車載用アクチュエータシステム
【課題】運転者に違和感を覚えさせることなく、操作性を悪化させたりすることなく、出力機構のアクチュエータが制御できないような失陥が発生しても、電気的・機械的増幅なしの人力により車両運動を操作する必要をなくして、アクチュエータの小型化と軽量化を図ること。
【解決手段】第一可動部を動作させる第一アクチュエータと、第二可動部を動作させるものであって前記第一アクチュエータとは独立して制御される第二アクチュエータと、前記第一可動部と前記第一可動部の動作が弾性体を介して前記第二可動部の動作に作用すると共に前記第二可動部の動作が弾性体を介して前記第一可動部の動作に作用するように構成された機構部と、前記第一可動部又は前記第二可動部から前記弾性体を介して他方の可動部に伝達される力及び/又は位置の変化を、相殺、抑制又は増幅するように他方のアクチュエータを制御する制御装置と、を有する車載用アクチュエータシステム。
【解決手段】第一可動部を動作させる第一アクチュエータと、第二可動部を動作させるものであって前記第一アクチュエータとは独立して制御される第二アクチュエータと、前記第一可動部と前記第一可動部の動作が弾性体を介して前記第二可動部の動作に作用すると共に前記第二可動部の動作が弾性体を介して前記第一可動部の動作に作用するように構成された機構部と、前記第一可動部又は前記第二可動部から前記弾性体を介して他方の可動部に伝達される力及び/又は位置の変化を、相殺、抑制又は増幅するように他方のアクチュエータを制御する制御装置と、を有する車載用アクチュエータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立して制御可能な可動部を二つ備え、この二つの可動部が弾性体を介してつながっている車載用アクチュエータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子技術と制御技術の発展に伴い、駆動、制動、操舵等の車両運動を決定付ける操作に対し、車両側の出力機構と運転者側の入力機構とを独立に制御できるバイワイヤ技術が脚光を浴びている。このバイワイヤ技術によれば、運転者の操作と車両運動の関係を電子的に制御することにより、運転者の受けるフィーリングや操作のしやすさ、運転による疲れにくさ等を向上することができる。また、運転者の意図とは独立に、制動をかけること、車両を一定速度で走行させること、先行車との車間を一定に保持すること、車線に沿った走行を行うこと等の自動操作が可能である。さらに、回生等の従来なかった機能に対しても、従来の出力機構の出力を制御して協調していくことが可能である。
【0003】
ところで、バイワイヤにおいて運転者側の入力機構と車両側の出力機構とが機械的に接続していない場合、電気的な失陥が発生すると、運転者の操作が車両運動に伝わらなくなる可能性があった。そのため、入力機構と出力機構を弾性体で接続し、出力機構にアクチュエータを備えることにより、入力機構と出力機構を機械的に接続していながら、弾性体の伸縮の範囲内で出力機構を自由に制御する技術が検討され、例えば特許文献1により開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−281992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の手法では、出力機構の動作は弾性体を介して入力機構にも波及し、運転者の操作に影響が出るため、運転者に違和感を覚えさせたり、操作性を悪化させたりする可能性があった。また、出力機構のアクチュエータが制御できないような失陥が起こった場合、運転者は、電気的又は機械的増幅手段が失われて、単に人力によって車両運動を操作しなければならなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明の車載用アクチュエータシステムは、第一可動部を動作させる第一アクチュエータと、第二可動部を動作させるものであって前記第一アクチュエータとは独立して制御される第二アクチュエータと、前記第一可動部と前記第一可動部の動作が弾性体を介して前記第二可動部の動作に作用すると共に前記第二可動部の動作が弾性体を介して前記第一可動部の動作に作用するように構成された機構部と、前記第一可動部又は前記第二可動部から前記弾性体を介して他方の可動部に伝達される力及び/又は位置の変化を、相殺、抑制又は増幅するように他方のアクチュエータを制御する制御装置と、を有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の車載用アクチュエータシステムは、前記第一可動部が主として制動力を発生させ、前記第二可動部が主として反力を発生させるブレーキシステムであることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の車載用アクチュエータシステムは、前記制御装置は、前記第二可動部の操作量に基づいて前記第一可動部に制動力を発生させるか又は前記第二可動部の操作量を増幅するように前記第一アクチュエータ及び前記第二アクチュエータを制御することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の車載用アクチュエータシステムは、前記制御装置は前記第一可動部の動作と独立して前記第二可動部の反力又は位置を任意の関係で実現するように前記第一アクチュエータ及び前記第二アクチュエータを制御することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の車載用アクチュエータシステムは、前記制御装置は、前記第一可動部と前記第二可動部を独立して動作させるように前記第一アクチュエータ及び前記第二アクチュエータを制御することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の車載用アクチュエータシステムは、前記第一アクチュエータ及び前記第二アクチュエータのどちらかの制御が不能になった場合、前記第一可動部及び前記第二可動部の一方の動作を継続し、他方の動作を前記一方の動作に従属させることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の車載用アクチュエータシステムは、前記第一アクチュエータ及び第二アクチュエータのどちらかの制御が不能になった場合、第一可動部の動作を継続し、第二可動部の動作が第一可動部の動作に従属させることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の車載用アクチュエータシステムは、前記制御装置は、前記第一アクチュエータを制御する第一制御装置及び前記第二アクチュエータを制御する第二制御装置に分かれて構成されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の車載用アクチュエータシステムは、電源系統は、前記第一アクチュエータに電力を供給する第一電源系統と、第二アクチュエータに電力を供給する第二電源系統とが分かれて構成されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の車載用アクチュエータシステムは、電源系統は、前記第一アクチュエータに電力を供給する第一電源系統と、第二アクチュエータに電力を供給する第二電源系統とが分かれて構成され、前記第一制御装置は該第一電源系統を電源とし、前記第二制御装置は該第二電源系統を電源とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、運転者の操作と車両運動とを独立に電気的に制御することが可能であり、バイワイヤシステムと同等の効果を得ることができる。また、運転者側の入力機構と車両側の出力機構が機械的に接続しているので、電気的な増幅なしでも人力による車両運動への関与が可能となる。更に、アクチュエータを二つ備えた二重系を構成することにより、一方の系に電気的失陥が起こった場合でも他方の系により電気的な増幅を得ることが可能である。また、二つのアクチュエータを協調させて必要な力を発生させることにより、アクチュエータに小型で軽量なものを使用することが可能となり、コスト的にも有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0018】
本発明を適用した実施例の主な構成について、以下、図面に基づいて説明する。
図1は本発明によるシステムの模式図であり、4輪を備えた自動車の基本系統を示す。103は運転者が車両を運転するために操作する入力機構である。図1では、入力機構はペダルであるが、システムの構成内容により、ハンドルやレバーとしてもよい。自動車の4輪に対応して設けられた車両運動を実現するための出力機構131,141,151,161は、図1の実施例では制動装置のキャリパとなっているが、システム構成により、駆動装置や操舵装置としてもよい。
【0019】
アクチュエータシステム101は、入力機構103にペダル反力を発生させると共に、出力機構に制動力を発生させるために、配管107、108に対して油圧を発生させる。油圧装置121は、配管107、108の油圧を配管123、124、125、126に分配する。配管123、124、125、126に発生した油圧は、それぞれキャリパ131、141、151、161のピストン推力となり、摩擦材をロータ132、142、152、162に押し付けると、ロータは車輪と接続しているので、摩擦力により車両に制動力が発生する。
【0020】
アクチュエータシステム101は、アクチュエータ機構102を備え、このアクチュエータ機構102は第一アクチュエータ109と第二アクチュエータ110を備える。また、アクチュエータシステム101は、制御装置104を備え、この制御装置104は、第一アクチュエータ109と第二アクチュエータ110を制御する。図1では、制御装置104は第一制御装置105と第二制御装置106との分かれた構成となっているが、システムの構成により、制御装置104は一つの制御装置であってもよい。図1では、第一制御装置105は第一アクチュエータ109を制御し、第二制御装置106は第二アクチュエータ110を制御する。
