骨組みをなす前フレーム41及び後フレーム42と、底面及び両側面を形成した本体部43と、この本体部43の前方に設けられる前壁(不図示)と、本体部43の後方に設けられる後壁45と、これらの前壁、後壁45及び本体部43の上面を覆う上面部材46とから構成される。
【0021】
前フレーム41は、角パイプで形成された部材であり、左右のリヤフレーム12,12にボルト48,48で取付ける取付部49,49が形成される。また、保持アーム16を支持する部材でもある。
後フレーム42は、角パイプで形成された部材であり、左右のリヤフレーム12,12にボルト51,51で取付ける取付部52,52が形成される。
【0022】
図1に示されたように、保持アーム16は、平面視略T字型の部材であり、収納凹部14の上方にて左右のリヤフレーム12,12に渡した横部材55と、この横部材55の中央に後端が取付けられるとともに、前端が車体前方に延ばされてフロアパネル13側の前フレーム41に支持される縦部材56とからなる。
【0023】
横部材55は、角パイプで形成された部材であり、左右のリヤフレーム12,12にボルト57,57で取付ける取付部58,58が形成され、スペアタイヤ17を受ける左右のタイヤ当て面59,59が形成された部材である。
【0024】
縦部材56は、プレス板材で形成された部材であり、後端が横部材55の略中央に溶接され、前端が取付ねじで前フレーム41に取付けられる。さらに、前部にスペアタイヤ17のタイヤ当て面61が一体的に形成され、中間部にスペアタイヤ17を取付ボルト(不図示)で固定する固定用ねじ部62が成形される。
【0025】
図1に示されたように、車体フロア構造では、凹部(収納凹部)14の底14aにハイブリッド車両用電源装置15が収納され、このハイブリッド車両用電源装置15の上にスペアタイヤ17が収納される。
【0026】
図4及び図5に示されたように、凹部(収納凹部)14は、フロアパネル13下の凹部14に排気管(不図示)からの熱を断熱するバッフル(断熱材)64がボルト(水抜き用ボルト)33で取付けられ、バッフル64を支持するブラケット65が延ばされている。 すなわち、ボルト33は、凹部14の水抜き用のボルトであり、バッフル64の取付用のボルトを兼ねるものである。
【0027】
詳細には、バッフル64は、車体組み付け部品であり、ボルト33で凹部14に固定され、フロアパネル13にボルト66で固定され、ブラケット65にボルト67で固定される。また、バッフル64は、取付用ボルトを貫通する孔69が設けられている。
【0028】
図5ではボルト(水抜き用ボルト)33が取り外された状態が示され、凹部(収納凹部)14は、ボルト33を貫通する貫通孔31が設けられ、この貫通孔31に凹部14の内側からシールナット32がプロジェクション溶接される。
【0029】
プロジェクション溶接とは、一般的に、溶接継手部に大電流を流し、ここに発生する抵抗熱によって加熱し、圧力を加えて行う抵抗溶接の一種で、母材の溶接箇所にプロジェクション(突起部)を設けて、この突起部分に電流を集中して流し、同時に加圧接合する抵抗溶接である。
【0030】
図6は本発明に係る車体フロア構造の凹部に溶接されるシールナットの斜視図である。
シールナット32は、一方の平坦面71に形成された3箇所の凸部72と、これらの凸部72を繋ぐ円弧上の3箇所の突起部73とが形成される。凸部72及び突起部73で環状突起74が構成され、この環状突起74がプロジェクション溶接によって加熱され、凹部14内面に接合される。
【0031】
すなわち、車体フロア構造では、フロアパネル13に物品15,17を収納する凹部14と、この凹部14に車室内と車室外とを貫通させる貫通孔31と、この貫通孔31に車室内側から固定されるシールナット32と、このシールナット32に車室外から締結するボルト(水抜き用ボルト)33とから構成される。
【0032】
貫通孔31に且つ車室内側からシールナット32を固定し、このシールナット32に車室外からボルト(水抜き用ボルト)33を締結したので、物品を収納する凹部14に、スペアタイヤ17やハイブリッド車両用電源装置15などを収納する場合に、これらの物品15,17を取り外さなくても、ボルト(水抜き用ボルト)33を車室外から外すことで、フロアパネル13の凹部14の水抜きをすることができる。この結果、フロアパネル(車体フロア)13廻りのメンテナンス性の向上を図ることができる。
【0033】