【0021】
第一アクチュエータ109は、第一電源系統172から電力の供給を受け、第二アクチュエータ110は、第二電源系統182から電力の供給を受ける。図1に示すとおり、第一制御装置105は第一アクチュエータ109と同じ電源系統を電源とし、第二制御装置106は第二アクチュエータ110と同じ電源系統を電源とする。このように二重系とすることにより、制御装置とアクチュエータが二つずつ別々の電源系統に接続されていることにより、一方の電源系統が失陥した際でも、他方の電源系統によりアクチュエータを制御することができる。
【0022】
制御装置104が一つに構成されている場合でも、制御装置内部では、第一電源系統を電源とする部分と第二電源系統を電源とする部分が独立に存在し、それぞれの部分が電源系統を同じくするアクチュエータを制御する二重系に構成にしてもよい。また、図1では、アクチュエータ機構102と制御装置104とは別体構造となっているが、システムの構成により、アクチュエータ機構102と制御装置104は一体構造としてもよい。
【0023】
第一電源系統172には第一電源装置171が接続されており、アクチュエータシステム101に電力を供給する。また、第二電源系統182には第二電源装置181が接続されており、アクチュエータシステム101に電力を供給する。第一電源装置171と第二電源装置181は、例えばバッテリでもよいし、オルタネータや発電機であってもよい。さらに、異なる電圧からアクチュエータシステム101に必要な電圧に変換するDC-DCコンバータであってもよい。また、第一電源装置171と第二電源装置181は、これらの組み合わせであってもよい。第一電源装置171と第二電源装置181は、相互に独立してアクチュエータシステムに電力を供給可能であり、一方が失陥した場合でも、他方は影響を受けずに電力を継続して供給することが可能な構成となっている。
【0024】
図2は、図1のアクチュエータ機構102の構成の一例を示す模式図である。アクチュエータ機構は、第一可動部209と第二可動部210を備える。第一可動部209は第一アクチュエータ109に接続され、第二可動部210は第二アクチュエータ110に接続されている。第一可動部と第一アクチュエータの接続及び第二可動部と第二アクチュエータの接続は、それぞれ減速機や力の方向を変えるための機構を介してもよいし、直接接続されていてもよい。これらの接続における剛性は、非常に高いものが望ましく、弾性体としての特徴がないか無視できることが望ましい。
【0025】
図2に示された実施例では、アクチュエータ109,110はモータであるが、システムの構成によっては、ソレノイドによる直動アクチュエータ、可動部の動作を抑制することのできるブレーキアクチュエータであってもよい。アクチュエータがモータである場合、可動部の位置や速度はモータに取り付けられた回転センサから取得してもよい。回転センサは、ホール素子によるもの、光学によるエンコーダ又はレゾルバによるものでもよい。また、モータはDCブラシレスモータでもよい。モータがDCブラシレスモータである場合、モータをベクトル制御するための位相を検出するための回転センサと、可動部の位置あるいは速度を検出するためのセンサは共通でもよい。また、モータは、DCモータや誘導モータであってもよい。
【0026】
また、図2に示された実施例では、第一可動部209と第一アクチュエータ109は、第一回転直動変換機構203で接続され、第二可動部210と第二アクチュエータ110は、第二回転直動変換機構204で接続されている。第一回転直動変換機構203は、第一アクチュエータの回転運動又は回転力を、第一可動部の直動運動又は直動力に変換する機構である。第二回転直動変換機構204は、第二アクチュエータ110の回転運動又は回転力を、第二可動部の直動運動又は直動力に変換する機構である。第一回転直動変換機構と第二回転直動変換機構は、ボールねじ、台形ねじ、ウォームねじを使用してもよい。
【0027】
第一可動部209は出力機構205に接続されるが、図2に示された実施例では、出力機構はマスタシリンダ205である。マスタシリンダ205は、第一可動部209の直動力を油圧に変換し、配管107、108を介して車両に制動力を発生させる。第二可動部210は入力機構に接続されるが、図2では、入力機構はペダル103である。ペダル103は、第二可動部210の直動力をペダル反力として運転者に操作フィーリングを与える。第一可動部209と第二可動部210は、弾性体201により互いに接続されている。
【0028】
第一アクチュエータ109は、第一可動部209の力、位置、速度を制御することができると同様に、出力機構であるマスタシリンダ205や弾性体201から第一可動部209に与えられる力は、第一アクチュエータ109に伝達される。また、第二アクチュエータ110は第二可動部210の力、位置、速度を制御することができると同様に、入力機構であるペダル103や弾性体201から第二可動部210に与えられる力は、第二アクチュエータ110に伝達される。また、第一可動部209にかかる力は、弾性体201を介して第二可動部210に伝達されると同様に、第二可動部210にかかる力は、弾性体201を介して第一可動部209に伝達される。
【0029】
弾性体201は伸縮することができるため、弾性体の位置や速度は、アクチュエータを制御することによって任意に変更することが可能である。第一可動部209から出力機構であるマスタシリンダ205に伝達される力は、第一アクチュエータ109を制御することによって任意に調整とすることが可能である。さらに、第二可動部210から入力機構あるいはペダル103に伝達される力も第二アクチュエータ110を制御することによって任意に調整することが可能である。
【0030】
図3は、図2における第二可動部と第二アクチュエータの変形例を示す模式図である。可動部224には摩擦面222が備えられており、アクチュエータ221にも摩擦面223が備えられている。摩擦面222と摩擦面223の接触力に基づいて可動部224には摩擦力が働く。摩擦面222と摩擦面223の接触力は、アクチュエータ221で任意に制御することができるので、可動部224から出力機構又は入力機構に伝達する力を任意に制御することができる。アクチュエータ221は自発的に可動部224を運動させることはできないが、可動部224が出力機構、入力機構又は弾性体201から力を受けて動かされている際には、アクチュエータ221を制御することによって可動部224の位置や速度を制御することが可能である。また、アクチュエータ221を用いて可動部224の位置や速度を制御する場合、可動部224の位置や速度を検出するためのセンサ225を備えていてもよい。センサ225は磁気によるものでもよいし、抵抗によるポテンショメータでもよい。
【0031】
図3では、以上のとおり、図2における第二可動部と第二アクチュエータに適用した場合を示したが、図2における第一可動部と第一アクチュエータに同様に適用することも可能である。このようにして、図2に示された第一アクチュエータ又は第二アクチュエータを、図3に示されたような可動部とアクチュエータにより構成することが可能であり、アクチュエータによる消費電力を小さくして、大きな力を制御することができる。
【0032】
図4は、図2における第二可動部と第二アクチュエータの別の変形例を示す模式図である。アクチュエータ231はソレノイドである。可動部234には磁性体が貼り付けてあり、アクチュエータ231に通電する電流を制御することによって、可動部234の力、位置、速度を任意に調整することができる。また、図4に示す変形例では、可動部234の位置や速度を検出するためのセンサ235を備えてもよい。センサ235は、磁気によるものでもよいし、抵抗によるポテンショメータでもよい。
【0033】
図4では、以上のとおり、図2における第二可動部と第二アクチュエータに適用した場合を示したが、図2における第一可動部と第一アクチュエータに同様に適用することも可能である。このようにして、図2に示された第一アクチュエータ又は第二アクチュエータを、図4に示されたような可動部とソレノイドにより構成することが可能であり、アクチュエータの構成を簡素化して、低コスト化、小型化、軽量化が可能であるし、アクチュエータに流れる電流を制御するための制御装置の構成も簡素化することができる。
【0034】
図5は、図2における第二可動部と第二アクチュエータの更に別の変形例を示す模式図である。アクチュエータ241は、可動部244を回転中心としたDCブラシレスモータである。アクチュエータ241は、コイルからなる固定子242を備えて、コイル電流を制御することで磁界を発生させる。回転子243は、磁性体を持っているので、固定子242で発生させた磁界によって力を受けて回転したりトルクを発生したりする。回転子243の回転は、ボールねじ246によって、直動方向に変換され可動部244を動作させる。回転子243の回転は、回転センサ245によって検出される。回転センサ245で検出された情報は、可動部244の位置や速度として利用してもよい。制御装置は、アクチュエータ241を制御することにより、可動部244の力、位置、速度を任意に調整することができる。
【0035】
図5に示された可動部とアクチュエータにより、図1、図2に示されたアクチュエータ機構を構成することが可能である。図5に示すように、可動部を回転中心とするアクチュエータの構成によれば、アクチュエータ機構を可動部を中心に対称な構成とすることができるので、体積や重量の面で有利である。また、回転を減速するための減速機が不要となるので、減速機による音が発生せず、力や仕事の伝達効率も高くすることができる。
【0036】
制御装置104は、第一アクチュエータ109を制御することにより、好適な制動力を発生させることができる。
【0037】
図6は、制御装置104が第一アクチュエータ109を制御して発生させる制動力の一例を示す。図6(a)において、曲線251はペダル位置に対する制動力の関係を示している。制動力はペダル位置が大きくなればなるほど大きな値となる。また、ペダル位置が小さい領域253ではペダル位置に対する制動力の傾きが小さくペダル位置が大きい領域254ではペダル位置に対する制動力の傾きが大きい。ペダル位置に応じて制動力の傾きを変えることにより、踏み込みが小さいときはペダル位置の操作により細かい制動力を変化させやすく、踏み込みが大きいときは少しのペダル操作でも大きな制動力を発生させて緊急時のブレーキ対応とすることができる。
【0038】
また、図6(b)において、曲線261はペダル反力に対する制動力の関係を示す。一般的にペダル反力は運転者のペダル踏力と同じ大きさであるから、図6(b)の横軸は踏力と置き換えてもよい。制動力はペダル反力が大きくなればなるほど大きな値となる。また、ペダル反力が小さい領域263では、ペダル反力に対する制動力の傾きが大きく、ペダル反力が大きい領域264ではペダル反力に対する制動力の傾きが小さい。ペダル反力に応じて制動力の傾きを変えることにより、小さな力でも大きな制動力を得られるようにする。
【0039】
また、制動装置104は図6によらず、好適な車両運動を実現するために車両内外の情報に基づいて入力機構と独立に制動力を発生させてもよい。
【0040】
制御装置104は、第二アクチュエータ110を制御することにより、好適なペダル反力を発生させてもよい。ここで、ペダル反力を剛性反力と粘性反力に大別し、数式1のように表してもよい。
(数式1) ペダル反力 = 剛性反力 + 粘性反力
【0041】
ここで、剛性反力は、ペダル位置に応じて大きさが変わる反力である。剛性反力は、ペダル位置が大きくなればなるほど大きな値となる。すなわち、同じペダル位置に対する剛性反力が大きい場合は操作時に堅いフィーリングが得られ、同じペダル位置に対する剛性反力が小さい場合には柔らかいフィーリングが得られる。
【0042】
粘性反力は、ペダル速度に応じて大きさが変わる反力である。粘性反力は、ペダル速度が大きくなればなるほど大きな値となる。同じペダル速度に対する粘性反力が大きい場合は操作時にねばねばしたフィーリングが得られ、同じペダル速度に対する粘性反力が小さい場合にはバネ感の強いフィーリングが得られる。
【0043】
ここで、制御装置104は、第二アクチュエータ110によって、図7に示すようなペダル反力を発生させてもよい。図7(a)において、曲線301はペダル速度がほぼ0の場合のペダル反力を示し、曲線302と曲線303は、ペダル速度が異なる場合のペダル反力を示す。図7(b)において、ペダル速度311は極めて小さい速度であり、ペダル速度311の時のペダル反力が301である。曲線301の与える反力は、数式1における剛性反力にほぼ相当する。剛性反力はペダル位置にのみ依存して大きくなる。また、ペダル速度が大きい場合は、粘性反力を大きくするため、ペダル反力も大きくなる。ここで、曲線301が剛性反力にほぼ相当するとした場合、ペダル速度が曲線312、更に曲線313が示すように大きくなると、ペダル反力は、それぞれ曲線302、更に曲線303が示すように、ペダル速度に応じて大きくなる。ここで、ペダル反力301に対して、曲線302、更に曲線303が示すようにペダル反力が大きくなる場合、その差分は、数式1における粘性反力に相当する。
【0044】
粘性反力は図7(c)、(d)が示すように、ペダル速度とペダル位置に対して変化する。図7(c)は、ペダル速度と粘性反力の関係を示しており、粘性反力321はペダル位置304での粘性反力の一例である。また、粘性反力322、323は、それぞれペダル位置305、306での粘性反力の一例を示す。また、図7(d)は、ペダル位置と粘性反力の関係を示している。粘性反力331は、ペダル速度が311の場合であり、小さいペダル反力となる。また、ペダル速度が312、313の場合の粘性反力はそれぞれ、332、333となる。
【0045】
制御装置は、制動力やペダル反力を発生させるために必要なトルクをアクチュエータ機構に発生させる。アクチュエータ機構にトルクを発生させるためには、アクチュエータに電流を流す必要がある。そのため、制御装置は、アクチュエータに流れる電流を制御する。
【0046】
図8は、制御装置の電力変換回路の構成の一例を示す。図8において、アクチュエータ401は電源系統402との間に電力変換回路347を備える。アクチュエータが三相モータである場合、各三相モータにつき電力変換回路347は最低6個のスイッチング素子332,333,334,335,336,337を有し、各スイッチング素子は、フライホイールダイオード338,339,340,341,342,343を備える。スイッチング素子は、パワートランジスタ、MOS FET又はIGBT等でもよい。一般的に、アクチュエータの定格容量が数百W以下であればMOS FETが、数kW以上であればIGBTが用いられる。また、電力変換回路347は、電流センサ344,345,346を備えて、三相モータに流れる電流を検出することができる。電流センサ346はなくてもよい。
【0047】
演算処理装置350は、回転センサ348によって検出した回転角度、回転角速度から、アクチュエータ(三相モータ)の位相、可動部の位置、速度を計算することができる。また、可動部にかかる力349を取得するようにしても。演算処理装置350は、電流センサによって検出した電流値と、可動部の位置、速度、力に基づいて、アクチュエータに流れる電流を制御する。インタフェースIC331は、演算処理装置350の出力した電気信号を変換し、スイッチング素子を駆動する信号に変換する。
【0048】
図9は、アクチュエータが直流ブラシ付きモータである場合における制御装置の電力変換回路の構成の一例を示す。図9において、電力変換回路361はスイッチング素子を最低4個備えており、各スイッチング素子はフリーホイールダイオードを備えている。
【0049】
一般的なアクチュエータの場合、電力変換回路は、電力系統402を電力の供給源として、アクチュエータに電流を流すことによりトルクを発生させる。電力系統402が電力の供給源となる場合、上アーム素子(図8の実施例ではスイッチング素子332,333,334、図9の実施例ではスイッチング素子362,363)のいずれかから電流が電動アクチュエータに流れる。電動アクチュエータを通過した電流は、下アーム素子(図8の実施例ではスイッチング素子335,336,337、図9の実施例ではスイッチング素子364,365)のどれかを通過してGNDへ流れる。電力系統402が電力の供給源となる場合、電流はスイッチング素子がONの時にアクチュエータに流れるため、制御装置は、上アーム素子と下アーム素子のON(駆動)タイミングを好適に制御することにより、アクチュエータに流れる電流を制御し、必要なトルクを発生させることができる。
【0050】
以上により、本実施例の第一可動部と第二可動部を独立に制御することが可能である。そのため、例えば、第一アクチュエータの制御によって、第一可動部が出力機構に発生させた力や第一可動部の位置や速度の影響が弾性体を介して第二可動部に伝達されても、第二可動部を第二アクチュエータが制御することにより、第一可動部から伝達された影響を相殺、抑制することが可能となる。また、例えば、第二アクチュエータの制御によって、第二可動部が入力機構に発生させた力や第二可動部の位置や速度の影響が弾性体を介して第一可動部に伝達されても、第一可動部を第一アクチュエータが制御することにより、第二可動部から伝達された影響を相殺、抑制することが可能となる。
【0051】
さらに、第二可動部が入力機構から操作された場合、第二可動部が操作に対する反力を生成するとともに、第一可動部は入力機構への操作に応じた出力機構への出力を生成することが可能となる。その際に、制御装置は、入力機構又は第二可動部に加えられた操作力又は位置変化を増幅して、第一可動部又は出力機構に出力されるような制御を行なうことが可能である。
【0052】
さらに、第一アクチュエータと第二アクチュエータは、電源系統や制御装置が別々であるので、一方の電源系統、制御装置又はアクチュエータ自体が失陥した場合、他方のアクチュエータにより可動部を制御することが可能である。一方の可動部のみが制御可能な場合でも、他方の可動部は弾性体を介して接続されているため、一つのアクチュエータで両方の可動部を動作させることが可能である。それゆえ、一方の可動部が制御不可能な場合でも、制御可能なアクチュエータによって、より重要な可動部の役割を受け持つように制御を切り替える。
【0053】
一般的には出力機構の機能を継続させることが重要であるので、制御装置は、例えば図10の制御パターンのマトリックス表が示すように、制御する可動部を切り替えるようにするのがよい。両方のアクチュエータが制御可能であれば、可動部は各々独立にアクチュエータで制御される。第一アクチュエータのみが制御可能である場合には、第一アクチュエータは第一可動部を制御し、第二可動部は第一可動部の動作が弾性体を介して伝達された結果の動作を行う。すなわち、第二可動部の動作は第一可動部の動作に従属する。
【0054】
また、第二アクチュエータのみが制御可能である場合、第二アクチュエータが第一可動部を制御することとなる。第二アクチュエータは第二可動部と接続しているので、第一可動部の動作は弾性体を介して第二可動部から伝達されたものとなる。第二可動部は、弾性体を介して伝達した第一可動部の動作について、出力機構が必要な出力を生成できるように動作するため、第二可動部から入力機構への影響は考慮されない。すなわち、この場合にも第二可動部の動作は第一可動部の動作に従属する。
【0055】