車体フロア構造では、シールナット32が、フロアパネル13にプロジェクション溶接にて固定されたので、フロアパネル13とシールナット32のシール性を十分に確保することができる。また、フロアパネル13とシールナット32とを同時に挟み込み、電流を流すだけなので、締結作業の作業性向上を図ることができる。さらに、シールナット32の環状突起74がフロアパネル13に一体的に接合されるので、十分な取付強度を有し、バッフル64などの車体組み付け部品(他部品)を同時に締結することができ、部品点数の低減を図ることができる。
【0034】
ハイブリッド車両用電源装置15は、バッテリ35、インバータ36、DC−DCコンバータ37などを一つの筐体38に納めたものであり、ハイブリッド車両用電源装置15の取り外しは困難なので、凹部14に収納する物品がハイブリッド車両用電源装置15のときには特に有効である。すなわち、車体フロア構造では、ハイブリッド車両用電源装置15の下部位置に前記シールナット32が配置されたので、メンテナンス作業の作業性の向上を図ることができる。
【0035】
図7は本発明に係る第2実施例の車体フロア構造の断面図である。
第2実施例の車体フロア構造は、平坦な車体のフロアパネル83に物品を収納する凹部84を設け、この凹部84に車室内と車室外とを貫通させる貫通孔81を設け、この貫通孔81に車室内側からシールナット32を固定し、このシールナット32に車室外からボルト(水抜き用ボルト)33を締結するものであり、シールナット32の略高さ分の段差部85を、車室内から車室外に向けて凹部84内に設けられる。
【0036】
車体フロア構造では、シールナット32の高さ分の段差部85を、車室内から車室外に向けて凹部84内に設けたので、凹部84の水抜きを十分に行うことができる。
【0037】
尚、本発明に係る車体フロア構造は、図5に示すように、車体フロア構造では、貫通孔31に車室内側からシールナット32を固定したが、これに限るものではなく、車室外側からシールナット32を固定したものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る車体フロア構造は、セダンやワゴンなどの乗用車に採用するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る車体フロア構造の斜視図である。
【図2】本発明に係る車体フロア構造のハイブリッド車両用電源装置の斜視図である。
【図3】本発明に係る車体フロア構造のハイブリッド車両用電源装置の背面断面図である。
【図4】本発明に係る車体フロア構造の凹部の底面からの斜視図である。
【図5】図4の5−5線断面図である。
【図6】本発明に係る車体フロア構造の凹部に溶接されるシールナットの斜視図である。
【図7】本発明に係る第2実施例の車体フロア構造の断面図である。
【符号の説明】
【0040】
13…フロアパネル、14,84…凹部、15…ハイブリッド車両用電源装置、31…貫通孔、32…シールナット、33…ボルト(水抜き用ボルト)、35…電源供給部品(バッテリ)、36…電源供給部品(インバータ)、37…電源供給部品(DC−DCコンバータ)、38…筐体、64…車体組み付け部品(バッフル)、74…環状突起、85…段差部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦な車体のフロアパネルに物品を収納する凹部を設け、この凹部に車室内と車室外とを貫通させる貫通孔を設け、この貫通孔に前記車室内側からシールナットを固定し、このシールナットに車室外からボルトを締結することを特徴とする車体フロア構造。
【請求項2】
前記シールナットは、環状突起を有し、前記フロアパネルにプロジェクション溶接にて固定され、車体組み付け部品を締結可能にしたことを特徴とする請求項1記載の車体フロア構造。
【請求項3】
前記凹部は、一つの筐体に電源供給部品を一体的に納めたハイブリッド車両用電源装置を収納するものであり、このハイブリッド車両用電源装置の下部位置に前記シールナットが配置されたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車体フロア構造。
【請求項4】
前記シールナットの高さ分の段差部を、車室内から車室外に向けて前記凹部内に設けたことを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3記載の車体フロア構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−13058(P2010−13058A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177022(P2008−177022)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】