また、両方のアクチュエータが制御可能である場合、第一アクチュエータが第一可動部の制御を行い、第二アクチュエータが第二可動部の制御を行えば、第一可動部と第二可動部を独立に制御することが可能となる。しかし、実際には弾性体を介した力の伝達を相互に受けており、各アクチュエータは、弾性体を介して他方から伝達される力を抑制又は利用しながら制御を行っていることになる。そうすると、アクチュエータ機構全体としてみたときは、第二アクチュエータも第一可動部の力を制御し、第一アクチュエータも第二可動部の力を制御するということができる。このことは、お互いに力を協調させながら制御していることに相当する。そのため、二つのアクチュエータが制御可能な場合に一つの可動部に出力可能な力は、一つのアクチュエータのみが制御可能な場合よりも大きくなる。二つのアクチュエータでアクチュエータ機構を構成することにより、一つひとつのアクチュエータで必要とされる力を小さく見積もることができるので、より小型、軽量なアクチュエータを使用することが可能となる。
【0056】
以上によれば、運転者の操作と車両運動を独立して電気的に制御することが可能であり、バイワイヤシステムと同等の効果を得ることができる。また、運転者側の入力機構と車両側の出力機構が機械的に接続しているので、電気的な増幅なしでも人力による車両運動への関与が可能である。また、アクチュエータを二つ持つことにより二重系を構成し、一方の系に電気的失陥が起こった場合でも他方の系により電気的な増幅が可能である。また、二つのアクチュエータを協調させることにより必要な力を発生させるため一つのアクチュエータは小型、軽量なものを使用することが可能となり、コストについても有利となる。
【実施例2】
【0057】
図11は、本発明に係るアクチュエータ機構についての実施例2の構成を示す模式図である。ペダル604は、減速機611を介してモータ602と接続されている。運転者はペダル端612を踏むことによって車両運動を操作しようとするとともに、ペダル端612からペダル反力を受ける。ペダル端には踏力を計測するセンサを備えるようにしてもよい。インプットロッド605は、ペダル612によりマスタシリンダ631の中に押し込まれる。インプットロッドにはロッド力を計測するセンサを備えるようにしてもよい。マスタシリンダ631は、内部がシリンダ632とシリンダ633に分かれており、その内部はブレーキ油で満たされている。インプットロッド605とプライマリピストン603が押し込まれると、シリンダ633の油圧が高まると同時にシリンダ632の油圧も高まり、油圧が配管107,108を介してキャリパを動作させて制動力を発生する。
【0058】
回転子622は磁性体を含んでいるので、固定子621が発生する磁界により回転したりトルクを発生したりする。回転子622の回転やトルクは、ボールねじ623を介してプライマリピストン603に伝達されることにより、プライマリピストンの直動運動や直動力に変換される。回転子622の回転は回転センサ624により検出され、回転センサ624で検出した情報は、固定子621に流す電流の制御やプライマリピストンの位置や速度を制御するために用いられる。ここで、固定子621と回転子622を含むアクチュエータ601は、主として出力機構に出力を発生させる第一アクチュエータであり、プライマリピストン603は第一可動部である。また、モータ602は入力機構の反力を生成する第二アクチュエータであり、ペダル604とインプットロッド605が第二可動部である。第一可動部と第二可動部は、オフセットバネ625,626で接続している。オフセットバネ625,626は弾性体である。また、第一可動部と第二可動部は、マスタシリンダ631内部で、ブレーキ油を介しても接続されている。マスタシリンダからの油圧は断面積に比例した力として、プライマリピストンとインプットロッドに伝達される。したがって、実施例2ではインプットロッドにかかる力が直接マスタシリンダに伝達され、第二可動部が出力機構と直接に接続している構成となっているが、オフセットバネ625,626の伸縮によって、第一可動部と第二可動部がそれぞれ自由度を持ちながら独立して動作可能であるため、実施例1と同様の特徴を有し、実施例1と同様の効果を奏するものである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、主として自動車等の車両のブレーキ装置、操舵装置、駆動装置等のペダル、ハンドル、操作レバーの運転者側の入力機構と車両側の出力機構に利用するのであるが、その他、車両以外の操作者側の入力機構と被操作物側の出力機構にも幅広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明によるシステムの模式図である。
【図2】図1のアクチュエータ機構の構成の一例を示す模式図である。
【図3】図2における第二可動部と第二アクチュエータの変形例を示す模式図である。
【図4】図2における第二可動部と第二アクチュエータの別の変形例を示す模式図である。
【図5】図2における第二可動部と第二アクチュエータの更に別の変形例を示す模式図である。
【図6】制御装置104が第一アクチュエータ109を制御して発生させる制動力の一例を示す図である。
【図7】ペダル反力の一例を示す図である。
【図8】制御装置の電力変換回路の構成の一例を示す図である。
【図9】アクチュエータが直流ブラシ付きモータである場合における制御装置の電力変換回路の構成の一例を示す図である。
【図10】制御装置による制御パターンを示すマトリックス表である。
【図11】本発明に係るアクチュエータ機構についての実施例2の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0061】
103 入力要素(ペダル)
107 配管
108 配管
109 第一アクチュエータ(モータ)
110 第二アクチュエータ(モータ)
201 弾性体
203 第一回転直動変換機構
204 第二回転直動変換機構
205 出力機構(マスタシリンダ)
209 第一可動部
210 第二可動部
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立して制御可能な可動部を二つ備え、この二つの可動部が弾性体を介してつながっている車載用アクチュエータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子技術と制御技術の発展に伴い、駆動、制動、操舵等の車両運動を決定付ける操作に対し、車両側の出力機構と運転者側の入力機構とを独立に制御できるバイワイヤ技術が脚光を浴びている。このバイワイヤ技術によれば、運転者の操作と車両運動の関係を電子的に制御することにより、運転者の受けるフィーリングや操作のしやすさ、運転による疲れにくさ等を向上することができる。また、運転者の意図とは独立に、制動をかけること、車両を一定速度で走行させること、先行車との車間を一定に保持すること、車線に沿った走行を行うこと等の自動操作が可能である。さらに、回生等の従来なかった機能に対しても、従来の出力機構の出力を制御して協調していくことが可能である。
【0003】
ところで、バイワイヤにおいて運転者側の入力機構と車両側の出力機構とが機械的に接続していない場合、電気的な失陥が発生すると、運転者の操作が車両運動に伝わらなくなる可能性があった。そのため、入力機構と出力機構を弾性体で接続し、出力機構にアクチュエータを備えることにより、入力機構と出力機構を機械的に接続していながら、弾性体の伸縮の範囲内で出力機構を自由に制御する技術が検討され、例えば特許文献1により開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−281992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の手法では、出力機構の動作は弾性体を介して入力機構にも波及し、運転者の操作に影響が出るため、運転者に違和感を覚えさせたり、操作性を悪化させたりする可能性があった。また、出力機構のアクチュエータが制御できないような失陥が起こった場合、運転者は、電気的又は機械的増幅手段が失われて、単に人力によって車両運動を操作しなければならなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明の車載用アクチュエータシステムは、第一可動部を動作させる第一アクチュエータと、第二可動部を動作させるものであって前記第一アクチュエータとは独立して制御される第二アクチュエータと、前記第一可動部と前記第一可動部の動作が弾性体を介して前記第二可動部の動作に作用すると共に前記第二可動部の動作が弾性体を介して前記第一可動部の動作に作用するように構成された機構部と、前記第一可動部又は前記第二可動部から前記弾性体を介して他方の可動部に伝達される力及び/又は位置の変化を、相殺、抑制又は増幅するように他方のアクチュエータを制御する制御装置と、を有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の車載用アクチュエータシステムは、前記第一可動部が主として制動力を発生させ、前記第二可動部が主として反力を発生させるブレーキシステムであることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の車載用アクチュエータシステムは、前記制御装置は、前記第二可動部の操作量に基づいて前記第一可動部に制動力を発生させるか又は前記第二可動部の操作量を増幅するように前記第一アクチュエータ及び前記第二アクチュエータを制御することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の車載用アクチュエータシステムは、前記制御装置は前記第一可動部の動作と独立して前記第二可動部の反力又は位置を任意の関係で実現するように前記第一アクチュエータ及び前記第二アクチュエータを制御することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の車載用アクチュエータシステムは、前記制御装置は、前記第一可動部と前記第二可動部を独立して動作させるように前記第一アクチュエータ及び前記第二アクチュエータを制御することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の車載用アクチュエータシステムは、前記第一アクチュエータ及び前記第二アクチュエータのどちらかの制御が不能になった場合、前記第一可動部及び前記第二可動部の一方の動作を継続し、他方の動作を前記一方の動作に従属させることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の車載用アクチュエータシステムは、前記第一アクチュエータ及び第二アクチュエータのどちらかの制御が不能になった場合、第一可動部の動作を継続し、第二可動部の動作が第一可動部の動作に従属させることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の車載用アクチュエータシステムは、前記制御装置は、前記第一アクチュエータを制御する第一制御装置及び前記第二アクチュエータを制御する第二制御装置に分かれて構成されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の車載用アクチュエータシステムは、電源系統は、前記第一アクチュエータに電力を供給する第一電源系統と、第二アクチュエータに電力を供給する第二電源系統とが分かれて構成されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の車載用アクチュエータシステムは、電源系統は、前記第一アクチュエータに電力を供給する第一電源系統と、第二アクチュエータに電力を供給する第二電源系統とが分かれて構成され、前記第一制御装置は該第一電源系統を電源とし、前記第二制御装置は該第二電源系統を電源とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、運転者の操作と車両運動とを独立に電気的に制御することが可能であり、バイワイヤシステムと同等の効果を得ることができる。また、運転者側の入力機構と車両側の出力機構が機械的に接続しているので、電気的な増幅なしでも人力による車両運動への関与が可能となる。更に、アクチュエータを二つ備えた二重系を構成することにより、一方の系に電気的失陥が起こった場合でも他方の系により電気的な増幅を得ることが可能である。また、二つのアクチュエータを協調させて必要な力を発生させることにより、アクチュエータに小型で軽量なものを使用することが可能となり、コスト的にも有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0018】
本発明を適用した実施例の主な構成について、以下、図面に基づいて説明する。
図1は本発明によるシステムの模式図であり、4輪を備えた自動車の基本系統を示す。103は運転者が車両を運転するために操作する入力機構である。図1では、入力機構はペダルであるが、システムの構成内容により、ハンドルやレバーとしてもよい。自動車の4輪に対応して設けられた車両運動を実現するための出力機構131,141,151,161は、図1の実施例では制動装置のキャリパとなっているが、システム構成により、駆動装置や操舵装置としてもよい。
【0019】
アクチュエータシステム101は、入力機構103にペダル反力を発生させると共に、出力機構に制動力を発生させるために、配管107、108に対して油圧を発生させる。油圧装置121は、配管107、108の油圧を配管123、124、125、126に分配する。配管123、124、125、126に発生した油圧は、それぞれキャリパ131、141、151、161のピストン推力となり、摩擦材をロータ132、142、152、162に押し付けると、ロータは車輪と接続しているので、摩擦力により車両に制動力が発生する。
【0020】
アクチュエータシステム101は、アクチュエータ機構102を備え、このアクチュエータ機構102は第一アクチュエータ109と第二アクチュエータ110を備える。また、アクチュエータシステム101は、制御装置104を備え、この制御装置104は、第一アクチュエータ109と第二アクチュエータ110を制御する。図1では、制御装置104は第一制御装置105と第二制御装置106との分かれた構成となっているが、システムの構成により、制御装置104は一つの制御装置であってもよい。図1では、第一制御装置105は第一アクチュエータ109を制御し、第二制御装置106は第二アクチュエータ110を制御する。
【0021】
第一アクチュエータ109は、第一電源系統172から電力の供給を受け、第二アクチュエータ110は、第二電源系統182から電力の供給を受ける。図1に示すとおり、第一制御装置105は第一アクチュエータ109と同じ電源系統を電源とし、第二制御装置106は第二アクチュエータ110と同じ電源系統を電源とする。このように二重系とすることにより、制御装置とアクチュエータが二つずつ別々の電源系統に接続されていることにより、一方の電源系統が失陥した際でも、他方の電源系統によりアクチュエータを制御することができる。
【0022】
制御装置104が一つに構成されている場合でも、制御装置内部では、第一電源系統を電源とする部分と第二電源系統を電源とする部分が独立に存在し、それぞれの部分が電源系統を同じくするアクチュエータを制御する二重系に構成にしてもよい。また、図1では、アクチュエータ機構102と制御装置104とは別体構造となっているが、システムの構成により、アクチュエータ機構102と制御装置104は一体構造としてもよい。
【0023】
第一電源系統172には第一電源装置171が接続されており、アクチュエータシステム101に電力を供給する。また、第二電源系統182には第二電源装置181が接続されており、アクチュエータシステム101に電力を供給する。第一電源装置171と第二電源装置181は、例えばバッテリでもよいし、オルタネータや発電機であってもよい。さらに、異なる電圧からアクチュエータシステム101に必要な電圧に変換するDC-DCコンバータであってもよい。また、第一電源装置171と第二電源装置181は、これらの組み合わせであってもよい。第一電源装置171と第二電源装置181は、相互に独立してアクチュエータシステムに電力を供給可能であり、一方が失陥した場合でも、他方は影響を受けずに電力を継続して供給することが可能な構成となっている。
【0024】
図2は、図1のアクチュエータ機構102の構成の一例を示す模式図である。アクチュエータ機構は、第一可動部209と第二可動部210を備える。第一可動部209は第一アクチュエータ109に接続され、第二可動部210は第二アクチュエータ110に接続されている。第一可動部と第一アクチュエータの接続及び第二可動部と第二アクチュエータの接続は、それぞれ減速機や力の方向を変えるための機構を介してもよいし、直接接続されていてもよい。これらの接続における剛性は、非常に高いものが望ましく、弾性体としての特徴がないか無視できることが望ましい。
【0025】
図2に示された実施例では、アクチュエータ109,110はモータであるが、システムの構成によっては、ソレノイドによる直動アクチュエータ、可動部の動作を抑制することのできるブレーキアクチュエータであってもよい。アクチュエータがモータである場合、可動部の位置や速度はモータに取り付けられた回転センサから取得してもよい。回転センサは、ホール素子によるもの、光学によるエンコーダ又はレゾルバによるものでもよい。また、モータはDCブラシレスモータでもよい。モータがDCブラシレスモータである場合、モータをベクトル制御するための位相を検出するための回転センサと、可動部の位置あるいは速度を検出するためのセンサは共通でもよい。また、モータは、DCモータや誘導モータであってもよい。
【0026】
また、図2に示された実施例では、第一可動部209と第一アクチュエータ109は、第一回転直動変換機構203で接続され、第二可動部210と第二アクチュエータ110は、第二回転直動変換機構204で接続されている。第一回転直動変換機構203は、第一アクチュエータの回転運動又は回転力を、第一可動部の直動運動又は直動力に変換する機構である。第二回転直動変換機構204は、第二アクチュエータ110の回転運動又は回転力を、第二可動部の直動運動又は直動力に変換する機構である。第一回転直動変換機構と第二回転直動変換機構は、ボールねじ、台形ねじ、ウォームねじを使用してもよい。
【0027】
第一可動部209は出力機構205に接続されるが、図2に示された実施例では、出力機構はマスタシリンダ205である。マスタシリンダ205は、第一可動部209の直動力を油圧に変換し、配管107、108を介して車両に制動力を発生させる。第二可動部210は入力機構に接続されるが、図2では、入力機構はペダル103である。ペダル103は、第二可動部210の直動力をペダル反力として運転者に操作フィーリングを与える。第一可動部209と第二可動部210は、弾性体201により互いに接続されている。
【0028】
第一アクチュエータ109は、第一可動部209の力、位置、速度を制御することができると同様に、出力機構であるマスタシリンダ205や弾性体201から第一可動部209に与えられる力は、第一アクチュエータ109に伝達される。また、第二アクチュエータ110は第二可動部210の力、位置、速度を制御することができると同様に、入力機構であるペダル103や弾性体201から第二可動部210に与えられる力は、第二アクチュエータ110に伝達される。また、第一可動部209にかかる力は、弾性体201を介して第二可動部210に伝達されると同様に、第二可動部210にかかる力は、弾性体201を介して第一可動部209に伝達される。
【0029】
弾性体201は伸縮することができるため、弾性体の位置や速度は、アクチュエータを制御することによって任意に変更することが可能である。第一可動部209から出力機構であるマスタシリンダ205に伝達される力は、第一アクチュエータ109を制御することによって任意に調整とすることが可能である。さらに、第二可動部210から入力機構あるいはペダル103に伝達される力も第二アクチュエータ110を制御することによって任意に調整することが可能である。
【0030】
図3は、図2における第二可動部と第二アクチュエータの変形例を示す模式図である。可動部224には摩擦面222が備えられており、アクチュエータ221にも摩擦面223が備えられている。摩擦面222と摩擦面223の接触力に基づいて可動部224には摩擦力が働く。摩擦面222と摩擦面223の接触力は、アクチュエータ221で任意に制御することができるので、可動部224から出力機構又は入力機構に伝達する力を任意に制御することができる。アクチュエータ221は自発的に可動部224を運動させることはできないが、可動部224が出力機構、入力機構又は弾性体201から力を受けて動かされている際には、アクチュエータ221を制御することによって可動部224の位置や速度を制御することが可能である。また、アクチュエータ221を用いて可動部224の位置や速度を制御する場合、可動部224の位置や速度を検出するためのセンサ225を備えていてもよい。センサ225は磁気によるものでもよいし、抵抗によるポテンショメータでもよい。
【0031】
図3では、以上のとおり、図2における第二可動部と第二アクチュエータに適用した場合を示したが、図2における第一可動部と第一アクチュエータに同様に適用することも可能である。このようにして、図2に示された第一アクチュエータ又は第二アクチュエータを、図3に示されたような可動部とアクチュエータにより構成することが可能であり、アクチュエータによる消費電力を小さくして、大きな力を制御することができる。
【0032】
図4は、図2における第二可動部と第二アクチュエータの別の変形例を示す模式図である。アクチュエータ231はソレノイドである。可動部234には磁性体が貼り付けてあり、アクチュエータ231に通電する電流を制御することによって、可動部234の力、位置、速度を任意に調整することができる。また、図4に示す変形例では、可動部234の位置や速度を検出するためのセンサ235を備えてもよい。センサ235は、磁気によるものでもよいし、抵抗によるポテンショメータでもよい。
【0033】
図4では、以上のとおり、図2における第二可動部と第二アクチュエータに適用した場合を示したが、図2における第一可動部と第一アクチュエータに同様に適用することも可能である。このようにして、図2に示された第一アクチュエータ又は第二アクチュエータを、図4に示されたような可動部とソレノイドにより構成することが可能であり、アクチュエータの構成を簡素化して、低コスト化、小型化、軽量化が可能であるし、アクチュエータに流れる電流を制御するための制御装置の構成も簡素化することができる。
【0034】
図5は、図2における第二可動部と第二アクチュエータの更に別の変形例を示す模式図である。アクチュエータ241は、可動部244を回転中心としたDCブラシレスモータである。アクチュエータ241は、コイルからなる固定子242を備えて、コイル電流を制御することで磁界を発生させる。回転子243は、磁性体を持っているので、固定子242で発生させた磁界によって力を受けて回転したりトルクを発生したりする。回転子243の回転は、ボールねじ246によって、直動方向に変換され可動部244を動作させる。回転子243の回転は、回転センサ245によって検出される。回転センサ245で検出された情報は、可動部244の位置や速度として利用してもよい。制御装置は、アクチュエータ241を制御することにより、可動部244の力、位置、速度を任意に調整することができる。
【0035】
図5に示された可動部とアクチュエータにより、図1、図2に示されたアクチュエータ機構を構成することが可能である。図5に示すように、可動部を回転中心とするアクチュエータの構成によれば、アクチュエータ機構を可動部を中心に対称な構成とすることができるので、体積や重量の面で有利である。また、回転を減速するための減速機が不要となるので、減速機による音が発生せず、力や仕事の伝達効率も高くすることができる。
【0036】
制御装置104は、第一アクチュエータ109を制御することにより、好適な制動力を発生させることができる。
【0037】
図6は、制御装置104が第一アクチュエータ109を制御して発生させる制動力の一例を示す。図6(a)において、曲線251はペダル位置に対する制動力の関係を示している。制動力はペダル位置が大きくなればなるほど大きな値となる。また、ペダル位置が小さい領域253ではペダル位置に対する制動力の傾きが小さくペダル位置が大きい領域254ではペダル位置に対する制動力の傾きが大きい。ペダル位置に応じて制動力の傾きを変えることにより、踏み込みが小さいときはペダル位置の操作により細かい制動力を変化させやすく、踏み込みが大きいときは少しのペダル操作でも大きな制動力を発生させて緊急時のブレーキ対応とすることができる。
【0038】
また、図6(b)において、曲線261はペダル反力に対する制動力の関係を示す。一般的にペダル反力は運転者のペダル踏力と同じ大きさであるから、図6(b)の横軸は踏力と置き換えてもよい。制動力はペダル反力が大きくなればなるほど大きな値となる。また、ペダル反力が小さい領域263では、ペダル反力に対する制動力の傾きが大きく、ペダル反力が大きい領域264ではペダル反力に対する制動力の傾きが小さい。ペダル反力に応じて制動力の傾きを変えることにより、小さな力でも大きな制動力を得られるようにする。
【0039】
また、制動装置104は図6によらず、好適な車両運動を実現するために車両内外の情報に基づいて入力機構と独立に制動力を発生させてもよい。
【0040】
制御装置104は、第二アクチュエータ110を制御することにより、好適なペダル反力を発生させてもよい。ここで、ペダル反力を剛性反力と粘性反力に大別し、数式1のように表してもよい。
(数式1) ペダル反力 = 剛性反力 + 粘性反力
【0041】
ここで、剛性反力は、ペダル位置に応じて大きさが変わる反力である。剛性反力は、ペダル位置が大きくなればなるほど大きな値となる。すなわち、同じペダル位置に対する剛性反力が大きい場合は操作時に堅いフィーリングが得られ、同じペダル位置に対する剛性反力が小さい場合には柔らかいフィーリングが得られる。
【0042】
粘性反力は、ペダル速度に応じて大きさが変わる反力である。粘性反力は、ペダル速度が大きくなればなるほど大きな値となる。同じペダル速度に対する粘性反力が大きい場合は操作時にねばねばしたフィーリングが得られ、同じペダル速度に対する粘性反力が小さい場合にはバネ感の強いフィーリングが得られる。
【0043】
ここで、制御装置104は、第二アクチュエータ110によって、図7に示すようなペダル反力を発生させてもよい。図7(a)において、曲線301はペダル速度がほぼ0の場合のペダル反力を示し、曲線302と曲線303は、ペダル速度が異なる場合のペダル反力を示す。図7(b)において、ペダル速度311は極めて小さい速度であり、ペダル速度311の時のペダル反力が301である。曲線301の与える反力は、数式1における剛性反力にほぼ相当する。剛性反力はペダル位置にのみ依存して大きくなる。また、ペダル速度が大きい場合は、粘性反力を大きくするため、ペダル反力も大きくなる。ここで、曲線301が剛性反力にほぼ相当するとした場合、ペダル速度が曲線312、更に曲線313が示すように大きくなると、ペダル反力は、それぞれ曲線302、更に曲線303が示すように、ペダル速度に応じて大きくなる。ここで、ペダル反力301に対して、曲線302、更に曲線303が示すようにペダル反力が大きくなる場合、その差分は、数式1における粘性反力に相当する。
【0044】
粘性反力は図7(c)、(d)が示すように、ペダル速度とペダル位置に対して変化する。図7(c)は、ペダル速度と粘性反力の関係を示しており、粘性反力321はペダル位置304での粘性反力の一例である。また、粘性反力322、323は、それぞれペダル位置305、306での粘性反力の一例を示す。また、図7(d)は、ペダル位置と粘性反力の関係を示している。粘性反力331は、ペダル速度が311の場合であり、小さいペダル反力となる。また、ペダル速度が312、313の場合の粘性反力はそれぞれ、332、333となる。
【0045】
制御装置は、制動力やペダル反力を発生させるために必要なトルクをアクチュエータ機構に発生させる。アクチュエータ機構にトルクを発生させるためには、アクチュエータに電流を流す必要がある。そのため、制御装置は、アクチュエータに流れる電流を制御する。
【0046】
図8は、制御装置の電力変換回路の構成の一例を示す。図8において、アクチュエータ401は電源系統402との間に電力変換回路347を備える。アクチュエータが三相モータである場合、各三相モータにつき電力変換回路347は最低6個のスイッチング素子332,333,334,335,336,337を有し、各スイッチング素子は、フライホイールダイオード338,339,340,341,342,343を備える。スイッチング素子は、パワートランジスタ、MOS FET又はIGBT等でもよい。一般的に、アクチュエータの定格容量が数百W以下であればMOS FETが、数kW以上であればIGBTが用いられる。また、電力変換回路347は、電流センサ344,345,346を備えて、三相モータに流れる電流を検出することができる。電流センサ346はなくてもよい。
【0047】
演算処理装置350は、回転センサ348によって検出した回転角度、回転角速度から、アクチュエータ(三相モータ)の位相、可動部の位置、速度を計算することができる。また、可動部にかかる力349を取得するようにしても。演算処理装置350は、電流センサによって検出した電流値と、可動部の位置、速度、力に基づいて、アクチュエータに流れる電流を制御する。インタフェースIC331は、演算処理装置350の出力した電気信号を変換し、スイッチング素子を駆動する信号に変換する。
【0048】
図9は、アクチュエータが直流ブラシ付きモータである場合における制御装置の電力変換回路の構成の一例を示す。図9において、電力変換回路361はスイッチング素子を最低4個備えており、各スイッチング素子はフリーホイールダイオードを備えている。
【0049】
一般的なアクチュエータの場合、電力変換回路は、電力系統402を電力の供給源として、アクチュエータに電流を流すことによりトルクを発生させる。電力系統402が電力の供給源となる場合、上アーム素子(図8の実施例ではスイッチング素子332,333,334、図9の実施例ではスイッチング素子362,363)のいずれかから電流が電動アクチュエータに流れる。電動アクチュエータを通過した電流は、下アーム素子(図8の実施例ではスイッチング素子335,336,337、図9の実施例ではスイッチング素子364,365)のどれかを通過してGNDへ流れる。電力系統402が電力の供給源となる場合、電流はスイッチング素子がONの時にアクチュエータに流れるため、制御装置は、上アーム素子と下アーム素子のON(駆動)タイミングを好適に制御することにより、アクチュエータに流れる電流を制御し、必要なトルクを発生させることができる。
【0050】
以上により、本実施例の第一可動部と第二可動部を独立に制御することが可能である。そのため、例えば、第一アクチュエータの制御によって、第一可動部が出力機構に発生させた力や第一可動部の位置や速度の影響が弾性体を介して第二可動部に伝達されても、第二可動部を第二アクチュエータが制御することにより、第一可動部から伝達された影響を相殺、抑制することが可能となる。また、例えば、第二アクチュエータの制御によって、第二可動部が入力機構に発生させた力や第二可動部の位置や速度の影響が弾性体を介して第一可動部に伝達されても、第一可動部を第一アクチュエータが制御することにより、第二可動部から伝達された影響を相殺、抑制することが可能となる。
【0051】
さらに、第二可動部が入力機構から操作された場合、第二可動部が操作に対する反力を生成するとともに、第一可動部は入力機構への操作に応じた出力機構への出力を生成することが可能となる。その際に、制御装置は、入力機構又は第二可動部に加えられた操作力又は位置変化を増幅して、第一可動部又は出力機構に出力されるような制御を行なうことが可能である。
【0052】
さらに、第一アクチュエータと第二アクチュエータは、電源系統や制御装置が別々であるので、一方の電源系統、制御装置又はアクチュエータ自体が失陥した場合、他方のアクチュエータにより可動部を制御することが可能である。一方の可動部のみが制御可能な場合でも、他方の可動部は弾性体を介して接続されているため、一つのアクチュエータで両方の可動部を動作させることが可能である。それゆえ、一方の可動部が制御不可能な場合でも、制御可能なアクチュエータによって、より重要な可動部の役割を受け持つように制御を切り替える。
【0053】
一般的には出力機構の機能を継続させることが重要であるので、制御装置は、例えば図10の制御パターンのマトリックス表が示すように、制御する可動部を切り替えるようにするのがよい。両方のアクチュエータが制御可能であれば、可動部は各々独立にアクチュエータで制御される。第一アクチュエータのみが制御可能である場合には、第一アクチュエータは第一可動部を制御し、第二可動部は第一可動部の動作が弾性体を介して伝達された結果の動作を行う。すなわち、第二可動部の動作は第一可動部の動作に従属する。
【0054】
また、第二アクチュエータのみが制御可能である場合、第二アクチュエータが第一可動部を制御することとなる。第二アクチュエータは第二可動部と接続しているので、第一可動部の動作は弾性体を介して第二可動部から伝達されたものとなる。第二可動部は、弾性体を介して伝達した第一可動部の動作について、出力機構が必要な出力を生成できるように動作するため、第二可動部から入力機構への影響は考慮されない。すなわち、この場合にも第二可動部の動作は第一可動部の動作に従属する。
【0055】
また、両方のアクチュエータが制御可能である場合、第一アクチュエータが第一可動部の制御を行い、第二アクチュエータが第二可動部の制御を行えば、第一可動部と第二可動部を独立に制御することが可能となる。しかし、実際には弾性体を介した力の伝達を相互に受けており、各アクチュエータは、弾性体を介して他方から伝達される力を抑制又は利用しながら制御を行っていることになる。そうすると、アクチュエータ機構全体としてみたときは、第二アクチュエータも第一可動部の力を制御し、第一アクチュエータも第二可動部の力を制御するということができる。このことは、お互いに力を協調させながら制御していることに相当する。そのため、二つのアクチュエータが制御可能な場合に一つの可動部に出力可能な力は、一つのアクチュエータのみが制御可能な場合よりも大きくなる。二つのアクチュエータでアクチュエータ機構を構成することにより、一つひとつのアクチュエータで必要とされる力を小さく見積もることができるので、より小型、軽量なアクチュエータを使用することが可能となる。
【0056】
以上によれば、運転者の操作と車両運動を独立して電気的に制御することが可能であり、バイワイヤシステムと同等の効果を得ることができる。また、運転者側の入力機構と車両側の出力機構が機械的に接続しているので、電気的な増幅なしでも人力による車両運動への関与が可能である。また、アクチュエータを二つ持つことにより二重系を構成し、一方の系に電気的失陥が起こった場合でも他方の系により電気的な増幅が可能である。また、二つのアクチュエータを協調させることにより必要な力を発生させるため一つのアクチュエータは小型、軽量なものを使用することが可能となり、コストについても有利となる。
【実施例2】
【0057】
図11は、本発明に係るアクチュエータ機構についての実施例2の構成を示す模式図である。ペダル604は、減速機611を介してモータ602と接続されている。運転者はペダル端612を踏むことによって車両運動を操作しようとするとともに、ペダル端612からペダル反力を受ける。ペダル端には踏力を計測するセンサを備えるようにしてもよい。インプットロッド605は、ペダル612によりマスタシリンダ631の中に押し込まれる。インプットロッドにはロッド力を計測するセンサを備えるようにしてもよい。マスタシリンダ631は、内部がシリンダ632とシリンダ633に分かれており、その内部はブレーキ油で満たされている。インプットロッド605とプライマリピストン603が押し込まれると、シリンダ633の油圧が高まると同時にシリンダ632の油圧も高まり、油圧が配管107,108を介してキャリパを動作させて制動力を発生する。
【0058】
回転子622は磁性体を含んでいるので、固定子621が発生する磁界により回転したりトルクを発生したりする。回転子622の回転やトルクは、ボールねじ623を介してプライマリピストン603に伝達されることにより、プライマリピストンの直動運動や直動力に変換される。回転子622の回転は回転センサ624により検出され、回転センサ624で検出した情報は、固定子621に流す電流の制御やプライマリピストンの位置や速度を制御するために用いられる。ここで、固定子621と回転子622を含むアクチュエータ601は、主として出力機構に出力を発生させる第一アクチュエータであり、プライマリピストン603は第一可動部である。また、モータ602は入力機構の反力を生成する第二アクチュエータであり、ペダル604とインプットロッド605が第二可動部である。第一可動部と第二可動部は、オフセットバネ625,626で接続している。オフセットバネ625,626は弾性体である。また、第一可動部と第二可動部は、マスタシリンダ631内部で、ブレーキ油を介しても接続されている。マスタシリンダからの油圧は断面積に比例した力として、プライマリピストンとインプットロッドに伝達される。したがって、実施例2ではインプットロッドにかかる力が直接マスタシリンダに伝達され、第二可動部が出力機構と直接に接続している構成となっているが、オフセットバネ625,626の伸縮によって、第一可動部と第二可動部がそれぞれ自由度を持ちながら独立して動作可能であるため、実施例1と同様の特徴を有し、実施例1と同様の効果を奏するものである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、主として自動車等の車両のブレーキ装置、操舵装置、駆動装置等のペダル、ハンドル、操作レバーの運転者側の入力機構と車両側の出力機構に利用するのであるが、その他、車両以外の操作者側の入力機構と被操作物側の出力機構にも幅広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明によるシステムの模式図である。
【図2】図1のアクチュエータ機構の構成の一例を示す模式図である。
【図3】図2における第二可動部と第二アクチュエータの変形例を示す模式図である。
【図4】図2における第二可動部と第二アクチュエータの別の変形例を示す模式図である。
【図5】図2における第二可動部と第二アクチュエータの更に別の変形例を示す模式図である。
【図6】制御装置104が第一アクチュエータ109を制御して発生させる制動力の一例を示す図である。
【図7】ペダル反力の一例を示す図である。
【図8】制御装置の電力変換回路の構成の一例を示す図である。
【図9】アクチュエータが直流ブラシ付きモータである場合における制御装置の電力変換回路の構成の一例を示す図である。
【図10】制御装置による制御パターンを示すマトリックス表である。
【図11】本発明に係るアクチュエータ機構についての実施例2の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0061】
103 入力要素(ペダル)
107 配管
108 配管
109 第一アクチュエータ(モータ)
110 第二アクチュエータ(モータ)
201 弾性体
203 第一回転直動変換機構
204 第二回転直動変換機構
205 出力機構(マスタシリンダ)
209 第一可動部
210 第二可動部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一可動部を動作させる第一アクチュエータと、第二可動部を動作させるものであって前記第一アクチュエータとは独立して制御される第二アクチュエータと、前記第一可動部と前記第一可動部の動作が弾性体を介して前記第二可動部の動作に作用すると共に前記第二可動部の動作が弾性体を介して前記第一可動部の動作に作用するように構成された機構部と、前記第一可動部又は前記第二可動部から前記弾性体を介して他方の可動部に伝達される力及び/又は位置の変化を、相殺、抑制又は増幅するように他方のアクチュエータを制御する制御装置と、を有する車載用アクチュエータシステム。
【請求項2】
請求項1に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記第一可動部が主として制動力を発生させ、前記第二可動部が主として反力を発生させるブレーキシステムであることを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項3】
請求項1に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記制御装置は、前記第二可動部の操作量に基づいて前記第一可動部に制動力を発生させるか又は前記第二可動部の操作量を増幅するように前記第一アクチュエータ及び前記第二アクチュエータを制御することを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項4】
請求項1に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記制御装置は前記第一可動部の動作と独立して前記第二可動部の反力又は位置を任意の関係で実現するように前記第一アクチュエータ及び前記第二アクチュエータを制御することを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項5】
請求項1に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記制御装置は、前記第一可動部と前記第二可動部を独立して動作させるように前記第一アクチュエータ及び前記第二アクチュエータを制御することを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項6】
請求項1に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記第一アクチュエータ及び前記第二アクチュエータのどちらかの制御が不能になった場合、前記第一可動部及び前記第二可動部の一方の動作を継続し、他方の動作を前記一方の動作に従属させることを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項7】
請求項2に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記第一アクチュエータ及び第二アクチュエータのどちらかの制御が不能になった場合、第一可動部の動作を継続し、第二可動部の動作が第一可動部の動作に従属させることを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかの請求項に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記制御装置は、前記第一アクチュエータを制御する第一制御装置及び前記第二アクチュエータを制御する第二制御装置に分かれて構成されていることを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかの請求項に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
電源系統は、前記第一アクチュエータに電力を供給する第一電源系統と、第二アクチュエータに電力を供給する第二電源系統とが分かれて構成されていることを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項10】
請求項8に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
電源系統は、前記第一アクチュエータに電力を供給する第一電源系統と、第二アクチュエータに電力を供給する第二電源系統とが分かれて構成され、前記第一制御装置は該第一電源系統を電源とし、前記第二制御装置は該第二電源系統を電源とすることを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項1】
第一可動部を動作させる第一アクチュエータと、第二可動部を動作させるものであって前記第一アクチュエータとは独立して制御される第二アクチュエータと、前記第一可動部と前記第一可動部の動作が弾性体を介して前記第二可動部の動作に作用すると共に前記第二可動部の動作が弾性体を介して前記第一可動部の動作に作用するように構成された機構部と、前記第一可動部又は前記第二可動部から前記弾性体を介して他方の可動部に伝達される力及び/又は位置の変化を、相殺、抑制又は増幅するように他方のアクチュエータを制御する制御装置と、を有する車載用アクチュエータシステム。
【請求項2】
請求項1に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記第一可動部が主として制動力を発生させ、前記第二可動部が主として反力を発生させるブレーキシステムであることを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項3】
請求項1に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記制御装置は、前記第二可動部の操作量に基づいて前記第一可動部に制動力を発生させるか又は前記第二可動部の操作量を増幅するように前記第一アクチュエータ及び前記第二アクチュエータを制御することを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項4】
請求項1に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記制御装置は前記第一可動部の動作と独立して前記第二可動部の反力又は位置を任意の関係で実現するように前記第一アクチュエータ及び前記第二アクチュエータを制御することを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項5】
請求項1に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記制御装置は、前記第一可動部と前記第二可動部を独立して動作させるように前記第一アクチュエータ及び前記第二アクチュエータを制御することを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項6】
請求項1に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記第一アクチュエータ及び前記第二アクチュエータのどちらかの制御が不能になった場合、前記第一可動部及び前記第二可動部の一方の動作を継続し、他方の動作を前記一方の動作に従属させることを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項7】
請求項2に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記第一アクチュエータ及び第二アクチュエータのどちらかの制御が不能になった場合、第一可動部の動作を継続し、第二可動部の動作が第一可動部の動作に従属させることを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかの請求項に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記制御装置は、前記第一アクチュエータを制御する第一制御装置及び前記第二アクチュエータを制御する第二制御装置に分かれて構成されていることを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかの請求項に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
電源系統は、前記第一アクチュエータに電力を供給する第一電源系統と、第二アクチュエータに電力を供給する第二電源系統とが分かれて構成されていることを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項10】
請求項8に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
電源系統は、前記第一アクチュエータに電力を供給する第一電源系統と、第二アクチュエータに電力を供給する第二電源系統とが分かれて構成され、前記第一制御装置は該第一電源系統を電源とし、前記第二制御装置は該第二電源系統を電源とすることを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−308097(P2008−308097A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−159446(P2007−159446)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]